説明

信号デスキュー方法および装置

【課題】超低圧VDDデジタル回路においては、クロックスキューは厳密な時間収率の劣化を招く大きな原因であるが、コンピュータによる設計の高度な自動化(EDA)手段の様々なプロセスが存在する中でのスキュー調和がとれたクロックツリーを実現する。
【解決手段】参照信号およびローカル信号を受信し、それらを比較して位相差を検出するための位相比較器、位相差の値に関連して制御信号のオン/オフを切り替えるための制御回路、およびローカル信号バッファーを有し、前記ローカル信号バッファーはnMOSトランジスタおよび/またはpMOSトランジスタを有しており、前記制御信号に応じてホットキャリアインジェクションストレスをnMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタに掛けてnMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタのしきい値電圧を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は信号デスキュー装置および信号デスキュー方法に関する。より詳細に、本発明はサブスレッショルドデジタル回路またはニアスレッショルドデジタル回路のオンチップスキューモニタリングおよび自動ストレス印加スキームを備えたホットキャリアインジェクション(HCI)ストレス印加を用いた信号デスキュー装置および信号デスキュー方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロセッサやメモリー装置などの集積回路は、一般に、デジタルデータ信号とクロック信号を用いて、相互に通信できるようになっている。クロック信号とデータ信号は、通常、相互に同期して位相を揃えてクロック信号によってデータをラッチすることができる。
【0003】
高機能デジタルシステムではデータ通信速度が速くなっており、また、そのような高機能デジタルシステムの電子部品を繋ぐ銅線や光ケーブルやプリント回路基板配線などの信号線の長さが長くなっているので、並列インターコネクションのためにそれぞれの信号線の受信末端におけるデータ到達時間のスキューが重要になっている。信号線それぞれのスキューはケーブル、接続器またはプリント回路基板配線におけるそれぞれの特性や長さの相違から生じる。さらにスキューは高速データ転送になるほど悪化する。
【0004】
従来のデスキュー技術として、特許文献1は、可変遅延モジュールと制御モジュールとを有するクロックデスキュー回路を開示している。可変遅延モジュールにはデジタル入力クロック信号を受け取るための入力端子と、アナログ制御信号を受け取るための制御端子と、制御信号の値によって連続的に変化される時間間隔で典型的な信号エッジ(すなわち、立上りエッジまたは立下りエッジ)が遅れるように入力端子からバッファーに入力クロック信号を伝えるための遅延回路とが備わっている。制御モジュールには、遅れたクロック信号を遅延モジュールのバッファーから受け取るためのフィードバック線と、入力クロック信号を伝送するためのもう一つの線と、制御信号生成回路とが備わっている。 この制御信号生成回路は、バッファーからの遅れたクロックエッジが入力クロックエッジに比べて1クロック周期未満で遅れたときまたは進んだときに、遅延時間間隔を増加させる大きさを持った制御信号を遅延モジュールの制御端子に送る。
【0005】
また、特許文献2は、ある値のストリングと補完値のストリングとの間の転移点を含むデジタルデータストリームを受け取る過程、大体の転移点を検出して転移点を概算する過程、 内部データシーケンスを概算転移点に時間的に整合させ線形フィードバックシフト記録器を起動させる過程、トレーニングシーケンスを受け取って入力振幅オフセットをスイープする過程、および トレーニングシーケンスからのデータと線形フィードバックシフト記録器からのデータとを比較する過程を有する方法を開示している。
【0006】
ところで、超低圧VDDデジタル回路においては、クロックスキューは厳密な時間収率の劣化を招く大きな原因である。コンピュータによる設計の高度な自動化(EDA)手段は平衡RLC回路網を持つクロックツリーを合成することができるが、様々なプロセスが存在する中でスキュー調和がとれたクロックツリーを実現することは困難である。
【0007】
スキューを緩和するために、非特許文献1はローカルクロックバッファーにクロックバーニアデバイス(CVDs)を挿入したインテル社製イタニウムファミリー・プロセッサー(図1)を開示している。クロック位相を比較した後、CVDsが進んだクロックを遅らせて最も遅れているクロックに合わせる。しかしながら、この手法は、i) 遅延がVthに対して指数的に変動するのでゲートサイジングによる遅れ調整は無力であること、ii) クロックスキューの3σ/μは通常のVDDにおけるものに比べて10倍に悪化するので、そのような広いレンジのスキューに対応するにはクロックバッファー内のCVDsを実現困難な個数にしなければならないこと(図2)、iii) CVDsでは設定ビットを書き込むためにファームウェア(たとえば 電気的に設定可能なフューズ)が必要であるため 面積オーバーヘッドを悪化させることから、超低圧VDD領域に移行することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許5898242
【特許文献2】米国特許7362837
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】P. Mahoney, E. Fetzer, B. Doyle, S. Naffziger, "Clock Distribution on a Dual-Core, Multi-Threaded Itanium-Family Processor," ISSCC Dig. of Tech. Papers, pp. 292-293, Feb. 2005.
