説明

内燃機関の触媒劣化検出装置

【課題】触媒の被毒で触媒劣化検出の精度が低下してしまうことを抑制することができる内燃機関の触媒劣化検出装置を提供する。
【解決手段】エンジン10の排気通路20には、酸素吸蔵能を有する触媒30が備えられている。触媒30下流には、触媒30の下流の排気空燃比に応じて出力値を変化させる空燃比センサ42が備えられている。ECU60は、アクティブ制御を実行し、酸素吸蔵量Cmaxを算出し、Cmaxに基づいて、触媒30の劣化を検出する。触媒30のS被毒の度合を推定する。S被毒の度合に応じて、アクティブ制御におけるリッチ側空燃比からリーン側空燃比への切替を遅らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の触媒劣化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2003−97334号公報に開示されているように、触媒の上流と下流にそれぞれ排気ガスセンサを配置して、触媒の酸素吸蔵容量(OSC)を算出する構成を備えた内燃機関の触媒劣化検出装置が知られている。上記従来の触媒劣化検出装置においては、より具体的には、排気通路に、空燃比センサ、上流側触媒、第1のOセンサ、下流側触媒、第2のOセンサが、この順にそれぞれ配置されている。このような構成において、空燃比を強制的に振動させて上流側触媒の酸素吸蔵容量(OSC)を検出し、そのOSCの最大値つまり最大酸素吸蔵量Cmaxが所定値より大きいか否かに基づいて、上流側触媒の劣化を検出する。このような強制的な振動を実施する空燃比制御は、アクティブ制御とも称されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−97334号公報
【特許文献2】特開2010−163885号公報
【特許文献3】特開2005−98207号公報
【特許文献4】特開2000−337137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒の被毒により酸素放出速度の低下が起きることが知られている。具体的には、燃料中の硫黄成分等に起因した触媒のS被毒(硫黄被毒)が起きると、触媒の酸素放出速度が低下する。このような酸素放出速度低下が生じている状態では、上記のアクティブ制御におけるリッチ空燃比に制御中に、触媒内の酸素が放出し尽される前に触媒の下流でリッチが検出されるという事態が生ずる。上記従来の技術にかかるアクティブ制御による触媒劣化検出装置は、触媒内の酸素が使い果たされることを前提としてアクティブ制御の実行および最大酸素吸蔵量Cmaxの計算を行うものである。触媒内に酸素が残存している段階で強制的な空燃比切替が実施されると、最大酸素吸蔵量Cmaxの計算精度が低下し、触媒劣化の検出精度も低下してしまう。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、触媒の被毒で触媒劣化検出の精度が低下してしまうことを抑制することができる内燃機関の触媒劣化検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、
酸素吸蔵能を有する触媒が排気通路に設けられた内燃機関における触媒の劣化を検出する触媒劣化検出装置であって、
触媒下流に設けられ、該触媒下流の排気空燃比に応じて出力値を変化させる排気ガスセンサと、
前記触媒上流の排気空燃比をリーン側空燃比及びリッチ側空燃比に制御する空燃比制御手段と、
リーン側空燃比及びリッチ側空燃比毎に、前記排気ガスセンサの出力値が変化するまでの時間に前記触媒に流入する酸素過不足量を算出し、前記酸素過不足量に基づいて前記触媒の酸素吸蔵量を算出する酸素吸蔵量算出手段と、
前記酸素吸蔵量算出手段により算出された酸素吸蔵量に基づいて、前記触媒の劣化を検出する劣化検出手段と、
前記触媒における、酸素放出速度を低下させる被毒の度合を推定する被毒度合推定手段と、
前記被毒度合推定手段で求められた前記被毒の度合に応じて、前記空燃比制御手段におけるリッチ側空燃比からリーン側空燃比への切替を遅らせるディレイ手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記ディレイ手段は、
前記酸素吸蔵量算出手段による前記酸素吸蔵量の算出精度が所定の精度より低くならない程度の量まで前記触媒内の酸素が放出されるように、前記空燃比制御手段におけるリッチ側空燃比からリーン側空燃比への切替を遅らせる手段を、
含むことを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、上記の目的を達成するため、
酸素吸蔵能を有する触媒が排気通路に設けられた内燃機関における触媒の劣化を検出する触媒劣化検出装置であって、
触媒下流に設けられ、該触媒下流の排気空燃比に応じて出力値を変化させる排気ガスセンサと、
