説明

ミシン

【課題】設定縫い速度での各アクチュエータの動作確認を可能とする。
【解決手段】ミシンモータ2aにより針上下動を行う針上下動機構と、位置決めモータ76a,77aにより布移動を行う位置決め機構と、縫製に関係する動作を実行するアクチュエータ42,79a,80a,81aと、縫製データ71aに基づいてミシンモータ、位置決めモータ及びアクチュエータの動作制御を行う動作制御手段1000とを備えるミシンにおいて、縫製データに定められた縫い速度に従って回転するミシンモータ又はこれにより駆動される主軸の回転同期信号を仮想的に再現し、ミシンモータを駆動させることなく、仮想的な回転同期信号に同期しながら前記縫製データに基づく位置決め機構及びアクチュエータの動作を実行させる確認動作制御手段1000を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製データに従って縫いを行うミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
一針ごとの針落ち位置を定めた縫製データに従って任意に針落ちを行うことができる従来の電子サイクルミシンにあっては、縫製データの針落ち位置確認のために、前進・後退ジョグキーを備え、その入力に応じてミシンモータを針上位置で停止させたまま一針ごとに縫製データに従った送り動作を行うことができるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−042272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
昨今の縫製においては、縫製データに従って一連の縫いを行う場合に、一縫い目ごとにXY移動データの縫いピッチが変更されたり、縫い方向が変更されたり、或いは随所でアクチュエータを作動する場合に、縫い速度をそれに対応して自動的に変えることで、XY布移動機構のXYステッピングモータの動作や他のアクチュエータの動作が円滑に行われるようにする必要性がある。例えば、縫製途中で糸色を交換したり、角部を縫製する場合には、一時停止コマンドで自動的にミシン停止して自動押さえ上げソレノイド、自動糸切り装置の糸切りモータ、自動糸払いワイパーのソレノイドを作動した後、布の方向を変えて再度自動押さえを下げて縫製を再開する場合がある。このため、縫製データの随所に縫い速度データを設定したり自動で速度を変化させたりするなど、縫製の途中で速度の調整を行うことを可能としている。また、ミシン起動時に所定針数の間低速で縫うソフトスタートを行うために縫いデータに動作コマンドを設定した場合には独自の縫い速度変化をさせたり、縫製中に布の重なりが厚い段部を縫製するときは自動糸調子装置のソレノイドを作動して糸調子を変更たり、布端センサーを作動させてミシンを自動停止させる動作コマンドなどがある。
上記従来のミシンは、縫製中にミシンモータによって回転される主軸に同期してアクチュエータを駆動するために、前記主軸の回転角度を検出して、主軸の所定角度で前記モータやソレノイドなどのアクチュエータの作動を行う動作制御が行われていた。このため、縫いデータを作成した時にXY移動データを確認するために、ミシンモータ及び主軸の駆動を伴わない前進・後退ジョグキーによりXY移動データを読み出してXY移動機構を作動することにより縫い目位置を確認する際には、主軸の回転角度信号を受信することができず、設定された実際の速度でXY移動機構の起動、停止させたり、縫い速度を変化たり、該縫い速度に応じたタイミングでアクチュエータの作動を時系列的に一度に確認することができなかった。
このため、設定縫製速度が布移動やアクチュエータの動作に対して適正か否かの判断を行うことができないという不都合があった。その場合、実際に試し縫いを行う必要が生じるが、量産しないオーダー製品やサンプル製品などの場合には高価な材料を消費することもできず、試し縫いを行うことができなかった。
【0004】
本発明は、設定縫い速度での各アクチュエータの動作確認を可能とすることを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、ミシンモータにより駆動される主軸の回転により縫い針を上下動させる針上下動機構と、位置決めモータにより被縫製物に対して任意の位置に針落ちが行われるように前記縫い針に対して被縫製物を相対的に位置決めする位置決め機構と、縫製に関係する動作を実行するアクチュエータと、前記主軸の回転角度を検出して回転同期信号を出力する主軸検出器と、各縫い目ごとの前記位置決め機構の針落ち位置及びアクチュエータの動作の実行針数を定める縫製データに基づいて、前記回転同期信号に同期して、位置決めモータ及びアクチュエータの動作制御を行う動作制御手段とを備えるミシンにおいて、ミシンモータを前記縫製データに定められた縫い速度で回転し、ミシンモータを縫製データに定められた縫い目数に従って停止するときの主軸の変化に伴う前記回転同期信号を、前記ミシンモータを駆動させることなく仮想同期信号として仮想的に再現して出力する仮想信号出力手段と、前記仮想同期信号に同期しながら前記縫製データに基づく前記位置決め機構及びアクチュエータの動作を実行させる確認動作制御手段を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記確認動作制御手段は、前記縫製データに含まれる前記アクチュエータの動作コマンドの実行の際には、ミシン全体の動作を一時的に停止させる動作制御を行うことを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記確認動作制御手段は、前記縫製データが示す針落ち位置に向かう縫い方向が直前の針落ち位置に向かう縫い方向に対して所定角度以上の変化を生じている場合には、ミシン全体の動作を一時的に中断させる動作制御を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記アクチュエータとして、少なくとも糸切り装置、自動糸調子装置、糸払いワイパー、押さえ上げ装置又は中押さえの下死点位置調節機構の各駆動源の内のいずれか一つ又は複数を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明は、縫製データに定められた縫い速度でミシンモータを駆動した場合に実際に発生する主軸検出器の回転同期信号を仮想的に再現した仮想同期信号を出力して、これに同期しながら位置決め機構及びアクチュエータの動作を実行させるため、実際の縫製時と同様の動作速度及び動作タイミングで位置決め機構及びアクチュエータの仮想的な動作確認を行うことが可能となる。