説明

モータ制御装置

【課題】電流によるインダクタンス変動に追従した電流指令を生成して、トルク制御の精度を向上させる。
【解決手段】電流指令ベクトルの向きを示す電流位相角βrefとトルク指令Trefとを入力し、電流位相角βrefの示す方向を向く複数の電流指令ベクトルのうち、トルク指令Trefに対応する総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I及びq軸電流指令Iを生成する電流指令生成部24を備え、モータに流れる電流値に応じて変化するd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を電流値Iに関連付けたインダクタンス情報Da3を予め設定しておき、d軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成するにあたり、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I,I)によってモータに流れたとみなせる電流値Iに対応するd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を用いてd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流指令ベクトルに応じた電流をモータに通電することによりモータの駆動を制御するモータ制御装置に係り、特にトルク制御を適正化したモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)を始めとする逆突極性を有する同期モータの駆動を制御するモータ制御装置は、所望のトルクを発生させる電流指令ベクトルを生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することによりモータの駆動を制御する装置である。電流指令ベクトルは、IPMモータの三相各相に流す電流を、回転子に配置された永久磁石の磁束の方向であるd軸電流成分とd軸に直交するq軸電流成分との二つのベクトル成分に変換して、d軸電流成分及びq軸電流成分をこれらの合成ベクトルで表現したものである。一般的に、d軸電流成分はd軸電流指令で表現され、q軸電流成分はq軸電流指令で表現され、電流指令ベクトルの向きはベクトルとq軸とのなす角度である電流位相角で表現される。モータへ通電すると、永久磁石の磁束に起因するマグネットトルクと、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスの差に起因するリラクタンストルクとを合わせた総合トルクが発生する。この総合トルクは、電流指令ベクトルの大きさ(すなわちモータに流れる電流値)が同じであっても、ベクトルの向き(すなわち電流位相角)によって変化するものである。
【0003】
この種のモータ制御装置の一例として特許文献1には、トルク指令に対応する値の総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令及びq軸電流指令を生成する電流指令生成部と、d軸及びq軸の電流指令に応じた電流をモータに通電する通電制御部とを備えたモータ制御装置が開示されている。電流指令生成部は、電流位相角の示す方向を向く複数の電流指令ベクトルのうち、トルク指令に対応する値の総合トルクを得られる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令及びq軸電流指令を算出する。具体的には、特許文献1の段落0034〜0042に例示されるように、モータの極体数や誘起電圧定数、d軸インダクタンス、q軸インダクタンスが既知であることから、これら既知の定数とトルク指令と電流位相角とをパラメータとする関数により算出する。
【0004】
なお、特許文献2には、トルク指令及びモータ回転数がそれぞれ或る値であるという条件の下において効率が最大となる電流位相角を求める技術の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−159192号公報
【特許文献2】特開2002−305899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献に開示のものを始めとして従来のモータ制御装置は、d軸及びq軸のインダクタンスを予め同定した固定値としてd軸及びq軸の電流指令を生成するものの、実際のインダクタンスはモータに流れる電流値によって変化するため、固定値に基づき生成したd軸及びq軸の電流指令によって発生するトルクと、トルク指令の指示する所望のトルクとに誤差が生じてしまい、トルク制御の精度が低減してしまう。
【0007】
また、トルク制御の精度低下は、例えば特許文献2に例示されるような、トルク指令及びモータ回転数がそれぞれ或る値であるという条件の下において効率が最大となる電流位相角を求める技術を適用し、求めた電流位相角とトルク指令とによって電流指令を生成するように構成した場合には、トルク指令の指示する目標トルクと、実際にモータに発生する実トルクとに誤差が生じることで、最大効率点から外れて効率が損なわれる事態を招来してしまう。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、電流によるインダクタンス変動に追従した電流指令を生成して、所望のトルクと実際に発生するトルクとの誤差を低減又は無くして、トルク制御の精度を向上させたモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明のモータ制御装置は、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスに起因するリラクタンストルクと永久磁石の磁束に起因するマグネットトルクとを合わせた総合トルクを発生させる電流指令ベクトルをトルク指令に応じて決定し、電流指令ベクトルに対応する電流をモータに通電することにより前記モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、前記電流指令ベクトルの向きを示す電流位相角と前記トルク指令とを入力し、前記電流位相角の示す方向を向く複数の電流指令ベクトルのうち、前記トルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令及びq軸電流指令を生成する電流指令生成部と、前記電流指令生成部から出力されたd軸及びq軸の電流指令に対応する電流を前記モータに通電する通電制御部とを備え、前記電流指令生成部は、前記モータに流れる電流値に応じて変化するd軸及びq