説明

リニアガイド装置

【課題】ベアリングと案内レールとの隙間からの潤滑剤の漏れを確実に防止できるリニアガイド装置の提供。
【解決手段】案内レール10にベアリング20をスライド自在に係合すると共に、当該ベアリング20の端面に前記案内レール10との隙間をシールするシール部材40を備えたリニアガイド装置100であって、前記シール部材40は、前記ベアリング20に封入された潤滑剤の前記隙間からの漏れを防止すべく前記案内レール10と接触するリップ部41のうち、前記ベアリング20側に位置する縁部41aが前記案内レール10と接触するようになっている。これによって、ベアリング20に封入された潤滑剤の案内レール10との隙間からの漏れを確実に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般産業機器用直動案内軸受として用いられるリニアガイド装置に係り、特に人体にとって極めて高い安全性が要求される食品加工機器や医療機器などに適したリニアガイド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から一般産業機器用直動案内軸受として用いられるリニアガイド装置は、例えば以下の特許文献1などに示すように直線状の案内レール上に下向きコ字形をしたベアリングが複数の転動体(ボール)を介してスライド自在に係合した構造となっている。
そして、このベアリングの端部にはニップルなどと称される潤滑剤注入口が形成されており、そのニップルからそのベアリング内部にグリースなどの潤滑剤が注入・充填されることによってそのベアリングの潤滑性が確保されるようになっている。
【0003】
また、このような構造をしたリニアガイド装置を、特に人体にとって極めて高い安全性が要求される食品加工機器や医療機器などに用いる場合には、そのベアリング内に充填される潤滑剤として安全な成分、例えば流動パラフィンをベースオイルとしたものが用いられるようになっている。
【特許文献1】特開2004−301168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような構造をしたリニアガイド装置のベアリングには、このベアリングと案内レールとの隙間をシールするためのシール部材が設けられているが、このシール部材は、主にその隙間からのベアリング内への粉塵などの異物や切削油などの侵入を防止するものであるため、この部分からベアリング内の潤滑剤が少しずつ漏れ出してしまい、漏れ出した潤滑剤によって周囲を汚してしまったり、あるいは潤滑剤が短期間で不足してしまう場合がある。
【0005】
また、前述したようにその潤滑剤として前述したように流動パラフィンをベースオイルとしたものを用いることで人体に対する安全性を高めることは可能であるが、従来のリニアガイド装置に用いられているシール部材は、ニトリルゴム(ブタジエンアクリルニトリルゴム)などの人体にとってはあまり好ましくない材料からなるものが用いられているため、その一部がその潤滑剤中に溶け出してしまい、潤滑剤の成分を悪化させてしまうことも懸念される。
そこで、本発明は前記のような問題点を解決するために案出されたものであり、その主な目的は、ベアリングと案内レールとの隙間からの潤滑剤の漏れを確実に防止することができる新規なリニアガイド装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために請求項1の発明は、
案内レールにベアリングをスライド自在に係合すると共に、当該ベアリングの端面に前記案内レールとの隙間をシールするシール部材を備えたリニアガイド装置であって、前記シール部材は、前記ベアリングに封入された潤滑剤の前記隙間からの漏れを防止すべく前記案内レールと接触するリップ部のうち、前記ベアリング側に位置する縁部が前記案内レールと接触するようになっていることを特徴とするリニアガイド装置である。
また、請求項2の発明は、
請求項1に記載のリニアガイド装置において、前記シール部材は、フッ素樹脂からなることを特徴とするリニアガイド装置である。
また、請求項3の発明は、
請求項1または2に記載のリニアガイド装置において、前記潤滑剤は、流動パラフィンをベースオイルとするものであることを特徴とするリニアガイド装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、案内レールと接触するリップ部のうち、前記ベアリング側縁部が前記案内レールと接触するようになっていることから、前記ベアリングに封入された潤滑剤の漏れを確実に防止することができる。
また、本発明は、前記潤滑剤として同じく人体にとって安全な流動パラフィンをベースオイルとする潤滑剤を用いたことから、その潤滑剤が仮にその隙間などから漏れ出した場合でも人体に悪影響を及ぼすことがない。また、前記隙間をシールするためのシール部材として人体にとって安全なフッ素樹脂から構成したため、その一部が潤滑剤に溶け出して潤滑剤の成分を悪化させるようなこともなくなる。
そのため、本発明のリニアガイド装置は、特に人体にとって極めて高い安全性が要求される食品加工機器や医療機器などでの使用に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明に係るリニアガイド装置100の実施の一形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1および図2は、本発明に係るリニアガイド装置100の実施の一形態を示したものであり図1はその一部破断斜視図、図2はその一部平断面図である。
図示するようにこのリニアガイド装置100は、直線状に延びる案内レール10と、この案内レール10上にこれを跨ぐようにスライド移動自在に係合された断面下向きコ字形のベアリング20とから主に構成されている。
【0009】
この案内レール10は断面矩形状に形成された金属から形成されており、その両側面には、それぞれ長手方向に延びる転動体転動溝30が上下に形成されている。そして、ベアリング20の本体20aには、その両袖部21、21の内側面にそれぞれ前記転動体転動溝30に対向する負荷転動体転動溝22がそれぞれ上下に形成されていると共に、その両袖部21,21内にはそのスライド方向に貫通する転動体通路24が形成されている。
【0010】