従って、動作確認をより正確に行うことが可能となると共に、試し縫いを不要とし、オーダー品等であっても縫製データの適正化を図ることが可能となる。
【0010】
請求項2記載の発明は、確認動作制御手段が、縫製データに含まれる一針ごとの設定内容を順次実行する過程でアクチュエータの動作コマンドの実行の際に、ミシン全体の動作を一時的に停止させる動作制御を行う。かかる状態から動作の再開指示を入力することでアクチュエータの動作が実行され、これにより、アクチュエータの動作を見過ごすことなくより確実に確認することが可能となる。
また、上記停止制御により、動作コマンドの設定内容を再確認することも可能である。
【0011】
請求項3記載の発明は、確認動作制御手段が、縫製データが示す針落ち位置に向かう縫い方向が直前の針落ち位置に向かう縫い方向に対して所定角度以上の変化を生じている場合には、ミシン全体の動作を一時的に停止させる動作制御を行う。これにより、大きな方向転換の実行箇所を見過ごすことなく認識することができる。さらに、ミシンが縫製データの編集機能を備える場合には、方向転換箇所での布移動やアクチュエータの設定の修正を実行することが可能となる。
【0012】
請求項4記載の発明は、前記アクチュエータとして、少なくとも糸切り装置、自動糸調子装置、糸払いワイパー、押さえ上げ装置又は中押さえの下死点位置調節機構の各駆動源の内のいずれか一つ又は複数を備えることから、これらについて縫い速度や作動タイミングが適正化否かの確認を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(電子サイクルミシンの全体構成)
本発明の実施の形態を図1〜図9に基づいて説明する。
本実施形態において、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布地を保持する布保持部としての保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布地に所定の縫製データ(縫い目パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
図1は本発明にかかる電示サイクルミシン100の斜視図、図2は当該ミシン100の保持枠111や中押さえ29の近傍を示す拡大斜視図である。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0014】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられ、ミシン本体101を操作するためのペダルR等により構成されている。
【0015】
(ミシンフレーム及び主軸)
図1に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在でY軸方向に沿って配設された主軸(図4参照)及び図示しない下軸を有している。主軸はミシンアーム部102aの内部に配され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0016】
主軸は、ミシンモータ2a(図3参照)に接続され、このミシンモータ2aにより回動力が付与される。また、下軸(図示省略)は、図示しない縦軸を介して主軸と連結しており、主軸が回動すると、主軸の動力が縦軸(図示省略)を介して下軸側へ伝達し、下軸が回動するようになっている。
主軸の前端には、主軸の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、図2に示されるように、縫い針108が備えられている。かかる主軸とミシンモータ2aと針棒108aと主軸から針棒108aに上下動の駆動力を付与する図示しない伝達機構により針上下動機構が構成される。
【0017】
なお、主軸にミシンモータを直結するダイレクト駆動の場合には、前記モータに内蔵されたエンコーダとしてのタコジェネレータ2b(図3参照)により主軸の基準角度及びその基準角度の間の詳細角度を検出する回転同期信号が出力される。つまり、ダイレクト駆動の場合にはタコジェネレータ2bが主軸検出器として機能する。
また、主軸に設けたプーリとミシンモータをベルト駆動する場合には、主軸に設けた針位置検出器とミシンモータに内蔵されたエンコーダによりタコジェネレータ2bが構成され、同様に回転同期信号が出力される。つまり、ベルト駆動の場合には、針位置検出器とタコジェネレータ2bの協働により主軸検出器として機能する。
前記回転同期信号として、例えば、ミシンモータ2aにより主軸が15°回転するごとに一つの出力信号を制御装置1000に出力するようになっている。また、主軸の1回転に伴い、針棒108aは1往復の運動を行う。
【0018】
また、下軸(図示省略)の前端には、釜(図示省略)が設けられている。主軸とともに下軸が回動すると、縫い針108と釜(図示省略)との協働により縫い目が形成される。
