光偏向装置および光偏向装置の製造方法
【課題】可動部を正確に揺動させることが可能な光偏向装置および光偏向装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】光偏向装置は、基板と、可動部と、可動部を基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、可動部の下面に対向する位置において基板に設けられている固定電極と、可動部に設けられている可動電極と、を備えている。可動部の下面には、基板側へ突出している突起部が形成されている。突起部は、可動部の揺動軸を含み可動部に垂直な面の面内に頂点を有している。可動部を揺動させている期間において、突起部が基板に接触している。
【解決手段】光偏向装置は、基板と、可動部と、可動部を基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、可動部の下面に対向する位置において基板に設けられている固定電極と、可動部に設けられている可動電極と、を備えている。可動部の下面には、基板側へ突出している突起部が形成されている。突起部は、可動部の揺動軸を含み可動部に垂直な面の面内に頂点を有している。可動部を揺動させている期間において、突起部が基板に接触している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力によってミラーを揺動させることによって、光ビームの反射方向を変化させる光偏向装置および光偏向装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、光ビームを偏向させる静電駆動型の光学装置500が開示されている。図29に示すように、光学装置500は、下部基板501と、上部基板502と、可動ミラー503と、可動ミラー503の外周に位置するリング部508と、可動ミラー503を揺動可能に支持するトーションスプリング504と、可動ミラー503の中央部に対向する位置において下部基板501に設置された凸部505と、可動ミラー503の中心に対向する位置において凸部505の上面に設置された支点突起506と、下部基板501の上面に設置された下部電極507を備えている。トーションスプリング504は、図29に示す位置に1対設置されており、可動ミラー503とリング部508を接続している。図29に示す1対のトーションスプリング504と垂直な方向(紙面に対して垂直な方向)にさらに1対のトーションスプリング(図示しない)が設置されており、リング部508と上部基板502を接続している。下部電極507は、図29に示す位置に1対設置されており、図29に示す1対のトーションスプリング504と垂直な方向(紙面に対して垂直な方向)に、さらに1対の下部電極507が設置されている。合計4箇所に設置された下部電極507の中から選択した単数または複数の下部電極507に電圧を印加することによって、電圧を印加した下部電極507に対向する範囲の可動ミラー503を静電気力で基板側に引き寄せる。すなわち、下部電極507への電圧印加により、可動ミラー503に駆動トルクが作用する。これによって、可動ミラー503は揺動し、可動ミラー503に入射する光ビームの反射方向を変化させる。
【0003】
可動ミラー503は支点突起506と2対のトーションスプリング504とリング部508によって支持されており、支点突起506を中心に揺動する。可動ミラー503の中心と対向する位置に支点突起506が設置されているため、可動ミラー503が下方へ変位すること(沈み込むこと)を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−57575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の光学装置500では、可動ミラー503が支点突起506を支点として揺動する。可動ミラー503が平面方向に移動した場合や、支点突起506が可動ミラー503の中心に対向する位置に正確に設置されていない場合などには、揺動支点が可動ミラー503の中心に正確に位置しないことになる。すると、可動ミラー503が揺動する方向によって、同一の駆動トルクに対する揺動角が変化する。また、可動ミラー503が複数備えられる場合には、可動ミラー503間で、可動ミラー503に対する支点の位置が異なることとなる。すると、可動ミラー503間で、揺動角のばらつきが発生する。
【0006】
本願は、光偏向装置の可動部を正確に揺動させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の光偏向装置は、基板と、平板形状の可動部と、可動部を基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、可動部の下面に対向する位置において基板に設けられている固定電極と、可動部に設けられている可動電極と、を備えている。また、可動部の下面には、基板側へ突出している突起部が形成されている。突起部は、可動部の揺動軸を含み可動部に垂直な面の面内に頂点を有している。可動部を揺動させている期間において、突起部が基板に接触している。
【0008】
上記の光偏向装置は、静電駆動式の光偏向装置である。可動部を揺動させている期間では、可動部に設置された可動電極と、可動電極の下方に位置する基板に固定された固定電極との間に静電引力を作用させて、可動部を揺動させる。この静電引力によって、可撓梁が下方に撓み、可動部の揺動軸が基板に向けて下方に変位する。この現象を可動部の沈み込みという。可動部の沈み込みにより、可動部を駆動している期間では、突起部が基板に接触している。よって、突起部が基板に接触した状態を維持しながら、可動部が揺動軸を中心として揺動する。
【0009】
対比として、突起部が基板側に形成されており、可動部が沈み込んだ場合に突起部の頂点が可動部の下面に当接することで支点が形成される構造を有する光偏向装置について説明する。このような光偏向装置では、ミラーが支点突起に当接する際の当接位置によって、ミラーの揺動の支点が決定される。よって、揺動の支点がミラーに対して固定されていない状態である。すると、揺動の支点が可動部の中心に正確に位置していない状態が発生しうる。この状態では、同一の駆動トルクに対する揺動角が、可動部が揺動する方向によって変化してしまうなど、可動部が正確に揺動しないおそれがある。一方、本願の光偏向装置では、可動部に固定された突起部を支点として揺動するため、揺動の支点がミラーに対して固定されている状態である。すると、揺動の支点が可動部の中心に正確に位置していない状態が発生する事態を防止することができる。また、本願の光偏向装置では、可動部の揺動時に、突起部が基板に接触した状態が維持される。よって、突起部によって可動部の沈み込み量を所定値に維持することができる。
【0010】
また例えば、可動部が沈み込んだ場合に基板側に形成された突起部の頂点が可動部の下面に当接することで支点が形成される構造を有する光偏向装置では、沈み込みの有無などにより、可動部と固定電極とのギャップ値が変化する。ギャップ値は、可動部の下面と基板表面との間の距離である。ギャップ値が変化すると、可動部の最大傾き角度(可動部が傾いて可動部端部が固定電極に当接する際の角度)が変化してしまうおそれがある。一方、本願の光偏向装置では、可動部を揺動させている期間において、突起部が基板に接触している。よって、可動部と固定電極とのギャップ値は、突起部の高さで規定されるため、一定値に維持される。これにより、可動部の最大傾き角度を一定に維持することが可能となる。
【0011】
また本願の光偏向装置では、揺動軸に垂直な断面における突起部の頂点の形状が、曲面に形成されているとしてもよい。揺動軸に垂直な断面において、基板の形状は平面に形成されている。そして、突起部の頂点が基板に接触した状態を保ったまま、可動部が揺動する。すると、平面と曲面とが接触するため、揺動軸に垂直な断面で見たときに、その接触部は揺動状態に関わらず常に点接触となる。よって、可動部が揺動する際に、引っかかりが発生することがないため、スムーズに可動部を揺動させることができる。
【0012】
また本願の光偏向装置では、揺動軸に垂直な断面における突起部の断面形状は、一定厚さの板状部材が基板側へ突出するように屈曲している形状とされてもよい。また、揺動軸に垂直な断面における可動部の断面形状は、一定厚さの板状部材が突起部の始点部から揺動軸から遠ざかる方向に向けて同一平面内で伸びている形状であるとしてもよい。本願の光偏向装置では、一定厚さの板状部材により、突起部および可動部が連続的に形成されている。すると、材料膜を堆積させる1の工程により、可動部および突起部を同時に作成することができる。よって、突起部を形成する工程を簡略化することが可能となる。
【0013】
また本願の光偏向装置では、可動部の一端には第1の可撓梁が接続されており、可動部の他端には第2の可撓梁が接続されており、第1の可撓梁と第2の可撓梁とは揺動軸を共通にしているとしてもよい。また、突起部は、第1の可撓梁の接続部から第2の可撓梁の接続部へ至る全長に渡って連続して形成されているとしてもよい。これにより、可動部において、突起部が形成された部位は、断面形状が平板状ではなくなるため、曲げ剛性が高くなる。そして突起部は、揺動軸に沿って、可動部の全体に形成されている。よって、可動部の揺動軸方向の曲げ剛性を高めることができる。
【0014】
また本願の光偏向装置では、可動部の下面に、基板側へ突出している少なくとも1つの第2突起部がさらに形成されていてもよい。また、第2突起部の第2頂点の可動部下面からの突出高さが、突起部の頂点と可動部の端部とを結んだ線を越えて基板側へ突出しない高さにされていてもよい。これにより、可動部が揺動する際に、可動部の端部の下面が基板表面へ当接するよりも先に、第2突起部が基板表面へ当接してしまう事態を防止できる。よって、第2突起部によって最大傾き角度が制限される影響を、小さくすることができる。また、可動部において第2突起部が形成されている部位は、断面形状が平板状ではなくなるため、曲げ剛性が高くなる。よって、可動部の強度をより高めることが可能となる。
【0015】
また本願の光偏向装置では、固定電極および可動電極に可動部を揺動させるための電圧を印加した場合に、可動部の側端が基板に接触するより先に突起部が基板に接触するように、可撓梁の断面形状が設定されているとしてもよい。この光偏向装置では、固定電極および可動電極に、可動部を揺動させるための電圧を印加している期間では、可撓梁がたわんで突起部が確実に基板に接触する。なお、可撓梁の基板方向へのたわみやすさは、可撓梁の断面形状および長さによって決定されている。揺動軸に垂直な断面での、可動部に垂直な方向における可撓梁の厚さが薄くなるほど、可撓梁は基板方向へたわみやすくなる。また、可撓梁の長さが長くなるほど、可撓梁は基板方向へたわみやすくなる。
【0016】
また本願の光偏向装置の製造方法は、基板と、平板形状の可動部と、可動部を基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、可動部の下面に対向する位置において基板に設けられている固定電極と、可動部に設けられている可動電極と、を備えており、可動部の下面には、可動部の揺動軸を含み可動部に垂直な面の面内に頂点を有するように、基板側へ突出している突起部が形成されており、可動部を揺動させている期間において、突起部が基板に接触している光偏向装置の製造方法である。また、本願の光偏向装置の製造方法は、基板となる材料ウェハの上面に、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、犠牲層の上面に、突起部を形成する部分にエッチングホールを有するエッチング用マスクを形成するエッチング用マスク形成工程と、エッチングホールを通して犠牲層を等方性エッチング処理する等方性エッチング工程と、等方性エッチング処理が行われた犠牲層に、可動部を形成する可動部形成工程と、可動部形成工程の後に、犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、を含んでいる。
【0017】
犠牲層において突起部を形成する部分に、エッチングホールを有するエッチング用マスクを形成する。エッチングホールを通して犠牲層を等方性エッチング処理することにより、犠牲層に窪み部を形成することができる。そして、窪み部を有する犠牲層上に可動部を形成し、犠牲層を除去することによって、窪み部の形状が転写された突起部を下面に有する可動部を形成することができる。すなわち、可動部の揺動角を規定する突起部の高さは、等方性エッチング工程によってのみ制御されている。等方性エッチング工程は、薄膜形成工程、CMP工程、異方性エッチング工程などのプロセスに比して、制御するパラメータが少ない単純なプロセスである。よって、突起部の高さのウェハ面内バラツキやウェハ間バラツキを小さくすることができる。そして、突起部の高さによって可動部の最大傾き角度が決まることから、可動部の最大傾き角度の各種バラツキ量を抑えることができる。
【0018】
また、エッチングホールを通して犠牲層を等方性エッチング処理する。等方性エッチングでは、縦横方向に同時にエッチングされるため、アンダーカット(エッチングホールの横方向へのエッチング)が発生する。よって、エッチングによって犠牲層に形成される窪み部の断面形状を、半円形状にすることができる。すると、窪み部の形状が突起部に転写されるため、突起部の断面形状を曲面に形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本願によれば、可動部を正確に揺動させることが可能な光偏向装置および光偏向装置の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で製造する光偏向装置の平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】実施例1の光偏向装置の揺動状態を説明する図である。
【図5】実施例1の光偏向装置の揺動状態を説明する図である。