軸のインダクタンスを前記電流値に関連付けたインダクタンス情報を予め設定しておき、前記d軸及びq軸の電流指令を生成するにあたり、既に出力したd軸及びq軸の電流指令によって前記モータに流れたとみなせる電流値に対応するd軸及びq軸のインダクタンスを用いて前記d軸及びq軸の電流指令を生成するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、既に出力したd軸及びq軸の電流指令によってモータに流れたとみなせる電流値に関連付けられたd軸及びq軸のインダクタンス、すなわち現時点でモータに流れているであろう電流値に応じたd軸及びq軸のインダクタンスを用いてd軸及びq軸の電流指令を生成するので、電流によるインダクタンス変動に追従してd軸及びq軸の電流指令を生成することができ、インダクタンスを固定値として電流指令を生成する場合に比べて、トルク指令に対応するトルクと実際に発生するトルクとの誤差を低減又は無くして、トルク制御の精度を向上させることが可能となる。
【0012】
演算能力の乏しい廉価な演算器でも上記インダクタンス変動に追従した制御を実現すると共に、制御の応答性を向上させるためには、前記電流指令生成部は、前記トルク指令及び前記電流位相角を入力し、入力した電流位相角の示す方向を向き且つ入力したトルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値を生成する電流指令値生成部と、生成された電流指令値と前記電流位相角とに基づき前記d軸電流指令、前記q軸電流指令をそれぞれ生成するd軸電流指令生成部及びq軸電流指令生成部とを備え、前記電流指令値生成部は、前記トルク指令と前記電流位相角と電流値とを入力パラメータとして前記電流指令値を算出し、算出した電流指令値を前記モータに流れたとみなせる電流値として前記入力パラメータにフィードバックし、前記トルク指令及び前記電流位相角を固定した状態で算出を繰り返したとした場合に、演算結果が収束したとき又は収束したとみなせるときの電流指令値を前記トルク指令と前記電流位相角とに関連付けた電流指令値データを実測又は磁気解析に基づき予め設定しておき、前記電流指令値データにおいて前記トルク指令と前記電流位相角とに関連付けられている電流指令値を出力するように構成されていることが望ましい。
【0013】
既存構成の一部を改良するだけで、容易に上記インダクタンス変動に追従した制御を実現するためには、前記電流指令生成部は、前記トルク指令及び前記電流位相角を入力し、入力した電流位相角の示す方向を向き且つ入力したトルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値を生成する電流指令値生成部と、生成された電流指令値と前記電流位相角とに基づき前記d軸電流指令、前記q軸電流指令をそれぞれ生成するd軸電流指令生成部及びq軸電流指令生成部とを備え、前記電流指令値生成部は、d軸及びq軸のインダクタンスと電流位相角とで定まるリラクタンストルクに関する係数を取得する係数取得部を有し、前記係数取得部で取得したリラクタンストルクに関する係数及び前記トルク指令を少なくとも用いて前記電流指令値を算出して出力するように構成されており、前記係数取得部は、或る電流値に応じたd軸及びq軸のインダクタンスの下に定まる前記リラクタンストルクに関する係数と当該係数の算出の基礎となる電流位相角とを電流値に関連付けた係数情報を実測又は磁気解析に基づき予め設定しておくとともに、出力した電流指令値を前記モータに流れたとみなせる電流値として前記係数取得部にフィードバック入力するようにし、前記係数情報においてフィードバック入力した電流値と電流位相角とに対応する前記係数を取得するように構成されていることが好ましい。
【0014】
上記モータ制御装置の効率を向上させる一つの好適な適用例としては、前記モータの回転数を検知する回転数検出部と、前記回転数検出部で検出した回転数の下にトルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの電流位相角を決定する位相角決定部とを備え、前記電流指令生成部は、前記位相角決定部が決定した電流位相角に基づき前記d軸及びq軸の電流指令を生成することが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上説明したように、既に出力したd軸及びq軸の電流指令によってモータに流れたとみなせる電流値、すなわち現時点でモータに流れているであろう電流値に応じたd軸及びq軸の電流指令を生成するように構成したので、電流によるインダクタンス変動に追従して電流指令を生成でき、インダクタンスを固定値として電流指令を生成する場合に比べて、トルク指令に対応するトルクと実際に発生するトルクとの誤差を低減又は無くして、トルク制御の精度を向上させることができる。したがって、モータ制御装置の制御精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置の構成及び機能を模式的に示すブロック図。
【図2】電流指令ベクトルを示す電流指令を生成する電流指令生成ブロックのより詳細な構成を示すブロック図。
【図3】図2における電流指令生成部のより詳細な構成を示すブロック図。
【図4】図3における電流指令値生成部のより詳細な構成を示すブロック図。
【図5】制御対象となるIPMモータを模式的に示す断面図。
【図6】電流指令ベクトルに関する説明図。
【図7】電流指令ベクトルの向きと得られる総合トルクとの対応関係に関する説明図。
【図8】誘起電圧情報及び効率情報に関する説明図。
【図9】同モータ制御装置の動作に関する説明図。
【図10】本発明の他の実施形態に係るモータ制御装置の図4に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を、図面を参照して説明する。
【0018】
図5に示すように、このモータ制御装置の制御対象であるIPMモータ1(Interior Permanent Magnet)は、周知のとおり永久磁石11aを埋め込んだ回転子11と、三相交流を通電することにより回転磁界φ’を発生させる固定子12とからなり、逆突極性を有する磁石内装型モータである。このモータ1に通電する三相の電流を、図5及び図6に示すように、永久磁石11aが発生する磁束の方向であるd軸電流成分I及びd軸に直交するq軸電流成分Iの二つの電流成分に変換して表現し、これら二つの電流成分の合成ベクトルを電流指令ベクトルYとして表現する。電流指令ベクトルYの向きは、ベクトルYとq軸とのなす角度で表現でき、この角度を以下、電流位相角βや単に位相角βと呼ぶ。このモータ1では、図7に示すように、永久磁石の磁束に起因するマグネットトルクと、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスの差に起因するリラクタンストルクとを合わせた総合トルクがモータへの通電によって発生する。この総合トルクは、図中に示されるように、電流指令ベクトルの大きさ(すなわちモータに流れる電流値)が同じであっても、ベクトルの向き(すなわち電流位相角)によって変化するものである。
