説明

ベルト式無段変速機

【課題】ベルト式無段変速機において、簡易な構造で小型化に対応することができ、実際の変速比を正確に検出することができるようにする。
【解決手段】ベルト式無段変速機30は、可動シーブ34bの外周端部34eに形成された測定面34hと、外周端部34eに離隔して設けられた変位センサ90であって、測定面34hと変位センサ90との間の距離を測定する変位センサ90とを有する。測定面34hは、可動シーブ34bが軸方向に移動するにつれて、測定面34hと変位センサ90との間の距離Hが変化するように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベルト式無段変速機に関し、特に変速比を検出する構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を駆動する原動機の出力側に接続される変速機として、従来より、ベルト式の無段変速機(いわゆる「CVT」:Continuously Variable Transmission)が知られている。
【0003】
このベルト式無段変速機は、互いに平行に配置された2つのシャフトであるプライマリシャフト及びセカンダリシャフトと、プライマリシャフトに設けられた駆動側プーリと、セカンダリシャフトに設けられた従動側プーリとを有する。駆動側及び従動側プーリは、ともに、固定シーブとこの固定シーブに対向する可動シーブとを組み合わせて構成される。具体的には、固定シーブが、各シャフトの外周に一体に固定され、可動シーブが、その固定シーブに対して軸方向に離接可能に設けられている。
【0004】
各プーリの固定シーブと可動シーブとの間にはV字形状の溝が形成される。そして、駆動側プーリのV溝と従動側プーリのV溝とに渡って無端状のベルトが巻き掛けけられている。このベルトに対し両シーブによる挟圧力を発生させるための油圧室が、各プーリにそれぞれ対応して別個に設けられる。
【0005】
このようなベルト式無段変速機においては、各油圧室の油圧を個別に制御することにより、各プーリの可動シーブが軸方向に移動して、各プーリのV溝の溝幅を変更することができる。そして、このV溝の変更により、各プーリの径方向におけるベルトの巻き掛け位置、言い換えれば、各プーリのベルトの巻き掛け半径を変化させて、ベルト式無段変速機における変速比を無段階に変化させることができる。
【0006】
従来のベルト式無段変速機においては、駆動側プーリの回転数と従動側プーリの回転数を検出し、これらの回転数の比から変速比、すなわちベルトの巻き掛け位置を検出する例がある。しかしながら、検出される各プーリの回転数には、各プーリに対するベルトの滑りなどの動力の伝達損失が含まれてしまい、実際の変速比(ベルトの巻き掛け位置)を正確に検出することができないという問題がある。
【0007】
下記特許文献1には、ドライブ可動プーリ(駆動側プーリの可動シーブに相当)の位置を検出するプーリーポジションセンサと、このセンサの検出結果に基づいて実際の変速比を検出し、この実際の変速比を目標の変速比に一致させるようにドライブ可動プーリの軸方向の移動を制御する制御装置とを有する無段変速機が開示されている。
【0008】
この特許文献1においては、プーリーポジションセンサが、ドライブ可動プーリがドライブ固定プーリ(駆動側プーリの固定シーブに相当)に対して退避する方向に設けられている。プーリーポジションセンサは、軸方向に進退可能なシャフトを有し、このシャフトの先端はドライブ可動プーリに当接している。このようなプーリーポジションセンサにおいては、ドライブ可動プーリが軸方向に移動するとともにシャフトも軸方向に移動することでプーリーポジションセンサ内の回路で生じる磁界変化を検出することにより、ドライブ可動プーリの位置を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−187532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1の無段変速機においては、ドライブ可動プーリの位置に基づいて実際の変速比を検出することができる。しかしながら、車両に搭載される無段変速機の設置スペースは限定され、かつ無段変速機の小型化が要求されており、上記特許文献1のようなプーリーポジションセンサの設置スペースを十分に確保できるほどの無段変速機内部のスペースに余裕はない。具体的には、可動シーブが固定シーブに対して退避する方向には、可動シーブを軸方向に移動させるための駆動源が設けられており、上記特許文献1のようなプーリーポジションセンサの設置スペースを十分に確保することができない。