【非特許文献2】T. Ong, M. Levi, P. Ko, C. Hu, "Recovery of Threshold Voltage After Hot-Carrier Stressing," IEEE Transactions on Electron Devices, vol. 35, no. 7, pp. 978-984, Jul. 1988.
【非特許文献3】J. Hicks, D. Bergstrom, M. Hattendorf, J. Jopling, J. Maiz, S. Pae, C. Prasad, J. Wiedemer, "45nm Transistor Reliability," Intel Technology Journal, vol. 12, issue 2, pp. 131-144, Jun. 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、サブスレッショルドデジタル回路またはニアスレッショルドデジタル回路のためのオンチップスキューモニタリングおよび自動ストレス印加スキームを持ったホットキャリアインジェクション(HCI)ストレス印加を利用することによる信号デスキュー装置および信号デスキュー方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成するためにホットキャリアインジェクションの検討を進めた結果、参照信号とローカル信号を受け取り、参照信号とローカル信号を比較して位相差を検出し、次いで位相差の値に従ってホットキャリアインジェクションストレスをローカル信号バッファーに加えると、ローカル信号が遅延されて信号の位相を一致させることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
〔1〕 参照信号およびローカル信号を受信し、それらを比較して位相差を検出するための位相比較器、 位相差の値に関連して制御信号のオン/オフを切り替えるための制御回路、およびローカル信号バッファーを有し、
前記ローカル信号バッファーはnMOSトランジスタおよび/またはpMOSトランジスタを有し、前記制御信号に従ってホットキャリアインジェクションストレスをnMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタに加えてnMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタのしきい値電圧を増加させることを特徴とする信号デスキュー装置。
【0013】
〔2〕 ドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧よりも高くなるようにnMOSトランジスタのドレイン、ゲートおよび/またはソースに電圧を印加することによってホットキャリアインジェクションストレスを加える〔1〕に記載の信号デスキュー装置。
【0014】
〔3〕 ドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧よりも低くなるようにpMOSトランジスタのドレイン、ゲートおよび/またはソースに電圧を印加することによってホットキャリアインジェクションストレスを加える〔1〕に記載の信号デスキュー装置。
【0015】
〔4〕 一回あたり0.1〜100秒間のホットキャリアインジェクションストレスを繰り返し加える〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の信号デスキュー装置。
【0016】
〔5〕 印加電圧が交流電圧である〔2〕〜〔4〕のいずれかひとつに記載の信号デスキュー装置。
【0017】
〔6〕 参照信号とローカル信号のそれぞれがクロック信号である、〔1〕〜〔5〕のいずれかひとつに記載の信号デスキュー装置。
【0018】
〔7〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかひとつに記載の信号デスキュー装置を複数有し且つ該信号デスキュー装置に接続されたスキャンチェインをさらに有する回路であって、該スキャンチェインはすべての設定ビットを初期化する機能、候補となる信号デスキュー装置を見つけ出すために設定ビットをスキャンアウトする機能、および候補となった信号デスキュー装置に制御信号を出力するために設定ビットをスキャンインする機能を有し、そしてホットキャリアインジェクションストレスを制御信号に従って信号デスキュー装置のそれぞれに加えることを特徴とする低スキュー信号回路。
