説明

作業車

【課題】無段変速装置側の破損等を防止しながら直進補正制御を行う作業車を提供することを課題としている。
【解決手段】走行機体1に設けられた左右の走行装置2L,2Rを駆動する無段変速装置を左右の走行装置2L,2Rに各々対応させて設け、走行速度の設定を行う変速レバー13と両走行装置2L,2Rとの間に、変速レバー13の操作に応じて両無段変速装置を作動させる作動制御手段14を設け、走行機体1を直進走行させる操作状態で、変速レバー13の操作位置が、予め定められた所定位置より高速側に設定されると、走行機体1を直進させるように少なくとも一方の無段変速装置を補正作動させる直進補正手段の作動停止又は直進補正手段による補正範囲の制限を行う補正規制手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の走行装置を備え、各走行装置毎に駆動用の無段変速装置を設けた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
走行機体に、左右の走行装置と、走行速度の設定を行う変速レバーとを設け、左右の走行装置を駆動する無段変速装置を左右の走行装置に各々対応させて設け、変速レバーと両走行装置との間に、変速レバーの操作に応じて両無段変速装置を作動させる作動制御手段を設け、走行機体を直進させるように少なくとも一方の無段変速装置を補正作動させる直進補正手段を設けた作業車(コンバイン)が公知となっている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−129928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記コンバインの直進補正手段は、直進時左右走行部の速度に差があると、右側の走行装置(右走行部)の速度を左走行部の速度に一致させるようにリニアアクチュエータを作動させ、走行機体を直進させる。
【0004】
このため例えば最高速度近傍で前方又は後方に向かって走行機体が直進する場合、右走行部の速度が左走行部に対して遅いと、リニアアクチュエータの駆動によって油圧ポンプ(可変流量制御ポンプ)を右側の油圧モータ(右走行部)が増速する方向に補正し、油圧モータの最大速度を越えるような速度に調節する補正作動を行おうとする。この場合最悪油圧モータや可変流量制御ポンプ側を破損する等の不都合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の作業車は、走行機体1に、左右の走行装置2L,2Rと、走行速度の設定を行う変速レバー13とを設け、左右の走行装置2L,2Rを駆動する無段変速装置を左右の走行装置2L,2Rに各々対応させて設け、変速レバー13と両走行装置2L,2Rとの間に、変速レバー13の操作に応じて両無段変速装置を作動させる作動制御手段14を設け、走行機体1を直進させるように少なくとも一方の無段変速装置を補正作動させる直進補正手段を設けた作業車において、走行機体1を直進走行させる操作状態で、変速レバー13の操作位置が、予め定められた所定位置より高速側に設定されると、直進補正手段の作動停止又は直進補正手段による補正範囲の制限を行う補正規制手段を設けたことを第1の特徴としている。
【0006】
第2に補正規制手段の作動基準となる変速レバー13の操作位置を各個体毎に設定する設定手段を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
以上のように構成される本発明の構造によると、走行機体を直進走行させる操作状態で、変速レバーの操作位置が、予め定められた所定位置より高速側に設定されると、補正規制手段によって直進補正手段の作動停止又は直進補正手段による補正範囲の制限が行われる。
【0008】
これにより予め定められている無段変速装置の高速側の作動限界を越えて補正しようとする補正作動を規制することができ、直進補正手段の作動により無段変速装置側を破損する等の不都合を防止することができる。
【0009】
補正規制手段の作動基準となる変速レバーの操作位置を各個体毎に設定する設定手段を設けることによって、各個体毎に存在する精度誤差等に対応して補正規制手段の作動基準となる変速レバーの操作位置が設定され、各作業車各々において直進補正手段の作動規制を設計どおりに作動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1,図2は本発明を採用した作業車であるトラクタの側面図及び正面図である。トラクタの走行機体1は左右の下方にクローラタイプの走行装置2L,2Rを備えている。各走行装置2L,2Rは、駆動スプロケット3とアイドラ4との間にクローラ6が巻き回された構造となっている。各駆動スプロケット3内には、図3のモデル図に示されるように、各々油圧モータ5L,5Rが内装されている。
