ポリフェノールを高濃度に含有する、渋み・苦味をマスキングしたオリーブ葉エキスの製造法
【課題】オリーブ葉を原料として高濃度のポリフェノールを含有し、かつ渋み・苦味を抑えた食品素材を提供する。
【解決手段】オリーブ葉を乾燥し、粉砕した後、水、クエン酸を含有する水、あるいはペプチドを含有する水を抽出媒体として抽出することによりオレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスを製造する方法、およびアミノ酸、ペプチド、重炭酸ナトリウムによる該エキスの渋み・苦味のマスキング方法。
【効果】オレウロペインなどのポリフェノールを高濃度に含有する渋み・苦味の少ないオリーブ葉抽出エキスが得られる。
【解決手段】オリーブ葉を乾燥し、粉砕した後、水、クエン酸を含有する水、あるいはペプチドを含有する水を抽出媒体として抽出することによりオレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスを製造する方法、およびアミノ酸、ペプチド、重炭酸ナトリウムによる該エキスの渋み・苦味のマスキング方法。
【効果】オレウロペインなどのポリフェノールを高濃度に含有する渋み・苦味の少ないオリーブ葉抽出エキスが得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリーブ葉から得られたポリフェノール類を含む抽出物に対するオリーブ葉抽出物の渋み・苦味のマスキングに関するものであり、更に詳しくは、オリーブ葉を乾燥・粉砕した後、これを水または有機溶媒を抽出媒体として抽出することによるオレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスの製造において、ペプチド、重炭酸ナトリウムまたはアミノ酸をオリーブ葉抽出エキスに添加することにより、渋み・苦味をマスキングするためのマスキング剤に関するものである。本発明のオリーブ葉の抽出エキスは健康増進に有用なオレウロペインなどのポリフェノールを含むものであり、各種の食品類への応用に適した有用なものである。
【背景技術】
【0002】
古代ギリシャ時代以来オリーブは地中海地方において人々の生活と密接な関わりをもった食用の植物とされ、特にオリーブの実より抽出されるオリーブ油が生活に使用されていた。近年、抗酸化物質であるフェノール化合物と健康との関連に注目が集まるようになっている。すなわち、フェノール化合物は血小板凝集作用を阻害し、リン脂質酸化を阻害するといった生理活性を有しているとされ、オリーブの実や葉にはフェノール化合物である下記の構造を有するオレウロペインまたはヒドロキシチロソールを含有し、血糖値上昇抑制作用やLDL酸化抑制作用を有するという報告があるように、健康増進に有用な物質とされている。
【0003】
【化1】
【0004】
オリーブ葉に含まれる主要な成分の一つであるオレウロペインはポリフェノールの一種であり、優れた抗酸化作用を持つ物質である。その代表的な効能としては、「アレルギーの緩和」「風邪の緩和」「血液さらさら効果」「糖尿病の改善や予防効果」「コレステロール値の低下効果」があり、また、「花粉症」の緩和にも効果があることが報告されている。さらに、オレウロペインは、健康や美容に良いとされているビタミンCや茶カテキンなどと比べても、優れた機能性を持っているとされる。
【0005】
オリーブ葉またはその抽出成分はさまざまな形態で健康維持のために使用され、その製造に関しては多くの技術が提案されてきた。例えば、オリーブの生の葉を蒸し、蒸した葉を揉捻し、揉捻した葉を乾燥させ、乾燥させた葉を粉末状に加工し、さらに、粉末状コラーゲンと粉末状オリーブ葉とを混合することにより、コラーゲンの体内合成効率を促進する機能を有する食品組成物およびその製造方法(特許文献1参照)や、 オリーブ葉を風通しのよい場所で天日に晒し、ポリフェノール酸化酵素によりオリーブ葉中のポリフェノール類を酸化醗酵させ、これを風通しのよい場所で天日により乾燥させ、これを微細に切断、焙煎させ、これを袋詰めして熟成させ、陽イオン、陰イオン交換樹脂で処理した湯に重炭酸ナトリウムを溶かし、この中に熟成したオリーブ葉を入れ、オリーブエキスを抽出した抽出液からなるお茶(特許文献2参照)が提案されている。
【0006】
さらに、オリーブに含まれる成分であり、その抗ウィルス活性、抗原虫活性、抗菌活性が注目されており、活性化マクロファージの一酸化窒素合成酵素の活性化、一酸化窒素の生成を増幅する作用を有するオレウロペインを高度に含有するオリーブ乾燥葉を提供するにあたり、オリーブ生葉を、常圧または減圧下において、乾燥温度を従来の温度よりかなり高い85℃以上145℃以下で乾燥するか、あるいは、常圧または減圧下において、従来の温度より低い65℃以下で72時間以内に乾燥する方法(特許文献3参照)や、ダブルドラムドライヤーにより120℃〜150℃でオリーブ葉を含水率4%〜10%になるように乾燥するオリーブ葉独特の色・風味・香りを有したままで粉末化しやすく、変色のないあるいは変色のほとんどないオリーブ葉を得る方法(特許文献4参照)などを挙げることができる。
【0007】
また、オリーブ葉独特の匂いや苦味を押えることによりその利用の範囲を広げることが試みられている。例えば、固有の風味、おいしさを維持しつつオリーブ葉特有のグリーン臭を抑え、苦渋味が弱く、甘茶、緑茶やハーブなどをブレンドしなくても単独で飲やすい飲料となるオリーブ茶の提供するものであって、オリーブ茶原料に含まれる酸化酵素を不活化させるための煮沸する工程を設ける、さらにアルコールまたは食品添加用苛性ソーダを使用した苦渋味を除去する工程を設けるオリーブ茶の製造方法(特許文献5参照)や、ポリフェノール、エタノールおよび濃グリセリンを配合することにより、ポリフェノールの渋味などの不快な味を著しく低減した咽頭粘膜用組成物が提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-191845号公報
【特許文献2】特開平11−262378号公報
【特許文献3】特開2003-335693号公報
【特許文献4】特開2006−304753号公報
