説明

内燃機関の可変容量型過給機

【課題】タービン及びコンプレッサのそれぞれに可動ベーン機構を設けてもそれらの駆動機構の大型化を抑えることが可能な内燃機関の可変容量型過給機を提供する。
【解決手段】タービン2及びコンプレッサ3の両者に可動ベーン機構が設けられた可変容量型過給機1において、排気側可動ベーン機構及び吸気側可動ベーン機構との間でアクチュエータ41を共用し、そのアクチュエータ41の動作を駆動機構40により両可動ベーン機構に伝達して各可動ベーン機構の可動ベーンを開閉動作させる。駆動機構40には、排気側可動ベーン機構の可動ベーンが駆動されている状態で、吸気側可動ベーン機構の可動ベーンを可動させずに休止させる休止機構70を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動ベーンを操作して過給効率を変化させることが可能な内燃機関の可変容量型過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に使用される過給機として、コンプレッサのディフューザ部に複数の可動ベーンを環状の列をなすように配置し、それらの可動ベーンを操作することにより過給効率を変化させる可変ジオメトリ型の過給機が知られている(例えば特許文献1参照)。その他、本願発明に関連する先行技術文献として特許文献2及び3が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−163691号公報
【特許文献2】特開平8−254127号公報
【特許文献3】特開2006−169985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タービンの可動ベーンをアクチュエータで駆動する可変ノズル型のターボチャージャに、上述した可変ジオメトリ型のコンプレッサを組み合わせた場合、タービン側の可動ベーンとコンプレッサ側の可動ベーンとをそれぞれ別のアクチュエータにて駆動する構成とすれば、二つのアクチュエータが存在して駆動機構が大型化し、過給機の搭載スペースが増加するといった不都合が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、タービン及びコンプレッサのそれぞれに可動ベーン機構を設けたときの駆動機構の大型化を抑えることが可能な内燃機関の可変容量型過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の可変容量型過給機は、可動ベーンの開閉動作によりタービンホイールに導入される排気の流路の断面積を変化させる排気側可動ベーン機構を有するタービンと、可動ベーンの開閉動作によりコンプレッサホイールから送り出される吸気の流路の断面積を変化させる吸気側可動ベーン機構を有するコンプレッサと、前記排気側可動ベーン機構及び吸気側可動ベーン機構との間で共用されるアクチュエータを有し、該アクチュエータの動作を前記両可動ベーン機構に伝達して各可動ベーン機構の可動ベーンを開閉動作させる駆動機構と、を備え、前記駆動機構には、前記排気側可動ベーン機構の可動ベーンが駆動されている状態で、前記吸気側可動ベーン機構の可動ベーンを可動させずに休止させる休止機構が設けられているものである(請求項1)。
【0007】
本発明の可変容量型過給機によれば、排気側可動ベーン機構及び吸気側可動ベーン機構のそれぞれの可動ベーンを共通のアクチュエータにて駆動するため、各可動ベーン機構に専用のアクチュエータを設けた場合と比較してアクチュエータの個数を削減することができる。そのため、可動ベーン機構に対する駆動機構の大型化を抑え、過給機の搭載に要するスペースを削減することが可能である。しかも、駆動機構に休止機構が設けられているため、タービン側の可動ベーンが駆動されているにも関わらず、コンプレッサ側の可動タービンが可動せずに休止している状態を生じさせることができる。そのため、タービン側における可動ベーンの開度の増加率と、コンプレッサ側における可動ベーンの回動の増加率との間に差を生じさせ、それにより、コンプレッサ側の可動ベーンの動作に関する設定の自由度を高めることができる。
【0008】
本発明の一形態において、前記休止機構は、前記排気側可動ベーン機構の可動ベーンの開度が大きい開状態から該排気側可動ベーン機構の可動ベーンの開度が小さい閉状態までの可動区間において前記閉状態より相対的に閉状態に近い領域で、前記吸気側可動ベーン機構の可動ベーンが休止するように設けられてもよい(請求項2)。これによれば、排気側可動ベーン機構における可動ベーンの開度が相対的に小さい領域で吸気側可動ベーン機構の可動ベーンが休止する。例えば、内燃機関の始動時、あるいはアイドリング運転時にタービン側及びコンプレッサ側のそれぞれの可動ベーンが閉じ、回転数の上昇に伴ってタービン側の可動ベーンが開き始めるようにアクチュエータの動作を制御した場合には、そのタービン側の可動ベーンの開度の増加に対して、コンプレッサ側の可動ベーンの開度を相対的に小さい状態に維持することができる。そのため、吸気流量が比較的小さい運転領域でコンプレッサ側の可動ベーンの開度を小さく制限してコンプレッサの効率を高めることができる。
【0009】