【図6】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図7】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図8】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図9】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図10】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図11】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図12】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図13】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図14】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図15】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図16】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図17】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図18】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図19】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図20】実施例1の光偏向装置の揺動状態を説明する図である。
【図21】揺動抵抗を説明する図である。
【図22】揺動抵抗を説明する図である。
【図23】実施例2で製造する光偏向装置の平面図である。
【図24】図23のXXIV−XXIV線断面図である。
【図25】実施例2の光偏向装置の揺動状態を説明する図である。
【図26】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図27】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図28】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図29】従来技術の光学装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る好ましい実施形態は、例えば、下記に列挙する特徴を備えた実施例によって具現化される。
(特徴1)光偏向装置は、半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用した製造方法によって製造される。
【実施例1】
【0022】
(第1の光偏向装置)
実施例1に係る第1の製造方法によって製造される、第1の光偏向装置20について説明する。図1は、光偏向装置20の平面図である。図2は、図1のII−II線断面図である。図3は、図1のIII−III線断面図である。図2に示すように、光偏向装置20は、基板下層200と、基板下層200の上面側に積層された基板上層210を備えている。また、可動部220を基板下層200に対して揺動可能に支持する、1対の可撓梁241a、241b(図1参照)が形成されている。
【0023】
可動部220は、導電層225と、導電層225の周囲に形成された絶縁層223、224とを含んでいる。絶縁層223の上面に導電層225が形成されており、導電層225の上面および側面に絶縁層224が形成されている。可動部220を形成している導電層225は、可動電極として作用する。可動部220の導電層225は、外部端子232に電気的に接続されている。
【0024】
図1に示すように、基板上層210は可動部220の周囲を取り囲む枠状部分を備えている。基板上層210の枠状部分の内側の一端から可撓梁241aが伸びており、可動部220の第1の接続点242aに連結されている。また、基板上層210の枠状部分の内側の他端から可撓梁241bが伸びており、可動部220の第2の接続点242bに連結されている。可動部220は、可撓梁241a、241bの長手方向の側面に沿って延びる部分を有しており、平面視すると、H字形状となっている。
【0025】
図3に示すように、1対の可撓梁241a、241bは、絶縁層223、224および導電層225を備えており、基板上層210と可動部220とを接続している。図1および図3に示すように、可撓梁241a、241bは細長く形成されており、その長手方向を軸として捩れ易い。可撓梁241a、241bがその長手方向軸の周りに捩れることによって、可動部220がこの長手方向軸の周りに揺動する。可撓梁241a、241bの長手方向軸が、可動部220の揺動軸240となる。
【0026】
可撓梁241a、241bの基板下層200方向へのたわみやすさは、可撓梁241a、241bの断面形状および長さによって決定されている。可撓梁241a、241bがたわみやすいほど、可動部220が基板下層200方向へ移動しやすくなる。可撓梁241aおよび241bの揺動軸240に垂直な断面において、可動部220に垂直な方向での厚さが薄くなるほど、可撓梁241aおよび241bは基板下層200方向へたわみやすくなる。また、可撓梁241aおよび241bの長さが長くなるほど、可撓梁241aおよび241bは基板下層200方向へたわみやすくなる。本願の光偏向装置20では、可動部220をH字形状とすることで、可動部220の内側の領域まで伸びるように可撓梁241aおよび241bを形成している。よって、可動部220を矩形形状とした場合に比して、可撓梁241aおよび241bの全長を長くすることができる。これにより、可撓梁241aおよび241bを、基板下層200方向へたわみやすくすることができる。そして、固定電極204aおよび204bと可動部220の導電層225(可動電極)とに可動部220を揺動させるための電圧を印加した場合に、可動部220の側端が基板下層200に接触するより先に突起部221が基板下層200に接触するように、可撓梁241aおよび241bの断面形状を設定することで、可動部220の揺動時に突起部221が確実に基板下層200に接触している状態を作ることが出来る。
【0027】
可動部220の下面には、基板下層200側へ突出している突起部221が形成されている。突起部221は、可動部220の揺動軸240を含み可動部220に垂直な面(すなわち、図3の断面図の面)の面内に、頂点を有している。よって、突起部221の頂点は、揺動軸240の垂直下方に正確に位置している。また可動部220の上面には、突起部221に対応する位置に、陥没部226が形成されている。
【0028】
また、揺動軸240に垂直な断面(例えば、図2の断面図の面)において、突起部221の断面形状は、一定厚さの板状部材が基板下層200側へ突出するように屈曲している形状とされている。また、可動部220の断面形状は、一定厚さの板状部材が突起部221の始点部222aおよび222bから、揺動軸240から遠ざかる方向に向けて、同一平面内で伸びている形状とされている。また、突起部221の頂点の形状は、曲面に形成されている。
【0029】
図2に示すように、基板下層200は、ウェハ層201と、絶縁層202、203と、固定電極204a、204bとを含んでいる。ウェハ層201と、ウェハ層201の上面全体に形成されている絶縁層202と、固定電極204a、204bとは、平面状である。固定電極204a、204bは、可動部220の揺動軸240を含み可動部220に垂直な面に対して、対称に形成されている。また固定電極204a、204bは互いに絶縁されている。外部端子231a、231bの各々は、絶縁層203、223および224を貫通している。固定電極204aは外部端子231aと電気的に接続されており、固定電極204bは外部端子231bと電気的に接続されている。固定電極204a、204bおよび絶縁層202の上面には、絶縁層203が形成されている。そして基板下層200は、その全体が平面状となっている。
【0030】
図3に示すように、基板上層210は、絶縁層223および224と、絶縁層223と絶縁層224との間に形成されている導電層225とを備えている。外部端子232は、絶縁層224を貫通している。外部端子232は、導電層225と電気的に接続されている。基板上層210の絶縁層223と、可動部220の絶縁層223は、可撓梁241a、241bの絶縁層223によって連続している。また、基板上層210の絶縁層224と、可動部220の絶縁層224は、可撓梁241a、241bの絶縁層224によって連続している。また、基板上層210の導電層225と、可動部220の導電層225は、可撓梁241a、241bの導電層225によって連続している。また、突起部221は、可撓梁241aの第1の接続点242aから、可撓梁241bの第2の接続点242bへ至る全長に渡って、連続して形成されている。
【0031】
基板上層210は、基板下層200の平面部分に一体に形成されている。また、1対の可撓梁241aおよび241bと、可動部220とは、基板下層200から離反した高さに支持されている。
【0032】
可動部220の上面には傘状のミラー設置部(図示せず)が備えられている。ミラー設置部には、ミラー(図示せず)が設置される。これにより、可動部220のH字形状部分の上面側のみならず、可撓梁241a、241bの上面側にもミラーを設置することができる。よって、開口率(光偏向装置を平面視したときに、光偏向装置が占有する面積に対して、ミラーの面積が占める割合)を向上させることができる。
【0033】
光偏向装置20の動作を説明する。光偏向装置20は、静電駆動式の装置である。光偏向装置20では、固定電極204aに印加する駆動電圧と固定電極204bに印加する駆動電圧とを制御することによって、可動部220を揺動軸240の周りに揺動させる。例えば、外部端子232を接地し、外部端子231a、231bを駆動信号生成器(図示しない)に接続する場合を説明する。
【0034】
駆動信号生成器を用いて、固定電極204aに駆動電圧を印加する場合には、可動部220の導電層225(可動電極)と固定電極204aとの間に静電引力が発生する。よって、固定電極204aに対向する位置の可動部220が、基板下層200に吸引される。ここで、固定電極204aおよび204bと可動部220の導電層225(可動電極)とに可動部220を揺動させるための電圧を印加した場合に、可動部220の側端が基板下層200に接触するより先に突起部221が基板下層200に接触するように、可撓梁241aおよび241bの断面形状が設定されている。よって、可動部220が下方に変位して沈み込みが発生し、突起部221の頂点が基板下層200に接触する。そして、図4に示すように、可動部220の第1端部227aの下端が固定電極204aに近づくとともに、第2端部227bが固定電極204bから離れるように、可動部220が傾く。
【0035】
次に、図4の状態において、固定電極204bに駆動電圧を印加する場合には、可動部220の導電層225(可動電極)と固定電極204bとの間に静電引力が発生する。よって図5に示すように、可動部220の第2端部227bの下端が固定電極204bに近づくとともに、第1端部227aが固定電極204aから離れるように、可動部220が傾く。このとき、突起部221の下端が基板下層200に接触している状態が維持されたまま、可動部220が揺動する。
【0036】
実施例1に係る光偏向装置20の効果を説明する。対比として、図29の光学装置500について説明する。光学装置500では、可動ミラー503が支点突起506を支点として揺動しており、支点が可動ミラー503に対して固定されていない。すると、支点の位置が可動ミラー503の中心からずれることによって、可動ミラー503が正確に揺動しなくなる事態が発生しうる。一方、本願の光偏向装置20では、可動部220が突起部221を支点として揺動しており、支点が可動部220に対して固定されている状態である。支点の位置が可動部220の中心からずれることがない。また、本願の光偏向装置20では、可動部220の揺動時に、突起部221が基板下層200に接触した状態が維持される。よって、突起部221によって、可動部220の沈み込み量を所定値に維持することができる。また、突起部221が揺動軸240の垂直下方に正確に位置していない場合には、同一の駆動トルクに対する揺動角が、可動部220が揺動する方向によって変化してしまうなど、可動部220が正確に揺動しないおそれがある。しかし本願の光偏向装置20では、突起部221が揺動軸240の垂直下方に正確に位置している状態とされている。よって、可動部220を正確に揺動させることが可能となる。
【0037】
また例えば、図29の光学装置500では、可動ミラー503の沈み込みの有無などにより、可動ミラー503と下部電極507とのギャップ値が変化する。ギャップ値が変化すると、可動ミラー503の最大傾き角度(可動ミラー503が傾いて可動ミラー503の端部が基板に当接する際の角度)が変化してしまうおそれがある。一方、本願の光偏向装置20では、可動部220を揺動させている期間において、突起部221が基板下層200に常に接触している。すると図20に示すように、可動部220の下面と、基板下層200のうち固定電極204aおよび204bが形成されている領域の表面との間のギャップ値G1は、突起部221の高さH1で規定される。よって、ギャップ値G1は、可動部220を揺動させている期間中において一定値に維持されることになる。これにより、可動部220の最大傾き角度を一定に維持することが可能となる。
【0038】
また、図29の光学装置500では、可動ミラー503と支点突起506とが別体で形成されている。すると、マスク合わせずれ等の製造工程でのプロセスばらつきの影響により、支点突起506が可動ミラー503の中心に対向する位置に正確に設置されていない事態などが発生しやすくなる。すると、複数の光学装置500間における、揺動の支点の位置ばらつきが発生しやすくなる。一方、本願の光偏向装置20では、揺動の支点となる突起部221は、可動部220と一体で形成されている。すると、可動部220に対する突起部221の位置については、製造工程でのプロセスばらつきの影響を受けにくくすることができる。よって、複数の光偏向装置20間における、揺動軸240の位置ばらつきを発生しにくくすることができる。
【0039】
