説明

光通信システム

【課題】視認による安全性が確保でき、かつ、高い結合効率を有する高速伝送システムを提供すること。
【解決手段】本発明に係る光通信システムは、屈折率がグレーデットインデックス型をしたガラス製の第1のコア101aと、第1のコア101aよりも屈折率が小さいガラス製の第2のコア101bと、第1及び第2のコア101a、101bを包むプラスチック製のクラッド101cと、を備えた光ファイバ101と、第1のコア101aを伝搬する波長850nm以上の赤外レーザ光を発振する面発光レーザ102と、第2のコア101bを伝播する波長780nm以下の可視光を発光し、かつ、面発光レーザ102と一体化して形成された発光ダイオード103と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信や光インターコネクションの分野で用いられる光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光ファイバ(POF:Plastic Optical Fiber)を用いた光伝送システムが、家庭用の音声信号の伝送や車内のマルチメディア信号の伝送、工場内の装置間内のデータ伝送等に幅広く使われている。光通信は電気通信と比べノイズ耐性が強いことや電線からファイバにすることでの軽量化が可能などの利点を有している。このような通信システムでは、主にアクリル系の樹脂のファイバを用いており、吸収のもっとも少ない赤色の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)が主に使われてきていた。
【0003】
近年、家庭内のデジタル機器、例えばパソコン、デジタル放送用のテレビやレコーダなどの普及により、家庭内でも高速なデジタル伝送を行う機会が増えてきている。また、自動車などの交通機関においても、安全や環境対策のための制御機器が増加し、高速な伝送手段が求められている。しかし、発光ダイオードは、レゾナントキャビティ型の発光ダイオードなどの高速なタイプでも1Gbpsを超えるような高速動作が困難であり、またPOFは、損失が大きく高速伝送には適していない。
【0004】
このような高速な光伝送に適しているのが、ガラスファイバコアの伝送路と半導体レーザを用いた光通信システムである。このような光通信システムは主に、長距離・大容量化が可能なことから業務用通信システムとしてすでに幅広く応用されている。中でも比較的短距離(100m以下)の通信に適しているのが、面発光レーザとマルチモードファイバを用いた光通信システムである。この方式は、すでに高速な通信が必要とされている業務用の短距離データコム用途に使われている。このような近距離通信には、小型、低消費電力である面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)が適している。すでに10Gbps程度の高速動作が可能である。
【0005】
ところで、デジタル情報は複製しても劣化しないため、著作権保護の観点から、画像伝送では複製を禁止するための暗号化処理が必要である。安全に暗号化するには、送受それぞれのインターフェースに信頼関係を構築するため、双方向通信とする必要がある。このようなインターフェースは、すでにテレビとレコーダ間の接続等に幅広く使われているが、双方向通信が簡易な電気配線を使うものが多かった。しかし、高精細化に伴う伝送帯域の拡大に伴い、光配線化が求められている。そのようなデジタル動画伝送用の双方向通信の一例が、特許文献1に開示されている。
【0006】
動画伝送には、画像データだけではなく、音声やアスペクト比などの制御信号、接続しているかどうか検出するホットプラグ検出、受信側のコントローラ電源供給などが必要とされている。それぞれの信号は、伝送速度や伝送品質などが異なる。電気ケーブルを用いたインターフェースでは、画像データは、3原色(RGB)に分解されて送信され、また、クロックもそれぞれ別に送信されている。一方、光配線を用いたものでもそれぞれパラレルに送信するか、特許文献1に記載したように画像データのみシリアル化して送信するものがある。
【0007】
また、画像伝送以外にも例えば車載用途等を考えると、低速の制御信号と高速なマルチメディア信号を一度に伝送させることなどの用途が考えられる。これらのマルチメディア信号と制御信号には、求められる信頼性が異なる。
【0008】
画像データや音声データで構成されるマルチメディア信号では、誤り訂正符号を用いる必要がなく、データの伝送の確実性も必要がない。マルチメディア信号のわずかな誤りは、人が認識できないからである。一方、制御信号などの場合、1ビットでも誤りが許されない。そのため、リードソロモン符号を用いた誤り訂正や、データが届いていない場合の再送処理などが必要となる。このような信頼度の異なる信号をシリアル化して一度に送信するシステムでは、信頼度の必要のない信号まで信頼性のある送信形態をとることになる。
【0009】