また、ベアリング本体20aの前後両端面には、それぞれ前記両転動体転動溝30,22と前記転動体通路24とを連通する半円弧状に湾曲した転動体循環路25を有するエンドキャップ26、26がねじ27などを介して固定されており、前記両転動体転動溝30,22間、前記転動体循環路25および前記転動体通路24によって転動体無限循環軌道を構成している。そして、この転動体無限循環軌道には転動体としての多数のボールBが循環可能に装填されており、これらボールBの転動を介してベアリング20が案内レール10上をその長手方向に沿ってスライド移動できるようになっている。
【0011】
また、このエンドキャップ26、26のうち、その一方には給油用ニップル28が設けられており、流動パラフィンなどをベースオイルとする人体にとって比較的安全な潤滑剤をベアリング本体20a内に適宜注入できるよううになっている。
さらに、このエンドキャップ26、26の端面には、前記案内レール10との隙間をシールするためのシール部材40が同じくねじ27などを介して取り付けられている。
【0012】
このシール部材40は、人体にとって比較的安全なフッ素樹脂などからなる板状の部材であってエンドキャップ26とほぼ相似形の下向きコ字形に形成されており、そのコ字形の内周側縁部が案内レール10の表面に常時当接することで、その隙間からのベアリング20内への異物の侵入の防止と、ベアリング20内の潤滑剤の漏れを防止するようになっている。
ここで、本実施の形態でいう「流動パラフィンをベースオイルとした潤滑剤」とは、いわゆる従来公知の「白油(ホワイトオイル)」などと称される炭化水素油であり、軟膏などの薬品や精密機械、冷凍機械などの潤滑剤として従来から用いられているものをそのまま適用することができる。
【0013】
一方、このシール部材40を構成する「フッ素樹脂」も「ポリテトラフルオロエチレン」や「ポリトリフルオルクロルエチレン」などの従来公知の熱可塑性樹脂であり、パッキングやチューブ、シートなどの機械部品の他、電線被覆、電子機器部品、ライニングなどに従来から用いられているものをそのまま適用することができる。
そして、本発明に係るリニアガイド装置100にあっては、図3に示すようにこのシール部材40の案内レール10と当接するコ字形の内周側縁部であるリップ部41のうち、ベアリング20側に位置する部分41aが主にその周方向に沿ってその案内レール10の表面と当接するような断面斜め形状となっている。
【0014】
すなわち、従来のシール部材40の場合は、例えば図4に示すように、そのリップ部41のうち、ベアリング20の反対側に位置する縁部41bが主にその案内レール10の表面と当接してベアリング20側に位置する縁部41aが案内レール10表面と離れるような断面斜め形状となっているため、外部からその隙間を通ってベアリング20内へ異物が侵入するのは確実に防げるが、そのベアリング20内の潤滑剤はそのリップ部41側に容易に流れ込むようになるため、そのその隙間を通って外部に漏れ出しやすくその漏れを確実に防ぐことは困難であった。
【0015】
これに対し、本発明のシール部材40は、図3で示したようにそのリップ部41のうち、ベアリング20側に位置する縁部41aがその案内レール10の表面と接触するような従来とは反対の断面斜め形状となっていることから、ベアリング20内の潤滑剤がそのリップ部41側に侵入し難くなるため、その間からベアリング20内への異物の侵入を防止しつつ、その隙間から潤滑剤が漏れるのを確実に防ぐことができるようになる。
これによって、ベアリング20の外に漏れ出した潤滑剤によって周囲を汚してしまったり、あるいは漏出によって潤滑剤が短期間で不足してしまうといった不都合を確実に回避することができる。
【0016】
また、このベアリング20に封入される潤滑剤も同じく人体にとって安全な流動パラフィンをベースオイルとするものを用いたことから、仮にその隙間などから潤滑剤が漏れ出した場合でも人体に悪影響を及ぼすことがなく、また、シール部材40は、前述したように人体にとって安全なフッ素樹脂からなているため、その潤滑剤の安全性に悪影響を及ぼすこともなくなる。
【0017】
そのため、本発明のリニアガイド装置100は、特に人体にとって極めて高い安全性が要求される食品加工機器や医療機器などでの使用に適している。
なお、本実施の形態では、従来のシール部材40に代わって、そのリップ部41の形状が異なる新たなシール部材40を用いた例で示したが、この新たなシール部材40に加えて従来のシール部材40を併用したダブルシール構造としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るリニアガイド装置100の実施の一形態を示す一部破断斜視図である。
【図2】図1に示すリニアガイド装置100の転動体無限循環軌道部分を示す一部平断面図である。
【図3】図2中A部を示す部分拡大図である。
【図4】図2中A部に対応する従来構造を示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0019】
100…リニアガイド装置
10…案内レール
20…ベアリング
20…ベアリング本体
26…エンドキャップ
40…シール部材
41…リップ部
41a…ベアリング側縁部
41b…反対側縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールにベアリングをスライド自在に係合すると共に、当該ベアリングの端面に前記案内レールとの隙間をシールするシール部材を備えたリニアガイド装置であって、
前記シール部材は、前記ベアリングに封入された潤滑剤の前記隙間からの漏れを防止すべく前記案内レールと接触するリップ部のうち、前記ベアリング側に位置する縁部が前記案内レールと接触するようになっていることを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアガイド装置において、
前記シール部材は、フッ素樹脂からなることを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリニアガイド装置において、
前記潤滑剤は、流動パラフィンをベースオイルとする潤滑剤であることを特徴とするリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−69872(P2008−69872A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249296(P2006−249296)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】