説明

マニピュレータ、マニピュレータの駆動方法、マニピュレータシステム及び微小操作対象物の操作方法

【課題】容易な位置決めとインジェクションとを同時に満たすことができるマニピュレータを提供する。
【解決手段】このマニピュレータ1は、操作試料に対してインジェクションを行なうものであって、XYZ軸方向に駆動可能であり、少なくともインジェクションを行なう軸方向の圧電素子6を駆動源とするナノポジショナ7と、圧電素子に対して信号を印加することにより圧電素子を微動動作させる制御部10aと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞や卵等の微小な対象物(操作試料)に対してインジェクション等の微細な操作を行うマニピュレータ、マニピュレータの駆動方法、マニピュレータシステム及び微小操作対象物の操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジー分野では、研究者などが細胞等の試料を操作するためにマニピュレータが用いられている。このようなマニピュレータを用いてマイクロインジェクション時にガラスキャピラリを急速に変位させることによって、当該操作試料に穿孔する方法が開発されている。その一例を下記非特許文献1に示す。
【0003】
また、バイオテクノロジ分野において顕微鏡観察下で卵細胞に核や精子を注入(インジェクション)するなどのように細胞等の微小な対象物に微細な操作を行うマニピュレータは、例えば、特許文献1,2に開示されている。特許文献1に開示のマイクロマニピュレータ1000は、図13に示すように、ホルダブロック1300と、移動テーブル1400と、移動ステージ1600と、ステッピングモータ1700と、を有する。細胞等にインジェクションを行うインジェクションピペット1100がピペットホルダ1200に装着されている。クランプ板1800がホルダブロック1300にボルト1810により着脱自在に取り付けられ、ホルダブロック1300とクランプ板1800との間にピペットホルダ1200が挟持されることで、ピペット1100がピペットホルダ1200を介しホルダブロック1300に固定状態で保持される。ピペット1100の先端側には例えばガラスキャピラリ1110が取り付け固定されている。
【0004】
ホルダブロック1300は移動テーブル1400にボルト1310により固定して取り付けられる。移動テーブル1400は、移動ステージ1600に設けられたガイドレール1900に沿って直線移動可能である。移動ステージ1600にはステッピングモータ1700が取り付けられ、ステッピングモータ1700の駆動力が図示しないネジ機構等を介して移動テーブル1400へ伝達される。これにより、移動テーブル1400は、ガイドレール1900に沿って直線移動されてホルダブロック1300を移動させ、このホルダブロック1300及びピペットホルダ1200を介して、インジェクションピペット1100を所望位置まで直線移動させる。また、ホルダブロック1300には、圧電アクチュエータ1500が取り付けられ、圧電アクチュエータ1500内の圧電素子に一定周期のパルス電圧を印加することで圧電素子が伸縮してインジェクションピペット1100が微小振動する。なお、インジェクションの際に使用する圧電アクチュエータ1500は、ホルダブロック1300に取り付けられるタイプであるが、圧電素子がピペットホルダ1200に対し同心円状に取り付けられるタイプも知られている(例えば、下記特許文献2参照)。また、インジェクションピペット1100はガラス製であるが、ピペット1100をピペットホルダ1200のカラーに固定する際、Oリング等にピペット1100を通し、治具で締め付け固定している。
【0005】
また、従来のマニピュレータは主にハンドル操作で駆動されるようになっている(例えば、特許文献3参照)。また、特許文献4には、細胞操作用途のマニピュレータションシステムであって、作業者が顕微鏡接眼レンズを見ながらジョイスティックを操作するものが開示されている。
【0006】
バイオテクノロジ分野において顕微鏡観察下で卵細胞に核や精子を注入(インジェクション)するなどのように卵等の微小な対象物に微細な操作を行うマイクロマニピュレーションシステムは、例えば、特許文献5で知られているが、顕微鏡の視野内でマイクロマニュピレータを用いて微小針(キャピラリ)を操作することにより被検体に対して遺伝子組み換え操作や顕微受精操作等の微細操作が行われる。
【0007】
非特許文献2には、受精卵の前核に直接微量のDNAを注入するマイクロインジェクション法が記載されており、インジェクション操作前の卵はドロップの上方に入れ、インジェクション操作後の卵はドロップの下方に移し、未処理卵と区別して操作することが記載されている。非特許文献3には、卵細胞の周囲に4つの電極を配置し、位相のずれた電圧を印加し、回転電場を発生させて卵を回転させるようにした卵細胞回転機構を有するマイクロマニピュレーションシステムが記載されている。
【非特許文献1】プライムテック株式会社、「ピエゾ インパクト マイクロ マニピュレータ 取り扱い説明書 SYSTEM PMM-150FU」
【特許文献1】特開2004−325836号公報
【特許文献2】特公平06−98582号公報
【特許文献3】特開平10−6255号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2004/015055A1
【特許文献5】特開2005−258413号公報
【非特許文献2】「改訂第4版 新遺伝子工学ハンドブック」羊土社248〜253頁
【非特許文献3】「マイクロマニピュレーションシステム」メディカル・サイエンス・ダイジェスト28巻4号2002年35〜37頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1のようなマイクロインジェクションに使用される圧電アクチュエータはピペットに取り付けられる。このため、圧電アクチュエータを取り付ける際には、アクチュエータとピペットとの芯出しを厳密に行なう必要がある。そのため取り付け方法が難しいという問題があった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、容易な位置決めとインジェクションとを同時に満たすことができるマニピュレータを提供することを第1の目的とする。
【0010】
図13のように、インジェクションにはインジェクションピペット1100とガラスキャピラリ1110を使用し、ピペット1100をOリング等に通してから治具で締め付け固定しているが、マニピュレータ側を高剛性にし、インジェクション操作をしても、インジェクションピペット1100とガラスキャピラリ1110側の剛性が低く、振動に弱いという問題点がある。このため、安定した穿孔・インジェクション等の動作が困難になってしまっていた。
【0011】
また、ピペット1100を固定するホルダブロック1300に取り付けるタイプでありインジェクションの際に使用する圧電アクチュエータ1500では、圧電素子へ付与する予圧を複数の柱により行っており、圧電素子へ均一に予圧を付与するための調整が面倒であり煩わしさがある。また、圧電素子をピペットホルダ1200に対し同心円状に取り付けるタイプの圧電アクチュエータでは、カラーとのセッティング時に芯出しを厳密に行わなければならず、また、摩擦駆動のため、安定した動作が得られない場合がある。
【0012】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、キャピラリを圧電素子で微小振動させて駆動する際に安定した穿孔・インジェクションの動作が可能なマニピュレータ及びその駆動方法を提供することを第2の目的とする。
【0013】
また、マニピュレータによるマイクロインジェクションの際に、卵の核膜内に試薬を注入するが、卵の見え方によって作業効率が悪くなる場合がある。インジェクションする位置が見え難い場合、マニピュレータを巧みに操作し、卵を回転させて、操作し易い位置にセッティングする必要がある。しかし、かかるマニピュレータの操作は複雑な動作が必要であり、熟練が必要であった。
【0014】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、細胞等の微小対象物を操作する際に所望の位置に容易にセッテングが可能なマニピュレータ及びマニピュレータシステムを提供することを第3の目的とする。
【0015】
また、顕微鏡の視野内でキャピラリにより遺伝子組み換え操作や顕微受精操作等の微細操作を行う場合、対象物(卵や細胞等)を操作する前後にキャピラリを所定の位置ヘセッティングする操作は、マニピュレータの基本操作に慣れた熟練技術が必要であった。
【0016】
非特許文献2のマイクロインジェクション法は、インジェクション作業をする培地中で操作後の卵と未操作卵をドロップ中で混在しないように、操作後の卵はドロップの下方へ移動させ、続いて上方から未操作卵を持ってくるものであるが、この方法によれば、マニピュレータ自体の基本操作に慣れておく必要性があり、不慣れな作業者が操作すると操作効率が低下してしまうという問題があった。
【0017】
非特許文献3の卵細胞回転機構は、新たに電極機能を設け、操作する卵周辺に電場を発生させて卵を回転させるもので、その結果によれば、受精能、発生能に障害はないとされているが、使用するには新たに設備導入が必要となる。
【0018】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、煩雑な操作をせずに卵等の微小な操作対象物のセッティングが可能なマニピュレータシステム及び微小操作対象物の操作方法を提供することを第4の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記第1の目的を達成するため、本実施形態のマニピュレータは、操作試料に対してインジェクションを行なうマニピュレータであって、XYZ軸方向に駆動可能であり、少なくともインジェクションを行なう軸方向の圧電素子を駆動源とするナノポジショナと、前記圧電素子に対して信号を印加することにより、該圧電素子を微動動作させる制御部と、を備えた構成を採っている。
【0020】
例えばX軸方向を、インジェクションを行なう軸方向とすると、XYZ軸方向によりガラスキャピラリの位置決めが可能になるとともに、X軸方向の圧電素子に信号を印加することで、インジェクション動作が行なわれる。また、圧電素子にステップ状に増加する信号を印加し、複数回微動作させることにより、ガラスキャピラリ等を断続的に移動させてもよい。
【0021】
前記ステップ状の信号は階段状の波形とすることができる。
【0022】
前記マニピュレータは、前記圧電素子を変位させながら駆動可能なモータをさらに備え、前記制御部は、前記圧電素子が最大に変位した後に、前記圧電素子へ印加する電圧を初期状態に戻すとともに前記圧電素子の変位量を前記モータにより補正する操作を実行することにより、前記マニピュレータのストローク範囲で前記微動動作を実行する、マニピュレータである。
【0023】
この一連の動作を繰返し行なうことで、マニピュレータの有効ストロークの範囲で圧電素子によるステップ送り動作が可能となる。
【0024】
上記第2の目的を達成するために、本実施形態によるマニピュレータは、微小対象物に対し操作を行うキャピラリをその軸方向に駆動するための駆動部と、前記キャピラリの微動動作を行うための圧電素子による圧電アクチュエータと、前記駆動部及び前記圧電素子を制御する制御部と、を備えるマニピュレータであって、前記制御部は、微小対象物に対する穿孔操作のために、前記駆動部により前記キャピラリをその軸方向に駆動するとともに、前記圧電素子を間欠的に駆動することを特徴とする。
【0025】
このマニピュレータによれば、細胞等の微小対象物に対する穿孔操作のとき、キャピラリをその軸方向に駆動するとともに圧電素子を間欠的に駆動することで、圧電素子でキャピラリを微小振動させても、その振動を軽減でき、安定かつ確実な穿孔・インジェクションの動作が可能となる。
【0026】
上記マニピュレータにおいて前記圧電素子を前記キャピラリの前記圧電素子の駆動による振動が静定するような時間間隔で間欠的に駆動することで、圧電素子の駆動に起因するキャピラリの振動を充分に軽減することができる。
【0027】
また、前記駆動部による前記キャピラリの駆動を前記時間間隔内で停止することで、さらに安定かつ確実な穿孔動作が可能となる。
【0028】
また、前記圧電素子の間欠的駆動のために前記圧電素子にバースト波形電圧を印加することが好ましい。この場合、前記バースト波形は、振幅及び周波数が設定された正弦波、矩形波または三角形波からなることが好ましい。なお、バースト波形による圧電素子への電圧非印加の時間間隔は、キャピラリが圧電素子の駆動により振動した後の静定時間に基づいて設定されることが好ましい。
【0029】
なお、前記駆動部は、前記キャピラリの駆動のためのステッピングモータを内蔵するとともに前記圧電アクチュエータを内蔵することが好ましい。これにより、圧電アクチュエータをキャピラリ側に配置する必要がなく、駆動部にキャピラリを取り付けるだけでよく、取り付け作業が容易となる。
【0030】
また、マニピュレータの駆動方法は、上述のマニピュレータの駆動方法であって、前記穿孔操作のとき前記駆動部を前記キャピラリが微小対象物に常時当接するように駆動することを特徴とする。
【0031】
このマニピュレータの駆動方法によれば、キャピラリが微小対象物に常時当接することで、圧電素子によるキャピラリの駆動方向以外の振動に起因する穿孔効率の低下を防止することができ、安定かつ確実な穿孔の動作が可能となる。
【0032】
上記第3の目的を達成するために、本実施形態によるマニピュレータは、キャピラリの微動動作を行うことで微小対象物に対する操作が可能なマニピュレータであって、前記キャピラリの動作を制御する制御部と、前記制御部に対し前記キャピラリの動作を指示するために操作者により操作される操作部と、を備え、前記操作部が、前記指示の少なくとも一部を押されることで実行するボタン操作部を有し、前記ボタン操作部を押すことで、前記キャピラリを平面上で2次元的に駆動することを特徴とする。
【0033】
このマニピュレータによれば、ボタン操作部を押すことでキャピラリを平面上で2次元的に駆動して細胞等の微小対象物を操作することにより所望の位置に容易にセッテングできる。
【0034】
上記マニピュレータにおいて前記キャピラリを微小対象物が回転するように2次元的に駆動することで所望の位置に容易にセッテングできる。
【0035】
上記第3の目的を達成するために、本実施形態によるもう1つのマニピュレータは、キャピラリの微動動作を行うことで微小対象物に対する操作が可能なマニピュレータであって、前記キャピラリの動作を制御する制御部と、前記制御部に対し前記キャピラリの動作を指示するために操作者により操作される操作部と、を備え、前記操作部が、前記指示の少なくとも一部を押されることで実行するボタン操作部を有し、前記ボタン操作部を押すことで、前記微小対象物が回転するように前記キャピラリを平面上で略直線状に駆動することを特徴とする。
【0036】
このマニピュレータによれば、ボタン操作部を押すことでキャピラリを平面上で略直線状に駆動して細胞等の微小対象物を回転させることにより所望の位置に容易にセッテングできる。この場合、キャピラリが先端で卵の一部を押すようにして卵の一部に作用することにより卵を回転させることができる。
【0037】
上記マニピュレータにおいて前記キャピラリを略直線状に往復駆動することで細胞等の微小対象物を回転させて所望の位置に容易にセッテングできる。
【0038】
また、上記各マニピュレータにおいて前記キャピラリを平面上で略四角形状等の略多角形状または円弧状の軌跡を描くように2次元的に駆動することが好ましい。
【0039】
また、前記キャピラリを駆動するときのストローク量及び速度が設定可能であることが好ましい。
【0040】
また、マニピュレータシステムは、上述のマニピュレータと、微小対象物を保持する別のマニピュレータと、を備えることを特徴とする。このマニピュレータシステムによれば、上述のマニピュレータのボタン操作部を押すことでキャピラリを平面上で2次元的に駆動して細胞等の微小対象物を操作することにより所望の位置に容易にセッテングできるとともに、別のマニピュレータで細胞等の微小対象物を保持できる。
【0041】
上述のマニピュレータにより微小対象物を回転させて前記微小対象物が所定の位置に回転したとき、前記キャピラリの駆動を停め、前記別のマニピュレータで前記微小対象物を前記所定の位置に保持可能である。
【0042】
