説明

ミシン

【課題】刺繍模様の大きさが撮影手段の撮影範囲を超える場合であっても、刺繍模様の縫製対象物上の配置を、縫製対象物を撮影した画像を利用して確認することができるミシンを提供すること。
【解決手段】ミシンにおいて、針棒と、針板との間に配置された縫製対象物を撮影した画像である撮影画像を表すデータが撮影手段によって生成され、生成されたデータは撮影画像データとして取得される(S110)。縫製対象物に対する刺繍模様の基準点の位置及び刺繍模様の角度の設定を示す標識である設定標識を表すデータが標識データとして生成される(S130)。S110で生成された撮影画像データと、S130で生成された標識データとに基づき、合成画像を表すデータが合成画像データとして生成される(S140)。S140で生成された合成画像データに基づき、合成画像が画面に表示される(S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影手段を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザの指示に従って、刺繍模様の選択及び縫製対象物上の刺繍模様の配置を行うミシンが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のミシンは、撮影手段によって生成された画像データに基づき、縫製対象物を表す画像に、ユーザが選択した刺繍模様を表す画像を重ね合わせた画像を作成し、画面に表示する。刺繍模様を表す画像の配置は、縫製対象物を表す画像において、刺繍模様を表す画像の始点及び終点を指定することによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−57288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のミシンでは、撮影手段の撮影範囲は固定されており、この撮影範囲を超える大きさの刺繍模様を扱うことが想定されていない。このため、従来のミシンでは、刺繍模様の大きさが撮影手段の撮影範囲を超えるような場合には、縫製対象物を撮影した画像に重ね合わされた刺繍模様の画像の表示画面を見たとしても、ユーザが意図したように刺繍模様が配置されているか否かを確認することができないことがある。
【0005】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、刺繍模様の大きさが撮影手段の撮影範囲を超える場合であっても、刺繍模様の縫製対象物上の配置を、縫製対象物を撮影した画像を利用して確認することができるミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1態様のミシンは、下端に縫針が装着される針棒と、前記縫針が挿通される針穴を備えた針板と、前記針棒と、前記針板との間に配置された縫製対象物を撮影した画像である撮影画像を表すデータを撮影画像データとして生成する撮影手段と、前記縫製対象物に対する刺繍模様の基準点の位置及び前記刺繍模様の角度の設定を示す標識である設定標識を表すデータを標識データとして生成する標識データ生成手段と、前記撮影手段によって生成された前記撮影画像データと、前記標識データ生成手段によって生成された前記標識データとに基づき、前記撮影画像に前記設定標識を前記標識データが表す配置で重ね合わせた画像である合成画像を表すデータを合成画像データとして生成する合成画像データ生成手段と、前記合成画像データ生成手段によって生成された前記合成画像データに基づき、前記合成画像を画面に表示する表示手段とを備えている。第1態様のミシンでは、ユーザは、合成画像によって表される縫製対象物に対する設定標識の配置を見ることによって、意図したように刺繍模様が配置されているか否かを確認することができる。したがって、ミシンは、刺繍模様の大きさが撮影手段の撮影範囲を超える場合であっても、刺繍模様の縫製対象物上の配置を、縫製対象物を撮影した画像を利用して確認することができる。
【0007】
第1態様のミシンにおいて、ユーザによって入力される指示であって、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置及び前記刺繍模様の前記角度の少なくともいずれかを設定する指示である設定指示を取得する設定指示取得手段をさらに備え、前記標識データ生成手段は、前記設定指示取得手段によって取得された前記設定指示に従って、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置及び前記刺繍模様の前記角度の少なくともいずれかを設定して、前記標識データを生成してもよい。この場合のミシンでは、設定指示によって刺繍模様の配置を設定した後の、刺繍模様の配置を確認することができる。
【0008】
第1態様のミシンにおいて、前記縫製対象物を保持する刺繍枠を移動させる第1移動手段と、前記設定指示取得手段によって、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置を設定する指示が前記設定指示として取得された場合に、前記第1移動手段を制御して、前記設定指示に応じた位置に前記刺繍枠を移動させる第1移動制御手段とをさらに備えてもよい。この場合のミシンでは、設定指示に応じた位置に刺繍枠を移動させることによって、合成画像によって表される縫製対象物の範囲を変更することができる。したがって、ミシンは、設定指示によって刺繍模様の配置を設定した後に、縫製対象物に対する刺繍模様の基準点の位置が撮影手段の撮影範囲に収まるように刺繍枠を自動的に移動させることができる。このため、ユーザは、意図したように刺繍模様が配置されるか否かを、縫製対象物を撮影した画像を利用して容易に確認することができる。
【0009】
第1態様のミシンにおいて、前記撮影手段を移動させる第2移動手段と、前記設定指示取得手段によって、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置を設定する指示が前記設定指示として取得された場合に、前記第2移動手段を制御して、前記設定指示に応じた位置に前記撮影手段を移動させる第2移動制御手段とをさらに備えてもよい。この場合のミシンでは、撮影手段を移動させることによって、ユーザは合成画像に表される縫製対象物の範囲を変更することができる。したがって、ミシンは、設定指示によって刺繍模様の配置を設定した後に、縫製対象物に対する刺繍模様の基準点の位置が撮影手段の撮影範囲に収まるように撮影手段を自動的に移動させることができる。このため、ユーザは、意図したように刺繍模様が配置されるか否かを、縫製対象物を撮影した画像を利用して容易に確認することができる。
【0010】
第1態様のミシンにおいて、前記撮影手段は、前記縫製対象物に付与された、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置及び前記刺繍模様の前記角度を示す標識である付与標識を撮影した前記撮影画像を表す前記撮影画像データを生成してもよい。この場合のミシンでは、ユーザは、縫製対象物に付与された付与標識が示すように刺繍模様が配置されるかを、縫製対象物を撮影した画像を利用して確認することができる。
【0011】
第1態様のミシンにおいて、前記撮影画像データに基づき、前記撮影画像の色を取得する色取得手段をさらに備え、前記標識データ生成手段は、前記色取得手段によって取得された前記撮影画像の色に応じて、前記設定標識の色に前記撮影画像の色とは異なる色を設定した前記標識データを生成してもよい。この場合のミシンでは、ユーザは合成画像上の設定標識を視認しやすい。
【0012】
第1態様のミシンにおいて、前記刺繍模様を縫製するための刺繍データを取得する刺繍データ取得手段と、前記刺繍データ取得手段によって取得された前記刺繍データを、前記縫製対象物に対する前記刺繍模様の前記基準点の前記位置及び前記刺繍模様の前記角度の前記設定に基づき補正する補正手段とをさらに備えてもよい。この場合、ユーザは、合成画像中の設定標識を見ることによって、ユーザが意図するように刺繍模様が配置されているか否かを確認した上で、縫製対象物に対する刺繍模様の配置を設定することができる。ミシンは、補正された刺繍データに従って縫製を行えば、ユーザが意図する配置で縫製対象物に刺繍模様を縫製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】多針ミシン1の斜視図である。
【図2】針棒ケース21の内部にある針棒駆動機構85の斜視図である。
【図3】針棒ケース移動機構40の平面図である。
【図4】刺繍枠移動機構11の平面図である。
【図5】多針ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】メイン処理のフローチャートである。
【図7】刺繍模様211が選択された場合にLCD7に表示される画面200の説明図である。
【図8】図6のメイン処理で実行される表示処理のフローチャートである。
【図9】補正後の撮影画像データによって表される撮影画像420の説明図である。
【図10】撮影画像の大きさ及び形状を表す矩形340に対する、第1標識300の配置(回転角度φ=0度)の説明図である。
【図11】矩形340に対する、第2標識350の配置の説明図である。
【図12】LCD7に表示される、合成画像500を含む画面201の説明図である。
【図13】LCD7に表示される、合成画像501を含む画面202の説明図である。
【図14】矩形340に対する、第1標識300の配置(回転角度φ=50度)の説明図である。
【図15】LCD7に表示される、合成画像502を含む画面203の説明図である。
