説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の低温低負荷運転時に吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態になることに起因してPNが増加することを抑制できるようにする。
【解決手段】内燃機関1の低温低負荷運転時であって吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態(マイナスバルブオーバーラップ状態)にあるときには、直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射が行われる。この燃料噴射では、ポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射と比較して、噴射される燃料の粒の径が大きくなるとともに同燃料の粒の数が少なくなる。このため、マイナスバルブオーバーラップ状態での吸気バルブ26の開弁時に筒内の負圧により吸気ポート2aから同筒内に勢いよくガスが流入し、それによって直噴インジェクタ7から噴射された燃料の粒がシリンダ内壁3aやピストン頂部13aに付着したとしても同燃料の粒が多くはならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、車両に搭載される内燃機関として、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射インジェクタと、筒内に燃料を噴射する直噴インジェクタとを備えたものが実用化されている。同機関においては、機関運転状態に基づき定められた噴射量指令値に対応した量の燃料が上記ポート噴射インジェクタと上記直噴インジェクタとの少なくとも一方から噴射される。
【0003】
ちなみに、ポート噴射インジェクタからの燃料噴射では、噴射された燃料が内燃機関の吸気通路における吸気ポート周りに滞留し、その後に吸気バルブの開弁時にガスとともに筒内に流入することから、筒内に流入するときの同燃料の粒の径が小さくなり、その燃料の粒が空気と触れやすくなるという効果が得られる。従って、内燃機関の低温時には、ポート噴射インジェクタのみからの燃料噴射を行うことで、筒内に流入した燃料の粒を内燃機関の低温時という気化しにくい状況のもとでも効果的に気化させるようにしている。この場合、筒内での燃料の粒を効果的に気化させることで同燃料の燃焼を良好なものとすることができ、同燃料の不完全燃焼による煤などのPM(Particulate Matter)の発生が抑制される。
【0004】
なお、近年では、上記PMの発生を抑制することで同発生したPMの重量を低減することに加え、発生した上記PMの個数(以下、PNという)を低減することも要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−222978公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、内燃機関においては、燃費改善を目的として、吸気バルブの開閉特性を可変とするバルブ特性可変機構の駆動により、吸気バルブの閉弁時期を下死点よりも遅らせる場合がある。この場合、内燃機関の圧縮比が小さくなって同圧縮比に対する内燃機関の膨張比が相対的に大きくなることから、内燃機関の熱効率が向上して同機関の燃費を改善することができる。
【0007】
ただし、吸気バルブの閉弁時期を遅らせることに伴い同吸気バルブの開弁時期も遅くなるため、吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態(マイナスバルブオーバーラップ)となる。こうしたマイナスバルブオーバーラップが生じると、内燃機関のピストンが吸気上死点から下死点に向けて移動する際、その移動が筒内(燃焼室内)を密閉した状態で行われて筒内の負圧が大きくなる(筒内の圧力が大きく低下する)。このため、吸気バルブが開弁するとき、内燃機関の吸気通路における吸気ポート周りに存在するガスが上記筒内の負圧によって勢いよく筒内に流入する。
【0008】
従って、内燃機関の低温時、PMの発生を抑制すべくポート噴射インジェクタのみからの燃料噴射を行っているときに上記マイナスバルブオーバーラップが生じると、ポート噴射インジェクタから噴射されて吸気ポート周りに滞留した燃料が吸気バルブの開弁に伴って上記ガスと共に勢いよく筒内に流入する。特に、内燃機関の低負荷運転時には、吸気通路に設けられたスロットルバルブが閉じ側に調整されているため、ピストンが吸気上死点付近にあって筒内が密閉された状態にあるときの同筒内に存在するガス(空気等)の量が少なくなる。このため、内燃機関の低負荷運転時には、吸気バルブが開弁する直前の筒内の負圧が大きくなりやすく、そうした負圧の増大によって吸気バルブの開弁時吸気ポート周りから筒内に流入する燃料及びガスの勢いが増す。
【0009】
ここで、ポート噴射インジェクタから噴射された燃料が筒内に流入する際には、その燃料の粒の径が小さくなって同燃料の粒を効果的に気化させることができるため、燃料を燃焼させたときのPMの発生を抑制して同発生したPMの重量を低減することができるようにはなる。しかし、上記マイナスバルブオーバーラップの発生に起因して吸気バルブの開弁時に吸気ポート周りに滞留した燃料が筒内に勢いよく流入すると、径の小さい多数の燃料の粒がシリンダ内壁やピストン頂部に付着する。そして、内燃機関の低温低負荷運転時、上述したように多数の燃料の粒がシリンダ内壁やピストン頂部に付着すると、それら燃料の粒が気化しにくくなって不完全燃焼を招く。その結果、上記多数の燃料の粒に対応した数のPMが発生し、それに伴ってPNが増加するようになる。
【0010】