また突起部の頂点が平面の場合には、突起部と基板下層とが接触する際に、平面と平面とが接することになる。この場合、揺動軸に垂直な断面において、突起部と基板下層が線で接触する。すると、突起部を基板下層に接触させたまま、揺動軸を中心にして可動部を揺動させると、突起部と基板下層との接触部で引っかかりが発生する。よって、スムーズに可動部を揺動させることができない。一方、本願の光偏向装置20では、揺動軸240に垂直な断面(図2)において、突起部221の頂点の形状が曲面に形成されている。また、揺動軸240に垂直な断面において、基板下層200の形状は平面に形成されている。よって、揺動軸240に垂直な断面において、突起部221と基板下層200の接触部は、揺動状態に関わらず常に点接触となる。すると、突起部221を基板下層200に接触させたまま、揺動軸240を中心にして可動部220を揺動させても、突起部221と基板下層200との接触部で引っかかりが発生しない。よって、スムーズに可動部220を揺動させることができる。
【0040】
また、図21に示す可動部220aのように、突起部221aの頂点が尖った形状である場合に、可動部220aが傾いていない状態(図21(A))から、傾いた状態(図21(B))に遷移する場合を説明する。このとき、可動部220aは、揺動軸240aを中心にして傾く。また、突起部221aの頂点を基板下層200に接触させたまま傾く。すると図21(B)に示すように、突起部221aの頂点は、図中右方向へ距離D1だけ滑りながら移動する必要がある。よって、揺動に際して滑り抵抗が発生する。一方、図22に示すように本願の光偏向装置20では、突起部221は、揺動軸240を中心とした半円形状とされている。よって、可動部220が傾いていない状態(図22(A))から、傾いた状態(図22(B))に遷移することに応じて、突起部221の頂点は基板下層200の表面を転がることになる。よって、揺動に際して転がり抵抗が発生する。そして、滑り抵抗に比して転がり抵抗は小さいため、揺動時に発生する抵抗を小さくすることが可能となる。また、突起部221が揺動軸240を中心とした半円形状であるため、揺動軸240と基板下層200との距離を、傾き角度に係らず一定に保つことが可能となる。
【0041】
また、可動部220の揺動角は、可撓梁241aおよび241bの捻り抵抗力と、静電引力とが釣り合う位置によって決まる。よって、可撓梁241aおよび241bを細長くし、捻り抵抗力を低減することができれば、小さい静電引力によって大きな揺動角を得ることができる。本実施例の光偏向装置20では、突起部221によって可動部220の沈み込みを抑止することができるため、可撓梁241aおよび241bをより細長く、基板下層200方向へたわみ易いように設計することができる。よって、より低い駆動電圧で、可動部220を大きく揺動させることが可能となる。
【0042】
また、光偏向装置20では、可動部220において、突起部221が形成された部位は、図2に示すように断面形状が平板状ではなくなるため、曲げ剛性が高くなる。そして突起部221は、第1の接続点242aから第2の接続点242bへ至る全長に渡って、連続して形成されている。よって、可動部220の揺動軸240方向の曲げ剛性を高めることができる。
【0043】
(第1の製造方法)
次に、実施例1に係る第1の製造方法について、図6〜図19を用いて説明する。第1の製造方法は、光偏向装置20を半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用して製造する方法である。
【0044】
実施例1に係る第1の製造方法は、犠牲層形成工程、エッチング用マスク形成工程、等方性エッチング工程、可動部形成工程、犠牲層除去工程をこの順序で含んでいる。ウェハ層201となる材料ウェハ層を準備して、基板下層200に含まれる構成を形成した後で、犠牲層形成工程、エッチング用マスク形成工程、等方性エッチング工程を行うことによって、可動部220の下面を図2に示すような形状に形成するための鋳型として用いる犠牲層を形成することができる。すなわち、可動部220下面の突起部221を形成する領域に、半円形状の断面形状を有する窪み部を形成することができる。可動部形成工程では、犠牲層の窪み部の上面に可動部220を形成すると同時に、可撓梁241a、241b、基板上層210を形成する。犠牲層除去工程では、基板下層200と可動部220との間の犠牲層を除去する。図6〜図19は、光偏向装置20の製造工程の各工程における材料ウェハ、または材料ウェハの上面に絶縁層等を積層した積層体の状態を図2と同じ断面で図示している。
【0045】
(基板下層の形成工程)
第1の製造方法では、最初に基板下層200を構成する各層を形成する。まず、図6に示すような材料ウェハ931を準備する。材料ウェハ931の材料には、例えば単結晶シリコン基板を用いることができる。次に、熱酸化等を行い、材料ウェハ931の上面に酸化膜から成る絶縁層932を形成する。次に、絶縁層932の上面にポリシリコン等を材料とする導電層を成膜し、フォトエッチングを行ってパターニングして、導電層933a、933bを形成する。ここで、フォトエッチングとは、フォトリソグラフィーからエッチングまでの一連の処理を意味する。さらに熱酸化等を行うことで、絶縁層932、導電層933aおよび933bの上面に、絶縁層934を形成する。これにより、図7に示す構造を形成することができる。絶縁層932、934は、それぞれ絶縁層202、203となる層である。導電層933a、933bは、それぞれ固定電極204a、204bとなる層である。
【0046】
(犠牲層形成工程)
犠牲層形成工程では、絶縁層934の上面にポリシリコン等を材料とする犠牲層935を形成する。犠牲層935を形成した段階では、導電層933aおよび933bによる段差によって、犠牲層935の上面にも段差が形成される。そして、犠牲層935の上面に形成されている段差を、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等によって平坦化する。これにより、図8に示す平坦な犠牲層935を形成することができる。犠牲層935の上面に段差が残った状態で可動部220を作成すると、可動部220の表面に段差が残る。そして、可動部220に段差が残った状態で、可動部220上面に反射膜を形成すると、当該段差によって反射膜の反射率が低下してしまう。よって、犠牲層935の上面をCMPで平坦化することで、このような事態が発生することを防止できる。
【0047】
(エッチング用マスク形成工程)
エッチング用マスク形成工程では、熱酸化等を行い、犠牲層935の上面に酸化膜から成るエッチング用マスク936を成膜する。エッチング用マスク936上に塗布したレジストをフォトリソグラフィーによりパターニング処理することによって、エッチング用マスクをフォトエッチング処理し、エッチングホール950を形成する。これにより、図9に示すように、エッチングホール950を有する、エッチング用マスク936が形成される。
【0048】
このエッチングホール950は、図2に示す突起部221を形成する範囲内に形成する。また、エッチングホール950の中心位置は、可撓梁241a、241bの長手方向軸の中心位置と一致している。なお、エッチングホール950の開口幅は、突起部221が可動部220に接続される始点部222aおよび222bの幅よりも小さい。これは後述するように、等方性エッチングにより、エッチングホール950の横方向へのエッチングが発生するためである。
【0049】
(等方性エッチング工程)
等方性エッチング工程では、エッチング用マスク936のエッチングホール950を通して、犠牲層935に等方性エッチング処理を行う。等方性エッチングの例としては、XeF2(二フッ化キセノン)ガス等を用いたドライエッチングが挙げられる。また、界面活性剤入りTMAH(Tetra methyl ammonium hydroxide)等を用いたウェットエッチングが挙げられる。図9に示す積層体に対して、等方性エッチング処理を行うと、図10に示すように、エッチングホール950の開口部を中心として、窪み部951が形成される。等方性エッチングでは、縦横方向に同時にエッチングされるため、アンダーカット(エッチングホール950の横方向へのエッチング)が発生する。よって、エッチングによって犠牲層935に形成される窪み部951の断面形状を、半円形状にすることができる。また、窪み部951の半円形状における半径の値は、等方性エッチング処理の処理時間によって調整することができる。その後、エッチング用マスク936を除去することにより、図11に示すように、犠牲層935に窪み部951が形成されている形状が得られる。
【0050】
(可動部形成工程)
可動部形成工程では、犠牲層935の上面に可動部220となる層を形成すると同時に、可撓梁241a、241b、基板上層210となる絶縁層223層を形成する。そのために、図11に示す積層体に熱酸化等を行い、犠牲層935の上面に酸化膜から成るエッチング用マスク946を成膜する。エッチング用マスク946上に塗布したレジストをフォトリソグラフィーによりパターニング処理する。パターニング処理は、可動部220の大きさおよび形状にあわせて行われる。これにより、図12に示すようにパターニングされたエッチング用マスク946が得られる。パターニングされたエッチング用マスク946のエッチングホールを通して、犠牲層935を異方性エッチング処理する。異方性エッチングの例としては、RIE(Reactive Ion Etching)が挙げられる。その後、エッチング用マスク946を除去することにより、図13に示す形状が得られる。
【0051】
図13に示す積層体に熱酸化処理を行うことにより、図14に示すように、犠牲層935の上面および絶縁層934の平面部の上面に、絶縁層937を形成する。窪み部951に絶縁層937が形成されることで、突起部221の形状が形成される。すなわち、窪み部951の窪み形状が、突起部221の突起形状として転写される。絶縁層937は、図2に示す絶縁層223となる層である。絶縁層937は熱処理によって絶縁層934の平面部の上面に直接成膜されるため、絶縁層937と絶縁層934とはその接触部分において強固に結合される。
【0052】
次に、絶縁層937の上面にポリシリコン等の導電層を成膜し、さらに、可動部220の大きさおよび形状にあわせてパターニングすることによって、導電層938を形成する。そして、熱酸化処理を行って、絶縁層937および導電層938の上面に絶縁層939を形成する。これにより、図15に示す構造が形成される。導電層938は、導電層225となる層である。また絶縁層939は、絶縁層224となる層である。
【0053】
さらに、図16に示すように、絶縁層939の平面部に、コンタクトホール960aおよび960bを形成する。コンタクトホール960aは、絶縁層934、937および939を貫通して、導電層933aに達する孔部である。また、コンタクトホール960bは、絶縁層934、937および939を貫通して、導電層933bに達する孔部である。また、図16の工程では、図3に示すコンタクトホール962も形成される。コンタクトホール962は、絶縁層224を貫通して、導電層225に達する孔部である。
【0054】
次に、スパッタリング等の方法を用いて、図16に示す積層体の上面にAl等の金属を材料として金属層を成膜した後、フォトエッチングを行ってパターニングする。これにより、図17に示すように、金属層940a、940bが形成される。金属層940a、940bは、それぞれ外部端子231a、231bとなる層であり、外部端子の形状および大きさにパターニングされている。金属層940aは、コンタクトホール960aを貫通して導電層933aと電気的に接続している。同様に、金属層940bは、コンタクトホール960bを貫通して導電層933bと電気的に接続している。また、図17の工程では、図3に示す外部端子232も形成される。外部端子232は、コンタクトホール962を貫通して導電層225と電気的に接続している。
【0055】
さらに、図18に示すように、絶縁層937および939の一部をエッチングによって除去することで、エッチングホール961aおよび961bを形成する。エッチングホール961aおよび961bによって、図1、図2に示すように、基板上層210と可動部220と可撓梁241a、241bがパターニングされる。また、エッチングホール961aおよび961bの底面に、犠牲層935が露出する。
【0056】
(犠牲層除去工程)
可動部形成工程の後に、犠牲層を除去する犠牲層除去工程を行う。犠牲層除去工程では、絶縁層934と絶縁層937との間の犠牲層935を除去する。具体的には、図18に示す積層体に対して、XeF2ガスによる等方性エッチング等を行うと、エッチングホール961aおよび961bを通して犠牲層935が除去される。図18の工程で行われる等方性エッチング処理は、犠牲層935が完全に除去されるまで行なわれる。これによって、図19に示すように、可動部220に相当する層を基板下層200に相当する層から離反させることができる。なお、図19に示す光偏向装置は、図1、図2および図3に示す光偏向装置20に相当する。
【0057】
実施例1に係る光偏向装置20の製造方法の効果を説明する。可動部220の最大傾き角度は、可動部220の揺動時における、可動部220の下面と基板下層200の表面との間のギャップ値によって規定される。ギャップ値は、可動部220に突起部221が備えられていない従来の光偏向装置では、可動部220の下面と基板下層200の表面との間の離反距離によって決まる。離反距離は、可動部220と基板下層200との間に存在する犠牲層935の膜厚によって主に定まる。また犠牲層935の膜厚は、平坦な可動部220を形成するためのCMP工程や、犠牲層935をパターニングするための異方性エッチング工程など、複数の工程によって決まる。そして、CMP工程や異方性エッチング工程は、制御するパラメータが多い複雑なプロセスである。以上より、従来の光偏向装置では、犠牲層935の膜厚にウェハ面内バラツキやウェハ間バラツキなどの各種のバラツキを発生させる要因が多いため、ギャップ値にも各種のバラツキが発生する。その結果、同一ウェハ内で作成された光偏向装置であっても、可動部220の最大傾き角度に各種のバラツキが発生するため、複数の光偏向装置間で揺動角を均一とすることが困難であった。
【0058】
一方、本願の光偏向装置20では、可動部220の揺動時における、可動部220の下面と基板下層200の表面との間のギャップ値は、突起部221の高さH1によって規定される。突起部221の高さH1は、図10で説明したように、等方性エッチング工程によって形成される窪み部951の深さによって制御されている。等方性エッチング工程で主に制御するパラメータは、ガスや薬液等の流量やエッチング時間であるため、制御するパラメータが少なく単純なプロセスである。よって、犠牲層935の膜厚の各種バラツキに比して、窪み部951の深さの各種バラツキの方を小さくすることができる。以上より、本願の光偏向装置20の製造方法では、可動部220の最大傾き角度における、ウェハ面内バラツキやウェハ間バラツキを小さくすることが可能となる。
