説明

モータ変速装置

【課題】モータ変速装置のインターロックを防止する。
【解決手段】駆動輪に連結される変速出力軸とモータジェネレータに連結されるモータ軸との間にはモータ変速装置が設けられる。モータ変速装置は、クラッチ油室66を備えるハイクラッチによって動力伝達状態に切り換えられる第1動力伝達径路と、ブレーキ油室74を備えるローブレーキによって動力伝達状態に切り換えられる第2動力伝達径路とを有している。オイルポンプ81から吐出される作動油は、出力制御弁82を経て油路切換弁83に案内される。そして、油路切換弁83によってクラッチ油室66とブレーキ油室74とのいずれか一方に作動油が分配され、ハイクラッチおよびローブレーキが同時に締結されるインターロックを回避することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪に連結される駆動軸と走行用モータに連結されるモータ軸との間に設けられるモータ変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機等には、複数のクラッチ機構やブレーキ機構が組み込まれている(例えば、特許文献1参照)。これらのクラッチ機構やブレーキ機構においては、異なるギア比の歯車列が同時に係合されるインターロックを回避しながら締結制御を行うことが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−270954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンおよび走行用モータを駆動源とするハイブリッド車両や、走行用モータを駆動源とする電気自動車においては、走行用モータの誘起電圧を抑制してインバータを保護するため、走行用モータの過回転を防止する必要がある。そこで、駆動輪と走行用モータとの間に変速装置を組み付けることにより、高速時に走行用モータの回転数を引き下げて過回転を防止することが考えられる。このように、走行用モータの過回転を防止するための変速装置においても、複数のクラッチ機構やブレーキ機構が設けられることから、変速装置のインターロックを防止するための構造を採用することが重要となっている。
【0005】
本発明の目的は、モータ変速装置のインターロックを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のモータ変速装置は、駆動輪に連結される駆動軸と走行用モータに連結されるモータ軸との間に設けられるモータ変速装置であって、前記駆動軸と前記モータ軸との間に設けられる第1動力伝達径路を、動力伝達状態と動力切断状態とに切り換える第1係合機構と、前記駆動軸と前記モータ軸との間に設けられる第2動力伝達径路を、動力伝達状態と動力切断状態とに切り換える第2係合機構と、油圧供給源と前記第1および第2係合機構との間に設けられ、前記油圧供給源からの作動油を通過させる連通状態と、前記油圧供給源からの作動油を遮断する遮断状態とに切り換えられる出力制御弁と、前記出力制御弁と前記第1および第2係合機構との間に設けられ、前記出力制御弁からの作動油を前記第1係合機構に案内する状態と、前記出力制御弁からの作動油を前記第2係合機構に案内する状態とに切り換えられる油路切換弁とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明のモータ変速装置は、前記油路切換弁は電磁弁からのパイロット圧によって切り換えられることを特徴とする。
【0008】
本発明のモータ変速装置は、前記出力制御弁は電磁弁からのパイロット圧によって切り換えられることを特徴とする。
【0009】
本発明のモータ変速装置は、前記油圧供給源は電動ポンプであり、前記出力制御弁は前記電動ポンプからの作動油によって切り換えられることを特徴とする。
【0010】
本発明のモータ変速装置は、前記電動ポンプは前記走行用モータによって駆動されることを特徴とする。
【0011】
本発明のモータ変速装置は、前記第1および第2動力伝達径路は1つの遊星歯車列によって構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、油路切換弁によって第1係合機構と第2係合機構とのいずれか一方に作動油を分配するようにしたので、第1係合機構と第2係合機構とが共に係合されるインターロックを回避することが可能となる。また、油路切換弁の上流側に出力制御弁を設けるようにしたので、油路切換弁が制御不能に陥った場合であっても、出力制御弁を遮断状態に切り換えることにより、走行用モータの過回転を防止して電力系統を保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ハイブリッド車両を示す概略図である。
