説明

内燃機関の空燃比制御装置

【課題】内燃機関の空燃比制御装置に関し、空燃比の変動を抑制しつつ、キャニスタに吸着された蒸発燃料を十分にパージすることを可能にする。
【解決手段】吸気通路に付着している壁面付着燃料の付着状態の安定度に関係するパラメータとして、基本付着割合WPBSに対するその平滑値WPの偏差ΔWPを取得する(ステップS100乃至S110)。この偏差ΔWPの値に応じて、吸入空気に対する蒸発燃料の限界供給割合という意味を有する限界補正量LMTWP1を決定する(ステップS112)。この限界補正量LMTWP1から制限値MX1を算出し(ステップS114)、この制限値MX1を超えないように限界パージ率PGRLMTを設定する(ステップS122)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の空燃比制御装置に関し、詳しくは、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着するキャニスタを備え、燃料噴射弁から吸気通路に噴射される燃料とともにキャニスタからパージされたパージガスも内燃機関の燃料として使用可能な内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、燃料噴射弁から噴射された燃料の一部は、吸気通路の壁面に付着し、その直後の燃焼には使用されない。内燃機関の定常運転時には、新たな付着量と脱離量とが平衡するために壁面付着燃料量は略一定となり、燃焼に使用される燃料量が結果的に燃料噴射量と一致する。これに対して、内燃機関の過渡運転時には、吸入空気量や燃料噴射量の増減に伴い、壁面付着燃料量に変化が生ずる。壁面付着燃料量が増加する場合は、燃焼に用いられる燃料量が燃料噴射量に比して少量となり空燃比のリーン化を招く。一方、壁面付着燃料量が減少する過程では、燃料噴射量より多くの燃料が燃焼に使用されて空燃比のリッチ化を招く。このため、内燃機関の過渡運転時には、壁面付着燃料量の変化が相殺されるように、機関回転速度、負荷、及び冷却水温度に基づいて補正燃料量が算出され、燃料噴射量の増量補正または減量補正が施されている。
【0003】
ところで、車両用の内燃機関には、燃料タンクで発生する蒸発燃料を吸着して貯えるキャニスタが備えられている。キャニスタに貯えられた蒸発燃料は内燃機関の運転中、吸気通路の負圧を利用してキャニスタからパージされる。キャニスタからパージされた蒸発燃料はキャニスタの大気孔から導入される空気によって希釈されてパージガスとなり、吸気通路に供給されて燃焼室内で燃焼処理される。このような内燃機関では、空燃比の制御精度を常に良好に維持するため、キャニスタからの蒸発燃料のパージ中、パージガスに含まれる蒸発燃料の分だけ燃料噴射量の減量が行われている。
【特許文献1】特開平6−146965号公報
【特許文献2】特開平5−113140号公報
【特許文献3】特開平8−74684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャニスタからの蒸発燃料のパージの有無は、壁面への燃料の付着に大きく影響する。蒸発燃料は燃料噴射弁から噴射される液体燃料に比較して壁面に付着し難いため、燃焼室内に供給される総燃料量中の蒸発燃料の割合が高くなるほど、同一の運転条件(機関回転速度、負荷、冷却水温度)において壁面に付着する燃料量は減少することになる。さらに、蒸発燃料のパージの有無は、壁面への燃料の付着量や壁面からの燃料の脱離量に影響するのみならず、吸気通路の壁面に付着している燃料量の安定量、すなわち、安定壁面付着燃料量にも影響する。具体的には、蒸発燃料のパージが行われているときには、燃料噴射弁からの燃料噴射量が少なくなる分、パージがカットされているときよりも安定壁面付着燃料量は少量になる。このため、パージが実行されたときには、安定壁面付着燃料量の減少に伴って壁面からの燃料の脱離が進み、壁面付着燃料量が安定壁面付着燃料量に達するまでの間は、燃焼室内に供給される燃料量が過剰になって空燃比がリッチ化してしまう。
【0005】
内燃機関では、排気ガスセンサの信号に基づく空燃比フィードバック制御が行われているため、空燃比に一時的なずれが生じたとしても、燃料噴射量の補正によってやがては目標空燃比に収束する。しかし、壁面付着燃料量の変化に起因する空燃比のずれを空燃比フィードバック制御で吸収する場合、フィードバック補正係数の定常成分やその学習値に壁面付着燃料量の変化が反映されてしまうため、壁面付着燃料量の安定後も暫くの間は空燃比に変動が残ることになる。空燃比の変動が吸収されるまでにはある程度の時間を要し、その間は良好なエミッション特性を得ることができない。
【0006】
上記のような蒸発燃料のパージに起因する空燃比の変動に関する問題は、燃料の壁面付着が多くなる冷間始動時や、燃料カットや燃料増量からの復帰時のように壁面付着燃料の付着状態が不安定となる状況において特に顕著になる。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、空燃比の変動を抑制しつつ、キャニスタに吸着された蒸発燃料を十分にパージすることのできる内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の空燃比制御装置であって、
内燃機関の吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着するキャニスタと、
蒸発燃料を含むパージガスを前記キャニスタから前記吸気通路に流入させるパージ機構と、
内燃機関の排気通路に配置されて排気ガスの空燃比に応じた信号を出力する排気ガスセンサと、
目標空燃比と前記排気ガスセンサの信号に対応する空燃比とのずれに応じて、目標空燃比を実現するために燃料噴射量に施すべき補正係数(以下、フィードバック補正係数)を算出するフィードバック補正係数算出手段と、
パージガスの空燃比への影響を相殺するために燃料噴射量に施すべき補正係数(以下、パージ補正係数)を算出するパージ補正係数算出手段と、
基本燃料量に前記フィードバック補正係数及びパージ補正係数を反映させたものを前記燃料噴射弁の燃料噴射量として算出する燃料噴射量算出手段と、
前記吸気通路に付着している壁面付着燃料の付着状態の安定度に関係するパラメータを取得し、前記パラメータの値に応じて前記パージ機構の作動量に制限を加えるパージ制限手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記パージ制限手段は、吸入空気に対する蒸発燃料の供給割合を前記パラメータの値から決まる最大値以下に抑えるように前記パージ機構の作動量に制限を加えることを特徴としている。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記パージ制限手段は、パージガスのパージ率を前記パラメータの値から決まる最大値以下に抑えるように前記パージ機構の作動量に制限を加えることを特徴としている。
【0011】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記パージ制限手段は、パージガスの流量を変化させる際の変化速度を前記パラメータの値から決まる最大値以下に抑えるように前記パージ機構の作動量に制限を加えることを特徴としている。
【0012】
第5の発明は、第1乃至第4の何れか1つの発明において、
前記パージ制限手段は、パージガスのパージ率を変化させる際の変化速度を前記パラメータの値から決まる最大値以下に抑えるように前記パージ機構の作動量に制限を加えることを特徴としている。
【0013】
第6の発明は、第1乃至第5の何れか1つの発明において、
前記パージ制限手段は、基本燃料量に増量要求に応じた増量係数と前記パージ補正係数とを反映させたものと基本燃料量に前記増量係数のみを反映させたものとの比率を算出し、前記比率と前記比率を時間方向に平滑化して得られる平滑値との偏差を前記パラメータとして取得することを特徴としている。
【0014】
第7の発明は、第1乃至第6の何れか1つの発明において、
前記パージ制限手段は、内燃機関の冷却水温を前記パラメータとして取得することを特徴としている。
【0015】
第8の発明は、第1乃至第7の何れか1つの発明において、
前記パージ制限手段は、燃料カットからの復帰後の経過時間を燃料カットが実行されていた時間で補正した値を前記パラメータとして取得することを特徴としている。
【0016】
第9の発明は、第1乃至第8の何れか1つの発明において、
前記パージ制限手段は、燃料噴射量の増量のために基本燃料量に反映される増量係数と前記増量係数を時間方向に平滑化して得られる平滑値との偏差を前記パラメータとして取得することを特徴としている。
【0017】
第10の発明は、第1乃至第9の何れか1つの発明において、
前記パージ制限手段は、内燃機関の始動後の燃料噴射回数を前記パラメータとして取得することを特徴としている。
【0018】
第11の発明は、第1乃至第10の何れか1つの発明において、
空燃比の安定度に関係する第2のパラメータを取得し、前記第2のパラメータの値に応じてパージガスのパージ率を補正するパージ補正手段をさらに備えることを特徴としている。
【0019】
第12の発明は、第11の発明において、
前記パージ補正手段は、燃料噴射量の増量のために基本燃料量に反映される増量係数を前記フィードバック補正係数に加算したものを前記第2のパラメータとして取得することを特徴としている。
【0020】
第13の発明は、第11又は第12の発明において、
前記パージ補正手段は、前記パラメータの値を前記フィードバック補正係数に反映させたものを前記第2のパラメータとして取得することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
吸気通路へのパージガスの供給量はパージ機構の作動状態に応じて変化し、パージガス供給量の変化は空燃比に影響を与える。第1の発明によれば、燃料噴射弁の燃料噴射量の算出にあたり基本燃料量にフィードバック補正係数とは別にパージ補正係数も反映されることで、パージガスの空燃比への影響が排除される。ところが、パージの開始に伴って燃料噴射弁の燃料噴射量が減少すると、吸気通路の壁面に付着すべき燃料量、すなわち、安定壁面付着燃料量も減少する。このため、パージの開始時には、その前後における安定壁面付着燃料量の差を補償するように壁面からの燃料の脱離が起こり、それに起因して空燃比に変動が生じることになる。この点に関し、第1の発明によれば、吸気通路に付着している壁面付着燃料の付着状態の安定度に応じてパージ機構の作動量に制限が加えられるので、キャニスタに吸着された蒸発燃料のパージは十分に行いつつ、パージに伴う空燃比の変動を抑制することができる。
【0022】
第2の発明によれば、吸入空気に対する蒸発燃料の供給割合が燃料付着状態の安定度の低さに応じて制限され、パージに対応して実施される燃料噴射量の減量方向の補正量が低減されることで、パージに起因する壁面付着燃料量の変化は抑制される。また、パージガスの燃料濃度が濃いときにはパージ率は低く抑えられ、パージガスの燃料濃度が薄いときにはパージ率は高くされるので、燃料濃度の濃淡に係わらずパージに伴う空燃比の変動を抑制しながら、キャニスタに吸着された蒸発燃料を十分にパージすることができる。
【0023】
第3の発明によれば、パージガスのパージ率が燃料付着状態の安定度の低さに応じて制限され、パージに対応して実施される燃料噴射量の減量方向の補正量が低減されることで、パージに起因する壁面付着燃料量の変化は抑制される。
【0024】
第4の発明によれば、パージガスの流量を変化させる際の変化速度が燃料付着状態の安定度の低さに応じて制限され、パージに対応して実施される燃料噴射量の減量方向の補正速度が低減されることで、パージに起因する壁面付着燃料量の変化は抑制される。
【0025】
第5の発明によれば、パージガスのパージ率を変化させる際の変化速度が燃料付着状態の安定度の低さに応じて制限され、パージに対応して実施される燃料噴射量の減量方向の補正速度が低減されることで、パージに起因する壁面付着燃料量の変化は抑制される。
【0026】
