説明

光受信モジュール

【課題】 光通信の高速化に対応することができる光受信モジュールを提供すること。
【解決手段】 光受信モジュール10は、入射された光を曲率半径Rで形成された光出射端面11aから出射する先球ファイバ11と、受光した光を電流信号に変換する光吸収層を含む受光素子12と、受光素子12を実装するサブマウント13と、先球ファイバ11を固定するファイバ固定部14と、受光素子12から出力される電流信号を電圧信号に変換して増幅するプリアンプIC15と、電気信号を伝送するボンディングワイヤ16と、各部品を封止するパッケージ17と、電気信号を出力する端子18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を受信して電気信号に変換する光受信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光受信モジュールは、平面切断された端面から光信号を出射する短尺光ファイバと、出射された光を受光する受光素子とを備え、また受光素子は広がった光ビームを受光するのに十分な広い受光部を有している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−33667号公報(第3−4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光受信モジュールにおける受光素子の受光部エリアは、光通信速度の高速化とともに小さくなり、広がった光ビームでは効率良く受光できないため、高速光通信に必要な特性を十分に満足できないという問題があった。
【0004】
ギガビット/秒を超える高速光通信においては、高域遮断周波数の制約により受光領域を低容量化する、すなわち受光部面積を小さくする必要がある。例えば、光通信速度が10ギガビット/秒の場合では、受光部の半径は10μm程度であるため、光ビームの広がり半径も10μm以下に抑えなければならなく、従来の光受信モジュールではレンズを用いることで光ビームの広がりを抑制し、10ギガビット/秒を超える高速光通信に対応していた。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、レンズを用いることなく光信号を受光素子に効率よく集光することができ、光通信の高速化に対応することができる光受信モジュールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載の光受信モジュールは、光ファイバと、前記光ファイバの光出射端面から所定の間隔をおいて対向配置され、光を電気信号に変換する受光素子とを備える光受信モジュールにおいて、前記光ファイバは、前記光出射端面が所定の曲率半径を有する球面状に形成された先球ファイバで、前記先球ファイバから出射される光のビームウェストの位置が前記受光素子の受光部よりも手前側であることを特徴とする構成を有している。
【0007】
また、本発明の請求項2記載の光受信モジュールは、請求項1記載の光受信モジュールにおいて、前記受光素子が、アバランシェフォトダイオード(APD)であることを特徴とする構成を有している。
【0008】
さらに、本発明の請求項3記載の光受信モジュールは、請求項1乃至2記載の光受信モジュールにおいて、前記受光素子が裏面入射型であることを特徴とする構成を有している。
【0009】
これらの構成により、本発明の光受信モジュールは、所定の曲率半径を有する短尺光ファイバから光を出射し、受光素子の受光部における光ビームの広がり半径を微小化するので、光信号を受光素子に効率よく集光することができ、光通信の高速化に対応することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、光信号を受光素子に効率よく集光することができ、光通信の高速化に対応することができるという効果を有する光受信モジュールを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0012】
まず、本発明の実施の形態の光受信モジュールの構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は、本実施の形態の光受信モジュールの内部構造の概要を示す平面図、図2は、光受信モジュールの主要部の構成及び位置関係の説明図である。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態の光受信モジュール10は、曲率半径Rで形成された光出射端面11aから光を出射する光ファイバ(以下「先球ファイバ」という。)11と、受光した光を電流信号に変換する光吸収層を含む受光素子12と、受光素子12を実装するサブマウント13と、先球ファイバ11を固定するファイバ固定部14と、受光素子12から出力される電流信号を電圧信号に変換するプリアンプIC15と、電気信号を伝送するボンディングワイヤ16と、各部品を封止するパッケージ17と、電気信号を出力する端子18とを備えている。