なお、ミシンモータ2a、主軸、針棒108a、縫い針108、下軸(図示省略)、釜(図示省略)等の接続構成は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0019】
(位置決め機構)
また、ミシンアーム102aには縫い針108の上下動による布地の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布地を下方に押圧する中押さえ29を有する中押さえ機構(図示略)が設けられている。なお、中押さえ機構はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押さえ29の先端側に形成されている貫通孔に遊挿されている。
【0020】
また、図1、図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に布保持部としての保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、その取付部材113にはミシンベッド102b内に配置されたX軸モータ76a及びY軸モータ77aが駆動手段として連結されている(図3参照)。
保持枠111は、被縫製物である布地を保持し、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動に伴い、保持した布地を保持枠111ごと前後左右方向に移動するようになっている。そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜(図示省略)の動作が連動することにより、布地に所定の縫製データの縫い目データに基づく縫い目が形成される。
また、保持枠111は、布押さえと下板とからなっており、取付部材113はミシンアーム102a内に配置された布押さえモータ79bの駆動により上下駆動が可能であり、布押さえ下降時に下板との間で布地を挟持し保持するようになっている。
そして、これら保持枠111、取付部材113、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが、縫い針と布地をX軸方向及びY軸方向に相対的に位置決めする位置決め機構として機能する。
【0021】
ペダルRは、ミシン100を駆動し、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するための、例えば、可変抵抗等から構成されるセンサ(踏み込み量検出手段)が組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置1000に出力され、制御装置1000はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動し、動作させるように構成されている。
【0022】
(ミシンの制御系:制御装置)
図3は電子サイクルミシン100の制御系を示しブロック図である。ミシン100は、上述した各部、各部材の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置1000を備えている。そして、制御装置1000は、縫製プログラム70a,データ入力プログラム70b,編集プログラム70c,確認動作制御プログラム70d、スロースタート制御プログラム70eが格納されたプログラムメモリ70と、縫製データ71a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ71と、プログラムメモリ70内の各プログラム70a〜70eを実行するCPU73とを備えている。
【0023】
また、CPU73は、インターフェイス74aを介して操作パネル74に接続されている。かかる操作パネル74は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部74bと表示部74bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサ74cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル74で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部74bで表示され、タッチセンサ74cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
【0024】
また、CPU73は、インターフェイス75を介して、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bに接続され、ミシンモータ2aの回転を制御する。なお、ミシンモータ2aはタコジェネレータ2bを備えており、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bにおいて、タコジェネレータ2bからミシンモータ2aの一回転に付き一回出力される原点信号と15°回転ごとに出力される同期信号とが、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号をカウントすることによって、CPU73は位置決めモータであるX軸モータ76a及びY軸モータ77aや後述する他のアクチュエータの動作タイミングを決定する。
【0025】
また、CPU73は、インターフェイス76及びインターフェイス77を介して、縫製すべき布地を保持する保持枠111に備えられるX軸モータ76a及びY軸モータ77aをそれぞれ駆動するX軸モータ駆動回路76b及びY軸モータ駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