なお、特許文献1には、PNを低減するために内燃機関のEGR量を増加させるとともに、そのEGR量の増加に伴う機関出力の低減を抑制すべく直噴インジェクタからの燃料噴射を行うことが記載されている。ただし、特許文献1には、内燃機関の低温低負荷時にポート噴射インジェクタのみからの燃料噴射が行われている状況のもと、上記マイナスバルブオーバーラップが生じることに起因してPNが増加するという問題については何も開示されていない。従って、この特許文献1の技術を採用したとしても、上述した状況のもとでマイナスバルブオーバーラップが生じたとき、的確にPNを低減することができるとは限らない。むしろ、特許文献1には上記問題について何も記載されていないことから、上述した状況のもとでマイナスバルブオーバーラップが生じたときにPNを低減できない可能性が高い。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、内燃機関の低温低負荷運転時に吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態になることに起因してPNが増加することを抑制できる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射インジェクタと筒内に燃料を噴射する直噴インジェクタとを備える内燃機関において、同機関の低温低負荷運転時であって吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態にあるときには、直噴インジェクタのみからの燃料噴射が行われる。このとき、仮にポート噴射インジェクタのみからの燃料噴射が行われたとすると、同ポート噴射インジェクタから噴射された径の小さい多数の燃料の粒が、吸気バルブが開弁するときに筒内の負圧によって吸気ポートから筒内に勢いよく流入する。その結果、多数の燃料の粒がシリンダ内壁やピストン頂部に付着し、そうした多数の燃料の粒が不完全燃焼によりPMとなることから、PNが増加するようになる。この点、請求項1記載の発明では、内燃機関の低温低負荷運転時であって吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態にあるとき、直噴インジェクタのみからの燃料噴射が行われ、それによってPNの増加が抑制される。すなわち、直噴インジェクタからの燃料噴射では、ポート噴射インジェクタからの燃料噴射と比較して、噴射される燃料の粒の径が大きくなるとともに同燃料の粒の数が少なくなる。このため、吸気バルブの開弁時に筒内の負圧により吸気ポートから同筒内に勢いよくガスが流入し、それによって直噴インジェクタから噴射された燃料の粒がシリンダ内壁やピストン頂部に付着したとしても同燃料の粒が多くはならない。従って、その燃料の粒が不完全燃焼によりPMになったときにPNが増加することを抑制できる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、噴射制御手段により直噴インジェクタのみからの燃料噴射を行うに当たり、内燃機関のオイルに関する油中燃料希釈量が判定値未満であるときには、同油中燃料希釈量が上記判定値以上であるときよりも直噴インジェクタの燃料噴射時期が下死点寄りの値となるよう制御される。このように直噴インジェクタの燃料噴射時期が下死点寄りの値となるよう制御されると、ピストンが直噴インジェクタから離れた状態で同直噴インジェクタからの燃料噴射が行われる。このため、直噴インジェクタから噴射された燃料の粒がピストン頂部に付着しにくくなり、そのピストン頂部に付着した燃料の粒が不完全燃焼によりPMになることを抑制でき、ひいては発生するPMの重量を低減できる。なお、上述したようにピストンが直噴インジェクタから離れた状態で同直噴インジェクタからの燃料噴射を行うと、噴射された燃料の粒がピストン頂部には付着しにくくなるもののシリンダ内壁には付着しやすくなる。こうしたシリンダ内壁への燃料の粒の付着が生じると、その燃料の粒がピストンのオイルリングにより内燃機関のオイルパンに掻き落とされるため、同オイルパン内に溜まったオイルの燃料による希釈が進むことは避けられない。ただし、こうしたオイルの燃料による希釈が進むとしても、そのときのオイルに関する油中燃料希釈量は上記判定値未満という小さい値であるため、上記オイルの燃料による希釈が問題となることはない。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、噴射制御手段により直噴インジェクタのみからの燃料噴射を行うに当たり、内燃機関のオイルに関する油中燃料希釈量が判定値以上であるときには、同油中燃料希釈量が上記判定値未満であるときよりも直噴インジェクタの燃料噴射時期が上死点寄りの値となるよう制御される。このように直噴インジェクタの燃料噴射時期が上死点寄りの値となるよう制御されると、ピストンが直噴インジェクタに近い状態で同直噴インジェクタからの燃料噴射が行われる。このため、直噴インジェクタから噴射された燃料の粒がピストン頂部に付着しやすくなる一方でシリンダ内壁には付着しにくくなり、そのシリンダ内壁に付着した燃料の粒がピストンのオイルリングによりオイルパンに掻き落とされることを抑制できる。従って、オイルパンに掻き落とされた燃料により、同オイルパン内のオイルの燃料による希釈が進むことを抑制でき、ひいては上記オイルに関する油中燃料希釈量が上記判定値から更に多くなることを抑制できる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、噴射制御手段により直噴インジェクタのみからの燃料噴射を行うに当たり、油中燃料希釈量が判定値以上であって、且つ機関負荷が低温低負荷運転時である旨判断されたときよりも低い閾値以上であるときには、内燃機関における吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブとの開弁期間終期とが接近するよう、バルブ制御手段により吸気バルブと排気バルブとの少なくとも一方の開閉特性が変化させられる。更に、このようにバルブ制御手段を通じて上記開閉特性を変化させる際には、ポート噴射インジェクタからの噴射と直噴インジェクタからの噴射との噴き分け率を定め、その噴き分け率をもってポート噴射インジェクタからの噴射と直噴インジェクタからの噴射とが行われる。ここで、上述したように機関負荷が閾値以上という高い値になって内燃機関全体での要求燃料噴射量が多くなる状況では、それに合わせて直噴インジェクタから噴射される燃料の量も多くなってピストン頂部に付着する燃料の量も多くなる。その結果、ピストン頂部に付着した燃料の不完全燃焼により発生するPMの量が多くなるおそれがある。この点、請求項4記載の発明では、上述した状況が生じたときに内燃機関における吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブとの開弁期間終期とを接近させて吸気バルブが開弁するときの筒内の負圧を小さくする(筒内の圧力を高くする)一方、ポート噴射インジェクタと直噴インジェクタとでの噴き分け噴射を行う。これにより、直噴インジェクタから噴射された燃料がピストン頂部に多量に付着すること、更には同燃料の不完全燃焼によって発生するPMの量が多くなることは抑制される。なお、吸気バルブが開弁するときの筒内の負圧が上述したように小さくなるため、ポート噴射インジェクタから噴射された径の小さい多数の燃料の粒が吸気バルブの開弁時に勢いよく筒内に流入してシリンダ内壁やピストン頂部に付着することは抑制される。従って、その多数の燃料の粒が不完全燃焼によりPMとなってPNが増加することはない。更に、ポート噴射インジェクタから噴射された燃料の粒がシリンダ内壁に付着することは抑制されるため、その燃料の粒がピストンのオイルリングによりオイルパンに掻き落とされること、ひいては同オイルパン内のオイルに燃料による希釈が生じることは抑制される。
