モータ制御装置、歩行補助装置及びモータ制御方法
【課題】モータコイルの過熱を防止するモータ制御装置において、コイル温度が上限を超えないことを保証しつつ、コイル温度の上限を保証上限温度に十分近い値に設定して、コイル電流の制限に因るモータ性能の低下を抑止する。
【解決手段】上限電流算出部15は、温度センサ6u,6v,6wが検出した各相コイルの温度に基づいて各相において第1の所定時間後のコイル温度が上限温度以下に留まる上限値を、第1の所定時間より短い第2の所定時間の経過ごとに算出する。ベクトル処理部16は、目標コイル電流に対応する目標ベクトルの長さを、上限電流算出部15が算出した各相の上限値の内の最小のものに対応する長さ以内になるように補正する。相電流変換部17は、補正後の目標ベクトルに基づいて各相電流値を算出し、インバータ3を介してモータ2の各相電流を制御する。
【解決手段】上限電流算出部15は、温度センサ6u,6v,6wが検出した各相コイルの温度に基づいて各相において第1の所定時間後のコイル温度が上限温度以下に留まる上限値を、第1の所定時間より短い第2の所定時間の経過ごとに算出する。ベクトル処理部16は、目標コイル電流に対応する目標ベクトルの長さを、上限電流算出部15が算出した各相の上限値の内の最小のものに対応する長さ以内になるように補正する。相電流変換部17は、補正後の目標ベクトルに基づいて各相電流値を算出し、インバータ3を介してモータ2の各相電流を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータコイルの過熱を防止するモータ制御装置、該モータ制御装置を装備する歩行補助装置及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行補助装置等に装備されるモータでは、回転中だけでなく、回転停止中も、回転角を保持するために、コイルは通電状態に維持されている。コイルは、通電中、発熱するので、コイルの発熱量が放熱量を上回っていると、温度が上昇して、過熱状態になってしまう。したがって、モータの使用中、コイルが、過熱温度にならないように、保護する必要がある。
【0003】
特許文献1は、三相モータの過熱対策として、相電流の所定の関数又は相電流の累乗関数の積算値に基づいてモータ電流を制限することを開示する(特許文献1段落0047)。特許文献1は、また、三相モータにおいて、相別に相電流の積算値をそれぞれ算出し、最大積算値の相における積算値に基づいて全部の相電流を制限することを開示する(特許文献1段落0036)。
【0004】
特許文献2は、DCブラシレスモータにおいて、相電流の積算値又は相電流の所定の関数による関数値と閾値との差分の積算値と、インバータの中間バス電圧とに基づいて永久磁石の温度を予測し、予測温度に基づいてモータの最大電流を制限することを開示する(特許文献2段落0037)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−238293号公報
【特許文献2】特開2007−282478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のモータ過熱対策は、現在の相電流、それを積算した現在の積算値、又はその他の関数の現在の値に応じて相電流を制限するものであり、現在から所定時間後のコイル温度が過熱温度になるか否かに基づいて相電流を制限するものになっていない。したがって、相電流についての減少制御開始後、コイル温度が実際に低下するまでの時間遅れや、コイル温度のオーバーシュートに対処するために、閾値は、コイルの保証上限温度より十分に低い温度に対応する値に設定して、該現在の各種値が該閾値に以下になるように制御されており、本来ならば、まだ、コイル電流を増加できるにもかかわらず、早めにコイル電流が抑制されてしまい、モータの性能を十分に出し切れていなかった。
【0007】
本発明の目的は、コイル温度が上限を超えないことを保証しつつ、コイル温度の上限を保証上限温度に十分に近い値に設定し、これにより、コイル電流の制限を抑制することができるモータ制御装置、該モータ制御装置を搭載する歩行補助装置、及びモータ制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のモータ制御装置は、モータのコイル温度を検出するコイル温度検出手段と、現在から第1の所定時間の経過後のコイル温度を上限温度以下に留まらせるコイル電流の上限値を、前記第1の所定時間より短い第2の所定時間が経過するごとに、前記コイル温度検出手段により検出されたコイル温度を用いて決定する上限電流決定手段と、コイル電流が前記上限値以下になるようにコイル電流を制御するコイル電流制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
第1発明によれば、第1の所定時間後のコイル温度が上限温度以下に留まるように、コイル電流の上限値が、第1の所定時間より短い第2の所定時間の経過ごとに、コイル温度検出手段で検出されたコイル温度を用いて決定され、コイル電流が該上限値以下になるように制御される。すなわち、コイルに上限値のコイル電流が供給されても、第1の所定時間内はコイル温度が上限温度以下に留まるようになっている状況下で、コイル電流の上限値が、第1の所定時間より短い第2の所定時間ごとに決定され、更新されていく。これにより、コイル温度は上限温度以下に留まることが保証される。
【0010】
従来のモータ制御装置では、前述のように制御遅れやオーバーシュートを考慮して、閾値をコイル上限保証温度より十分低い値に設定し、現在のコイル温度と所定の静的な閾値とを対比して、コイル温度が閾値を超えているときにはコイル電流を低減するようにしていた。これに対し、第1発明によれば、上記のように第1の所定時間後のコイル温度を上限温度以下に留めることが保証されるので、制御遅れやオーバーシュートを考慮することなく、上限温度をコイル上限保証温度に近い値まで設定することができる。これにより、現在のコイル温度が従来のモータ制御装置における閾値より高い温度領域になるまで、コイル電流を増大することができ、モータ性能の低下につながるコイル電流の制限を極力、抑制することができる。
【0011】
第2発明のモータ制御装置は、第1発明において、前記上限電流決定手段は、前記コイル温度としての現在のコイル温度を用いるとともに、前記上限温度と前記第1の所定時間とを用いて前記コイル電流の上限値を決定することを特徴とする。
【0012】
第2発明によれば、現在のコイル温度とコイルの上限温度と第1の所定時間とを用いることにより、コイル電流の上限値を簡単かつ迅速に求めることができる。
【0013】
第3発明のモータ制御装置は、第1又は第2発明において、前記モータが三相モータであり、前記コイル温度検出手段が前記三相モータの相別にコイル温度を検出するものであり、前記上限電流決定手段が、相別コイル温度に基づいて相別にコイル電流の上限値を決定し、前記コイル電流制御手段が、各相別コイル電流が各相別上限値以下になるように、各相別コイル電流を制御することを特徴とする。
【0014】
第3発明によれば、モータが三相モータであるときに、各相においてコイル温度が上限を超えないことを保証しつつ、モータ性能の低下につながるコイル電流の制限を極力、抑制することができる。
【0015】
第4発明のモータ制御装置は、第3発明において、前記コイル電流制御手段が、前記上限電流決定手段の相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルで表現するD−Q座標において、原点を中心とし前記3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する半径を有する円を設定し、前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、その先端が前記円の外に位置しているときは、該先端が前記円内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、該長さを補正した目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とする。
【0016】
第4発明によれば、D−Q座標において、中心が原点にあり、半径が3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する長さである円が設定され、目標ベクトルに対し、その先端が円の外になっているときは、該先端が該円内に含まれるように、補正して、各相のコイル電流は補正後の目標ベクトルに基づいて算出されるので、各相においてコイル温度が上限を超えないことを保証しつつ、コイル電流の制限を極力、抑制することができる。3つの相別コイル電流を1つの相別上限値により制限することになるので、制御が簡単化されるとともに、高速回転時の回転が滑らかになる。
【0017】
第5発明のモータ制御装置は、第3発明において、前記コイル電流制御手段が、前記上限電流決定手段の相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルにより表現するD−Q座標において、対辺が相互に平行で各対辺間の距離が対応する相別上限値の2倍以下に相当する長さである多角形を設定し、前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、その先端が前記多角形外に位置しているときは、該先端が前記多角形内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、該長さを補正した目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とする。
【0018】
第5発明によれば、D−Q座標において、対辺が相互に平行であり、対辺間の距離が対応の相別上限値の絶対値の2倍以下に対応する長さである多角形が設定され、目標ベクトルに対し、その先端が多角形の外になっているときは、該先端が該多角形内に含まれるように、補正し、各相のコイル電流は補正後の目標ベクトルに基づいて算出される。この結果、各相コイルごとに温度環境が相違しているような場合に各相のコイル電流は、相別に決定された上限値以下に制限されるので、相に関係なく一律に上限値を設定するときよりも、コイル電流の制限を抑制することができる。
【0019】
第6発明のモータ制御装置は、第3発明において、前記コイル電流制御手段が、前記上限電流決定手段の相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルにより表現するD−Q座標において、原点を中心とし前記3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する半径を有する円と、対辺が相互に平行で対辺間の距離が対応する相別上限値の絶対値の2倍以下に相当する長さである多角形とを設定し、前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、前記三相モータの回転速度が所定値以上である期間に、前記目標ベクトルの先端が前記円の外に位置しているときは、該先端が前記円内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、前記三相モータの回転速度が前記所定値未満である期間に、前記目標ベクトルの先端が前記多角形の外に位置しているときは、該先端が前記多角形内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、前記補正後の目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とする。
【0020】
第6発明によれば、どの相のコイル温度も任意の時点で上限温度以下に保持されるとともに、高速回転時の滑らかな回転と、低速回転時や停止時の各相別の最大限トルクの確保とを両立させることができる。
【0021】
本発明の歩行補助装置は、第1〜第6発明のいずれかの1つのモータ制御装置と、大腿フレームと下腿フレームとを枢支する関節と、前記モータ制御装置により制御されるモータを含み該モータの駆動力により前記関節を駆動して前記大腿フレームと前記下腿フレームとの相互角を制御するアクチュエータとを備える。
【0022】
本発明の歩行補助装置によれば、高出力トルクを要求されつつ、モータの回転停止及び低速回転する期間の比較的長くなる使われ方の多いために、コイル温度が高くなり易いにもかかわらず、コイル温度を上限温度内に抑えつつ、コイル電流の制限を抑制して、モータの性能を十分に発揮することができる。
【0023】
本発明のモータ制御方法は、モータのコイル温度を検出するコイル温度検出ステップと、現在から第1の所定時間経過後のコイル温度を上限温度以下に留まらせるコイル電流の上限値を、前記第1の所定時間より短い第2の所定時間が経過するごとに、前記コイル温度検出ステップで検出されたコイル温度を用いて決定する上限電流決定ステップと、コイル電流が前記上限値以下になるように該コイル電流を制御するコイル電流制御ステップとを備えることを特徴とする。
【0024】
本発明のモータ制御方法によれば、コイル電流の上限値は、コイル温度に基づいて第1の所定時間後のコイル温度が上限温度以下に留まるように、第1の所定時間より短い第2の時間の経過ごとに、決定される。そして、コイル電流が、上限値以下になるように、制御される。この結果、従来のモータ制御方法では、制御遅れやオーバーシュートを考慮して、閾値をコイル上限保証温度より大分低い値に設定し、現在のコイル温度と所定の静的な閾値とを対比して、該閾値を超えているときには、コイル電流を下げるのに対し、本発明のモータ制御方法では、第1の所定時間後の上限温度は、制御遅れやオーバーシュートを考慮せずに、コイル上限保証温度に近い値を設定することができる。したがって、本発明のモータ制御方法によれば、現在のコイル温度は、従来のモータ制御方法における閾値より高温になるまで、コイル電流を増大することができ、モータ性能の低下につながるコイル電流の制限を極力、抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】モータ制御装置の構成図。
【図2】上限電流算出部が算出したコイル電流の上限値に基づいてコイル電流を制御する場合のコイル温度及びコイル電流の変化を例示する図。
【図3】コイル電流を制御する場合のむだ時間についての説明図。
【図4】DCブラシレスモータにおけるコイル温度及びコイル電流とコイル抵抗値との関係についての説明図。
【図5】上限電流算出部が算出した上限値に対するベクトル処理部の処理についての説明図。
【図6】各相コイルごとに使用状況が相違しているときのベクトル処理部によるD−Q座標上の補正ベクトルの算出方式を示す図。
【図7】各相コイルごとに使用状況が相違しているときのベクトル処理部によるD−Q座標上の補正ベクトルの別の算出方式を示す図。
【図8】各相のコイル電流の上限値の相対関係により決まるD−Q座標上の種々の多角形を示す図。