第6の発明によれば、基本燃料量に増量要求に応じた増量係数とパージ補正係数とを反映させたものと基本燃料量に増量係数のみを反映させたものとの比率は、壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとなり、それを時間方向に平滑化して得られる平滑値は、壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとなる。したがって、それらの偏差を燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして取得することで、燃料付着状態の安定度を正確に推定することが可能になる。
【0027】
第7の発明によれば、内燃機関の冷却水温が低いほど燃料付着状態は不安定になるので、冷却水温を燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして取得することで、燃料付着状態の安定度を正確に推定することが可能になる。
【0028】
壁面の燃料付着状態は、燃料カットからの復帰後の経過時間が短いときには不安定になりやすい。その一方、燃料カットが実行されていた時間が短ければ、燃料付着状態の不安定さは減少する。第8の発明によれば、復帰後の経過時間を燃料カット時間で補正した値を燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして取得することで、燃料カットからの復帰後における燃料付着状態の安定度を正確に推定することが可能になる。
【0029】
第9の発明によれば、燃料噴射量の増量のために基本燃料量に反映される増量係数とその時間方向の平滑値との偏差は、過渡的な燃料増量からの復帰後、燃料増量の影響がどれだけ残っているかを示すパラメータとなる。燃料増量の影響が残っているほど燃料付着状態は不安定になるので、前記偏差を燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして取得することで、燃料増量からの復帰後における燃料付着状態の安定度を正確に推定することが可能になる。
【0030】
第10の発明によれば、内燃機関の始動後の燃料噴射回数が少ないほど燃料付着状態は不安定になるので、燃料噴射回数を燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして取得することで、内燃機関の始動後における燃料付着状態の安定度を正確に推定することが可能になる。
【0031】
さらに、第11の発明によれば、空燃比の安定度に応じてパージガスのパージ率を補正することで、空燃比の変動の抑制と蒸発燃料の十分なパージとをより高次元で両立させることが可能になる。具体的には、空燃比の安定度が低い場合には、パージ率を減少側に補正することで空燃比の変動を抑制することができ、空燃比の安定度が高い場合には、パージ率を増大側に補正することで蒸発燃料を十分にパージすることができる。
【0032】
第12の発明によれば、燃料噴射量の増量のために基本燃料量に反映される増量係数をフィードバック補正係数に加算したものは実質的な空燃比に対応しており、これを空燃比の安定度に関係するパラメータとして取得することで、空燃比の安定度を正確に推定することが可能になる。
【0033】
第13の発明によれば、燃料付着状態の安定度を反映されたフィードバック補正係数を空燃比の安定度に関係するパラメータとして取得することで、過渡的な空燃比の変動をも正確に検出することができ、空燃比の安定度をより正確に推定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
実施の形態1.
以下、図1乃至図3を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。
【0035】
[エンジンシステムの構成の説明]
図1は本発明の実施の形態1としての内燃機関の空燃比制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。本実施形態にかかる内燃機関2の燃焼室4には、吸気通路6と排気通路8が接続されている。吸気通路6には燃焼室4内へ流入する空気の流量を調整するスロットル14が配置されている。また、吸気通路6における燃焼室4の近傍には、燃焼室4に燃料を供給するための燃料噴射弁12が取り付けられている。
【0036】
燃料噴射弁12から噴射される燃料は図示しない燃料通路を通って燃料タンク20から供給される。燃料タンク20には内部で発生した蒸発燃料を抜き出すためのベーパ通路24が接続されている。ベーパ通路24の一端は、内部に蒸発燃料を吸着するための活性炭が充填されたキャニスタ18に接続されている。このため、燃料タンク20の内部で発生した蒸発燃料はベーパ通路24を通ってキャニスタ18に到達し、キャニスタ18の内部に吸着される。キャニスタ18には一端が大気に開放された大気供給通路26と、スロットル弁14の下流において吸気通路6に連通するパージ通路22とが接続されている。パージ通路22にはその内部を流れるガスの流量を制御するためのパージ制御弁16が設けられている。パージ制御弁16はデューティ制御されることにより任意の開度を実現する電磁弁である。パージ制御弁16は本発明にかかるパージ機構に相当している。
【0037】
内燃機関2はその制御装置としてECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40は複数のセンサによって検出される内燃機関2の作動データに基づき内燃機関2の作動に係わる各種機器を総合的に制御する。ECU40の出力側には燃料噴射弁12とパージ制御弁16が接続されている。
【0038】
ECU40の入力側には水温センサ30、回転速度センサ32、排気ガスセンサ34、エアフローメータ36、アクセルポジションセンサ38が接続されている。水温センサ30は内燃機関2のウォータジャケットに取り付けられ、冷却水温に応じた信号を出力する。冷却水温は内燃機関2の機関温度を代表している。回転速度センサ32はクランク軸の近傍に取り付けられ、機関回転速度に応じた信号を出力する。排気ガスセンサ34は排気通路8に設けられ、排気ガスの空燃比(排気空燃比)に対応する信号を出力する。エアフローメータ36はスロットル14の上流に配置され、吸入空気流量に応じた信号を出力する。また、アクセルポジションセンサ38は図示しないアクセルペダルに取り付けられ、アクセルポジションに応じた信号を出力する。
【0039】
ECU40は各センサ30,32,34,36,38から作動データの供給を受けていると共に、各機器12,16に対して駆動信号を供給している。なお、ECU40にはこれらのセンサ32,34,36,38や機器12,16以外にも複数のセンサや機器が接続されているが、ここではその説明は省略する。
【0040】
[空燃比制御の説明]
ECU40は、内燃機関2の制御の一つとして、燃焼室4内の混合気の空燃比を所望の目標空燃比にするための空燃比制御を実施している。空燃比制御は、内燃機関2の運転中、排気ガスセンサ34により測定される排気空燃比が目標空燃比になるように燃料噴射弁12からの燃料噴射量を制御するものである。本実施形態のシステムでは、パージ制御弁16の作動時は、燃料噴射弁12からの燃料に加えてパージガスに含まれる蒸発燃料も燃焼室4内に供給されるので、パージガスの供給に伴う空燃比の変動も考慮して燃料噴射量を制御する必要がある。
【0041】
燃料噴射弁12からの燃料噴射量は、燃料噴射弁12の開弁時間である燃料噴射時間TAUにより決まる。下記の(1)式は、燃料噴射時間TAUの算出式である。(1)式中、TPは基本噴射時間であり、機関回転速度NEと吸入空気流量GAとの比(GA/NE)に所定の噴射係数を乗算することで算出される。KRICHは冷間時の増量補正、WOT時の増量補正、燃料カット後の触媒保護のための増量補正等、燃料の増量要求に応じて設定される増量係数である。
TAU=TP×(KRICH+FAF+FPG)+FMW ・・・(1)
【0042】
上記(1)式において、FAFはフィードバック補正係数である。フィードバック補正係数FAFは、排気ガスセンサ34の出力から排気空燃比が目標空燃比よりもリッチであると判定されている間は、小さなステップで減少方向に更新される。その結果、燃料噴射時間TAUは僅かずつ減少し、排気ガスセンサ34の出力から測定される排気空燃比はやがて目標空燃比よりもリーンに反転する。排気空燃比が目標空燃比よりもリッチからリーンに反転すると、フィードバック補正係数FAFはその時点で大きく増加方向にスキップされる。そして、排気空燃比が目標空燃比よりもリッチに反転するまで、フィードバック補正係数FAFは小さなステップで増加方向に更新される。その結果、燃料噴射時間TAUは僅かずつ増加し、排気空燃比はやがて目標空燃比よりもリーンからリッチに反転する。排気空燃比が目標空燃比よりもリーンからリッチに反転すると、フィードバック補正係数FAFはその時点で大きく減少方向にスキップされる。以後、上述した更新処理が繰り返し実行されることにより、排気空燃比は目標空燃比の近傍に維持される。
【0043】
ところが、キャニスタ18から吸気通路6にパージガスがパージされる場合は、その影響で燃焼室4内の混合気の空燃比に変化が生ずる。パージガスの空燃比が目標空燃比に等しければ、吸入空気流量に対する燃料噴射量の比率を目標空燃比に設定することで混合気の空燃比を目標空燃比とすることができる。しかし、パージガスがリッチである場合には、その影響が相殺できる程度に燃料噴射量を減量しなければ混合気の空燃比を目標空燃比とすることはできない。同様に、パージガスがリーンであれば、燃料噴射量を適当に増量しなければ混合気を目標空燃比にすることはできない。
【0044】
そこで、上記(1)式においては、パージガスの影響を相殺するために燃料噴射時間TAUに施すべき補正係数としてパージ補正係数FPGが設定されている。パージ補正係数FPGは、次の(2)式に示すように、ベーパ濃度補正係数FGPGとパージ率PGRとの積として算出される。
FPG=FGPG×PGR ・・・(2)
【0045】
パージ率とは吸入空気流量に対するパージガス流量の比であり、パージ率PGRはその制御上の目標値である。ベーパ濃度補正係数FGPGは、パージガスの燃料濃度(パージガス中の蒸発燃料の濃度)に対応する補正係数であり、1%のパージ率PGRに対して燃料噴射時間TAUに施すべき補正量としての意味を有している。この補正量は、パージガスの燃料濃度が高いほど(リッチであるほど)負の大きな値とする必要があり、また、パージガスの燃料濃度が低いほど(リーンであるほど)正の大きな値とする必要がある。
【0046】
パージガスの供給が空燃比に与える影響はパージガスの燃料濃度によって変化するため、空燃比を精度良く目標空燃比の近傍に維持する上では、パージガスの燃料濃度を把握することは重要である。ECU40は、パージ制御の実行中におけるフィードバック補正係数FAFのその基準値からの定常的なずれから、パージガスの燃料濃度に対応するベーパ濃度補正係数FGPGを学習する。
【0047】
また、上記(1)式におけるFMWは壁面付着補正量であり、これは内燃機関2の過渡運転時における壁面付着燃料量の変化を相殺するために設定された補正量である。内燃機関2の過渡運転時には、吸入空気流量や燃料噴射量の増減に伴い、壁面付着燃料量に変化が生ずる。壁面付着燃料量が増加する場合は、燃焼に用いられる燃料量が燃料噴射量に比して少量となり空燃比のリーン化を招く。一方、壁面付着燃料量が減少する過程では、燃料噴射量より多くの燃料が燃焼に使用されるため空燃比のリッチ化を招く。そこで、空燃比制御では、燃料噴射時間TAUに壁面付着補正量FMWを含ませることで、壁面付着燃料量の変化に伴う空燃比の変動を防止するようにしている。壁面付着補正量FMWは、機関回転速度、吸入空気流量、及び冷却水温に関連付けてマップに記憶されている。空燃比制御時には、このマップから現在の機関回転速度、吸入空気流量、及び冷却水温に応じた壁面付着補正量FMWが読み出され、燃料噴射時間TAUの計算に供せられる。
【0048】
なお、壁面への燃料の付着や壁面からの燃料の脱離は、パージの有無の影響も受けている。蒸発燃料は燃料噴射弁12から噴射される液体燃料に比較して壁面に付着し難いため、パージの実行中はパージの停止中に比較して同一の運転条件(機関回転速度、吸入空気流量、冷却水温)での壁面付着燃料量が減少するためである。このため、壁面付着補正量FMWはパージの有無に応じて、或いはパージ率の大きさに応じて補正されるようになっている。
【0049】
[パージ制御の説明]
