説明

内燃機関の排ガス浄化装置

【課題】本発明は、内燃機関の冷態始動時における触媒の活性化判定に用いて好適の、排ガス触媒装置に関し、コスト増を図ることなく容易に且つ正確に触媒の活性化を判定できるようにする。
【解決手段】 内燃機関の排気通路に設けられた排気浄化触媒の下流側に酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段を設け、上記酸素濃度検出手段からの検出情報に基づいて排気空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう排気の空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させて、触媒下流の酸素濃度の変化から活性化度合いを判定するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガス浄化装置に関し、特に内燃機関の冷態始動時における触媒の活性化判定に用いて好適の、排ガス触媒装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジン(内燃機関)から排出される排ガスを浄化する目的として、排気通路中には三元触媒等の排気浄化触媒(以下、単に触媒という)が配設されている。そして、この触媒による酸化又は還元作用(例えばCO+O→CO2 など)により、排ガス中の有害物質が無害化されて大気に放出される。
ここで、一般に触媒は所定の活性化温度未満では排ガスを十分浄化することができないという特性を有しており、エンジンの冷態始動時には速やかに触媒を活性化温度まで昇温させる必要がある。
【0003】
このため、エンジンの冷態始動時には、空燃比を所定の空燃比に設定してオープンループ制御を行い、所定時間が経過すると触媒が活性化温度に達したものと判定して、その後、空燃比のフィードバック制御へ切り替えられる。
しかしながら、このような制御では触媒の温度をタイマにより推定しているため、触媒の活性状態を正確に把握することができず、触媒の活性化の判定精度が低いという課題があった。なお、触媒自体に温度センサ等を直接設けることも考えられるが、このような温度センサを設けた場合にはコスト増を招くため現実な解決手段ではなかった。
【0004】
このような課題を解決することを目的とした従来技術の一つとして、下記の特許文献1に開示された技術が挙げられる。具体的には、この特許文献1では、触媒が活性化すると触媒に酸素が吸着されることを前提とし、排気通路中に介装された触媒の上流側及び下流側にそれぞれ排気空燃比センサとしてO2 センサを設けるとともに、上流側O2 センサの上流側に2次エアを供給する2次エア供給手段を設け、触媒に2次エアを断続的に供給して酸素濃度を変化させ、下流側O2 センサの出力変化が低下すると、触媒が活性化したと判定している。
【特許文献1】特許第3369722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような特許文献1に開示された技術では、2次エア供給手段を設ける必要があるので、装置の構成及び制御が複雑となり、大幅なコスト増を招くという課題がある。
また、特許文献1に開示された手法では2次エアの供給量(O2 量)を増減させているため、平均的にストイキオよりもリーンな雰囲気下における酸素吸蔵量で触媒の活性化を判定している(例えば、特許文献1の図5参照)。
【0006】
この場合O2 センサの出力は触媒における未燃燃料と酸素との反応の挙動を示す指標となるが、特許文献1のような技術では、リーン下で酸素量を制御しているため反応の挙動は小さい。したがって、センシング結果がはっきり得られず、O2 センサ出力値をモニタリングしても触媒の活性化を正確に判定するのは困難であるという課題がある。
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、コスト増を招くことなく容易に且つ正確に触媒の活性化を判定できるようにした、内燃機関の排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明の内燃機関の排ガス浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられ該内燃機関から排出される排気を浄化する排気浄化触媒と、該排気浄化触媒の下流側に設けられて該排気中の酸素濃度を検出する下流側酸素濃度検出手段と、該内燃機関の始動後に作動し、該排気浄化触媒を通過した排気の空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう該排気の空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させる空燃比変動制御手段と、該空燃比変動制御手段の作動中に、該下流側酸素濃度検出手段からの検出情報を監視する監視手段と、該監視手段の監視結果に基づき該排気浄化触媒の活性化度合いを判定する活性化判定手段とを有することを特徴としている(請求項1)。