【0011】
各油圧モータ5L,5Rには、各々に対して油圧ポンプ7L,7Rが設けられている。左側の油圧モータ5Lと左側の油圧ポンプ7Lとによって左側の走行装置2L用の油圧無段変速装置(HST)が構成されている。右側の油圧モータ5Rと右側の油圧ポンプ7Rとによって右側の走行装置2R用のHSTが構成されている。
【0012】
左右の走行装置2L,2Rは、各々に対応する別々のHSTによって独立して駆動される。具体的には各々対応する油圧モータ5L,5Rの回転によって各々対応するクローラ6L,6Rが回転する。走行機体1はクローラ6の回転によって走行する。
【0013】
左右の油圧ポンプ7L,7Rには、揺動操作によって対応する油圧モータ5L,5Rの変速操作を行うポンプレバー9L,9Rが設けられている。ポンプレバー9L,9Rの揺動操作によって油圧モータ5L,5Rの変速が行われ、対応する走行装置2L,2Rの駆動速度(クローラ6の回転速度)が変速される。
【0014】
ポンプレバー9L,9Rの揺動角度を、ニュートラル(0)から走行機体1が前進する方向に増加させると、ポンプレバー9L,9Rの所定角度揺動後に、前進方向(走行機体1が前進する方向にクローラ6L,6Rを回転させる方向)に、所定の最高回転数まで揺動角度の増加に伴い回転数が増加する。油圧モータ5L,5Rの回転数が最高回転数となると、ポンプレバー9L,9Rの揺動角度が増加しても油圧モータ5L,5Rの回転数が増加することはない。
【0015】
図4は左側の油圧モータ5Lの回転数とポンプレバー9Lの揺動角度との関係を示すグラフ図である。右側の油圧モータ5Rの回転数とポンプレバー9Rの揺動角度との関係も同様である。
【0016】
ポンプレバー9L,9Rは、前進増速側の機械的なストッパによって揺動限界が定められている。油圧モータ5Lは、ポンプレバー9Lの揺動限界までの揺動より手前の揺動角度において前進側の最高回転数に達する。
【0017】
ポンプレバー9L,9Rをニュートラルから上記と反対方向に揺動させることによって、油圧モータ5L,5Rは、回転方向が上記前進方向と反対の後進方向(走行機体1が後進する方向にクローラ6L,6Rを回転させる方向)になる以外は同様の作動を行う。このためポンプレバー9L,9Rは、後進増速側の機械的なストッパによって揺動限界が定められている。
【0018】
上記のようにポンプレバー9L,9RはHSTの変速操作部となっている。走行機体1は、左右の走行装置2L,2Rが同一速度で駆動されることによって直進する。左側の走行装置2Lの駆動速度と右側の走行装置2Rの駆動速度とに差がある場合、走行機体1は駆動速度が小さい側に旋回する。
【0019】
走行機体1の運転席内には、旋回操作可能なステアリングハンドル12と、前後揺動可能な主変速レバー13とが設けられている。ステアリングハンドル12及び主変速レバー13は油圧ポンプ7L,7Rの操作ユニット14に連結接続されている。操作ユニット14には、左右のポンプレバー9L,9Rを各々操作する左右のワイヤ16L,16Rが設けられている。
【0020】
左側のワイヤ16Lはインナ17Lとアウタ18Lとからなる。右側のワイヤ16Rはインナ17Rとアウタ18Rとからなる。左側のインナ17Lの端部は、左側のポンプレバー9Lに連結されている。右側のインナ17Rの端部は、右側のポンプレバー9Rに連結されている。
【0021】
左右の両アウタ18L,18Rの油圧ポンプ7L,7R側は、各々別々の左右の支持体19L,19Rによって支持されている。操作ユニット14は、ステアリングハンドル12の左又は右への旋回操作及び主変速レバー13の前後揺動操作に応じて左右のインナ17L,17Rを操作する。
【0022】
設計上操作ユニット14は、主変速レバー13の前後揺動操作時に、左右のインナ17L,17Rを、左右両方同時に同方向に同量操作する。これにより主変速レバー13の揺動角度(ポジション)に応じて走行機体1の走行速度が設定調節され、左右のポンプレバー9L,9Rが同じ方向に同じ角度揺動されて走行速度が変速される。
【0023】
操作ユニット14は、ステアリングハンドル12の旋回操作に応じて一方のインナ17L又は17Rを操作する。インナ17L,17Rの操作量は、主変速レバー13の揺動角度及びステアリングハンドル14の切れ角(旋回角)に対して比例的に増減する。
