説明

光カチオン硬化性樹脂組成物、並びに該光カチオン硬化性樹脂組成物を含有する耐汚染性塗料、コーティング材料、樹脂改質剤、レジスト材料及び光造型剤

【課題】高硬度でかつシリコーンの特性を有する硬化物を形成可能な光カチオン硬化性樹脂組成物並びに耐汚染性塗料、コーティング材料、樹脂改質剤、レジスト材料及び光造型剤を提供する。
【解決手段】光カチオン硬化性樹脂組成物は、下記式(I)に示す構造式(Rは下記式(IV)に示す構造式で表される有機官能基であり、Xは加水分解性基。)で表される化合物と、一分子中に一つ以上のシロキサン結合生成基を有する反応性シリコーンと、の混合物を加水分解して得られる。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光カチオン硬化性樹脂組成物、並びに該光カチオン硬化性樹脂組成物を含有する耐汚染性塗料、コーティング材料、樹脂改質剤、レジスト材料及び光造型剤に関し、詳しくは、光カチオン重合性官能基を有しかつシリコーン鎖が導入されたシルセスキオキサン化合物を含む樹脂組成物、並びに該光カチオン硬化性樹脂組成物を含有する耐汚染性塗料、コーティング材料、樹脂改質剤、レジスト材料及び光造型剤に関する。本発明の光カチオン硬化性樹脂組成物から形成された硬化物はシリコーンの特性を備えるので、例えば耐汚染性塗料、落書き防止用コーティング材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
紫外線(UV)開始重合または紫外線開始硬化の分野においては、多官能アクリレートおよび不飽和ポリエステル等を用いた光開始ラジカル重合が広く検討され、また工業的に利用されている。
【0003】
しかし、このラジカル重合は空気中等の酸素によって阻害されるという問題がある。特にコーティング剤組成物をラジカル重合によって硬化させる場合、この組成物の膜厚が薄くなるほど酸素による重合阻害の影響は顕著となり、組成物を速やかにかつ完全に硬化させるためには不活性雰囲気下で硬化させなければならないという制限がある。
【0004】
これに対して光開始カチオン重合は、上記光開始ラジカル重合とは異なり酸素による重合阻害を受けないため、空気中においても完全に重合させることが可能である。特に、シリコーン系のエポキシドまたはオキセタン化合物をモノマーとした組成物によると、耐熱性および耐薬品性が良く、接着力に優れ、かつ耐汚染性の良好な硬化物を得ることが可能である。なお、下記特許文献1には、上記モノマーのうちシリコーンの両末端にオキセタニル基を導入した化合物などが開示されている。また本出願人は先に、このシリコーンの両末端にオキセタニル基を導入した化合物の製造方法に関する特許出願を行っている(特願平9−140984号)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−16804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記シリコーン系のエポキシドまたはオキセタン化合物をモノマーとした光カチオン硬化性組成物から形成された硬化物は、一般に基本的な骨格構造がシリコーンまたはポリエーテルなどからなるため、例えばコーティング剤として用いる場合に表面硬度が不足しやすいという問題があった。
【0007】
一方、本出願人は先に、オキセタニル基をもつシルセスキオキサン化合物からなる光カチオン硬化性組成物を含む光カチオン硬化性ハードコート剤組成物に関する特許出願を行っている(特願平9−197737号)。しかし、この組成物の硬化膜は通常、耐汚染性および撥水・撥油性などのいわゆる「シリコーンの特性」を示さない。そこで、上記ハードコート剤組成物の硬化膜にシリコーンの特性を付与する手段として、この組成物にシリコーン系化合物を混合することが考えられる。
【0008】
ところが、上記光カチオン硬化性組成物はシリコーンとの相溶性が乏しいため、この組成物に対してシリコーン系化合物を単に混合して用いると、組成物が不均一となったり、塗布時においてハジキを生じたり、あるいは硬化物からシリコーン系化合物がブリードしたりするなどの問題が起こりやすかった。
【0009】
本発明の目的は、高硬度でかつシリコーンの特性を有する硬化物を形成可能な光カチオン硬化性樹脂組成物、並びに該光カチオン硬化性樹脂組成物を含有する耐汚染性塗料、コーティング材料、樹脂改質剤、レジスト材料及び光造型剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、あらかじめシリコーン鎖が導入された光カチオン重合性シルセスキオキサン化合物を用いることにより、上記相溶性の問題を生じることなく、高硬度でかつシリコーンの特性を備えた硬化物を形成可能であることを見いだして本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の光カチオン硬化性樹脂組成物は、下記式(I)に示す構造式で表される化合物と、一分子中に一つ以上のシロキサン結合生成基を有する反応性シリコーンと、の混合物を加水分解して得られる加水分解物からなることを特徴とする。
【0012】
【化1】

