説明

ポリマー及び帯電ナノ粒子からなるマイクロカプセルを製造する方法

中空ナノ粒子を作るための方法であって、ステップa)電荷を有する高分子電解質を所定量与えること;ステップb)少なくとも2の原子価を有する対イオンを所定量与えること;ステップc)、高分子電解質が自己組織化して球状凝集体を形成するように溶液中で高分子電解質と対イオンとを結合させること;ステップd)ナノ粒子が球状凝集体のまわりに自己配列するようにナノ粒子を溶液に添加すること、を有する。高分子電解質は正又は負の電荷を有する。高分子電解質の全電荷に対する対イオンの全電荷の電荷比Rは1.0よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ビルディングブロックとしてナノ粒子を、構造指向剤として高分子電解質を利用して良好な構造の(well-structured)材料を製造するための新規な方法を提供する。より詳しくは、多価の対イオン存在下で逆帯電した高分子電解質により無機ナノ粒子を帯電駆動組織化させることで、球状又はその他の形状を有するマイクロシェル又はマイクロカプセルを形成する。
【0002】
発明の背景
階層的に整列した無機構造を合成することは、触媒、分離技術及び材料化学を含む様々な分野で潜在的な関心を引いている。特に、近年注目されているのは、制御された形態を有するナノ粒子を、有機物の超構造体(superstructures)を用いて組織化することである。この方法は、「ナノテクトニクス(nanotechtonics)」と呼ばれ、ナノビルディングブロックをバイオインスパイアード(bioinspired)に合成及び組織化することに基づく新規なアプローチを有しており、制御された粒度、形状、配向及び多形の構造を備えた複雑な構造のデザインを可能にする。界面活性剤、ポリマー及び生体分子に由来する様々な有機テンプレートが、無機材料成長のテンプレートとして用いられている。有機テンプレートの組織化の特異性、安定性及び程度も、結果として得られる材料の形態を制御するレベルを決定づける上で重要であることが見出された。この超分子組織化からは、球状、多孔性、繊維性及び管状のような多種多様な粒子構造及び形状が出現している。
【0003】
中空球を製造することは多大な関心を引いている。というのは、こうしたマイクロシェルには、密閉反応容器、触媒、吸着、生体分子分離、ドラッグデリバリープロセス、食品、化粧品、及び絶縁体のような様々な領域での用途が見出され得るカプセル化特性があるためである。ナノ粒子の組織化を用いて中空球を形成することの実現性が近年実証されている。Caruso et al.が示しているのは、サブミクロンのポリスチレン粒子上に帯電無機粒子及び高分子電解質を層ごとに組織化させ、引き続いてか焼して犠牲コア粒子(sacrificial core particles)を除去して中空球を得ることができるというものである [Caruso et al., 1998]。Dong et al.は、ナノゼオライト(シーズ(seeds))でコーティングされたメソ孔シリカ球を気相輸送処理(vapor-phasetransport treatment (VPT))によって、中空のゼオライトカプセルを生成している[Dong et al., 2002]。VPT処理中のアミン蒸気の影響を受け、メソ孔シリカコアを完全に消費することによって表面上のシーズが成長したため、成長したゼオライト結晶上に形成された中空球状シェルが生成された。
【0004】
中空球を形成するためのテンプレートとしての二重層中に組織化する界面活性剤分子からなる小胞を用いる例もある。また、こうした球状の二重層シェルはドラッグデリバリーのために検討されているが、堅牢性に欠ける[Zasadzinski et al., 2001]。金属アルコキシド前駆体[Hubert et al., 2000; Jung et al., 2000] 及びポリマー[Hotz and Meier, 1998]を用いて小胞及び小胞凝集体をテンプレートにすることが、特定の界面活性剤に関して可能であることが示されている。興味深いことに、サブミクロンの球は、完全なシェルを形成する代わりに小胞上にラフト(rafts)を形成することが見出されたが、これは、さらに小さいナノ粒子による小胞をテンプレートとして用いるには好ましくない意味合いをもつ[Aranda-Espinoza et al., 1999]。
【0005】
また、自己組織化とは別の、従来の方法もある。その方法では、大きな粒子(サブミクロン/ミクロンの直径〜100ナノメートル台(100's of nm))が、全体的にセラミック(又はポリマー)前駆体でコーティングされた後に除去されて、セラミック(又はポリマー)の中空球が残る[Wilcox et al.,1995]。興味深い変形例には、金(Au)ナノ粒子を用いてポリマーシェルをテンプレートにするもの[Marinakos et al., 1999]、ポリマーマイクロ球を用いてポリマーシェル[Lvov et al., 2001]及びチタニアシェル[Zhong et al., 2000]をテンプレートにするものがある。異なるアプローチで、Colvinとその共同研究者が、シリカマイクロ球のオパール構造のポリマーキャストを生成し、シリカを除去し、内部ポリマー壁にセラミック前駆体を付着させてチタニアの中空球を構築した[Jiang et al., 2001]。
【0006】
中空球に至る前述の調製経路には柔軟性があるように見えるが、それらは労働集約的なプロセスになりがちであり、連続して行われる多数のステップが要求される。所望の化合物を中空球内にカプセル化することは、さらに付加的なステップを要求し、どんな調製スキームにおいても所望の化合物の劣化を避ける必要がある。このため、行うことが単純で容易なマイクロカプセル製造方法を提供することが所望されている。
【特許文献1】米国特許出願公開第20030082237号明細書
【非特許文献1】CHA,Spontaneous Formation of Nanoparticle Vesicles from HomopolymerPolyelectrolytes, J.Am,Chem.Soc.,2003,125,8285-8289.
