説明

内燃機関の制御システム

【課題】状態量制御ユニットのメモリに対する給電が一時的に停止されるとき、給電再開後に生じる状態量制御の悪化、ひいてはこれに起因する機関運転の悪化を好適に抑制することを抑制することができる内燃機関の制御システムを提供する。
【解決手段】機関制御ユニット100は機関運転状態に基づき吸気バルブの最大リフト量の制御目標値を設定する。状態量制御ユニット60はメモリ61aを有し、モータ62を制御するとともに、最大リフト量の変更量を検出する。状態量制御ユニット60は記憶される検出値の値を変更量に基づいて更新し、機関制御ユニット100は更新される検出値の値を取り込みこれを設定される制御目標値の値と併せて記憶保持する。状態量制御ユニット60は、メモリ61aに対する給電が再開された後に機関制御ユニット100が記憶する検出値の値及び制御目標値の値の少なくとも一方に基づいてメモリ61aの記憶内容を初期化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載されるように、内燃機関の制御システムでは、機関制御ユニットにより燃料噴射量や燃料噴射圧等の内燃機関にかかる状態量の制御目標値Stを機関運転状態に基づいて設定するとともに、状態量制御ユニットによりこの制御目標値Stに基づいて状態量を制御するようにしている。具体的には、状態量制御ユニットにはバックアップ電源により給電される揮発性のメモリが備えられており、状態量の検出値Sがこのメモリに記憶される。状態量制御ユニットは、機関制御ユニットにより設定された制御目標値Stの値を受信し、その制御目標値Stの値と記憶される状態量の検出値Sの値との乖離が小さくなるようにアクチュエータを通じて状態量を変更する。また、状態量制御ユニットは、センサを通じて状態量の変更量ΔSを検出して記憶される検出値Sをその変更量ΔSに基づいて更新する。そして、この更新された検出値(S+ΔS)の値が機関制御ユニットに送信され、機関制御ユニットではこの検出値(S+ΔS)を取り込み、その他の状態量を設定するに際してこの取り込まれた検出値(S+ΔS)を用いるようにしている。
【特許文献1】特開2004−324416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、こうした状態量の制御が実行されている機関運転中に、状態量制御ユニットのメモリに対する給電が一時的に停止されてその記憶内容がクリアされると、その後に給電が再開されても状態量の検出値の値が不明であるため、上述した状態量の制御が実行不能になる。また例えば、給電再開時にメモリの記憶内容を予め定められた所定値に基づいて初期化することも考えられるが、このようにした場合には、仮に給電停止期間が極めて短いものであっても、メモリに記憶されている検出値の値とその実際の値との間に大きな乖離が生じてしまうことがある。その結果、給電再開後におきる状態量の制御の悪化、ひいて機関運転に支障をきたすようになるおそれがある。
【0004】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、状態量制御ユニットのメモリに対する給電が一時的に停止されるとき、給電再開後に生じる状態量制御の悪化、ひいてはこれに起因する機関運転状態の悪化を好適に抑制することのできる内燃機関の制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記目的を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、機関運転状態に基づき内燃機関の状態量についてその制御目標値を設定する機関制御ユニットと、前記状態量の検出値の値をバックアップ電源の給電により記憶保持するメモリを有し、該検出値の値と前記設定される制御目標値の値との乖離が小さくなるように前記状態量を変更するアクチュエータを制御するとともに、前記状態量の変更量を検出する状態量制御ユニットとを備え、該状態量制御ユニットは前記記憶される検出値の値を前記変更量に基づいて更新するものであり、前記機関制御ユニットは前記更新される検出値の値を取り込みこれを前記設定される制御目標値の値と併せて記憶保持する内燃機関の制御システムにおいて、前記状態量制御ユニットは機関運転中に前記メモリに対する給電が一時的に停止されてその記憶内容がクリアされたとき、その給電の再開後に、前記機関制御ユニットが記憶する前記検出値の値及び前記メモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値の少なくとも一方に基づいて前記メモリの記憶内容を初期化する初期化手段を備えることを特徴とする。
