説明

作業車の走行変速構造

【課題】 作業車の走行変速構造において、機体に負荷装置を備えたり機体に負荷装置を接続した場合、油圧クラッチの作動圧が所定低圧に減圧操作される際に、所定低圧が適切に設定されるように構成する。
【解決手段】 走行用の変速に伴って、油圧クラッチ26,27の作動圧を所定低圧P3に減圧操作して、昇圧操作する。無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差を検出し、回転数差が大きくなるほど、所定低圧P3を高圧側に設定する。機体に備えられた負荷装置又は機体に接続された負荷装置の作動及び停止状態を検出し、負荷装置の作動状態の検出に基づいて、負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの動力に相当する分だけ、所定低圧P3を低圧側に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車の走行変速構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車では例えば特許文献1に開示されているように、エンジン(特許文献1の図1の1)の下手側に、複数の変速位置(特許文献1の図1の21,22,23,24)を備えた走行用の変速装置(特許文献1の図1の10)と、走行用の油圧クラッチ(特許文献1の図1の26,27)とを直列に配置したものがある。
【0003】
特許文献1では、変速装置のある変速位置が伝動状態に操作され(他の変速位置は遮断状態)、油圧クラッチが伝動状態に操作された走行状態において、変速指令が発せられると、伝動状態に操作されている変速装置の変速位置が遮断状態に操作され(特許文献1の図7のA3参照)、変速指令に対応する変速装置の変速位置が伝動状態に操作される(特許文献1の図7のA1参照)。これと同時に、油圧クラッチの作動圧が所定低圧(特許文献1の図7のP3)に減圧操作され、油圧クラッチの作動圧が昇圧操作される(特許文献1の図7のA2参照)。
前述のように、油圧クラッチの作動圧を所定低圧に減圧操作し、油圧クラッチを半伝動状態とすることにより、変速時にエンジンの動力が走行装置(車輪等)にある程度伝達されるようにして、走行負荷による変速中の機体の走行速度の低下を抑えているのであり、その後に油圧クラッチの作動圧が昇圧操作された際(特許文献1の図7のP2)の変速ショックを抑えるようにしている。
【0004】
この場合、特許文献1では、無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差を検出し、この回転数差をエンジンに掛かる負荷として検出するように構成している(前述の回転数差が大きいほど、エンジンに掛かる負荷が大きいと判断される)。これにより、油圧クラッチの作動圧が所定低圧(特許文献1の図7のP3)に減圧操作される際、回転数差が大きいほど所定低圧が高圧側に変更されるように構成して、エンジンに掛かる負荷が大きくても、走行負荷による変速中の機体の走行速度の低下が抑えられるように構成している。
【0005】
【特許文献1】特開平8−20258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
作業車では、機体の前部にフロントローダ装置(負荷装置に相当)(エンジンの動力により駆動される油圧ポンプからの作動油により駆動される)を接続したり、キャビン付きの作業車では空調装置(エアコン)(負荷装置に相当)を備えたりすることがある。
従って、空調装置やフロントローダ装置等の負荷装置を駆動せずに走行すれば、エンジンの動力の略全てが走行に使用されるので、無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差が走行負荷と判断できるのであり、走行負荷だけがエンジンに掛かる負荷と判断できる。しかし、負荷装置を駆動しながら走行すれば、エンジンには走行負荷と負荷装置の負荷とが掛かることになるので、前述の回転数差をそのまま走行負荷と判断することはできない。
【0007】
これにより、特許文献1のように、無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差を検出するだけであると、負荷装置を駆動しながら走行する際、負荷装置の負荷も走行負荷の一部と判断してしまい、負荷装置の負荷の分だけ走行負荷を大きなものと判断してしまうことになるので、油圧クラッチの作動圧が所定低圧(特許文献1の図7のP3)に減圧操作される際、この所定低圧が高圧側に設定されすぎる傾向になり、改善の余地がある。
