説明

光走査素子及び画像表示装置

【課題】製造プロセスが簡便で、安定した制御が可能な光走査素子を提供する。
【解決手段】梁部13a,13bは、光を反射するミラー部14がX軸方向の揺動可能なように、ミラー部14を支持する。アーム部12a,12bは、梁部13a,13bを支持し、駆動されることによりミラー部14をX軸方向に揺動させる。フレーム部11は、アーム部12a,12bを支持する。駆動用圧電膜21a,21bは、アーム部12a,12bのX軸方向における一端側に設けられ、変位することによりアーム部12a,12bを駆動する。検出用圧電膜22a,22bは、アーム部12a,12bのX軸方向における他端側に設けられ、変位されることによりアーム部12a,12bの駆動を検出する。駆動によるアーム部12a,12bの他端側の振幅は、一端側の振幅より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームを反射して走査を行う光走査素子及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術を発展させた微小電気機械システム(MEMS)技術により、小型に製造され、光ビームを反射して光を二次元的に走査する光走査素子(マイクロスキャナ)が知られている。光走査素子は、画像の情報により輝度調整された光ビームを反射し、画像をスクリーンに投射する画像表示装置等に用いられる。このような画像表示装置は、1軸方向の走査を行う2つの光走査素子、或いは2軸方向の走査を行う1つの光走査素子により、水平方向及び垂直方向の走査を行う。
【0003】
光走査素子の駆動方式として、コイルと磁石との間のローレンツ力を利用したムービングコイル(MC)方式や、ムービングマグネット(MM)方式等の電磁駆動方式(特許文献1参照)、圧電膜の圧電効果を利用した圧電駆動方式(特許文献2参照)、電極間の静電気力を利用した静電駆動方式(非特許文献1参照)等がある。
【0004】
また、光走査素子の駆動を、フィードバック制御のために検出する方式として、磁気抵抗変化を検出する方式、静電容量変化を検出する方式、ピエゾ抵抗変化を検出する方式、圧電膜の圧電効果を利用した方式等がある。
【0005】
圧電膜の圧電効果を利用する圧電方式は、駆動、検出の双方において、他の方式と比べて設計、製造プロセスや、画像表示装置としてのシステム構成等が簡便である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−110005号公報
【特許文献2】特開2005−148459号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】河野清彦 他、「静電2軸MEMS光スキャナの絶縁構造」、パナソニック電工技報、Vol.56 No.3、2008年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、圧電方式によって、駆動、検出を行う場合、大画面に表示する等、大きな振幅で圧電膜が設けられたアームを駆動すると、検出用の圧電膜も大きく振動することになる。このとき、駆動周波数と、揺動検出用信号電圧の関係には、ヒステリシス(履歴現象)が生じてしまう。
【0009】
駆動周波数が、低周波数側から共振周波数に近づく場合と、高周波数側から共振周波数に近づく場合で、共振周波数近傍におけるミラーの振れ角は同一にならず、大きなヒステリシスが発生する。このヒステリシスにより、振れ角を最大とするような共振周波数でミラーを駆動させようとすると、非常に複雑な制御が必要となってしまう。
【0010】
上記問題点を鑑み、本発明は、製造プロセスが簡便で、安定した制御が可能な光走査素子及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、光を反射するミラー部(14)と、ミラー部(14)が第1の方向の揺動可能なように、ミラー部(14)を支持する梁部(13a,13b)と、梁部(13a,13b)を支持し、駆動されることによりミラー部(14)を第1の方向に揺動させるアーム部(12a,12b)と、アーム部(14)を支持するフレーム部(11)と、アーム部(12a,12b)の第1の方向における一端側に設けられ、変位することによりアーム部(12a,12b)を駆動する駆動用圧電膜(21a,21b)と、アーム部(12a,12b)の第1の方向における他端側に設けられ、変位されることによりアーム部(12a,12b)の駆動を検出する検出用圧電膜(22a,22b)とを備え、駆動によるアーム部(12a,12b)の他端側の振幅が、一端側の振幅より小さい光走査素子(1)であることを要旨とする。
【0012】
