説明

光偏向器及び光偏向器の製造方法

【課題】反射部以外での光の反射を防止できる光偏向器を提供する。
【解決手段】反射膜11を有する可動板10と、可動板10とは異なる部材で、可動板10を取り付けるための取付部21と、取付部21に取り付けられた可動板10を所定の軸の周りに回動可能に支持する弾性支持部22とを有する軸部材20と、軸部材20と連結された支持部材30を備え、弾性支持部22の表面に光吸収膜23が、支持部材30の表面に光吸収膜33が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いた光偏向器及び光偏向器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いて画像描画を行うディスプレイ、プリンタ等に応用することを目的とした光偏向器においては、画像の解像度を上げるため、光走査の更なる高速化が要求されている。しかし、現状で用いられているポリゴンミラーやガルバノミラーの性能向上には限界があり、これらに置き換わる光偏向器としてMEMS(Micro Electro Mechanical System)によってシリコン基板を加工して製作したミラーデバイスが期待されている。このようなMEMSミラーは、ポリゴンミラーやガルバノミラーよりも高い共振周波数で駆動させることができるため、より解像度の高い画像形成が可能となる。
【0003】
MEMSミラーでは、レーザ光をミラー部に当てて、反射光を対象物に照射することにより画像描画を行う。ミラー部以外で光が反射されると、迷光となって画像へ影響を与えることが懸念される。このため、ミラー部以外の部分には反射防止膜を設けることにより、迷光をできるだけ防止する工夫がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、平板状の可動板と、該可動板を回動可能に軸支する一対のトーションバーと、可動板に形成されたミラー部を有し、ミラー部以外の部分に反射防止膜を形成したプレーナ型アクチュエータが開示されている。
また、特許文献2には、光スキャナにおいて、不要光が入射するはり部や固定部が光を反射する反射能力を、反射面よりも低下させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−39156号公報
【特許文献2】特開2005−107069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたアクチュエータは、ミラー部が形成された可動板とトーションバーは1枚の基板を用いて一体形成されている。また、特許文献2に記載された光スキャナも同様に、反射面とはり部は一体形成されている。このため、反射部と反射部以外の部分を精度良く分離して、反射部以外の部分に反射防止膜を形成することは難しい。
【0007】
例えば、可動板とトーションバーを形成した後に、反射膜(ミラー面)と反射防止膜を形成する場合、成膜の工程でミラー面以外に成膜されないよう、シャドーマスク等を用いてカバーする必要がある。しかし、この方法では、スパッタの広がりによって数百μm程度の滲みが生じ、トーションバー部分にも反射膜が形成されてしまう。また、シャドーマスクを正確に配置することも難しい。また、構造体形成後で基板に段差があるため、フォトリソグラフィーを用いてパターニングを行うことも難しい。
【0008】
また、可動板とトーションバーを形成する前に反射膜と反射防止膜を形成する場合は、金属膜等が形成された状態で構造体の形成(エッチング等)を行うため、保護膜を設ける必要があり余分な工程が増える。特にウェットエッチングを行う場合には、保護膜の性能によって形成できる構造が限定されるため、設計の自由度が低くなる。さらに、金属膜を形成する工程を経た基板は、残留応力により撓むことが知られている。このように、構造体の形成に先立って成膜を行う方法も、実現が困難である。
【0009】
このように、可動板とトーションバーが一体形成されている場合、反射膜と反射防止膜の境界を正確に設けることは困難である。そしてミラー面以外の領域に反射膜がはみ出すと、迷光の発生を防止することができない。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、反射部以外での光の反射を防止できる光偏向器及び光偏向器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光偏向器は、反射部を有する可動板と、可動板とは異なる部材で、可動板を取り付けるための取付部と、取付部に取り付けられた可動板を所定の軸の周りに回動可能に支持する弾性支持部とを有する軸部材とを備え、弾性支持部の表面に光吸収部が設けられているものである。