本発明の一形態においては、前記排気側可動ベーン機構の操作入力部及び前記吸気側ベーン駆動機構の操作入力部のそれぞれの操作方向が前記タービン及び前記コンプレッサの周方向に設定され、前記吸気側可動ベーン機構における前記操作入力部の操作方向と該吸気側可動ベーン機構の可動ベーンの開閉方向との関係が、前記排気側可動ベーン機構における前記操作入力部の操作方向と該排気側可動ベーン機構の可動ベーンの開閉方向との関係に対して逆に設定され、前記駆動機構は、前記アクチュエータによって回転駆動される出力軸と、前記出力軸の中心に対して一方の側と前記排気側可動ベーン機構の操作入力部との間に介在して前記出力軸の回転を当該排気側可動ベーン機構の操作入力部の回転に変換する排気側連係機構と、前記出力軸の前記中心に対して他方の側と前記吸気側可動ベーン機構の操作入力部との間に介在して前記出力軸の回転を当該吸気側可動ベーン機構の操作入力部の回転に変換する吸気側連係機構とを備えていてもよい(請求項3)。これによれば、アクチュエータにて出力軸を回転させることにより、その回転運動が連係機構を介して排気側可動ベーン機構の操作入力部及び吸気側可動ベーン機構の操作入力部に対して周方向に互いに逆向きに伝達される。そのため、例えば、一方の可動ベーン機構が開方向に動作すれば、他方の可動ベーン機構も開方向に動作する等、アクチュエータが発生させる一方向の回転運動により一対の可動ベーン機構のそれぞれの可動ベーンを同一方向に動作させることができる。
【0010】
上記の形態において、前記排気側連係機構には、前記出力軸と一体に回転する排気側連動部材が設けられ、前記吸気側連係機構には、前記出力軸の回りに回転自在な吸気側連動部材が設けられ、前記排気側連動部材及び前記吸気側連動部材のいずれか一方の連動部材には凸部が、前記他方の連動部材には前記出力軸の周方向に一定の範囲で延びるスライド溝がそれぞれ設けられ、前記凸部が前記スライド溝に摺動自在に嵌め合わされて前記休止機構が実現されてもよい(請求項4)。これによれば、出力軸の回転に伴って排気側連動部材が回転して排気側可動ベーン機構の操作入力部が回転しても、凸部がスライド溝内を摺動する間は吸気側連動部材が回転せず、吸気側可動ベーン機構の操作入力部には回転が伝達されない。これにより、排気側可動ベーン機構の可動ベーンが駆動している状態で、吸気側可動ベーン機構の可動ベーンを可動させずに休止させる領域を生じさせることができる。
【0011】
さらに、上記の形態においては、前記排気側可動ベーン機構の操作入力部と前記吸気側可動ベーン機構の操作入力部とがタービン軸からみて同一の側に配置され、前記出力軸は前記タービン軸と平行に配置され、前記排気側連係機構は、前記排気側連動部材及び前記排気側可動ベーン機構の操作入力部のそれぞれに対して回転自在に連結される排気側ロッドを含み、前記吸気側連係機構は、前記吸気側連動部材及び前記吸気側可動ベーン機構の操作入力部のそれぞれに対して回転自在に連結される吸気側ロッドを含んでいてもよい(請求項5)。これによれば、アクチュエータの出力軸を一方向に回転させると、まず排気側可動ベーン機構の操作入力部が排気側ロッドを介して押し出されるか又は引き寄せられ、吸気側可動ベーン機構の操作入力部は休止機構による休止期間を経た後に、吸気側ロッドを介して引き寄せられるか又は押し出される。その結果、周方向に関して両可動ベーン機構の操作入力部が互いに逆向きに操作されて可動ベーンが同一方向に動作する。
【0012】
本発明の一形態においては、前記排気側可動ベーン機構の可動ベーンが開方向に動作するときは前記吸気側可動ベーン機構の可動ベーンも開方向に動作するように前記駆動機構と両可動ベーン機構の操作入力部とがそれぞれ接続され、前記排気側可動ベーン機構及び前記吸気側可動ベーン機構の少なくとも一方には、前記可動ベーンを開方向に動作させる際に前記操作入力部に加えるべき開方向駆動力を、前記可動ベーンを閉方向に動作させる際に前記操作入力部に加えるべき閉方向駆動力よりも低減させる手段が設けられてもよい(請求項6)。この形態によれば、排気側可動ベーン機構の可動ベーン及び吸気側可動ベーン機構の可動ベーンを共通のアクチュエータにて同一方向に動作させることができる。しかも、少なくとも一方の可動ベーン機構の開方向駆動力を閉方向駆動力よりも低減させる手段を設けているので、その手段を省略した場合と比較して、二つの可動ベーン機構のそれぞれの操作入力部に加えるべき開方向駆動力が小さくて足りる。従って、アクチュエータに要求される出力を減少させ、それによりアクチュエータの小型化、ひいては過給機のさらなる小型化を図ることができる。なお、可動ベーンを開く際の排気又は吸気の抵抗は、可動ベーンを閉じる際の抵抗よりも相対的に増加する傾向がある。そのため、開方向駆動力を閉方向駆動力よりも低減させることがアクチュエータの小型化を図る上で効果が大きい。
【0013】
さらに、前記低減させる手段として、前記可動ベーンの回転中心から該可動ベーンの外周側の端縁までの距離が、前記中心位置から該可動ベーンの内周側の端縁までの距離よりも大きく設定されていてもよい(請求項7)。これによれば、排気又は吸気の流れが可動ベーンに与える力により、可動ベーンに開方向のモーメントを作用させることができる。これにより、排気又は吸気が可動ベーンに与える力を、開方向駆動力に対するアシスト力として利用して操作入力部にアクチュエータが加えるべき開方向駆動力を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上に説明したように、本発明の可変容量型過給機においては、排気側可動ベーン機構及び吸気側可動ベーン機構のそれぞれの可動ベーンを共通のアクチュエータにて駆動できるため、各可動ベーン機構に専用のアクチュエータを設けた場合と比較してアクチュエータの個数を削減し、それにより可動ベーン機構に対する駆動機構の大型化を抑え、過給機の搭載に要するスペースを削減することが可能である。しかも、駆動機構に休止機構が設けられているため、コンプレッサ側の可動ベーンの動作に関する設定の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一形態に係るターボチャージャのタービン側の部分破断側面図。
【図2】本発明の一形態に係るターボチャージャのコンプレッサ側の部分破断側面図。
【図3】本発明の一形態に係るターボチャージャの軸線方向に沿った部分断面図。
【図4】タービン側の可動ベーン機構における操作レバーからアームまでの構成を示す図。
【図5】タービン側の可動ベーン機構における可動ベーン周囲の構成を示す図。
【図6】コンプレッサ側の可動ベーン機構における操作レバーからアームまでの構成を示す図。