ECU40が実施する内燃機関2の制御の一つとして、所定のパージ実行条件が成立する場合にパージ制御弁16を適宜にデューティ駆動するパージ制御がある。パージ制御弁16がデューティ駆動されることで、内燃機関2の吸気通路6の負圧がキャニスタ18に導かれる。その結果、キャニスタ18内の蒸発燃料は大気供給通路26から吸入された空気とともにパージガスとしてパージ通路22に放出される。放出されたパージガスはパージ通路22を通って吸気通路6に供給され、燃焼室4において燃焼処理される。
【0050】
パージ制御弁16に出力するデューティDPGは、パージ率PGRに従って制御される。図2のフローチャートは、本実施の形態において実施されるパージ制御の基本ルーチンを示している。パージ率PGRは、この基本ルーチンに従って設定される。以下では、図2のフローチャートに従って、本実施の形態にかかるパージ制御の基本的な手順について説明する。なお、図2のフローチャートに示すパージ制御ルーチンは、内燃機関2の制御装置であるECU40によってパージ制御弁16のデューティ周期毎に実行される。
【0051】
図2に示すルーチンの最初のステップS2では、パージの実行条件が成立しているか否か判定される。パージの実行条件とは、冷却水温THWが所定温度以上になっていること、空燃比フィードバック制御の実行中であること等である。パージの実行条件が不成立の場合には、ステップS38の処理が実行されることで、パージカットが実行或いは継続される。ステップS38では、後述するパージ率スキップ値PGRSKP、デューティDPG、パージ率PGR及びパージカウンタCPGSTのそれぞれがゼロに設定される。
【0052】
パージの実行条件が成立する場合には、ステップS4の判定が実行される。ステップS4では、現時点のパージ率PGRがゼロか否か判定される。そして、その判定結果に応じて、ステップS6或いはS8において再開パージ率TPGRが設定される。再開パージ率TPGRは、パージカットからの復帰時、つまり、パージの再開時におけるパージ率の初期値を意味している。
【0053】
ステップS4の判定の結果、パージ率PGRがゼロの場合、つまり、パージカットからの復帰時には、ステップS6において、後述するパージ率記憶値PGR0に所定の係数KSを掛けたものが再開パージ率TPGRとして設定される。ここで用いられるパージ率記憶値PGR0は、パージカットの直前に設定されていたパージ率PGRである。係数KSは1よりも小さい正の値に設定されている。
【0054】
これに対し、パージ率PGRがゼロでない場合、つまり、パージの実行中の場合には、ステップS8において、パージ率記憶値PGR0が再開パージ率TPGRとして用いられる。ここで用いられるパージ率記憶値PGR0は、前回サイクルにおいて設定されたパージ率PGRである。つまり、本ルーチンで設定されるパージ率PGRの前回値である。
【0055】
ステップS10及びステップS12の処理は、フィードバック補正係数FAFの基準値からのずれがどの程度であるか判定するための処理である。パージガスの供給は空燃比に影響するため、フィードバック補正係数FAFのずれが大きいときにパージガスの供給量を増やすと、そのずれをさらに増長させてしまう可能性がある。そこで、このルーチンでは、フィードバック補正係数FAFのずれの程度に応じてパージ率スキップ値PGRSKPを決定するようになっている。パージ率スキップ値PGRSKPは、パージ率PGRを増大させていくときの1サイクル当たりの増加量に相当する。
【0056】
ステップS10及びステップS12の判定によれば、フィードバック補正係数FAFのずれが大のとき、中のとき、そして小のときの3つのケースに分けられる。ステップS10の判定の結果、フィードバック補正係数FAFのずれが大の場合には、ステップS18の処理が選択される。ステップS18では、パージ率スキップ値PGRSKPは所定値-KS1に設定される。-KS1は負の値であることから、フィードバック補正係数FAFのずれが大であれば、パージ率PGRは1サイクル毎に所定値-KS1だけ減少させられることになる。
【0057】
また、ステップS10の判定の結果、フィードバック補正係数FAFのずれが大ではなく、ステップS12の判定の結果、フィードバック補正係数FAFのずれが小でもないときには、ステップS14の処理が選択される。ステップS14では、パージ率スキップ値PGRSKPはゼロに設定される。つまり、フィードバック補正係数FAFのずれが中の場合には、パージ率PGRは一定値に保持されることになる。
【0058】
また、ステップS12の判定の結果、フィードバック補正係数FAFのずれが小の場合には、ステップS16の処理が選択される。ステップS16では、パージカウンタCPGSTの値に応じてパージ率スキップ値PGRSKPが設定される。パージカウンタCPGSTは、パージ開始後のサイクル数を意味している。図中に示すように、パージカウンタCPGSTが小さい間は、パージ率スキップ値PGRSKPは所定値KS2に設定され、パージカウンタCPGSTが大きくなると、パージ率スキップ値PGRSKPは所定値KS2よりも大きい所定値KS3に設定される。つまり、フィードバック補正係数FAFのずれが小のときは、パージ開始後のしばらくは、パージ率PGRは1サイクル毎に所定値KS2だけ増大させられ、パージ開始から時間が経過すると、パージ率PGRは1サイクル毎に所定値KS3だけ増大させられることになる。なお、図中に破線で示すように、アイドル時の所定値KS3は、通常運転時とは別に通常運転時のそれよりも低い値に設定されている。
【0059】
次のステップS20では、パージカウンタCPGSTの値に応じて最大パージ率PGRMXが設定される。最大パージ率PGRMXはパージ率PGRの最終的な目標値でもある。後述する制限値にかからない限りはパージ率PGRは最大パージ率PGRMXに設定される。図中に示すように、パージカウンタCPGSTが小さい間は、最大パージ率PGRMXは低い値に設定され、パージカウンタCPGSTがある程度まで大きくなると、最大パージ率PGRMXはパージカウンタCPGSTの値に応じて次第に大きくされる。そして、パージカウンタCPGSTが所定値に達したら、最大パージ率PGRMXは一定値に保持される。
【0060】
ステップS22では、負荷PMに基づいてパージガスの全開流量QPGが求められる。図中に示すように、全開流量QPGは負荷PMが大きくなるにつれて低下していく。次のステップS24では、ステップS22で求められたパージガスの全開流量QPGと吸入空気流量GAとから、次の(3)式によって全開パージ率PGR100が算出される。
PGR100=QPG/GA ・・・(3)
【0061】
ステップS26では、限界補正量LMTとパージ濃度補正係数FGPGとから、次の(4)式によって限界パージ率PGRLMTが算出される。限界補正量LMTはパージ補正係数FPGのマイナス側の制限値に相当し、吸入空気に対する蒸発燃料の限界供給割合という意味を有している。
PGRLMT=LMT/FGPG ・・・(4)
【0062】
次のステップS28では、ステップS14、S16、S18の何れかで設定されたパージ率スキップ値PGRSKPとパージ率PGRの前回値であるパージ率記憶値PGR0とから、次の(5)式によって暫定パージ率tPGRが算出される。なお、パージ再開後の最初のサイクルでは、パージ率記憶値PGR0の代わりにステップS6で算出される再開パージ率TPGRを用いて暫定パージ率tPGRが算出される。
tPGR=PGR0+PGRSKP ・・・(5)
【0063】
ただし、暫定パージ率tPGRの値は、ステップS20で求められた最大パージ率PGRMX、ステップS24で求められた全開パージ率PGR100、及び、ステップS26で求められた限界パージ率PGRLMTによってガードされている。つまり、PGR0+PGRSKP、PGRMX、PGR100、PGRLMTのうち、最も小さい値が暫定パージ率tPGRとして設定される。
【0064】
次のステップS30では、ステップS28で設定された暫定パージ率tPGRとステップS24で求められた全開パージ率PGR100とから、次の(6)式によってパージ制御弁16のデューティDPGが算出される。
DPG=tPGR/PGR100 ・・・(6)
【0065】
ただし、デューティDPGの値は、最大デューティDPGMXと、前回サイクルのデューティDPG0にデューティ増分ΔDPGを加算した値とによってガードされている。デューティ増分ΔDPGは、デューティDPGを増大させていくときの1サイクル当たりの増加可能量に相当する。最終的にステップS30では、tPGR/PGR100、DPGMX、DPG0+ΔDPGのうち、最も小さい値がデューティDPGとして設定される。設定されたデューティDPGはパージ制御弁16に出力される。
【0066】
次のステップS32では、ステップS30で設定されたデューティDPGとステップS24で求められた全開パージ率PGR100とから、次の(7)式によって最終的なパージ率PGRが算出される。算出されたパージ率PGRは、前記の(2)式に示すように、パージ補正係数FPGの算出に用いられる。
PGR=DPG×PGR100 ・・・(7)
【0067】
ステップS34では、パージカウンタCPGSTの値に一定値が加算される。ステップS36では、パージ率記憶値PGR0の値がステップS32で算出されたパージ率PGRの値に置き換えられる。
【0068】
[壁面付着燃料量の変化に伴う課題]
前述のように、内燃機関2の過渡運転時における壁面付着燃料量の変化は、燃料噴射時間TAUに壁面付着補正量FMWを含ませることで相殺されるようになっている。しかしながら、壁面付着燃料の付着状態が不安定になるのは過渡運転時に限ったものではなく、パージの実行時にも壁面付着燃料の付着状態は不安定になりやすい。蒸発燃料の供給は空燃比に影響を与えるため、前述のように燃料噴射時間TAUの算出にあたっては基本噴射時間TPにパージ補正係数FPGが反映されている。ところが、蒸発燃料の分を相殺するように燃料噴射弁12の燃料噴射量が減少すると、吸気通路6の壁面に付着すべき燃料量、すなわち、安定壁面付着燃料量も減少することになる。このため、パージの実行時には、その前後における安定壁面付着燃料量の差を補償するように壁面からの燃料の脱離が起こる。そして、壁面から脱離した燃料の分だけ実際に燃焼に用いられる燃料量と燃料噴射量との間に差が生じ、目標空燃比と実際の空燃比との間にずれが生じることになる。
【0069】
前述の空燃比制御によれば、壁面付着燃料量の変化に伴う空燃比のずれはフィードバック補正係数FAFによって吸収される。ところが、フィードバック補正係数FAFからはベーパ濃度補正係数FGPGが学習されている。このため、壁面付着燃料量の変化に起因するフィードバック補正係数FAFのずれまでもがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることになる。つまり、壁面付着燃料量の変化に起因して空燃比にずれが生じたにもかかわらず、パージガスの燃料濃度の変化に起因したものとしてベーパ濃度補正係数FGPGが誤学習されてしまう。学習値であるベーパ濃度補正係数FGPGは現時点のみならず将来的にも影響するため、誤った学習を行ってしまうと壁面付着燃料の付着状態の安定後も暫くの間は空燃比制御の精度を低下させてしまうことになる。
【0070】
上記の課題に関し、図2に示すパージ制御ルーチンでは、ステップS10、S18の処理によって対応している。つまり、フィードバック補正係数FAFのずれが大きくなったときには、パージ率スキップ値PGRSKPをマイナスの値に設定してパージ率PGRを減少させるようにしている。しかし、ステップS10、S18の処理は実際に空燃比にずれが生じてからの事後的な対応であるため、この処理のみではパージに伴う空燃比の変動に速やかに対応することは困難である。
【0071】
[実施の形態1にかかる空燃比制御の特徴]
そこで、本実施の形態にかかる空燃比制御では、パージ制御に関し、図2のフローチャートに示すパージ制御ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するパージ制限制御を実施することとしている。パージ制限制御では、壁面付着燃料の付着状態の安定度に関係するパラメータを取得し、取得したパラメータの値に応じてパージ制御弁16の作動量に制限を加える。パージ制御弁16の作動量を壁面付着燃料の付着状態の安定度に応じて制限することとすれば、キャニスタ18に吸着された蒸発燃料のパージは十分に行いつつ、パージに伴う空燃比の変動を抑制することが可能になる。