【0012】
可動板と軸部材が異なる部材として形成されることにより、両構造体を形成してから、可動板には反射部を、弾性支持部には光吸収部を形成し、その後で取付部に可動板を取り付けることができる。このため、簡易かつ正確に反射部と光吸収部を分けることが可能となり、反射部以外での光の反射を防止することができる。
【0013】
また、軸部材と連結された支持部材を備え、支持部材の表面に光吸収部が設けられていることが望ましい。
これにより、より確実に反射部以外での光の反射を防止することができる。
【0014】
また、取付部の表面に、光吸収部が設けられていることが望ましい。
これにより、より確実に反射部以外での光の反射を防止することができる。
【0015】
また、可動板の、反射部を有する面の裏面に光吸収部が設けられていることが望ましい。
これにより、可動板が回動した際に可動板の裏面に光が当っても、反射を防止することができる。
【0016】
また、可動板と取付部は、磁石を介して連結されていてもよい。
磁石は光反射率が低く、また、剛性が高いので、取付部の剛性が高められると共に磁石表面での反射も防ぐことができる。
【0017】
本発明に係る光偏向器の製造方法は、可動板を形成する工程と、可動板とは異なる部材で、可動板を取り付けるための取付部と、取付部に取り付けられた可動板を所定の軸の周りに回動可能に支持する弾性支持部と、を有する軸部材を形成する工程と、可動板の上面に反射部を形成する工程と、弾性支持部の表面に光吸収部を形成する工程と、取付部に可動板を取付ける工程と、を備えている。
【0018】
可動板と軸部材を異なる部材として形成してから、可動板には反射部を、弾性支持部には光吸収部を形成し、その後で取付部に可動板を取り付けることにより、簡易かつ正確に反射部と光吸収部を分けることが可能となり、反射部以外での光の反射を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態1による光偏向器の概略構成を示す上面図である。
【図2】実施の形態1による軸部材及び支持部材を示す上面図である。
【図3】図3(a)は実施の形態1による可動板の上面図、図3(b)は実施の形態1による可動板の下面図である。
【図4】図1のI−I線における断面図である。
【図5】図5(a)は実施の形態2による可動板の上面図、図5(b)は実施の形態2による可動板の下面図である。
【図6】実施の形態2による光偏向器の概略構成を示す側方断面図である。
【図7】本発明に係る光偏向器を用いた表示装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態1による、光偏向器1の概略構成を示す上面図である。
図1に示すように、光偏向器1は、可動板10、軸部材20、支持部材30を備えている。可動板10と軸部材20は異なる部材として形成されており、可動板10は軸部材20上に取り付けられている。なお、軸部材20と支持部材30とは、略同一平面となるように一体形成されるのが好ましい。
【0021】
図2は、図1に示した軸部材20及び支持部材30を示す上面図である。図2に示すように、軸部材20は、略中央に配置される板状の取付部21と、支持部材30に対して取付部21を軸部材20の中心軸である軸A周りに回動可能に支持する一対の弾性支持部22とを有する。軸部材20の取付部21及び弾性支持部22の上面には、入射した光を吸収する(反射しない)光吸収膜(光吸収部)23が成膜されている。なお、軸部材20の下面や側面にも光吸収膜23を成膜してもよい。
【0022】
支持部材30は、軸部材20を支持し、一対の弾性支持部22にそれぞれ接続され、軸部材20の両端を固定する固定部31と、固定部31同士を連結する枠部(フレーム)32とを有する。本実施形態では、支持部材30は固定部31と枠部32とを有するように構成したが、これに限定されず、固定部31のみを有し、枠部32はない構成であってもよい。支持部材30の上面には、入射した光を吸収する(反射しない)光吸収膜(光吸収部)33が成膜されている。なお、支持部材30の下面や側面にも光吸収膜33を成膜してもよい。
【0023】
軸部材20における取付部21及び弾性支持部22は、例えばシリコン基板をエッチング加工することにより、一体形成することができる。また、軸部材20と支持部材30とを一体形成する場合も、同様にシリコン基板をエッチング加工することにより、一体形成することができる。
【0024】