【0008】
本発明は、複数の変速位置を備えた走行用の変速装置と走行用の油圧クラッチとを直列に配置した作業車の走行変速構造において、機体に負荷装置を備えたり機体に負荷装置を接続した場合、油圧クラッチの作動圧が所定低圧に減圧操作される際に、この所定低圧が適切に設定されるように構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は作業車の走行変速構造において次のように構成することにある。
エンジンの下手側に、複数の変速位置を備えた走行用の変速装置と走行用の油圧クラッチとを直列に配置する。
変速指令に基づいて、伝動状態に操作されている変速装置の変速位置を遮断状態に操作し、変速指令に対応する変速装置の変速位置を伝動状態に操作する第1制御手段と、変速指令に基づいて、油圧クラッチの作動圧を所定低圧に減圧操作し、油圧クラッチの作動圧を昇圧操作する第2制御手段とを備える。
無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差を検出する検出手段を備え、検出手段で検出される回転数差が大きくなるほど、所定低圧を高圧側に設定する第3制御手段を備える。
機体に備えられた負荷装置又は機体に接続された負荷装置の作動及び停止状態を検出する作動検出手段を備え、作動検出手段による負荷装置の作動状態の検出に基づいて、負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの動力に相当する分だけ、第3制御手段により設定される所定低圧を低圧側に変更する第4制御手段を備える。
【0010】
(作用)
本発明の第1特徴によると、第1制御手段、第2制御手段、検出手段及び第3制御手段を備えた場合、機体に備えられた負荷装置又は機体に接続された負荷装置の作動及び停止状態を検出する作動検出手段を備えており、作動検出手段による負荷装置の作動状態の検出に基づいて、負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの動力に相当する分だけ、第3制御手段により設定される所定低圧を低圧側に変更する第4制御手段を備えている。
【0011】
負荷装置の停止状態で走行する場合(エンジンの動力の略全てが走行に使用される場合)、無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差が走行負荷と判断できるので(走行負荷だけがエンジンに掛かる負荷と判断できるので)、本発明の第1特徴によると、走行負荷だけに基づく回転数差に基づいて所定低圧が設定されるのであり、回転数差が大きくなるほど、所定低圧が高圧側に設定される。
【0012】
負荷装置の作動状態で走行する場合(エンジンの動力が走行及び負荷装置に使用される場合)、無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差が走行負荷とは判断できないので(走行負荷と負荷装置の負荷とがエンジンに掛かると判断できるので)、この状態において無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差を走行負荷と判断して、この回転数差に基づいて所定低圧が設定されると、負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの動力に相当する分だけ所定低圧が高圧側に設定されてしまう。
【0013】
この状態において本発明の第1特徴によると、負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの動力に相当する分だけ所定低圧が高圧側に設定されても、負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの動力に相当する分だけ所定低圧が低圧側に変更されるのであり、走行負荷だけに基づく回転数差に基づいて所定低圧が設定される状態となる。
これにより、本発明の第1特徴によると、負荷装置の作動及び停止に関係なく、走行負荷だけに基づく回転数差に基づいて所定低圧が設定される状態が得られることになり、負荷装置の作動及び停止に関係なく、所定低圧が適切に設定されるようになる。
【0014】
前述のように、負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの動力に相当する分だけ所定低圧が低圧側に変更される手段としては、例えば実際のエンジンの回転数に、負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの回転数(動力)を加えて、走行負荷だけがエンジンに掛かる負荷となる状態に、実際のエンジンの回転数を補正し、無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差がそのまま走行負荷と判断できる状態として、この回転数差に基づいて所定低圧を設定する手段がある。