また、上述のマニピュレータにより前記キャピラリを駆動するとき、前記微小対象物を前記別のマニピュレータで通常の保持の場合よりも弱く保持する。これにより、微小対象物を通常の保持の場合よりも弱く保持しながら細胞等の微小対象物を操作することにより所望の位置に容易にセッテングできる。
【0043】
上記第4の目的を達成するために、本実施形態によるマニピュレータシステムは、微小な操作対象物を観察する顕微鏡手段と、前記操作対象物を操作するためにXYZ軸の三方向に電動で駆動可能な一対のマニピュレータと、前記マニピュレータの駆動を制御する制御手段と、前記制御手段を介して前記マニュピレータを駆動する操作手段と、を備え、前記操作対象物を操作する際に、前記マニピュレータをシーケンス駆動することで、操作後の操作対象物と操作前の操作対象物との交換を自動化したことを特徴とする。
【0044】
このマニピュレータシステムによれば、操作後の操作対象物と操作前の操作対象物との交換をマニピュレータのシーケンス駆動で自動化することで、煩雑な操作をせずに容易に卵等の微小な操作対象物のセッティングが可能となり、操作対象物の操作処理を熟練技術がなくても操作可能となり、効率的に行うことができる。なお、前記操作手段がジョイスティックを備え、ジョイスティックのスイッチ操作により前記シーケンス駆動が開始するように構成できる。
【0045】
上記第4の目的を達成するために、本実施形態によるもう1つのマニピュレータシステムは、微小な操作対象物を観察する顕微鏡手段と、前記操作対象物を操作するためにXYZ軸の三方向に電動で駆動可能な一対のマニピュレータと、前記マニピュレータの駆動を制御する制御手段と、前記制御手段を介して前記マニュピレータを駆動する操作手段と、を備え、前記操作対象物を操作する際に、前記操作手段の操作により各動作に移るように前記マニピュレータをシーケンス駆動することで、操作後の操作対象物と操作前の操作対象物との交換を自動化したことを特徴とする。
【0046】
このマニピュレータシステムによれば、操作後の操作対象物と操作前の操作対象物との交換を、マニピュレータが正常に動作していたことを目視で判断しながら操作手段の操作により各動作に移るようにマニピュレータをシーケンス駆動で自動化することで、煩雑な操作をせずに容易に卵等の微小な操作対象物のセッティングが可能となり、操作対象物の操作処理を熟練技術がなくても操作可能となり、効率的に行うことができる。なお、前記操作手段がジョイスティックを備え、ジョイスティックのスイッチ操作により前記シーケンス駆動が開始するように構成できる。
【0047】
上記マニピュレータシステムにおいて前記マニピュレータに取り付けられたキャピラリ及び前記操作対象物の前記顕微鏡手段による顕微鏡画像を撮影する撮像手段を備え、前記シーケンス駆動の際に、前記撮像手段により撮影された前記キャピラリ及び前記操作対象物の顕微鏡画像を画像処理し、その画像処理された画像に基づいて前記マニピュレータを駆動することが好ましい。
【0048】
この場合、前記マニピュレータの一方に取り付けられたホールディングキャピラリに保持された操作対象物の特定部分を前記画像処理された画像に基づいて検出し、前記特定部分が所定位置にないとき、前記マニピュレータの他方に取り付けられたインジェクションキャピラリが自動的に前記操作対象物を操作することで前記所定位置に位置決めることが好ましい。これにより、例えば、操作対象物が卵のとき、卵の保持位置を変えて卵の核をインジェクション処理のし易い所定位置に位置調整して位置決めることができる。
【0049】
また、前記マニピュレータに取り付けられたインジェクションキャピラリが前記操作後の操作対象物と前記操作前の操作対象物とを仕切るように前記マニピュレータを駆動することが好ましい。これにより、操作後の操作対象物と操作前の操作対象物とを区別することができ、両者の混在を防止することができる。
【0050】
また、前記マニピュレータに取り付けられたホールディングキャピラリは、吸引手段により陰圧状態で前記操作対象物を保持するとともにその陰圧が制御可能であることが好ましい。これにより、例えば、操作対象物が卵でインジェクション処理を行うときは、ホールディングキャピラリにおいて比較的強い陰圧で操作対象物を保持でき、また、上述のような卵の核の位置の調整のときは、位置調整し易いように比較的弱い陰圧で操作対象物を保持できる。
【0051】
この場合、前記操作後の操作対象物を保持するホールディングキャピラリの陰圧を弱めてから、前記マニピュレータに取り付けられたインジェクションキャピラリを移動させることで、前記操作後の操作対象物を前記ホールディングキャピラリから離して移動させることが自動で実行できる。なお、この移動のとき、インジェクションキャピラリが操作後の操作対象物と操作前の操作対象物との間に位置し、仕切り機能を発揮し、両者の混在を防止する。また、ホールディングキャピラリが弱い陰圧であると、ホールディングキャピラリの近傍にある操作前の操作対象物が吸い寄せられて自動的にホールディングキャピラリに保持される。
【0052】
また、前記各マニピュレータはキャピラリをその軸方向に往復動させるアクチュエータを備え、前記撮像手段は電動焦点合わせ機構を備え、さらに、上記マニピュレータシステムは、電動で試料を移動可能な試料ステージと、電動で圧力調整可能なインジェクタと、を備えることが好ましい。
【0053】
また、別の本実施形態による微小操作対象物の操作方法は、上述のマニピュレータシステムを用いて、前記微小な操作対象物である卵に対してインジェクション操作を行うことを特徴とする。
【0054】
この操作方法によれば、操作済み卵と未操作卵との交換をマニピュレータのシーケンス駆動で自動化することで、煩雑な操作をせずに容易に微小な操作対象物である卵のセッティングが可能となり、卵の操作処理を熟練技術がなくても操作可能となり、効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0055】
第1の実施形態のマニピュレータによれば、ナノポジショナの圧電素子を用いるため、位置決め用途及びインジェクション用途の二つの動作を同時に実現することができる。
【0056】
第2の実施形態のマニピュレータ及びその駆動方法によれば、キャピラリを圧電素子で微小振動させて駆動する際に安定かつ確実な穿孔・インジェクション等の動作が可能となる。
【0057】
第3の実施形態のマニピュレータ及びマニピュレータシステムによれば、細胞等の微小対象物を操作する際に所望の位置に容易にセッテングが可能となる。
【0058】
第4及び第5の実施形態によれば、煩雑な操作をせずに熟練技術になしで卵等の微小な操作対象物の自動的なセッティングが可能なマニピュレータシステム及び微小操作対象物の操作方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明による各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0060】
〈第1の実施形態〉
図1は本発明の第1の実施形態に係るマニピュレータの概略構成図である。
【0061】
マニピュレータ1は、ナット2を介してボールネジ3により支持されたテーブル4、ボールネジ3を支持する支持軸受ユニット5、圧電素子6を備えたナノポジショナ7、及び、ステッピングモータ8を備える。さらに、圧電素子6及びステッピングモータ8を含む、装置全体を制御する制御部10aを備える。この制御部10aは、マニピュレータ1の如何なる構成に備えられていてもよい。ナノポジショナ7は、XYZ軸方向に駆動可能であり、各軸方向にそれぞれ圧電素子6を備える。
【0062】
以下においては、X軸方向をインジェクション方向とし、X軸方向に駆動する圧電素子を符号6Xとする。ナノポジショナ7はガラスキャピラリ(図2の符号11参照)を駆動するものである。
【0063】
制御部10aは、操作試料に対してガラスキャピラリでインジェクションを行なう際、以下のように圧電素子6を制御する。
【0064】
図2(a)に、カメラ視野f内におけるガラスキャピラリ11の移動、図2(b)に、圧電素子6Xへの印加信号を示す。
【0065】
制御部10aは、図2(b)に示したステップ状に増加する階段状の信号を圧電素子6Xに印加する。図の例では、動作1から動作3の3段階で印加を行なっている。このステップ回数は、ユーザの要求に従って決めることができる。また、信号立ち上がり速度、ステップ送り間隔、1ステップ当りの信号の大きさを任意に設定することで、送り速度、送り量の調整が可能となる。この結果、図3に示すように、圧電素子6Xに印加した電圧信号に応じてインジェクションを行なうことでガラスキャピラリが移動し、操作試料にインジェクション動作することが可能となる。
【0066】
なお、図2の例では、階段状の電圧信号を圧電素子6Xに印加しているが、矩形波状の電圧信号を印加し、一度に急速に変位させるようにしてもよい。
【0067】
操作試料にインジェクションし、ガラスキャピラリの位置を元の状態に戻すには、図4の動作4で示したように、圧電素子6Xへ印加した信号を降下させることにより実現できる。単位時間当りの電圧降下量を調整することにより、ガラスキャピラリの速度を調整できる。また、完全にガラスキャピラリの位置を元に戻さない場合、事前に全体の電圧降下量を調節することで実現できる。さらに、図4に破線で示したように、ガラスキャピラリを動作1から動作3に示す各動作と同じように断続的にガラスキャピラリの位置を元に戻してもよい。
【0068】
階段状の電圧信号を印加し、マニピュレータをステップ送りする際に、送り量が大きすぎると圧電素子6Xの許容変位量を超える場合がある。この問題を解決するため、圧電素子6Xが最大に変位した直後、圧電素子6Xに印加する電圧をゼロ(初期状態)に戻す。それと同時にこれまでの圧電素子が変位した量と同じ量をステッピングモータ8によって補正動作する。図5にこの際のモータ駆動信号を示した。符号AAで示すように、圧電素子6Xの動作4と同時に、ステッピングモータ8に対して所定の補正量に相当するモータ駆動信号を与える。この動作は瞬間的でもよいし、動作4の駆動時間に依存してもよい。
【0069】
この一連の動作を繰返すことによって、マニピュレータの有効ストロークの範囲で圧電素子6Xによるステップ送り動作が可能になる。
【0070】
このように、本実施形態に係るマニピュレータによれば、ナノポジショナの圧電素子を位置決め用途及びインジェクション用途の二つの動作を実現できる。したがって、容易な位置決めとインジェクションとを同時に満たすことができる。
【0071】
なお、図5中の動作1から動作4または動作1から動作3を行い、図3に示すように細胞の透明体を通過した後、ステッピングモータ8または圧電素子6Xを駆動して位置決めを行ない、キャピラリ内の試薬を細胞内に注入してもよい。
【0072】
また、上記の圧電素子6Xによる送り出し動作は、インジェクションを行なう軸以外に適用してもよい。
【0073】
〈第2の実施形態〉
図6は第2の実施形態によるマニピュレータシステムの概略的構成を示す図である。
【0074】
図6において、マニピュレータシステム10は、顕微鏡観察下で細胞等の微小対象物に微細な人工操作を実施するためのシステムとして、顕微鏡ユニット12と、ホールディング用マニピュレータ14と、インジェクション用マニピュレータ16とを備え、顕微鏡ユニット12の左右にマニピュレータ14,16が配置されている。
【0075】
顕微鏡ユニット12は、カメラ18、顕微鏡20、ベース22を備え、ベース22の上方に顕微鏡20が配置され、顕微鏡20にはCCDやCMOS等の撮像素子を用いたカメラ18が連結されている。ベース22上には細胞等の微小対象物が載置可能であり、ベース22上の細胞(図示せず)に顕微鏡20から光が照射される。ベース22上の細胞で反射した光が顕微鏡20に入射すると、細胞に関する光学像は、顕微鏡20で拡大された後、カメラ18で撮像され、カメラ18の撮像による画像を表示部45に表示し、細胞を観察できる。
【0076】
ホールディング用マニピュレータ14は、直交3軸構成のマニピュレータとして、ホールディングピペット24、XY軸テーブル26、Z軸テーブル28、XY軸テーブル26を駆動する駆動装置30、Z軸テーブル28を駆動する駆動装置32を備えている。ホールディングピペット24は、Z軸テーブル28に連結され、Z軸テーブル28はXY軸テーブル26上に上下動自在に配置されている。XY軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル28は、駆動装置32の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。
【0077】
Z軸テーブル28に連結されたホールディングピペット24は、その先端にホールディングキャピラリ25が装着されており、XY軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動に従って三次元空間を移動領域として移動し、ホールディングキャピラリ25の吸う・吐くの動作によりホールディングキャピラリ25がベース22上の細胞等を保持し、保持解除するように構成されている。
【0078】
インジェクション用マニピュレータ16は、直交3軸構成のマニピュレータとして、インジェクションピペット34、XY軸テーブル36、Z軸テーブル38、XY軸テーブル36を駆動する駆動装置40、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42を備え、インジェクションピペット34は、Z軸テーブル38に連結され、Z軸テーブル38はXY軸テーブル36上に上下動自在に配置され、駆動装置40、42はコントローラ43に接続されている。
【0079】
なお、図6では、マニピュレータ14,16は下方からX軸Y軸Z軸の順で駆動する構成であるが、この構成順序(配置方法)に限定されるものではなく、他の順序で構成してもよく、例えば、ピペット24,34をX軸やY軸のテーブルに連結する構成であってもよい。
【0080】
XY軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル38に連結されたインジェクションピペット34は、その先端にインジェクションキャピラリ35が装着され、インジェクションキャピラリ35は、針状になっており、ベース22上の細胞等に挿入される。
【0081】
XY軸テーブル36とZ軸テーブル38は、駆動装置40、42の駆動により、ベース22上の細胞等を含む三次元空間を移動領域として移動し、インジェクションピペット34を、例えば、インジェクションキャピラリ35がベース22上の細胞に挿入される挿入位置まで粗動駆動する粗動機構(三次元軸移動テーブル)として構成されている。
【0082】
また、これらテーブル36,38は、移動テーブルとしての機能の他に、ナノポジショナとしての機能を備え、インジェクションピペット34を往復動自在に支持するととともに、インジェクションピペット34をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成されている。
【0083】
具体的には、XY軸テーブル36とZ軸テーブル38には、ナノポジショナとして、図7に示す微動機構44が付加(内蔵)されている。図7は、図6のXY軸テーブル36,Z軸テーブル38に付加される微動機構(圧電アクチュエータ)の例を示す断面図である。
【0084】
図7の微動機構44は、圧電アクチュエータから構成され、圧電アクチュエータの本体を構成するハウジング48を備え、略円筒状に形成されたハウジング48内には、ねじ軸50が挿通されているとともに、円筒状の圧電素子54、円筒状の間座56がねじ軸50の外周側に収納されており、軸受58、60が内輪間座62を間にしてねじ軸50にロックナット66により固定されて収納されている。
【0085】
軸受58、60は、それぞれ内輪58a、60aと、外輪58b、60bと、内輪58a、60aと外輪58b、60b間に挿入されたボール58c、60cを備え、各内輪58a、60aがねじ軸50の外周面に内輪間座62を介して嵌合され、各外輪58b、60bがハウジング48の内周面に嵌合され、ねじ軸50を回転可能に支持する。軸受58は、ハウジング48の内周面に嵌合された間座56との当接により、圧電素子を介して蓋64を締め付けることによって予圧が付与される。ハウジング48の一端側には圧電素子に電圧を印加するための信号線を通すための孔48a、48bが形成されている。予圧調整は間座56の長さを調整することによって押圧力を調整させ、軸受58、60へ適切な予圧力を与える。これにより、軸受58、60に所定の予圧が付与され、軸受58、60の外輪間に軸方向間距離としての間隙63が形成される。
【0086】