【0011】
本発明の目的は、簡易な構造で小型化に対応することができ、実際の変速比を正確に検出することができるベルト式無段変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、固定シーブとこの固定シーブに対向する可動シーブとをそれぞれ備えた駆動側プーリ及び従動側プーリと、これらのプーリの間に掛け渡され、駆動側プーリの動力を従動側プーリに伝達するベルトと、を有し、可動シーブを軸方向に移動させることにより駆動側及び従動側プーリの径方向におけるベルトの巻き掛け位置を変化させて変速比を変化させるベルト式無段変速機において、可動シーブの外周端部に形成された測定面と、前記外周端部に離隔して設けられた変位センサであって、前記測定面と当該変位センサとの間の距離を測定する変位センサとを有し、前記測定面は、可動シーブが軸方向に移動するにつれて、前記測定面と前記変位センサとの間の距離が変化するように形成されることを特徴とする。
【0013】
また、変位センサは、可動シーブの径方向に沿って設けられ、前記測定面は、軸方向に対して同じ側に傾斜するように形成されることができる。
【0014】
また、駆動側プーリと従動側プーリとベルトとを収容するケースを有し、変位センサはケースに配置されることができる。
【0015】
また、前記測定面は、軸方向において、可動シーブが軸方向に移動する距離と同じ長さに形成されることができる。
【0016】
また、変位センサの検出結果に基づいて、駆動側及び従動側プーリの径方向におけるベルトの巻き掛け位置を算出するベルト位置算出手段と、ベルト位置算出手段により算出されたベルトの巻き掛け位置に基づいて、変速比を算出する変速比算出手段とを有することができる。
【0017】
また、前記測定面は、駆動側及び従動側プーリのいずれか一方の可動シーブの外周端部に形成されることができる。
【0018】
また、前記測定面は、固定シーブ側に向かうにつれて軸との距離が短くなるように形成されることができる。
【0019】
また、変位センサは渦電流式であることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のベルト式無段変速機によれば、簡易な構造で小型化に対応することができ、実際の変速比を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の車両の概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態のベルト式無段変速機の駆動側プーリとその周辺部の概略構成を示す図である。
【図3】(a)は、変位センサと測定面との距離が最小である状態を示す図であり、(b)は、変位センサと測定面との距離が最大である状態を示す図である。
【図4】可動シーブの変位と変位センサの検出値との関係を示す図である。
【図5】変位センサの検出値とベルトの巻き掛け位置との関係を示す図である。
【図6】ベルトの巻き掛け位置と変速比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るベルト式無段変速機の実施形態について、図を用いて説明する。本実施形態においては、一例として、エンジンに出力により駆動する自動車を挙げ、これに搭載されるベルト式無段変速機について説明する。なお、本発明は、エンジンの出力により駆動する自動車に搭載されるベルト式無段変速機に限らず、モータの出力により駆動する自動車に搭載される自動車、例えばハイブリッド自動車や電気自動車に搭載されるベルト式無段変速機にも適用することができる。
【0023】
まず、ベルト式無段変速機30を搭載する車両の概略構成について図1を用いて説明する。車両は、原動機としてエンジン1を有する。エンジン1は、動力伝達系2を介して車輪3に接続されている。エンジン1と動力伝達系2は、エンジン制御装置(ECU)4により制御される。エンジン1の動力が、動力伝達系2を介して車輪3に伝達されることにより、車両が走行する。
【0024】
動力伝達系2は、クラッチとしてのトルクコンバータ10と、前後進切り替え機構20と、ベルト式無段変速機30と、減速機構40と、差動装置50とを有する。以下、これらの構成について簡単に説明する。
【0025】