【0024】
ステアリングハンドル12の位置をセンタ(中立位置)に合わせると、ステアリングハンドル12の旋回操作に基づくインナ17L又は17Rの操作が行われないため、左右の走行装置2L,2Rが同速で駆動され、走行機体1が前方又は後方に向かって直進する。ステアリングハンドル12を左又は右に旋回操作すると、ステアリングハンドル12の切れ角に対して比例的にインナ17L又は17Rが操作され、左側の走行装置2L又は右側の走行装置2Rの駆動速度が減速され、走行機体1が左又は右に旋回する。
【0025】
上記走行系を備えた本トラクタは、油圧や機械的な誤差、走行負荷、両モータ5L,5Rの回転誤差等に応じて発生する両走行装置2L,2Rの駆動速度の誤差により、直進性が低下する場合がある。特に圃場での作業走行時等においては、左右のクローラ6L,6R側への負荷変動による直進性悪化の可能性が高い。
【0026】
これに対して本トラクタには、走行機体1を直進させるように、一方(本実施形態においては左側)のワイヤ16Lを介して一方(左側)の油圧ポンプ7Lを自動的に微調節する直進補正手段が備えられている。
【0027】
左側のワイヤ16Lのアウタ18Lを支持する前述の支持体19Lには、ロッド21が電動で伸縮される電動シリンダ22がアクチュエータとして連結されている。電動シリンダ22は走行機体1側に取り付けられている。電動シリンダ22を駆動することによって支持体19Lの位置が移動し、アウタ18Lの支持位置が変更される。
【0028】
支持体19Lの位置移動によるアウタ18Lの支持位置変更によって、左側の油圧ポンプ7Lのポンプレバー9Lの揺動角度が変更される。電動シリンダ22は、ロッド21の伸縮によって、アウタ18Lを支持位置を、基準の支持位置(基準位置)を中心に、油圧モータ5L(クローラ6L)の回転が前進増速方向(後進減速方向)と前進減速方向(後進増速方向)とに調節されるように変更する。
【0029】
油圧モータ5Lが、走行機体1を前進させる方向に回転している場合は、前進増速方向への調節によって、クローラ6Lの回転速度が前進方向に増速し、前進減速方向への調節によって、クローラ6Lの回転速度が前進方向に減速する。
【0030】
走行機体1の前進と後進は、油圧モータ5L,5Rの逆回転によって切り換えられて行われるため、油圧モータ5Lが、走行機体1を後進させる方向に回転している場合は、後進増速方向(前進減速方向)への調節によって、クローラ6Lの回転速度が後進方向に増速し、後進減速方向(前進増速方向)への調節によって、クローラ6Lの回転速度が後進方向に減速する。
【0031】
電動シリンダ22は、図5に示されるように、走行制御用の制御装置であるマイコンユニット23によって駆動制御されている。マイコンユニット23の入力側には、左右のクローラ6L,6Rの回転速度を検出する左右の駆動回転センサ25L,25Rと、主変速レバー13の揺動角度を検出する主変速センサ28と、ステアリングハンドル12の旋回方向と旋回角度(切れ角)を検出するステアリングセンサ29と、電動シリンダ22のロッド21の位置を検出するアクチュエータ位置センサ31とが接続されている。本電動シリンダ22はロッド21の移動量に応じてパルスを出力する構造となっており、該パルス出力もマイコンユニット23に入力されている。
【0032】
上記マイコンユニット23側には、ステアリングハンドル12の位置がセンタ(中立位置)の場合に、走行機体1を直進させるように電動シリンダ22を駆動する直進補正プログラムが記憶されている。マイコンユニット23は、直進補正プログラムに基づき作動すると、ステアリングハンドル12が中立状態の場合、左側のクローラ6Lの回転速度が右側のクローラ6Rの回転速度に等しくなるように電動シリンダ22を作動させる補正信号を電動シリンダ22に対して出力する。
【0033】
電動シリンダ22の作動によって左側のクローラ6Lの回転速度を右側のクローラ6Rの回転速度に一致させることによって走行機体1の直進が維持される。マイコンユニット23は直進補正プログラムに基づき作動することによって上記補正信号を出力する補正制御装置として機能する。該補正制御装置,電動シリンダ22,支持体19Lによって前述の直進補正手段が構成されている。
【0034】
なお後述するように主変速レバー13のポジションとして、図6のモデル図に示されるA,B,C,Dの4ポジションが予め定められる。主変速レバー13は、中央のニュートラル位置から前方への揺動によって走行機体1を前進させ、ニュートラル位置から後方への揺動によって走行機体1を後進させるように操作ユニット14に連係されている。主変速レバー13のポジションは、主変速センサ28により検出することができる。