圧電素子54は、孔48a、48b内にそれぞれ挿入されたリード線70、72を介して図6のコントローラ43に接続されており、コントローラ43からの電圧に応じてインジェクションピペット34の軸長手方向に沿って伸縮する圧電アクチュエータの一要素として構成されている。
【0087】
圧電アクチュエータは、圧電素子54にコントローラ43から穿孔用電圧が印加されると、インジェクションキャピラリ35に対しベース22上の細胞に挿入するための穿孔動作を行うようになっており、また、コントローラ43から微動用電圧が印加されると、ねじ軸50をその長手方向(軸方向)に沿って微動させて、インジェクションキャピラリ35の位置を微調整するようになっている。
【0088】
なお、図7では円筒型の圧電素子を使用しているが、これに限定されず、例えば角筒型であってもよい。
【0089】
コントローラ43は、インジェクション用マニピュレータ16を駆動するときには、XY軸テーブル36とZ軸テーブル38を粗動駆動して、インジェクションピペット34の先端に装着されたインジェクションキャピラリ35をベース22上の細胞に近づけて位置決めした後、微動機構44を用いてインジェクションキャピラリ35を微動駆動するようになっている。
【0090】
図6のコントローラ43は、例えば、演算手段としてのCPU(中央演算処理装置)及び記憶手段としてのRAM、ROMなどのハードウエア資源を備えたマイクロコンピュータで構成されており、所定のプログラムを基に各種の演算を行い、演算結果に従って駆動装置40、42に駆動指令を出力するとともに、CRTや液晶パネルから構成される表示部(ディスプレイ)45を制御しカメラ18で撮像した細胞の顕微鏡画像や演算結果に関する情報などを表示部45の画面上に表示させる制御手段として構成されている。
【0091】
図8は図6のコントローラ43の制御系要部を示すブロック図である。図9は図6のマニピュレータ16における圧電素子への圧電駆動信号(a)、キャピラリ35の軸方向の変位(b)及びステッピングモータへの駆動信号(c)を概略的に示す図である。
【0092】
図6のマニピュレータ16の駆動装置40、42には、粗動用モータとして、ステッピングモータ46(図8)が内蔵されており、ステッピングモータ46の回転がリニアガイドやボールねじ等により直線運動に変換され各軸の直動駆動源となるように構成されている。図8のように、コントローラ43のCPU44は、粗動時にステッピングモータ46に対してドライバ(図示省略)を介して駆動を指令し、また、微動時に圧電素子54に対してアンプ(図示省略)を介して駆動を指令する。
【0093】
すなわち、図9(c)のように、マニピュレータ16の駆動時には、ステッピングモータ46に対して駆動パルス信号が連続的に出力し、図9(b)のようにインジェクションキャピラリ35の先端がインジェクションピペット34の軸長手方向に直線的に変位する。
【0094】
上述のステッピングモータ46によるインジェクションキャピラリ35の駆動の間に、図9(a)に示すようなバースト波形信号(圧電駆動信号)による穿孔用電圧が圧電素子54に印加され、圧電素子54が間欠的に駆動される。すなわち、図9(a)のバースト波形は、振幅及び周波数が設定された矩形波の1周期分からなり、圧電素子54は時間間隔Tで間欠的に駆動され、この時間間隔Tは圧電素子54への電圧の非印加時間に対応する。すなわち、圧電素子54は図9(a)のバースト波形の1周期分の印加信号Sで1回駆動される。なお、バースト波形は、振幅及び周波数が設定された正弦波や三角波であってもよい。
【0095】
図9(a)のバースト波形電圧の時間間隔Tは、圧電素子54の1回の駆動により図7の圧電アクチュエータがインジェクションキャピラリ35を駆動したときに生じる振動が静定する時間に基づいて設定され、かかる振動の静定時間以上が好ましく、また、操作者が任意に設定してもよい。
【0096】
また、ホールディング用マニピュレータ14のホールディングピペット24にはシリンジの駆動機構が連結されており、図8のようにシリンジの駆動機構のモータ29がドライバ(図示省略)を介してコントローラ43により制御され、モータ29が作動することでホールディングキャピラリ25内を陰圧にし、細胞等をホールディングキャピラリ25で固定し保持する。
【0097】
図10に図6,図8のジョイスティックの具体例を示す斜視図を示す。図6,図8のようにコントローラ43に接続されたジョイスティック47を用いて、例えば、図9のようにジョイスティック47が中立位置でインジェクション用マニピュレータ16が停止した状態から、本体部(ハンドル)47eが操作者により掴まれて右側Rまたは左側Lに操作されたとき、ステッピングモータ46を駆動しインジェクションキャピラリ35を粗動駆動する。
【0098】
また、図10のように、ジョイスティック47は、その上部に並んで配置された第1及び第2押しボタンスイッチ47a,47bを備え、第1押しボタンスイッチ47aが押されてオンになると、図9(a)のようなバースト波形電圧で圧電素子54を駆動し、インジェクションキャピラリ35が細胞に接近または当接した位置で微小量の移動を行うことで細胞に対する穿孔動作を行い、ステッピングモータ46によるインジェクションキャピラリ35の駆動が上記穿孔動作をアシストする。また、第2押しボタンスイッチ47aが押されてオンになると、ステッピングモータ46を駆動し、インジェクションキャピラリ35を細胞内の位置から抜くように後退方向C(図11)に駆動する。
【0099】
なお、図10のようにジョイスティック47の上部に設置されたハットスイッチ47dを用いて、第2押しボタンスイッチ47bの上記ボタン操作を代用するように構成してもよい。この場合、図10の第2押しボタンスイッチ47bと、その隣の第3押しボタンスイッチ47cに、ホールディングキャピラリ25の吸う・吐く動作をコントロールできるように割り当てておくことで、ジョイスティック47上でインジェクション用マニピュレータ16のコントロールとホールディングキャピラリ25の吸う・吐く動作のコントロールとが可能となり、このため、細胞のホールディング時及び注入インジェクション時に操作者はジョイスティック47から手を離す必要がなくなり、操作が楽になる。
【0100】
次に、図6〜図8のマニピュレータシステム10の動作について図6〜図11を参照して説明する。図11は、図6の顕微鏡ユニット12による顕微鏡視野を模式的に示し、卵子に対する穿孔・インジェクションのための各ステップ(a)〜(e)を説明するための図である。
【0101】
図11(a)のように、ホールディング用マニピュレータ14を駆動し、図8のモータ29を駆動してシリンジ駆動機構によりホールディングキャピラリ25内を陰圧にし、ホールディングキャピラリ25によりベース22上の卵子Dを固定し保持する。そして、図8,図9のジョイスティック47を右側Rに操作し、ステッピングモータ46を駆動し、インジェクションキャピラリ35の先端35aを卵子Dに接近させる。
【0102】
次に、図11(b)のように、ジョイスティック47を左側L(または右側R)に操作し、コントローラ43でインジェクション用マニピュレータ16のステッピングモータ46を駆動し、インジェクションキャピラリ35の先端35aを卵子Dの透明帯D1に当接させる。このとき、図8のモータ29を駆動してホールディングキャピラリ25内を陰圧にする。この図11(b)の状態が初期状態である。
【0103】
次に、図11(b)の初期状態からインジェクションキャピラリ35による透明帯D1の穿孔動作を行うために、図10のジョイスティック47の上部の第1押しボタンスイッチ47aを押すと、図9(a)のようなバースト波形電圧を圧電素子54に印加し、圧電素子54を時間間隔Tで間欠的に駆動する。
【0104】
このとき、インジェクションキャピラリ35の先端35aを卵子Dの透明帯D1に常時当接させるようにステッピングモータ46を制御することが好ましい。圧電素子54の駆動により、図11(c)のように、インジェクションキャピラリ35が微小変位し透明帯D1を穿孔するが、圧電素子54を駆動する周波数によっては圧電素子54の駆動方向以外にも振動してしまう可能性があるので、キャピラリ35の先端35aを卵子Dに常時密着するようにステッピングモータ46でインジェクション用マニピュレータ16を駆動する。これにより、圧電素子54の駆動方向以外の振動で卵子Dの穿孔効率が低下することを防止することができる。
【0105】
上述の圧電素子54の駆動の間に、図9(c)のようにステッピングモータ46を連続的に駆動してキャピラリ35の先端35aを図9(b)のように直線的増加で変位させることで穿孔動作を行う。このとき、圧電素子54のキャピラリ35の駆動による透明帯D1の穿孔と並行してステッピングモータ46の駆動によりキャピラリ35の先端35aを変位させると、卵子Dの細胞質を傷つけたり、死滅させてしまうような悪影響が生じる場合があるが、ステッピングモータ46による移動量は必要最低限とし卵子Dへのダメージを回避し、圧電素子54は、図9(a)のように、時間間隔Tで間欠的に駆動され、圧電素子54の1回の駆動により生じるキャピラリ35の振動が静定する時間以上の時間間隔Tで駆動されるので、圧電素子54による駆動の悪影響を防ぐことができる。
【0106】
上述のようにして、インジェクション用マニピュレータ16において、ステッピングモータ46及び圧電素子54の駆動によりインジェクションキャピラリ35が穿孔動作を行い、図11(d)のように、インジェクションキャピラリ35の先端35aが前進方向BBに卵子Dの透明帯D1を通して卵子D内へと挿入されると、インジェクションキャピラリ35から精子の入った溶液を注入する。
【0107】
なお、圧電素子54による穿孔動作は、圧電素子54の駆動時間が卵子の個体差により異なるため、押しボタンスイッチ47aを押している間に継続して圧電素子54を駆動し、押しボタンスイッチ47aを離すと圧電素子54及びステッピングモータ46の駆動がオフとなる構成とすることが好ましい。
【0108】
次に、上述のインジェクション動作の後、図11(e)のように、図10のジョイスティック47の上部の第2押しボタンスイッチ47bを押すと、ステッピングモータ46を逆回転で駆動し、インジェクションピペット34の軸長手方向に沿って駆動して、後退方向Cにインジェクションキャピラリ35を駆動することで細胞D内から抜く。
【0109】
上述のように、図6〜図11の本実施形態によれば、ステッピングモータ46及び圧電素子54の駆動により、穿孔動作・インジェクション開始からインジェクションキャピラリ35を細胞(卵子D)から抜くまでの操作を実行するが、ステッピングモータ46を駆動しキャピラリ35を軸方向に変位させながら卵子Dの穿孔を行うとき、圧電素子54にバースト波形電圧を印加して穿孔を行うことができる。このように、圧電素子54の駆動による卵子Dに対する穿孔動作をステッピングモータ46による動作がアシストすることにより、穿孔動作に要する時間を短縮することができる。
【0110】
また、上述の圧電素子54への電圧非印加の時間間隔Tが充分長いので、圧電素子54の1回の駆動に起因するキャピラリ35の振動を軽減することができる。これにより、ステッピングモータ46の駆動による卵子Dの穿孔動作のときに、圧電素子54の駆動でキャピラリ35が振動することによる卵子Dの細胞質の傷つけや死滅のような悪影響を防止できる。このように、圧電素子54でインジェクションキャピラリ35を微小振動させても、その振動を軽減でき、安定かつ確実な穿孔・インジェクションの動作が可能となる。
【0111】
また、図7の圧電素子54を含む圧電アクチュエータがマニピュレータ16の外部のピペット34側に配置されずに、マニピュレータ16の駆動部40,42に内蔵されているため、圧電アクチュエータのセッティング等の取り付け作業が容易である。
【0112】
次に、図12により図9の変形例を説明する。図12は、キャピラリ駆動の変形例を説明するための図6のマニピュレータ16における圧電素子への圧電駆動信号(a)、キャピラリ35の軸方向の変位(b)及びステッピングモータへの駆動信号(c)を概略的に示す図である。
【0113】
図9では圧電素子54を時間間隔Tで間欠的に駆動する間にステッピングモータ46を連続的に駆動したが、図12の例は、時間間隔T内でステッピングモータ46を間欠的に駆動するようにしたものである。すなわち、図12(a)のように圧電素子54を図9(a)と同様に時間間隔Tで間欠的に駆動するが、ステッピングモータ46を図12(c)のように時間間隔T1で間欠的に駆動する。時間間隔T1は、その始期t1及び終期t2が図12(a)の時間間隔T内に含まれる。これにより、インジェクションキャピラリ35は変位が図12(b)のように時間間隔T1に対応して停滞し直線的増加ではなく、また、圧電素子54の駆動によるキャピラリ35の振動が静定する時間間隔T内で、ステッピングモータ46によるキャピラリ35の駆動を一定時間(T1)停めることで、キャピラリ35が振動することによる卵子Dの細胞質の傷つけや死滅のような悪影響を一層防止することができ、さらに、ステッピングモータ46の駆動を間欠的に行うことにより、その駆動による卵子の変形、卵子への穿孔時のダメージを最小限にすることができる。
【0114】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図12(c)のステッピングモータの駆動信号は、図のように、時間T2でパルス信号を出力し時間T1で出力しないバースト波形とすることができる。
【0115】
〈第3の実施形態〉
図14は第3の実施形態によるマニピュレータシステムの概略的構成を示す図である。
【0116】
図14のマニピュレータシステム10は、顕微鏡観察下で細胞等の微小対象物に微細な人工操作を実施するためのシステムとして、顕微鏡ユニット12と、ホールディング用マニピュレータ14と、インジェクション用マニピュレータ16とを備え、顕微鏡ユニット12の左右にマニピュレータ14,16が配置されている。図14のマニピュレータシステム10は、図6と同様に構成されており、各部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0117】
図15は、図14のXY軸テーブル36,Z軸テーブル38に付加される微動機構(圧電アクチュエータ)の例を示す断面図である。XY軸テーブル36とZ軸テーブル38には、ナノポジショナとして、図15に示す微動機構44が付加(内蔵)されている。図15に示す微動機構44は、図7と同様に構成されており、各部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0118】
図16は図14のコントローラ43の制御系要部を示すブロック図である。図17は図14,図16のジョイスティックの具体例を示す斜視図である。図18は図17のジョイスティックの押しボタン部の操作によるインジェクションキャピラリの2次元的駆動で描かれる軌跡を概略的に示す図である。
【0119】
図14のマニピュレータ16の駆動装置40、42には、粗動用モータとして、ステッピングモータ46(図16)が内蔵されており、ステッピングモータ46の回転がリニアガイドやボールねじ等により直線運動に変換され各軸の直動駆動源となるように構成されている。図16のように、コントローラ43のCPU44は、粗動時にステッピングモータ46に対してドライバ(図示省略)を介して駆動を指令し、また、微動時に圧電素子54に対してアンプ(図示省略)を介して駆動を指令する。
【0120】
また、ホールディング用マニピュレータ14のホールディングピペット24にはシリンジの駆動機構が連結されており、図16のようにシリンジの駆動機構のモータ29がドライバ(図示省略)を介してコントローラ43により制御され、モータ29が作動することでホールディングキャピラリ25内を陰圧にし、細胞等をホールディングキャピラリ25で固定し保持する。
【0121】
図14,図16のようにコントローラ43に接続されたジョイスティック47を用いて、例えば、図17のようにジョイスティック47が中立位置でインジェクション用マニピュレータ16が停止した状態から、本体部47eが操作者により掴まれて右側Rまたは左側Lに操作されたとき、ステッピングモータ46を駆動しインジェクションキャピラリ35を粗動駆動する。
【0122】
また、図17のように、ジョイスティック47は、その上部に並んで配置された押しボタンスイッチ47a,47b,47cを備えている。押しボタンスイッチ47aが押されてオンになると、圧電素子54を駆動し、インジェクションキャピラリ35が細胞に接近または当接した位置で微小量の移動を行う。ステッピングモータ46は圧電素子54の駆動によるインジェクションキャピラリ35の細胞に対する穿孔動作をアシストする。また、押しボタンスイッチ47bが押されてオンになると、ステッピングモータ46を駆動し、インジェクションキャピラリ35を細胞内の位置から抜くように後退方向C(図19)に駆動する。