このようなシステムの方法として、レーザ変調光と発光ダイオード変調光を並列に送信する方法が考えられる。しかしながら、レーザ変調光と発光ダイオード変調光の伝送に別々のファイバを使用すると、コネクタ部が大きくなるなどの課題がある。さらに、伝送システムが高価になり、消費電力も増加する。
【0010】
そのため、特許文献2や特許文献3では、レーザ変調光と発光ダイオード変調光を同時に送信する方法が提案されている。この特許文献2及び3に記載のシステムでは、同じ赤色の波長を持つ発光ダイオードと半導体レーザを使用している。ダブルコア化し、内側にはレーザ光源を外側には発光ダイオードを使用し、伝送させている。このシステムには、POFとの互換性を維持できるという利点がある。
【特許文献1】特開2005−65034号公報
【特許文献2】特開2006−64766号公報
【特許文献3】特開2001−166172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2及び3に記載のシステムでは、1Gbpsを超える伝送速度を達成する上での課題も多い。POFは、赤色領域で最も損失が小さく、それ以外の波長では損失が極めて大きくなる。そのため、赤色の光源が使用される。この場合、レーザ光と発光ダイオードとが同じ波長になるため、それぞれの波長の信号のクロストークが問題となる。
【0012】
さらに、赤色のレーザ光は、網膜に与えるダメージが大きく、アイセーフ化するために、光出力を小さくする必要がある。また、例え赤色を用いたとしてもPOFによる損失が大きいため、受信側に到達できる光出力が極めて弱くなる。光出力が弱いと、よりクロストークに弱くなる上、SN比が劣化するので、高速通信を安定して行うことができない。また、ガラスファイバを用いたとしても、可視光領域は、損失が大きく、さらに波長分散も大きい。そのため、多モード発振状態で使用することが多いレーザ光源のスペクトル幅も狭くしなければならないという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、視認による安全性が確保でき、かつ、高い結合効率を有する高速伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る光通信システムは、
屈折率がグレーデットインデックス型をしたガラス製の第1のコアと、前記第1のコアよりも屈折率が小さいガラス製の第2のコアと、前記第1及び第2のコアを包むプラスチック製のクラッドと、を備えた光ファイバと、
前記第1のコアを伝搬する波長850nm以上の赤外レーザ光を発振する面発光レーザと、
前記第2のコアを伝播する波長780nm以下の可視光を発光し、かつ、前記面発光レーザと一体化して形成された発光ダイオードと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、視認による安全性が確保でき、かつ、高い結合効率を有する高速伝送システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1
以下に、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るダブルコアファイバを用いた光通信システムを説明する。図1(a)は、光通信システムを示す模式的断面図である。図1(b)は、当該光通信システムを構成するダブルコア光ファイバ101の横断面図である。なお、図1(a)では、ダブルコア光ファイバ101の縦断面図が示されている。この光通信システムは、高速送信データと低速送信データを同時に一本のファイバで伝送させるシステムである。この通信システムは、ダブルコア光ファイバ101、赤外面発光レーザ(VCSEL)102、可視発光ダイオード(LED)103、ヒートシンク104、高速光信号用半導体受光素子(PD)105、低速光信号用半導体受光素子(PD)106を備える。
【0017】
本発明に係る通信システムでは、高速信号用光源である赤外VCSEL102と低速信号用光源である可視LED103とを集積し、1本のダブルコア光ファイバ101により伝送する。それぞれ、複数必要であった光源、ファイバを一つにまとめることで低コスト化が可能であり、結合効率を向上することも可能である。
【0018】
図1に示すように、低速信号には可視LED103を、高速信号には赤外VCSEL102を使用する。可視LED103を使用することにより、信号が出ているかどうかを視認できる上、赤色LEDとPOFを用いた現行のシステムとの互換性を有する。視認可能であるため、信号が出ているかどうかの判断が即時にでき、異常や故障の判断などが容易になる。また、これらの光通信システムを組み込む装置、例えば車などの組み立て時に信号が出ているかどうかが特別な装置なしで瞬時に判断でき、生産性の向上が期待できる。また、故障時や破損時の修理作業の効率の向上なども期待できる。
【0019】