【図16】第2の実施形態のメイン処理のフローチャートである。
【図17】第3の実施形態の表示処理のフローチャートである。
【図18】変形例のメイン処理のフローチャートである。
【図19】変形例の第3標識600及び第2標識350を含む合成画像503の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、一実施の形態である多針ミシン1(以下、単に「ミシン1」と言う。)について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本開示が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものであり、記載している装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0015】
図1及び図2を参照して、ミシン1の物理的構成について説明する。以下の説明では、図1の左斜め下側、右斜め上側、左斜め上側、右斜め下側をそれぞれ、ミシン1の前方、後方、左側、右側とする。
【0016】
ミシン1は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備える。支持部2は、平面視逆U字形に形成され、ミシン1全体を支持する。支持部2の上面には、前後方向に伸びる、左右一対のガイド溝25がある。脚柱部3は、支持部2の後端部から上方へ立設されている。アーム部4は、脚柱部3の上端部から前方に延びる。アーム部4の先端には、針棒ケース21が左右方向に移動可能に装着されている。針棒ケース21の詳細については後述する。
【0017】
アーム部4の前後方向中央部の右側には、操作部6が設けられている。操作部6は、上下方向に伸びる軸(図示せず)を回転軸として、アーム部4に回転可能に軸支されている。操作部6は、液晶ディスプレイ7(以下、「LCD7」と言う。)と、タッチパネル8と、コネクタ9とを備える。LCD7には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画像が表示される。タッチパネル8は、ユーザからの指示を受け付けるために用いられる。LCD7に表示された入力キー等を表す画像の位置に対応したタッチパネル8の箇所を、指や専用のタッチペンを用いて押圧操作すること(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)によって、ユーザは縫製模様及び縫製に関わる各種条件を選択できる。コネクタ9は、USB規格のコネクタであり、USBデバイス160(図5参照)と接続可能である。
【0018】
アーム部4の下方には、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられている。シリンダベッド10の先端部の内部には、釜(図示せず)が設けられている。釜には、下糸(図示せず)が巻回されたボビン(図示せず)が収納される。また、シリンダベッド10の内部には、釜駆動機構(図示せず)がある。釜駆動機構は、釜を回転駆動する。シリンダベッド10の上面には、平面視矩形の針板16がある。針板16には、縫針35が挿通される針穴36が設けられている。
【0019】
アーム部4の下方には、図4の刺繍枠移動機構11が設けられている。刺繍枠移動機構11は、本発明の「第1移動手段」に相当する。ミシン1は、刺繍枠移動機構11のX軸モータ132(図5参照)及びY軸モータ134(図5参照)によって刺繍枠84を前後左右に移動させながら、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に刺繍模様を縫製する。縫製対象物39は、例えば、加工布である。刺繍枠移動機構11の詳細については後述する。
【0020】
アーム部4の上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられている。各糸駒台12には、3本の糸立棒14が設けられている。糸立棒14は、上下方向に伸びる棒である。糸立棒14は、糸駒13を軸支する。一対の糸駒台12には、針棒31の数と同じ6個の糸駒13を配置可能である。上糸15は、糸駒台12に配置された糸駒13から供給される。上糸15は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19とを経由して、針棒31の下端に装着された各縫針35の目孔(図示せず)に供給される。
【0021】
次に、図2及び図3を参照して、針棒ケース21の内部構成について説明する。図2及び図3のように、針棒ケース21内には、鉛直方向に伸びる6本の針棒31が左右方向に等間隔Xで設けられている。各針棒31には、個々の針棒31を識別するための針棒番号が付与されている。本実施形態では、図中右側から順に針棒番号1番から6番が付与されている。針棒31は、針棒ケース21のフレーム80に固定された上下2個の固定部材(図示せず)によって上下方向に摺動可能に支持されている。各針棒31の上半部には針棒押しバネ72が設けられ、下半部には押えバネ73がそれぞれ設けられている。針棒押しバネ72と押えバネ73との間には、針棒抱き79が設けられ、押えバネ73の下には押え抱き83が設けられている。針棒31は、針棒駆動機構85によって、上下方向に摺動される。針棒駆動機構85は、主軸モータ122(図5参照)と、天秤駆動カム75と、連結部材76と、伝達部材77と、ガイド棒78と、連結ピン(図示せず)とを備える。主軸モータ122は、針棒駆動機構85の駆動源である。針棒31の下端には、縫針35(図1参照)が装着されている。押え足71は、押え抱き83から縫針35の下端部(先端部)よりも僅かに下方に伸びるように形成され、針棒31の上下動と連動して、間欠的に縫製対象物39(図1参照)を下方へ押圧する。
【0022】
フレーム80の右側面下部には、イメージセンサ保持機構150が取り付けられている。イメージセンサ保持機構150は、イメージセンサ151と、ホルダ152と、支持部材153と、中継基板154とを備える。イメージセンサ151は、周知のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサである。ホルダ152は、イメージセンサ151を、イメージセンサ151のレンズ(図示せず)を下側に向けた状態で支持する。イメージセンサ151のレンズの中心は、最も右側の針棒31から距離2X離れた位置にある。支持部材153は、正面視L字状であり、中継基板154と、ホルダ152とを支持する。支持部材153は、螺子156によって、フレーム80の右側面下部に固定されている。ホルダ152は、螺子157によって支持部材153の下面に固定されている。中継基板154は、正面視L字状の基板であり、後述する制御部140(図5参照)と、イメージセンサ151とを電気的に接続させる。中継基板154は、螺子155によって、支持部材153の正面に固定されている。イメージセンサ保持機構150は、カバー38(図1参照)によって、正面と、上面と、右側面とが覆われている。
【0023】
次に、図2及び図3を参照して、針棒ケース移動機構40について説明する。針棒ケース移動機構40は、針棒ケース21を移動させる。針棒ケース移動機構40は、本発明の「第2移動手段」に相当する。図3の下側、上側、左側、右側をそれぞれ、ミシン1の前方、後方、左方、右方とする。
【0024】
図3のように、針棒ケース移動機構40は、係合コロ部401と、針棒ケース駆動部402とを備える。係合コロ部401は、左右方向に長い板状の板41と、係合コロ42と、ナット43と、段付螺子44とを備える。板41は、図2及び図3のようにフレーム24の上部後端に取り付けられている。板41の背面には、8つの係合コロ42がそれぞれ段付螺子44によって取り付けられている。係合コロ42は、詳しくは図示しないが円筒状であり、段付螺子44によって回転可能、且つ係合コロ42の軸方向には移動不能に支持されている。段付螺子44は、板41の孔(図示せず)に差し込まれ、ナット43によって固定されている。係合コロ42の左右方向の間隔はすべて、針棒31の左右方向の間隔と同じXである。8つの係合コロ42の取り付け高さは全て同一である。
【0025】
針棒ケース駆動部402は、アーム部4(図1参照)の内部であって、板41の後方となる位置にある。針棒ケース駆動部402は、針棒ケース用モータ45と、ギア部46と、回転軸47と、螺旋カム48とを備える。針棒ケース用モータ45は、パルスモータである。針棒ケース用モータ45は、出力軸(図示せず)の軸方向が左右方向となる向きに固定されている。針棒ケース用モータ45は、ギア部46を介して動力を回転軸47に伝達させることによって、螺旋カム48を所定量回転させる。回転軸47は、針棒ケース用モータ45の出力軸と平行に軸支されている。螺旋カム48は、回転軸47の外周に固定されており、8つの係合コロ42のいずれか1つと常に係合する。螺旋カム48は、位置決め部481を備える。回転軸47の回転が停止されている場合には、8つの係合コロ42のいずれか1つが螺旋カム48の位置決め部481と係合する。8つの係合コロ42のいずれかが位置決め部481と係合している状態では、回転軸47が所定角度回転された場合にも、螺旋カム48に係合された係合コロ42の左右方向の位置は、回転前と同じである。
【0026】
次に、図2及び図3を参照して、針棒ケース21の移動動作について説明する。針棒ケース21は、針棒ケース移動機構40によって、ミシン本体20(図1参照)に対して左右方向(水平方向)に移動される。針棒ケース移動機構40は、螺旋カム48を1回転させる毎に、針棒ケース21を距離Xだけ左右方向に移動させることができる。針棒ケース21の移動方向は、螺旋カム48の回転方向に応じて決まる。螺旋カム48が右側面視反時計回りに回転された場合には、針棒ケース21は左方に移動する。螺旋カム48が右側面視時計回りに回転された場合には、針棒ケース21は右方に移動する。