【図7】コンプレッサ側の可動ベーン機構における可動ベーン周囲の構成を示す図。
【図8】一部の可動ベーンを拡大して示す図。
【図9】可動ベーンが最大限に閉じた状態におけるモータの出力軸と排気側及び吸気側の連係機構との関係を示す図。
【図10】図9の状態から排気側可動ベーンを開く方向に出力軸が回転した状態を示す図。
【図11】図10の状態から出力軸が同一方向にさらに回転して排気側及び吸気側のそれぞれの可動ベーンが開方向に動作するときの状態を示す図。
【図12】モータの回転角度と可動ベーンの開度との関係を示す図。
【図13】吸気流量、吸気側可動ベーンの開度及びコンプレッサ効率の関係の一例を示す図。
【図14】可動ベーンを開方向に駆動する際のモーメントを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図3は本発明の一形態に係る可変容量型過給機としてのターボチャージャを示している。ターボチャージャ1は、タービン2と、コンプレッサ3とを備えている。タービン2は、タービンハウジング4と、そのタービンハウジング4の内部に配置されたタービンホイール5とを有している。タービンハウジング4は、不図示の内燃機関(以下、エンジンと称する。)の排気通路の途中に設けられており、その外周には排気通路の上流側(つまりエンジンの排気ポート側)と接続される排気入口4aが、中心部には排気通路の下流側と瀬接続される排気出口4bがそれぞれ設けられている。なお、図3ではタービンハウジング4及びその周囲の構成に関して図示を省略している。タービンホイール5にはタービン軸6が同軸的に形成され、そのタービン軸6はベアリングハウジング7内の軸受部8により回転自在に支持されている。
【0017】
一方、コンプレッサ3は、コンプレッサハウジング10と、そのコンプレッサハウジング10の内部に配置されたコンプレッサホイール11とを備えている。コンプレッサハウジング10はエンジンの吸気通路の途中に設けられており、その中心部にはエンジンの吸気通路の上流側と接続される吸気入口10aが、外周には吸気通路の下流側と接続される吸気出口10bがそれぞれ設けられている。コンプレッサホイール11は、タービン軸6の先端部に一体回転可能に取り付けられている。
【0018】
図1及び図2では図示を省略したが、タービン2及びコンプレッサ3には、さらに可動ベーン機構が設けられている。また、また、ターボチャージャ1には、それらの可動ベーン機構を駆動するための駆動機構40がさらに設けられている。
【0019】
図4及び図5はタービン2側の可動ベーン機構(以下、これを排気側可動ベーン機構と呼ぶ。)20の詳細を示している。なお、図4及び図5のいずれも、タービン2を図1と同一の方向(図3の矢印I方向に相当)から見たときの状態を示している。
【0020】
排気側可動ベーン機構20は、タービンホイール5の背後、つまりベアリングハウジング7側に配置されたベースプレート21と、そのベースプレート21の表面にピン22を軸として回転自在に取り付けられた多数の可動ベーン23と、ベースプレート21の裏面側に配置されたベーン操作機構24とを備えている。可動ベーン23は、タービンハウジング4内に流入した排気がタービンホイール5の外周に導かれるように排気の流れを方向付ける翼型形状の部品である(図8参照)。つまり、可動ベーン23間の隙間がタービンホイール5に向かう排気の流路となる。各可動ベーン23はピン22の一端部に一体回転可能に取り付けられている。ピン22の周方向のピッチは一定である。それらのピン22を軸として可動ベーン23が回転することにより、可動ベーン23がそれらの間の排気の流路を開閉するように回転してその排気流路の断面積が変化する。なお、図5においては、可動ベーン23間の排気流路が開いた状態を実線で示している。一部の可動ベーン23に関しては、それらの間の排気流路がほぼ閉じるまで回転した状態を想像線で示している。
【0021】
ベーン操作機構24は、駆動リング25と、その駆動リング25の内側に配置された多数のベーンアーム26と、一対のベーンアーム26間に配置された一本の駆動アーム27と、その駆動アーム27とピン28を介して一体に回転可能に接続された操作レバー29とを備えている。操作レバー29がベーン操作機構24における操作入力部である。駆動リング25は、ベースプレート21に取り付けられた適宜数のローラ21aにより、タービン軸6(図3)の軸線を中心として回転可能に支持されている。ベーンアーム26の個数は可動ベーン23と同数である。各ベーンアーム26は、ベースプレート21を貫いて裏面側に突出したピン22の他端部と一体回転可能に接続されている。従って、可動ベーン23とベーンアーム26とはピン22を軸として一体に回転する。
【0022】
駆動リング25の内周には、多数のベーンアーム用溝部25aと、一対の溝部25a間に位置する駆動アーム用溝部25bとが設けられている。ベーンアーム用溝部25aはベーンアーム26と同数設けられており、それらの周方向のピッチは一定である。各ベーンアーム用溝部25aにはベーンアーム26の先端部26aが嵌り合っている。一方、駆動アーム用溝部25bには駆動アーム27の先端部27aが嵌り合っている。従って、操作レバー29を図4の矢印Ct方向(時計方向)に回転操作すると、その回転がピン28から駆動リング25を経由して駆動リング25に伝わって駆動リング25が同一方向に回転し、これに連動して各ベーンアーム26がピン22を中心として図4及び図5の時計方向に回転する。これにより、可動ベーン23もピン22を中心として時計方向に回転し、可動ベーン23間の排気流路の断面積が減少する。一方、操作レバー29を図4の矢印Ot方向(反時計方向)に回転操作すると、駆動リング25が上記とは反対方向に回転し、それに伴って可動ベーン23がピン22を中心として反時計方向に回転する。それにより可動ベーン23間の排気流路の断面積が増加する。つまり、駆動リング25がタービン軸6の回転方向Rと同一方向に回転すれば可動ベーン23が開き、駆動リング25がタービン軸6の回転方向Rと逆方向に回転すれば可動ベーン23が閉じる。