トルクコンバータ10は、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト1aに接続される。トルクコンバータ10は、ポンプインペラ13aとタービンランナ13bとの回転速度差が大きいときにトルク増幅機として機能し、ポンプインペラ13aとタービンランナ13bとの回転速度差が小さくなると、流体継手として機能する。
【0026】
トルクコンバータ10の動作について説明する。クランクシャフト1aの回転に伴い、ドライブプレート11及びフロントカバー12を介してポンプインペラ13aが回転する。そして、オイルポンプ14から供給される作動液の流れにより、タービンランナ13bがポンプインペラ13aに引きずられるようにして回転し始める。ポンプインペラ13aとタービンランナ13bとの回転速度差が大きいとき、ステータ13cは、ポンプインペラ13aの回転を助ける方向に作動液の流れを変換する。
【0027】
そして、車両の発進後、車速が所定速度に到達すると、ロックアップクラッチ15が作動し、エンジン1からフロントカバー12に伝達された動力が入力シャフト16に機械的にかつ直接に伝達されるようになる。また、フロントカバー12から入力シャフト16に伝達されるトルクの変動は、ダンパ機構17によって吸収される。
【0028】
前後進切り替え機構20は、入力シャフト16を介してトルクコンバータ10に接続される。前後進切り替え機構20は、ダブルピニオン形式の遊星歯車機構21と、フォワードクラッチ22と、リバースブレーキ23とを有する。
【0029】
遊星歯車機構21のサンギヤ21aが入力シャフト16に接続されている。また、遊星歯車機構21のキャリア21bがベルト式無段変速機30のプライマリシャフト(駆動側シャフト)31に接続されている。フォワードクラッチ22およびリバースブレーキ23を制御することにより、動力伝達経路が変更されて、前進回転動力(正回転方向)や後進回転動力(逆回転方向)に切り替えることができる。
【0030】
ベルト式無段変速機30は、入力軸(駆動軸)であるプライマリシャフト31の回転速度を無段階に変速して出力軸(被駆動軸)であるセカンダリシャフト32に伝達する装置である。ベルト式無段変速機30は、プライマリシャフト31に設けられたプライマリプーリ(駆動側プーリ)34と、セカンダリシャフト32に設けられたセカンダリプーリ(従動側プーリ)35と、これらのプーリ34,35の間に掛け渡され、プライマリプーリ34の動力をセカンダリプーリ35に伝達するベルト33とを有する。ベルト33は、多数の金属製の駒および複数本のスチールリングを有して無端状に構成される。
【0031】
プライマリシャフト31およびセカンダリシャフト32は、例えば鉄等の金属からなる。プライマリシャフト31は、トルクコンバータ10の入力シャフト16とほぼ同軸となるように、ベアリング61,62を介して動力伝達系2のハウジング80に回転可能に支持されている。セカンダリシャフト32は、プライマリシャフト31と平行となるように、ベアリング63,64 を介してハウジング80に回転可能に支持されている。
【0032】
プライマリプーリ34は、固定シーブ34aと、固定シーブ34aに対向する可動シーブ34bとを組み合わせて構成される。具体的には、プライマリプーリ34は、プライマリシャフト31の外周に一体に形成される固定シーブ34aと、固定シーブ34aに対向し、プライマリシャフト31の外周に軸方向に変位可能に装着される可動シーブ34bとから構成されており、固定シーブ34aと可動シーブ34bとによりベルト33が挟持される。
【0033】
そして、油圧アクチュエータ36により可動シーブ34bを駆動することにより、両シーブ34a,34b間のV溝幅が変更される。これにより、プライマリプーリ34の径方向におけるベルト33の巻き掛け位置、言い換えれば、プライマリプーリ34のベルト33の巻き掛け半径が変更される。
【0034】
一方、セカンダリプーリ35は、固定シーブ35aと、固定シーブ35aに対向する可動シーブ35bとを組み合わせて構成される。具体的には、セカンダリプーリ35は、セカンダリシャフト32の外周に一体に形成される固定シーブ35aと、固定シーブ35aに対向し、セカンダリシャフト32の外周に軸方向に変位可能に装着される可動シーブ35bとから構成されており、固定シーブ35aと可動シーブ35bとによりベルト33が挟持される。
【0035】