【非特許文献2】MURTHY,Charge-Driven Flocculation of Poly-lysine-Gold Nanoparticle Assemblies Leadingto Holow Microspheres, J.Am.Chem.Soc.,Vol.126, No.16,2004
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、球形状及び非球形状のマイクロシェル(以下マイクロカプセル又はナノ粒子組織化カプセル(nanoparticle-assembled capsules (NACs))とも呼ばれる)の形成をもたらす、自己組織化プロセスに基づいた単純で便利な方法を提供する。好ましい実施例において、本マイクロカプセル製造方法は、正又は負の電荷を有する高分子電解質を与えること、少なくとも2以上好ましくは少なくとも3以上の原子価を有する逆帯電した対イオンを与えること、高分子電解質が自己組織化して球状凝集体を形成するように溶液中で高分子電解質と対イオンとを結合させること、及びナノ粒子が球状凝集体のまわりに自己配列するようにナノ粒子を溶液に添加することを有する。方法は、室温で行われてもよく、さらに高分子電解質を除去して中空球を生成するステップを有してもよい。
【0008】
いくつかの実施例では、最終ステップで、ナノ粒子とナノ粒子が結合した高分子電解質とからなるシェルの、サブミクロン/ミクロン粒度の有機/無機球が生成される。方法は、有機分子、有機フルオロフォア、及び生体分子からなるグループから選択された少なくとも1つの部分によって高分子電解質を官能化することをさらに有し、その官能化はカプセル化ナノ粒子シェルの形成前に生じる。代替的に又は付加的に、ナノ粒子が官能化されてもよい。
【0009】
所定の実施例では、高分子電解質はポリアミンを有する。その他の実施例では、高分子電解質は、溶液中で正電荷を有する任意のポリマーである。
【0010】
好ましくは、対イオンには塩が添加される。塩は、例えば硫化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、EDTA三ナトリウム塩、EDTA四ナトリウム塩、及びそれらの組み合わせのような、カルボン酸塩、硫酸塩及び炭酸塩からなるがそれに限られることのないグループから選択された化合物を有する。その代わり、対イオンは、例えばカルボン酸塩、リン酸塩、硫酸塩又は炭酸塩のような、帯電部分からなるクラウンエーテルであってもよい。
【0011】
所定の実施例では、ナノ粒子はシリカナノ粒子を有する。その他の所定の実施例では、ナノ粒子はコロイド種であり、正に帯電した表面を有する金属、非酸化金属、酸化金属を有してよい。
【0012】
その他の所定の実施例では、高分子電解質は負に帯電し、対イオンは正に帯電し、ナノ粒子は負の表面電荷を有する。
【0013】
また、本発明は、溶液中で正に帯電したポリマー(高分子電解質)に対イオンを与えること、並びに、正に帯電した高分子電解質、対イオン、及びシリカナノ粒子の凝集体を有するシリカナノ粒子及び化合物に溶液を接触させることによって作られる生成物を有する。
【0014】
さらに他の実施例では、対イオンは、ポリマー、デンドリマー、分子イオン、及び金属イオンからなるグループから選択される。特定の実施例では、ポリマーはDNAを有し、及び/又は、ナノ粒子はセラミック粒子を有する。
【0015】
特に、本製造方法によって行われる合成は、中性pH及び周囲条件で行うことができる。金属、酸化金属、非酸化金属、酸化非金属、及びポリマービーズのような様々な無機及び有機ナノ粒子が、それらの帯電高分子電解質との静電相互作用能力に応じて使用可能である。こうして形成されるマイクロシェルは、無機/有機ナノ粒子及び高分子電解質からなるシェル壁を有する球状の形態である。これらの材料の中空のコアは、例えばドラッグデリバリー、パッケージング、触媒、及びセンサのような特定の用途に対して有用で興味深い材料をカプセル化するのに利用可能と思われる。重要なことだが、マイルドな合成条件によって、繊細な有機化合物を劣化させることなくカプセル化することができる。また、合成プロセスは、経済的かつ環境的に好適に修正可能である。
【0016】
本方法は、帯電ポリマーが、多価対イオンと相互作用してこのポリマーの自己組織化がもたらされ、引き続き無機/有機ナノ粒子の組織化のテンプレートとなり中空球が形成される直接的で有効な合成経路を提供する。本方法により、(中空マイクロ球に関する方法[M.S.Wong, J.N.Cha, K.-S.Choi, T.J.Deming, and G.D.Stucky,"Assembly of Nanoparticles into Hollow Spheres Using BlockCopolypeptides,"Nano Lett. 2,583-587(2002); J.N.Cha, H.Birkedal,M.H.Bartl, M.S.Wong, and G.D.Stucky, "Spontaneous Formation ofNanoparticle Vesicles from Homopolymer Polyelectrolytes,"J.Am.Chem.Soc.125,8285-8289(2003); J.N.Cha, M.H.Bartl, M.S.Wong, A.Popitsch,T.J.Deming, and G.D.Stucky, "Microcavity Lasing from Block PeptideHierarchically Assembled Quantum Dot Spherical Resonators," Nano Lett.3,907-911(2003); V.S.Murthy, J.N.Cha, G.D.Stucky, and M.S.Wong,"Charge-driven Flocculationof Poly-L-lysine-Gold Nanoparticle AssembliesLeading to Microshell Formation," J.Am.Chem.Soc.126,5259-5299(2004); 米国特許出願公開第20030082237号明細書]で必要となる)高価な金ナノ粒子又は量子ドットを使用することなく中空又は非中空のマイクロ球を調製することが可能となる。本発明によれば、所定の濃度及びpH値(表2)において様々なタイプの多座配位子対イオン(multidentate counterions)を添加することによって、ポリアミン又はその他の高分子電解質の凝集が有効に制御される。そして、これにより、広範囲なpH値における及び周囲反応条件におけるナノ粒子の自己組織化を通じて中空球がテンプレートにより自発的に得られる。
【0017】