【図2】ハイブリッド車両に搭載されるパワーユニットの内部構造を示すスケルトン図である。
【図3】パワーユニットのモータ変速装置を拡大して示す断面図である。
【図4】(a)はモータ変速装置が備える油圧制御回路を示す回路図であり、(b)は油圧制御回路を簡単に示す回路図である。
【図5】(a)はハイクラッチを締結してローブレーキを解放する際の作動状態を示す回路図であり、(b)はローブレーキを締結してハイクラッチを解放する際の作動状態を示す回路図であり、(c)はハイクラッチおよびローブレーキを解放する際の作動状態を示す回路図である。
【図6】本発明の他の実施の形態であるモータ変速装置が備える油圧制御回路を示す回路図である。
【図7】モータジェネレータによって駆動されるオイルポンプを備えたパワーユニットの一部を示すスケルトン図である。
【図8】本発明の他の実施の形態であるモータ変速装置が組み込まれたパワーユニットの一部を示すスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1はハイブリッド車両10を示す概略図である。また、図2はハイブリッド車両10に搭載されるパワーユニット11の内部構造を示すスケルトン図である。このパワーユニット11には本発明の一実施の形態であるモータ変速装置12が組み付けられている。
【0015】
図1に示すように、エンジンルーム13からフロアトンネル14にかけて、車体にはパワーユニット11が縦置きに搭載されている。このパワーユニット11の一端部にはエンジン15が組み付けられ、パワーユニット11の他端部にはモータジェネレータ(走行用モータ)16が組み付けられている。パワーユニット11内には、無段変速機17やデファレンシャル機構18等が組み込まれており、エンジン動力やモータ動力はデファレンシャル機構18から駆動輪19に伝達されている。また、交流電動機であるモータジェネレータ16に対して電力を供給するため、高電圧バッテリ20とモータジェネレータ16との間にはインバータ21が設けられている。インバータ21はスイッチング素子等によって構成されており、高電圧バッテリ20からの直流電力はインバータ21を介してモータジェネレータ16用の交流電力に変換される。なお、モータジェネレータ16を発電機として用いる際には、モータジェネレータ16からの交流電力がインバータ21を介して高電圧バッテリ20用の直流電力に変換される。
【0016】
図2に示すように、エンジン15にはミッションケース22が組み付けられており、このミッションケース22には無段変速機17が収容されている。無段変速機17は、エンジン15に駆動されるプライマリ軸23と、これに平行となるセカンダリ軸24とを有している。プライマリ軸23にはプライマリプーリ25が設けられており、このプライマリプーリ25は固定シーブ25aと可動シーブ25bとを備えている。可動シーブ25bの背面側には作動油室26a,26bが区画されており、作動油室26a,26b内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。また、セカンダリ軸24にはセカンダリプーリ27が設けられており、このセカンダリプーリ27は固定シーブ27aと可動シーブ27bとを備えている。可動シーブ27bの背面側には作動油室28が区画されており、作動油室28内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。さらに、プライマリプーリ25およびセカンダリプーリ27には駆動チェーン29が巻き掛けられている。プーリ25,27の溝幅を変化させて駆動チェーン29の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸23からセカンダリ軸24に対する無段変速が可能となる。
【0017】