【図9】コイル電流の上限値をDCブラシレスモータの回転速度に応じて変更する場合のD−Q座標上の円の変化を示す図。
【図10】モータ制御装置を搭載する歩行補助装置の斜視図。
【図11】図10の歩行補助装置においてモータ及びバッテリが配備されている大腿フレームの切断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1を参照して、モータ制御装置1の主要構成について説明する。DCブラシレスモータ2は、スター結線の三相モータから構成され、インバータ3から3つの相線4u,4v,4wを介してU,V,W相の相電流(コイル電流)が供給される。
【0027】
コイル温度検出手段としての温度センサ6u,6v,6wはDCブラシレスモータ2の各相コイルの温度を検出する。各相コイルはDCブラシレスモータ2の固定子に電気角120°の間隔で周方向に配備されている。
【0028】
トルク・速度制御部12、上限電流算出部15、ベクトル処理部16及び相電流変換部17の各機能は、マイクロコンピュータが所定のソフトウェアを実行することにより実現される。上限電流決定手段としての上限電流算出部15は、温度センサ6u,6v,6wから各相コイルの温度に係る情報を入力されるとともに、相電流変換部17から各相の現在のコイル電流に係る情報を入力される。上限電流算出部15は、これらの入力情報に基づいて相別に相電流の上限値を算出する。上限電流算出部15における相別上限値の具体的な算出の仕方は図2〜図5において後述する。上限電流算出部15は、算出した相別上限値に係る情報をベクトル処理部16へ送る。
【0029】
トルク・速度制御部12は、各種入力に基づいてDCブラシレスモータ2の目標トルクと目標回転速度とを算出する。各種入力には、図示していないセンサからの検出信号だけでなく、利用者からの指示等も含まれる。利用者とは、モータ制御装置1が後述の歩行補助装置50(図10)に搭載された場合には、歩行補助装置50の利用者のことである。
【0030】
トルク・速度制御部12は、算出した目標回転速度に係る情報を電圧変換部11へ出力し、電圧変換部11は、該目標回転速度に対応する電圧にバッテリ10の出力電圧を変換して、インバータ3の入力端子に印加する。トルク・速度制御部12は、また、DCブラシレスモータ2について算出した目標回転速度及び目標トルクに係る情報をベクトル処理部16へ出力する。
【0031】
ベクトル処理部16は、DCブラシレスモータ2についての目標回転速度及び目標トルクに係る情報に基づいてD−Q座標上に目標ベクトルを生成するとともに、該目標ベクトルを上限電流算出部15からの相別上限値に係る情報に基づいて補正する。目標ベクトルについての具体的な補正の仕方は、図2〜図9において後述する。ベクトル処理部16と前述のインバータ3及び電圧変換部11とは本発明のコイル電流制御手段を構成する。
【0032】
ベクトル処理部16は、補正後の目標ベクトル(以下、適宜、「補正ベクトル」という。)に係る情報を相電流変換部17へ出力する。相電流変換部17は、各瞬時の補正ベクトルの向き及び長さに基づいて各相の相電流を算出し、相別に算出した相電流に対応する計3つの制御信号をインバータ3へ出力する。相電流変換部17は、また、相別に算出した相電流を相別の現在の相電流についての情報として、上限電流算出部15へ出力する。上限電流算出部15は、この情報を、後述する上限値の算出に使用する。
【0033】
インバータ3は、相電流変換部17からU,V,W相の相別に3つの制御信号を受け取る。インバータ3は、DCブラシレスモータ2内のスター結線接続に対応して、相線4u,4v,4w別にインバータ素子を備えている。相電流変換部17がインバータ3へ相別に出力するU,V,W相の3つの制御信号は、相線4u,4v,4wにそれぞれ設けられているインバータ素子のオン、オフの切替タイミングを制御するものになっている。これにより、インバータ3は、DCブラシレスモータ2の各相電流を、相電流変換部17が相別に算出した値に制御する。
【0034】
図2は、上限電流算出部15が算出した上限値Ilimitに基づいてコイル電流を制御する場合のコイル温度及びコイル電流の変化を例示している。図2において、横軸は時間であり、現在時刻を0としている。縦軸はコイル温度及びコイル電流となっている。図2は、説明の便宜上、DCブラシレスモータ2の3つの相コイルの温度環境は同一であると仮定して、1つの相についての変化を示している。
【0035】
図2に対応付けられるコイル電流制御では、コイルの上限温度Tlimitは100℃、現在のコイル温度Tは0℃としている。また、該コイル電流制御に使用する所定時間txを定義する。所定時間txは、該所定時間tx経過後にコイル温度がTlimitを上回らないように、コイル電流の上限値Ilimitを算出するときに用いる。所定時間txは、本発明の第1の所定時間に相当し、該コイル電流制御では10秒としている。
【0036】
コイル電流の上限値Ilimitの算出に使用する具体的な式(e11)〜(e14),式(e21),(e22)、式(e31)〜(e34)及び式(e41)〜(e45)については後述する。
【0037】
コイル温度が図2の変化となるように、コイル電流を図2のように制御するモータ制御装置1では、常に、現在から所定時間tx経過後のコイル温度がTlimit以下に留まるように、現在のコイル電流の上限値Ilimitを所定時間tyの経過ごとに算出して、更新していく。なお、所定時間tyは、ty<txとして定義され、本発明の第2の所定時間に相当する。好ましくは、所定時間tyの整数倍が、本発明の第1の所定時間に相当する前述の所定時間txとされる。このように、動的な上限値Ilimitの設定により、コイル温度は、上限温度Tlimitに相当に接近しつつも、上限温度Tlimitを上回らないように、コイル電流を制御することができる。この結果、上限温度Tlimitは、コイルの上限保証温度以下でかつ非常に近い値に設定することができる。
【0038】
図3はコイル電流を制御する場合のむだ時間について説明するものである。コイル電流の制御目標値を時刻t1においてステップ状に上昇させても、コイル温度が実際に上昇するのは時刻t2からであり、コイル温度が実際に上昇開始するまでには、図3に示すように、時刻t1とt2との差であるむだ時間が生じる。
【0039】
なお、図3では、コイル電流の制御目標値をステップ状に上昇させるときを示しているが、ステップ状に下降させるときも、同様にむだ時間が生じる。図2で説明した所定時間txは該むだ時間(特に、コイル電流の制御目標値をステップ状に下降するときのむだ時間)より大きい値として設定しなければならない。
【0040】
図4はDCブラシレスモータ2のコイルを構成する銅線の温度Tと抵抗値Rとの関係を示している。コイルの基準抵抗値をR0、基準温度をT0、温度係数をαとして、温度Tのときの抵抗値Rは、R=R0{1+α(T−T0)}により算出される。
【0041】
次の式(e11)〜(e14)は、上限値Ilimitの計算過程を順番に示している。DCブラシレスモータ2は相コイルを3つ有するが、この例では、温度環境はどの相コイルも同一であると想定し、どの相コイルについてもこれらの式を適用する。
【0042】
式(e11)〜式(e14)において、T,R,R0,αについては、図4において定義したものである。Tは現在のコイル温度[℃]、Rは現在のコイル温度Tにおけるコイルの抵抗値[Ω]、R0はコイルが基準温度T0にある時のコイルの抵抗[Ω]、αはコイルの抵抗についての温度係数[/℃]である。さらに、Tbodyはコイルが組み付けられているモータ本体の温度[℃]であり、Tlimitはコイルの上限温度[℃]、Wは現在のコイル温度におけるコイルの放熱率[W(ワット)]、hは熱伝達係数[W/℃]、tは現在から経過時間[second(秒)]、Ilimitはコイルの上限値[A(アンペア)]、Cはコイルの熱容量[J(ジュール)/℃]である。なお、放熱率Wは、静的なものではなく、コイルの蓄積熱量が増大するに連れて、増大する動的なものである。
【0043】
【数1】
【0044】
式(e11)からコイルの現在の抵抗値Rが算出される。なお、式(e11)の24は図4の基準温度T0のことであり、24℃を意味する。式(e12)から放熱率Wが算出される。式(e13)から現在から所定時間txが経過するまでのコイルの残り蓄熱量Ilimit2・t・Rが算出される。なお、式(e13)は近似式であり、実際には、R,W等は所定時間txの間、時々刻々に変化する動的なものであり、上限値Ilimitの算出のために実施する後述のコイル温度予想計算では、この動的な変化を反映してもよいし、近似式で済ませてもよい。
【0045】
式(e13)をIlimitについて解くと、式(e14)が得られる。上限電流算出部15は、式(e14)から算出したIlimitをベクトル処理部16へ出力する。
【0046】
DCブラシレスモータ2の上限値Ilimitについて具体的な決め方について2つの例を説明する。なお、DCブラシレスモータ2の上限値Ilimitの検出の仕方は3相共通であるので、1相のみについて説明する。
【0047】
[第1例]
DCブラシレスモータ2について実験を行って、図2のような特性グラフを予め作成し、その特性データを上限値演算用不揮発メモリに記憶しておく。図2についての前述の説明では、図2は、上限電流算出部15が算出した上限値Ilimitに基づいてコイル電流を制御する場合のコイル温度及びコイル電流の変化の例示であるとしたが、別の言い方をすると、各コイル温度に対して上限電流算出部15がコイル電流の上限値Ilimitを図2に示した特性の上限値にすれば、コイル温度Tが所定時間tx後にコイルの上限温度Tlimit以下になるように保証することができる。
【0048】
なお、図2の特性グラフは、DCブラシレスモータ2の作動開始時のコイル温度Tは0℃とするとともに、コイルの上限温度Tlimitは100℃、所定時間txは10秒としているが、これらの値は適宜変更可能である。この算出例についての以下の説明では、図2の特性グラフのデータに基づき現在のコイル温度のみからコイル電流の上限値Ilimitを算出するようになっているが、図2の特性グラフにおけるコイル温度及び上限値Ilimitの特性は、設定した所定時間tx及び上限温度Tlimitに対応付けられている。したがって、この算出例では、上限電流算出部15は、現在のコイル温度と上限温度Tlimitと所定時間txとに基づいて上限値Ilimitを算出していることになる。
【0049】
上限値Ilimitの算出処理では、最初に、温度センサ6u,6v,6wの検知信号に基づき現在のコイル温度を検出し、検出した現在のコイル温度を、上限値演算用不揮発メモリ上のコイル温度データと照合して、現在のコイル温度に対応付けられるコイル温度データを検索する。そして、検索により見つかったコイル温度データに対し、さらに、上限値演算用不揮発メモリ上で該コイル温度データに対応付けられているコイル電流データを検索する。
【0050】
次に、検索により見つかったコイル電流データに係るコイル電流を上限値Ilimitにする。なお、上限値演算用不揮発メモリに記憶されている特性データのコイル温度は離散値であるので、温度センサ6u,6v,6wの検知信号に基づき検出したコイル温度に完全に一致するものがない場合がある。そのような場合には、補間法を用いて、現在のコイル温度に対応する上限値Ilimitを算出する。
【0051】
第1例では、上限値Ilimitの算出が単純となり、算出に要する時間を短縮することができる。なお、算出を単純化した分、算出精度が低下するが、算出精度の低下は、所定時間tyを短くして、上限値Ilimitの更新間隔を短くすること等により補償することができる。したがって、したがって、現在から所定時間tx後のコイル温度Tがコイルの上限温度Tlimitを上回ることはない。
【0052】
[第2例]
上限値Ilimitを所定のシミュレーションにより算出する。最初に、現在のコイル電流を仮の上限値Itに設定し、現在から一定時間Δt(Δt<所定時間tx)が経過するごとに仮の上限値Itによってコイル温度がどのように変化していき、所定時間tx後のコイル温度を予想コイル温度として求める。なお、この一定時間Δtは、上限値Ilimitを算出する際の予想コイル温度を算出する際に使用する時間区分であり、前述の所定時間tyとは異なるものである。
【0053】
具体的には、式(e11)〜(e13)を使って、Δt後のコイル温度を算出する。具体的には、第1段階として、TにΔtの開始時のコイル温度(初回は現在のコイル温度)を代入して、式(e11)及び(e12)からR及びWを求める。なお、Tbodyは所定時間tx中、不変と仮定する。
【0054】
第2段階として、式(e13)のTlimitをΔtの終了時のコイル温度(未知数)のxとし、Ilimitに仮の上限値Itを代入し、式(e11)及び(e12)から求めたR及びWを式(e13)に代入して、未知数xを解く。xの解をΔtの開始時のコイル温度にして、再び第1及び第2段階を繰り返す。
【0055】
こうして、現在からΔt経過ごとのコイル温度を順番に求めていき、時間Δtの積算量が所定時間txに到達した時のコイル温度としての予想コイル温度が上限温度Tlimitを超えているか否かを調べる。もし超えているならば、所定時間tx後にコイル温度を上限温度以下に留めるコイル電流の上限値は現在の仮の上限値Itより低い値にしなければならないので、仮の上限値Itを所定量低い値ΔIに更新するとともに(It−ΔI→It)、更新後の仮の上限値Itに対して、コイル温度を現在のコイル温度にして現在から所定時間tx後の予想コイル温度を求める算出処理を繰り返す。
【0056】
こうして、繰り返される予想コイル温度算出処理で予想コイル温度が初めて上限温度以下になったときの予想コイル温度算出処理における仮の上限値Itを上限値Ilimitに定める。
【0057】
図5は、上限電流算出部15が算出した上限値に対するベクトル処理部16の処理を説明する図である。ベクトル処理部16はD−Q座標上で所定のベクトル演算を実施する。図5には、U,V,W相に対応するU,V,W軸が記載されているが、U,V,W軸の原点周りの角度間隔は電気角で120°間隔になっている。図5では、また、D,Q軸は、U,V,W軸のいずれとも一致していないが、D,Q軸とU,V,W軸との相対角は任意に設定することができる。
【0058】
図5の処理では、DCブラシレスモータ2の各相コイルは任意の時刻に相互に同一の状態にあることを想定している。したがって、DCブラシレスモータ2の3つの相コイルの中から任意の1つの相コイルを選択して、他の相コイルについての演算は省略する。図5の処理では、V相の相コイルが選択されている。
【0059】
図5の説明に先立ち、次の式(e21)〜(e24)について説明する。式(e21)及び式(e22)は上限電流算出部15が使用し、式(e23)及び式(e24)はベクトル処理部16が使用する。これらの式では、DCブラシレスモータ2の各相コイルは温度環境について相互に同一状態を保持して変化していることを想定している。したがって、これらの式からV相のみについて算出された値は他の相にも適用する。これらの式の記号に付けられている添え字のVは該記号がV相のものであることを示している。
