説明

低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法および該方法より得られる低誘電率非晶質シリカ系被膜

【課題】 比誘電率が3.0以下と小さく、しかもヤング弾性率が3.0 GPa以上の被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に安定的に形成する方法に関する。
【解決手段】 (a)テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布する工程、(b)必要に応じて、前記基板を装置内に収納し、該基板上に形成された被膜を25〜340℃の温度条件下で乾燥する工程、(c)前記装置内に過熱水蒸気を導入し、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱して加熱処理する工程、および(d)必要に応じて、前記装置内に窒素ガスを導入して、前記被膜を350〜450℃の温度条件下で焼成する工程を含む各工程で少なくとも処理することを特徴とする低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比誘電率(Dielectric Constant)が3.0以下と小さく、しかも高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に形成する方法および該方法より得られる低誘電率非晶質シリカ系被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における半導体装置の高集積化に伴い、多層配線を有する0.25ミクロンルール以下の半導体装置においては、金属配線間隔が狭くなるため、静電誘導による金属配線のインピーダンスが増大し、応答速度の遅れや消費電力の増大などが懸念されている。このため、半導体基板とアルミニウム配線層などの金属配線層との間、あるいは金属配線層間に設けられる層間絶縁膜の比誘電率をできるだけ小さくすることが必要とされている。
【0003】
上記のような目的で設けられる層間絶縁膜は、一般にCVD法(Chemical Vapor Deposition Method)などの気相成長法やスピンコート法などの塗布法を用いて半導体基板上に形成されている。
しかしながら、CVD法の最新技術を用いて得られるシリカ系被膜では、比誘電率が3.0以下のものが得られるものの、従来の塗布法の場合と同様、比誘電率の低下に伴って被膜の膜強度も低下するという欠点がある。また、ポリアリール樹脂、フッ素添加ポリイミド樹脂やフッ素樹脂などのCVD被膜、あるいはこれらの塗布液を用いて形成される被膜では、比誘電率が2前後となるが、基板表面との密着性が悪く、また微細加工に用いるレジスト材料との密着性も悪く、さらには耐薬品性や耐酸素プラズマ性に劣るなどの問題がある。
【0004】
また、従来から広く用いられているアルコキシシランおよび/またはハロゲン化シランの加水分解物などを含むシリカ系被膜形成用塗布液を用いて得られる被膜では、比誘電率が3.0以下のものが得られるものの、被塗布面との密着性、被膜強度、耐薬品性、耐クラック性、耐酸素プラズマ性その他が悪いなどの問題がある。
【0005】
本願発明者らは、これらの問題を解決することを目的として鋭意研究を行ったところ、(a)テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および特定のアルコキシシラン(AS)をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含む液状組成物を用いれば、高い被膜強度を有し、しかも被塗布面との密着性、被膜表面の平坦性、耐吸湿性(疎水性)、耐薬品性、耐クラック性、耐酸素プラズマ性、エッチング加工性などに優れた低誘電率非晶質シリカ系被膜が形成できることを見いだし、これを出願している。(特許文献1および特許文献2に記載。)さらに、この液状組成物を基板上に塗布し、80〜350℃の温度で加熱処理した後、350〜450℃の温度で焼成すれば、多くのミクロポアを有する低誘電率非晶質シリカ系被膜が形成できることを見いだし、これを出願している。(特許文献3に記載。)
【0006】
さらに、本願発明者らは、(a)ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および特定のアルコキシシラン(AS)をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含む液状組成物、または(a)ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、特定のアルコキシシラン(AS)およびテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含む液状組成物を用いれば、2.5以下の比誘電率を有し、しかも被塗布面との密着性、被膜表面の平坦性、耐吸湿性(疎水性)、耐薬品性、耐クラック性、耐酸素プラズマ性、エッチング加工性などに優れた低誘電率非晶質シリカ系被膜が形成できることを見いだし、これを出願している。(特許文献4に記載。)
さらに、この特許文献4には、前記液状組成物を基板上に塗布し、80〜350℃の温度で加熱処理した後、350〜450℃の温度で焼成して低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成する方法が開示されている。
【0007】
一方、特許文献5には、モノオルガノトリハロシラン化合物とジオルガノジハロシラン化合物との反応物であるハロゲン含有ポリシランに、ROH化合物を反応させて得られたポリシランを含む塗布液を基材上に塗布した後、50〜250℃の温度で乾燥し、次いで水蒸気または酸素の存在下で300〜500℃の温度で焼成してシリカ系被膜を形成する方法が開示されている。しかし、この方法から得られるシリカ系被膜は、3.0以下の比誘電率を示すものの、被膜強度やその他の物理性状において満足できる結果が得られないという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献6には、アルコキシシラン類の部分的な加水分解縮合物と界面活性剤とを含んでなる溶液から得られた多孔質シリカ前駆体を、H2O含有雰囲気下で260〜450℃の温度にて焼成して、該前駆体中に含まれる有機化合物を除去することによって多孔質シリカを製造する方法が開示されている。しかし、この方法から得られる多孔質シリカフィルムは、メソポアの細孔を有しているため、低い比誘電率を示すが、その反面、フィルム強度(弾性率)も低くなってしまうという欠点がある。
【0009】
【特許文献1】特開2004−149714号公報
【特許文献2】特開2006−117763号公報
【特許文献3】特開2004−153147号公報
【特許文献4】特願2005−371017号出願明細書
【特許文献5】特開平11−256106号公報
【特許文献6】特開2005−116830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の特許文献1、特許文献2、特許文献4などに記載された液状組成物を用いて、基板上に配設された銅配線やアルミニウム配線等にダメージを与えることなく、高い被膜強度を有し、しかも3.0以下、特に2.5以下の比誘電率を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に安定的に形成する方法はないものかどうかを鋭意研究した結果、前記液状組成物を塗布した基板を必要に応じ特定の温度条件下で乾燥処理し、さらに過熱水蒸気の雰囲気下で加熱処理した後、必要に応じ窒素ガスの雰囲気下で焼成処理すればよいことを見いだし、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、比誘電率が3.0以下、好ましくは2.5以下と小さく、さらに被膜強度を表わすヤング弾性率が3.0 GPa(ギガパスカル)以上、好ましくは5.0 GPa以上である特性を備えた低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に安定的に形成する方法および該方法より得られる低誘電率非晶質シリカ系被膜を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による第一の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法(以下、第一の被膜形成方法という場合がある。)は、
比誘電率が3.0以下で、高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に形成する方法であって、
(1)テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布する工程(塗布工程)、
(2)前記基板を装置内に収納し、該基板上に形成された被膜を25〜340℃の温度条件下で乾燥する工程(乾燥工程)、
(3)前記装置内に過熱水蒸気を導入して、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)、および
(4)前記装置内に窒素ガスを導入して、前記被膜を350〜450℃の温度条件下で焼成する工程(焼成工程)、
を含む各工程で少なくとも処理することを特徴としている。
【0012】
さらに、本発明による第二の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法(以下、第二の被膜形成方法という場合がある。)は、
比誘電率が3.0以下で、高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に形成する方法であって、
(1)テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布する工程(塗布工程)、
(2)前記基板を装置内に収納し、該基板上に形成された被膜を25〜340℃の温度条件下で乾燥する工程(乾燥工程)、および
(3)前記装置内に過熱水蒸気を導入し、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)、
を含む各工程で少なくとも処理することを特徴としている。
【0013】
さらに、本発明による第三の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法(以下、第三の被膜形成方法という場合がある。)は、
比誘電率が3.0以下で、高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に形成する方法であって、
(1)テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布する工程(塗布工程)、および
(2)前記装置内に過熱水蒸気を導入し、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)、
を含む各工程で少なくとも処理することを特徴としている。
【0014】
前記塗布工程で使用される液状組成物は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物であることが好ましい。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
【0015】
前記塗布工程で使用される液状組成物は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、下記一般式(II)で示されるビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物であることが好ましい。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
OR7 OR2
| |
OR6−Si−R1−Si−OR3 (II)
| |
OR5 OR4
(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
【0016】
前記塗布工程で使用される液状組成物は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、下記一般式(II)で示されるビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)およびテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物であることが好ましい。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
OR7 OR2
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OR6−Si−R1−Si−OR3 (II)
| |
OR5 OR4
(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
【0017】
前記塗布工程における塗布操作は、スピンコート法にて行うことが好ましい。
また、第一および第二の被膜形成方法で前記乾燥工程における乾燥操作は、前記装置内に窒素ガスまたは空気を導入しながら、25〜340℃の温度条件下で0.5〜10分間行うことが好ましい。さらに願わくば、前記乾燥操作の温度条件は、100〜250℃の範囲にあることが好ましい。
さらに、第一、第二および第三の被膜形成方法で前記加熱処理工程における加熱処理操作は、前記装置内に過熱水蒸気を導入しながら、105〜450℃の温度条件下で1〜70分間行うことが好ましい。さらに願わくば、前記加熱処理操作の温度条件は、250〜350℃の範囲にあることが好ましい。
また、第三の被膜形成方法で前記加熱処理工程における加熱処理操作は、前記装置内に過熱水蒸気を導入しながら、105〜130℃の温度条件下で1〜20分間行い、さらに130〜450℃の温度条件下で1〜70分間行うことが好ましい。