【0123】
さらに、押しボタンスイッチ47cが押されてオンになると、ステッピングモータ46によりインジェクションキャピラリ35を2次元的に駆動し、図18の実線のように、yz平面上で略四角形状(または破線の円弧状)の軌跡を描くように一方向に駆動する。かかるキャピラリ35の駆動により、細胞をはじくように操作し、平面上で回転させることができ、卵を所望の位置に容易にセッテングできる。
【0124】
また、図14,図16のコントローラ43に対し、キャピラリ35を図18のように2次元的に駆動するときのストローク量(図18のy軸方向及びz軸方向)及び速度を設定できるようになっている。また、図16のコントローラ43には、設定されたストローク量及び速度でキャピラリ35を図18のように2次元的に駆動するようにマニピュレータ16を制御するプログラムが格納されており、CPU44がかかるプログラムを読み込み、押しボタンスイッチ47cの操作に基づいてマニピュレータ16に対し指令信号を出力する。
【0125】
次に、図14〜図16のマニピュレータシステム10の動作について図14〜図20を参照して説明する。図19は図18のインジェクションキャピラリの駆動により卵を回転させて位置決める様子を模式的に示す図である。図20は、図14の顕微鏡ユニット12による顕微鏡視野を模式的に示し、卵に対する穿孔・インジェクションのための各ステップ(a)〜(e)を説明するための図である。図22は図19のように卵をyz平面で回転させる様子を示す模式図である。
【0126】
図14のようにマニピュレータ14,16にガラス製のキャピラリ25,35をセッティングし、作業可能な状態にする。マニピュレータ16をジョイスティック47で駆動させてインジェクションキャピラリ35を卵Dに向けて移動させるが、操作対象となるベース22上の卵が操作者の希望する位置にないとき、卵を回転させ所定の位置に回転移動させる。その際、卵を回転させる際の所定のストローク量、速度を操作者が設定する。
【0127】
次に、図16,図17のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47cを押すことで、マニピュレータ16は2次元平面において、設定したストローク量、速度の指令値でキャピラリ35を駆動する。かかる駆動によりキャピラリ35が描く軌跡は、図18の四角形状の軌跡mであるが、円弧状の軌跡nであってもよく、その軌跡の移動方向は、時計回り、反時計回りのいずれでもよい。円弧状の軌跡nは、円状や楕円状であってよい。
【0128】
すなわち、インジェクション用マニピュレータ16の押しボタンスイッチ47cによる駆動でキャピラリ35は、その先端35a(図20)が例えば図19のようにyz平面上の位置(1)からy軸に沿って位置(2)に移動し、次に、位置(2)からz軸に沿って位置(3)に移動し、次に、位置(3)からy軸に沿って位置(4)に移動し、次に、位置(4)からz軸に沿って位置(1)に移動するようにして一方向に移動する。これにより、キャピラリ35の先端35aが卵Dをはじくような駆動をするため、図19,図22のように、結果的に卵Dがyz平面において回転方向Rに回転する。なお、上述のようなキャピラリ35による卵Dの2次元的駆動の際に、キャピラリ35を図22のように回転方向rに自転させることで、卵Dの2次元的駆動が容易になる。
【0129】
図16,図17のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47cを押し続けている間は、インジェクション用マニピュレータ16は2次元駆動をし続け、操作者が希望する位置に卵Dが回転したとき、押しボタンスイッチ47cを離して駆動を止め、ホールディング用マニピュレータ14により卵Dに対し次のようにホールディング操作をする。これにより、卵Dを所望の位置に容易にセッテングできる。
【0130】
図20(a)のように、ホールディング用マニピュレータ14を駆動し、図16のモータ29を駆動してシリンジ駆動機構によりホールディングキャピラリ25内を陰圧にし、上述のようにしてセッテングされたベース22上の卵Dをホールディングキャピラリ25により固定し保持する。そして、図16,図17のジョイスティック47を右側Rに操作し、ステッピングモータ46を駆動し、インジェクションキャピラリ35の先端35aを卵Dに接近させる。
【0131】
次に、図20(b)のように、ジョイスティック47を左側L(または右側R)に操作し、コントローラ43でインジェクション用マニピュレータ16のステッピングモータ46を駆動し、インジェクションキャピラリ35の先端35aを卵Dの透明帯D1に当接させる。このとき、図16のモータ29を駆動してホールディングキャピラリ25内を陰圧にする。
【0132】
次に、図18のジョイスティック47の上部の押しボタンスイッチ47aを押すことで、圧電素子54を駆動し、図20(c)のようにインジェクションキャピラリ35による透明帯D1の穿孔動作を行い、続いて、ステッピングモータ46及び圧電素子54の駆動によりインジェクションキャピラリ35が穿孔動作を行い、図20(d)のように、インジェクションキャピラリ35の先端35aが前進方向BBに卵Dの透明帯D1を通して卵D内へと挿入されると、インジェクションキャピラリ35から精子の入った溶液を注入する。
【0133】
なお、圧電素子54による穿孔動作は、圧電素子54の駆動時間が卵の個体差により異なるため、押しボタンスイッチ47aを押している間に継続して圧電素子54を駆動し、押しボタンスイッチ47aを離すと圧電素子54がオフとなる構成とすることが好ましい。
【0134】
次に、上述のインジェクション動作の後、図20(e)のように、図18のジョイスティック47の上部の押しボタンスイッチ47bを押すと、ステッピングモータ46を逆回転で駆動し、インジェクションピペット34の軸長手方向に沿って駆動して、後退方向Cにインジェクションキャピラリ35を駆動することで細胞D内から抜く。
【0135】
上述のように、図14〜図20の本実施形態によれば、マニピュレータ14,16において、図16のシリンジ駆動用モータ29の駆動によりホールディングキャピラリ25で卵Dを保持し、ステッピングモータ46及び圧電素子54の駆動により卵Dの位置決め・穿孔動作・インジェクション開始からインジェクションキャピラリ35を細胞(卵D)から抜くまでの操作を実行する。なお、DNAマイクロインジェクションの際は、前述の圧電素子54による穿孔動作はせずステッピングモータの駆動のみでインジェクション操作をする。
【0136】
上記操作の際に、卵Dのインジェクションする位置が見え難い場合には、図16,図17のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47cを押すと、マニピュレータ16により、設定したストローク量・速度でインジェクションキャピラリ35をyz平面上で2次元駆動することで、卵の一部をはじくような作用を行い、卵を回転させ、作業時に適切な位置に位置決めすることで、卵を操作し易い位置に容易にセッティングできる。
【0137】
図21により、図17のジョイスティック47の変形例を説明する。図21は図17のジョイスティック47による操作の代わりに図14のマウス49を用いて表示部45の画面上で操作する構成を説明するための概略図である。
【0138】
すなわち、図21の表示部45の画面45a上に、例えば、図20のような顕微鏡視野の画像を表示するとともに、図14のマウス49でクリックすることでスイッチと同様の動作をするボタン41a〜41dを表示する。これらのボタン41a〜41dをマウス49でクリック操作することで、図19,図20(a)〜(e)と同様の操作を行うことができる。
【0139】
図21の表示部45の画面45a上で回転ボタン41dをクリックすることで、図18,図19のようにインジェクションキャピラリ35を平面上で2次元的に駆動し、卵を回転させて所望の位置にセッティングできる。また、注入ボタン41aは図17のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47aと対応し、後退ボタン41bは押しボタンスイッチ47bと対応し、同様の機能を有する。停止ボタン41cをクリックすると、マニピュレータ16の駆動が停止する。
【0140】
次に、第3の実施形態における卵を所望の位置に容易にセッテングできるようにしたインジェクションキャピラリの別の駆動例について図23〜図25を参照して説明する。
【0141】
図23は図17のジョイスティックの押しボタン部の操作によるインジェクションキャピラリの駆動により描かれる軌跡を概略的に示す図である。図17のジョイスティック47を操作し、押しボタンスイッチ47cが押されてオンになると、ステッピングモータ46によりインジェクションキャピラリ35を駆動し、図23の実線のように、xy平面上で略直線の軌跡Pを描くように往復駆動し、また、略四角形状の軌跡m(または破線の円弧状の軌跡n)を描くように一方向に駆動する。かかるキャピラリ35の駆動により細胞を操作し、平面上で回転させることができ、卵を所望の位置に容易にセッテングできる。
【0142】
この場合のマニピュレータシステム10の動作について図24をさらに参照して説明する。図24は図23のインジェクションキャピラリの往復駆動により卵を回転させて位置決める様子を模式的に示す図(a)〜(c)である。
【0143】
図14のようにマニピュレータ14,16にガラス製のキャピラリ25,35をセッティングし、作業可能な状態にする。マニピュレータ16をジョイスティック47で駆動させてインジェクションキャピラリ35を卵Dに向けて移動させるが、操作対象となるベース22上の卵が操作者の希望する位置にないとき、卵を回転させ所定の位置に回転移動させる。その際、卵を回転させる際の所定のストローク量、速度を操作者が設定する。
【0144】
すなわち、図24(a)のように、ジョイスティック47の操作でインジェクションキャピラリ35を卵Dの下端近傍に移動させる。このとき、ホールディング用マニピュレータ14を駆動し、図3のシリンジの駆動機構のモータ29の駆動を制御してホールディングキャピラリ25内を比較的弱い陰圧にし、卵Dをキャピラリ25で通常の保持の場合よりも弱く保持する。
【0145】
次に、図16,図17のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47cを押すことで、マニピュレータ16はキャピラリ35を駆動し、図24(b)のように、直線方向t(往路方向)に直線的に移動させることで、その先端35aが卵Dの下部を押すようにして卵Dの一部に作用することにより卵Dを回転方向Rに回転させる。
【0146】
次に、マニピュレータ16はキャピラリ35を、図24(c)のように、直線方向tの反対の直線方向t’(復路方向)に直線的に移動させ、先端35aが卵Dの下部から離れるようにすることにより卵Dを回転方向Rにさらに回転させる。
【0147】
上述の往復駆動の際に、キャピラリ35を、設定したストローク量、速度の指令値で駆動する。かかる駆動によりキャピラリ35が描く軌跡は、図23の直線状の軌跡pである。
【0148】
図16,図17のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47cを押し続けている間は、インジェクション用マニピュレータ16はキャピラリ35を駆動し続け、図24(b)、(c)の動作を繰り返し、操作者が希望する位置に卵Dが回転したとき、押しボタンスイッチ47cを離して駆動を止め、ホールディング用マニピュレータ14により卵Dに対し次のようにホールディング操作をする。これにより、卵Dを所望の位置に容易にセッテングできる。
【0149】
図20(a)〜(e)と同様に、上述のようにしてセッテングされたベース22上の卵Dをホールディングキャピラリ25により固定し保持し、インジェクションキャピラリ35の先端35aが前進方向BBに卵Dの透明帯D1を通して卵D内へと挿入され、インジェクションキャピラリ35から精子の入った溶液を注入してから、インジェクションキャピラリ35を駆動することで卵D内から抜く。
【0150】
本例においても、マニピュレータ14,16において、図16のシリンジ駆動用モータ29の駆動によりホールディングキャピラリ25で卵Dを保持し、ステッピングモータ46及び圧電素子54の駆動により卵Dの位置決め・穿孔動作・インジェクション開始からインジェクションキャピラリ35を細胞(卵D)から抜くまでの操作を実行する。
【0151】
上記操作の際に、卵Dのインジェクションする位置が見え難い場合には、図16,図17のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47cを押すと、マニピュレータ16により、設定したストローク量・速度でインジェクションキャピラリ35をxy平面上で2次元駆動し往復動させることで、卵の一部を押し付けるような作用を行い、卵を回転させ、作業時に適切な位置に位置決めすることで、卵を操作し易い位置に容易にセッティングできる。なお、DNAマイクロインジェクションの際は、前述の圧電素子54による穿孔動作はせずステッピングモータの駆動のみでインジェクション操作をする。
【0152】
上述の図21により本駆動例の変形例を説明すると、図21の表示部45の画面45a上に、例えば、図20のような顕微鏡視野の画像を表示するとともに、図14のマウス49でクリックすることでスイッチと同様の動作をするボタン41a〜41dを表示する。これらのボタン41a〜41dをマウス49でクリック操作することで、図24,図20(a)〜(e)と同様の操作を行うことができる。
【0153】
図21の表示部45の画面45a上で回転ボタン41dをクリックすることで、図23,図24のようにインジェクションキャピラリ35を平面上で2次元的に駆動し往復動させて、卵を回転させて所望の位置にセッティングできる。また、注入ボタン41aは図17のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47aと対応し、後退ボタン41bは押しボタンスイッチ47bと対応し、同様の機能を有する。停止ボタン41cをクリックすると、マニピュレータ16の駆動が停止する。
【0154】
次に、図25により図24(a)〜(c)のインジェクションキャピラリの移動方向を変えた変形例について説明する。図25は、図24(a)〜(c)のインジェクションキャピラリの移動方向を変えた変形例を説明するための図である。
【0155】
図25のように、マニピュレータ16は、インジェクションキャピラリ35を平面上で2次元的に駆動し、その先端35aが位置(1)から位置(2)に直線的に移動することで卵Dを押し付けて回転方向Rに回転させ、その後、キャピラリ35をいったん図の下方の位置(3)に移動させてから、位置(1)に戻るように駆動する。これにより、卵Dを回転させて所望の位置にきたら、マニピュレータ16の駆動を停めることで、卵Dを所望の位置に容易にセッティングできる。かかる駆動によりキャピラリ35が描く軌跡は略三角形状である。また、ホールディングキャピラリ25で陰圧の強弱を変えて卵Dを保持することは上述と同様である。
【0156】
なお、マニピュレータ16を駆動してインジェクションキャピラリ35を移動させる方向は図24や図25に限定されず、図23のように、キャピラリ35が描く軌跡が図23の四角形状の軌跡mや円弧状の軌跡nとなるようにしてもよく、その軌跡の移動方向は、時計回り、反時計回りのいずれでもよい。円弧状の軌跡nは、円状や楕円状であってよい。これにより、卵Dを所望の位置に容易にセッテングできる。また、図24,図25では、卵Dを図の下方で操作したが、上方で操作するようにしてもよいことはもちろんである。
【0157】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、インジェクションキャピラリ35の平面上での卵の位置のセッティングのための2次元駆動を、図17のジョイスティック47に設けた押しボタンスイッチ47cや図21の表示部45の画面45a上に表示した回転ボタン41dで行うようにしたが、本発明はこれに限定されず、他の部分に設けたボタン操作部で行うようにしてもよいことはもちろんである。例えば、図14のマウス49として押しボタンスイッチを有するマウスを用いて、かかるマウス49に付属した押しボタンスイッチを押すことで、ジョイスティック47の押しボタンスイッチ47cや画面45a上の回転ボタン41dと同様の操作を行わせるように構成してもよい。