【0072】
本実施の形態では、パージ制御弁16の作動量を制限する具体的な手法として、パージ制御ルーチンにおいて限界パージ率PGRLMTの算出に使用される限界補正量LMTを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて制限する方法を採る。燃料付着状態の安定度の低さに応じて限界補正量LMTを制限することで、パージに対応して実施される燃料噴射量の減量方向の補正量を低減し、パージに起因する壁面付着燃料量の変化を抑制することができる。また、限界補正量LMTを制限することとすれば、パージガスの燃料濃度が薄いときにはパージ率PGRを高く設定することもできる。
【0073】
なお、安定時の壁面付着燃料の付着状態(安定付着状態)を示すパラメータとしては、燃焼に使用される総燃料量(燃料噴射量と蒸発燃料量との和)に対する燃料噴射量の比率を使用することができる。この比率は蒸発燃料の供給が無いとき最大値1となり、総燃料量に対する燃料噴射量の割合が小さくなるほど小さい値となる。これは、蒸発燃料の供給に伴って燃料噴射量が少なくなると壁面付着燃料量が減少することに対応している。以下、前記比率を基本付着割合と称する。
【0074】
また、実際の壁面付着燃料の付着状態は、安定時の壁面付着燃料量の変化に遅れて連続的に変化するため、基本付着割合を時間方向に平滑化することによって壁面付着燃料の付着状態の変化を精度良く推定することができる。ここでは、基本付着割合の平滑値を壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとして使用する。そして、基本付着割合と基本付着割合の平滑値との偏差を燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして取得し、前記偏差の値に応じて限界補正量LMTを制限する。
【0075】
また、本実施の形態にかかるパージ制限制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして内燃機関2の冷却水温も取得する。そして、冷却水温の低さに応じて限界補正量LMTを制限する。壁面付着燃料の付着状態は冷間時において特に不安定であり、内燃機関の暖機が進むにつれて安定してくる。したがって、冷却水温の低さに応じて限界補正量LMTを予め制限することとすれば、冷間時における空燃比の変動を効果的に抑制することができると考えられる。
【0076】
[実施の形態1における具体的処理]
本実施の形態では、図3のフローチャートに従って限界パージ率PGRLMTが算出される。図3のフローチャートは本実施の形態にかかるパージ制限制御のルーチンを示している。本実施の形態では、図2に示すルーチンのステップS26を図3に示すルーチンのように変更して実施する。なお、図3に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
【0077】
図3に示すルーチンの最初のステップS100では、次の(8)式により、基本付着割合WPBSが算出される。(8)式において、TP×KRICHは燃焼に使用される総燃料量に相当している。TP×(KRICH+FPG)は燃料噴射弁12による燃料噴射量に相当している。(8)式によれば、パージによる蒸発燃料の供給量が多くなるほどパージ補正係数FPGは負の大きな値となり、基本付着割合WPBSは小さい値となる。前述のように、基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
WPBS=TP×(KRICH+FPG)/(TP×KRICH) ・・・(8)
【0078】
次のステップS102では、燃料カット(F/C)の実行中か否か判定される。燃料カットの実行中は基本噴射時間TPがゼロに設定されるため、(8)式では基本付着割合WPBSの値が定まらない。一方、燃料カットの実行中は壁面からの燃料の脱離が進み、壁面付着燃料はほとんど無くなってしまう。そこで、燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS104において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
【0079】
次のステップS106では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。これは、冷却水温THWが高くなるに従い、つまり、内燃機関2の暖機が進むに従って吸気通路6の壁面温度も高くなり、壁面付着燃料の付着状態の安定も速くなるためである。
【0080】
次のステップS108では、ステップS106で決定された平滑化係数nを用い、以下の(9)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。(9)式において、WPは基本付着割合WPBSの平滑値であり、左辺のWPは更新後の平滑値、右辺のWPは更新前の平滑値である。前述のように、基本付着割合平滑値WPは壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
WP=WP+(WPBS−WP)/n ・・・(9)
【0081】
次のステップS110では、以下の(10)式に示すように、ステップS108で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS100或いはステップS104で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。前述のように、偏差ΔWPは燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。偏差ΔWPが正の大きい値であるほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっている、つまり、壁面からの燃料の脱離が進んでいることになる。逆に、偏差ΔWPが負の大きい値であるほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して不足している、つまり、壁面への燃料の付着が進んでいることになる。
ΔWP=WP−WPBS ・・・(10)
【0082】
次のステップS112では、ステップS110で算出された偏差ΔWPに応じて限界補正量LMTWP1が決定される。図中に示すように、偏差ΔWPがゼロを中心とする所定範囲にある場合には限界補正量LMTWP1は一定値(マイナスの値)に設定される。しかし、偏差ΔWPが所定範囲を超えて正の大きい値になると、つまり、壁面からの燃料の脱離が進む状況では、偏差ΔWPの値に応じて限界補正量LMTWP1はゼロに近付けられていく。また、偏差ΔWPが所定範囲を超えて負の大きい値になった場合も、つまり、壁面への燃料の付着が進む状況でも、偏差ΔWPの値に応じて限界補正量LMTWP1はゼロに近付けられていく。
【0083】
ステップS114では、ステップS112で得られた限界補正量LMTWP1とベーパ濃度補正係数FGPGとを用い、以下の(11)式によって、限界パージ率PGRLMTの制限値MX1が算出される。ベーパ濃度補正係数FGPGの値がマイナス側に大きいとき、すなわち、燃料濃度が濃いときには、制限値MX1は小さな値となり、逆にベーパ濃度補正係数FGPGの値が小さいとき、すなわち、燃料濃度が薄いときには、制限値MX1は大きな値となる。
MX1=LMTWP1/FGPG ・・・(11)
【0084】
次のステップS116では、冷却水温THWに応じて限界補正量LMTWが決定される。図中に示すように、限界補正量LMTWは冷却水温THWが高くなるに従ってマイナス側に大きい値に設定される。これは、冷却水温THWが高くなるに従い、つまり、内燃機関2の暖機が進むに従って吸気通路6の壁面温度も高くなり、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。
【0085】
ステップS118では、ステップS116で得られた限界補正量LMTWとベーパ濃度補正係数FGPGとを用い、以下の(12)式によって、限界パージ率PGRLMTの制限値MX2が算出される。ベーパ濃度補正係数FGPGの値がマイナス側に大きいときには、制限値MX2は小さな値となり、逆にベーパ濃度補正係数FGPGの値が小さいときには、制限値MX2は大きな値となる。
MX2=LMTW/FGPG ・・・(12)
【0086】
次のステップS120では、限界パージ率PGRLMTの制限値MX3が冷却水温THWから直接決定される。つまり、ベーパ濃度補正係数FGPGに関係なく制限値MX3が決定される。冷却水温THWが高くなるに従って壁面付着燃料の付着状態が安定してくることから、図中に示すように、制限値MX3は冷却水温THWが高くなるに従って大きい値に設定される。
【0087】
ステップS122では、ステップS114で得られた制限値MX1、ステップS118で得られた制限値MX2、そして、ステップS120で得られた制限値MX3のうち、最も小さい値が最終的な限界パージ率PGRLMTとして決定される。ステップS122で決定された限界パージ率PGRLMTは、図2に示すルーチンに取り込まれて最終的なパージ率PGRの算出に反映される。
【0088】
壁面への燃料の付着や壁面からの燃料の脱離が進んでいる状況において、吸入空気に対する蒸発燃料の供給割合を大きくすると、壁面付着燃料の付着状態がより不安定になって空燃比の変動が大きくなってしまう。しかし、図3に示すルーチンによれば、ステップS112の処理によって限界補正量LMTWP1が壁面付着燃料の付着状態の安定度に応じて決定され、この限界補正量LMTWP1を用いて限界パージ率PGRLMTの制限値MX1が算出される。この制限値MX1は、パージガスの燃料濃度が濃いときには低く抑えられ、パージガスの燃料濃度が薄いときには拡大される。したがって、限界パージ率PGRLMTを制限値MX1で制限することで、キャニスタ18に吸着された蒸発燃料のパージは十分に行いながら、壁面付着燃料の付着状態が不安定になっている状況でのパージに伴う空燃比の変動(荒れ)を抑制することができる。
【0089】
また、図3に示すルーチンによれば、ステップS116の処理によって限界補正量LMTWが冷却水温THWに応じて決定され、この限界補正量LMTWを用いて限界パージ率PGRLMTの制限値MX2が算出される。この制限値MX2は、パージガスの燃料濃度が濃いときには低く抑えられ、パージガスの燃料濃度が薄いときには拡大される。したがって、限界パージ率PGRLMTを制限値MX2で制限することで、キャニスタ18に吸着された蒸発燃料のパージは十分に行いつつ、壁面付着燃料の付着状態が不安定になりうる冷間での空燃比の変動を抑制することができる。
【0090】
さらに、図3に示すルーチンによれば、ステップS120の処理によって限界パージ率PGRLMTの制限値MX3が冷却水温THWから直接決定される。限界パージ率PGRLMTを制限値MX3で制限することで、壁面付着燃料の付着状態が不安定になりうる冷間においてパージ率が過大になることを防止することができ、パージガスの供給による空燃比の変動をより確実に抑制することができる。
【0091】
なお、本実施の形態においては、ECU40が前述の空燃比制御において(1)式に従って燃料噴射時間TAUを計算することで、第1の発明にかかる「燃料噴射量算出手段」が実現されている。(1)式で計算される燃料噴射時間TAUは、「燃料噴射量算出手段」で算出される燃料噴射量に対応している。そして、燃料噴射時間TAUの計算過程において、ECU40がフィードバック補正係数FAFを計算することで、第1の発明にかかる「フィードバック補正係数算出手段」が実現されている。また、燃料噴射時間TAUの計算過程において、ECU40が図2に示すルーチンによりパージ率PGRを算出し、このパージ率PGRを用いてパージ補正係数FPGを計算することで、第1の発明にかかる「パージ補正係数算出手段」が実現されている。
【0092】
また、本実施の形態においては、ECU40が図3に示すルーチンを実行することで、第1、第2、第3、第6及び第7の発明にかかる「パージ制限手段」が実現されている。
【0093】
実施の形態2.