高速な光伝送には、変調速度の制限からLEDではなく、半導体レーザを用いる必要がある。ここでは、高速な信号として1Gbps以上を想定している。特に、赤外線の半導体レーザは、高速動作に適し、光通信等の実績から信頼性にも優れている。その上、長波長であるほど、人間の目に直接は入った場合のダメージが少ない。さらに、高速な光伝送には、低速用途に比べて高出力化が求められていることや、波長が短い方が光電気の変換効率が悪化することなどを考慮すると、可視でなく赤外のレーザを用いるのが望ましい。
【0020】
半導体レーザの中でも、本発明に係る赤外VCSEL102は、低消費電力動作が可能で、高速変調にも適している。その波長としては、人間の目に影響が少なく、VCSELの製造に適している850〜1600nmがよい。波長850nm未満では、共振器を形成しているDBRの組成が制限され、高い反射率が得難くなり、VCSELの効率や帯域が落ちてしまう。一方、波長1600nmを越えると、発光素子、受光素子ともに作製が難しい。また、波長850〜1310nmがさらに望ましい。この波長帯であれば、GaAs基板上に高性能なVCSEL102を容易に作製できる。
【0021】
可視LED103には、人間の目で視認でき、また、赤外VCSEL102との信号分離には波長差をつける必要がある。そのため、波長400〜780nmのものが適している。400nm未満では、紫外光となり視認できない上、プラスチッククラッドやガラス等による損失が増える。低速信号を伝送するLEDと高速信号を伝送する半導体レーザの波長差を大きくすれば、それを実現する素子の集積化が容易になる。また、信号のクロストークなどの干渉を抑えられ、安定した通信が可能になる。
【0022】
低速信号に関しては、双方向通信とすることで、高速信号の変調状態の制御や高速な信号源を持つ機器のコントロールなどに応用できる。また、さらに安全のために、高速な信号の受信側から送信側への信号をホットプラグ検出として利用する。ホットプラグ検出がされない場合、送信側のレーザ出射を止め、より安全にすることができる。その上、送信側のLSIや受信側のLSIの電源をオフにすることで、低消費電力化も可能である。
【0023】
さらに、ヒートシンク104上に赤外VCSEL102と可視LED103とをファイバ方向に集積すなわち一体化して形成することで、結合効率を大幅に向上することができる。この場合、ダブルコアのファイバの大きさ・構成に自由度をもたせることができる。
【0024】
ファイバ101の受光側には、Siヒートシンクを兼ねる第1のフォトダイオード105上に、第2のフォトダイオード106を集積する。これにより、赤外レーザ光の信号を第2のフォトダイオード106で、LED信号を第1のフォトダイオード105で受信することができる。
【0025】
ダブルコア光ファイバ101は、グレーデットインデックス(GI:Graded Index)型の第1のコア101a、ステップインデックス(SI:Step Index)型の第2のコア101b、例えばフッ化アクリレート樹脂からなるプラスチック製クラッド101cを備える。屈折率は、高い方から順に第1のコア101a、第2のコア101b、プラスチック製クラッド101cとなっている。
【0026】
レーザ変調光は、第1のコア101aと第2のコア101bとに屈折率差があるので、第1のコア101a中を伝搬させることができる。LED光は、硬質プラスチック製クラッド101cよりも第1のコア101aと第2のコア101bの方が、屈折率が高いので、この中に光を閉じ込めて伝搬することができる。第1のコア101aには、ゲルマニウムを適量添加することで屈折率を第2のコア101bよりも高めている。また、第1のコア101aの屈折率の形状は、最もモード帯域が高くなるように、ほぼ放物線関数(2乗)としている。
【0027】
第1のコア101aの直径は、10G以上の高速な信号を通す必要がある場合には、広帯域なモード帯域をえられるために50μmとする。また、1G程度の速度の場合には実装容易性などを考慮して、120μm程度とするのが望ましい。第2のコア101bは、第1のコア101aよりも大きくする必要があるので少なくとも市販されているハードプラスチッククラッドと同じ200μm程度とする。高速伝送をつかさどる光素子との実装上の問題があれば400μm程度に広げても問題はない。広くし過ぎると一本のプリフォームといわれるファイバの加工元からのとれる長さが短くなってしまうので、せいぜい400μm程度にとどめておくのが経済性の観点から望ましい。
【0028】
受信側では、大口径のシリコン製の低速光信号用PD106の中心に、小口径のGaAs製の高速光信号用PD105を置けばよい。高速光信号用PD105はできるだけ小さく加工し、低速光信号用PD106上にフリップチップ実装する。高速な変調光は、第1のコア101aを伝搬してくるので、モードフィールド径が小さく、小さく集光することができる。この集光した光を高速光信号用PD105で受けて電気信号に変換する。この高速光信号用PD105には、LED103の光を電気信号に変換しないように、フィルタ層を設けておく。具体的には、半導体組成の禁制帯幅が、850nmと650nmの中間の組成にすることで、そのフィルタ層で吸収させることができる。また、この高速光信号用PD105を第2のコア101bの直径よりも十分に小さくすることで、低速光信号用PD106に第2のコア101bを伝搬してきた光を入射させて、LED103の変調信号を電気信号に復元することができる。