前記触媒上流の排気空燃比をリーン側空燃比及びリッチ側空燃比に制御する空燃比制御手段と、
リーン側空燃比及びリッチ側空燃比毎に、前記排気ガスセンサの出力値が変化するまでの時間に前記触媒に流入する酸素過不足量を算出し、前記酸素過不足量に基づいて前記触媒の酸素吸蔵量を算出する酸素吸蔵量算出手段と、
前記酸素吸蔵量算出手段により算出された酸素吸蔵量に基づいて、前記触媒の劣化を検出する劣化検出手段と、
前記触媒における、酸素放出速度を低下させる被毒の度合を推定する被毒度合推定手段と、
前記被毒度合推定手段で求められた前記被毒の度合に応じて、前記触媒の吸蔵酸素の放出されやすさが相対的に向上する状態となるように前記空燃比制御手段におけるリッチ側空燃比とリーン側空燃比との間の切替の制御内容を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第3の発明において、
前記補正手段は、前記推定又は前記検出により求められた前記被毒の度合に応じて、前記空燃比制御手段におけるリッチ側空燃比の目標値をリッチ側に設定するリッチ化手段を、含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、触媒の酸素放出速度を低下させる触媒被毒が生じた場合に、この触媒被毒の影響を、酸素吸蔵量算出にかかる空燃比制御に反映させることができる。これにより、触媒の被毒で触媒劣化検出の精度が低下してしまうことを抑制することができる。
【0011】
第2の発明によれば、被毒による酸素放出速度の低下が酸素吸蔵量の算出精度を低下させるのを確実に抑制できる程度に、ディレイ手段による切替の遅延を行うことができる。
【0012】
第3の発明によれば、触媒の酸素放出速度を低下させる触媒被毒が生じた場合に、この触媒被毒の影響を、酸素吸蔵量算出にかかる空燃比制御に反映させることができる。これにより、触媒の被毒で触媒劣化検出の精度が低下してしまうことを抑制することができる。
【0013】
第4の発明によれば、空燃比制御手段におけるリッチ側の目標空燃比を変更することによって、触媒被毒の影響を、酸素吸蔵量算出にかかる空燃比制御に反映させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の構成を、これが適用される内燃機関の構成の一部とともに示す図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置における、空燃比センサのセンサ素子部を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図11】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。
【図12】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図13】触媒の被毒による影響を抑制する他の技術にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作を説明するための図である。
【図14】触媒の被毒による影響を抑制する他の技術にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態.
[実施の形態の構成]
図1は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の構成を、これが適用される内燃機関の構成の一部とともに示す図である。本実施の形態の制御装置が適用される内燃機関は自動車用の内燃機関であり、より具体的には、予混合燃焼式の4ストローク1サイクルレシプロエンジンである。本実施の形態の触媒劣化検出装置は、そのような内燃機関の運転を総合制御するECU(Electronic Control Unit)の一つの機能として実現される。
【0016】
(エンジンおよびシステムの構成)
以下、内燃機関10(以下、単に「エンジン10」と称す)の具体的構成について説明する。ただし各構成の図示は省略する。エンジン10は、内部にピストンを有し、このピストンはクランク機構を介してクランクシャフトと接続されている。クランクシャフトの近傍には、クランク角センサが設けられている。クランク角センサは、クランクシャフトの回転角度(以下「クランク角」という。)CAを検出するように構成されている。シリンダブロック上部にはシリンダヘッドが組み付けられており、ピストン上面からシリンダヘッドまでの空間は燃焼室を形成している。シリンダヘッドには、燃焼室内の混合気に点火する点火プラグが設けられている。
【0017】
エンジン10のシリンダヘッドは、燃焼室と連通する吸気ポートを備え、この吸気ポートと燃焼室の接続部には吸気バルブが設けられている。吸気ポートには吸気通路が接続されており、吸気通路には吸気ポートの近傍に燃料を噴射するインジェクタが設けられている。なお、燃焼室内に直接燃料を噴射する直噴インジェクタを備えるものであっても良い。