【0027】
係合コロ42の配置に応じて、各係合コロ42に左側から順に1番から8番の番号を付与する。ここで、例えば6番の係合コロ42と螺旋カム48の位置決め部481とが係合している場合を初期位置とする。このとき、針棒番号1番の針棒31が、針穴36の鉛直上方に配置される。螺旋カム48が右側面視時計回りに回転されると、6番の係合コロ42が螺旋カム48によって右側にスライドし、フレーム24がミシン本体20(図1参照)に対して右方への移動を開始する。次に、6番の係合コロ42の螺旋カム48への係合が解除され、5番の係合コロ42が螺旋カム48と係合する。このように、初期位置から螺旋カム48が右側面視時計回りに1回転すると、フレーム24は距離Xだけ右方に移動し、針棒番号2番の針棒31が、針穴36の鉛直上方に配置される。一方、螺旋カム48が右側面視反時計回りに1回転されると、フレーム24はミシン本体20に対して左方に距離Xだけ移動する。このように、針棒ケース移動機構40は、螺旋カム48を1回転させる毎に、螺旋カム48の回転方向に応じて左方又は右方にフレーム24を距離Xだけ移動させることができる。
【0028】
イメージセンサ保持機構150は、フレーム24に固定されているので、針棒ケース21が移動されることにより、ミシン本体20に対するイメージセンサ151の位置が変更される。8番の係合コロ42が、螺旋カム48の位置決め部481と係合している場合、イメージセンサ151は撮影位置にある。撮影位置では、イメージセンサ151は、針穴36の直上に位置している。
【0029】
次に、図4を参照して、刺繍枠84と刺繍枠移動機構11とについて説明する。刺繍枠84は、外枠81と、内枠82と、左右1対の連結部89とを備える。刺繍枠84は、外枠81と、内枠82とで縫製対象物39を挟持する。連結部89は、平面視矩形の中央部が矩形に切り抜かれた形状の板部材である。一方の連結部89は、内枠82の右部に螺子95によって固定され、他方の連結部89は、内枠82の左部に螺子94によって固定されている。ミシン1は、刺繍枠84の他、大きさ及び形状が異なる複数種類の他の刺繍枠を装着可能である。刺繍枠84は、ミシン1で使用される刺繍枠のうち、左右方向の幅(左右の連結部89間の距離)が一番大きな刺繍枠である。縫製領域86は、刺繍枠84の種類に応じて内枠82の内側となる位置に設定される。
【0030】
刺繍枠移動機構11は、ホルダ24と、Xキャリッジ22と、X軸駆動機構(図示せず)と、Yキャリッジ23と、Y軸移動機構(図示せず)とを備える。ホルダ24は、刺繍枠84を着脱可能に支持する。ホルダ24は、取付部91と、右腕部92と、左腕部93とを備える。取付部91は、左右方向に長い平面視矩形の板部材である。右腕部92は、前後方向に伸びる板部材であり、取付部91の右端に固定されている。左腕部93は、前後方向に伸びる板部材である。左腕部93は、取付部91の左部にあって、取付部91に対する左右方向の位置を調整可能に固定される。右腕部92は、一方の連結部89と係合し、左腕部93は、他方の連結部89と係合する。
【0031】
Xキャリッジ22は、左右方向に長い板部材であり、一部分がYキャリッジ23の正面から前方に突出している。Xキャリッジ22には、ホルダ24の取付部91が取り付けられる。X軸駆動機構(図示せず)は、X軸モータ132(図5参照)と、直線移動機構(図示せず)とを備える。X軸モータ132は、ステッピングモータである。直線移動機構は、タイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト(図示せず)とを備え、X軸モータ132を駆動源として、Xキャリッジ22を左右方向(X軸方向)に移動させる。
【0032】
Yキャリッジ23は、左右方向に長い箱状である。Yキャリッジ23は、Xキャリッジ22を左右方向に移動可能に支持する。Y軸移動機構(図示せず)は、左右一対の移動体26(図2参照)と、Y軸モータ134(図5参照)と、直線移動機構(図示せず)とを備える。移動体26は、Yキャリッジ23の左右両端の下部に連結され、ガイド溝25(図2参照)を上下に貫通している。Y軸モータ134は、ステッピングモータである。直線移動機構は、タイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト(図示せず)とを備え、Y軸モータ134を駆動源として、移動体26をガイド溝25に沿って前後方向(Y軸方向)に移動させる。移動体26に連結されたYキャリッジ23と、Yキャリッジ23に支持されたXキャリッジ22とは、これに伴って前後方向(Y軸方向)に移動する。縫製対象物39を保持した刺繍枠84をXキャリッジ22に装着した状態において、縫製対象物39は、針棒31と、針板16との間に配置されている。
【0033】
次に、刺繍枠84に装着された縫製対象物39に縫目を形成する動作について図2から図5を参照して説明する。縫製対象物39を保持した刺繍枠84は、刺繍枠移動機構11(図2及び図4参照)のホルダ24に支持される。まず、針棒ケース21が左右に移動することで、6本の針棒31のうち1本が選択される。刺繍枠移動機構11によって、刺繍枠84が所定の位置に移動される。主軸モータ122によって主軸74が回転駆動されると、針棒駆動機構85が駆動される。主軸74の回転駆動は、天秤駆動カム75を介して連結部材76に伝達され、連結部材76が枢支されている伝達部材77が針棒31と水平に配置されたガイド棒78にガイドされて上下駆動される。そして、その上下駆動が連結ピン(図示せず)を介して針棒31に伝達され、縫針35が装着された針棒31が上下駆動される。また、天秤駆動カム75の回転によって、詳しくは図示しないリンク機構を介して天秤19が上下駆動される。一方、主軸74の回転が釜駆動機構(図示せず)に伝達され釜(図示せず)が回転駆動される。このように、縫針35と天秤19と釜とが同期して駆動され、縫製対象物39に縫目が形成される。
【0034】
次に、ミシン1の電気的構成について図5を参照して説明する。図5に示すように、ミシン1は、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、イメージセンサ151と、制御部140とを備える。以下、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、制御部140とのそれぞれを詳述する。
【0035】
縫針駆動部120は、主軸モータ122と、駆動回路121と、針棒ケース用モータ45と、駆動回路123と、針孔糸通し機構126と、駆動回路125とを備える。主軸モータ122は、針棒31を上下方向に往復移動させる。駆動回路121は、制御部140からの制御信号に従って主軸モータ122を駆動する。針棒ケース用モータ45は、針棒ケース21をミシン本体に対して左右方向に移動させる。駆動回路123は、制御部140からの制御信号に従って針棒ケース用モータ45を駆動する。針孔糸通し機構126は、詳しくは図示しないが、アーム部4の前方先端の下方に設けられており、針穴36の直上に位置している針棒31の縫針35の針孔(図示せず)に、上糸15(図1参照)を挿通させるための機構である。駆動回路125は、制御部140からの制御信号に従って針孔糸通し機構126を駆動する。
【0036】
縫製対象駆動部130は、X軸モータ132と、駆動回路131と、Y軸モータ134と、駆動回路133とを備える。X軸モータ132は、刺繍枠84(図2参照)を左右方向に移動させる。駆動回路131は、制御部140からの制御信号に従ってX軸モータ132を駆動する。Y軸モータ134は、刺繍枠84を前後方向に移動させる。駆動回路133は、制御部140からの制御信号に従ってY軸モータ134を駆動する。
【0037】
操作部6は、タッチパネル8と、コネクタ9と、駆動回路135と、LCD7とを備える。駆動回路135は、制御部140からの制御信号に従ってLCD7を駆動する。コネクタ9は、USBデバイス160と接続する機能を備える。USB160としては、例えば、PCと、USBメモリと、他のミシン1とが挙げられる。
【0038】
制御部140は、CPU141と、ROM142と、RAM143と、EEPROM144と、入出力インターフェイス(I/O)146とを備え、これらはバス145によって相互に接続されている。I/O146には、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、イメージセンサ151とがそれぞれ接続されている。以下、CPU141と、ROM142と、RAM143と、EEPROM144とについて詳述する。
【0039】
CPU141は、ミシン1の主制御を司り、ROM142のプログラム記憶エリア(図示せず)に記憶された各種プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。プログラムはフレキシブルディスク等の外部記憶装置に記憶されていてもよい。
【0040】
ROM142は、図示しないが、プログラム記憶エリアと、模様記憶エリアとを含む複数の記憶エリアを備える。プログラム記憶エリアには、メインプログラムを含む、ミシン1を動作させるための各種プログラムが記憶されている。メインプログラムは、後述するメイン処理を実行するためのプログラムである。模様記憶エリアには、刺繍模様を縫製するための刺繍データが、模様IDと対応づけられて記憶されている。模様IDは、刺繍模様を特定する処理に用いられる。
【0041】