【0019】
モータ制御装置は、図1に示すように、図6に示す電流指令ベクトルYに応じてモータ1の駆動を制御する装置であり、トルク指令Trefに対応する値の総合トルクをモータ1に発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I及びq軸電流指令Iを生成する電流指令生成ブロック2と、この電流指令生成ブロック2から出力されたd軸電流指令I及びq軸電流指令Iに対応する電流をモータ1に通電する通電制御部3とを有している。
【0020】
通電制御部3は、d軸電流指令I及びq軸電流指令Iに基づき三相電流指令uvwを生成する電流制御部30と、電流制御部30で生成された三相電流指令uvwに応じた電流を電源4からモータ1に通電する主回路部31とを有する。
【0021】
電流制御部30は、主回路部31からモータ1に通電される電流を電流検知部3aを介して検出し、検出した電流がd軸電流指令I及びq軸電流指令Iに対応する電流となるようにフィードバック制御を行う。主回路部31は、PWM制御を用いて三相電流指令uvwに応じた三相の電流を電源からモータ1に通電する。これらの各部30、31は周知のものと同様であるため、その構成及び動作の詳細な説明は省略する。
【0022】
電流指令生成ブロック2は、ブロック外部から指示されたトルク指令Trefに対応するトルクを発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I及びq軸電流指令Iを生成するものであるが、これを実装するにあたり、以下の要求に対応する必要がある。
【0023】
すなわち、図1及び図5に示すように、モータ1の回転により発生する誘起電圧は、モータ1の永久磁石11aが発生する磁束及びモータ1の回転数に比例して増大し、電源4からモータ1への通電に印加する電源電圧Vbatがモータ1の誘起電圧よりも高くなければ電流を流せずに制御不能となるので、誘起電圧が電源電圧Vbatを越えないように抑制する必要がある。特に、電源4にバッテリを適用するなど電源電圧Vbatに変動が生じる場合には、電源電圧Vbatの変動を考慮して誘起電圧を抑制する必要がある。誘起電圧を抑制するために、図6(a)に示すように、電流指令ベクトルYのうちd軸電流成分Iにより生じる磁束φで永久磁石により生じる磁束φMGの一部を相殺して、相殺後の磁束(φMG−φ)を相殺前の磁束φMGよりも低減させることにより誘起電圧を抑制する弱め磁束制御が一つの有効な手段として挙げられる。この弱め磁束制御は、電流指令ベクトルYの向きを示す位相角を例えば図6(a)→図6(b)のようにβからβ’に変えると、誘起電圧を抑制する方向に作用する抑制電流成分であるd軸電流成分がI→I’に変化(この例では増大)することを利用して、誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分を確保するように位相角を制御する必要がある。
【0024】
さらに上記要求に加えて、効率が最大となるように電流指令ベクトルを生成することが望まれる。高効率化を追求するために、図7に示す総合トルクが最大となる位相角βを用いる最大トルク制御が一つの有効な手段として考えられる(特許文献1参照)。しかしながら、この最大トルク制御によって銅損を最小にしても効率が最大となるわけではなく、推定が難しい鉄損を始めとして、メカロス、FET損等も考慮しなければならないことが分かった。真に高効率化を追求するためには、これら全ての損失を含めたシステム全体での効率を考慮する必要がある。
【0025】
そこで、本実施形態では、所望のトルクの発生と、変動する電源電圧を越えないように誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分の確保とを両立する電流指令ベクトルを生成するために、図8(a)に模式的に示すように、実機を用いて或る回転数Nの下に所望のトルクTを発生させる電流指令ベクトルYを生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルYによる駆動時に電流指令ベクトルYの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧Vをパワーメータ等の検出値から測定(推定)する。なお、ここでは、或る回転数Nの下に所望のトルクTを発生させる電流指令ベクトルは図8(a)の曲線Wで示すように多数存在するが、ここでは説明の簡略化のために一部のみを示している。そして、この測定を、図8(a)に示すように、回転数N及びトルクTを維持した状態で電流指令ベクトルの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に誘起電圧を測定し、回転数とトルクと電流指令ベクトルに関する情報と抑制後の誘起電圧とを関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定し、この誘起電圧情報Da1を図2に示すようにメモリに記憶する。この実測は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体例としては、図8(a)に示すように、或る回転数Nの下、或るトルクTを発生させる複数の電流指令ベクトルY…Y…Y…Yは、各々のベクトルの向きを表す位相角がβ…β…β…βであり、各々の電流指令ベクトルによるモータの駆動時に実測した誘起電圧はV…V…V…Vである。この場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、図2に示す誘起電圧情報Da1は、図8に示すように、トルクTと回転数Nと位相角βと誘起電圧Vとを関連付けたテーブル等で示される。(iは、1以上、実測したベクトルの数以下である。)
【0026】
