説明

作業車両

【課題】副変速機構が低速側に設定された状態で後進に変速設定された場合に、後進速度を大きくし、また、この場合に不快な騒音(エンジン音)の発生を低下させ、燃費が向上する作業車両を提供する。
【解決手段】作業車両において、主変速操作手段(主変速レバー11)と、該主変速操作手段(主変速レバー11)の操作量を検出する手段(角度検出手段88)と、該操作量に応じて斜板31aを回動する変速アクチュエータ86と、前記副変速機構20を切り換える副変速アクチュエータ28と、エンジン回転数変更手段(回転数変更アクチュエータ84)と、制御手段(コントローラ81)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。さらに詳しくは、油圧−機械式変速装置を備えた作業車両における変速制御の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速装置として、油圧式無段変速機構(以下、HSTと略称する)及び遊星歯車機構を組み合わせてなる油圧−機械式変速装置(以下、HMTと略称する)が知られている。該従来の変速装置は、エンジンの動力を、一方は前記遊星歯車機構に伝え、他方は前記HSTを介して前記遊星歯車機構に伝えて合成する前記HMTにおいて、走行速度が設定速度に達すると、前記HSTの斜板アクチュエータ及び電子ガバナを連動させて設定速度を維持するように構成したものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記構成においては、後進をHSTの駆動力により行うため、後進速度を大きくすることが困難である。
【0004】
そこで、油圧ポンプを駆動する出力軸の後端における第一の伝動軸に、第一の歯車を固定し、該第一の歯車は、遊星歯車機構を構成する第二の伝動軸に回転自在に挿嵌した第二の歯車と噛合し、該第二の歯車は、さらに該遊星歯車機構を構成する遊星歯車を回動自在に枢支する保持体に接続し、油圧モータの駆動軸上の第三の歯車は、前記第二の伝動軸に遊嵌された第四の歯車と噛合し、該第四の歯車は前記第二の伝動軸上に遊嵌された遊星歯車機構の太陽歯車と一体的に回動し、前記遊星歯車は第二の伝動軸側において、太陽歯車と噛合し、外側において、遊星歯車機構を構成するリング歯車の内側歯に噛合し、該リング歯車は前記第二の伝動軸に回動自在に挿嵌されており、同様に第二の伝動軸に挿嵌された正逆転機構の前後進用歯車の一方と噛合する第五の歯車と一体的に回動する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
前記技術においては、HSTを介した駆動力及びHSTを介さない駆動力を遊星歯車機構において合成することができるので、後進速度を大きくすることが可能である。
【0005】
しかしながら、上記構成においては、副変速機構が低速側に設定された状態で後進に変速設定された場合には、エンジン回転に比して後進速度を大きくすることができない。また、この場合には不快な騒音(エンジン音)が発生し燃料消費量(以下、「燃費」と略称する)も悪化する。
【特許文献1】特開2001−108061号公報
【特許文献2】特許第3868257号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、副変速機構が低速側に設定された状態で後進に変速設定された場合に、後進速度を大きくし、また、この場合に不快な騒音(エンジン音)の発生を低下させ、燃費が向上する作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、駆動源からの動力により駆動する油圧ポンプ及び前記油圧ポンプから圧送される作動油により駆動する油圧モータを具備し、前記油圧ポンプ又は前記油圧モータのうち少なくとも一方を可動斜板による可変容量型とした油圧式無段変速機構と、前記駆動源からの動力及び前記油圧モータからの動力を合成した合成動力を出力する遊星歯車機構と、を組み合わせてなる油圧−機械式変速装置を備え、前記油圧−機械式変速装置と差動機構との間の走行出力伝動系に副変速機構を介設した作業車両において、主変速操作手段と、該主変速操作手段の操作量を検出する手段と、該操作量に応じて可動斜板を回動する変速アクチュエータと、前記副変速機構を切り換える副変速アクチュエータと、エンジン回転数変更手段と、制御手段とを備え、前記主変速操作手段が後進側に操作されると、エンジン回転数を設定回転数として、前記副変速アクチュエータを高速側に切り換えるように制御したものである。
