説明

二酸化クロム系ハーフメタル膜

【課題】 二酸化クロム単独ではキュリー点が低く、それに伴い電子素子等の材料として、室温付近での使用が不可能であった。又、所望の形、適所に成膜するには高価な装置を使う必要があり困難を伴っていたため、もっと安価で容易な製造技術が求められていた。
【解決手段】 キュリー点が低く、電子材料として使用することが不可能に近いというという課題は、二酸化クロムと酸化物状態で同一結晶構造を形成できる元素を添加することで問題を解決できた。又、成膜方法として、一般的な真空蒸着でマスクを使うことにより、安価で容易に所望の形、適所に材料提供を実現可能とした。場合によっては、スパッタリング法やレーザーアブレーション法などの蒸着技術などでも対応可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーフメタル特性を有する材料に関し、特に、安価で製造が容易な、二酸化クロム系ハーフメタル膜に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性酸化物ハーフメタル材料として、二酸化クロムが知られている(非特許文献1を参照)。渡辺らは、温度上昇で強磁性の性質が消失し、また降温で強磁性が出現する温度、すなわちキュリー点が室温以上を有するハーフメタル材料としてマグネタイトと二酸化クロムを上げている(特許文献1)。ハーフメタル材料とは、アップスピンとダウンスピンというスピンの向きがまったく異なる2種類の電子のうち、一方が金属的に振る舞い、一方が絶縁体的あるいは半導体的に振る舞うため、100%一方だけの向きを持つスピン偏極した伝導電子を有する材料を言う。強磁性は磁化測定、磁気力顕微鏡画像の磁場変化などにより明らかにすることが出来、強磁性転移温度のキュリー点は磁化の温度変化、電気抵抗の温度変化の傾き変化などから決めることができる。
【特許文献1】特開平11−97766号公報
【非特許文献1】Physical Review B、Volume 64、180408(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
二酸化クロムのキュリー点は約120℃であるために、室温ではハーフメタル特性が小さくなり、室温付近での電子素子用材料としては適さないという問題があり、室温で優れた特性が生じるために、キュリー温度を高くする必要があった。又、従来の成膜技術では化学気相成長法で膜を作製するため、所望の形の膜パターンを形成させるために高価な装置を用いる方法をとる必要があり価格が高くなり、又、ガスが回り込み、必要な箇所に適切に膜を作るのが困難という問題も抱えていた。そのため、安価にしかも所望の箇所に成膜する方法を必要としていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
二酸化クロムにクロム以外の元素を一部含有させ、二酸化クロムと同じルチル結晶構造を取ることによって、二酸化クロム単独よりも高いキュリー温度を達成できることを実験的に本発明者らは見いだした。最近、我々が行った分子軌道法による理論計算においても、ルテニウム、錫、モリブデン、タングステンなどを添加元素とした二酸化クロムにおいて、ハーフメタルの性質を有しながらキュリー温度が上昇する結果を得ている。又、一般的な蒸着法を適用させ、マスクを使い所望の形にして膜を形成することができ、したがって安価にしかも容易に膜を作製する方法を提供するものである。又、高速の希ガス・イオンを発生させ、蒸発源の元素あるいは分子を弾き飛ばして蒸着させるスパッタリング法や、レーザーを使い元素あるいは分子を蒸発させて蒸着させるレーザーアブレーション法などを適用させてもよい。
【発明の効果】
【0005】
得られた強磁性膜のキュリー温度が上昇し、室温付近での電子素子用の材料として使用可能となり、一般的な蒸着法で簡単に成膜できるので、簡単に比較的安価に膜を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
二酸化クロムに含有させる元素としては、酸化物が二酸化クロムの結晶構造と同じルチル構造を与える元素を使うことができる。その中でも、ルテニウム、錫、モリブデン、タングステンが好ましい。さらに、その含有させる元素は単独でも複数元素でもよい。膜の作製はクロムと添加元素の合金を作製後、真空蒸着法あるいはスパッタリング法やレーザーアブレーション法などにて成膜し、引き続き酸化処理する方法やクロムと添加元素を共蒸着法にて成膜し、その後に酸化処理して酸化物膜を得る方法、また、二酸化クロムとルチル構造を有する二酸化元素の共蒸着法にて作製することができる。