RAM143は、任意に読み書き可能な記憶素子であり、CPU141が演算処理した演算結果等を収容する記憶エリアが必要に応じて設けられている。EEPROM144には、読み書き可能な記憶素子であり、ミシン1が各種処理を実行するための各種パラメータが記憶されている。例えば、EEPROM144には、イメージセンサ151の内部パラメータと、外部パラメータとのそれぞれが記憶されている。イメージセンサ151の内部パラメータは、イメージセンサ151の特性に基づいて生じる焦点距離と、主点座標のずれと、撮影した画像の歪みとをそれぞれ補正するためのパラメータである。イメージセンサ151の外部パラメータは、ワールド座標系に対するイメージセンサ151の設置状態(位置及び向き)を示すパラメータである。ワールド座標系は、空間全体を示す座標系である。ワールド座標系は、撮影対象物の重心等の影響を受けることのない座標系である。
【0042】
次に、本実施形態の刺繍データについて説明する。本実施形態の刺繍データは、図4に示す刺繍座標系100の座標データを含む。刺繍座標系100は、Xキャリッジ22を移動させるX軸モータ132及びY軸モータ134の座標系である。刺繍座標系100の座標データは、Xキャリッジ22に対する刺繍模様の位置及び角度を表す。Xキャリッジ22には、縫製対象物39を保持する刺繍枠84が装着される。したがって、刺繍座標系100の座標データは、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に対する刺繍模様の位置及び角度を表す。本実施形態では、刺繍座標系100とワールド座標系とを予め対応させている。図4のように、刺繍座標系100は、ミシン1の左から右に向かう方向がX軸プラス方向であり、ミシン1の前から後に向かう方向がY軸プラス方向である。本実施形態では、刺繍枠84の初期位置を刺繍座標系100の原点(X,Y,Z)=(0,0,0)としている。刺繍枠84の初期位置は、刺繍枠84に対応する縫製領域86の中心点が、針落ち点と一致する位置である。針落ち点とは、針穴36(図2参照)の鉛直上方に配置された縫針35が、縫製対象物39の上にある状態から針棒31を下方向に移動させた際に、縫針35が縫製対象物39に刺さる点である。本実施形態の刺繍枠移動機構11は、刺繍枠84をZ方向(ミシン1の上下方向)には移動させないので、縫製対象物39の厚みが無視できる範囲であれば、縫製対象物39の上面をZ=0としている。
【0043】
ROM142に記憶されている刺繍データの座標データは、刺繍模様の初期配置を規定する。刺繍模様の初期配置は、刺繍模様の中心点が縫製領域86の中心点と一致するように設定されている。刺繍データの座標データは、縫製対象物39に対する刺繍模様の配置が変更された場合に適宜補正される。第1から第3実施形態では、縫製対象物39に対する刺繍模様の配置は、後述するメイン処理に従って設定される。以下の説明では、刺繍模様(刺繍模様の中心点)の位置及び刺繍模様の角度は、刺繍座標系100で表されるデータを用いて、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に対して設定される。
【0044】
次に、イメージセンサ151の撮影範囲について説明する。イメージセンサ151が撮影位置に配置された場合、イメージセンサ151の刺繍座標系100のXY平面における撮影範囲は、イメージセンサ151のレンズ中心の真下となる点を中心とする、左右方向の長さが約8mmであり前後方向の長さが約6mmの矩形範囲である。イメージセンサ151が撮影位置に配置され、且つ、刺繍枠84が初期位置に配置された場合の撮影範囲180は、図4のように刺繍座標系100の原点を中心とする矩形範囲となる。
【0045】
図6から図15を参照して、第1の実施形態のミシン1のメイン処理を説明する。図6のメイン処理は、ROM142に記憶されたメインプログラムに従って、CPU141が実行する。図6のメイン処理は、ユーザがパネル操作によって開始指示を入力した場合に起動される。ユーザは、例えば、縫製対象物39に縫製する予定の刺繍模様を選択した後、刺繍模様の縫製対象物39に対する配置を設定する場合に、開始指示を入力する。開始指示の入力時には、付与標識が付与された縫製対象物39を保持する刺繍枠84がXキャリッジ22に装着されているものとする。付与標識は、縫製対象物39に付与される、縫製対象物39に対する刺繍模様の基準点の位置及び刺繍模様の角度を示す標識である。刺繍模様の基準点は、刺繍模様の位置を特定する点である。本実施形態の刺繍模様の基準点は、刺繍模様の中心点である。刺繍模様の中心点は、例えば、X軸に平行な辺と、Y軸に平行な辺とを有し、刺繍模様の大きさが収まる最小矩形の対角線の交点である。本実施形態の付与標識は、2本の線分が直角に交差した×印である。縫製対象物39に対する×印の2本の線分の交点の位置は、縫製対象物39に対する刺繍模様の中心点の位置を表す。縫製対象物39に対する×印の2本の線分の角度は、縫製対象物39に対する刺繍模様の角度を表す。ユーザは、チャコペン等を用いて、縫製領域86の内側となる部分の縫製対象物39に×印を描画する。また、開始指示の入力時には、刺繍枠84は初期位置に配置されているものとする。
【0046】
図7を参照して、開始指示を入力するための画面200について説明する。開始指示は、図7の画面200に表示されるカメラ画像表示ボタン270が選択された場合に入力される。画面200は、刺繍模様を選択した後、刺繍模様の配置を設定する場合の画面である。画面200には、模様表示エリア210と、情報表示エリア220と、移動指示キー群230と、回転指示キー群240と、CLOSEボタン250と、カメラ画像表示ボタン270とを含む画像が表示されている。模様表示エリア210には、ユーザによって選択された刺繍模様211が表示される。刺繍模様211は、アルファベットの「A」の装飾模様である。情報表示エリア220には、刺繍模様211に関する情報が表示される。具体的には、情報表示エリア220は、大きさ221と、中心からの距離222と、回転角度223と、色替え数224とを含む。大きさ221は、刺繍模様211の大きさを、刺繍模様211のY軸方向の長さ(紙面上側の欄)と、X軸方向の長さ(紙面下側の欄)とのそれぞれで表す。図7のように、刺繍模様211の大きさは、Y軸方向の長さが125.9mmであり、X軸方向の長さ78.6mmである。刺繍模様211の大きさは、イメージセンサ151の撮影範囲よりも大きい。
【0047】
中心からの距離222は、刺繍模様211の中心点の設定位置を移動した場合の、縫製領域86の中心点に対する刺繍模様211の中心点のY軸方向の移動距離(紙面上側の欄)と、X軸方向の移動距離(紙面下側の欄)とのそれぞれを表す。回転角度223は、刺繍模様211の初期配置に対する回転角度を表す。刺繍模様の初期配置に対する時計回りの回転をプラスの回転とする。色替え数224は、刺繍模様211を縫製する場合に必要な糸交換の回数を表す。
【0048】
移動指示キー群230は、刺繍模様211の位置の移動を指示するためのキーである。移動指示キー群230は、右移動キー231と、左移動キー232とを含む移動方向の設定が異なる8種類の移動キーと、刺繍模様211の中心点を縫製領域86の中心点に戻すためのキーである中央キー233とを備える。刺繍模様211の移動量(ΔMx,ΔMy)は、選択された移動キーの種類及び操作量に応じて特定される。操作量には、操作回数又は操作継続時間が含まれる。回転指示キー群240は、縫製対象物39に対する刺繍模様211の回転角度φを指示するためのキーである。回転指示キー群240は、回転方向及び回転角度の設定が異なる複数のキーを備える。本実施形態では、刺繍模様211の中心点を中心に刺繍模様211が回転される。刺繍模様211の回転角度φは、回転指示キー群240が備える6つのキーの種類によって特定される。CLOSEボタン250は、終了指示を入力するためのボタンである。終了指示は、メイン処理を終了させる場合に入力される指示である。
【0049】
図6のように、メイン処理ではまず、刺繍模様211を縫製するための刺繍データが取得され、取得された刺繍データはRAM143に記憶される(S10)。刺繍データは、例えば、ROM142に記憶されている。ステップS10では、例えば、図7の刺繍模様211を縫製するための刺繍データが、ROM142から取得される。
【0050】
次に、イメージセンサ151が撮影位置に移動される(S20)。ステップS20では、まず、駆動回路123(図5参照)に制御信号が出力され、最も右側の係合コロ42と螺旋カム(図示せず)とが係合する位置に、針棒ケース21が移動される。針棒ケース21の移動によって、イメージセンサ151は、針穴36の鉛直上方に配置される。次に、イメージセンサ151が起動される(S30)。ステップS30の処理によって、イメージセンサ151は、撮影画像を表すデータである撮影画像データを制御部140に対して出力する処理を開始する。撮影画像は、針棒31と、針板16との間に配置された縫製対象物39を撮影した画像である。本実施形態では特に、刺繍枠84に保持された縫製対象物39を撮影した画像を撮影画像とする。刺繍枠84に保持された縫製対象物39は、針棒31と、針板16との間に配置されている。
【0051】
