説明

マイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物

マイクロエレクトロニクス洗浄用組成物であって、a)当該組成物の約80重量%〜約99重量%の少なくとも1つの有機スルホンと;b)当該組成物の約0.5重量%〜約19重量%の水と;c)当該組成物の約0.5重量%〜約10重量%のテトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分とからなり、d)任意で、少なくとも1つの多価アルコールを含む、組成物は、Si系反射防止コーティングと低k誘電体の両方を有するマイクロエレクトロニクス基板またはデバイスからエッチング/アッシング残渣を洗浄する際に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、プラズマエッチング後またはエッチング/アッシング後の残渣ならびにシリコン系反射防止コーティングを除去してマイクロエレクトロニクス基板を洗浄する際に有用な組成物であって、さらにそのような能力を有する一方でアルミニウム、銅および低k誘電体、特に多孔質低k誘電体と親和性を有する組成物に関する。特に、本発明は、実質的に溶媒系の除去剤組成物を提供するとともに、マイクロエレクトロニクス基板を洗浄する方法ならびにそのような組成物を用いたデバイスも提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
半導体デバイスは、無機基板をフォトレジストでコーティングする工程と;フォトレジスト膜を露光した後に現像してパターン化する工程と;無機基板の露光領域をパターン化したフォトレジスト膜をマスクとして用いてエッチングし、微細回路を形成する工程と;パターン化したフォトレジスト膜を無機基板から除去する工程により製造されている。代替的には、上記と同様に微細回路を形成した後に、パターン化したフォトレジスト膜をアッシングし、その後に残ったレジスト残渣を無機基板から除去する。
【0003】
回路線の微細化とともに、それを得るために用いるリソグラフィーの高度化(例えば、193nm、ArF)が進むにつれ、限界寸法(CD)の調節と、高画質維持のために反射防止コーティングが必要とされてきた。それゆえ、最近では、Si系スピンオン反射防止コーティングの役割はパターン転写を担う程度まで広がってきた。そのようなスピンオンSi系反射防止コーティングを使用する利点としては、一般に、少なくとも以下の2つが挙げられる:容易に平坦化可能であること、および193nmリソグラフィーでArFとともに用いる必要があるフォトレジストと化学組成が十分に異なるためにドライエッチング時の高解像度パターン転写が容易になること。しかしながら、ドライエッチング工程後に、下側にある誘電体層または施した金属被覆のいずれも損傷することなく、あらゆるフォトレジストまたはフォトレジスト残渣および残った反射防止コーティングを除去することが必要である。
【0004】
それゆえ、下側にある誘電体層またはマイクロエレクトロニクスデバイスの金属被膜を損傷することなく、エッチング/アッシング残渣、フォトレジストおよび反射防止コーティングを除去する洗浄用組成物を提供することが必要とされる。本質的に化学的に類似した材料である、下側にある低k誘電体層、特に、多孔質低k誘電体層を損傷することなく、さらには、マイクロエレクトロニクスデバイスの、特に、銅またはアルミニウム被膜等の金属被膜を損傷することなく、エッチング/アッシング残渣、フォトレジストおよびSi反射防止コーティングを除去する洗浄用組成物を提供することは特に好ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要旨
本発明の残渣除去洗浄用組成物は、酸性のテトラフルオロホウ酸塩含有溶媒系組成物である。これらの組成物は、pHが3以下であり、約80重量パーセント〜約99重量パーセントのスルホン溶媒、約0.25重量パーセント〜19重量パーセントの水、テトラフルオロホウ酸塩イオン(BF4 ̄)を提供する約0.25重量パーセント〜10重量パーセントの少なくとも1つの成分を含有する。上記組成物は、キレート剤、多価アルコール、界面活性剤および酸を含有してもよい。本発明の組成物は、特に、Si含有反射防止コーティングを含有し、下側に低k誘電体層、特に、任意の多孔質低k誘電体層を有するマイクロエレクトロニクス基板から、マイクロエレクトロニクス基板の洗浄によりエッチング/アッシング残渣を除去するために用いてもよい。マイクロエレクトロニクス基板またはデバイスの洗浄を行うために、マイクロエレクトロニクス基板またはデバイスを本発明の組成物に対して、そのような洗浄を達成するために十分な時間と温度で接触させる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の詳細な説明
本発明の残渣除去洗浄用組成物は、酸性のテトラフルオロホウ酸塩を含有する有機スルホン溶媒系組成物である。これらの組成物は、pHが3以下であり、約80重量%〜約99重量%の少なくとも1つのスルホン溶媒、約0.25重量%〜約19重量%の水および約0.25重量%〜約10重量%のテトラフルオロホウ酸塩イオン(BF4 ̄)を提供する少なくとも1つの成分を含有する。
【0007】
本発明の組成物に任意の適切な有機スルホンを用いてもよい。適切なスルホン類としては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジフェニルスルホン、2−(メチルスルホニウム)エタノール、メチルフェニルスルホン、エチルフェニルスルホン、ジブチルスルホン、ジベンジルスルホン、およびテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド(スルホラン)が挙げられるがそれらに限定されない。好ましいのはスルホランである。本発明の洗浄用組成物中に存在するスルホン成分の量は、一般に、この組成物の約80重量%〜約99重量%、好ましくは、約85重量%〜約95重量%、より好ましくは、約89重量%〜約93重量%の範囲である。