そして、油圧アクチュエータ37により可動シーブ35bを駆動することにより、両シーブ35a,35b間のV溝幅が変更される。これにより、セカンダリプーリ35の径方向におけるベルト33の巻き掛け位置、言い換えれば、セカンダリプーリ35のベルト33の巻き掛け半径が変更される。
【0036】
このように、ベルト式無段変速機30においては、可動シーブ34b,35bを固定シーブ34a,35aに向かってそれぞれ進退移動させて、各プーリ34,35のV溝幅を調整することにより、各プーリ34,35の径方向におけるベルト33の巻き掛け位置を変更して、このベルト式無段変速機30による変速比を変化させることができる。なお、本実施形態におけるベルト式無段変速機30の具体的な構成については後述する。
【0037】
減速機構40は、セカンダリシャフト32を介してベルト式無段変速機30に接続されている。減速機構40は、互いに噛合する二つのカウンタドリブンギヤ41,42と、ファイナルドライブギヤ43とを有する。第1のカウンタドリブンギヤ41は、ベルト式無段変速機30のセカンダリシャフト32に接続されるシャフト44に固定されている。第2のカウンタドリブンギヤ42およびファイナルドライブギヤ43は、セカンダリシャフト32とほぼ平行に配置されたインターミディエートシャフト45にそれぞれ軸方向に離隔して固定される。シャフト44は、ベアリング65,66を介してハウジング80に回転可能に支持される、また、インターミディエートシャフト45は、ベアリング67,68を介してハウジング80に回転可能に支持される。
【0038】
差動装置50は、上述した減速機構40から伝達された回転動力を左右一対のアクスルシャフト51,52に連結される車輪3に適宜の比率で分配して伝達する装置であり、デフケース53内に配置されている。
【0039】
次に、ベルト式無段変速機30の具体的な構成について、図2を用いて説明する。図2は、プライマリプーリ34およびその周辺部の具体的な構成を示す図である。図2の上半分には、プライマリプーリ34に対するベルト33の巻き掛け半径を小さくした状態が示されおり、図2の下半分にはプライマリプーリ34に対するベルト33の巻き掛け半径を大きくした状態が示されている。なお、セカンダリプーリ35およびその周辺部の具体的な構成は、プライマリプーリ34およびその周辺部の具体的な構成とほぼ重複するため、図示を省略し、詳細な説明を省略する。
【0040】
ベルト式無段変速機30のケース81には、プライマリシャフト31と、プライマリプーリ34と、ベルト33とが収容される。ケース81は、例えば、アルミニウム合金等の金属からなる。本実施形態のケース81は、動力伝達系2のハウジング80の一部であるが、ハウジング80から分離されていてもよい。
【0041】
プライマリシャフト31の端部には、トルクコンバータ10の入力シャフト16が連結されている。ここで、プライマリシャフト31の端部であって、入力シャフト16が連結されている端部のことを、以降、先端部31aと記す。そして、プライマリシャフト31のもう一方の端部のことを、以降、後端部31bと記す。
【0042】
プライマリシャフト31は、ケース81に回転可能に支持されている。具体的には、プライマリシャフト31の先端部31aがベアリング61を介してケース81に回転可能に支持され、プライマリシャフト31の後端部31bがベアリング62を介してケース81に回転可能に支持されている。
【0043】
プライマリシャフト31には、ベアリング61とベアリング62との間にプライマリプーリ34と後述するシリンダ部材75とが配置されている。具体的には、プライマリシャフト31の先端部31aから後端部31bに向けて、プライマリプーリ34の固定シーブ34aと、プライマリプーリ34の可動シーブ34bと、シリンダ部材75とが順に配置されている。これにより、プライマリシャフト31とプライマリプーリ34とシリンダ部材75が、ケース81に対し軸線Aを中心として回転可能になっている。
【0044】
プライマリシャフト31の後端部31bには、ロックナット31cが締め付けられている。このロックナット31cの締め付けにより、プライマリシャフト31上に設けられる可動シーブ34bと、シリンダ部材75と、ベアリング62とが一体的に組み付けられる。
【0045】