【0016】
なお、内燃機関における吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブとの開弁期間終期とが接近するよう、バルブ制御手段により吸気バルブと排気バルブとの少なくとも一方の開閉特性を変化させる際には、請求項5記載の発明のように、ポート噴射インジェクタと直噴インジェクタとの噴き分け率を設定することが好ましい。すなわち、吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブとの開弁期間終期とが接近するほど、ポート噴射インジェクタからの燃料噴射の割合が多くなるように、上記噴き分け率を設定することが好ましい。このように噴き分け率を設定することで、吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブとの開弁期間終期との接近状態に合わせて、上記噴き分け率をPM発生の抑制、PNの減少、及びオイルの燃料による希釈の抑制といった三者のバランスをとるうえで最適な値とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる燃料噴射制御装置が適用される内燃機関全体を示す略図。
【図2】同機関における吸気バルブ及び排気バルブの開弁期間を示す説明図。
【図3】同機関におけるポート噴射領域、直噴領域、及び噴き分け領域を示す説明図。
【図4】PNを低減すべく直噴インジェクタのみからの燃料噴射を行うための処理、及びそれに関連する各種処理の実行手順を示すフローチャート。
【図5】第1〜第3燃料噴射時期制御での直噴インジェクタの燃料噴射時期の違いを示す説明図。
【図6】マイナスバルブオーバーラップの変化に対する噴き分け率の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を自動車に搭載される内燃機関の制御装置に具体化した一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示される内燃機関1の吸気通路2には、燃焼室3に吸入される空気の量(吸入空気量)を調整すべく開閉動作するスロットルバルブ4が設けられている。このスロットルバルブ4の開度(スロットル開度)は、自動車の運転者によって踏み込み操作されるアクセルペダル5の操作量(アクセル操作量)に応じて調節される。また、内燃機関1は、吸気通路2から燃焼室3の吸気ポート2aに向けて燃料を噴射するポート噴射インジェクタ6と、燃焼室3内(筒内)に燃料を噴射する直噴インジェクタ7とを備えている。これらインジェクタ6,7には、燃料タンク8内に蓄えられた燃料が供給される。
【0019】
すなわち、燃料タンク8内の燃料は、フィードポンプ9によって汲み上げられた後に低圧燃料配管31を介してポート噴射インジェクタ6に供給される。この低圧燃料配管31内の燃料の圧力は、フィードポンプ9の駆動制御を通じてフィード圧に調整されるとともに、同配管31に設けられたプレッシャレギュレータ32によって過上昇しないようにされる。また、フィードポンプ9によって汲み上げられた低圧燃料配管31内の燃料の一部は、高圧燃料ポンプ10で上記フィード圧よりも高圧の状態に加圧された後に高圧燃料配管33を介して直噴インジェクタ7に供給される。
【0020】
内燃機関1においては、インジェクタ6,7から噴射される燃料と吸気通路2を流れる空気とからなる混合気が燃焼室3に充填され、この混合気に対し点火プラグ12による点火が行われる。そして、点火後の混合気が燃焼すると、そのときの燃焼エネルギによりピストン13が往復移動し、それに伴いクランクシャフト14が回転するようになる。一方、燃焼後の混合気は排気として排気通路15に送り出される。なお、上記燃焼室3と吸気通路2との間は、クランクシャフト14からの回転伝達を受ける吸気カムシャフト25の回転に伴って開閉動作する吸気バルブ26によって連通・遮断される。また、上記燃焼室3と排気通路15との間は、クランクシャフト14からの回転伝達を受ける排気カムシャフト27の回転に伴って開閉動作する排気バルブ28によって連通・遮断される。
【0021】
内燃機関1には、吸気バルブ26の開閉特性を可変とする可変動弁機構として、クランクシャフト14に対する吸気カムシャフト25の相対回転位相(吸気バルブ26のバルブタイミング)を変更する吸気側バルブタイミング可変機構29が設けられている。この吸気側バルブタイミング可変機構29の駆動により、吸気バルブ26の開弁期間(作動角)を一定に保持した状態で図2に示す吸気バルブ26の開弁時期T1及び閉弁時期T2が共に進角又は遅角される。また、図1に示すように、内燃機関1には、排気バルブ28の開閉特性を可変とする可変動弁機構として、クランクシャフト14に対する排気カムシャフト27の相対回転位相(排気バルブ28のバルブタイミング)を変更する排気側バルブタイミング可変機構30が設けられている。この排気側バルブタイミング可変機構30の駆動により、排気バルブ28の開弁期間(作動角)を一定に保持した状態で図2に示す排気バルブ28の開弁時期T3及び閉弁時期T4が共に進角又は遅角される。
【0022】
次に、本実施形態における内燃機関1の制御装置の電気的構成について、図1を参照して説明する。
同装置は、内燃機関1の各種運転制御を行う電子制御装置16を備えている。同電子制御装置16には、上記制御に係る各種演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果等が一時記憶されるRAM、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等が設けられている。
【0023】
電子制御装置16の入力ポートには、以下に示す各種センサ等が接続されている。
・アクセル操作量を検出するアクセルポジションセンサ17。
・スロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ18。
【0024】
・吸気通路2を通過する空気の量(内燃機関1の吸入空気量)を検出するエアフローメータ19。
・クランクシャフト14の回転に対応した信号を出力するクランクポジションセンサ20。
【0025】
・吸気カムシャフト25の回転に基づき同シャフト25の回転位置に対応した信号を出力する吸気側カムポジションセンサ21。