これ以外に例えば、無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差に基づいて所定低圧を設定した後、この所定低圧から設定圧(負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの回転数(動力)に相当)を引いて(補正して)、所定低圧を設定する手段がある。
【0015】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、複数の変速位置を備えた走行用の変速装置と走行用の油圧クラッチとを直列に配置した作業車の走行変速構造において、機体に負荷装置を備えたり機体に負荷装置を接続した場合、負荷装置の作動及び停止に関係なく所定低圧が適切に設定され、変速ショックが抑えられるようになって、作業車の走行性能を向上させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[1]
図1は作業車の一例である四輪駆動型の農用トラクタのミッションケース8を示しており、エンジン1の動力が前進クラッチ5又は後進クラッチ6、円筒軸7、第1主変速装置10(走行用の変速装置に相当)、第2主変速装置11、副変速装置12及び後輪デフ装置13を介して後輪14に伝達される。後輪デフ装置13の直前から分岐した動力が伝動軸15、油圧クラッチ型式の前輪変速装置16、前輪伝動軸17及び前輪デフ装置18を介して前輪19に伝達される。エンジン1の動力が伝動軸2、油圧多板式のPTOクラッチ3及びPTO変速装置9を介してPTO軸4に伝達される。
【0017】
図1に示すように、前進及び後進クラッチ5,6は、摩擦板(図示せず)とピストン(図示せず)とを組み合わせた油圧多板式で、遮断状態に付勢されており、作動油を供給することにより伝動状態に操作される。前進クラッチ5を伝動状態に操作すると、エンジン1の動力が前進クラッチ5から円筒軸7に直接に流れて機体は前進する。後進クラッチ6を伝動状態に操作すると、エンジン1の動力が後進クラッチ6及び伝動軸20を介して、逆転状態で円筒軸7に伝達されて機体は後進する。
【0018】
図1に示すように、第1主変速装置10は、4個の油圧多板式の1速クラッチ21、2速クラッチ22、3速クラッチ23及び4速クラッチ24を並列的に配置した油圧クラッチ型式に構成されて4段に変速可能であり、1速〜4速クラッチ21〜24のうちの一つを伝動状態に操作することにより、円筒軸7の動力が4段に変速されて伝動軸25に伝達される。1速〜4速クラッチ21〜24は遮断状態に付勢されており、作動油を供給することにより伝動状態に操作される。
【0019】
図1に示すように、第2主変速装置11は、2個の油圧多板式の低速クラッチ26(走行用の油圧クラッチに相当)、及び高速クラッチ27(走行用の油圧クラッチに相当)を並列的に配置した油圧クラッチ型式に構成されており、低速及び高速クラッチ26,27の一方を伝動状態に操作することにより、伝動軸25の動力が2段に変速されて副変速装置12に伝達される。低速及び高速クラッチ26,27は遮断状態に付勢されており、作動油を供給することにより伝動状態に操作される。
副変速装置12は、シフト部材53をスライド操作するシンクロメッシュ型式に構成されて2段に変速可能であり、図2に示す変速レバー28によって機械的に操作される。
【0020】
[2]
次に、前進及び後進クラッチ5,6、第1及び第2主変速装置10,11に対する油圧回路について説明する。
図3に示すように、ポンプ29からの油路30に、前進及び後進クラッチ5,6に対する電磁比例弁35及びパイロット操作式の切換弁36a,37a、1速〜4速クラッチ21〜24に対するパイロット操作式の切換弁31a,32a,33a,34a、低速及び高速クラッチ26,27に対する電磁比例弁38,39が接続されている。
【0021】
図3に示すように、油路30から分岐した油路40に、前輪デフ装置18におけるデフロック操作用の油圧クラッチ41に対するパイロット操作式の切換弁42a、後輪デフ装置13におけるデフロック操作用の油圧クラッチ43に対するパイロット操作式の切換弁44a、前輪変速装置16の標準クラッチ45及び増速クラッチ46に対するパイロット操作式の切換弁47a,48aが接続されている。切換弁31a〜34a,36a,37a,42a,44a,47a,48aは、バネで排油側(遮断状態)に付勢されており、パイロット圧が供給されることで供給側(伝動状態)に操作される。