【0060】
【数2】
【0061】
式(e21)は前述の式(e14)をV相について適用したものである。式(e22)では、式(e21)により算出したV相の上限値が上限値Ir_limitに代入される。上限値Ir_limitは、後述の式(e34),(e35)にも使用されるものであり、プログラムの汎用化上、設定する単なる変数である。式(e23)では、D−Q座標上で処理するために、Ir_limitに√3を掛けて、Idq_limitが算出される。式(e24)については後述する。
【0062】
ベクトル処理部16は、トルク・速度制御部12からDCブラシレスモータ2の目標回転速度及び目標トルクの情報を受ける。目標ベクトルAは、D−Q座標の原点を基点として、DCブラシレスモータ2の目標回転速度に対応する回転速度で原点の周りに回転する。なお、DCブラシレスモータ2の目標回転速度と、D−Q座標上の目標ベクトルAの回転速度との関係は、DCブラシレスモータ2の極数に関係する。DCブラシレスモータ2の同一の目標回転速度に対し、DCブラシレスモータ2の極数が大きいほど、D−Q座標上の目標ベクトルの回転速度は増大する。目標ベクトルAの長さは目標トルクに対応する。
【0063】
図5では円Pcが設定されている。円Pcは、中心が原点にあり、半径がIdq_limitの長さとなっている。該円Pcはコイル電流の上限値を規定する。目標ベクトルAは、その先端位置が該円Pcの内側に含まれるときは、すなわち、|(Id_cmd,Iq_cmd)|≦Idq_limitであるときは、補正ベクトルB(I’d_cmd,I’q_cmd)=目標ベクトルA(Id_cmd,Iq_cmd)とされる。
【0064】
これに対し、目標ベクトルAは、その先端位置が該円Pcより外側にあるときは、すなわち、|(Id_cmd,Iq_cmd)|>Idq_limitであるときは、補正ベクトルBに補正される。補正ベクトルB(I’d_cmd,I’q_cmd)は、目標ベクトルの向きを維持しつつ、長さだけをIdq_limitに変更したものである。式(e24)は、|(Id_cmd,Iq_cmd)|>Idq_limitであるときの補正ベクトルBの算出式である。
【0065】
ベクトル処理部16は、補正ベクトルBの情報を相電流変換部17へ出力する。相電流変換部17は、各時点の補正ベクトルBに対応するU,V,W相の相電流を算出し、その相電流に係る情報をインバータ3及び上限電流算出部15へ出力する。U,V,W相の相電流は位相が120°ずつずれているとともに、各時点の総和は0となっているので、各時点の補正ベクトルBからU,V,W相の各時点の相電流の大きさ及び位相が一義に決まる。
【0066】
こうして、インバータ3からDCブラシレスモータ2への各相電流は、上限電流算出部15が算出した上限値以下のものになる。この結果、DCブラシレスモータ2の各相コイルの温度は、現在から所定時間tx経過後において上限温度Tlimit以下に留まる。
【0067】
なお、この例では、補正ベクトルBの長さは相電流の実効値に対応しているので、各時点の相電流を算出する際には、実効値(補正ベクトルBの長さ)に√2を掛けて、振幅(波高値)に変換してから、該振幅に対して位相に係る係数を掛けて、各相電流を算出する。
【0068】
図6は相間で温度状況に差異が考えられるときのベクトル処理部16による補正ベクトルの算出方式を示している。図6の説明に先立ち、次の式(e31)〜(e36)について説明する。
【0069】
【数3】
【0070】
式(e31)〜(e33)は前述の式(e21)に対応する。式(e21)では、3相の使用状態が同一であるため、その中の代表としてV相のみについて計算していたが、式(e31)〜(e33)ではU,V,Wの各相についてそれぞれ上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitを算出する。なお、(e31)〜(e34)において、添え字のU,V,Wは、それが付けられている記号がそれぞれU,V,W相のものであることを意味している。
【0071】
式(e34),(e35)は前述の式(e22),(e23)に対応する。式(e34)では、上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの内、最小のものをIr_limitとして選択する。式(e35)では、D−Q座標上で処理するために、Ir_limitに√3を掛けて、Idq_limitが算出される。こうして、算出されたIdq_limitは、上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの内、最小のものに対応した大きさとなる。
【0072】
図6に戻る。図6(a)〜(c)は、Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの3つの内の最小のものに対応付けて円Pcを設定している。円Pcは、中心をD−Q座標の原点にし、半径はIur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの3つの内の最小のものに√3を掛けた値になっている。
【0073】
図6(a)では、Iur_limit=Ivr_limit=Iwr_limit=Idq_limit/√3となっている。図6(b)では、Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの3つの内、最小はIwr_limitであり、Iwr_limit=Idq_limit/√3となっている。図6(c)では、Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの3つの内、最小はIvr_limitであり、Ivr_limit=Idq_limit/√3となっている。
【0074】
式(e36)は、補正ベクトルBの長さの算出式となっている。目標ベクトルAの長さはAの先端位置のD−Q座標から求められる。|(Id_cmd,Iq_cmd)|>Idq_limitならば、すなわち|A|>|B|の場合には、向きは変更せず、長さは円Pcの半径に縮小した補正ベクトルBに変更される(B=(A/|A|)・Idq_limit)。|(Id_cmd,Iq_cmd)|≦Idq_limitならば、A=Bとなる。
【0075】
ベクトル処理部16は、図6に係る処理から求めた補正ベクトルBの情報を相電流変換部17へ出力する。相電流変換部17は、各時点の補正ベクトルBからU,V,W相の相電流を算出し、その相電流に係る情報をインバータ3及び上限電流算出部15へ出力する。
【0076】
D−Q座標上に設定する円Pcを、上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの内、最小のものに対応付けて設定する結果、相電流変換部17が補正ベクトルBを変換して算出するU,V,W相の相電流はいずれもそれぞれ上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limit以下になる。これにより、いずれの相コイルのコイル温度も所定時間tx後にTlimitを上回ることが回避される。
【0077】
図7は各相コイルごとに使用状況が相違しているときのベクトル処理部16による補正ベクトルの別の算出方式を示している。図6の算出方式ではD−Q座標において円Pcが使用されているが、図7の算出方式では、多角形Psが使用される。図7では、また、D−Q座標のQ軸はU軸と一致させているが、D,Q軸とU,V,W軸との相対角は任意に設定することができる。
【0078】
多角形Psは、図8で後述するように、6角形又は4角形となる。図8では、Psは6つの辺p1〜p6から成る。対辺同士(p1,p4),(p2,p5),(p3,p6)は、相互に平行になっている。また、(p1,p4),(p2,p5),(p3,p6)はそれぞれU,V,W軸に直角になっている。
【0079】
(p1,p4)の距離、(p2,p5)の距離及び(p3,p6)の距離は、典型的には、それぞれ式(e31)、(e32)及び(e33)で算出したIur_limit、Ivr_limit及びIwr_limitの√2(=2/√2)倍であるが、それぞIur_limit、Ivr_limit及びIwr_limitの最大2倍まで可能である。Iur_limit、Ivr_limit及びIwr_limitの√2とする理由については、後述の図9におけるkを、DCブラシレスモータ2の回転停止時に1/√2(√2は1/√2の2倍に相当)とする理由と同じである。すなわち、多角形Psの設定は、本来的にはDCブラシレスモータ2の回転停止時に対処しようとするものだからである。
【0080】
図7の(Id_cmd,Iq_cmd),(I’d_cmd,I’q_cmd)は、図5の(Id_cmd,Iq_cmd),(I’d_cmd,I’q_cmd)の場合と同様に、目標ベクトルA及び補正ベクトルBの先端位置のD−Q座標である。
【0081】
多角形Psはコイル電流の上限値を規定する。目標ベクトルAが該多角形Psより外側にあるときは、すなわち、|A|>|B|であるときは、目標ベクトルAは、その先端が該多角形Psの辺上になる補正ベクトルBに補正される。|A|≦|B|であるときは、目標ベクトルAがそのまま補正ベクトルBになる。円Pcについての目標ベクトルAから補正ベクトルBへの前述の補正式(e36)は、多角形Psについてもそのまま適用することができる。
【0082】
多角形Psを使用する場合も、円Pcを使用する場合と同様に、ベクトル処理部16は、補正ベクトルBの情報を相電流変換部17へ出力する。相電流変換部17は、各時点の補正ベクトルBに対応するU,V,W相の相電流を算出し、その相電流に係る情報をインバータ3及び上限電流算出部15へ出力する。U,V,W相の相電流は位相が120°ずつずれているとともに、各時点の総和は0となっており、各時点の補正ベクトルBからU,V,W相の各時点の相電流の大きさ及び位相が一義に決まる。
【0083】
なお、補正ベクトルBの長さは相電流の実効値に対応しているので、各時点の相電流を算出する際には、実効値に√2を掛けた振幅(波高値)を基に各時点の相電流の大きさを決める。
【0084】
図8は各相の上限値の相対関係により決まる種々の多角形を示している。図8(a)の場合では、U,V,W相のD−Q座標Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitは共に等しくなっている。この場合、多角形Psは正六角形になる。
【0085】
図8(b)の場合では、U,V,W相のD−Q座標Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitは、Iur_limit>Ivr_limit>Iwr_limitでかつIwr_limit・sin60°≦Ivr_limit+Iur_limit・tan30°である関係になっている。この場合、多角形PsはU軸方向の幅>V軸方向の幅>W軸方向の幅となる六角形になる。
【0086】
図8(c)の場合では、U,V,W相のD−Q座標Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitは、Iwr_limit>Iur_limit>Ivr_limitでかつIwr_limit・sin60°>Ivr_limit+Iur_limit・tan30°である関係になっている。この場合、多角形PsはU軸方向の幅>V軸方向の幅となる平行四辺形になる。
【0087】
図5及び図6の円Pcによる電流制限方式では、相に関係なく、コイル電流のの上限値が一律に、3相の上限値の内の最小のものに設定されているのに対し、図7及び図8の多角形Psによる電流制御方式では、温度上昇に余裕のある相では、ない相に比して上限値が大きく設定することができる。この結果、DCブラシレスモータ2の出力トルクを改善することができる。
【0088】
また、モータでは、高速回転時では、変動の少ない回転が望まれ、低速回転時では、高出力トルクの回転が望まれる。高速回転時では、図5及び図6の円Pcによる電流制限方式を選択し、低速回転時では、図7及び図8の多角形Psによる電流制御方式を選択することもできる。
【0089】
図9は上限値をDCブラシレスモータ2の回転速度に応じて変更する場合のD−Q座標上の円Pcの変化を示している。図9では、円Pcの半径は、図5の円Pcの半径に係数kを掛けた値に設定される。
【0090】
図9(a)は標準半径の円Pcに対して係数kが1の場合の円Pcとkが1/(√2)の場合の円Pcとを対比して示している。図9(b)は電気角θの微分値(θの頭部にドットを付けて表している。明細書では、「θ・」と右肩にドットを付ける。)の絶対値と係数kとの関係を示している。
【0091】
図9の方式を採用した場合の算出式は次の式(e41)〜(e47)となる。式(e41)〜(e43)はそれぞれ式(e31)〜(e33)に代えて用いられる。式(e41)〜(e43)におけるkは、図9(b)のグラフに従う式(e44)から算出される。式(e45)〜(e47)は式(e34)〜(e36)と同一である。
【0092】
【数4】
【0093】
図9の方式を用いた場合、DCブラシレスモータ2は、停止へ向かう減速中、特に|θ・|<θthresh|では、kは1/(√2)へ漸減することになるので、DCブラシレスモータ2は緩やかに回転停止することになる。
【0094】
なお、相コイルの上限値はk=1において所定時間tx後のコイル温度≦Tlimitを満たすように設定されるので、1/√2≦k<1の範囲では、相コイルの温度は、所定時間tx後のコイル温度≦Tlimitの条件を当然に満たす。
【0095】
以上、DCブラシレスモータ2、すなわち三相モータにおいてコイル温度が上限保証温度を超えないように制御するモータ制御装置1について、説明しているが、本発明のモータ制御装置は、モータコイルを含むモータであれば、交流の単相モータ及びブラシ型の直流モータにも適用可能である。単相モータ(誘導モータ)に適用したモータ制御装置では、図1のモータ制御装置1において、U,V,W相の3相の内の1つのコイル温度制御に関わる素子及び処理部のみを残して、他の2つの相のコイル温度制御に関わる素子を省略すればよい。
【0096】
例えば、前述の[数1]の式(e11)〜(e14)では、DCブラシレスモータ2のどの相コイルの温度環境も同一とみなして、V相のみについて上限値Ilimitを計算しているが、本発明のモータ制御装置を交流の単相モータ及びブラシ型の直流モータに適用する場合には、DCブラシレスモータ2にV相のみしか存在しないと考えて、制御処理することができる。
【0097】
本発明のモータ制御装置を交流の単相モータに適用する場合を先に説明すると、上限電流決定手段としての上限電流算出部15は、V相の各パラメータを単相交流モータの単相交流のパラメータに置き換えて、単相交流モータの上限値Ilimitを計算するようにする。上限電流算出部15が算出した、単相交流モータの上限値Ilimitは、単相交流モータへの入力電流を補正するコイル電流制御手段(該コイル電流制御手段は、ベクトル処理部16に相当するものは含まない。)へ出力し、該コイル電流制御手段が、単相交流モータへ供給する単相交流の単相コイル電流が該上限値以下に制限する。