【実施例1】
【0007】
アルゴン雰囲気中で気体放電させて合金をつくる、いわゆるアーク溶解法で合金化し、最終到達真空度1×10−4Paのチャンバー内で基板温度を室温にして膜厚約30nm蒸着し、その以後、膜を5時間酸化処理した。その他の作製法の条件を表1に列記する。
Cr83at%、Sn17at%の仕込み量でZrO基板上に真空蒸着して作製した膜のX線回折パターンを図1に示す。基板ZrO2によるピークの他にCr0.81Sn0.19O(110)面に相当するピークが観測され、添加元素Snが混入し、ルチル構造を形成していることを示す。
【実施例2】
【0008】
実施例1と同様に、Cr83at%、Ru17at%の仕込み料でZrO2基板上に真空蒸着して作製した膜における磁気力顕微鏡画像を、二酸化クロムのキュリー温度である約120℃より高い135℃で測定した。その結果を図2に示す。図は磁区が存在し、磁界により磁区が変化したことを示しており135℃でも強磁性が保持されていることを示している。また、図3に示すように、同じ試料における電気抵抗の温度変化の傾き変化から約180℃付近にキュリー温度を持つことが分かる。図4は膜のX線回折の測定結果を示す。図から分かるように仕込み量に近い組成のCr74Ru26における(110)のピークが見られ、Ruの元素が含まれたCrO膜の存在を示している。又、走査型電子顕微鏡を用いた膜の元素組成分析においても、仕込み量に近い組成を示唆する結果が得られている。
【実施例3】
【0009】
実施例1と同様に、蒸着の条件のみを表1中の実施例3に示す条件に変え実施し、実施例1、2と同様の結果が得られた。表1中の実施例4、5,6も同様の結果が得られた。
【0010】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の膜はトンネル磁気抵抗効果を有する素子として、超高速磁気読み取りヘッドの構成部品として、あるいは磁気ランダムアクセスメモリー材料として利用される可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】Cr83at%、Sn17at%の仕込み量でZrO2基板上に真空蒸着して酸化させて作製した膜のX線回折パターンである。
【図2】Cr83at%、Ru17at%の仕込み量でZrO2基板上に真空蒸着して酸化させて作製した膜の135℃での走査型プローブ顕微鏡画像である。
【図3】Cr83at%、Ru17at%の仕込み量でZrO2基板上に真空蒸着して酸化させて作製した膜の電気抵抗の温度変化を示す。
【図4】Cr83at%、Ru17at%の仕込み量でZrO2基板上に真空蒸着して酸化させて作製した膜のX線回折パターンである。
【符号の説明】
【0013】
Aは、0.2Tの磁場が膜面の方向にかけられたときの磁気力顕微鏡画像である。
Bは、表面形状と同じ場所の磁場がかけられていないときの磁気力顕微鏡画像である。
Cは、表面形状像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーフメタル特性を有する元素含有二酸化クロム膜。
【請求項2】
二酸化クロム中に含有する元素が同じルチル型の結晶構造をとり得る酸化物を形成する元素であることを特徴とする請求項1記載の二酸化クロム膜。
【請求項3】
クロムと元素を合金化した後、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、真空蒸着法などの蒸着技術により薄膜を作製後、酸化処理をする工程からなる元素含有二酸化クロム膜の製造方法。
【請求項4】
クロムと元素を共蒸着により薄膜を作製後、酸化処理をする工程からなる元素含有二酸化クロム膜の製造方法。
【請求項5】
二酸化クロムとルチル構造を有する二酸化元素を共蒸着により薄膜を作製する製造方法
【請求項6】
クロムと元素を合金化した後、低圧酸素雰囲気中で蒸着をする工程からなる元素含有二酸化クロム膜の製造方法。
【請求項7】
絶縁体バリア層の両側もしくは一方を、ハーフメタル特性を有する元素含有二酸化クロム膜で挟み込む構造を特徴とする強磁性トンネル接合素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−188740(P2006−188740A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2768(P2005−2768)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】