【0158】
〈第4の実施形態〉
【0159】
第4の実施形態によるマニピュレータシステムは、図14と同様の構成であり、その微動機構(圧電アクチュエータ)も図15と同様の構成である。なお、図14のコントローラ43として本実施形態ではパーソナルコンピュータを用いている。
【0160】
本実施形態におけるマニピュレータシステム10のパーソナルコンピュータ43による制御について図26を参照して説明する。図26は第3の実施形態を説明するためにパーソナルコンピュータ43の制御系要部を示すブロック図である。
【0161】
図26のパーソナルコンピュータ43は、演算手段としてのCPU(中央演算処理装置)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM、ROMなどのハードウエア資源を備え、所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って制御部46が各種の制御を行うように駆動指令を出力する。すなわち、制御部46は、図14の顕微鏡ユニット12の焦点合わせ機構81,マニピュレータ14の駆動装置30,32,シリンジポンプ29、及び、マニピュレータ16の駆動装置40,42,注入ポンプ39,微動機構44(図15)の圧電素子54を制御し、それぞれに駆動指令を、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介して出力する。
【0162】
また、制御部46は、マニピュレータ14,16を所定のシーケンスで自動的に駆動するようになっている。かかるシーケンス駆動は、所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいて制御部46が順次、それぞれに駆動指令を出力することで行われ、例えば、ベース22上で多数の卵を操作する場合、マニピュレータ14,16が操作済みの卵と操作前の卵との区別のための操作を行うようになっている。
【0163】
また、パーソナルコンピュータ43は、顕微鏡20を通してカメラ18で撮像した顕微鏡視野の画像信号が入力する画像入力部82と、画像入力部82からの画像信号をA/D(アナログ/デジタル)変換して画像処理を行う画像処理部83と、画像処理前後の画像情報が表示部45へと出力する画像出力部84と、カメラ18で撮像された操作対象物の卵の核等の位置やホールディングキャピラリ25とインジェクションキャピラリ35との位置等を画像処理後の画像情報に基づいて検出するための位置検出部85と、を備え、各部82〜85が制御部46により制御されるようになっている。
【0164】
画像処理部83は、例えば、検出対象物の位置を検出するためにエッジ抽出処理やパターンマッチングを行い、その処理結果に基づいて位置検出部85が卵の核やキャピラリ25,35の位置を検出し、それらの検出位置に基づいてキャピラリ25,35等の駆動が制御される。
【0165】
また、表示部45には、カメラ18で撮像したキャピラリ25,35の画像を含めて卵等の微小な操作対象物の顕微鏡画像や演算結果に関する情報などが表示される。
【0166】
図14,図26の顕微鏡ユニット12,マニピュレータ14,16の各動作は、ジョイスティック47の操作による入力情報に基づいて図26の制御部46により制御される。ジョイスティック47はホールディング用マニピュレータ14及びインジェクション用マニピュレータ16に対しそれぞれ1つずつ用意される。図27に図1,図26のジョイスティックの具体例を示す斜視図を示す。
【0167】
図27のように、ジョイスティック47は、基台から直立し操作者により掴まれて右側R,左側Lに傾斜するように、また、ねじるように操作可能な本体部47eと、その上部に並んで配置された第1,第2及び第3押しボタンスイッチ47a,47b,47cと、さらにその上部に配置された4方向や8方向等の多方向ハットスイッチ47dと、押しボタンスイッチ47a〜47cの反対側に配置されたトリガスイッチ47gと、を備えている。
【0168】
図1,図26のジョイスティック47の押しボタンスイッチ47a〜47c,多方向ハットスイッチ47d,本体部47e,トリガスイッチ47gには、それぞれ、顕微鏡ユニット12の焦点合わせ機構81、各マニュピレータ14,16のXYZ軸、シリンジポンプ29,注入ポンプ39,圧電素子54の各駆動の操作機能が割り当てられている。例えば、トリガスイッチ47gを引きながら本体部47eを右側R,左側Lに傾斜させることでマニュピレータ14,16のXY駆動を行うことができ、本体部47eをねじることでZ駆動を行うことができる。
【0169】
また、ホールディング用マニピュレータ14に関しては、多方向ハットスイッチ47dの上方向、下方向ボタンを押すと、焦点合わせ機構81が駆動し、顕微鏡20の焦点合わせができ、右方向、左方向ボタンを押すと、卵等の操作対象物に対するXY平面回転、YZ平面回転を行うことができ、また、押しボタンスイッチ47b,47cはシリンジ調整のためのものであり、押しボタンスイッチ47b,47cの1つを押すと、シリンジポンプ29によるホールディングキャピラリ25の吸引圧(陰圧)を調節できる。また、例えば、押しボタンスイッチ47aを用いて、マニピュレータ14,16に対し自動でシーケンス駆動を行わせることができる。
【0170】
また、インジェクション用マニピュレータ16に関しては、多方向ハットスイッチ47dを用いてモータ駆動によるXY平面における微動を制御でき、押しボタンスイッチ47b,47cはシリンジ調整のためのものであり、押しボタンスイッチ47aは穿孔駆動のオン・オフ制御のためのものである。
【0171】
図27のジョイスティック47における上記スイッチの操作により、図14,図26のマニピュレータ14が駆動され、そのホールディングキャピラリ25がベース22上の卵等を保持し、また、その保持の吸引圧(陰圧)が制御される。
【0172】
また、ジョイスティック47における上記スイッチの操作により、マニピュレータ16が駆動され、そのインジェクションキャピラリ35の先端がインジェクション方向に直線的に変位し、卵に挿入されたインジェクションキャピラリ35から所定の溶液が注入ポンプ39の駆動により卵に対しインジェクションされ、さらに必要であれば、そのキャピラリ35の駆動の間または駆動の後に、穿孔用電圧が圧電素子54に印加され、圧電素子54が駆動され、インジェクションキャピラリ35が卵に接近または当接した位置で微小量の移動を行うことで卵に対する穿孔動作を行い、挿入されたインジェクションキャピラリ35から所定の溶液が注入ポンプ39の駆動により卵に注入(インジェクション)される。その後、インジェクションキャピラリ35を卵内の位置から抜くように駆動する。
【0173】
次に、図14,図15、図26,図27のマニピュレータシステム10による動作について図28,図29をさらに参照して説明する。
【0174】
図28は、図26の顕微鏡ユニット12による顕微鏡視野を模式的に示す図であり、キャピラリ25,35の各先端位置及び操作対象物の卵を示し、操作対象物の卵に対する交換等の各操作ステップ(a)乃至(e)を説明するための図である。図29は、同じく、キャピラリ25,35の各先端位置及び操作対象物の卵を示し、操作対象物の卵に対する位置決め等の各操作ステップ(a)乃至(e)を説明するための図である。
【0175】
例えば、図1のベース22上で多数の卵に対するDNAマイクロインジェクションを行うとき、インジェクション操作済み卵を未操作卵と区別しながら移動させ、未操作卵を新たにセッティングするようにして卵を次々と交換することが必要であるが、かかる卵交換ステップがマニピュレータシステム10によるシーケンス駆動で次のようにして自動的に実行される。
【0176】
図28(a)は、インジェクションキャピラリ35を通してのDNAインジェクション操作の終了した操作済卵D1がホールディングキャピラリ25に所定の陰圧で保持されており、インジェクションキャピラリ35が操作済卵D1から抜かれた状態を示す。この状態で図27のジョイスティック47のトリガスイッチ47gをオンにすると、次のようにマニピュレータ14,16がシーケンス駆動される。
【0177】
すなわち、図28(a)に示す現状のインジェクションキャピラリ35とホールディングキャピラリ25との位置関係を制御部46が図26の位置検出部85の検出結果に基づいて認識する。
【0178】
次に、図28(b)のように、インジェクション用マニピュレータ16を駆動してインジェクションキャピラリ35を図の破線位置から実線の所定位置ヘ移動させる。この所定位置は、例えば、インジェクションキャピラリ35の先端35aがホールディングキャピラリ25の先端で図の下方近傍とし、インジェクションキャピラリ35が未操作卵D2と操作済卵D1との間に位置させることで、未操作卵D2と操作済卵D1とが区別される。
【0179】
次に、図28(c)のように、図28(b)の移動動作の実行中または後、図26のシリンジポンプ29を制御し、ホールディングキャピラリ25の陰圧の圧力状態を予め設定した分だけ陽圧にして陰圧を弱めて卵に対するホールド力を緩める。この操作は、卵を完全にリリースするような圧力状態ではなく、軽くホールドする程度の圧力状態にすることが望ましい。
【0180】
次に、図28(d)のように、インジェクション用マニピュレータ16を駆動してインジェクションキャピラリ35を図の上方に図の破線位置から実線位置ヘ移動させる。このとき、緩くホールドされた操作済卵D1もホールディングキャピラリ25から離れ、インジェクションキャピラリ35の移動とともに図の破線位置から実線位置へ移動する。
【0181】
そして、図28(e)のように、ホールディングキャピラリ25の圧力状態は弱い陰圧であるため、図の下方にある次に操作する未操作卵D2が自動的に図の破線位置から実線位置へと移動しホールディングキャピラリ25により保持される。このとき、インジェクションキャピラリ35が操作済卵D1と未操作卵D2との間に位置し、操作済卵D1と未操作卵D2とが混在しないように仕切り機能を発揮するため、これら卵が混在することを防ぐことができる。
【0182】
上述のようにして、インジェクションキャピラリ35によるDNAインジェクション操作が終了した操作済卵D1をホールディングキャピラリ25から離して移動させて次の未操作卵D2をホールディングキャピラリ25に保持させてセッテイングすることができ、操作済卵と未操作卵卵との交換を自動的に実行できる。しかも、操作済卵D1はインジェクションキャピラリ35により仕切られて未操作卵D2と混在することを防止できる。
【0183】
次に、図29(a)のように、インジェクション用マニピュレータ16を駆動してインジェクションキャピラリ35を所定位置へ移動させる。この所定位置は、例えば、未操作卵D2の時計4〜5時方向の下方近傍である。この状態で、未操作卵D2の核dが所定位置に表示部45の顕微鏡画像で確認できれば、シリンジポンプ29を制御してホールディングキャピラリ25によるホールド力を強め、未操作卵D2を確実にホールドする。
【0184】
上述の未操作卵D2の確実なホールドのとき、インジェクションしたい核dは顕微鏡画像で時計3時方向に確認できることが望ましい。すなわち、核dの所定位置は時計3時方向である。この理由として、インジェクションする場所を時計3時方向にセッティングすることでホールディングとインジェクションとの軸が一致し、作業者がインジェクションし易いためである。さらに、例えば、未操作卵D2の核dが9時方向に位置した場合、インジェクションのときにインジェクションキャピラリ35がホールディングキャピラリ25に接触し折損する可能性があるため、3時方向にセッティングすることが好ましい。
【0185】
また、図29(b)のように、未操作卵D2において核dが所定位置(時計3時方向)に確認できない場合は、制御部46が自動的にインジェクションキャピラリ35を制御して未操作卵D2を図のYZ平面で第1回転パターンまたはXY平面で第2回転パターンで回転させる。このとき、ホールディングキャピラリ25による陰圧は弱いままであり、回転操作はインジェクションキャピラリ35で未操作卵D2を第1回転パターンではじくような動作や第2回転パターンで突っつく動作をすることで行い、未操作卵D2をどのような方向で回転させるかはカメラ18からの画像情報に対し制御部46が位置検出部85による核dの検出結果に基づいて判別し、所定位置に核dが確認できるまで継続して動作する。このとき、回転操作ごとに顕微鏡ユニット12の焦点合わせ機構81をジョイスティック47の所定スイッチで操作し、未操作卵D2の核dの位置を表示部45で確認しながら焦点合わせ機構81を駆動する。
【0186】
上述のようにして、図29(c)のように、未操作卵D2の核dを所定位置に位置決めた後、核dとインジェクションキャピラリ35との焦点が一致するように、インジェクションキャピラリ35が取付けられたインジェクション用マニピュレータ16のZ軸を駆動し上下動させて、画像情報を判定値とした焦点合わせをすることにより、インジェクションキャピラリ35をZ軸方向の位置にセッテイングする。また、未操作卵D2の核dの所定位置への設定後、シリンジポンプ29を制御してホールディングキャピラリ25によるホールド力を強め、未操作卵D2を確実にホールドする。
【0187】
次に、図29(d)のように、インジェクション用マニピュレータ16のXY軸を駆動し、マニピュレータ16をXY平面で図の破線位置から実線位置へ移動させることで、インジェクションキャピラリ35をXY軸方向の位置にセッティングする。
【0188】
上述のようにしてインジェクションキャピラリ35のインジェクション操作可能な位置へのセッティングが完了すると、操作者は、未操作卵D2の核dの位置を表示部45で見ながら、図27のジョイスティック47のスイッチを操作することで、図29(e)のように、インジェクション用マニピュレータ16を駆動して未操作卵D2にインジェクションキャピラリ35を挿入して注入ポンプ39を駆動することでDNAをインジェクションする操作を行う。
【0189】
上述のインジェクション操作が終了すると、インジェクション用マニピュレータ16を駆動してインジェクションキャピラリ35を卵から抜くことで、上述の図28(a)の状態になる。
【0190】
以上のようにして、未操作卵D2をホールディングキャピラリ25にセッテイングした後(図28(e))、未操作卵D2の核dの位置を確認し、必要な場合は核dの位置を調整してから、インジェクションキャピラリ35をインジェクション操作可能な位置へセッティングすることを自動でシーケンス駆動で行うことができる。
【0191】
以上のように、本実施形態によれば、図28(a)〜(e)及び図29(a)〜(d)の各操作をシーケンス駆動により自動で実行できることで、操作者は複雑な操作をすることなしに卵及びインジェクションキャピラリ35のセッティングが可能となり、操作者に対する負担が軽減され、熟練技術者以外の操作者でも巧みな操作をせずにマイクロマニピュレータシステムを使用することが可能となる。
【0192】
なお、図28(a)〜(e)及び図29(a)〜(e)での各操作は、DNAマイクロインジェクション以外に、卵へ精子を注入する作業の際にも操作者が作業し易いようにセッティングでき、この場合にも有効な操作方法である。
【0193】
従来、遺伝子組み換え操作や顕微受精操作のとき、細胞や卵等の操作対象物を操作する前後に所定の位置にセッティングする操作は、マニピュレータの基本操作に慣れた熟練技術が必要であったが、本実施形態のマイクロマニピュレータシステムによれば、かかる操作が容易に行うことができるように電動マニピュレータをシーケンス駆動し、熟練技術がなくても操作処理が可能であるとともに、従来手動で操作した同じ動作を自動的に操作するため、操作者が違和感なく効率よく作業できる。
【0194】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、上述のシーケンス駆動は、図28(a)のような状態から開始したが、本発明はこれに限定されず、他の状態から開始するようにしてもよく、例えば、図29(e)のインジェクション操作の後から開始し、インジェクションキャピラリ35を卵から抜く動作からシーケンス駆動するようにしてもよい。また、例えば、図28(a)〜(e)の操作をシーケンス駆動し、図29(a)〜(e)の操作を手動としてもよい。
【0195】
また、図26の焦点合わせ機構81は、自動で合焦動作を行うように構成してもよい。また、本実施形態の操作方法は、細胞操作、遺伝子組み換え操作、顕微受精等の微細操作に好適であり、このマイクロマニピュレータシステムは、細胞や卵等の電子機器検査・分析装置等に適用して好ましいものである。