光吸収膜23は、例えば、スパッタやメッキ等の方法によりクロム膜を成膜することにより行う。成膜する際には、軸部材20の上面にクロムを付着させる。軸部材20の下面にも光吸収膜23を成膜する場合は、下面にもクロムを付着させる。なお、光吸収膜23の膜厚は1500Å程度が望ましい。クロム膜を形成することにより、可視光の反射率を10%以下に抑えることができる。また、クロムと酸化クロムとの積層膜を成膜することにより、光吸収膜23の密着性、安定性を向上させることができる。なお、光吸収膜23の材料としては、クロムの他に、ニッケルやレジストを用いても良い。
【0025】
同様に、光吸収膜33は、スパッタやメッキ等の方法によりクロム膜を成膜することにより行う。成膜する際には、支持部材30の上面にクロムを付着させる。支持部材30の下面にも光吸収膜33を成膜する場合は、下面にもクロムを付着させる。光吸収膜33の膜厚は、光吸収膜23と同様に、1500Å程度が望ましい。また、クロムと酸化クロムとの積層膜を成膜することにより、光吸収膜33の密着性、安定性を向上させることができる。なお、光吸収膜33の材料としては、クロムの他に、ニッケルやレジストを用いても良い。
【0026】
図3(a)は、図1に示した可動板10の上面図、図3(b)は可動板10の下面図である。図3(a)に示すように、可動板10の上面には、入射した光を反射する反射膜(反射部)11が成膜されている。可動板10は、例えばシリコン基板をエッチング加工して所定の形状に成形することにより形成する。反射膜11は、可動板10の上面に、真空蒸着、スパッタリング、金属箔の接合などの成膜方法を施すことにより、成膜することができる。
【0027】
図3(b)に示すように、可動板10の下面の略中心部に凹部12が形成されている。凹部12は、例えばシリコン基板をエッチング加工することにより形成される。また、可動板10の裏面には、光吸収膜(光吸収部)14が成膜されている。光吸収膜14は、スパッタやメッキ等の方法によりクロム膜を成膜することにより行う。成膜する際には、可動板10の裏面にクロムを付着させる。光吸収膜14の膜厚は、光吸収膜23と同様に、1500Å程度が望ましい。また、クロムと酸化クロムとの積層膜を成膜することにより、光吸収膜14の密着性、安定性を向上させることができる。なお、光吸収膜14の材料としては、クロムの他に、ニッケルやレジストを用いても良い。
【0028】
なお、本実施形態では、可動板10の平面形状として円形のものを示したが、これに限定されず、光偏向器1の可動板10として求められる役割を果たす限り、楕円形、矩形、多角形などの他の形状であってもよい。
【0029】
図4は、図1に示したI−I線における断面図である。なお、図1に示したI−I線は軸Aから所定距離ずらして配置している。図4に示すように、取付部21の一方の面(図4において上側の面)には、図示しない接着剤を介して磁石40が接合されている。このように、剛性の高い磁石40が取付部21に設けられるので、取付部21の剛性が高められる。なお、磁石40として永久磁石を用いるのが好ましい。
【0030】
磁石40の上部は、可動板10の凹部12に嵌合されており、図示しない接着剤を介して可動板10が接合されている。このようにして、可動板10が磁石40を介して取付部21に設けられる。ここで、取付部21と可動板10との間に磁石40の厚さ分だけ空間(スペース)が形成される。よって、磁石40の厚さを適切な値に設定することにより、光偏向器1は、取付部21とともに可動板10が軸A周りに揺動するときに、可動板10と枠部(フレーム)32とが接触しない構造にすることが可能となる。例えば、可動板10の直径が2mm、厚さが200μm、支持部材30の厚さが200μmの場合に、磁石40の厚さを400μmに設定すると、可動板10が軸A周りに揺動するときの振れ角を40度にしても、可動板10は枠部(フレーム)32に接触しない。なお、ここで厚さとは、図1のZ軸方向の長さを表している。
【0031】
なお、凹部12の形状は、平面視したときに磁石40と略同一の形状に成形されるのが好ましい。また、取付部21の形状も、平面視したときに磁石40と略同一の形状に成形されるのが好ましい。
【0032】
図1に示したように光偏向器1を平面視したときに、可動板10は、取付部21と取付部21の上面に設けられる磁石40とを覆い隠すように、取付部21及び磁石40より大きい面積を有する。ここで、弾性支持部22は取付部21に接続され、取付部21は可動板10より面積が小さいので、図4に示すように、光偏向器1は、弾性支持部22が可動板10の端部より部分Bだけ内側に入り込む構造になる。
【0033】
また、光偏向器1を平面視したときに、磁石40は、軸Aに直交する方向(図1におけるY軸方向)に磁化されている。すなわち、磁石40は、軸Aを介して対向する互いに極性の異なる一対の磁極を有している。本実施形態では、磁石40を、可動板10及び軸部材20と異なる部材として説明したが、これに限定されず、可動板10又は軸部材20と一体形成してもよい。この場合、磁石40は、可動板10又は取付部21の面にスパッタリングなどの成膜方法を施すことにより形成される。