プライマリシャフト31の内部には、軸方向に延びる油路71が形成されている。この油路71は、プライマリシャフト31の後端部31bの端面に開口しており、この油路71には、図示しない油圧回路からの作動油が油圧アクチュエータ36を介して流通される。油路71には、プライマリシャフト31の径方向に延びてこのプライマリシャフト31の外周面に開口する油路72,73がそれぞれ連通されている。
【0046】
固定シーブ34aは、プライマリシャフト31の外周に一体的に形成されている。一方、可動シーブ34bは、固定シーブ34aに向かって進退移動可能に設けられている。具体的には、可動シーブ34bは、厚肉の内筒部34cと、この内筒部34cにおける固定シーブ34a側の端部に連続して形成されて固定シーブ34aとの間でV溝を形成する半径方向部34dと、半径方向部34dの外周側の端部(以降、単に外周端部と記す)34eの近傍位置から軸方向の後端部31b側に向かって、すなわちシリンダ部材75の外周部分75bに向かって延びる外側筒部34fとを備えている。この外側筒部34fの端部には、これの外周面がシリンダ部材75の外周部分75bの内周面に当接する環状突起部34gが形成されている。この環状突起部34gの外周囲には、樹脂製のシールリング(図示せず)が取り付けられている。また、内筒部34cには、径方向の内外を貫通する貫通孔34jが形成されている。貫通孔34jは、後述する油圧室70を形成する内壁面に開口している。
【0047】
また、可動シーブ34bの内筒部34cの内周面には、軸方向に延びる溝(図示せず)が形成されている。一方、プライマリシャフト31の外周面には、軸方向に延びる溝(図示せず)が形成されている。これら溝は、周方向に所定間隔をおいて複数形成されている。そして、可動シーブ34b側の溝3とプライマリシャフト31側の溝とが周方向で同一の位相となるように、可動シーブ34bとプライマリシャフト31とが位置決めされ、両溝に跨って複数のボール(図示せず)が配置されている。これにより、可動シーブ34bは、プライマリシャフト31に対し、言い換えれば、このプライマリシャフト31上の固定シーブ34aに対し、軸方向には滑らかに相対移動可能となっているが、円周方向には相対移動が不可能となっている。
【0048】
シリンダ部材75は、可動シーブ34bとベアリング62との間に装着される環状の部材である。シリンダ部材75は、プライマリシャフト31の後端部31bに嵌め込まれるとともに、径方向外側に延びる半径方向部75aと、半径方向部75aにつながり、可動シーブ34bの環状突起部34gに当接する円筒状の外周部分75bとを有している。そして、可動シーブ34bとシリンダ部材75とにより囲まれた空間が、ベルト33に対し両シーブ34a,34bによる挟圧力を発生させるための油圧室70として形成されている。
【0049】
油圧室70には、油路71を介して油圧アクチュエータ36からの油圧が供給される。ここで、図2の上半分に示される場合には油路73および貫通孔34jを経て、図2の下半分に示される場合には油路74を経て、油圧アクチュエータ36からの油圧がそれぞれ供給されるようになっている。油圧室70内の油圧力は、可動シーブ34bに対し固定シーブ34a側に向かって作用している。そして、油圧室70内の油圧力が可動シーブ34bに作用すると、可動シーブ34bが固定シーブ34a側に向かう押圧力を受け、これにより、両シーブ34a,34bによる挟圧力がベルト33に対して付与される。
【0050】
また、油圧室70内の油圧力に応じて、可動シーブ34bのプライマリシャフト31上の軸方向に対する位置が定まり、油圧室70内の油圧力が変化すると、可動シーブ34bがプライマリシャフト31上で固定シーブ34aに向かって進退移動する。これにともない、両シーブ34a,34b間のV溝幅が変更される。具体的には、油圧室70内の油圧力が上昇すると、可動シーブ34bがプライマリシャフト31上を先端部31a側に向けて移動する。これにより、可動シーブ34bが固定シーブ34aに向かって前進(接近)して、図2の下半分に示されるように、V溝幅が狭くなり、ベルト33の巻き掛け半径が大きくなる。一方、油圧室70内の油圧力が下降すると、可動シーブ34bがプライマリシャフト31上を後端部31b側に向けて移動する。これにより、可動シーブ34bが固定シーブ34aから後退(離間)して、図2の上半分に示されるように、V溝幅が広くなり、ベルト33の巻き掛け半径が小さくなる。
【0051】