【0019】
〔8〕 スキャンチェインは設定ビットをスキャンインする前に設定ビットの一部をマスクする機能をさらに有し、それによって総ストレス印加電流が信号デスキュー装置の最大許容電流を超えないようにする〔7〕に記載の低スキュー信号回路。
【0020】
〔9〕 信号デスキュー装置がH字状ツリーとなって繋がっている〔7〕または〔8〕に記載の低スキュー信号回路。
【0021】
〔10〕 nMOSトランジスタおよび/またはpMOSトランジスタを有する第一インバータ、第二インバータ、およびスイッチを有する信号バッファーであって、
入力信号が第一インバータに入力され、第一インバータからの出力信号が第二インバータに入力され、前記スイッチが、ドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧より高くなるようにまたはドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧より低くなるように、nMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタのドレイン、ソースおよび/またはゲートに印加される電圧を制御することを特徴とする信号バッファー。
【0022】
〔11〕 参照信号とローカル信号を受け取る過程、参照信号とローカル信号とを比較して位相差を検出する過程、ローカル信号バッファーにホットキャリアインジェクションストレスを加えて位相差の値に従ってローカル信号を遅らせる過程を有する、信号デスキュー方法。
【0023】
〔12〕 〔1〕〜〔6〕に記載のいずれかひとつの信号デスキュー装置のすべての設定ビットを初期化する過程、信号デスキュー装置のうちから候補となる信号デスキュー装置を探すために設定ビットをスキャンアウトする過程、候補となる信号デスキュー装置に制御信号を出力するために設定ビットをスキャンインする過程、および制御信号に従って候補となった信号デスキュー装置にホットキャリアインジェクションストレスを加える過程を有する信号デスキュー方法。
【0024】
〔13〕 設定ビットをスキャンインする前に設定ビットの一部をマスクする過程をさらに有する〔12〕に記載の信号デスキュー方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ホットキャリアインジェクション(HCI)ストレスを利用した信号デスキュー装置および信号デスキュー方法が提供される。本発明によれば、サブスレッショルドまたはニアスレッショルドデジタル回路などのためのオンチップスキューモニタリングおよび自動ストレス印加スキームを持つ低スキュー信号回路が提供される。さらに本発明に係る信号デスキュー装置および信号デスキュー方法を用いることによって、超低圧VDDデジタル回路における時間収率損を減らすし、また低スキュー回路を容易に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】クロックバーリエデバイス(CVDs)を有する従来のクロックバッファーを示す回路図である。
【図2】VDDに対するクロックバッファー中のCVDsの必要数が急激に増加することを示す図である。
【図3】本発明によって提供される、HCIで調整されるクロックバッファー(HTCB)の概念を示す回路図である。
【図4】図3中のトランジスタM1におけるVthシフトを示す図である。
【図5】HCIストレスを加えた後にCKLOCALにおける遅延の増加を示す図である。
【図6】領域毎にオンチップスキューモニタリングおよび自動ストレス印加スキームを有するH字状クロックツリーの一態様を示す図である。
【図7】オンチップスキューモニタリング用の位相比較器とHTCBの実行を示す回路図である。
【図8】自動化されたストレス印加過程のフローチャートを示す図である。
【図9】(a)ストレス電流に対するストレス電圧VDD、(b)10個のチップのストレス時間、および(c)HCI調整の前後における0.4V VDDで正規化されたスキューを示す図である。
【図10】(a)HCI調整前の、(b)HCI調整後の、(c)CKREFの上昇時間がほとんど影響を受けないことを示すために(b)のCKREF上に(a)のCKREFを重ね合わたときの、および(d)HCI調整によって遅延されたCKLOCALを、0.5V VDDにおいて測定されたクロック波形で示す図である。
【図11】40nmCMOSにクロックツリーのダイ顕微鏡写真の一例を示す図である。