【0034】
図4に示すように、支持部材30は、図示しない接着剤を介してホルダ50に接合されており、ホルダ50の底部51上には、取付部21を揺動させるためのコイル41が配置されている。コイル41は本発明の駆動手段に相当する。コイル41には、図示しない電源から所定周波数の交流電流が供給される。これにより、コイル41は上方(可動板11側)に向く磁界と、下方に向く磁界とを交互に発生させる。これにより、コイル41に対して磁石40の一対の磁極のうち一方の磁極が接近し他方の磁極が離間するようにして、弾性支持部22をねじれ変形させながら、取付部21と取付部21に設けられた可動板10及び磁石40が、軸A回りに揺動させられる。
【0035】
コイル41に供給される交流電流の所定周波数は、可動板10、軸部材20、及び磁石40から構成される振動系の振動数(ねじり共振周波数)とほぼ一致するように設定するのが好ましい。このように共振を利用することで、取付部21を軸A周りに揺動させるときに、少ない消費電力で振れ角を大きくすることができる。
【0036】
本実施形態では、磁石40とコイル41との間の電磁力を利用した駆動方式を示したが、これに限定されず、強磁性体に相当する磁石40と、磁界発生手段に相当するコイル41及び電源との間に駆動力を発生させるように構成されていればよい。また、光偏向器1は、取付部21に磁石40に代わる剛性部材が設けられていれば、静電引力を利用した方式や、圧電素子を駆動手段として利用した駆動方式を採用してもよい。例えば、静電引力を利用した方式の場合には、磁石40は不要であり、コイル41の代わりに、ホルダ50の底部51における取付部21に対向する位置に、1つ又は複数の電極が設置される。そして、取付部21と当該電極との間に所定周波数の交流電圧を印加することにより、取付部21と電極との間に静電引力を発生させ、弾性支持部22をねじれ変形させながら、取付部21と取付部21に設けられた可動板10及び磁石40とが、軸A周りに揺動させられる。
【0037】
次に、本実施形態による光偏向器1の製造方法について説明する。
上述のように、本実施形態では、可動板10と軸部材20は異なる部材として形成されており、可動板10は軸部材20上に取り付けられている。また、軸部材20と支持部材30は一体形成されている。
【0038】
可動板10は、例えばシリコン基板をエッチング加工することにより形成される。シリコン基板のエッチングには、ドライエッチング又はウェットエッチングのいずれも適用可能である。エッチングにより、可動板10の形状を形成した後、可動板10の表面に金属膜を成膜しパターニングすることにより、反射膜11を形成する。金属膜の成膜方法としては、真空蒸着、スパッタリング、電気メッキ、無電解メッキ、金属箔の接合等が挙げられる。また、エッチングにより可動板10を形成する際、同時に、可動板10の下面の略中心部に凹部12を形成することができる。また、可動板10の裏面には、光吸収膜14を成膜する。光吸収膜14は、スパッタやメッキ等の方法によりクロム膜を成膜することにより行う。
このようにして、図3に示す可動板10が形成される。
【0039】
軸部材20及び支持部材30は、例えばシリコン基板をエッチング加工することにより形成される。シリコン基板のエッチングには、ドライエッチング又はウェットエッチングのいずれも適用可能である。エッチングにより、軸部材20及び支持部材30の形状を形成した後、軸部材20の上面に光吸収膜23を成膜すると共に、支持部材30の上面に光吸収膜33を成膜する。さらに、軸部材20及び支持部材30の下面や側面にも光吸収膜23、33を成膜してもよい。光吸収膜23、33は、スパッタやメッキ等の方法によりクロム膜を成膜することにより行う。
このようにして、図2に示す軸部材20及び支持部材30が形成される。
【0040】
次に、取付部21に磁石40と可動板10を接合する。まず、磁石40を取付部21に接着剤を介して接合する。この時、磁石40の貼り合わせ面の形状と取付部21の貼り合わせ面の形状を同一にしておけば、位置あわせが容易になる。続いて、磁石40の取付部21に接着している面と反対側の面と、可動板10の裏面とを接着剤を介して貼り合わせる。この時、磁石40を可動板10の裏面の凹部12に嵌合するようにして接合させるため、容易に位置あわせを行うことができる。なお、可動板10と磁石40を接合してから、可動板10と磁石40からなる構造体を取付部21に取付けてもよい。
【0041】