【0196】
〈第5の実施形態〉
図30は第5の実施形態によるマニピュレータシステムの概略的構成を示す斜視図である。図31は図30のインジェクション用電動3軸マニピュレータの概略的構成を示す斜視図である。
【0197】
図30は、図6,図14のマニピュレータシステム10をより具体化したマニピュレータシステム500を示している。すなわち、図30のように、本実施形態によるマニピュレータシステム500は、ホールディング用の電動3軸(XYZ)マニピュレータ140と、インジェクション用の電動3軸(XYZ)マニピュレータ160と、倒立顕微鏡120と、電動の試料ステージ110と、を備え、各電動3軸マニピュレータ140,160は倒立顕微鏡120と一体になるように取り付けられている。なお、電動3軸マニピュレータ140,160は、試料ステージ110と一体構造となるように取り付けてもよく、これにより外部からの振動等の影響が受け難くなる。
【0198】
インジェクション用の電動3軸マニピュレータ160には、電動で圧力調整可能なインジェクタ340を設置軸方向に往復運動するようにモータ駆動及び圧電素子駆動が可能なナット回転型アクチュエータ170が取り付けられている。ホールディング用の電動3軸マニピュレータ140にも同様のナット回転型アクチュエータ191が取り付けられている。
【0199】
倒立顕微鏡120は電動焦点合わせアクチュエータ、対物レンズを切り替えるレボルバ部及び観察対象物への光照射のための光源を有する。
【0200】
また、各電動3軸マニピュレータ140,160の設置時の安定性を向上するため、各電動3軸マニピュレータ140,160を重力方向に支持するための脚149,169を設置している。各脚149,169は、図30では各電動3軸マニピュレータ140,160に対しそれぞれ1箇所しか配置していないが、複数でもよい。
【0201】
図31のように、電動3軸マニピュレータ160は、3つの1軸アクチュエータ161,162,163を3軸(XYZ)方向に組み合わせて構成されている。各1軸アクチュエータ161〜163は、ステッピングモータとカップリングとBS(ボールねじ)と案内要素とスライダとから構成され、オーバーストロークを防止するために駆動軸方向の両端にリミットスイッチが設置されている。また、各1軸アクチュエータ161〜163のステッピングモータの励磁を切ることにより、各1軸アクチュエータ161〜163の各手動ノブ161a,162a,163aによりマニピュレータ160を各軸方向に手動操作することも可能な構成となっている。電動3軸マニピュレータ140も同様に構成されている。
【0202】
1軸アクチュエータ163をZ軸方向の駆動用とし、そのZ軸スライダ163b上にはθステージ164が配置され、さらにθステージ164上にはナット回転型アクチュエータ170が配置されている。θステージ164は、ナット回転型アクチュエータ170の設置角度を調整するためのものであり、手動タイプであるが、電動タイプに構成してもよい。θステージ164の設置角度は、インジェクタ340に装着されるガラス製のインジェクションキャピラリ341の折れ曲がり角度またはインジェクション角度と一致するよう設定される。
【0203】
次に、図30,図31のナット回転型アクチュエータ170について図32,図33を参照して説明する。図32は図31のナット回転型アクチュエータ170をθステージ164の平面と平行な方向に切断してみた断面図である。図33は図31,図32のナット回転型アクチュエータ170の斜視図である。
【0204】
図32,図33に示すように、ナット回転型アクチュエータ170は、圧電アクチュエータとしての本体を構成するハウジング480を備えており、ほぼ筒状に形成されたハウジング480内には、ピペット状のインジェクタ340を駆動対象として、外周側にねじ部を有するねじ軸520と、ねじ軸520を囲む中空状の回転軸540が挿通されている。ハウジング480はその底部がベース560に固定されており、微動機構、ナノポジショナとして構成されている。
【0205】
ねじ軸520の先端側には、治具580を介してピペット状のインジェクタ340の根元側が連結されており、ねじ軸520の中程には、ねじ軸520外周のねじ部とねじ結合されるねじ要素としてのボールねじナット(BSナット)600が装着され、治具580とねじ軸520との間にはスライダ620が連結されている。スライダ620はベース560とほぼ直交する方向に配置され、切り欠き640を間にしてリニアガイド660に連結されている。リニアガイド660はベース560底部側に配置され、ベアリング680を介して、ねじ軸520の軸方向に沿って移動自在にベース560に連結されている。
【0206】
すなわち、リニアガイド660は、ねじ軸520の軸方向の移動に合わせて、ねじ軸520の先端側を支持したスライダ620を、ベース560に沿って往復動させるようになっている。この際、ねじ軸520のうちボールねじナット600よりもインジェクタ340側の部位が、スライダ620を介してリニアガイド660でスライド自在に支持されるので、ねじ軸520の直線運動をインジェクタ340へ伝達することができる。
【0207】
ボールねじナット600は、回転軸540の軸方向一端側(先端側)の段部540aに固定されているとともに、ねじ軸520外周のねじ部とねじ結合され、ねじ軸520がその軸方向に沿って往復動(直線運動)するのを自在に支持するようになっている。すなわち、ボールねじナット600は、回転軸540の回転運動をねじ軸520の直線運動に変換するための要素として構成されている。
【0208】
回転軸540の軸方向他端側は、中空モータ700内の回転部に連結している。中空モータ700のハウジング740は、その底部側がベース560に弾性体としてのゴムワッシャ760を介してボルト780が固定されている。中空モータ700が駆動されると回転軸540が回転し、回転軸540の回転運動がボールねじナット600を介してねじ軸520に伝達され、ねじ軸520がその軸方向に沿って直線運動するようになっている。
【0209】
一方、回転軸540の段部540aに隣接して、軸受800、820が内輪間座840を間にして収納されている。軸受800、820は、それぞれ内輪800a、820aと、外輪800b、820bと、内輪と外輪間に挿入されたボール800c、820cを備え、各内輪800a、820aが回転軸540の外周面に嵌合され、各外輪800b、820bがハウジング480の内周面に嵌合され、回転軸540を回転自在に支持するようになっている。軸受800、820は、内輪間座840を間にし、回転軸540にロックナット860により固定されている。軸受800は、ハウジング480内の段部540aと円環状のスペーサ920と当接することにより、回転軸540の軸方向への移動が規制されるようになっている。軸受820の外輪820bとハウジング480の蓋880との間に、円環状の圧電素子920と円環状のスペーサ900が圧入されている。
【0210】
また、各軸受800、820、圧電素子920は、スペーサ900の長さを調節し、蓋880を閉めることにより、予圧が付与される。具体的には、スペーサ900の長さを調整し、蓋880を閉めると、その位置に応じた締結力が軸受820と軸受800の外輪820b、800bに、軸方向に沿った押圧力として予圧が付与されるとともに、同時に圧電素子920にも予圧が付与される。これにより、軸受800、820および圧電素子920に所定の予圧が付与され、軸受800、820の外輪間に軸方向間の距離としての間隙940が形成される。
【0211】
圧電素子920は、リード線(図示せず)を介してコントローラとしてのパソコン(PC)430(図35参照)に接続されており、パソコン430からの電圧に応じて回転軸540の長手方向(軸方向)に沿って伸縮する圧電アクチュエータの一要素として構成されている。すなわち、圧電素子920は、パソコン430からの印加電圧に応答して、回転軸540の軸方向に沿って伸縮し、回転軸540をその軸方向に沿って微動させるようになっている。回転軸540が軸方向に沿って微動すると、この微動がねじ軸520を介してインジェクタ340に伝達され、インジェクタ340の位置が微調整されることになる。
【0212】
上述のように、ナット回転型アクチュエータ170は、中空モータ700によりボールねじナット600の回転運動をねじ軸520の直線運動に変換しねじ軸520を直動するが、ねじ軸520取り付けられたインジェクタ340は、中空モータ700の駆動時にリニアガイド660により回転せず、回り止めの機能を有している。このため、中空モータ700の駆動によりインジェクタ340が直線往復運動できる。
【0213】
図32,図33のナット回転型アクチュエータ170は、中空モータ700を駆動することで、インジェクタ340を駆動し顕微鏡視野中央部ヘセットし、また、顕微鏡視野中央部から退避する機能を有し、圧電素子920を駆動することで、インジェクタ340の先端に取り付けたインジェクションキャピラリ341(図31)による細胞(卵)に対する穿孔動作をアシストすることができる。
【0214】
次に、図30の試料ステージ110について図34を参照して説明する。図34は、図30の試料ステージ110を示す斜視図である。図34のように、試料ステージ110は、2つの1軸アクチュエータ111,112が2軸方向に配置され、試料台113を2軸方向に移動させるように構成され、図30の倒立顕微鏡120に取り付けられている。試料ステージ110を駆動する各アクチュエータ111,112の各モータの軸端には手動ノブ111a,112aがそれぞれ取り付けられており、各モータの励磁を切ることにより手動操作も可能となっている。
【0215】
次に、図30のマニピュレータシステム500を制御するコントローラとしてのパソコンについて図35を参照して説明する。図35は、図30〜図34のマニピュレータシステム500についてのパソコンによる制御系を説明するための要部ブロック図である。
【0216】
図35のパソコン(パーソナルコンピュータ)430は、各種制御を行うCPU(中央演算処理装置)431と、記憶装置に格納されておりマニピュレータシステム500の使用時に読み出されるプログラム432と、液晶パネルやCRT等からなる表示部433と、ハードディスクや光ディスク等の記録媒体に顕微鏡画像等を保存可能な記憶部430aと、を備え、操作者により操作されるジョイスティック470及びマウス470aがパソコン430への入力手段として接続されている。パソコン430は、CPU431によりプログラム432の動作及びジョイスティック470やマウス470aの各操作に基づいてマニピュレータシステム500の各部分を制御する。
【0217】
すなわち、パソコン430は、信号発生器438を駆動し、その信号によりピエゾアンプ434を介してナット回転型アクチュエータ170のピエゾ素子からなる圧電素子920を駆動する。また、パソコン430は、端子台ボックス435を介してナット回転型アクチュエータ170と電動3軸マニピュレータ140,160と試料ステージ110と顕微鏡120のハンドルを電動で回転させる焦点合わせアクチュエータ436とにそれぞれ電気的に接続されており、ナット回転型アクチュエータ170の中空モータ700、電動3軸マニピュレータ160の各1軸アクチュエータ161〜163、試料ステージ110の各1軸アクチュエータ111,112及び焦点合わせアクチュエータ436がそれぞれ駆動されるようになっている。また、顕微鏡120に関し、対物レンズのレボルバ部や光源の光量調整も電動駆動するようにしてもよい。
【0218】
また、マニピュレータ160には、インジェクタ340の圧力調整を行うシリンジモータが含まれ、そのモータが同様に駆動制御されることでシリンジの圧力を調整することができる。また、顕微鏡120には撮像素子から構成されたカメラ437が配置されており、カメラ437により撮像された顕微鏡画像がパソコン430の表示部433に表示される。
【0219】
また、ホールディング用のマニピュレータ140も同様に駆動されるが、マニピュレータ140にはホールディングキャピラリの圧力(陰圧)調整を行うシリンジモータが含まれ、そのモータが同様に駆動制御されることでシリンジの圧力(陰圧)を調整することができる。
【0220】
次に、図35のジョイスティックについて図36を参照して説明する。図36は、図35のジョイスティックの例を示す斜視図である。
【0221】
上述のマニピュレータシステム500は、少なくとも2つのジョイスティック470を使用して操作される。ジョイスティック470は、一例として図36に示すようなハンドル479と複数のボタン471〜477が配置されたものを使用する。
【0222】
図36のジョイスティック470のハンドル479と複数のボタン471〜477によりマニピュレータシステム500において次の表1のような操作を実行できるようになっている。ハンドル479は、右方向R、左方向Lに傾斜させる(倒す)ことでマニュピレータ140,160をX軸方向、Y軸方向に駆動でき、回転させる(ひねる)ことでZ軸方向に駆動できる。なお、表1において、4方向のハットスイッチ477の「⇔」は、左右方向の2つのスイッチであり、同じく「↓↑」は、上下方向の2つのスイッチである。また、陰圧+、圧力+は各シリンジモータによる圧力絶対値の増加、陰圧−、圧力−は圧力絶対値の減少である。微動駆動Z+、−は、Z軸方向に対する移動量の増加、減少である。
【0223】
【表1】

【0224】
なお、表1のようなハンドル479と複数のボタン471〜477の各操作に対するレイアウトは、操作者が使い易いように適宜変更が可能である。また、細胞操作で圧電素子920を駆動する際、複数のパラメータで駆動する必要が生じる可能性があるが、その場合は、同様のボタンを追加等することにより対応できる。
【0225】
また、使用するジョイスティック470は、ハンドル479を倒す(傾斜させる)度合いに応じて速度調整し、離すとマニピュレータ140,160の駆動を停止するタイプでもよいし(速度指令型)、ハンドル479を倒した分だけマニピュレータ140,160を駆動するタイプでもよい(位置制御型)。また、上述のような操作に用いるインターフェイスは、ジョイスティック以外に、例えば、図35のマウス470aとして複数ボタンが存在する2次元または3次元マウスを使用してもよい。
【0226】
次に、パソコン430の表示部433に表示されるコントローラ画面について図37を参照して説明する。図37は図35のパソコン430の表示部433に表示されるコントローラ画面の一例を示す図である。
【0227】
パソコン430の表示部433のコントローラ画面上には、カメラ437による顕微鏡画像を少なくとも2画面で表示するようになっており、例えば、図37のように、顕微鏡画像を第1表示画面433aに標準倍率で、第2表示画面433bに拡大倍率でそれぞれ表示できるようになっている。図37の例では、マニピュレータシステム500で卵Dが操作され、ガラス製のホールディングキャピラリ342に陰圧で保持された卵Dに対しインジェクタ340の先端のインジェクションキャピラリ341が穿孔動作した状態を第1表示画面433aに標準倍率で表示し、第2表示画面433bに拡大倍率で表示している。これにより、低倍率の顕微鏡画像と高倍率の顕微鏡画像とを参照するとき、顕微鏡画像の表示倍率の変更の必要性がなくマニピュレータシステム500による迅速な操作処理が可能となるとともに、常に標準倍率の画像で顕微鏡下の細胞(卵)等の試料の状態を把握しながら、拡大倍率の画像で微細な操作を行うことができる。
【0228】
表示部433のコントローラ画面には、図37に示すように、略中央左右に第1,第2表示画面433a,433bが配置されるとともに、その下側に動作状態表示パネル433cが配置され、その上側には、画像操作パネル433d,試料ステージ操作パネル433e及びマニピュレータ操作パネル433fが配置されており、マウス470aによりそれぞれ操作が可能になっている。
【0229】
動作状態表示パネル433cには、マニピュレータ140,160の実際のXYZ位置座標等が表示部433gに表示され、また、ジョイスティック470のボタン操作時に、どのボタンを押しているかを認識可能な表示部433hが配置されており、画像をみながら操作状態を把握することができ、さらに、マニピュレータ140,160の電動・手動の切り替え部433i及び休止ボタン433jが配置されている。
【0230】
また、画像操作パネル433dには、第1,第2表示画面433a,433bにおける画像の倍率メニュー433k及び画像の表示位置メニュー433mが配置されており、操作者が画像の倍率や表示位置を調整可能となっている。また、顕微鏡画像はコントローラ画面上でのマウス470aによる操作で記憶部430aに保存でき、また、コントローラ画面上のボタンを押すことで、動画保存も可能である。