なお、X軸モータ76a及びY軸モータ77a、中押さえモータ42、布押さえモータ79aには、例えば、パルスモータを用いることができる。
【0026】
また、電子サイクルミシン100では、縫い針108と同期して行われる中押さえ29の上下動についてはミシンモータ2aを駆動源として行っているが、その下死点高さ調節は中押さえモータ42の駆動により行われるようになっている。かかる独立した駆動源を備えることにより、ミシンモータ2aの駆動中或いは停止中に限らず下死点高さの調節を行うことが可能である。そして、CPU73は、インターフェイス78を介して中押さえモータ42を駆動する中押さえモータ駆動回路78bが接続され、中押さえ機構1の動作を制御する。かかる中押さえモータ42は「縫製に関係する動作を実行するアクチュエータ」に相当する。
【0027】
また、電子サイクルミシン100は、保持枠111を上下動させて布地の保持及び解放を行う布押さえモータ79aを備えている。かかる布押さえモータ79aは、縫製終了後切断された縫い糸を布地から引き抜く糸払い(図示略)の動作駆動源としても共用されている。かかる布押さえモータ79aは「縫製に関係する動作を実行するアクチュエータ」に相当する。
そして、CPU73は、インターフェイス79を介して、布押さえモータ79aを駆動する布押さえモータ駆動回路79bが接続され、布押さえ及び糸払いの動作を制御する。
【0028】
また、電子サイクルミシン100は、縫製終了後に糸切りを行う糸切り装置を備えている(図示略)。かかる糸切り装置は、動作駆動源としてミシンモータ2aとは独立して駆動される糸切りモータ80aを用いている。かかる糸切りモータ80aは「縫製に関係する動作を実行するアクチュエータ」に相当する。
そして、CPU73は、インターフェイス80を介して、糸切りモータ80aを駆動する駆動回路80bが接続され、糸切りモータ80aの動作を制御する。
【0029】
また、電子サイクルミシン100は、縫い糸の糸張力を調節する糸調子装置を備えている(図示略)。かかる糸調子装置は、動作駆動源として糸調子ソレノイド81aを用いている。かかる糸調子ソレノイド81aは「縫製に関係する動作を実行するアクチュエータ」に相当する。
そして、CPU73は、インターフェイス81を介して、糸調子ソレノイド81aを駆動する駆動回路81bが接続され、糸調子ソレノイド81aの動作を制御する。
【0030】
(ミシンの制御系:縫製データ)
図4は縫製データ71aの設定内容及び構造を示す説明図である。上記データメモリ71に記憶された縫製データ71aは、縫製を行う際の運針パターンを実行するために、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(針落ち位置を示す縫い目データ)を示す布送りコマンド、ミシンモータの回転数を定める縫い速度コマンド、縫い速度の設定に拘わらず別に設定された速度パターンで縫い開始から5針目までのミシンモータの速度制御を行わせるスロースタートコマンド、下死点高さ移動量のデータを示す中押さえ高さ調節コマンド、糸切りコマンド、糸払い・押さえ上げコマンド、糸張力コマンドが組み合わされている。
【0031】
かかる縫製データ71aにおける各コマンドは、その並び順に従って実行針数(当該コマンドが縫い開始から何針目で実行されるか)が定められている。
そして、並び順に従って各種コマンドが実行されることで任意のパターン(模様)による縫いが実行される。
図4に示す縫製データにおいて、「縫い」のコマンドでは、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量とが第一設定値及び第二設定値データ(パラメータ)として定められており、縫製時におけるX軸モータ76aとY軸モータ77aの回転駆動量がこれらにより決定される。なお、図4のX移動量、Y移動量、中押さえ移動量の数値データにおける表記は10倍表記であり、例えば、「15」は、「1.5mm」を示している。
また、「糸切り」は糸切り装置(図示省略)を作動させるコマンド、「糸払い・押さえ上げ」はミシン100の布押さえモータ79aを駆動させて糸払いと布の解放を実行させるコマンドであり、これらの動作に対する数値設定は不要となるので、数値データは設定されない(図4では(0)と表記)。
また、「中押さえ高さ」は、中押さえモータ42の動作に対するコマンドであり、中押さえ29の下死点高さのデータを含み、当該下死点高さとなるように中押さえモータ42の回転角度が決定される。
また、「糸張力」は、糸調子ソレノイド81aの動作制御により糸調子装置による糸張力を設定値に調節するコマンドである。
【0032】
「縫い速度」は第2針目以降のミシンモータ2aの回転数を定めるデータであり、第一設定値に当該回転数が記憶され、第二設定値には数値設定はなされない(図4では(0)と表記)。
「スロースタート」は、第一針目から第五針目までの回転数について、上記「縫い速度」の設定に従わず、縫製データ71aとは別にデータメモリ71内に記録された各設定回転数となるようにミシンモータ2aの速度制御を行うコマンドである。
【0033】
なお、各コマンドごとに、実行されるタイミング(定められた実行針数において主軸角度が何度の時に実行されるか)は、縫製データ71aとは別にデータメモリ71内に個別に定められている。各コマンドの実行タイミングは、前述したタコジェネレータ2bから得られる同期信号のカウントをCPU73が監視することで計られ、実行すべきコマンドについて定められた主軸角度に到達した時に当該コマンドを実行する動作制御が行われる。
【0034】
(縫製プログラムによる縫製処理)
プログラムメモリ70に格納された縫製プログラム70aは、上記縫製データ71aの各コマンドを順番に読み出して、コマンドに応じて制御対象を特定し、コマンド内の設定数値に基づいてミシンモータ2a、X軸モータ76a、Y軸モータ77a、中押さえモータ42,布押さえモータ79a、糸切りモータ80a、糸調子ソレノイド81aの動作制御を行い、縫製データ71aに基づく縫製を実行させるプログラムである。