【特許文献5】特開2006−191854号公報
【特許文献6】特開2001−139465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
国内で最大のオリーブ植栽面積を誇る小豆島においては、オリーブの果実の利用が進んでいるものの、オリーブ葉については、ごく一部が製茶飲料として利用されているに過ぎず、大半のオリーブ葉は剪定くずとして、廃棄されている状況である。このような中、オリーブ葉の有効利用が地域資源の活用及び環境対策の観点から、緊急の課題となっている。本発明は、オリーブ葉またはその抽出物が苦味を有するため、食品などへの利用が制限されていたことを解決するものであり、オリーブ葉の抽出エキスの苦味をマスキングする技術を提供するものである。
【0010】
オリーブ葉のエキスは、高い健康機能を有してはいるが、従来のエキスよりも強い渋み・苦味をもつ。本発明の目的は、この渋み・苦味を低減するために、従来は糖類(砂糖やシクロデキストリン)を用いてマスキングしてきたが、糖以外の健康に良い天然食品成分を使ったマスキング法を開発し、マスキングしたエキスを提供することである。また、本発明の目的は、抽出されたエキスを使用するにあたり食品に適した渋みや苦味を抑えたオリーブ葉エキスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のオリーブ葉抽出エキスの製造方法からなる。
(1)オリーブ葉を抽出処理するにあたり、抽出媒体にクエン酸を添加するオリーブ葉の抽出エキスの製造方法。
(2)抽出媒体を酸性にすることにより抽出されるポリフェノールの量を増大させる上記(1)に記載のオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
(3)オリーブ葉を乾燥し、粉砕した後、水または、クエン酸を含有する水、あるいはペプチドを含有する水を抽出媒体として抽出することを特徴とするオレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
【0012】
また、本発明は以下のオリーブ葉抽出エキスおよびその渋み・苦みのマスキング剤からなる。
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載のオリーブ葉の抽出エキスの製造方法で製造したオレウロペインを含有するオリーブ葉の抽出エキス。
(5)上記(4)に記載のオリーブ葉の抽出エキスの渋み・苦味をマスキングするために、該エキスの抽出媒体にペプチド、重炭酸ナトリウム、およびアミノ酸から選ばれた1種または2種以上を添加するオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
(6)オレウロペインを含有するオリーブ葉の抽出エキスの渋み・苦味をマスキングするために該エキスに添加されるペプチド、重炭酸ナトリウム、およびアミノ酸から選ばれた1種または2種以上からなるオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
(7)ペプチドがコラーゲンペプチド、ホエーペプチド、ゴマペプチドおよび大豆ペプチドから選ばれた1種または2種以上であり、アミノ酸が塩基性アミノ酸から選ばれた1種または2種以上である上記(6)に記載のオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
(8)塩基性アミノ酸がL-アルギニン、L-リジンおよびヒスチジンから選ばれた1種または2種以上である上記(6)に記載のオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により以下の効果が奏されることが判明した。
エキスのもつ渋み・苦味のマスキング法について、以下の2つの方法を検討することにより、マスキング法について以下の結果を得た。
1)タンパク質・ペプチドによるマスキング法
コラーゲンペプチドを加えた場合に、苦味の低減と好み性の向上が見られた。
2)重炭酸ナトリウム及びアミノ酸によるマスキング法
添加量0.2〜1.0g/Lの重炭酸ナトリウムが、特に苦味のマスキングに有効であった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】オリーブ葉乾燥粉末をクエン酸溶液で抽出して製造したエキスのポリフェノール濃度を示す。
【図2】オリーブ葉乾燥粉末をペプチド溶液で抽出して製造したエキスのポリフェノール濃度を示す。
【図3】オリーブ葉乾燥粉末をペプチド溶液で抽出して製造したエキスの抗酸化活性を示す。
【図4】オリーブ葉乾燥粉末をペプチド溶液で抽出して製造したエキスの苦味を示す。
【図5】オリーブ葉乾燥粉末をペプチド溶液で抽出して製造したエキスの好みを示す。
【図6】単位タンパク質あたりに相互作用するポリフェノールの分子数を示す。
【図7】エキス中のポリフェノールとタンパク質の相互作用を示す(Ex280nm)。
【図8】エキス中のポリフェノールとタンパク質の相互作用を示す(Ex295nm)。
【図9】塩基性物質の添加による官能試験の結果を示す。
【図10】塩基性物質の添加によるエキスのpH変化を示す。
【図11】塩基性物質の添加によるエキスの官能試験スコアとpHの相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、オレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスを製造する方法において、渋みや苦味をマスキングにより押えたオリーブ葉抽出エキスまたはマスキング剤に関するものである。本発明により、オリーブ葉抽出エキスの大量生産やそのエキスの食品などへの広範囲な応用に新たな展開を達成することが可能となった。
【0016】
本発明のオリーブ葉抽出エキスの製造の概要を説明する。
〔エキスの抽出法〕
オリーブ葉エキスの抽出方法としてクエン酸やペプチドの添加効果を検討した。
【0017】
オリーブ葉乾燥粉末0.5gに純水あるいはクエン酸溶液(pH4)10mLを加え、30℃で20分処理してエキスの抽出を行った。図1に示すとおり、純水で抽出したエキスと比べてクエン酸溶液で抽出したエキスのほうが総ポリフェノール量が大きく増加していることが確認できた。