さらに、可動板10、軸部材20、支持部材30、及び磁石40を含む構造体をホルダ50に取り付けることにより、図4に示す光偏向器1が製造される。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、可動板10と軸部材20を異なる部材として形成しているため、可動板10には反射膜11を、弾性支持部22には光吸収膜23を形成し、その後で取付部21に可動板10を取り付けることができる。このため、可動板10と軸部材20が一体形成されている場合のように、反射膜11の成膜時に反射膜11が弾性支持部22の一部にも成膜されてしまう心配がないので、簡易かつ正確に反射膜11と光吸収膜23を分けることが可能となる。これにより、反射膜11以外での光の反射を防止することができる。
【0043】
また、本実施形態では、支持部材30の表面にも光吸収膜33を形成している。支持部材30についても軸部材20と同様に、可動板10とは異なる部材として形成されているので、反射膜11の成膜時に反射膜11が支持部材30の一部にも成膜されてしまう心配がなく、簡易かつ正確に反射膜11と光吸収膜33を分けることが可能となる。
【0044】
また、本実施形態では、可動板10の裏面にも光吸収膜14を成膜しているので、可動板10の回動により光が可動板10の裏面に入射しても、反射を防止し、迷光を防ぐことができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、可動板10と取付部21が磁石40を介して連結される。磁石40は光反射率が低く、また剛性が高いので、取付部21の剛性が高められると共に磁石40表面での反射も防ぐことができる。また、連結の際、可動板10の凹部12に磁石40が嵌合されるので、可動板10と磁石40とのアライメントが容易である。
【0046】
実施の形態2.
図5(a)は、実施の形態2による可動板10の上面図、図5(b)は可動板10の下面図である。なお、実施の形態1による光偏向器1と同一または対応する構成は同一の符号をもって表し、その説明を省略する。
【0047】
図5(a)に示すように、可動板10の表面には、実施の形態1と同様に、入射した光を反射する反射膜11が成膜されている。また、図5(b)に示すように、可動板10の裏面には、略中心部に介在部材13が設けられている。介在部材13は、例えばシリコン基板をエッチング加工することにより、可動板10と一体形成されてもよいし、可動板10とは異なる部材として形成し、接着剤などで可動板10の裏面に接合されてもよい。なお、介在部材13の形状は、平面視したときに取付部21と略同一の形状に成形されるのが好ましい。また、可動板10の裏面には、実施の形態1と同様に、光吸収膜14が成膜されている。また、介在部材13の側面にも光吸収膜14が成膜されていることが望ましい。
【0048】
図6は、実施の形態2による光偏向器1の概略構成を示す側方断面図である。図6は実施の形態1の図4と同様の断面を表している。図6に示すように、取付部21の一方の面(図6において下側の面)には、図示しない接着剤を介して磁石40が接合されている。また、取付部21の他方の面(図6において上側の面)には、図示しない接着剤を介して介在部材13が接合されている。これにより、可動板10が介在部材13を介して取付部21に連結される。ここで、取付部21と可動板10との間に介在部材13の厚さ分だけ空間(スペース)が形成される。よって、介在部材13の厚さを適切な値に設定することにより、光偏向器1は、取付部21とともに可動板10が軸A周りに揺動するときに、可動板10と枠部(フレーム)32とが接触しない構造にすることが可能となる。なお、本実施形態では、可動板10が介在部材13を介して取付部21に設けられるようにしたが、これに限定されず、可動板10を取付部21の他方の面に直接設けるようにしてもよい。
【0049】
軸部材20の上面には、実施の形態1と同様に、入射した光を吸収する(反射しない)光吸収膜23が成膜されている。なお、軸部材20の下面や側面にも光吸収膜23を成膜してもよい。また、支持部材30の上面にも、入射した光を吸収する(反射しない)光吸収膜33が成膜されている。なお、支持部材30の下面や側面にも光吸収膜33を成膜してもよい。
【0050】
実施の形態2による光偏向器1の製造方法は、実施の形態1と基本的に同様である。可動板10は、例えばシリコン基板をエッチング加工することにより形成し、表面に反射膜11を形成する。また、裏面には光吸収膜14を成膜する。さらに、介在部材13の側面にも光吸収膜14を成膜することが望ましい。
【0051】
軸部材20及び支持部材30は、例えばシリコン基板をエッチング加工することにより形成される。エッチングにより軸部材20及び支持部材30の形状を形成した後、軸部材20の上面に光吸収膜23を成膜すると共に、支持部材30の上面に光吸収膜33を成膜する。さらに、軸部材20及び支持部材30の下面や側面にも光吸収膜23、33を成膜してもよい。