【0009】
請求項2においては、前記制御手段に、作業切換手段を接続し、該作業切換手段を後進作業位置に切り換えた場合に、前記主変速操作手段が後進側に操作されると、エンジン回転数をエンジン回転数変更手段で設定した回転とし、前記副変速アクチュエータを低速側に切り換えるように制御したものである。
【0010】
請求項3においては、前記制御手段に走行速度検出手段を接続し、走行速度が設定速度以上となると、可動斜板の角度を設定角度、または、エンジン回転数を設定回転数に維持するように制御したものである。
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1においては、車両は後進時にエンジン回転数が設定した低い回転数で、副変速機構が高速側で走行するので、副変速機構が低速側に設定されたまま高い回転数で走行する場合と略同様の走行速度で走行することが可能となる、また、騒音(エンジン音)の軽減ができ、さらには燃費の向上が図れる。
【0013】
請求項2においては、後進しながら作業を行う場合に、高速走行とならず、設定した回転数で作業を行うことができる。
【0014】
請求項3においては、後進時に速くなり過ぎることがなく、安心して後進しながら作業ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る作業車両の側面図、図2は遊星歯車機構及び副変速機構の構成を示す展開図、図3は作業車両の駆動構成を示すスケルトン図、図4はHMTの構成を示すスケルトン図、図5は変速機構の制御構成を示す図、図6は変速機構の制御方法を示すフローチャート図、図7は別実施例を示すフローチャート図、図8は本発明の一実施例における副変速機構の変速設定を示す図、図9は制御構成を示すブロック図、である。
【0016】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
まず、本発明に係る作業車両の実施の一形態であるトラクタ1の全体構成について図1を用いて説明する。なお、本発明に係る作業車両は本実施例で説明する農業用車両であるトラクタに限らず、ローダやバックホー等の種々の作業車両にも広く利用可能である。
【0018】
図1に示すように、トラクタ1は、ロータリ等の耕耘装置やローダ等の作業機を用いて種々の作業を行う作業車両である。トラクタ1は、主として機体フレーム2、エンジン3、ボンネット4、トランスミッションケース5、キャビン6、前輪8・8、後車軸5a・5a、後輪9・9等が具備される。
【0019】
機体フレーム2は、トラクタ1の主たる構造体となるものである。機体フレーム2は、長手方向を前後方向として、複数の板材等により構成される。
【0020】
エンジン3は、トラクタ1が駆動するための動力を発生する駆動源となるものであり、機体フレーム2の前部に具備される。
【0021】
ボンネット4は、エンジン3等の機器を覆うものであり、機体フレーム2の前部に具備される。ボンネット4は、機体フレーム2前部に具備されるエンジン3等の機器を覆うように構成される。
【0022】
トランスミッションケース5は、エンジン3により発生された動力を変速する変速機構を収納するものであり、機体フレーム2の後部に具備される。トランスミッションケース5の左右両側方には、それぞれ後車軸5a・5aが突設される。後車軸5a・5aは、前記変速機構により変速された動力により回転駆動される。
【0023】
キャビン6は、操縦者が乗車する空間を覆うものであり、機体フレーム2の前後略中央から後部にかけて具備される。キャビン6内には、ハンドル6a、座席6b等が具備される。
【0024】
ハンドル6aは、トラクタ1を操向操作するものであり、キャビン6内の前部に具備される。座席6bは、操縦者が着座するものであり、ハンドル6aの後方に具備される。座席6bの側部には主変速レバー11、副変速レバー12等が突設される。
【0025】
また、エンジン3の駆動力はトランスミッションケース5の後端から突出したPTO軸10に伝達されて、該PTO軸10から図示せぬユニバーサルジョイント等を介して機体後端に作業機装着装置を介して装着した作業機を駆動するように構成される。そして、前記座席6b前下方のステップ上にはブレーキペダルや主クラッチペダルやデフロックペダル等が配設される。
【0026】
次に、図2乃至図5を用いて、HMT27の構成について説明する。
HMT27は、図3に示すようにHST21及び遊星歯車機構22が組み合わされて構成される。