そして、図8に示す誘起電圧情報における電流指令ベクトルY等を用いてモータの駆動の制御を行えば、モータに発生するであろう誘起電圧が当該電流指令ベクトルY等に関連付けられた抑制後の誘起電圧V等の値に抑制される。この事実を利用して、図1に示すように、モータ1の回転数Nrefを検出するレゾルバ等を用いた回転数検出部6と、電源4からモータ1に印加可能な電源電圧Vbatを検知する電圧検出部7とを設け、図2に示す誘起電圧情報Da1において回転数検出部6で検出した回転数Nref及びトルク指令Trefに関連付けられた複数の電流指令ベクトルのうち、抑制された後の誘起電圧を電圧検出部7で検出される電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルを決定する第1の電流指令ベクトル決定部2aを設けている。
【0027】
さらに、効率が最大となる電流指令ベクトルを生成するために、図8(a)に示すように、上記誘起電圧情報Da1を設定する場合と同様に、実機を用いて或る回転数Nの下に所望のトルクTを発生させる電流指令ベクトルYを生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルYによる駆動時の効率eをパワーメータ等で実測する。この測定を、図8(a)に示すように、回転数N及びトルクTを維持した状態で電流指令ベクトルの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に効率を測定し、測定値の中から効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数とトルクとに関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定し、この効率情報Da2を図2に示すようにメモリに記憶する。この実測は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体例としては、図8(a)に示すように、或る回転数Nの下、或るトルクTを発生させる複数の電流指令ベクトルY…Y…Y…Yは、ベクトルの向きを表す位相角がそれぞれβ…β…β…βであり、各々の電流指令ベクトルによるモータの駆動時に実測した効率はe…e…e…eである。図8(b)に示すように、測定した値を近似した効率が最大となる電流指令ベクトルはY(以下、Ymaxとも表す)であり、その位相角はβ(以下、βmaxとも表す)である。この場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、図2に示す効率情報Da2は、図8に示すように、トルクTと回転数Nと位相角βmaxとを関連付けたテーブル等で示される。
【0028】
そして、図8に示す効率情報における電流指令ベクトルYmaxを用いてモータの駆動の制御を行えば、推測が困難な鉄損を始めとして銅損、メカロス、FET損等を含めたシステム全体での効率が最大となる。この事実を利用して、図2に示すように、効率情報Da2において回転数検出部6で検出した回転数Nref及びトルク指令Trefに関連付けられた電流指令ベクトルを決定する第2の電流指令ベクトル決定部2bを設けている。
【0029】
これら第1及び第2の電流指令ベクトル決定部2a、2bを実現する電流指令生成ブロック2の具体的な構成は、図2に示すように、誘起電圧が電源電圧を越えないように抑制するための電流指令ベクトルの向きを示す位相角βを決定する電源電圧位相角算出ブロック21と、効率が最大となる電流指令ベクトルの向きを示す位相角βmaxを決定する効率電流位相角算出ブロック22と、これら双方のブロック21、22が決定したベクトルの向きβ、βmaxのうち抑制電流成分が大きい方のベクトルの向きを選択する選択部23と、選択部23が選択したベクトルの向きとトルク指令Trefとに基づいて電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I及びq軸電流指令Iを生成する電流指令生成部24とを有している。
【0030】
電源電圧位相角算出ブロック21は、図2に示すように、上記の第1の電流指令ベクトル決定部2aを構成するものであり、上記の誘起電圧情報Da1を内部メモリに予め記憶しており、外部から指示されたトルク指令Trefと図1の回転数検出部6で検出した回転数Nrefと図1の電圧検出部7で検出した電源電圧Vbatとを入力して、誘起電圧情報Da1における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、入力値に関連付けられた電流指令ベクトルの向きを示す電源電圧補償位相角βvを出力する。また、図9(b)に示すように、誘起電圧情報において誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルは、例えばYやYなど複数存在するが、これらのうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルYを決定するように構成している。この入出力関係を簡単に下記に示す。
電源電圧補償位相角βv=fβv(トルクTref,回転数Nref,電源電圧Vbat
【0031】
効率電流位相角算出ブロック22は、図2に示すように、上記の第2の電流指令ベクトル決定部2bを構成するものであり、上記の効率情報Da2を内部メモリに予め記憶しており、外部から指示されたトルク指令Trefと図1の回転数検出部6で検出した回転数Nrefとを入力して、効率情報Da2における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、入力値に関連付けられた電流指令ベクトルの向きを示す効率電流位相角βbaseを出力する。この入出力関係を簡単に下記に示す。
効率電流位相角βbase=fβbase(トルクTref,回転数Nref
【0032】
図2の選択部23は、図6に示すように、電流指令ベクトルの向きを示す位相角βが電流指令ベクトルとq軸とのなす角度であり、0〜90度範囲において位相角βが大きくなるほど抑制電流成分が増大することを利用して、図2に示す電源電圧位相角算出ブロック21で決定された電源電圧補償位相角βvと、効率電流位相角算出ブロック22で決定された効率電流位相角βbaseとを比較して、大きい方(抑制電流成分が大きい方)を選択し、選択した位相角を電流位相指令βrefとして電流指令生成部24に入力する。すなわち、ブロック21・22及び選択部23は、誘起電圧が電源電圧を超えない範囲内において、モータ回転数の下にトルク指令に対応するトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの電流位相角を決定する位相角決定部2Xを実現していると言える。
【0033】