また、本発明の第1の態様に係る光走査素子(1)においては、梁部(13a,13b)は、ミラー部(14)の第1の方向における中点よりも一端側の位置において、ミラー部(14)を支持し、フレーム部(11)は、上面から下面へ貫通する矩形の窓部(10)を有する枠型形状であり、下面から上層部(32,311)の下面に達するまで窓部(10)よりも広く開口するキャビティ部(30)を有し、アーム部(12a,12b)は、両端を、窓部(10)の対向する2辺においてそれぞれフレーム部(11)の上層部に連結されることにより、フレーム部(11)に支持され、窓部(10)の他端側の辺と、梁部(13a,13b)との間の距離(L2)が、窓部(10)の一端側の辺と、梁部(13a,13b)との間の距離(L1)以上であり上層部(32,311)の下面において、他端側の窓部(10)の辺と、他端側のキャビティ部(30)の端部との間の距離(L4)が、一端側の窓部(10)の辺と、一端側のキャビティ部(30)の端部との間の距離(L3)より大きい。
【0013】
また、本発明の第1の態様に係る光走査素子(1)においては、フレーム部(11)が第1の方向と直交する第2の方向の揺動可能なように、フレーム部(11)支持する外側フレーム部(11A)を更に備える。
【0014】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る光走査素子(1)と、ミラー部(14)に光を出射する光源(55)と、光源(55)が出射する光の輝度を、画像情報に応じて変調するように制御する制御部(50)とを備える画像表示装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、他の駆動方式に比して製造工程が簡便な圧電駆動方式であり、ヒステリシスの発生を抑制し、安定した制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の基本的な構成を説明する模式的な上面図である。(b)は、図1(a)のI−I方向から見た断面図である。
【図2】従来の光走査素子の検出電圧の周波数特性を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る光走査素子の検出電圧の周波数特性を示す図である。
【図4】従来の光走査素子のミラー部の振れ角を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る光走査素子のミラー部の振れ角を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する、模式的な断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する模式的な断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する模式的な断面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する模式的な断面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する模式的な断面図である。
【図11】(a)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する模式的な上面図である。(b)は、図1(a)のII−II方向から見た断面図である。
【図12】本発明の実施の形態の応用例に係る光走査素子の基本的な構成を説明する模式的な上面図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る光走査素子を備える画像表示装置の基本的な構成を説明する模式的な図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る光走査素子を備える画像表示装置の基本的な構成を説明する模式的なブロック図である。
【図15】本発明の他の実施の形態に係る光走査素子を備える画像表示装置の基本的な構成を説明する模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法の関係、各層の厚みの比率等は、現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0018】
また、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための素子や装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでなく、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