さらに、第一の被膜形成方法で前記焼成工程における焼成操作は、前記装置内に窒素ガスを導入しながらまたは該装置内を窒素ガス雰囲気に保ちながら、350〜450℃の温度条件下で5〜90分間行うことが好ましい。
【0018】
前記加熱処理工程または前記焼成工程までの操作は、前記加熱処理工程または前記焼成工程から得られる被膜の体積が、前記塗布工程で形成される被膜の体積に較べて、5〜40%収縮するような条件下で行うことが好ましい。
一方、本発明による低誘電率非晶質シリカ系被膜は、上記の方法から得られる被膜で、3.0以下の比誘電率と、ヤング弾性率が3.0 GPa以上の被膜強度を有することを特徴としている。
また、前記被膜の好ましき用途としては、半導体基板上に形成される層間絶縁膜などがある。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る第一の被膜形成方法、すなわち前記液状組成物を塗布して被膜を形成した基板を、特定の温度条件下で乾燥処理し、さらに過熱水蒸気の雰囲気下で加熱処理した後に、窒素ガスの雰囲気下で焼成処理を行う新規な方法を用いれば、使用される前記液状組成物によっても異なるが、比誘電率が3.0以下、好ましくは2.5と小さく、しかもヤング弾性率(Young's Modulus)が3.0 GPa以上、好ましくは5.0GPa以上である高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に安定的かつ容易に形成することができる。さらに、液状組成物として「テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および特定のアルコキシシラン(AS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物」を使用した場合には、ヤング弾性率が8.0 GPa以上である高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に安定的かつ容易に形成することができる。
【0020】
これは、前記乾燥工程で前記の塗布被膜中に含まれる有機溶媒や水分が蒸発して被膜の収縮(膜厚の低減)と表面硬化が始まり、次に前記加熱処理工程で前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドを分解・脱離させることによって被膜の収縮(膜厚の低減)がさらに進んで被膜内部にミクロポアが形成されると共に固形成分であるシリカ系被膜形成成分が重合して−O−Si−O−Si−結合のネットワーク(三次元架橋構造)が形成されて高い被膜強度と低い比誘電率を有するシリカ系被膜が得られることによるものと思われる。また、これらの工程に加えて前記焼成工程に処すると、前記ネットワークの構築がさらに進んで、より高い被膜強度のシリカ系被膜が得られることが考えられる。このような特性を備えたシリカ系被膜が形成されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、前記乾燥工程の操作を特定の温度条件下で行い、さらに前記加熱処理工程の操作を過熱水蒸気の雰囲気下で行うことによって達成されるものである。また、前記の加熱処理工程においては、過熱水蒸気がもつ輻射熱による作用効果が大であると考えられる。
【0021】
また、本発明に係る第二の被膜形成方法、すなわち上記した第一の被膜形成方法から前記焼成工程を省いた方法や、本発明に係る第三の被膜形成方法、すなわち上記した第一の被膜形成方法から前記乾燥工程および前記焼成工程を省いた方法を採用しても、従来公知の方法、すなわち前記液状組成物を塗布して被膜を形成した基板を、80〜350℃の温度条件下で乾燥処理し、さらに350〜450℃の温度条件下で焼成処理を行う方法に比べると、使用される前記液状組成物によっても異なるが、比誘電率が3.0以下と小さく、しかもヤング弾性率(Young's Modulus)が3.0 GPa以上である高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に容易に形成することができる。
【0022】
さらに、本発明方法より得られる低誘電率非晶質シリカ系被膜は、上記の性状のほかに、半導体基板などの被膜形成面との密着性、被膜表面の平坦性、耐吸湿性(疎水性)、耐アルカリ性などの耐薬品性や耐クラック性に優れ、さらには耐酸素プラズマ性やエッチング加工性などのプロセス適合性においても優れた特性を備えている。
これにより、昨今の半導体業界で所望されている前記の低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成した半導体基板等を歩留まりよく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法および該方法より得られる低誘電率非晶質シリカ系被膜について具体的に説明する。
【0024】
[低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法]
(a) 液状組成物の調製
本発明方法で使用される前記液状組成物としては、上記の特許文献1、特許文献2または特許文献4に記載された低誘電率非晶質シリカ系被膜形成用塗布液などがあり、さらに具体的に述べれば、以下のとおりである。ただし、本発明は、これらの特許文献に記載された液状組成物に限定されるものではない。
【0025】
塗布液A
本発明方法で使用される液状組成物としては、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物(塗布液A)がある。
また、この液状組成物としては、下記の(1)および(2)に示すようなものがある。
【0026】
(1)テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含む液状組成物(塗布液A-1)。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
【0027】
(2)テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解または部分加水分解した後、下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)またはその加水分解物もしくは部分加水分解物と混合し、さらに必要に応じてこれらの一部または全部を加水分解して得られるケイ素化合物を含む液状組成物(塗布液A-2)。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
【0028】
前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)としては、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトラプロピルオルソシリケート、テトライソプロピルオルソシリケート、テトラブチルオルソシリケートなどが挙げられる。この中でも、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)、テトラメチルオルソシリケート(TMOS)またはその混合物を使用することが好ましい。
【0029】
また、前記アルコキシシラン(AS)としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジフルオロジメトキシシラン、ジフルオロジエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシランなどが挙げられる。この中でも、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)またはその混合物を使用することが好ましい。
【0030】
さらに、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)としては、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラn-オクチルアンモニウムハイドロオキサイド、n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、n-オクタデシルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。この中でも、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド(TPAOH)、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド(TBAOH)またはその混合物を使用することが好ましい。
【0031】
前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、市販のテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(不純物を含むもの)を陽イオン交換樹脂処理工程および陰イオン交換樹脂処理工程に供することにより、その中に含まれるナトリウム(Na)、カリウム(K)などのアルカリ金属元素の化合物および臭素(Br)、塩素(Cl)などのハロゲン族元素の化合物からなる不純物を実質的に除去しておく必要がある。すなわち、この中に含まれるナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属元素の化合物からなる不純物の含有量をそれぞれ元素基準で50重量ppb以下とし、また臭素(Br)や塩素(Cl)などのハロゲン元素の化合物からなる不純物の含有量をそれぞれ元素基準で1重量ppm以下とすることが望ましい。
【0032】
前記塗布液A-1の液状組成物において、前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)と前記アルコキシシランのモル比(TAOS/AS)は、SiO2換算基準で6/4〜2/8、好ましくは5/5〜3/7の範囲にあることが望ましい。
さらに、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)とシリカ系被膜形成成分(TAOS+AS)のモル比(TAAOH/(TAOS+AS))は、SiO2換算基準で1/10〜7/10、好ましくは1/10〜6/10の範囲にあることが望ましい。
【0033】
また、前記塗布液A-2の液状組成物において、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、塗布液A-1の場合と同様に、各シリカ系被膜形成成分、すなわちテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)およびアルコキシシラン(AS)に対するモル比(TAAOH/TAOSおよびTAAOH/AS))が、それぞれSiO2換算基準で1/10〜7/10、好ましくは1/10〜6/10の範囲となるように添加することが望ましい。従って、これらを混合した後のテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)とシリカ系被膜形成成分(TAOS+AS)のモル比(TAAOH/(TAOS+AS))は、塗布液A-1の場合と同様に、SiO2換算基準で1/10〜7/10、好ましくは1/10〜6/10の範囲となる。
さらに、これらの成分を混合する場合、塗布液A-1の場合と同様に、前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)と前記アルコキシシラン(AS)のモル比(TAOS/AS)が、SiO2換算基準で6/4〜2/8、好ましくは5/5〜3/7の範囲となるように混合することが望ましい。
【0034】
前記液状組成物(塗布液A-1および塗布液A-2)の調製方法としては、特許文献1または特許文献2に記載された方法を採用することができる。よって、ここでは、前記塗布液A-1の調製方法に係わる代表的な一例を、以下に示す。
(i)テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および上記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)を有機溶媒と混合した後、10〜30℃の温度でこれらの成分が十分に混合するまで100〜200rpmの速度で攪拌する。
(ii)次に、攪拌下にある該混合溶液中にテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の水溶液を5〜20分かけて滴下した後、さらに10〜30℃の温度で30〜90分間、100〜200rpmの速度で攪拌する。
(iii)次いで、30〜80℃の温度に加熱した後、この温度に保ちながら1〜72時間、100〜200rpmの速度で撹拌することにより、前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および前記アルコキシシラン(AS)の加水分解物であるケイ素化合物を含む液状組成物を調製する。
【0035】
ここで、前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)、前記アルコキシシラン(AS)および前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、それぞれ上記のモル比となるように混合または添加して使用される。
さらに、前記有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類などが挙げられ、より具体的には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル類、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタンなどの炭化水素類やトルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類が挙げられる。この中でも、エタノールなどのアルコール類を使用することが好ましい。