・排気カムシャフト27の回転に基づき同シャフト27の回転位置に対応した信号を出力する排気側カムポジションセンサ22。
【0026】
・内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサ23。
・内燃機関1におけるオイルパン1a内のオイルの温度を検出する油温センサ24。
また、電子制御装置16の出力ポートには、スロットルバルブ4、ポート噴射インジェクタ6、直噴インジェクタ7、吸気側バルブタイミング可変機構29、及び排気側バルブタイミング可変機構30といった各種機器の駆動回路等が接続されている。
【0027】
電子制御装置16は、上記各種センサ等から入力した信号に基づき機関回転速度や機関負荷といった機関運転状態を把握し、その把握した機関運転状態に基づいてスロットルバルブ4、インジェクタ6,7、フィードポンプ9、及びバルブタイミング可変機構29,30といった各種機器の駆動回路に対し指令信号を出力する。こうして内燃機関1におけるスロットル開度制御及び燃料噴射制御、並びに、吸気バルブ26及び排気バルブ28のバルブタイミング制御など、内燃機関1の各種運転制御が電子制御装置16を通じて実施される。
【0028】
ちなみに、上記機関回転速度は、クランクポジションセンサ20からの検出信号に基づき求められる。また、機関負荷は、内燃機関1の吸入空気量に対応するパラメータと上記機関回転速度とから算出される。なお、吸入空気量に対応するパラメータとしては、エアフローメータ19からの検出信号に基づき求められる内燃機関1の吸入空気量の実測値、スロットルポジションセンサ18からの検出信号に基づき求められるスロットル開度、及びアクセルポジションセンサ17からの検出信号に基づき求められるアクセル操作量等があげられる。
【0029】
内燃機関1の燃料噴射制御の一つとして行われる燃料噴射量制御は、機関回転速度及び機関負荷といった機関運転状態に基づき、内燃機関1全体としての要求燃料噴射量Qfin を求め、その要求燃料噴射量Qfin が得られるようにポート噴射インジェクタ6と直噴インジェクタ7との少なくとも一方から燃料を噴射することで実現される。なお、この内燃機関1では、機関回転速度及び機関負荷に応じて区画された機関運転領域毎に、すなわち図3に示されるポート噴射領域A1、直噴領域A2、及び噴き分け領域A3毎に、燃料噴射のために使用されるインジェクタ6,7が選択される。
【0030】
図3において、内燃機関1の低回転低負荷領域は、ポート噴射インジェクタ6のみから要求燃料噴射量Qfin 分の燃料の噴射を行うポート噴射領域A1となっている。これは、内燃機関1の低回転低負荷領域では、ピストン13の移動速度が遅くなる関係から燃焼室3内でのピストン13の移動による空気と燃料との混合が行われにくく、ポート噴射インジェクタ6のみから燃料を噴射して同燃料を吸気ポート2a内で予め空気と混合した後に燃焼室3に吸入することが好ましいためである。また、内燃機関1の低回転低負荷領域では、同内燃機関1の騒音レベルが小さいことから、仮に直噴インジェクタ7からの燃料噴射を行ったとすると同インジェクタ7の開弁時の騒音が問題となり、こうした問題を回避するためにも内燃機関1の低回転低負荷領域がポート噴射領域とされている。一方、内燃機関1の高回転高負荷領域は、直噴インジェクタ7のみから要求燃料噴射量Qfin 分の燃料の噴射を行う直噴領域A2となっている。これは、内燃機関1の高回転高負荷領域では、直噴インジェクタ7から噴射された燃料の気化潜熱によりピストン13を冷却することが、内燃機関1の吸気充填効率を高めて同内燃機関1の出力を向上するうえで好ましいためである。従って、直噴領域A2については、直噴インジェクタ7から燃焼室3内への直接的な燃料噴射によって内燃機関1の出力向上が見込める領域に設定される。
【0031】
また、図3において、内燃機関1の高負荷運転領域と低負荷運転領域との間の領域は、それら高負荷領域と低負荷領域との両方の特性を有していることから、そうした特性に対応すべくポート噴射インジェクタ6と直噴インジェクタ7との両方からの燃料噴射(噴き分け噴射)を行う噴き分け領域A3となっている。この噴き分け噴射では、機関回転速度や機関負荷といった機関運転状態に基づいて求められる噴き分け率Kをもって、上記要求燃料噴射量Qfin がポート噴射指令値QPと直噴指令値QDとに分けられる。なお、上記噴き分け率Kは、上記ポート噴射指令値QPに対応する燃料量を要求燃料噴射量Qfin で除算した値であり、上記燃料量を多くしようとするほど「0〜1.O」という範囲で徐々に大きい値に変化する。ちなみに、上述したように分けられるポート噴射指令値QPと直噴指令値QDとの合計値は、上記要求燃料噴射量Qfin と等しい値になる。そして、ポート噴射インジェクタ6からポート噴射指令値QPに対応した量の燃料噴射が行われるよう同インジェクタ6が駆動される一方、直噴インジェクタ7から直噴指令値QDに対応した量の燃料噴射が行われるよう同インジェクタ7が駆動される。
【0032】
ここで、ポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射では、噴射された燃料が内燃機関1の吸気通路2における吸気ポート2a周りに滞留し、その後に吸気バルブ26の開弁時にガス(空気)とともに筒内に流入することから、筒内に流入するときの同燃料の粒の径が小さくなり、その燃料の粒が空気と触れやすくなるという効果が得られる。従って、内燃機関1の低温時には、ポート噴射インジェクタ6のみからの燃料噴射を行うことで、筒内に流入した燃料の粒を内燃機関1の低温時という気化しにくい状況のもとでも効果的に気化させるようにすることが好ましい。このように内燃機関1の低温時にポート噴射インジェクタ6のみからの燃料噴射を行うようにすれば、筒内での燃料の粒を効果的に気化させて同燃料の燃焼を良好なものとすることができ、同燃料の不完全燃焼による煤などのPM(Particulate Matter)の発生が抑制される。こうしたことを考慮して、内燃機関1が低温であるとき、詳しくは同機関1の冷却水の温度が所定値thw未満であるときには、機関負荷の変化方向についてのポート噴射領域A1と噴き分け領域A3との境界が所定値KL2から所定値KL1へと増加側に変化される。なお、上記所定値KL2は、内燃機関1の冷却水の温度が上記所定値thw以上であるときの機関負荷の変化方向についてのポート噴射領域A1と噴き分け領域A3との境界を表しており、上記所定値KL1よりも小さい値となる。
【0033】
次に、本実施形態における内燃機関1の制御装置の動作について説明する。