【0014】
先球ファイバ11は、ガラスやプラスチック等の材料で形成され、入射された光信号を伝送して光出射端面11aから受光素子12に出射するようになっている。
【0015】
受光素子12は、例えば、複数の半導体層が台錐形状に積層されたメサ型のアバランシェフォトダイオード(以下「APD」という。)で構成されている。
【0016】
サブマウント13は、例えば、配線パターンを有するアルミナ基板で構成され、受光素子12がフリップチップ実装できるようになっている。具体的には、サブマウント13は、受光素子12とのボンディング実装の際に生じるストレスの緩和及び実装時の強度確保のため、例えばAu/Snで構成されたバンプを有している。このバンプは、後述のn電極及びp電極に設けられ、受光素子12に所定の電圧を印加すると共に、受光素子12からの信号を授受するようになっている。
【0017】
なお、受光素子12からサブマウント13までの接続、及び、サブマウント13からプリアンプIC15までのボンディングワイヤ16による接続は、寄生インダクタンスや浮遊容量が最小になるよう設計されている。
【0018】
ファイバ固定部14は、パッケージ17に固着されるようになっており、例えば、先球ファイバ11を保持し、固定する溝を有している。
【0019】
プリアンプIC15は、受光素子12から出力される電流信号を電圧変換して増幅し、電圧信号として出力するトランスインピーダンスアンプ(以下「TIA」という。)を備えている。
【0020】
先球ファイバ11及び受光素子12は、図2に示すような構成及び位置関係を有している。すなわち、先球ファイバ11は、光信号を伝送する半径wのコア部11bと、コア部11bの外周に設けられたクラッド部11cとを備え、コア部11bの光出射端面11aは例えば研磨により形成された曲率半径Rの球面で構成されている。
【0021】
また、受光素子12は、厚さdの半導体基板12aと、半導体基板12a上に形成された受光部12bとを備えている。半導体基板12aは、先球ファイバ11からの光信号が入射される光入射面12cと、光入射面12cと対向する受光部形成面12dとを有している。
【0022】
なお、図示を省略したが、受光素子12は、メサ型のAPDで構成される場合、例えば、n+型InPからなる半導体基板12aの受光部形成面12d上に、n+型InPからなるバッファ層と、i型InGaAsからなり、入射した光を吸収してキャリアとしての電子と正孔との対を生成する光吸収層と、n+型InPからなる電界緩和層と、p−型InPからなる増倍層と、p+型InGaAsからなるコンタクト層とがエピタキシャル成長によりメサ部内に積層されて構成される。また、受光部形成面12d上にn電極が設けられ、コンタクト層に接してp電極が設けられている。
【0023】
図2において、先球ファイバ11の光出射端面11aの頂点から出射された光ビームが最小のビームスポット半径wとなるビームウェスト位置(A面)までをd、ビームウェスト位置から受光素子12の光入射面12cまでの距離をdとする。また、光出射端面11aの頂点から光入射面12cまでの距離をzとする。
【0024】
また、ビームウェスト位置におけるビームスポット半径をw、受光部12bにおけるビームスポット半径をwとする。このビームスポット半径wを、例えば10ギガビット/秒の光通信速度に対応させる場合、10μm程度以下に設定する。
【0025】
ここで、光受信モジュールの基本回路構成について図3を用いて説明する。図3は、APD及びTIAの等価回路を示したものである。
【0026】
図3に示すように、APDは、電流源と静電容量及び内部抵抗Rとの並列の等価回路で表すことができる。静電容量としては、サブマウント13に実装された際に発生する寄生容量Cと、受光部12bの構造に起因する素子容量Cとがある。
【0027】
また、TIAは、帰還抵抗Rを有する増幅器で構成され、帰還抵抗Rの値によって増幅器の増幅度が調整されるようになっている。TIAの入力インピーダンスRは帰還抵抗Rと比例関係にある。
【0028】
光受信モジュール10を高速光通信に対応させるためには、光受信モジュール10の周波数特性及び信号対雑音比(以下「SN比」という。)を向上させる必要がある。
【0029】
まず、光受信モジュール10の周波数特性は、前述の寄生容量C、素子容量C、入力インピーダンスR及び内部抵抗Rで決定される。この周波数特性を決定する高域遮断周波数f3dBは次式で表される。
【0030】