【0006】
同構成では、メモリに対する給電の再開後に、機関制御ユニットに記憶されている検出値の値及び給電停止直前に機関制御ユニットにより設定された制御目標値の値の少なくとも一方に基づいてメモリの初期化を行うようにしている。給電停止期間が一時的なごく短いものであれば、これら検出値の値や制御目標値の値と検出値の実際の値との乖離も小さなものとなる。従って、給電再開後において、不適切な状態量の制御を極力抑制しつつ、同制御を再開することができるようになる。
【0007】
また、こうした給電再開後の初期化は、機関制御ユニットに記憶されている検出値の値のみを用いて実行する、或いは検出値の値及びメモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値の平均値に基づいて初期化する等、それら検出値の値及び制御目標値の値の双方を用いて実行する他、請求項2に記載されるように、メモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値をメモリに書き込む、といった態様をもってこれ実行することもできる。
【0008】
また、このように給電が停止される直前に設定された制御目標値の値をメモリに書き込むことにより、その初期化を行うようにした場合は、請求項3に記載の発明によるように、メモリに対する給電が停止されている期間、機関制御ユニットにより制御目標値の値が機関運転状態に基づいて再設定されることを無効化し、その制御目標値の値をメモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値に保持するようにするのが好ましい。
【0009】
こうした構成を採用することにより、状態量制御ユニットが認識する状態量の検出値の値と制御目標値の値とが等しくなっている状態から状態量の制御が開始されるようになるため、これらが大きく乖離している状態で状態量の制御が開始される場合とは異なり、給電再開後において状態量が急激に変化することを抑制して同状態量にかかる制御の安定化を図ることができるようになる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御システムにおいて、前記メモリに対する給電が停止されたとき、前記メモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値を前記機関制御ユニットが記憶する前記検出値の値に置換する置換手段を更に備え、前記保持手段は前記制御目標値の値を前記置換手段により置換された値に保持することを特徴とする。
【0011】
同構成によれば、給電が停止される直前に設定された制御目標値の値を機関制御ユニットが記憶する検出値の値に置換するため、初期化手段はメモリの記憶内容を初期化するに際してメモリに対する給電が停止される直前の検出値の値を前記メモリに書き込むことになる。この検出値の値と状態量の実際の値との乖離は比較的小さなものであるため、その給電の再開後に状態量制御ユニットによってその精度を維持しつつ状態量を制御することができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御システムにおいて、前記状態量制御ユニットは前記内燃機関の状態量として機関バルブのバルブ特性を制御するものであることを特徴とする。
【0013】
同構成によれば、機関制御ユニットのメモリに対する給電再開後において、不適切な最大リフト量の制御を極力抑制しつつ、同制御を再開することができる。尚、機関バルブのバルブ特性には、機関バルブの開時期、閉時期、最大リフト量、開期間、及びリフトプロフィール、並びにこれらの組み合わせが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明にかかる実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。
図1及び図2に示されるように、車両に搭載される内燃機関は4つの気筒を有しており、そのシリンダヘッド2にはこれら気筒に対応した一対の吸気バルブ10と排気バルブ15とが往復動可能にそれぞれ設けられている。シリンダヘッド2には、それら吸気バルブ10と排気バルブ15とに対応して吸気弁駆動機構40と排気弁駆動機構45とがそれぞれ設けられている。