電流指令生成部24は、図2に示すように、選択部23から入力された電流位相指令βrefが示すベクトルの方向を向き且つトルク指令Trefに対応する総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I及びq軸電流指令Iを、下記基本的な数式(1)〜(4)を変形した式(5)〜(7)に基づき算出する。ここでは、Pを極対数とし、Ψを電機子鎖交磁束実効値[Wb]とし、Kを誘起電圧定数とし、Lをd軸インダクタンス[H]とし、Lをq軸インダクタンス[H]とし、Iをd軸電流[Arms]とし、Iをq軸電流[Arms]とし、Iをdq軸上の電流指令実効値[Arms]として表している。
T=P{Ψ+(L−L)I} …(1)
Ψ=K/P …(2)
=I×cos(β) …(3)
=I×sin(β) …(4)
A=P(L−L)sin(β)cos(β) …(5)
B=Ψ・cos(β) …(6)
={−B+√(B+4×A×T)}/(2×A) …(7)
【0034】
上記のように構成したモータ制御装置の動作を説明する。モータ1が或る一定の回転数Nで高速回転しており、或るトルクTを出力する状態で、電源電圧が十分に高い場合と、経年劣化等により電源電圧が低い場合とで、各々の電流指令ベクトル決定部2a、2bで決定される電流指令ベクトルを図9(a)及び図9(b)に示す。なお、ここでは簡略化のため複数の電流指令ベクトルのうちの一部のベクトルのみを示し、誘起電圧を電源電圧よりも小さく抑制する範囲を斜線で示す。
【0035】
電源電圧Vbatが十分に高い場合は、図9(a)に示すように、図2の効率電流位相角算出ブロック22は、最も効率の高い電流指令ベクトルがYmax(位相角βmax)であると決定する。また、図2の電源電圧位相角算出ブロック21は、発生するであろう誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくなる方向へ抑制するための電流指令ベクトルがY、Ymax(Y)、Y、Yであり、これらのうち最も抑制電流成分が小さくなる(位相角βが小さくなる)電流指令ベクトルがY(位相角β1)あると決定する。そして、図2の選択部23は、効率電流位相角βmaxの方が電源電圧補償位相角β1よりも大きいので、効率電流位相角βmaxを選択し、このβmaxに対応する電流指令ベクトルYmaxでモータの駆動を制御することになる。
【0036】
一方、電源電圧Vbatが低い場合は、図9(b)に示すように、図2の効率電流位相角算出ブロック22は、最も効率の高い電流指令ベクトルがYmax(位相角βmax)であると決定する。また、図2の電源電圧位相角算出ブロック21は、発生するであろう誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくなる方向へ抑制するための電流指令ベクトルがY、Yであり、これらのうち最も抑制電流成分が小さくなる(位相角βが小さくなる)電流指令ベクトルがY(位相角β)あると決定する。そして、図2の選択部23は、電源電圧補償位相角βの方が効率電流位相角βmaxよりも大きいので、電源電圧補償位相角βを選択し、このβに対応する電流指令ベクトルYでモータの駆動を制御することになる。
【0037】
このように、モータの回転数(又は速度)及び電源電圧を検出し、検出した回転数の下にトルク指令に対応するトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルY…Ymax(Y)…Y…Y…のうち、効率が最大となる電流指令ベクトルYmaxと、誘起電圧を検出した電源電圧よりも小さくなるように抑制するための電流指令ベクトルとをそれぞれ求め、誘起電圧を抑制する範囲内(図9中の斜線部分)に効率が最大となる電流指令ベクトルYmaxがある場合には、電流指令ベクトルYmaxを用いて効率が最大となる制御を行い、誘起電圧を抑制する範囲内(図9中の斜線部分)に効率が最大となる電流指令ベクトルYmaxがない場合には、誘起電圧を適切に抑制する制御を実施する。
【0038】
ところが、上記の構成において、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLを予め同定した固定値としてd軸電流指令I及びq軸電流指令Iを生成するように構成すると、実際のインダクタンスはモータに流れる電流値によって変化するため、固定値に基づき生成したd軸電流指令I及びq軸電流指令Iによって発生するトルクと、トルク指令の指示するトルクとに誤差が生じてしまい、トルク制御の精度が低減してしまう。また、このトルク制御の精度低下は、予め定めた効率情報Da2において、図8(b)に示す最大効率点から外れて効率が損なわれる事態を招来してしまう。
【0039】
そこで、このような不具合を解決すべく、本実施形態では、図3及び図4に示すように、モータに流れる電流値に応じて変化するd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を電流値Iに関連付けたインダクタンス情報Da3を予め設定しておき、d軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成するにあたり、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I,I)によってモータに流れたとみなせる電流値Iに対応するd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を用いてd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成するように電流指令生成部24を構成している。
【0040】
その具体的構成としての電流指令生成部24は、図3に示すように、トルク指令Tref及び電流位相角βrefを入力し、入力した電流位相角βrefの示す方向を向き且つ入力したトルク指令Trefに対応する値の総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値Iを生成する電流指令値生成部25と、生成された電流指令値Iと電流位相角βrefとに基づきd軸電流指令I、q軸電流指令Iをそれぞれ生成するd軸電流指令生成部26及びq軸電流指令生成部27とを有している。なお、電流指令値Iは、上記の通り、電流指令ベクトルの大きさを示す値である共に、モータに流れるdq軸上の電流実効値に相当する値である。
【0041】