本発明により調製されたマイクロシェルは、例えばドラッグデリバリー、化学物質貯蔵、汚染廃棄物除去、遺伝子治療、触媒、化粧品、(磁気共鳴イメージングでの使用のための)磁気造影剤、及び磁気光学エレクトロニクスのような、様々な領域での潜在的な用途を有する。ビルディングブロックとして多孔性ナノ粒子から作られたマイクロシェルは、低誘電率材料、絶縁体、触媒、分離膜、及びフォトニックバンドギャップ材料として用いることも可能である。強調すべきことは、上記用途の多くに対して、本合成方法は、所定の用途に依存する例えば媒体のpHや温度等のような所望の反応条件を満たす柔軟性を提供するということである。
【0018】
すなわち、本発明は、従来の方法の様々な問題の克服を可能にする特徴及び利点の組み合わせを有する。上述の様々な特徴及びその他の特徴は、添付の図面を参照して以下の本発明の好ましい実施例の詳細な説明を読めば当業者にとって容易に理解できるだろう。
【0019】
本発明の好ましい実施例のさらに詳細な説明のため、添付の図面が参照される。
【0020】
好ましい実施例の詳細な説明
本発明は、幅広い反応パラメータ範囲内で、整列した中空若しくは中実の球又は非球形状物を合成するための単一ステップの方法を提供する。本発明は、行うことが極めて単純であり、構造デザイン及び材料組成の面で大きな柔軟性を許容し、環境的かつ経済的に無害である。結果として得られた凝集体粒子中に多種多様な化合物をカプセル化することが可能なため、広範な用途が実現可能となる。本方法は、帯電した高分子電解質の溶液に対イオンを添加して、高分子電解質を対イオンとともに凝集体に自己組織化させることを伴う。選択された単数又は複数の対イオンが、全ての高分子電解質電荷に対する全ての対イオン電荷の所望比を生成するのに十分な濃度の高分子電解質溶液に添加され、それによって球状凝集体が形成される。次に、所定のタイプのナノ粒子のゾル(懸濁液)が同じ溶液に添加されて、このナノ粒子は球状凝集体のまわりに自己組織化する。ナノ粒子は、凝集した高分子電解質に浸透し及び/又は凝集した高分子電解質をカプセル化する。
【0021】
正に帯電した高分子電解質は、直鎖構造又は分岐構造を備える異なる鎖長のポリペプチド、ポリアミド、及びポリアミンからなるグループから選択された化合物(例えば、ポリリジン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン)を有する。この実施例では、対イオンは、負に帯電しているのが好ましく、負の電荷を有するカルボン酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、アミノカルボン酸塩、ペプチド、ポリペプチド、コポリペプチド及びポリマー(例えばポリアスパラギン酸及びポリグルタミン酸)からなるグループから選択された化合物を有する。または、高分子電解質が負に帯電し、対イオンが正に帯電して、ポリアミンのようなカチオン性の対イオンを有するのも好ましい。この実施例では、負に帯電した高分子電解質は、ポリペプチド、ポリ酸及びポリスチレンスルホン酸又はその誘導体からなるグループから選択された化合物を有してもよい。適切なコポリペプチドは20の天然アミノ酸(リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、及びシステイン)から誘導されてもよい。また、ポリペプチドとポリマーとの組み合わせが用いられてもよい。
【0022】
好ましくは、高分子電解質及び対イオンは、ポリマーに起因する全電荷に対する溶解塩に起因する全電荷の、全体的な電荷比Rが、1.0よりも大きく、好ましくは2よりも大きく、さらに好ましくは3よりも大きく、及び状況に応じて約1.0になるように選択されて与えられる。高分子電解質が正に帯電している場合、Rは、R=[アニオン]×|z-|/[ポリマー]×|z+|で表すことができる。ここで、[アニオン]及び[ポリマー]は、全濃度を表し、z-はアニオン当たりの負電荷、及びz+はポリマー鎖当たりの正電荷である。電荷が蓄えられる実施例では、高分子電解質は負に帯電し、対イオンはカチオンであり、R=[カチオン]×|z+|/[ポリマー]×|z-|である。
【0023】
好ましくは、高分子電解質は、水、又は高分子電解質と対イオン前駆体との両方を溶解可能なその他の任意の溶媒に溶解している。合成は、主として溶媒によって制限される、広い範囲の温度にわたって行われる。すなわち、いくつかの実施例では、好ましい温度範囲は0℃から100℃の間、より好ましくは20℃から85℃の間である。以下でより詳しく説明するが、溶液のpHは、凝集率及び結果として得られるマイクロカプセルの構造に影響を与える。
【0024】
ナノ粒子は、シリカであってよく、例えば、正/負の表面電荷を有する金、白金、パラジウム、銅、銀、ロジウム、レニウム、ニッケル、及びイリジウムのようなコロイド状金属、例えば、正/負の表面電荷を有するプラチナ/イリジウムのような金属合金、例えば、正/負の表面電荷を有するII-VI、III-V、及びIV族の量子ドットのような非酸化金属、又は、例えば、正/負の表面電荷を有する酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化タングステン、酸化セリウム、酸化アンチモン及び酸化シリコンのような酸化金属を有してよい。その他の実施例では、ナノ粒子は、例えば、ケギンイオン及びヘテロポリメタレートのような分子クラスターを代替的に有してもよく、また、例えばポリスチレン及びポリピロールのような架橋ポリマーからなる有機物であってもよい。
【0025】
さらにその他の実施例では、シリカナノ粒子を、例えばポリアクリル酸及びポリスチレンスルホン酸のような、同じく帯電した直鎖ポリマーで置き換えて、静電相互作用によってマイクロカプセル構造を形成してもよい。
【0026】
また、ナノ粒子は、例えばデキストランのような無帯電のポリマーの形態で与えて、マイクロカプセル構造を形成してもよい。この実施例では、静電相互作用よりもむしろ水素結合及び/又は疎水性相互作用の方が、ポリリジン塩凝集体への無帯電ポリマーの吸着を促進する。
【0027】
また、ナノ粒子が組織化してそのように形成されたマイクロカプセルを、ビルディングブロックとして用いてさらに組織化させて、階層的な中空球構造を作ることもできる。また、階層的な構造は、同じ又は異なるポリマー、対イオン及びナノ粒子から作られたマイクロカプセルを有してもよい。
【0028】
対象となる化合物は、ナノ粒子の添加の後にポリマー・対イオン凝集体に添加されることによってカプセル化され、この化合物は形成されたマイクロカプセルのコアに含まれるか、マイクロカプセルのシェル内に含まれるか、又はマイクロカプセルの内/外表面に結合する。カプセル化するためのその他の方法は、対イオン添加前にポリマー溶液に化合物を添加し、ナノ粒子添加後に化合物を添加することを有する。
【0029】
マイクロカプセルにカプセル化された化合物は、生化学反応のための酵素、及びセンサー又は指示薬として使用するための有機色素からなるグループから選択してよい。または、例えば磁気データ記憶用途のためのフェロ流体に見出されるような磁性ナノ粒子がカプセル化されてもよい。