【0015】
排気弁駆動機構45には、各排気バルブ15に対応してラッシュアジャスタ17が設けられるとともに、このラッシュアジャスタ17と排気バルブ15との間にはロッカーアーム18が架設されている。ロッカーアーム18は、その一端がラッシュアジャスタ17に支持されるとともに他端が排気バルブ15の基端部に当接されている。また、シリンダヘッド2に回転可能に支持された排気カムシャフト7には複数のカム8が形成されており、それらカム8の外周面はロッカーアーム18に設けられたローラ18aに当接されている。排気バルブ15にはリテーナ15aが設けられるとともに、このリテーナ15aとシリンダヘッド2との間にはバルブスプリング16が設けられている。このバルブスプリング16の付勢力によって排気バルブ15は閉弁方向に付勢されている。そしてこれにより、ロッカーアーム18のローラ18aはカム8の外周面に押圧されている。機関運転時にカム8が回転すると、ロッカーアーム18はラッシュアジャスタ17により支持される部分を支点として揺動する。その結果、排気バルブ15はロッカーアーム18によって開閉駆動されるようになる。
【0016】
一方、吸気弁駆動機構40には、排気側と同様にバルブスプリング11、リテーナ10a、ロッカーアーム12、ローラ12a及びラッシュアジャスタ13が設けられている。また、シリンダヘッド2に回転可能に支持された吸気カムシャフト5には複数のカム6が形成されている。
【0017】
一方、吸気弁駆動機構40には、排気弁駆動機構45とは異なり、カム6とロッカーアーム12との間に仲介駆動機構20が設けられている。この仲介駆動機構20は入力部23と一対の出力部24とを有しており、これら入力部23及び出力部24はシリンダヘッド2に固定された支持パイプ22に揺動可能に支持されている。ロッカーアーム12は、吸気バルブ10の基端部及びラッシュアジャスタ13によって出力部24側に付勢されており、そのローラ12aが出力部24の外周面に当接されている。また、入力部23とシリンダヘッド2との間には、スプリング14が設けられており、このスプリング14の付勢力によって入力部23に設けられたローラ23bがカム6に付勢されている。
【0018】
機関運転時にカム6が回転すると、同カム6はローラ23bに摺接しつつ入力部23を押圧し、これにより出力部24が支持パイプ22の周方向に揺動するようになる。そして出力部24が揺動すると、ロッカーアーム12はラッシュアジャスタ13により支持される部分を支点として揺動する。その結果、吸気バルブ10はロッカーアーム12によって開閉駆動されるようになる。
【0019】
次に、図3を参照して仲介駆動機構20の構造について更に詳述する。尚、図3は仲介駆動機構20の破断斜視図である。
図3に示されるように、入力部23は各出力部24の間に設けられており、これら入力部23と出力部24との内部には略円筒状の連通空間が形成されている。また、入力部23の内周面にはヘリカルスプライン23aが形成されるとともに、出力部24の内周面にはこの入力部23のヘリカルスプライン23aと逆向きに傾斜するヘリカルスプライン24aが形成されている。
【0020】
入力部23と出力部24との内部に形成された空間には、略円筒状のスライダギア26が設けられている。このスライダギア26の外周面の中央部分には、入力部23のヘリカルスプライン23aに噛合するヘリカルスプライン26aが形成されるとともに、その外周面の両端部には出力部24のヘリカルスプライン24aに噛合するヘリカルスプライン26bが形成されている。
【0021】
また、この略円筒状のスライダギア26の内壁には、その円周方向に沿って延びる溝29が形成されており、この溝29にはブッシュ28が嵌合されている。尚、このブッシュ28は、溝29の伸びる方向に沿って同溝29の内周面を摺動することができるであるが、スライダギア26の軸方向における変位は規制されている。
【0022】
スライダギア26の内部に形成された貫通空間には、支持パイプ22が挿入されている。また、上記支持パイプ22には、その軸方向に沿って駆動可能なコントロールシャフト21が挿入されている。支持パイプ22の管壁にはその軸方向に延びる長孔22aが形成されている。また、スライダギア26とコントロールシャフト21との間には、長孔22aを通じてスライダギア26とコントロールシャフト21とを連結する係止ピン27が設けられている。この係止ピン27の一端がコントロールシャフト21に形成された凹部(図示略)に挿入されるとともに、他端がブッシュ28に形成された貫通孔28aに挿入されている。