縫製データ71aの実行に際しては、各コマンドはいずれもその実行タイミング(実行する主軸角度)がデータメモリ71内に定められており、タコジェネレータ2bの出力信号をカウントすることで定められた実行タイミングで各コマンドの実行が行われる。
【0035】
縫製処理において、ミシンモータ2aは、縫製データ71aに定められた縫い速度となるように動作制御が行われる。また、スロースタートコマンドが設定されている場合には、第1〜5針目については、データメモリ71に設定されている各々の回転数となるように動作制御が行われる。
縫製処理において、X軸モータ76a及びY軸モータ77aは、縫製データ71aに定められた縫い速度となるように動作制御が行われる。
当該プログラム70aの実行により、CPU73は、縫製データ71aに基づいてミシンモータ2a等の動作制御を実行して縫製を行う動作制御手段として機能することとなる。
【0036】
(データ入力プログラムによるデータ入力処理)
データ入力プログラム70bは、操作パネル74により表示されるデータ入力画面(図示略)により縫製データ71aの作成処理を行うためのプログラムである。
データ入力プログラム70bの入力画面には、入力される各針ごとの針落ち位置を表示する表示領域と、針落ち位置をカーソルの位置指定により入力する方向入力キーと、各種コマンドの選択キーと、その数値パラメータを入力する数値キーとが表示され、これらの操作により、一針ごとに順番に入力することができる。
このように、CPU73がデータ入力プログラム70bを実行することにより縫製データ71aの各針ごとの針落ち位置を設定入力するデータ入力手段として機能する。
【0037】
(編集プログラムによる編集処理)
編集プログラム70cは、操作パネル74により表示される編集画面(図示略)によりデータメモリ71内に既に登録されている縫製データ71aの内容の確認及び修正を行うためのプログラムである。
編集プログラム70cの実行により、入力済みの各針ごとの針落ち位置を表示する表示領域と、各針落ち位置を選択する選択キーと、選択された針落ち位置に修正を加えたり、針落ち位置の追加や削除を行う修正キーと、選択された針落ち位置での針数において実行されるコマンドの表示エリアと、表示されたコマンドを選択し、修正する入力キーとが表示され、これらの操作により、一針ごとに設定内容に編集を加えることができる。
【0038】
(スロースタート制御プログラム)
スロースタート制御プログラム70eは、縫製プログラム70aによる縫製処理の実行に際し、スロースタートコマンドにより実行されるプログラムである。
スロースタート制御プログラム70eは、ミシンモータは、ミシンモータ2aの回転駆動を開始する際に実行される当該ミシンモータ2aに対して行われる動作制御である。このプログラム70eの実行により、CPU73は、第1針目から第5針目までについて予め回転数(回転速度)が縫製データ71aの設定とは別に図示しないメモリスイッチによりデータメモリ71内に登録され、第1針目から第5針目までのミシンモータ2aの回転駆動が登録された回転数となるように速度制御を行う。
なお、第1針目から第5針目までの回転数は任意に設定可能だが、縫製データ中に設定される縫い速度に対応した値とすることが望ましい。例えば、通常の縫い速度を3000[rpm]とした場合には、第1針目:1500[rpm]、第2針目:2100[rpm]、第3針目:2500[rpm]、第4針目:2800[rpm]、第5針目:3000[rpm]のように、徐々に設定縫い速度に近づくように設定される。
【0039】
(確認動作制御プログラム)
図5は確認動作制御プログラム70dに基づく処理内容を示すフローチャート、図6は操作パネル74の表示部74bに表示される縫製画面の表示例、図7は表示部74bに表示される縫製動作確認モード画面の表示例、図8はミシンモータ2aの第一針目の目標速度に到達するまでの速度変化を示す線図、図9は確認動作における第一針目の目標速度に到達するまでの仮想タコジェネレータ出力信号(仮想同期信号)の出力タイミングを示すテーブルの説明図である。
【0040】
確認動作制御プログラム70dを実行することにより、CPU73は、ミシンモータ2aを駆動させることなく、X軸モータ76a、Y軸モータ77a又はそれ以外のアクチュエータ(中押さえモータ42、布押さえモータ79a、糸切りモータ80a、糸調子ソレノイド81a)を縫製データ71aに忠実に動作させる動作制御を実行する。
その際、ミシンモータ2aは駆動を行わないことからタコジェネレータ2b(主軸検出器)の出力信号を得ることができないので、CPU73は、内蔵クロック(仮想信号出力手段)を用いて、縫製データ71aに設定された縫い速度(スロースタートの設定時にはデータメモリ71中に定められた縫い速度)での出力タイミングにほぼ忠実となるように仮想タコジェネレータ出力信号(仮想同期信号)を仮想的に生成し出力すると共に当該仮想タコジェネレータ出力信号のタイミングに従ってX軸モータ76a、Y軸モータ77a及び各アクチュエータの動作制御を実行する。以下、当該動作制御を「縫製動作確認モード」というものとする。
【0041】
上記確認動作制御プログラム70dは、通常操作パネル74の表示部74bに表示されている縫製画面(図6)の縫製動作確認モード移行ボタンW1の押下により実行される。当該縫製動作確認モード移行ボタンW1が押下されると、表示部74bの表示は縫製動作確認モード画面(図7)に切り替えられる。
縫製動作確認モード画面には、確認モード切替ボタンW2と終了ボタンW3とコマンド停止情報表示エリアW4とが表示される。