また、この有機溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、前記のシリカ系被膜形成成分(TAOS +AS)に対する重量混合比(有機溶媒/(TAOS+AS))が1/1〜3/1、好ましくは1/1〜2.5/1の範囲にあることが望ましい。
【0036】
前記の混合有機溶媒中に滴下されるテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の水溶液は、蒸留水または超純水中にテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)を5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%の割合で含んでいることが望ましい。しかし、この水溶液中に含まれる水は、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)およびアルコキシシラン(AS)の加水分解反応を生起させるために使用されるので、その加水分解反応に必要な量を含むものでなければならない。なお、この加水分解反応を促進させるための触媒としては、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)がその機能を有しているので、特別にその他の触媒(たとえば、アンモニア)を外部から添加する必要はない。
また、前記加水分解の反応条件としては、30〜80℃、好ましくは35〜60℃の温度で、攪拌しながら1〜72時間、好ましくは10〜48時間かけて行うことが望ましい。
【0037】
このようにして得られた液状組成物中に含まれるケイ素化合物(TAOS およびASの加水分解物)の数平均分子量は、ポリエチレンオキサイド換算で500〜1000000、好ましくは1000〜100000の範囲にあることが望ましい。この数平均分子量が上記の範囲にあれば、優れた経時安定性と良好な塗工性を示す被膜形成用塗布液(すなわち、前記液状組成物)を調製することができる。
【0038】
本発明方法においては、上記の方法で得られた前記シリカ系被膜形成成分を含む液状組成物をそのまま被膜形成用塗布液として使用してもよいが、該液状組成物中に含まれる有機溶媒成分を、ロータリーエバポレーターなどを用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)などから選ばれた有機溶媒と溶媒置換して使用することが好ましい。
このようにして得られる液状組成物中に含まれるケイ素化合物の量は、その使用用途によっても異なるが、このケイ素化合物をSiO2で表したとき、該液状組成物に対し2〜20重量%、好ましくは3〜15重量%の範囲となるように調整することが好ましい。
【0039】
また、前記液状組成物中に含まれる水の量は、特に制限されるものではないが、該液状組成物に対し60重量%以下、好ましくは0.1〜50重量%の範囲で含まれていることが好ましい。
さらに、前記有機溶媒の含有量は、前記液状組成物を構成する残余成分(バランス成分)であって、その含有量は特に制限されるものではないが、前記液状組成物に対し20〜68重量%の範囲で含まれていることが望ましい。
これにより、比誘電率が3.0以下と低く、しかも高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成するための液状組成物(塗布液A)を得ることができる。
【0040】
塗布液B
本発明方法で使用される液状組成物としては、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、下記一般式(II)で示されるビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物(塗布液B)がある。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
OR7 OR2
| |
OR6−Si−R1−Si−OR3 (II)
| |
OR5 OR4
(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
さらに具体的に述べれば、この液状組成物は、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および前記アルコキシシラン(AS)を、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下にて40〜80℃の温度で加水分解して得られるケイ素化合物を含む液状組成物である。
【0041】
前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)としては、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリプロポキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリプロポキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)プロパン、ビス(トリエトキシシリル)プロパン、ビス(トリプロポキシシリル)プロパンなどが挙げられる。この中でも、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)は、ビス(トリメトキシシリル)メタン(BTMSM)、ビス(トリエトキシシリル)メタン(BTESM)、ビス(トリメトキシシリル)エタン(BTMSE)、ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTESE)またはその混合物を使用することが好ましい。
【0042】
前記アルコキシシラン(AS)および前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、前記塗布液Aの調製用に例示したものと同じものを使用することができる。ここで、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、上記の場合と同様に、市販のテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(不純物を含むもの)を陽イオン交換樹脂処理工程および陰イオン交換樹脂処理工程に供することによって、この中に含まれるナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属元素の化合物からなる不純物の含有量をそれぞれ元素基準で50重量ppb以下とし、また臭素(Br)や塩素(Cl)などのハロゲン元素の化合物からなる不純物の含有量をそれぞれ元素基準で1重量ppm以下としたものであることが望ましい。
【0043】
前記塗布液Bの液状組成物において、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)と前記アルコキシシランのモル比(BTASA/AS)は、SiO2換算基準で7/3〜3/7、好ましくは6/4〜4/6の範囲にあることが望ましい。
さらに、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、シリカ系被膜形成成分としての前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および前記アルコキシシラン(AS)の合計量(BTASA+AS)に対するモル比(TAAOH/(BTASA+AS))が、SiO2換算基準で1/10〜6/10、好ましくは2/10〜4/10の範囲にあることが望ましい。
【0044】
前記液状組成物(塗布液B)の調製方法としては、特許文献4に記載された方法を採用することができる。よって、ここでは、前記塗布液Bの調製方法に係わる代表的な一例を、以下に示す。
(i)前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および前記アルコキシシラン(AS)を有機溶媒と混合した後、10〜30℃の温度でこれらの成分が十分に混合するまで100〜200rpmの速度で攪拌する。
(ii)次に、攪拌下にある該混合溶液中にテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の水溶液を5〜20分かけて滴下した後、さらに10〜30℃の温度で30〜90分間、100〜200rpmの速度で攪拌する。
(iii)次いで、40〜80℃の温度に加熱した後、この温度に保ちながら1〜72時間、100〜200rpmの速度で撹拌することにより、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および前記アルコキシシラン(AS)の加水分解物であるケイ素化合物を含む液状組成物を調製する。
【0045】
ここで、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、前記アルコキシシラン(AS)および前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、それぞれ上記のモル比となるように混合または添加して使用される。
さらに、前記有機溶媒は、前記塗布液Aの調製用に例示したものと同じものを使用することができる。
また、この有機溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、シリカ系被膜形成成分としての前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および前記アルコキシシラン(AS)の合計量(BTASA +AS)に対する重量混合比(有機溶媒/(BTASA+AS))が1/1〜3/1、好ましくは1/1〜2.5/1の範囲にあることが望ましい。
【0046】
前記の混合有機溶媒中に滴下されるテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の水溶液は、蒸留水または超純水中にテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)を5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%の割合で含んでいることが望ましい。しかし、この水溶液中に含まれる水は、ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)およびアルコキシシラン(AS)の加水分解反応を生起させるために使用されるので、その加水分解反応に必要な量を含むものでなければならない。
なお、この加水分解反応を促進させるための触媒としては、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)がその機能を有しているので、特別にその他の触媒(たとえば、アンモニア)を外部から添加する必要はない。
また、前記加水分解の反応条件としては、40〜80℃、好ましくは50〜80℃の温度で、攪拌しながら1〜72時間、好ましくは10〜48時間かけて行うことが望ましい。
【0047】
このようにして得られた液状組成物中に含まれるケイ素化合物(BTASA およびASの加水分解物)の数平均分子量は、ポリエチレンオキサイド換算で3,000〜70,000、好ましくは5,000〜50,000の範囲にあることが望ましい。この数平均分子量が上記の範囲にあれば、優れた経時安定性と良好な塗工性を示す被膜形成用塗布液(すなわち、前記液状組成物)を調製することができる。
【0048】
上記の方法で得られた液状組成物は、そのままの状態で被膜形成用塗布液として使用してもよいが、上記の場合と同様に、該液状組成物中に含まれる有機溶媒成分を、ロータリーエバポレーターなどを用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)などから選ばれた有機溶媒と溶媒置換して使用することが好ましい。
このようにして得られる液状組成物中に含まれるケイ素化合物の量は、その使用用途によっても異なるが、このケイ素化合物をSiO2で表したとき、該液状組成物に対し1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲となるように調整することが好ましい。
【0049】
また、前記液状組成物中に含まれる水の量は、特に制限されるものではないが、該液状組成物に対し60重量%以下、好ましくは0.1〜50重量%の範囲で含まれていることが好ましい。
さらに、前記有機溶媒の含有量は、前記液状組成物を構成する残余成分(バランス成分)であって、その含有量は特に制限されるものではないが、前記液状組成物に対し20〜99重量%の範囲で含まれていることが望ましい。なお、ここで云う有機溶媒の含有量は、前記の溶媒置換工程で使用された有機溶媒(プロピレングリコールモノプロピルエーテル等)と、溶媒置換されずに残存している有機溶媒(エタノール等)との合計量を意味する。
これにより、比誘電率が3.0以下と低く、しかも高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成するための液状組成物(塗布液B)を得ることができる。
【0050】
塗布液C
本発明方法で使用される液状組成物としては、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、下記一般式(II)で示されるビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)およびテトラアルキルオルソシリケート(TEOS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物(塗布液C)がある。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
OR7 OR2
| |
OR6−Si−R1−Si−OR3 (II)
| |
OR5 OR4
(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