【0035】
主変速レバー13を前進方向への揺動限界ポジションMaxに位置させた時のポンプレバー9L,9Rの揺動位置は、図4に示されるように、ポンプレバー9L,9Rの前進側の揺動限界位置より手前(ニュートラル側)に対応するように設定されている。
【0036】
主変速レバー13を後進方向への揺動限界ポジションMinに位置させた時のポンプレバー9L,9Rの揺動位置は、ポンプレバー9L,9Rの後進側の揺動限界位置より手前(ニュートラル側)に対応するように設定されている。
【0037】
ポジションAは、揺動限界ポジションMaxよりニュートラル側であって、ポンプレバー9L,9Rが油圧モータ5L,5Rを前進側の最高回転数とする揺動角度の範囲内となる所定のポジションである。ポジションBは、ポジションAよりニュートラル側であって、ポンプレバー9L,9Rが油圧モータ5L,5Rを前進側の最高回転数とするまでの揺動角度の範囲内となる所定のポジションである。
【0038】
ポジションDは、揺動限界ポジションMinよりニュートラル側であって、ポンプレバー9L,9Rが油圧モータ5L,5Rを後進側の最高回転数とする揺動角度の範囲内となる所定のポジションである。ポジションCは、ポジションDよりニュートラル側であって、ポンプレバー9L,9Rが油圧モータ5L,5Rを後進側の最高回転数とするまでの揺動角度の範囲内となる所定のポジションである。
【0039】
補正制御装置(マイコンユニット23)は、図7に示される直進補正制御フローチャートに従って前述の補正信号を出力する。以下直進補正制御のフローについて説明する。ステアリングセンサ29からの情報に基づき走行機体1を直進させる操作、つまりステアリングハンドル12をセンタに位置させている場合は、マイコンユニット23が本直進補正制御に入る。
【0040】
まずステップS1において、駆動回転センサ25L,25Rや主変速センサ28からの出力に基づき走行機体1が前進しているか否かをチェックする。ステップS1において走行機体1が前進している場合は、ステップS2に進み、駆動回転センサ25L,25Rからのデータの基づき右側のクローラ6Rの回転速度が左側のクローラ6Lに比較して高速か否かをチェックする。
【0041】
右側のクローラ6Rの回転速度が左側のクローラ6Lの回転速度に比較して高速である場合は、ステップS3に進み、主変速レバー13のポジションが、ポジションAを越える前進ポジションにあるか否かをチェックする。主変速レバー13のポジションが、ポジションAを越えている場合は、ステップS4に進み、補正信号の出力を停止する。
【0042】
ステップS3において、主変速レバー13のポジションが、ニュートラルからポジションAまでの範囲内(ポジションAを越える前進範囲内にない)場合は、ステップS5に進み、アウタ18Lの支持位置をチェックする。
【0043】
ステップS5においてアウタ18Lの支持位置が、油圧モータ5Lの前進増速側に移動している場合は、ステップS6に進み、主変速レバー13のポジションが、ポジションBを越える前進ポジションにあるか否かをチェックする。主変速レバー13のポジションが、ポジションBを越えている場合は、ステップS4に進み、補正信号の出力を停止する。
【0044】
ステップS5においてアウタ18Lの支持位置が、基準位置より油圧モータ5Lの前進減速側に移動している場合、及びステップS6において主変速レバー13のポジションが、ニュートラルからポジションBまでの範囲内(ポジションBを越える範囲内にない)場合は、ステップS7に進み、油圧モータ5Lを前進増速側に調節する補正信号を電動シリンダ22に対して出力する。
【0045】
以上のように前進時に右側のクローラ6Rの回転速度が左側のクローラ6Lに比較して速い場合は、走行機体1の走行速度が、主変速レバー13がポジションBに位置する時の速度以下に設定されていると、左側のクローラ6Lの回転速度を前進増速方向に自由に増加させるように直進補正が行われる。
【0046】
主変速レバー13のポジションがポジションBからポジションAまでの範囲に設定されている場合は、アウター18Lの支持位置が油圧モータ5Lの前進減速側の範囲から基準位置までの範囲でのみ上記直進補正が行われる。主変速レバー13のポジションがポジションAを越える前進ポジション範囲に設定されている場合は、直進補正が作動しない。
【0047】