【0030】
マイクロカプセルの調製は、有機分子、付加的ナノ粒子、及び無機コーティングを用いた球表面の後処理を有してもよい。
【0031】
本合成方法は、成分を互いに混合接触状態にすることが可能な反応器、例えばマイクロ流体装置若しくはエアロゾル反応器のような流動型反応器、又はその他の任意のタイプの反応器で行われてもよい。マイクロカプセルの調製は、化学プロセスが「グリーン」及び環境に優しいための多くの要求を満たし、調製方法の大規模化が可能である。それは、3つの成分を順次一緒に混合することによって、室温で、大気圧で、水中で、及びマイルドなpH値で行うことができる。成分をナノスケールで混合する方法を制御することは、マイクロカプセルの粒度、粒度分布、及び形状を調整するための付加的なアプローチである。
【0032】
所定の実施例では、クエン酸三ナトリウム又はEDTAの三/四ナトリウム塩の存在下で、ポリアミンが構造指向剤として使用される。好ましくは、ポリアミンは、所定の濃度で水に溶解される。所望の電荷比を生成するのに十分な濃度のポリアミン溶液に、選択された塩の溶液が添加され、対イオンがポリアミンの自己組織化の仲立ちをして凝集体が形成される。凝集体は球状で始まるが、凝集が長々と進行することが許容される場合には非球状になる。所望の球状又は非球状の凝集体が形成されると、シリカなの粒子のようなナノ粒子が、凝集体の中に及び又はまわりに添加されて自己配列する。
【0033】
本方法によるマイクロカプセルの形成は、FITC標識PLLを使用した光学及び共焦点の顕微鏡観察を用いてモニターされた。中空球形成のために提案された1つのメカニズムが図1に概略的に示されている。そこに示されているように、ポリマーは、EDTAの添加に基づいて球状凝集体を形成すると考えられる。次に、球状凝集体は、SiO2ナノ粒子の添加に基づいて、内周及び外周が明確に画定されたマイクロカプセル構造をもたらす。マイクロカプセルの形成にはポリマー凝集体が必要である。これは、SiO2ナノ粒子をPLL溶液と組み合わせることによってランダムな構造の凝集体が結果的に得られた陰性対照実験(negativecontrol experiment)によって確認されている。マイクロカプセルは、コア内部及びシェル壁内部にPLLが配置されており、正に帯電したポリマー鎖には、負に帯電したSiO2ナノ粒子が点在する。
【0034】
合成のためにテストされた様々な対イオンを表1に示す。これらの実施例では、結果として得られた生成物は、サブミクロン/ミクロン粒度の有機/無機の球を有し、シェルは比較的厚く、ナノ粒子、及びナノ粒子を一緒に保持するポリアミン分子からなる。ほとんどの場合、有機ポリアミンは、シェル壁に付着する球の内側に残存し、完全に又はほぼ完全に中空の無機球を生成するために除去される。その他の有機物をカプセル化するため、ポリアミンは、カプセル化のためのナノ粒子シェルが形成される前に、有機分子、有機フルオロフォア、生体分子等によって官能化される。
【0035】
または、ナノ粒子自体が、球の外表面に活性種を有するように官能化される。ナノ粒子は、所定の対イオンを添加することによって、カチオン性/アニオン性のポリマーで官能化されてもよい。または、ナノ粒子は、疎水性又は親水性の表面を与える分子によって官能化されてもよい。
【0036】
例えば棒状、三角状、及び六角状のような球以外の形状を備えるナノ粒子を使用してもよく、ナノ粒子の組み合わせも同様に使用してよいが、ナノ粒子は、1〜100nmの直径を有するのが好ましく、球状であるのが好ましい。
【0037】
本方法によって作られたマイクロカプセルに見られる厚いマイクロカプセルのシェル壁は、1ナノ粒子厚さ(〜12nm)のシェル壁が得られるはずのポリマー凝集体まわりへのSiO2ナノ粒子のラングミュア型吸着と矛盾する。我々が提案するのは、ポリマー凝集体の外の表面にナノ粒子が浸透するということと、浸透深さがシェルの厚さを決定するということである。これは、より大きな粒子と比べて、より小さな粒子ほどより深くポリマー凝集体に拡散するという推測に基づく。実際、ケイ酸調製物中に含まれるオリゴマーシリケートのクラスター(〜1nm)でSiO2粒子を置換すると、より厚いシェルを有する球、及び中実のシリカコアを有する球さえも得られた。
【0038】
通常は、PLL及びPAH(ポリアリルアミン塩酸塩)(表2)に見られるように、アニオン中の結合部位の最小数が要求される。興味深いことに、2価のカルボン酸塩アニオン(例えば、コハク酸及びマロン酸)及び硫酸塩アニオンは、PLLに凝集を生じさせなかったが、PAHには凝集を生じさせた。凝集プロセスが、ポリマー及び対イオンの分子構造に影響を与え易いようである。ポリアミンは、本方法に使用に好適である。合成媒体のpHがポリアミンのpKa値(〜9.5-11)よりも低い限りにおいて、ポリ(L-アルギニン)及びポリ(エチレンイミン)のようなその他のポリアミンが、クエン酸塩アニオンによって凝集体を形成した。凝集は、広い範囲のポリマー分子量(10-250kDa)にわたって生じ、鎖が長ければ長いほどポリマー凝集体も長くなる。
【0039】
ポリマー凝集に対する溶液のpHの重要性は、様々なクエン酸塩と比較することによって見出される。同じR比では、三ナトリウム塩及びニナトリウム塩がPLL凝集体を生じた(表2)。これらの懸濁液のpH値は5よりも上であり、酸/塩基平衡計算によると、クエン酸塩はほとんどがHcit2-種及びcit3-種の形態であった。他方、クエン酸塩アニオンが5よりも低いpH値でH3cit種及びH2cit-種の形態であったことが計算によって示されたように、1ナトリウムクエン酸塩及びクエン酸溶液からはポリマー凝集体は得られなかった。このため、溶液のpHが多価アニオンの有効電荷(及びそのための結合部分数)を制御し、ポリマーの凝集は、アニオン性塩及びポリアミンのpKa値によって画定されるpH窓内で進行する。組織化されたマイクロカプセルは、水性の懸濁液のpHを変化させることによって分解/再組織化し得る。
【0040】
マイクロカプセルが架橋高分子電解質及び溶媒で充填される例がある一方、マイクロカプセルがコアから高分子電解質を喪失する例がある。すなわち、マイクロカプセルは、ポリマー及び水で充填される(「充填」マイクロカプセル)か、水のみで充填される(「中空」マイクロカプセル)。さらに、マイクロカプセルは、水又は溶液から除去されて乾燥される。それは、乾燥状態では中空であり、空気又はその他の気体を有する。
【0041】