【0008】
また、請求項1において、該排気浄化触媒の上流側に設けられて該排気中の酸素濃度を検出する上流側酸素濃度検出手段と、該上流側酸素濃度検出手段からの検出情報に基づき内燃機関の実空燃比を目標空燃比に近づけるようにフィードバック制御するフィードバック制御手段とをそなえ、該空燃比変動制御手段が、該フィードバック制御手段の作動開始前に作動開始するのが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、本発明の内燃機関の排ガス浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられ該内燃機関から排出される排気を浄化する排気浄化触媒と、該排気浄化触媒の上流側に設けられて該排気中の酸素濃度を検出する上流側酸素濃度検出手段と、該排気浄化触媒の下流側に設けられて該排気中の酸素濃度を検出する下流側酸素濃度検出手段と、該内燃機関の始動後に作動し、該排気浄化触媒を通過した排気の空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう該排気の空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させる空燃比変動制御手段と、該空燃比変動制御手段の作動中に、該上流側酸素濃度検出手段と該下流側酸素濃度検出手段との出力を監視する監視手段と、該監視手段で監視された該両酸素濃度検出手段の出力値のリーン空燃比側の振幅に基づき該排気浄化触媒の活性化度合いを判定する活性化判定手段とを有することを特徴としている(請求項3)。
【0010】
また、請求項3において、該上流側酸素濃度検出手段からの検出情報に基づき内燃機関の実空燃比を目標空燃比に近づけるようにフィードバック制御するフィードバック制御手段をそなえ、該空燃比変動制御手段が、該フィードバック制御手段の作動開始前に作動開始するのが好ましい(請求項4)。
また、請求項2又は4において、該活性化判定手段が該排気浄化触媒の活性化を判定した後に、フィードバック制御手段が作動するのが好ましい(請求項5)。
【0011】
また、請求項2〜5のいずれか1項において、該上流側酸素濃度検出手段の出力変化よりも該下流側酸素濃度検出手段の出力変化が所定の閾値を越えたとき、触媒が活性化したと判定するのが好ましい(請求項6)。
なお、「出力変化が所定の閾値を越えたとき」とは、出力変化を「出力値の平均値の変化」として捉えた場合には、所定の閾値以上となったとき触媒が活性化したと判定し、出力変化を「酸素濃度のリッチ側検出値とリーン側検出値との差(=振幅)の変化」と捉えた場合には、出力変化(振幅)が所定値よりも小さくなったとき、触媒が活性化したと判定するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内燃機関の排ガス制御装置によれば、排気空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう排気空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させると、排気浄化触媒が活性化したときに排気中の酸素がHCやCO等の還元剤と反応して排気浄化触媒よりも下流側では排気空燃比が全体的にリッチ化するため、触媒活性化時には下流側酸素濃度検出手段で得られる検出結果が酸素濃度が低い側(リッチ側)に収束していくので、検出結果にはっきりとした変化が現れる。したがって、監視手段における監視が容易であり、触媒の活性化を精度よく判定することができるという利点がある(請求項1)。
【0013】
また、空燃比変動制御手段がフィードバック制御手段の作動開始前に作動開始することで、例えば触媒の貴金属担持量を増やしたりすることなく、触媒の早期活性化を図ることができるという利点がある(請求項2,4)。
また、上流側及び下流側の2つの酸素濃度検出手段の出力値のリーン空燃比側の振幅に基づき触媒の活性化度合いを判定するので、より正確に触媒の活性化を判定することができる(請求項3)。