上記終了ボタンW3は縫製動作確認モードを終了させるボタンであり、押下されると、縫製画面に表示が戻される。
上記縫製動作確認モードは「一連縫製動作モード」と「コマンド停止モード」の二種類が選択可能であり、確認モード切替ボタンW2は、「一連縫製動作モード」と「コマンド停止モード」のモード切替を行うボタンであり、押下のたびにモード切替が行われる。
上記一連縫製モードとは、縫製動作確認モードが実行されると、途中停止なしで仮想的な縫い速度に従って縫製データ71aの終わりまでX軸モータ76a、Y軸モータ77a及び各アクチュエータの動作制御を実行するモードである。
また、コマンド停止モードとは、縫製動作確認モードが実行されると、仮想的な縫い速度に従って縫製データ71aに定められた順番で各コマンドを実行し、縫いコマンド以外のコマンドの順番となった時に仮想的な動作を中断し、当該順番となったコマンドの設定内容の確認処理を行うモードである。この確認処理では、コマンド停止情報表示エリアW4に順番となったコマンド名とその設定パラメータの数値表示が行われる。また、当該表示と共に、表示された設定内容で変更はないか否かを入力する確認ボタン(図示略)が表示され、変更なしの入力時には、次のコマンドに処理が進められ、変更ありの入力時には、さらに、コマンドの変更とコマンドの数値パラメータの変更を行う入力画面が表示され、縫製データ71aの設定内容の変更を行うことが可能となっている。
【0042】
縫製動作確認モードにおける仮想タコジェネレータ出力信号の出力処理の内容を図5に基づいて説明する。
処理が開始されると、まず、CPU73は、初期設定として仮想タコジェネレータ出力信号をカウントするTGカウンタと、縫い開始からの針数をカウントする針数カウンタと、仮想タコジェネレータ出力信号の出力タイミングをカウントする時間カウンタとをいずれも0に設定する(ステップS1)。なお、時間カウンタはこの時点でカウントが開始される。
次いで、縫製データ71a中にスロースタートコマンドが設定されているか否かを判定し(ステップS2)、設定されていない場合には後述するステップS13に処理を進め、設定されている場合には、針数カウンタが0か判定する(ステップS3)。
そして、針数カウンタが0であれば、1針目の縫い速度としてデータメモリ71に設定された回転数を読み出すと共に、当該回転数に応じた仮想タコジェネレータ出力信号の出力タイミングテーブルを参照し、仮想タコジェネレータ出力信号を行うための時間を取得する(ステップS4)。
【0043】
ここで、ステップS4〜S10の処理内容について、図8及び図9に基づいて補足的に説明する。
ミシンモータ2aは、回転開始時から1針目までは、目標回転数への加速度が安定せず、一般には図8に示すような加速曲線を描く。
従って、仮想的にタコジェネレータ出力信号を生成する縫製動作確認モードでは、より現実に忠実なタコジェネレータ出力信号を再現するために、スロースタート時の1針目に到達するまでの24個の仮想タコジェネレータ出力信号について、モータ回転数の実測値の加速曲線に基づいてタコジェネレータ出力信号と等しい15°ごとの到達時間間隔tを記録した仮想タコジェネレータ出力信号の出力タイミングテーブルTを参照して信号出力を行っている。
なお、図9に示すように、仮想タコジェネレータ出力信号の出力タイミングテーブルでは、第1針目の目標回転数について200〜1500[rpm]の間で100[rpm]ごとに用意されており、これらの中から第1針目の回転数に等しいものが参照される。なお、図9におけるCNTは一回転で出力されるタコジェネレータ出力信号の個数であり、この電子サイクルミシン100では、タコジェネレータ2bは主軸15°回転ごとに信号出力を行うので目標回転数に拘わらず24となる。
【0044】
上記説明のように、ステップS4で各仮想タコジェネレータ出力信号ごとの出力時間間隔がテーブルTから取得されると、現在の時間カウンタが示すカウント時間が一つめの仮想タコジェネレータ出力信号の出力時間に到達したか判定し(ステップS5)、未到達であれば時間カウンタを加算する(ステップS6)。
また、仮想タコジェネレータ出力信号の出力時間に到達すると、仮想タコジェネレータ出力信号を出力し(ステップS7)、TGカウンタを1加算すると共に時間カウンタを初期化する(ステップS8)。
【0045】
そして、TGカウンタの値が24に到達したか判定し(ステップS9)、到達していなければステップS2に処理を戻し、TGカウンタの値が24になるまでステップS2〜S9までの処理を繰り返すことで仮想タコジェネレータ出力信号24個分の出力が行われる。
そして、TGカウンタの値が24に到達すると、TGカウンタを初期化すると共に針数カウンタを1加算する(ステップS10)。そして、処理をステップS2に戻す。
【0046】
一方、ステップS3で針数カウンタが0ではないと判定されると、針数カウンタが1〜5の範囲内か判定が行われ(ステップS11)、1〜5の範囲内ではないと判定された場合には後述するステップS13に処理を進め、1〜5の範囲内の場合には、等加速度演算式に従って、仮想タコジェネレータ出力信号ごとの出力時間間隔の算出が行われる(ステップS12)。
【0047】
ここで、等加速度演算式を次式に示す。
回転数R(N)[rpm]=(B−A)/TG×N+A (1)
A:現在の針落ちの回転数
B:次の針落ちの回転数
TG:1回転の内に出力されるTG信号の回数
N:次に発生させるTG信号の回数
R(N):TG信号の回数Nにおける回転数
R(N-1):一つ前のTG信号における回転数
1回転にかかる時間[msec]=60000[msec]/((R(N)+R(N-1))/2)(2)
TG信号出力間隔[msec]=1回転にかかる時間/TG(3)
【0048】
