説明

ロール角検出装置

【課題】自動二輪車のロール角検出装置において、連続的なロール角の検出を可能にする。
【解決手段】路面Roに対向させて車体の中央に超音波送信器19を配置し、左右に超音波受信器を配置する。時刻データを符号化し、AM変調して超音波送信器19から超音波信号を送信し、路面Roで反射した超音波信号を左右の超音波受信器20、21で受信する。超音波信号に含まれる時刻データに基づいて、超音波送信器19から左右の超音波受信器20、21への超音波信号の伝達時間を求め、超音波信号の伝達距離から車体のロール角を演算する。時刻データを利用することにより、連続的なロール角の検出が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車等の車両のロール角を検出するロール角検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二輪車のブレーキシステムにおいて、制動時の車輪のロックを防止するためのアンチロックブレーキシステム(以下、ABSという)が公知である。一般的に、二輪車は、ホイールベースに対して重心位置が高く、また、旋回時のロール角(バンク角、キャンバ角ともいう)が大きくなる(30°以上になる場合がある)ため、接地荷重の変動が四輪車に比して、遥かに大きく、利用可能な車輪と路面との摩擦力がロール角に応じて大きく変動する。このため、二輪車のブレーキシステムにおいて、アンチロック制御を適切に行うためには、走行中の車体のロール角を正確に検出して、ロール角を考慮した制御を実行することが望ましい。
【0003】
そこで、従来、例えば、特許文献1に記載されているように、車体の左右に取付けた超音波センサ(超音波送受信器)によって、走行中の車体の左右の車高を検出し、これらの車高に基づいてロール角を得るようにしている。
【特許文献1】特開平5−97025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の車体の左右に超音波センサ(超音波送受信器)を取付けたものでは、左右の超音波センサ間で超音波信号の混信を防ぐため、超音波信号を交互に発信して車高検出を行う必要がある。このため、検出周期が長く、また、間欠的な検出となり、アンチロックブレーキ制御に適したものとはいえなかった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、連続的な検出を実行することができるロール角検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、路面に対向させて、車体の中央部に超音波送信器を配置し、車体の左右両側に一対の超音波受信器を配置し、前記超音波送信器から発信して路面で反射した超音波信号を前記一対の超音波受信器で受信し、前記超音波送信器から前記一対の超音波受信器への超音波信号の伝達時間に基づいて前記車体のロール角を演算するロール角検出装置において、
時刻データを含む超音波信号を前記超音波送信器から送信し、時刻データに基づいて超音波信号の伝達時間を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るロール角検出装置によれば、時刻データに基づいてロール角を連続的に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図2は、本発明に係るロール角検出装置が装着された自動二輪車の概略構成を示している。図2に示すように、自動二輪車1は、車体2の前部に、フロントフォーク3が所定のキャスター角をもって操舵(回動)可能に取付けられ、フロントフォーク3の下端部に前輪4の車軸4Aが装着され、上端部にハンドルバー5が取付けられている。また、車体2の後部には、スイングアーム6が上下方向に回動可能に取付けられ、スイングアーム6の後端部に後輪7の車軸7Aが装着されている。
【0009】
自動二輪車1は、液圧ブレーキシステムを装備しており、前輪ブレーキ系統として、フロントフォーク3に装着されて前輪4を制動するフロントブレーキキャリパ8と、ハンドルバー5に装着されてブレーキレバー9に連結されたフロントマスタシリンダ10と、これらを互いに接続する液圧管路11とを備えている。また、後輪ブレーキ系統として、スイングアーム6に装着されて後輪7を制動するリアブレーキキャリパ12と、車体2に装着されブレーキペダル13に連結されたリアマスタシリンダ14と、これらを互いに接続する液圧管路15とを備えている。前輪及び後輪ブレーキ系統の液圧管路11、15にはABSユニット16が介装されている。車体2の後輪7の前方下部には、超音波センサユニット17が取付けられ、超音波センサユニット17は、ABSユニット16に接続されている。
【0010】
ABSユニット16は、液圧制御装置及びマイクロプロセッサベースのコントローラを備え、超音波センサユニット17を含む各種センサ(図示せず)からの入力信号に基づいて、制動時にフロント及びリアブレーキキャリパ8、12に供給する液圧を制御して前輪4及び後輪7のロックを防止する。
【0011】
次に、ロール角検出装置について、主に図1、図3乃至図6を参照して説明する。
図1に示すように、超音波センサユニット17は、車体2の左右方向に延びるホルダ18の中央部に超音波送信器19が取付けられ、左右に超音波受信器20、21が取付けられている。左右の超音波受信器20、21は、車体2の中央に配置された超音波送信器19に対して、左右対称に配置されており、超音波送信器19から発信された超音波信号が路面Roで反射して、左右の超音波受信器20、21で受信されるように指向されている。
【0012】