【0018】
〔エキスの渋み・苦味のマスキング法〕
オリーブ葉エキスのもつ渋み・苦味のマスキング法について、以下の2つの方法を検討した。
(1)タンパク質・ペプチドによるマスキング法
コラーゲンペプチドを加えた場合に、苦味の低減と好み性の向上が見られた。
(2)アミノ酸などによるマスキング法
アミノ酸および重炭酸ナトリウムにはマスキング効果が見られたが、特に、添加量0.2〜1.0g/Lの重炭酸ナトリウムが、苦味のマスキングに有効であった。
【0019】
(1)タンパク質・ペプチドによるマスキング剤の検討
エキスのもつ渋み・苦味のマスキングをペプチドを使って試みた。エキスの抽出とマスキングを同時に行うために、オリーブ葉乾燥粉末をタンパク質溶液およびペプチド溶液中で直接抽出を行った。
〔ペプチド溶液で抽出したエキスの評価〕
オリーブ葉乾燥粉末1gに、純水または各濃度(30、60、90mg/mL)の各ペプチド溶液(コラーゲンペプチド、ホエーペプチド、大豆ペプチド)を20mL加え混合・攪拌した。遠心分離(10000×g、20分間)後の上清をオリーブエキスとし、以後の実験に用いた。図1にはペプチド溶液で抽出したエキスのポリフェノール濃度を示す。純水を用いた抽出よりもペプチド溶液を用いた抽出のほうがポリフェノール濃度は相対的に高かった。なかでもホエーペプチドを用いた抽出が特にポリフェノール濃度が高かった。また、いずれのペプチドにおいても濃度をあげるごとにポリフェノール濃度が増加した。以上のことより、ペプチド溶液を用いた抽出方法は、ポリフェノール濃度の高いエキスを抽出するのに有効と考えられた。
これらペプチド溶液で抽出したエキスの抗酸化活性をDPPH法で測定した。図3には10μgポリフェノール/mL濃度での抗酸化活性を示した。純水で抽出したものよりも30mg/mLのペプチド溶液で抽出したものの方が抗酸化活性は高かった。中でも30mg/mLコラーゲンペプチドを用いて抽出したエキスの抗酸化活性が特に高かった。しかし、どのペプチド溶液も濃度をあげるごとに抗酸化活性は低下した。このことから、ペプチド溶液を用いて抽出する方法は、抗酸化活性の高いオリーブエキスを抽出するのに有効だが、ペプチド濃度が高いと抗酸化活性が低下することがわかった。以上のことから、30mg/mLのペプチド溶液を用いたエキス抽出は、ポリフェノール濃度の増加と抗酸化力の改善に適した抽出方法であることがわかった。
【0020】
〔ペプチド抽出エキスの官能検査〕
オリーブ葉乾燥粉末5gに、純水または30mg/mLの各ペプチド溶液(コラーゲンペプチド、ホエーペプチド、大豆ペプチド)または市販のゴマペプチド入りのウーロン茶を100mL加え混合攪拌したのち、ろ紙(No.2)でろ過した。ろ液(エキス)を加熱殺菌後、官能試験用試料とした。まず、ペプチドの入っていないエキスを口に含み苦み・好みを評価し、その評価値を基準の5とした。その後各ペプチド入りのオリーブリーフエキスを口に含み苦味・好みを評価した。苦味みがコントロール(Ct)よりも強い場合は5より大きい数字を記入することとした。一方好みについては、Ctよりも好ましいものには5よりも大きい数字を記入することとした。図4および図5には、官能検査のパネリストを35〜70歳(12名)と21〜24歳(11名)に分けて集計した結果を示す。どのペプチドを加えても苦みは低下した。なかでもコラーゲンペプチドとホエーペプチドが苦みを大きく低減させた。コラーゲンペプチドは多くのパネリストにとってCtよりも好まれる飲料であるという結果となったが、ホエーペプチドはあまり好まれなかった。ゴマペプチドは、ほかのペプチドに比べると苦みをあまり低減しなかったが、パネリストには好まれた。一方大豆ペプチドは苦みを低減したが、強い酸味があったため、多くのパネリストにとって好ましくないという結果となった。
【0021】
〔エキス中のポリフェノールとペプチドとの結合〕
オリーブ葉乾燥粉末に純水を加え、10分間沸騰加熱して抽出したエキス(ポリフェノール濃度500〜8000μM)と500μMのβラクトグロブリン(β−LG)、牛血清アルブミン(BSA)、鶏卵白アルブミン(OVA)、コラーゲンペプチドを混合し、分画分子量3500の透析膜に1日透析した。透析後の膜内の溶液のタンパク質濃度(Lowry法)とポリフェノール濃度(Folin−Ciocalteu法)を測定した。タンパク質1mgあたりに結合するポリフェノール分子の数を算出した結果を図6に示す。コラーゲンペプチドを除く3種のタンパク質においては、ポリフェノール濃度の増加に伴い、結合するポリフェノール分子の数が増加していった。特に、ポリフェノールが多く結合したのはBSAであり、タンパク質1mgに約8千個のポリフェノール分子が結合することとわかった。ポリフェノール分子が結合する割合の高かったのは、BSA>コラーゲンペプチド>OVA、β−LGの順であった。また、タンパク質―ポリフェノール結合曲線の挙動はコラーゲンペプチドだけ他のタンパク質と異なっていた。コラーゲンペプチドにおいてはポリフェノール濃度を増加させていっても結合するポリフェノール分子数は増加しなかった。このことから、分子量18kDa以上のタンパク質と平均分子量4kDaのペプチドでは、ポリフェノールとの相互作用の仕方が異なると考えられた。
【0022】
〔エキス中のポリフェノールとタンパク質の相互作用〕
エキス中のポリフェノールとタンパク質との相互作用があるかをタンパク質のもつ自家蛍光をもとに解析した。120μM ポリフェノール濃度のエキス、100μMの各種タンパク質(β−LG、BSA、OVA)、10mMリン酸buffer(pH7.4)を使って、タンパク質濃度10μM、ポリフェノール濃度を0、2.5、5、10、20、40、80、108μMに調製した。これら溶液の蛍光スペクトルを、励起波長280nmと295nmでそれぞれ測定した。図7および図8にはβ−LGとエキスを含むスペクトルを示す。いずれの励起波長においてもポリフェノール濃度が上昇するにつれてタンパク質の蛍光強度が減少した。この蛍光強度の減少は、タンパク質の蛍光発色団が出す蛍光をエキス中のポリフェノール成分が消光したためと考えられる。励起波長280nmはタンパク質中のトリプトファン(Trp)とチロシン(Tyr)の蛍光を、励起波長295nmはTrpだけの蛍光を検出することから、タンパク質のTrpやTyr残基とポリフェノールは10オングストローム以内の距離で相互作用していると考えられた。なお、BSAやOVAもβ−LGと同様の蛍光スペクトル変化を示した。また、この蛍光強度の減少パターンから見積ったところ、TrpやTyr残基と相互作用するポリフェノール分子の数は、1.2個(β‐LG)、1.5個(BSAとOVA)であった。