内燃機関1においては、燃費改善のために圧縮比よりも膨張比を大きくすることが有効であり、こうしたことを実現するために吸気側バルブタイミング可変機構29の駆動を通じて吸気バルブ26の閉弁時期T2(図2)を下死点よりも遅らせる場合がある。吸気バルブ26の閉弁時期T2を下死点よりも遅らせて上死点寄りに変化させることで、内燃機関1の圧縮比が小さくなって同圧縮比に対する内燃機関1の膨張比が相対的に大きくなると、内燃機関1の熱効率が向上して同機関1の燃費が改善される。
【0034】
ただし、吸気バルブ26の閉弁時期T2を遅らせることに伴い同吸気バルブ26の開弁時期T1も遅くなるため、吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブ28の開弁期間終期とが重ならない状態(マイナスバルブオーバーラップ)となる。こうしたマイナスバルブオーバーラップが生じると、内燃機関1のピストン13が吸気上死点から下死点に向けて移動する際、その移動が筒内(燃焼室3内)を密閉した状態で行われて筒内の負圧が大きくなる(筒内の圧力が低下する)。このため、吸気バルブ26が開弁するとき、図1に示す内燃機関1の吸気通路2における吸気ポート2a周りに存在するガス(空気)が上記筒内の負圧によって勢いよく筒内に流入する。
【0035】
従って、内燃機関1の低温時、ポート噴射インジェクタ6のみからの燃料噴射を行っているときに上記マイナスバルブオーバーラップが生じると、ポート噴射インジェクタ6から噴射されて吸気ポート2a周りに滞留した燃料が吸気バルブ26の開弁に伴って上記ガスと共に勢いよく筒内に流入する。特に、内燃機関1の低負荷運転時には、吸気通路2に設けられたスロットルバルブ4が閉じ側に調整されているため、ピストン13が吸気上死点付近にあって筒内が密閉された状態にあるときの同筒内に存在するガス(空気等)の量が少なくなる。このため、内燃機関1の低負荷運転時には、吸気バルブ26が開弁する直前の筒内の負圧が大きくなりやすく、そうした負圧の増大によって吸気バルブ26の開弁時吸気ポート2a周りから筒内に流入する燃料及びガスの勢いが増す。
【0036】
ここで、ポート噴射インジェクタ6から噴射された燃料が筒内に流入する際には、その燃料の粒の径が小さくなって同燃料の粒を効果的に気化させることができるため、燃料を燃焼させたときのPMの発生を抑制して同発生したPMの重量を低減することができるようにはなる。しかし、上記マイナスバルブオーバーラップの発生に起因して吸気バルブ26の開弁時に吸気ポート2a周りに滞留した燃料が筒内に勢いよく流入すると、径の小さい多数の燃料の粒がシリンダ内壁3aやピストン頂部13aに付着する。そして、内燃機関1の低温低負荷運転時、上述したように多数の燃料の粒がシリンダ内壁3aやピストン頂部13aに付着すると、それら燃料の粒が気化しにくくなって不完全燃焼を招く。その結果、上記多数の燃料の粒に対応した数のPMが発生し、それに伴ってPNが増加するようになる。
【0037】
こうした問題に対処するため、内燃機関1の低温低負荷運転時であって吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態(マイナスバルブオーバーラップ状態)にあるとき、直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射が行われる。この直噴インジェクタ7からの燃料噴射では、ポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射と比較して、噴射される燃料の粒の径が大きくなるとともに同燃料の粒の数が少なくなる。このため、吸気バルブ26の開弁時に筒内の負圧により吸気ポート2aから同筒内に勢いよくガスが流入し、それによって直噴インジェクタ7から噴射された燃料の粒がシリンダ内壁3aやピストン頂部13aに付着したとしても同燃料の粒が多くはならない。従って、その燃料の粒が不完全燃焼によりPMになったときにPNが増加することを抑制できる。
【0038】
次に、上述したように直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射を行うための処理、及びそれに関連する各種処理について、PN低減ルーチンを示す図4のフローチャートを参照して説明する。このPN低減ルーチンは、電子制御装置16を通じて、例えば所定時間毎の時間割り込みにて周期的に実行される。
【0039】
同ルーチンにおいては、内燃機関1の冷却水の温度が上記所定値thw未満であるか否かの判断(S101)、マイナスオーバーラップがあるか否かの判断(S102)、機関負荷が所定値KL1未満であるか否かの判断(S103)が行われる。
【0040】
これらの判断のうちのいずれかで否定判定がなされた場合には、内燃機関1の燃料噴射制御として通常通りの制御が行われる(S110)。具体的には、内燃機関1の現在の運転領域が図3に示されるポート噴射領域A1、直噴領域A2、及び噴き分け領域A3のうちのいずれであるかに基づき、要求燃料噴射量Qfin を得るために使用されるインジェクタとして、ポート噴射インジェクタ6と直噴インジェクタ7との少なくとも一方が選択される。そして、選択されたインジェクタを用いて要求燃料噴射量Qfin 分の燃料が噴射される。更に、このときの燃料噴射時期は、上記選択されたインジェクタに応じて機関運転状態に適した時期に制御される。
【0041】
一方、S101〜S103の全てで肯定判定であれば、内燃機関1の低温低負荷運転時であって、且つマイナスバルブオーバーラップが生じている状態である旨判断され、PNを低減するための直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射、及びその際の燃料噴射時期制御が行われる(S104〜S107)。
【0042】
詳しくは、内燃機関1のオイルパン1a内に溜まったオイルの燃料による希釈量(油中燃料希釈量)、すなわち上記オイルに含まれる燃料成分の量が判定値未満であるか否かが判断される(S104)。ここで、上記油中燃料希釈量は、所定期間毎に同期間中における上記オイルへの燃料の混入量及び上記オイルからの燃料の揮発量をそれぞれ算出し、それら算出された混入量と揮発量との差分を上記所定期間毎に累積することで求められる。ちなみに、上記所定期間中における上記混入量は、機関回転速度、機関負荷、及び内燃機関1の冷却水の温度等に基づいて推定することが可能である。また、上記所定期間中における上記揮発量は、オイルパン1a内のオイルの温度に基づいて推定することが可能である。
【0043】