(光走査素子)
本発明の実施の形態に係る光走査素子1は、図1に示すように、光を反射するミラー部14と、ミラー部14がX軸方向の揺動可能なように、ミラー部14を支持する一対の梁部13a,13bと、梁部13a,13bをそれぞれ支持し、それぞれ駆動されることによりミラー部14をX軸方向に揺動させる一対のアーム部12a,12bと、アーム部12a,12bを支持するフレーム部11と、アーム部12a,12bのX軸方向における一端側(図1における左側:以下、「駆動側」という。)にそれぞれ設けられ、変位することによりアーム部12a,12bをそれぞれ駆動する駆動用圧電膜21a,21bと、アーム部12a,12bのX軸方向における他端側(図1における右側:以下、「検出側」という。)にそれぞれ設けられ、変位されることによりアーム部12a,12bの駆動をそれぞれ検出する検出用圧電膜22a,22bとを備える。
【0020】
フレーム部11は、例えば、概略として矩形平板状であり、上面から下面に貫通する矩形の窓部10を有する枠型形状である。フレーム部11は、下面から上層部(32,311)の下面に達するまで開口するキャビティ部30を有する。キャビティ部30は、上層部(32,311)の下面において、窓部10よりも広く、例えば矩形に開口している。
【0021】
2本のアーム部12a,12bは、フレーム部11の、X軸方向と直交するY軸方向に平行な2辺からそれぞれX軸方向に対向して延伸する平面視帯状の部位であり、窓部10内に位置する。アーム部12a,12bは、それぞれ両端が、窓部10のY軸方向に平行な対向する2辺において、それぞれフレーム部11の上層部(32,311)に連結されることにより、フレーム部11に支持される。
【0022】
フレーム部の上層部(32,311)の下面の、キャビティ部30において露出した領域は、アーム部12a,12bの下面と同じ水平レベルの、アーム部12a,12bのザグリ部となる。
【0023】
図1(b)に示すように、フレーム部11の上層部(32,311)の下面において、窓部10の検出側の辺と、キャビティ部30の検出側の端部との間の距離L4は、窓部10の駆動側の辺と、キャビティ部30の駆動側の端部との間の距離L3より大きくなっている。すなわち、アーム部12a,12bは、距離L4である検出側のザグリ幅が、距離L3である駆動側のザグリ幅より大きくなるように形成されており、駆動時において、アーム部12a,12bは、検出側の振幅が駆動側の振幅より小さい。ザグリ幅の差は、例えばL4−L3>10μmとすることができる。
【0024】
梁部13a,13bは、それぞれを互いに結ぶ直線が、Y軸方向に平行である。ミラー部14は、一対の梁部13a,13bを介して、それぞれアーム部12a,12bに連結、支持される。梁部13a,13bは、ミラー部14のX軸方向における、Y軸方向に平行な中心線よりも駆動側においてミラー部14にそれぞれ連結し、ミラー部14を支持している。すなわち、ミラー部14の駆動側の端部から梁部13a,13bまでの距離L5と、ミラー部14の検出側の端部から梁部13a,13bまでの距離L6との関係は、L5<L6となっている。
【0025】
なお、図1においては、窓部10の駆動側の1辺から梁部13a,13bの中心までの距離L1と、窓部10の検出側の1辺から梁部13a,13bの中心までの距離L2との関係が、L1<L2となるように描写されているが、例示であり、L1≦L2となっていれば良い。
【0026】
ミラー部14、梁部13a,13b、アーム部12a,12b、フレーム部11は、例えば、それぞれシリコン(Si)等からなる同一のSOI基板31からMEMS技術により形成可能である。
【0027】
フレーム部11、アーム部12a,12bの上面をなす上部には、それぞれ駆動用圧電膜21a,21b、検出用圧電膜22a,22b(以下、総称する場合において単に「圧電膜21,22」という。)と絶縁するシリコン酸化膜(SiO)等の絶縁膜32が形成されている。
【0028】
圧電膜21,22は、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系の圧電セラミック、ニッケル酸ランタン(LaNiO)等、高い圧電特性を示す圧電体膜24と、圧電体膜24の上面に形成された上部電極膜23と、圧電体膜24の下面に形成された下部電極膜25とをそれぞれ備える。
【0029】
圧電膜21,22の圧電体膜24は、その他、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ビスマスゲルマニウムオキサイド(Bi12GeO20)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)等を使用可能である。