【0098】
また、ベクトル処理部16をそのまま単相交流モータのモータ制御装置にも使用することも可能である。その場合は、コイル電流制御手段に1素子として含まれるベクトル処理部16は、DCブラシレスモータ2の場合と同様に、図5で説明したように、目標ベクトルAを算出し、目標ベクトルAから、単相交流モータの上限値Ilimit以下に制限された補正ベクトルBを生成し、相電流変換部17は、例えばV相を単相交流モータの単相に当て嵌めて、単相交流モータの単相コイル電流をV相のコイル電流とみなして、補正ベクトルBから単相交流モータのコイル電流を算出する。
【0099】
本発明のモータ制御装置をブラシ型の直流モータに適用する場合には、上限電流決定手段が前述の式(e14)から求めた上限値Ilimitに対し、コイル電流制御手段が、直流モータの直流給電電流が上限値Ilimit以下になるように、制御する。すなわち、直流モータの目標給電電流が上限値Ilimitより大である場合には、上限値Ilimitに又はそれより小に補正して得られる直流電流を直流モータに供給する。
【0100】
図10及び図11はモータ制御装置1を搭載する歩行補助装置50の構成図である。図1のDCブラシレスモータ2は、脚リンク53の第3関節(膝関節)58の屈曲角度を調整するアクチュエータ59内に駆動源として配備される。また、図1のバッテリ10は、DCブラシレスモータ2及びそのモータ制御装置1を含む、歩行補助装置50に装備されるすべての電装品の電源として、大腿フレーム55内に配備されている(図11)。
【0101】
図10において、歩行補助装置50は、持上げ力伝達部としての着座部51と、利用者の各脚の足平に装着される左右一対の足平装着部52,52と、各足平装着部52,52を着座部51にそれぞれ連結する左右一対の脚リンク53,53とを備えている。左右の足平装着部52,52は互いに左右対称の同一構造である。左右の脚リンク53,53も互いに左右対称の同一構造である。
【0102】
各脚リンク53は、着座部51から第1関節54を介して下側に延設された大腿フレーム55と、各足平装着部52から第2関節56を介して上側に延設された下腿フレーム57と、大腿フレーム55と下腿フレーム57とを、第1関節54と第2関節56との中間で屈伸自在に連結する第3関節58とから構成されている。
【0103】
さらに、歩行補助装置50は、各脚リンク53ごとに、第3関節58を駆動するための駆動力を発生するアクチュエータ59と、このアクチュエータ59の駆動力を第3関節58に伝達して、該第3関節58にその関節軸まわりの駆動トルクを付与する動力伝達機構60とを備えている。
【0104】
着座部51は、利用者が跨ぐようにして(利用者の両脚の付け根の間に配置するようにして)着座するサドル状のシート部51aと、シート部51aの下面に装着された支持フレーム51bと、支持フレーム51bの後端部(シート部51aの後側で上方に立ち上がる立ち上がり部分)に取り付けた腰当て部51cとから構成されている。また、腰当て部51cには、利用者または補助者が把持可能なアーチ状の把持部51dが取り付けられている。
【0105】
持上げ力伝達部はサドル状のシート部51aを有する着座部51により構成したが、ハーネス状の可撓性部材(例:特開2007−54616号公報の図16)により持上げ力伝達部を構成してもよい。持上げ力伝達部は、利用者の体幹部に上向きの持上げ力を作用させるために、両脚の付け根の間で利用者に接する部分を備えることが好ましい。
【0106】
各脚リンク53の第1関節54は、前後方向および左右方向の2つの関節軸まわりの回転自由度(2自由度)を有する関節である。さらに詳細には、各第1関節54は、着座部51に連結された円弧状のガイドレール61を備えている。そして、このガイドレール61に、各脚リンク53の大腿フレーム55の上端部に固定されたスライダ62が、該スライダ62に軸着した複数のローラ63を介して移動自在に係合されている。このため、各脚リンク53は、ガイドレール61の曲率中心を通る左右方向の軸(より詳しくはガイドレール61の円弧を含む平面に垂直な方向の軸)を第1関節54の第1の関節軸として、該第1の関節軸のまわりに前後方向の揺動運動(前後の振り出し運動)を行うことが可能となっている。
【0107】
また、ガイドレール61は、着座部51の支持フレーム51bの後端部(立ち上がり部分)に、軸心を前後方向に向けた支軸(図示せず)を介して軸支され、該支軸54bの軸心まわりに揺動可能とされている。これにより、各脚リンク53は、支軸54bの軸心を第1関節54の第2の関節軸として、該第2の関節軸のまわりに左右方向の揺動運動、すなわち、内転・外転運動を行うことが可能となっている。この例では、左右の第1関節54(図10には左の第1関節54のみ図示)の第2の関節軸は、左右の第1関節54で共通の関節軸となっている。
【0108】
上記のように第1関節54は、各脚リンク53が、前後方向および左右方向の2つの関節軸まわりの揺動運動を行うことが可能となるように構成されている。
【0109】
各足平装着部52は、利用者の各足平に履かせる靴52aと、靴52a内から上方に突出する連結部材52bとを備え、利用者の各脚が立脚(支持脚)となる状態で、靴52aを介して接地する。そして、連結部材52bに各脚リンク53の下腿フレーム57の下端部が第2関節56を介して連結されている。
【0110】
第3関節58は、左右方向の1軸まわりの回転自由度を有する関節であり、大腿フレーム55の下端部に下腿フレーム57の上端部を軸支する支軸58aを有する。該支軸58aの軸心は、第1関節54の第1の関節軸(ガイドレール61の円弧を含む平面に垂直な方向の軸)とほぼ平行である。そして、この支軸58aの軸心が第3関節58の関節軸となっており、その関節軸のまわりに、下腿フレーム57が大腿フレーム55に対して相対回転可能とされている。これにより、該第3関節58での脚リンク53の屈伸運動が可能となっている。
【0111】
各脚リンク53ごとのアクチュエータ59は、減速機64付きのDCブラシレスモータ2により構成された回転アクチュエータである。この回転アクチュエータ59は、その出力軸59aの軸心が第3関節58の関節軸(支軸58aの軸心)と平行になるように、大腿フレーム55の上端部(第1関節54寄りの部分)の外面に搭載され、該回転アクチュエータ59のハウジング(DCブラシレスモータ2の固定子に固定されている部分)が大腿フレーム55に固設されている。
【0112】
主に図11において、各動力伝達機構60は、回転アクチュエータ59の出力軸59aに同心に固定された駆動クランクアーム66と、第3関節58の関節軸と同心に下腿フレーム57に固定された従動クランクアーム67と、一端と他端とをそれぞれ駆動クランクアーム66、従動クランクアーム67に枢着した連結ロッド68とから構成されている。該連結ロッド68は、駆動クランクアーム66に対する枢着部68aと、従動クランクアーム67に対する枢着部68bとの間で直線状に延在している。
【0113】
DCブラシレスモータ2の運転によって回転アクチュエータ59の出力軸59aから出力される駆動力(出力トルク)は、該出力軸59aから駆動クランクアーム66を介して連結ロッド68の長手方向の並進力に変換され、その並進力(ロッド伝達力)が連結ロッド68をその長手方向に伝達する。さらに、該並進力が連結ロッド68から従動クランクアーム67を介して駆動トルクに変換され、その駆動トルクが、第3関節58の関節軸まわりに脚リンク53を屈伸させる駆動力として該第3関節58に付与される。
【0114】
各脚リンク53の大腿フレーム55および下腿フレーム57のそれぞれの長さの総和は、利用者の脚を直線状に伸展させた状態での該脚の長さよりも長いものとなっている。このため、各脚リンク53は、第3関節58で常時、屈曲する。その屈曲角度は、利用者の平地での通常歩行時には、例えば約40°〜70°の範囲の角度となる。
【0115】
バッテリ10は、大腿フレーム55において、連結ロッド68とガイドレール61との間に配置される。カバー70は、大腿フレーム55に取り付けられて、バッテリ10を覆う。バッテリ10は、歩行補助装置50に装備されるすべての電装品に電力を供給する。
【0116】
前述したように、回転アクチュエータ59のDCブラシレスモータ2の回転動力は、動力伝達機構60を介して膝関節としての第3関節58の屈曲角度の調整に使用される。第3関節58は、屈曲角度を変更する時は回転のために、DCブラシレスモータ2の回転動力を必要とするが、屈曲角度を一定に維持する時も、利用者の体重等を支持するために所定のトルクを出力する必要がある。したがって、DCブラシレスモータ2は、利用者が着座部51に着座して、第3関節58に重量がかかっている期間では、第3関節58の運動中及び停止中に関係なく、常時、バッテリ10から給電を受ける必要がある。
【0117】
DCブラシレスモータ2の各相コイルに必要とされる相電流は、第3関節58の静止中の屈曲角度に関係し、該静止中の屈曲角度によって相電流が3相間で不均衡になることが頻繁に生じる。歩行補助装置50では、また、ユーザか立ち止まりと歩行とを頻繁に繰り返すので、DCブラシレスモータ2と出力軸59aとの間には、減速機64が介在するものの、DCブラシレスモータ2の回転速度は、低速から高速の広い範囲にわたり変化する。
【0118】
モータ制御装置1は、歩行補助装置50におけるDCブラシレスモータ2についてのこのような使用環境に対して、前述のように、各相のコイル電流の上限値を算出して、各相のコイル電流を制御して、コイル温度が上限の保証温度以下に留まるように、適切に制御する。
【0119】
本発明を実施形態について説明したが、本発明はその要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0120】
1・・・モータ制御装置、2・・・DCブラシレスモータ(三相モータ)、6u,6v,6w・・・温度センサ(コイル温度検出手段)、15・・・上限電流算出部(上限電流決定手段)、16・・・ベクトル処理部(コイル電流制御手段)、17・・・相電流変換部(コイル電流制御手段)、50・・・歩行補助装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータコイルの過熱を防止するモータ制御装置、該モータ制御装置を装備する歩行補助装置及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行補助装置等に装備されるモータでは、回転中だけでなく、回転停止中も、回転角を保持するために、コイルは通電状態に維持されている。コイルは、通電中、発熱するので、コイルの発熱量が放熱量を上回っていると、温度が上昇して、過熱状態になってしまう。したがって、モータの使用中、コイルが、過熱温度にならないように、保護する必要がある。
【0003】
特許文献1は、三相モータの過熱対策として、相電流の所定の関数又は相電流の累乗関数の積算値に基づいてモータ電流を制限することを開示する(特許文献1段落0047)。特許文献1は、また、三相モータにおいて、相別に相電流の積算値をそれぞれ算出し、最大積算値の相における積算値に基づいて全部の相電流を制限することを開示する(特許文献1段落0036)。
【0004】
特許文献2は、DCブラシレスモータにおいて、相電流の積算値又は相電流の所定の関数による関数値と閾値との差分の積算値と、インバータの中間バス電圧とに基づいて永久磁石の温度を予測し、予測温度に基づいてモータの最大電流を制限することを開示する(特許文献2段落0037)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−238293号公報
【特許文献2】特開2007−282478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のモータ過熱対策は、現在の相電流、それを積算した現在の積算値、又はその他の関数の現在の値に応じて相電流を制限するものであり、現在から所定時間後のコイル温度が過熱温度になるか否かに基づいて相電流を制限するものになっていない。したがって、相電流についての減少制御開始後、コイル温度が実際に低下するまでの時間遅れや、コイル温度のオーバーシュートに対処するために、閾値は、コイルの保証上限温度より十分に低い温度に対応する値に設定して、該現在の各種値が該閾値に以下になるように制御されており、本来ならば、まだ、コイル電流を増加できるにもかかわらず、早めにコイル電流が抑制されてしまい、モータの性能を十分に出し切れていなかった。
【0007】
本発明の目的は、コイル温度が上限を超えないことを保証しつつ、コイル温度の上限を保証上限温度に十分に近い値に設定し、これにより、コイル電流の制限を抑制することができるモータ制御装置、該モータ制御装置を搭載する歩行補助装置、及びモータ制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のモータ制御装置は、モータのコイル温度を検出するコイル温度検出手段と、現在から第1の所定時間の経過後のコイル温度を上限温度以下に留まらせるコイル電流の上限値を、前記第1の所定時間より短い第2の所定時間が経過するごとに、前記コイル温度検出手段により検出されたコイル温度を用いて決定する上限電流決定手段と、コイル電流が前記上限値以下になるようにコイル電流を制御するコイル電流制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
第1発明によれば、第1の所定時間後のコイル温度が上限温度以下に留まるように、コイル電流の上限値が、第1の所定時間より短い第2の所定時間の経過ごとに、コイル温度検出手段で検出されたコイル温度を用いて決定され、コイル電流が該上限値以下になるように制御される。すなわち、コイルに上限値のコイル電流が供給されても、第1の所定時間内はコイル温度が上限温度以下に留まるようになっている状況下で、コイル電流の上限値が、第1の所定時間より短い第2の所定時間ごとに決定され、更新されていく。これにより、コイル温度は上限温度以下に留まることが保証される。
【0010】
従来のモータ制御装置では、前述のように制御遅れやオーバーシュートを考慮して、閾値をコイル上限保証温度より十分低い値に設定し、現在のコイル温度と所定の静的な閾値とを対比して、コイル温度が閾値を超えているときにはコイル電流を低減するようにしていた。これに対し、第1発明によれば、上記のように第1の所定時間後のコイル温度を上限温度以下に留めることが保証されるので、制御遅れやオーバーシュートを考慮することなく、上限温度をコイル上限保証温度に近い値まで設定することができる。これにより、現在のコイル温度が従来のモータ制御装置における閾値より高い温度領域になるまで、コイル電流を増大することができ、モータ性能の低下につながるコイル電流の制限を極力、抑制することができる。