次に、位置設定指示が取得されたか否かが判断される(S40)。設定指示は、ユーザによって入力される指示であって、縫製対象物39に対する刺繍模様211の基準点の位置及び刺繍模様の角度の少なくともいずれかを設定するための指示である。本実施形態の設定指示には、位置設定指示と、角度設定指示との2種類の指示が含まれる。位置設定指示は、縫製対象物39に対する刺繍模様211の中心点の位置を設定するための指示である。角度設定指示は、縫製対象物39に対する刺繍模様211の角度を設定するための指示である。本実施形態では、CPU141は、タッチパネル8から出力されるデータのうち、移動指示キー群230が備える移動キーのいずれかがユーザにより選択された場合に出力されるデータを位置設定指示として取得する。位置設定指示として取得されるデータは、X軸方向及びY軸方向の刺繍模様211の移動量(ΔMx,ΔMy)を表す。取得された位置設定指示は、位置設定指示入力時の刺繍模様211の中心点から(ΔMx,ΔMy)移動させた位置に、刺繍模様211の中心点を設定することを指示する。位置設定指示が取得された場合(S40:YES)、取得された位置設定指示に応じた位置に刺繍枠84が移動される(S50)。
【0052】
第1の実施形態の位置設定指示に応じた位置は、位置設定指示によって指示される、刺繍模様211の中心点の位置が、イメージセンサ151の撮影範囲の内の合成画像の作成に利用される範囲の中央付近に配置される位置である。ここで、位置設定指示によって指示される刺繍模様211の位置の移動方向と、刺繍枠84の移動方向とは逆である。例えば、刺繍模様211を縫製対象物39に対して右方向に移動させることを指示する位置設定指示が取得された場合、ステップS50では、CPU141は刺繍枠84を左方向に移動させる。ステップS50では、具体的には、駆動回路131と、駆動回路133とに制御信号が出力され、位置設定指示に応じた位置に刺繍枠84が移動される。刺繍枠84の移動に伴い、イメージセンサ151の撮影範囲に対する縫製対象物39の相対位置が変更される。ステップS50では、位置設定指示がRAM143に記憶され、位置設定指示に応じて、情報表示エリア220の中心からの距離222が更新される。
【0053】
位置設定指示が取得されなかった場合(S40:NO)、又はステップS50の処理の次に、角度設定指示が取得されたか否かが判断される(S60)。具体的には、CPU141は、タッチパネル8から出力されるデータのうち、回転指示キー群240が備えるキーのいずれかがユーザにより選択された場合に出力される、刺繍模様211の回転角度φを表すデータを角度設定指示として取得する。取得された角度設定指示は、角度設定指示入力時の刺繍模様211の角度から回転角度φ回転させた角度に、刺繍模様211の角度を設定することを指示する。角度設定指示が取得された場合(S60:YES)、取得された角度設定指示がRAM143に記憶される(S70)。RAM143に記憶された角度設定指示は、後述する表示処理において参照される。角度設定指示が取得されない場合(S60:NO)、又はS70の次に、表示処理が実行される(S80)。表示処理では、刺繍模様211の中心点の位置及び刺繍模様211の角度をLCD7に表示する処理が実行される。
【0054】
図8を参照して、表示処理の詳細を説明する。図8のように、表示処理ではまず、イメージセンサ151から出力されるデータが撮影画像データとして取得され、取得された撮影画像データはRAM143に記憶される(S110)。次に、ステップS110で取得された撮影画像データが補正され、補正された撮影画像データはRAM143に記憶される(S120)。ステップS120では、ステップS110で取得された撮影画像データを、理想の状態でイメージセンサ151が配置されている場合に得られる撮影画像を表すデータとなるように補正する。本実施形態では、理想の状態を、イメージセンサ151が、縫製対象物39の真上に配置され、且つ、カメラ座標系のXY平面が刺繍座標系のXY平面と平行となる状態とする。カメラ座標系とは、イメージセンサ151の座標系である。イメージセンサ151の取付誤差及び製造誤差といった要因によって、イメージセンサ151が理想の状態で配置されていないことがある。ステップS120の処理では、上述のような要因に起因する影響を補正する。
【0055】
ステップS120での補正方法は、公知の方法に基づき実行されればよい。例えば、特開2009−172119号公報に記載の、視点変更画像を表すデータの算出方法に従って、以下に概説するように撮影画像データが補正されればよい。撮影画像の画像座標を、イメージセンサ151の内部パラメータを用いて、カメラ座標系の三次元座標に変換する。次に、カメラ座標系の三次元座標を、イメージセンサ151の外部パラメータを用いてワールド座標系の三次元座標Mw(Xw,Yw,0)に変換する。前述の通り本実施形態では縫製対象物39の上面をZw=0としている。イメージセンサ151の外部パラメータ及び内部パラメータはEEPROM144に記憶されている。
【0056】
次に、ワールド座標系の三次元座標が、補正後のカメラ座標系(視点変更画像の座標系)の座標系に変換される。ワールド座標系の三次元座標から、補正後のカメラ座標系(視点変更画像の座標系)に変換するため外部パラメータのうちの回転パラメータRは、3×3の単位行列であり、並進パラメータt=(0,0,t13で表される。(0,0,t13は、(0,0,t13)の転置行列である。Rとtとはそれぞれ、EEPROM144に記憶されている。次に、補正後のカメラ座標系(視点変更画像の座標系)の三次元座標が、イメージセンサ151の内部パラメータを用いて、補正後の撮影画像(視点変更画像)の画像座標に変換される。刺繍座標系100(図4参照)で表される刺繍模様211の中心点の座標Me(Xe,Ye)は、(Xe,Ye)=(Xw+Xf,Yw+Yf)である。ここで、(Xf,Yf)は、刺繍枠84の初期位置に対するX軸方向及びY軸方向の移動量を表す。
【0057】
本実施形態では、補正後の撮影画像データのうち、左右方向の長さが5.5mm前後方向の長さが3.5mmの矩形範囲を表す部分のデータに基づき、合成画像データが生成される。ステップS120の処理において補正された撮影画像データによって、図9に示す撮影画像420が表される具体例を想定する。図9のように撮影画像420には、縫製対象物450と、付与標識400と、部材480とが表されている。縫製対象物450は、イメージセンサ151の撮影範囲内の縫製対象物39を表す。付与標識400は、線分411と、線分412とが、交点410で直角に交差した×印である。部材480は、針孔糸通し機構126(図5参照)が備える部材である。
【0058】
次に、標識データが生成され、生成された標識データはRAM143に記憶される(S130)。標識データは、縫製対象物39に対する刺繍模様211の基準点(中心点)の位置及び刺繍模様211の角度の設定を示す標識である設定標識380(図13参照)を表すデータである。本実施形態の設定標識380は、図10の第1標識300と、図11の第2標識350とを組み合わせた標識である。図10及び図11において、矩形340は、撮影画像420の大きさ及び形状を表す。図10及び図11のように、第1標識300及び第2標識350は、矩形340内に収まる。図10の第1標識300は、縫製対象物39に対する刺繍模様211の中心点の位置及び刺繍模様211の角度を示す。図10の第1標識300は、縫製対象物39に対する刺繍模様211の回転角度が0度である場合を示す。図10のように、第1標識300は、線分群310と、線分群320とを備える。線分群310は、紙面上下方向に伸びる3本の線分311から313を備える。線分312は、矩形340の中心点の近傍を通る。線分311から313は、紙面左右方向において等間隔で配置されている。線分群320は、紙面左右方向に伸び、線分群310と直交する3本の線分321から323を備える。線分322は、矩形340の中心点の近傍を通る。線分321から323は、紙面上下方向において等間隔で配置されている。線分311から線分313の間隔は、線分321から323の間隔よりも広い。線分群310と、線分群320とは、線分の間隔の違いに基づき区別される。
【0059】
線分312と、線分322との交点330は、縫製対象物39に対する刺繍模様211の中心点の位置を示す。線分群310と線分群320とのそれぞれの矩形340に対する傾きは、縫製対象物39に対する刺繍模様211の角度を表す。本実施形態では、矩形340に対する交点330の位置は固定されている。第1標識300は、図6のステップS60で取得された角度設定指示に応じて、交点330を中心に回転される。第1標識300が回転された場合、線分群310及び線分群320のそれぞれが備える線分の端部は、各線分が矩形340の一方端から他方端まで伸びるように設定される。本実施形態では、矩形340に対する第1標識300の傾きは、刺繍模様211の回転角度がP度の場合と、刺繍模様211の回転角度がP+180度の場合とで同じとなる。刺繍模様211の回転角度がP度の場合と、刺繍模様211の回転角度がP+180度の場合とは、情報表示エリア220の回転角度223に基づき区別される。第1標識300の色には、灰色が設定されている。
【0060】
図11の第2標識350は、縫製対象物39に対する刺繍模様211の中心点の位置を示す。第2標識350は、緑で縁取りされた黒色の十字印である。十字印の交点360は、第1標識300の交点330と重なる。第2標識350は、ステップS60で取得された角度設定指示とは無関係で、回転されない。ステップS130では、矩形340で表される範囲の縫製対象物39に対する、第1標識300と、第2標識350とのそれぞれの配置を表すデータが標識データとして生成される。第1標識300は、図6のステップS70で記憶された角度設定指示に応じて回転され、各線分の長さが変更される。具体例において、図10の第1標識300と、図11の第2標識350とのそれぞれを表す標識データが生成されたと想定する。
【0061】