【0030】
図示を省略しているが、上部電極膜23は、圧電体膜24の上面に密着する密着層と、密着層の上面に設けられる上部電極層とから構成される。上部電極膜23の密着層は、例えば、厚さが約0.02μm程度であり、チタン(Ti)等からなる。上部電極膜23の上部電極層は、例えば、厚さが約0.3μm程度であり、例えば白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等からなる。
【0031】
圧電膜21,22の下部電極膜25は、圧電膜21,22を、フレーム部11、アーム部12a,12bそれぞれの上面に対して垂直方向(上下方向)に変位するように優先的に配向する配向層と、配向層の下面に設けられ、配向層の配向性を助長する下部電極層とから構成される。下部電極膜25の配向層は、例えば、厚さが約0.1μm程度であり、白金(Pt)等からなる。下部電極膜25の下部電極層は、例えば、厚さが約0.02μm程度であり、チタン(Ti)等からなる。
【0032】
駆動用圧電膜21a,21bは、それぞれ平面視帯状である。駆動用圧電膜21a,21bは、アーム部12a,12bの、それぞれ梁部13a,13bとの接合部よりも駆動側の上面から、フレーム部11の駆動側の上面にかけてそれぞれ設けられる。
【0033】
駆動用圧電膜21a,21bは、上部電極膜23及び下部電極膜25から、圧電体膜24に駆動信号を印加されることによりそれぞれ変位する。駆動用圧電膜21a,21bは、それぞれ所定の駆動信号が印加されると、圧電体膜24の結晶格子が上下方向に引き延ばされると共に、面方向に圧縮される。この応力により、駆動用圧電膜21a,21bは、上下方向に撓み、変位して、アーム部12a,12bを駆動する。ミラー部14は、アーム部12a,12bの駆動により、梁部13a,13bを互いに結ぶ直線と平行な方向(Y軸方向)を回転軸としてX軸方向に揺動し、入射された光ビームを反射してX軸方向の走査をする。
【0034】
検出用圧電膜22a,22bは、それぞれ平面視帯状である。検出用圧電膜22a,22bは、アーム部12a,12bのそれぞれ梁部13a,13bとの接合部より検出側の上面から、フレーム部11の検出側の上面にかけて設けられる。
【0035】
検出用圧電膜22a,22bは、アーム部12a,12bの駆動によって上下方向に変位され、検出用圧電膜22a,22bそれぞれの上部電極膜23と下部電極膜25との間に電圧を発生する。上部電極膜23と下部電極膜25との間に発生した電圧を検出電圧Vppとして検出することにより、駆動用圧電膜21a,21bに印加する駆動信号をフィードバック制御できる。
【0036】
一般に、圧電膜の圧電効果を利用して、駆動、検出を行う光走査素子において、大きな走査角を得るために大きな振幅でアームを駆動すると、検出用の圧電膜も大きく変位することになる。このとき、駆動用圧電膜に印加される駆動信号の周波数が、低周波数側から共振周波数に近づく場合と、高周波数側から共振周波数に近づく場合で、共振周波数近傍における検出信号Vpp(ミラーの振れ角に対応)は、同一にならず、駆動信号の周波数と、検出電圧Vppとの関係には、図2に示すように大きなヒステリシスが発生する。
【0037】
本発明の実施の形態に係る光走査素子1は、アーム部12a,12bの検出側の振幅が、駆動側の振幅より小さく、大きな振幅でアーム部12a,12bを駆動しても、検出用圧電膜22a,22bは、ヒステリシスを生じない小さな振幅でしか駆動されなくなる。よって、駆動信号の周波数と、検出電圧Vppとの関係には、図3に示すように、ヒステリシスが発生せず、安定した駆動制御が可能となる。
【0038】
本発明の実施の形態に係る光走査素子1は、アーム部12a,12bの検出側の振幅が、駆動側の振幅より小さいので、梁部13a、13bの振幅も、検出側の端部の振幅が、駆動側の端部の振幅より小さくなる。
【0039】
仮に、梁部13a,13bが、ミラー部14のY軸方向に沿う中心線上に設けられ、L5=L6の場合、図4に示すように、揺動の回転軸Oは、ミラー部14の中心よりも検出側(図4における右側)となってしまい、ミラー部14の駆動側の端部の振幅α1は、ミラー部14の検出側の端部の振幅α2より大きくなってしまう。
【0040】
本発明の実施の形態に係る光走査素子1は、図1、図5に示すように、梁部13a,13bが、ミラー部14のY軸方向に平行な中心線よりも駆動側においてミラー部14にそれぞれ連結するので、揺動の回転軸Oが、ミラー部14の中心部に位置していおり、ミラー部14の駆動側の端部の振幅β1は、ミラー部14の検出側の端部の振幅β2と等しい。
【0041】