【0011】
第2発明のモータ制御装置は、第1発明において、前記上限電流決定手段は、前記コイル温度としての現在のコイル温度を用いるとともに、前記上限温度と前記第1の所定時間とを用いて前記コイル電流の上限値を決定することを特徴とする。
【0012】
第2発明によれば、現在のコイル温度とコイルの上限温度と第1の所定時間とを用いることにより、コイル電流の上限値を簡単かつ迅速に求めることができる。
【0013】
第3発明のモータ制御装置は、第1又は第2発明において、前記モータが三相モータであり、前記コイル温度検出手段が前記三相モータの相別にコイル温度を検出するものであり、前記上限電流決定手段が、相別コイル温度に基づいて相別にコイル電流の上限値を決定し、前記コイル電流制御手段が、各相別コイル電流が各相別上限値以下になるように、各相別コイル電流を制御することを特徴とする。
【0014】
第3発明によれば、モータが三相モータであるときに、各相においてコイル温度が上限を超えないことを保証しつつ、モータ性能の低下につながるコイル電流の制限を極力、抑制することができる。
【0015】
第4発明のモータ制御装置は、第3発明において、前記コイル電流制御手段が、前記上限電流決定手段の相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルで表現するD−Q座標において、原点を中心とし前記3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する半径を有する円を設定し、前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、その先端が前記円の外に位置しているときは、該先端が前記円内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、該長さを補正した目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とする。
【0016】
第4発明によれば、D−Q座標において、中心が原点にあり、半径が3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する長さである円が設定され、目標ベクトルに対し、その先端が円の外になっているときは、該先端が該円内に含まれるように、補正して、各相のコイル電流は補正後の目標ベクトルに基づいて算出されるので、各相においてコイル温度が上限を超えないことを保証しつつ、コイル電流の制限を極力、抑制することができる。3つの相別コイル電流を1つの相別上限値により制限することになるので、制御が簡単化されるとともに、高速回転時の回転が滑らかになる。
【0017】
第5発明のモータ制御装置は、第3発明において、前記コイル電流制御手段が、前記上限電流決定手段の相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルにより表現するD−Q座標において、対辺が相互に平行で各対辺間の距離が対応する相別上限値の2倍以下に相当する長さである多角形を設定し、前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、その先端が前記多角形外に位置しているときは、該先端が前記多角形内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、該長さを補正した目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とする。
【0018】
第5発明によれば、D−Q座標において、対辺が相互に平行であり、対辺間の距離が対応の相別上限値の絶対値の2倍以下に対応する長さである多角形が設定され、目標ベクトルに対し、その先端が多角形の外になっているときは、該先端が該多角形内に含まれるように、補正し、各相のコイル電流は補正後の目標ベクトルに基づいて算出される。この結果、各相コイルごとに温度環境が相違しているような場合に各相のコイル電流は、相別に決定された上限値以下に制限されるので、相に関係なく一律に上限値を設定するときよりも、コイル電流の制限を抑制することができる。
【0019】
第6発明のモータ制御装置は、第3発明において、前記コイル電流制御手段が、前記上限電流決定手段の相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルにより表現するD−Q座標において、原点を中心とし前記3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する半径を有する円と、対辺が相互に平行で対辺間の距離が対応する相別上限値の絶対値の2倍以下に相当する長さである多角形とを設定し、前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、前記三相モータの回転速度が所定値以上である期間に、前記目標ベクトルの先端が前記円の外に位置しているときは、該先端が前記円内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、前記三相モータの回転速度が前記所定値未満である期間に、前記目標ベクトルの先端が前記多角形の外に位置しているときは、該先端が前記多角形内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、前記補正後の目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とする。
【0020】
第6発明によれば、どの相のコイル温度も任意の時点で上限温度以下に保持されるとともに、高速回転時の滑らかな回転と、低速回転時や停止時の各相別の最大限トルクの確保とを両立させることができる。
【0021】
本発明の歩行補助装置は、第1〜第6発明のいずれかの1つのモータ制御装置と、大腿フレームと下腿フレームとを枢支する関節と、前記モータ制御装置により制御されるモータを含み該モータの駆動力により前記関節を駆動して前記大腿フレームと前記下腿フレームとの相互角を制御するアクチュエータとを備える。
【0022】
本発明の歩行補助装置によれば、高出力トルクを要求されつつ、モータの回転停止及び低速回転する期間の比較的長くなる使われ方の多いために、コイル温度が高くなり易いにもかかわらず、コイル温度を上限温度内に抑えつつ、コイル電流の制限を抑制して、モータの性能を十分に発揮することができる。
【0023】
本発明のモータ制御方法は、モータのコイル温度を検出するコイル温度検出ステップと、現在から第1の所定時間経過後のコイル温度を上限温度以下に留まらせるコイル電流の上限値を、前記第1の所定時間より短い第2の所定時間が経過するごとに、前記コイル温度検出ステップで検出されたコイル温度を用いて決定する上限電流決定ステップと、コイル電流が前記上限値以下になるように該コイル電流を制御するコイル電流制御ステップとを備えることを特徴とする。
【0024】
本発明のモータ制御方法によれば、コイル電流の上限値は、コイル温度に基づいて第1の所定時間後のコイル温度が上限温度以下に留まるように、第1の所定時間より短い第2の時間の経過ごとに、決定される。そして、コイル電流が、上限値以下になるように、制御される。この結果、従来のモータ制御方法では、制御遅れやオーバーシュートを考慮して、閾値をコイル上限保証温度より大分低い値に設定し、現在のコイル温度と所定の静的な閾値とを対比して、該閾値を超えているときには、コイル電流を下げるのに対し、本発明のモータ制御方法では、第1の所定時間後の上限温度は、制御遅れやオーバーシュートを考慮せずに、コイル上限保証温度に近い値を設定することができる。したがって、本発明のモータ制御方法によれば、現在のコイル温度は、従来のモータ制御方法における閾値より高温になるまで、コイル電流を増大することができ、モータ性能の低下につながるコイル電流の制限を極力、抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】モータ制御装置の構成図。
【図2】上限電流算出部が算出したコイル電流の上限値に基づいてコイル電流を制御する場合のコイル温度及びコイル電流の変化を例示する図。
【図3】コイル電流を制御する場合のむだ時間についての説明図。
【図4】DCブラシレスモータにおけるコイル温度及びコイル電流とコイル抵抗値との関係についての説明図。
【図5】上限電流算出部が算出した上限値に対するベクトル処理部の処理についての説明図。
【図6】各相コイルごとに使用状況が相違しているときのベクトル処理部によるD−Q座標上の補正ベクトルの算出方式を示す図。
【図7】各相コイルごとに使用状況が相違しているときのベクトル処理部によるD−Q座標上の補正ベクトルの別の算出方式を示す図。
【図8】各相のコイル電流の上限値の相対関係により決まるD−Q座標上の種々の多角形を示す図。
【図9】コイル電流の上限値をDCブラシレスモータの回転速度に応じて変更する場合のD−Q座標上の円の変化を示す図。
【図10】モータ制御装置を搭載する歩行補助装置の斜視図。
【図11】図10の歩行補助装置においてモータ及びバッテリが配備されている大腿フレームの切断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1を参照して、モータ制御装置1の主要構成について説明する。DCブラシレスモータ2は、スター結線の三相モータから構成され、インバータ3から3つの相線4u,4v,4wを介してU,V,W相の相電流(コイル電流)が供給される。
【0027】
コイル温度検出手段としての温度センサ6u,6v,6wはDCブラシレスモータ2の各相コイルの温度を検出する。各相コイルはDCブラシレスモータ2の固定子に電気角120°の間隔で周方向に配備されている。
【0028】
トルク・速度制御部12、上限電流算出部15、ベクトル処理部16及び相電流変換部17の各機能は、マイクロコンピュータが所定のソフトウェアを実行することにより実現される。上限電流決定手段としての上限電流算出部15は、温度センサ6u,6v,6wから各相コイルの温度に係る情報を入力されるとともに、相電流変換部17から各相の現在のコイル電流に係る情報を入力される。上限電流算出部15は、これらの入力情報に基づいて相別に相電流の上限値を算出する。上限電流算出部15における相別上限値の具体的な算出の仕方は図2〜図5において後述する。上限電流算出部15は、算出した相別上限値に係る情報をベクトル処理部16へ送る。
【0029】
トルク・速度制御部12は、各種入力に基づいてDCブラシレスモータ2の目標トルクと目標回転速度とを算出する。各種入力には、図示していないセンサからの検出信号だけでなく、利用者からの指示等も含まれる。利用者とは、モータ制御装置1が後述の歩行補助装置50(図10)に搭載された場合には、歩行補助装置50の利用者のことである。
【0030】
トルク・速度制御部12は、算出した目標回転速度に係る情報を電圧変換部11へ出力し、電圧変換部11は、該目標回転速度に対応する電圧にバッテリ10の出力電圧を変換して、インバータ3の入力端子に印加する。トルク・速度制御部12は、また、DCブラシレスモータ2について算出した目標回転速度及び目標トルクに係る情報をベクトル処理部16へ出力する。
【0031】
ベクトル処理部16は、DCブラシレスモータ2についての目標回転速度及び目標トルクに係る情報に基づいてD−Q座標上に目標ベクトルを生成するとともに、該目標ベクトルを上限電流算出部15からの相別上限値に係る情報に基づいて補正する。目標ベクトルについての具体的な補正の仕方は、図2〜図9において後述する。ベクトル処理部16と前述のインバータ3及び電圧変換部11とは本発明のコイル電流制御手段を構成する。
【0032】
ベクトル処理部16は、補正後の目標ベクトル(以下、適宜、「補正ベクトル」という。)に係る情報を相電流変換部17へ出力する。相電流変換部17は、各瞬時の補正ベクトルの向き及び長さに基づいて各相の相電流を算出し、相別に算出した相電流に対応する計3つの制御信号をインバータ3へ出力する。相電流変換部17は、また、相別に算出した相電流を相別の現在の相電流についての情報として、上限電流算出部15へ出力する。上限電流算出部15は、この情報を、後述する上限値の算出に使用する。
【0033】
インバータ3は、相電流変換部17からU,V,W相の相別に3つの制御信号を受け取る。インバータ3は、DCブラシレスモータ2内のスター結線接続に対応して、相線4u,4v,4w別にインバータ素子を備えている。相電流変換部17がインバータ3へ相別に出力するU,V,W相の3つの制御信号は、相線4u,4v,4wにそれぞれ設けられているインバータ素子のオン、オフの切替タイミングを制御するものになっている。これにより、インバータ3は、DCブラシレスモータ2の各相電流を、相電流変換部17が相別に算出した値に制御する。
【0034】
図2は、上限電流算出部15が算出した上限値Ilimitに基づいてコイル電流を制御する場合のコイル温度及びコイル電流の変化を例示している。図2において、横軸は時間であり、現在時刻を0としている。縦軸はコイル温度及びコイル電流となっている。図2は、説明の便宜上、DCブラシレスモータ2の3つの相コイルの温度環境は同一であると仮定して、1つの相についての変化を示している。
【0035】
図2に対応付けられるコイル電流制御では、コイルの上限温度Tlimitは100℃、現在のコイル温度Tは0℃としている。また、該コイル電流制御に使用する所定時間txを定義する。所定時間txは、該所定時間tx経過後にコイル温度がTlimitを上回らないように、コイル電流の上限値Ilimitを算出するときに用いる。所定時間txは、本発明の第1の所定時間に相当し、該コイル電流制御では10秒としている。
【0036】
コイル電流の上限値Ilimitの算出に使用する具体的な式(e11)〜(e14),式(e21),(e22)、式(e31)〜(e34)及び式(e41)〜(e45)については後述する。
【0037】
コイル温度が図2の変化となるように、コイル電流を図2のように制御するモータ制御装置1では、常に、現在から所定時間tx経過後のコイル温度がTlimit以下に留まるように、現在のコイル電流の上限値Ilimitを所定時間tyの経過ごとに算出して、更新していく。なお、所定時間tyは、ty<txとして定義され、本発明の第2の所定時間に相当する。好ましくは、所定時間tyの整数倍が、本発明の第1の所定時間に相当する前述の所定時間txとされる。このように、動的な上限値Ilimitの設定により、コイル温度は、上限温度Tlimitに相当に接近しつつも、上限温度Tlimitを上回らないように、コイル電流を制御することができる。この結果、上限温度Tlimitは、コイルの上限保証温度以下でかつ非常に近い値に設定することができる。
【0038】
図3はコイル電流を制御する場合のむだ時間について説明するものである。コイル電流の制御目標値を時刻t1においてステップ状に上昇させても、コイル温度が実際に上昇するのは時刻t2からであり、コイル温度が実際に上昇開始するまでには、図3に示すように、時刻t1とt2との差であるむだ時間が生じる。
