説明

モータ駆動装置の位置制御方法

【課題】位置比例積分制御系は、位置偏差の定常偏差を0にする利点があるが、モータ位置が指令位置を追い越すオーバーシュートがおきやすい欠点がある。
【解決手段】位置指令1とモータ位置2の差から位置偏差3を算出し、これに位置比例ゲイン4を乗じた位置比例出力5を計算する位置比例制御系に、速度制御指令8を速度制御モデル15に通したモデル出力16と、モータ位置2を速度検出器13で微分したモータ速度14の差をとり、一次遅れフィルタ17を通した出力を、再び速度制御指令8に加算する速度誤差補正機能を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置における、モータ位置を指令位置に追従させる位置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ駆動装置における位置制御方法には、モータ位置と指令位置の差である位置偏差の定常状態での値を0とするために、位置偏差に位置比例ゲインを乗じた結果と、位置偏差の積分に位置積分ゲインを乗じた結果を加えて、速度制御指令とする位置比例積分制御を行うものがある(例えば特許文献1)。
【0003】
図2はこのような従来の位置比例積分制御系のブロック図である。まず位置指令1とモータ位置2の差から位置偏差3を算出し、これに位置比例ゲイン4を乗じた位置比例出力5と、位置偏差3を積分し位置積分ゲインを乗じる位置積分処理6の位置積分出力7を加算し、速度制御指令8を算出する。この速度制御指令8に追従するよう速度制御器9は出力のモータ速度10を制御する。このモータ速度10を積分器11で積分するとモータ位置2となる。
【0004】
位置積分処理6の位置積分ゲインKiが0の場合、この制御系は位置比例制御系となるが、図示しない外乱トルクが速度制御器9に働くと、速度制御指令8とモータ速度10の間に、速度外乱12が加わるのと等価となる。すなわちモータ速度10が0でも、速度制御指令8には速度外乱12を打ち消す値が残り、これを位置比例ゲイン4で除した値だけ、位置偏差3にも定常偏差が残る。
【0005】
ここで位置積分ゲインKiを正の値に設定すると、積分効果により、位置偏差3の定常偏差量と時間に比例して、位置積分出力7が増加する。この値が前記の速度外乱12を打ち消す値と等しくなった時点で、位置偏差3が0となり、位置積分処理6の動作も停止、位置比例積分制御系は均衡状態となる。
【0006】
この挙動は、位置比例積分制御系における外乱応答の伝達関数からも分かる。速度指令8からモータ速度10までの、速度制御器9の伝達関数をGv(s)とすると、図2の位置比例積分制御系の、速度外乱12に対するモータ位置2の伝達関数Gd(s)は、式1となる。
【0007】
Gd(s)=s/(s2+(Kp・s+Ki)・Gv(s))・・・(式1)
式1におけるKpは、位置比例ゲインである。同じくKiは、位置積分ゲインである。
【0008】
ここで単純化のために、速度制御系の応答は位置制御系より十分早いとして、Gv(s)=1とおくと、位置比例積分制御系の外乱応答伝達関数Gd1(s)は式2で表される。
【0009】
Gd1(s)=s/(s2+Kp・s+Ki)・・・(式2)
また位置積分ゲインKiを0としたときの、位置比例制御系の外乱応答伝達関数Gd2(s)は式3の一次遅れ系に1/Kpのゲインを乗じたものとなる。
【0010】
Gd2(s)=1/(s+Kp)・・・(式3)
これらの伝達関数Gd1、Gd2を、位置比例ゲインKp=5[rad/s]、位置積分ゲインKi=6.25[rad/s2]として、位置指令のステップ応答、および指令応答の周波数特性をボード線図にプロットしたのが図3・図4・図5である。図3が位置比例制御系Gd2(s)、図4が位置比例積分制御系Gd1(s)のステップ応答と周波数特性である。
【0011】
速度外乱に対するステップ応答が、図3の位置比例制御系では誤差を持ったまま収束しないが、図4の位置比例積分制御系とすると、一定時間後に0に収束することが分かる。また図3の位置比例制御系の周波数特性は、低周波数域で傾きが0[dB/dec]となり1/KpのDCゲインが残ることに対し、図4の位置比例積分制御系の周波数特性は、低周波数域で20[dB/dec]の傾きを持つため、DCでのゲインが−∞となることから、最終的に外乱による位置偏差が0になることが保証されることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−97334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この位置比例積分制御系は、ここまで述べたように位置偏差の定常偏差を0にする利点があるが、モータ位置が指令位置を追い越すオーバーシュートがおきやすい欠点がある。通常直線系の機構には端があるため、モータ位置がオーバーシュートするとワークが衝突する可能性がある。また加工機などでワーク位置が行き過ぎれば、加工対象を削りすぎてしまい、逆の行き足らずに比べて損失が大きい。
