説明

低圧EGR装置

【課題】低圧EGR調整弁の開度センサを用いて吸気絞り弁の故障判定を行ない、且つメカストッパの強度低下を回避できる低圧EGR装置を提供する。
【解決手段】エンジンが停止すると、メカストッパ10によってリンク装置9の動きが規制される限界開度θ3まで低圧EGR調整弁5を全開側に回動させる。そして、低圧EGR開度センサの検出開度が限界開度θ3と異なる開度であれば、故障が発生したと判定する。メカストッパ10による限界開度θ3は、EGR量調整開度範囲θ0〜θ2より大きい開度に設定される。このため、メカストッパ10がリンク装置9の動きを規制するのは故障判定時(エンジン停止後)だけであり、メカストッパ10にストレスが加わる頻度を少なくできる。これにより、長期に亘って使用されてもメカストッパ10の強度低下を回避することができ、信頼性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン(燃料の燃焼により動力を発生させる内燃機関)の排気ガスの一部を、排気通路の低排気圧範囲(排気圧の低い範囲)から、吸気通路の低吸気負圧発生範囲(吸気負圧の低い範囲)へ戻す低圧EGR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
低圧EGR調整弁(吸気通路へ通じる低圧EGR流路の開度を調整するバルブ装置)の開度を検出する低圧EGR開度センサを用いて、吸気絞り弁(吸気通路と低圧EGR流路の合流部に吸気負圧を発生させるバルブ装置)の故障判定を行なう技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1の技術は、リンク装置における低圧EGR調整弁の全閉側に、リンク装置の限界開度を規制するメカストッパ(具体的にはカム溝の端部とローラの係合箇所)を設けておく。
そして、エンジンの停止後に、低圧EGR調整弁を全閉側に回動させて、メカストッパによってリンク装置の動きを停止させる。即ち、メカストッパによってリンク装置の動きが規制される範囲まで、低圧EGR調整弁を全閉側に回動させる。この時、低圧EGR開度センサの検出開度が、メカストッパによる限界開度であれば正常と判断し、限界開度と異なる開度であれば故障が発生したと判断するものである。
【0004】
(従来技術の問題点)
この特許文献1の技術では、「EGRバルブの全閉位置」と「メカストッパによる限界開度」とを同一開度に設けることが考えられる。
低圧EGR調整弁は、エンジン停止時はもちろん、エンジン運転中であっても全閉位置に戻される頻度が高い。
このため、低圧EGR調整弁が全閉位置に戻される都度、メカストッパにストレス(押圧負荷)が加わる。その結果、長期に亘って多数回のストレスがメカストッパに加わることになり、メカストッパの強度低下が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−32929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低圧EGR調整弁の開度を検出する低圧EGR開度センサを用いて吸気絞り弁の故障判定を行なうことができ、且つメカストッパの強度低下を回避できる低圧EGR装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[請求項1の手段]
エンジンが停止すると、メカストッパによってリンク装置の動きが規制される範囲まで低圧EGR調整弁を全開側に回動させる。この時、低圧EGR開度センサの検出開度が限界開度と異なる開度であれば、故障が発生したと判定する。
このように、低圧EGR調整弁の開度を検出する低圧EGR開度センサによって吸気絞り弁の故障判定を行なうため、吸気絞り弁専用の開度センサを不要にでき、低圧EGR装置のコストを低く抑えることができる。
【0008】
また、メカストッパによってリンク装置の動きを規制するのは、エンジン停止後において故障判定を行う時であるため、メカストッパにストレスが加わる頻度を少なく抑えることができる。
これにより、低圧EGR装置が長期に亘って使用されても、メカストッパの強度低下を回避することができ、低圧EGR装置の信頼性を高めることができる。
【0009】
[請求項2の手段]
