説明

光検出装置および観察装置

【課題】S/Nの低下を抑制しつつ、各セルにより検出された光のゲインをセル毎に設定することができる光検出装置および観察装置を提供する。
【解決手段】標本Aからの光を検出して電気信号に変換するセルを複数有するマルチセル光検出器52と、マルチセル光検出器52により変換された電気信号を増幅する光検出回路53とを備え、光検出回路53が、各セルにより変換された電気信号のそれぞれの増幅率を設定する入力部44と、入力部44により設定された増幅率に応じて1画素として積算する電気信号のサンプリング数を決定し、決定したサンプリング数の電気信号を積算するADデータ演算部とを備える光検出装置50を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出装置および観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料から発せられた蛍光をスペクトル成分に分割し、複数のセルを有するマルチセル光検出器によって各スペクトル成分を検出するレーザ走査型顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。このレーザ走査型顕微鏡では、各セルにより検出した光を電子増倍機構により増倍させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−506191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数のセルを有するマルチセル光検出器は、増倍手段である電子増倍機構をセル毎に持つことが困難であるため、全セル共通あるいは複数セル共通でしか電子増倍機構を持つことができない。このため、特許文献1に開示されているレーザ走査型顕微鏡によれば、例えば二重染色標本で両色素の蛍光の輝度が大きく異なる場合、一方の色素にしかマルチセル光検出器のゲインを合わせることができない。その結果、他方の色素は画像輝度として飽和あるいは低すぎる画像となり、同時に両色素の蛍光を最適なゲインで観測できないという不都合がある。
【0005】
上記の不都合を解決するために、電子増倍機構以外のゲイン手段(例えば回路のアンプ)により、他方の色素の蛍光の輝度にゲインをかける方法が考えられる。しかしながら、この方法によれば、S/Nが低下してしまい、鮮明な画像を得ることができないという不都合がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、S/Nの低下を抑制しつつ、各セルにより検出された光のゲインをセル毎に設定することができる光検出装置および観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の第1の態様は、標本からの光を検出して電気信号に変換するセルを複数有するマルチセル光検出器と、該マルチセル光検出器により変換された電気信号を増幅する増幅回路とを備え、該増幅回路が、各前記セルにより変換された電気信号のそれぞれの増幅率を設定する設定部と、該設定部により設定された増幅率に応じて1画素として積算する電気信号のサンプリング数を決定し、決定したサンプリング数の電気信号を積算する積算部とを備える光検出装置である。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、標本からの光が、マルチセル光検出器の複数のセルにより検出され、セル毎に電気信号に変換される。各セルにより変換された電気信号は、増幅回路により増幅される。この場合において、増幅回路では、積算部により、各セルにより変換された電気信号のそれぞれについて、設定部により設定された増幅率に応じて1画素として積算する電気信号のサンプリング数が決定され、決定したサンプリング数の電気信号が積算される。
【0009】
上記のように、各セルにより変換された電気信号を積算部によりそれぞれ増幅することで、各セルにより検出された光をセル毎に増幅することができる。これにより、例えば二重染色標本で両色素の蛍光の輝度が大きく異なる場合にも、両色素の蛍光をそれぞれに応じた増幅率で増幅して同時に観察することができる。また、積算するサンプリング数を増やして電気信号を増幅することで、電気信号のS/Nの低下を抑制することができ、鮮明な画像を得ることができる。
【0010】