このような無段変速機17にエンジン動力を伝達するため、クランク軸30とプライマリ軸23との間にはトルクコンバータ31および前後進切換機構32が設けられている。トルクコンバータ31は、クランク軸30に連結されるポンプインペラ33と、このポンプインペラ33に対向するとともにタービン軸34に連結されるタービンランナ35とを備えている。また、前後進切換機構32は、ダブルピニオン式の遊星歯車列36、前進クラッチ37および後退ブレーキ38を備えている。前進クラッチ37や後退ブレーキ38を制御することにより、エンジン動力の伝達径路を切り換えてプライマリ軸23の回転方向を切り換えることが可能となる。さらに、ミッションケース22内にはセカンダリ軸24に平行となる駆動軸としての変速出力軸39が収容されており、変速出力軸39とセカンダリ軸24とは歯車列40を介して連結されている。また、変速出力軸39の端部にはピニオンギア41が固定されており、このピニオンギア41はデファレンシャル機構18のリングギア42に噛み合っている。このように、無段変速機17とデファレンシャル機構18とは変速出力軸39を介して連結されており、無段変速機17から出力されるエンジン動力は変速出力軸39を介してデファレンシャル機構18に伝達されるようになっている。
【0018】
また、ミッションケース22にはモータケース50が組み付けられており、モータケース50にはモータジェネレータ16が収容されている。モータジェネレータ16は、モータケース50に固定されるステータ51と、ステータ51の内側に回転自在に収容されるロータ52とを有している。モータジェネレータ16と変速出力軸39との間にはモータ変速装置12および歯車列53が設けられ、モータ動力はモータ変速装置12および歯車列53を経て駆動輪19に伝達される。モータ変速装置12は遊星歯車列54を有しており、遊星歯車列54は、ロータ52から延びるモータ軸55に連結されるサンギア56と、歯車列53を介して変速出力軸39に連結されるキャリア57と、キャリア57のピニオンギア58に噛み合うリングギア59とによって構成されている。なお、キャリア57のピニオンギア58は、リングギア59だけでなくサンギア56にも噛み合っている。また、サンギア56とキャリア57との間には、締結状態と解放状態とに切り換えられる第1係合機構としてのハイクラッチ60が設けられている。さらに、リングギア59とモータケース50との間には、締結状態と解放状態とに切り換えられる第2係合機構としてのローブレーキ61が設けられている。
【0019】
図3はパワーユニット11のモータ変速装置12を拡大して示す断面図である。図3に示すように、モータ変速装置12を構成するハイクラッチ60は、モータ軸55に固定されるクラッチハブ62と、歯車列53の駆動ギア53aに連結されるクラッチドラム63とを有している。クラッチハブ62には複数の摩擦プレート64aが取り付けられ、クラッチドラム63には複数の摩擦プレート64bが取り付けられている。また、クラッチドラム63にはピストン部材65が収容されており、クラッチドラム63とピストン部材65とによってクラッチ油室66が区画されている。このクラッチ油室66に対して作動油を供給することにより、ピストン部材65は油圧によって押し出されるため、摩擦プレート64a,64bが互いに押し付けられてハイクラッチ60は締結状態に切り換えられる。一方、クラッチ油室66から作動油を排出することにより、ピストン部材65はバネ部材67によって押し戻されるため、摩擦プレート64a,64bの係合状態が解かれてハイクラッチ60は解放状態に切り換えられる。このようなハイクラッチ60を締結状態に切り換えることにより、キャリア57とサンギア56とを一体に回転させることができ、キャリア回転数とモータ回転数とを一致させることが可能となる。すなわち、ハイクラッチ60を締結状態に切り換えることにより、サンギア56からハイクラッチ60を介してキャリア57にモータ動力を伝達する第1動力伝達径路が動力伝達状態に切り換えられる。
【0020】