【0008】
本発明の洗浄用組成物中に存在する水の量は、一般に、この組成物の約0.25重量%〜約19重量%、好ましくは、約2重量%〜約14重量%、より好ましくは、約4重量%〜約10重量%の量である。
【0009】
テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する成分は、任意の適切なイオン性テトラフルオロホウ酸塩含有化合物(例えば、強鉱酸と組み合わせたテトラフルオロホウ酸HBFおよびその塩が挙げられるが、それに限定されない)であり得る。適切な塩としては、アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩(NHBF)、N−メチル−N−アルキルピロリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、アルキルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、アルカリ金属テトラフルオロホウ酸塩(例えば、リチウムテトラフルオロホウ酸塩、ナトリウムテトラフルオロホウ酸塩もしくはカリウムテトラフルオロホウ酸塩)が挙げられるがそれらに限定されない。任意の適切な強鉱酸をテトラフルオロホウ酸塩とともに用いてもよく、強鉱酸としては、塩酸、硫酸、リン酸および硝酸等が挙げられるがそれらに限定されない。テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供するために本発明の洗浄用組成物に好適に用いられるのは、テトラフルオロホウ酸(HBF)である。テトラフルオロホウ酸は、一般に、48%水溶液として市販されており、そのまま用いてもよい。テトラフルオロホウ酸は、加水分解により、いくらかの量のHFを生じる。Si系材料の選択性エッチングを可能にすることが、上記組成物中におけるHFの効用である。テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する成分は、一般に、本発明の洗浄用組成物中においては、上記組成物の約0.25重量%〜約10重量%、好ましくは、約1.5重量%〜約7重量%、より好ましくは、約2.5重量%〜約4.5重量%の量で存在する。
【0010】
本発明の洗浄用組成物のpHは、3以下のpH、好ましくは、約2のpHである。本発明の洗浄用組成物の強酸性は、一般に、スルホン成分の特性に起因し得る。スルホランは、強酸の存在下ではプロトン化しない非プロトン性溶媒である。この特徴により、無機強鉱酸の水溶液と比較して、低酸濃度において酸性度を非常に高くすることが可能になる。
【0011】
例えば、DMSOおよびグリコールエーテル等の代替的なルイス塩基溶媒を用いた類似の組成物を調製する取り組みは失敗に終わった。前述の処方物は、Si系反射防止コーティングを除去するための選択性を有しておらず、Cuとの親和性も維持しなかった。スルホン類およびBFは、安定した錯体を形成する。テトラフルオロホウ酸塩イオン(BF4 ̄)はBFとFとに解離することが報告されている。本発明では、スルホン−BF錯体が銅エッチング速度の許容値への低下に寄与すると考える。
【0012】
本発明の洗浄用組成物は、任意で、少なくとも1つの多価アルコールを含んでもよい。本発明の洗浄用組成物中に存在する場合には、当該多価アルコール成分は、当該洗浄用組成物の約1wt%〜約10wt%、好ましくは、約2wt%〜約8wt%、より好ましくは、約3wt%〜約6wt%の量で存在してもよい。適切な多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセロール、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、およびソルビトールが挙げられるがそれらに限定されないが、グリセロールが好ましい。多価アルコールを用いる処方物は、Cu親和性が向上するとともに、フォトレジスト残渣除去能力を有することが分かっている(表X)。
【0013】
本発明の洗浄用組成物は、本質的にいく分類似する材料である反射防止コーティングと低k誘電体に対して著しく高いエッチング選択性(最大で約70:1)を維持することができる。pHは3以下である本発明の洗浄用組成物は、洗浄用組成物における前述のエッチング選択性を与えるが、これは、pH値が3を超える場合には、洗浄用組成物が低k誘電体材料に対して許容できない程度までエッチングを行うためである。
【0014】
本発明の洗浄用組成物は、プラズマエッチング/アッシング後の残渣、金属系硬質マスク、およびSi系反射防止コーティングの除去/洗浄に効果的に用いることができる。本発明の組成物はまた、銅および低k誘電体との親和性を示す。本発明の組成物の中にはアルミニウムとの親和性を示すものもある。
【0015】
Si系反射防止コーティング、銅およびアルミニウム被覆物、ならびに低k誘電体を含む誘電体について、本発明の洗浄用組成物の所望のエッチング速度選択性を表1のエッチング速度データにより示す。このエッチング例で用いた本発明の洗浄用組成物は、3wt%のHBF、3.25wt%の水および93.75wt%のスルホランを含有するものであった。表に示す材料は、この洗浄用組成物を用いて60℃で10分間処理し、その後のエッチング速度を測定した。
【0016】
【表1】