【0231】
また、試料ステージ操作パネル433eには、試料ステージ110の駆動パラメータを調整するメニュー433nに加えて、XY駆動、原点復帰等操作が可能なボタンが配置されている。試料ステージ110は表示画面433a,433b上の顕微鏡画像を見ながらボタン操作により駆動できる。例えば、ボタンを押している間だけ+X方向に動かすことができる。
【0232】
また、マニピュレータ操作パネル433fには、マニピュレータ140,160の駆動パラメータを調整するメニュー433pがあり、操作者が好みのパラメータに設定して使用することができる。また、マニピュレータ操作パネル433fには、図31〜図33のナット回転型アクチュエータ170を駆動するボタン433qが配置されている。このボタン433qを押すことで、予め設定したストロークでナット回転型アクチュエータ170が駆動し、インジェクタ340を顕微鏡中心部ヘセットし、また、退避させることができる。
【0233】
なお、ナット回転型アクチュエータ170及び試料ステージ110は、上述のように図37のコントローラ画面上のボタン操作により行うことができるが、ジョイスティック470や別途設置したスイッチ等で行うようにしてもよい。
【0234】
特許文献4のような従来のマニピュレータシステムによれば、顕微鏡設置場所にジョイスティック等を設置し、接眼レンズを操作者がのぞきながら操作するが、このような操作では、ジョイスティックの操作を目視しないまま行わざるを得ないので、使用するには熟練した技術が必要となるのに対し、上述のマニピュレータシステム500によれば、表示部433のコントローラ画面をみながらジョイスティック470の操作も目視できるとともに、コントローラ画面にもジョイスティック470の操作状態が表示されるので、マニピュレータシステム500を簡単かつ確実に使用することができる。
【0235】
上述の図30〜図37のマニピュレータシステム500により、多数の卵に対し連続的に精子等のインジェクションを行うことができるが、この場合の卵交換について説明する。
【0236】
すなわち、実際の細胞(卵)操作の際には、1連の作業時に複数の細胞(卵)を使用するが、このとき、1つの細胞(卵)を操作した後、操作した細胞(卵)から未操作細胞(卵)ヘホールディングしなおす必要がある。このような場合、上述の図28(a)〜(e)、図29(a)〜(e)のようにして、自動的に細胞(卵)を交換することができる。かかる卵交換方法によれば、細胞(卵)が培地中にあるとき、それぞれが分離し存在している揚合は問題なく、自動的に細胞(卵)交換作業が可能である。しかし、培地中の多数の細胞(卵)は互いに密着し存在していることがあり、かかる場合には、自動で細胞(卵)交換作業をしても、操作したい細胞(卵)を捕獲することができない。
【0237】
そこで、図28(a)〜(e)、図29(a)〜(e)において、卵D1,D2の交換のときの駆動時に、ある動作から次の動作へ移る場合、自動ではなく、各動作が正常に終了したことを操作者が表示部433で確認し、ジョイスティック470のボタン操作、表示部433のコントローラ画面上のボタン操作を動作毎に行うことで、次のステップへ進むシーケンス駆動を行う。
【0238】
そして、卵交換作業中に複数の未操作卵が密着して存在している場合は、必要に応じて操作者がインジェクション用マニピュレータ160、試料ステージ110をジョイスティック470のボタン操作、表示部433のコントローラ画面上のボタン操作により、操作して未操作卵の分離作業をした後に、細胞(卵)交換作業のシーケンス駆動を継続する。これにより、確実にかつ容易に卵交換作業が可能となる。
【0239】
以上のように、マニピュレータシステム500によれば、操作する細胞(卵)を交換する作業時に、マニピュレータ140,160が正常に動作していたことを目視で判断しながらシーケンス駆動により作業できるので、多数の未操作卵が密着して存在していても未操作卵の分離を行うことができ、卵操作済卵と未操作卵とを確実に交換することができる。
【0240】
従来、マニピュレータを操作する際は、操作者が顕微鏡の接眼レンズをのぞきながら、マニピュレータをジョイスティック等で操作していたが(例えば、特許文献4参照)、そのため、ジョイスティック操作時のジョイスティックのハンドルを目視することができず操作には熟練した技術が必要となり、また、長時間作業時は作業者への負担も大きくなっていた。これに対し、本実施形態のマニピュレータシステム500は、インジェクタ340をモータ駆動・圧電素子駆動により設置軸方向に往復運動可能なアクチュエータ170を配置したインジェクション用電動3軸マニピュレータ160と、ホールディング用電動3軸マニピュレータ140と、電動試料ステージ110と、電動焦点合わせアクチュエータ436と、電動で圧力調整可能なインジェクタ340と、カメラ437を取り付けた顕微鏡120とを備え、顕微鏡画像は、カメラ437で撮像した画像情報をパソコン430の表示部433に映し出し、その画像を操作者が見ながら操作できるので、作業者への負担を軽減しながら操作することが可能となる。また、細胞操作時に操作済の細胞から未操作の細胞へ交換する作業があり、この操作には熟練した技術が必要であるが、本実施形態では、各動作を自動化し、各動作へ移る際はボタン操作によりシーケンス駆動するので、確実かつ容易に交換作業が可能となる。
【0241】
〈第6の実施形態〉
【0242】
第6の実施形態による遠隔操作可能なマニピュレーションシステムについて図38を参照して説明する。図38は、第6の実施形態によるネットワークを介して遠隔操作可能なマニピュレーションシステムを説明するための概念図である。
【0243】
図38に示すように、本実施形態によるマニピュレーションシステム901は、ネットワーク通信により上述のマニピュレータシステム500を遠隔操作可能に構成したものである。
【0244】
マニピュレーションシステム901では、マニピュレータシステム500及びコントローラとしてのパソコンPC1を端子台ボックス435の各コネクタに接続する。PC1は、図17のパソコン430と同じであってよいが、図38ではマニピュレータシステム500の制御のためのプログラム(1)がインストールされており、また、インターネット等のネットワークを介して外部との通信のインターフェースである通信部430bが備えられている。
【0245】
さらに、マニピュレーションシステム901では、図38のように、遠隔操作のためのパソコンPC2を別途用意し、PC1とともにネットワークNに接続可能にする。ネットワークNとしては、インターネットであってよいが、専用回線や特定領域に設けられたネットワーク等であってもよい。
【0246】
遠隔操作のためのパソコンPC2は、インターネット等のネットワークNを介して外部との通信のインターフェースである通信部PC21と、液晶パネルやCRT等からなり顕微鏡画像や制御プログラムとしてのコントロール画面をWebページで表示可能な表示部PC22と、各種制御を行う中央演算処理装置(CPU)PC23と、を備え、操作者により操作されるインターフェイスPC24が指令入力手段として接続されている。
【0247】
パソコンPC2は、ネットワークNを介してPC1と接続し、図38の通信AによりPC1から送信された画像情報及びコントローラ情報を受信し、表示部PC22に顕微鏡画像や制御プログラム画面を表示するとともに、通信BによりPC1に対しインターフェイスPC24から入力されたインターフェイス情報を送信し、PC1は受信したインターフェイス情報に基づいてマニピュレータシステム500を操作する。
【0248】
インターフェイスPC24は、例えば、ジョイスティック470(図35,図36)やマウス470a(図35)であってよく、ジョイスティック470の場合は、図36のハンドル479と複数のボタン471〜477を上述の表1と同様の操作に割り当てることができる。
【0249】
図38のマニピュレーションシステム901における遠隔操作について説明する。まず、図30のマニピュレータシステム500に、マニピュレータ操作に必要なインジェクションキャピラリ341(図31,図37)、ホールディングキャピラリ342(図37)やサンプルの入ったシャーレ等をセッティングすることで、マニピュレーションを実行できる状態とする。
【0250】
次に、PC1及びPC2を起動しネットワークNを介して接続するとともに、図38のPC1でマニピュレータシステム500を駆動するためのプログラム(1)を起動する。起動したプログラム(1)自体を遠隔操作するため、PC1からネットワークNを介してPC2にコントローラ情報が送信されると、PC2の表示部PC22にWebページによる制御プログラム画面が表示される。また、カメラ437で撮像した顕微鏡画像情報がPC1からネットワークNを介してPC2に送信されて表示部PC22に表示される。このような構成でプログラム(1)を実行すると、PC2に接続しているインターフェイスPC24からの指令入力信号によりマニピュレータシステム500を制御でき、かつ、PC1上で起動しているプログラム(1)はPC2上に開いたWebページ内に表示されて制御可能となっているため、マニピュレータシステム500の全ての操作をPC2上で行うことができる。このようにして、PC2によりマニピュレータシステム500を遠隔操作することができる。なお、PC2の表示部PC22の制御プログラム画面(コントローラ画面)は図37のような画面表示の構成であってよいが、図37の例に限定されるものではない。
【0251】
図39により図38の変形例を説明する。図39のように、PC2にはインターフェイスPC24からの信号でマニピュレータシステム500を制御するためのプログラム(2)がインストールされており、プログラム(2)を起動し、PC2でインターフェイスPC24から指令入力信号を入力すると、プログラム(2)でインターフェイス情報をPC1に送信し、PC1のプログラム(1)がネットワークN経由でプログラム(2)から送信されたインターフェイス情報を読み取ることで、マニピュレータシステム500の全ての操作をPC2上で行うことができる。
【0252】
次に、本実施形態による遠隔操作可能なマニピュレーションシステムの別の例について図40を参照して説明する。図40は、第6の実施形態によるネットワークを介して遠隔操作可能なマニピュレーションシステムの別の例を説明するための概念図である。
【0253】
図40に示すマニピュレーションシステム902は、図38と比べて、画像情報通信のために別のプログラムにより通信するものである。すなわち、上述の図38では、プログラム(1)に顕微鏡からの顕微鏡画像を表示するプログラムが内蔵された構成であるため、ネットワーク通信の方法等によっては、プログラム(1)によるコントロール画面(制御プログラム画面)をWebページで表示しコントロール画面上で制御し画像情報を転送する際に、通信するデータ容量が大きくなってしまう。そこで、図40のように、画像情報通信用にPC1,PC2に別途ポートを設置し、画像情報をPC1にインストールしたプログラム(3−1)及びPC2にインストールしたプログラム(3−2)によりネットワーク通信Fにより通信する。また、PC2からPC1へのインターフェイス情報及びPC1からPC2へのコントローラ情報はネットワーク通信Gにより図38と同様に通信する。
【0254】
図40のマニピュレーションシステム902によれば、PC2でマニピュレータシステム500を遠隔操作する際に、画像情報の通信が円滑になり、かつ、マニピュレータ操作時の通信におけるタイムラグを低減することができる。
【0255】
図41により図40の変形例を説明する。図41の例は、図40においてPC2にインターフェイスPC24からの信号でマニピュレータシステム500を制御するためのプログラム(2)を図39と同様にインストールしたものである。本実施形態のその他の例として、図39のプログラム(2)内に画像情報通信のためのプログラムを挿入し使用するようにしてもよく、これによって、マニピュレータシステム500を駆動するためのWebページ上の操作に対する負荷を低減することができる。
【0256】
以上のように、図38〜図41のマニピュレーションシステム901,902によれば、マニピュレータシステム500を遠隔操作することができるので、マニピュレータシステム500をクリーンベンチ内で使用する場合に、操作者は、操作者の上肢をクリーンベンチ内に入れて操作する必要がなくなり、また、クリーンルームで作業する必要がある場合に、操作者はクリーンスーツを着てインジェクション作業する必要がなくなり、このため、操作者に対する負担を軽減できる。また、制約された環境下でマニピュレータシステム500を使用して作業する場合にも、マニピュレータシステム500を遠隔操作することで、かかる制約された環境下でもマニピュレータシステム500を使用できる。また、距離的に遠く離れた場合でもPC1,PC2がネットワークに接続可能であれば、遠隔操作が可能となる。
【0257】
また、熟練した技術者がマニピュレータシステム500の傍にいなくてもインジェクション操作することが可能になり、マニピュレータシステム500が設置されている場所に操作者がいる必要がなく、他の者がインジェクションキャピラリ341やホールディングキャピラリ342やサンプルの入ったシャーレ等の準備のみすれば、操作可能となる。
【0258】
〈第7の実施形態〉
図42は第7の実施形態によるマニピュレータシステムについての制御系を説明するための要部ブロック図である。図43は図42のマニピュレータシステムで使用可能なワイヤレスインターフェイスの例を示す平面図である。
【0259】
第7の実施形態によるマニピュレータシステムは、図30〜図34と同様の構成であるが、マニュピレータの操作手段としてワイヤレスのインターフェイスを用いたものである。すなわち、図42のように、本実施形態によるマニピュレータシステム501は、インジェクション用マニピュレータ160を主に操作するための操作信号をワイヤレスで送信する第1ワイヤレス操作部430d及びホールディング用マニピュレータ140を主に操作するための操作信号をワイヤレスで送信する第2ワイヤレス操作部430eを備える。パソコン430は、第1ワイヤレス操作部430d及び第2ワイヤレス操作部430eからの操作信号を受信する受信部430cを備え、かかる受信した操作信号に基づいてマニピュレータシステム501の各部分を制御する。各ワイヤレス操作部430d,430eは電波や赤外線により無線で操作信号を送信する。
【0260】
第1ワイヤレス操作部430d及び第2ワイヤレス操作部430eとして、例えば、図43のようなワイヤレスのポインタ及びマウスが一体となったワイヤレスインターフェイスを使用する。図43のワイヤレスインターフェイスは、マウス機能とポインタ機能とを有し、手動されるクリック部KRと複数のボタン部BTとを備え、机上で使用するときにはマウス機能を有し、空中で操作してもポインタ機能を有するようになっている。マウス機能時は光学センサで機能し、空中操作時はワイヤレスインターフェイス中のジャイロセンサ等が機能し操作可能となる。マニピュレータ140,160を使用するときは、ポインタ機能により手動で発生する操作信号をパソコン430が受信し検知し、マニピュレータ140,160を操作する。試料ステージ110を駆動する場合は、図43のワイヤレスインターフェイスを机上に置き、マウス機能を使用し操作する。その他のマニピュレータシステム501内のアクチュエータやインジェクタは複数のボタン部BUを用いて操作する。
【0261】
パソコン430は、図43のワイヤレスインターフェイスの使用状態を検知し、現状どちらのモード(机上、空中)で操作しているかを判断し、また、ポインタ機能によるポインタの位置を認識しその位置に従ってマニピュレータシステム501を駆動する。操作者はポインタを表示部43に表示された画像上に置き、任意に動かして操作する。
【0262】
なお、ポインタの小さな動きを検知し、誤動作を招く可能性があるため、操作時は、ワイヤレスインターフェイス中のボタンを押している間だけ、マニピュレータシステム501を駆動可能にして操作することが好ましい。また、図43のワイヤレスインターフェイスにおいてボタン部BUの個数を必要に応じて増やすことで、マニピュレータシステム501における各種の操作が可能となる。また、図43のワイヤレスインターフェイスは一例であり、インターフェイスの形状、種類は問わず、他の形状・種類のものを使用できる。
【0263】