また、モータ変速装置12を構成するローブレーキ61は、リングギア59に設けられるブレーキハブ70と、モータケース50に設けられるブレーキドラム71とを有している。ブレーキハブ70には複数の摩擦プレート72aが取り付けられ、ブレーキドラム71には複数の摩擦プレート72bが取り付けられている。また、ブレーキドラム71にはピストン部材73が収容されており、ブレーキドラム71とピストン部材73とによってブレーキ油室74が区画されている。このブレーキ油室74に対して作動油を供給することにより、ピストン部材73は油圧によって押し出されるため、摩擦プレート72a,72bが互いに押し付けられてローブレーキ61は締結状態に切り換えられる。一方、ブレーキ油室74から作動油を排出することにより、ピストン部材73はバネ部材75によって押し戻されるため、摩擦プレート72a,72bの係合状態が解かれてローブレーキ61は解放状態に切り換えられる。このようなローブレーキ61を締結状態に切り換えることにより、リングギア59がモータケース50に固定されるため、モータ回転数をキャリア回転数よりも引き上げることが可能となる。すなわち、ローブレーキ61を締結状態に切り換えることにより、サンギア56からピニオンギア58を介してキャリア57にモータ動力を伝達する第2動力伝達径路が動力伝達状態に切り換えられる。
【0021】
前述したように、ローブレーキ61を締結してハイクラッチ60を解放することにより、リングギア59がモータケース50に固定されるため、モータ回転数をキャリア回転数よりも引き上げることが可能となる。一方、ハイクラッチ60を締結してローブレーキ61を解放することにより、キャリア57とサンギア56とを一体に回転させることができ、キャリア回転数とモータ回転数とを一致させることが可能となる。このように、モータ変速装置12を制御することでモータ回転数を2段階に変速させることができるため、モータジェネレータ16の上限回転数を引き下げることが可能となる。すなわち、低速時にはローブレーキ61が締結されてハイクラッチ60が解放される一方、高速時にはハイクラッチ60が締結されてローブレーキ61が解放されるようになっている。なお、ハイクラッチ60とローブレーキ61とを共に解放することにより、高速時に変速出力軸39からモータジェネレータ16を切り離すことも可能となっている。
【0022】
ところで、ハイクラッチ60とローブレーキ61とが共に締結されてしまうと、ギア比の異なる動力伝達径路が同時に動力伝達状態となるため、変速出力軸39およびモータ軸55の回転が急停止することになる。このようなインターロックを回避するため、ハイクラッチ60およびローブレーキ61に対して同時に作動油を供給することのないように油圧制御回路80が構成されている。ここで、図4(a)はモータ変速装置12が備える油圧制御回路80を示す回路図であり、図4(b)は油圧制御回路80を簡単に示す回路図である。
【0023】
図4(a)および(b)に示すように、エンジン15に駆動される油圧供給源としてのオイルポンプ81と、クラッチ油室66およびブレーキ油室74との間には、出力制御弁82が設けられている。この出力制御弁82は、オイルポンプ81からの作動油を通過させる連通状態と、オイルポンプ81からの作動油を遮断する遮断状態とに切り換えることが可能となっている。また、出力制御弁82と、クラッチ油室66およびブレーキ油室74との間には、油路切換弁83が設けられている。この油路切換弁83は、出力制御弁82からの作動油をクラッチ油室66に案内するクラッチ締結状態と、出力制御弁82からの作動油をブレーキ油室74に案内するブレーキ締結状態とに切り換えることが可能となっている。さらに、出力制御弁82から油路切換弁83に作動油を案内する供給油路には油圧センサ85が設けられており、油圧センサ85から制御ユニット86に対して油圧信号が出力されている。
【0024】
出力制御弁82は、ハウジング87とこれに移動自在に収容されるスプール弁軸88とを有している。ハウジング87には入力ポート87a、出力ポート87bおよび排出ポート87cが形成されており、入力ポート87aにはオイルポンプ81から延びる供給油路89が接続され、出力ポート87bには油路切換弁83に向かう供給油路84が接続され、排出ポート87cには排出油路90が接続されている。また、出力制御弁82のスプール弁軸88を作動させるため、スプール弁軸88の一端側にはバネ部材91が組み付けられ、スプール弁軸88の他端側にはパイロット圧室92が形成されている。ハウジング87にはパイロット圧室92に連通するパイロットポート87dが形成されており、パイロットポート87dにはパイロット圧路93が接続されている。このパイロット圧路93には制御ユニット86によって制御される電磁弁94が接続されており、パイロット圧室92には電磁弁94によって調圧された制御圧が供給されている。そして、パイロット圧室92に作動油を供給することにより、スプール弁軸88はバネ力に抗して矢印A方向に移動し、出力制御弁82は入力ポート87aと出力ポート87bとを遮断する遮断状態に切り換えられる。一方、パイロット圧室92から作動油を排出することにより、スプール弁軸88はバネ力によって矢印B方向に移動し、出力制御弁82は入力ポート87aと出力ポート87bとを連通する連通状態に切り換えられる。