S104の処理で上記油中希釈量が判定値未満という少ない値である旨判断されると、要求燃料噴射量Qfin が得られるよう直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射が行われるとともに、このときの状況に適した燃料噴射時期を実現するための第1燃料噴射時期制御が行われる(S105)。一方、S104の処理で上記油中希釈量が判定値以上という多い値である旨判断されると、機関負荷が上記所定値KL1よりも低い閾値(この例では所定値KL2)未満であるか否かの判断が行われる(S106)。そして、ここで肯定判定であれば、要求燃料噴射量Qfin が得られるよう直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射が行われるとともに、このときの状況に適した燃料噴射時期を実現するための第2燃料噴射時期制御が行われる(S107)。
【0044】
S105もしくはS107の処理で直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射が行われると、内燃機関1の低温低負荷運転時であって且つマイナスバルブオーバーラップが生じている状態でのPN増加が抑制される。これは、直噴インジェクタ7からの燃料噴射では、噴射される燃料の粒の径が大きくなるとともに同燃料の粒の数が少なくなるためである。このように燃料の粒の数が少ない場合、同燃料の粒がシリンダ内壁3aやピストン頂部13aに付着した後に不完全燃焼によりPMになったとしても、PNが増加することは抑制される。
【0045】
また、S105での第1燃料噴射時期制御とS107での第2燃料噴射時期制御とを比較すると、機関運転状態を同一とした条件のもとでは、図5に示すように第1燃料噴射時期制御での直噴インジェクタ7の燃料噴射時期D1が第2燃料噴射時期制御での直噴インジェクタ7の燃料噴射時期D2よりも下死点寄りの値になる。言い換えれば、機関運転状態を同一とした条件のもとでは、第2燃料噴射時期制御での直噴インジェクタ7の燃料噴射時期D2が第1燃料噴射時期制御での直噴インジェクタ7の燃料噴射時期D1よりも上死点寄りの値になる。
【0046】
上記第1燃料噴射時期制御により、直噴インジェクタ7の燃料噴射時期が下死点寄りの値となるよう制御されると、ピストン13が直噴インジェクタ7から離れた状態で同直噴インジェクタ7からの燃料噴射が行われる。このため、直噴インジェクタ7から噴射された燃料の粒がピストン頂部13aに付着しにくくなり、そのピストン頂部13aに付着した燃料の粒が不完全燃焼によりPMになることを抑制でき、ひいては発生するPMの重量を低減できる。
【0047】
また、上記第2燃料噴射時期制御により、直噴インジェクタ7の燃料噴射時期が上死点寄りの値となるよう制御されると、ピストン13が直噴インジェクタ7に近い状態で同直噴インジェクタ7からの燃料噴射が行われる。このため、直噴インジェクタ7から噴射された燃料の粒がピストン頂部13aに付着しやすくなる一方でシリンダ内壁3aには付着しにくくなり、そのシリンダ内壁3aに付着した燃料の粒がピストン13のオイルリングによりオイルパン1aに掻き落とされることを抑制できる。従って、オイルパン1aに掻き落とされた燃料により、同オイルパン1a内のオイルの燃料による希釈が進むことを抑制できる。
【0048】
一方、上記S106(図4)の処理で機関負荷が閾値(所定値KL2)以上である旨判断された場合には、吸気バルブ26の閉弁時期を遅らせることによる内燃機関1の燃費改善よりも、PM発生の抑制、PNの減少、及びオイルの燃料による希釈の抑制といった三者をバランスよく実現することを重視した制御が行われる(S108、S109)。
【0049】
詳しくは、内燃機関1における吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブ28の開弁期間終期とが接近するように、言い換えればマイナスオーバーラップが「0」に近づくように、吸気バルブ26と排気バルブ28との少なくとも一方の開閉特性(バルブタイミング)を変化させる(S108)。例えば、吸気バルブ26のバルブタイミングの進角と排気バルブ28のバルブタイミングの遅角との一方、もしくは両方により、上記マイナスオーバーラップが「0」に近づけられる。また、このときには要求燃料噴射量Qfin 分の燃料をポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射と直噴インジェクタ7からの燃料噴射とによって実現する噴き分け噴射が行われるとともに、そうした噴き分け噴射に適した直噴インジェクタ7における燃料噴射時期の制御として第3燃料噴射時期制御が行われる(S109)。
【0050】
上記第3燃料噴射時期制御が行われたときの直噴インジェクタ7の燃料噴射時期D3は、機関運転状態を第1燃料噴射時期制御及び第2燃料噴射時期制御と同一とした状況のもとでは、図5に示すように第1燃料噴射時期制御での燃料噴射時期D1よりも進角側、且つ第2燃料噴射時期制御での燃料噴射時期D2よりも遅角側の値になる。また、上記噴き分け噴射が行われる際には、その際の噴き分け率Kが図6に示すように吸気バルブ26と排気バルブ28とのマイナスバルブオーバーラップの変化に応じて定められる。具体的には、吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブ28の開弁期間終期とが接近するほど、すなわちマイナスバルブオーバーラップが「0」に近づくほど、ポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射の割合が多くなるよう上記噴き分け率Kが「1.0」に近い値に設定される。
【0051】
ここで、上記S106(図4)で機関負荷が閾値以上という高い値である旨判断される状況、言い換えれば内燃機関1全体での要求燃料噴射量Qfin が多くなる状況では、それに合わせて直噴インジェクタ7から噴射される燃料の量が多くなると、ピストン頂部13aに付着する燃料の量も多くなる。その結果、ピストン頂部13aに付着した燃料の不完全燃焼により発生するPMの量が多くなるおそれがある。
【0052】
こうしたことに対処するため、上述した状況が生じたときには、S108及びS109の処理が実行される。すなわち、内燃機関1における吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブ28との開弁期間終期とを接近させることで吸気バルブ26が開弁するときの筒内の負圧が小さくされる(筒内の圧力が高くされる)一方、ポート噴射インジェクタ6と直噴インジェクタ7とでの噴き分け噴射が行われる。これにより、直噴インジェクタ7から噴射された燃料がピストン頂部13aに多量に付着すること、更には同燃料の不完全燃焼によって発生するPMの量が多くなることは抑制される。
【0053】