次に、図4を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図4に示すルーチンを実行させることにより実現される。
【0094】
[実施の形態2にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、パージ制御に関し、図2のフローチャートに示すパージ制御ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するパージ制限制御を実施することとしている。本実施の形態にかかるパージ制限制御は、ステップS20で求められる最大パージ率PGRMX、ステップS26で求められる限界パージ率PGRLMTのそれぞれを燃料付着状態の安定度の低さに応じて縮小方向に補正する方法を採る。最大パージ率PGRMX及び限界パージ率PGRLMTを縮小方向に補正することで、必然的に最終的なパージ率PGRも抑えられることとなり、パージに伴う空燃比の変動を抑制することができる。
【0095】
また、本実施の形態にかかるパージ制限制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして内燃機関2の始動後の燃料噴射回数を取得する。さらに、実施の形態1と同じく、内燃機関2の冷却水温も燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして取得する。そして、燃料噴射回数と冷却水温に応じて最大パージ率PGRMX及び限界パージ率PGRLMTを縮小方向に補正する。壁面付着燃料の付着状態は始動から間もないほど不安定であり、燃料噴射を積み重ねることで安定してくる。また、壁面付着燃料の付着状態は内燃機関の暖機が進むにつれて安定してくる。したがって、燃料噴射回数と冷却水温に応じて最大パージ率PGRMX及び限界パージ率PGRLMTを予め縮小方向に補正することとすれば、始動から間もない状況において、特に冷間始動時においてパージに伴う空燃比の変動を効果的に抑制することができると考えられる。
【0096】
[実施の形態2における具体的処理]
本実施の形態では、図4のフローチャートに従って最大パージ率PGRMX及び限界パージ率PGRLMTが算出される。図4のフローチャートは本実施の形態にかかるパージ制限制御のルーチンを示している。本実施の形態では、図2に示すルーチンにおいてステップS26の処理の実行後、ステップS28の処理に先立って図4に示すルーチンが実行される。なお、図4に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
【0097】
図4に示すルーチンの最初のステップS130では、内燃機関2の始動後に実施された燃料噴射の回数CSUMIが取得される。次のステップS132では、基準噴射回数aが冷却水温THWに基づいて決定される。最大パージ率PGRMX及び限界パージ率PGRLMTの縮小方向への補正は、燃料噴射回数CSUMIが基準噴射回数aを超えるまで実施される。内燃機関2の暖機が進むに従って壁面付着燃料の付着状態は安定してくることから、図中に示すように、基準噴射回数aは冷却水温THWが高くなるに従って小さい値に設定され、冷却水温THWがある温度以上では一定値に設定される。
【0098】
次のステップS134では、燃料噴射回数CSUMIが基準噴射回数a内か否か判定される。燃料噴射回数CSUMIが基準噴射回数aを超えるまでは、ステップS136、S138の処理が実施される。
【0099】
ステップS136では、燃料噴射回数CSUMIと基準噴射回数aとを用い、以下の(13)式によって、最大パージ率PGRMXの補正が行われる。右辺のPGRMXは補正前の最大パージ率、すなわち、ステップS20で求められる最大パージ率である。左辺のPGRMXは補正後の最大パージ率である。
PGRMX=PGRMX×CSUMI/a ・・・(13)
【0100】
ステップS138では、燃料噴射回数CSUMIと基準噴射回数aとを用い、以下の(14)式によって、限界パージ率PGRLMTの補正が行われる。右辺のPGRLMTは補正前の限界パージ率、すなわち、ステップS26で求められる限界パージ率である。左辺のPGRLMTは補正後の限界パージ率である。
PGRLMT=PGRLMT×CSUMI/a ・・・(14)
【0101】
ステップS136で縮小方向に補正された最大パージ率PGRMX、ステップS138で縮小方向に補正された限界パージ率PGRLMTは、それぞれ図2に示すルーチンに取りこまれて最終的なパージ率PGRの算出に反映される。燃料噴射回数CSUMIが基準噴射回数aを超えた以降は、ステップS136、S138による補正は行われず、ステップS20で求められる最大パージ率とステップS26で求められる限界パージ率が最終的なパージ率PGRの算出に反映される。
【0102】
図4に示すルーチンによれば、燃料噴射回数CSUMIが少ないほど、また、冷却水温THWが低いほど、最大パージ率PGMX及び限界パージ率PGRLMTの縮小方向への補正が大きくなる。また、冷却水温THWが低いほど、最大パージ率PGMX及び限界パージ率PGRLMTの縮小方向への補正を行う期間が長くなる。始動から間もない状況では壁面付着燃料の付着状態が不安定であり、特に冷間ではそれが顕著になるが、上記のように最大パージ率PGMX及び限界パージ率PGRLMTが低く抑えられることで、パージガスの供給によるパージに伴う空燃比の変動を抑制することができる。
【0103】
なお、本実施の形態においては、ECU40が図4に示すルーチンを実行することで、第1、第3、第7及び第10の発明にかかる「パージ制限手段」が実現されている。
【0104】
実施の形態3.
次に、図5を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図5に示すルーチンを実行させることにより実現される。
【0105】
[実施の形態3にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、パージ制御に関し、図2のフローチャートに示すパージ制御ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するパージ制限制御を実施することとしている。本実施の形態にかかるパージ制限制御は、実施の形態1にかかるパージ制限制御と同じく、限界パージ率PGRLMTの算出に使用される限界補正量LMTを燃料付着状態の安定度の低さに応じて制限する方法を採る。
【0106】
本実施の形態にかかるパージ制限制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして燃料カットの影響の残留度を取得し、この残留度に基づいて限界補正量LMTを決定する。壁面への燃料の付着は、燃料カットから復帰したときの付着燃料量が少ないほど、すなわち、燃料カットの影響が残っているほど顕著になる。したがって、影響の残留度に応じて限界補正量LMTを制限することで、燃料カットからの復帰時においてパージに伴う空燃比の変動を効果的に抑制することができると考えられる。
【0107】
また、本実施の形態にかかるパージ制限制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして燃料増量の影響の残留度も取得し、この残留度に基づいた限界補正量LMTも決定する。壁面からの燃料の脱離は、壁面付着燃料量が過剰なほど、すなわち、燃料増量の影響が残っているほど顕著になる。したがって、影響の残留度に応じて限界補正量LMTを制限することで、燃料増量からの復帰時においてパージに伴う空燃比の変動を効果的に抑制することができると考えられる。
【0108】
[実施の形態3における具体的処理]
本実施の形態では、図5のフローチャートに従って限界パージ率PGRLMTが算出される。図5のフローチャートは本実施の形態にかかるパージ制限制御のルーチンを示している。本実施の形態では、図2に示すルーチンのステップS26を図5に示すルーチンのように変更して実施する。なお、図5に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
【0109】
図5に示すルーチンの最初のステップS140では、燃料カット(F/C)の実行中か否か判定される。判定の結果、燃料カットが実行されていない場合には、ステップS144において燃料噴射カウンタCINJの値が一定値だけ増加させられる。一方、燃料カットの実行中の場合には、ステップS142において燃料噴射カウンタCINJの値は一定値だけ減少させられる。燃料噴射カウンタCINJには増加方向、減少方向のそれぞれに制限値が設けられている。増加方向の制限値は最大値Mであり、減少方向の制限値は最小値ゼロである。
【0110】
燃料カットからの復帰後の壁面付着燃料量は、燃料カットが実行されていた時間が長いいほど減少し、復帰後の経過時間に応じて増大する。ステップS142の処理は燃料カットの実行時間をカウントしていることに等しく、ステップS144の処理は復帰後の経過時間をカウントしていることに等しい。したがって、前記の燃料噴射カウンタCINJの値は、燃料カットからの復帰後の壁面付着燃料量に関係するパラメータとしての意味を有している。また、復帰後の壁面付着燃料が少ないほど壁面への燃料付着が進むことから、燃料噴射カウンタCINJの値は、燃料カットからの復帰後における燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味も有している。
【0111】
次のステップS146では、ステップS142或いはS144で増減された燃料噴射カウンタCINJの値に応じて限界補正量LMTWP2が決定される。図中に示すように、限界補正量LMTWP2は燃料噴射カウンタCINJの値が大きくなるに従ってマイナス側に大きい値に設定され、燃料噴射カウンタCINJが所定値以上では一定値に設定される。これは、燃料噴射カウンタCINJの値が大きいほど、壁面付着燃料の付着状態が安定することによる。また、限界補正量LMTWP2の設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が低いほど壁面付着燃料の付着状態は不安定になるので、燃料噴射カウンタCINJの値が同じでも内燃機関2の温度が低ければ限界補正量LMTWP2は小さい値に設定される。
【0112】
ステップS148では、ステップS146で得られた限界補正量LMTWP2とベーパ濃度補正係数FGPGとを用い、以下の(15)式によって、限界パージ率PGRLMTの制限値MX4が算出される。ベーパ濃度補正係数FGPGの値がマイナス側に大きいときには、制限値MX4は小さな値となり、逆にベーパ濃度補正係数FGPGの値が小さいときには、制限値MX4は大きな値となる。
MX4=LMTWP2/FGPG ・・・(15)
【0113】
次のステップS150では、まず、次の(16)式によって増量係数KRICHXの時間方向への平滑化が行われる。増量係数KRICHXは、(1)式で燃料噴射時間TAUの算出に用いられる増量係数KRICHから、冷間時の増量補正分を除いたものである。つまり、増量係数KRICHXは、WOT時の増量補正と燃料カット後の触媒保護のための増量補正とに対応している。(16)式において、RICHSMは基本増量係数KRICHXの平滑値であり、左辺のRICHSMは更新後の平滑値、右辺のRICHSMは更新前の平滑値である。nは平滑化係数である。
RICHSM=RICHSM+(KRICHX−RICHSM)/n ・・・(16)
【0114】
続いて、以下の(17)式に示すように、増量係数平滑値RICHSMと現在の増量係数KRICHXとの偏差ΔRICHが算出される。増量係数平滑値RICHSMは現在の壁面付着燃料量を示すパラメータであり、現在の増量係数KRICHXは壁面付着燃料量の安定量を示すパラメータである。したがって、偏差ΔRICHが大きいほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっている、つまり、燃料増量の影響が多く残っていると言える。したがって、偏差ΔRICHは、燃料増量からの復帰後における燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。