このように、油圧アクチュエータ36で油圧力を制御することにより、可動シーブ34bがプライマリシャフト31上を軸方向に移動してV溝幅が変化する。同様に、図2に示されないが、油圧アクチュエータ37で油圧力を制御することにより、可動シーブ35bもセカンダリシャフト32上を軸方向に移動してV溝幅が変化する。プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35に形成される両V溝幅は、ベルト33の長さに合わせるように、一方のV溝幅が拡大すれば、他方のV溝幅が縮小するように互いに関連付けられて制御される。これにより、プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35の間に変速比を無段階に変化させつつ、プライマリプーリ34の動力を、ベルト33を介してセカンダリプーリ35に伝達することができる。
【0052】
本実施形態のベルト式無段変速機30は、プライマリプーリ34の可動プーリ34bの外周端部34eに形成された測定面34hと、外周端部34eに離隔して設けられた変位センサ90であって、このセンサ90と測定面34hとの間の距離Hを測定する変位センサ90とを有する。そして、測定面34hは、可動シーブ34bが軸方向に移動するにつれて、測定面34hと変位センサ90との間の距離Hが変化するように形成される。以下、測定面34hと変位センサ90の具体的な構成について説明する。
【0053】
測定面34hは、外周端部34eの外周面に形成される。そして、測定面34hは、軸方向において、可動シーブ34dが軸方向に移動する距離Lと同じ長さ、または、それより長く形成される。これにより、変位センサ90は、可動シーブ34dが軸方向に移動する範囲における、測定面34hと変位センサ90との間の距離Hを全て測定することができる。
【0054】
また、測定面34hは、固定シーブ34a側に向かうにつれて軸線Aとの距離が短くなるように形成されている。これにより、可動シーブ34bが軸方向に移動するにつれて、測定面34hと変位センサ90との間の距離Hを変化させることができる。なお、軸方向における測定面34hの断面形状は、直線であっても、曲線であってもよい。本実施形態においては、測定面34hが、固定シーブ34a側に向かうにつれて軸線Aとの距離が短くなるように形成される場合について説明したが、この構成に限定されない。測定面34hが、軸方向に対して同じ側に傾斜するように形成されていれば、シリンダ部材75側に向かうにつれて軸線Aとの距離が短くなるように形成されてもよい。このように、測定面34hが、軸方向に対して同じ側に傾斜するように形成されることにより、簡易な構造で、可動シーブ34bが軸方向に移動するにつれて、測定面34hと変位センサ90との間の距離Hを確実に変化させることができる。
【0055】
変位センサ90は、ケース81に、可動シーブ34bの径方向に沿って配置される。変位センサ90は、非接触型の変位センサであり、例えば渦電流式である。変位センサ90は、測定面34hに磁界を付与し、測定面34hに生じた渦電流によるインピーダンス変化を、変位センサ90内のコイル(図示せず)で求めることにより、可動シーブ34bの軸方向の移動に応じて変化する測定面34eと変位センサ90との間の距離Hを検出する。このような構成により、従来技術で述べたようにポジションセンサの設置スペース、特に可動シーブが固定シーブに対して退避する方向に設置スペースを確保することができなくても、ケース81を大型化することなく、変位センサ90の設置スペースを確保することができる。なお、本実施形態の変位センサ90が渦電流式である場合について説明したが、この構成に限定されない。非接触型の変位センサであれば、例えば静電容量式、光学式、超音波式などの変位センサを使用することができる。ただし、渦電流式の変位センサは、センサ自体の構成が他のタイプのセンサよりもコンパクトであり、ベルト式無段変速機30の小型化に対応することができ、センサ自体の取り付けを容易に行うことができる。
【0056】
ベルト式無段変速機30は、油圧アクチュエータ36を制御し、変速比を変化させる制御部91を有する。制御部91は、一つの態様では、ハードウェア資源とソフトウェアとの協働により実現され、例えば電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。具体的には、制御部91の機能は、記録媒体に記録された制御プログラムがメインメモリに読み出されてCPU(Central Processing Unit)により実行されることによって実現される。制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されることも可能であり、また、データ信号として通信により提供されることも可能である。ただし、制御部91は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。また、制御部91は、物理的に1つの装置により実現されてもよいし、複数の装置により実現されてもよい。