(ただし、Rは下記式(IV)に示す構造式で表されるオキセタニル基をもつ有機官能基であり、Xは加水分解性基である。)
【0013】
ここで、上記「シロキサン結合生成基」とは、上記加水分解において上記式(I)に示す構造式で表される化合物(以下、「化合物(I)」という。)のケイ素原子との間にシロキサン結合を生成し得る基をいい、例えば水素原子、水酸基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0014】
本発明における上記加水分解物は、化合物(I)と上記反応性シリコーンとが共縮合された化合物、すなわち部分的にシリコーン鎖が導入されたシルセスキオキサン化合物からなる。このシリコーン鎖により硬化物にシリコーンの特性が付与され、しかも化合物(I)を単独で加水分解して得られたシルセスキオキサン化合物にシリコーン系化合物を混合する場合とは異なり、シリコーン鎖はシルセスキオキサン化合物に化学結合されているので相溶性が問題となることはない。
【0015】
この光カチオン硬化性樹脂組成物は、光カチオン重合性を有する反応性希釈剤を含有することができる。この反応性希釈剤により粘度を調節して無溶剤型でありながら塗工性などの操作性に優れた組成物とすることが可能である。また、反応性希釈剤の種類や使用量により硬化物の物性を調整することができる。
【0016】
本発明の組成物における上記反応性シリコーンは、下記式(II)または下記式(III)に示す構造式で表される化合物から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0017】
【化2】

(ただし、X’はシロキサン結合生成基であり、RおよびRはそれぞれアルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選択される置換基であり、RおよびRはそれぞれアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、nは1〜10,000の正数である。)
【0018】
【化3】

(ただし、X’はシロキサン結合生成基であり、RおよびRはそれぞれアルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選択される置換基であり、RおよびRはそれぞれアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、Rはアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、nは1〜10,000の正数である。)
【0019】
上記式(II)および上記式(III)におけるnは、10〜100の正数であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の組成物は、上記式(I)におけるXのいずれもがアルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基であり、かつRが上記式(IV)に示す構造式で表されるオキセタニル基をもつ有機官能基であることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の組成物は、上記式(I)におけるRが下記式(IV)に示す構造式で表される有機官能基である。
【0022】
【化4】

(ただし、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数2〜6のアルキレン基である。)
【発明の効果】
【0023】
本発明の光カチオン硬化性樹脂組成物は、部分的にシリコーン鎖が導入されたシルセスキオキサン化合物からなるので、シリコーン鎖をもたないシルセスキオキサン化合物とシリコーンとを単に混合した場合とは異なり相溶性の問題を生じることなく硬化物にシリコーンの特性を付与することができる。また、本発明の組成物はシルセスキオキサン構造を基本骨格とする化合物からなるので、この基本骨格がシリコーンやポリエーテル等からなる化合物に比べて表面硬度の高い硬化物を形成可能である。したがって本発明の組成物は、例えば耐汚染性塗料、落書き防止用コーティング材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書においては、オキセタニル基を有する化合物を「オキセタン化合物」と表す。
【0025】
(1)化合物(I)について
上記式(I)におけるRは、その一部に少なくとも一つのエポキシ基またはオキセタニル基をもつ有機官能基である。本発明においては、Rがオキセタニル基をもつ有機官能基であることが好ましい。これは、エポキシ基に比べてオキセタニル基の光重合速度は通常明らかに速いためである。特に、紙やプラスチック上にコーティングされる場合のように速やかな光硬化性が要求される用途にはRがオキセタニル基をもつ化合物(I)が好適に使用される。しかもオキセタン型のモノマーは、エポキシド型のモノマーに比べて光硬化の際に重合度が上がりやすいため、各種物性がより良好となる傾向にある。
【0026】