例えば、1針目の目標回転数が1500[rpm]であった場合で2針目の目標回転数2500[rpm]である場合の1〜24の仮想タコジェネレータ出力信号の出力時間間隔を求める場合を例示する。一つめの仮想タコジェネレータ出力信号(NUM=1)が出力される際の回転数R1は、A=1500、B=2500、TG=24として上式(1)により、
R1=(2500−1500)/24×1+1500
=1541.7[rpm]
ここで、R0=1500[rpm]なので上式(2)により
1回転にかかる時間[msec]=60000[msec]/(41.7/2)
=2877[msec]
なので、上式(3)により、
TG信号出力間隔[msec]=2877/24
=120[msec]
となる。
【0049】
上述のようにしてTG=1〜24について仮想タコジェネレータ出力信号の出力間隔が求められると、ステップS5に処理を進め、第5針目までの全仮想タコジェネレータ出力信号について同様の処理を繰り返す。
そして、第5針目までの仮想タコジェネレータ出力信号の出力が終わると、ステップS11からステップS13に処理を進める。
【0050】
ステップS13では、前述した等加速度演算式(1)〜(3)に従って仮想タコジェネレータ出力信号の出力時間間隔が算出されるが、縫製途中での縫い速度の変更が生じない限りは等速で主軸の回転が行われるので、仮想タコジェネレータ出力信号も均一な時間間隔で出力される。なお、ステップS2でスロースタートコマンドが設定されていないと判定されてステップS13の処理が行われる場合には、第1針目までに縫製データ71aに設定されている縫い速度まで加速するものとして仮想タコジェネレータ出力信号の出力時間間隔が算出される。つまり、等加速度演算式(1)の現在の針落ちの回転数A=0、次の針落ちの回転数B=縫製データ71aに設定されている縫い速度として演算が行われる。
【0051】
確認動作制御プログラム70dの実行時には、上述の如く仮想タコジェネレータ出力信号が出力される。そして、これと並行して、CPU73は、縫製データ71aのコマンドを針数の順番に従って読み込みを行い、針数カウンタとTGカウンタを監視する。
そして、一連縫製動作モードの選択時にあっては、各コマンドの実行針数となり且つ実行タイミングとなったと判定したときには、コマンドに対応するX軸モータ76a、Y軸モータ77a又はアクチュエータ(中押さえモータ42、布押さえモータ79a、糸切りモータ80a、糸調子ソレノイド81aのいずれか)に所定の動作を実行させる。また、コマンド停止モードの選択時にあっては、「縫いコマンド」の実行針数となり且つ実行タイミングとなったと判定したときには、X軸モータ76a、Y軸モータ77aに所定の動作を実行させ、「縫いコマンド」以外のアクチュエータの実行コマンド(「中押さえ高さコマンド」、「糸切りコマンド」、「糸払い・押さえ上げコマンド」、「糸張力」のいずれか)の場合には、仮想的な動作を中断し、当該コマンドの設定内容の確認画面を表示する。かかる中断時には、TGカウンタ、針数カウンタ、時間カウンタは、現状の状態を保存して全てカウントを中断し、確認が完了してからカウントを再開する。また、確認が完了すると、中押さえモータ42、布押さえモータ79a、糸切りモータ80a、糸調子ソレノイド81aのいずれか対応するアクチュエータに所定の動作を実行させる。
【0052】
また、確認動作制御プログラム70dの実行時には、CPU73は、一連縫製動作モードとコマンド停止モードいずれを選択している場合であっても、縫製データ71aから縫いコマンドを読み取った際に、当該縫いコマンドによる針落ち位置への布地の送り方向変化を算出し、予め定められた閾値以上の角度変化を生じている場合に、送りを行わず、仮想的な動作を中断し、当該縫いコマンドの設定内容の確認画面を表示する。この確認画面では、送り方向の変化に関連するコマンド(例えば、縫い速度、中押さえ高さ、糸張力等)の設定内容の確認処理を行う。この確認処理では、設定内容確認画面が表示され、関連するコマンドについて設定内容に変更はないか否かを入力する確認ボタンの表示が行われる。そして、変更なしの入力時には、次のコマンドに処理が進められ、変更ありの入力時には、さらに、コマンドの変更、追加、削除とコマンドの数値パラメータの変更を行う入力画面が表示され、縫製データ71aの設定内容の変更を行うことが可能となっている。
【0053】
縫いコマンドによる針落ち位置への布地の送り方向変化の算出処理においては、縫いコマンドが読み取られるたびに、当該針落ち位置と一針前の針落ち位置とから布地の送り方向が算出され、データメモリ71に記録される。そして、当該記録と前回の記録とからその角度変化を求め、予めデータメモリ71内に設定された送り方向の角度変化の閾値との比較を行い、閾値を超えている場合に、上述の中断及び確認制御が実行される。
なお、動作の中断時には、TGカウンタ、針数カウンタ、時間カウンタは、現状の状態を保存して全てカウントを中断し、確認が完了してからカウントを再開する。また、確認が完了すると、中断された布送り動作を実行させる。
【0054】
当該確認動作制御プログラム70dの実行により、CPU73は、確認動作制御手段として機能することとなる。
【0055】
(電子サイクルミシンの効果)
このように、本発明に係るミシン100は、縫製データ71aに定められた縫い速度に回転同期信号を仮想的に再現して仮想タコジェネレータ出力信号として生成し、これに同期しながら位置決め機構の各モータ76a、77a及び各アクチュエータである中押さえモータ42,布押さえモータ79a、糸切りモータ80a、糸調子ソレノイド81aの動作を実行させるため、実際の縫製時と同様の動作速度及び動作タイミングで位置決め機構及びアクチュエータの仮想的な動作確認を行うことが可能となる。従って、動作確認をより正確に行うことが可能となると共に、試し縫いを不要とし、オーダー品等であっても縫製データの適正化を図ることが可能となる。