【0057】
制御部91は、変位センサ90に接続されている。制御部91は、変位センサ90の検出結果に基づいて、プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の径方向におけるベルト33の巻き掛け位置を算出するベルト位置算出手段(図示せず)と、ベルト位置算出手段により算出されたベルト33の巻き掛け位置に基づいて、変速比を算出する変速比算出手段(図示せず)とを有する。制御部91は、変速比算出手段が算出した変速比(実変速比)と、車両に要求される変速比(要求変速比)とを比較し、実変速比が要求変速比になるように油圧アクチュエータ36を制御する。
【0058】
次に、距離Hと変速比との関係について、図3から6を用いて説明する。
【0059】
図3(a)には、軸方向における可動シーブ34bの移動範囲において、可動シーブ34bが最も先端部31a側、すなわち固定シーブ34aに最も近づいて位置している状態が示されている。このとき、変位センサ90と測定面34hとの距離Hが最小の距離Hminになる。一方、図3(b)には、軸方向における可動シーブ34bの移動範囲において、可動シーブ34bが最も後端部31b側、すなわち固定シーブ34aから最も離れて位置している状態が示されている。このとき、変位センサ90と測定面34hとの距離Hが最大の距離Hmaxになる。図4に示されるように、可動シーブ34bが先端部31a側から後端部31b側に移動するにつれて、距離Hは最小の距離Hminから最大の距離Hmaxへと徐々に大きくなる。
【0060】
ベルト位置算出手段は、変位センサ90により検出された距離Hとベルト33の巻き掛け位置と対応付けたマップを記憶している。このマップについて図5を用いて説明する。距離Hが最小の距離Hminのとき、可動シーブ34bが固定シーブ34aに最も近づいた状態であるため、V溝幅が最も狭くなり、ベルト33の巻き掛け半径が最大となる。一方、距離Hが最大の距離Hmaxのとき、可動シーブ34bが固定シーブ34aから最も離れた状態であるため、V溝幅が最も広くなり、ベルト33の巻き掛け半径が最小となる。そして、図5には、距離Hが大きくなるにつれて、ベルト33の巻き掛け位置、すなわち巻き掛け半径が徐々に小さくなることが示されている。このように設定されたマップを用いることにより、ベルト位置算出手段は、変位センサ90により検出された距離Hに基づいて、ベルト33の巻き掛け位置を算出することができる。
【0061】
変速比算出手段は、ベルト位置算出手段により算出されたベルト33の巻き掛け位置と変速比とを対応付けたマップを記憶している。このマップについて図5を用いて説明する。ベルト33の巻き掛け位置、すなわちプライマリプーリ34におけるベルト33の巻き掛け半径が最小のとき、セカンダリプーリ35におけるベルト33の巻き掛け半径が最大になる。これにより、変速比が最大になる。すなわち、プライマリプーリ34からセカンダリプーリ35へ動力が伝達されるときに減速される回転速度が最も大きい。一方、ベルト33の巻き掛け位置、すなわちプライマリプーリ34におけるベルト33の巻き掛け半径が最大のとき、セカンダリプーリ35におけるベルト33の巻き掛け半径が最小になる。これにより、変速比が最小になる。すなわち、プライマリプーリ34からセカンダリプーリ35へ動力が伝達されるときに減速される回転速度が最も小さい。そして、図6には、ベルト33の巻き掛け位置、すなわち巻き掛け半径が大きくなるにつれて、変速比が徐々に小さくなることが示されている。このように設定されたマップを用いることにより、変速比算出手段は、ベルト位置算出手段により算出されたベルト33の巻き掛け位置に基づいて、変速比を算出することができる。
【0062】
本実施形態のベルト式無段変速機30によれば、従来のベルト式無段変速機の構造を大幅に変更することなく、可動プーリ34bの外周端部34eに測定面34hを形成し、外周端部34eに対し離隔して変位センサ90を設けるだけで、実際の変速比を正確に検出することができる。しかも、測定面34hと変位センサ90は、大きな設置スペースを確保する必要が無く簡易な構造であるため、ベルト式無段変速機30の小型化に対応することができる。