【0023】
図6及び図7はコンプレッサ3側の可動ベーン機構(以下、これを吸気側可動ベーン機構と呼ぶ。)30の詳細を示している。なお、図6及び図7のいずれも、コンプレッサ3を図2と同一の方向(図3の矢印II方向に相当)から見たときの状態を示している。
【0024】
吸気側可動ベーン機構30は、コンプレッサホイール11の背後、つまりベアリングハウジング7側に配置されたベースプレート31と、そのベースプレート31の表面にピン32を軸として回転自在に取り付けられた多数の可動ベーン33と、ベースプレート31の裏面側に配置されたベーン操作機構34とを備えている。可動ベーン33は、コンプレッサホイール11の中心部に流入した吸気がコンプレッサホイール11の外周に導かれるように吸気の流れを方向付ける翼型形状の部品である。つまり、可動ベーン33間の隙間がコンプレッサホイール11から送り出される吸気の流路となる。各可動ベーン33はピン32の一端部に一体回転可能に取り付けられている。ピン32の周方向のピッチは一定である。それらのピン32を軸として可動ベーン33が回転することにより、可動ベーン33がそれらの間の吸気の流路を開閉するように回転してその吸気流路の断面積が変化する。なお、図7においては、可動ベーン33間の吸気流路が開いた状態を実線で示している。一部の可動ベーン33に関しては、それらの間の吸気流路がほぼ閉じるまで回転した状態を想像線で示している。
【0025】
ベーン操作機構34は、駆動リング35と、その駆動リング35の内側に配置された多数のベーンアーム36と、一対のベーンアーム36間に配置された一本の駆動アーム37と、その駆動アーム37とピン38を介して一体に回転可能に接続された操作レバー39とを備えている。操作レバー39がベーン操作機構34における操作入力部である。その操作レバー39は、タービン軸6からみて排気側可動ベーン機構20の操作レバー29と同一の側(例えば図1においてタービン軸の右側)に配置されている。駆動リング35は、ベースプレート31に取り付けられた適宜数のローラ31aにより、タービン軸6(図3)の軸線を中心として回転可能に支持されている。ベーンアーム36の個数は可動ベーン33と同数である。各ベーンアーム36は、ベースプレート31を貫いて裏面側に突出したピン32の他端部と一体回転可能に接続されている。従って、可動ベーン33とベーンアーム36とはピン32を軸として一体に回転する。
【0026】
駆動リング35の内周には、多数のベーンアーム用溝部35aと、一対の溝部35a間に位置する駆動アーム用溝部35bとが設けられている。ベーンアーム用溝部35aはベーンアーム36と同数設けられており、それらの周方向のピッチは一定である。各ベーンアーム用溝部35aにはベーンアーム36の先端部36aが嵌り合っている。一方、駆動アーム用溝部35bには駆動アーム37の先端部37aが嵌り合っている。従って、操作レバー39を図6の矢印Cc方向(時計方向)に回転操作すると、その回転がピン38から駆動リング35を経由して駆動リング35に伝わって駆動リング35が同一方向に回転し、これに連動して各ベーンアーム36がピン32を中心として図6及び図7の時計方向に回転する。これにより、可動ベーン33もピン32を中心として時計方向に回転し、可動ベーン33間の吸気流路の断面積が減少する。一方、操作レバー39を図6の矢印Oc方向(反時計方向)に回転操作すると、駆動リング35が上記とは反対方向に回転し、それに伴って可動ベーン33がピン32を中心として反時計方向に回転する。それにより可動ベーン33間の吸気流路の断面積が増加する。つまり、駆動リング35がタービン軸6の回転方向Rと同一方向に回転すれば可動ベーン33が閉じ、駆動リング25がタービン軸6の回転方向Rと逆方向に回転すれば可動ベーン33が開く。操作レバー39の操作方向と可動ベーン33の開閉方向との関係は、排気側可動ベーン機構20における操作レバー29の操作方向と可動ベーン23の開閉方向との関係に対して逆である。
【0027】
図8に示すように、排気側可動ベーン機構20の可動ベーン23に対するピン22の取付位置は、可動ベーン23の長手方向の中心位置よりも可動ベーン23の後縁(内周側の端縁)23b側に偏っている。すなわち、可動ベーン23の全長をLa、ピン22から可動ベーン23の前縁(外周側の端縁)23aまでの距離をLbとしたとき、ピボット比Lb/Laが下式(1)で示すように0.5より大きくなるようにピン22の取付位置が定められている。可動ベーン23は、排気の流れ方向をタービンホイール5の周方向から半径方向中心側に偏向させるものであることから、その排気の流れが衝突する表面23c側が裏面23d側よりも排気からより大きな力を受ける。そして、可動ベーン23の前縁23aからピン22までの間では排気から受ける力で可動ベーン23に開方向のモーメントが作用し、ピン22から後縁23bまでの間では可動ベーン23に閉方向のモーメントが作用する。それらのモーメントの大小関係はピン22から前縁23a、後縁23bまでのそれぞれの距離の大小関係に依存する。そのため、ピボット比を上記の通りに設定すれば、可動ベーン23にはこれを開く方向のモーメントMoが作用する。すなわち、排気側可動ベーン機構20では、可動ベーン23を開方向に動作させる際に操作レバー29に入力すべき開方向駆動力が、可動ベーン23を閉方向に動作させる際に操作レバー29に入力すべき閉方向駆動力よりも低減される。
【0028】
【数1】

【0029】
また、吸気側可動ベーン機構30の可動ベーン33に対するピン32の取付位置も図8と同様に設定されている。すなわち、図8の可動ベーン23を可動ベーン33に置き換えたとき、そのピボット比は上式(1)の通りである。従って、可動ベーン33に関しても、これをピン32の回りに開く方向のモーメントが作用する。よって、吸気側可動ベーン機構30においても、可動ベーン33を開方向に動作させる際に操作レバー39に入力すべき開方向駆動力が、可動ベーン33を閉方向に動作させる際に操作レバー39に入力すべき閉方向駆動力よりも小さくなる。