【0014】
また、活性化判定手段でより正確に、より早期に触媒の活性化を判定できるので、この判定結果を用いてフィードバック制御手段をより正確に、より早期に作動させることができる(請求項5)。
また、触媒の活性化の判定が容易となる(請求項6)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面により、本発明の一実施形態に係る内燃機関の排ガス浄化装置について説明すると、図1はその全体構成を示す模式図である。図示するように、エンジン(内燃機関)1の燃焼室1aの一方の側には、吸気弁(図示略)及び吸気ポート4を介して吸気通路2が接続されるとともに、他方の側には、排気弁(図示略)及び排気ポート5を介して排気通路3が接続されている。
【0016】
また、吸気通路2には、エアクリーナ2a,吸入空気量を検出するエアフローセンサ(AFS)2b,吸入空気量を制御するスロットルバルブ2c,上記スロットルバルブ2cの開度を検出するスロットルポジションセンサ(TPS)2d等が設けられている。また、吸気通路2には、噴射孔が吸気ポート4に臨むように、インジェクタ8が取り付けられており、また、燃焼室1aの略頂部に点火プラグ7が配設されている。
【0017】
なお、本実施形態では、スロットルバルブ2cは図示しないアクチュエータの作動により開度が制御されるような、いわゆるドライブバイワイヤ式の電子制御スロットルバルブ(ETV)が適用されている。
また、排気通路3には、排気浄化触媒としての三元触媒(以下、単に触媒と言う)6が設けられており、触媒6の上流側及び下流側のそれぞれには、排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段としてのO2 センサ3a,3bが設けられている。また、図示はしないが、エンジン1には上記以外にも、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ,冷却水の温度を検出する水温センサ,アクセル踏み込み量を検出するアクセル開度センサ及びアイドル運転を検出するアイドルスイッチ等の種々の公知のセンサ類が設けられている。
【0018】
また、このエンジン1には、点火タイミング,スロットル開度及び空燃比等を制御する制御手段としてのコントローラ(ECU)20が付設されており、このECU20の入力ポート(図示略)に上記の各センサ類が接続されて、これらのセンサからの検出情報がECU20に入力されるようになっている。
また、ECU20の出力ポート(図示略)には、点火プラグ7,インジェクタ8及びスロットルアクチュエータ(図2の符号9参照)が接続されており、各種センサからの情報に基づいて、点火タイミングの進角又は遅角制御、燃料噴射量制御、吸入空気量制御及び空燃比制御等が実行されるようになっている。
【0019】
このような構成により、スロットル弁2cの開度に応じエアクリーナ2aを通じて吸入された空気が吸気通路2及び吸気ポート4を介して燃焼室1a内に吸入され、この吸入空気とインジェクタ8から噴射された燃料とが燃焼室1a内で混合するようになっている。そして、燃焼室1a内で点火プラグ7を適宜のタイミングで点火させて混合気を燃焼させたのち、燃焼室1a内から排気ポート5を介して排気通路3へ排気ガスが排出され、触媒6で浄化されてから図示しないマフラで消音されて排出されるようになっている。
【0020】
次に、図2を用いて本装置の要部構成について説明すると、ECU20には、排気空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させる空燃比変動制御手段21と、上流側及び下流側O2 センサ3a,3bからの検出情報をモニタする監視手段22と、監視手段22の監視結果に基づいて触媒6の活性化度合いを判定する活性化判定手段23と、上流側O2 センサ3aからの検出情報に基づき内燃機関の実空燃比を目標空燃比に近づけるようにフィードバック制御するフィードバック制御手段24とをそなえている。
【0021】
ここで、空燃比変動制御手段21は、エンジン始動時においてエンジン1の冷却水温度が所定水温以下の冷態始動時であると、触媒6の早期活性化を図るため及び触媒6の活性化判定を行うために排気空燃比の変調制御を実行する手段であって、本実施形態においては、排気空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるように排気の空燃比を強制的にリッチとリーンとの間で変動させるようになっている。