β1=β2とするためには、所望の走査角と、アーム部12a,12bの検出側のザグリ幅、駆動側のザグリ幅とを考慮して、ミラー部14と梁部13a,13bとの連結位置を決定すればよい。例えば、ミラー部14の振れによる走査角が約±5°程度の場合、L6−L5は、約0〜30μm程度とすることができる。例えば、走査角が約30μm程度の場合、L6−L5は、約50〜150μm程度とすることができる。
【0042】
本発明の実施の形態に係る光走査素子1は、他の駆動方式に比して消費電力が小さな圧電駆動方式であり、電磁駆動方式のように製造工程が複雑になることなく、静電駆動方式のように駆動力が不足することなく、検出側のアーム部の振れを抑えることにより、共振周波数近傍でのヒステリシスを抑制でき、安定した制御が可能である。
【0043】
(光走査素子の製造方法)
図1、図6〜図11を参照して、本発明の実施の形態に係る光走査素子1の製造方法を説明する。なお、以下に述べる光走査素子1の製造方法は、一例であり、これ以外の種々の方法により光走査素子1を製造可能であることは勿論である。
【0044】
先ず、図6に示すように、シリコン層311、埋込絶縁層312、支持基板313からなるSOI基板31の上面、下面に、それぞれ絶縁層32,33を形成する。絶縁層32,33は、例えば、熱酸化法によりSOI基板31の両面にシリコン酸化膜(SiO)により形成できる。絶縁層32,33は、化学気相成長(CVD)法により形成されても良く、絶縁膜を塗布することにより形成されても良い。シリコン酸化膜等からなる埋込絶縁層312は、後工程においてエッチングストッパとして用いられ、例えば、厚さが約1μm程度である。SOI基板31の支持基板313は、光走査素子1の各部を保持するのに必要な膜厚を有しており、例えば厚さが約500μm程度である。
【0045】
次に、図7に示すように、フォトリソグラフィ法によりパターン形成された、キャビティ部30を形成するためのフォトレジスト膜34をマスクとし、絶縁層33をエッチングしてパターン形成する。絶縁層33をパターン形成した後、フォトレジスト膜34を除去する。
【0046】
次に、図8に示すように、パターン形成された絶縁層33をマスクとし、支持基板313をウェットエッチングして、キャビティ部30を形成する。ウェットエッチングは、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化カリウム(KOH)等を用いた異方性ウェットエッチングを採用可能である。この為、絶縁層33は、TMAH、KOH等に耐性がある。なお、キャビティ部30の形成に際して、フォトレジストを用いたドライエッチングを行う場合、絶縁層33は製造工程において不要である。
【0047】
キャビティ部30は、図8に示すように、支持基板313の<100>面に沿ったエッチングにより形成されるので、エッチング深さが深くなるにつれてパターンが小さくなることを考慮してパターン形成される必要がある。エッチングは、埋込絶縁層312に達するまで行う。
【0048】
次に、図9に示すように、埋込絶縁層312の露出部分と、マスクとして使用した絶縁層33を除去する。埋込絶縁層312及び絶縁層33の除去はドライエッチングが好ましい。フッ酸(HF)系のエッチング液を用いたウェットエッチングを行うと、シリコン層311と支持基板313との間に、埋込絶縁層312の等方性エッチングが進み、アーム部12a,12b等の設計が困難となる。
【0049】
次に、図10に示すように、SOI基板31の上面に、下部電極膜25となる下部電極層及び配向層、圧電体膜24、上部電極膜23となる密着層及び上部電極層を、それぞれ所望の厚さとなるように順に積層する。
【0050】
次に、図11に示すように、上部電極膜23、圧電体膜24、下部電極膜25をエッチングによりパターン形成し、圧電膜21,22を形成する。説明の簡略化のため図示を省略しているが、圧電膜21,22それぞれの上部電極膜23、下部電極膜25は、外部への配線がそれぞれ引き出されている。圧電膜21,22の形成は、イオンミリング法等により行われる。
【0051】
次に、図1に示すように、アーム部12a,12b、梁部13a,13b、ミラー部14となる領域を残して、SOI基板31の上層部(32,311)の窓部10となる領域を、エッチングにより上面から下面へ貫通させて、アーム部12a,12b、梁部13a,13b、ミラー部14が形成され、光走査素子1が完成する。
【0052】
通常、MEMS作製プロセスにおいて、シリコンウェハの両面にフォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターン形成を行う場合、両面のパターン確認が同時にできて、それぞれの位置関係を確認できる両面アライナー露光装置や、両面アライメントステッパ露光装置などが使用される。これらの装置で、ミラー部14と、梁部13a,13bとの連結部のように、ミラー部14の中心からずらしたパターンを形成する方法として、正確にミラー部14の中心部を中心とする対称な位置にアライメントするフォトリソグラフィ用マークを基準にして、露光時に必要となるずらし幅を補正値として入力すればよい。