【0023】
こうした仲介駆動機構20にあって、コントロールシャフト21がその軸方向に沿って変位すると、これに連動してスライダギア26が軸方向に変位する。スライダギア26の外周面に形成されたヘリカルスプライン26a、26bは、入力部23及び出力部24の内周面に形成されたヘリカルスプライン23a、24aとそれぞれ噛合っているため、スライダギア26がその軸方向に駆動すると、入力部23と出力部24とは逆の方向に回転する。その結果、入力部23と出力部24との相対位相差が変更され、吸気バルブ10の最大リフト量が変更される。
【0024】
次に、この仲介駆動機構20を通じて吸気バルブ10の最大リフト量を制御する制御システムについて、図2及び図4を併せ参照して説明する。ここで、図4はこの制御システムを示すブロック図である。同図に示されるように、状態量制御ユニット60は、車両のバッテリ(図示略)から給電される駆動ドライバ61、モータ62、位置センサ63及び変換機構64を備えて構成されている。
【0025】
コントロールシャフト21の基端部は、変換機構64を介してモータ62の出力軸に連結されている。この変換機構64は、モータ62の出力軸の回転運動をコントロールシャフト21の軸方向への直線運動に変換するためのものである。即ち、モータ62の出力軸を正・逆回転させると、その回転が変換機構64によってコントロールシャフト21の往復動に変換される。また、モータ62には、位置センサ63が設けられている。この位置センサ63は、モータ62のロータ(図示略)と一体回転する多極マグネットの磁気変化を利用してそのロータの回転位相変化に応じた信号を駆動ドライバ61に出力する。この駆動ドライバ61は、この出力信号に基づいてロータの回転位相変化、換言すれば吸気バルブ10の最大リフト量についてその変更量を検出する。尚、駆動ドライバ61は、揮発性のメモリ61aを備えており、このメモリ61aはバックアップ電源、具体的には車両のバッテリによって給電されている。このメモリ61aには、各種データや演算結果が記憶される。駆動ドライバ61は、メモリ61aに予め記憶された変更前における最大リフト量の検出値の値と制御目標値との乖離が小さくなるようにモータ62をフィードバック制御する。また、この駆動ドライバ61は、上記最大リフト量の変更量ΔS及びその変更前の検出値Siの値に基づいて変更後における最大リフト量の検出値Si+1の値を算出し、メモリ61aに記憶される検出値Siの値を変更後の検出値の値に更新する。更に、駆動ドライバ61は、その入出力ポート(図示略)がバス型の通信ネットワーク(以下、CANと称す)80のバスに接続されている。
【0026】
このCAN80には、内燃機関を統括的制御する機関制御ユニット100の入出力ポートが接続されている。機関制御ユニット100には、アクセルペダル(図示略)の開度を検出するアクセルセンサ70や、クランクシャフト(図示略)の回転位相を検出するクランク角センサ71等、機関の運転状態を検出するセンサが接続されている。機関制御ユニット100は、これら運転状態に基づいて吸気バルブ10の最大リフト量についての目標値、即ち状態量制御ユニット60の制御目標値を設定し、CAN80を通じてこの制御目標値を状態量制御ユニット60に送信する。状態量制御ユニット60は、この制御目標値を受信し、その制御目標値と検出値との乖離に基づきモータ62をフィードバック制御する。また、状態量制御ユニット60は、CAN80を通じてメモリ61aに記憶される検出値を更に機関制御ユニット100に送信する。機関制御ユニット100は各種データや演算結果を記憶するためのメモリ100aを備えており、このように状態量制御ユニットから送信される検出値をこのメモリ100aに記憶保持する。
【0027】
次に、駆動ドライバ61に対するバッテリの給電が停止されることにより、メモリ61aへの給電が一時的に停止されてメモリ61aの記憶内容がクリアされた場合における処理について、図5〜図7を参照して説明する。ここで、図5は状態量制御ユニット60により最大リフト量を制御する際の手順を示すフローチャートであり、図6は機関制御ユニット100により制御目標値を設定する際の手順を示すフローチャートである。また、図7は制御目標値と検出値との変化を示すタイミングチャートである。
【0028】