【0056】
さらに、ミシン100では、確認動作制御手段として機能する制御装置1000が、縫製データ71aに含まれる一針ごとの設定内容を順次実行する過程で各アクチュエータ(中押さえモータ42、布押さえモータ79a、糸切りモータ80a、糸調子ソレノイド81a)の動作コマンドの実行の際に、ミシン全体の動作を一時的に停止させると共に設定内容の確認画面を表示する動作制御を行う。かかる状態から動作の再開指示を入力することでアクチュエータの動作が実行され、これにより、アクチュエータの動作を見過ごすことなくより確実に確認することが可能となる。
また、動作が停止されるので、縫製データ71aの設定内容を再確認して修正などが容易となる。
【0057】
また、ミシン100では、確認動作制御手段として機能する制御装置1000が、縫製データ71aが示す針落ち位置に向かう縫い方向が直前の針落ち位置に向かう縫い方向に対して所定角度以上の変化を生じている場合には、ミシン全体の動作を一時的に停止させると共に関連するコマンドについて設定内容の確認画面を表示する動作制御を行う。これにより、大きな方向転換の実行箇所を見過ごすことなく認識することができる。さらに、ミシンが縫製データの編集機能を備える場合には、方向転換箇所での布移動やアクチュエータの設定の修正を実行することが可能となる。
【0058】
(その他)
なお、縫製動作確認モードにおける仮想タコジェネレータ出力信号の出力処理について、縫製の途中に縫い停止が入る場合や終了時の停針までの最後の主軸一回転についても、各回転数ごとにモータの実測に基づく減速曲線に対応した仮想タコジェネレータ出力信号の出力タイミングテーブルを用意し、停止までの一回転について仮想タコジェネレータ出力信号の出力時間間隔をテーブルに従って出力させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明にかかるミシンを示す斜視図である。
【図2】本発明にかかるミシンの保持枠や中押さえの近傍を示す拡大斜視図である。
【図3】ミシンの制御系を示すブロック図である。
【図4】ミシンにおける縫製データの設定内容及び構造を示す説明図である。
【図5】確認動作制御プログラムに基づく仮想タコジェネレータ出力信号の出力処理内容を示すフローチャートである。
【図6】操作パネルの表示部に表示される縫製画面の表示例である。
【図7】操作パネルの表示部に表示される縫製動作確認モード画面の表示例である。
【図8】ミシンモータの第一針目の目標速度に到達するまでの速度変化を示す線図である。
【図9】確認動作における第一針目の目標速度に到達するまでの仮想タコジェネレータ出力信号の出力タイミングを示すテーブルの説明図である。
【符号の説明】
【0060】
2a ミシンモータ
111 保持枠
113 取付部材
76a X軸モータ(位置決めモータ)
77a Y軸モータ(位置決めモータ)
42 中押さえモータ(アクチュエータ)
79a 布押さえモータ(アクチュエータ)
80a 糸切りモータ(アクチュエータ)
81a 糸調子ソレノイド(アクチュエータ)
1000 制御装置(動作制御手段、確認動作制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンモータにより駆動される主軸の回転により縫い針を上下動させる針上下動機構と、
位置決めモータにより被縫製物に対して任意の位置に針落ちが行われるように前記縫い針に対して被縫製物を相対的に位置決めする位置決め機構と、
縫製に関係する動作を実行するアクチュエータと、
前記主軸の回転角度を検出して回転同期信号を出力する主軸検出器と、
各縫い目ごとの前記位置決め機構の針落ち位置及びアクチュエータの動作の実行針数を定める縫製データに基づいて、前記回転同期信号に同期して、位置決めモータ及びアクチュエータの動作制御を行う動作制御手段とを備えるミシンにおいて、
前記ミシンモータを前記縫製データに定められた縫い速度で回転し、ミシンモータを縫製データに定められた縫い目数に従って停止するときの主軸の変化に伴う前記回転同期信号を、前記ミシンモータを駆動させることなく仮想同期信号として仮想的に再現して出力する仮想信号出力手段と、
前記仮想同期信号に同期しながら前記縫製データに基づく前記位置決め機構及びアクチュエータの動作を実行させる確認動作制御手段を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記確認動作制御手段は、前記縫製データに含まれる前記アクチュエータの動作コマンドの実行の際には、ミシン全体の動作を一時的に停止させる動作制御を行うことを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記確認動作制御手段は、前記縫製データが示す針落ち位置に向かう縫い方向が直前の針落ち位置に向かう縫い方向に対して所定角度以上の変化を生じている場合には、ミシン全体の動作を一時的に中断させる動作制御を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のミシン。
【請求項4】
前記アクチュエータとして、少なくとも糸切り装置、自動糸調子装置、糸払いワイパー、押さえ上げ装置又は中押さえの下死点位置調節機構の各駆動源の内のいずれか一つ又は複数を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−240392(P2009−240392A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87872(P2008−87872)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】