インジェクタの上流にはスロットルバルブが設けられている。スロットルバルブは、スロットルモータにより駆動される電子制御式のバルブである。スロットルバルブは、アクセル開度センサにより検出されるアクセル開度AAに基づいて駆動されるものである。スロットルバルブの近傍にはスロットル開度を検出するスロットル開度センサが設けられている。スロットルバルブの上流には、熱線式のエアフロメータが設けられている。エアフロメータは吸入空気量Gaを検出するように構成されている。エアフロメータの上流にはエアクリーナが設けられている。
【0018】
エンジン10のシリンダヘッドは、燃焼室と連通する排気ポートを備えている。排気ポートと燃焼室との接続部には排気バルブが設けられている。排気ポートには排気通路20が接続されている。排気通路20には、排気ガスを浄化する三元触媒(S/C)30(以下、単に「触媒30」という)が設けられている。排気通路20における触媒30の上流位置には、限界電流式の空燃比センサ40が設けられている。また、排気通路20における触媒30の下流位置にも、限界電流式の空燃比センサ42が設けられている。排気通路における空燃比センサ42の下流には、さらに、三元触媒32(以下、単に「触媒32」という)が設けられている。空燃比センサ40、42は、ともに、ECU60に接続している。
将来のエミッション規制の強化、OBD規制の強化、触媒貴金属の低減に伴い、制御性、ロバスト性の高い空燃比制御システムが求められている。この要求に対しては、三元触媒(S/C)の前後に空燃比センサ(例えば限界電流式空燃比センサ)を配置したシステムが将来的に有望である。本実施形態は、このような触媒前後にそれぞれ空燃比センサを配置した空燃比制御システムにおいて、本発明に係る空燃比センサの出力処理技術を適用するものである。
【0019】
図1に示すように、本実施形態にかかるエンジン10には、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)60が備えられている。ECU60の出力側には、点火プラグ、インジェクタ、スロットルモータ等が接続されている。ECU60の入力側には、冷却水温センサ、クランク角センサ、アクセル開度センサ、スロットル開度センサ、エアフロメータ、空燃比センサ等が接続されている。ECU60は、クランク角センサの出力に基づいて、機関回転数NEを算出する。また、ECU60は、アクセル開度センサにより検出されるアクセル開度AA等に基づいて、機関負荷KLを算出する。ECU60は、機関回転数NEや機関負荷KL等に基づいて、燃料噴射量を決定する。このように、ECU60は、エンジンの運転情報をセンサ系統により検出しつつ、各アクチュエータを駆動し、運転制御を実行する。
ECU60は、筒内に供給される混合気の目標空燃比を制御することで、触媒上流の排気空燃比を強制的に燃料リーン側(以下「リーン側」と略する。)と燃料リッチ側(以下「リッチ側」と略する。)との間で交互に切り換える制御(「アクティブ制御」とも称される)を実行することができる。
【0020】
(空燃比センサのセンサ素子部の構成)
図2は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置における、空燃比センサ40、42のセンサ素子部50を示す断面図である。センサ素子部50は、検出素子51としての固体電解質層を有している。固体電解質層51は、部分安定化ジルコニアよりなり、酸素イオン導電性を有する。固体電解質層51の一面には、計測電極52が設けられている。また、固体電解質層51の他面には、大気側電極(「基準ガス側電極」ともいう。)53が設けられている。これらの計測電極52及び大気側電極53は、ともに白金等よりなり、リード58a,58bを介してECU60にそれぞれ接続されている。
【0021】
また、固体電解質層51の一面には、多孔質拡散抵抗層54が形成されている。多孔質拡散抵抗層54は、計測電極52を覆い、かつ、該計測電極52に排気ガスを導入するためのガス透過層54aと、排気ガスの透過を抑制するガス遮断層54bとを有している。これらのガス透過層54a及びガス遮断層54bは、アルミナやジルコニア等のセラミックスよりなり、平均孔径や気孔率が互いに相違している。
【0022】
固体電解質層51の他面には、大気導入ダクト55が形成されている。大気導入ダクト55は、上部に大気室(「基準ガス室」ともいう。)56を有している。この大気室56内に上記大気側電極53が配置されている。大気導入ダクト55は、アルミナ等の高熱伝導性セラミックスよりなる。大気導入ダクト55の下面には、ヒータ57が設けられている。ヒータ57は、通電により発熱する複数の発熱体57aと、該発熱体57aを覆う絶縁層57bとを有している。発熱体57aは、リード58cを介してECU60に接続されている。