【0030】
図1及び図2に示すように、駆動機構40は、単一の電動モータ41を有している。電動モータ41は可動ベーン機構20、30の間で共用されて、可動ベーン23、33のそれぞれの駆動源として機能するアクチュエータである。電動モータ41の回転は減速機構42で減速されて出力軸43から取り出される。出力軸43はタービン軸6と平行に設けられており、電動モータ41によりその中心線の回りに一定の角度範囲内で回転駆動される。駆動機構40の出力軸43は、リンク機構45を介して可動ベーン機構20、30のそれぞれの操作レバー29、39と接続されている。
【0031】
リンク機構45は、出力軸43の中心に対して一方の側と排気側可動ベーン機構20の操作レバー29との間に介在して出力軸43の回転を操作レバー29の回転に変換する排気側連係機構50と、出力軸43の中心に対して他方の側と吸気側可動ベーン機構30の操作レバー39との間に介在して出力軸43の回転を操作レバー39の回転に変換する吸気側連係機構60とを備えている。図9〜図11にも示したように、排気側連係機構50は、出力軸43に対して半径方向外側に延びるように連結された排気側連動部材としての排気側レバー51と、その排気側レバー51の先端にピン52を介して回転自在に連結された排気側ロッド53と、その排気側ロッド53と排気側可動ベーン機構20の操作レバー29とを回転自在に連結するピン54とを備えている。一方、吸気側連係機構60は、出力軸43に対して排気側レバー51とは半径方向反対側に延ばされた吸気側連動部材としての吸気側レバー61と、その吸気側レバー61の先端にピン62を介して回転自在に連結された吸気側ロッド63と、その吸気側ロッド63と吸気側可動ベーン機構30の操作レバー39とを回転自在に連結するピン64とを備えている。
【0032】
図9〜図11から明らかなように、吸気側レバー61は、円盤状のベース61aと、そのベース61aから半径方向外側に突出するアーム61bとを備えている。ベース61aは出力軸43に対して回転自在に嵌め合わされている。吸気側ロッド63はアーム61bの先端部にピン62を介して連結されている。ベース61aには、周方向に円弧を描くように延びるスライド溝61cが設けられている。一方、排気側レバー51は出力軸43の半径方向に延びるロッド形状であり、出力軸43とは一体回転可能に連結されている。排気側レバー51上には凸部51aが一体的に設けられており、その凸部51aはスライド溝61cに摺動自在に嵌め合わされている。従って、出力軸43に連動して排気側レバー51が回転する場合、凸部51aがスライド溝61c内を滑っている間は吸気側レバー61に回転が伝達されず、出力軸43が回転して排気側可動ベーン機構20の可動ベーン23が動作しても吸気側可動ベーン機構30の可動ベーン33は休止する。一方、凸部51aがスライド溝61cの端部と噛合った後は吸気側レバー61が排気側レバー51と連動して回転する。よって、排気側レバー51も吸気側連係機構60の構成要素として機能する。また、凸部51aとスライド溝61cとの組み合わせによって休止機構70が実現される。さらに、吸気側レバー61のベース61aには、図9の半径方向下方に突出するストッパアーム61dが一体に設けられている。そのストッパアーム61dは、出力軸43の近傍の定位置に固定されたストッパブロック71と当接可能である。
【0033】
図9は、両可動ベーン機構20、30の可動ベーン23、33が最大限に閉じた位置にあるときのレバー51、61の位置を示している。この状態から、駆動機構40のモータ41によって出力軸43が矢印O方向(図2も参照)に回転駆動された場合、排気側レバー51も同一方向に回転し、それに伴って排気側ロッド53は引き上げられる。これにより、操作レバー29は、図2に矢印Otで示したように、タービン軸6の回転方向Rと同一方向に回転駆動される。図4及び図5から明らかなように、操作レバー29が回転方向Rと同一方向に駆動される場合には、可動ベーン23がそれらの間の流路を開く方向(矢印Ot方向)に回転する。つまり、排気側可動ベーン機構20の可動ベーン23が最大限に閉じた位置にある状態から、出力軸43が矢印O方向に回転すれば、その可動ベーン23は直ちに開方向に動作する。
【0034】
一方、図9の状態から出力軸43が矢印O方向に回転しても、排気側レバー51の凸部51aがスライド溝61cの上端側(出力軸43の回転方向側に相当)の端部に接するまでの間は凸部51aがスライド溝61c内を摺動するだけであり、吸気側レバー61には回転が伝達されない。この間、吸気側レバー61はそのストッパアーム61dがストッパブロック71に接した状態で停止する。従って、出力軸43が回転しても吸気側可動ベーン機構30の可動ベーン33は最大限に閉じた位置にて休止する。この間が休止機構70による休止区間である。
【0035】
図10に示すように、凸部51aがスライド溝61cの上端側の端部と噛み合うと、凸部51aからベース61aへの回転伝達が開始され、その後は図11に矢印Oで示すように吸気側レバー61が排気側レバー51と同一方向に回転する。吸気側レバー61が図1及び図11の矢印O方向に回転すれば、吸気側ロッド63は押し下げられ、操作レバー39は図1に示したタービン軸6の回転方向Rと逆方向(矢印Oc方向)に回転する。図6及び図7から明らかなように、操作レバー39がタービン軸6の回転方向Rと逆方向に回転すれば、可動ベーン33がそれらの間の流路を開く方向(矢印Oc方向)に回転する。従って、休止機構70の休止期間を過ぎれば、両可動ベーン機構20、30の可動ベーン23、33はいずれも開方向に動作する。
【0036】