本発明において特に好ましいRは、上記式(IV)に示す構造式で表される有機官能基である。この式(IV)において、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、Rがエチル基であることが特に好ましい。また、Rは炭素数2〜6のアルキレン基であり、Rがプロピレン基であることが特に好ましい。これは、このような有機官能基を形成するオキセタン化合物の入手あるいは合成が容易なためである。また、式(I)におけるRまたはRの炭素数が7以上であると、硬化物の表面硬度が不足しやすいので好ましくない。
【0027】
上記式(I)における加水分解性基Xは、加水分解性を有する基であれば特に限定されず、ハロゲン原子、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基などとすることができる。また、この化合物一分子中には三つのXが含まれるが、これらは全て同じ基であってもよいし二種以上の異なる基であってもよい。本発明においては、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基であることが好ましい。これは、Xがハロゲン原子である場合には加水分解によりハロゲン化水素が生じるので反応系が酸性雰囲気となりやすく、このためエポキシ基またはオキセタニル基(以下、「オキセタニル基等」ともいう。)が開環する恐れがあるためである。
【0028】
上記「アルコキシ基」としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−およびi−プロポキシ基、n−、i−およびt−ブトキシ基等が挙げられる。また、「シクロアルコキシ基」の例としてはシクロヘキシルオキシ基等が、「アリールオキシ基」の例としてはフェニルオキシ基等が挙げられる。このうち、アルコキシ基の加水分解性が良好であることから、Xが炭素数1〜3のアルコキシ基であることが好ましい。また、原料の入手が容易であることや、加水分解反応が制御しやすいことから、Xがエトキシ基であることが特に好ましい。
【0029】
(2)反応性シリコーンについて
本発明における反応性シリコーンとしては、一分子中に一つ以上の「シロキサン結合生成基」を有する化合物であれば特に限定されることなく使用することができる。この反応性シリコーンは直鎖状または分岐を有する線状シリコーンであることが好ましく、上述のようなシロキサン結合生成基を側鎖に有するものでも末端に有するものでもよい。
【0030】
本発明の組成物においては、反応性シリコーンとして上記式(II)および(III)に示す構造式で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。ここで、RおよびRはそれぞれアルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選択される置換基である。上記式(II)および(III)に示す化合物一分子中に含まれる二つのRは、同じ基であってもよいし異なる基であってもよい。これはRについても同様である。
【0031】
また、RおよびRはそれぞれアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基である。RとRとは同じ基であってもよいし異なる基であってもよい。さらに、一分子中に含まれるn個のRは全て同じ基であっても二種以上の異なる基であってもよく、Rについても同様である。そして、Rはアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基である。
【0032】
この反応性シリコーンにおける「アルキル基」としては、例えばメチル基、エチル基、n−およびi−プロピル基、n−、i−およびt−ブチル基等が挙げられる。また、「シクロアルキル基」の例としてはシクロヘキシル基等が、「アリール基」の例としてはフェニル基等が挙げられる。「アルコキシ基」、「シクロアルコキシ基」および「アリールオキシ基」の例としては、化合物(I)の説明において上述したものと同様の基が挙げられる。
【0033】
このうち、RおよびRがアルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基であると、これらの基は「シロキサン結合生成基」としても機能することから、この反応性シリコーンとシルセスキオキサンとの結合がより強固なものとなり得る。したがって、硬化物において未反応の反応性シリコーンのブリードが確実に防止されるという利点がある。特に、RおよびRがメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基またはi−プロポキシ基である場合には、これらの基の加水分解性が良好であるため好ましい。一方、RおよびRがアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基である場合には、このような反応性シリコーンの価格が低くかつ入手が容易であるという利点がある。
【0034】
また、RおよびRはメチル基またはエチル基であることが好ましく、RおよびRの全てがメチル基であることがさらに好ましい。このような反応性シリコーンは価格が低くかつ入手が容易であるとともに、剥離性、表面潤滑性および撥水・撥油性等のいわゆる「シリコーンの特性」を付与しやすいためである。また、式(III)に示す化合物の製造上の理由から、Rはアルキル基であることが好ましい。このアルキル基としてはメチル、エチル、n−またはi−プロピル、n−、i−またはt−ブチルなどが好ましい。