次に、ステップS120で補正された撮影画像データと、ステップS130で生成された標識データとに基づき合成画像データが生成され、生成された合成画像データはRAM143に記憶される(S140)。合成画像データは、撮影画像420に設定標識380を標識データが表す配置で重ね合わせた画像である合成画像を表すデータである。具体例では、図9の撮影画像420に、図10の第1標識300と、図11の第2標識350とをそれぞれ、矩形340で表される範囲の縫製対象物39に対する配置に基づき重ね合わせた画像が合成画像とされる。次に、駆動回路135に制御信号が出力され、ステップS140で生成された合成画像データに基づき、合成画像がLCD7に表示される(S150)。具体例では、ステップS150において、図12の画面201がLCD7に表示される。
【0062】
図12のように、画面201には、図7の画面200の模様表示エリア210に代えて、合成画像表示エリア260が表示されている。合成画像表示エリア260には、ステップS140の処理で生成された合成画像データによって表される合成画像500が表示される。合成画像500は、縫製対象物450と、付与標識400と、設定標識380(第1標識300及び第2標識350)とのそれぞれを表す。合成画像500において、付与標識400の交点410は、第2標識350の交点360と一致していない。合成画像500において、付与標識400の線分411及び線分412は、第1標識300の線分312及び線分322と重なっていない。合成画像500は、刺繍模様211の中心点の位置及び刺繍模様211の角度が、付与標識400によって表されるように設定されていないことを表している。表示処理は以上で終了し、処理はメイン処理に戻る。
【0063】
図6のメイン処理において、ステップS80の次に、RAM143に記憶されている、刺繍データが補正され、RAM143に記憶されている刺繍データが更新されるRAM143に記憶される(S90)。ステップS90では、縫製対象物39に対する刺繍模様211の基準点(中心点)の位置及び刺繍模様211の角度の設定に基づき、RAM143に記憶されている刺繍データが補正される。具体的には、刺繍模様211の中心点のX軸方向及びY軸方向の移動量(ΔMx,ΔMy)及び刺繍模様211の回転角度φに基づき、刺繍データが補正される。刺繍模様211のX軸方向及びY軸方向の移動量(ΔMx,ΔMy)は、位置設定指示に基づき設定される。刺繍模様211の回転角度φは、角度設定指示に基づき設定される。刺繍データが(x,y)で表されるデータである場合、補正後の刺繍データ(x′,y′)は、式(x′,y′)=(xcos(−φ)−ysin(−φ)+ΔMx,xsin(−φ)+ycos(−φ)+ΔMy)に基づき算出される。ステップS90の処理によって、刺繍模様211が、合成画像500の設定標識380が表す配置で縫製されるように、RAM143に記憶されている刺繍データが補正される。
【0064】
次に、終了指示が入力されているか否かが判断される(S100)。本実施形態では、CPU141は、タッチパネル8から出力されるデータのうち、CLOSEボタン250がユーザにより選択された場合に出力されるデータを終了指示として取得する。終了指示が取得された場合(S100:YES)、メイン処理は終了する。終了指示が取得されていない場合(S100:NO)、処理はステップS40の処理に戻る。
【0065】
具体例において、図12の画面201が表示されている状態において、ユーザは、合成画像500を確認しながら、交点410の表示位置と、第2標識350の交点360の表示位置とを一致させるように、位置設定指示を入力する(S40:YES)。位置設定指示が入力された結果、刺繍枠84が、Y軸マイナス方向に10.1mm、X軸プラス方向に9.4mm移動された場合、LCD7には、図13の画面202が表示される(図8のS150)。画面202の合成画像表示エリア260には、合成画像501が表示される。合成画像501は、縫製対象物450と、付与標識400と、設定標識380(第1標識300及び第2標識350)とのそれぞれを示す。合成画像501において、付与標識400の交点410は、第2標識350の交点360と一致している。しかし、合成画像501において、付与標識400の線分411及び線分412は、第1標識300の線分312及び線分322と重なっていない。つまり、合成画像501は、刺繍模様211の中心点の位置は、付与標識400によって表される位置に設定された状態を示している。合成画像501は、刺繍模様211の角度は、付与標識400によって表される角度には設定されていない状態を示している。
【0066】
具体例において、図13の画面202が表示されている状態において、ユーザは、合成画像501を確認しながら、付与標識400の線分411及び線分412が、所望の回転角度で、第1標識300の線分312及び線分322と重なるように、角度設定指示を入力する(S60:YES)。角度設定指示が入力された結果、刺繍模様211が、刺繍模様211の中心点を中心に50度回転された場合、図8のステップS130では、図14の第1標識300と、図11の第2標識350とのそれぞれを表すデータが標識データとして生成される。図14の第1標識300は、図10の第1標識300に対して、交点330を中心に時計回りに50度回転され、線分311から313及び321から323の長さのそれぞれは、各線分が矩形340の一端から他端まで伸びるように変更されている。
【0067】
ステップS150では、LCD7には、図15の画面203が表示される。画面203の合成画像表示エリア260には、合成画像502が表示される。合成画像502は、縫製対象物450と、付与標識400と、設定標識380(第1標識300及び第2標識350)とのそれぞれを示す。合成画像502において、付与標識400の交点410は、第2標識350の交点360と一致している。合成画像501において、付与標識400の線分411及び線分412は、第1標識300の線分312及び線分322と重なっている。つまり、合成画像502は、刺繍模様211の中心点の位置及び刺繍模様211の角度は、付与標識400によって表されるように設定されたことを示している。ユーザは、合成画像502によって、刺繍模様211の中心点の位置及び刺繍模様211の角度が、付与標識400によって表されるように設定されたこと確認した後、終了指示を入力する(S100:YES)。
【0068】
第1の実施形態において、イメージセンサ151は、本発明の「撮影手段」に相当する。第1標識300と、第2標識350とを含む設定標識380は、本発明の「設定標識」に相当する。縫製対象物39に付与された付与標識400は、本発明の「付与標識」に相当する。刺繍枠84を移動させる刺繍枠移動機構11は、本発明の「第1移動手段」に相当する。図6のステップS40及びステップS60のそれぞれ処理を実行するCPU141は、本発明の「設定指示取得手段」として機能する。ステップS50の処理を実行するCPU141は、本発明の「第1移動制御手段」として機能する。図8のステップS130を実行するCPU141は、本発明の「標識データ生成手段」として機能する。ステップS140を実行するCPU141は、本発明の「合成画像データ生成手段」として機能する。ステップS150で合成画像をLCD7の画面に表示するCPU141は、本発明の表示手段として機能する。ステップS10で、ユーザによって選択された刺繍模様211を縫製するためのデータである刺繍データを取得するCPU141は、本発明の「刺繍データ取得手段」として機能する。ステップS10で取得された刺繍データを、刺繍模様211の基準点の位置及び刺繍模様211の角度の設定に基づき補正する(S90)CPU141は、本発明の「補正手段」として機能する。
【0069】
第1の実施形態のミシン1によれば、ユーザは、イメージセンサ151の撮影範囲を超える大きさの刺繍模様211についても、合成画像中の設定標識380を見ることによって、縫製対象物39に対する刺繍模様211の配置を確認することができる。メイン処理実行時において、縫製対象物39には、×印の付与標識400が付与されている。このためユーザは、合成画像によって表される付与標識400と、設定標識380とに基づき、ユーザが意図するように刺繍模様211の配置が設定されているか否かを容易に確認することができる。
【0070】
ミシン1は、入力された位置設定指示に従って、合成画像に表される縫製対象物39の範囲を変更することができる。したがって、ミシン1は、位置設定指示によって刺繍模様211の位置を設定した後に、刺繍模様211の基準点(中心点)の位置がイメージセンサ151の撮影範囲に収まるように刺繍枠84を自動的に移動させることができる。ミシン1は、入力された角度設定指示に従って、合成画像に表される縫製対象物39に対する第1標識300の角度を変更することができる。したがって、ユーザは、位置設定指示及び角度設定指示の少なくとも一方に従って刺繍模様211の配置を設定した後の、縫製対象物39に対する刺繍模様211の配置を、合成画像によって容易に確認することができる。本実施形態ではさらに、ステップS90において、ステップS40で取得された位置設定指示及びステップS60で取得された角度設定指示に基づき刺繍データを補正している。したがって、ユーザは、合成画像中の設定標識380によって、ユーザが意図するように刺繍模様211が配置されているか否かを確認した上で、縫製対象物39に対する刺繍模様211の配置を設定することができる。ミシン1は、補正された刺繍データに従って、ユーザが意図する配置で縫製対象物39に刺繍模様211を縫製することができる。
【0071】