【0053】
以上のように、簡便なプロセスによって、ヒステリシスの発生を抑えた、圧電駆動方式の光走査素子を作製することが可能となる。
【0054】
(応用例)
図12に示すように、本発明の実施の形態の応用例に係る光走査素子1Aは、本発明の実施の形態に係る光走査素子1と、光走査素子1がY軸方向の揺動可能なように支持する一対の梁部13Aa,13Abと、梁部13Aa,13Abをそれぞれ支持し、それぞれ駆動されることにより光走査素子1をY軸方向に揺動させる一対のアーム部12Aa,12Abと、アーム部12Aa,12Abを支持する外側フレーム部11Aと、アーム部12Aa,12AbのY軸方向における一端側にそれぞれ設けられ、変位することによりアーム部12Aa,12Abをそれぞれ駆動する駆動用圧電膜21Aa,21Abと、アーム部12Aa,12AbのY軸方向における他端側にそれぞれ設けられ、変位されることによりアーム部12Aa,12Abの駆動をそれぞれ検出する検出用圧電膜22Aa,22Abとを備える。
【0055】
光走査素子1Aは、光走査素子1をY軸方向に揺動可能に支持することにより、ミラー部14がX軸方向、Y軸方向の2軸方向に揺動し、光ビームを反射して2軸方向の走査をすることができる。
【0056】
本発明の実施の形態の応用例に係る光走査素子1Aを、光走査素子1と同様の構成として例示したが、例えば、光走査素子1を揺動可能に支持する梁部13Aa,13Abは、樹脂シート、ワイヤ等、他の支持部材であって良い。また、アーム部12Aa,12Abを駆動することにより光走査素子1をY軸方向に揺動させる駆動用圧電膜21Aa,21Abは、コイル、磁石を用いた電磁アクチュエータや、電極間の静電気力を用いた静電アクチュエータ等の他のアクチュエータであっても良い。
【0057】
(画像表示装置)
以下、本発明の実施の形態の応用例に係る光走査素子1Aを用いて、スクリーンに画像を表示できる画像表示装置5について説明する。画像表示装置5は、図13に示すように、画像Qの情報である画像情報を示す画像信号に応じて輝度が変調され、光源55から出射されたレーザ光Lを、光走査素子1Aが反射してスクリーンPを走査し、スクリーンP上に画像Qを表示する。
【0058】
図14に示すように、画像表示装置5の制御部50は、画像信号52を入力し、画像信号に含まれる色情報に応じて、光源ドライバ回路54を介して、光源55を駆動する。光源ドライバ回路54は、R光源ドライバ回路54Rと、G光源ドライバ回路54Gと、B光源ドライバ回路54Bとから構成され、それぞれを制御する制御信号を、制御部50からそれぞれ入力する。光源55は、赤色レーザ光を出射するR光源55Rと、緑色レーザ光を出射するG光源55Gと、青色レーザ光を出射するB光源55Bとから構成される。R光源55R、G光源55G、B光源55Bは、R光源ドライバ回路54R、G光源ドライバ回路54G、B光源ドライバ回路54Bがそれぞれ制御部50から入力した制御信号に応じてそれぞれ出力する駆動信号を、それぞれ入力し、駆動信号に応じてそれぞれ変調されたレーザ光を出射する。
【0059】
R光源55R、G光源55G、B光源55Bがそれぞれ出射したレーザ光は、ダイクロイックミラー、ダイクロイックプリズム等の光学素子56を介して、ミラー57において反射し、レンズ58を通過して光走査素子1のミラー部14に入射する。
【0060】
制御部50は、駆動用圧電膜21,21Aにスキャン同期信号53を印加して、ミラー部14がX軸方向(水平方向)及びY軸(垂直方向)の2軸方向の走査を行うように、ミラー部14を駆動する。
【0061】
例えば、駆動用圧電膜21a,21bは、制御部50からX軸スキャン同期信号53Xを印加され、アーム部12a,12bを駆動する。検出用圧電膜22a,22bは、アーム部12a,12bの駆動による応力歪みが生じ、この応力歪みに生じた電圧を発生する。
【0062】
同様に、駆動用圧電膜21Aa,21Abは、制御部50からY軸スキャン同期信号53Yを印加され、アーム部12Aa,12Abを駆動する。検出用圧電膜22Aa,22Abは、アーム部12Aa,12Abの駆動による応力歪みが生じ、この応力歪みに生じた電圧を発生する。
【0063】