上記態様において、各前記セルにより変換された電気信号にゲインを乗じて、前記積算部の増幅幅よりも小さな増幅幅で各前記セルにより変換された電気信号を増幅するゲイン増幅部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、積算部による電気信号の増幅に加えて、ゲイン増幅部により各セルにより変換された電気信号を増幅することができる。この場合において、ゲイン増幅部により、積算部の増幅幅よりも小さな増幅幅で各セルにより変換された電気信号を増幅することで、各セルにより変換された電気信号を精度よく増幅することができ、より鮮明な画像を得ることができる。
【0011】
上記態様において、前記設定部により設定された増幅率に応じて、前記サンプリング数と前記ゲインとを決定する増幅分担決定部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、増幅分担決定部により、設定部により設定された増幅率に応じて、積算部により積算するサンプリング数とゲイン増幅部により乗じるゲインとを決定して、各セルにより変換された電気信号を増幅することができる。このように積算部とゲイン増幅部とを併用することで、S/Nの低下を抑制しつつ、各セルにより変換された電気信号を精度よく増幅することができ、より鮮明な画像を得ることができる。
【0012】
上記態様において、前記積算部により積算された複数の各前記セルの電気信号を合算する合算部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、合算部により、積算部により積算された各セルの電気信号を複数のセル分合算して、1つの電気信号として増幅して出力することができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、上記の光検出装置と、標本からの光をスペクトル成分に分光する分光素子とを備え、各前記セルが、前記分光素子の分光方向に配列され、前記分光素子により分光されたスペクトル成分をそれぞれ検出する観察装置である。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、分光素子により、標本からの光をスペクトル成分に分光して、マルチセル光検出器の複数のセルにより、スペクトル成分毎にそれぞれ検出することができる。この場合において、前述のように、第1の態様に係る光検出器を備えることで、例えば二重染色標本で両色素の蛍光の輝度が大きく異なる場合にも、両色素の蛍光をそれぞれに応じた増幅率で増幅して同時に観察することができる。また、積算するサンプリング数を増やして電気信号を増幅することで、電気信号のS/Nの低下を抑制することができ、鮮明な画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、S/Nの低下を抑制しつつ、各セルにより検出された光のゲインをセル毎に設定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の概略構成図である。
【図2】図1の光検出回路の機能ブロック図である。
【図3】図1のADCによるサンプリングのタイミングを説明する図である。
【図4】図3の積分電圧波形の拡大図である。
【図5】図1のレーザ走査型顕微鏡の動作を示すフローチャートである。
【図6】図1のADデータ演算部によるゲインの算出方法を説明する図である。
【図7】図1のレーザ走査型顕微鏡の作用を説明するグラフである。
【図8】図1の変形例に係る光検出回路の機能ブロック図である。
【図9】図8のADCによるサンプリングのタイミングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る顕微鏡について、図面を参照して説明する。
本実施形態では、本発明に係る光検出装置および観察装置をレーザ走査型顕微鏡に適用した例について説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1は、レーザ光を標本に照射して標本において発生した蛍光を検出する顕微鏡であり、図1に示すように、レーザ光源装置10と、顕微鏡本体20と、光学系ユニット30と、制御装置40と、光検出装置50とを主な構成要素として備えている。
【0018】
レーザ光源装置10は、レーザ光源11,12と、ミラー13と、ダイクロイックミラー14と、調光部15とを備えている。
レーザ光源11,12は、互いに異なる波長のレーザ光を射出するようになっている。レーザ光源装置10は、観察対象に応じて、これらレーザ光源からのレーザ光を同時に、あるいは切り替えて射出するようになっている。レーザ光源11,12は、例えば、標本A中の観察対象に特異的に付着または発現する蛍光物質を励起させる励起光をそれぞれ射出するようになっている。