【0027】
図4に示すようにHST21には、可変容量型の油圧ポンプ31及び固定容量型の油圧モータ32が備えられており、油圧ポンプ31の斜板31aはモータまたはソレノイドまたはシリンダ等の変速アクチュエータ86と接続され(図5参照)、該斜板31aの角度を変更することにより吐出量及び吐出方向の変更が可能となる。
【0028】
なお、本実施例のHST21では油圧ポンプ31を可変容量型とし、油圧モータ32は固定容量型としているが、この構成に限るものではない。具体的には、油圧ポンプ31を固定容量型とし油圧モータ32を可変容量型とするか、または油圧ポンプ31及び油圧モータ32の双方を可変容量型とする構成でも本発明を適用することができる。
【0029】
HST21の油圧ポンプ31の回転軸心に出力軸25が貫通しており、該出力軸25は駆動源であるエンジン3からの動力を該油圧ポンプ31に伝達されるとともに、遊星歯車機構22に伝達し、さらには図示せぬPTOクラッチ、PTO変速機構等を介してPTO軸10へも動力が伝達される。
【0030】
トランスミッションケース5には、エンジンの出力軸25、駆動軸68、伝動軸52等が水平で前後方向に配設され、それぞれ回動自在に支持される。また、トランスミッションケース5内には遊星歯車機構22が設けられる。遊星歯車機構22は前記HST21の後方に配設され、後述するサンギヤ60、プラネタリギヤ58、リング歯車59、キャリア50等より構成される。
【0031】
一方、駆動源となるエンジン3と、副変速機構20との間には動力の伝達を断接し、かつ、HST21による変速と、HMT27による変速とを切り換えるクラッチ61が配設される。
【0032】
クラッチ61は第一の油圧クラッチ61a及び第二の油圧クラッチ61bにより構成される。即ち、伝動軸52にはリング歯車59のボス部と歯車66とが遊嵌され、リング歯車59のボス部と伝動軸52との間には第一の油圧クラッチ61aが、歯車66と伝動軸52との間には第二の油圧クラッチ61bが、それぞれ介在する。
【0033】
前記二つの油圧クラッチ61a・61bは、HST21またはHMT27による変速を切り換えるために用いられ、該切り換えに応じて二つの油圧クラッチ61a・61bのうちいずれか一方を係合させ他方を係合解除させることにより、リング歯車59または歯車66のいずれか一方を介して伝動軸52に動力が伝達され、副変速機構20に動力が伝達される。なお、クラッチペダルを踏むと二つの油圧クラッチ61a・61bは「断」となる。
【0034】
また、前記出力軸25はHST21の油圧ポンプ31を貫通してトランスミッションケース5内に延出され、該延出部分上に入力歯車54が外嵌される。該入力歯車54とキャリア50の前部外周面に形成した歯車55とが噛合して、キャリア50が回転される。
【0035】
次に、図2及び図3を用いて副変速機構20について説明する。
副変速機構20は、伝動軸24を介して高速側、低速側の2段を後述する副変速アクチュエータ28、本実施例では油圧動作により選択噛合するシンクロメッシュギヤ式の変速装置である。
【0036】
前記伝動軸52の後部にはカップリングを介して伝達軸24が連結されており、該伝達軸24の後部に副変速機構20の高速側及び低速側の二つの歯車20a・20bが固定される。歯車20a・20bは、伝達軸24と平行に配設された副変速軸77上に遊嵌された歯車26a・26bとそれぞれ噛合し、互いに異なる回転数で駆動される。そして、副変速軸77に設けられた副変速クラッチ19を操作することにより、いずれか一方の回転駆動力を副変速軸77に伝達して、副変速機構20が構成される。
なお、当該変速装置はシンクロメッシュ式に限定されるものでなく、油圧クラッチ式など油圧動作によりスムースに変速制御が可能なものであれば良い。
【0037】
また、副変速軸77の後端にはベベルギア23が形設され、該ベベルギア23を介して作動機構であるデフ機構17に動力が伝達されるように構成される。
【0038】
図3、図4を用いて以上の構成におけるトランスミッションにおいて、HMT/HSTでの各駆動における走行系の駆動伝達構成を説明する。
【0039】
HST21での駆動としたときの駆動伝達構成について説明する。
HSTでの駆動においては前記二つの油圧クラッチ61a・61bのうち第二の油圧クラッチ61bが係合され、第一の油圧クラッチ61aは係合を解除される。
【0040】