請求項2の故障検出手段は、エンジン運転中にエンジンへの吸気状態(実吸気流量、過給圧、吸気温度、実EGR流量、低圧EGR調整弁の開度など)を検出し、検出結果から不具合が検出された場合や不具合の発生が予測される場合に、故障判定を行うものである。
これにより、エンジンの運転中であっても吸気状態に基づいて吸気絞り弁の故障判定を行なうことができる。
【0010】
[請求項3の手段]
請求項3の低圧EGR装置は、吸気絞り弁を開弁方向へ付勢する絞り弁用リターンスプリングを備える。
これにより、吸気絞り弁が制御不能になった場合でも、絞り弁用リターンスプリングの作用によって吸気絞り弁を開弁状態に維持することができ、フェールセーフを達成できる。
【0011】
[請求項4の手段]
請求項4の吸気絞り弁はバタフライ弁を採用するものであり、このバタフライ弁は、回動軸より吸気下流側に配置される下流バルブ板の吸気接触面積が、回動軸より吸気上流側に配置される上流バルブ板の吸気接触面積より大きく設けられる。
これにより、吸気絞り弁が制御不能になった場合でも、吸気通路を流れる吸気の流れによって吸気絞り弁を開弁状態に維持することができ、フェールセーフを達成できる。
【0012】
[請求項5の手段]
請求項5のメカストッパは、「カム溝の端部」と「溝係合体(ローラやピン等)」との係合箇所によって、低圧EGR調整弁の全開側の限界開度を規制するものである。
このため、長期に亘って使用されても、メカストッパを構成する「カム溝の端部」および「溝係合体(ローラやピン等)」の変形や破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】低圧EGR調整弁と吸気絞り弁の概略図である(実施例1)。
【図2】低圧EGR調整弁の回転角度に応じたEGR流量と吸気流量との関係を示すグラフである(実施例1)。
【図3】低圧EGR調整弁の回転角度に応じた吸気絞り弁の開度を示す説明図である(実施例1)。
【図4】故障検出の一例を示すフローチャートである(実施例1)。
【図5】エンジンの吸排気システムの概略説明図である(実施例1)。
【図6】低圧EGR調整弁と吸気絞り弁の概略図である(実施例2)。
【図7】吸気絞り弁の形状の説明図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
低圧EGR装置1は、
(a)エンジン2に吸気を導く吸気通路3へEGRガスを導く低圧EGR流路4の開度調整を行なう低圧EGR調整弁5と、
(b)この低圧EGR調整弁5を駆動する1つの電動アクチュエータ6と、
(c)低圧EGR調整弁5の開度を検出する低圧EGR開度センサと、
(d)電動アクチュエータ6を通電制御して低圧EGR調整弁5の開度を制御する制御装置7(後述する実施例では、ECU7)と、
(e)吸気通路3と低圧EGR流路4の合流部に吸気負圧を発生させる吸気絞り弁8と、
(f)電動アクチュエータ6の出力特性を変化させて吸気絞り弁8を駆動するリンク装置9と、
(g)このリンク装置9に設けられ、低圧EGR調整弁5の全開側の限界開度θ3を、EGR量調整開度範囲θ0〜θ2の外部において規制するメカストッパ10(後述する実施例では、カム溝11の端部と溝係合体12との係合箇所)と、
(h)制御装置7に設けられ、エンジン2の停止後、メカストッパ10によってリンク装置9の回動が阻止される範囲まで低圧EGR調整弁5を全開に回動させて「低圧EGR開度センサの検出開度」が「リンク装置9の限界開度θ3」とは異なる場合に故障判定を行なう故障検出手段(後述する実施例では、ECU7に設けられる制御プログラム)と、
を具備する。
【実施例】
【0015】
以下において本発明が適用された具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。実施例は具体的な一例を開示するものであって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。なお、以下の実施例において上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0016】
[実施例1]
図1〜図5を参照して実施例1を説明する。
先ず、図5を参照してエンジン吸排気システムを説明する。