【0023】
〔重炭酸ナトリウムおよびアミノ酸によるマスキング法〕
オリーブ葉エキスの渋み・苦味に対する各種添加剤によるマスキング作用を官能検査で検討し、最も効果のある添加物質の選択と適切な添加濃度を求めた。
(結果)
官能検査に用いたエキスは、乾燥オリーブ葉粉末をクエン酸添加で弱酸性(pH 4.5)にした水に投入し、約90℃で10分間加熱処理して得られる濃厚エキスを希釈したもので、希釈後の没食子酸換算ポリフェノール含量を0.40g/L(=0.04%)に設定した。
マスキング作用を検討した添加物は、(1)塩基性アミノ酸(L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−リジン)と(2)重炭酸ナトリウム(重曹)である。検査方法は、希釈したオリーブ葉エキスに上記の物質を種々の濃度加えた試料溶液を調製し、無添加の場合と比較した苦味の程度を、+2(苦味が減った)、+1(苦味が少し減った)、0(変わらない)、−1(苦味が少し増した)、−2(苦味が増した)の5段階でパネラー(5〜11名)に評価してもらい、評価点の平均値(スコア)を求める方法で行った。
【0024】
その結果、(1)を添加した場合は、L−アルギニンとL−リジンでは2g/L(=0.2%)付近、(2)重曹では0.2〜1.0g/L(0.02〜0.10%)で苦味のマスキング効果が見られた(図9参照)。但し、L−アルギニンを更に加えて5g/L以上の濃度にすると、添加物自体の味が顕著になるためスコアは悪化した。これらの塩基性物質を添加すると試料のpHは徐々に上昇し、苦味のマスキング効果がみられた濃度域では、中性から弱アルカリ性になることを確認した(図10参照)。そこで、官能試験のスコアと試料のpHとの相関関係をグラフにしてみたところ(図11)、中性から弱アルカリpHでスコアが改善されていることが明確に示された(但し、L−アルギニンの添加量が多すぎると、L−アルギニン自体の苦味が顕著になるためスコアは低下している)。恐らく、エキス中に含まれる弱酸性成分がpH上昇によって解離し、苦味の低下に関与していると思われる。
以上の結果を総合し、添加量0.2〜1.0g/L(0.02〜0.10%:この時のエキスのpHは6〜7)で苦味のマスキング効果を発揮する重曹が、今回調べた添加物の中では最も適していると判断した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明では、機能性の高いオリーブ葉抽出エキスのマスキング法について、タンパク質・ペプチド、重炭酸ナトリウム及びアミノ酸の効果について検証し、それぞれ苦味のマスキング効果を確認できた。どのマスキング法を使うかは添加する食材に応じて検討する必要があるが、具体的製品化の方向は次のとおりである。
(a)オリーブエキス
エキスに関しては、既存のオリーブ葉エキスと比べて高濃度のオレウロペインを含んだエキスの試作に成功した。コラーゲンペプチドなどによるマスキングを行うことにより、飲料としての製品化が最も近いものと考えられる。また、将来的には、美白効果などの機能性をもとに、化粧品分野への利用についても有用である。
(b)エキス入り食品
オリーブ葉エキスを添加した食品については、パン、パスタ、シフォンケーキ、プリン、ゼリーについて実施し、食味検査を行い、優れた食味を確認できた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリーブ葉から得られたポリフェノール類を含む抽出物に対するオリーブ葉抽出物の渋み・苦味のマスキングに関するものであり、更に詳しくは、オリーブ葉を乾燥・粉砕した後、これを水または有機溶媒を抽出媒体として抽出することによるオレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスの製造において、ペプチド、重炭酸ナトリウムまたはアミノ酸をオリーブ葉抽出エキスに添加することにより、渋み・苦味をマスキングするためのマスキング剤に関するものである。本発明のオリーブ葉の抽出エキスは健康増進に有用なオレウロペインなどのポリフェノールを含むものであり、各種の食品類への応用に適した有用なものである。
【背景技術】
【0002】
古代ギリシャ時代以来オリーブは地中海地方において人々の生活と密接な関わりをもった食用の植物とされ、特にオリーブの実より抽出されるオリーブ油が生活に使用されていた。近年、抗酸化物質であるフェノール化合物と健康との関連に注目が集まるようになっている。すなわち、フェノール化合物は血小板凝集作用を阻害し、リン脂質酸化を阻害するといった生理活性を有しているとされ、オリーブの実や葉にはフェノール化合物である下記の構造を有するオレウロペインまたはヒドロキシチロソールを含有し、血糖値上昇抑制作用やLDL酸化抑制作用を有するという報告があるように、健康増進に有用な物質とされている。
【0003】
【化1】
【0004】
オリーブ葉に含まれる主要な成分の一つであるオレウロペインはポリフェノールの一種であり、優れた抗酸化作用を持つ物質である。その代表的な効能としては、「アレルギーの緩和」「風邪の緩和」「血液さらさら効果」「糖尿病の改善や予防効果」「コレステロール値の低下効果」があり、また、「花粉症」の緩和にも効果があることが報告されている。さらに、オレウロペインは、健康や美容に良いとされているビタミンCや茶カテキンなどと比べても、優れた機能性を持っているとされる。
【0005】