【0035】
上記式(II)および(III)におけるnは1〜10,000の正数である。nが10,000を超えると、反応性シリコーンの粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、またこの反応性シリコーンがシルセスキオキサンに導入されにくくなる。このnは10〜100の正数であることが好ましい。この範囲であれば著しく高粘度となることはなく、実用上十分な反応性を有し、しかもシリコーン鎖がある程度以上の長さを有するので硬化物においてシリコーンの特性が良好に発揮される。
【0036】
そして上記式(II)および(III)におけるシロキサン結合生成基X’は、水素原子、水酸基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基であることが好ましい。X’がハロゲン原子である場合には加水分解によりハロゲン化水素が生じるので反応系が酸性雰囲気となりやすく、このためオキセタニル基等が開環する恐れがあるためである。
【0037】
加水分解に供される「混合物」の組成は、上記化合物(I)100重量部に対して上記反応性シリコーン1〜100重量部(より好ましくは5〜50重量部)とすることが好ましい。反応性シリコーンの使用量が1重量部未満であると、硬化物においてシリコーンの特性が十分に発揮されない場合がある。一方、反応性シリコーンの使用量が100重量部を超えると、組成物の硬化性の低下、硬化物における硬度低下または未反応の反応性シリコーンのブリードなどを招く恐れがある。
【0038】
(3)加水分解反応について
本発明の組成物は、上記化合物(I)と上記反応性シリコーンとの混合物を加水分解した加水分解物(以下、単に「加水分解物」という。)からなる。
ここで、上記加水分解はpH7以上の雰囲気下で行うことが好ましい。これは、酸性雰囲気下で加水分解を行うとオキセタニル基等が開環しやすく、これにより系がゲル化したり、オキセタニル基等が消費されることから組成物の硬化性が低下したりするためである。このように加水分解時の雰囲気をpH7以上とするため、通常は系内にアルカリ剤が添加される。このアルカリ剤としては、アンモニア、4級アンモニウム塩、有機アミン類等が使用可能であり、塩基性触媒としての活性が良好であるため4級アンモニウム塩を用いることが好ましい。また、加水分解はpH9〜13の雰囲気下で行うことが特に好ましい。pHが9未満であると、化合物(I)および反応性シリコーンの加水分解・縮合速度が小さいため加水分解物の製造効率が低下する。一方、pHが13を超える場合には、アルカリ剤等の使用量が多くなるため経済的ではなく、また反応系からアルカリ剤等を除去する工程が煩雑となる。
【0039】
加水分解時におけるその他の反応条件については特に限定されないが、好ましい反応温度は10〜120℃(より好ましくは20〜80℃)であり、好適な反応時間は2〜30時間(より好ましくは4〜24時間)である。また、この加水分解時に用いる有機溶媒は特に限定されず、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、トルエン、1,4−ジオキサン、ヘキサン、リグロイン等を用いることができる。このうち、反応系を均一に溶解し得るものが好ましい。
【0040】
(4)反応性希釈剤について
本発明の光カチオン硬化性樹脂組成物は、組成物の粘度を低下させたり硬化物の物性を調整したりする目的で、「光カチオン重合性を有する反応性希釈剤」(以下、単に「反応性希釈剤」という。)を含有することができる。この反応性希釈剤としては、ビニルオキシ基、エポキシ基またはオキセタニル基等の光カチオン重合性基を有する化合物から選択された一種または二種以上を用いることができる。
【0041】
この反応性希釈剤の具体例としては、ビニルオキシ基をもつものとしてエチルビニルエーテル等を、エポキシ基をもつものとしてビスフェノールFジグリシジルエーテル等を、オキセタニル基をもつものとして1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3−(アリルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、[3−(トリエトキシシリル)−プロピロキシメチル]オキセタン等を挙げることができる。
【0042】
このうち、前述のように耐熱性が良く、接着力に優れ、かつ耐薬品性の良好な硬化物を形成可能であるため、エポキシドまたはオキセタン化合物を用いることが好ましい。
【0043】
本発明の組成物における上記反応性希釈剤の使用量は、上記加水分解物の不揮発分100重量部に対して200重量部以下とすることが好ましく、5〜150重量部とすることがより好ましく、10〜100重量部とすることがさらに好ましい。反応性希釈剤の使用量が200重量部を超えると、組成物中に占めるシリコーン鎖の割合が少なくなることから、硬化物がシリコーンの特性を発揮し難くなる。
【0044】
(5)その他の成分について