エンジン吸排気システムには、高圧EGR装置21と低圧EGR装置1が設けられている。
高圧EGR装置21は、高排気圧範囲(DPF22の排気上流側で、高い排気圧が発生する範囲)の排気通路23の内部と、高吸気負圧発生範囲(スロットルバルブ24の吸気下流側で、高い吸気負圧が発生する範囲)の吸気通路3の内部とを接続して、多量のEGRガスをエンジン2へ戻す排気ガス再循環装置であり、排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路3の吸気下流側へ戻す高圧EGR流路25を備えている。
具体的な一例として、図5の高圧EGR流路25は、排気通路23側がターボチャージャの排気タービン26より排気上流(エキゾーストマニホールド)に接続され、吸気通路3側がインテークマニホールドのサージタンク27に接続されている。
【0017】
図5に示す高圧EGR装置21には、高圧EGR流路25の途中に、高圧EGR流路25の開度を調整することでEGRガスの流量調整を行なう高圧EGR調整弁28と、吸気側に戻されるEGRガスの冷却を行なう高圧EGRクーラ29と、吸気側に戻されるEGRガスを高圧EGRクーラ29から迂回させる高圧クーラバイパス30と、高圧EGRクーラ29と高圧クーラバイパス30の切り替えを行なう高圧EGRクーラ切替弁31とが設けられている。
なお、図5は具体例であり、高圧EGRクーラ29、高圧クーラバイパス30および高圧EGRクーラ切替弁31を搭載しないものであっても良い。
【0018】
低圧EGR装置1は、低排気圧範囲(DPF22の排気下流側で、低い排気圧が発生する範囲)の排気通路23の内部と、低吸気負圧発生範囲(スロットルバルブ24の吸気上流側で、低い吸気負圧が発生する範囲)の吸気通路3の内部とを接続して、少量のEGRガスをエンジン2に戻す排気ガス再循環装置であり、排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路3の吸気上流側に戻す低圧EGR流路4を備えている。
具体的な一例として、図5の低圧EGR流路4は、排気通路23側がDPF22より排気下流側の排気管に接続され、吸気通路3側がターボチャージャのコンプレッサ32より吸気上流側の吸気管に接続されている。
【0019】
低圧EGR装置1には、低圧EGR流路4の途中に、低圧EGR流路4の開度を調整することでEGRガスの流量調整を行なう低圧EGR調整弁5と、吸気側に戻されるEGRガスの冷却を行なう低圧EGRクーラ33とが設けられている。
また、低圧EGR装置1は、吸気通路3と低圧EGR流路4の合流部に吸気負圧を発生させるための吸気絞り弁8を設けている。
【0020】
この吸気絞り弁8は、吸気通路3を最大に絞った状態であっても、吸気通路3の一部を開放するように設けられるものである。具体的には、吸気絞り弁8が吸気通路3を最大に絞った状態であっても、吸気通路3の例えば10%ほどを開放するように設けられるものである(図2の実線Yの最小流量参照)。
【0021】
高圧EGR装置21および低圧EGR装置1は、ECU7(エンジン・コントロール・ユニットの略)により制御される。
このECU7は、マイコンを用いたエンジン制御装置であり、エンジン運転状態に応じて高圧EGR装置21および低圧EGR装置1の運転制御を行なうEGR制御プログラムを備える。具体的には、センサ類から入力されたエンジン運転状態と、ECU7に設けられた制御プログラムとに基づいて、高圧EGR装置21および低圧EGR装置1の各部の作動制御を行うものである。
【0022】
低圧EGR装置1は、低排気圧範囲のEGRガスを、低吸気負圧発生範囲に戻すものであるため、少量のEGRガスをコントロールしてエンジン2に戻すことができる。しかるに、低圧EGR装置1を用いて多量のEGRガスをエンジン2へ戻したい運転領域が存在しても、低吸気負圧発生範囲にEGRガスを戻す構造の低圧EGR装置1では多量のEGRガスをエンジン2へ戻すことが困難である。
そこで、低圧EGR装置1は、EGRガスを戻す吸気通路3内に積極的に吸気負圧を発生させるための吸気絞り弁8を設け、低圧EGR装置1において大きなEGR量を得たい運転領域では、吸気絞り弁8を閉じる方向(吸気負圧が発生する方向)に開度制御し、低圧EGR装置1において多量のEGRガスをコントロールする。