【0052】
次に、取付部21に可動板10を接合する。取付部21に接着剤を介して介在部材13接合する。この時、介在部材13の形状を、平面視したときに取付部21と略同一の形状に成形しておくことにより、容易に位置あわせを行うことができる。
【0053】
また、取付部21の介在部材13を接合した面とは反対側の面に、接着剤を介して磁石40を接合する。
【0054】
さらに、可動板10、軸部材20、支持部材30、及び磁石40を含む構造体をホルダ50に取り付けることにより、図6に示す光偏向器1が製造される。
【0055】
なお、光吸収膜14、23、33は、実施の形態1と同様に、スパッタやメッキ等の方法によりクロム膜を成膜することにより行う。光吸収膜14、23、33の膜厚は、1500Å程度が望ましい。また、クロムと酸化クロムとの積層膜を成膜することにより、光吸収膜14、23、33の密着性、安定性を向上させることができる。なお、光吸収膜14、23、33の材料としては、クロムの他に、ニッケルやレジストを用いても良い。
【0056】
以上のように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に可動板10と軸部材20を異なる部材として形成しているため、可動板10には反射膜11を、弾性支持部22には光吸収膜23を形成し、その後で取付部21に可動板10を取り付けることができる。このため、可動板10と軸部材20が一体形成されている場合のように、反射膜11の成膜時に反射膜11が弾性支持部22の一部にも成膜されてしまう心配がないので、簡易かつ正確に反射膜11と光吸収膜23を分けることが可能となる。これにより、反射膜11以外での光の反射を防止することができる。
【0057】
また、本実施形態では、支持部材30の表面にも光吸収膜33を形成している。支持部材30についても軸部材20と同様に、可動板10とは異なる部材として形成されているので、反射膜11の成膜時に反射膜11が支持部材30の一部にも成膜されてしまう心配がなく、簡易かつ正確に反射膜11と光吸収膜33を分けることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、可動板10の裏面にも光吸収膜14を成膜しているので、可動板10の回動により光が可動板10の裏面に入射しても、反射を防止し、迷光を防ぐことができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、可動板10と取付部21が介在部材13を介して連結される。介在部材13の側面に光吸収膜14を設けることにより、介在部材13の表面での反射も防ぐことができる。また、介在部材13の形状は、平面視したときに取付部21と略同一の形状に成形されているので、可動板10と取付部21とのアライメントが容易である。
【0060】
(表示装置)
本発明に係る光偏向器1の応用例として、投射型の表示装置を説明する。図7は、投射型の表示装置の概略構成を示す図である。図7に示す光走査装置は、水平走査ミラーとして本発明に係る光偏向器1を用いている。
【0061】
図7に示す光走査装置は、光偏向器1の他に、レーザ光源101と、ダイクロイックミラー102と、フォトダイオード103と、垂直ミラー104とを備える。
【0062】
レーザ光源101は、赤色レーザ光を出射する赤色レーザ光源101Rと、青色レーザ光を出射する青色レーザ光源101Bと、緑色レーザ光を出射する緑色レーザ光源101Gとを有する。ただし、2色以下又は4色以上のレーザ光源を用いてもよい。
【0063】
ダイクロイックミラー102は、赤色レーザ光源101Rからの赤色レーザ光を反射するダイクロイックミラー102Rと、青色レーザ光を反射し赤色レーザ光を透過させるダイクロイックミラー102Bと、緑色レーザ光を反射し青色レーザ光及び赤色レーザ光を透過させるダイクロイックミラー102Gとを有する。この3種のダイクロイックミラー102により、赤色レーザ光、青色レーザ光、及び緑色レーザ光の合成光が振動ミラー1に入射する。
【0064】
フォトダイオード103は、各ダイクロイックミラー102R,102G,102Bに反射されずに透過した赤色レーザ光、緑色レーザ光、青色レーザ光の光量を検出する。
【0065】
光偏向器1は、ダイクロイックミラー102から送られたレーザ光を水平方向(軸線Xの垂直方向)に走査する。光偏向器1は、上述したように、MEMSにより形成された、共振型ミラーである。
【0066】
垂直ミラー104は、光偏向器1により反射されたレーザ光を垂直方向に走査する。垂直ミラー104は、例えば、ガルバノミラーにより構成される。ガルバノミラーとはミラーに軸を付け、電気振動に応じてミラーの回動角を変えられるようにした偏向器である。光偏向器1によるレーザ光の水平走査、及び垂直ミラー104によるレーザ光の垂直走査により画像が表示される。