【0023】
このような構成を有するセンサ素子部50は、酸素濃度を直線的特性にて検出することができ、酸素濃度に応じた臨界電流をECU60に出力し得る。この空燃比センサ出力(臨界電流)は、排気ガスの空燃比と相関を有している。具体的には、排気ガスの空燃比がリーン側になるほど臨界電流は増大し、排気ガスの空燃比がリッチ側になるほど臨界電流は減少する。
【0024】
なお、一般に、空燃比センサ40、42から取り出されたセンサ出力信号は、所定の信号処理が施された上で、ECU60での制御処理に用いられる。この信号処理はいわゆるLPF、HPFなどのバンドパスフィルタによる周波数信号処理等を含み、そのような信号処理の機能はECU60上に搭載されたりあるいは他の演算処理装置にて実現される。
【0025】
[実施の形態の動作]
図3乃至11は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作について説明するための図である。以下の順に各項目についてそれぞれ説明を行う。
・アクティブ制御、および最大酸素吸蔵量Cmaxに基づく触媒劣化検出法
・触媒の被毒度合の推定技術
・アクティブ制御のディレイ技術
【0026】
(アクティブ制御、および最大酸素吸蔵量Cmaxに基づく触媒劣化検出法)
図1のシステムによれば、触媒上流の排気空燃比をリッチ側(又はリーン側)からリーン側(又はリッチ側)に強制的に変化させてから触媒下流の酸素センサ出力が変化(反転)するまでの時間に、触媒30に流入する排気ガスの酸素過不足量を演算することで、触媒30の最大酸素吸蔵量Cmaxを算出することができる。すなわち、アクティブ制御を実行することにより、触媒30の最大酸素吸蔵量Cmaxを算出することができる。
【0027】
図3を参照して、触媒の最大酸素吸蔵量Cmaxの算出方法について説明する。詳細には、図3の上段の「触媒入りA/F」は、ECU60が、触媒30の上流における排気ガスのA/Fに相当している。この「触媒入りA/F」が実現されるようにECU60での空燃比制御(エンジン10の目標A/Fの制御、燃料噴射量制御)がなされ、排気ガスは触媒30に流れ込み、その排気ガスの酸素濃度に応じた出力信号を空燃比センサ40が出力する。なお、本実施形態では、リーンA/Fの値を14.1とし、リッチA/Fの値を15.1とする。つまり、アクティブ制御における目標A/Fの幅を、14.1から15.1とする。
図3の下段の「触媒出A/F」は、触媒30下流の空燃比センサ42の出力波形を示している。ただし、図3の下段において、実線は「S被毒(すなわち硫黄被毒)が生じている状態」の信号波形を示しており、破線の信号波形は「S被毒が無い状態」の信号波形を示している。
【0028】
図3の時刻tにおいては、触媒30が有する酸素吸蔵能力を飽和させるべく、図3の「触媒入りA/F」に示すように、筒内(燃焼室内)に供給される混合気の目標A/Fがリーン側目標値に設定されている。この状態では、筒内から酸素を含むリーンな排気ガスが排出される。また、触媒30にはリーンな排気ガスが流入するため、この排気ガス中の過剰な酸素が触媒30に吸蔵される。触媒30の酸素吸蔵能力が飽和していない間は、触媒30からリーンな排気ガスは吹き抜けてこない。
【0029】
その後、触媒30の酸素吸蔵能力が飽和すると、触媒30からリーンな排気ガスが吹き抜けてくる。このため、空燃比センサ42の出力がリーンを示す。空燃比センサ42の出力が所定のリーン判定値に達すると、図3の「触媒入りA/F」に示すように、目標A/FがリーンA/FからリッチA/Fへと切り換えられる。図3においては、時刻tがその時期に相当している。これにより、筒内からリッチな排気ガスが排出され、空燃比センサ40の出力がリッチを示す。このリッチな排気ガスが触媒30に流入すると、排気ガス中の還元剤により、触媒30に吸蔵された酸素が還元・放出される。この制御に応じて、空燃比センサ42の出力が、図3の領域Aのようにリーンからストイキへと収束するように変化する。
【0030】
その後、触媒30に吸蔵された酸素が消費されると、触媒30からリッチな排気ガスが吹き抜けてくる。このため、触媒30下流の空燃比センサ42の出力が、リッチを示すように徐々に低くなる。この様子が、図3における領域Bに示されており、リッチからストイキへと収束するように空燃比センサ42の出力が変化している。
領域Bで記したセンサ出力のリッチ側変化の過程で、空燃比センサ42の出力が、所定のリッチ判定値に達する。そうすると、触媒30に酸素を吸蔵させるべく、図3の上段「触媒入りA/F」に示すように、アクティブ制御によって目標A/FがリッチA/FからリーンA/Fへと切り換えられる。図3においては、時刻tがその時期に相当している。
【0031】