ステップS2において、右側のクローラ6Rの回転速度が左側のクローラ6Lの回転速度に比較して高速ではない場合は、ステップS8に進み、左側のクローラ6Lの回転速度が右側のクローラ6Rの回転速度に比較して高速か否かをチェックする。
【0048】
ステップS8において左側のクローラ6Lの回転速度が右側のクローラ6Rの回転速度に比較して高速である場合は、ステップS9に進み、主変速レバー13のポジションが、ポジションAを越える前進ポジションにあるか否かをチェックする。主変速レバー13のポジションが、ポジションAを越えている場合は、ステップS10に進み、補正信号の出力を停止する。
【0049】
ステップS9において、主変速レバー13のポジションが、ニュートラルからポジションAまでの範囲内にある場合は、ステップS11に進み、油圧モータ5Lを前進減速側に調節する補正信号を電動シリンダ22に対して出力する。
【0050】
ステップS8において左側のクローラ6Lの回転速度が右側のクローラ6Rに比較して高速ではない場合は、左右のクローラ6L,6Rが同一回転速度で駆動されているため、直進補正の必要がなく、ステップS12に進み、補正信号の出力を停止する。
【0051】
以上のように前進時に左側のクローラ6Lの回転速度が右側のクローラ6Rに比較して高速である場合は、主変速レバー13のポジションがニュートラルからポジションAまでの範囲に設定されていると、左側のクローラ6Lの回転速度を前進減速方向に自由に減速させるように直進補正が行われる。主変速レバー13のポジションが、ポジションAを越える前進ポジションにある場合は、直進補正が作動しない。
【0052】
つまり走行機体1の前進時には、主変速レバー13のポジションが、ポジションAを越えている場合は、左右のクローラ6L,6Rの回転速度の差に無関係に直進補正は作動せず、主変速レバー13のポジションが、ニュートラルからポジションAまでの範囲に設定されている場合にのみ直進補正が実行される。
【0053】
ただし左側のクローラ6Lの前進増速補正は、主変速レバー13のポジションが、ポジションBを越えポジションAまでの範囲に設定されている場合は、アウター18Lの支持位置が油圧モータ5Lの前進減速側の範囲でのみ上記直進補正が行われる。
【0054】
一方ステップS1において走行機体1が前進していない場合は、後進時の作動フローに入る。なお後進時の作動は、ステップS13〜S24が、前述のステップS1〜S12に該当し、上記前進時の作動に対して、前進が後進に、ポジションAがポジションDに、ポジションBがポジションCに各々置き換わる他は同一であるため詳細な説明は割愛する。
【0055】
ただし後進時の作動フローに入った直後のステップS13での走行機体1が後進しているか否かのチェックにおいて、後進していない場合は、走行機体1が停止しているため、補正信号の出力が停止される。
【0056】
以上により走行機体1の後進時には、主変速レバー13のポジションが、ポジションDを越えている場合は、左右のクローラ6L,6Rの回転速度の差に無関係に直進補正は作動せず、主変速レバー13のポジションが、ニュートラルからポジションDまでの範囲に設定されている場合にのみ直進補正が実行される。
【0057】
ただし左側のクローラ6Lの後進増速補正は、主変速レバー13のポジションが、ポジションCを越えポジションDまでの範囲に設定されている場合は、アウター18Lの支持位置が油圧モータ5Lの後進減速側の範囲でのみ上記直進補正が行われる。
【0058】
前進時におけるステップS3〜S6及びステップS9,S10と、ステップS3〜S6,S9,S10に該当する後進時の各ステップが、直進補正手段の作動停止及び直進補正手段による補正範囲の制限を行う補正規制手段として機能している。該補正規制手段は、直進補正手段内に組み込まれて設けられている。
【0059】
上記直進補正手段の作動によって、主変速レバー13がポジションAを越える前進ポジションに設定されての走行機体1の前進走行(前進最高速度での走行)時と、主変速レバー13がポジションDを越える後進ポジションに設定されての走行機体1の後進走行(後進最高速度での走行)時は、直進補正手段の補正作動が停止する。
【0060】
これによりポンプレバー9Lが前進増速側の機械的なストッパや後進増速側の機械的なストッパによる揺動限界を越えるような直進補正が行われず、直進補正による過電流の発生や、油圧モータ5Lや油圧ポンプ7L側の破損等の不都合が防止される。
【0061】