なお、吸気バルブ26が開弁するときの筒内の負圧が上述したように小さくなるため、ポート噴射インジェクタ6から噴射された径の小さい多数の燃料の粒が吸気バルブ26の開弁時に勢いよく筒内に流入してシリンダ内壁3aやピストン頂部13aに付着することは抑制される。従って、その多数の燃料の粒が不完全燃焼によりPMとなってPNが増加することはない。更に、ポート噴射インジェクタ6から噴射された燃料の粒がシリンダ内壁3aに付着することは抑制されるため、その燃料の粒がピストン13のオイルリングによりオイルパン1aに掻き落とされること、ひいては同オイルパン1a内のオイルに燃料による希釈が生じることは抑制される。
【0054】
また、上記噴き分け噴射を行う際の噴き分け率Kは、上述したように吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブとの開弁期間終期とが接近するほど、ポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射の割合が多くなるように「1.0」に近い値に設定される。このように噴き分け率Kを設定することで、吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブ28との開弁期間終期との接近状態に合わせて、上記噴き分け率KをPM発生の抑制、PNの減少、及びオイルの燃料による希釈の抑制といった三者のバランスをとるうえで最適な値とすることができる。
【0055】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)内燃機関1の低温低負荷運転時であって吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態(マイナスバルブオーバーラップ状態)にあるときには、直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射が行われる。この直噴インジェクタ7からの燃料噴射では、ポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射と比較して、噴射される燃料の粒の径が大きくなるとともに同燃料の粒の数が少なくなる。このため、上述したマイナスバルブオーバーラップ状態での吸気バルブ26の開弁時に筒内の負圧により吸気ポート2aから同筒内に勢いよくガスが流入し、それによって直噴インジェクタ7から噴射された燃料の粒がシリンダ内壁3aやピストン頂部13aに付着したとしても同燃料の粒が多くはならない。従って、その燃料の粒が不完全燃焼によりPMになったときにPNが増加することを抑制できる。
【0056】
(2)上記PN増加の抑制を意図した直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射を行うに当たり、オイルパン1a内のオイルに関する油中希釈量が判定値未満という少ない値である旨判断された場合、そのときの状況に適した上記直噴インジェクタ7での燃料噴射時期を実現するための第1燃料噴射時期制御が行われる。この第1燃料噴射時期制御により、直噴インジェクタ7の燃料噴射時期が下死点寄りの値となるよう制御されると、ピストン13が直噴インジェクタ7から離れた状態で同直噴インジェクタ7からの燃料噴射が行われる。このため、直噴インジェクタ7から噴射された燃料の粒がピストン頂部13aに付着しにくくなり、そのピストン頂部13aに付着した燃料の粒が不完全燃焼によりPMになることを抑制でき、ひいては発生するPMの重量を低減できる。
【0057】
なお、上述したようにピストン13が直噴インジェクタ7から離れた状態で同直噴インジェクタ7からの燃料噴射を行うと、噴射された燃料の粒がピストン頂部13aには付着しにくくなるもののシリンダ内壁3aには付着しやすくなる。こうしたシリンダ内壁3aへの燃料の粒の付着が生じると、その燃料の粒がピストン13のオイルリングにより内燃機関1のオイルパン1aに掻き落とされるため、同オイルパン1a内に溜まったオイルの燃料による希釈が進むことは避けられない。ただし、こうしたオイルの燃料による希釈が進むとしても、そのときのオイルに関する油中燃料希釈量は上記判定値未満という小さい値であるため、上記オイルの燃料による希釈が問題となることはない。
【0058】
(3)上記PN増加の抑制を意図した直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射を行うに当たり、上記油中希釈量が判定値以上という多い値であって、且つ機関負荷が閾値未満という小さい値である旨判断された場合、そのときの状況に適した上記直噴インジェクタ7での燃料噴射時期を実現するための第2燃料噴射時期制御が行われる。この第2燃料噴射時期制御により、直噴インジェクタ7の燃料噴射時期が上死点寄りの値となるよう制御されると、ピストン13が直噴インジェクタ7に近い状態で同直噴インジェクタ7からの燃料噴射が行われる。このため、直噴インジェクタ7から噴射された燃料の粒がピストン頂部13aに付着しやすくなる一方でシリンダ内壁3aには付着しにくくなり、そのシリンダ内壁3aに付着した燃料の粒がピストン13のオイルリングによりオイルパン1aに掻き落とされることを抑制できる。従って、オイルパン1aに掻き落とされた燃料により、同オイルパン1a内のオイルの燃料による希釈が進むことを抑制でき、ひいては上記オイルに関する油中燃料希釈量が上記判定値から更に多くなることを抑制できる。
【0059】
(4)上記PN増加の抑制を意図した直噴インジェクタ7のみからの燃料噴射を行うに当たり、上記油中希釈量が判定値以上という多い値であって、且つ機関負荷が閾値以上という高い値である旨判断される状況では、内燃機関1全体での要求燃料噴射量Qfin が多くなる。このため、直噴インジェクタ7から噴射される燃料の量が多くなり、ピストン頂部13aに付着する燃料の量も多くなるおそれがある。そして、ピストン頂部13aに付着する燃料の量が多くなると、同ピストン頂部13aに付着した燃料の不完全燃焼により発生するPMの量が多くなる。こうしたことに対処するため、上述した状況が生じたときには、次の処理が実行される。すなわち、内燃機関1における吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブ28との開弁期間終期とを接近させることで吸気バルブ26が開弁するときの筒内の負圧が小さくされる(筒内の圧力が高くされる)一方、ポート噴射インジェクタ6と直噴インジェクタ7とでの噴き分け噴射が行われる。これにより、直噴インジェクタ7から噴射された燃料がピストン頂部13aに多量に付着すること、更には同燃料の不完全燃焼によって発生するPMの量が多くなることは抑制される。