図12は、可動ベーン23、33が最大限に閉じている状態(図9の状態)からのモータ41の開方向への回転角度θと可動ベーン23、33の開度Oとの関係を示している。回転角度θが回転開始位置θ0から所定量θaに達するまで、言い換えると、可動ベーン23の開度Oが所定量Oaに達するまでの休止区間では、吸気側、すなわちコンプレッサ側の可動ベーン33が最小開度(最大限に閉じた状態)Ominに保持される。回転角度θが所定量θaを超えると可動ベーン33の開度Oが回転角度θの上昇に比例して増加する。一方、排気側、すなわちタービン側の可動ベーン23の開度は回転開始位置θ0から回転角度θの上昇に比例して増加する。なお、図12の例では、両可動ベーン23、33の最大開度(最大限に開いた状態)Omaxが一致しているが、そのためには休止期間外におけるモータ41の単位回転量に対する可動ベーン33の回転量を可動ベーン23のそれよりも大きく設定する必要がある。そのためには、例えば操作レバー29、39の腕の長さといった連係機構50、60の構成要素の寸法、取付位置等を適宜に調整すればよい。
【0037】
可動ベーン23、33が開いている状態(例えば図11の状態)から出力軸43が反対方向(矢印C方向)に回転駆動された場合には、排気側レバー51も同一方向に回転し、それに伴って排気側ロッド53は押し下げられる。これにより、操作レバー29は図2に矢印Ctで示すように、タービン軸6の回転方向Rと逆方向に回転駆動される。図4及び図5から明らかなように、操作レバー29が回転方向Rと逆方向に駆動される場合には、可動ベーン23がそれらの間の流路を閉じる方向(矢印Ct方向)に回転する。つまり、排気側可動ベーン機構20の可動ベーン23が開いた状態から、出力軸43が矢印C方向に回転すれば、可動ベーン23は直ちに閉方向に動作する。
【0038】
一方、可動ベーン23、33が開いた状態から出力軸43が矢印C方向に回転しても、排気側レバー51の凸部51aがスライド溝61cの下端側(出力軸43の回転方向側に相当)の端部に接するまでの間は、凸部51aがスライド溝61c内を摺動するだけであり、吸気側レバー61には回転が伝達されない。この間、吸気側レバー61は停止する。従って、出力軸43が回転しても吸気側可動ベーン機構30の可動ベーン33は休止する。そして、凸部51aがスライド溝61cの端部に噛み合うと、凸部51aからベース61aへの回転伝達が開始され、その後は吸気側レバー61が排気側レバー51と同一方向に回転する。吸気側レバー61が図1の矢印C方向に回転すれば、吸気側ロッド63は引き上げられ、操作レバー39は図1に矢印Ccで示すように、タービン軸6の回転方向Rと同一方向に回転する。図6及び図7から明らかなように、操作レバー39がタービン軸6の回転方向Rに回転すれば、可動ベーン33がそれらの間の流路を閉じる方向(矢印Cc方向)に回転する。従って、休止機構70の休止期間を過ぎれば、両可動ベーン機構20、30の可動ベーン23、33はいずれも閉方向に動作する。
【0039】
以上に説明したように、本形態のターボチャージャ1によれば、単一の電動モータ41により、タービン2側の可動ベーン23とコンプレッサ3側の可動ベーン33とを開方向又は閉方向に駆動することができる。従って、タービン側及びコンプレッサ側のそれぞれに専用のアクチュエータを設ける場合と比較して小型軽量化を図ることができる。そのため、車両のエンジンルームにターボチャージャ1を収容する際のスペース上の制約を緩和することができる。これにより、車両の軽量化、コストダウンも図ることが可能である。
【0040】
本形態において、可動ベーン23、33の開度制御に関しては、公知の可変容量型のターボチャージャのそれと同様とすればよい。すなわち、エンジンの始動時、あるいはエンジンがアイドリング運転をしている時には可動ベーン23、33をいずれも最大限に閉じておき、エンジンの回転数の上昇に伴って可動ベーン23がまず開き、遅れて可動ベーン33が開くように電動モータ41の動作を制御すればよい。また、エンジンの回転数が低下する際には可動ベーン23、33をいずれも閉じ側に駆動すればよい。エンジンの回転数及び負荷に対して目標過給圧を設定し、その目標過給圧が得られるように可動ベーン23、33の開度をフィードバック制御してもよい。
【0041】
上記のようにエンジンの運転状態に応じて可動ベーン23、33の開度を制御する場合には、エンジン回転数が低くて吸気流量が小さい運転領域(モード域と呼ばれることがある。)において、コンプレッサ側の可動ベーン33が最大限に閉じた状態に保持されるので、コンプレッサ効率を向上させることが可能である。すなわち、図13に示したように、コンプレッサの効率はその可動ベーン33の開度によって変化し、開度が小さいときはコンプレッサ効率のピークが小流量側に、開度が大きいときはコンプレッサ効率のピークが大流量に、開度が中程度のときはコンプレッサ効率のピークが中間域にそれぞれ変化する。従って、エンジンの始動時、あるいはアイドリング運転時にコンプレッサ側の可動ベーン33を最大限に閉じた状態に保持しておけば、モード域とコンプレッサ効率のピーク域とを合わせるようにしてターボチャージャ1を運転させることができ、モード域における燃費向上、あるいは排気エミッションの改善等を図ることができる。
【0042】