【0059】
また、実施例1に係る光偏向装置20の製造方法では、図10で説明したように、犠牲層935を等方性エッチング処理することで、窪み部951が形成される。等方性エッチングでは、縦横方向に同時にエッチングされるため、窪み部951の断面形状を、半円形状にすることができる。そして、図15で説明したように、窪み部951の窪み形状が、突起部221の突起形状として転写される。以上より、本願の光偏向装置20の製造方法では、突起部221の断面形状を、揺動軸240を中心とした半円形状に形成することができる。
【0060】
また、本願の光偏向装置20の製造方法では、図15で説明したように、絶縁層937、導電層938および絶縁層939を形成する工程により、可動部220および突起部221を同時に作成することができる。よって、突起部221を形成する工程を簡略化することが可能となる。また、突起部221を作成するために必要な工程としては、エッチング用マスク形成工程(図9)と、等方性エッチング工程(図10)の2工程を追加するのみである。よって、大幅に製造工程を変更することなく、突起部221を有する可動部220を製造することが可能である。
【実施例2】
【0061】
(第2の光偏向装置)
実施例2に係る第2の製造方法によって製造する第2の光偏向装置30について説明する。図23は、光偏向装置30の平面図である。図24は、図23のXXIV−XXIV線断面図である。図24において、可動部320の下面には、基板下層300側へ突出している突起部321、328a、328bが形成されている。また、可動部320の上面には、陥没部326、329a、329bが形成されている。陥没部326は、突起部321に対応する位置に形成されている。また、陥没部329aは突起部328aに対応する位置に形成されており、陥没部329bは突起部328bに対応する位置に形成されている。ここで、突起部321の頂点と可動部320の端部下面とを結んだ線を、線L1と定義する。同様に、突起部321の頂点と可動部320の端部下面とを結んだ線を、線L2と定義する。突起部328aの可動部320下面からの突出高さは、線L1を越えて基板下層300側へ突出しない高さにされている。同様に、突起部328bの頂点の高さは、線L2を越えて基板下層300側へ突出しない高さにされている。また図23において、突起部328aおよび328bは、可動部320の端部320aから、可動部320の端部320bへ至る全長に渡って、連続して形成されている。なお、光偏向装置30のその他の構造は、実施例1の光偏向装置20と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0062】
光偏向装置30の動作を説明する。駆動信号生成器を用いて、固定電極304aに駆動電圧を印加する場合には、可動部320の導電層325(可動電極)と固定電極304aとの間に静電引力が発生する。よって、固定電極304aに対向する位置の可動部320が、基板下層300に吸引される。よって、可動部320が下方に変位して沈み込みが発生し、突起部321の頂点が基板下層300に接触する。そして、図25に示すように、可動部320の突起部328aの下端が、絶縁層303の表面に接触するように、可動部320が傾く。
【0063】
実施例2に係る光偏向装置30の効果を説明する。光偏向装置30の組み立て時や、光偏向装置30の落下時などに、ウェハ表面に垂直な方向の加速度が可動部320に印加され、可動部320が基板下層300方向に沈み込む場合がある。また、固定電極304a、304bに大きな静電引力が加えられ、可動部320が基板下層300方向に沈み込む場合がある。このような場合に、突起部328aおよび328bが形成されていないと、可動部320が大きく変形して、可動部320下面と絶縁層303の表面とが直接に接触する場合がある。この場合、面と面の接触であるため、接触面積が最大となり、可動部320下面が絶縁層303上面に張り付くスティッキングが発生するおそれがある。一方、本願の光偏向装置30では、突起部328aおよび328bが形成されている。よって、可動部320が基板下層300方向に沈み込んだ場合においても、可動部320は突起部328aまたは328bを介して絶縁層303に接触することになる。すると、可動部320下面と基板下層300表面との接触面積を小さくすることができるため、スティッキングの発生を防止することができる。
【0064】
また例として、第1端部327aが基板下層300へ近づき、第2端部327bが基板下層300から遠ざかるように、可動部320が揺動する場合を考える。この場合、突起部328aの頂点の可動部320下面からの突出高さが、線L1を越えて基板下層300側へ突出している場合には、可動部320が揺動する際に、第1端部327aの下面が基板下層300へ当接するよりも先に、突起部328aが基板下層300へ当接する。よって、突起部328aによって、可動部320の最大傾き角度が制限されてしまう。しかし、光偏向装置30では、突起部328aの頂点の可動部320下面からの突出高さが、線L1を越えて基板下層300側へ突出しない高さとされている。すると、可動部320が揺動する際に、第1端部327aの下面が基板下層300へ当接するよりも先に、突起部328aが基板下層300へ当接してしまう事態を防止できる。よって、突起部328aによって最大傾き角度が制限される影響を、小さくすることができる。また、突起部328bにおいても、突起部328bの頂点の可動部320下面からの突出高さが、線L2を越えて基板下層300側へ突出しない高さとされている。よって、突起部328bによって最大傾き角度が制限される影響を小さくすることができる。
【0065】
また、光偏向装置30では、可動部320において、突起部328aおよび328bが形成された部位は、図24に示すように断面形状が平板状ではなくなるため、曲げ剛性が高くなる。そして突起部328aおよび328bは、端部320aから端部320bへ至る可動部320の全長に渡って、連続して形成されている。よって、可動部320の揺動軸340方向の曲げ剛性を高めることができる。
【0066】
(第2の製造方法)
次に、実施例2に係る第2の製造方法について、図26〜図32を用いて説明する。実施例2に係る第2の製造方法は、犠牲層形成工程、エッチング用マスク形成工程、等方性エッチング工程、可動部形成工程、犠牲層除去工程をこの順序で含んでいる。そして、実施例2に係る第2の製造方法は、実施例1に係る第1の製造方法(図6〜図19)と比して、エッチング用マスク形成工程、および等方性エッチング工程に差異点が存在している。よって以下では、実施例1に係る第1の製造方法と異なる点を重点的に説明する。
【0067】
(エッチング用マスク形成工程)
エッチング用マスク形成工程では、熱酸化等を行い、犠牲層835の上面に酸化膜から成るエッチング用マスク836を成膜する。エッチング用マスク836上に塗布したレジストをフォトリソグラフィーによりパターニング処理することによって、エッチング用マスクをフォトエッチング処理し、エッチングホール850、852a、852bを形成する。これにより、図26に示すように、複数のエッチングホールを有する、エッチング用マスク836を形成する。
【0068】
高さの高い突起部321を形成する部分では、開口径が大きいエッチングホール850が形成される。また、高さの低い突起部328aおよび328bを形成する部分では、開口径が小さいエッチングホール852aおよび852bが形成される。エッチングホール850、852a、852bの揺動軸340に沿う方向の位置および長さは、同一に形成される。また、エッチングホール852aと852bとは、エッチングホール850に対して対称の位置に形成されている。
【0069】
(等方性エッチング工程)
等方性エッチング工程では、エッチングホール850、852a、852bを通して、犠牲層835に等方性エッチング処理を行う。図26に示す積層体に対して、等方性エッチング処理を行うと、図27に示すように、エッチングホール850の開口部を中心として、窪み部851が形成される。同様に、エッチングホール852aおよび852bの開口部を中心として、窪み部853aおよび853bが形成される。窪み部の深さは、エッチングホールの開口径が大きくなるほど、深く形成される。これは、開口径が大きくなるほど、エッチング面積が大きくなるためである。また、開口径が大きくなるほど、エッチング用のガスや薬液等が入り込みやすくなるためである。その後、エッチング用マスク836を除去することにより、図28に示すように、犠牲層835に窪み部851、853a、853bが形成されている形状が得られる。
【0070】
なお、図28以降に実施される可動部形成工程の詳細な内容は、実施例1の光偏向装置20の製造過程における可動部形成工程(図11〜図19)と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0071】
(変形例)
上記の実施例においては、1対の可撓梁を備えた1軸駆動型の光偏向装置を例示して説明したが、2対の可撓梁を備えており、互いに直交する2軸を揺動軸として可動部を揺動させることが可能な、2軸駆動型の光偏向装置に対しても、本発明に係る第1、第2の製造方法を適用することが可能である。エッチング用マスク形成工程において、エッチングホールのパターニングを調整することによって、2軸駆動型の光偏向装置においても、可動部の下面に突起部を有する構造を容易に形成することができ、また、基板と可動部とを半導体プロセスを利用した製造方法によって一体的に形成することができる。
【0072】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0073】
実施例1および2では、基板上層が可動部の周囲を取り囲む枠形状に形成されており、基板上層の枠状部分の内側の2点からそれぞれ可撓梁が伸びている構造を説明したが、この形態に限られない。可動部の外側であって、可動部に対して対称となる2つの位置に、柱形状の基板上層が形成されており、各々の基板上層から可撓梁が伸びている構造においても、本願の技術を適用することができる。また、枠形状の可動部の内側であって可動部の中心となる位置に、柱形状の基板上層が形成されており、基板上層の外周から可動部の内枠へ可撓梁が伸びている構造においても、本願の技術を適用することができる。
【0074】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0075】
200、300 基板下層
210 基板上層
220、320 可動部
221、321、328a、328b 突起部
241a、241b 可撓梁
204a、204b、304a、304b 固定電極
225、325 導電層
328a、328b 突起部
935 犠牲層
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力によってミラーを揺動させることによって、光ビームの反射方向を変化させる光偏向装置および光偏向装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、光ビームを偏向させる静電駆動型の光学装置500が開示されている。図29に示すように、光学装置500は、下部基板501と、上部基板502と、可動ミラー503と、可動ミラー503の外周に位置するリング部508と、可動ミラー503を揺動可能に支持するトーションスプリング504と、可動ミラー503の中央部に対向する位置において下部基板501に設置された凸部505と、可動ミラー503の中心に対向する位置において凸部505の上面に設置された支点突起506と、下部基板501の上面に設置された下部電極507を備えている。トーションスプリング504は、図29に示す位置に1対設置されており、可動ミラー503とリング部508を接続している。図29に示す1対のトーションスプリング504と垂直な方向(紙面に対して垂直な方向)にさらに1対のトーションスプリング(図示しない)が設置されており、リング部508と上部基板502を接続している。下部電極507は、図29に示す位置に1対設置されており、図29に示す1対のトーションスプリング504と垂直な方向(紙面に対して垂直な方向)に、さらに1対の下部電極507が設置されている。合計4箇所に設置された下部電極507の中から選択した単数または複数の下部電極507に電圧を印加することによって、電圧を印加した下部電極507に対向する範囲の可動ミラー503を静電気力で基板側に引き寄せる。すなわち、下部電極507への電圧印加により、可動ミラー503に駆動トルクが作用する。これによって、可動ミラー503は揺動し、可動ミラー503に入射する光ビームの反射方向を変化させる。
【0003】
可動ミラー503は支点突起506と2対のトーションスプリング504とリング部508によって支持されており、支点突起506を中心に揺動する。可動ミラー503の中心と対向する位置に支点突起506が設置されているため、可動ミラー503が下方へ変位すること(沈み込むこと)を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−57575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の光学装置500では、可動ミラー503が支点突起506を支点として揺動する。可動ミラー503が平面方向に移動した場合や、支点突起506が可動ミラー503の中心に対向する位置に正確に設置されていない場合などには、揺動支点が可動ミラー503の中心に正確に位置しないことになる。すると、可動ミラー503が揺動する方向によって、同一の駆動トルクに対する揺動角が変化する。また、可動ミラー503が複数備えられる場合には、可動ミラー503間で、可動ミラー503に対する支点の位置が異なることとなる。すると、可動ミラー503間で、揺動角のばらつきが発生する。
【0006】
本願は、光偏向装置の可動部を正確に揺動させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の光偏向装置は、基板と、平板形状の可動部と、可動部を基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、可動部の下面に対向する位置において基板に設けられている固定電極と、可動部に設けられている可動電極と、を備えている。また、可動部の下面には、基板側へ突出している突起部が形成されている。突起部は、可動部の揺動軸を含み可動部に垂直な面の面内に頂点を有している。可動部を揺動させている期間において、突起部が基板に接触している。