同図に示すように、d軸電流指令生成部26の具体的構成は、上記数式(4)に沿った演算を行うもので、電流位相角βrefに対応するsin(βref)の値を出力する正弦関数テーブルとも呼ばれるsinテーブル26aと、このsinテーブル26aから出力されたsin(βref)と電流指令値Iとを乗算する乗算器26bとを主体とし、乗算結果I×sin(βref)に正規化処理及び最大クランプ処理を施してd軸電流指令Iを生成する。同様に、q軸電流指令生成部27の具体的構成は、上記数式(3)に沿った演算を行うもので、電流位相角βrefに対応するcos(βref)を出力する余弦関数テーブルとも呼ばれるcosテーブル27aと、このcosテーブル27aから出力されたcos(βref)と電流指令値Iとを乗算する乗算器27bとを主体とし、乗算結果I×cos(βref)に正規化処理及び最大クランプ処理を施してq軸電流指令Iを生成する。なお、図中に示すq軸電流指令生成部27は、図示しない絶対値化処理部によりトルク指令Trefが負値を取らない絶対値に処理されているので、本来のトルク指令Trefの符号に対応するようにd軸電流指令Iの符号を処理するように構成されている。
【0042】
電流指令値生成部25は、図4に示すように、上記数式(5)〜(7)に沿った演算を行うもので、電流位相角βrefを入力して数式(5)に示す係数Aを取得する第一の係数取得部25aと、電流位相角βを入力して数式(6)に示す係数Bを取得する第二の係数取得部25bと、係数A、係数B及びトルク指令Trefに対して、上記数式(7)に沿った演算を通じて電流指令値Iを出力する電流指令値演算部25cとで構成されている。この電流指令値演算部25cは、乗算器、加算器、除算器、平方根演算器等の各種演算器で構成され、その演算結果に最大クランプ処理を施して電流指令値Iを出力する。
【0043】
係数Aは、数式(5)に示すように、d軸及びq軸のインダクタンス(L,L)と電流位相角βで定まるリラクタンストルクに関する係数である。係数Bは、数式(6)に示すように、電流位相角βで定まるマグネットトルクに関する係数である。ここで、d軸及びq軸のインダクタンス(L,L)は電流値Iに応じて変化する電流依存値であるので、モータ1の磁気解析や実測によって、下記数式(8)に示すようにd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)をモータに流れる電流値Iの関数に近似可能である。
=flq(I)、L=fld(I) …(8)
そして、第一の係数取得部25aは、或る電流値に応じたd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)の下に定まるリラクタンストルクに関する係数Aと、この係数Aの算出の基礎となる電流位相角βとを電流値Iに関連付けた係数情報Da4を実測又は磁気解析に基づきテーブルとして予め設定(保持)している。また、第一の係数取得部25aは、電流指令値演算部25cにおいて演算により求めた電流指令値Iをモータに流れたと見なせる電流値としてフィードバック入力するようにし、係数情報Da4においてフィードバック入力した電流値Iと電流位相角βとに対応する係数Aを取得するように構成している。本実施形態では、係数情報Da4は、テーブルとして構成されているが、係数Aを演算で算出するための相関関係式であってもよい。なお、第二の係数取得部25bは、電流位相角βを数式(6)に代入して得られる係数Bを電流位相角βに関連付けた係数Bテーブルを主体とするものである。
【0044】
すなわち、図2及び図3に示す電流指令生成部24にトルク指令Tref及び電流位相角βrefが入力されると、図3及び図4に示す電流指令値生成部25において、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I,I)の算出の基礎となる電流指令値Iと電流位相角βrefとに対応する係数Aが第一の係数取得部25aにより取得され、この係数Aに基づき電流指令値Iが電流指令値演算部25cにより算出され、この電流指令値Iに基づきd軸及びq軸の電流指令(I,I)が電流指令生成部24において算出されて出力され、このd軸及びq軸の電流指令(I,I)に基づきモータへの通電が実行される。この場合、係数情報Da4は、係数Aがd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)に基づく値であるので、d軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を電流値Iに関連付けたインダクタンス情報Da3を含む情報、若しくは、インダクタンス情報Da3が化体した情報であると言える。そして、電流指令値Iは、電流指令ベクトルの大きさすなわちモータに流れる電流値に相当するものであるので、本実施形態のように、係数情報Da4から電流指令値Iに対応する係数Aを取得し、この係数Aを用いてd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成することは、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I,I)によってモータに流れたとみなせる電流値Iに対応するd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を用いてd軸電流指令I及びq軸電流指令Iを生成することになる。これにより、現時点でモータ1に流れているであろう電流値Iに応じたd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を用いてd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成することになり、電流によるインダクタンス変動に追従して電流指令を生成する事が可能となる。
【0045】
以上のように、本実施形態のモータ制御装置は、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLに起因するリラクタンストルクと永久磁石の磁束に起因するマグネットトルクとを合わせた総合トルクを発生させる電流指令ベクトルYをトルク指令Trefに応じて決定し、電流指令ベクトルYに対応する電流をモータ1に通電することによりモータ1の駆動を制御するモータ制御装置であって、電流指令ベクトルの向きを示す電流位相角βrefとトルク指令Trefとを入力し、電流位相角βrefの示す方向を向く複数の電流指令ベクトルのうち、トルク指令Trefに対応する総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I及びq軸電流指令Iを生成する電流指令生成部24と、電流指令生成部24から出力されたd軸及びq軸の電流指令(I,I)に対応する電流をモータ1に通電する通電制御部3とを備え、電流指令生成部24は、モータ1に流れる電流値に応じて変化するd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を電流値Iに関連付けたインダクタンス情報Da3を予め設定しておき、d軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成するにあたり、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I,I)によってモータ1に流れたとみなせる電流値Iに対応するd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を用いてd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成するように構成されている。