図5に示される一連の処理は、駆動ドライバ61により所定の制御周期をもって繰り返し実行される。尚、駆動ドライバ61に対するバッテリの給電が停止され、バックアップによるメモリ61aへの通電が停止される期間には、駆動ドライバ61による通信や駆動が不可状態になるため、この一連の処理はその実行自体が不能になる。
【0029】
この処理ではまず、今回の制御周期が給電停止直後の制御周期、即ち給電が再開されてから最初の制御周期であるか否かを判断する(S110)。今回の制御周期は給電が再開されてから最初の制御周期でない場合には、ステップS220に進み、機関制御ユニット100から送信された制御目標値を受信する。そして、この受信した制御目標値の値とメモリ61aに記憶されている検出値の値との乖離が小さくなるようにモータ62をフィードバック制御するとともに、位置センサ63を介してその最大リフト量の変動量を検出し(S230)、ステップS240に進む。ステップS240では、その変更量に基づいてメモリ61aに記憶されている検出値の値を更新する、即ち変更前の検出値に検出された変更量を加算し、その結果を新たな検出値の値としてメモリ61aに記憶する。そして、ステップS250に進み、その更新された最大リフト量の検出値を機関制御ユニット100に送信してこの処理を一旦終了する。
【0030】
一方、今回の制御周期は給電が再開されてから最初の制御周期である場合には、ステップS120に進み、機関制御ユニット100から送信された制御目標値の値を受信し、ステップS130に進む。ステップS130では、給電再開後の最大リフト量の制御目標値と検出値とを同一の値、即ち給電が再開される直後に受信された制御目標値の値によって初期化し、その初期化された制御目標値と検出値とをメモリ61aに記憶してこの処理を一旦終了する。
【0031】
次に、図6を参照して、制御目標値を設定する際の機関制御ユニット100の手順について説明する。同図6に示される一連の処理は、機関制御ユニット100により所定の制御周期をもって繰り返し実行される。この処理ではまず、CAN80を通じて状態量制御ユニット60と通信できるか否か、具体的にはこの処理とは別の処理を通じて設定される通信判定フラグが「オン」であるか否かを判断する(S300)。
【0032】
状態量制御ユニット60との通信が不能である場合には、その状態量制御ユニット60のメモリ61aへの通電が停止されている可能性がある旨判断し、ステップS500に進み、機関運転状態に基づく制御目標値の再設定を無効化する。ここで、その通信不能は、CAN80の接触不良等、他の故障に起因するものの他、状態量制御ユニット60の駆動ドライバ61に対するバッテリの給電が一時的に停止されている場合、即ちそのメモリ61aの記憶内容がクリアされた場合にも発生する。従って、不確実な最大リフト量制御が実行されるのを抑制すべく、この処理では機関運転状態に基づく制御目標値の再設定を無効化するようにしている。そしてステップS510に進み、メモリ100aに記憶されている制御目標値の値をメモリ61aに対する給電が停止される直前に状態量制御ユニット60から受信した検出値の値に置換し、置換された制御目標値をメモリ100aに記憶保持してこの処理を一旦終了する。従って、状態量制御ユニット60との間の通信が不能である場合には、メモリ100aに記憶される制御目標値の値が一定になる。
【0033】
状態量制御ユニット60との通信が可能である場合には、状態量制御ユニット60のメモリ61aへの通電が正常状態である旨判断し、ステップS310に進む。ステップS310では、今回の制御周期がメモリ61aに対する給電が停止状態から復帰した直後の制御周期、即ちその給電が再開してから最初の制御周期であるか否かを判断する。今回の制御周期は給電が再開してから最初の制御周期でない場合には、ステップS420に進み、通常の処理、即ちアクセルセンサ70やクランク角センサ71により検出された機関の運転状態に基づいて制御目標値を設定し、それを状態量制御ユニット60に送信する。そして、ステップS430に進み、状態量制御ユニット60から送信された検出値を受信し、今回の制御周期に設定した制御目標値の値及び受信した検出値の値をメモリ100aに記憶保持して(S440)この処理を一旦終了する。
【0034】
一方、今回の制御周期は給電が再開してから最初の制御周期である場合には、ステップS320に進む。ステップS320では、状態量制御ユニット60のメモリ61aに対する給電が停止されていた期間にメモリ100aに記憶保持された制御目標値の値を状態量制御ユニット60送信してこの処理を一旦終了する。
【0035】