さらに具体的に述べれば、この液状組成物は、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、前記アルコキシシラン(AS)および前記テトラアルキルオルソシリケート(TEOS)を、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下にて40〜80℃の温度で加水分解して得られるケイ素化合物を含む液状組成物である。
【0051】
前記のビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、アルコキシシラン(AS)、テトラアルキルオルソシリケート(TEOS)およびテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、塗布液Aまたは塗布液Bの調製用に例示したものと同じものを使用することができる。ここで、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、上記の場合と同様に、市販のテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(不純物を含むもの)を陽イオン交換樹脂処理工程および陰イオン交換樹脂処理工程に供することによって、この中に含まれるナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属元素の化合物からなる不純物の含有量をそれぞれ元素基準で50重量ppb以下とし、また臭素(Br)や塩素(Cl)などのハロゲン元素の化合物からなる不純物の含有量をそれぞれ元素基準で1重量ppm以下としたものであることが望ましい。
【0052】
前記塗布液Cの液状組成物において、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)と前記アルコキシシラン(AS)とのモル比(BTASA/AS)は、塗布液Bの場合と同様に、SiO2換算基準で7/3〜3/7、好ましくは 6/4〜4/6の範囲にあることが望ましい。
また、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および前記アルコキシシラン(AS)の合計量(BTASA+AS)と前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)とのモル比((BTASA+AS)/TAOS)は、SiO2換算基準で99/1〜50/50、好ましくは99/1〜70/30、さらに好ましくは90/10〜70/30の範囲にあることが望ましい。
さらに、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、塗布液Bの場合と同様に、シリカ系被膜形成成分としての前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、前記アルコキシシラン(AS)およびテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)の合計量(BTASA+AS+TAOS)に対するモル比(TAAOH/(BTASA+AS+TAOS))が、SiO2換算基準で1/10〜6/10、好ましくは 2/10〜4/10の範囲にあることが望ましい。
【0053】
前記液状組成物(塗布液C)の調製方法としては、特許文献4に記載された方法を採用することができる。よって、ここでは、前記塗布液Cの調製方法に係わる代表的な一例を、以下に示す。
(i)前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、前記アルコキシシラン(AS)および前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)を有機溶媒と混合した後、10〜30℃の温度でこれらの成分が十分に混合するまで100〜200rpmの速度で攪拌する。
(ii)次に、攪拌下にある該混合溶液中にテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の水溶液を5〜20分かけて滴下した後、さらに10〜30℃の温度で30〜90分間、100〜200rpmの速度で攪拌する。
(iii)次いで、40〜80℃の温度に加熱した後、この温度に保ちながら1〜72時間、100〜200rpmの速度で撹拌することにより、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、前記アルコキシシラン(AS)および前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)の加水分解物であるケイ素化合物を含む液状組成物を調製する。
【0054】
ここで、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、前記アルコキシシラン(AS)、前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、それぞれ上記のモル比となるように混合または添加して使用される。
前記の有機溶媒としては、塗布液Bの調製用に例示したものと同じものを使用することができる。ここで、前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、前記アルコキシシラン(AS)および前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)と混合するそれぞれの有機溶媒は、その種類(たとえば、アルコール類)が同じであれば異なっていてよいが、できるだけ同一なものであることが望ましい。
【0055】
また、この有機溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、塗布液Bの場合と同様に、シリカ系被膜形成成分としての前記ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、前記アルコキシシラン(AS)および前記テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)の合計量(BTASA、ASおよびTAOS)に対する重量混合比(有機溶媒/(BTASA+AS+TAOS))が1/1〜3/1、好ましくは1/1〜2.5/1の範囲にあることが望ましい。
さらに、前記の混合有機溶媒中に滴下されるテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の水溶液は、塗布液Bの場合と同様に、蒸留水または超純水中にテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)を5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%の割合で含んでいることが望ましい。
【0056】
前記加水分解の反応条件としては、塗布液Bの場合と同様に、前記加水分解の反応条件としては、40〜80℃、好ましくは50〜80℃の温度で、攪拌しながら1〜72時間、好ましくは10〜48時間かけて行うことが望ましい。
このようにして得られた液状組成物中に含まれるケイ素化合物(BTASA およびASの加水分解物)の数平均分子量は、塗布液Aの場合と同様に、ポリエチレンオキサイド換算で3,000〜70,000、好ましくは5,000〜50,000の範囲にあることが望ましい。
【0057】
上記の方法で得られた液状組成物は、そのままの状態で被膜形成用塗布液として使用してもよいが、上記の場合と同様に、該液状組成物中に含まれる有機溶媒成分を、ロータリーエバポレーターなどを用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)などから選ばれた有機溶媒と溶媒置換して使用することが好ましい。
このようにして得られる液状組成物中に含まれるケイ素化合物の量は、その使用用途によっても異なるが、このケイ素化合物をSiO2で表したとき、該液状組成物に対し1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲となるように調整することが好ましい。
【0058】
また、前記液状組成物中に含まれる水の量は、特に制限されるものではないが、該液状組成物に対し60重量%以下、好ましくは0.1〜50重量%の範囲で含まれていることが好ましい。
さらに、前記有機溶媒の含有量は、前記液状組成物を構成する残余成分(バランス成分)であって、その含有量は特に制限されるものではないが、前記液状組成物に対し20〜99重量%の範囲で含まれていることが望ましい。なお、ここで云う有機溶媒の含有量は、前記の溶媒置換工程で使用された有機溶媒(プロピレングリコールモノプロピルエーテル等)と、溶媒置換されずに残存している有機溶媒(エタノール等)との合計量を意味する。
これにより、比誘電率が3.0以下と低く、しかも高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成するための液状組成物(塗布液C)を得ることができる。
【0059】
(b)低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成
本発明による第一の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布(塗布工程)し、さらに以下の各工程で少なくとも処理することによって、該基板上に比誘電率が3.0以下で高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成するものである。
(a)前記基板を装置内に収納し、該基板上に形成された被膜を25〜340℃の温度条件下で乾燥する工程(乾燥工程)。
(b)前記装置内に過熱水蒸気を導入して、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)。
(c)前記装置内に窒素ガスを導入して、前記被膜を350〜450℃の温度条件下で焼成する工程(焼成工程)。
【0060】
これらの工程の操作条件その他について、さらに具体的に説明すれば、以下のとおりである。
塗布工程
一般に、被膜形成用塗布液を基板上に塗布するためには、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、転写法等の塗布方法が採用されているが、本発明においても、このような従来公知の方法を用いて前記液状組成物を基板上に塗布することができる。この中でも、半導体基板上などに前記液状組成物を塗布する場合には、スピンコート法が好適で、塗布膜厚の均一性や低発塵性などにおいて優れている。従って、本発明においては、このスピンコート法による塗布法を採用することが望ましいが、大口径の半導体基板上などに塗布する場合には、転写法などを採用してもよい。
なお、本発明方法において「液状組成物を基板上に塗布すること」の意味は、前記液状組成物をシリコンウェハーなどの基板上に直接、塗布するだけでなく、該基板上に形成された半導体加工用保護膜やその他の被膜の上部に塗布することも含むものである。
【0061】
乾燥工程
この工程では、前記塗布工程で得られた基板を装置内に収納し、該基板上に形成された被膜を特定の温度条件下、すなわち25〜340℃、好ましくは100〜250℃の温度条件下で加熱して乾燥処理する。ここで、この乾燥処理操作を25℃未満の温度で行うと、上記の塗布被膜中に含まれる有機溶媒や水分の多くが蒸発せずにそのまま被膜中に残ってしまうことがあるため、この乾燥処理の目的を達成することが容易でなくなり、さらには形成される被膜の膜厚にムラが生じることがある。一方、この乾燥処理を、たとえ短時間でも340℃を超えた温度で行うと、上記の塗布被膜中に含まれる有機溶媒や水分は蒸発してその殆どが被膜中からなくなるものの、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の分解が始まって前記成分と一緒に蒸発(脱離)するため、被膜中に比較的、大口径の細孔や空隙を形成してしまうことがある。さらに、後に続く加熱処理を行った際に、形成される被膜の収縮率も差程大きく上がらないため、その被膜強度を低下させてしまうことがある。また、形成される被膜の比誘電率も高くなってしまう傾向にある。このような観点から、前記の乾燥処理操作は、100〜200℃の温度条件下で行うことが最も好ましい。
【0062】
また、この乾燥処理操作は、前記装置内に窒素ガスまたは空気を導入しながら、25〜340℃、好ましくは100〜250℃の温度条件下で0.5〜10分間、好ましくは2〜5分間かけて行うことが望ましい。ここで、乾燥時間が0.5分未満であると、前記塗布被膜の乾燥が十分ではなく、また10分を超えると、被膜表面の硬化が進んでしまうため、後段の加熱処理工程でテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)が分解されても被膜中から離脱できなくなるので、好ましくない。
前記装置としては、半導体業界などで一般的に使用されているバッチ式または連続式の加熱装置(または加熱炉)を使用することができるが、前記基板を枚葉式のホットプレート上に載置して乾燥・焼成できる加熱装置(または加熱炉)を用いることが好ましい。
【0063】
なお、この乾燥処理操作は、窒素ガス雰囲気下だけでなく、空気雰囲気下でも行うことができる。これは、この処理操作が340℃以下という比較的、低い温度条件下で短時間行われるので、たとえ酸素を比較的多量に含んでいる空気雰囲気下で加熱処理しても半導体基板上に配設された金属配線に対し金属酸化などによるダメージを与えないからである。
また、前記装置内に窒素ガスまたは空気を連続的に導入しながら行うことによって、被膜中から蒸発してきた有機溶媒や水分を簡単に系外に排出することができる。
【0064】
加熱処理工程