【0014】
このオーバーシュートの原因は、外乱応答同様に位置指令に対するモータ位置の応答を計算してみると分かる。
【0015】
図2の位置比例積分制御系の、位置指令1に対するモータ位置2の伝達関数Gp(s)は、式4となる。
【0016】
【数1】

ここで外乱応答同様に、速度制御系の応答Gv(s)=1とおくと、位置比例積分制御系の伝達関数Gp1(s)は式5で表される。
【0017】
Gp1(s)=(Kp・s+Ki)/(s2+Kp・s+Ki)・・・(式5)
また位置積分ゲインKiを0としたときの、位置比例制御系の伝達関数Gp2(s)は式6の一次遅れ系となる。
【0018】
Gp2(s)=Kp/(s+Kp)・・・(式6)
これらの伝達関数Gp1、Gp2に、外乱応答同様の位置比例ゲインKp=5[rad/s]、位置積分ゲインKi=6.25[rad/s2]から、位置指令のステップ応答および指令応答の周波数特性ボード線図をプロットしたのが図6・図7・図8である。図6が位置比例制御系Gp2(s)、図7が位置比例積分制御系Gp1(s)のステップ応答と周波数特性である。
【0019】
位置指令に対するステップ応答において、図6の位置比例制御ではなめらかに収束するが、図7の位置比例積分制御では、大きなオーバーシュートが発生している。これは図7の位置比例積分制御の周波数特性が0[dB]を越えるゲインピークを持つことからも言える。
【0020】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、位置制御を行うモータ駆動装置において、モータ位置のオーバーシュートを防ぎつつ、外乱による定常位置偏差を0とする位置制御方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のモータ駆動装置の位置制御方法によれば、前記の速度制御系の応答Gv(s)を1と仮定した場合の位置制御系において、速度制御指令とモータ速度の誤差が外乱速度と等しくなり、これで速度制御指令を補正しつづけることで、位置指令への応答を変化させずに、外乱による定常位置偏差を0にできる。
【0022】
また本発明の記載のモータ駆動装置の位置制御方法によれば、前記の速度制御系の応答Gv(s)を考慮した場合でも、速度制御モデル出力とモータ速度の誤差から、外乱速度を推定し、補正することで、位置指令への応答を変化させずに、外乱による定常位置偏差を0にできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の速度誤差補正機能を備えた位置比例制御系のブロック図
【図2】従来の位置比例積分制御系のブロック図
【図3】位置比例制御系Gd2(s)のステップ応答および周波数特性ボード線図
【図4】位置比例積分制御系Gd1(s)のステップ応答および周波数特性ボード線図
【図5】外乱ステップ応答および外乱応答の周波数特性ボード線図
【図6】位置比例制御系Gp2(s)のステップ応答および周波数特性ボード線図
【図7】位置比例積分制御系Gp1(s)のステップ応答および周波数特性ボード線図
【図8】位置指令ステップ応答および周波数特性ボード線図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0025】
実施例1について図1を用いて説明する。
【0026】
まず、位置指令1とモータ位置2の差から位置偏差3を算出し、これに位置比例ゲイン4を乗じた位置比例出力5を計算する。これを速度誤差補正機能18に入力して、速度制御指令8を算出する。以降は図2の従来例と同じで、この速度制御指令8に追従するよう速度制御器9は出力のモータ速度10を制御する。
【0027】
次に速度誤差補正機能18について説明する。速度制御指令8を速度制御モデル15に通したモデル出力16と、モータ位置2を速度検出器13で微分したモータ速度14の差をとり、一次遅れフィルタ17を通した出力を算出する。この値は外乱速度12のよい推定値となっているため、この値を速度制御指令8に加算することで、外乱速度を打ち消すだけの速度制御指令が、一次遅れフィルタ17内に保持される。その結果、位置偏差3が0となり、位置比例出力5も0、一次遅れフィルタ17の入出力が速度制御指令8に等しくなった時点で、制御系は均衡状態となる。