次に、図7を参照して、吸気バルブ10の最大リフト量についてその制御目標値と検出値との変化について説明する。尚、同図7(a)において実線は機関制御ユニット100によって設定した最大リフト量の制御目標値の値を、一点鎖線は機関制御ユニット100が状態量制御ユニット60から受信した最大リフト量の検出値の値を示す。また同図7(b)において実線は状態量制御ユニット60が機関制御ユニット100から受信した最大リフト量の制御目標値の値を、一点鎖線は位置センサ63によって検出した最大リフト量の検出値の値を示している。
【0036】
ここで、これら機関制御ユニット100及び状態量制御ユニット60が認識している各制御目標値並びに各検出値は、定常時であれば基本的には等しい値になる。しかしながら、制御目標値が変化しそれに追従するように検出値が変化している過渡時においては、これら各値は僅かではあるが異なった値になっている。即ち、吸気バルブ10の最大リフト量を状態量制御ユニット60及び仲介駆動機構20を通じて変更する際の応答遅れにより、各制御目標値に対し各検出値は遅れて変化するため、これらの間には僅かな差が生じる。また、CAN80を通じてこれら各値を各制御ユニットの間で送受信する際の通信遅れにより状態量各制御ユニットで認識される制御目標値の値は機関制御ユニット100にて設定される制御目標値の値よりも遅れて変化し、同様に機関制御ユニット100で認識される検出値の値は状態量制御ユニット60にて検出される検出値の値よりも遅れて変化する。従って、これら各制御目標値の値及び各検出値の値についても僅かな差が生じる。
【0037】
そして、このように各制御目標値及び各検出値の間に僅かな差がある状態で、状態量制御ユニット60のメモリ61aに対する給電が一時的に停止される状態に移行する(タイミングt1)と図7(b)に示されるように、給電が停止される直前に状態量制御ユニット60は制御目標値の値T2と検出値の値R1とを認識する。そして、その通電が一時的に停止される状態になって(タイミングt1)から、メモリ61aに記憶された最大リフト量の各値がクリアされ、最大リフト量の制御目標値と検出値とを認識することができなくなるため、通信が通電の復帰まで(タイミングt2)最大リフト量の制御を停止する。
【0038】
一方、図7(a)に示されるように、給電が停止される直前に機関制御ユニット100は制御目標値の値T1と検出値の値R2とを認識する。尚、この時点(タイミングt1)、状態量制御ユニット60が認識する制御目標値の値T2はこの値T1との間に僅かな差があるとともに、この値R2は状態量制御ユニット60が認識する検出値の値R1との間も僅かな差がある。給電が停止される状態になって(タイミングt1)から、その制御目標値の値T1を検出値の値R2に置換し、給電が復帰する(タイミングt2)までその置換された制御目標値の値を記憶保持する。
【0039】
そして、給電が停止される状態から復帰すると(タイミングt2)、機関制御ユニット100はその記憶保持された制御目標値の値R2を状態量制御ユニット60に送信するとともに、機関の運転状態に基づく制御目標値の設定を再開する。その結果、同図7(a)に示されるように、給電が復帰してから(タイミングt2)制御目標値の値は機関の運転状態の変化により値R2から変化するようになる。
【0040】
一方、状態量制御ユニット60は、その制御目標値の値R2を受信し、給電が再開される直後の制御目標値と検出値とを同一の値、即ち受信した値R2に初期化して、初期化された制御目標値と検出値とをメモリ61aに記憶する。そして、機関制御ユニット100が運転状態に基づいて再設定した制御目標値の値を受信し、最大リフト量の制御を再開する。
【0041】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)状態量制御ユニット60のメモリ61aに対する給電が一時的に停止された場合、メモリ61aの記憶内容がクリアされても、給電が再開される後に最大リフト量の検出値を初期化することができ、同検出値を再認識することができるようになる。従って、給電再開後において、不適切な最大リフト量の制御を極力抑制しつつ、同制御を再開することができるようになる。
【0042】
(2)機関制御ユニット100は状態量制御ユニット60のメモリ61aに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値を検出値の値に置換するため、メモリ61aの記憶内容を初期化するに際して給電が停止される直前の検出値の値を同メモリ61aに書き込むことになる。この検出値の値と最大リフト量の実際の値との乖離は小さなものであるため、その給電の再開後に状態量制御ユニット60によって精度を維持しつつ最大リフト量を制御することができる。