ポリマー凝集体は、エージング時間に伴い合体によって粒度が増す。ポリマー凝集の力学を理解するために、我々はクエン酸塩架橋PAH凝集体に焦点を当てた(図2a)。凝集体の形成は、クエン酸塩添加の直後であった。PAH溶液の流体力学的直径(hydrodynamic diameter(Dh))は〜110nm(クエン酸塩添加前)及び〜700nm(クエン酸添加後2分)と測定された。比較のため、同じ電荷比(R=10)及びより高い濃度でNaCI溶液を添加したが、PAHの凝集は生じなかった。その代わりに、正に帯電したアンモニアのユニットがクーロン力の遮へいを受けて、PAHは(Dh〜30nm)に収縮した。クエン酸塩とPAHとの架橋は、ポリマー主鎖に結合するCl-の置換によって生じる自由塩化物の濃度の増加を測定することによって追跡され得る。PAHのみの溶液の塩化物電位差測定では、Clの解離曲線の初期勾配に基づいて、全てのCl-のうち26%が解離したこと、及び1つのクエン酸塩分子が〜2.2個のCl-イオンを置換したこと、が示された。ポリマー凝集体は準安定性ではあるが、ナノ粒子付着及びシェル形成が許容されるほど十分に剛性があるようである。様々な時間でエージングした凝集体懸濁液にSiO2ナノ粒子を添加することによって、調節可能な直径のマイクロカプセルが結果的に得られた(図2(c)及び図2(d))。
【0042】
電荷比Rが、塩架橋ポリマー凝集体の形成及び成長の速度を支配することがわかっている。ポリマー凝集はR>1で生じ、これと同時に、クエン酸塩アニオンによってCl-イオンがPAHからほぼ完全に除去される。ポリマー凝集体のゼータ電位は、大きさが減少して最終的には負の値になり、Rの値は増加して、凝集体の外面に結合するクエン酸塩アニオンによって生じる観測電荷の逆転を伴う。凝集体は、帯電が不十分なまま(-10mV<ゼータ電位<+10mV、R=1.2からR=50までの間)であり、相互に及びSiO2ナノ粒子に接触することを妨げる。相互に及びSiO2ナノ粒子に接触することは、それぞれ高速な凝集体の成長及びシェルの形成を可能にする。
【0043】
我々は、このタイプのマイクロカプセル形成を、帯電ナノ粒子及びポリマー分子のタンデム自己組織化と呼ぶ。例えば酸化スズ及び酸化亜鉛のような、その他の酸化金属化合物のナノ粒子も、粒子表面が負に帯電している限りは、カプセル構造を生成するために使用できる(表1)。この条件は、懸濁流体のpHが、酸化金属の電荷ゼロ点よりも高い場合に確保される。興味深いことに、ポリ(アクリル酸)(PAA)及びポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)のような負帯電直鎖高分子電解質もまた、マイクロカプセル構造を生じ、シェル形成のステップにおいてシリカナノ粒子の代わりをするものと推測される(表2)。

【0044】
以下の表2には、PLL(222kDa)又はPAH(70kDa)及びSiO2ナノ粒子からのマイクロカプセル合成に使用された様々なナトリウム塩の形態が挙げられている。全ての実験に対し、電荷比Rは10に維持された。「○」及び「×」はそれぞれ、実験Iで説明される反応条件下で中空球が形成されたか否かを示す。全ての実験に対し、+ve対-veの電荷比は1:4から1:10の間に維持された。



【0045】
ポリマー凝集体はまた、表面に担持されてカプセル状ハイブリッド構造形成のテンプレートとなる。雲母(mica)上に吸着されたクエン酸塩架橋PAH凝集体は、拡散(spreading)により扁平にされた球のように見えるが、SiO2ナノ粒子と接触した後にドーム状のシェルを生じる。
【0046】
水性媒体中でのマイクロカプセルの急速な成長は、例えば、シリカゾルを添加する前にPLL/クエン酸塩懸濁液に所望の積荷(cargo)の溶液を添加することによって、水溶性化合物の容易なカプセル化をもたらす。マイクロカプセルの反応容器としての実現性をテストするために、酸性ホスタファーゼ酵素が、0.15mg/(mgマイクロシェル)の装荷でカプセル化された。結果として得られた球は、フルオレセイン2リン酸、非蛍光性分子を含む溶液に懸濁した。40分にわたり、リン酸塩の酵素切断からフルオレセインが形成されたため、マイクロカプセル内側及びシェル壁内部で蛍光が現れて強度が増した。酵素分子がマイクロカプセル内側、シェル壁内部、又はその両方に配置されている否かを見分けることは不可能であったが、生成されたフルオレセインが、15分後に完全に拡散する前にシェル壁内側及び内部に蓄積していたことが共焦点分析によって明確に示された。激しい混合又は超音波処理によっては、マイクロカプセル構造又は含有酵素の著しい劣化は生じなかった。マイクロカプセルにより、閉じ込められた酵素が保護された環境において作用することが可能になり、反応物及び生成物の分子が透過性シェル壁を通して移送可能となる。
【0047】
上述の好ましい実施例は幅広く変形可能である。いくつかの変形例は、上述されているが、さらには以下の表3に示されている。本発明のさらなる説明は以下の例によって与えられる。



【0048】
例I:ポリ(L-リジン)(222kDa)、クエン酸三ナトリウム及びSiO2ナノ粒子を用いたマイクロカプセル形成
ポリ-L-リジン(MW=222kDa,HBr塩形態)の水性溶液が約2.0mg/mlの濃度で調製された。このポリペプチド溶液21μlが、1.5ml微量遠心管に取られ、それに2.14mMのクエン酸三ナトリウムの水性溶液125μlが添加された後、10秒間渦混合された。溶液の正/負電荷比Rは4だった。動的光散乱法(Dynamic light scattering (DLS))が使用されて、形成された球状凝集体の粒度がモニターされた。DLS分析により、凝集体が、〜1ミクロンの流体力学的直径であることがわかった。シリカ中空球を形成するため、SiO2ナノ粒子(Snowtex O,Nissan Chemicals; 固体重量比20.4wt%,pH3.4, DLSにより測定された直径13±3nm)を含有するゾルが125μlだけ即座に溶液Aに添加して20秒間渦混合した(溶液B)。溶液Aは時々様々な時間でエージングされ、エージングされた溶液Aにシリカゾルをその後添加することによって凝集体粒度の変化、及びシリカ中空球の最終的な粒度へのその影響を見た。溶液Bを30秒間遠心分離した後、透明な沈殿が認められた。光学的顕微鏡の画像で見ると、この沈殿は、中空の中心部を有する球状物体から成ることが認められた。これらのマイクロシェルの粒度は〜2μlだった。クエン酸塩が不在のもと、SiO2ナノ粒子がポリ-L-リジン溶液に直接添加された際、不規則的な形状の大きな塊が形成された。合成が室温で行われ、溶液A及び溶液BのpHはそれぞれ7.19及び4.8であった。粒子の球状形態はSEM画像で明確に認めることができた。例えば単一のディンプルを有する球及び開口部を有する球のような、他のいくつかの形状も観測された。
【0049】
光学的顕微鏡観察が、Zeiss製Axiovertで行われた。粒度分布分析が、BI-9000ATデジタル自己相関器を備えたBrookhaven製ZetaPALS動的光散乱(dynamic light scattering(DLS))装置を用いて656nmの波長で行われた。全ての検討は、90°の散乱角度及び25℃に制御された温度で行われた。粒度分布分析には標準μlキュベットが使用された。走査電子顕微鏡観察(Scanning electron microscopy(SEM))が、インレンズ熱電界放出電子銃を備えるJEOL6500電界放出形顕微鏡で行われた。二次電子画像(Secondary electron image(SEI))が、10.0mmの作動距離を有する15kV電子ビームを用いて取られた。マイクロ球懸濁液は2日間エージングされ、同中性子体溶液で洗浄され、及びイソプロパノールで懸濁された後、イメージングのためのカーボンテープ上に装荷されて空気乾燥された。透過電子顕微鏡観察が、JEOL2010FasTEMシステムで100kVで行われた。