【図12】nMOSトランジスタ上において一般的に生じるHCI効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の詳細を以下に説明する。
【0028】
図12に、nMOSトランジスタにおいて一般的に生じるHCI効果を示す。ホットキャリアインジェクション(HCI)は、ソリッドステート電子素子または半導体電子素子において電子または正孔のいずれかが、ポテンシャル障壁を乗り越えるのに必要十分な動的エネルギーを得て、界面準位を壊す現象である。酸化物の中にそのような可動性キャリアが在ると多数の物理的ストレス作用を引き起こす。該作用は長期に亘って素子の特性を大幅に変化させる。ストレスの蓄積によって、しきい値電圧などの回路パラメータにずれを最終的に引き起こす。
【0029】
HCIストレス印加を実施するためには、(i) 大電流をMOSトランジスタのチャネルを通して流して電子を活性化し、その電子をホットキャリアにするか、または(ii) 高圧VDSを印加してチャネルキャリアを加速するためにドレインの高電子領域を形成し、それによって電離衝突と電子なだれの増大が生じて、電子−正孔対を生じさせる。当該対をゲート−酸化物に注入することができる。具体的に、ホットキャリアインジェクションストレスを実行するために、電圧をnMOSトランジスタのドレイン、ゲートおよび/またはソースに印加してドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧より高くなるようにするか、または電圧をpMOSトランジスタのドレイン、ゲートおよび/またはソースに印加してドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧よりも低くなるようにする。
【0030】
HCIストレスを加えると、最終的に、しきい値電圧Vthが増加する結果となる。図4に示すとおり、ストレスを除去するとVthはある程度に回復する。有意な量のキャリアを素子の総寿命が捕らえるので、このVthの増加は記憶される(非特許文献2参照)。HCIストレスは繰り返し加えてもよい。該繰り返される2つのストレス印加の間の待機時間は数分間であってもよい。注入されたキャリアが捕捉されなくてもよい。復帰効果は次のストレス印加の際に考慮することができる。Vthの増加は図5に示すようにMOSトランジスタの応答時間を長引かせる。印加毎のストレス印加時間が短くなるほど、加えられる遅延の解消効果が高く、過剰なストレス印加を防ぐ。ホットキャリアインジェクションストレスの印加時間は、一印加につき、好ましくは0.1〜100秒間、より好ましくは1〜10秒間である。温度を上げるとHCI効果を増大させることができるけれどあまり推奨しない。ACストレスの印加はDCストレスの印加に比べて効果的である。通常、HCIはpMOSトランジスタよりもnMOSトランジスタにおいて強い効果をもたらす。
【0031】
(信号バッファー)
本発明に係る信号バッファーは、nMOSトランジスタおよび/またはpMOSトランジスタを有する第一インバータ、第二インバータ、およびスイッチを有する。本発明に係る信号バッファーのコンセプトを図3に示す。
【0032】
本発明の信号バッファーにおいては、スイッチが、第一インバータの中にあるnMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタのドレイン、ソースおよび/またはゲートに掛かる電圧を制御する。nMOSトランジスタでは、ドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧より高くなるときに、ホットキャリアインジェクションストレスがnMOSトランジスタに加わる。pMOSトランジスタでは、ドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧より低くなるときに、ホットキャリアインジェクションストレスがpMOSトランジスタに加わる。入力信号が第一インバータに入力される。入力信号は、HCIストレスが加えられたMOSトランジスタを有する第一インバータにおいて遅れる。第二インバータにおいて、第一インバータからの出力信号を再びはっきりさせてスルーレートを高めることができる。
【0033】
結果的に、図5に示すように、HCIストレスが加えられた信号バッファー(以下、HTCB)の遅れも増えるので、サブスレッショルド/ニアスレッショルド領域で特に優れている。図5に示すHTCBにおいては、回路の中にあるタイミング素子が立上りクロックエッジによって引き起こされ、クロック負荷変化に依拠しないので、第一インバータ内のM1だけがストレスを掛けられる必要がある。