オリーブ葉またはその抽出成分はさまざまな形態で健康維持のために使用され、その製造に関しては多くの技術が提案されてきた。例えば、オリーブの生の葉を蒸し、蒸した葉を揉捻し、揉捻した葉を乾燥させ、乾燥させた葉を粉末状に加工し、さらに、粉末状コラーゲンと粉末状オリーブ葉とを混合することにより、コラーゲンの体内合成効率を促進する機能を有する食品組成物およびその製造方法(特許文献1参照)や、 オリーブ葉を風通しのよい場所で天日に晒し、ポリフェノール酸化酵素によりオリーブ葉中のポリフェノール類を酸化醗酵させ、これを風通しのよい場所で天日により乾燥させ、これを微細に切断、焙煎させ、これを袋詰めして熟成させ、陽イオン、陰イオン交換樹脂で処理した湯に重炭酸ナトリウムを溶かし、この中に熟成したオリーブ葉を入れ、オリーブエキスを抽出した抽出液からなるお茶(特許文献2参照)が提案されている。
【0006】
さらに、オリーブに含まれる成分であり、その抗ウィルス活性、抗原虫活性、抗菌活性が注目されており、活性化マクロファージの一酸化窒素合成酵素の活性化、一酸化窒素の生成を増幅する作用を有するオレウロペインを高度に含有するオリーブ乾燥葉を提供するにあたり、オリーブ生葉を、常圧または減圧下において、乾燥温度を従来の温度よりかなり高い85℃以上145℃以下で乾燥するか、あるいは、常圧または減圧下において、従来の温度より低い65℃以下で72時間以内に乾燥する方法(特許文献3参照)や、ダブルドラムドライヤーにより120℃〜150℃でオリーブ葉を含水率4%〜10%になるように乾燥するオリーブ葉独特の色・風味・香りを有したままで粉末化しやすく、変色のないあるいは変色のほとんどないオリーブ葉を得る方法(特許文献4参照)などを挙げることができる。
【0007】
また、オリーブ葉独特の匂いや苦味を押えることによりその利用の範囲を広げることが試みられている。例えば、固有の風味、おいしさを維持しつつオリーブ葉特有のグリーン臭を抑え、苦渋味が弱く、甘茶、緑茶やハーブなどをブレンドしなくても単独で飲やすい飲料となるオリーブ茶の提供するものであって、オリーブ茶原料に含まれる酸化酵素を不活化させるための煮沸する工程を設ける、さらにアルコールまたは食品添加用苛性ソーダを使用した苦渋味を除去する工程を設けるオリーブ茶の製造方法(特許文献5参照)や、ポリフェノール、エタノールおよび濃グリセリンを配合することにより、ポリフェノールの渋味などの不快な味を著しく低減した咽頭粘膜用組成物が提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-191845号公報
【特許文献2】特開平11−262378号公報
【特許文献3】特開2003-335693号公報
【特許文献4】特開2006−304753号公報
【特許文献5】特開2006−191854号公報
【特許文献6】特開2001−139465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
国内で最大のオリーブ植栽面積を誇る小豆島においては、オリーブの果実の利用が進んでいるものの、オリーブ葉については、ごく一部が製茶飲料として利用されているに過ぎず、大半のオリーブ葉は剪定くずとして、廃棄されている状況である。このような中、オリーブ葉の有効利用が地域資源の活用及び環境対策の観点から、緊急の課題となっている。本発明は、オリーブ葉またはその抽出物が苦味を有するため、食品などへの利用が制限されていたことを解決するものであり、オリーブ葉の抽出エキスの苦味をマスキングする技術を提供するものである。
【0010】
オリーブ葉のエキスは、高い健康機能を有してはいるが、従来のエキスよりも強い渋み・苦味をもつ。本発明の目的は、この渋み・苦味を低減するために、従来は糖類(砂糖やシクロデキストリン)を用いてマスキングしてきたが、糖以外の健康に良い天然食品成分を使ったマスキング法を開発し、マスキングしたエキスを提供することである。また、本発明の目的は、抽出されたエキスを使用するにあたり食品に適した渋みや苦味を抑えたオリーブ葉エキスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のオリーブ葉抽出エキスの製造方法からなる。
(1)オリーブ葉を抽出処理するにあたり、抽出媒体にクエン酸を添加するオリーブ葉の抽出エキスの製造方法。
(2)抽出媒体を酸性にすることにより抽出されるポリフェノールの量を増大させる上記(1)に記載のオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
(3)オリーブ葉を乾燥し、粉砕した後、水または、クエン酸を含有する水、あるいはペプチドを含有する水を抽出媒体として抽出することを特徴とするオレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
【0012】
また、本発明は以下のオリーブ葉抽出エキスおよびその渋み・苦みのマスキング剤からなる。
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載のオリーブ葉の抽出エキスの製造方法で製造したオレウロペインを含有するオリーブ葉の抽出エキス。
(5)上記(4)に記載のオリーブ葉の抽出エキスの渋み・苦味をマスキングするために、該エキスの抽出媒体にペプチド、重炭酸ナトリウム、およびアミノ酸から選ばれた1種または2種以上を添加するオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
(6)オレウロペインを含有するオリーブ葉の抽出エキスの渋み・苦味をマスキングするために該エキスに添加されるペプチド、重炭酸ナトリウム、およびアミノ酸から選ばれた1種または2種以上からなるオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
(7)ペプチドがコラーゲンペプチド、ホエーペプチド、ゴマペプチドおよび大豆ペプチドから選ばれた1種または2種以上であり、アミノ酸が塩基性アミノ酸から選ばれた1種または2種以上である上記(6)に記載のオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