【0023】
しかし、(i)低圧EGR装置1を用いて少量のEGRガスをエンジン2へ戻す「低濃度制御状態」の時は、吸気絞り弁8が負圧を発生させないように最大開度(全開開度)で固定されて、低圧EGR調整弁5のみを開度制御する必要があり、
(ii)低圧EGR装置1を用いて多量のEGRガスをエンジン2へ戻す「高濃度制御状態」の時は、低圧EGR調整弁5の開度を増加するとともに、負圧を増加させるべく吸気絞り弁8の開度を小さくする必要がある。
【0024】
このように、「低濃度制御状態」では吸気絞り弁8が全開に固定されて低圧EGR調整弁5のみが開度制御され、「高濃度制御状態」では低圧EGR調整弁5の開度に対応して吸気絞り弁8が開度制御される必要がある。
このため、低圧EGR調整弁5を駆動するための専用のアクチュエータと、吸気絞り弁8を駆動するための専用のアクチュエータとが要求されるが、それぞれに専用のアクチュエータを搭載すると、コストアップ、体格アップ、重量アップの要因になってしまう。
【0025】
そこで、低圧EGR装置1は、図1に示すように、低圧EGR調整弁5を駆動する1つの電動アクチュエータ6と、この電動アクチュエータ6の出力特性を変化させて吸気絞り弁8を駆動するリンク装置9とを備え、リンク装置9を介して伝達された電動アクチュエータ6の出力によって吸気絞り弁8を駆動するように設けられている。
【0026】
リンク装置9には、電動アクチュエータ6の出力特性を変化させて吸気絞り弁8へ伝達する特性変換部が設けられており、低圧EGR調整弁5が所定開度より大きくなってから低圧EGR調整弁5の開度アップに連動させて吸気絞り弁8の開度を小さくするように設けられている(図2参照)。
なお、図2の実線Xは低圧EGR調整弁5の回転角度に対するEGR流量の変化を示し、図2の実線Yは低圧EGR調整弁5の回転角度に対する吸気絞り弁8による吸気流量の変化を示すものである。
【0027】
(低圧EGRバルブユニット40の説明)
低圧EGR調整弁5と吸気絞り弁8は、上述したように、リンク装置9を介して連結し、共通の電動アクチュエータ6によって駆動されるものである。
そこで、低圧EGR調整弁5と吸気絞り弁8は、図1に示すように、1つの低圧EGRバルブユニット40として設けられる。
【0028】
この低圧EGRバルブユニット40は、低圧EGR流路4と吸気通路3の合流部を備えるバルブハウジング41に、上述した低圧EGR調整弁5、吸気絞り弁8、電動アクチュエータ6およびリンク装置9等を搭載するものである。
以下において、低圧EGRバルブユニット40に搭載される低圧EGR調整弁5、吸気絞り弁8、電動アクチュエータ6およびリンク装置9の概略を順次説明する。
【0029】
低圧EGR調整弁5は、低圧EGR流路4内に配置されるバタフライバルブであり、バルブハウジング41に対して回動自在に支持される低圧EGRシャフト42と一体に回動する。
吸気絞り弁8は、吸気通路3内に配置されるバタフライバルブであり、バルブハウジング41に対して回動自在に支持される吸気絞シャフト43と一体に回動する。
そして、低圧EGRシャフト42と吸気絞シャフト43は、平行に配置されるものである。
【0030】
電動アクチュエータ6は、通電により回転出力を発生する電動モータ44(例えば、DCモータ)と、この電動モータ44の回転出力を減速して出力トルクを増大させる減速機構45(例えば歯車減速装置)とを組み合わせたものである。そして、減速機構45の出力により、低圧EGR調整弁5を駆動するとともに、リンク装置9を介して吸気絞り弁8を駆動するものである。
【0031】
リンク装置9は、電動アクチュエータ6の出力特性(回動特性)を変換して吸気絞り弁8を駆動するものであり、低圧EGR調整弁5と一体に回転するメス側部材(カムプレート)46と、吸気絞り弁8と一体に回転するオス側部材(従動アーム)47とを備える。
【0032】
メス側部材46は、板形状を呈し、耐摩耗性に優れた材料により成形されたカムプレートであり、低圧EGRシャフト42に対して直角に固定配置されている。
オス側部材47も、板形状を呈し、耐摩耗性に優れた材料により成形された従動アームであり、オス側部材47の回動端側がメス側部材46に対して所定の隙間を隔てて重なるように、吸気絞シャフト43に対して直角に固定配置されている。