【0034】
(信号デスキュー装置)
本発明に係る信号デスキュー装置は、位相比較器、制御回路、およびローカル信号バッファーを有するものである。本発明に係る信号デスキュー装置の一形態を図7に示す。位相比較器は、参照信号およびローカル信号を受信し、それらを比較して位相差を検出するためのものである。位相比較器は、スタンダードセルから構成されるものであってもよく、それゆえに統合できるものであってもよい。制御回路は、位相差の値に関連してCONFIG BITなどの制御信号のオン/オフを切り替えるためのものである。ローカル信号バッファーはnMOSトランジスタおよび/またはpMOSトランジスタを有するもので、前に述べた本発明に係る信号バッファーであってもよい。制御信号によって信号バッファーのスイッチを操作する。位相差の値が所定のしきい値を超えた場合は、制御信号がオンに切り替わり、MOSトランジスタにHCIストレスが加わる。参照信号とローカル信号のそれぞれは、通常、クロック信号である。
【0035】
(低スキュー信号回路)
本発明に係る低スキュー信号回路は複数の信号デスキュー装置と、該信号デスキュー装置に接続されたスキャンチェインを有するものである。信号デスキュー装置は前述の本発明に係る装置である。
【0036】
スキャンチェインはすべての設定ビットを初期化する機能、前記信号デスキュー装置の中から候補となる信号デスキュー装置を見つけ出すために設定ビットをスキャンアウトする機能、および候補となった信号デスキュー装置に制御信号を出力するために設定ビットをスキャンインする機能を有する。制御信号に従って候補となった信号デスキュー装置にホットキャリアインジェクションストレスを加える。好ましいスキャンチェインは設定ビットをスキャンインする前に設定ビットの一部をマスクする機能をさらに有する。マスクキングによってホットキャリアインジェクションストレスが候補装置に加わるのを部分的に止めて、総ストレス電流が信号デスキュー装置の最大許容電流を超えないようにすることができる。スキャニング操作毎にマスキング領域を変更してもよい。HCIストレスを印加された信号デスキュー装置のそれぞれはそれぞれのローカル信号を遅らせてグローバルクロック信号または参照クロック信号のような最も遅延した信号に揃える。本発明の低スキュー信号回路では、信号デスキュー装置がH字状ツリーとなって繋がっていることが好ましい。
【0037】
たとえば、平衡負荷を用いたグリッドベースのH字状クロックツリーは図6に示すような広がりをしている。領域0、1および2で組み立てられている。各領域において、遅延素子がローカル参照クロック(CKREF)を出力する。CKREFは設計時にいずれのローカルクロック(CKLOCAL)よりも相対的に遅れるように予め定められた、人為的な最遅延クロックである。そうでなければ、参照としての最遅延ローカルクロックを探す作業を行わなければならない。CKREFの位相情報はその領域に送られ、HTCBがストレスを印加されてCKREFにCKLOCALを合わせ込む。デスキューはチップ上の同じ領域にあるCKLOCALにだけ適用され、本発明の有効性が証明されたことがわかる。ここに提案したデスキュー調整スキームは他のクロックツリーレベルにも展開することができる。
【0038】
図8は自動化されたストレス印加過程のフローチャートを示す図である。初期において、位相比較器内のすべてのCONFIGビットがスキャンチェインによって「1」に初期化される。評価時において、図7に示すD−フリップフロップI1およびI2をクロスサンプリングしてCKREFとCKLOCALの位相を比較する。位相差を検出した場合はCONFIGビットを「0」にリセットする。I1およびI2のセットアップ時間によって準安定状態を回避するための保護周波数帯を規定し、遅延の解消度合を保護周波数帯に制限する。低活性CONFIGビットは、接続されたHTCBにストレスを印加すべきかどうかを表示する。ストレス印加時において、GLOBAL SIGNAL STRESSは「0」にアサートされる。通常電圧1.1V VDDより大きく高くなるほどにVDDが上昇する。「0」CONFIGビットはグランドレベルで維持される。「1」CONFIGビットはI3中のラッチの結果VDDレベルに応じて従う。したがって、レベルシフターは必要ない。0VとVDDの間で振幅するAC信号はSEMI-GLOBAL CLKに適用される。CONFIGが「0」の場合、M1およびM2は同時にオンに切り替えられ、大電流が図7に示すHTCBの中にあるnMOSトランジスタM4に流入し、HCIストレス印加状態になる。