前述のとおり油圧モータ32の駆動軸68上に固設された歯車63と前記伝動軸52上に遊嵌され歯車66には噛合されているので、第二の油圧クラッチ61bが「接」となることにより駆動軸68の回転出力が伝動軸52に伝達される。この動力は副変速軸77を経て後輪9に伝達され、車両が駆動する。
【0041】
次に、HMT27での駆動としたときの駆動伝達構成について説明する。
HMT27での駆動においては前記二つの油圧クラッチ61a・61bのうち第一の油圧クラッチ61aは係合され、第二の油圧クラッチ61bは係合を解除される。
【0042】
エンジン3に連結された出力軸25に固設した入力歯車54が、前記キャリア50に形成された歯車55に噛合しているので、出力軸25の回転出力が遊星歯車機構22のキャリア50に伝達される。一方、駆動軸68の回転出力によって、駆動軸68上のモータ側入力歯車56とサンギヤ60の前部に固設した歯車57とが噛合してサンギヤ60が回転駆動される。従って、前記キャリア50に支持され、更に前記サンギヤ60に噛合しているプラネタリギヤ58には、キャリア50及びサンギヤ60双方の回転が合成されて伝達され、該合成された駆動力が、該プラネタリギヤ58に噛合するリング歯車59に伝達される。
【0043】
そして、HMT27での駆動においては前記第一の油圧クラッチ61aが係合するよう制御されるので、リング歯車59の回転動力が伝動軸52に伝達される。伝動軸52の動力は副変速軸77を経て後輪9に伝達され、車両が駆動する。
【0044】
次に、図5及び図9を用いてトラクタ1の走行及び変速制御について説明する。
トラクタ1の走行制御は、制御手段としてのコントローラ81により行われるものである。
【0045】
図9に示すように、コントローラ81には、エンジン3の回転数を制御する回転数変更アクチュエータ(本実施例では電子ガバナのラックアクチュエータ)84、エンジン3の出力軸25の回転数を検出する回転数検出手段85、主変速操作手段としての主変速レバー11の回動位置(変速位置)を検出するポテンションメータ等より構成される角度検出手段88、副変速レバー12の変速位置を検知するポテンションメータやスイッチ等より構成される副変速位置検出手段(本実施例では高速位置及び低速位置を検出するレバー)90、油圧モータ32の出力回転を検出するためにモータ側入力歯車56の回転を検出する回転数検出手段80、走行速度を検出する走行速度検出手段89、油圧ポンプ31の斜板の角度を変更するモータまたはソレノイドまたはシリンダ等よりなる変速アクチュエータ86、HMTあるいはHSTでの駆動を切り換えるための前記二つの油圧クラッチ61a・61bの切断を行う電磁弁82・83、副変速機構20の高速側、低速側への変速の切り換えを行う副変速アクチュエータ28、が接続されている。
【0046】
そして、車両を走行させる場合には、図示せぬアクセルレバーによりエンジン回転数を設定して、主変速レバー11を回動させる。該主変速レバー11はコントローラ81を介して変速アクチュエータ86を駆動させるものであり、該主変速レバー11の回動量に応じて斜板31aの傾斜角が回動され、傾斜角度が大きいほど車速が早くなる。また、斜板31aの傾斜角度を逆にすることで、車両は後進することになる。
【0047】
次に、本実施例に係る変速制御の一例について説明する。
操縦者が副変速レバー12を操作することにより低速、または高速が選択され、その変速位置は副変速位置検出手段90により検出され、その検出信号に応じて副変速アクチュエータ28が作動され、副変速機構20が低速側、または高速側に変速される。
【0048】
そして、主変速操作手段としての主変速レバー11が前進側に変速操作されると、主変速レバー11の回動位置(変速位置)がポテンションメータ等より構成される角度検出手段88により検出され、その検出信号に応じて変速アクチュエータ86が作動され、斜板31aが回動される。該斜板31aの回動により油圧モータ32の駆動軸68が正回転され、副変速軸77を経て後輪9に伝達され、車両が前進駆動される。なおこのとき、第二の油圧クラッチ61bが「接」となっており、走行速度が走行速度検出手段89により検出される。
【0049】
そして、図8に示すように、例えば副変速機構20が低速側で、主変速レバー11が更に高速側に操作され、走行速度が設定速度V1(高速側ではV2)になると、第二の油圧クラッチ61bが「断」となり、第一の油圧クラッチ61aが「接」となり、変速アクチュエータ86は逆方向に作動され、斜板31aも逆方向に回動され、走行速度が増速される。そして、減速するために主変速レバー11が低速側に回動されると、斜板31aも逆方向に回動され、走行速度が設定速度V1になると、第二の油圧クラッチ61bが「接」となり、第一の油圧クラッチ61aが「断」となる。