【0008】
上記の光偏向装置は、静電駆動式の光偏向装置である。可動部を揺動させている期間では、可動部に設置された可動電極と、可動電極の下方に位置する基板に固定された固定電極との間に静電引力を作用させて、可動部を揺動させる。この静電引力によって、可撓梁が下方に撓み、可動部の揺動軸が基板に向けて下方に変位する。この現象を可動部の沈み込みという。可動部の沈み込みにより、可動部を駆動している期間では、突起部が基板に接触している。よって、突起部が基板に接触した状態を維持しながら、可動部が揺動軸を中心として揺動する。
【0009】
対比として、突起部が基板側に形成されており、可動部が沈み込んだ場合に突起部の頂点が可動部の下面に当接することで支点が形成される構造を有する光偏向装置について説明する。このような光偏向装置では、ミラーが支点突起に当接する際の当接位置によって、ミラーの揺動の支点が決定される。よって、揺動の支点がミラーに対して固定されていない状態である。すると、揺動の支点が可動部の中心に正確に位置していない状態が発生しうる。この状態では、同一の駆動トルクに対する揺動角が、可動部が揺動する方向によって変化してしまうなど、可動部が正確に揺動しないおそれがある。一方、本願の光偏向装置では、可動部に固定された突起部を支点として揺動するため、揺動の支点がミラーに対して固定されている状態である。すると、揺動の支点が可動部の中心に正確に位置していない状態が発生する事態を防止することができる。また、本願の光偏向装置では、可動部の揺動時に、突起部が基板に接触した状態が維持される。よって、突起部によって可動部の沈み込み量を所定値に維持することができる。
【0010】
また例えば、可動部が沈み込んだ場合に基板側に形成された突起部の頂点が可動部の下面に当接することで支点が形成される構造を有する光偏向装置では、沈み込みの有無などにより、可動部と固定電極とのギャップ値が変化する。ギャップ値は、可動部の下面と基板表面との間の距離である。ギャップ値が変化すると、可動部の最大傾き角度(可動部が傾いて可動部端部が固定電極に当接する際の角度)が変化してしまうおそれがある。一方、本願の光偏向装置では、可動部を揺動させている期間において、突起部が基板に接触している。よって、可動部と固定電極とのギャップ値は、突起部の高さで規定されるため、一定値に維持される。これにより、可動部の最大傾き角度を一定に維持することが可能となる。
【0011】
また本願の光偏向装置では、揺動軸に垂直な断面における突起部の頂点の形状が、曲面に形成されているとしてもよい。揺動軸に垂直な断面において、基板の形状は平面に形成されている。そして、突起部の頂点が基板に接触した状態を保ったまま、可動部が揺動する。すると、平面と曲面とが接触するため、揺動軸に垂直な断面で見たときに、その接触部は揺動状態に関わらず常に点接触となる。よって、可動部が揺動する際に、引っかかりが発生することがないため、スムーズに可動部を揺動させることができる。
【0012】
また本願の光偏向装置では、揺動軸に垂直な断面における突起部の断面形状は、一定厚さの板状部材が基板側へ突出するように屈曲している形状とされてもよい。また、揺動軸に垂直な断面における可動部の断面形状は、一定厚さの板状部材が突起部の始点部から揺動軸から遠ざかる方向に向けて同一平面内で伸びている形状であるとしてもよい。本願の光偏向装置では、一定厚さの板状部材により、突起部および可動部が連続的に形成されている。すると、材料膜を堆積させる1の工程により、可動部および突起部を同時に作成することができる。よって、突起部を形成する工程を簡略化することが可能となる。
【0013】
また本願の光偏向装置では、可動部の一端には第1の可撓梁が接続されており、可動部の他端には第2の可撓梁が接続されており、第1の可撓梁と第2の可撓梁とは揺動軸を共通にしているとしてもよい。また、突起部は、第1の可撓梁の接続部から第2の可撓梁の接続部へ至る全長に渡って連続して形成されているとしてもよい。これにより、可動部において、突起部が形成された部位は、断面形状が平板状ではなくなるため、曲げ剛性が高くなる。そして突起部は、揺動軸に沿って、可動部の全体に形成されている。よって、可動部の揺動軸方向の曲げ剛性を高めることができる。
【0014】
また本願の光偏向装置では、可動部の下面に、基板側へ突出している少なくとも1つの第2突起部がさらに形成されていてもよい。また、第2突起部の第2頂点の可動部下面からの突出高さが、突起部の頂点と可動部の端部とを結んだ線を越えて基板側へ突出しない高さにされていてもよい。これにより、可動部が揺動する際に、可動部の端部の下面が基板表面へ当接するよりも先に、第2突起部が基板表面へ当接してしまう事態を防止できる。よって、第2突起部によって最大傾き角度が制限される影響を、小さくすることができる。また、可動部において第2突起部が形成されている部位は、断面形状が平板状ではなくなるため、曲げ剛性が高くなる。よって、可動部の強度をより高めることが可能となる。
【0015】
また本願の光偏向装置では、固定電極および可動電極に可動部を揺動させるための電圧を印加した場合に、可動部の側端が基板に接触するより先に突起部が基板に接触するように、可撓梁の断面形状が設定されているとしてもよい。この光偏向装置では、固定電極および可動電極に、可動部を揺動させるための電圧を印加している期間では、可撓梁がたわんで突起部が確実に基板に接触する。なお、可撓梁の基板方向へのたわみやすさは、可撓梁の断面形状および長さによって決定されている。揺動軸に垂直な断面での、可動部に垂直な方向における可撓梁の厚さが薄くなるほど、可撓梁は基板方向へたわみやすくなる。また、可撓梁の長さが長くなるほど、可撓梁は基板方向へたわみやすくなる。
【0016】
また本願の光偏向装置の製造方法は、基板と、平板形状の可動部と、可動部を基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、可動部の下面に対向する位置において基板に設けられている固定電極と、可動部に設けられている可動電極と、を備えており、可動部の下面には、可動部の揺動軸を含み可動部に垂直な面の面内に頂点を有するように、基板側へ突出している突起部が形成されており、可動部を揺動させている期間において、突起部が基板に接触している光偏向装置の製造方法である。また、本願の光偏向装置の製造方法は、基板となる材料ウェハの上面に、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、犠牲層の上面に、突起部を形成する部分にエッチングホールを有するエッチング用マスクを形成するエッチング用マスク形成工程と、エッチングホールを通して犠牲層を等方性エッチング処理する等方性エッチング工程と、等方性エッチング処理が行われた犠牲層に、可動部を形成する可動部形成工程と、可動部形成工程の後に、犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、を含んでいる。
【0017】
犠牲層において突起部を形成する部分に、エッチングホールを有するエッチング用マスクを形成する。エッチングホールを通して犠牲層を等方性エッチング処理することにより、犠牲層に窪み部を形成することができる。そして、窪み部を有する犠牲層上に可動部を形成し、犠牲層を除去することによって、窪み部の形状が転写された突起部を下面に有する可動部を形成することができる。すなわち、可動部の揺動角を規定する突起部の高さは、等方性エッチング工程によってのみ制御されている。等方性エッチング工程は、薄膜形成工程、CMP工程、異方性エッチング工程などのプロセスに比して、制御するパラメータが少ない単純なプロセスである。よって、突起部の高さのウェハ面内バラツキやウェハ間バラツキを小さくすることができる。そして、突起部の高さによって可動部の最大傾き角度が決まることから、可動部の最大傾き角度の各種バラツキ量を抑えることができる。
【0018】
また、エッチングホールを通して犠牲層を等方性エッチング処理する。等方性エッチングでは、縦横方向に同時にエッチングされるため、アンダーカット(エッチングホールの横方向へのエッチング)が発生する。よって、エッチングによって犠牲層に形成される窪み部の断面形状を、半円形状にすることができる。すると、窪み部の形状が突起部に転写されるため、突起部の断面形状を曲面に形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本願によれば、可動部を正確に揺動させることが可能な光偏向装置および光偏向装置の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で製造する光偏向装置の平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】実施例1の光偏向装置の揺動状態を説明する図である。
【図5】実施例1の光偏向装置の揺動状態を説明する図である。
【図6】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図7】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図8】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図9】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図10】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図11】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図12】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図13】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図14】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図15】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図16】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図17】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図18】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図19】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図20】実施例1の光偏向装置の揺動状態を説明する図である。
【図21】揺動抵抗を説明する図である。
【図22】揺動抵抗を説明する図である。
【図23】実施例2で製造する光偏向装置の平面図である。
【図24】図23のXXIV−XXIV線断面図である。
【図25】実施例2の光偏向装置の揺動状態を説明する図である。
【図26】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図27】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図28】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図29】従来技術の光学装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る好ましい実施形態は、例えば、下記に列挙する特徴を備えた実施例によって具現化される。
(特徴1)光偏向装置は、半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用した製造方法によって製造される。
【実施例1】
【0022】
(第1の光偏向装置)
実施例1に係る第1の製造方法によって製造される、第1の光偏向装置20について説明する。図1は、光偏向装置20の平面図である。図2は、図1のII−II線断面図である。図3は、図1のIII−III線断面図である。図2に示すように、光偏向装置20は、基板下層200と、基板下層200の上面側に積層された基板上層210を備えている。また、可動部220を基板下層200に対して揺動可能に支持する、1対の可撓梁241a、241b(図1参照)が形成されている。
【0023】
可動部220は、導電層225と、導電層225の周囲に形成された絶縁層223、224とを含んでいる。絶縁層223の上面に導電層225が形成されており、導電層225の上面および側面に絶縁層224が形成されている。可動部220を形成している導電層225は、可動電極として作用する。可動部220の導電層225は、外部端子232に電気的に接続されている。
【0024】
図1に示すように、基板上層210は可動部220の周囲を取り囲む枠状部分を備えている。基板上層210の枠状部分の内側の一端から可撓梁241aが伸びており、可動部220の第1の接続点242aに連結されている。また、基板上層210の枠状部分の内側の他端から可撓梁241bが伸びており、可動部220の第2の接続点242bに連結されている。可動部220は、可撓梁241a、241bの長手方向の側面に沿って延びる部分を有しており、平面視すると、H字形状となっている。
【0025】
図3に示すように、1対の可撓梁241a、241bは、絶縁層223、224および導電層225を備えており、基板上層210と可動部220とを接続している。図1および図3に示すように、可撓梁241a、241bは細長く形成されており、その長手方向を軸として捩れ易い。可撓梁241a、241bがその長手方向軸の周りに捩れることによって、可動部220がこの長手方向軸の周りに揺動する。可撓梁241a、241bの長手方向軸が、可動部220の揺動軸240となる。
【0026】