【0039】
ストレス印加の間ずっと大きな電流が流れる(図9(a)参照)。ストレス印加電流は一つのHTCBにつき1mAを超えるかもしれない。100以上のHTCBを有する大型回路では、総ストレス印加電流はパワーグリッドによって許容される最大電流を超えるかもしれない。この問題を解決するために、III-V過程で位相比較器のCONFIGビットをスキャンアウトし、「0」ビットの部分を「1」としてマスクし、CONFIGビットを再度スキャンインする。そのようなことで連続してチップにストレスを印可する。I、IIIおよびV過程が通常電圧1.1V VDDで行われて正確なスキャン機能が保証される。II過程が目標とされる超低圧VDDで行われる。ホールドタイムのデバックのように、設計調整において選択的ストレス印加のためにスタンドアロンでVおよびVI過程を使用することもできる。
【実施例】
【0040】
本発明の実施例を示して本発明をより具体的に説明する。これらは本発明を説明するためだけの例であって、本発明はこれらによって限定されない。
【0041】
図11に示すように、グリッドベースの平衡負荷を有するH型クロックツリーを40nm 高kCMOSプロセスの1.1×0.8mm2ダイの上に配線した。
【0042】
適切なストレス印加電圧VDDは個別のプロセス技術に従う。本実施例では、2.5V VDDを採用し、デバイスは3.0V VDD超でも耐え得る。毎回のストレス印加時間は5秒とした。面積オーバーヘッドを最小化するために、HTCBに別のパワーネットを適用しないので、バイアス温度不安定性[BTI](非特許文献3)が起きて、同じパワーグリッドを共同で使用する他の論理ゲートを劣化するかもしれない。他のゲートにおけるBTIを軽減するために、この実験では25℃室温にてACストレス印加をHTCBに適用した。0.4V VDDにおける測定結果を図9に示した。平均して、HCI調整によって8倍以上スキューが低減された(図9(c))。ダイあたり135秒のストレス印加時間を要した(図9(b))。なお、高kプロセスを使用した。高k誘電体以外のプロセスでは、ストレス印加時間はより短くすることができる。
【0043】
図9(c)に示すように、調整から2週間経過時においても、大きな立ち直りは観測されなかった。図9(c)中の線を外挿することによって、多くの民生用電子デバイスの耐用年数をカバーするのに十分な期間、すなわち数年間はずっと注入されたキャリアが捕らわれているであろう。
【0044】
図10(a)および(b)に、0.5V VDDにて調整する前および調整した後のクロック立ち上がりエッジとスキューの測定結果を示す。クロック信号はプローブパッドを介して入力されるので、立ち上がり時間とスキューの絶対値は大きくなる。図10(c)および(d)に、図10(a)と図10(b)とを重ねたものを示す。図10(c)に示すとおり、HCIストレス印加後、CKREFの立ち上がり時間と波形はほとんど影響を受けない。一方、図10(d)に示すとおり、CKLOCALは遅れる。これによって、HTCBに選択的にストレス印加したときの効果が確認された。将来的には、提案したHCIストレス印加方法は、ウェハー・バーインテストの形で組み込むことがたぶんできる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の信号バッファー、デスキュー信号装置、および低デスキュー信号回路は、集積回路に、好ましくは高速で相互に通信を行うプロセッサやメモリー素子などの超低圧VDDデジタル回路に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照信号およびローカル信号を受信し、それらを比較して位相差を検出するための位相比較器、 位相差の値に関連して制御信号のオン/オフを切り替えるための制御回路、およびローカル信号バッファーを有し、
前記ローカル信号バッファーはnMOSトランジスタおよび/またはpMOSトランジスタを有し、前記制御信号に従ってホットキャリアインジェクションストレスをnMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタに加えてnMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタのしきい値電圧を増加させることを特徴とする信号デスキュー装置。