【0022】
ここで、空燃比を変動させる理由について簡単に説明すると、空燃比を変動させて触媒6の上流と下流とのO2 センサ出力値を比較することで触媒6の活性化を判定することができるからである。
つまり、触媒6が未活性であれば、触媒6の上流と下流とで、排気中の成分変化はほとんど生じないため、触媒上流側の空燃比変動と下流側の空燃比変動とが略一致し、一方、触媒6が活性化すると、排気中の還元性ガス成分(CO,HC)が排気中の酸素(O2 )と反応するため、触媒下流側では排気中の酸素濃度が低下する。
【0023】
そこで、エンジン1の冷態始動時に、下流側O2 センサ3bからの検出情報に基づいて触媒6を通過した排気空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう排気の空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させ、触媒6の下流側のO2 濃度を検出することで触媒6の活性化を判定するようになっている。
なお、エンジン1の始動後に速やかに触媒6の活性化判定を精度良く実施するためには、活性化判定において有効な時間分解能が必要である。このため、リッチ空燃比とリーン空燃比との変動周波数が小さすぎると活性化判定に必要な時間が長くなり、判定精度が低下する。また、変動周波数が大きすぎると触媒入口のリーン及びリッチ時の排ガス濃度の差が緩和されて活性化判定に必要十分な変動を与えることができない。
【0024】
このため、リッチ空燃比及びリーン空燃比の変動周波数としては、1〜5Hz程度が好ましい。ただし、この周波数はエンジンの排気量や触媒の容量等、種々の諸元に応じて最適値に設定すればよく、上述の範囲には限定されない。
次に、監視手段22について説明すると、この監視手段22は空燃比変動制御手段21の作動中に、上流側O2 センサ3a及び下流側O2 センサ3bからの検出情報を取り込んで、これらのセンサからの情報を監視(モニタ)するとともに、これら2つの情報を比較する手段である。
【0025】
また、活性化判定手段23は、監視手段22で監視された2つのO2 センサ3a,3bの出力値のリーン空燃比側の振幅に基づいて触媒6の活性度合いを判定するものであって、具体的には、上流側O2 センサ3aの出力変化(特にリーン側の出力値の変化)よりも下流側O2 センサの出力変化(同じくリーン側の出力値の変化)が所定以上大きくなると触媒6が活性化したと判定するようになっている。
【0026】
また、フィードバック制御手段24は、活性化判定手段23により触媒6の活性化が判定されると、これ以降は上流側O2 センサ3aからの検出情報に基づいて実空燃比が理論空燃比となるようにフィードバック制御するようになっている。
つまり、冷態始動後、触媒6の活性化が判定されると、このフィードバック制御手段24による通常運転時の空燃比制御に移行して、触媒6の昇温制御及び活性化判定が終了するようになっている。
【0027】
本発明の一実施形態に係る内燃機関の排ガス浄化装置は上述のように構成されているので、その作用について図3を用いて説明すると以下のようになる。なお、図3(a)は冷態始後の下流側O2 センサ3bの出力変化を示すグラフ、(b)は上流側O2 センサ3aの出力変化を示すグラフ、(c)は触媒6のベッド温度の変化を示すグラフ、(d)は触媒6の入口温度の変化を示すグラフである。
【0028】
さて、エンジン1の始動時に水温等から冷態始動であることが判定されると、まず空燃比変動制御手段21が作動して、下流側O2 センサ3bからの検出情報に基づいて触媒6を通過した排気の空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう排気の空燃比がフィードバック制御される。この場合、ECU20では、フィードバック制御により設定される目標のリッチ空燃比及びリーン空燃比と、AFS2bから得られる吸入空気量とに基づいて、インジェクタ駆動時間を算出して、インジェクタ8に対する制御信号を出力する。
【0029】
これにより、リッチ空燃比及びリーン空燃比となるようにインジェクタ8から交互に燃料が噴射され、所定の制御周期で空燃比が変動することになる。
なお、この場合、リッチ空燃比では、CO(還元剤)に対する濃度比(CO/O2 )は1.5以上に設定するのが好ましい。これは、CO/O2 濃度比が1.5以上では触媒6の活性化を早めることができるからである。
【0030】