【0029】
光通信システムに用いる半導体素子は、図2に示すように、第1の基板201上に下部コンタクト層202、第1の下部電極203、第1の下部クラッド層204、第1の発光層205、第1の上部クラッド層206、上部コンタクト層207、第1の上部電極208を順次積層されたLED103を備える。また、このLED103上に、第2の基板209、下部反射鏡構造210、第2の下部電極211、第2の下部クラッド層212、第2の発光層213、第2の上部クラッド層214、酸化電流狭窄部形成層215、上部反射鏡構造216、第2の上部電極217を順次積層したVCSEL102を備える。ここで、VCSEL102とLED103とが、それぞれ独立した電極により電流注入されるため、VCSEL102を高速通信用とし、LED103を低速通信用とすることができる。
【0030】
本実施の形態では、第1の基板201上に形成された第1の発光層205を有するLED103上に、第2の発光層213を有する裏面出射型VCSEL102が貼付されている。ここで、LED103を構成する材料のバンドギャップが、VCSEL102を構成する材料のバンドギャップより大きいと、光の吸収を効果的に抑制することができ、好ましい。例えば、発光層205をGaN基板201上に成長したInGaN/GaNからなる重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)を有する第1の発光層205を備えたLED103を作製する。その上部にInGaAs/GaAsからなるMQWやGaAs/AlGaAsからなるMQWを有する第2の発光層213を備えた裏面出射型VCSEL102を貼付する。その場合、LED103からは波長405nm程度の青色可視光が出射され、VCSEL102からは1.1μm帯や0.85μm帯の赤外レーザ光が出射される。
【0031】
また、図2に示すように、VCSEL102の出射側にLED103を配置するのが好ましい。このような構成により、VCSEL102から出射される光とLED103から出射される光とを同軸にすることができる。ここで、LED103を構成している各層のバンドギャップは、波長1.1μm帯や0.85μm帯に比べて大きくすると、VCSEL102から出射される光の吸収が発生せず、好ましい。また、VCSEL102の下部を、熱伝導率の高いGaN系材料により構成すると、放熱性にも優れ、好ましい。
【0032】
本発明の第1の効果は、高速伝送と低速伝送とを複雑な信号処理なしに、高い結合効率で伝送できることである。第2の効果は、高速な光伝送も可能なシステムでありながら、低速信号にLEDを用いることで、信号の有無が視認できることである。第3の効果は、低速信号の双方向通信により、暗号データの送受やホットプラグ検出などもできることである。第4の効果は、自動車などの応用面は、事故などによる破損から修理する場合、視認可能な信号を用いることで、信号の破損箇所を容易に診断できることなどである。
【0033】
次に、図2の半導体素子の製造方法を説明する。
まず、第1の基板201上に、下部コンタクト層202、第1の下部クラッド層204、第1の発光層205、第1の上部クラッド層206、上部コンタクト層207を有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法もしくは分子線エピタキシー成長(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法により順次積層する(工程1)。
【0034】
次に、所望の形状のエッチングマスクを形成する。これは例えば、円形形状のエッチングマスクや楕円型などの所望の柱状で良いし、長方形などにしてもよい。次いで、エッチング工程により、下部コンタクト層202の表面が露出するまでエッチングを行い、メサを形成する(工程2)。
【0035】
次に、蒸着工程とリフトオフ工程を施すことで、第1の下部電極203を下部コンタクト層202の上面に、第1の上部電極208を上部コンタクト層207の上面に形成する(工程3)。以上により、第1の基板201上に、LED103が形成される。
【0036】
一方、第2の基板209上に、屈折率の異なる2つの材料を一対の基本単位として複数積層した下部反射鏡構造210、第2の下部クラッド層212、第2の発光層213、第2の上部クラッド層214、酸化電流狭窄部形成層215、屈折率の異なる2つの材料を一対の基本単位として複数積層した上部反射鏡構造216を有機金属気相成長(MOCVD)法もしくは分子線エピタキシー成長(MBE)法により順次積層する(工程4)。
【0037】