本発明の光カチオン硬化性樹脂組成物は、一般的に使用されている各種カチオン性光重合開始剤を含有することができる。例えば、ジアリルヨードニウム塩およびトリアリールスルホニウム塩等が好ましく用いられる。この光重合開始剤の添加量は、上記加水分解物の不揮発分と上記反応性希釈剤との合計重量に対して通常1〜10重量%の範囲とすることが好ましく、3〜5重量%とすることがより好ましい。
【0045】
また本発明の光カチオン硬化性樹脂組成物は、さらに粘度調節剤、レベリング剤、安定剤、シランカップリング剤等の一般的な添加剤を含むことができる。また、この組成物は有機溶媒を含んでもよいが、その含有量は組成物全体に対して50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の組成物は、部分的にシリコーン鎖が導入されたシルセスキオキサン化合物からなるため、硬化物にシリコーンの特性を付与できるとともに、上記化合物の基本骨格がシルセスキオキサン構造からなるので表面硬度の高い硬化物を形成可能である。また、オキセタン型の光硬化性樹脂組成物であるので空気中においても速やかにかつ完全に重合させることが可能である。これらの特徴を生かして本発明の組成物は、例えば耐汚染性塗料、落書き防止用コーティング材料として有用であり、さらに保護コーティング材料、樹脂改質剤、レジスト材料、光造型剤などとして利用可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本明細書中における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の分子量である。
【0048】
(1)シリコーン鎖導入シルセスキオキサン化合物の合成
(合成例1)
下記式(V)に示すケイ素化合物(以下、「Oxe−TRIES」という。)と、下記式(VI)に示す反応性シリコーン(以下、「OH−Silicone」という。)との混合物を加水分解して光カチオン重合性樹脂組成物を得た。なお、このOH−Siliconeとしては、チッソ株式会社製の商品名「DMS−S21」(数平均分子量約4,200)を用いた。
【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
以下、反応操作を説明する。
〔1〕攪拌機および温度計を備えた反応器に、イソプロピルアルコール30g、水酸化テトラメチルアンモニウム(以下、「MeNOH」とも表す)の10%水溶液2.73g(HO;136.5mmol、MeNOH;3.0mmol)、水0.78g(43.3mmol)を仕込んだ後、Oxe−TRIES19.23g(60.0mmol)とOH−Silicone1.5g(0.36mmol)との混合物を徐々に加えて室温で攪拌放置した。反応の進行をゲルパーミエーションクロマトグラフィにより追跡し、Oxe−TRIESがほぼ消失した時点(混合物の添加開始から約20時間後)で反応を終了させた。このとき、反応系のpHは11.5であった。
〔2〕反応終了後、系内にトルエン100mlを加え、分液ロートを用いて反応溶液を飽和食塩水により水洗した。
〔3〕分液ロートの水層が中性になるまで水洗を繰り返した後、有機層を分取し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下でトルエンを留去させて、目的とするシリコーン鎖導入シルセスキオキサン化合物A(すなわち、特許請求の範囲に記載の「加水分解物」)を得た。この化合物Aは白色微濁状であり、その数平均分子量は約2,000であった。
【0052】
得られたシリコーン鎖導入シルセスキオキサン化合物Aは、トルエン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、アセトンなどの汎用溶媒に可溶であり、これらの溶媒を少量(例えば化合物Aの固形分濃度が70重量%以下となる量を)添加することにより無色透明となった。一方、Oxe−TRIESのみを加水分解させた(すなわち、OH−Siliconeと共縮合されていない)シルセスキオキサン化合物を別途合成し(以下、この化合物を「シルセスキオキサン化合物a」という。)、このシルセスキオキサン化合物aにOH−Siliconeを混合したところ、両者は全く相溶せず、固形分濃度50重量%の有機溶剤溶液としてもやはり全く相溶しなかった。この結果から、上記化合物Aにおいてはシルセスキオキサン化合物にシリコーン鎖が結合されていることが示唆される。
【0053】
なお、合成例1により得られた化合物Aが有機溶剤を含まない状態では白色微濁状であったのは、この加水分解物はシリコーン鎖が導入された種々の構造のシルセスキオキサンおよびシリコーン鎖が導入されていない種々の構造のシルセスキオキサンなどからなる混合物であり、これらのなかには互いに相溶し難いものもあるためと推察される。一方、合成例1よりも数平均分子量の小さいOH−Siliconeを用いれば、加水分解物中に含まれる化合物間の相溶性がより高い加水分解物を得ることも可能である。例えば、数平均分子量約2,000のOH−Siliconeを用いて、その他の点については合成例1と同様の方法により得られた加水分解物は、有機溶剤を含まない状態においても無色透明であった。