【0060】
なお、吸気バルブ26が開弁するときの筒内の負圧が上述したように小さくなるため、ポート噴射インジェクタ6から噴射された径の小さい多数の燃料の粒が吸気バルブ26の開弁時に勢いよく筒内に流入してシリンダ内壁3aやピストン頂部13aに付着することは抑制される。従って、その多数の燃料の粒が不完全燃焼によりPMとなってPNが増加することはない。更に、ポート噴射インジェクタ6から噴射された燃料の粒がシリンダ内壁3aに付着することは抑制されるため、その燃料の粒がピストン13のオイルリングによりオイルパン1aに掻き落とされること、ひいては同オイルパン1a内のオイルに燃料による希釈が生じることは抑制される。
【0061】
(5)また、上記噴き分け噴射を行う際の噴き分け率Kは、吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブとの開弁期間終期とが接近するほど、ポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射の割合が多くなるように「1.0」に近い値に設定される。このように噴き分け率Kを設定することで、吸気バルブ26の開弁期間初期と排気バルブ28との開弁期間終期との接近状態に合わせて、上記噴き分け率KをPM発生の抑制、PNの減少、及びオイルの燃料による希釈の抑制といった三者のバランスをとるうえで最適な値とすることができる。
【0062】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・図4のPN低減ルーチンのS109での噴き分け噴射で用いられる噴き分け率Kに関しては、必ずしもマイナスバルブオーバーラップに応じて定められる値である必要はなく、例えばマイナスバルブオーバーラップが「0」になるときに適した値(例えば「1.0)に固定してもよい。
【0063】
・上記PN低減ルーチンにおけるS106、S108及びS109の処理については必ずしも実行する必要はなく、S104で否定判定がなされたときに直ちにS107の処理が実行されるようにしてもよい。
【0064】
・上記PN低減ルーチンにおけるS104、及びS106〜S109の処理については必ずしも実行する必要はなく、S103で肯定判定がなされたときに直ちにS105の処理が実行されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…内燃機関、1a…オイルパン、2…吸気通路、2a…吸気ポート、3…燃焼室、3a…シリンダ内壁、4…スロットルバルブ、5…アクセルペダル、6…ポート噴射インジェクタ、7…直噴インジェクタ、8…燃料タンク、9…フィードポンプ、10…高圧燃料ポンプ、12…点火プラグ、13…ピストン、13a…ピストン頂部、14…クランクシャフト、15…排気通路、16…電子制御装置(噴射制御手段、バルブ制御手段)、17…アクセルポジションセンサ、18…スロットルポジションセンサ、19…エアフローメータ、20…クランクポジションセンサ、21…吸気側カムポジションセンサ、22…排気側カムポジションセンサ、23…水温センサ、24…油温センサ、25…吸気カムシャフト、26…吸気バルブ、27…排気カムシャフト、28…排気バルブ、29…吸気側バルブタイミング可変機構(バルブ制御手段)、30…排気側バルブタイミング可変機構(バルブ制御手段)、31…低圧燃料配管、32…プレッシャレギュレータ、33…高圧燃料配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射インジェクタと筒内に燃料を噴射する直噴インジェクタとの少なくとも一方からの燃料噴射を行う内燃機関の制御装置において、
内燃機関の低温低負荷運転時であって同機関の吸気バルブの開弁期間初期と排気バルブの開弁期間終期とが重ならない状態にあるとき、前記直噴インジェクタのみからの燃料噴射を行う噴射制御手段を備える
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記噴射制御手段は、前記直噴インジェクタのみからの燃料噴射を行うに当たり、内燃機関のオイルに関する油中燃料希釈量が判定値未満であるときには、同油中燃料希釈量が前記判定値以上であるときよりも前記直噴インジェクタの燃料噴射時期を下死点寄りの値となるよう制御する
請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記噴射制御手段は、前記直噴インジェクタのみからの燃料噴射を行うに当たり、内燃機関のオイルに関する油中燃料希釈量が前記判定値以上であるときには、前記油中燃料希釈量が前記判定値未満であるときよりも前記直噴インジェクタの燃料噴射時期を上死点寄りの値となるよう制御する
請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の内燃機関の制御装置において、
前記噴射制御手段によって前記直噴インジェクタのみからの燃料噴射を行うに当たり、前記油中燃料希釈量が前記判定値以上であって、且つ機関負荷が前記低温低負荷運転時である旨判断されたときよりも低い閾値以上であるとき、内燃機関における前記吸気バルブの開弁期間初期と前記排気バルブの開弁期間終期とが接近するよう、前記吸気バルブと前記排気バルブとの少なくとも一方の開閉特性を変化させるバルブ制御手段を更に備え、
前記噴射制御手段は、前記バルブ制御手段を通じて前記開閉特性が変化するとき、前記ポート噴射インジェクタからの噴射と前記直噴インジェクタからの噴射との噴き分け率を定め、その噴き分け率をもって前記ポート噴射インジェクタからの噴射と前記直噴インジェクタからの噴射とを行う
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記噴射制御手段は、前記バルブ制御手段を通じて内燃機関における前記吸気バルブの開弁期間初期と前記排気バルブとの開弁期間終期とが接近するよう前記吸気バルブと前記排気バルブとの少なくとも一方の開閉特性が変化するとき、前記吸気バルブの開弁期間初期と前記排気バルブの開弁期間終期とが接近するほど、前記ポート噴射インジェクタからの燃料噴射の割合が多くなるよう前記噴き分け率を設定する
請求項4記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87705(P2013−87705A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230021(P2011−230021)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】