ΔRICH=RICHSM−KRICHX ・・・(17)
【0115】
次のステップS152では、ステップS150で算出された偏差ΔRICHに応じて限界補正量LMTWP3が決定される。図中に示すように、限界補正量LMTWP3は偏差ΔRICHの値が大きくなるに従ってゼロに近付けられ、偏差ΔRICHが所定値以上では一定値に設定される。これは、偏差ΔRICHが大きいほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっており、壁面からの燃料の脱離が進むことによる。また、限界補正量LMTWP3の設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、偏差ΔRICHが同じでも内燃機関2の温度が低ければ限界補正量LMTWP3は小さい値に設定される。
【0116】
ステップS154では、ステップS152で得られた限界補正量LMTWP3とベーパ濃度補正係数FGPGとを用い、以下の(18)式によって、限界パージ率PGRLMTの制限値MX5が算出される。ベーパ濃度補正係数FGPGの値がマイナス側に大きいときには、制限値MX5は小さな値となり、逆にベーパ濃度補正係数FGPGの値が小さいときには、制限値MX5は大きな値となる。
MX5=LMTWP3/FGPG ・・・(18)
【0117】
ステップS156では、ステップS148で得られた制限値MX4、ステップS154で得られた制限値MX5のうち、より小さい値が最終的な限界パージ率PGRLMTとして決定される。ステップS156で決定された限界パージ率PGRLMTは、図2に示すルーチンに取り込まれて最終的なパージ率PGRの算出に反映される。
【0118】
壁面付着燃料量の変化に起因する空燃比のずれは、燃料カットからの復帰後や燃料増量からの復帰後において特に顕著になる。図5に示すルーチンによれば、燃料カットからの復帰後における燃料付着状態の安定度に応じて限界補正量LMTWP2が決定され、この限界補正量LMTWP2を用いて限界パージ率PGRLMTの制限値MX4が算出される。また、燃料増量からの復帰後における燃料付着状態の安定度に応じて限界補正量LMTWP3が決定され、この限界補正量LMTWP3を用いて限界パージ率PGRLMTの制限値MX5が算出される。したがって、限界パージ率PGRLMTを制限値MX4及びMX5で制限することで、燃料カットからの復帰後や燃料増量からの復帰後のように、壁面付着燃料の付着状態が特に不安定となる状況においてパージに伴う空燃比の変動を効果的に抑制することができる。
【0119】
なお、本実施の形態においては、ECU40が図5に示すルーチンを実行することで、第1、第2、第7、第8及び第9の発明にかかる「パージ制限手段」が実現されている。
【0120】
実施の形態4.
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態3のシステムにおいて、ECU40に、前述の図5に示すルーチンの一部を後述する図6に示すルーチンのように変更して実行させることにより実現される。
【0121】
[実施の形態4にかかる空燃比制御の特徴]
図5に示すルーチンでは、燃料カットや燃料増量からの復帰後における燃料付着状態の安定度に応じて限界補正量LMTWP2、LMTWP3を求め、それらから決まる制限値MX4、MX5によって限界パージ率PGRLMTを制限している。これに対し、本実施の形態では、限界補正量LMTWP2、LMTWP3による制限に加え、限界パージ率PGRLMTそれ自体を燃料付着状態の安定度の低さに応じて縮小方向に補正するようにしている。
【0122】
[実施の形態4における具体的処理]
本実施の形態では、図6のフローチャートに従って限界パージ率PGRLMTが算出される。図6のフローチャートはパージ制限制御ルーチンの一部であり、図5に示すルーチンのステップS156を図6に示すルーチンのように変更して実施する。
【0123】
図6に示すルーチンの最初のステップS160では、基準噴射回数bが冷却水温THWに基づいて決定される。図中に示すように、基準噴射回数bは冷却水温THWが高くなるに従って小さい値に設定され、冷却水温THWがある温度以上では一定値に設定される。
【0124】
次のステップS162では、燃料噴射カウンタCINJと基準噴射回数bとを用い、以下の(19)式によって、限界パージ率PGRLMTの補正が行われる。右辺のPGRLMTは補正前の限界パージ率、すなわち、ステップS26で求められる限界パージ率である。左辺のPGRLMTは補正後の限界パージ率である。
PGRLMT=PGRLMT×CINJ/b ・・・(19)
【0125】
ただし、限界パージ率PGRLMTの値は、図5に示すルーチンのステップS148で求められた制限値MX4、及び、ステップS154で求められた制限値MX5によってガードされている。つまり、PGRLMT×CINJ/b、MX4、MX5のうち、最も小さい値が最終的な限界パージ率PGRLMTとして決定される。ステップS162で決定された限界パージ率PGRLMTは、図2に示すルーチンに取り込まれて最終的なパージ率PGRの算出に反映される。
【0126】
実施の形態5.
次に、図7を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図7に示すルーチンを実行させることにより実現される。
【0127】
[実施の形態5にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、パージ制御に関し、図2のフローチャートに示すパージ制御ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するパージ制限制御を実施することとしている。本実施の形態にかかるパージ制限制御は、実施の形態1にかかるパージ制限制御とは異なり、パージ制御ルーチンにおいてデューティDPGの算出に使用されるデューティ増分ΔDPGを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて制限する方法を採る。燃料付着状態の安定度の低さに応じてデューティ増分ΔDPGを制限することで、パージに対応して実施される燃料噴射量の減量方向の補正速度を低減し、パージに起因する壁面付着燃料量の変化を抑制することができる。
【0128】
本実施の形態にかかるパージ制限制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態1と同様、基本付着割合WPBSと基本付着割合WPBSの平滑値WPとの偏差ΔWPを取得する。そして、この偏差ΔWPの値に応じてデューティ増分ΔDPGを制限する。偏差ΔWPを前記パラメータとしてパージ制限制御を行うことで、壁面への燃料の付着状況、或いは、壁面からの燃料の脱離状況に応じてデューティ増分ΔDPGを適宜に調整することができる。
【0129】
また、実施の形態1と同様、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして内燃機関2の冷却水温も取得する。そして、冷却水温の低さに応じてデューティ増分ΔDPGを制限する。壁面付着燃料の付着状態は冷間時において特に不安定であることから、冷却水温の低さに応じてデューティ増分ΔDPGを制限することとすれば、冷間時における空燃比の変動を効果的に抑制することができると考えられる。
【0130】
[実施の形態5における具体的処理]
本実施の形態では、図7のフローチャートに従ってデューティ増分ΔDPGが算出される。図7のフローチャートは本実施の形態にかかるパージ制限制御のルーチンを示している。なお、図7に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
【0131】
図7に示すルーチンの最初のステップS170では、前記の(8)式により、基本付着割合WPBSが算出される。基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
【0132】
次のステップS172では、燃料カットの実行中か否か判定される。燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS174において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
【0133】
次のステップS176では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。
【0134】
次のステップS178では、ステップS176で決定された平滑化係数nを用い、前記の(9)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。ここで算出される基本付着割合平滑値WPは、壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
【0135】
次のステップS180では、前記の(10)式に示すように、ステップS178で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS170或いはステップS174で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。この偏差ΔWPは燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。
【0136】
次のステップS182では、ステップS180で算出された偏差ΔWPに応じてデューティ増分ΔDPG1が決定される。図中に示すように、偏差ΔWPがゼロを中心とする所定範囲にある場合にはデューティ増分ΔDPG1は一定値に設定される。しかし、偏差ΔWPが所定範囲を超えて正の大きい値になると、つまり、壁面からの燃料の脱離が進む状況では、偏差ΔWPの値に応じてデューティ増分ΔDPG1は減少させられていく。また、偏差ΔWPが所定範囲を超えて負の大きい値になった場合も、つまり、壁面への燃料の付着が進む状況でも、偏差ΔWPの値に応じてデューティ増分ΔDPG1は減少させられていく。
【0137】
ステップS184では、冷却水温THWに応じてデューティ増分ΔDPG2が決定される。冷却水温THWが高くなるに従い壁面付着燃料の付着状態は安定してくることから、図中に示すように、デューティ増分ΔDPG2は冷却水温THWが高くなるに従って大きい値に設定される。
【0138】
ステップS186では、ステップS182で得られたデューティ増分ΔDPG1と、ステップS184で得られたデューティ増分ΔDPG2のうち、より小さい値が最終的なデューティ増分ΔDPGとして決定される。ステップS186で決定されたデューティ増分ΔDPGは、図2に示すルーチンに取り込まれ、ステップS28においてデューティDPGの決定に用いられる。
【0139】
壁面への燃料の付着や壁面からの燃料の脱離が進んでいる状況において、パージガスの流量を変化させる際の変化速度を大きくすると、壁面付着燃料の付着状態がより不安定になって空燃比の変動が大きくなってしまう。しかし、図7に示すルーチンによれば、ステップS182の処理によって壁面付着燃料の付着状態の安定度に応じてデューティ増分ΔDPG1が制限される。これにより、パージガスの流量を変化させる際の変化速度を付着状態の安定度に応じて抑えることができ、壁面付着燃料の付着状態が不安定になっている状況でのパージに伴う空燃比の変動を抑制することができる。また、パージガスの流量の変化が抑えられることで、加速に伴って吸入空気流量が増大したときには、相対的にパージ率PGRが低下することになる。したがって、加速時のような過渡時における空燃比の変動も効果的に抑制することができる。
【0140】
また、図7に示すルーチンによれば、ステップS184の処理によって冷却水温THWに応じてデューティ増分ΔDPG2が制限される。これにより、パージガスの流量を変化させる際の変化速度を冷却水温THWに応じて抑えることができ、壁面付着燃料の付着状態が不安定になりうる冷間での空燃比の変動を抑制することができる。
【0141】
なお、本実施の形態においては、ECU40が図7に示すルーチンを実行することで、第1、第4、第6及び第7の発明にかかる「パージ制限手段」が実現されている。
【0142】
実施の形態6.