【0050】
例II:FITC結合ポリ(L-リジン)(68kDa)、クエン酸三ナトリウム及びSiO2ナノ粒子を用いたマイクロカプセル形成
メカニズムをよりよく理解するため、色素分子が結合されたポリ-L-リジンが用いられた。FITCが結合されたポリ-L-リジン(MW=68kDa,HBr塩形態)は、水に溶解して2mg/mLの濃度の溶液にした。上記溶液の21μlを有する1.5ml微量遠心管に、2.14mMのクエン酸三ナトリウムが125μl添加された。結果として得られた溶液Aは10秒間渦混合され、次に125μlのSiO2ゾルがそれに添加されて20秒間渦混合された。蛍光光学顕微鏡画像によると、これは、ポリマーに結合した蛍光色素分子により示されているように、ポリマーは、クエン酸塩の添加の後に球形状の凝集体を形成する、ということが示された。シリカゾルの添加後のマイクロシェルは、形が球状であり、シェル壁の内部にポリ-L-リジンが結合している。これによって、シリカナノ粒子がポリマー凝集体のまわりに配列するテンプレートのメカニズムが示される。空のコアの形成は、コアからその表面に向かってポリマーを引きつける、ポリマーとシリカナノ粒子との電荷相互作用の影響であると考えられる。
【0051】
例III:ポリ(L-リジン)(30kDa)、クエン酸三ナトリウム及びSiO2ナノ粒子を用いたマイクロカプセル形成
例Iで説明したのと同じ濃度を用いてポリ-L-リジン(30kDa)/クエン酸三ナトリウム/シリカナノ粒子のシステムから形成されたシリカ中空球は、ポリ-L-リジン(222kDa)を用いて得られたそれよりも小さな粒度だった。
【0052】
例IV:ポリ(L-リジン)(222kDa)、異なる濃度のクエン酸三ナトリウム及びSiO2ナノ粒子を用いたマイクロカプセル形成
シリカ中空球の形成に対するポリ-L-リジン(222kDa)とクエン酸三ナトリウムとの相対比の影響を検討した。表2は、検討された様々な濃度のクエン酸塩とそれに対応する電荷比を示す。全ての試料は、シリカ添加前の凝集体の粒度分布をDLS測定することによってテストされた。凝集体の粒度は初めは、0.01Mクエン酸溶液となるまでのクエン酸塩濃度の増加に伴い増加し、その後減少した。さらに、シリカを添加することによって、0.001-0.1Mの幅のクエン酸塩濃度に対し、中空球の形成が生じる。この範囲外では、不規則な形の小さい凝集体及び大きい凝集体が形成された。
【0053】
例V:異なるpHのクエン酸三ナトリウムを用いた有するポリ(L-リジン)(FITC結合、68kDa)の凝集
中空球形成に対するpHの影響を検討するため、21μlのポリ-L-リジン-FITC(68kD)溶液及び125μlのクエン酸三ナトリウム(2.14mM)に対して、様々な量のNaOH又はHClが添加された。NaOH及びHCl溶液のイオン強度は、ポリ-L-リジンとクエン酸塩との混合物(0.011M)のそれと同じに維持され、塩基又は酸の添加によって最終的なイオン強度が変化しないようにした。所望のpHを維持した後、125μlのシリカゾルが添加された。6〜8の範囲のpHを有する溶液(ポリ-L-リジン-FITC+クエン酸塩+酸/塩基)から、中空球が形成された。この範囲を越えると、観測されたのは不規則な形の凝集体のみであった。
【0054】
例VI:ポリ(L-リジン)(222kDa)、クエン酸三ナトリウムシステム及びSiO2ナノ粒子から誘導されたマイクロカプセルの粒度に対する凝集体エージングの影響
例に示したクエン酸三ナトリウムの添加の後、溶液Aは、1分、30分、及び2時間エージングされ、その後シリカゾルが添加された。顕微鏡観察分析により、これらの溶液から形成された中空球が、試料が長くエージングされるほど大きな直径を有することが示された。
【0055】
例VII:ポリ(アリルアミン)(70kDa)、クエン酸三ナトリウム及びSiO2ナノ粒子を用いたマイクロカプセルの形成
ポリ(アリルアミン)(70kDa)が、クエン酸三ナトリウム溶液及びシリカナノ粒子とともに用いられて中空球が調製された。様々な成分の濃度は、例Iのそれと同じに維持された。光学及びSEMの画像は、中空球、開口のある球、及びディンプルのある球が形成されたことを明確に示す。
【0056】
例VIII:ポリ-L-リジン(222kDa)及び四酢酸エチレンジアミン三-及び四-ナトリウム塩並びにSiO2ナノ粒子を用いたマイクロカプセル形成
EDTA(四酢酸エチレンジアミン)三-/四-ナトリウム塩が、ポリ-L-リジン(222kDa)を集めるための対イオンとして用いられた。塩の濃度は、EDTA三及び四ナトリウム塩に対して、それぞれ5.36mM及び4.02mMであった。その他の全ての濃度及び反応条件は、例Iと同じに維持された。光学画像は、EDTA三-及び四-ナトリウム塩が、シリカ中空球形成に有効であることを示している。
【0057】
例IX:ポリ-L-リジン(222kDa)、トリカルバリル酸及びSiO2ナノ粒子を用いたマイクロカプセル形成
トリカルバリル酸(tricarballylic acid(TCA))のナトリウム塩が、0.161mMのNaOH溶液80μlをTCA(0.0536mM)溶液100μlに添加することによって調製された。次に、結果的に得られた溶液125μlがPLL(222kDa)21μlに添加されて10秒間渦混合された。これに、シリカゾル125μlが添加されて20秒間渦混合された。マイクロ球が形成された。
【0058】
例X:ポリ(L-リジン)(222kDa)及びSiO2ナノ粒子を用いたマイクロカプセル形成
四-アスパラギン酸(Asp-Asp-Asp-Asp)のナトリウム塩が、NaOH(0.1607mM)5μlを0.01839mMのAsp-Asp-Asp-Asp溶液130μlに加えることによって調製された。次に、この溶液125μlが、PLL(222kDa)21μlに添加されて10秒間渦混合された。これに、シリカゾル125μlが添加されて20秒間渦混合され、中空マイクロ球が得られた。
【0059】
例XI:FITC結合ポリ-L-リジン(68kDa)、四酢酸エチレンジアミンの四-ナトリウム塩及びSiO2を用いたマイクロカプセル形成