従来の洗浄用組成物に試験を行い、Si系反射防止コーティングと誘電体についてSi系エッチング選択性を有するかどうかを判定した。
【0017】
米国特許出願公開第2006/0014656号における実施例1の組成物について、Honeywell DUO(商標)−193 Si系反射防止コーティング、銅およびTEOSならびにBlack Diamond 2誘電体に対して、50℃で10分間かけて試験を行い、以下のようなエッチング速度(Å/分)が観察された。
【0018】
【表2】

この従来の処方物は、Si系反射防止コーティングを良好なエッチング速度でエッチングして除去するが、低kのBlack Diamond誘電体を許容できない程度にまでエッチングする。
【0019】
米国特許出願公報第2006/199749号の表4における実施例23の組成物について、Honeywell DUO(商標)−193 Si系反射防止コーティング、銅およびTEOSならびにBlack Diamond 2誘電体に対して、25℃および35℃で10分間かけて試験を行い、以下のようなエッチング速度(Å/分)が観察された。
【0020】
【表3】

この大部分が水を含有したグリコールエーテル酸性フッ化物系処方物は、基板からSi系反射防止材料を除去できなかった。
【0021】
本発明の洗浄用組成物が、スルホン溶媒を溶媒として有することの重要性およびグリコールエーテルを当該洗浄用組成物中に存在させない必要があることは、以下の試験によって明らかである。以下の3つの洗浄用組成物を調製した。(本発明の)組成物Aは、92.7%のスルホラン、3.8%の水および3.5%のテトラフルオロホウ酸を含有した。比較例の組成物Bでは、上記スルホランの一部をカルビトール(ジエチレングリコールモノメチルエーテル)と置き換え、比較例の組成物Cでは、スルホランをカルビトールと全体的に置き換えた。これらの組成物の各々について、Honeywell DUO(商標)−193 Si系反射防止コーティング、銅およびTEOSならびにBlack Diamond 2誘電体に対して、30分間かけて60℃で試験を行った。エッチング結果(Å/分)は以下のとおりであった。
【0022】
【表4】