検出用圧電膜22a,22b、検出用圧電膜22Aa,22Abにそれぞれ生じた電圧は、駆動検出部22によりそれぞれ検出され、圧電膜駆動信号51として制御部50に入力される。制御部50は、圧電膜駆動信号51に応じて、検出用圧電膜22a,22b、検出用圧電膜22Aa,22Abにそれぞれ生じた電圧の、それぞれ180°反転した逆位相となるようなX軸スキャン同期信号53X及びY軸スキャン同期信号53Yをそれぞれ出力する。制御部50は、このようなフィードバック制御を行うことにより、光走査素子1を、常に2軸方向それぞれの共振周波数で駆動することができる。
【0064】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0065】
既に述べた実施の形態においては、画像表示装置は、1軸方向の走査を行う光走査素子を2つ用いて、画像の走査を行うようにしても良い。すなわち、本発明のその他の実施に係る画像表示装置5Bは、図15に示すように、画像Qの情報である画像情報を示す画像信号に応じて、制御部50Bにより輝度が変調され、光源55から出射されたレーザ光Lを、X軸方向の走査を行う光走査素子1が反射して、Y軸方向の走査を行う光走査素子1Bが、光走査素子1からの反射光をスクリーンPに反射することにより、2軸方向の走査をして、スクリーンP上に画像Qを表示する。図14に示す画像表示装置5の制御部50と同様に、光走査素子1、光走査素子1Bの駆動制御も、制御部50Bが行えば良い。
【0066】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B…光走査素子
5,5B…画像表示装置
10…窓部
11…フレーム部
11A…外側フレーム部
12Aa,12Ab…アーム部
12a,12b…アーム部
13a,13b…梁部
14…ミラー部
21a,21b,21Aa,21Ab…駆動用圧電膜
22a,22b,22Aa,22Ab…検出用圧電膜
23…上部電極膜
24…圧電体膜
25…下部電極膜
30…キャビティ部
31…SOI基板
32,33…絶縁層
34…フォトレジスト膜
50,50B…制御部
51…圧電膜駆動信号
52…画像信号
53…スキャン同期信号
54…光源ドライバ回路
55…光源
56…光学素子
57…ミラー
58…レンズ
311…シリコン層
312…埋込絶縁層
313…支持基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射するミラー部と、
前記ミラー部が第1の方向の揺動可能なように、前記ミラー部を支持する梁部と、
前記梁部を支持し、駆動されることにより前記ミラー部を前記第1の方向に揺動させるアーム部と、
前記アーム部を支持するフレーム部と、
前記アーム部の前記第1の方向における一端側に設けられ、変位することにより前記アーム部を駆動する駆動用圧電膜と、
前記アーム部の前記第1の方向における他端側に設けられ、変位されることにより前記アーム部の駆動を検出する検出用圧電膜とを備え、
駆動による前記アーム部の前記他端側の振幅が、前記一端側の振幅より小さいことを特徴とする光走査素子。
【請求項2】
前記梁部は、前記ミラー部の前記第1の方向における中点よりも前記一端側の位置において、前記ミラー部を支持し、
前記フレーム部は、上面から下面へ貫通する矩形の窓部を有する枠型形状であり、下面から上層部の下面に達するまで前記窓部よりも広く開口するキャビティ部を有し、
前記アーム部は、両端を、前記窓部の対向する2辺においてそれぞれ前記上層部に連結されることにより、前記フレーム部に支持され、
前記窓部の前記他端側の辺と、前記梁部との間の距離が、前記窓部の前記一端側の辺と、前記梁部との間の距離以上であり、
前記上層部の下面において、前記他端側の前記窓部の辺と、前記他端側の前記キャビティ部の端部との間の距離が、前記一端側の前記窓部の辺と、前記一端側の前記キャビティ部の端部との間の距離より大きいことを特徴とする請求項1に記載の光走査素子。
【請求項3】
前記フレーム部が前記第1の方向と直交する第2の方向の揺動可能なように、前記フレーム部を支持する外側フレーム部を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光走査素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光走査素子と、
前記ミラー部に光を出射する光源と、
前記光源が出射する光の輝度を、画像情報に応じて変調するように制御する制御部と
を備えることを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−163792(P2012−163792A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24532(P2011−24532)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】