3dB=1/(2π(C+C)(R+R)) (1)
一方、光受信モジュール10のSN比を向上させるためには、TIA内の帰還抵抗Rを大きくする必要がある。
【0031】
しかしながら、帰還抵抗Rは、入力インピーダンスRと比例関係にあり、帰還抵抗Rを大きくしてSN比を上げようとすると入力インピーダンスRが大きくなって高域遮断周波数f3dBが低下してしまうので、帰還抵抗Rを必要以上に大きくすることは困難である。
【0032】
そこで、高域遮断周波数f3dBを高くするには、寄生容量C及び素子容量Cを低減しなければならない。寄生容量Cは、サブマウント13のパターン設計や実装上のばらつき等を制御することにより低減することができるので、APDの構造に起因する素子容量Cを低減する必要がある。すなわち、受光部12bの受光面積を小さくして素子容量Cを低減することによって、光受信モジュール10を高速光通信に対応させることができる。
【0033】
例えば、10ギガビット/秒の光通信速度に対応させる場合、検討結果によれば、受光部12bの素子容量Cを250fF程度にする必要があり、このときの受光部12bは一般的な受光感度を有する受光素子の空乏層の伸び(長さ)を考慮すると半径10μm程度の値が得られる。したがって、受光部12bに入射する光信号のビームスポット半径wを10μm程度以下にしなければならない。
【0034】
次に、ビームスポット半径wを10μm程度以下にするため、光出射端面11aの曲率半径R及び距離zの設定について説明する。
【0035】
図4は、光出射端面11aの曲率半径Rと受光部12bにおけるビームスポット半径wとの関係を示すグラフであり、図2において、w=4μm、d=100μmとし、距離zをパラメータとしたときの計算結果である。
【0036】
図4に示すように、ビームスポット半径wを10μm以下にするには、距離zを40μm以下にし、光出射端面11aの曲率半径Rを約15μm以上、好ましくは20μm以上に設定するのが望ましい。
【0037】
また、図5は、距離zとビームスポット半径wとの関係について、本発明の先球ファイバ11と従来の平面切断されたフラットファイバとを比較したグラフであり、図2において、w=4μm、d=100μmとしたときの計算結果である。
【0038】
図5に示すように、光出射端面11aの曲率半径Rを20μmに設定した場合、距離zが小さくなるに従って、本発明の先球ファイバ11によるビームスポット半径wの方が従来のフラットファイバによるものよりも小さくなる傾向が強い。ビームスポット半径wを10μm程度以下にするには、距離zを0〜45μm程度の範囲内に設定すればよく、部品のばらつきや製造上の作業性を考慮すると距離zを20μm程度に設定するのが望ましい。
【0039】
次に、本実施の形態の光受信モジュール10の製造方法について図1及び図2を用いて説明する。
【0040】
まず、プリアンプIC15がパッケージ17の所定位置に固着され、プリアンプIC15及びパッケージ17にそれぞれ設けられた電極がボンディングワイヤ16によって電気的に接続される。次いで、受光素子12が実装されたサブマウント13が、例えばパッケージ17に設けられた位置出し部材(図示せず)に固着される。受光素子12は、サブマウント13の所定の位置に予め位置決めされ、例えば半田付けによって固着されている。
【0041】
さらに、プリアンプIC15及びサブマウント13に設けられた電極がボンディングワイヤ16によって電気的に接続される。
【0042】
次いで、先球ファイバ11が、パッケージ17に固着されたファイバ固定部14上において位置出しされ固着される。先球ファイバ11は、X軸及びY軸方向に移動するXY位置調整治具によって保持され、受光部12bに対する光軸が調整されるようになっている。なお、X軸はファイバ固定部14の上面に接してZ軸と直交する方向を表し、Y軸はX軸と直交する紙面に向かう方向、Z軸は先球ファイバ11の長手方向を表す。
【0043】
続いて、光受信モジュール10を駆動する電源装置及び光受信モジュール10の出力をモニタする測定装置が端子18に接続され、先球ファイバ11に光が入射される。次いで、XY位置調整治具によって、先球ファイバ11が位置調整されてファイバ固定部14に固着される。具体的には、Z軸方向に関しては、光出射端面11aの頂点から光入射面12cまでの距離zが約20μmに設定され、X軸及びY軸方向に関しては、受光素子12からの出力レベルが所定値になる位置に設定され、固着される。そして、上面開口部が封止用カバー(図示せず)によって封止固定される。
【0044】
次に、本実施の形態の光受信モジュール10の動作について図1及び図2を用いて説明する。
【0045】
まず、先球ファイバ11に入射された光信号は、コア部11bを伝送して光出射端面11aに達し、光出射端面11aから出射される。