【0022】
図3に示すように、油路30から減圧弁49を介してパイロット油路50が分岐して、パイロット油路50が切換弁31a〜34a,36a,37a,42a,44a,47a,48aの操作部に接続されており、操作部に電磁操作弁31b,32b,33b,34b,36b,37b,42b,44b,47b,48bが接続されている。電磁操作弁31b〜34b,36b,37b,42b,44b,47b,48bはバネで排油側(遮断状態)に付勢されており、電磁操作弁31b〜34b,36b,37b,42b,44b,47b,48bを供給側に操作すると、パイロット圧が切換弁31a〜34a,36a,37a,42a,44a,47a,48aの操作部に供給されて、切換弁31a〜34a,36a,37a,42a,44a,47a,48aが供給側(伝動状態)に操作される。
【0023】
[3]
次に、前進及び後進クラッチ5,6、第1及び第2主変速装置10,11の操作部の構造について説明する。
図3に示すように、切換弁36a,37aの操作部からパイロット圧を排油可能な開閉弁51が備えられ、開閉弁51がバネで閉側に付勢されており、開閉弁51を開側に操作するクラッチペダル52が備えられている。図2に示すように、前輪19の操縦ハンドル58の基部に、前進位置F、後進位置R及び中立位置Nに操作自在な前後進レバー59が備えられている。
【0024】
図2に示すように、機体の操縦部の横軸芯周りに変速レバー28が揺動操作自在に支持されて、副変速装置12のシフト部材53をスライド操作するシフト軸54と変速レバー28とが、連係機構55により機械的に連係されている。変速レバー28を中立位置N、低速位置L及び高速位置Hに操作することにより、副変速装置12(シフト部材53)を中立位置、低速位置及び高速位置に操作することができるように構成されており、変速レバー28の操作位置を検出する位置センサー70が備えられている。
【0025】
図2に示すように、変速レバー28の横側部に出退自在なロックピン56が備えられており、ロックピン56を出退操作する操作ボタン57が変速レバー28の上部に備えられている。ロックピン56はバネ(図示せず)により突出側(図2の紙面右方)に付勢されており(操作ボタン57も図2の紙面左方の突出側に付勢されている)、固定部のガイド板60にロックピン56を係合させることにより、変速レバー28を中立位置N、低速位置L及び高速位置Hに保持する。操作ボタン57を押し操作するとロックピン56が退入操作されて、変速レバー28を中立位置N、低速位置L及び高速位置Hに操作することができる。
【0026】
図2に示すように、変速レバー28の左横側面に、シフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62が上下に配置されており、シフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62を押し操作すると、後述する[5]に記載のように、第1及び第2主変速装置10,11が操作される。
【0027】
図2に示すように、第1及び第2主変速装置10,11の変速位置(1速〜8速)を表示する7セグメントの変速表示部64、前進及び後進クラッチ5,6のどちらが伝動状態に操作されているかを表示する前進ランプ65及び後進ランプ66、変速レバー28又は前後進レバー59が中立位置Nに操作されていることを示す中立ランプ67が、操縦部に備えられている。図3に示すように、前進及び後進クラッチ5,6の作動圧を検出する圧力センサー74が備えられており、圧力センサー74の検出により前進及び後進ランプ65,66を点灯させる。
【0028】
[4]
次に、前後進レバー59の操作について、図4に基づいて説明する。
前後進レバー59を前進位置Fに操作すると(ステップS1)、電磁操作弁36bに操作電流が供給され切換弁36aが供給側に操作されて、前進クラッチ5が伝動状態に操作され(ステップS2)、前進ランプ65が点灯する(ステップS3)。前後進レバー59を後進位置Rに操作すると(ステップS1)、電磁操作弁37bに操作電流が供給され切換弁37aが供給側に操作されて、後進クラッチ6が伝動状態に操作され(ステップS4)、後進ランプ66が点灯し(ステップS5)、図2に示すブザー71が間欠的に作動する(ステップS6)。
【0029】