各々の反射鏡では、高屈折率層と低屈折率層のそれぞれの膜厚は、これら媒質内の各々の光路長が発振波長のほぼ1/4になるように設定する。又は、高屈折率層の厚みと低屈折率層の厚みの合計の膜厚を、光路長が発振波長の1/2となるように設定してもよい。
【0038】
次に、上部反射鏡構造216上に円形など所望の形状のエッチングマスクを形成する。このエッチングマスクの形状は、酸化電流狭窄部形成層の非酸化領域の形状に影響し、それが出力光の断面形状を決定する。必要に応じて楕円型などの所望の断面形状をもつ出力光を出射するようにしてもよい。このためには、例えば、円形形状のエッチングマスクを、楕円型などの所望の柱状に形成すればよい。次いで、エッチング工程により、下部反射鏡構造210の表面が露出するまでエッチングを行い、円柱状構造のメサを形成する(工程5)。
【0039】
次に、水蒸気雰囲気中の炉内において、酸化電流狭窄部形成層215が酸化される温度において、所望の非酸化領域が形成される時間加熱を行う(工程6)。これにより、酸化電流狭窄部形成層215が円環状に選択的に同時に酸化される。この酸化により、酸化電流狭窄部形成層215の中心部には所望の大きさの非酸化領域が形成される。この酸化電流狭窄部形成層215に形成された、酸化領域と非酸化領域からなる構成を電流狭窄部と称する。電流狭窄部は、電流を非酸化領域とほぼ同じ幅の活性層領域に集中して流すために設けている。
【0040】
次に、上部反射鏡構造216の上面の一部に第2の上部電極217を形成する(工程7)。まず、全面にフォトレジストを塗布した後、リソグラフィによりメサ上面中心部のフォトレジストのみを残す。次に、蒸着工程、スパッタ工程やメッキ工程などを施すことで、上部反射鏡構造216の上面に金属を形成し、フォトレジストを除去してリフトオフする。もちろん、上記金属形成の工程を複数実施することや、上記以外の金属形成方法の実施やアニール処理を加えることを行ってよい。
【0041】
続いて蒸着工程、スパッタ工程やメッキ工程などにより、第2の下部電極211を形成する(工程8)。もちろん、この金属形成も上記工程を複数実施することや、上記以外の金属形成方法の実施やアニール処理を加えることを行ってよい。以上により、第2の基板209上に、VCSEL102が形成される。
【0042】
最後に、第1の基板201上に形成されたLED103上に、第2の基板209上に形成されたVCSEL102を搭載し、接着する(工程9)。接着には、ワックスなどを用いてもよいし、あらかじめ金属を蒸着しておき、高温環境下で合金化してもよい。また、原子ビーム照射を用いた表面不純物の除去による表面活性化を利用して、常温接合を行ってもよい。あるいは、あらかじめポリイミド等の樹脂を塗布しておき、硬化させて接合することも可能である。
【0043】
次に、本ダブルコア光ファイバ101の製造方法について説明する。このダブルクラッドコアをもつファイバではあるが、構造的には、通常のグレーデットインデックスファイバに、ハードプラスチッククラッドを施したものに相当する。第1及び第2のコア101a、101bは、PCVD法で作製した光ファイバプリフォームを線引炉により線引し、紡糸することで作製することができる。その作製したグレーデットインデックスファイバにフッ化アクリレート樹脂性クラッド101cを被覆し、その外側に保護用の被覆を行って作製する。
【0044】
実施の形態2
上記実施の形態1において、光ファイバ101の断面における、第1のコア101aの外周を構成する円の中心と、第2のコア101bの外周を構成する円の中心とが一致していない構成とすることができる。そのための構成を、第2の実施の形態として図3に示す。図3(a)は、光通信システムを示す模式的断面図である。図3(b)は、当該光通信システムを構成するダブルコア光ファイバ101の横断面図である。なお、図3(a)では、ダブルコア光ファイバ101の縦断面図が示されている。本実施の形態2では、ダブルコアの光ファイバ101の大きさ・構成に自由度をもたせることができる。
【0045】
また、図4(a)に示すように、光源をファイバ軸方向に集積せずに、ファイバ軸方向に対して垂直な方向に配置しても、充分な結合効率を実現できる。図4(a)は、光通信システムを示す模式的断面図である。図4(b)は、当該光通信システムを構成するダブルコア光ファイバ101の横断面図である。なお、図4(a)では、ダブルコア光ファイバ101の縦断面図が示されている。これにより、赤外VCSEL102と可視LED103とを張り合わせるプロセスを削減できる。
【0046】
図4のような素子配置が可能な理由について説明する。まず、高速伝送用のVCSEL102は、その光が第1のコア101aの中心に直接入るように実装する必要がある。結合ずれによって伝送特性が悪化することがあることや、ファイバのNAが大きくできないので結合効率が悪化してしまうためである。一方、第2のコア101bを伝搬させるLED103の光は、ずれて入射しても伝送特性上も結合特性上も問題が生じない。そのため、VCSEL102を第1のコア101aの中心において、LED103は第2のコア101bの端に実装してもよい。
【0047】