可撓梁241a、241bの基板下層200方向へのたわみやすさは、可撓梁241a、241bの断面形状および長さによって決定されている。可撓梁241a、241bがたわみやすいほど、可動部220が基板下層200方向へ移動しやすくなる。可撓梁241aおよび241bの揺動軸240に垂直な断面において、可動部220に垂直な方向での厚さが薄くなるほど、可撓梁241aおよび241bは基板下層200方向へたわみやすくなる。また、可撓梁241aおよび241bの長さが長くなるほど、可撓梁241aおよび241bは基板下層200方向へたわみやすくなる。本願の光偏向装置20では、可動部220をH字形状とすることで、可動部220の内側の領域まで伸びるように可撓梁241aおよび241bを形成している。よって、可動部220を矩形形状とした場合に比して、可撓梁241aおよび241bの全長を長くすることができる。これにより、可撓梁241aおよび241bを、基板下層200方向へたわみやすくすることができる。そして、固定電極204aおよび204bと可動部220の導電層225(可動電極)とに可動部220を揺動させるための電圧を印加した場合に、可動部220の側端が基板下層200に接触するより先に突起部221が基板下層200に接触するように、可撓梁241aおよび241bの断面形状を設定することで、可動部220の揺動時に突起部221が確実に基板下層200に接触している状態を作ることが出来る。
【0027】
可動部220の下面には、基板下層200側へ突出している突起部221が形成されている。突起部221は、可動部220の揺動軸240を含み可動部220に垂直な面(すなわち、図3の断面図の面)の面内に、頂点を有している。よって、突起部221の頂点は、揺動軸240の垂直下方に正確に位置している。また可動部220の上面には、突起部221に対応する位置に、陥没部226が形成されている。
【0028】
また、揺動軸240に垂直な断面(例えば、図2の断面図の面)において、突起部221の断面形状は、一定厚さの板状部材が基板下層200側へ突出するように屈曲している形状とされている。また、可動部220の断面形状は、一定厚さの板状部材が突起部221の始点部222aおよび222bから、揺動軸240から遠ざかる方向に向けて、同一平面内で伸びている形状とされている。また、突起部221の頂点の形状は、曲面に形成されている。
【0029】
図2に示すように、基板下層200は、ウェハ層201と、絶縁層202、203と、固定電極204a、204bとを含んでいる。ウェハ層201と、ウェハ層201の上面全体に形成されている絶縁層202と、固定電極204a、204bとは、平面状である。固定電極204a、204bは、可動部220の揺動軸240を含み可動部220に垂直な面に対して、対称に形成されている。また固定電極204a、204bは互いに絶縁されている。外部端子231a、231bの各々は、絶縁層203、223および224を貫通している。固定電極204aは外部端子231aと電気的に接続されており、固定電極204bは外部端子231bと電気的に接続されている。固定電極204a、204bおよび絶縁層202の上面には、絶縁層203が形成されている。そして基板下層200は、その全体が平面状となっている。
【0030】
図3に示すように、基板上層210は、絶縁層223および224と、絶縁層223と絶縁層224との間に形成されている導電層225とを備えている。外部端子232は、絶縁層224を貫通している。外部端子232は、導電層225と電気的に接続されている。基板上層210の絶縁層223と、可動部220の絶縁層223は、可撓梁241a、241bの絶縁層223によって連続している。また、基板上層210の絶縁層224と、可動部220の絶縁層224は、可撓梁241a、241bの絶縁層224によって連続している。また、基板上層210の導電層225と、可動部220の導電層225は、可撓梁241a、241bの導電層225によって連続している。また、突起部221は、可撓梁241aの第1の接続点242aから、可撓梁241bの第2の接続点242bへ至る全長に渡って、連続して形成されている。
【0031】
基板上層210は、基板下層200の平面部分に一体に形成されている。また、1対の可撓梁241aおよび241bと、可動部220とは、基板下層200から離反した高さに支持されている。
【0032】
可動部220の上面には傘状のミラー設置部(図示せず)が備えられている。ミラー設置部には、ミラー(図示せず)が設置される。これにより、可動部220のH字形状部分の上面側のみならず、可撓梁241a、241bの上面側にもミラーを設置することができる。よって、開口率(光偏向装置を平面視したときに、光偏向装置が占有する面積に対して、ミラーの面積が占める割合)を向上させることができる。
【0033】
光偏向装置20の動作を説明する。光偏向装置20は、静電駆動式の装置である。光偏向装置20では、固定電極204aに印加する駆動電圧と固定電極204bに印加する駆動電圧とを制御することによって、可動部220を揺動軸240の周りに揺動させる。例えば、外部端子232を接地し、外部端子231a、231bを駆動信号生成器(図示しない)に接続する場合を説明する。
【0034】
駆動信号生成器を用いて、固定電極204aに駆動電圧を印加する場合には、可動部220の導電層225(可動電極)と固定電極204aとの間に静電引力が発生する。よって、固定電極204aに対向する位置の可動部220が、基板下層200に吸引される。ここで、固定電極204aおよび204bと可動部220の導電層225(可動電極)とに可動部220を揺動させるための電圧を印加した場合に、可動部220の側端が基板下層200に接触するより先に突起部221が基板下層200に接触するように、可撓梁241aおよび241bの断面形状が設定されている。よって、可動部220が下方に変位して沈み込みが発生し、突起部221の頂点が基板下層200に接触する。そして、図4に示すように、可動部220の第1端部227aの下端が固定電極204aに近づくとともに、第2端部227bが固定電極204bから離れるように、可動部220が傾く。
【0035】
次に、図4の状態において、固定電極204bに駆動電圧を印加する場合には、可動部220の導電層225(可動電極)と固定電極204bとの間に静電引力が発生する。よって図5に示すように、可動部220の第2端部227bの下端が固定電極204bに近づくとともに、第1端部227aが固定電極204aから離れるように、可動部220が傾く。このとき、突起部221の下端が基板下層200に接触している状態が維持されたまま、可動部220が揺動する。
【0036】
実施例1に係る光偏向装置20の効果を説明する。対比として、図29の光学装置500について説明する。光学装置500では、可動ミラー503が支点突起506を支点として揺動しており、支点が可動ミラー503に対して固定されていない。すると、支点の位置が可動ミラー503の中心からずれることによって、可動ミラー503が正確に揺動しなくなる事態が発生しうる。一方、本願の光偏向装置20では、可動部220が突起部221を支点として揺動しており、支点が可動部220に対して固定されている状態である。支点の位置が可動部220の中心からずれることがない。また、本願の光偏向装置20では、可動部220の揺動時に、突起部221が基板下層200に接触した状態が維持される。よって、突起部221によって、可動部220の沈み込み量を所定値に維持することができる。また、突起部221が揺動軸240の垂直下方に正確に位置していない場合には、同一の駆動トルクに対する揺動角が、可動部220が揺動する方向によって変化してしまうなど、可動部220が正確に揺動しないおそれがある。しかし本願の光偏向装置20では、突起部221が揺動軸240の垂直下方に正確に位置している状態とされている。よって、可動部220を正確に揺動させることが可能となる。
【0037】
また例えば、図29の光学装置500では、可動ミラー503の沈み込みの有無などにより、可動ミラー503と下部電極507とのギャップ値が変化する。ギャップ値が変化すると、可動ミラー503の最大傾き角度(可動ミラー503が傾いて可動ミラー503の端部が基板に当接する際の角度)が変化してしまうおそれがある。一方、本願の光偏向装置20では、可動部220を揺動させている期間において、突起部221が基板下層200に常に接触している。すると図20に示すように、可動部220の下面と、基板下層200のうち固定電極204aおよび204bが形成されている領域の表面との間のギャップ値G1は、突起部221の高さH1で規定される。よって、ギャップ値G1は、可動部220を揺動させている期間中において一定値に維持されることになる。これにより、可動部220の最大傾き角度を一定に維持することが可能となる。
【0038】
また、図29の光学装置500では、可動ミラー503と支点突起506とが別体で形成されている。すると、マスク合わせずれ等の製造工程でのプロセスばらつきの影響により、支点突起506が可動ミラー503の中心に対向する位置に正確に設置されていない事態などが発生しやすくなる。すると、複数の光学装置500間における、揺動の支点の位置ばらつきが発生しやすくなる。一方、本願の光偏向装置20では、揺動の支点となる突起部221は、可動部220と一体で形成されている。すると、可動部220に対する突起部221の位置については、製造工程でのプロセスばらつきの影響を受けにくくすることができる。よって、複数の光偏向装置20間における、揺動軸240の位置ばらつきを発生しにくくすることができる。
【0039】
また突起部の頂点が平面の場合には、突起部と基板下層とが接触する際に、平面と平面とが接することになる。この場合、揺動軸に垂直な断面において、突起部と基板下層が線で接触する。すると、突起部を基板下層に接触させたまま、揺動軸を中心にして可動部を揺動させると、突起部と基板下層との接触部で引っかかりが発生する。よって、スムーズに可動部を揺動させることができない。一方、本願の光偏向装置20では、揺動軸240に垂直な断面(図2)において、突起部221の頂点の形状が曲面に形成されている。また、揺動軸240に垂直な断面において、基板下層200の形状は平面に形成されている。よって、揺動軸240に垂直な断面において、突起部221と基板下層200の接触部は、揺動状態に関わらず常に点接触となる。すると、突起部221を基板下層200に接触させたまま、揺動軸240を中心にして可動部220を揺動させても、突起部221と基板下層200との接触部で引っかかりが発生しない。よって、スムーズに可動部220を揺動させることができる。
【0040】
また、図21に示す可動部220aのように、突起部221aの頂点が尖った形状である場合に、可動部220aが傾いていない状態(図21(A))から、傾いた状態(図21(B))に遷移する場合を説明する。このとき、可動部220aは、揺動軸240aを中心にして傾く。また、突起部221aの頂点を基板下層200に接触させたまま傾く。すると図21(B)に示すように、突起部221aの頂点は、図中右方向へ距離D1だけ滑りながら移動する必要がある。よって、揺動に際して滑り抵抗が発生する。一方、図22に示すように本願の光偏向装置20では、突起部221は、揺動軸240を中心とした半円形状とされている。よって、可動部220が傾いていない状態(図22(A))から、傾いた状態(図22(B))に遷移することに応じて、突起部221の頂点は基板下層200の表面を転がることになる。よって、揺動に際して転がり抵抗が発生する。そして、滑り抵抗に比して転がり抵抗は小さいため、揺動時に発生する抵抗を小さくすることが可能となる。また、突起部221が揺動軸240を中心とした半円形状であるため、揺動軸240と基板下層200との距離を、傾き角度に係らず一定に保つことが可能となる。
【0041】
また、可動部220の揺動角は、可撓梁241aおよび241bの捻り抵抗力と、静電引力とが釣り合う位置によって決まる。よって、可撓梁241aおよび241bを細長くし、捻り抵抗力を低減することができれば、小さい静電引力によって大きな揺動角を得ることができる。本実施例の光偏向装置20では、突起部221によって可動部220の沈み込みを抑止することができるため、可撓梁241aおよび241bをより細長く、基板下層200方向へたわみ易いように設計することができる。よって、より低い駆動電圧で、可動部220を大きく揺動させることが可能となる。
【0042】
また、光偏向装置20では、可動部220において、突起部221が形成された部位は、図2に示すように断面形状が平板状ではなくなるため、曲げ剛性が高くなる。そして突起部221は、第1の接続点242aから第2の接続点242bへ至る全長に渡って、連続して形成されている。よって、可動部220の揺動軸240方向の曲げ剛性を高めることができる。
【0043】
(第1の製造方法)
次に、実施例1に係る第1の製造方法について、図6〜図19を用いて説明する。第1の製造方法は、光偏向装置20を半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用して製造する方法である。
【0044】
実施例1に係る第1の製造方法は、犠牲層形成工程、エッチング用マスク形成工程、等方性エッチング工程、可動部形成工程、犠牲層除去工程をこの順序で含んでいる。ウェハ層201となる材料ウェハ層を準備して、基板下層200に含まれる構成を形成した後で、犠牲層形成工程、エッチング用マスク形成工程、等方性エッチング工程を行うことによって、可動部220の下面を図2に示すような形状に形成するための鋳型として用いる犠牲層を形成することができる。すなわち、可動部220下面の突起部221を形成する領域に、半円形状の断面形状を有する窪み部を形成することができる。可動部形成工程では、犠牲層の窪み部の上面に可動部220を形成すると同時に、可撓梁241a、241b、基板上層210を形成する。犠牲層除去工程では、基板下層200と可動部220との間の犠牲層を除去する。図6〜図19は、光偏向装置20の製造工程の各工程における材料ウェハ、または材料ウェハの上面に絶縁層等を積層した積層体の状態を図2と同じ断面で図示している。
【0045】
(基板下層の形成工程)
第1の製造方法では、最初に基板下層200を構成する各層を形成する。まず、図6に示すような材料ウェハ931を準備する。材料ウェハ931の材料には、例えば単結晶シリコン基板を用いることができる。次に、熱酸化等を行い、材料ウェハ931の上面に酸化膜から成る絶縁層932を形成する。次に、絶縁層932の上面にポリシリコン等を材料とする導電層を成膜し、フォトエッチングを行ってパターニングして、導電層933a、933bを形成する。ここで、フォトエッチングとは、フォトリソグラフィーからエッチングまでの一連の処理を意味する。さらに熱酸化等を行うことで、絶縁層932、導電層933aおよび933bの上面に、絶縁層934を形成する。これにより、図7に示す構造を形成することができる。絶縁層932、934は、それぞれ絶縁層202、203となる層である。導電層933a、933bは、それぞれ固定電極204a、204bとなる層である。