マイクロカプセルの室温合成が、フルオレセインイソシアネート(FITC)色素に結合されたポリ(L-リジン)(PLL)を用いて説明される。典型的な調製では、FITC-標識PLL溶液(2mg/ml,68kDa,HBr塩)21μlが、四ナトリウム四酢酸エチレンジアミン溶液(Na4EDTA,4.02mM)又はクエン酸三ナトリウム(Na3Cit,5.36mM)125μlと、10秒間静かに混合される。ポリマーの全正電荷に対する、添加された塩の全負電荷の全体的電荷比Rは10である(R=[アニオン]×|z-|/[ポリマー]×|z+|、ここでz-はアニオン当たりの負電荷、及びz+は鎖当たりの正電荷である)。このわずかに濁ったポリマー/塩溶液は、30分間エージングされた後に、シリカゾル(粒子径13±3nm,20wt%SiO2,pH〜4)125μlと20秒間渦混合された。濁り度がすぐに増したのは、マイクロカプセルが形成されたからである。合成したままのコロイドの組織化は球状であり、光学顕微鏡観察画像及びコールターカウンタ粒度測定によれば、主に1〜4μlの粒度範囲を有するコア/シェル形態である。マイクロカプセルの収率は、蛍光分光測定より、ポリマー重量基準で85〜90%と推定される。TGAの結果によれば、マイクロカプセルは、12〜15wt%の範囲の揮発性成分(塩及びポリマーを含む)を有しており 、これらの有機/無機NAC材料がほぼシリカからなることを示している。
【0060】
この例は、ポリマーがより短く、FITCに結合している点を除いては、例1及び例8に類似する。また、pHの変化なしに行われる点を除いては、例5に類似する。
【0061】
例XII:SiO2中空「発芽状態(sprouted)」球の合成
1.61mMのEDTA四-ナトリウム塩溶液125μlが、2mg/mlのFITC(68.6kDa)結合ポリ-L-リジン溶液21μlに添加され、10秒間渦混合された。次に、シリカゾル125μlが添加されて20秒間渦混合され、マイクロシェルが得られた。光学イメージングにより、マイクロシェルの多くは、洋梨形であるか、又は突起若しくは通常の球形状からのその他の逸脱を有していた。これは、様々な形の非球状マイクロシェルも合成可能であることを示す。また、高剪断条件下で懸濁液を混合することによって、本技術を使用してワイヤを作ることも可能と考えられる。
【0062】
本技術は、少なくとも以下を有するさらなる変形例にも極めて応じやすい。
カチオン性ポリマー+負に帯電したナノ粒子
【0063】
変化する鎖長を有し、直鎖構造又は分岐構造を有するポリペプチド及びポリアミンも本技術で使用可能である。カルボン酸塩、リン酸塩及び硫酸塩(例えば、リン酸塩及び硫酸塩のクエン酸塩類似体並びにEDTA)のような様々な官能基を備えるアニオン性対イオンも、それらと共に使用可能であり、負の電荷を有するペプチド、ポリペプチド、コポリペプチド及びその他のポリマー(例えば、アスパラギン酸及びグルタミン酸)のような対イオンも使用可能である。
アニオン性ポリマー+正に帯電したナノ粒子
【0064】
また、直鎖構造又は分岐構造を備える様々なポリペプチド及びポリ酸も使用可能である。金属イオン(Ca2+,Mg2+,遷移金属イオン等)のようなカチオン性対イオンもそれらと共に使用可能であり、正の電荷を有するペプチド、ポリペプチド、コポリペプチド及びポリマー(例えば、リジン及びヒスチジン)のような対イオンも使用可能である。
【0065】
ナノ粒子はまた、酵素、タンパク質、及びウイルス粒子のような球状構造をとる生体分子を有することも可能である。
【0066】
本発明は、極めて簡単で再現性がある技術を与え、有機/無機ハイブリッド材料を生成する。合成は、周囲反応条件で行われてよく、塩/ポリマー溶液をナノ粒子懸濁液と混合する迅速なワンステップ合成となり得る。同様に、合成は、広いpH幅でワンポット(one pot)で行うことができ、ラテックス粒子又はその他の犠牲コア材料が必要とされることがない。本発明により生成されたハイブリッド材料は、望ましいカプセル化特性を有している。というのは、目標化合物が、マイクロカプセルの形成中に容易にカプセル化されるからである。マイクロカプセルの構造は制御可能であり(シェル厚み、水充填又はポリマー充填、直径)、さらに、どの程度の量がカプセル化されるか及びどのように含有化合物がマイクロカプセルから放出されるかを制御することにもつながる。本マイクロカプセルは、ラテックス粒子のような犠牲テンプレートによって生成されたマイクロシェルよりも頑丈である(というのは後者はシェルがより薄いからである)。それはまた、小胞のような有機中空球よりも安定性がある。小胞もまた、目標化合物をその形成中にカプセル化することが可能ではあるが、それは水から取り出されるとそのままに維持されることがなく、非常に薄いシェル壁を有する。最後に、本プロセスは、ナノ粒子に基づく中空球を調製するための他の方法よりもはるかに経済的である。
【0067】
以下の特許請求の範囲では、ステップの順次的な記述は、明示的に述べられていない限り、ステップが順次に行われること、又は1つのステップが別のステップが始まる前に完了されること、を要求するものとして意図したものではない。
【0068】
本発明の好ましい実施例が示され説明される一方、その変形が、本発明の範囲を逸脱せずに当業者によって行われることが可能である。本明細書で説明された実施例は例示にすぎず、限定するものではない。したがって、保護の範囲は、本明細書で説明された実施例に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲は、特許請求の範囲の対象の全ての均等物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】提案された形成メカニズムの概略図である。
【図2】本方法によって形成された凝集体のエージング時間及び電荷比の影響を示すプロット図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空ナノ粒子を作るための方法であって、
ステップa)電荷を有する高分子電解質を所定量与えること;
ステップb)少なくとも2の原子価を有する対イオンを所定量与えること;
ステップc)高分子電解質が自己組織化して球状凝集体を形成するように、ナノ粒子が実質的に存在しない溶液中で高分子電解質と対イオンとを結合させること;
ステップd)ナノ粒子が球状凝集体のまわりに自己配列するようにナノ粒子を溶液に添加すること、
を有する方法。
【請求項2】
対イオンは少なくとも3の原子価を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高分子電解質の全電荷に対する対イオンの全電荷の電荷比は1.0よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)〜c)は、合成溶液のpH≦高分子電解質のpKaとなるように行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
無機中空球を生成するために高分子電解質を除去するステップをさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップd)は、シェルがナノ粒子とナノ粒子が結合した高分子電解質分子とからなるサブミクロン又はミクロンの粒度の有機/無機球を生成するように行われる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