【0039】
なお、図3では、コイル電流の制御目標値をステップ状に上昇させるときを示しているが、ステップ状に下降させるときも、同様にむだ時間が生じる。図2で説明した所定時間txは該むだ時間(特に、コイル電流の制御目標値をステップ状に下降するときのむだ時間)より大きい値として設定しなければならない。
【0040】
図4はDCブラシレスモータ2のコイルを構成する銅線の温度Tと抵抗値Rとの関係を示している。コイルの基準抵抗値をR0、基準温度をT0、温度係数をαとして、温度Tのときの抵抗値Rは、R=R0{1+α(T−T0)}により算出される。
【0041】
次の式(e11)〜(e14)は、上限値Ilimitの計算過程を順番に示している。DCブラシレスモータ2は相コイルを3つ有するが、この例では、温度環境はどの相コイルも同一であると想定し、どの相コイルについてもこれらの式を適用する。
【0042】
式(e11)〜式(e14)において、T,R,R0,αについては、図4において定義したものである。Tは現在のコイル温度[℃]、Rは現在のコイル温度Tにおけるコイルの抵抗値[Ω]、R0はコイルが基準温度T0にある時のコイルの抵抗[Ω]、αはコイルの抵抗についての温度係数[/℃]である。さらに、Tbodyはコイルが組み付けられているモータ本体の温度[℃]であり、Tlimitはコイルの上限温度[℃]、Wは現在のコイル温度におけるコイルの放熱率[W(ワット)]、hは熱伝達係数[W/℃]、tは現在から経過時間[second(秒)]、Ilimitはコイルの上限値[A(アンペア)]、Cはコイルの熱容量[J(ジュール)/℃]である。なお、放熱率Wは、静的なものではなく、コイルの蓄積熱量が増大するに連れて、増大する動的なものである。
【0043】
【数1】
【0044】
式(e11)からコイルの現在の抵抗値Rが算出される。なお、式(e11)の24は図4の基準温度T0のことであり、24℃を意味する。式(e12)から放熱率Wが算出される。式(e13)から現在から所定時間txが経過するまでのコイルの残り蓄熱量Ilimit2・t・Rが算出される。なお、式(e13)は近似式であり、実際には、R,W等は所定時間txの間、時々刻々に変化する動的なものであり、上限値Ilimitの算出のために実施する後述のコイル温度予想計算では、この動的な変化を反映してもよいし、近似式で済ませてもよい。
【0045】
式(e13)をIlimitについて解くと、式(e14)が得られる。上限電流算出部15は、式(e14)から算出したIlimitをベクトル処理部16へ出力する。
【0046】
DCブラシレスモータ2の上限値Ilimitについて具体的な決め方について2つの例を説明する。なお、DCブラシレスモータ2の上限値Ilimitの検出の仕方は3相共通であるので、1相のみについて説明する。
【0047】
[第1例]
DCブラシレスモータ2について実験を行って、図2のような特性グラフを予め作成し、その特性データを上限値演算用不揮発メモリに記憶しておく。図2についての前述の説明では、図2は、上限電流算出部15が算出した上限値Ilimitに基づいてコイル電流を制御する場合のコイル温度及びコイル電流の変化の例示であるとしたが、別の言い方をすると、各コイル温度に対して上限電流算出部15がコイル電流の上限値Ilimitを図2に示した特性の上限値にすれば、コイル温度Tが所定時間tx後にコイルの上限温度Tlimit以下になるように保証することができる。
【0048】
なお、図2の特性グラフは、DCブラシレスモータ2の作動開始時のコイル温度Tは0℃とするとともに、コイルの上限温度Tlimitは100℃、所定時間txは10秒としているが、これらの値は適宜変更可能である。この算出例についての以下の説明では、図2の特性グラフのデータに基づき現在のコイル温度のみからコイル電流の上限値Ilimitを算出するようになっているが、図2の特性グラフにおけるコイル温度及び上限値Ilimitの特性は、設定した所定時間tx及び上限温度Tlimitに対応付けられている。したがって、この算出例では、上限電流算出部15は、現在のコイル温度と上限温度Tlimitと所定時間txとに基づいて上限値Ilimitを算出していることになる。
【0049】
上限値Ilimitの算出処理では、最初に、温度センサ6u,6v,6wの検知信号に基づき現在のコイル温度を検出し、検出した現在のコイル温度を、上限値演算用不揮発メモリ上のコイル温度データと照合して、現在のコイル温度に対応付けられるコイル温度データを検索する。そして、検索により見つかったコイル温度データに対し、さらに、上限値演算用不揮発メモリ上で該コイル温度データに対応付けられているコイル電流データを検索する。
【0050】
次に、検索により見つかったコイル電流データに係るコイル電流を上限値Ilimitにする。なお、上限値演算用不揮発メモリに記憶されている特性データのコイル温度は離散値であるので、温度センサ6u,6v,6wの検知信号に基づき検出したコイル温度に完全に一致するものがない場合がある。そのような場合には、補間法を用いて、現在のコイル温度に対応する上限値Ilimitを算出する。
【0051】
第1例では、上限値Ilimitの算出が単純となり、算出に要する時間を短縮することができる。なお、算出を単純化した分、算出精度が低下するが、算出精度の低下は、所定時間tyを短くして、上限値Ilimitの更新間隔を短くすること等により補償することができる。したがって、したがって、現在から所定時間tx後のコイル温度Tがコイルの上限温度Tlimitを上回ることはない。
【0052】
[第2例]
上限値Ilimitを所定のシミュレーションにより算出する。最初に、現在のコイル電流を仮の上限値Itに設定し、現在から一定時間Δt(Δt<所定時間tx)が経過するごとに仮の上限値Itによってコイル温度がどのように変化していき、所定時間tx後のコイル温度を予想コイル温度として求める。なお、この一定時間Δtは、上限値Ilimitを算出する際の予想コイル温度を算出する際に使用する時間区分であり、前述の所定時間tyとは異なるものである。
【0053】
具体的には、式(e11)〜(e13)を使って、Δt後のコイル温度を算出する。具体的には、第1段階として、TにΔtの開始時のコイル温度(初回は現在のコイル温度)を代入して、式(e11)及び(e12)からR及びWを求める。なお、Tbodyは所定時間tx中、不変と仮定する。
【0054】
第2段階として、式(e13)のTlimitをΔtの終了時のコイル温度(未知数)のxとし、Ilimitに仮の上限値Itを代入し、式(e11)及び(e12)から求めたR及びWを式(e13)に代入して、未知数xを解く。xの解をΔtの開始時のコイル温度にして、再び第1及び第2段階を繰り返す。
【0055】
こうして、現在からΔt経過ごとのコイル温度を順番に求めていき、時間Δtの積算量が所定時間txに到達した時のコイル温度としての予想コイル温度が上限温度Tlimitを超えているか否かを調べる。もし超えているならば、所定時間tx後にコイル温度を上限温度以下に留めるコイル電流の上限値は現在の仮の上限値Itより低い値にしなければならないので、仮の上限値Itを所定量低い値ΔIに更新するとともに(It−ΔI→It)、更新後の仮の上限値Itに対して、コイル温度を現在のコイル温度にして現在から所定時間tx後の予想コイル温度を求める算出処理を繰り返す。
【0056】
こうして、繰り返される予想コイル温度算出処理で予想コイル温度が初めて上限温度以下になったときの予想コイル温度算出処理における仮の上限値Itを上限値Ilimitに定める。
【0057】
図5は、上限電流算出部15が算出した上限値に対するベクトル処理部16の処理を説明する図である。ベクトル処理部16はD−Q座標上で所定のベクトル演算を実施する。図5には、U,V,W相に対応するU,V,W軸が記載されているが、U,V,W軸の原点周りの角度間隔は電気角で120°間隔になっている。図5では、また、D,Q軸は、U,V,W軸のいずれとも一致していないが、D,Q軸とU,V,W軸との相対角は任意に設定することができる。
【0058】
図5の処理では、DCブラシレスモータ2の各相コイルは任意の時刻に相互に同一の状態にあることを想定している。したがって、DCブラシレスモータ2の3つの相コイルの中から任意の1つの相コイルを選択して、他の相コイルについての演算は省略する。図5の処理では、V相の相コイルが選択されている。
【0059】
図5の説明に先立ち、次の式(e21)〜(e24)について説明する。式(e21)及び式(e22)は上限電流算出部15が使用し、式(e23)及び式(e24)はベクトル処理部16が使用する。これらの式では、DCブラシレスモータ2の各相コイルは温度環境について相互に同一状態を保持して変化していることを想定している。したがって、これらの式からV相のみについて算出された値は他の相にも適用する。これらの式の記号に付けられている添え字のVは該記号がV相のものであることを示している。
【0060】
【数2】
【0061】
式(e21)は前述の式(e14)をV相について適用したものである。式(e22)では、式(e21)により算出したV相の上限値が上限値Ir_limitに代入される。上限値Ir_limitは、後述の式(e34),(e35)にも使用されるものであり、プログラムの汎用化上、設定する単なる変数である。式(e23)では、D−Q座標上で処理するために、Ir_limitに√3を掛けて、Idq_limitが算出される。式(e24)については後述する。
【0062】
ベクトル処理部16は、トルク・速度制御部12からDCブラシレスモータ2の目標回転速度及び目標トルクの情報を受ける。目標ベクトルAは、D−Q座標の原点を基点として、DCブラシレスモータ2の目標回転速度に対応する回転速度で原点の周りに回転する。なお、DCブラシレスモータ2の目標回転速度と、D−Q座標上の目標ベクトルAの回転速度との関係は、DCブラシレスモータ2の極数に関係する。DCブラシレスモータ2の同一の目標回転速度に対し、DCブラシレスモータ2の極数が大きいほど、D−Q座標上の目標ベクトルの回転速度は増大する。目標ベクトルAの長さは目標トルクに対応する。
【0063】
図5では円Pcが設定されている。円Pcは、中心が原点にあり、半径がIdq_limitの長さとなっている。該円Pcはコイル電流の上限値を規定する。目標ベクトルAは、その先端位置が該円Pcの内側に含まれるときは、すなわち、|(Id_cmd,Iq_cmd)|≦Idq_limitであるときは、補正ベクトルB(I’d_cmd,I’q_cmd)=目標ベクトルA(Id_cmd,Iq_cmd)とされる。
【0064】
これに対し、目標ベクトルAは、その先端位置が該円Pcより外側にあるときは、すなわち、|(Id_cmd,Iq_cmd)|>Idq_limitであるときは、補正ベクトルBに補正される。補正ベクトルB(I’d_cmd,I’q_cmd)は、目標ベクトルの向きを維持しつつ、長さだけをIdq_limitに変更したものである。式(e24)は、|(Id_cmd,Iq_cmd)|>Idq_limitであるときの補正ベクトルBの算出式である。
【0065】
ベクトル処理部16は、補正ベクトルBの情報を相電流変換部17へ出力する。相電流変換部17は、各時点の補正ベクトルBに対応するU,V,W相の相電流を算出し、その相電流に係る情報をインバータ3及び上限電流算出部15へ出力する。U,V,W相の相電流は位相が120°ずつずれているとともに、各時点の総和は0となっているので、各時点の補正ベクトルBからU,V,W相の各時点の相電流の大きさ及び位相が一義に決まる。
【0066】
こうして、インバータ3からDCブラシレスモータ2への各相電流は、上限電流算出部15が算出した上限値以下のものになる。この結果、DCブラシレスモータ2の各相コイルの温度は、現在から所定時間tx経過後において上限温度Tlimit以下に留まる。
【0067】
なお、この例では、補正ベクトルBの長さは相電流の実効値に対応しているので、各時点の相電流を算出する際には、実効値(補正ベクトルBの長さ)に√2を掛けて、振幅(波高値)に変換してから、該振幅に対して位相に係る係数を掛けて、各相電流を算出する。
【0068】
図6は相間で温度状況に差異が考えられるときのベクトル処理部16による補正ベクトルの算出方式を示している。図6の説明に先立ち、次の式(e31)〜(e36)について説明する。
【0069】
【数3】
【0070】
式(e31)〜(e33)は前述の式(e21)に対応する。式(e21)では、3相の使用状態が同一であるため、その中の代表としてV相のみについて計算していたが、式(e31)〜(e33)ではU,V,Wの各相についてそれぞれ上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitを算出する。なお、(e31)〜(e34)において、添え字のU,V,Wは、それが付けられている記号がそれぞれU,V,W相のものであることを意味している。
【0071】
式(e34),(e35)は前述の式(e22),(e23)に対応する。式(e34)では、上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの内、最小のものをIr_limitとして選択する。式(e35)では、D−Q座標上で処理するために、Ir_limitに√3を掛けて、Idq_limitが算出される。こうして、算出されたIdq_limitは、上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの内、最小のものに対応した大きさとなる。
【0072】
図6に戻る。図6(a)〜(c)は、Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの3つの内の最小のものに対応付けて円Pcを設定している。円Pcは、中心をD−Q座標の原点にし、半径はIur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの3つの内の最小のものに√3を掛けた値になっている。
【0073】
図6(a)では、Iur_limit=Ivr_limit=Iwr_limit=Idq_limit/√3となっている。図6(b)では、Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの3つの内、最小はIwr_limitであり、Iwr_limit=Idq_limit/√3となっている。図6(c)では、Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの3つの内、最小はIvr_limitであり、Ivr_limit=Idq_limit/√3となっている。
【0074】