【0025】
また、油路切換弁83は、ハウジング95とこれに移動自在に収容されるスプール弁軸96とを有している。ハウジング95には入力ポート95aが形成され、この入力ポート95aには出力制御弁82から延びる供給油路84が接続される。また、ハウジング95には一対の出力ポート95b,95cが形成され、一方の出力ポート95bにはクラッチ油室66に連通するクラッチ油路97が接続され、他方の出力ポート95cにはブレーキ油室74に連通するブレーキ油路98が接続される。さらに、ハウジング95には一対の排出ポート95d,95eが形成され、それぞれの排出ポート95d,95eには排出油路99,100が接続されている。また、出力制御弁82のスプール弁軸96を作動させるため、スプール弁軸96の一端側にはバネ部材101が組み付けられ、スプール弁軸96の他端側にはパイロット圧室102が形成されている。ハウジング95にはパイロット圧室102に連通するパイロットポート95fが形成されており、パイロットポート95fにはパイロット圧路103が接続されている。このパイロット圧路103には制御ユニット86によって制御される電磁弁104が接続されており、パイロット圧室102には電磁弁104によって調圧された制御圧が供給されている。そして、パイロット圧室102に作動油を供給することにより、スプール弁軸96はバネ力に抗して矢印A方向に移動し、油路切換弁83は入力ポート95aと出力ポート95cとを連通するブレーキ締結状態に切り換えられる。一方、パイロット圧室102から作動油を排出することにより、スプール弁軸96はバネ力によって矢印B方向に移動し、油路切換弁83は入力ポート95aと出力ポート95bとを連通するクラッチ締結状態に切り換えられる。
【0026】
続いて、油圧制御回路80の作動状態について説明する。図5(a)はハイクラッチ60を締結してローブレーキ61を解放する際の作動状態を示す回路図であり、(b)はローブレーキ61を締結してハイクラッチ60を解放する際の作動状態を示す回路図であり、(c)はハイクラッチ60およびローブレーキ61を解放する際の作動状態を示す回路図である。
【0027】
まず、図5(a)に示すように、ハイクラッチ60を締結してローブレーキ61を解放する際には、電磁弁94から出力制御弁82に対するパイロット圧が遮断され、出力制御弁82は連通状態に切り換えられる。また、電磁弁104から油路切換弁83に対するパイロット圧が遮断され、油路切換弁83は作動油をクラッチ油室66に案内するクラッチ締結状態に切り換えられる。これにより、オイルポンプ81から吐出された作動油は、出力制御弁82から油路切換弁83を経てクラッチ油室66に案内され、ハイクラッチ60は締結状態に切り換えられる。このとき、油路切換弁83はブレーキ油路98と排出油路100とを連通させるため、ブレーキ油室74内の作動油は油路切換弁83を介して排出され、ローブレーキ61は確実に解放状態に保たれる。
【0028】
また、図5(b)に示すように、ローブレーキ61を締結してハイクラッチ60を解放する際には、電磁弁94から出力制御弁82に対するパイロット圧が遮断され、出力制御弁82は連通状態に切り換えられる。また、電磁弁104から油路切換弁83に対してパイロット圧が供給され、油路切換弁83は作動油をブレーキ油室74に案内するブレーキ締結状態に切り換えられる。これにより、オイルポンプ81から吐出された作動油は、出力制御弁82から油路切換弁83を経てブレーキ油室74に案内され、ローブレーキ61は締結状態に切り換えられる。このとき、油路切換弁83はクラッチ油路97と排出油路99とを連通させるため、クラッチ油室66内の作動油は油路切換弁83を介して排出され、ハイクラッチ60は確実に解放状態に保たれる。
【0029】