本形態のターボチャージャ1では、共通の電動モータ41にて可動ベーン23、33の両者を駆動しているので、タービン2側の可動ベーン23の開度が決まれば、コンプレッサ3側の可動ベーン33の開度も一義的に定まる。そのため、タービン側又はコンプレッサ側のいずれか一方の可動ベーンに関する制御プログラムが存在していれば、それを利用して可動タービン23、33の両者の開度を最適に制御できる利点がある。例えば、同一仕様のタービンに関して、エンジンの回転数及び負荷に応じて可動ベーン23の開度を最適に制御するプログラムが存在していれば、そのプログラムに従って可動ベーン23を動作させつつ、可動ベーン23の開度(位置)に応じてコンプレッサ効率が最大となる可動ベーン33の開度のデータを予め取得し、得られたデータに従って可動ベーン33が動作するように出力軸43と吸気側ロッド63、操作レバー39の長さ寸法、取付位置等を調整しておくことにより、タービン2側の可動ベーン23の制御プログラムを利用するだけでコンプレッサ3側の可動ベーン33の開度も最適に制御することができる。ちなみに、可動ベーン23、33をそれぞれ別々のアクチュエータで駆動する場合には、例えばタービン2側の可動ベーン23の開度をフィードバック制御しつつ、その制御効果として現れる過給圧や空気流量等の状態量を検出した上でコンプレッサ効率が最大となるように可動ベーン33の開度を制御する必要があり、制御パラメータが増えて制御が複雑化し、両者の制御の応答性に差が生じれば、過給性能が損なわれる。これに対して本形態では、タービン側又はコンプレッサ側のみに可動ベーンが存在するターボチャージャと同様の制御で足り、制御が容易でかつ応答遅れによる過給性能の低下が生じるおそれもない。
【0043】
本形態のターボチャージャ1では、可動ベーン23、33のピボット比を上記の通りに設定することにより、可動ベーン23、33を開方向に動作させる際に排気又は吸気の流れを利用して可動ベーン23、33に開方向のアシスト力を作用させ、それにより操作レバー29、39に入力べき駆動力を軽減している。従って、可動ベーン23、33を開方向に駆動する際に必要な電動モータ41の出力トルクを低減することができる。すなわち、図14に示したように、出力軸43とロッド53、63との連結点に位置するピン52、62には、可動ベーン23、33が排気から受ける力に対応するアシスト力FAvn、FAvgcが可動ベーン23、33を開く方向(矢印A方向)に作用し、その一方で、可動ベーン23、33を閉じる方向(矢印B方向)に駆動抵抗FBvn、FBvgcが作用する。出力軸43の中心からロッド53、63の連結点であるピン52、62までの距離をLvn、Lvgcとすれば、可動ベーン23、33を開くために出力軸43の中心の回りに発生させるべき駆動トルク(モーメント)Tmは下式(2)で与えられる。
【0044】
【数2】

【0045】
式(2)の括弧内は、可動ベーン23、33のピボット比を上記の通りに設定したことによって発生するモーメントであり、その方向は可動ベーン23、33を開く方向に駆動する際の出力軸43の回転方向(駆動トルクTmの方向)と一致する。従って、同一方向のモーメントが得られない場合、あるいは逆方向のモーメントが生じる場合と比較して、電動モータ41の出力トルクが小さくて足りる。よって、単一の電動モータ41にてタービン2側の可動ベーン23及びコンプレッサ3側の可動ベーン33の両者を駆動する構成であっても、電動モータ41に要求される定格トルクを減少させ、それによりモータ41の小型化、軽量化を図ることができる。なお、式(2)は、モータ41にて両可動ベーン23、33を駆動する際に成立するものであり、休止期間においては吸気側可動ベーン33の駆動抵抗及びアシスト力が除かれてモータ41のトルクはより小さくて足りる。
【0046】
本発明は上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、上記の形態では、吸気側レバー61のスライド溝61cと排気側レバー51の凸部51aとを組み合わせて休止機構70を実現しているが、例えば排気側レバー51にスライド溝を、吸気側レバー61に凸部を設けて休止機構を実現してもよい。その他、休止機構は、出力軸の回転を排気側可動ベーン機構の操作入力部に伝達する一方で、所定の回転角度範囲では出力軸から吸気側可動ベーン機構の操作入力部への伝達を阻止する構成であれば足り、リンク機構、カム機構といった適宜の伝達機構を単独であるいは組み合わせて休止機構を構成することができる。
【0047】
上記の形態では、タービン2側の可動ベーン23が最大限に閉じた状態から開方向に一定量駆動されるまでの間、コンプレッサ3側の可動ベーン33が可動せずに休止するように休止機構70を構成しているが、コンプレッサ側の可動ベーンの休止区間はそのような例に限らず、適宜に設定することが可能である。例えば、開き始めから暫くの間は両可動ベーン23、33が開方向に駆動され、途中からタービン2側の可動ベーン23が引き続き駆動されてもコンプレッサ3側の可動ベーン33が休止するように休止機構70を構成してもよい。また、休止機構は排気側可動ベーン機構20の可動ベーン23の開度が大きい開状態から排気側可動ベーン機構20の可動ベーン23の開度が小さい閉状態までの区間を可動区間とした場合において、その可動区間内で上記閉状態より相対的に閉状態に近い領域で吸気側可動ベーン機構30の可動ベーン33が休止するように設けられてもよい。そのように休止機構を構成すれば、吸気流量が比較的小さい領域で休止区間を生じさせることが可能であり、コンプレッサ効率を高める上で有利である。
【0048】
上記の形態では、操作レバー29、39の開方向駆動力を閉方向駆動力よりも低減させる手段として、可動ベーン23、33のピボット比を(1)式の通りに設定したが、いずれか一方の可動ベーン機構のみ、ピボット比を(1)式のように設定した場合でも、両可動ベーン機構のピボット比が(1)式を満たさない場合と比較して電動モータ41の出力トルクを低減することが可能である。また、ピボット比に限らず、ばね等の手段により可動ベーンに開方向の力を付与することにより、電動モータ等のアクチュエータに要求される駆動力を低減することが可能である。さらに、排気側及び吸気側のそれぞれの可動ベーン機構において開方向駆動力が閉方向駆動力以上に設定した場合でも十分な能力を有するアクチュエータを設置可能な場合には、開方向駆動力を閉方向駆動力よりも低減させる手段を省略可能である。
【0049】