【請求項2】
ドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧よりも高くなるようにnMOSトランジスタのドレイン、ゲートおよび/またはソースに電圧を印加することによってホットキャリアインジェクションストレスを加える請求項1に記載の信号デスキュー装置。
【請求項3】
ドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧よりも低くなるようにpMOSトランジスタのドレイン、ゲートおよび/またはソースに電圧を印加することによってホットキャリアインジェクションストレスを加える請求項1に記載の信号デスキュー装置。
【請求項4】
一回あたり0.1〜100秒間のホットキャリアインジェクションストレスを繰り返し加える請求項1〜3のいずれかひとつに記載の信号デスキュー装置。
【請求項5】
印加電圧が交流電圧である請求項2〜4のいずれかひとつに記載の信号デスキュー装置。
【請求項6】
参照信号とローカル信号のそれぞれがクロック信号である、請求項1〜5のいずれかひとつに記載の信号デスキュー装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかひとつに記載の信号デスキュー装置を複数有し且つ該信号デスキュー装置に接続されたスキャンチェインをさらに有する回路であって、該スキャンチェインはすべての設定ビットを初期化する機能、候補となる信号デスキュー装置を見つけ出すために設定ビットをスキャンアウトする機能、および候補となった信号デスキュー装置に制御信号を出力するために設定ビットをスキャンインする機能を有し、そしてホットキャリアインジェクションストレスを制御信号に従って信号デスキュー装置のそれぞれに加えることを特徴とする低スキュー信号回路。
【請求項8】
スキャンチェインは設定ビットをスキャンインする前に設定ビットの一部をマスクする機能をさらに有し、それによって総ストレス印加電流が信号デスキュー装置の最大許容電流を超えないようにする請求項7に記載の低スキュー信号回路。
【請求項9】
信号デスキュー装置がH字状ツリーとなって繋がっている請求項7または8に記載の低スキュー信号回路。
【請求項10】
nMOSトランジスタおよび/またはpMOSトランジスタを有する第一インバータ、第二インバータ、およびスイッチを有する信号バッファーであって、
入力信号が第一インバータに入力され、第一インバータからの出力信号が第二インバータに入力され、前記スイッチが、ドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧より高くなるようにまたはドレイン電圧がソース電圧とほぼ同じになり且つゲート電圧がドレイン電圧より低くなるように、nMOSトランジスタまたはpMOSトランジスタのドレイン、ソースおよび/またはゲートに印加される電圧を制御することを特徴とする信号バッファー。
【請求項11】
参照信号とローカル信号を受け取る過程、参照信号とローカル信号とを比較して位相差を検出する過程、ローカル信号バッファーにホットキャリアインジェクションストレスを加えて位相差の値に従ってローカル信号を遅らせる過程を有する、信号デスキュー方法。
【請求項12】
請求項1〜6に記載のいずれかひとつの信号デスキュー装置のすべての設定ビットを初期化する過程、信号デスキュー装置のうちから候補となる信号デスキュー装置を探すために設定ビットをスキャンアウトする過程、候補となる信号デスキュー装置に制御信号を出力するために設定ビットをスキャンインする過程、および制御信号に従って候補となった信号デスキュー装置にホットキャリアインジェクションストレスを加える過程を有する信号デスキュー方法。
【請求項13】
設定ビットをスキャンインする前に設定ビットの一部をマスクする過程をさらに有する請求項12に記載の信号デスキュー方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−165294(P2012−165294A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−25604(P2011−25604)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「極低電力・システム技術開発」事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】