この工程では、前記乾燥処理操作を終了した装置内に過熱水蒸気を導入して、乾燥処理された被膜を105〜450℃、好ましくは250〜350℃の温度条件下で加熱処理する。ここで、この加熱処理操作を105℃未満の温度で行うと、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の分解があまり進まないため、これが被膜中に残って、比誘電率の増加を招いたり、半導体基板の性能に悪影響を及ぼしたりすることがある。一方、この加熱処理操作を、450℃を超えた温度で行うと、半導体基板を構成するアルミニウム配線や銅配線などに損傷を与えてしまうことがある。よって、この加熱処理操作では、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)を全て分解・脱離させると共に、前記シリカ系被膜形成成分の重合(前記ネットワークの形成)を徐々に進めて被膜を適度に収縮させることが好ましい。このような観点から、前記の加熱処理操作は、250〜350℃の温度条件下で行うことが最も好ましい。
【0065】
また、この加熱処理操作は、前記装置内に過熱水蒸気を導入しながら、105〜450℃、好ましくは250〜350℃の温度条件下で1〜70分間、好ましくは10〜60分間かけて行うことが望ましい。ここで、加熱処理時間が1分未満であると、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の分解・脱離が十分ではなく、また70分を超えると、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は分解して被膜中から離脱するため、これ以上続けることは得策でない。
また、この加熱処理工程までの操作(すなわち、前記乾燥工程および前記加熱処理工程)で得られる被膜の体積は、前記塗布工程で形成された被膜(塗布被膜)の体積に比べて5〜40%、好ましくは5〜20%収縮していることが望ましい。ここで、前記収縮率が5%未満であると、高い被膜強度(ヤング弾性率)を有する被膜を得ることが難しくなり、また40%を超えると、得られる被膜の比誘電率が高くなってしまう傾向がある。なお、この第一の被膜形成方法においては、以下に述べる焼成工程でさらに焼成処理されるので、この焼成工程から得られる被膜(すなわち、前記乾燥工程、前記加熱処理工程および前記焼成工程で処理された被膜)の収縮率が前記の範囲にあればよい。
【0066】
前記の過熱水蒸気は、市販の過熱水蒸気発生装置、例えば、高周波誘導加熱による過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi等)を用いて、ボイラーで発生させた飽和水蒸気(温度:約100℃)をさらに加熱すると、温度105〜800℃のものを容易に得ることができる。
このようにして得られた過熱水蒸気は、多くの輻射熱を有しているため、その作用効果により被膜全体(内部を含む)をむらなく均一に加熱することができる。よって、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の種類や含有量によっても異なるが、これらの分解温度に近い温度を選択することができる。すなわち、その処理時間は幾分、長くなるものの、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の分解温度を少し超えた温度で行うことができる。因みに、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の分解温度は、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドやテトラエチルアンモニウムハイドロオキサイドなどが約110〜140℃、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドやテトラブチルアンモニウムハイドロオキサイドなどが約140〜200℃であることが知られている。ただし、前記過熱水蒸気の輻射熱の影響かどうかは不明であるが、これらの分解温度より少し低い加熱温度(例えば105℃)でも前記化合物の分解が開始されるという現象が認められる。
【0067】
また、特許文献5や特許文献6に記載の発明で使用される水蒸気を用いても、該水蒸気が有する輻射熱の効果を或る程度期待できるが、前記過熱水蒸気を使用した場合に比べて、得られる被膜の比誘電率が高くなり、またその被膜強度(ヤング弾性率)が低くなってしまうという欠点がある。また、比較的低い温度で乾燥処理された被膜を、この水蒸気を用いて処理すると、得られる被膜の比誘電率が高くなってしまう傾向がある。一方、前記の乾燥処理を、比較的高い温度で行うと、比較的、大口径の細孔(例えば、メソポア)を有する多孔質被膜が形成され易くなるため、被膜の比誘電率は比較的低くなるものの、被膜の収縮があまり起こらないためその被膜強度(ヤング弾性率)が低下してしまう傾向がある。さらに、このように水蒸気を用いて処理された被膜は、耐酸素プラズマ性に劣っているという欠点がある。よって、前記乾燥処理とこの水蒸気による加熱処理操作だけでは、所望する実用的な被膜を安定的に得ることが難しい。
【0068】
焼成工程
この工程では、前記加熱処理操作を終了した装置内に不活性ガスとしての窒素ガスを導入して、加熱処理された被膜を350〜450℃、好ましくは380〜410℃の温度条件下で加熱して焼成処理する。ここで、この焼成処理操作を350℃未満の温度で行うと、前記シリカ系被膜形成成分の重合(前記ネットワークの形成)が進みにくいので充分な被膜強度を有する被膜が得られず、またこの焼成処理の温度が450℃を越えると、半導体基板を構成するアルミニウム配線や銅配線などが酸化されたり、あるいは溶融されたりして、当該配線層に致命的な損傷を与えることがある。このような観点から、前記の焼成処理操作は、380〜410℃の温度条件下で行うことが最も好ましい。
【0069】
また、この焼成処理操作は、前記装置内に窒素ガスを導入しながらまたは該装置内を窒素ガス雰囲気に保ちながら、350〜450℃、好ましくは380〜410℃の温度条件下で5〜90分間、好ましくは10〜60分間かけて行うことが望ましい。ここで、焼成処理時間が5分未満であると、前記加熱処理の温度条件によっても異なるが、前記シリカ系被膜形成成分の重合(前記ネットワークの形成)が充分に進まず、また90分を超えると、前記シリカ系被膜形成成分の重合が進んで−O−Si−O−Si−結合のネットワーク(三次元架橋構造)が構築されるため、これ以上続けることは得策でない。
前記窒素ガスとしては、窒素含有量が100%のものを必ずしも使用する必要はない。例えば、本出願人の先願発明(国際出願公開WO01/48806)に記載される不活性ガス、すなわち市販の窒素ガスに、空気または酸素ガスを少量加えて、500〜10000容量ppm程度の酸素を含ませた窒素ガスを用いてもよい。
【0070】
前記焼成処理操作を施した基板は、前記装置内に収納したまゝ放置し、該装置内の温度が室温またはそれに近い温度に低下してから装置外に取り出すことが望ましい。この場合、前記装置内に室温またはその近傍にある窒素ガスまたは空気を導入しながら、前記温度を低下させてもよい。
このようにして前記基板上に形成されるシリカ系被膜の膜厚は、被膜を形成する半導体基板やその目的によっても異なるが、例えば、半導体装置におけるシリコン基板(シリコンウェハー)上では100〜600nmの範囲にあり、また多層配線の配線層間では100〜1000nmの範囲にある。
【0071】
本発明による第二の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布(塗布工程)し、さらに以下の各工程で少なくとも処理することによって、該基板上に比誘電率が3.0以下で高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成するものである。
(a)前記液状組成物を塗布した基板を装置内に収納し、該基板上に形成された被膜を25〜340℃の温度条件下で乾燥する工程(乾燥工程)。
(b)前記装置内に過熱水蒸気を導入し、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)。
【0072】
これらの各工程については上記の通りであるので、ここでは、その具体的な説明を省略する。
この第二の被膜形成方法は、第一の被膜形成方法から前記焼成工程を省いた方法を提供するものであるため、得られるシリカ系被膜の被膜強度(ヤング弾性率)は少し劣っているが、従来公知の方法に比べると、前記乾燥工程および前記加熱処理工程で被膜の収縮が起こっているため、充分な被膜強度を備えた低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成することができる。しかし、この第二の被膜形成方法では、比較的高い温度、例えば250℃以上の温度(すなわち、250〜450℃)で加熱処理することが好ましい。
【0073】
本発明による第三の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法は、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布する工程(塗布工程)、および該液状組成物の塗布被膜が形成された基板を収納した装置内に過熱水蒸気を導入し、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)を含む各工程で少なくとも処理することによって、該基板上に比誘電率が3.0以下で高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成するものである。
【0074】
これらの各工程については、前記加熱処理工程における加熱処理温度を除けば、上記の通りである。よって、ここでは、その具体的な説明を省略する。
この第三の被膜形成方法は、第一の被膜形成方法から前記乾燥工程および前記焼成工程を省いた方法を提供するものであるため、得られるシリカ系被膜の被膜強度(ヤング弾性率)は少し劣っているが、従来公知の方法に比べると、前記加熱処理工程で被膜の収縮が起こっているため、充分な被膜強度を備えた低誘電率非晶質シリカ系被膜を形成することができる。
【0075】
しかし、この第三の被膜形成方法では、最初から高い温度で加熱処理すると、前記液状組成物の塗布被膜中に含まれる有機溶媒や水分が一気に蒸発してくるばかりでなく、前記テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)が分解して被膜外に離脱してくるので、あまり好ましくない。また、この際、系外に排出される有機化合物成分(有機溶媒およびテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物)は、かなり臭いがきついものである。
よって、この第三の被膜形成方法では、前記加熱処理工程における加熱処理操作を、前記装置内に過熱水蒸気を導入しながら、105〜130℃の温度条件下で1〜20分間行い、さらに130〜450℃の温度条件下で1〜70分間行うことが好ましい。さらに、前記の加熱処理温度を徐々に上げていってもよいことは勿論である。このような方策を講じると、前記乾燥工程を省いても、第二の被膜形成方法から得られる被膜とほぼ同等またはこれに近い性状を有する被膜を得ることができる。しかし、最初から比較的高い温度で加熱処理しても、従来公知の方法(乾燥工程と焼成工程の2段階処理)から得られる被膜とほぼ同等またはそれ以上の性状を有するものが得られる。すなわち、本発明では、上記のような2段階またはそれ以上の段階的な加熱処理だけではなく、一定の温度条件下にて1段階で加熱処理を行うこともできる。
【0076】
[低誘電率非晶質シリカ系被膜]
本発明による低誘電率非晶質シリカ系被膜は、使用される前記液状組成物によっても異なるが、上記の被膜形成方法より得られる被膜で、3.0以下、好ましくは2.5以下の比誘電率と、3.0 GPa以上、好ましくは5.0GPa以上のヤング弾性率(Young's Modulus)からなる被膜強度を有している。また、上記の被膜形成方法によれば、被膜中に含まれる細孔の平均細孔径が3nm以下で、しかも2nm以下のミクロポア(Micropores)の細孔含有率が70%以上であるシリカ系被膜を容易に形成することができる。これらの物理的特性は、前記の低い比誘電率と高い被膜強度を与える上で重要な要素の一つである。よって、本発明においては、昨今の半導体製造業界からの要望に合致したシリカ系被膜を安定的に提供することができる。
【0077】
さらに、上記の被膜形成方法によれば、被膜の表面粗さ(Rms)が1nm以下である平滑な表面を有するシリカ系被膜を容易に形成することができる。(この表面粗さは、原子間力顕微鏡AFMで測定された値の二乗平均粗さである。)これにより、基板上に形成された被膜の表面を平坦化するための煩雑な研磨処理などを施す必要性が必ずしもなくなるので、従来公知のゼオライト系被膜などがもつ欠点を解消することができる。
【0078】
これに加えて、本発明方法から得られるシリカ系被膜は、それ自体が疎水性(耐吸湿性)に優れた被膜であるので、たとえ飽和水蒸気を含む空気雰囲気下に放置しても、ゼオライト被膜のように比誘電率の悪化(すなわち、比誘電率の増加)を招くことがない。従って、前記ゼオライト被膜で必要とされるシラン処理(Silylation)などをその被膜の表面に施す必要もない。なお、本発明によるシリカ系被膜は、ゼオライト系被膜がもつMFI結晶構造などのX線回折ピークを有しない非晶質のシリカ系被膜である。
【0079】
また、本発明によるシリカ系被膜は、上記の性状のほかに、半導体基板などの被膜形成面との密着性、耐アルカリ性などの耐薬品性や耐クラック性に優れ、さらには耐酸素プラズマ性やエッチング加工性などのプロセス適合性においても優れた特性を備えている。
よって、本発明によるシリカ系被膜は、半導体基板上、多層配線構造の配線層間、素子表面および/またはPN接合部を設けてなる基板上、あるいは当該基板上に設けられた多層の配線層間などに形成して使用される。この中でも、半導体基板上などに形成される層間絶縁膜の用途として好適に使用することができる。
【0080】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の調製例1〜3で調製される液状組成物は、本発明方法で使用される液状組成物の一例を示すものである。
【0081】
[調製例1]
テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドを40重量%含む水溶液1kg(TPAOH、ライオン(株)製)に、陽イオン交換樹脂の粉末300g(WK−40、三菱化学(株)製)を添加し、室温条件下、100rpmの速度で1時間撹拌した後、添加した陽イオン交換樹脂粉末を濾過して取り除いた。次に、陰イオン交換樹脂の粉末2100g(SAT−10、三菱化学(株)製)を添加し、室温条件下、100rpmの速度で1時間攪拌した後、添加した陰イオン交換樹脂粉末を濾過して取り除いた。
得られたテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド(TPAOH)の水溶液に超純水を加えて、10重量%の濃度に調整し、該水溶液中に不純物として含まれるナトリウム(Na)およびカリウム(K)のアルカリ金属元素の化合物、並びに臭素(Br)および塩素(Cl)のハロゲン族元素の化合物の量をそれぞれ原子吸光法(AAS法、(株)日立製作所製偏光ゼーマン原子吸光光度計Z-5710)およびイオンクロマト法(DIONEX製2020i)で測定した。
さらに、上記のイオン交換処理を行う前の前記テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの水溶液(市販品)に超純水を加えて、10重量%の濃度に調整した後、同様にその中に含まれる不純物の含有量を測定した。
【0082】
その結果、イオン交換処理前の水溶液中に含まれていた不純物量が元素基準でナトリウム50重量ppm、カリウム2500重量ppm、臭素2250重量ppmおよび塩素13重量ppmであったのに対し、イオン交換処理後の水溶液中に含む不純物の含有量は、元素基準でナトリウム10重量ppb以下(検出限界)、カリウム10重量ppb(検出限界)、臭素1重量ppm以下および塩素1重量ppm以下であった。すなわち、本発明で求められる許容不純物レベルまで、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液(市販品)の高純度化を行うことができた。
【0083】
次に、テトラエチルオルソシリケート89.3g(TEOS、多摩化学工業(株)製)、メチルトリメトキシシラン56.8g(MTMS、信越化学工業(株)製)および99.5重量%濃度のエタノール260.7g(ETOH、和光純薬(株)製)を混合して、この混合溶液を20℃の温度に保持し、150rpmの速度で30分間撹拌した。
この混合溶液に、高純度化された前記テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液593.2g(10重量%のTPAOHを含む)を10分かけて滴下し、さらに20℃の温度で200rpmの速度で1時間撹拌した。その後、50℃の温度に加熱し、この温度条件下にて200rpmの速度で攪拌しながら20時間、前記のシリカ系被膜形成成分(TEOS およびMTMS)の加水分解を行った。
【0084】
次いで、シリカ系被膜形成成分の加水分解物を含む混合溶液中のエタノール(有機溶媒)を、ロータリーエバポレーター(柴田科学(株)製R-114)を用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP、日本乳化剤(株)製)と溶媒置換する工程に供して、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)とメチルトリメトキシシラン(MTMS)の加水分解物からなるケイ素化合物と水分の濃度を調整し、前記ケイ素化合物をSiO2換算基準で12重量%含み、かつ水分を1重量%含む液状組成物A416.73g(被膜形成用塗布液)を得た。
このようにして得られた液状組成物中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約15,000であった。
【0085】
[調製例2]
ビス(トリエトキシシリル)エタン22.5g(BTESE、GELEST製)、メチルトリメトキシシラン52.5g(MTMS、信越化学工業(株)製)および99.5重量%濃度のエタノール147g(ETOH、和光純薬(株)製)を混合して、この混合溶液を20℃の温度に保持し、150rpmの速度で30分間撹拌した。
この混合溶液に、調製例1で調製された前記高純度テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液417g(10重量%のTPAOHを含む)を10分かけて滴下し、さらに20℃の温度で200rpmの速度で1時間撹拌した。その後、75℃の温度に加熱し、この温度条件下にて200rpmの速度で攪拌しながら20時間、前記のシリカ系被膜形成成分(BTESMおよびMTMS)の加水分解を行った。
【0086】
次いで、シリカ系被膜形成成分の加水分解物を含む混合溶液中のエタノール(有機溶媒)を、ロータリーエバポレーター(柴田科学(株)製R-114)を用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP、日本乳化剤(株)製)と溶媒置換する工程に供して、ビス(トリエトキシシリル)メタン(BTESM)とメチルトリメトキシシラン(MTMS)の加水分解物からなるケイ素化合物と水分の濃度を調整し、前記ケイ素化合物をSiO2換算基準で6重量%含み、かつ水分を0.5重量%含む液状組成物B554gを得た。
このようにして得られた液状組成物中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約21,000であった。
【0087】
[調製例3]
ビス(トリエトキシシリル)エタン14g(BTESE、GELEST製)、メチルトリメトキシシラン21g(MTMS、信越化学工業(株)製)、テトラエチルオルソシリケート24g(TEOS、多摩化学工業(株)製)および99.5重量%濃度のエタノール98g(ETOH、和光純薬(株)製)を混合して、この混合溶液を20℃の温度に保持し、150rpmの速度で30分間撹拌した。
この混合溶液に、調製例1で調製された前記高純度テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液278g(10重量%のTPAOHを含む)を10分かけて滴下し、さらに20℃の温度で200rpmの速度で1時間撹拌した。その後、75℃の温度に加熱し、この温度条件下にて200rpmの速度で攪拌しながら20時間、前記のシリカ系被膜形成成分(BTESE、MTMSおよびTEOS)の加水分解を行った。
【0088】
次いで、シリカ系被膜形成成分の加水分解物を含む混合溶液中のエタノール(有機溶媒)を、ロータリーエバポレーター(柴田科学(株)製R-114)を用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテル500g(PGP、日本乳化剤(株)製)と溶媒置換する工程に供して、ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTESE)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)およびテトラエチルオルソシリケート(TEOS)の加水分解物からなるケイ素化合物と水分の濃度を調整し、前記ケイ素化合物をSiO2換算基準で6重量%含み、かつ水分を4重量%含む液状組成物C371gを得た。
このようにして得られた液状組成物中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約17,000であった。
【0089】
[実施例1および比較例1]
前記調製例1〜3で得られた液状組成物A、液状組成物Bおよび液状組成物Cをそれぞれ5mlずつ、従来公知のスピンコート法(東京エレクトロン(株)製ACT-8)を用いて8インチサイズのシリコンウェハー基板上に滴下して、2000rpmの速度で20秒間、塗布処理を行った。このような操作を繰り返し行い、塗布処理を施した複数枚の基板1A、基板1Bおよび基板1Cを得た。
次に、これらの基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、窒素ガスを導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表1に示す温度に保って、前記基板上に形成された被膜(塗布被膜)の乾燥処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる有機溶媒(PGP)や水分などが蒸発してくるので、前記窒素ガスと一緒に系外に排出した。
【0090】
次いで、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi)から得られる温度250℃の過熱水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を250℃に保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記過熱水蒸気と一緒に系外に排出した。
さらに、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、窒素ガス(導入量:約10L/分)を導入しながら、該ホットプレートの表面温度を400℃に保って、前記基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の焼成処理を30分間行った。
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0091】
このようにして得られた基板1A、基板1Bおよび基板1Cについて、これらの基板上に形成されたシリカ系被膜の(i)比誘電率(水銀プローブ法、周波数1MHz、Solid State Measurements 製SSM495)、(ii)酸素プラズマ照射直後における被膜の水分吸着量変化(Thermal Desorption Mass-Spectroscopy法、電子科学(株)製EMD-1000)、および(iii)被膜強度(ヤング弾性率Young's Modulus、ナノインデンテーション法、MTS Systems Corp製ナノインデンターXP)を測定した。さらに、これらの基板1A、基板1Bおよび基板1Cについて、前記塗布工程で得られた基板上に形成された被膜(塗布被膜)の膜厚と、前記焼成工程から得られた基板上に形成された被膜(焼成被膜)の膜厚とを分光エリプソメトリー法(SOPRA社製、分光エリプソメーター ESVG)を用いて測定して、前記乾燥工程、前記加熱処理工程および前記焼成工程に処することによって生じた被膜の収縮率を求めた。その結果を表1に示す。
【0092】
また、これらの測定結果のうち、前記基板1A上に形成された被膜の比誘電率、被膜強度および被膜収縮率をグラフ化した結果をそれぞれ図1、図2および図3に示す。
この結果、前記の乾燥処理温度は、25〜340℃、好ましくは100〜250℃の範囲から選択する必要があることがわかった。また、前記乾燥処理は、150℃前後の温度で行うことが最も好ましいことがわかった。
なお、この実施例1で使用された上記の測定方法および測定・分析装置については、以下に示す実施例および比較例でも同じものを使用した。
【0093】
【表1】

【0094】
[実施例2および比較例2]
前記調製例1〜3で得られた液状組成物A、液状組成物Bおよび液状組成物Cをそれぞれ5mlずつ、従来公知のスピンコート法(東京エレクトロン(株)製ACT-8)を用いて8インチサイズのシリコンウェハー基板上に滴下して、2000rpmの速度で20秒間、塗布処理を行った。このような操作を繰り返し行い、塗布処理を施した複数枚の基板2A、基板2Bおよび基板2Cを得た。
次に、これらの基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、窒素ガスを導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を150℃に保って、前記基板上に形成された被膜(塗布被膜)の乾燥処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる有機溶媒(PGP)や水分などが蒸発してくるので、前記窒素ガスと一緒に系外に排出した。
【0095】
次いで、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi)から得られる表2に示す温度の過熱水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表2に示す過熱水蒸気温度と同じに保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記過熱水蒸気と一緒に系外に排出した。
さらに、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、窒素ガス(導入量:約10L/分)を導入しながら、該ホットプレートの表面温度を400℃に保って、前記基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の焼成処理を30分間行った。
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0096】
このようにして得られた基板2A、基板2Bおよび基板2Cについて、実施例1の場合と同様に、基板上に形成されたシリカ系被膜の(i)比誘電率、(ii)酸素プラズマ照射直後における被膜の水分吸着量変化、および(iii)被膜強度を測定した。さらに、これらの基板2A、基板2Bおよび基板2Cについて、前記塗布工程で得られた基板上に形成された被膜(塗布被膜)の膜厚と、前記焼成工程から得られた基板上に形成された被膜(焼成被膜)の膜厚とを測定して、実施例1の場合と同様に、被膜の収縮率を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0097】
また、これらの測定結果のうち、前記基板2A上に形成された被膜の比誘電率をグラフ化した結果を図4に示す。
この結果、前記の加熱処理温度は、105〜450℃、好ましくは250〜350℃の範囲から選択する必要があることがわかった。また、前記加熱処理は、300℃前後の温度で行うことが最も好ましいことがわかった。