超音波センサユニット17のホルダ18は、振動を吸収しやすい合成樹脂製となっており、超音波送信器19及び超音波受信器20、21は、ゴム等のインシュレータ22を介してホルダ18に取付けられている。これにより、エンジン、サスペンション等による車体2の振動がホルダ18を介して超音波送信器19及び超音波受信器20、21に伝達されるのを防止し、また、超音波送信器19からホルダ18を通して超音波受信器20、21に直接伝播する超音波信号を遮断するようにしている。
【0013】
そして、超音波送信器19から路面Roに向けて超音波信号を発信し、路面Roで反射した超音波信号を左右の超音波受信器20、21で受信し、このときの超音波信号の伝達時間に基づいてABSユニット16のロール角演算部16Aによって車体のロール角を演算する。
【0014】
ロール角演算部16Aによるロール角の演算方法について次に説明する。
旋回時に車体2がロール(バンク)したときの超音波センサユニット17と後輪7及び路面Roとの位置関係を図3に示す。
【0015】
図3を参照して、後輪7(最大半径Rt)は、接地面の断面形状が半径Rgの略円形であり、また、スイングアーム6がストロークすることによって、旋回時には、超音波センサユニット17の取付高さhは、実際にはh´となる(なお、図3においては、スイングアーム6のストロークは考慮していない)。
【0016】
図4は、超音波送信器19の位置を原点Oとし、左右の超音波受信器20、21の位置をそれぞれX軸上の点R、LとしてX−Y座標上に表したものである。図4を参照して、左右側超音波受信器20、21(点R、L)の路面Roに対して鏡像となる点をそれぞれ点R´、L´とする。路面RoのX軸との交点をEとすると、△RER´及び△LEL´は路面Roを中心線とした二等辺三角形となり、超音波送信器19(原点O)から左右の超音波受信器20、21(点R、L)までの反射距離は、それぞれOR´及びOL´となる。
【0017】
ここで、路面Roを直線Y=aX+h´、ロール角をθとすると、a=tanθであり、余弦定理から
OR´=√((h´/a)+(h´/a−b)−2(h´/a)(h´/a−b)cos2θ) …(1)
OL´=√((h´/a)+(h´/a+b)−2(h´/a)(h´/a+b)cos2θ) …(2)
また、倍角公式からtan2θ=2a/(1−a)であり、
直角三角形の公式から
cos2θ=(1−a)/√(4a+(1−a)=(1−a)/(1+a
である。
したがって、超音波送信器19から左右の超音波受信器20、21への超音波信号の伝達時間から反射距離OR´及びOL´を求めれば、余弦定理の(1)、(2)式により、a及びh´を演算することができる。
【0018】
ここで、超音波送信器19(原点O)と左右の超音波受信器20、21(点R、L)との間隔b=100mm、超音波センサユニット17の取付高さh=200mm、取付高さの変化±50mm(h´=200±50mm)、ロール角θ=±45°とすると、反射距離OR´及びOL´は最小160mmから最大520mmの範囲となり、大気中の音速(超音波信号の伝達速度)は、気温Tの平方根√Tに比例して変化して300〜380m/s程度となるので、超音波信号の反射距離OR´及びOL´の伝達時間は0.4〜1.8ms程度となる。
【0019】
次に、この超音波信号の伝達時間を連続的に測定するため、超音波送信器19の送信データに送信時刻情報を載せるための方法の一例について図6を参照して説明する。図6は、時刻データを符号化して超音波をキャリア波としてAM変調して使用する方法を示している。ここでは、40kHzの超音波を使用し、AM変調の振幅変化は8周期、時刻データは「0111」の4ビット、符号化はFM方式とした場合の例を示す。図6を参照して、(a)は4ビットの時刻データ「0111」を表し、(b)は送信クロック2.5kHzを表し、(c)はデータビットの間にクロックビット(クロックタイミング情報)を挿入したFM符号化データ「01111111」を表し、(d)は40kHzをキャリア波としてAM変調した送信波形を表し、(e)は反射距離OR´及びOL´を伝播した分だけ遅れた受信波形を表し、(f)はAM復調信号波形を表し、(g)は復調信号に同期したPLO(フェイズロックド ループ オシレータ)出力波形を表し、また、(h)は復調信号をPLOに同期させたリカバリFM符号データを表している。この場合、信号の繰返し周期は3.2msであり、最大3.2msまでの伝達時間の測定が可能であり、前述した超音波信号の反射距離OR´及びOL´の伝達時間0.4〜1.8ms程度に対して充分な測定周期となっている。
【0020】
そして、(h)リカバリFM符号データの時刻データビット「0」の部分で同期をとり、これを基準に受信波形各部に付番して送信からの経過時間(伝達時間)を測定することができる。なお、(e)の受信波形は、判りやすくするため、ノイズのない波形で示しているが、実際には、路面Roは凹凸があり不均一であるため、(f)AM復調信号にはノイズジッタが含まれるが、ループフィルタで追従するPLOクロックで同期したリカバリ復調信号は、ジッタが平均化されるので、安定した時間測定が可能である。
【0021】
次に、ABSユニット16のロール角演算部16Aの構成について、図5を参照して説明する。図5を参照して、CPUは、内部クロックを分周して40kHzのキャリア周波数、2.5kHの送信クロックを生成し、このクロックでFM符号化したデータ列をシリアル通信ポート等から出力し、出力データの全てのエッジ出力時刻を記憶する。送信ドライバは、通信ポートから出力されたデータに基づき、キャリア周波数の振幅を増減して超音波送信器19に出力する。
【0022】