【0043】
(3)メモリ61aに対する給電が停止されている期間、機関制御ユニット100により制御目標値の値が機関運転状態に基づいて再設定されることを無効化し、その制御目標値の値をその給電が停止される直前に検出値の値に保持するようにしている。そのため、給電の再開後において、状態量制御ユニット60が認識する最大リフト量の検出値の値と制御目標値の値とが等しくなっている状態から最大リフト量の制御が開始されるようになる。その結果、これら値が大きく乖離している状態で最大リフト量の制御が開始される場合とは異なり、給電再開後において最大リフト量が急激に変化することを抑制して最大リフト量にかかる制御の安定化を図ることができるようになる。
【0044】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、メモリ61aに対する給電が一時的に停止された場合、その給電が停止される直前に設定された制御目標値の値T1を検出値の値R2に置換し、給電再開後に置換された制御目標値の値、即ち値R2を状態量制御ユニット60に送信するようにしている。これに対して、その制御目標値の値T1の置換を行うことなく給電再開後に給電が停止される直前に設定された制御目標値の値T1と検出値の値R2とを状態量制御ユニット60に送信するようにしてもよい。そしてこの場合は、状態量制御ユニット60はこれら制御目標値の値T1と検出値の値R2とを受信し、給電再開後の制御目標値を値T1に初期化するとともに、検出値を値R2に初期化する。
【0045】
・また、その給電が停止される直前に状態量制御ユニット60から受信された検出値の値R2を設定された制御目標値の値T1に置換し、給電再開後に制御目標値の値T1を状態量制御ユニット60に送信するようにしてもよい。即ち、状態量制御ユニット60は値T1を受信し、給電再開後の制御目標値と検出値とを同一の値T1に初期化することもできる。
【0046】
・上記実施形態では、状態量制御ユニット60のメモリ61aに対する給電が停止される期間に機関運転状態に基づく制御目標値の再設定を無効化し、その制御目標値の値を値T1、値R2等の固定値に保持するようにしている。これに対して、給電が停止される直前に設定された制御目標値の値T1を記憶保持するとともに、その給電が停止される期間に機関運転状態に基づく制御目標値の再設定を継続してもよい。即ち、給電が再開される直後に設定された最新の制御目標値の値と値T1とを状態量制御ユニット60に送信し、状態量制御ユニット60は給電再開後の制御目標値を最新の制御目標値の値に初期化するとともに、検出値を値T1に初期化することもできる。
【0047】
・また、給電が停止される直前に受信された検出値の値R2を記憶保持するとともに、その給電が停止される期間に機関運転状態に基づく制御目標値の再設定を継続してもよい。即ち、給電が再開される直後に設定された最新の制御目標値の値とその値R2とを状態量制御ユニット60に送信し、状態量制御ユニット60は給電再開後の制御目標値を最新の制御目標値の値に初期化するとともに、検出値を値R2に初期化することもできる。
【0048】
・上記実施形態では、給電再開後の制御目標値と検出とを給電が停止される直前に受信された検出値の値R2及び設定された制御目標値の値T1の少なくとも一方に初期化するようにしている。これに対して、給電再開後の制御目標値と検出値とをそれら検出値の値R2と制御目標値の値T1との間の値に初期化する等、それら実際値の値R2及び制御目標値の値T1の双方に基づいて初期化するようにしてもよい。また、それら実際値の値R2及び制御目標値の値T1のいずれか一方に基づいて給電再開後の制御目標値と検出値とを設定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】吸・排気弁駆動機構の構成を説明する縦断面図。
【図2】吸・排気弁駆動機構の配置構造を示す平面図。
【図3】仲介駆動機構の破断斜視図。
【図4】吸気バルブの最大リフト量を制御する制御システムを示すブロック図。
【図5】状態量制御ユニットにより最大リフト量を制御する制御手順を示すフローチャート。
【図6】機関制御ユニットにより制御目標値を設定する設定手順を示すフローチャート。