前後進レバー59を中立位置Nに操作すると(ステップS1)、電磁操作弁36b,37bへの操作電流が遮断され切換弁36a,37aが排油側に操作されて、前進及び後進クラッチ5,6が遮断状態に操作され(ステップS7)、中立ランプ67が点灯する(ステップS8)。クラッチペダル52を踏み操作すると、開閉弁51が開側に操作され切換弁36a,37aが排油側に操作されて、前進及び後進クラッチ5,6が遮断状態に操作され中立ランプ67が点灯する。このように前進及び後進クラッチ5,6の両方が遮断状態に操作されると、前進及び後進クラッチ5,6において動力が遮断されて機体が停止する。
【0030】
[5]
次に、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62の押し操作による第1及び第2主変速装置10,11の操作の前半について、図5に基づいて説明する。
図1に示すように、第1主変速装置10が4段に変速可能であり、第2主変速装置11が2段に変速可能なので、第1及び第2主変速装置10,11により8段に変速可能である。低速クラッチ26が伝動状態に操作されている状態で、1速〜4速クラッチ21〜24が1速〜4速の変速位置に対応し、高速クラッチ27が伝動状態に操作されている状態で、1速〜4速クラッチ21〜24が5速〜8速の変速位置に対応する。
【0031】
図2及び図3に示すように、1速〜4速クラッチ21〜24、低速及び高速クラッチ26,27の各々に、作動圧を検出する圧力センサー63,74が備えられており、圧力センサー63,74の検出により、現在の第1及び第2主変速装置10,11の変速位置(1速〜8速)が検出されて、検出された変速位置が変速表示部64に表示される。
農用トラクタでは、運転部を覆うキャビン(図示せず)を備えた場合、キャビンに空調装置(エアコン)(図示せず)(負荷装置に相当)を備えており、エンジン1によって駆動される発電機からの電力により、空調装置(エアコン)が駆動される。空調装置(エアコン)を作動及び停止させる空調スイッチ68が備えられている。
【0032】
図1及び図2に示すように、エンジン1のアクセル開度を人為的に任意の位置に設定可能なハンドアクセルレバー73が備えられて、ハンドアクセルレバー73の操作位置を検出するポテンショメータ型式の開度センサー75が備えられており、実際のエンジン1の回転数N2を検出する回転数センサー72が備えられている。無負荷状態(前進及び後進クラッチ5,6が遮断状態に操作され、且つPTOクラッチ3が遮断状態に操作されて、エンジン1に負荷が掛からない状態)でのエンジン1の回転数と、開度センサー75の検出値(ハンドアクセルレバー73の操作位置)との関係が事前に求められており、開度センサー75の検出値(ハンドアクセルレバー73の操作位置)に基づいて、無負荷状態でのエンジン1の回転数N1が求められる。
【0033】
これにより、開度センサー75の検出値(ハンドアクセルレバー73の操作位置)に基づいて、無負荷状態でのエンジン1の回転数N1が求められ(ステップS11)、回転数センサー72により、実際のエンジン1の回転数N2が検出される(ステップS12)。空調スイッチ68がOFF位置に操作されていると(空調装置(エアコン)の停止状態)(作動検出手段に相当)(ステップS13)、無負荷状態でのエンジン1の回転数N1と実際のエンジン1の回転数N2との回転数差N3が検出される(検出手段に相当)(ステップS14)。
【0034】
空調スイッチ68がON位置に操作されていると(空調装置(エアコン)の作動状態)(作動検出手段に相当)(ステップS13)、実際のエンジン1の回転数N2に所定回転数N4が加えられて、無負荷状態でのエンジン1の回転数N1と実際のエンジン1の回転数N2(所定回転数N4が加えられている)との回転数差N3が検出される(検出手段に相当)(第4制御手段に相当)(ステップS15)。この場合、無負荷状態において空調装置(エアコン)を駆動する際に低下するエンジン1の回転数が、所定回転数N4に相当する(空調装置(エアコン)を駆動するのに必要なエンジン1の動力が、所定回転数N4に相当する)。
【0035】
前輪19及び後輪14からの走行負荷が同じであっても、空調スイッチ68がON位置及びOFF位置に操作されている状態(空調装置(エアコン)の作動及び停止状態)において、実際のエンジン1の回転数N2が異なるものとなる(空調スイッチ68がON位置に操作されている状態(空調装置(エアコン)の作動状態)の方が、空調装置(エアコン)を駆動するのに必要なエンジン1の動力が失われており、空調装置(エアコン)を駆動するのに必要なエンジン1の動力の分だけ、実際のエンジン1の回転数N2が低くなっている)。
【0036】