実施の形態3
第3の実施の形態に係る光通信システムに用いる半導体素子は、図5に示すように、VCSEL202上に第3の下部クラッド層218、吸収層219、第3の下部電極220、第3の上部クラッド層221、第3の上部電極222が順次積層されてなる受光素子をさらに備える。レーザ光の出射方向の反対方向に受光素子を集積し、レーザ光の漏れ光を検知できている構成とすることができる。この場合、赤外レーザ光を変調した信号が出力されていない場合に可視LED103の信号を停止するような機構を設けることができ、視認による安全性の確保が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光通信システムの概念図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る光通信システムに用いる半導体素子の断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る光通信システムの概念図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る他の光通信システムの概念図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る光通信システムに用いる半導体素子の断面図である。
【符号の説明】
【0049】
101a 第1のコア
101b 第2のコア
101c プラスチック製クラッド
102 面発光レーザ(VCSEL)
103 発光ダイオード(LED)
104 ヒートシンク
105 高速光通信用フォトダイオード
106 低速光通信用フォトダイオード
201 第1の基板
202 下部コンタクト層
203 第1の下部電極
204 第1の下部クラッド層
205 第1の発光層
206 第1の上部クラッド層
207 上部コンタクト層
208 第1の上部電極
209 第2の基板
210 下部反射鏡構造
211 第2の下部電極
212 第2の下部クラッド層
213 第2の発光層
214 第2の上部クラッド層
215 酸化電流狭窄部形成層
216 上部反射鏡構造
217 第2の上部電極
218 第3の下部クラッド層
219 吸収層
220 第3の下部電極
221 第3の上部クラッド層
222 第3の上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率がグレーデットインデックス型をしたガラス製の第1のコアと、前記第1のコアよりも屈折率が小さいガラス製の第2のコアと、前記第1及び第2のコアを包むプラスチック製のクラッドと、を有する光ファイバと、
前記第1のコアを伝搬する波長850nm以上の赤外レーザ光を発振する面発光レーザと、
前記第2のコアを伝播する波長780nm以下の可視光を発光し、かつ、前記面発光レーザと一体化して形成された発光ダイオードと、を備えた光通信システム。
【請求項2】
前記光ファイバの断面において、前記第1のコアの外周を構成する円の中心と、前記第2のコアの外周を構成する円の中心とが一致していないことを特徴とする光ファイバを用いた請求項1に記載の光通信システム。
【請求項3】
前記面発光レーザと前記発光ダイオードとを、レーザ光の出射方向に対して垂直な方向に並べて配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の光通信システム。
【請求項4】
前記面発光レーザと前記発光ダイオードとを、レーザ光の出射方向に重ねて配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の光通信システム。
【請求項5】
前記発光ダイオードが、前記面発光レーザの出射側に形成され、前記面発光レーザが発光する光は、前記発光ダイオードを介して出射されることを特徴とする請求項4に記載の光通信システム。
【請求項6】
前記発光ダイオードを構成する材料の熱伝導率が、前記面発光レーザを構成する材料の熱伝導率よりも高いことを特徴とする請求項4に記載の光通信システム。
【請求項7】
前記発光ダイオードのバンドギャップが、前記面発光レーザのバンドギャップより大きいことを特徴とする請求項5又は6に記載の光通信システム。
【請求項8】
前記発光ダイオードがGaN基板上に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項9】
前記面発光レーザの出射方向反対側に受光部が形成され、当該受光部が受光した信号に基づいて前記発光ダイオードの動作を決定することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−28305(P2010−28305A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185027(P2008−185027)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】