【0098】
【表2】

【0099】
[実施例3および比較例3]
前記調製例1〜3で得られた液状組成物A、液状組成物Bおよび液状組成物Cをそれぞれ5mlずつ、従来公知のスピンコート法(東京エレクトロン(株)製ACT-8)を用いて8インチサイズのシリコンウェハー基板上に滴下して、2000rpmの速度で20秒間、塗布処理を行った。このような操作を繰り返し行い、塗布処理を施した複数枚の基板3A、基板3Bおよび基板3Cを得た。
次に、これらの基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、窒素ガスを導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を150℃に保って、前記基板上に形成された被膜(塗布被膜)の乾燥処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる有機溶媒(PGP)や水分などが蒸発してくるので、前記窒素ガスと一緒に系外に排出した。
【0100】
次いで、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi)から得られる温度250℃の過熱水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を250℃に保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記過熱水蒸気と一緒に系外に排出した。
さらに、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、窒素ガス(導入量:約10L/分)を導入しながら、該ホットプレートの表面温度を表3に示す温度に保って、前記基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の焼成処理を30分間行った。
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0101】
このようにして得られた基板3A、基板3Bおよび基板3Cについて、実施例1の場合と同様に、基板上に形成されたシリカ系被膜の(i)比誘電率、(ii)酸素プラズマ照射直後における被膜の水分吸着量変化、および(iii)被膜強度を測定した。さらに、これらの基板3A、基板3Bおよび基板3Cについて、前記塗布工程で得られた基板上に形成された被膜(塗布被膜)の膜厚と、前記焼成工程から得られた基板上に形成された被膜(焼成被膜)の膜厚とを測定して、実施例1の場合と同様に、被膜の収縮率を求めた。これらの結果を表3に示す。
【0102】
この結果、前記の加熱処理温度は、350〜450℃の範囲から選択する必要があることがわかった。また、前記加熱処理は、400℃前後の温度で行うことが最も好ましいことがわかった。
【0103】
【表3】

【0104】
[実施例4および比較例4]
前記調製例1〜3で得られた液状組成物A、液状組成物Bおよび液状組成物Cをそれぞれ5mlずつ、従来公知のスピンコート法(東京エレクトロン(株)製ACT-8)を用いて8インチサイズのシリコンウェハー基板上に滴下して、2000rpmの速度で20秒間、塗布処理を行った。このような操作を繰り返し行い、塗布処理を施した複数枚の基板4A、基板4Bおよび基板4Cを得た。
次に、これらの基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、窒素ガスを導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表4に示す温度に保って、前記基板上に形成された被膜(塗布被膜)の乾燥処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる有機溶媒(PGP)や水分などが蒸発してくるので、前記窒素ガスと一緒に系外に排出した。
【0105】
次いで、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi)から得られる温度250℃の過熱水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を250℃に保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記過熱水蒸気と一緒に系外に排出した。
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0106】
このようにして得られた基板4A、基板4Bおよび基板4Cについて、実施例1の場合と同様に、基板上に形成されたシリカ系被膜の(i)比誘電率、(ii)酸素プラズマ照射直後における被膜の水分吸着量変化、および(iii)被膜強度を測定した。さらに、これらの基板4A、基板4Bおよび基板4Cについて、前記塗布工程で得られた基板上に形成された被膜(塗布被膜)の膜厚と、前記加熱処理工程から得られた基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の膜厚とを測定して、実施例1の場合と同様に、被膜の収縮率を求めた。これらの結果を表4に示す。
【0107】
この結果、前記の乾燥処理温度は、25〜340℃、好ましくは100〜250℃の範囲から選択する必要があることがわかった。しかし、実施例1の結果に比べると、前記被膜強度(ヤング弾性率)は、少し劣っていることがわかった。
【0108】
【表4】

【0109】
[実施例5および比較例5]
前記調製例1〜3で得られた液状組成物A、液状組成物Bおよび液状組成物Cをそれぞれ5mlずつ、従来公知のスピンコート法(東京エレクトロン(株)製ACT-8)を用いて8インチサイズのシリコンウェハー基板上に滴下して、2000rpmの速度で20秒間、塗布処理を行った。このような操作を繰り返し行い、塗布処理を施した複数枚の基板5A、基板5Bおよび基板5Cを得た。
次に、これらの基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、窒素ガスを導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を150℃に保って、前記基板上に形成された被膜(塗布被膜)の乾燥処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる有機溶媒(PGP)や水分などが蒸発してくるので、前記窒素ガスと一緒に系外に排出した。
【0110】
次いで、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi)から得られる表5に示す温度の過熱水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表5に示す過熱水蒸気温度と同じに保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記過熱水蒸気と一緒に系外に排出した。
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0111】
このようにして得られた基板5A、基板5Bおよび基板5Cについて、実施例1の場合と同様に、基板上に形成されたシリカ系被膜の(i)比誘電率、(ii)酸素プラズマ照射直後における被膜の水分吸着量変化、および(iii)被膜強度を測定した。さらに、これらの基板5A、基板5Bおよび基板5Cについて、前記塗布工程で得られた基板上に形成された被膜(塗布被膜)の膜厚と、前記加熱処理工程から得られた基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の膜厚とを測定して、実施例1の場合と同様に、被膜の収縮率を求めた。これらの結果を表5に示す。
【0112】
この結果、前記の加熱処理温度は、105〜450℃、好ましくは250〜350℃の範囲から選択する必要があることがわかった。しかし、実施例1の結果に比べると、前記被膜強度(ヤング弾性率)は、少し劣っていることがわかった。また、前記焼成工程に処した被膜と同等またはそれに近い被膜強度を有するものを得るためには、比較的高い温度、例えば250℃の温度(すなわち、250〜450℃)で加熱処理する必要があることがわかった。
【0113】
【表5】

【0114】
[実施例6]
前記調製例1〜3で得られた液状組成物A、液状組成物Bおよび液状組成物Cをそれぞれ5mlずつ、従来公知のスピンコート法(東京エレクトロン(株)製ACT-8)を用いて8インチサイズのシリコンウェハー基板上に滴下して、2000rpmの速度で20秒間、塗布処理を行った。このような操作を繰り返し行い、塗布処理を施した複数枚の基板6A、基板6Bおよび基板6Cを得た。
【0115】
次いで、これらの基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi)から得られる表6に示す温度の過熱水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表6に示す過熱水蒸気温度と同じに保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。(以下、この処理を「1段加熱処理」という。)この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記過熱水蒸気と一緒に系外に排出した。
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0116】
さらに、前記塗布工程から得られた基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi)から得られる表6に示す温度(105℃および120℃)の過熱水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表6に示す過熱水蒸気温度と同じに保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記過熱水蒸気と一緒に系外に排出した。
次いで、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、過熱水蒸気発生装置(日本高周波工業(株)製、Super-Hi)から得られる温度250℃の過熱水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表6に示す過熱水蒸気温度と同じに保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。(以下、この処理を「2段加熱処理」という。)この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記過熱水蒸気と一緒に系外に排出した。
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0117】
このようにして得られた基板6A、基板6Bおよび基板6Cについて、実施例1の場合と同様に、基板上に形成されたシリカ系被膜の(i)比誘電率、(ii)酸素プラズマ照射直後における被膜の水分吸着量変化、および(iii)被膜強度を測定した。さらに、これらの基板6A、基板6Bおよび基板6Cについて、前記塗布工程で得られた基板上に形成された被膜(塗布被膜)の膜厚と、前記加熱処理工程から得られた基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の膜厚とを測定して、実施例1の場合と同様に、被膜の収縮率を求めた。これらの結果を表6に示す。
【0118】
この結果、過熱水蒸気による2段加熱処理を行って得られた被膜は、実施例4で得られた被膜とほぼ同等の性状を有していることがわかった。また、過熱水蒸気による1段加熱処理を行った被膜も、比較例7(乾燥工程と焼成工程の2段階処理)で得られた被膜とほぼ同等またはそれ以上の性状を有していることがわかった。
【0119】
【表6】

【0120】
[比較例6]
前記調製例1〜3で得られた液状組成物A、液状組成物Bおよび液状組成物Cをそれぞれ5mlずつ、従来公知のスピンコート法(東京エレクトロン(株)製ACT-8)を用いて8インチサイズのシリコンウェハー基板上に滴下して、2000rpmの速度で20秒間、塗布処理を行った。このような操作を繰り返し行い、塗布処理を施した複数枚の基板7A、基板7Bおよび基板7Cを得た。
次に、これらの基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、窒素ガスを導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表7に示す温度に保って、前記基板上に形成された被膜(塗布被膜)の乾燥処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる有機溶媒(PGP)や水分などが蒸発してくるので、前記窒素ガスと一緒に系外に排出した。
【0121】
次いで、実施例4との比較のため、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、水蒸気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を250℃に保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記水蒸気と一緒に系外に排出した。
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0122】
このようにして得られた基板7A、基板7Bおよび基板7Cについて、実施例1の場合と同様に、基板上に形成されたシリカ系被膜の(i)比誘電率、(ii)酸素プラズマ照射直後における被膜の水分吸着量変化、および(iii)被膜強度を測定した。さらに、これらの基板7A、基板7Bおよび基板7Cについて、前記塗布工程で得られた基板上に形成された被膜(塗布被膜)の膜厚と、前記加熱処理工程から得られた基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の膜厚とを測定して、実施例1の場合と同様に、被膜の収縮率を求めた。これらの結果を表7に示す。