【0028】
この速度誤差補正付き位置比例制御系の、外乱応答および指令応答の伝達関数を、Gv(s)=1の仮定で計算すると、式7のGd3、および数8のGp3のようになる。
【0029】
Gd3(s)=1/(s+Kp)×τs/(1+τs)・・・(式7)
式7におけるτは、一次遅れフィルタ時定数である。
【0030】
Gp3(s)=Kp/(s+Kp)・・・(式8)
これらの式から、速度誤差補正付き位置比例制御系の指令応答Gp3(s)は、位置比例制御系の指令応答Gp2(s)と全く等しい。また外乱応答Gd3(s)は、位置比例制御系の外乱応答Gp2(s)に、時定数τのハイパスフィルタを乗じた式となる。
【0031】
これらの伝達関数Gd3、Gp3を、位置比例ゲインKp=5[rad/s]、一次遅れフィルタ時定数τ=Kp/Ki=0.8[s]でプロットすると、外乱応答が図5、指令応答が図8となる。
【0032】
図5の外乱応答は、位置比例積分制御系の図6とほぼ同じ応答となる。これは一次遅れ時定数τ=Kp/Kiと設定することで、Gd3(s)分母の固有振動周波数をGd2(s)と一致させたためで、減衰比はより大きくなるため外乱ステップ応答のピークはより小さく良好になっている。
【0033】
また図8の指令応答は、伝達関数からも分かるとおり図6の位置比例制御系と全く同一となり、指令ステップ応答ではオーバーシュートなく、また周波数特性上もゲインピークのない素直な応答が得られる。なお、この指令応答が位置比例制御系と同じとなる特性は、速度制御系の応答Gv(s)が1でない場合にも、速度制御モデル15をGv(s)と等しくとれば、常に成り立つ。また一次遅れ特性程度の近似でも、実用上効果が得られるため有用である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上、本発明のモータ駆動装置の位置制御方法は、位置制御系のみで積分機能をもたせたいときに、特に有効となる。例えば、1つのワークを複数のモータで駆動するタンデム駆動や、複数の車輪で駆動される台車の制御などで、個々のモータを速度制御系で構成する場合があるが、この構成で速度制御系に積分を入れると、複数のモータ間での引っ張り合いが生じやすい。これを回避するために、ワークあるいは台車の位置制御系に本発明を用いることで、定常位置偏差を0とするとともに、複数のモータは速度比例制御とすることで、モータ間の引っ張り合いをなくし、バランスがとれた駆動を実現することができる。
【0035】
またコントローラで位置制御を行い、モータ駆動装置側で速度制御を行うなど、制御が分離されていて速度制御の特性を変更できない場合にも有用である。
【0036】
さらに伝達関数の解析結果より、本発明の速度誤差補正機能は、位置指令応答に影響を与えず、外乱応答だけを改善する、2自由度制御系の特性を持つ。本機能とは逆に指令応答だけに影響を与える、速度や加速度などのフィードフォワード機能を組み合わせることで、より自由度の高い制御系が実現できる。
【符号の説明】
【0037】
1 位置指令
2 モータ位置
3 位置偏差
4 位置比例ゲイン
5 位置比例出力
6 位置積分処理
7 位置積分出力
8 速度制御指令
9 速度制御器
10 モータ速度
11 積分器
12 速度外乱
13 速度検出器
14 モータ速度FB値
15 速度制御モデル
16 モデル出力
17 一次遅れフィルタ
18 速度誤差補正機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置指令とモータ位置の差である位置偏差を計算し、位置比例ゲインを乗じて速度制御指令を生成する位置比例制御系において、速度制御指令とモータ速度の差を、一次遅れフィルタに通した出力を、速度制御指令に加算する速度誤差補正機能を備えることを特徴とするモータ駆動装置の位置制御方法。
【請求項2】
位置指令とモータ位置の差である位置偏差を計算し、位置比例ゲインを乗じて速度制御指令を生成する位置比例制御系において、速度制御指令を速度制御モデルに入力し、その出力とモータ速度の差を、一次遅れフィルタに通した出力を、速度制御指令に加算する速度誤差補正機能を備えることを特徴とするモータ駆動装置の位置制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−151925(P2012−151925A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6583(P2011−6583)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】