次に、図8を参照して、本発明の実施の形態6について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図8に示すルーチンを実行させることにより実現される。
【0143】
[実施の形態6にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、パージ制御に関し、図2のフローチャートに示すパージ制御ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するパージ制限制御を実施することとしている。本実施の形態にかかるパージ制限制御は、実施の形態1にかかるパージ制限制御とは異なり、パージ制御ルーチンにおいて暫定パージ率tPGRの算出に使用されるパージ率スキップ値PGRSKPを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて縮小方向に補正する方法を採る。燃料付着状態の安定度の低さに応じてパージ率スキップ値PGRSKPを縮小方向に補正することで、パージに対応して実施される燃料噴射量の減量方向の補正速度を低減し、パージに起因する壁面付着燃料量の変化を抑制することができる。
【0144】
本実施の形態にかかるパージ制限制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態1と同様、基本付着割合WPBSと基本付着割合WPBSの平滑値WPとの偏差ΔWPを取得する。そして、この偏差ΔWPの値に応じてパージ率スキップ値PGRSKPを縮小方向に補正する。偏差ΔWPを前記パラメータとしてパージ制限制御を行うことで、壁面への燃料の付着状況、或いは、壁面からの燃料の脱離状況に応じてパージ率スキップ値PGRSKPを適宜に調整することができる。
【0145】
また、実施の形態1と同様、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして内燃機関2の冷却水温も取得する。そして、冷却水温の低さに応じてパージ率スキップ値PGRSKPを縮小方向に補正する。壁面付着燃料の付着状態は冷間時において特に不安定であることから、冷却水温の低さに応じてパージ率スキップ値PGRSKPを縮小方向に補正することとすれば、冷間時における空燃比の変動を効果的に抑制することができると考えられる。
【0146】
[実施の形態6における具体的処理]
本実施の形態では、図8のフローチャートに従ってパージ率スキップ値PGRSKPが算出される。図8のフローチャートは本実施の形態にかかるパージ制限制御のルーチンを示している。本実施の形態では、図2に示すルーチンにおいてステップS16の処理に続けて図8に示すルーチンが実行される。なお、図8に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
【0147】
図8に示すルーチンの最初のステップS190では、前記の(8)式により、基本付着割合WPBSが算出される。基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
【0148】
次のステップS192では、燃料カットの実行中か否か判定される。燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS194において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
【0149】
次のステップS196では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。
【0150】
次のステップS198では、ステップS196で決定された平滑化係数nを用い、前記の(9)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。ここで算出される基本付着割合平滑値WPは、壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
【0151】
次のステップS200では、前記の(10)式に示すように、ステップS198で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS190或いはステップS194で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。この偏差ΔWPは燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。
【0152】
次のステップS202では、ステップS200で算出された偏差ΔWPに応じてパージ率スキップ値PGRSKPの縮小係数KSKP1が決定される。図中に示すように、偏差ΔWPがゼロを中心とする所定範囲にある場合には縮小係数KSKP1は1に設定される。しかし、偏差ΔWPが所定範囲を超えて正の大きい値になると、つまり、壁面からの燃料の脱離が進む状況では、偏差ΔWPの値に応じて縮小係数KSKP1は減少させられていく。また、偏差ΔWPが所定範囲を超えて負の大きい値になった場合も、つまり、壁面への燃料の付着が進む状況でも、偏差ΔWPの値に応じて縮小係数KSKP1は減少させられていく。
【0153】
ステップS204では、冷却水温THWに応じてパージ率スキップ値PGRSKPの縮小係数KSKP2が決定される。冷却水温THWが高くなるに従い壁面付着燃料の付着状態は安定してくることから、図中に示すように、縮小係数KSKP2は冷却水温THWが高くなるに従って大きい値に設定される。冷却水温THWがある程度高くなったときの縮小係数KSKP2の収束値は1に設定されている。
【0154】
ステップS206では、ステップS202で得られた縮小係数KSKP1を用い、以下の(20)式によって、パージ率スキップ値PGRSKPの補正が行われる。また、ステップS204で得られた縮小係数KSKP2を用い、以下の(21)式によっても、パージ率スキップ値PGRSKPの補正が行われる。各式において、右辺のPGRSKPは補正前のパージ率スキップ値、すなわち、ステップS16で求められるパージ率スキップ値である。左辺のPGRSKPは補正後のパージ率スキップ値である。
PGRSKP=PGRSKP×KSKP1 ・・・(20)
PGRSKP=PGRSKP×KSKP2 ・・・(21)
【0155】
(20)式で得られるパージ率スキップ値PGRSKPと、(21)式で得られるパージ率スキップ値PGRSKPのうち、より小さい値が最終的なパージ率スキップ値PGRSKPとして決定される。ステップS206で決定されたパージ率スキップ値PGRSKPは、図2に示すルーチンに取り込まれて暫定パージ率tPGRの算出に用いられる。
【0156】
壁面への燃料の付着や壁面からの燃料の脱離が進んでいる状況において、パージ率PGRを変化させる際の変化速度を大きくすると、壁面付着燃料の付着状態がより不安定になって空燃比の変動が大きくなってしまう。しかし、図8に示すルーチンによれば、ステップS202の処理によって壁面付着燃料の付着状態の安定度に応じてパージ率スキップ値PGRSKPが制限される。これにより、パージ率PGRを変化させる際の変化速度を付着状態の安定度に応じて抑えることができ、壁面付着燃料の付着状態が不安定になっている状況でのパージに伴う空燃比の変動を抑制することができる。
【0157】
また、図8に示すルーチンによれば、ステップS204の処理によって冷却水温THWに応じてパージ率スキップ値PGRSKPが制限される。これにより、パージ率PGRを変化させる際の変化速度を冷却水温THWに応じて抑えることができ、壁面付着燃料の付着状態が不安定になりうる冷間での空燃比の変動を抑制することができる。
【0158】
なお、本実施の形態においては、ECU40が図8に示すルーチンを実行することで、第1、第5、第6及び第7の発明にかかる「パージ制限手段」が実現されている。
【0159】
実施の形態7.
次に、図9を参照して、本発明の実施の形態7について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに加えて、後述する図9に示すルーチンも実行させることにより実現される。
【0160】
[実施の形態7にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御は、パージ制御に関し、図2のフローチャートに示すパージ制御ルーチンにおいて、パージ率スキップ値PGRSKPの設定方法を以下に説明するように変更したことに特徴がある。なお、実施の形態1と同様、パージ制御ルーチンを基本としつつ、図3に示すパージ制限制御ルーチンも併せて実施される。
【0161】
本実施の形態では、パージ率スキップ値PGRSKPを空燃比の安定度に応じて設定する。具体的には、空燃比の安定度が低いときには、パージ率スキップ値PGRSKPをマイナス値にしてパージ率PGRを減少側に補正することで空燃比の変動を抑制する。逆に空燃比の安定度が高いときには、パージ率スキップ値PGRSKPをプラス値にしてパージ率PGRを増大側に補正することで蒸発燃料を十分にパージする。これによれば、パージ制限制御による効果と相まって、空燃比の変動の抑制と蒸発燃料の十分なパージとをより高次元で両立させることが可能になると考えられる。
【0162】
[実施の形態7における具体的処理]
本実施の形態では、図9のフローチャートに従ってパージ率スキップ値PGRSKPが算出される。図9のフローチャートは本実施の形態においてパージ率スキップ値PGRSKPの算出に用いられるルーチンを示している。本実施の形態では、図2に示すルーチンにおいてステップS10乃至S18の処理に替えて図9に示すルーチンが実行される。
【0163】
図9に示すルーチンの最初のステップS210では、まず、次の(22)式によって空燃比ずれ指標値AFFが算出される。増量係数KRICHをフィードバック補正係数FAFに加算したものは実質的な空燃比に対応しており、これを空燃比の安定度に関係するパラメータとして取得することで、空燃比の安定度を正確に推定することができる。
AFF=FAF+KRICH ・・・(22)
【0164】
次に、空燃比ずれ指標値AFFに基づいて、現在の空燃比のずれがどの状態にあるか判断される。ステップS210では、空燃比のずれの状態がSTATE1からSTATE5までの5つの状態に区分される。STATE1は空燃比がリッチ側に大きくずれている状態であり、空燃比ずれ指標値AFFは大きなマイナス値となる。STATE2は空燃比がリッチ側に中くらいにずれている状態であり、空燃比ずれ指標値AFFは中くらいのマイナス値となる。STATE3は空燃比のずれが無いか、若しくは、リッチ或いはリーン側に僅かにずれている状態であり、空燃比ずれ指標値AFFはゼロを中心とする所定範囲内の値となる。STATE4は空燃比がリーン側に中くらいにずれている状態であり、空燃比ずれ指標値AFFは中くらいのプラス値となる。STATE5は空燃比がリーン側に大きくずれている状態であり、空燃比ずれ指標値AFFは大きなプラス値となる。
【0165】
ステップS212及びステップS214の処理は、空燃比のずれの状態に応じたパージ率スキップ値PGRSKPの算出方法を選択するための処理である。ステップS212及びステップS214の判定によれば、空燃比のずれが大のとき(STATE1或いはSTATE5)、中のとき(STATE2或いはSTATE4)、そして小のとき(STATE3)の3つのケースに分けられる。ステップS212の判定の結果、空燃比のずれの状態がSTATE1或いはSTATE5にある場合には、ステップS220の処理が選択される。ステップS220では、パージ率スキップ値PGRSKPは所定値-KS1に設定される。
【0166】
また、ステップS212、S214の判定の結果、空燃比のずれの状態がSTATE2或いはSTATE4にある場合には、ステップS216の処理が選択される。ステップS216では、パージ率スキップ値PGRSKPはゼロに設定される。
【0167】
また、ステップS212、S214の判定の結果、空燃比のずれの状態がSTATE3にある場合には、ステップS218の処理が選択される。ステップS218では、パージカウンタCPGSTの値に応じてパージ率スキップ値PGRSKPが設定される。図中に示すように、パージカウンタCPGSTが小さい間は、パージ率スキップ値PGRSKPは所定値KS2に設定され、パージカウンタCPGSTが大きくなると、パージ率スキップ値PGRSKPは所定値KS2よりも大きい所定値KS3に設定される。なお、図中に破線で示すように、アイドル時の所定値KS3は、通常運転時とは別に通常運転時のそれよりも低い値に設定されている。
【0168】
図9に示すルーチンで算出されたパージ率スキップ値PGRSKPは、図2に示すルーチンに取り込まれて暫定パージ率tPGRの算出に用いられる。
【0169】
本実施の形態においては、ECU40が図9に示すルーチンを実行することで、第11及び第12の発明にかかる「パージ補正手段」が実現されている。
【0170】
実施の形態8.