さらに、図5(c)に示すように、ハイクラッチ60とローブレーキ61との双方を解放する際には、電磁弁94から出力制御弁82に対してパイロット圧が供給され、出力制御弁82は遮断状態に切り換えられる。これにより、オイルポンプ81からの作動油は出力制御弁82によって遮断されるため、クラッチ油室66やブレーキ油室74に対する作動油の供給を遮断することが可能となる。このとき、出力制御弁82は供給油路84と排出油路90とを連通させるため、油路切換弁83の作動状態に拘わらずハイクラッチ60とローブレーキ61との双方を確実に解放状態に保つことが可能となる。すなわち、図示する場合には、油路切換弁83を介してブレーキ油路98と排出油路100とが連通するため、ブレーキ油室74内の作動油は油路切換弁83を介して排出される一方、油路切換弁83を介してクラッチ油路97と供給油路84とが連通するため、クラッチ油室66内の作動油は油路切換弁83を介して出力制御弁82に案内される。しかしながら、出力制御弁82は供給油路84と排出油路90とを連通させるため、クラッチ油室66内の作動油は油路切換弁83から出力制御弁82を介して排出され、ハイクラッチ60についても確実に解放状態に切り換えることが可能となる。
【0030】
これまで説明したように、油路切換弁83によってクラッチ油室66とブレーキ油室74とのいずれか一方に作動油を分配するようにしたので、クラッチ油室66とブレーキ油室74との双方に作動油が供給されることはなく、インターロックを確実に防止することが可能となる。また、油路切換弁83の上流側に出力制御弁82を設けるようにしたので、油路切換弁83がブレーキ締結状態で制御不能に陥った場合であっても、出力制御弁82を遮断状態に切り換えることにより、ローブレーキ61を解放してモータジェネレータ16の過回転を防止することが可能となる。すなわち、油路切換弁83を制御する電磁弁104に天絡故障(常時オン状態)が生じたり、異物の噛み込み等によって油路切換弁83がブレーキ締結状態で固着したりしても、ローブレーキ61を確実に解放することができるため、高速時におけるモータジェネレータ16の過回転を防止することが可能となる。これにより、モータジェネレータ16からの過大な誘起電圧によるインバータ21の故障を回避することが可能となる。
【0031】
また、出力制御弁82が連通状態で制御不能に陥った場合であっても、油路切換弁83をクラッチ締結状態に切り換えることにより、ローブレーキ61を解放してモータジェネレータ16の過回転を防止することが可能となる。すなわち、出力制御弁82を制御する電磁弁94に地絡故障(常時オフ状態)が生じたり、異物の噛み込み等によって出力制御弁82が連通状態で固着したりしても、ローブレーキ61を確実に解放することができるため、高速時にモータジェネレータ16の過回転を防止することが可能となる。これにより、モータジェネレータ16からの過大な誘起電圧によるインバータ21の故障を回避することが可能となる。なお、出力制御弁82の故障状態は、電磁弁94に対する制御信号と油圧センサ85からの油圧信号とを比較することで検出される。
【0032】
前述した油圧制御回路80にあっては、出力制御弁82を電磁弁94からのパイロット圧によって切り換えているが、これに限られることはなく、オイルポンプ81から吐出される作動油によって出力制御弁82を切り換えるようにしても良い。ここで、図6は本発明の他の実施の形態であるモータ変速装置が備える油圧制御回路110を示す回路図である。なお、図4に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0033】
図6に示すように、油圧供給源であるオイルポンプ111には電動モータ112が組み付けられており、オイルポンプ111は電動モータ112に駆動される電動ポンプとして機能している。また、オイルポンプ111と油路切換弁83との間に設けられる出力制御弁113は、ハウジング114とこれに移動自在に収容されるスプール弁軸88とを有している。ハウジング114には入力ポート114a、出力ポート114bおよび排出ポート114cが形成されており、入力ポート114aにはオイルポンプ111から延びる供給油路89が接続され、出力ポート114bには油路切換弁83に向かう供給油路84が接続され、排出ポート114cには排出油路90が接続されている。また、ハウジング114にはパイロット圧室92に連通するパイロットポート114dが形成されており、パイロットポート114dには供給油路89から分岐するパイロット圧路115が接続されている。そして、パイロット圧室92に作動油を供給することにより、スプール弁軸88はバネ力に抗して矢印A方向に移動し、出力制御弁82は入力ポート114aと出力ポート114bとを連通する連通状態に切り換えられる。一方、パイロット圧室92から作動油を排出することにより、スプール弁軸88はバネ力によって矢印B方向に移動し、出力制御弁113は入力ポート114aと出力ポート114bとを遮断する遮断状態に切り換えられる。