従来のミシンでは、撮影手段の撮影範囲内にある縫製対象物に対する刺繍模様全体の配置は確認することができても、縫製対象物に対する刺繍模様の基準点の位置及び刺繍模様の角度の双方を確認することができなかった。第1の実施形態のミシン1によれば、ユーザは、イメージセンサ151の撮影範囲に対する刺繍模様の大きさによらず、縫製対象物39に対する刺繍模様の基準点の位置及び刺繍模様の角度を、合成画像を見ることによって確認することができる。
【0072】
次に、図16を参照して、第2の実施形態のメイン処理について説明する。図16のメイン処理は、ROM142に記憶されたメインプログラムに従って、CPU141が実行する。図16において、図6の第1の実施形態のメイン処理と同様の処理を実行する処理には、同じステップ番号が付与されている。図16に示すように、第2の実施形態のメイン処理は、ステップS40及びステップS50の処理に代えて、ステップS45及びステップS55の処理が実行される点で、図6の第1の実施形態のメイン処理と異なる。第1の実施形態と同様な処理については、説明を省略し、以下、第1の実施形態と異なるステップS45及びステップS55の処理について説明する。
【0073】
ステップS45では、位置設定指示が入力されたか否かが判断される。第2の実施形態では、刺繍模様の位置を、刺繍模様の初期配置に対して左右方向に変更可能である。CPU141は、タッチパネル8から出力されるデータのうち、移動指示キー群230が備える右移動キー231と、左移動キー232と、中央キー233(図7参照)とのいずれかが操作された場合に出力されるデータを位置設定指示として取得する。第2の実施形態の位置設定指示は、刺繍模様の移動量ΔMxを表す。刺繍模様の移動量ΔMxは、操作されたキーの種類及び操作量に応じた値が設定される。位置設定指示が取得された場合(S45:YES)、取得された位置設定指示に応じた位置に針棒ケース21が移動される(S55)。第2の実施形態の位置設定指示に応じた位置は、第1の実施形態と同様である。ここで、位置設定指示によって指示される刺繍模様211の位置の移動方向と、針棒ケース21の移動方向とは同じである。具体的には、ステップS55では、駆動回路123(図5参照)に制御信号が出力され、位置設定指示が示すΔMxに応じた係合コロ42と螺旋カム(図示せず)とが係合する位置に、針棒ケース21が移動される。針棒ケース21の移動によって、イメージセンサ151は、ミシン1の左右方向に移動される。イメージセンサ151の移動に伴い、縫製対象物39に対するイメージセンサ151の撮影範囲の相対位置が変更される。ステップS55では、位置設定指示に応じて、情報表示エリア220の中心からの距離222が更新される。
【0074】
以上のように、ミシン1は第2の実施形態のメイン処理を実行する。針棒ケース21を移動させる針棒ケース移動機構40は、本発明の「第2移動手段」に相当する。図16のステップS45及びステップS60を実行するCPU141は、本発明の「設定指示取得手段」として機能する。ステップS55を実行するCPU141は、本発明の「第2移動制御手段」として機能する。第2の実施形態のミシン1では、ユーザは、イメージセンサ151を移動させることによって、合成画像によって表される縫製対象物39の範囲を変更することができる。したがって、ユーザは、位置設定指示によって指定される刺繍模様211の中心点が、イメージセンサ151の撮影範囲に収まるようにイメージセンサ151を自動的に移動させた上で、縫製対象物39に対する刺繍模様211の配置を確認することができる。
【0075】
次に、第3の実施形態のメイン処理について説明する。第3のメイン処理は、ROM142に記憶されたメインプログラムに従って、CPU141が実行する。図示しないが、第3の実施形態は、図6の第1の実施形態のメイン処理のステップS80で実行される表示処理において、第1の実施形態のメイン処理と異なる。以下、第3の実施形態の表示処理について、図17を参照して説明する。図17において、図8に示す第1の実施形態の表示処理と同様の処理を実行する処理には、同じステップ番号が付与されている。図17に示すように、第3の実施形態の表示処理は、ステップS130の処理に代えて、ステップS122と、ステップS124と、ステップS132との処理がそれぞれ実行される点で、図8の第1の実施形態の表示処理と異なる。第1の実施形態と同様な処理については、説明を省略し、以下、第1の実施形態と異なるステップS122と、ステップS124と、ステップS132の処理について説明する。
【0076】
ステップS122では、ステップS120で補正された撮影画像データに基づき、撮影画像の色が取得され、取得された撮影画像の色はRAM143に記憶される(S122)。ステップS122では、例えば、ステップS120で補正された撮影画像データに基づき、撮影画像の色として、撮影画像に含まれる画素のRGB値の平均値が取得される。次に、ステップS122で取得された撮影画像の色に基づき、設定標識380(第1標識300及び第2標識350)の色が設定され、設定された設定標識380の色はRAM143に記憶される(S124)。ステップS124では、ステップS122で取得された撮影画像の色とは異なる色が設定標識380の色に設定される。本実施形態では、縫製対象物450に対する設定標識380の視認性を考慮し、撮影画像の色の補色を、設定標識380の色に設定する。補色を算出する方法は、公知の方法が適宜採用されればよい。例えば、撮影画像の色のRGB値をそれぞれRGB値の階調値255から差分をとってもよい。例えば撮影画像の色のRGB値が(R,G,B)=(160,80,30)である場合、撮影画像の色の補色を(R′,G′,B′)=(95,175,225)としてもよい。ステップS132では、ステップS124で設定された色の設定標識380(第1標識300及び第2標識350)を表す標識データが生成される(S132)。
【0077】
以上のように、第3の実施形態のミシン1は、メイン処理を実行する。図17のステップS122を実行するCPU141は、本発明の「色取得手段」として機能する。ステップS124及びステップS132の処理を実行するCPU141は、本発明の「標識データ生成手段」として機能する。第3の実施形態のミシン1では、設定標識380の色は、撮影画像に表される縫製対象物39の色とは異なる色が設定される。本実施形態では特に、縫製対象物39の色の補色を、設定標識380の色として設定している。第3の実施形態のメイン処理のステップS150で表示される合成画像中の設定標識380の色は、ステップS124で設定された色であり、撮影画像の色と異なる。このため、ユーザは合成画像によって表される設定標識380を視認しやすい。
【0078】
次に、図18を参照して、第4の実施形態のメイン処理を説明する。図18のメイン処理は、ROM142に記憶されたメインプログラムに従って、CPU141が実行する。第4の実施形態のメイン処理は、例えば、ユーザがパネル操作によって開始指示を入力した場合に起動される。ユーザは、例えば、縫製対象物39に縫製する予定の刺繍模様211の選択及び刺繍模様211の配置を設定した後、LCD7に表示される画面で刺繍模様211の縫製対象物39に対する配置を確認する場合に、開始指示を入力する。縫製対象物39に対する刺繍模様211の配置は、例えば、LCD7に表示される図7の画面200の移動指示キー群230と、回転指示キー群240とが操作され、メイン処理を実行する前に設定される。
【0079】
図18において、図6の第1の実施形態のメイン処理と同様の処理を実行する処理には、同じステップ番号が付与されている。図16に示すように、第4の実施形態のメイン処理では、第1の実施形態と同様の、ステップS20と、ステップS30と、ステップS80と、ステップS100とが実行される。第4の実施形態のメイン処理では、第1の実施形態と異なるステップS51が実行される。第4の実施形態のメイン処理で実行される処理のうち、第1の実施形態と同様な処理については説明を省略する。ステップS51では、刺繍模様211の中心点の位置が、イメージセンサ151の撮影範囲の内、合成画像の作成に利用される範囲の中央付近に配置される位置に、刺繍枠84が移動される。第4の実施形態のミシン1によれば、ユーザは、合成画像中の付与標識400と設定標識380(第1標識300及び第2標識350)とを見ることによって、設定に従って刺繍模様211を縫製する場合、どのような配置で縫製されるのかを、縫製前に確認することができる。したがって、合成画像を見て刺繍模様211の配置を確認することによって、ユーザは意図しない位置に刺繍模様211が縫製されることを回避することができる。
【0080】
なお、本発明のミシンは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、以下の(A)から(F)までの変形が適宜加えられてもよい。
【0081】
(A)ミシン1の構成は適宜変更可能である。例えば、イメージセンサ151の種類と、配置とは適宜変更してもよい。例えば、イメージセンサ151は、CCDカメラ等、CMOSイメージセンサ以外の撮影素子であってもよい。他の例では、刺繍枠移動機構11が、Xキャリッジ22を移動させる方向は適宜変更可能である。他の例では、刺繍枠移動機構11は省略されてもよい。他の例では、ミシン1は多針ミシンではなく、針棒が1本のミシンであってもよい。多針ミシンに本開示が適用される場合、多針ミシンが備える針棒の数は6本に限定されず複数であればよい。他の例では、イメージセンサ151を移動させる専用の機構を備えてもよい。
【0082】