【0019】
レーザ光源11,12の射出光軸上には、ミラー13、ダイクロイックミラー14がそれぞれ配置されている。また、ミラー13およびダイクロイックミラー14の反射方向には、調光部15が配置されている。
【0020】
ミラー13は、レーザ光源11からのレーザ光をダイクロイックミラー14に向けて反射するようになっている。ダイクロイックミラー14は、レーザ光源11からのレーザ光を透過させる一方、レーザ光源12からのレーザ光を調光部15に向けて反射するようになっている。これにより、レーザ光源11,12からのレーザ光をそれぞれ調光部15に導くようになっている。
【0021】
調光部15は、例えばAOTF(音響光学フィルタ)であり、レーザ光源11,12からのレーザ光を回折させて、射出するレーザ光の波長を変化させることができるようになっている。
なお、本実施形態では、レーザ光源装置10として、複数のレーザ光源を備えた例を説明したが、これに代えて、広帯域のレーザ光を射出可能なスーパーコンティニュムレーザ光源を用いてもよい。
【0022】
顕微鏡本体20は、標本Aを載置するステージ21と、ステージ21に対向して配置された対物レンズ22とを備えている。
対物レンズ22は、レーザ光源装置10からのレーザ光を標本A上に照射する一方、標本Aから発生した蛍光を集めるようになっている。
【0023】
光学系ユニット30は、ダイクロイックミラー31と、スキャナ32と、ミラー33と、ピンホール34と、レンズ35,36,37,38と、回折格子(分光素子)39とを備えている。
レンズ35,36,37,38は、それぞれ、対物レンズ22とミラー33との間、ミラー33とスキャナ32との間、ダイクロイックミラー31とピンホール34との間、ピンホール34と回折格子39との間に配置されており、レーザ光源装置10からのレーザ光および標本Aからの蛍光を集光またはリレーするようになっている。
【0024】
ダイクロイックミラー31は、レーザ光源装置10からのレーザ光を反射する一方、標本Aからの蛍光を透過するようになっている。このような構成を有することで、ダイクロイックミラー31は、レーザ光の光路と標本Aからの蛍光の光路とを分岐するようになっている。
【0025】
スキャナ32は、例えば一対のガルバノミラーを有するガルバノスキャナであり、一対のガルバノミラーの角度を変化させ、ラスタスキャン方式で駆動されるようになっている。これにより、レーザ光源装置10からのレーザ光を標本A上において2次元的に走査させるようになっている。なお、スキャナ32として、ガルバノスキャナに代えて、例えば共振スキャナやAOD(音響光学偏向素子)を採用することとしてもよい。
【0026】
ミラー33は、スキャナ32により走査されたレーザ光を対物レンズ22に向けて反射するようになっている。
ピンホール34は、標本A上におけるレーザ光の焦点位置から発生した蛍光のみを通過させるようになっている。すなわち、対物レンズ22により集められてスキャナ32およびダイクロイックミラー31を透過した蛍光は、ピンホール34を通過することによりレーザ光の焦点位置(測定点)から光軸方向にずれた位置からの光がカットされる。これにより、光軸方向に焦点位置と同一な面からの蛍光だけが回折格子39に入射する。
【0027】
回折格子39は、標本Aにおいて発生し、ピンホール34を通過してきた蛍光を波長毎のスペクトル成分に分光し、分光したスペクトル成分を光検出装置50(マルチセル光検出器52)に入射させるようになっている。
【0028】
光検出装置50は、回折格子39の後段に配置されたレンズ51と、光を検出するセルが回折格子39による分光方向に複数配列されたマルチセル光検出器52と、マルチセル光検出器52により検出された光(電気信号)を増幅する光検出回路(増幅回路)53とを備えている。
レンズ51は、回折格子39により分光されたスペクトル成分を、マルチセル光検出器52の各セルに入射させるようになっている。
【0029】
マルチセル光検出器52は、例えば32個のセルが回折格子39による分光方向に配列された32セルPMT(Photomultiplier Tube)であり、回折格子39により分光されたスペクトル成分をそれぞれ検出し、検出したスペクトル成分をその輝度に応じた電気信号へ変換するようになっている。
【0030】
マルチセル光検出器52の各セルには、波長毎に分割されたスペクトル成分、すなわち異なる波長の光が入射される。マルチセル光検出器52から光検出回路53へは、輝度に応じた電気信号が出力され、光検出回路53からマルチセル光検出器52へは、マルチセル光検出器52の増幅率についての制御信号が出力される。