【0123】
この結果、この比較例6で得られた被膜は、実施例4で得られた被膜に比べて、高い比誘電率と低い被膜強度を有していることがわかった。また、比較的低い温度(例えば、200℃以下)で乾燥処理された被膜を水蒸気で加熱処理したものについては、比誘電率が比較的高くなってしまう傾向が見られた。一方、比較的高い温度(例えば、250℃以上)で乾燥処理された被膜を水蒸気で加熱処理したものについては、被膜強度(ヤング弾性率)が低くなってしまう傾向が見られた。さらに、得られた被膜に酸素プラズマを照射した直後と照射前における水分吸着量に変化が見られた。すなわち、酸素プラズマ照射後は、被膜の水分吸着量が増加した。よって、前記の乾燥処理とこの水蒸気による加熱処理操作だけでは、所望する実用的な被膜を安定的に得ることが難しいことがわかった。
【0124】
【表7】

【0125】
[比較例7]
前記調製例1〜3で得られた液状組成物A、液状組成物Bおよび液状組成物Cをそれぞれ5mlずつ、従来公知のスピンコート法(東京エレクトロン(株)製ACT-8)を用いて8インチサイズのシリコンウェハー基板上に滴下して、2000rpmの速度で20秒間、塗布処理を行った。このような操作を繰り返し行い、塗布処理を施した複数枚の基板8A、基板8Bおよび基板8Cを得た。
次に、これらの基板を枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、窒素ガスを導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を150℃に保って、前記基板上に形成された被膜(塗布被膜)の乾燥処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる有機溶媒(PGP)や水分などが蒸発してくるので、前記窒素ガスと一緒に系外に排出した。
【0126】
次いで、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、窒素ガス(導入量:約10L/分)を導入しながら、該ホットプレートの表面温度を400℃に保って、前記基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の焼成処理を30分間行った。(以下、この処理を「処理法-1」という。)
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0127】
さらに、実施例1と比較するため、前記の塗布処理を施した基板8A、8Bおよび8Cを枚葉式のホットプレート(東京エレクトロン(株)製ACT-8)上に載置して、窒素ガスを導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を表8に示す温度に保って、前記基板上に形成された被膜(塗布被膜)の乾燥処理を3分間行った。この際、被膜中に含まれる有機溶媒(PGP)や水分などが蒸発してくるので、前記窒素ガスと一緒に系外に排出した。
次いで、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、窒素ガスまたは空気を導入(導入量:約10L/分)しながら、該ホットプレートの表面温度を250℃に保って、前記基板上に形成された被膜(乾燥被膜)の加熱処理を30分間行った。この際、被膜中に含まれる水や有機溶媒(PGP)、更にはテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの分解物などが離脱してくるので、前記窒素または空気と一緒に系外に排出した。
【0128】
さらに、これらの基板を前記の枚葉式ホットプレート上に載せたまま、窒素ガス(導入量:約10L/分)を導入しながら、該ホットプレートの表面温度を400℃に保って、前記基板上に形成された被膜(加熱処理被膜)の焼成処理を30分間行った。(以下、この処理を「処理法-2」という。)
次に、これらの基板を室温近い温度まで冷却した後、系外に取り出した。
【0129】
このようにして得られた基板8A、基板8Bおよび基板8Cについて、実施例1の場合と同様に、基板上に形成されたシリカ系被膜の(i)比誘電率、(ii)酸素プラズマ照射直後における被膜の水分吸着量変化、および(iii)被膜強度を測定した。さらに、これらの基板8A、基板8Bおよび基板8Cについて、前記塗布工程で得られた基板上に形成された被膜(塗布被膜)の膜厚と、前記焼成工程から得られた基板上に形成された被膜(焼成被膜)の膜厚とを測定して、実施例1の場合と同様に、被膜の収縮率を求めた。これらの結果を表8に示す。
【0130】
また、これらの測定結果のうち、処理法-2において前記基板8A上に形成された被膜の収縮率をグラフ化した結果をそれぞれ図5に示す。
この結果、従来処理法1および従来処理法2のいずれにおいても、ここで得られた基板上の被膜は、実施例1で得られた基板上の被膜に比べて、低い被膜強度(ヤング弾性率)を有していることがわかった。また、これらの被膜については、その収縮率がかなり低いことがわかった。
【0131】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施例1において、基板1A上に形成された被膜の比誘電率を測定した数値をグラフ化した結果を示す。ここで、横軸は「乾燥温度」を示し、縦軸は「比誘電率」を示す。
【図2】実施例1において、基板1A上に形成された被膜のヤング弾性率を測定した数値をグラフ化した結果を示す。ここで、横軸は「乾燥温度」を示し、縦軸は「ヤング弾性率(Gpa)」を示す。
【図3】実施例1において、基板1A上に形成された被膜の収縮率を測定した数値をグラフ化した結果を示す。ここで、横軸は「乾燥温度」を示し、縦軸は「収縮率(%)」を示す。
【図4】実施例2において、基板2A上に形成された被膜の比誘電率を測定した数値をグラフ化した結果を示す。ここで、横軸は「加熱温度(過熱水蒸気温度)」を示し、縦軸は「比誘電率」を示す。
【図5】比較例7において、処理法-2の基板8A上に形成された被膜の収縮率を測定した数値をグラフ化した結果を示す。さらに、比較を容易にするため、図3に示す被膜収縮率、すなわち実施例1において基板1A上に形成された被膜の収縮率を測定した結果をグラフ化したものを併せて示す。ここで、横軸は「乾燥温度」を示し、縦軸は「収縮率(%)」を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比誘電率が3.0以下で、高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に形成する方法であって、
(1)テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布する工程(塗布工程)、
(2)前記基板を装置内に収納し、該基板上に形成された被膜を25〜340℃の温度条件下で乾燥する工程(乾燥工程)、
(3)前記装置内に過熱水蒸気を導入して、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)、および
(4)前記装置内に窒素ガスを導入して、前記被膜を350〜450℃の温度条件下で焼成する工程(焼成工程)、
を含む各工程で少なくとも処理することを特徴とする低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項2】
比誘電率が3.0以下で、高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に形成する方法であって、
(1)テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布する工程(塗布工程)、
(2)前記基板を装置内に収納し、該基板上に形成された被膜を25〜340℃の温度条件下で乾燥する工程(乾燥工程)、および
(3)前記装置内に過熱水蒸気を導入し、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)、
を含む各工程で少なくとも処理することを特徴とする低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項3】
比誘電率が3.0以下で、高い被膜強度を有する低誘電率非晶質シリカ系被膜を基板上に形成する方法であって、
(1)テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物を基板上に塗布する工程(塗布工程)、および
(2)前記装置内に過熱水蒸気を導入し、前記被膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(加熱処理工程)、
を含む各工程で少なくとも処理することを特徴とする低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項4】
前記塗布工程で使用される液状組成物が、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
【請求項5】
前記塗布工程で使用される液状組成物が、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、下記一般式(II)で示されるビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)および下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
OR7 OR2
| |
OR6−Si−R1−Si−OR3 (II)
| |
OR5 OR4
(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
【請求項6】
前記塗布工程で使用される液状組成物が、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られる、下記一般式(II)で示されるビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)、下記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)およびテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)からなる有機ケイ素化合物の加水分解物を含む液状組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
OR7 OR2
| |
OR6−Si−R1−Si−OR3 (II)
| |
OR5 OR4
(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
【請求項7】
前記塗布工程における塗布操作を、スピンコート法にて行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項8】
前記乾燥工程における乾燥操作を、前記装置内に窒素ガスまたは空気を導入しながら、25〜340℃の温度条件下で0.5〜10分間行うことを特徴とする請求項1または2に記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項9】
前記乾燥操作の温度条件が、100〜250℃の範囲にあることを特徴とする請求項8に記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項10】
前記加熱処理工程における加熱処理操作を、前記装置内に過熱水蒸気を導入しながら、105〜450℃の温度条件下で1〜70分間行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項11】
前記加熱処理操作の温度条件が、250〜350℃の範囲にあることを特徴とする請求項10に記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項12】
前記加熱処理工程における加熱処理操作を、前記装置内に過熱水蒸気を導入しながら、105〜130℃の温度条件下で1〜20分間行い、さらに130〜450℃の温度条件下で1〜70分間行うことを特徴とする請求項3に記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項13】
前記焼成工程における焼成操作を、前記装置内に窒素ガスを導入しながらまたは該装置内を窒素ガス雰囲気に保ちながら、350〜450℃の温度条件下で5〜90分間行うことを特徴とする請求項1に記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項14】
前記加熱処理工程または前記焼成工程までの操作を、前記加熱処理工程または前記焼成工程から得られる被膜の体積が、前記塗布工程で形成される被膜の体積に較べて、5〜40%収縮するような条件下で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜の形成方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法から得られる被膜が、3.0以下の比誘電率と、ヤング弾性率が3.0 GPa以上の被膜強度を有することを特徴とする低誘電率非晶質シリカ系被膜。
【請求項16】
前記被膜が、半導体基板上に形成された層間絶縁膜であることを特徴とする請求項15に記載の低誘電率非晶質シリカ系被膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−53657(P2008−53657A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231202(P2006−231202)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000190024)触媒化成工業株式会社 (458)
【Fターム(参考)】