【図7】(a)及び(b)制御目標値と検出値との変化を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0050】
2…シリンダヘッド、5…吸気カムシャフト、6…カム、7…排気カムシャフト、8…カム、10…吸気バルブ、10a…リテーナ、11…バルブスプリング、12…ロッカーアーム、12a…ローラ、13…ラッシュアジャスタ、14…スプリング、15…排気バルブ、15a…リテーナ、16…バルブスプリング、17…ラッシュアジャスタ、18…ロッカーアーム、18a…ローラ、20…仲介駆動機構、21…コントロールシャフト、22…支持パイプ、22a…長孔、23…入力部、23a…ヘリカルスプライン、23b…ローラ、24…出力部、24a…ヘリカルスプライン、26…スライダギア、26a,26b…ヘリカルスプライン、27…係止ピン、28…ブッシュ、28a…貫通孔、29…溝、40…吸気弁駆動機構、45…排気弁駆動機構、60…状態量制御ユニット、61…駆動ドライバ、61a…メモリ、62…モータ、63…位置センサ、64…変換機構、70…アクセルセンサ、71…クランク角センサ、80…通信ネットワーク(CAN)、100…機関制御ユニット、100a…メモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関運転状態に基づき内燃機関の状態量についてその制御目標値を設定する機関制御ユニットと、前記状態量の検出値の値をバックアップ電源の給電により記憶保持するメモリを有し、該検出値の値と前記設定される制御目標値の値との乖離が小さくなるように前記状態量を変更するアクチュエータを制御するとともに、前記状態量の変更量を検出する状態量制御ユニットとを備え、該状態量制御ユニットは前記記憶される検出値の値を前記変更量に基づいて更新するものであり、前記機関制御ユニットは前記更新される検出値の値を取り込みこれを前記設定される制御目標値の値と併せて記憶保持する内燃機関の制御システムにおいて、
前記状態量制御ユニットは機関運転中に前記メモリに対する給電が一時的に停止されてその記憶内容がクリアされたとき、その給電の再開後に、前記機関制御ユニットが記憶する前記検出値の値及び前記メモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値の少なくとも一方に基づいて前記メモリの記憶内容を初期化する初期化手段を備える
ことを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御システムにおいて、
前記初期化手段は前記メモリの記憶内容を初期化するに際して前記メモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値を前記メモリに書き込む
ことを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項3】
前記メモリに対する給電が停止されている期間、前記機関制御ユニットによる機関運転状態に基づく前記制御目標値の再設定を無効化して同制御目標値の値を前記メモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値に保持する保持手段を更に備える
請求項2に記載の内燃機関の制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の制御システムにおいて、
前記メモリに対する給電が停止されたとき、前記メモリに対する給電が停止される直前に設定された制御目標値の値を前記機関制御ユニットが記憶する前記検出値の値に置換する置換手段を更に備え、
前記保持手段は前記制御目標値の値を前記置換手段により置換された値に保持する
ことを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御システムにおいて、
前記状態量制御ユニットは前記内燃機関の状態量として機関バルブのバルブ特性を制御するものである
ことを特徴とする内燃機関の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−182850(P2007−182850A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2626(P2006−2626)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】