【0033】
リンク装置9において電動アクチュエータ6の出力特性を変換する特性変換部は、メス側部材46の回転中心から離れた位置に設けられたカム溝11と、オス側部材47の回転中心から離れた位置に設けられてカム溝11に嵌まり合う溝係合体12とによって構成される。
溝係合体12は、カム溝11内に嵌まり合う円筒状のローラ12a(回転差吸収体)と、オス側部材47の回動端側に固定されてローラ12aを回転自在に支持するピン12b(軸部)とからなる。なお、ローラ12aを支持するピン12bは、オス側部材47と一体に形成されるものであっても良いし、別体に形成された後にオス側部材47に固定されるものであっても良い。
【0034】
カム溝11のカムプロフィールは、「全開キープ用カム溝11a」と「開度可変用カム溝11b」を繋ぎ合わせて設けられている。
「全開キープ用カム溝11a」は、「メス側部材46の回転中心と同一中心の円弧溝」であり、低圧EGR調整弁5が低圧EGR流路4を最大に絞る全閉開度θ0(図2のEGRバルブ開度=0°)から所定中間開度θ1に至る回動範囲(開度θ0〜開度θ1)において、吸気絞り弁8の開度を最大開度に保つように設けられている。
【0035】
「開度可変用カム溝11b」は、上述した「全開キープ用カム溝11a」の一方の端部に連続するように連なって形成されており、「メス側部材46の回転中心と同一中心の円弧溝」に対して「所定の角度で変化する角度形状」を呈し、低圧EGR調整弁5が所定中間開度(θ1)から最大開度(θ2:図2のEGRバルブ開度=90°)に至る回動範囲(開度θ1〜開度θ2)においてオス側部材47を回動させて、吸気絞り弁8の開度を最大開度から吸気通路3を閉じる方向に回動させるように設けられている。
【0036】
低圧EGRバルブユニット40には、低圧EGR調整弁5を閉弁方向に付勢する低圧EGR弁用リターンスプリングが設けられており、電動アクチュエータが通電停止された状態において低圧EGR調整弁5が低圧EGR流路4を閉じるように設けられている。
また、低圧EGRバルブユニット40には、低圧EGR調整弁5の最小開度を全閉位置に規制するEGR弁ストッパ48が設けられている。このEGR弁ストッパ48は、メス側部材46の最小角度を0°に規制するものであり、メス側部材46に設けられた突起部48aが、バルブハウジング41に設けられた凸部48bに当接することで、低圧EGR調整弁5の最小開度を全閉位置に規制するものである。
【0037】
(実施例1の背景技術)
この実施例のように、リンク装置9を介して電動アクチュエータ6の出力を吸気絞り弁8に伝達する構造を採用する場合、リンク装置9に万が一、何らかの不具合(例えば、固定ナット等の緩みによってメス側部材46やオス側部材47が外れる不具合や、カム溝11と溝係合体12の係合が外れる不具合、カム溝11と溝係合体12が引っ掛かり等で係合固着する不具合など)が発生して吸気絞り弁8が故障した場合(吸気絞り弁8が制御不能になる場合)を想定して、吸気絞り弁8の故障を判定させる必要がある。
【0038】
そこで、吸気絞り弁8の故障を判定する目的で、低圧EGR調整弁5とは別に、吸気絞り弁8の開度を検出する独立した開度センサを設けることが考えられる。
しかしながら、吸気絞り弁8が故障する可能性は大変低いものである。このため、吸気絞り弁8に専用の開度センサを設けることは、コストアップが生じるとともに、対費用効果が大変小さくなってしまう。
【0039】
(実施例1の特徴技術)
そこで、この実施例1の低圧EGR装置1は、次の技術的手段を採用している。
低圧EGR装置1は、上述したように、
・エンジン2に吸気を導く吸気通路3へEGRガスを導く低圧EGR流路4の開度調整を行なう低圧EGR調整弁5と、
・この低圧EGR調整弁5を駆動する1つの電動アクチュエータ6と、
・電動アクチュエータ6を通電制御して低圧EGR調整弁5の開度を制御するECU7と、
・吸気通路3と低圧EGR流路4の合流部に吸気負圧を発生させる吸気絞り弁8と、
・電動アクチュエータ6の出力特性を変化させて吸気絞り弁8を駆動するリンク装置9と、
を備える。
【0040】
上記に加え、低圧EGR装置1は、
・低圧EGR調整弁5の開度を検出する低圧EGR開度センサと、