(8)塩基性アミノ酸がL-アルギニン、L-リジンおよびヒスチジンから選ばれた1種または2種以上である上記(6)に記載のオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により以下の効果が奏されることが判明した。
エキスのもつ渋み・苦味のマスキング法について、以下の2つの方法を検討することにより、マスキング法について以下の結果を得た。
1)タンパク質・ペプチドによるマスキング法
コラーゲンペプチドを加えた場合に、苦味の低減と好み性の向上が見られた。
2)重炭酸ナトリウム及びアミノ酸によるマスキング法
添加量0.2〜1.0g/Lの重炭酸ナトリウムが、特に苦味のマスキングに有効であった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】オリーブ葉乾燥粉末をクエン酸溶液で抽出して製造したエキスのポリフェノール濃度を示す。
【図2】オリーブ葉乾燥粉末をペプチド溶液で抽出して製造したエキスのポリフェノール濃度を示す。
【図3】オリーブ葉乾燥粉末をペプチド溶液で抽出して製造したエキスの抗酸化活性を示す。
【図4】オリーブ葉乾燥粉末をペプチド溶液で抽出して製造したエキスの苦味を示す。
【図5】オリーブ葉乾燥粉末をペプチド溶液で抽出して製造したエキスの好みを示す。
【図6】単位タンパク質あたりに相互作用するポリフェノールの分子数を示す。
【図7】エキス中のポリフェノールとタンパク質の相互作用を示す(Ex280nm)。
【図8】エキス中のポリフェノールとタンパク質の相互作用を示す(Ex295nm)。
【図9】塩基性物質の添加による官能試験の結果を示す。
【図10】塩基性物質の添加によるエキスのpH変化を示す。
【図11】塩基性物質の添加によるエキスの官能試験スコアとpHの相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、オレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスを製造する方法において、渋みや苦味をマスキングにより押えたオリーブ葉抽出エキスまたはマスキング剤に関するものである。本発明により、オリーブ葉抽出エキスの大量生産やそのエキスの食品などへの広範囲な応用に新たな展開を達成することが可能となった。
【0016】
本発明のオリーブ葉抽出エキスの製造の概要を説明する。
〔エキスの抽出法〕
オリーブ葉エキスの抽出方法としてクエン酸やペプチドの添加効果を検討した。
【0017】
オリーブ葉乾燥粉末0.5gに純水あるいはクエン酸溶液(pH4)10mLを加え、30℃で20分処理してエキスの抽出を行った。図1に示すとおり、純水で抽出したエキスと比べてクエン酸溶液で抽出したエキスのほうが総ポリフェノール量が大きく増加していることが確認できた。
【0018】
〔エキスの渋み・苦味のマスキング法〕
オリーブ葉エキスのもつ渋み・苦味のマスキング法について、以下の2つの方法を検討した。
(1)タンパク質・ペプチドによるマスキング法
コラーゲンペプチドを加えた場合に、苦味の低減と好み性の向上が見られた。
(2)アミノ酸などによるマスキング法
アミノ酸および重炭酸ナトリウムにはマスキング効果が見られたが、特に、添加量0.2〜1.0g/Lの重炭酸ナトリウムが、苦味のマスキングに有効であった。
【0019】
(1)タンパク質・ペプチドによるマスキング剤の検討
エキスのもつ渋み・苦味のマスキングをペプチドを使って試みた。エキスの抽出とマスキングを同時に行うために、オリーブ葉乾燥粉末をタンパク質溶液およびペプチド溶液中で直接抽出を行った。
〔ペプチド溶液で抽出したエキスの評価〕
オリーブ葉乾燥粉末1gに、純水または各濃度(30、60、90mg/mL)の各ペプチド溶液(コラーゲンペプチド、ホエーペプチド、大豆ペプチド)を20mL加え混合・攪拌した。遠心分離(10000×g、20分間)後の上清をオリーブエキスとし、以後の実験に用いた。図1にはペプチド溶液で抽出したエキスのポリフェノール濃度を示す。純水を用いた抽出よりもペプチド溶液を用いた抽出のほうがポリフェノール濃度は相対的に高かった。なかでもホエーペプチドを用いた抽出が特にポリフェノール濃度が高かった。また、いずれのペプチドにおいても濃度をあげるごとにポリフェノール濃度が増加した。以上のことより、ペプチド溶液を用いた抽出方法は、ポリフェノール濃度の高いエキスを抽出するのに有効と考えられた。
これらペプチド溶液で抽出したエキスの抗酸化活性をDPPH法で測定した。図3には10μgポリフェノール/mL濃度での抗酸化活性を示した。純水で抽出したものよりも30mg/mLのペプチド溶液で抽出したものの方が抗酸化活性は高かった。中でも30mg/mLコラーゲンペプチドを用いて抽出したエキスの抗酸化活性が特に高かった。しかし、どのペプチド溶液も濃度をあげるごとに抗酸化活性は低下した。このことから、ペプチド溶液を用いて抽出する方法は、抗酸化活性の高いオリーブエキスを抽出するのに有効だが、ペプチド濃度が高いと抗酸化活性が低下することがわかった。以上のことから、30mg/mLのペプチド溶液を用いたエキス抽出は、ポリフェノール濃度の増加と抗酸化力の改善に適した抽出方法であることがわかった。
【0020】
〔ペプチド抽出エキスの官能検査〕
オリーブ葉乾燥粉末5gに、純水または30mg/mLの各ペプチド溶液(コラーゲンペプチド、ホエーペプチド、大豆ペプチド)または市販のゴマペプチド入りのウーロン茶を100mL加え混合攪拌したのち、ろ紙(No.2)でろ過した。ろ液(エキス)を加熱殺菌後、官能試験用試料とした。まず、ペプチドの入っていないエキスを口に含み苦み・好みを評価し、その評価値を基準の5とした。その後各ペプチド入りのオリーブリーフエキスを口に含み苦味・好みを評価した。苦味みがコントロール(Ct)よりも強い場合は5より大きい数字を記入することとした。一方好みについては、Ctよりも好ましいものには5よりも大きい数字を記入することとした。図4および図5には、官能検査のパネリストを35〜70歳(12名)と21〜24歳(11名)に分けて集計した結果を示す。どのペプチドを加えても苦みは低下した。なかでもコラーゲンペプチドとホエーペプチドが苦みを大きく低減させた。コラーゲンペプチドは多くのパネリストにとってCtよりも好まれる飲料であるという結果となったが、ホエーペプチドはあまり好まれなかった。ゴマペプチドは、ほかのペプチドに比べると苦みをあまり低減しなかったが、パネリストには好まれた。一方大豆ペプチドは苦みを低減したが、強い酸味があったため、多くのパネリストにとって好ましくないという結果となった。