【0054】
(合成例2)
Oxe−TRIESと、下記式(VII)に示す反応性シリコーン(以下、「H−Silicone」という。)との混合物を加水分解して、光カチオン重合性樹脂組成物を得た。なお、このH−Siliconeとしては、数平均分子量約2,900、分散度1.38のものを合成して用いた。
【0055】
【化7】

【0056】
以下、反応操作を説明する。
〔1〕攪拌機および温度計を備えた反応器に、イソプロピルアルコール60g、MeNOHの10%水溶液5.46g(HO;273.0mmol、MeNOH;6.0mmol)、水1.56g(87mmol)を仕込んだ後、Oxe−TRIES38.46g(120.0mmol)とH−Silicone3.0g(1.03mmol)との混合物を徐々に加えて室温で攪拌放置した。反応の進行をゲルパーミエーションクロマトグラフィで追跡し、Oxe−TRIESがほぼ消失した時点(混合物の添加開始から約20時間後)で反応を終了させた。このとき、反応系のpHは11.5であった。
〔2〕反応終了後、合成例1と同様の処理を行って、シリコーン鎖導入シルセスキオキサン化合物Bを得た。この化合物Bは白色微濁状で、数平均分子量は約2,000であった。また、上記合成例1で得られた化合物Aと同様に、トルエン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、アセトンなどの汎用溶媒に可溶であった。
【0057】
(2)光カチオン硬化性樹脂組成物の調整
(実施例1、2)
合成例1および2で得られたシリコーン鎖導入シルセスキオキサン化合物AおよびB各100重量部に対し、カチオン性光重合開始剤としてのビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート3重量部を加え、さらに粘度低下のためにトルエン10重量部を加えて、実施例1および2の光カチオン硬化性樹脂組成物を調整した。
【0058】
(実施例3〜13)
下記表1に示す割合で、合成例1および2で得られたシリコーン鎖導入シルセスキオキサン化合物AおよびBと反応性希釈剤とを混合し、さらにカチオン性光重合開始剤としてのビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート(シリコーン鎖導入シルセスキオキサン化合物と反応性希釈剤との合計重量に対して3重量%)を混合して、実施例3〜13の光カチオン硬化性樹脂組成物を調整した。
なお、表1において、「Oxe-TRIES」は[3−エチル−3−(トリエトキシシリル)−プロピロキシメチル]オキセタン、「Hexyl-Oxe」は3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、「Allyl-Oxe」は3−エチル−3−(アリルオキシメチル)オキセタン、「Epoxy」はγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを示す。
また、実施例1〜13の組成物はいずれも透明であり、各成分の相溶性が良好であることを示した。
【0059】
(比較例1)
シリコーン鎖が導入されていないシルセスキオキサン化合物a100重量部に対し、カチオン性光重合開始剤としてのビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート3重量部を加え、さらにトルエン10重量部を加えて、比較例1の光カチオン硬化性樹脂組成物を調整した。
【0060】
【表1】

【0061】
(3)光カチオン硬化性樹脂組成物の評価
実施例1〜13および比較例1の光カチオン硬化性樹脂組成物につき、下記の方法により硬化性、鉛筆硬度および耐汚染性を評価した。その結果を下記表2に示す。
【0062】
〔1〕硬化性
各組成物を、バーコーターを用いてガラス基板上に約20μmの厚さに塗布し、下記の条件により紫外線照射を行い、表面のタックがなくなるまでの照射回数を測定した。
[UV照射条件]
ランプ:80W/cm高圧水銀ランプ
ランプ高さ:10cm
コンベアスピード:10m/min
照射雰囲気:大気中
【0063】
〔2〕鉛筆硬度
各組成物を、バーコーターを用いて鋼板上およびガラス基板上に約20μmの厚さに塗布し、上記照射条件で5回の紫外線照射を行って硬化膜を得た。この硬化膜を温度25℃、湿度60%の恒温室内に24時間放置した後、JIS K 5400に準じて表面の鉛筆硬度を測定した。
【0064】
〔3〕耐汚染性
上記〔2〕で得た硬化膜(24時間放置後のもの)の表面に、黒色の油性マーカー(ゼブラ ハイマッキー(登録商標)を使用。)により線を引き、インキのはじき具合を目視評価した。評価結果は、〇;完全にはじく(耐汚染性良好)、△;若干インキが残る(耐汚染性ほぼ良好)、×;はじかない(耐汚染性不良)、の3段階で表した。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示すように、シリコーン鎖が導入されていないシルセスキオキサン化合物からなる比較例1の組成物から形成された硬化膜は表面硬度には優れているが、シリコーンの特性をもたないため耐汚染性が不良である。これに対して、本発明のシリコーン鎖が導入されたシルセスキオキサン化合物からなる実施例1〜13の組成物から形成された硬化膜は、いずれも良好あるいはほぼ良好な耐汚染性を示し、これらの硬化膜にはシリコーンの特性が付与されていることが判る。また、実施例1〜13の組成物から形成された硬化膜はいずれも表面硬度においても優れていた。