また、排気空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるような所定の目標リッチ空燃比及び目標リーン空燃比を予めECU20に記憶しておき、これらの目標リッチ空燃比及び目標リーン空燃比に基づいてオープンループ制御で空燃比を変動させてもよい。
このようにして空燃比に変動を与えると、触媒6が未活性であると、図3(a),(b)に示すように、触媒6の下流側の空燃比は上流側空燃比と同様に大きく変動する。また、このように空燃比に変動を与えることで、図3(c),(d)に示すように、触媒6の入口温度及び触媒6のベッド温度が上昇して触媒6の活性化が早められる。
【0031】
監視手段22では、このような上流側O2 センサ値と下流側O2 センサ値とをモニタしており、この結果が活性化判定手段23に出力される。また、活性化判定手段23では、監視手段22で監視された上流側O2 センサ値の振幅A1と下流側O2 センサ値の振幅A2とを比較して、この振幅の比A2/A1が所定値以下となると触媒が活性化したと判定する。
【0032】
つまり、触媒6のベッド温度が所定温度域に達すると、触媒6が活性化して、リッチ空燃比の時に多く存在するHCやCO等の還元成分がリーン空燃比の時に多く存在するO2と反応して、この結果O2 濃度が低下する。このため、相対的に触媒6の上流側の空燃比変動に対して触媒6の下流側の空燃比変動は小さくなり、特にリーン側の振れが小さくなる(O2 センサ値としてはリッチ側の値なる)。
【0033】
活性化判定手段23では、このような空燃比の変化に基づいて、触媒6における上流側の振幅A2と下流側の振幅A1との比A2/A1が所定値以下となると触媒6の活性化を判定するのである(図3の矢印参照)。
ここで、空燃比の振幅とはO2 センサ出力値の変化(=リッチ側センサ値−リーン側センサ値)であって、換言すると、上流側O2 センサ3aの出力変化よりも下流側O2 センサ3bの出力変化が所定以上小さくなると(例えば70パーセント以下となると)、触媒6が活性化したと判定しているのである。
【0034】
なお、この場合、ノイズや偶発的なO2 センサ値の変化等による誤判定を回避するべく、例えば所定周期の間、連続してA2/A1が所定値以下となった場合に触媒6が活性化したと判定するようになっている。また、誤判定を回避する手法はこれ以外にも公知の手法を種々適用可能であって、種々のフィルタリングやなまし制御を適用できる。
そして、このように触媒6の活性化を判定することで触媒6の温度を直接検出することなく、速やかに触媒の活性化判定を行うことができる。すなわち、図3(a),(c)に示すように、本装置による活性化判定時の触媒温度は、触媒6が活性化する温度(約350℃)と略一致しており、高い判定精度を得られることが確認できた。
【0035】
一方、活性化判定手段23により触媒6の活性化が判定されると、フィードバック制御手段24が作動して、この後は排気空燃比が理論空燃比となるように空燃比のフィードバック制御が実行される。
したがって、本発明の一実施形態に係る内燃機関の排ガス浄化装置によれば、温度センサ等のセンサ類を追加することなく、精度良く且つ速やかに触媒6の活性化判定を行うことができるという利点がある。すなわち、本実施形態にかかる排ガス浄化装置では、触媒6の上流と下流とにそれぞれリニアO2 センサ3a,3bを設けるという簡素な構成で触媒6の活性化を判定できるので、コスト増を極力抑制することができる。
【0036】
特に、本装置では単に空燃比をリッチとリーンとの間で変動させるのではなく、触媒下流の排気空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう変動させることで、活性化判定の精度を高めることができる。つまり、触媒6が活性化すると、触媒6の下流の排気空燃比はリッチ化するため、活性化の前後における空燃比の変化が顕著となり、高い精度で触媒6の活性化判定を行うことができるのである。
【0037】
換言すると、触媒下流の排気空燃比の平均値をストイキオよりもリッチ(触媒下流側におけるA/Fがトータルリッチ)とすることで、触媒6から流出した酸素が還元剤(CO,HC)と反応する際の挙動が大きくなり、下流側O2 センサ3bで得られるセンシング結果が明確なものとなる。
なお、背景技術の欄で挙げたような技術は、あくまで酸素吸蔵量に着目しており、還元剤(CO,HC)と酸素との反応量を精度よく検出することはできないが、本装置では還元剤(CO,HC)と酸素との反応量を検出することができ、この結果高い精度で触媒6の活性化判定を実行することができる。