高分子電解質は、有機分子、有機フルオロフォア、及び生体分子からなるグループから選択された少なくとも1つの部分によって官能化される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ナノ粒子は官能化される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
高分子電解質はポリアミンを有する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
高分子電解質は溶液中で正電荷を有する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
カルボン酸塩、硫酸塩及び炭酸塩からなり、硫化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、EDTA三ナトリウム塩、EDTA四ナトリウム塩、及びそれらの組み合わせを有するグループから選択された少なくとも2つの塩の形態で対イオンが与えられる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ナノ粒子は、金属、酸化金属、非酸化金属、有機粒子、直鎖ポリマー、生体分子、フラレノール又は単一/多重壁カーボンナノチューブを有する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ナノ粒子はシリカナノ粒子を有する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ステップc)及びd)の少なくとも1つは室温で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
高分子電解質は溶液中で負電荷を有する請求項1に記載の方法。
【請求項16】
帯電した高分子電解質は、直鎖構造又は分岐構造を備える異なる鎖長を有するポリペプチド及びポリアミンからなるグループから選択された化合物を有する請求項1に記載の方法。
【請求項17】
対イオンは負に帯電しており、アスパラギン酸及びグルタミン酸を有する、負の電荷を有するカルボン酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ペプチド、ポリペプチド、コポリペプチド、及びポリマーからなるグループから選択された化合物を有する請求項1に記載の方法。
【請求項18】
対イオンは正に帯電しており、リジン及びヒスチジンを有する、正の電荷を有するペプチド、ポリペプチド、コポリペプチド、アミン、ポリアミン、及びポリマーからなるグループから選択された少なくとも1つのカチオン性対イオンを有する請求項1に記載の方法。
【請求項19】
対イオンは、ポリマー、デンドリマー、分子イオン、及び金属イオンからなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ナノ粒子が実質的に存在しない溶液中で、正に帯電したポリマーを対イオンに結合させて、結果として得られた結合物をシリカナノ粒子と接触させることによって作られた生成物。
【請求項21】
マイクロカプセルの粒度は500〜5000nmの範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項22】
マイクロカプセルの粒度は100〜500nmの範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項23】
マイクロカプセルの粒度は5000〜50000nmの範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項24】
ステップc)で形成された対イオン架橋ポリマー凝集体を、ナノ粒子の添加前に10時間までエージングすることをさらに有する方法。
【請求項25】
形成されたマイクロカプセルは、水充填、ポリマー充填、又は気体充填である請求項1に記載の方法。
【請求項26】
帯電したポリマー、対イオン、及びシリカナノ粒子を有する化合物であって、
帯電したポリマー及び対イオンは、ナノ粒子が実質的に存在しない溶液中で結合されて球状凝集体を形成し、結果として得られた結合物は、シリカナノ粒子が球状凝集体上で組織化するようにシリカナノ粒子と結合される化合物。
【請求項27】
帯電した高分子電解質は、直鎖構造又は分岐構造を備える異なる鎖長を有するポリペプチド、コポリペプチド、ポリ酸、ポリスルホン酸、及びポリアミンからなるグループから選択された化合物を有する請求項26に記載の化合物。
【請求項28】
対イオンは負に帯電しており、アスパラギン酸及びグルタミン酸を有する、負の電荷を有するカルボン酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ペプチド、ポリペプチド、コポリペプチド及びポリマーからなるグループから選択された化合物を有する請求項26に記載の化合物。
【請求項29】
対イオンは正に帯電しており、リジン及びヒスチジンを有する、正の電荷を有するペプチド、ポリペプチド、コポリペプチド及びポリマーからなるグループから選択された少なくとも1つのカチオン性対イオンを有する請求項26に記載の化合物。
【請求項30】
対イオンは、ポリマー、デンドリマー、分子イオン、及び金属イオンからなるグループから選択される請求項26に記載の化合物。
【請求項31】
マイクロカプセルの粒度は500〜5000nmの範囲にある請求項26に記載の化合物。
【請求項32】
マイクロカプセルの粒度は100〜500nmの範囲にある請求項26に記載の化合物。
【請求項33】
マイクロカプセルの粒度は5000〜50000nmの範囲にある請求項26に記載の化合物。
【請求項34】
形成されたマイクロカプセルは水充填又はポリマー充填のコアを有する請求項26に記載の化合物。
【請求項35】
ナノ粒子は、金属、酸化金属、非酸化金属、有機粒子、直鎖ポリマー、生体分子、フラレノール及び単一/多重壁カーボンナノチューブからなるグループから選択された少なくとも1つの材料を有する請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−514519(P2007−514519A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536737(P2006−536737)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/034664
【国際公開番号】WO2005/057163
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(501105635)ウィリアム・マーシュ・ライス・ユニバーシティ (26)
【Fターム(参考)】