・リンク装置9に設けられ、低圧EGR調整弁5の全開側の限界開度θ3を、EGR量調整開度範囲θ0〜θ2(0°〜90°の範囲)の外部において規制するメカストッパ10と、
・ECU7に設けられ、リンク装置9の故障等に伴う吸気絞り弁8の制御不能を判定する故障検出手段(制御プログラム)と、
を備える。
【0041】
低圧EGR開度センサは、低圧EGRシャフト42の一方の軸端に配置され、低圧EGRシャフト42の角度から低圧EGR調整弁5の開度を検出するものである。
具体的な一例として、低圧EGR開度センサは、相対回転する一方(例えば、低圧EGRシャフト42と一体に回動する回動部材側)に永久磁石を設け、相対回転する他方(例えば、バルブハウジング41に装着されるカバー等の固定部材側)にホールIC等の磁気センサを設けて、磁気センサに与えられる磁束変化により低圧EGRシャフト42の回転角度を非接触で検出するものであり、検出結果(ホールICの出力)はECU7に出力される。
【0042】
メカストッパ10は、図3(d)に示すように、カム溝11の端部(開度可変用カム溝11bにおいて全開キープ用カム溝11aとは異なる側の端部)に設けられた略円弧形状のローラ係合部材10aにローラ12aが押し付けられることで、リンク装置9の回動を阻止するものである。
具体的に、メカストッパ10による低圧EGR調整弁5の全開側の限界開度θ3は、図2の破線θ3に示すように、低圧EGR調整弁5のEGR量調整開度範囲θ0〜θ2における最大開度θ2(90°)より大きい回転角度(+α°:例えば、5°〜10°)でローラ12aと係合するように設定されるものである。
【0043】
故障検出手段は、ECU7における制御プログラムの一部であり、
(i)エンジン2の停止後にメカストッパ10によってリンク装置9の回動が阻止される範囲まで低圧EGR調整弁5を全開に回動させて、低圧EGR開度センサの検出開度がリンク装置9の限界開度θ3と異なる場合に、吸気絞り弁8の故障判定を行なうリンク故障判定プログラムと、
(ii)エンジン運転中にエンジン2への吸気状態(実吸気流量、過給圧、吸気温度、実EGR流量、低圧EGR調整弁5の開度など)を検出し、検出結果から「吸気不良の発生が検出された場合」や「吸気不良が予測された場合」に、吸気絞り弁8の故障判定を行なう吸気不良判定プログラムと、
を備える。
【0044】
リンク故障判定プログラムと吸気不良判定プログラムの制御例を、図4を参照して説明する。
この制御ルーチンに侵入すると(スタート)、先ずエンジン2が運転中(図中、走行中)であるか否かの判断を行なう(ステップS1)。
このステップS1の判断結果がNOの場合(エンジン2の運転が停止された場合)は、メカストッパ10によってリンク装置9の動きが規制される範囲まで、低圧EGR調整弁5を全開側に回動させ、低圧EGR開度センサの検出開度が、低圧EGR調整弁5の開度がメカストッパ10により規制された限界開度θ3(90°+α)であるか否かの判断を行なう(ステップS2)。
【0045】
このステップS2の判断結果がYESの場合(低圧EGR開度センサの検出開度が限界開度θ3の場合)は、異常が無いと判定し(ステップS3)、その後この制御ルーチンを終了する。
また、ステップS2の判断結果がNOの場合(低圧EGR開度センサの検出開度が限界開度θ3とは異なる場合)は、リンク装置9のリンク故障等が発生して吸気絞り弁8に異常が生じたと判定し、警告灯を点灯させるなどの異常発生の表示を行い(ステップS4)、その後この制御ルーチンを終了する。
【0046】
一方、ステップS1の判断結果がYESの場合(エンジン2が運転中の場合)は、エアフロメータ34(吸気通路3の途中に配置されて吸気流量を検出する吸気センサ)の検出した実吸気流量が、エンジン運転状態に対応した目標吸気流量に略一致するか否かの判断を行なう(ステップS5)。
【0047】
このステップS5の判断結果がYESの場合(実吸気流量と目標吸気流量とが略一致する場合)は、異常が無いと判定し(ステップS6)、その後この制御ルーチンを終了する。
また、ステップS5の判断結果がNOの場合(実吸気流量が目標吸気流量に対して一致しない場合)は、吸気絞り弁8が故障している可能性があると判定し、エンジントルク制限を行なうなどの退避走行状態にエンジン2を制御し(ステップS7)、その後この制御ルーチンを終了する。