第1ワイヤレス操作部430d及び第2ワイヤレス操作部430eを図43のワイヤレスインターフェイス1個で構成してもよく、この場合、図43のワイヤレスインターフェイスを空中で操作する場合はインジェクション用マニピュレータ160を駆動し、机上で操作する場合はホールディング用マニピュレータ140を駆動するように使用してもよい(逆でもよい)。
【0264】
第1ワイヤレス操作部430d及び第2ワイヤレス操作部430eを2個のワイヤレスインターフェイスから構成した場合、各ワイヤレスインターフェイスをインジェクション用、ホールディング用として使用するが、折衷で操作するようにしてもよく、この場合は空中で使用する場合はマニピュレータ駆動、机上で使用する場合は試料ステージ110等のアクチュエータを駆動するように使用してもよい(逆でもよい)。
【0265】
また、顕微鏡画像を表示部433上に映し出し、図37のように、顕微鏡画像を標準倍率、拡大倍率の2種類を表示し、各画像上にポインタを当てて操作する際、各画像に対するマニピュレーションシステムの速度ゲインを設定するようにしてもよい。その結果、標準倍率の画像上にポインタを当てたときのマニピュレータの駆動よりも、拡大倍率の画像上にポインタを当てたとのマニピュレータの駆動を細かく操作できる。
【0266】
本実施形態によれば、表示部433上に映し出された顕微鏡画像を見ながら、操作者が操作し易い姿勢・位置でマニピュレータシステム501を操作することができ、操作者への負担を軽減できる。また、顕微鏡120の近くで操作する必要がないため、操作者が操作する際に顕微鏡へ伝わる振動を軽減でき、振動に起因する顕微鏡120への悪影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0267】
【図1】第1の実施形態に係るマニピュレータの概略構成図である。
【図2】(a)はカメラ視野f内におけるガラスキャピラリの移動を示した図、(b)は圧電素子への印加信号を示した図である。
【図3】ガラスキャピラリの移動を示した概略図である。
【図4】圧電素子の電圧降下によるガラスキャピラリの初期状態への移動を示した概略図である。
【図5】圧電素子の位置を補正するステッピングモータの駆動信号を示した図である。
【図6】第2の実施形態によるマニピュレータシステムの概略的構成を示す図である。
【図7】図6のXY軸テーブル36,Z軸テーブル38に付加される微動機構の例を示す断面図である。
【図8】図6のコントローラ43の制御系要部を示すブロック図である。
【図9】図6のマニピュレータ16における圧電素子への圧電駆動信号(a)、キャピラリ35の軸方向の変位(b)及びステッピングモータへの駆動信号(c)を概略的に示す図である。
【図10】図6,図8のジョイスティックの具体例を示す斜視図である。
【図11】図6の顕微鏡ユニット12による顕微鏡視野を模式的に示し、卵子に対する穿孔・インジェクションのための各ステップ(a)〜(e)を説明するための図である。
【図12】キャピラリ駆動の変形例を説明するための図6のマニピュレータ16における圧電素子への圧電駆動信号(a)、キャピラリ35の軸方向の変位(b)及びステッピングモータへの駆動信号(c)を概略的に示す図である。
【図13】従来のマイクロマニピュレータの概略的構成を示す斜視図である。
【図14】第3の実施形態によるマニピュレータシステムの概略的構成を示す図である。
【図15】図14のXY軸テーブル36,Z軸テーブル38に付加される微動機構の例を示す断面図である。
【図16】図14のコントローラ43の制御系要部を示すブロック図である。
【図17】図14,図16のジョイスティックの具体例を示す斜視図である。
【図18】図17のジョイスティックの押しボタン部の操作によるインジェクションキャピラリの2次元的駆動で描かれる軌跡を概略的に示す図である。
【図19】図18のインジェクションキャピラリの駆動により卵を回転させて位置決める様子を模式的に示す図である。
【図20】図14の顕微鏡ユニット12による顕微鏡視野を模式的に示し、卵に対する穿孔・インジェクションのための各ステップ(a)〜(e)を説明するための図である。
【図21】図17のジョイスティック47による操作の代わりに図14のマウス49を用いて表示部45の画面上で操作する構成を説明するための概略図である。
【図22】図19のように卵をyz平面で回転させる様子を示す模式図である。
【図23】第3の実施形態の別の駆動例を説明するための図であり、図17のジョイスティックの押しボタン部の操作によるインジェクションキャピラリの2次元的駆動で描かれる軌跡を概略的に示す図である。
【図24】図23のインジェクションキャピラリの往復駆動により卵を回転させて位置決める様子を模式的に示す図(a)〜(c)である
【図25】図24(a)〜(c)のインジェクションキャピラリの移動方向を変えた変形例を説明するための図である。
【図26】第4の実施形態を説明するためにパーソナルコンピュータ43の制御系要部を示すブロック図である。
【図27】図26のジョイスティックの具体例を示す斜視図である。
【図28】図26の顕微鏡ユニット12による顕微鏡視野を模式的に示す図であり、キャピラリ25,35の各先端位置及び操作対象物の卵を示し、操作対象物の卵に対する交換等の各操作ステップ(a)乃至(e)を説明するための図である。
【図29】図26の顕微鏡ユニット12による顕微鏡視野を模式的に示す図であり、キャピラリ25,35の各先端位置及び操作対象物の卵を示し、操作対象物の卵に対する位置決め等の各操作ステップ(a)乃至(e)を説明するための図である。
【図30】第5の実施形態によるマニピュレータシステムの概略的構成を示す斜視図である。
【図31】図30のインジェクション用電動3軸マニピュレータの概略的構成を示す斜視図である。
【図32】図31のナット回転型アクチュエータ170をθステージ164の平面と平行な面で切断してみた断面図である。
【図33】図31,図32のナット回転型アクチュエータ170の斜視図である。
【図34】図30の試料ステージ110を示す斜視図である。
【図35】図30〜図34のマニピュレータシステム500についてのパソコンによる制御系を説明するための要部ブロック図である。
【図36】図35のジョイスティックの例を示す斜視図である。
【図37】図35のパソコン430の表示部433に表示されるコントローラ画面の一例を示す図である。
【図38】第6の実施形態によるネットワークを介して遠隔操作可能なマニピュレーションシステムを説明するための概念図である。
【図39】図38の変形例のマニピュレーションシステムを説明するための概念図である。
【図40】第6の実施形態によるネットワークを介して遠隔操作可能なマニピュレーションシステムの別の例を説明するための概念図である。
【図41】図40の変形例のマニピュレーションシステムを説明するための概念図である。
【図42】第7の実施形態によるマニピュレータシステムについての制御系を説明するための要部ブロック図である。
【図43】図42のマニピュレータシステムで使用可能なワイヤレスインターフェイスの例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0268】
1 マニピュレータ、2 ナット、3 ボールネジ、4 テーブル、5 支持軸受ユニット、6 圧電素子、6X 圧電素子、7 ナノポジショナ、8 ステッピングモータ、10a 制御部、110 試料ステージ、120 倒立顕微鏡、140 ホールディング用マニピュレータ、マニピュレータ、160 インジェクション用マニピュレータ、マニピュレータ、161,162,163 1軸アクチュエータ、170 ナット回転型アクチュエータ、340 インジェクタ、341 インジェクションキャピラリ、342 ホールディングキャピラリ、430 パソコン、コントローラ、470 ジョイスティック、500,501 マニピュレータシステム、700 中空モータ、920 圧電素子、901,902 マニピュレーションシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作試料に対してインジェクションを行なうマニピュレータであって、
XYZ軸方向に駆動可能であり、少なくともインジェクションを行なう軸方向の圧電素子を駆動源とするナノポジショナと、
前記圧電素子に対して信号を印加することにより、該圧電素子を微動動作させる制御部と、を有することを特徴とするマニピュレータ。
【請求項2】
前記制御部は、前記圧電素子に対して信号を印加する際には、ステップ状の信号を印加することを特徴とする請求項1に記載のマニピュレータ。
【請求項3】
前記ステップ状の信号は階段状の波形であることを特徴とする請求項2に記載のマニピュレータ。
【請求項4】
前記マニピュレータは、前記圧電素子を変位させながら駆動可能なモータをさらに備え、
前記制御部は、前記圧電素子が最大に変位した後に、前記圧電素子へ印加する電圧を初期状態に戻すとともに前記圧電素子の変位量を前記モータにより補正する操作を実行することにより、前記マニピュレータのストローク範囲で前記微動動作を実行することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマニピュレータ。
【請求項5】
微小対象物に対し操作を行うキャピラリをその軸方向に駆動するための駆動部と、前記キャピラリの微動動作を行うための圧電素子による圧電アクチュエータと、前記駆動部及び前記圧電素子を制御する制御部と、を備えるマニピュレータであって、
前記制御部は、微小対象物に対する穿孔操作のために、前記駆動部により前記キャピラリをその軸方向に駆動するとともに、前記圧電素子を間欠的に駆動することを特徴とするマニピュレータ。
【請求項6】
前記圧電素子を前記キャピラリの前記圧電素子の駆動による振動が静定するような時間間隔で間欠的に駆動する請求項5に記載のマニピュレータ。
【請求項7】
前記駆動部による前記キャピラリの駆動を前記時間間隔内で停止する請求項6に記載のマニピュレータ。
【請求項8】
前記圧電素子の間欠的駆動のために前記圧電素子にバースト波形電圧を印加する請求項5乃至7のいずれか1項に記載のマニピュレータ。
【請求項9】
前記バースト波形は、振幅及び周波数が設定された正弦波、矩形波または三角形波からなる請求項8に記載のマニピュレータ。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれか1項に記載のマニピュレータの駆動方法であって、前記穿孔操作のとき前記駆動部を前記キャピラリが微小対象物に常時当接するように駆動することを特徴とするマニピュレータの駆動方法。
【請求項11】
キャピラリの微動動作を行うことで微小対象物に対する操作が可能なマニピュレータであって、
前記キャピラリの動作を制御する制御部と、
前記制御部に対し前記キャピラリの動作を指示するために操作者により操作される操作部と、を備え、
前記操作部が、前記指示の少なくとも一部を押されることで実行するボタン操作部を有し、前記ボタン操作部を押すことで、前記キャピラリを平面上で2次元的に駆動することを特徴とするマニピュレータ。
【請求項12】
前記キャピラリを微小対象物が回転するように2次元的に駆動する請求項11に記載のマニピュレータ。
【請求項13】
キャピラリの微動動作を行うことで微小対象物に対する操作が可能なマニピュレータであって、
前記キャピラリの動作を制御する制御部と、
前記制御部に対し前記キャピラリの動作を指示するために操作者により操作される操作部と、を備え、
前記操作部が、前記指示の少なくとも一部を押されることで実行するボタン操作部を有し、前記ボタン操作部を押すことで、前記微小対象物が回転するように前記キャピラリを平面上で略直線状に駆動することを特徴とするマニピュレータ。
【請求項14】
前記キャピラリを略直線状に往復駆動する請求項13に記載のマニピュレータ。
【請求項15】
前記キャピラリを平面上で略多角形状または円弧状の軌跡を描くように2次元的に駆動する請求項11乃至14のいずれか1項に記載のマニピュレータ。
【請求項16】
前記キャピラリを駆動するときのストローク量及び速度が設定可能である請求項11乃至15のいずれか1項に記載のマニピュレータ。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載のマニピュレータと、
微小対象物を保持する別のマニピュレータと、を備えることを特徴とするマニピュレータシステム。
【請求項18】
請求項11乃至16のいずれか1項に記載のマニピュレータにより微小対象物を回転させて前記微小対象物が所定の位置に回転したとき、前記キャピラリの駆動を停め、前記別のマニピュレータで前記微小対象物を前記所定の位置に保持可能である請求項17に記載のマニピュレータシステム。
【請求項19】
請求項11乃至16のいずれか1項に記載のマニピュレータにより前記キャピラリを駆動するとき、前記微小対象物を前記別のマニピュレータで通常の保持の場合よりも弱く保持することを特徴とする請求項17に記載のマニピュレータシステム。
【請求項20】
微小な操作対象物を観察する顕微鏡手段と、前記操作対象物を操作するためにXYZ軸の三方向に電動で駆動可能な一対のマニピュレータと、前記マニピュレータの駆動を制御する制御手段と、前記制御手段を介して前記マニュピレータを駆動する操作手段と、を備え、
前記操作対象物を操作する際に、前記マニピュレータをシーケンス駆動することで、操作後の操作対象物と操作前の操作対象物との交換を自動化したことを特徴とするマニピュレータシステム。
【請求項21】
微小な操作対象物を観察する顕微鏡手段と、前記操作対象物を操作するためにXYZ軸の三方向に電動で駆動可能な一対のマニピュレータと、前記マニピュレータの駆動を制御する制御手段と、前記制御手段を介して前記マニュピレータを駆動する操作手段と、を備え、
前記操作対象物を操作する際に、前記操作手段の操作により各動作に移るように前記マニピュレータをシーケンス駆動することで、操作後の操作対象物と操作前の操作対象物との交換を自動化したことを特徴とするマニピュレータシステム。
【請求項22】
前記マニピュレータに取り付けられたキャピラリ及び前記操作対象物の前記顕微鏡手段による顕微鏡画像を撮影する撮像手段を備え、
前記シーケンス駆動の際に、前記撮像手段により撮影された前記キャピラリ及び前記操作対象物の顕微鏡画像を画像処理し、その画像処理された画像に基づいて前記マニピュレータを駆動することを特徴とする請求項20または21に記載のマニピュレータシステム。
【請求項23】
前記マニピュレータの一方に取り付けられたホールディングキャピラリに保持された操作対象物の特定部分を前記画像処理された画像に基づいて検出し、前記特定部分が所定位置にないとき、前記マニピュレータの他方に取り付けられたインジェクションキャピラリが自動的に前記操作対象物を操作することで前記所定位置に位置決める請求項22に記載のマニピュレータシステム。
【請求項24】
前記マニピュレータに取り付けられたインジェクションキャピラリが前記操作後の操作対象物と前記操作前の操作対象物とを仕切るように前記マニピュレータを駆動する請求項20乃至23のいずれか1項に記載のマニピュレータシステム。
【請求項25】
前記マニピュレータに取り付けられたホールディングキャピラリは、吸引手段により陰圧状態で前記操作対象物を保持するとともにその陰圧が制御可能である請求項20乃至24のいずれか1項に記載のマニピュレータシステム。
【請求項26】
前記操作後の操作対象物を保持するホールディングキャピラリの陰圧を弱めてから、前記マニピュレータに取り付けられたインジェクションキャピラリを移動させることで、前記操作後の操作対象物を前記ホールディングキャピラリから離して移動させる請求項25に記載のマニピュレータシステム。
【請求項27】
前記各マニピュレータはキャピラリをその軸方向に往復動させるアクチュエータを備え、前記撮像手段は電動焦点合わせ機構を備え、
さらに、電動で試料を移動可能な試料ステージと、電動で圧力調整可能なインジェクタと、を備える請求項20乃至26のいずれか1項に記載のマニピュレータシステム。
【請求項28】
請求項20乃至27のいずれか1項に記載のマニピュレータシステムを用いて、前記微小な操作対象物である卵に対してインジェクション操作を行うことを特徴とする微小操作対象物の操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【公開番号】特開2009−202331(P2009−202331A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127278(P2008−127278)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】