主変速レバー13がポジションBを越え、ポジションAまでの範囲に設定されての走行機体1の前進走行時と、ポジションCを越え、ポジションDまでの範囲に設定されての走行機体1の後進走行時には、ポンプレバー9Lが前進増速側の機械的なストッパや後進増速側の機械的なストッパに当接するまでのマージンが比較的大きくなる。
【0062】
このため、アウター18Lの支持位置が基準位置に戻るまでの油圧モータ5Lの前進増速又は後進増速の補正が行われ、この補正によりポンプレバー9Lが前進増速側の機械的なストッパや後進増速側の機械的なストッパによる揺動限界を越えることはなく、当該直進補正による過電流の発生や、油圧モータ5Lや油圧ポンプ7L側の破損等の不都合が防止され、且つある程度の直進補正(油圧モータ5Lの前進減速側又は後進減速側の範囲から基準位置までの範囲)による直進性も確保することができる。
【0063】
なお主変速レバー13がニュートラルからポジションB又はCまでの範囲に設定されている場合は、直進補正手段の自由な作動によって直進性が確保される。当然ポンプレバー9Lが前進増速側の機械的なストッパや後進増速側の機械的なストッパに当接するまでのマージンがさらに増加し、電動シリンダ22によって自由に油圧モータ5Lを微調節しても、この補正によりポンプレバー9Lが前進増速側の機械的なストッパや後進増速側の機械的なストッパによる揺動限界を越えることはなく、当該直進補正による過電流の発生や、油圧モータ5Lや油圧ポンプ7L側の破損等の不都合は防止される。
【0064】
ポンプレバー9Lの前進増速側の機械的なストッパや後進増速側の機械的なストッパを越えようとする補正をポンプレバー9L側にセンサ等を設けることなく規制することができる。
【0065】
前述のマイコンユニット23側には、前述の主変速レバーのA〜Dの各ポジションを設定するポジション設定プログラムが記憶されている。マイコンユニット23はポジション設定プログラムに基づいて作動することによって、補正規制手段の作動基準となる主変速レバー13のポジションを設定する設定手段として機能する。
【0066】
ポジション設定プログラムは、図8,図9に示されるように、前進側のポジション(A,B)の設定プログラムと、後進側のポジション(C,D)の設定プログラムの2本のプログラムからなる。マイコンユニット23は、予め定められた所定のアクションによってA,B設定プログラム及びC,D設定プログラムの実行状態に入る。
【0067】
A,B設定プログラムに基づくポジションA,Bの設定処理は、図8に示されるように、ステップS1において主変速レバー13を中立(ニュートラル)に位置させ、次にステップS2に進み、主変速レバー13をニュートラルから前進側に揺動させる。
【0068】
主変速レバー13のニュートラルから前進側への揺動に伴って油圧モータ5L,5Rの回転数が前進側に増加する。これに対してステップS3において左右の油圧モータ5L,5Rの回転数が前進側の最高回転数に達し、それ以上増加しない状態に飽和したか否かをチェックする。
【0069】
ステップS3において左右の油圧モータ5L,5Rの回転数が飽和した時は、ステップS4に進み、油圧モータ5L,5Rの回転数飽和時の主変速レバー13の揺動角度を主変速センサ28によって検出し、Sf1としてマイコンユニット23側に記憶させる。Sf1は、図4における油圧モータ5Lの回転数のグラフにおける屈曲位置に対応する。
【0070】
その後ステップS5に進み、主変速レバー13をニュートラルに戻すように揺動させる。主変速レバー13のニュートラルへの揺動に伴って油圧モータ5L,5Rの回転数が上記飽和状態から0に向かって減少を開始する。これに対してステップS6において左右の油圧モータ5L,5Rの飽和状態が継続しているか否かをチェックする。
【0071】
ステップS6において左右の油圧モータ5L,5Rの回転数が変化を開始(飽和状態の継続が終了)すると、ステップS7に進み、油圧モータ5L,5Rの飽和状態の継続が終了した時の主変速レバー13の揺動角度を主変速センサ28によって検出し、Sf2としてマイコンユニット23側に記憶させる。
【0072】
その後ステップS7に進み、Sf1とSf2から予め定められた所定の関数に基づき主変速レバー13のポジションAとBを設定し、ステップS8に進み、主変速レバー13のポジションAとBの時の主変速センサ28の値をマイコンユニット23側に記憶させる。
【0073】