【0048】
なお、上記制御例では、エンジン運転中に吸気絞り弁8の故障を検出する具体的な一例として、エアフロメータ34によって実吸気流量を検出し、エンジン運転状態から算出される目標吸気流量との関係に基づいて、エンジン運転中における吸気絞り弁8の故障を判定する例を示した。
これに対し、過給圧と吸気温度を検出し、検出した過給圧と吸気温度からシリンダ内の吸入空気量を求め、エアフロメータ34によって検出された実吸気流量との関係に基づいて、エンジン運転中における吸気絞り弁8の故障を判定するように設けても良い。
あるいは、エアフロメータ34によって検出された実吸気流量等から実EGR流量を算出し、算出した実EGR流量と、エンジン運転状態に応じた目標EGR流量(低圧EGR調整弁5の開度)との関係に基づいて、エンジン運転中における吸気絞り弁8の故障を判定するように設けても良い。
【0049】
(実施例1の効果1)
この実施例1の低圧EGR装置1は、メカストッパ10によってリンク装置9の動きを規制するのはエンジン停止後において故障判定を行う時だけである。このため、メカストッパ10にストレスが加わる頻度を少なく抑えることができる。
これにより、低圧EGR装置1が長期に亘って使用されても、メカストッパ10の強度低下を回避することができ、低圧EGR装置1の信頼性を高めることができる。
【0050】
具体的に、「カム溝11の端部」が「溝係合体12(ローラ12aおよびピン12b)」を押し付けてリンク装置9の動きを規制するのは、故障判定を行うエンジン停止時だけで頻度が少ないため、長期に亘って使用されても「カム溝11の端部」および「溝係合体12」の変形や破損を防ぐことができ、結果的に低圧EGR装置1の信頼性を高めることができる。
【0051】
(実施例1の効果2)
この実施例1の低圧EGR装置1は、吸気不良判定プログラムを備えているため、エンジン運転中に万が一、吸気絞り弁8が故障したとしても、エンジントルク制限を行なって退避走行を実行できる。
【0052】
[実施例2]
実施例2を図6を参照して説明する。なお、以下の実施例において、上記実施例1と同一符号は、同一機能物を示すものである。
この実施例2の低圧EGR装置1は、吸気絞り弁8を開弁方向(図6中、符号R参照)へ付勢して吸気絞り弁8を開弁状態(全開位置あるいは全開に近い開度位置)で停止させる絞り弁用リターンスプリングを備える。
【0053】
これにより、リンク装置9が故障するなど吸気絞り弁8が制御不能になった場合でも、絞り弁用リターンスプリングの作用によって吸気絞り弁8が開かれた位置で停止するため、吸気通路3が閉じられる側で固定されて吸気不良や過給圧不良が生じる不具合を回避することができる。即ち、絞り弁用リターンスプリングによってフェールセーフを達成することができる。
【0054】
[実施例3]
実施例3を図7を参照して説明する。
吸気絞り弁8を構成するバタフライ弁は、吸気絞シャフト43(バタフライ弁の回動軸に相当)より吸気下流側に配置される下流バルブ板8aの吸気接触面積が、吸気絞シャフト43より吸気上流側に配置される上流バルブ板8bの吸気接触面積より大きく設けられる。
具体的には、図7に示すように、下流バルブ板8aの流線方向の長さが、上流バルブ板8bの流線方向の長さよりも長く設けられている。
【0055】
これにより、リンク装置9が故障するなど吸気絞り弁8が制御不能になった場合でも、吸気通路3の吸気流によって、吸気絞り弁8が吸気通路3を開く側に回動するため、吸気通路3が閉じられる側で固定されて吸気不良や過給圧不良が生じる不具合を回避することができる。即ち、吸気絞り弁8としてバルブ形状がアンバランスなバタフライ弁を用いることによってフェールセーフを達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
上記実施例では、電動アクチュエータ6の出力特性を任意に変化させるリンク装置9の一例としてカム溝11を用いる例を示したが、カム溝11をカム山に代えるなど、電動アクチュエータ6の出力特性を変化させる手段として他の手段を用いても良い。
【0057】
上記実施例では、ターボチャージャを搭載するエンジン吸排気システムに本発明を適用する例を示したが、ターボチャージャに代えて他の吸気過給機(スーパチャージャ等)を搭載するエンジン吸排気システムに本発明を適用しても良いし、吸気過給機を搭載しないエンジン吸排気システムに本発明を適用しても良い。