超音波受信器20、21のセンサ素子は、共振周波数を有するバンドパス特性を有しているものであるが、その出力信号は、超音波以外の低周波ノイズや振動成分を含むので、バンドパスフィルタ(BPF)によって低周波及び高周波ノイズを除去して振幅成分を復調する。この復調信号のエッジには、路面Roの凹凸等によるジッタが含まれているので、PLOで復調信号のエッジに追従した受信クロックを生成し、FM符号化データ列のまま同期化する。PLOは、VCO(電圧制御発振器)、位相比較器及びラグリードフィルタ回路等を含み、AM復調信号のエッジに追従した受信クロックを生成する。この受信クロックでAM復調信号を同期化すると、ジッタを含まないリカバリFM符号データが得られる。
【0023】
CPUは、この同期化データと受信クロックを受けて、送信時刻との時間差を得ることができ、受信クロックに「0」から「7」を付番し、記憶した送信時刻と受信クロックの受信時刻から超音波信号の伝達時間を正確に測定することができる。このとき、受信クロックの立上がりエッジのみを使用して0.4ms周期、立下りエッジも使用すると0.2ms周期で伝達時間を測定することができ、ブレーキシステムのアンチロック制御等の車両制御においては、充分連続的な測定とみなすことができる。左右の超音波受信器20、21に対して、同様な受信回路が設けられている。また、気温によって大気中の音速(超音波信号の伝達速度)が変動するため、気温センサ23を設けて音速の温度補正を行っている。
【0024】
なお、以上、FM符号化及びAM変調を例にとって説明したが、符号化方式はクロック成分を含む方式であればよく、このほか、例えば通信、記憶装置等で一般的に使用されるMFM、2to7等の符号方式を使用することもできる。時刻データは、2ビットの「00」から「11」までの「00011011」としてもよく、さらに長い時刻データが必要な場合、nビットのM系列データを使用することもできる。この場合、3ビットM系列データでは、「0011101」の7ビットとすることができ、さらに、先頭に「0」を追加して「00011101」の8ビットの繰り返しとしてもよい。また、変調方式については、FM変調、位相変調等を使用することもできる。
【0025】
このようにして、ロール角θを連続的に測定することができ、ロール角θを含む制御パラメータに基づいてABSユニット16の液圧制御装置を制御することによりロール角θに応じて適切なアンチロック制御を実行することができる。このとき、超音波センサユニット17の取付高さhが変化に対応することができ。車両制御に適した連続的なロール角測定を行うことができ、また、PLOによる追従動作によって信号欠落に対するロバスト性を高めることができる。
【0026】
なお、上記実施形態では、本発明に係るロール角測定装置を自動二輪車のブレーキシステムのアンチロック制御に適用した場合について説明しているが、本発明は、これに限らず、トラクション制御等にも適用することができ、また、二輪車に限らず四輪車のロール角の検出にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係るロール角検出装置の超音波センサユニットを示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るロール角検出装置を組込んだアンチロックブレーキシステムを装備した自動二輪車の概略構成を示す図である。
【図3】図1に示す超音波センサユニットと後輪及び路面との位置関係を示す図である。
【図4】図3において、超音波送信器の位置を原点Oとし、左右の超音波受信器位置をそれぞれX軸上の点R、LとしてX−Y座標上に表した図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るロール角検出装置のロール角演算部の構成を示すブロック図である。
【図6】図5に示すロール角演算部によって超音波送信器の送信データに送信時刻情報を載せるための方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
2 車体、19 超音波送信器、20、21 超音波受信器、Ro 路面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に対向させて、車体の中央部に超音波送信器を配置し、車体の左右両側に一対の超音波受信器を配置し、前記超音波送信器から発信して路面で反射した超音波信号を前記一対の超音波受信器で受信し、前記超音波送信器から前記一対の超音波受信器への超音波信号の伝達時間に基づいて前記車体のロール角を演算するロール角検出装置において、
時刻データを含む超音波信号を前記超音波送信器から送信し、時刻データに基づいて超音波信号の伝達時間を得ることを特徴とするロール角検出装置。
【請求項2】
時刻データを符号化し、AM変調して前記超音波送信器から送信することを特徴とする請求項1に記載のロール角検出装置。
【請求項3】
時刻データをクロックタイミング情報を含む符号化方式によって符号化し、変調して前記超音波送信器から送信することを特徴とする請求項1又は2に記載のロール角検出装置。
【請求項4】
時刻をM系列データに変換した後、時刻データを符号化及び変調して、前記超音波送信器から送信することを特徴とする請求項1乃至3に記載のロール角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−122070(P2009−122070A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299207(P2007−299207)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】