これにより、空調スイッチ68がON位置に操作されている状態(空調装置(エアコン)の作動状態)において、実際のエンジン1の回転数N2に、所定回転数N4(空調装置(エアコン)を駆動するのに必要なエンジン1の動力)が加えられて(ステップS15参照)、空調スイッチ68のON位置及びOFF位置に関係なく、前輪19及び後輪14からの走行負荷だけに基づく実際のエンジン1の回転数N2、並びに、前輪19及び後輪14からの走行負荷だけに基づく回転数差N3が検出される。
【0037】
[6]
次に、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62の押し操作による第1及び第2主変速装置10,11の操作の後半について、図5,6,7に基づいて説明する。
前項[5]に記載の状態において、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62を押し操作したとする(ステップS16,S17)。
【0038】
この場合、図7の実線A1(時点B1)に示すように、シフトアップボタン61を押し操作した場合には(ステップS16)、現在の変速位置よりも1段高速側の1〜4速クラッチ21〜24が、電磁操作弁31b〜34bにより伝動状態に操作され始める(遮断状態の作動圧から昇圧操作され始める)(第1制御手段に相当)(ステップS18)。シフトダウンボタン62を押し操作した場合には(ステップS17)、現在の変速位置よりも1段低速側の1〜4速クラッチ21〜24が、電磁操作弁31b〜34bにより伝動状態に操作され始める(遮断状態の作動圧から昇圧操作され始める)(第1制御手段に相当)(ステップS19)。
【0039】
変速レバー28を低速位置L又は高速位置Hに操作していると(ステップS20)、回転数差N3に基づいて所定低圧P3が設定されるのであり、回転数差N3が大きいほど、所定低圧P3が高圧側に設定され、回転数差N3が小さいほど、所定低圧P3が低圧側に設定される(ステップS21)(図7の実線A2参照)。
この場合、前項[5]に記載のように、空調スイッチ68のON位置及びOFF位置に関係なく、前輪19及び後輪14からの走行負荷だけに基づく実際のエンジン1の回転数N2、並びに、前輪19及び後輪14からの走行負荷だけに基づく回転数差N3が検出されているのであり、この回転数差N3に基づいて所定低圧P3が設定される。
【0040】
ステップS18,S19と略同時に図7の実線A2(時点B1)に示すように、伝動状態に操作されている低速又は高速クラッチ26,27の作動圧が、電磁比例弁38,39により伝動状態の作動圧P2から所定低圧P3に減圧操作される(ステップS22)。この場合、4速の変速位置から5速の変速位置への操作時には、低速クラッチ26の作動圧が零に減圧操作されて、高速クラッチ27の作動圧が零から所定低圧P3に昇圧操作される。逆に5速の変速位置から4速の変速位置への操作時には、高速クラッチ27の作動圧が零に減圧操作されて、低速クラッチ26の作動圧が零から所定低圧P3に昇圧操作される。
【0041】
図7の実線A1(時点B2から時点B3)に示すように、1段高速側又は1段低速側の1速〜4速クラッチ21〜24の作動圧が、電磁操作弁31b〜34bにより伝動状態の作動圧P1に昇圧操作され始める。これと同時に図7の一点鎖線A3(時点B2から時点B3)に示すように、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62の押し操作前の1速〜4速クラッチ21〜24(シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62の押し操作前に伝動状態に操作されていた1速〜4速クラッチ21〜24)の作動圧が、電磁操作弁31b〜34bにより伝動状態の作動圧P1から零に減圧操作され始める(ステップS25)。
【0042】
変速レバー28を低速位置L又は高速位置Hに操作していると(ステップS26)、図7の実線A2(時点B3から時点B4)に示すように、低速又は高速クラッチ26,27の作動圧が、電磁比例弁38,39により所定低圧P3から漸次的に昇圧操作される(ステップS27)。これにより、前述の1段高速側又は1段低速側の1速〜4速クラッチ21〜24の動力が、低速又は高速クラッチ26,27を介して伝達され始める。
【0043】
図7の実線A2の時点B4に示すように、低速又は高速クラッチ26,27の作動圧が伝動状態の作動圧P2に達したことが、圧力センサー63によって検出されると(ステップS28)、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62の押し操作による変速操作が終了したと判断されて、変速操作後の変速位置が変速表示部64に表示され(ステップS29)、ブザー71が1回だけ作動して変速操作の終了が操縦者に報知される(ステップS30)。これにより、ステップS11に移行して、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62の次の押し操作による変速操作が可能になる。