【0050】
そして、主変速レバー11を中立位置に戻すと機体は停止され、第一の油圧クラッチ61aと第二の油圧クラッチ61bが「断」とされる。
【0051】
また、図6に示すように、車両進行時(S1)に主変速レバー11が後進側に変速操作(S2)されると、エンジン3の出力軸25の回転数(エンジン回転数)が回転数検出手段85によって検出(S3)され、検出されたエンジン回転数が設定回転数以上であるならば(S4)、制御手段としてのコントローラ81が回転数変更アクチュエータ84を作動させて、設定回転まで前記エンジン回転数を下げる(S5)。なお、この設定回転数とはアイドル回転よりも高く、副変速機構20が高速位置でもエンストが生じず安全に走行できる回転数である。
【0052】
次に、副変速位置検出手段90により検出(S6)された副変速機構20の変速位置が低速側であれば(S7)、副変速レバー12が低速位置のままで、副変速アクチュエータ28が作動して、副変速機構20の変速位置を低速側から高速側に切り換える(S8)。副変速レバーが高速位置のときは、副変速アクチュエータ28は高速側を維持する。そして、主変速レバー11の回動位置(変速位置)がポテンションメータ等より構成される角度検出手段88から検出(S9)され、この検出位置に応じた走行速度になるように、斜板31aが回動される(S10)。
【0053】
以上のように構成することにより、図8の実線部分にて示すように、車両は後進時にエンジン回転数を設定した低い回転数で、副変速機構20が高速側で走行する。よって、副変速機構20が低速側に設定されたまま高い回転数で走行する場合と略同様の走行速度で走行することが可能となり、騒音(エンジン音)の軽減ができ、さらには燃費の向上が図れる。
【0054】
更に、後進で作業を行わない場合について説明したが、後進しながら作業を行うことができる。即ち、後進時に作業を行う際に切換操作を行う作業切換レバー93及び該作業切換レバー93の変速位置を検知するスイッチ等により構成される作業切換検出手段92がキャビン6内の運転操作部に設けられ、制御手段としてのコントローラ81と接続される(図5及び図9参照)。
【0055】
そして、図7に示すように、作業切換検出手段92により検出(S20)された作業切換位置が後進作業位置に作業切換レバー93により切り換えられ(S21)、主変速レバー11が後進側に変速されると、エンジン回転数が作業回転数(高速回転)に設定(S22)され、副変速位置検出手段90により検出(S23)された変速位置が低速側でなければ(S24)、副変速機構20が副変速アクチュエータ28により自動的に低速側に変速(S25)されるように構成される。副変速レバー11が低速位置のときは、副変速アクチュエータ28は低速側を維持する。
【0056】
以上のように構成することにより、車両が後進時に作業を行う場合には、副変速機構20を低速側に変速して、車両が高速で後進作業を行わないようにすることも可能である。
【0057】
更に、後進作業時に、誤ってエンジン回転数の変更手段としての回転数変更アクチュエータ84が高回転側に回動されるおそれがあり、また、主変速レバー11あるいは作業切換レバー93が誤って操作される場合もあるため、走行速度検出手段89により検出(S26)された走行速度が設定された走行速度に達すると(S27)、その速度が維持されるように、エンジン回転数が設定回転数、または可動斜板の角度を設定角度として変速位置が維持される(S28)ように制御されている。
【0058】
以上のように、エンジン3(駆動源)からの動力により駆動する油圧ポンプ31及び前記油圧ポンプ31から圧送される作動油により駆動する油圧モータ32を具備し、前記油圧ポンプ31又は前記油圧モータ32のうち少なくとも一方を斜板31aによる可変容量型とした油圧式無段変速機構(HST21)と、前記駆動源からの動力及び前記油圧モータ32からの動力を合成した合成動力を出力する遊星歯車機構22と、を組み合わせてなる油圧−機械式変速装置(HMT27)を備え、前記油圧−機械式変速装置(HMT27)と差動機構(デフ機構17)との間の走行出力伝動系に副変速機構20を介設した作業車両において、主変速操作手段(主変速レバー11)と、該主変速操作手段(主変速レバー11)の操作量を検出する手段(角度検出手段88)と、該操作量に応じて斜板31aを回動する変速アクチュエータ86と、前記副変速機構20を切り換える副変速アクチュエータ28と、エンジン回転数変更手段(回転数変更アクチュエータ84)と、制御手段(コントローラ81)とを備え、前記主変速操作手段(主変速レバー11)が後進側に操作されると、エンジン回転数を設定回転数として、前記副変速アクチュエータ28を高速側に切り換えるように制御したので、後進時の回転数が自動的に減少されて、騒音を低下し、燃費が向上し、遅すぎない走行速度で後進することができる。