【0031】
光検出回路53は、図2に示すように、アンプ55と、コンデンサ56と、スイッチ57と、ADC(ADコンバータ)58と、集積回路64と、通信I/F61と、メモリ62と、DAC(DAコンバータ)63とを備えている。
集積回路64は、ADデータ演算部(積算部、ゲイン増幅部)59と、セルデータ加算部(合算部)60とを備えている。
【0032】
アンプ55、コンデンサ56、スイッチ57、ADC58、およびADデータ演算部59は、マルチセル光検出器52のセル毎に設けられている。図2に示す例では、光検出回路53を32セルPMTとしているため、32セル分のアンプ55、コンデンサ56、スイッチ57、ADC58、およびADデータ演算部59が、各セルの後段に設けられている。
【0033】
アンプ55には、マルチセル光検出器52の各セルから電気信号、すなわち、各セルにおいて検出したスペクトル成分が光電変換された電気信号が出力される。
コンデンサ56およびスイッチ57は、マルチセル光検出器52の各セルについて、アンプ55と並列に接続されている。
【0034】
このような構成とすることで、アンプ55は、コンデンサ56に蓄積された電荷に応じて積分された電圧波形(積分電圧波形)をADC58に出力するようになっている。また、集積回路64から出力されるリセット信号によりスイッチ57を閉じることで、コンデンサ56に蓄積された電荷をリセットし、アンプ55からの積分電圧波形をリセットするようになっている。なお、集積回路64からのリセット信号は、アンプ55が1画素分の電気信号を積算した際に出力される。
【0035】
アンプ55の後段にはADC58が設けられている。ADC58は、アンプ55からの積分電圧波形をAD変換して、変換したデータをADデータ演算部59に出力するようになっている。ADC58には、集積回路64からサンプリングを指令するADサンプリングCLKが出力される。ADC58は、このADサンプリングCLKが出力されたタイミングにおいて、アンプ55からの積分電圧波形をサンプリングするようになっている。
【0036】
具体的には、図3に示すように、集積回路64からのリセット信号の出力期間T1以外、すなわちアンプ55の積分期間T2において、集積回路64からADサンプリングCLKが出力される。そして、ADC58は、このADサンプリングCLKが出力されたタイミングにおいて、アンプ55からの積分電圧波形をサンプリングして、ADデータとしてADデータ演算部59に出力するようになっている。
【0037】
ここで、アンプ55からの積分電圧波形は、一次関数的な直線になるのではなく、図4に示すように、実際には回路系のノイズにより上下に振幅した形になる。そのため、同じ大きさの電気信号が各セルから入力され、同じタイミングでサンプリングを行っても、サンプリング結果の再現性が得られない。これが、画素間の輝度ばらつきを引き起こし、画像のS/N劣化を引き起こす原因となる。
【0038】
そこで、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1では、1画素内のサンプリング回数を増やし、サンプリングした電気信号を平均化する。これにより、アンプ55からの積分電圧波形のノイズ成分による、画素間の輝度ばらつきを低減することができ、画像のS/Nを向上することができる。特に、積分方式では、アンプ55による積分のリセット時に高帯域の電気信号が必要であり、電気信号の帯域を落としてS/Nを向上することができないため、上記の方法が有効である。また、1画素内のサンプリング回数を増やすことで、S/Nを向上するだけでなく、電気信号の増幅も兼ねることができる。
【0039】
ADデータ演算部59は、後述するように、制御部41により決定された増幅率に応じて1画素として積算する電気信号のサンプリング数を決定し、決定したサンプリング数の電気信号を積算するようになっている。
【0040】
また、ADデータ演算部59は、後述するように、各セルにより変換された電気信号に制御部41により決定されたゲインを乗じて、サンプリングの積算による増幅幅よりも小さな増幅幅で各セルにより変換された電気信号を増幅するようになっている。
【0041】
セルデータ加算部60は、ADデータ演算部59により増幅された各セルの電気信号を複数のセル分合算し、合算データ(ChADデータ)として通信I/F61に出力するようになっている。セルデータ加算部60は、観察対象に応じて合算するセルが選択される。なお、セルデータ加算部60は、複数のセル分の電気信号を合算することなく、各セルからの電気信号をそのまま通信I/F61に出力することとしてもよい。