【0044】
変速レバー28を中立位置Nに操作していると、副変速装置12(シフト部材53)が中立位置に操作されているので、機体は停止している。変速レバー28を中立位置Nに操作した状態において、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62を押し操作すると(ステップS16,S17)、前述と同様に第1及び第2主変速装置10,11(1速〜4速クラッチ21〜24、低速及び高速クラッチ26,27)が、1段高速側又は1段低速側に操作され(ステップS18,S19,S25)、変速操作後の変速位置が変速表示部64に表示されて(ステップS29)、ブザー71が1回だけ作動する(ステップS30)。
この場合、機体は停止しているのでステップS22,S27のような、低速又は高速クラッチ26,27の作動圧の所定低圧P3への減圧操作、及び伝動状態の作動圧P2への昇圧操作は行われない。
【0045】
[7]
次に、変速レバー28による副変速装置12の操作について説明する。
図2に示すように、変速レバー28を中立位置Nに操作すると、副変速装置12(シフト部材53)が中立位置に操作され、変速レバー28を低速位置Lに操作すると、副変速装置12(シフト部材53)が低速位置に操作され、変速レバー28を高速位置Hに操作すると、副変速装置12(シフト部材53)が高速位置に操作される。
【0046】
例えば、前後進レバー59を前進位置Fに操作し(前進クラッチ5が伝動状態に操作され、後進クラッチ6が遮断状態に操作されている状態)、変速レバー28を低速位置L(高速位置H)に操作している状態において(操作ボタン57及びロックピン56により変速レバー28を低速位置L(高速位置H)に保持している状態)、操作ボタン57を押し操作してロックピン56をガイド板60から退入操作すると、電磁操作弁36bにより切換弁36aが排油側に操作されて、前進クラッチ5が遮断状態に操作される。
【0047】
これにより、操作ボタン57を押し操作した状態で変速レバー28を低速位置L(高速位置H)から中立位置N、高速位置H(低速位置L)に操作して、操作ボタン57を戻し操作し、ロックピン56により変速レバー28を中立位置N、高速位置H(低速位置L)に保持する。
【0048】
この場合、変速レバー28の中立位置Nにおいて操作ボタン57を戻し操作すると、電磁操作弁36bにより切換弁36aが供給側に操作され、電磁比例弁35により前進クラッチ5が直ちに伝動状態に操作される。変速レバー28の高速位置H(低速位置L)において操作ボタン57を戻し操作すると、電磁操作弁36bにより切換弁36aが供給側に操作され、電磁比例弁35により前進クラッチ5が漸次的に伝動状態に操作される。
【0049】
前後進レバー59を後進位置Rに操作した状態において(後進クラッチ6が伝動状態に操作され、前進クラッチ5が遮断状態に操作されている状態)、前述のように変速レバー28の操作ボタン57を押し及び戻し操作すると、前述と同様に後進クラッチ6が遮断及び伝動状態に操作される。
【0050】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]の図5のステップS13,S14,S15,S21において、以下のように構成してもよい。
図5のステップS13,S14,S15を削除して、空調スイッチ68のON位置及びOFF位置に関係なく、無負荷状態でのエンジン1の回転数N1と実際のエンジン1の回転数N2との回転数差N3に基づいて、所定低圧P3が設定されるように構成する。
所定低圧P3が設定された後、空調スイッチ68がOFF位置に操作されていると、所定低圧P3がそのまま使用され、空調スイッチ68がON位置に操作されていると、所定低圧P3から設定圧が引かれて(補正されて)、所定低圧P3が少し低められるように構成する(第4制御手段に相当)。この場合、空調装置(エアコン)を駆動するのに必要なエンジン1の動力が、設定圧に相当する。
【0051】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]において、空調装置(エアコン)(図示せず)に代わる負荷装置として、機体の前部に接続されるフロントローダ装置(エンジンの動力により駆動される油圧ポンプからの作動油により駆動される)(図示せず)や、機体の後部に接続されるロータリ耕耘装置(PTO軸4からの動力によって駆動される)(図示せず)を設定してもよい。