【0058】
上記の実施例では、ディーゼルエンジンの吸排気システムに本発明を適用する例を示したが、ディーゼルエンジンとは異なる他のエンジン(ガソリンエンジン等)の吸排気システムに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 低圧EGR装置
2 エンジン
3 吸気通路
4 低圧EGR流路
5 低圧EGR調整弁
6 電動アクチュエータ
7 ECU(制御装置)
8 吸気絞り弁
8a 下流バルブ板
8b 上流バルブ板
9 リンク装置
10 メカストッパ
11 カム溝
12 溝係合体
43 吸気絞シャフト(回動軸)
46 メス側部材
47 オス側部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(2)に吸気を導く吸気通路(3)へEGRガスを導く低圧EGR流路(4)の開度調整を行なう低圧EGR調整弁(5)と、
この低圧EGR調整弁(5)を駆動する1つの電動アクチュエータ(6)と、
前記低圧EGR調整弁(5)の開度を検出する低圧EGR開度センサと、
前記電動アクチュエータ(6)を通電制御して前記低圧EGR調整弁(5)の開度を制御する制御装置(7)と、
前記吸気通路(3)と前記低圧EGR流路(4)の合流部に吸気負圧を発生させる吸気絞り弁(8)と、
前記電動アクチュエータ(6)の出力特性を変化させて前記吸気絞り弁(8)を駆動するリンク装置(9)と、
このリンク装置(9)に設けられ、EGR量調整開度範囲(θ0〜θ2)の外部で、且つ前記低圧EGR調整弁(5)の全開側の限界開度(θ3)において前記低圧EGR調整弁(5)の回動範囲を規制するメカストッパ(10)と、
前記制御装置(7)に設けられ、前記エンジン(2)の停止後、前記メカストッパ(10)によって前記リンク装置(9)の回動が阻止される範囲まで前記低圧EGR調整弁(5)を全開に回動させて、前記低圧EGR開度センサの検出開度が前記リンク装置(9)の限界開度(θ3)と異なる場合に故障判定を行なう故障検出手段と、
を具備する低圧EGR装置。
【請求項2】
請求項1に記載の低圧EGR装置(1)において、
前記故障検出手段は、前記エンジン運転中に前記エンジン(2)への吸気状態を検出し、検出した吸気状態に基づいて故障判定を行うことを特徴とする低圧EGR装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の低圧EGR装置(1)において、
この低圧EGR装置(1)は、前記吸気絞り弁(8)を開弁方向へ付勢する絞り弁用リターンスプリングを備えることを特徴とする低圧EGR装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の低圧EGR装置(1)において、
前記吸気絞り弁(8)は、回動軸により支持されるバタフライバルブであり、
このバタフライバルブにおいて前記回動軸の吸気下流側に配置される部位を下流バルブ板(8a)、前記バタフライバルブにおいて前記回動軸の吸気上流側に配置される部位を上流バルブ板(8b)とした場合、
前記下流バルブ板(8a)の吸気接触面積が、前記上流バルブ板(8b)の吸気接触面積より大きいことを特徴とする低圧EGR装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の低圧EGR装置(1)において、
前記リンク装置(9)は、カム溝(11)を有するメス側部材(46)と、前記カム溝(11)に係合する溝係合体(12)を有するオス側部材(47)とを備え、
前記メカストッパ(10)は、前記カム溝(11)の端部と前記溝係合体(12)とによって設けられることを特徴とする低圧EGR装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−96286(P2013−96286A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238989(P2011−238989)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】