【0063】
本実施形態においては、プライマリプーリ34の可動プーリ34bの外周端部34eに離隔して設けられた変位センサ90が、これと外周端部34eに形成された測定面34hとの間の距離Hを測定して、変速比を検出する場合について説明したが、この構成に限定されない。プライマリプーリ34の可動プーリ34bの移動にともない、セカンダリプーリ35の可動プーリ35bも移動するので、変位センサ90が可動プーリ35bの外周端部に離隔して設けられ、変位センサ90が、これと可動プーリ35bの外周端部に形成された測定面との間の距離Hを測定して、変速比を検出することもできる。
【符号の説明】
【0064】
30 ベルト式無段変速機、31 プライマリシャフト、32 セカンダリシャフト、33 ベルト、34 プライマリプーリ、34a,35a 固定シーブ、34b,35b 可動シーブ、34e 外周端部、34h 測定面、35 セカンダリプーリ、81 ケース、90 変位センサ、91 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブとこの固定シーブに対向する可動シーブとをそれぞれ備えた駆動側プーリ及び従動側プーリと、
これらのプーリの間に掛け渡され、駆動側プーリの動力を従動側プーリに伝達するベルトと、
を有し、
可動シーブを軸方向に移動させることにより駆動側及び従動側プーリの径方向におけるベルトの巻き掛け位置を変化させて変速比を変化させるベルト式無段変速機において、
可動シーブの外周端部に形成された測定面と、
前記外周端部に離隔して設けられた変位センサであって、前記測定面と当該変位センサとの間の距離を測定する変位センサと、
を有し、
前記測定面は、可動シーブが軸方向に移動するにつれて、前記測定面と前記変位センサとの間の距離が変化するように形成される、
ことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト式無段変速機において、
変位センサは、可動シーブの径方向に沿って設けられ、
前記測定面は、軸方向に対して同じ側に傾斜するように形成される、
ことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のベルト式無段変速機において、
駆動側プーリと従動側プーリとベルトとを収容するケースを有し、
変位センサはケースに配置される、
ことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1に記載のベルト式無段変速機において、
前記測定面は、軸方向において、可動シーブが軸方向に移動する距離と同じ長さに形成される、
ことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のベルト式無段変速機において、
変位センサの検出結果に基づいて、駆動側及び従動側プーリの径方向におけるベルトの巻き掛け位置を算出するベルト位置算出手段と、
ベルト位置算出手段により算出されたベルトの巻き掛け位置に基づいて、変速比を算出する変速比算出手段と、
を有することを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のベルト式無段変速機において、
前記測定面は、駆動側及び従動側プーリのいずれか一方の可動シーブの外周端部に形成される、
ことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載のベルト式無段変速機において、
前記測定面は、固定シーブ側に向かうにつれて軸との距離が短くなるように形成される、
ことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載のベルト式無段変速機において、
変位センサは渦電流式であることを特徴とするベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−249263(P2010−249263A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100758(P2009−100758)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】