【0046】
(犠牲層形成工程)
犠牲層形成工程では、絶縁層934の上面にポリシリコン等を材料とする犠牲層935を形成する。犠牲層935を形成した段階では、導電層933aおよび933bによる段差によって、犠牲層935の上面にも段差が形成される。そして、犠牲層935の上面に形成されている段差を、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等によって平坦化する。これにより、図8に示す平坦な犠牲層935を形成することができる。犠牲層935の上面に段差が残った状態で可動部220を作成すると、可動部220の表面に段差が残る。そして、可動部220に段差が残った状態で、可動部220上面に反射膜を形成すると、当該段差によって反射膜の反射率が低下してしまう。よって、犠牲層935の上面をCMPで平坦化することで、このような事態が発生することを防止できる。
【0047】
(エッチング用マスク形成工程)
エッチング用マスク形成工程では、熱酸化等を行い、犠牲層935の上面に酸化膜から成るエッチング用マスク936を成膜する。エッチング用マスク936上に塗布したレジストをフォトリソグラフィーによりパターニング処理することによって、エッチング用マスクをフォトエッチング処理し、エッチングホール950を形成する。これにより、図9に示すように、エッチングホール950を有する、エッチング用マスク936が形成される。
【0048】
このエッチングホール950は、図2に示す突起部221を形成する範囲内に形成する。また、エッチングホール950の中心位置は、可撓梁241a、241bの長手方向軸の中心位置と一致している。なお、エッチングホール950の開口幅は、突起部221が可動部220に接続される始点部222aおよび222bの幅よりも小さい。これは後述するように、等方性エッチングにより、エッチングホール950の横方向へのエッチングが発生するためである。
【0049】
(等方性エッチング工程)
等方性エッチング工程では、エッチング用マスク936のエッチングホール950を通して、犠牲層935に等方性エッチング処理を行う。等方性エッチングの例としては、XeF2(二フッ化キセノン)ガス等を用いたドライエッチングが挙げられる。また、界面活性剤入りTMAH(Tetra methyl ammonium hydroxide)等を用いたウェットエッチングが挙げられる。図9に示す積層体に対して、等方性エッチング処理を行うと、図10に示すように、エッチングホール950の開口部を中心として、窪み部951が形成される。等方性エッチングでは、縦横方向に同時にエッチングされるため、アンダーカット(エッチングホール950の横方向へのエッチング)が発生する。よって、エッチングによって犠牲層935に形成される窪み部951の断面形状を、半円形状にすることができる。また、窪み部951の半円形状における半径の値は、等方性エッチング処理の処理時間によって調整することができる。その後、エッチング用マスク936を除去することにより、図11に示すように、犠牲層935に窪み部951が形成されている形状が得られる。
【0050】
(可動部形成工程)
可動部形成工程では、犠牲層935の上面に可動部220となる層を形成すると同時に、可撓梁241a、241b、基板上層210となる絶縁層223層を形成する。そのために、図11に示す積層体に熱酸化等を行い、犠牲層935の上面に酸化膜から成るエッチング用マスク946を成膜する。エッチング用マスク946上に塗布したレジストをフォトリソグラフィーによりパターニング処理する。パターニング処理は、可動部220の大きさおよび形状にあわせて行われる。これにより、図12に示すようにパターニングされたエッチング用マスク946が得られる。パターニングされたエッチング用マスク946のエッチングホールを通して、犠牲層935を異方性エッチング処理する。異方性エッチングの例としては、RIE(Reactive Ion Etching)が挙げられる。その後、エッチング用マスク946を除去することにより、図13に示す形状が得られる。
【0051】
図13に示す積層体に熱酸化処理を行うことにより、図14に示すように、犠牲層935の上面および絶縁層934の平面部の上面に、絶縁層937を形成する。窪み部951に絶縁層937が形成されることで、突起部221の形状が形成される。すなわち、窪み部951の窪み形状が、突起部221の突起形状として転写される。絶縁層937は、図2に示す絶縁層223となる層である。絶縁層937は熱処理によって絶縁層934の平面部の上面に直接成膜されるため、絶縁層937と絶縁層934とはその接触部分において強固に結合される。
【0052】
次に、絶縁層937の上面にポリシリコン等の導電層を成膜し、さらに、可動部220の大きさおよび形状にあわせてパターニングすることによって、導電層938を形成する。そして、熱酸化処理を行って、絶縁層937および導電層938の上面に絶縁層939を形成する。これにより、図15に示す構造が形成される。導電層938は、導電層225となる層である。また絶縁層939は、絶縁層224となる層である。
【0053】
さらに、図16に示すように、絶縁層939の平面部に、コンタクトホール960aおよび960bを形成する。コンタクトホール960aは、絶縁層934、937および939を貫通して、導電層933aに達する孔部である。また、コンタクトホール960bは、絶縁層934、937および939を貫通して、導電層933bに達する孔部である。また、図16の工程では、図3に示すコンタクトホール962も形成される。コンタクトホール962は、絶縁層224を貫通して、導電層225に達する孔部である。
【0054】
次に、スパッタリング等の方法を用いて、図16に示す積層体の上面にAl等の金属を材料として金属層を成膜した後、フォトエッチングを行ってパターニングする。これにより、図17に示すように、金属層940a、940bが形成される。金属層940a、940bは、それぞれ外部端子231a、231bとなる層であり、外部端子の形状および大きさにパターニングされている。金属層940aは、コンタクトホール960aを貫通して導電層933aと電気的に接続している。同様に、金属層940bは、コンタクトホール960bを貫通して導電層933bと電気的に接続している。また、図17の工程では、図3に示す外部端子232も形成される。外部端子232は、コンタクトホール962を貫通して導電層225と電気的に接続している。
【0055】
さらに、図18に示すように、絶縁層937および939の一部をエッチングによって除去することで、エッチングホール961aおよび961bを形成する。エッチングホール961aおよび961bによって、図1、図2に示すように、基板上層210と可動部220と可撓梁241a、241bがパターニングされる。また、エッチングホール961aおよび961bの底面に、犠牲層935が露出する。
【0056】
(犠牲層除去工程)
可動部形成工程の後に、犠牲層を除去する犠牲層除去工程を行う。犠牲層除去工程では、絶縁層934と絶縁層937との間の犠牲層935を除去する。具体的には、図18に示す積層体に対して、XeF2ガスによる等方性エッチング等を行うと、エッチングホール961aおよび961bを通して犠牲層935が除去される。図18の工程で行われる等方性エッチング処理は、犠牲層935が完全に除去されるまで行なわれる。これによって、図19に示すように、可動部220に相当する層を基板下層200に相当する層から離反させることができる。なお、図19に示す光偏向装置は、図1、図2および図3に示す光偏向装置20に相当する。
【0057】
実施例1に係る光偏向装置20の製造方法の効果を説明する。可動部220の最大傾き角度は、可動部220の揺動時における、可動部220の下面と基板下層200の表面との間のギャップ値によって規定される。ギャップ値は、可動部220に突起部221が備えられていない従来の光偏向装置では、可動部220の下面と基板下層200の表面との間の離反距離によって決まる。離反距離は、可動部220と基板下層200との間に存在する犠牲層935の膜厚によって主に定まる。また犠牲層935の膜厚は、平坦な可動部220を形成するためのCMP工程や、犠牲層935をパターニングするための異方性エッチング工程など、複数の工程によって決まる。そして、CMP工程や異方性エッチング工程は、制御するパラメータが多い複雑なプロセスである。以上より、従来の光偏向装置では、犠牲層935の膜厚にウェハ面内バラツキやウェハ間バラツキなどの各種のバラツキを発生させる要因が多いため、ギャップ値にも各種のバラツキが発生する。その結果、同一ウェハ内で作成された光偏向装置であっても、可動部220の最大傾き角度に各種のバラツキが発生するため、複数の光偏向装置間で揺動角を均一とすることが困難であった。
【0058】
一方、本願の光偏向装置20では、可動部220の揺動時における、可動部220の下面と基板下層200の表面との間のギャップ値は、突起部221の高さH1によって規定される。突起部221の高さH1は、図10で説明したように、等方性エッチング工程によって形成される窪み部951の深さによって制御されている。等方性エッチング工程で主に制御するパラメータは、ガスや薬液等の流量やエッチング時間であるため、制御するパラメータが少なく単純なプロセスである。よって、犠牲層935の膜厚の各種バラツキに比して、窪み部951の深さの各種バラツキの方を小さくすることができる。以上より、本願の光偏向装置20の製造方法では、可動部220の最大傾き角度における、ウェハ面内バラツキやウェハ間バラツキを小さくすることが可能となる。
【0059】
また、実施例1に係る光偏向装置20の製造方法では、図10で説明したように、犠牲層935を等方性エッチング処理することで、窪み部951が形成される。等方性エッチングでは、縦横方向に同時にエッチングされるため、窪み部951の断面形状を、半円形状にすることができる。そして、図15で説明したように、窪み部951の窪み形状が、突起部221の突起形状として転写される。以上より、本願の光偏向装置20の製造方法では、突起部221の断面形状を、揺動軸240を中心とした半円形状に形成することができる。
【0060】
また、本願の光偏向装置20の製造方法では、図15で説明したように、絶縁層937、導電層938および絶縁層939を形成する工程により、可動部220および突起部221を同時に作成することができる。よって、突起部221を形成する工程を簡略化することが可能となる。また、突起部221を作成するために必要な工程としては、エッチング用マスク形成工程(図9)と、等方性エッチング工程(図10)の2工程を追加するのみである。よって、大幅に製造工程を変更することなく、突起部221を有する可動部220を製造することが可能である。
【実施例2】
【0061】
(第2の光偏向装置)
実施例2に係る第2の製造方法によって製造する第2の光偏向装置30について説明する。図23は、光偏向装置30の平面図である。図24は、図23のXXIV−XXIV線断面図である。図24において、可動部320の下面には、基板下層300側へ突出している突起部321、328a、328bが形成されている。また、可動部320の上面には、陥没部326、329a、329bが形成されている。陥没部326は、突起部321に対応する位置に形成されている。また、陥没部329aは突起部328aに対応する位置に形成されており、陥没部329bは突起部328bに対応する位置に形成されている。ここで、突起部321の頂点と可動部320の端部下面とを結んだ線を、線L1と定義する。同様に、突起部321の頂点と可動部320の端部下面とを結んだ線を、線L2と定義する。突起部328aの可動部320下面からの突出高さは、線L1を越えて基板下層300側へ突出しない高さにされている。同様に、突起部328bの頂点の高さは、線L2を越えて基板下層300側へ突出しない高さにされている。また図23において、突起部328aおよび328bは、可動部320の端部320aから、可動部320の端部320bへ至る全長に渡って、連続して形成されている。なお、光偏向装置30のその他の構造は、実施例1の光偏向装置20と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0062】
光偏向装置30の動作を説明する。駆動信号生成器を用いて、固定電極304aに駆動電圧を印加する場合には、可動部320の導電層325(可動電極)と固定電極304aとの間に静電引力が発生する。よって、固定電極304aに対向する位置の可動部320が、基板下層300に吸引される。よって、可動部320が下方に変位して沈み込みが発生し、突起部321の頂点が基板下層300に接触する。そして、図25に示すように、可動部320の突起部328aの下端が、絶縁層303の表面に接触するように、可動部320が傾く。
【0063】
実施例2に係る光偏向装置30の効果を説明する。光偏向装置30の組み立て時や、光偏向装置30の落下時などに、ウェハ表面に垂直な方向の加速度が可動部320に印加され、可動部320が基板下層300方向に沈み込む場合がある。また、固定電極304a、304bに大きな静電引力が加えられ、可動部320が基板下層300方向に沈み込む場合がある。このような場合に、突起部328aおよび328bが形成されていないと、可動部320が大きく変形して、可動部320下面と絶縁層303の表面とが直接に接触する場合がある。この場合、面と面の接触であるため、接触面積が最大となり、可動部320下面が絶縁層303上面に張り付くスティッキングが発生するおそれがある。一方、本願の光偏向装置30では、突起部328aおよび328bが形成されている。よって、可動部320が基板下層300方向に沈み込んだ場合においても、可動部320は突起部328aまたは328bを介して絶縁層303に接触することになる。すると、可動部320下面と基板下層300表面との接触面積を小さくすることができるため、スティッキングの発生を防止することができる。
【0064】