【0052】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態][発明の実施の第2別形態]において、図1に示す副変速装置12を第2主変速装置11と同様に、油圧多板式の低速クラッチ(図示せず)及び高速クラッチ(図示せず)を並列的に配置して構成し、副変速装置12の低速及び高速クラッチの各々に対して、電磁比例弁(図示せず)を備えるように構成してもよい。このように構成すると、第1及び第2主変速装置10,11、副変速装置12によって1速〜16速の変速位置が設定されることになり、シフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62を押し操作することにより、第1及び第2主変速装置10,11、副変速装置12を、1速〜16速の変速位置に操作することができるように構成する。
【0053】
[発明の実施の第4別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]〜[発明の実施の第3別形態]において、図1に示す第1及び第2主変速装置10,11は油圧クラッチ型式に構成されているが、第1及び第2主変速装置10,11を副変速装置12と同様にシフト部材(図示せず)をスライド操作するギヤ変速型式に構成し、シフト部材を油圧シリンダ(図示せず)によりスライド操作して操作するように構成してもよい。
第1及び第2主変速装置10,11が10段や6段に変速可能に構成された作業車、副変速装置12が高速位置、中速位置及び低速位置の3段に変速可能に構成された作業車にも本発明は適用できる。
本発明は、無負荷状態でのエンジン1の回転数N1と実際のエンジン1の回転数N2とに基づいて、第1及び第2主変速装置10,11が自動的に変速される作業車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ミッションケースの伝動系を示す概略図
【図2】変速レバー、シフトアップボタン及びシフトダウンボタンと各部との連係状態を示す図
【図3】前進及び後進クラッチ、第1及び第2主変速装置等の油圧回路図
【図4】前後進レバーを操作した際の制御の流れを示す図
【図5】シフトアップボタン及びシフトダウンボタンを押し操作した際の制御の前半の流れを示す図
【図6】シフトアップボタン及びシフトダウンボタンを押し操作した際の制御の後半の流れを示す図
【図7】シフトアップボタン及びシフトダウンボタンを押し操作した際の1速〜4速クラッチ、低速及び高速クラッチの状態を示す図
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン
10 走行用の変速装置
26,27 油圧クラッチ
N1 無負荷状態でのエンジンの回転数
N2 実際のエンジンの回転数
N3 回転数差
P3 所定低圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの下手側に、複数の変速位置を備えた走行用の変速装置と走行用の油圧クラッチとを直列に配置して、
変速指令に基づいて、伝動状態に操作されている前記変速装置の変速位置を遮断状態に操作し、変速指令に対応する前記変速装置の変速位置を伝動状態に操作する第1制御手段と、
変速指令に基づいて、前記油圧クラッチの作動圧を所定低圧に減圧操作し、前記油圧クラッチの作動圧を昇圧操作する第2制御手段とを備えると共に、
無負荷状態でのエンジンの回転数と実際のエンジンの回転数との回転数差を検出する検出手段を備えて、
前記検出手段で検出される回転数差が大きくなるほど、前記所定低圧を高圧側に設定する第3制御手段を備え、
機体に備えられた負荷装置又は機体に接続された負荷装置の作動及び停止状態を検出する作動検出手段を備えて、
前記作動検出手段による負荷装置の作動状態の検出に基づいて、前記負荷装置を駆動するのに必要なエンジンの動力に相当する分だけ、前記第3制御手段により設定される所定低圧を低圧側に変更する第4制御手段を備えてある作業車の走行変速構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−36347(P2009−36347A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203014(P2007−203014)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】