【0067】
本実施形態に係る光走査装置は、上記のレーザ光源101、光偏向器1、垂直ミラー104の駆動制御系として、さらに、レーザ光源101を駆動するレーザ駆動手段110と、光偏向器1を駆動する水平ミラー駆動手段111と、垂直ミラー104を駆動する垂直ミラー駆動手段112と、全体の動作の制御を担う制御手段113と、記憶手段114とを有する。
【0068】
制御手段113は、パーソナルコンピュータや携帯電話等の各種の映像ソース115から送られた画像情報に基づいて、これらの画像を表示すべく、レーザ駆動手段110、水平ミラー駆動手段111、垂直ミラー駆動手段112の動作を制御する。
【0069】
記憶手段114は、例えば、各種のプログラムを収納するROMと、変数等を収納するRAMと、不揮発性メモリとにより構成される。
【0070】
本実施形態に係る光偏向器1を表示装置に適用することにより、表示性能の良好な表示装置を実現できる。
【0071】
本発明は、上記の実施形態の説明に限定されない。
例えば、可動板は円形以外の多角形でもよい。また、実施の形態1,2では、1次元1自由度で駆動するタイプの可動板を例示したが、2次元に駆動するタイプの可動板であってもよく、また、1次元2自由度で駆動するタイプの可動板であってもよい。2次元に駆動するタイプの振動ミラーを用いた場合には、垂直ミラー104は不要である。
また、光偏向器1は、表示装置以外にもレーザプリンタ等に適用可能である。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 光偏向器、10 可動板、11 反射膜、12 凹部、13 介在部材、14 光吸収膜、20 軸部材、21 取付部、22 弾性支持部、23光吸収膜、30 支持部材、31 固定部、32 枠部、33光吸収膜、40 磁石、41 コイル、50 ホルダ、51 底部、101 レーザ光源、101R 赤色レーザ光源、101B 青色レーザ光源、101G 緑色レーザ光源、102 ダイクロイックミラー、102R ダイクロイックミラー、102B ダイクロイックミラー、102G ダイクロイックミラー、103 フォトダイオード、103R フォトダイオード、103B フォトダイオード、103G フォトダイオード、104 垂直ミラー、110 レーザ駆動手段、111 水平ミラー駆動手段、112 垂直ミラー駆動手段、113 制御手段、114 記憶手段、115 映像ソース、A 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射部を有する可動板と、
前記可動板とは異なる部材で、前記可動板を取り付けるための取付部と、前記取付部に取り付けられた前記可動板を所定の軸の周りに回動可能に支持する弾性支持部と、を有する軸部材と、を備え
前記弾性支持部の表面に光吸収部が設けられている、光偏向器。
【請求項2】
請求項1に記載の光偏向器であって、
前記軸部材と連結された支持部材を備え、
前記支持部材の表面に光吸収部が設けられている、光偏向器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光偏向器であって、
前記取付部の表面に、光吸収部が設けられている、光偏向器。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光偏向器であって、
前記可動板の、前記反射部を有する面の裏面に光吸収部が設けられている、光偏向器。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光偏向器であって、
前記可動板と前記取付部は、磁石を介して連結されている、光偏向器。
【請求項6】
可動板を形成する工程と、
前記可動板とは異なる部材で、前記可動板を取り付けるための取付部と、前記取付部に取り付けられた前記可動板を所定の軸の周りに回動可能に支持する弾性支持部と、を有する軸部材を形成する工程と、
前記可動板の上面に反射部を形成する工程と、
前記弾性支持部の表面に光吸収部を形成する工程と、
前記取付部に前記可動板を取付ける工程と、を備えた光偏向器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−39313(P2011−39313A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187075(P2009−187075)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】