なお図9に示されるC,D設定プログラムに基づくポジションC,Dの設定処理は、ステップS10〜S18が、図8のポジションA,Bの設定処理のステップS1〜S9に対応し、ポジションA,Bの設定処理に対して、前進を後進に、AをDに、BをCに、Sf1をSr1に、Sf2をSr2にそれぞれ置き換える他は同一であるため詳細な説明は割愛する。またSf1とSf2,Sr1とSr2はヒステリシス等によって通常は異なる値をとる。
【0074】
油圧モータ5L,5Rの個体差や、各部の組み付け誤差や精度等によって、各トラクタの個体毎にSf1,Sf2,Sr1,Sr2の主変速センサ28の値が異なることに対して、各個体毎にSf1,Sf2,Sr1,Sr2を求め、主変速レバー13のポジションA,B,C,Dとを求め、この求められたポジションA,B,C,Dによって、上記直進補正による油圧モータ5Lや油圧ポンプ7L側の破損防止等を設計どおりに行うことができる。
【0075】
ちなみにポジションBを可能な限りSf2に近づけ、ポジションCを可能な限りSr2に近づけることによって、より広い範囲の走行速度での走行時に自由な直進補正を作動させることができ、走行機体1の直進性を向上させることができる。
【0076】
ポジションB及びポジションCは、通常圃場内での作業走行時に使用する速度以上の速度での走行機体1の走行速度に設定することが望ましい。この場合は前述のように直進走行の狂いが発生しやすい圃場での走行時には、規制なく直進補正を行うことができ、圃場での作業走行時の直進走行を安定して行うことができる。
【0077】
ポジションA,Dにおいては走行機体1は最高速度で前進又は後進するため、走行機体1の最高速度走行時にもある程度の(油圧モータ5Lの減速側又は増速側の範囲から基準位置までの範囲)直進補正による直進性も確保することができる。
【0078】
なお図10に示されるように、予め右側の油圧ポンプ7Rの調節を行い、右側の油圧モータ5Rの最高回転数を、左側の油圧モータ5Lの最高回転数より低く(本実施形態においてはM)調節しておくこともできる。この場合特に最高速度近傍での前進及び後進直進走行時は、左側のクローラ6Lの駆動速度を遅くする方向に直進補正が行われることになり、上記直進補正による油圧モータ5Lや油圧ポンプ7L側の破損防止等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本トラクタの左側面図である。
【図2】本トラクタの正面図である。
【図3】走行系の概要を示すモデル図である。
【図4】左側の油圧モータの回転数とポンプレバーの揺動角度との関係を示すグラフ図である。
【図5】マイコンユニット周りの要部ブロック図である。
【図6】主変速レバーのポジションを示すモデル図である。
【図7】直進補正制御のフローチャート図である。
【図8】前進側ポジション設定のフローチャート図である。
【図9】後進側ポジション設定のフローチャート図である。
【図10】他の実施形態の油圧モータの回転数とポンプレバーの揺動角度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0080】
1 走行機体
2L 走行装置
2R 走行装置
13 主変速レバー(変速レバー)
14 操作ユニット(作動制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(1)に、左右の走行装置(2L),(2R)と、走行速度の設定を行う変速レバー(13)とを設け、左右の走行装置(2L),(2R)を駆動する無段変速装置を左右の走行装置(2L),(2R)に各々対応させて設け、変速レバー(13)と両走行装置(2L),(2R)との間に、変速レバー(13)の操作に応じて両無段変速装置を作動させる作動制御手段(14)を設け、走行機体(1)を直進させるように少なくとも一方の無段変速装置を補正作動させる直進補正手段を設けた作業車において、走行機体(1)を直進走行させる操作状態で、変速レバー(13)の操作位置が、予め定められた所定位置より高速側に設定されると、直進補正手段の作動停止又は直進補正手段による補正範囲の制限を行う補正規制手段を設けた作業車。
【請求項2】
補正規制手段の作動基準となる変速レバー(13)の操作位置を各個体毎に設定する設定手段を設けた請求項1の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−283947(P2007−283947A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115229(P2006−115229)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】