グリコールエーテルを本発明の組成物に部分的にまたは全体的に含むことにより、Cuと比較して、Si系反射防止コーティングの選択性エッチングが損なわれる。
【0023】
本発明の洗浄用組成物の所望のエッチング速度選択性は、表1のエッチング速度データにより、Si系反射防止コーティング、DUO(商標)−193、銅およびアルミニウム被覆物ならびに(低k誘電体を含む)誘電体について示している。全ての化学物質は、供給業者から受け取った状態で用いた。本研究で用いたHBFは48重量%水溶液であった。エッチング速度(Å/分)は全て60℃で測定した。Cu、Al、およびBlack Diamond 2(BD2)の基板は、30分間かけて処理した。DUO(商標)は、10分間かけて処理した(初期厚さは約1,400Åであった)。pH測定値は上記組成物の10重量%水溶液から測定した。CuOx除去は、以下に示す組成物における1分間の処理の前に30%H中に約30分間漬けたCu被覆ウエハを目視して判断した。
【0024】
【表5】

キレート剤は約0.25重量%で存在する:DTPA=ジエチレントリアミン5酢酸、EDTA=エチレンジアミン4酢酸、およびCyDTA=1,2−ジアミノシクロへキサン−N,N,N’,N’−4酢酸;BD2=Applied Material,Inc.のBlack Diamond 2−低K誘電体。
【0025】
本明細書中において本発明を特定の実施形態に関して説明したが、本明細書中に開示した発明概念の精神および範囲から逸脱することなく、変更、改変および変形を行うことができることは言うまでもない。よって、そのような変更、改変および変形の全てが添付の特許請求の範囲の精神および範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物であって、該組成物は、
a)該組成物の約80重量%〜約99重量%の少なくとも1つの有機スルホンと;
b)該組成物約0.25重量%〜約19重量%の水と;
c)該組成物の約0.25重量%〜約10重量%のテトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分と、を含み、
該組成物の10重量%水溶液としての該組成物のpHは3以下である、マイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物。
【請求項2】
約1重量%〜約10重量%の少なくとも1つの多価アルコールをさらに含む、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物。
【請求項3】
前記スルホンはスルホランを含む、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物。
【請求項4】
前記テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分はテトラフルオロホウ酸を含む、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物。
【請求項5】
前記テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分はテトラフルオロホウ酸を含む、請求項3に記載のマイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物。
【請求項6】
多価アルコールはグリセロールを含む、請求項2に記載のマイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つのスルホンはスルホランを含み、前記テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分はテトラフルオロホウ酸を含む、請求項6に記載のマイクロエレクトロニクス基板洗浄用組成物。
【請求項8】
マイクロエレクトロニクス基板またはデバイスのエッチング/アッシング後の残渣を洗浄するプロセスであって、前記プロセスは、
該マイクロエレクトロニクス基板またはデバイスと、下記:
a)該組成物の約80重量%〜約99重量%の少なくとも1つの有機スルホン;
b)該組成物の約0.25重量%〜約19重量%の水;および
c)該組成物の約0.25重量%〜約10重量%のテトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分
を含む洗浄用組成物とを接触させる工程を包含し、
該組成物の10重量%水溶液としての該組成物のpHは3以下である、プロセス。
【請求項9】
前記洗浄用組成物は約1重量%〜約10重量%の少なくとも1つの多価アルコールをさらに含む、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記スルホンはスルホランを含む、請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
前記テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分はテトラフルオロホウ酸を含む、請求項8に記載のプロセス。
【請求項12】
前記テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分はテトラフルオロホウ酸を含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
多価アルコールはグリセロールを含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項14】
前記少なくとも1つのスルホンはスルホランを含み、前記テトラフルオロホウ酸塩イオンを提供する少なくとも1つの成分はテトラフルオロホウ酸を含む、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記マイクロエレクトロニクス基板またはデバイスはSi系反射防止コーティングおよび低k誘電体を含む、請求項8に記載のプロセス。
【請求項16】
前記マイクロエレクトロニクス基板またはデバイスはSi系反射防止コーティングおよび低k誘電体を含む、請求項14に記載のプロセス。

【公表番号】特表2011−516620(P2011−516620A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548782(P2010−548782)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/033148
【国際公開番号】WO2009/108474
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(592162807)アバントール パフォーマンス マテリアルズ, インコーポレイテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】J T BAKER INCORPORATED
【Fターム(参考)】