【0021】
〔エキス中のポリフェノールとペプチドとの結合〕
オリーブ葉乾燥粉末に純水を加え、10分間沸騰加熱して抽出したエキス(ポリフェノール濃度500〜8000μM)と500μMのβラクトグロブリン(β−LG)、牛血清アルブミン(BSA)、鶏卵白アルブミン(OVA)、コラーゲンペプチドを混合し、分画分子量3500の透析膜に1日透析した。透析後の膜内の溶液のタンパク質濃度(Lowry法)とポリフェノール濃度(Folin−Ciocalteu法)を測定した。タンパク質1mgあたりに結合するポリフェノール分子の数を算出した結果を図6に示す。コラーゲンペプチドを除く3種のタンパク質においては、ポリフェノール濃度の増加に伴い、結合するポリフェノール分子の数が増加していった。特に、ポリフェノールが多く結合したのはBSAであり、タンパク質1mgに約8千個のポリフェノール分子が結合することとわかった。ポリフェノール分子が結合する割合の高かったのは、BSA>コラーゲンペプチド>OVA、β−LGの順であった。また、タンパク質―ポリフェノール結合曲線の挙動はコラーゲンペプチドだけ他のタンパク質と異なっていた。コラーゲンペプチドにおいてはポリフェノール濃度を増加させていっても結合するポリフェノール分子数は増加しなかった。このことから、分子量18kDa以上のタンパク質と平均分子量4kDaのペプチドでは、ポリフェノールとの相互作用の仕方が異なると考えられた。
【0022】
〔エキス中のポリフェノールとタンパク質の相互作用〕
エキス中のポリフェノールとタンパク質との相互作用があるかをタンパク質のもつ自家蛍光をもとに解析した。120μM ポリフェノール濃度のエキス、100μMの各種タンパク質(β−LG、BSA、OVA)、10mMリン酸buffer(pH7.4)を使って、タンパク質濃度10μM、ポリフェノール濃度を0、2.5、5、10、20、40、80、108μMに調製した。これら溶液の蛍光スペクトルを、励起波長280nmと295nmでそれぞれ測定した。図7および図8にはβ−LGとエキスを含むスペクトルを示す。いずれの励起波長においてもポリフェノール濃度が上昇するにつれてタンパク質の蛍光強度が減少した。この蛍光強度の減少は、タンパク質の蛍光発色団が出す蛍光をエキス中のポリフェノール成分が消光したためと考えられる。励起波長280nmはタンパク質中のトリプトファン(Trp)とチロシン(Tyr)の蛍光を、励起波長295nmはTrpだけの蛍光を検出することから、タンパク質のTrpやTyr残基とポリフェノールは10オングストローム以内の距離で相互作用していると考えられた。なお、BSAやOVAもβ−LGと同様の蛍光スペクトル変化を示した。また、この蛍光強度の減少パターンから見積ったところ、TrpやTyr残基と相互作用するポリフェノール分子の数は、1.2個(β‐LG)、1.5個(BSAとOVA)であった。
【0023】
〔重炭酸ナトリウムおよびアミノ酸によるマスキング法〕
オリーブ葉エキスの渋み・苦味に対する各種添加剤によるマスキング作用を官能検査で検討し、最も効果のある添加物質の選択と適切な添加濃度を求めた。
(結果)
官能検査に用いたエキスは、乾燥オリーブ葉粉末をクエン酸添加で弱酸性(pH 4.5)にした水に投入し、約90℃で10分間加熱処理して得られる濃厚エキスを希釈したもので、希釈後の没食子酸換算ポリフェノール含量を0.40g/L(=0.04%)に設定した。
マスキング作用を検討した添加物は、(1)塩基性アミノ酸(L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−リジン)と(2)重炭酸ナトリウム(重曹)である。検査方法は、希釈したオリーブ葉エキスに上記の物質を種々の濃度加えた試料溶液を調製し、無添加の場合と比較した苦味の程度を、+2(苦味が減った)、+1(苦味が少し減った)、0(変わらない)、−1(苦味が少し増した)、−2(苦味が増した)の5段階でパネラー(5〜11名)に評価してもらい、評価点の平均値(スコア)を求める方法で行った。
【0024】
その結果、(1)を添加した場合は、L−アルギニンとL−リジンでは2g/L(=0.2%)付近、(2)重曹では0.2〜1.0g/L(0.02〜0.10%)で苦味のマスキング効果が見られた(図9参照)。但し、L−アルギニンを更に加えて5g/L以上の濃度にすると、添加物自体の味が顕著になるためスコアは悪化した。これらの塩基性物質を添加すると試料のpHは徐々に上昇し、苦味のマスキング効果がみられた濃度域では、中性から弱アルカリ性になることを確認した(図10参照)。そこで、官能試験のスコアと試料のpHとの相関関係をグラフにしてみたところ(図11)、中性から弱アルカリpHでスコアが改善されていることが明確に示された(但し、L−アルギニンの添加量が多すぎると、L−アルギニン自体の苦味が顕著になるためスコアは低下している)。恐らく、エキス中に含まれる弱酸性成分がpH上昇によって解離し、苦味の低下に関与していると思われる。
以上の結果を総合し、添加量0.2〜1.0g/L(0.02〜0.10%:この時のエキスのpHは6〜7)で苦味のマスキング効果を発揮する重曹が、今回調べた添加物の中では最も適していると判断した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明では、機能性の高いオリーブ葉抽出エキスのマスキング法について、タンパク質・ペプチド、重炭酸ナトリウム及びアミノ酸の効果について検証し、それぞれ苦味のマスキング効果を確認できた。どのマスキング法を使うかは添加する食材に応じて検討する必要があるが、具体的製品化の方向は次のとおりである。
(a)オリーブエキス