式(e36)は、補正ベクトルBの長さの算出式となっている。目標ベクトルAの長さはAの先端位置のD−Q座標から求められる。|(Id_cmd,Iq_cmd)|>Idq_limitならば、すなわち|A|>|B|の場合には、向きは変更せず、長さは円Pcの半径に縮小した補正ベクトルBに変更される(B=(A/|A|)・Idq_limit)。|(Id_cmd,Iq_cmd)|≦Idq_limitならば、A=Bとなる。
【0075】
ベクトル処理部16は、図6に係る処理から求めた補正ベクトルBの情報を相電流変換部17へ出力する。相電流変換部17は、各時点の補正ベクトルBからU,V,W相の相電流を算出し、その相電流に係る情報をインバータ3及び上限電流算出部15へ出力する。
【0076】
D−Q座標上に設定する円Pcを、上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitの内、最小のものに対応付けて設定する結果、相電流変換部17が補正ベクトルBを変換して算出するU,V,W相の相電流はいずれもそれぞれ上限値Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limit以下になる。これにより、いずれの相コイルのコイル温度も所定時間tx後にTlimitを上回ることが回避される。
【0077】
図7は各相コイルごとに使用状況が相違しているときのベクトル処理部16による補正ベクトルの別の算出方式を示している。図6の算出方式ではD−Q座標において円Pcが使用されているが、図7の算出方式では、多角形Psが使用される。図7では、また、D−Q座標のQ軸はU軸と一致させているが、D,Q軸とU,V,W軸との相対角は任意に設定することができる。
【0078】
多角形Psは、図8で後述するように、6角形又は4角形となる。図8では、Psは6つの辺p1〜p6から成る。対辺同士(p1,p4),(p2,p5),(p3,p6)は、相互に平行になっている。また、(p1,p4),(p2,p5),(p3,p6)はそれぞれU,V,W軸に直角になっている。
【0079】
(p1,p4)の距離、(p2,p5)の距離及び(p3,p6)の距離は、典型的には、それぞれ式(e31)、(e32)及び(e33)で算出したIur_limit、Ivr_limit及びIwr_limitの√2(=2/√2)倍であるが、それぞIur_limit、Ivr_limit及びIwr_limitの最大2倍まで可能である。Iur_limit、Ivr_limit及びIwr_limitの√2とする理由については、後述の図9におけるkを、DCブラシレスモータ2の回転停止時に1/√2(√2は1/√2の2倍に相当)とする理由と同じである。すなわち、多角形Psの設定は、本来的にはDCブラシレスモータ2の回転停止時に対処しようとするものだからである。
【0080】
図7の(Id_cmd,Iq_cmd),(I’d_cmd,I’q_cmd)は、図5の(Id_cmd,Iq_cmd),(I’d_cmd,I’q_cmd)の場合と同様に、目標ベクトルA及び補正ベクトルBの先端位置のD−Q座標である。
【0081】
多角形Psはコイル電流の上限値を規定する。目標ベクトルAが該多角形Psより外側にあるときは、すなわち、|A|>|B|であるときは、目標ベクトルAは、その先端が該多角形Psの辺上になる補正ベクトルBに補正される。|A|≦|B|であるときは、目標ベクトルAがそのまま補正ベクトルBになる。円Pcについての目標ベクトルAから補正ベクトルBへの前述の補正式(e36)は、多角形Psについてもそのまま適用することができる。
【0082】
多角形Psを使用する場合も、円Pcを使用する場合と同様に、ベクトル処理部16は、補正ベクトルBの情報を相電流変換部17へ出力する。相電流変換部17は、各時点の補正ベクトルBに対応するU,V,W相の相電流を算出し、その相電流に係る情報をインバータ3及び上限電流算出部15へ出力する。U,V,W相の相電流は位相が120°ずつずれているとともに、各時点の総和は0となっており、各時点の補正ベクトルBからU,V,W相の各時点の相電流の大きさ及び位相が一義に決まる。
【0083】
なお、補正ベクトルBの長さは相電流の実効値に対応しているので、各時点の相電流を算出する際には、実効値に√2を掛けた振幅(波高値)を基に各時点の相電流の大きさを決める。
【0084】
図8は各相の上限値の相対関係により決まる種々の多角形を示している。図8(a)の場合では、U,V,W相のD−Q座標Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitは共に等しくなっている。この場合、多角形Psは正六角形になる。
【0085】
図8(b)の場合では、U,V,W相のD−Q座標Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitは、Iur_limit>Ivr_limit>Iwr_limitでかつIwr_limit・sin60°≦Ivr_limit+Iur_limit・tan30°である関係になっている。この場合、多角形PsはU軸方向の幅>V軸方向の幅>W軸方向の幅となる六角形になる。
【0086】
図8(c)の場合では、U,V,W相のD−Q座標Iur_limit,Ivr_limit,Iwr_limitは、Iwr_limit>Iur_limit>Ivr_limitでかつIwr_limit・sin60°>Ivr_limit+Iur_limit・tan30°である関係になっている。この場合、多角形PsはU軸方向の幅>V軸方向の幅となる平行四辺形になる。
【0087】
図5及び図6の円Pcによる電流制限方式では、相に関係なく、コイル電流のの上限値が一律に、3相の上限値の内の最小のものに設定されているのに対し、図7及び図8の多角形Psによる電流制御方式では、温度上昇に余裕のある相では、ない相に比して上限値が大きく設定することができる。この結果、DCブラシレスモータ2の出力トルクを改善することができる。
【0088】
また、モータでは、高速回転時では、変動の少ない回転が望まれ、低速回転時では、高出力トルクの回転が望まれる。高速回転時では、図5及び図6の円Pcによる電流制限方式を選択し、低速回転時では、図7及び図8の多角形Psによる電流制御方式を選択することもできる。
【0089】
図9は上限値をDCブラシレスモータ2の回転速度に応じて変更する場合のD−Q座標上の円Pcの変化を示している。図9では、円Pcの半径は、図5の円Pcの半径に係数kを掛けた値に設定される。
【0090】
図9(a)は標準半径の円Pcに対して係数kが1の場合の円Pcとkが1/(√2)の場合の円Pcとを対比して示している。図9(b)は電気角θの微分値(θの頭部にドットを付けて表している。明細書では、「θ・」と右肩にドットを付ける。)の絶対値と係数kとの関係を示している。
【0091】
図9の方式を採用した場合の算出式は次の式(e41)〜(e47)となる。式(e41)〜(e43)はそれぞれ式(e31)〜(e33)に代えて用いられる。式(e41)〜(e43)におけるkは、図9(b)のグラフに従う式(e44)から算出される。式(e45)〜(e47)は式(e34)〜(e36)と同一である。
【0092】
【数4】
【0093】
図9の方式を用いた場合、DCブラシレスモータ2は、停止へ向かう減速中、特に|θ・|<θthresh|では、kは1/(√2)へ漸減することになるので、DCブラシレスモータ2は緩やかに回転停止することになる。
【0094】
なお、相コイルの上限値はk=1において所定時間tx後のコイル温度≦Tlimitを満たすように設定されるので、1/√2≦k<1の範囲では、相コイルの温度は、所定時間tx後のコイル温度≦Tlimitの条件を当然に満たす。
【0095】
以上、DCブラシレスモータ2、すなわち三相モータにおいてコイル温度が上限保証温度を超えないように制御するモータ制御装置1について、説明しているが、本発明のモータ制御装置は、モータコイルを含むモータであれば、交流の単相モータ及びブラシ型の直流モータにも適用可能である。単相モータ(誘導モータ)に適用したモータ制御装置では、図1のモータ制御装置1において、U,V,W相の3相の内の1つのコイル温度制御に関わる素子及び処理部のみを残して、他の2つの相のコイル温度制御に関わる素子を省略すればよい。
【0096】
例えば、前述の[数1]の式(e11)〜(e14)では、DCブラシレスモータ2のどの相コイルの温度環境も同一とみなして、V相のみについて上限値Ilimitを計算しているが、本発明のモータ制御装置を交流の単相モータ及びブラシ型の直流モータに適用する場合には、DCブラシレスモータ2にV相のみしか存在しないと考えて、制御処理することができる。
【0097】
本発明のモータ制御装置を交流の単相モータに適用する場合を先に説明すると、上限電流決定手段としての上限電流算出部15は、V相の各パラメータを単相交流モータの単相交流のパラメータに置き換えて、単相交流モータの上限値Ilimitを計算するようにする。上限電流算出部15が算出した、単相交流モータの上限値Ilimitは、単相交流モータへの入力電流を補正するコイル電流制御手段(該コイル電流制御手段は、ベクトル処理部16に相当するものは含まない。)へ出力し、該コイル電流制御手段が、単相交流モータへ供給する単相交流の単相コイル電流が該上限値以下に制限する。
【0098】
また、ベクトル処理部16をそのまま単相交流モータのモータ制御装置にも使用することも可能である。その場合は、コイル電流制御手段に1素子として含まれるベクトル処理部16は、DCブラシレスモータ2の場合と同様に、図5で説明したように、目標ベクトルAを算出し、目標ベクトルAから、単相交流モータの上限値Ilimit以下に制限された補正ベクトルBを生成し、相電流変換部17は、例えばV相を単相交流モータの単相に当て嵌めて、単相交流モータの単相コイル電流をV相のコイル電流とみなして、補正ベクトルBから単相交流モータのコイル電流を算出する。
【0099】
本発明のモータ制御装置をブラシ型の直流モータに適用する場合には、上限電流決定手段が前述の式(e14)から求めた上限値Ilimitに対し、コイル電流制御手段が、直流モータの直流給電電流が上限値Ilimit以下になるように、制御する。すなわち、直流モータの目標給電電流が上限値Ilimitより大である場合には、上限値Ilimitに又はそれより小に補正して得られる直流電流を直流モータに供給する。
【0100】
図10及び図11はモータ制御装置1を搭載する歩行補助装置50の構成図である。図1のDCブラシレスモータ2は、脚リンク53の第3関節(膝関節)58の屈曲角度を調整するアクチュエータ59内に駆動源として配備される。また、図1のバッテリ10は、DCブラシレスモータ2及びそのモータ制御装置1を含む、歩行補助装置50に装備されるすべての電装品の電源として、大腿フレーム55内に配備されている(図11)。
【0101】
図10において、歩行補助装置50は、持上げ力伝達部としての着座部51と、利用者の各脚の足平に装着される左右一対の足平装着部52,52と、各足平装着部52,52を着座部51にそれぞれ連結する左右一対の脚リンク53,53とを備えている。左右の足平装着部52,52は互いに左右対称の同一構造である。左右の脚リンク53,53も互いに左右対称の同一構造である。
【0102】
各脚リンク53は、着座部51から第1関節54を介して下側に延設された大腿フレーム55と、各足平装着部52から第2関節56を介して上側に延設された下腿フレーム57と、大腿フレーム55と下腿フレーム57とを、第1関節54と第2関節56との中間で屈伸自在に連結する第3関節58とから構成されている。
【0103】
さらに、歩行補助装置50は、各脚リンク53ごとに、第3関節58を駆動するための駆動力を発生するアクチュエータ59と、このアクチュエータ59の駆動力を第3関節58に伝達して、該第3関節58にその関節軸まわりの駆動トルクを付与する動力伝達機構60とを備えている。
【0104】
着座部51は、利用者が跨ぐようにして(利用者の両脚の付け根の間に配置するようにして)着座するサドル状のシート部51aと、シート部51aの下面に装着された支持フレーム51bと、支持フレーム51bの後端部(シート部51aの後側で上方に立ち上がる立ち上がり部分)に取り付けた腰当て部51cとから構成されている。また、腰当て部51cには、利用者または補助者が把持可能なアーチ状の把持部51dが取り付けられている。
【0105】
持上げ力伝達部はサドル状のシート部51aを有する着座部51により構成したが、ハーネス状の可撓性部材(例:特開2007−54616号公報の図16)により持上げ力伝達部を構成してもよい。持上げ力伝達部は、利用者の体幹部に上向きの持上げ力を作用させるために、両脚の付け根の間で利用者に接する部分を備えることが好ましい。
【0106】
各脚リンク53の第1関節54は、前後方向および左右方向の2つの関節軸まわりの回転自由度(2自由度)を有する関節である。さらに詳細には、各第1関節54は、着座部51に連結された円弧状のガイドレール61を備えている。そして、このガイドレール61に、各脚リンク53の大腿フレーム55の上端部に固定されたスライダ62が、該スライダ62に軸着した複数のローラ63を介して移動自在に係合されている。このため、各脚リンク53は、ガイドレール61の曲率中心を通る左右方向の軸(より詳しくはガイドレール61の円弧を含む平面に垂直な方向の軸)を第1関節54の第1の関節軸として、該第1の関節軸のまわりに前後方向の揺動運動(前後の振り出し運動)を行うことが可能となっている。
【0107】
また、ガイドレール61は、着座部51の支持フレーム51bの後端部(立ち上がり部分)に、軸心を前後方向に向けた支軸(図示せず)を介して軸支され、該支軸54bの軸心まわりに揺動可能とされている。これにより、各脚リンク53は、支軸54bの軸心を第1関節54の第2の関節軸として、該第2の関節軸のまわりに左右方向の揺動運動、すなわち、内転・外転運動を行うことが可能となっている。この例では、左右の第1関節54(図10には左の第1関節54のみ図示)の第2の関節軸は、左右の第1関節54で共通の関節軸となっている。
【0108】
上記のように第1関節54は、各脚リンク53が、前後方向および左右方向の2つの関節軸まわりの揺動運動を行うことが可能となるように構成されている。
【0109】
各足平装着部52は、利用者の各足平に履かせる靴52aと、靴52a内から上方に突出する連結部材52bとを備え、利用者の各脚が立脚(支持脚)となる状態で、靴52aを介して接地する。そして、連結部材52bに各脚リンク53の下腿フレーム57の下端部が第2関節56を介して連結されている。
【0110】
第3関節58は、左右方向の1軸まわりの回転自由度を有する関節であり、大腿フレーム55の下端部に下腿フレーム57の上端部を軸支する支軸58aを有する。該支軸58aの軸心は、第1関節54の第1の関節軸(ガイドレール61の円弧を含む平面に垂直な方向の軸)とほぼ平行である。そして、この支軸58aの軸心が第3関節58の関節軸となっており、その関節軸のまわりに、下腿フレーム57が大腿フレーム55に対して相対回転可能とされている。これにより、該第3関節58での脚リンク53の屈伸運動が可能となっている。
【0111】