【0034】
このような構成により、電動モータ112が駆動されたときには、オイルポンプ111からパイロット圧室92に作動油が供給されるため、出力制御弁113は連通状態に切り換えられる。一方、電動モータ112の駆動が停止されたときには、オイルポンプ111からパイロット圧室92に対する作動油の供給が停止されるため、出力制御弁113は遮断状態に切り換えられる。このように、電動モータ112の駆動状態に連動して出力制御弁113を切り換えることができるため、前述した電磁弁94を削減することが可能となり、油圧制御回路110の簡素化を図ることが可能となる。
【0035】
また、図6に示す油圧制御回路110にあっては、オイルポンプ111用の電動モータ112を備えているが、これに限られることはなく、モータジェネレータ16を用いてオイルポンプ111を駆動しても良い。ここで、図7はモータジェネレータ16によって駆動されるオイルポンプ120を備えたパワーユニット121の一部を示すスケルトン図である。なお、図1に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図7に示すように、パワーユニット121の後端部には、モータジェネレータ16に隣接するように油圧供給源としてのオイルポンプ120が設けられている。オイルポンプ120はアウタロータ122とインナロータ123とを備えており、インナロータ123にはモータジェネレータ16のロータ52から延びるポンプ駆動軸124が連結されている。このように、モータジェネレータ16によって駆動されるオイルポンプ120を設けることにより、オイルポンプ専用の電動モータ112を設ける必要がなく、油圧制御回路110の簡素化を図ることが可能となる。なお、オイルポンプ120として、例えば外接ギアタイプのオイルポンプを用いるようにしても良い。
【0036】
また、図示するモータ変速装置12は遊星歯車列54を用いて構成されているが、これに限られることはなく、平行軸式の変速歯車列によってモータ変速装置12を構成しても良い。ここで、図8は本発明の他の実施の形態であるモータ変速装置130が組み込まれたパワーユニット131の一部を示すスケルトン図である。なお、図1に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図8に示すように、モータ軸55には2つの駆動ギア132a,133aが回転自在に設けられており、変速出力軸39には駆動ギア132a,133aに噛み合う2つの従動ギア132b,133bが固定されている。また、駆動ギア132aとモータ軸55との間には、締結状態と解放状態とに切り換えられる第1係合機構としてのハイクラッチ134が設けられている。さらに、駆動ギア133aとモータ軸55との間には、締結状態と解放状態とに切り換えられる第2係合機構としてのロークラッチ135が設けられている。
【0037】
ハイクラッチ134およびロークラッチ135は、モータ軸55に固定されるクラッチハブ136,137と、駆動ギア132a,133aに連結されるクラッチドラム138,139とを有している。クラッチハブ136とクラッチドラム138との間には複数の摩擦プレート140が取り付けられ、クラッチハブ137とクラッチドラム139との間には複数の摩擦プレート141が取り付けられている。また、クラッチドラム138,139にはピストン部材142,143が収容されており、クラッチドラム138,139とピストン部材142,143とによってクラッチ油室144,145が区画されている。そして、クラッチ油室144に作動油を供給してハイクラッチ134を締結状態に切り換えることにより、ハイクラッチ134を介して駆動ギア132aから従動ギア132bにモータ動力を伝達する第1動力伝達径路が動力伝達状態に切り換えられる。また、クラッチ油室145に作動油を供給してロークラッチ135を締結状態に切り換えることにより、ロークラッチ135を介して駆動ギア133aから従動ギア133bにモータ動力を伝達する第2動力伝達径路が動力伝達状態に切り換えられる。
【0038】