【0038】
また、活性化判定手段23が触媒6の活性化を判定した後に、フィードバック制御手段24が作動して、触媒6の上流がストイキオとなるように排気空燃比がフィードバック制御されるので、排ガスの浄化効率を速やかに高めることができるという利点がある。
なお、上述では触媒6の上流側の空燃比変動の振幅A2と下流側の空燃比変動の振幅A1とに基づいて触媒6の活性化を判定しているが、触媒6の上流及び下流の空燃比変動のうち単にリーン側のセンサ値のみに着目して触媒の活性化を判定してもよい。つまり、触媒6が活性化すると、図3(a)に示すように、O2 センサ出力値のうちリーン側センサ値のみが変動しリッチ側に収束していく。このため、リーン側センサ値のみに着目しても触媒の活性化を判定することができる。
【0039】
この場合、上流側のリーン側センサ値と下流側センサ値とを比較して、連続した所定周期内におけるリーン側センサ値の変化が所定以上大きくなった場合、或いは上流側センサ値との比が所定の閾値を超えた場合に、触媒6が活性化したと判定すればよい。
次に、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の変形例について説明する。なお、この変形例ではハードウェア構成は上述の実施形態と同様であって、その作用のみが異なっている。したがって、以下では上述の実施形態と異なる部分について主に説明し、それ以外の部分については説明を省略する。
【0040】
さて、この変形例では、監視手段22は下流側O2 センサ3bからの情報をモニタしており、活性化判定手段23は、監視手段22の監視結果に基づいて触媒6の活性化度合い判定するようになっている。
つまり、上述した実施形態が、上流側O2 センサ3aと下流側O2 センサ3bとの出力の比較結果に基づいて触媒6の活性化を判定していたのに対し、この変形例では、下流側のO2 センサ3bの出力値のみに基づいて触媒6の活性化を判定するようになっており、この点でのみ、上述の実施形態と異なって構成されている。
【0041】
これは、排気空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう排気空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させると、すでに説明したように、触媒6が活性化したときに排気中の酸素がHCやCO等の還元剤と反応して、触媒下流側の排気空燃比がリーン化するという特性を有しているからである。つまり、図3(a)にも示すように、触媒6の活性化時には下流側O2 センサ3bで得られる検出結果がリッチ側に収束し、検出結果に明らかな変化が現れるため、下流側O2 センサ3bからの検出情報のみでも触媒6の活性化を精度良く判定することができるのである。
【0042】
この場合、具体的には空燃比をリッチとリーンとの間で強制的に変動させている状態において、下流側O2 センサ3bから得られる出力値のうち、リーン空燃比側の出力値が所定の空燃比よりもリッチとなると、触媒6が活性化したと判定するようになっている。なお、この場合にも、ノイズや偶発的なO2 センサ値の変化等による誤判定を回避するべく、上述したような種々の手法を適用可能である。
【0043】
そして、触媒6の活性化を判定すると、フィードバック制御手段24の作動が開始して、上流側O2 センサ3aの出力値がストイキオとなるように排気空燃比が制御されるようになっている。
なお、このようなリーン空燃比側の出力値のみで判定する以外にも、下流側O2 センサ3bから得られる出力値に基づいて、リッチ空燃比とリーン空燃比の変化(振幅)が所定値よりも小さくなったときに、触媒6が活性化したと判定するようにしてもよい。
【0044】
そして、このような変形例においても、上述した実施形態と同様の利点が得られるほか、下流側O2 センサ3bからの情報のみで触媒6の活性化を判定できるので、判定ロジックを簡素化することができ、より一層の低コスト化を図ることができるという利点がある。
以上、本発明の実施の形態及びその変形例について説明したが、本発明は上述の実施の形態に及びその変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。たとえば、本装置は触媒6の始動時以外の活性化判定や、触媒6の失活判定にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排ガス浄化装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排ガス浄化装置の要部構成を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排ガス浄化装置の作用を説明する図である。