【0042】
通信I/F61は、スキャナ32の同期信号(同期CLK)を集積回路64に出力するとともに、セルデータ加算部60からの合算データを制御部41に出力するようになっている。
メモリ62には、観察対象毎の観察条件が記憶されており、例えば観察対象と合算するセルとが対応付けられて記憶されている。
【0043】
DAC63は、集積回路64からの指令に基づいて、マルチセル光検出器52の全セルのゲインを一括して増幅させるための信号(PMT電子増倍ゲイン可変信号)をマルチセル光検出器52に出力するようになっている。
【0044】
制御装置40は、各部を制御する制御部(増幅分担決定部)41と、光検出装置50からの電気信号とスキャナ32の走査位置とに基づいて画像を生成するPC42と、PC42により生成された画像を表示するモニタ43と、画像生成のための各種の条件を入力する入力部(設定部)44とを備えている。
入力部44に入力される条件は、例えば、観察対象や、合算するセルや、各セルにより変換された電気信号の増幅率である。
【0045】
制御部41は、入力部44により設定された増幅率に応じて、ADデータ演算部59により積算するサンプリング数と、ADデータ演算部59により乗じるゲインとを決定する。そして、制御部41は、決定したサンプリング数の電気信号を積算させるとともに、決定したゲインで各セルにより変換された電気信号を増幅させるように、ADデータ演算部59を制御する。
【0046】
上記構成を有するレーザ走査型顕微鏡1の作用について以下に説明する。
レーザ光源装置10から出射されたレーザ光は、ダイクロイックミラー31によりそれぞれ反射されてスキャナ32に入射し、スキャナ32により標本A上において2次元的に走査される。スキャナ32により走査されたレーザ光は、対物レンズ22に入射し、ステージ21上に載置された標本A上に集光される。標本Aの焦点面においては、レーザ光により標本A内の蛍光物質が励起されて蛍光が発生する。
【0047】
標本Aから発せられた蛍光は、対物レンズ22により集められ、スキャナ32およびダイクロイックミラー31を通過して、レンズ37によりピンホール34に集光される。ピンホール34では、標本Aの焦点面において発生した蛍光のみを通過させ、レーザ光の焦点位置(測定点)に対して光軸方向にずれた位置からの光がカットされる。これにより、光軸方向に測定点と同一な面からの蛍光だけが回折格子39に入射される。
【0048】
回折格子39に入射した蛍光は、波長毎のスペクトル成分に分解される。分解されたスペクトル成分は、マルチセル光検出器52の各セルに入射し、各セルによりそれぞれの波長成分の輝度に応じた電気信号に変換される。これらの電気信号は、光検出回路50によりそれぞれ増幅される。
【0049】
この増幅時の動作について、図5に示すフローチャートに従って以下に説明する。ここでは、電気信号の増幅方法の一例として、サンプリングの加算数を2のべき乗で増やしていき、その間の増幅幅に対してゲインで補間していく方法について説明する。なお、以下の説明において、サンプリングの加算数を2のべき乗で増やしていく例を説明するが、増加のさせ方は自由であり、例えば等差数列的に2ずつ増やしていったり、3のべき乗等で増やしていってもよい。
【0050】
図5に示すように、まず、入力部44から合算するセルと、各セルの電気信号の増幅率が設定される(ステップS1)。ここでは、具体例として、各セルの電気信号の増幅率として、例えば3.5倍が入力されたものとする。
【0051】
次に、入力部44に入力された各セルの電気信号の増幅率に応じてサンプリング数が決定される(ステップS2)。具体的には、入力部44に入力された各セルの電気信号の増幅率に対して、それ以下の最も近い2のべき乗αが決定される。本具体例では、入力部44に入力された各セルの電気信号の増幅率が3.5倍のため、それ以下の最も近い2のべき乗αとして、α=1と決定される。この処理は、マルチセル光検出器52のセル毎に行われる。
【0052】
次に、ADC58によるサンプリング数として、基本サンプリング数*2^αのサンプリングデータを取り込む(ステップS3)。本具体例では、前述のようにα=1のため、基本サンプリング数を4回とすると、取り込むサンプリング数は、4回*2^1=8回となる。
【0053】
次に、ADデータ演算部59により、ADC58が取り込んだ全てのサンプリングデータを積算する(ステップS4)。