【0046】
このような構成によれば、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I,I)によってモータ1に流れたとみなせる電流値Iに関連付けられたd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)、すなわち現時点でモータに流れているであろう電流値Iに応じたd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)を用いてd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成するので、電流によるインダクタンス変動に追従してd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成することができ、インダクタンス(L,L)を固定値として電流指令(I,I)を生成する場合に比べて、トルク指令Trefに対応するトルクと実際に発生するトルクとの誤差を低減又は無くして、トルク制御の精度を向上させることが可能となる。
【0047】
さらに、本実施形態では、トルク指令Tref及び電流位相角βrefを入力し、入力した電流位相角βrefの示す方向を向き且つ入力したトルク指令Trefに対応する総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値Iを生成する電流指令値生成部25と、生成された電流指令値Iと電流位相角βrefとに基づきd軸電流指令I、q軸電流指令Iをそれぞれ生成するd軸電流指令生成部26及びq軸電流指令生成部27とを備え、電流指令値生成部25は、d軸及びq軸のインダクタンス(L,L)と電流位相角βrefとで定まるリラクタンストルクに関する係数Aを取得する係数取得部26aを有し、係数取得部26aで取得したリラクタンストルクに関する係数A及びトルク指令Trefを少なくとも用いて電流指令値Iを算出して出力するように構成されており、係数取得部26aは、或る電流値に応じたd軸及びq軸のインダクタンス(L,L)の下に定まるリラクタンストルクに関する係数Aとこの係数Aの算出の基礎となる電流位相角βrefとを電流値Iに関連付けた係数情報Da4を実測又は磁気解析に基づき予め設定しておくとともに、出力した電流指令値Iをモータ1に流れたとみなせる電流値として係数取得部26aにフィードバック入力するようにし、係数情報Da4においてフィードバック入力した電流値Iと電流位相角βrefとに対応する係数Aを取得するように構成されているので、既存構成における係数取得部を改良するだけで、上記インダクタンス変動に追従する制御を実現することが可能となる。
【0048】
さらにまた、モータ1の回転数を検知する回転数検出部6と、回転数検出部6で検出した回転数Nrefの下にトルク指令Trefに対応する総合トルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの電流位相角βrefを決定する位相角決定部2Xとを備え、電流指令生成部24は、位相角決定部2Xが決定した電流位相角βrefに基づきd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成するように構成した場合において、トルク指令Trefに対応する目標トルクと、実際にモータ1に発生する実トルクとに誤差が生じると、最大効率点から外れてしまい効率が低減するおそれがあるが、本実施形態では、電流に応じたインダクタンス変動に追従してd軸及びq軸の電流指令(I,I)を生成するので、目標トルクと実トルクとの誤差を低減又は無くして、最大効率となる電流指令(I,I)を生成でき、効率を向上させることが可能となる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0050】
例えば、本実施形態では、図4に示すように、電流指令値生成部25は、トルク指令Trefと電流位相角βrefと電流値Iとを入力パラメータとして電流指令値Iを算出し、算出した電流指令値Iをモータ1に流れたとみなせる電流値として入力パラメータにフィードバックする構成であるので、トルク指令Tref及び電流位相角βrefを固定した状態であっても電流指令値Iが真値に収束するまでにバラツキが生じる。この構成において、トルク指令Tref及び電流位相角βrefを固定した状態で算出を繰り返したとした場合に、図10に示すように、演算結果が収束したとき又は収束したとみなせるときの電流指令値Iをトルク指令Trefと電流位相角βrefとに関連付けた電流指令値データ125aを実測又は磁気解析に基づき予め設定しておき、電流指令値データ125aにおいてトルク指令Trefと電流位相角βrefとに関連付けられている電流指令値Iを出力するように電流指令値生成部125を構成してもよい。ここでいう「演算結果が収束したとき又は収束したとみなせるとき」は、演算結果として得られる電流指令値のバラツキ度が所定範囲内に収まっているとき、すなわち演算結果として得られた電流指令値とその前回値との差が所定閾値内であるとき等が挙げられる。このように構成すれば、電流指令値のフィードバック演算を省略できるので、演算能力の乏しい廉価な演算器でも上記電流によるインダクタンス変動に追従した制御を実装可能となると共に、制御の応答性を向上させることが可能となる。
【0051】
さらに、本実施形態では、誘起電圧が電源電圧を超えるおそれがない適用例においては、第1の電流指令ベクトル決定部2aである電源電圧位相角算出ブロック21を省略することも可能である。また、位相角決定部2Xは、最大効率となる電流位相角βを決定するものであれば、本実施形態に開示の構成に限られない。
【0052】