このように、平行軸式の変速歯車列によってモータ変速装置130を構成した場合であっても、前述したモータ変速装置12と同様の効果を得ることが可能となる。なお、図示する場合には、摩擦係合機構であるハイクラッチ134やロークラッチ135を用いているが、これに限られることはなく、変速歯車列を動力伝達状態に切り換えるシンクロメッシュ機構を設けるとともに、このシンクロメッシュ機構を油圧アクチュエータによって駆動しても良い。
【0039】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、ハイブリッド車両10に対して本発明を適用しているが、動力源として走行用モータのみを備える電気自動車に対して本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0040】
16 モータジェネレータ(走行用モータ)
19 駆動輪
39 変速出力軸(駆動軸)
54 遊星歯車列
55 モータ軸
56 サンギア(第1動力伝達径路,第2動力伝達径路)
57 キャリア(第1動力伝達径路,第2動力伝達径路)
58 ピニオンギア(第2動力伝達径路)
60 ハイクラッチ(第1係合機構,第1動力伝達径路)
61 ローブレーキ(第2係合機構)
81 オイルポンプ(油圧供給源)
82 出力制御弁
83 油路切換弁
94 電磁弁
104 電磁弁
111 オイルポンプ(油圧供給源,電動ポンプ)
112 電動モータ
113 出力制御弁
120 オイルポンプ(油圧供給源)
130 モータ変速装置
132a 駆動ギア(第1動力伝達径路)
133a 駆動ギア(第2動力伝達径路)
132b 従動ギア(第1動力伝達径路)
133b 従動ギア(第2動力伝達径路)
134 ハイクラッチ(第1係合機構,第1動力伝達径路)
135 ロークラッチ(第2係合機構,第2動力伝達径路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に連結される駆動軸と走行用モータに連結されるモータ軸との間に設けられるモータ変速装置であって、
前記駆動軸と前記モータ軸との間に設けられる第1動力伝達径路を、動力伝達状態と動力切断状態とに切り換える第1係合機構と、
前記駆動軸と前記モータ軸との間に設けられる第2動力伝達径路を、動力伝達状態と動力切断状態とに切り換える第2係合機構と、
油圧供給源と前記第1および第2係合機構との間に設けられ、前記油圧供給源からの作動油を通過させる連通状態と、前記油圧供給源からの作動油を遮断する遮断状態とに切り換えられる出力制御弁と、
前記出力制御弁と前記第1および第2係合機構との間に設けられ、前記出力制御弁からの作動油を前記第1係合機構に案内する状態と、前記出力制御弁からの作動油を前記第2係合機構に案内する状態とに切り換えられる油路切換弁とを有することを特徴とするモータ変速装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ変速装置において、
前記油路切換弁は電磁弁からのパイロット圧によって切り換えられることを特徴とするモータ変速装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のモータ変速装置において、
前記出力制御弁は電磁弁からのパイロット圧によって切り換えられることを特徴とするモータ変速装置。
【請求項4】
請求項1または2記載のモータ変速装置において、
前記油圧供給源は電動ポンプであり、前記出力制御弁は前記電動ポンプからの作動油によって切り換えられることを特徴とするモータ変速装置。
【請求項5】
請求項4記載のモータ変速装置において、
前記電動ポンプは前記走行用モータによって駆動されることを特徴とするモータ変速装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のモータ変速装置において、
前記第1および第2動力伝達径路は1つの遊星歯車列によって構成されることを特徴とするモータ変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−106495(P2011−106495A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259734(P2009−259734)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】