【0046】
光出射端面11aから出射された光ビームは、出射されてからビーム径が徐々に小さくなり、ビームウェスト位置において最小のビーム半径wとなる。ビームウェスト位置からはビーム径は徐々に大きくなって受光素子12の光入射面12cに入射される。そして、スネルの法則を満たす角度で半導体基板12a内を広がりながら受光部12bに達し、ビームスポット半径wとなる。
【0047】
引き続き、受光部12bに入射された光は、光吸収層で吸収されることにより、電子と正孔との対が生成され、それぞれ、サブマウント13の電極に移動する。具体的には、電子は、受光素子12のn電極を介してサブマウント13の電極に移動し、正孔は、受光素子12の増倍層に移動して増倍されてp電極に移動した後、サブマウント13の電極に移動する。
【0048】
次いで、サブマウント13の電極に移動したメインキャリアの正孔によって、受光素子12から電流信号が出力されプリアンプIC15に入力される。そして、プリアンプIC15によって、受光素子12から出力される電流信号が電圧変換されて増幅され、ボンディングワイヤ16を介して端子18から出力される。
【0049】
以上のように、本実施の形態の光受信モジュール10によれば、先球ファイバ11は、曲率半径Rを有し、受光部12bにおける光ビームのビームスポット半径wを10μm程度に絞り込む構成としたので、光信号を受光部12bに効率よく集光することができ、光通信の高速化に対応することができる。
【0050】
なお、本実施の形態において、受光素子12がメサ型のAPDで構成される例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば受光素子12がプレーナ型のpin型半導体受光素子で構成される場合でも同様の効果が得られる。
【0051】
また、本実施の形態において、光信号が入射される光入射面12cと対向する受光部形成面12dに受光部12bが設けられた裏面入射型の受光素子を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば受光部12bが光入射面12cに設けられたものであっても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明に係る光受信モジュールは、光信号を受光素子に効率よく集光することができ、光通信の高速化に対応することができるという効果を有し、光信号を受信して電気信号に変換する光受信モジュール等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る光受信モジュールの内部構造の概要を示す平面図
【図2】本発明の実施形態に係る光受信モジュールの主要部の構成及び位置関係の説明図
【図3】本発明の実施形態に係る光受信モジュールのAPD及びTIAの等価回路を示す図
【図4】本発明の実施形態に係る光受信モジュールにおける曲率半径Rとビームスポット半径wとの関係を示す図
【図5】本発明の実施形態に係る光受信モジュールにおける距離zとビームスポット半径wとの関係を示す図
【符号の説明】
【0054】
10 光受信モジュール
11 先球ファイバ
11a 光出射端面
11b コア部
11c クラッド部
12 受光素子
12a 半導体基板
12b 受光部
12c 光入射面
12d 受光部形成面
13 サブマウント
14 ファイバ固定部
15 プリアンプIC
16 ボンディングワイヤ
17 パッケージ
18 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ(11)と、前記光ファイバの光出射端面(11a)から所定の間隔をおいて対向配置され、光を電気信号に変換する受光素子(12)とを備える光受信モジュールにおいて、
前記光ファイバは、前記光出射端面が所定の曲率半径を有する球面状に形成された先球ファイバで、前記先球ファイバから出射される光のビームウェストの位置が前記受光素子の受光部(12b)よりも手前側であることを特徴とする光受信モジュール。
【請求項2】
前記受光素子が、アバランシェフォトダイオード(APD)であることを特徴とする請求項1記載の光受信モジュール。
【請求項3】
前記受光素子が裏面入射型であることを特徴とする請求項1乃至2記載の光受信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−126274(P2006−126274A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310983(P2004−310983)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】