次に、積算されたデータから予め設定された初期オフセット値を積算回数分除去する(ステップS5)。なお、この初期オフセット値は、キャリブレーション時の値をメモリ62に予め記憶させておくこととしてもよく、入力部44から入力することとしてもよい。
【0054】
次に、ADデータ演算部59により、初期オフセット値が除去されたデータにゲインを乗算して1セル分のADデータとする(ステップS6)。具体的には、入力部44に設定された増幅率を2^αで除算した値(3.5/2^1=1.75)をゲインとして、該ゲインを初期オフセット値が除去された積算データに乗算する。
【0055】
次に、初期オフセット値を1つ加算し、各セルの電気信号としてセルデータ加算部60に出力する(ステップS7)。
次に、セルデータ加算部60により、ADデータ演算部59により増幅された各セルの電気信号が、入力部44により設定された複数のセル分合算され、合算データ(ChADデータ)として、通信I/F61および制御部41を介してPC42に出力される(ステップS8)。
【0056】
このように通信I/F61および制御部41を介してPC42に出力された各セルの合算データは、走査部32の走査位置と対応付けられて、標本Aの画像が生成され、その画像がモニタ43に表示される。
なお、上記のステップS4〜S6において、ADC58が取り込んだサンプリングデータのそれぞれについて初期オフセット値を減算し、このデータを全サンプリング数について積算することとしてもよい。
【0057】
また、図6に示すように、例えば基本サンプリング数を4回とし、サンプリング回数を4回、8回、16回、32回と2のべき乗で増やしていった場合、輝度の重心はP1、P2、P3、P4に示す位置となり、ゲインのリニアリティが失われる。すなわち、サンプリング回数を2倍しても、輝度が2倍されないこととなる。そこで、ステップS6において、上記の処理に加えて、輝度の重心を補正することとしてもよい。具体的には、AD変換した電気信号に、検出効率の低下値の逆数をゲインとして乗算して補正する。
【0058】
ここで、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1による効果について、図7を用いて以下に説明する。
図7は、本実施形態に係る積算機能により電気信号を増幅した場合と、回路ゲインにより電気信号を増幅した場合と、電子増倍(HV)により電気信号を増幅した場合における、入射光量を変えたときS/Nの変化を示すグラフである。いずれの場合においても、最終的に生成される画像の輝度が一定となるようにそれぞれのゲインを調整している。
【0059】
前述のように、電子増倍(HV)により電気信号を増幅した場合には、全セル共通でしか増幅することができないため、例えば二重染色標本で両色素の蛍光の輝度が大きく異なる場合、一方の色素にしかマルチセル光検出器のゲインを合わせることができない。一方、回路ゲインにより電気信号を増幅した場合には、図7に示すように、特に入射光量が低くなると、S/Nが著しく低下してしまい、鮮明な画像を得ることができない。
これに対して、本実施形態に係る積算機能により電気信号を増幅した場合には、セル毎に電気信号を増幅するとともに、S/Nの低下を抑制することができる。
【0060】
以上のように、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1によれば、標本Aからの光が、マルチセル光検出器52の複数のセルにより検出され、セル毎に電気信号に変換される。各セルにより変換された電気信号は、光検出回路53により増幅される。この場合において、光検出回路53では、ADデータ演算部59により、各セルにより変換された電気信号のそれぞれについて、入力部44により設定された増幅率に応じて1画素として積算する電気信号のサンプリング数が決定され、決定したサンプリング数の電気信号が積算される。
【0061】
上記のように、各セルにより変換された電気信号をADデータ演算部59によりそれぞれ増幅することで、各セルにより検出された光をセル毎に増幅することができる。これにより、例えば二重染色標本Aで両色素の蛍光の輝度が大きく異なる場合にも、両色素の蛍光をそれぞれに応じた増幅率で増幅して同時に観察することができる。また、積算するサンプリング数を増やして電気信号を増幅することで、電気信号のS/Nの低下を抑制することができ、鮮明な画像を得ることができる。
【0062】