【0059】
また、前記制御手段(コントローラ81)に、作業切換手段(作業切換レバー93)を接続し、該作業切換手段(作業切換レバー93)を後進作業位置に切り換えた場合に、前記主変速操作手段(主変速レバー11)が後進側に操作されると、エンジン回転数をエンジン回転数変更手段(回転数変更アクチュエータ84)で設定した回転とし、前記副変速アクチュエータ28を低速側に切り換えるように制御したので、後進しながら作業を行う場合に、高速走行とならず、設定した回転数で作業を行うことができる。
【0060】
また、前記制御手段(コントローラ81)に走行速度検出手段89を接続し、走行速度が設定速度以上となると、斜板31aの角度を設定角度、または、エンジン回転数を設定回転数に維持するように制御したので、後進時に速くなり過ぎることがなく、安心して後進しながら作業ができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施例に係る作業車両の側面図。
【図2】遊星歯車機構及び副変速機構の構成を示す展開図。
【図3】作業車両の駆動構成を示すスケルトン図。
【図4】HMTの構成を示すスケルトン図。
【図5】変速機構の制御構成を示す図。
【図6】変速機構の制御方法を示すフローチャート図。
【図7】別実施例を示すフローチャート図。
【図8】本発明の一実施例における副変速機構の変速設定を示す図。
【図9】制御構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0062】
1 トラクタ
20 副変速機構
22 遊星歯車機構
24 伝動軸
25 出力軸
27 HMT
31 油圧ポンプ
32 油圧モータ
50 キャリア
58 プラネタリギヤ
59 リング歯車
60 サンギヤ
61 クラッチ
77 副変速軸
81 コントローラ
86 変速アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力により駆動する油圧ポンプ及び前記油圧ポンプから圧送される作動油により駆動する油圧モータを具備し、
前記油圧ポンプ又は前記油圧モータのうち少なくとも一方を可動斜板による可変容量型とする油圧式無段変速機構と、
前記駆動源からの動力及び前記油圧モータからの動力を合成した合成動力を出力する遊星歯車機構と、を組み合わせてなる油圧−機械式変速装置を備え、
前記油圧−機械式変速装置と差動機構との間の走行出力伝動系に副変速機構を介設する作業車両において、
主変速操作手段と、
該主変速操作手段の操作量を検出する手段と、
該操作量に応じて可動斜板を回動する変速アクチュエータと、
前記副変速機構を切り換える副変速アクチュエータと、
エンジン回転数変更手段と、
制御手段とを備え、
前記主変速操作手段が後進側に操作されると、エンジン回転数を設定回転数として、前記副変速アクチュエータを高速側に切り換えるように制御する、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記制御手段に、作業切換手段を接続し、
該作業切換手段を後進作業位置に切り換える場合に、前記主変速操作手段が後進側に操作されると、エンジン回転数をエンジン回転数変更手段で設定する回転数とし、前記副変速アクチュエータを低速側に切り換えるように制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御手段に走行速度検出手段を接続し、走行速度が設定速度以上となると、可動斜板の角度を設定角度、または、エンジン回転数を設定回転数に維持するように制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−71336(P2010−71336A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237195(P2008−237195)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】