【符号の説明】
【0046】
1 エンジン(内燃機関)
2 吸気通路
3 排気通路
3a 上流側O2 センサ(上流側酸素濃度検出手段)
3b 下流側O2 センサ(下流側酸素濃度検出手段)
6 触媒(排気浄化触媒)
20 ECU(制御手段)
21 空燃比変動制御手段
22 監視手段
23 活性化判定手段
24 フィードバック制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ該内燃機関から排出される排気を浄化する排気浄化触媒と、
該排気浄化触媒の下流側に設けられて該排気中の酸素濃度を検出する下流側酸素濃度検出手段と、
該内燃機関の始動後に作動し、該排気浄化触媒を通過した排気の空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう該排気の空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させる空燃比変動制御手段と、
該空燃比変動制御手段の作動中に、該下流側酸素濃度検出手段からの検出情報を監視する監視手段と、
該監視手段の監視結果に基づき該排気浄化触媒の活性化度合いを判定する活性化判定手段とを有する
ことを特徴とする、内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項2】
該排気浄化触媒の上流側に設けられて該排気中の酸素濃度を検出する上流側酸素濃度検出手段と、
該上流側酸素濃度検出手段からの検出情報に基づき内燃機関の実空燃比を目標空燃比に近づけるようにフィードバック制御するフィードバック制御手段とをそなえ、
該空燃比変動制御手段が、該フィードバック制御手段の作動開始前に作動開始する
ことを特徴とする、請求項1記載の内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に設けられ該内燃機関から排出される排気を浄化する排気浄化触媒と、
該排気浄化触媒の上流側に設けられて該排気中の酸素濃度を検出する上流側酸素濃度検出手段と、
該排気浄化触媒の下流側に設けられて該排気中の酸素濃度を検出する下流側酸素濃度検出手段と、
該内燃機関の始動後に作動し、該排気浄化触媒を通過した排気の空燃比の平均値がストイキオよりもリッチとなるよう該排気の空燃比をリーン空燃比側とリッチ空燃比側との間で強制的に変動させる空燃比変動制御手段と、
該空燃比変動制御手段の作動中に、該上流側酸素濃度検出手段と該下流側酸素濃度検出手段との出力を監視する監視手段と、
該監視手段で監視された該両酸素濃度検出手段の出力値のリーン空燃比側の振幅に基づき該排気浄化触媒の活性化度合いを判定する活性化判定手段とを有する
ことを特徴とする、内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項4】
該上流側酸素濃度検出手段からの検出情報に基づき内燃機関の実空燃比を目標空燃比に近づけるようにフィードバック制御するフィードバック制御手段をそなえ、
該空燃比変動制御手段が、該フィードバック制御手段の作動開始前に作動開始する
ことを特徴とする、請求項3記載の内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項5】
該活性化判定手段が該排気浄化触媒の活性化を判定した後に、フィードバック制御手段が作動する
ことを特徴とする、請求項2又は4記載の内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項6】
該上流側酸素濃度検出手段の出力変化よりも該下流側酸素濃度検出手段の出力変化が所定の閾値を超えたとき、触媒が活性化したと判定する
ことを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項記載の内燃機関の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−144656(P2008−144656A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332022(P2006−332022)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】