【0067】
なお、実施例1〜13の硬化膜につき、500g荷重でガーゼ1000回のから拭き試験を行ったところ、この試験後にもインキをハジくことが確認された。本発明の組成物においてはシリコーン鎖がシルセスキオキサン化合物に結合されているので、上記から拭き試験によってもシリコーン鎖が硬化膜の表面から除去されることなく、良好な耐汚染性が維持されたものと考えられる。
【0068】
また、Oxe−TRIESに換えてγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(すなわち、式(I)におけるRがエポキシ基をもつ有機官能基である。)を用いて中性雰囲気下で加水分解させて得られた各種加水分解物についても、組成物および硬化膜の性能はほぼ同様の傾向であった。
【0069】
なお、本発明においては、前記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の光カチオン硬化性樹脂組成物は、相溶性の問題を生じることなく硬化物にシリコーンの特性を付与することができる。また、本発明の組成物はシルセスキオキサン構造を基本骨格とする化合物からなるので、表面硬度の高い硬化物を形成可能である。したがって、本発明の組成物は、例えば耐汚染性塗料、落書き防止用コーティング材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)に示す構造式で表される化合物と、一分子中に一つ以上のシロキサン結合生成基を有する反応性シリコーンと、の混合物を加水分解し、共縮合させて得られる部分的にシリコーン鎖が導入されたシルセスキオキサン化合物からなることを特徴とする光カチオン硬化性樹脂組成物。
【化1】

(但し、Rは下記式(IV)に示す構造式で表されるオキセタニル基をもつ有機官能基であり、Xは加水分解性基である。)
【化2】

(但し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数2〜6のアルキレン基である。)
【請求項2】
上記加水分解物と、光カチオン重合性を有する反応性希釈剤と、を含有する請求項1記載の光カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
上記式(I)において、Xのいずれもがアルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基であり、かつRが上記式(IV)に示す構造式で表されるオキセタニル基をもつ有機官能基である請求項1又は2記載の光カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光カチオン硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする耐汚染性塗料。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光カチオン硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする落書き防止用コーティング材料。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光カチオン硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする保護コーティング材料。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光カチオン硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする樹脂改質剤。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光カチオン硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とするレジスト材料。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光カチオン硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする光造型剤。

【公開番号】特開2006−199957(P2006−199957A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379449(P2005−379449)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【分割の表示】特願平10−17946の分割
【原出願日】平成10年1月13日(1998.1.13)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】