(B)ミシン1において実行されるメイン処理は、必要に応じて変更されても良い。例えば、本発明の特徴部分を組み合わせた処理がメイン処理とされてもよい。例えば、上記実施形態では表示処理において、撮影画像データを補正する処理は適宜変更されてもよいし、省略されてもよい。他の例では、上記実施形態において、合成画像データを生成する際に用いる撮影画像データは、撮影範囲の全部を表すデータであってもよいし、一部を表すデータであってもよい。他の例では、位置設定指示が取得された場合に、設定標識が表す刺繍模様の中心点の合成画像中の位置を、位置設定指示に対応する位置に変更してもよい。他の例では、位置設定指示が取得された場合に、位置設定指示に応じた位置に、針棒ケース21及び刺繍枠84の双方を移動させてもよい。
【0083】
(C)刺繍模様の基準点は、刺繍模様を代表する点であればよい。例えば、刺繍模様の基準点は、刺繍模様の中心点の他、刺繍模様が内部に収まる最小矩形の頂点のうちのいずれかであってもよい。刺繍模様の基準点を刺繍模様の中心点とする場合、中心点の設定方法は適宜変更されてよい。例えば、刺繍模様が収まる最小円の中心を刺繍模様の中心点としてもよい。他の例では、複数種類の基準点を予めEEPROM144等の記憶手段に記憶させておき、複数種類の基準点の中から設定標識が表す基準点を指定可能としてもよい。他の例では、ユーザが指定する任意の点を基準点としてもよい。この場合には、ユーザは縫製対象物に対する配置を確認したい点を基準点として指定することによって、縫製対象物に対する刺繍模様の配置を確認する場合の利便性を向上させることができる。上記実施形態では、縫製対象物に対する刺繍模様の角度を、刺繍模様の初期配置に対する刺繍模様の中心点を中心とする回転角度によって表していた。刺繍模様の角度は、縫製対象物に対する刺繍模様の角度が特定できればよく、回転中心等は適宜変更されてよい。
【0084】
(D)設定標識の形状及び大きさは、合成画像に収まるものであれば、適宜変更されてよい。例えば、上記実施形態では、第1標識300と、第2標識350とを組み合わせた標識を設定標識としていたが、第1標識300と、第2標識350とのいずれかによって、縫製対象物39に対する刺繍模様の基準点の位置及び刺繍模様の角度を表してもよい。他の例では、矢印と、星印といった別の模様を設定標識としてもよい。矢印を設定標識とする場合、例えば、矢印が指し示す方向が、縫製対象物39に対する刺繍模様の角度を表し、矢印の先端が縫製対象物に対する刺繍模様の基準点の位置を表すとしてもよい。他の例では、図19の画面204に示す第3標識600のように、刺繍模様211の大きさを合成画像表示エリア260に収まるように適宜縮小した模様を設定標識としてもよい。この場合、ユーザは合成画像503に含まれる設定標識385(第2標識350及び第3標識600)によって、刺繍模様211が縫製対象物39にどのように縫製されるのかを容易に把握することができる。他の例では、複数種類の設定標識を予めEEPROM144等の記憶手段に記憶させておき、複数種類の設定標識の中からユーザが所望の設定標識を選択可能にしてもよい。同様に、付与標識の形状及び大きさは適宜変更されてよい。また、付与標識は、ユーザが縫製対象物に所定の印を描画するのではなく、縫製対象物に元々図柄があるような場合には、この図柄を利用してもよい。
【0085】
(E)設定標識の色は、撮影画像の色に基づき設定されても良いし、デフォルトの色であってもよい。設定標識の色が、撮影画像の色に基づき設定される場合、撮影画像の色の決定方法は適宜変更されてよい。例えば、撮影画像に含まれる画素のRGB値の最頻値を撮影画像の色として決定されてもよい。他の例では、標識データに基づき特定される設定標識の周辺の部分となる画素のRGB値に基づき、撮影画像の色が設定されてもよい。撮影画像の色に基づき設定標識の色を設定する場合、設定標識の色には撮影画像の色とは異なる色が設定されればよい。例えば、撮影画像の色と、設定標識の色との対応関係を予めEEPROM144等の記憶手段に記憶させておき、撮影画像の色と、上記対応関係とに基づいて設定標識の色が設定されてもよい。他の例では、設定標識の色は、ユーザが指定した色であってもよい。この場合、ユーザは、縫製対象物39の色を考慮して設定標識の色を設定することによって、合成画像中の設定標識を容易に視認することができる。上記実施形態のように、設定標識が複数の標識を組み合わせた標識である場合、設定標識が備える一部の標識の色が撮影画像の色に基づき設定されてもよいし、全部の標識の色が撮影画像の色に基づき設定されてもよい。
【0086】
(F)上記実施形態では、タッチパネル8によって出力される所定のデータを各種指示として取得していたが、これに限定されない。例えば、ミシン1が、マウス等の入力手段を備える場合、入力手段によって出力される所定のデータを各種指示として取得してもよい。刺繍模様は、種々変更可能である。例えば、複数の模様の集合を1つの刺繍模様としてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 多針ミシン
7 液晶ディスプレイ
8 タッチパネル
11 刺繍枠移動機構
22 Xキャリッジ
39,450 縫製対象物
40 針棒ケース移動機構
84 刺繍枠
85 針棒駆動機構
100 刺繍座標系
141 CPU
142 ROM
142 RAM
151 イメージセンサ
211 刺繍模様
380,385 設定標識
400 付与標識
500,501,502,503 合成画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端に縫針が装着される針棒と、
前記縫針が挿通される針穴を備えた針板と、
前記針棒と、前記針板との間に配置された縫製対象物を撮影した画像である撮影画像を表すデータを撮影画像データとして生成する撮影手段と、
前記縫製対象物に対する刺繍模様の基準点の位置及び前記刺繍模様の角度の設定を示す標識である設定標識を表すデータを標識データとして生成する標識データ生成手段と、
前記撮影手段によって生成された前記撮影画像データと、前記標識データ生成手段によって生成された前記標識データとに基づき、前記撮影画像に前記設定標識を前記標識データが表す配置で重ね合わせた画像である合成画像を表すデータを合成画像データとして生成する合成画像データ生成手段と、
前記合成画像データ生成手段によって生成された前記合成画像データに基づき、前記合成画像を画面に表示する表示手段と
を備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
ユーザによって入力される指示であって、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置及び前記刺繍模様の前記角度の少なくともいずれかを設定する指示である設定指示を取得する設定指示取得手段をさらに備え、
前記標識データ生成手段は、前記設定指示取得手段によって取得された前記設定指示に従って、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置及び前記刺繍模様の前記角度の少なくともいずれかを設定して、前記標識データを生成することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記縫製対象物を保持する刺繍枠を移動させる第1移動手段と、
前記設定指示取得手段によって、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置を設定する指示が前記設定指示として取得された場合に、前記第1移動手段を制御して、前記設定指示に応じた位置に前記刺繍枠を移動させる第1移動制御手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記撮影手段を移動させる第2移動手段と、
前記設定指示取得手段によって、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置を設定する指示が前記設定指示として取得された場合に、前記第2移動手段を制御して、前記設定指示に応じた位置に前記撮影手段を移動させる第2移動制御手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項2又は3に記載のミシン。
【請求項5】
前記撮影手段は、前記縫製対象物に付与された、前記縫製対象物に対する前記基準点の前記位置及び前記刺繍模様の前記角度を示す標識である付与標識を撮影した前記撮影画像を表す前記撮影画像データを生成することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のミシン。
【請求項6】
前記撮影画像データに基づき、前記撮影画像の色を取得する色取得手段をさらに備え、
前記標識データ生成手段は、前記色取得手段によって取得された前記撮影画像の色に応じて、前記設定標識の色に前記撮影画像の色とは異なる色を設定した前記標識データを生成することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のミシン。
【請求項7】
前記刺繍模様を縫製するための刺繍データを取得する刺繍データ取得手段と、
前記刺繍データ取得手段によって取得された前記刺繍データを、前記縫製対象物に対する前記刺繍模様の前記基準点の前記位置及び前記刺繍模様の前記角度の前記設定に基づき補正する補正手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図7】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−234959(P2011−234959A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110101(P2010−110101)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】