また、ADデータ演算部59により、各セルにより変換された電気信号にゲインを乗じて、サンプリングデータの積算による増幅幅よりも小さな増幅幅で各セルにより変換された電気信号を増幅することで、各セルにより変換された電気信号を精度よく増幅することができ、鮮明な画像を得ることができる。
【0063】
この場合において、制御部41により、入力部44により設定された増幅率に応じて、ADデータ演算部59により積算するサンプリング数と乗じるゲインとを決定することで、各セルにより変換された電気信号を適切に増幅することができ、より鮮明な画像を得ることができる。
【0064】
また、ADデータ演算部59により増幅された各セルの電気信号を複数のセル分合算するセルデータ加算部60を備えることで、合算したデータを1つの電気信号として増幅して出力することができる。
【0065】
なお、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の変形例として、図8に示すように、コンデンサ56およびスイッチ57(図1参照)に代えて、IV変換抵抗71を設けることとしてもよい。
IV変換抵抗71は、マルチセル光検出器52の各セルについて、アンプ55と並列に接続されている。マルチセル光検出器52の各セルから電気信号は、アンプ55によりIV変換され、図9に示すように、電圧波形としてADC58に出力される。
【0066】
ADC58は、アンプ55からの電圧波形をAD変換して、変換したデータをADデータ演算部59に出力するようになっている。ADC58には、集積回路64からサンプリングを指令するADサンプリングCLKが出力される。ADC58は、このADサンプリングCLKが出力されたタイミングにおいて、アンプ55からの電圧波形をサンプリングするようになっている。以降の処理は、前述のレーザ走査型顕微鏡1と同様であるため、本変形例に係るレーザ走査型顕微鏡においても、前述のレーザ走査型顕微鏡1と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0068】
A 標本
1 レーザ走査型顕微鏡
10 レーザ光源装置
20 顕微鏡本体
30 光学系ユニット
39 回折格子(分光素子)
40 制御装置
41 制御部(増幅分担決定部)
42 PC
43 モニタ
44 入力部(設定部)
50 光検出装置
52 マルチセル光検出器
53 光検出回路(増幅回路)
55 アンプ
56 コンデンサ
57 スイッチ
58 ADC(ADコンバータ)
59 ADデータ演算部(積算部、ゲイン増幅部)
60 セルデータ加算部(合算部)
63 DAC(DAコンバータ)
64 集積回路
71 IV変換抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本からの光を検出して電気信号に変換するセルを複数有するマルチセル光検出器と、
該マルチセル光検出器により変換された電気信号を増幅する増幅回路とを備え、
該増幅回路が、
各前記セルにより変換された電気信号のそれぞれの増幅率を設定する設定部と、
該設定部により設定された増幅率に応じて1画素として積算する電気信号のサンプリング数を決定し、決定したサンプリング数の電気信号を積算する積算部とを備える光検出装置。
【請求項2】
各前記セルにより変換された電気信号にゲインを乗じて、前記積算部の増幅幅よりも小さな増幅幅で各前記セルにより変換された電気信号を増幅するゲイン増幅部を備える請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記設定部により設定された増幅率に応じて、前記サンプリング数と前記ゲインとを決定する増幅分担決定部を備える請求項2に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記積算部により積算された複数の各前記セルの電気信号を合算する合算部を備える請求項1に記載の光検出装置。
【請求項5】
請求項1に記載の光検出装置と、
標本からの光をスペクトル成分に分光する分光素子とを備え、
各前記セルが、前記分光素子の分光方向に配列され、前記分光素子により分光されたスペクトル成分をそれぞれ検出する観察装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−122882(P2012−122882A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274644(P2010−274644)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】