エキスに関しては、既存のオリーブ葉エキスと比べて高濃度のオレウロペインを含んだエキスの試作に成功した。コラーゲンペプチドなどによるマスキングを行うことにより、飲料としての製品化が最も近いものと考えられる。また、将来的には、美白効果などの機能性をもとに、化粧品分野への利用についても有用である。
(b)エキス入り食品
オリーブ葉エキスを添加した食品については、パン、パスタ、シフォンケーキ、プリン、ゼリーについて実施し、食味検査を行い、優れた食味を確認できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ葉を抽出処理するにあたり、抽出媒体にクエン酸を添加するオリーブ葉の抽出エキスの製造方法。
【請求項2】
抽出媒体を酸性にすることにより抽出されるポリフェノールの量を増大させる請求項1のオリーブ葉の抽出エキスの製造方法。
【請求項3】
オリーブ葉を乾燥・粉砕した後、水または、クエン酸を含有する水、あるいはペプチドを含有する水を抽出媒体として抽出することを特徴とするオレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のオリーブ葉の抽出エキスの製造方法で製造したオレウロペインを含有するオリーブ葉の抽出エキス。
【請求項5】
請求項4記載のオリーブ葉の抽出エキスの渋み・苦味をマスキングするために、該エキスの抽出媒体にペプチド、重炭酸ナトリウム、およびアミノ酸から選ばれた1種または2種以上を添加するオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
【請求項6】
オレウロペインを含有するオリーブ葉の抽出エキスの渋み・苦味をマスキングするために該エキスに添加されるペプチド、重炭酸ナトリウム、およびアミノ酸から選ばれた1種または2種以上からなるオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
【請求項7】
ペプチドがコラーゲンペプチド、ホエーペプチド、ゴマペプチドおよび大豆ペプチドから選ばれた1種または2種以上であり、アミノ酸が塩基性アミノ酸から選ばれた1種または2種以上である請求項6に記載のオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
【請求項8】
塩基性アミノ酸がL-アルギニン、L-リジンおよびヒスチジンから選ばれた1種または2種以上である請求項6に記載のオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
【請求項1】
オリーブ葉を抽出処理するにあたり、抽出媒体にクエン酸を添加するオリーブ葉の抽出エキスの製造方法。
【請求項2】
抽出媒体を酸性にすることにより抽出されるポリフェノールの量を増大させる請求項1のオリーブ葉の抽出エキスの製造方法。
【請求項3】
オリーブ葉を乾燥・粉砕した後、水または、クエン酸を含有する水、あるいはペプチドを含有する水を抽出媒体として抽出することを特徴とするオレウロペインを含むオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のオリーブ葉の抽出エキスの製造方法で製造したオレウロペインを含有するオリーブ葉の抽出エキス。
【請求項5】
請求項4記載のオリーブ葉の抽出エキスの渋み・苦味をマスキングするために、該エキスの抽出媒体にペプチド、重炭酸ナトリウム、およびアミノ酸から選ばれた1種または2種以上を添加するオリーブ葉抽出エキスの製造方法。
【請求項6】
オレウロペインを含有するオリーブ葉の抽出エキスの渋み・苦味をマスキングするために該エキスに添加されるペプチド、重炭酸ナトリウム、およびアミノ酸から選ばれた1種または2種以上からなるオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
【請求項7】
ペプチドがコラーゲンペプチド、ホエーペプチド、ゴマペプチドおよび大豆ペプチドから選ばれた1種または2種以上であり、アミノ酸が塩基性アミノ酸から選ばれた1種または2種以上である請求項6に記載のオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
【請求項8】
塩基性アミノ酸がL-アルギニン、L-リジンおよびヒスチジンから選ばれた1種または2種以上である請求項6に記載のオリーブ葉の抽出エキスのマスキング剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−125301(P2011−125301A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289078(P2009−289078)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本特許出願は、国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19、20年度四国経済産業局 地域資源活用型研究開発事業“小豆島オリーブ葉機能性高濃縮エキスの開発”)に係るもので、産業技術力強化法第19条の適用を受ける。
【出願人】(592167411)香川県 (40)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(399059061)株式会社ヤマヒサ (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本特許出願は、国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19、20年度四国経済産業局 地域資源活用型研究開発事業“小豆島オリーブ葉機能性高濃縮エキスの開発”)に係るもので、産業技術力強化法第19条の適用を受ける。
【出願人】(592167411)香川県 (40)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(399059061)株式会社ヤマヒサ (1)
【Fターム(参考)】
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