次に、図10を参照して、本発明の実施の形態8について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態7のシステムにおいて、ECU40に、前述の図9に示すルーチンに加えて、後述する図10に示すルーチンも実行させることにより実現される。
【0171】
[実施の形態8にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御は、パージ率スキップ値PGRSKPの算出に関し、図9のフローチャートに示すルーチンにおいて、空燃比ずれ指標値AFFの算出方法を以下に説明するように変更したことに特徴がある。
【0172】
実施の形態7では、フィードバック補正係数FAFに増量係数KRICHを加算したものを空燃比ずれ指標値AFFとして算出している。本実施の形態では、さらに、壁面付着燃料量の変化がフィードバック補正係数FAFに与える影響を相殺するための補正値を算出し、この補正値も空燃比ずれ指標値AFFに反映させる。そうすることで、空燃比のずれの程度をより高い精度で判断することができると考えられる。
【0173】
本実施の形態にかかる空燃比ずれ指標値AFFの算出においては、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、基本付着割合WPBSと基本付着割合WPBSの平滑値WPとの偏差ΔWPを取得する。そして、壁面付着燃料量の変化がフィードバック補正係数FAFに与える影響を相殺するための補正値として、この偏差ΔWPを使用する。偏差ΔWPは、その値が正のときは、壁面からの燃料の脱離に伴う空燃比のリッチ側へのずれの程度を示すパラメータとなり、その値が負のときは、壁面への燃料の付着に伴う空燃比のリーン側へのずれの程度を示すパラメータとなる。したがって、偏差ΔWPを補正値として使用し、空燃比ずれ指標値AFFに加算することで、壁面付着燃料量の変化が空燃比に与える影響を空燃比ずれ指標値AFFから排除することができる。
【0174】
また、燃料増量の影響の残留度も取得し、この残留度にも基づいて前記補正値を決定する。壁面からの燃料の脱離は、壁面付着燃料量が過剰なほど、すなわち、燃料増量の影響が残っているほど顕著になる。したがって、影響の残留度に応じて大きくなる補正値を空燃比ずれ指標値AFFに加算することで、燃料増量からの復帰時における壁面からの燃料の脱離が空燃比に与える影響を空燃比ずれ指標値AFFから排除することができる。
【0175】
[実施の形態8における具体的処理]
本実施の形態では、図10のフローチャートに従って空燃比ずれ指標値AFFが算出される。図10のフローチャートは本実施の形態において空燃比ずれ指標値AFFの算出に用いられるルーチンを示している。図10に示すルーチンは、図9に示すルーチンのステップS210の処理において実行される。
【0176】
図10に示すルーチンの最初のステップS230では、前記の(8)式により、基本付着割合WPBSが算出される。基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
【0177】
次のステップS232では、燃料カットの実行中か否か判定される。燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS234において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
【0178】
次のステップS236では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。
【0179】
次のステップS238では、ステップS236で決定された平滑化係数nを用い、前記の(9)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。ここで算出される基本付着割合平滑値WPは、壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
【0180】
次のステップS240では、前記の(10)式に示すように、ステップS238で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS230或いはステップS234で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。この偏差ΔWPは、壁面付着燃料の付着状態が不安定となる状況での空燃比のずれの方向及び程度を示すパラメータとしての意味を有している。
【0181】
次のステップS242では、まず、前記の(16)式によって増量係数KRICHXの時間方向への平滑化が行われる。また、前記の(17)式によって増量係数平滑値RICHSMと現在の増量係数KRICHXとの偏差ΔRICHが算出される。この偏差ΔRICHは、燃料増量からの復帰後における空燃比のリッチ方向へのずれの程度を示すパラメータとしての意味を有している。
【0182】
ステップS244では、ステップS240で得られた偏差ΔWP、及びステップS242で得られた偏差ΔRICHを用い、以下の(23)式によって空燃比ずれ指標値AFFが算出される。なお、(23)式において、ABYFはリニア空燃比センサによって測定される排気空燃比、ABYF0は理論空燃比である。本実施の形態では、排気ガスセンサ34としてリニア空燃比センサが備えられているものとする。実際の排気空燃比ABYFと理論空燃比ABYF0との比を加算することで、空燃比ずれ指標値AFFの精度をより高めることができる。
AFF=FAF+(ABYF/ABYF0)+ΔWP+KRICH+ΔRICH ・・・(23)
【0183】
図10に示すルーチンで算出された空燃比ずれ指標値AFFは、図9に示すルーチンに取り込まれ、ステップS210において空燃比のずれの状態(STATE1〜STATE5)の判定に用いられる。
【0184】
本実施の形態においては、ECU40が図10に示すルーチンを実行することで、第13の発明にかかる「パージ補正手段」が実現されている。
【0185】
その他.
以上、本発明の代表的な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上記の各実施の形態にかかる修正制御を適宜に組み合わせて実施してもよい。具体例としては、実施の形態7にかかるパージ率スキップ値PGRSKPの算出方法は、実施の形態1にかかるパージ制限制御のみならず、実施の形態2乃至6の何れのパージ制限制御にも組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】本発明の実施の形態1としての内燃機関の空燃比制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
【図2】実施の形態1において実施されるパージ制御の基本ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】実施の形態1において実施されるパージ制限制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図4】実施の形態2において実施されるパージ制限制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図5】実施の形態3において実施されるパージ制限制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図6】実施の形態4において実施されるパージ制限制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図7】実施の形態5において実施されるパージ制限制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図8】実施の形態6において実施されるパージ制限制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図9】実施の形態7においてパージ率スキップ値PGRSKPの算出に用いられるルーチンを示すフローチャートである。
【図10】実施の形態8において空燃比ずれ指標値AFFの算出に用いられるルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0187】
2 内燃機関
4 燃焼室
6 吸気通路
8 排気通路
12 燃料噴射弁
16 パージ制御弁
18 キャニスタ
20 燃料タンク
30 水温センサ
32 回転速度センサ
34 排気ガスセンサ
36 エアフローメータ
38 アクセルポジションセンサ
40 ECU(Electronic Control Unit)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着するキャニスタと、
蒸発燃料を含むパージガスを前記キャニスタから前記吸気通路に流入させるパージ機構と、
内燃機関の排気通路に配置されて排気ガスの空燃比に応じた信号を出力する排気ガスセンサと、
目標空燃比と前記排気ガスセンサの信号に対応する空燃比とのずれに応じて、目標空燃比を実現するために燃料噴射量に施すべき補正係数(以下、フィードバック補正係数)を算出するフィードバック補正係数算出手段と、
パージガスの空燃比への影響を相殺するために燃料噴射量に施すべき補正係数(以下、パージ補正係数)を算出するパージ補正係数算出手段と、
基本燃料量に前記フィードバック補正係数及びパージ補正係数を反映させたものを前記燃料噴射弁の燃料噴射量として算出する燃料噴射量算出手段と、
前記吸気通路に付着している壁面付着燃料の付着状態の安定度に関係するパラメータを取得し、前記パラメータの値に応じて前記パージ機構の作動量に制限を加えるパージ制限手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項2】
前記パージ制限手段は、吸入空気に対する蒸発燃料の供給割合を前記パラメータの値から決まる最大値以下に抑えるように前記パージ機構の作動量に制限を加えることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記パージ制限手段は、パージガスのパージ率を前記パラメータの値から決まる最大値以下に抑えるように前記パージ機構の作動量に制限を加えることを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項4】
前記パージ制限手段は、パージガスの流量を変化させる際の変化速度を前記パラメータの値から決まる最大値以下に抑えるように前記パージ機構の作動量に制限を加えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項5】
前記パージ制限手段は、パージガスのパージ率を変化させる際の変化速度を前記パラメータの値から決まる最大値以下に抑えるように前記パージ機構の作動量に制限を加えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項6】
前記パージ制限手段は、基本燃料量に増量要求に応じた増量係数と前記パージ補正係数とを反映させたものと基本燃料量に前記増量係数のみを反映させたものとの比率を算出し、前記比率と前記比率を時間方向に平滑化して得られる平滑値との偏差を前記パラメータとして取得することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項7】
前記パージ制限手段は、内燃機関の冷却水温を前記パラメータとして取得することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項8】
前記パージ制限手段は、燃料カットからの復帰後の経過時間を燃料カットが実行されていた時間で補正した値を前記パラメータとして取得することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項9】
前記パージ制限手段は、燃料噴射量の増量のために基本燃料量に反映される増量係数と前記増量係数を時間方向に平滑化して得られる平滑値との偏差を前記パラメータとして取得することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項10】
前記パージ制限手段は、内燃機関の始動後の燃料噴射回数を前記パラメータとして取得することを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項11】
空燃比の安定度に関係する第2のパラメータを取得し、前記第2のパラメータの値に応じてパージガスのパージ率を補正するパージ補正手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項12】
前記パージ補正手段は、燃料噴射量の増量のために基本燃料量に反映される増量係数を前記フィードバック補正係数に加算したものを前記第2のパラメータとして取得することを特徴とする請求項11記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項13】
前記パージ補正手段は、前記パージ補正手段は、前記パラメータの値を前記フィードバック補正係数に反映させたものを前記第2のパラメータとして取得することを特徴とする請求項11又は12記載の内燃機関の空燃比制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−327415(P2007−327415A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159340(P2006−159340)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】