上述した排気側可動ベーン機構20及び吸気側可動ベーン機構30の構成は一例であり、それらの可動ベーン機構は、可動ベーンの開閉動作によって排気又は吸気の流路の断面積を変化させるように構成されている限り、適宜に変更されてよい。アクチュエータは電動モータに限らず、流体圧あるいは電力を利用して駆動力を発生する装置であれば適宜に変更可能である。アクチュエータ及びその出力軸の配置、排気側連係機構及び吸気側連係機構の構成も図示例に限らず、例えば直線運動型のアクチュエータの動作をギア、レバー、リンク等の各種の機械要素を利用して可動ベーン機構の操作入力部に伝達するといった変更が可能である。その場合も休止機構は上記のような変形が適宜可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 ターボチャージャ(可変容量型過給機)
2 タービン
3 コンプレッサ
20 排気側可動ベーン機構
23 可動ベーン
29 操作レバー(操作入力部)
30 吸気側可動ベーン機構
33 可動ベーン
40 駆動機構
41 電動モータ(アクチュエータ)
43 出力軸
45 リンク機構
50 排気側連係機構
51 排気側レバー(排気側連動部材)
51a 凸部
53 排気側ロッド
60 吸気側連係機構
61 吸気側レバー(吸気側連動部材)
61c スライド溝
63 吸気側ロッド
70 休止機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動ベーンの開閉動作によりタービンホイールに導入される排気の流路の断面積を変化させる排気側可動ベーン機構を有するタービンと、
可動ベーンの開閉動作によりコンプレッサホイールから送り出される吸気の流路の断面積を変化させる吸気側可動ベーン機構を有するコンプレッサと、
前記排気側可動ベーン機構及び吸気側可動ベーン機構との間で共用されるアクチュエータを有し、該アクチュエータの動作を前記両可動ベーン機構に伝達して各可動ベーン機構の可動ベーンを開閉動作させる駆動機構と、
を備え、
前記駆動機構には、前記排気側可動ベーン機構の可動ベーンが駆動されている状態で、前記吸気側可動ベーン機構の可動ベーンを可動させずに休止させる休止機構が設けられている、内燃機関の可変容量型過給機。
【請求項2】
前記休止機構は、前記排気側可動ベーン機構の可動ベーンの開度が大きい開状態から該排気側可動ベーン機構の可動ベーンの開度が小さい閉状態までの可動区間において前記閉状態より相対的に閉状態に近い領域で、前記吸気側可動ベーン機構の可動ベーンが休止するように設けられている請求項1に記載の内燃機関の可変容量型過給機。
【請求項3】
前記排気側可動ベーン機構の操作入力部及び前記吸気側ベーン駆動機構の操作入力部のそれぞれの操作方向が前記タービン及び前記コンプレッサの周方向に設定され、
前記吸気側可動ベーン機構における前記操作入力部の操作方向と該吸気側可動ベーン機構の可動ベーンの開閉方向との関係が、前記排気側可動ベーン機構における前記操作入力部の操作方向と該排気側可動ベーン機構の可動ベーンの開閉方向との関係に対して逆に設定され、
前記駆動機構は、前記アクチュエータによって回転駆動される出力軸と、前記出力軸の中心に対して一方の側と前記排気側可動ベーン機構の操作入力部との間に介在して前記出力軸の回転を当該排気側可動ベーン機構の操作入力部の回転に変換する排気側連係機構と、前記出力軸の前記中心に対して他方の側と前記吸気側可動ベーン機構の操作入力部との間に介在して前記出力軸の回転を当該吸気側可動ベーン機構の操作入力部の回転に変換する吸気側連係機構とを備えている、請求項1又は2に記載の内燃機関の可変容量型過給機。
【請求項4】
前記排気側連係機構には、前記出力軸と一体に回転する排気側連動部材が設けられ、前記吸気側連係機構には、前記出力軸の回りに回転自在な吸気側連動部材が設けられ、前記排気側連動部材及び前記吸気側連動部材のいずれか一方の連動部材には凸部が、前記他方の連動部材には前記出力軸の周方向に一定の範囲で延びるスライド溝がそれぞれ設けられ、前記凸部が前記スライド溝に摺動自在に嵌め合わされて前記休止機構が実現されている、請求項3に記載の内燃機関の可変容量型過給機。
【請求項5】
前記排気側可動ベーン機構の操作入力部と前記吸気側可動ベーン機構の操作入力部とがタービン軸からみて同一の側に配置され、
前記出力軸は前記タービン軸と平行に配置され、
前記排気側連係機構は、前記排気側連動部材及び前記排気側可動ベーン機構の操作入力部のそれぞれに対して回転自在に連結される排気側ロッドを含み、
前記吸気側連係機構は、前記吸気側連動部材及び前記吸気側可動ベーン機構の操作入力部のそれぞれに対して回転自在に連結される吸気側ロッドを含んでいる、請求項4に記載の内燃機関の可変容量型過給機。
【請求項6】
前記排気側可動ベーン機構の可動ベーンが開方向に動作するときは前記吸気側可動ベーン機構の可動ベーンも開方向に動作するように前記駆動機構と両可動ベーン機構の操作入力部とがそれぞれ接続され、
前記排気側可動ベーン機構及び前記吸気側可動ベーン機構の少なくとも一方には、前記可動ベーンを開方向に動作させる際に前記操作入力部に加えるべき開方向駆動力を、前記可動ベーンを閉方向に動作させる際に前記操作入力部に加えるべき閉方向駆動力よりも低減させる手段が設けられている請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の可変容量型過給機。
【請求項7】
前記低減させる手段として、前記可動ベーンの回転中心から該可動ベーンの外周側の端縁までの距離が、前記中心位置から該可動ベーンの内周側の端縁までの距離よりも大きく設定されている請求項6に記載の内燃機関の可変容量型過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−209867(P2010−209867A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59174(P2009−59174)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】