また例として、第1端部327aが基板下層300へ近づき、第2端部327bが基板下層300から遠ざかるように、可動部320が揺動する場合を考える。この場合、突起部328aの頂点の可動部320下面からの突出高さが、線L1を越えて基板下層300側へ突出している場合には、可動部320が揺動する際に、第1端部327aの下面が基板下層300へ当接するよりも先に、突起部328aが基板下層300へ当接する。よって、突起部328aによって、可動部320の最大傾き角度が制限されてしまう。しかし、光偏向装置30では、突起部328aの頂点の可動部320下面からの突出高さが、線L1を越えて基板下層300側へ突出しない高さとされている。すると、可動部320が揺動する際に、第1端部327aの下面が基板下層300へ当接するよりも先に、突起部328aが基板下層300へ当接してしまう事態を防止できる。よって、突起部328aによって最大傾き角度が制限される影響を、小さくすることができる。また、突起部328bにおいても、突起部328bの頂点の可動部320下面からの突出高さが、線L2を越えて基板下層300側へ突出しない高さとされている。よって、突起部328bによって最大傾き角度が制限される影響を小さくすることができる。
【0065】
また、光偏向装置30では、可動部320において、突起部328aおよび328bが形成された部位は、図24に示すように断面形状が平板状ではなくなるため、曲げ剛性が高くなる。そして突起部328aおよび328bは、端部320aから端部320bへ至る可動部320の全長に渡って、連続して形成されている。よって、可動部320の揺動軸340方向の曲げ剛性を高めることができる。
【0066】
(第2の製造方法)
次に、実施例2に係る第2の製造方法について、図26〜図32を用いて説明する。実施例2に係る第2の製造方法は、犠牲層形成工程、エッチング用マスク形成工程、等方性エッチング工程、可動部形成工程、犠牲層除去工程をこの順序で含んでいる。そして、実施例2に係る第2の製造方法は、実施例1に係る第1の製造方法(図6〜図19)と比して、エッチング用マスク形成工程、および等方性エッチング工程に差異点が存在している。よって以下では、実施例1に係る第1の製造方法と異なる点を重点的に説明する。
【0067】
(エッチング用マスク形成工程)
エッチング用マスク形成工程では、熱酸化等を行い、犠牲層835の上面に酸化膜から成るエッチング用マスク836を成膜する。エッチング用マスク836上に塗布したレジストをフォトリソグラフィーによりパターニング処理することによって、エッチング用マスクをフォトエッチング処理し、エッチングホール850、852a、852bを形成する。これにより、図26に示すように、複数のエッチングホールを有する、エッチング用マスク836を形成する。
【0068】
高さの高い突起部321を形成する部分では、開口径が大きいエッチングホール850が形成される。また、高さの低い突起部328aおよび328bを形成する部分では、開口径が小さいエッチングホール852aおよび852bが形成される。エッチングホール850、852a、852bの揺動軸340に沿う方向の位置および長さは、同一に形成される。また、エッチングホール852aと852bとは、エッチングホール850に対して対称の位置に形成されている。
【0069】
(等方性エッチング工程)
等方性エッチング工程では、エッチングホール850、852a、852bを通して、犠牲層835に等方性エッチング処理を行う。図26に示す積層体に対して、等方性エッチング処理を行うと、図27に示すように、エッチングホール850の開口部を中心として、窪み部851が形成される。同様に、エッチングホール852aおよび852bの開口部を中心として、窪み部853aおよび853bが形成される。窪み部の深さは、エッチングホールの開口径が大きくなるほど、深く形成される。これは、開口径が大きくなるほど、エッチング面積が大きくなるためである。また、開口径が大きくなるほど、エッチング用のガスや薬液等が入り込みやすくなるためである。その後、エッチング用マスク836を除去することにより、図28に示すように、犠牲層835に窪み部851、853a、853bが形成されている形状が得られる。
【0070】
なお、図28以降に実施される可動部形成工程の詳細な内容は、実施例1の光偏向装置20の製造過程における可動部形成工程(図11〜図19)と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0071】
(変形例)
上記の実施例においては、1対の可撓梁を備えた1軸駆動型の光偏向装置を例示して説明したが、2対の可撓梁を備えており、互いに直交する2軸を揺動軸として可動部を揺動させることが可能な、2軸駆動型の光偏向装置に対しても、本発明に係る第1、第2の製造方法を適用することが可能である。エッチング用マスク形成工程において、エッチングホールのパターニングを調整することによって、2軸駆動型の光偏向装置においても、可動部の下面に突起部を有する構造を容易に形成することができ、また、基板と可動部とを半導体プロセスを利用した製造方法によって一体的に形成することができる。
【0072】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0073】
実施例1および2では、基板上層が可動部の周囲を取り囲む枠形状に形成されており、基板上層の枠状部分の内側の2点からそれぞれ可撓梁が伸びている構造を説明したが、この形態に限られない。可動部の外側であって、可動部に対して対称となる2つの位置に、柱形状の基板上層が形成されており、各々の基板上層から可撓梁が伸びている構造においても、本願の技術を適用することができる。また、枠形状の可動部の内側であって可動部の中心となる位置に、柱形状の基板上層が形成されており、基板上層の外周から可動部の内枠へ可撓梁が伸びている構造においても、本願の技術を適用することができる。
【0074】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0075】
200、300 基板下層
210 基板上層
220、320 可動部
221、321、328a、328b 突起部
241a、241b 可撓梁
204a、204b、304a、304b 固定電極
225、325 導電層
328a、328b 突起部
935 犠牲層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
平板形状の可動部と、
前記可動部を前記基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、
前記可動部の下面に対向する位置において前記基板に設けられている固定電極と、
前記可動部に設けられている可動電極と、
を備えており、
前記可動部の下面には、前記基板側へ突出している突起部が形成されており、
前記突起部は、前記可動部の揺動軸を含み前記可動部に垂直な面の面内に頂点を有しており、
前記可動部を揺動させている期間において、前記突起部が前記基板に接触していることを特徴とする光偏向装置。
【請求項2】
前記揺動軸に垂直な断面における前記突起部の前記頂点の形状が、曲面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項3】
前記揺動軸に垂直な断面における前記突起部の断面形状は、一定厚さの板状部材が前記基板側へ突出するように屈曲している形状であり、
前記揺動軸に垂直な断面における前記可動部の断面形状は、前記一定厚さの前記板状部材が前記突起部の始点部から前記揺動軸から遠ざかる方向に向けて同一平面内で伸びている形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の光偏向装置。
【請求項4】
前記可動部の一端には第1の可撓梁が接続されており、
前記可動部の他端には第2の可撓梁が接続されており、
前記第1の可撓梁と前記第2の可撓梁とは前記揺動軸を共通にしており、
前記突起部は、前記第1の可撓梁の接続部から前記第2の可撓梁の接続部へ至る全長に渡って連続して形成されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の光偏向装置。
【請求項5】
前記可動部の下面に、前記基板側へ突出している少なくとも1つの第2突起部がさらに形成されており、
前記第2突起部の第2頂点の可動部下面からの突出高さが、前記突起部の前記頂点と前記可動部の端部とを結んだ線を越えて基板側へ突出しない高さにされていることを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の光偏向装置。
【請求項6】
前記固定電極および前記可動電極に前記可動部を揺動させるための電圧を印加した場合に、前記可動部の側端が前記基板に接触するより先に前記突起部が前記基板に接触するように、前記可撓梁の断面形状が設定されていることを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の光偏向装置。
【請求項7】
基板と、
平板形状の可動部と、
前記可動部を前記基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、
前記可動部の下面に対向する位置において前記基板に設けられている固定電極と、
前記可動部に設けられている可動電極と、
を備えており、
前記可動部の下面には、前記可動部の揺動軸を含み前記可動部に垂直な面の面内に頂点を有するように、前記基板側へ突出している突起部が形成されており、
前記可動部を揺動させている期間において、前記突起部が前記基板に接触している光偏向装置の製造方法であって、
前記基板となる材料ウェハの上面に、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層の上面に、前記突起部を形成する部分にエッチングホールを有するエッチング用マスクを形成するエッチング用マスク形成工程と、
前記エッチングホールを通して前記犠牲層を等方性エッチング処理する等方性エッチング工程と、
前記等方性エッチング処理が行われた前記犠牲層に、前記可動部を形成する可動部形成工程と、
前記可動部形成工程の後に、前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、
を含む光偏向装置の製造方法。
【請求項1】
基板と、
平板形状の可動部と、
前記可動部を前記基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、
前記可動部の下面に対向する位置において前記基板に設けられている固定電極と、
前記可動部に設けられている可動電極と、
を備えており、
前記可動部の下面には、前記基板側へ突出している突起部が形成されており、
前記突起部は、前記可動部の揺動軸を含み前記可動部に垂直な面の面内に頂点を有しており、
前記可動部を揺動させている期間において、前記突起部が前記基板に接触していることを特徴とする光偏向装置。
【請求項2】
前記揺動軸に垂直な断面における前記突起部の前記頂点の形状が、曲面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項3】
前記揺動軸に垂直な断面における前記突起部の断面形状は、一定厚さの板状部材が前記基板側へ突出するように屈曲している形状であり、
前記揺動軸に垂直な断面における前記可動部の断面形状は、前記一定厚さの前記板状部材が前記突起部の始点部から前記揺動軸から遠ざかる方向に向けて同一平面内で伸びている形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の光偏向装置。
【請求項4】
前記可動部の一端には第1の可撓梁が接続されており、
前記可動部の他端には第2の可撓梁が接続されており、
前記第1の可撓梁と前記第2の可撓梁とは前記揺動軸を共通にしており、
前記突起部は、前記第1の可撓梁の接続部から前記第2の可撓梁の接続部へ至る全長に渡って連続して形成されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の光偏向装置。
【請求項5】
前記可動部の下面に、前記基板側へ突出している少なくとも1つの第2突起部がさらに形成されており、
前記第2突起部の第2頂点の可動部下面からの突出高さが、前記突起部の前記頂点と前記可動部の端部とを結んだ線を越えて基板側へ突出しない高さにされていることを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の光偏向装置。
【請求項6】
前記固定電極および前記可動電極に前記可動部を揺動させるための電圧を印加した場合に、前記可動部の側端が前記基板に接触するより先に前記突起部が前記基板に接触するように、前記可撓梁の断面形状が設定されていることを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の光偏向装置。
【請求項7】
基板と、
平板形状の可動部と、
前記可動部を前記基板から離反した位置で揺動軸の周りに揺動可能に支持している可撓梁と、
前記可動部の下面に対向する位置において前記基板に設けられている固定電極と、
前記可動部に設けられている可動電極と、
を備えており、
前記可動部の下面には、前記可動部の揺動軸を含み前記可動部に垂直な面の面内に頂点を有するように、前記基板側へ突出している突起部が形成されており、
前記可動部を揺動させている期間において、前記突起部が前記基板に接触している光偏向装置の製造方法であって、
前記基板となる材料ウェハの上面に、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層の上面に、前記突起部を形成する部分にエッチングホールを有するエッチング用マスクを形成するエッチング用マスク形成工程と、
前記エッチングホールを通して前記犠牲層を等方性エッチング処理する等方性エッチング工程と、
前記等方性エッチング処理が行われた前記犠牲層に、前記可動部を形成する可動部形成工程と、
前記可動部形成工程の後に、前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、
を含む光偏向装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2012−32482(P2012−32482A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170268(P2010−170268)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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