本発明のモータ駆動装置は、本発明を適用できるモータであればIPMモータに限られず、また、種々の機器に適用可能であり、特に高トルク出力を必要としバッテリを電源とするフォークリフトや電動乗用車等の電動車両の駆動装置としての用途に適しており、これらに適用すると、高信頼度を得るとともに高効率化による稼働時間の向上やバッテリの簡素化による車両の軽量化などを追求するうえで有用である。
【0053】
さらにまた、本実施形態では、d軸及びq軸のインダクタンスを電流値に関連付けた考え方を採用しているが、更に温度と関連付けるようにしてもよい。この場合、モータの温度を検出するサーミスタ等の温度検出部を設けて、検出した温度に対応するインダクタンスを用いるように構成してもよいし、温度検出部を設ける代わりにモータに流す電流値の積算値から温度を推定するようにしてもよい。また、インダクタンスは個体に応じてバラツキが発生するおそれがあるので、個体情報を外部から入力し、インダクタンス情報Da3や係数情報Da4におけるd軸及びq軸のインダクタンスを補正する補正部を設けてもよい。このように構成すると、個体のバラツキを補正して、より一層トルク制御の精度を向上させることが可能となる。
【0054】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…モータ
24…電流指令生成部
25…電流指令値生成部
26…d軸電流指令生成部
26a…第一の係数取得部(係数取得部)
27…q軸電流指令生成部
2X…位相角決定部
3…通電制御部
6…回転数検出部
ref…トルク指令
βref…電流位相角
…d軸インダクタンス
…q軸インダクタンス
Y…電流指令ベクトル
…電流指令値(モータに流れたとみなせる電流値)
…d軸電流指令
…q軸電流指令
A…リラクタンストルクに関する係数
Da3…インダクタンス情報
Da4…係数情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスに起因するリラクタンストルクと永久磁石の磁束に起因するマグネットトルクとを合わせた総合トルクを発生させる電流指令ベクトルをトルク指令に応じて決定し、電流指令ベクトルに対応する電流をモータに通電することにより前記モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記電流指令ベクトルの向きを示す電流位相角と前記トルク指令とを入力し、前記電流位相角の示す方向を向く複数の電流指令ベクトルのうち、前記トルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令及びq軸電流指令を生成する電流指令生成部と、
前記電流指令生成部から出力されたd軸及びq軸の電流指令に対応する電流を前記モータに通電する通電制御部とを備え、
前記電流指令生成部は、前記モータに流れる電流値に応じて変化するd軸及びq軸のインダクタンスを前記電流値に関連付けたインダクタンス情報を予め設定しておき、前記d軸及びq軸の電流指令を生成するにあたり、既に出力したd軸及びq軸の電流指令によって前記モータに流れたとみなせる電流値に対応するd軸及びq軸のインダクタンスを用いて前記d軸及びq軸の電流指令を生成するように構成されていることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記電流指令生成部は、前記トルク指令及び前記電流位相角を入力し、入力した電流位相角の示す方向を向き且つ入力したトルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値を生成する電流指令値生成部と、生成された電流指令値と前記電流位相角とに基づき前記d軸電流指令、前記q軸電流指令をそれぞれ生成するd軸電流指令生成部及びq軸電流指令生成部とを備え、
前記電流指令値生成部は、前記トルク指令と前記電流位相角と電流値とを入力パラメータとして前記電流指令値を算出し、算出した電流指令値を前記モータに流れたとみなせる電流値として前記入力パラメータにフィードバックし、前記トルク指令及び前記電流位相角を固定した状態で算出を繰り返したとした場合に、演算結果が収束したとき又は収束したとみなせるときの電流指令値を前記トルク指令と前記電流位相角とに関連付けた電流指令値データを実測又は磁気解析に基づき予め設定しておき、前記電流指令値データにおいて前記トルク指令と前記電流位相角とに関連付けられている電流指令値を出力するように構成されている請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流指令生成部は、前記トルク指令及び前記電流位相角を入力し、入力した電流位相角の示す方向を向き且つ入力したトルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値を生成する電流指令値生成部と、生成された電流指令値と前記電流位相角とに基づき前記d軸電流指令、前記q軸電流指令をそれぞれ生成するd軸電流指令生成部及びq軸電流指令生成部とを備え、
前記電流指令値生成部は、d軸及びq軸のインダクタンスと電流位相角とで定まるリラクタンストルクに関する係数を取得する係数取得部を有し、前記係数取得部で取得したリラクタンストルクに関する係数及び前記トルク指令を少なくとも用いて前記電流指令値を算出して出力するように構成されており、
前記係数取得部は、或る電流値に応じたd軸及びq軸のインダクタンスの下に定まる前記リラクタンストルクに関する係数と当該係数の算出の基礎となる電流位相角とを電流値に関連付けた係数情報を実測又は磁気解析に基づき予め設定しておくとともに、出力した電流指令値を前記モータに流れたとみなせる電流値として前記係数取得部にフィードバック入力するようにし、前記係数情報においてフィードバック入力した電流値と電流位相角とに対応する前記係数を取得するように構成されている請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータの回転数を検知する回転数検出部と、前記回転数検出部で検出した回転数の下にトルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの電流位相角を決定する位相角決定部とを備え、前記電流指令生成部は、前記位相角決定部が決定した電流位相角に基づき前記d軸及びq軸の電流指令を生成する請求項1〜3のいずれかに記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−249459(P2012−249459A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120343(P2011−120343)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】