各脚リンク53ごとのアクチュエータ59は、減速機64付きのDCブラシレスモータ2により構成された回転アクチュエータである。この回転アクチュエータ59は、その出力軸59aの軸心が第3関節58の関節軸(支軸58aの軸心)と平行になるように、大腿フレーム55の上端部(第1関節54寄りの部分)の外面に搭載され、該回転アクチュエータ59のハウジング(DCブラシレスモータ2の固定子に固定されている部分)が大腿フレーム55に固設されている。
【0112】
主に図11において、各動力伝達機構60は、回転アクチュエータ59の出力軸59aに同心に固定された駆動クランクアーム66と、第3関節58の関節軸と同心に下腿フレーム57に固定された従動クランクアーム67と、一端と他端とをそれぞれ駆動クランクアーム66、従動クランクアーム67に枢着した連結ロッド68とから構成されている。該連結ロッド68は、駆動クランクアーム66に対する枢着部68aと、従動クランクアーム67に対する枢着部68bとの間で直線状に延在している。
【0113】
DCブラシレスモータ2の運転によって回転アクチュエータ59の出力軸59aから出力される駆動力(出力トルク)は、該出力軸59aから駆動クランクアーム66を介して連結ロッド68の長手方向の並進力に変換され、その並進力(ロッド伝達力)が連結ロッド68をその長手方向に伝達する。さらに、該並進力が連結ロッド68から従動クランクアーム67を介して駆動トルクに変換され、その駆動トルクが、第3関節58の関節軸まわりに脚リンク53を屈伸させる駆動力として該第3関節58に付与される。
【0114】
各脚リンク53の大腿フレーム55および下腿フレーム57のそれぞれの長さの総和は、利用者の脚を直線状に伸展させた状態での該脚の長さよりも長いものとなっている。このため、各脚リンク53は、第3関節58で常時、屈曲する。その屈曲角度は、利用者の平地での通常歩行時には、例えば約40°〜70°の範囲の角度となる。
【0115】
バッテリ10は、大腿フレーム55において、連結ロッド68とガイドレール61との間に配置される。カバー70は、大腿フレーム55に取り付けられて、バッテリ10を覆う。バッテリ10は、歩行補助装置50に装備されるすべての電装品に電力を供給する。
【0116】
前述したように、回転アクチュエータ59のDCブラシレスモータ2の回転動力は、動力伝達機構60を介して膝関節としての第3関節58の屈曲角度の調整に使用される。第3関節58は、屈曲角度を変更する時は回転のために、DCブラシレスモータ2の回転動力を必要とするが、屈曲角度を一定に維持する時も、利用者の体重等を支持するために所定のトルクを出力する必要がある。したがって、DCブラシレスモータ2は、利用者が着座部51に着座して、第3関節58に重量がかかっている期間では、第3関節58の運動中及び停止中に関係なく、常時、バッテリ10から給電を受ける必要がある。
【0117】
DCブラシレスモータ2の各相コイルに必要とされる相電流は、第3関節58の静止中の屈曲角度に関係し、該静止中の屈曲角度によって相電流が3相間で不均衡になることが頻繁に生じる。歩行補助装置50では、また、ユーザか立ち止まりと歩行とを頻繁に繰り返すので、DCブラシレスモータ2と出力軸59aとの間には、減速機64が介在するものの、DCブラシレスモータ2の回転速度は、低速から高速の広い範囲にわたり変化する。
【0118】
モータ制御装置1は、歩行補助装置50におけるDCブラシレスモータ2についてのこのような使用環境に対して、前述のように、各相のコイル電流の上限値を算出して、各相のコイル電流を制御して、コイル温度が上限の保証温度以下に留まるように、適切に制御する。
【0119】
本発明を実施形態について説明したが、本発明はその要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0120】
1・・・モータ制御装置、2・・・DCブラシレスモータ(三相モータ)、6u,6v,6w・・・温度センサ(コイル温度検出手段)、15・・・上限電流算出部(上限電流決定手段)、16・・・ベクトル処理部(コイル電流制御手段)、17・・・相電流変換部(コイル電流制御手段)、50・・・歩行補助装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのコイル温度を検出するコイル温度検出手段と、
現在から第1の所定時間の経過後のコイル温度を上限温度以下に留まらせるコイル電流の上限値を、前記第1の所定時間より短い第2の所定時間が経過するごとに、前記コイル温度検出手段により検出されたコイル温度を用いて決定する上限電流決定手段と、
コイル電流が前記上限値以下になるように該コイル電流を制御するコイル電流制御手段と
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ制御装置において、
前記上限電流決定手段は、前記コイル温度としての現在のコイル温度を用いるとともに、前記上限温度と前記第1の所定時間とを用いて前記コイル電流の上限値を決定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のモータ制御装置において、
前記モータは三相モータであり、
前記コイル温度検出手段は、前記三相モータの相別にコイル温度を検出するものであり、
前記上限電流決定手段は、相別コイル温度に基づいて相別に上限値を決定し、
前記コイル電流制御手段は、各相別コイル電流が各相別上限値以下になるように各相別コイル電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項3記載のモータ制御装置において、
前記コイル電流制御手段は、前記上限電流決定手段が相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルで表現するD−Q座標において、原点を中心とし前記3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する半径を有する円を設定し、
前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、その先端が前記円の外に位置しているときは、該先端が前記円内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、
該長さを補正した目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項3記載のモータ制御装置において、
前記コイル電流制御手段は、前記上限電流決定手段が相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルにより表現するD−Q座標において、対辺が相互に平行で各対辺間の距離が対応する相別上限値の2倍以下に相当する長さである多角形を設定し、
前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、その先端が前記多角形外に位置しているときは、該先端が前記多角形内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、
該長さを補正した目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
請求項3記載のモータ制御装置において、
前記コイル電流制御手段は、前記上限電流決定手段が相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルにより表現するD−Q座標において、原点を中心とし前記3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する半径を有する円と、対辺が相互に平行で対辺間の距離が対応する相別上限値の絶対値の2倍以下に相当する長さである多角形とを設定し、
前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、
前記三相モータの回転速度が所定値以上である期間に、前記目標ベクトルの先端が前記円の外に位置しているときは、該先端が前記円内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、
前記三相モータの回転速度が前記所定値未満である期間に、前記目標ベクトルの先端が前記多角形の外に位置しているときは、該先端が前記多角形内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、
前記補正後の目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
大腿フレームと下腿フレームとを枢支する関節と、
前記モータ制御装置により制御されるモータを含み該モータの駆動力により前記関節を駆動して前記大腿フレームと前記下腿フレームとの相互角を制御するアクチュエータと
を備えることを特徴とする歩行補助装置。
【請求項8】
モータのコイル温度を検出するコイル温度検出ステップと、
現在から第1の所定時間経過後のコイル温度を上限温度以下に留まらせるコイル電流の上限値を、前記第1の所定時間より短い第2の所定時間が経過するごとに、前記コイル温度検出ステップで検出されたコイル温度を用いて決定する上限電流決定ステップと、
コイル電流が前記上限値以下になるように該コイル電流を制御するコイル電流制御ステップと
を備えることを特徴とするモータ制御方法。
【請求項1】
モータのコイル温度を検出するコイル温度検出手段と、
現在から第1の所定時間の経過後のコイル温度を上限温度以下に留まらせるコイル電流の上限値を、前記第1の所定時間より短い第2の所定時間が経過するごとに、前記コイル温度検出手段により検出されたコイル温度を用いて決定する上限電流決定手段と、
コイル電流が前記上限値以下になるように該コイル電流を制御するコイル電流制御手段と
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ制御装置において、
前記上限電流決定手段は、前記コイル温度としての現在のコイル温度を用いるとともに、前記上限温度と前記第1の所定時間とを用いて前記コイル電流の上限値を決定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のモータ制御装置において、
前記モータは三相モータであり、
前記コイル温度検出手段は、前記三相モータの相別にコイル温度を検出するものであり、
前記上限電流決定手段は、相別コイル温度に基づいて相別に上限値を決定し、
前記コイル電流制御手段は、各相別コイル電流が各相別上限値以下になるように各相別コイル電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項3記載のモータ制御装置において、
前記コイル電流制御手段は、前記上限電流決定手段が相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルで表現するD−Q座標において、原点を中心とし前記3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する半径を有する円を設定し、
前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、その先端が前記円の外に位置しているときは、該先端が前記円内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、
該長さを補正した目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項3記載のモータ制御装置において、
前記コイル電流制御手段は、前記上限電流決定手段が相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルにより表現するD−Q座標において、対辺が相互に平行で各対辺間の距離が対応する相別上限値の2倍以下に相当する長さである多角形を設定し、
前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、その先端が前記多角形外に位置しているときは、該先端が前記多角形内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、
該長さを補正した目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
請求項3記載のモータ制御装置において、
前記コイル電流制御手段は、前記上限電流決定手段が相別に決定した3つの相別上限値に対し、3つの相別コイル電流を1つのベクトルにより表現するD−Q座標において、原点を中心とし前記3つの相別上限値の内の最小の相別上限値に対応する半径を有する円と、対辺が相互に平行で対辺間の距離が対応する相別上限値の絶対値の2倍以下に相当する長さである多角形とを設定し、
前記モータに対する要求トルクに対応する長さを有し、前記モータの回転に同期して原点の周りに回転する目標ベクトルについて、
前記三相モータの回転速度が所定値以上である期間に、前記目標ベクトルの先端が前記円の外に位置しているときは、該先端が前記円内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、
前記三相モータの回転速度が前記所定値未満である期間に、前記目標ベクトルの先端が前記多角形の外に位置しているときは、該先端が前記多角形内に含まれるように前記目標ベクトルの長さを補正し、
前記補正後の目標ベクトルに基づいて各相別コイル電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
大腿フレームと下腿フレームとを枢支する関節と、
前記モータ制御装置により制御されるモータを含み該モータの駆動力により前記関節を駆動して前記大腿フレームと前記下腿フレームとの相互角を制御するアクチュエータと
を備えることを特徴とする歩行補助装置。
【請求項8】
モータのコイル温度を検出するコイル温度検出ステップと、
現在から第1の所定時間経過後のコイル温度を上限温度以下に留まらせるコイル電流の上限値を、前記第1の所定時間より短い第2の所定時間が経過するごとに、前記コイル温度検出ステップで検出されたコイル温度を用いて決定する上限電流決定ステップと、
コイル電流が前記上限値以下になるように該コイル電流を制御するコイル電流制御ステップと
を備えることを特徴とするモータ制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−106385(P2013−106385A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246865(P2011−246865)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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