この一連の処理の流れは、時刻tの時点において触媒30が酸素吸蔵容量OSC一杯に酸素を吸蔵しているところから、その後リッチ側に目標A/Fが切り替えられて、触媒30内の酸素が使い果たされることで時刻tを迎える。つまり、時刻tから時刻tまでの間において空燃比センサ40が示したリッチ側出力を積分した値は、時刻tから時刻tまでの間に触媒30から放出された酸素量に相当している。リッチに設定された排気ガス中の不足酸素量を時刻tから時刻tまで積算することで、触媒30の放出酸素量を求めることができる。
【0032】
時刻tにおいて目標A/Fがリーン側目標値に設定されると、筒内からリーンな排気ガスが排出されるようになる。その結果、触媒30上流の空燃比センサ40の出力がリーンを示す。リーンな排気ガスが触媒30に流入すると、排気ガス中の過剰な酸素が触媒30に吸蔵される。触媒30に酸素が吸蔵されている間は、触媒30からリーンな排気ガスは吹き抜けてこない。
その後、触媒30に酸素吸蔵容量OSC一杯の酸素が吸蔵されて、触媒30の酸素吸蔵能力が飽和すると、触媒30からリーンな排気ガスが吹き抜けてくる。このため、空燃比センサ42の出力がリーン側に変化する。空燃比センサ42の出力が所定のリーン判定値に達すると、図3の冗談「触媒入りA/F」に示すように、アクティブ制御により目標A/Fがリッチ側目標値に切り換えられる。図3においては、時刻tがその時期に相当している。
【0033】
この一連の処理の流れは、時刻tの時点において触媒30が酸素を使い果たした状態から、その後リーン側に目標A/Fが切り替えられて、触媒30内に酸素吸蔵容量OSC一杯の酸素が吸蔵されることで時刻tを迎える。つまり、時刻tから時刻tまでの間において空燃比センサ40が示したリーン側出力を積分した値は、時刻tから時刻tまでの間に触媒30に吸蔵された酸素量に相当している。リーンに設定された排気ガス中の過剰酸素量を時刻tから時刻tまで積算することで、触媒30の吸蔵酸素量を求めることができる。
【0034】
このような制御を所定回数繰り返して放出酸素量と吸蔵酸素量を所定数求めて平均することで、触媒30の最大酸素吸蔵量Cmaxを求めることができる。この最大酸素吸蔵量Cmaxが基準値よりも小さい場合に、触媒30が劣化していると判断することができる。
【0035】
(触媒の被毒度合の推定技術)
図3乃至9は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置において使用される、触媒の被毒度合の推定技術を説明するための図である。
【0036】
先ず、本実施形態にかかる、触媒の被毒度合の推定技術の概要について説明する。
本実施形態にかかる被毒度合の推定技術は、「触媒の酸素放出速度を低下させる触媒被毒」が生じた場合に、その影響の度合を推定することができる。具体的には、触媒の下流に空燃比センサを設け、この触媒下流の空燃比センサの出力特性を評価することにより、「触媒の酸素放出速度を低下させる触媒被毒」としてのS被毒(すなわち硫黄被毒)を対象にして、被毒の度合を推定する。
すなわち、触媒30は、適量の酸素を吸蔵しておく能力(酸素吸蔵能力)を有しており、排気ガス中にHCやCOなどの未燃成分が含まれている場合は、吸蔵している酸素を用いてそれらの成分を酸化する。このような反応過程において触媒30の酸素の吸蔵と放出はそれぞれある特定の速度(それぞれ、酸素吸蔵速度、酸素放出速度)で進むものであるが、S被毒が起きるとこれらの速度のうち酸素放出速度が低下する。この酸素放出速度低下の影響は、触媒30下流の空燃比センサ42における「リーンまたはリッチからストイキへと収束する過程での空燃比の波形」に表れてくる。この様子が、図3の「触媒出A/F」の実線と破線との比較により明らかにされている。図3に示すアクティブ制御中の空燃比センサ42出力において、リッチからストイキへと収束する速度やリーンからストイキへと収束する速度などが、S被毒発生の前後において変化している。この変化は、S被毒発生時のほうが、ストイキへと向かう変化が急であり、ストイキへと収束する時期が早いというものである。触媒30の下流に空燃比センサ42を配置した構成によれば、そのような変化を十分な分解能により微小な変化も含めて検出することができる。そこで、触媒下流の空燃比センサ42の出力特性を評価することにより、触媒30のS被毒の度合を推定するのである。
【0037】
以下、本実施形態にかかる、触媒の被毒度合の推定技術における具体的なメカニズムについて説明する。
(1)触媒のS被毒
燃料中のS(硫黄)が燃焼室を経て触媒に到達すると、触媒の貴金属に吸着し、排気ガス浄化能力を低下させる。このとき、リッチガスを酸化させる能力(酸素放出速度)が低下することが判明している。
【0038】
(2)触媒劣化判定OBD(On-Board Diagnostic)およびアクティブ制御
触媒の劣化を判定するにあたり、アクティブ制御により触媒の最大酸素吸蔵量と最大酸素放出量をモニタ(計算)している場合には、触媒のS被毒が上記の酸素放出速度低下の影響が触媒30下流の空燃比センサ42の出力信号の挙動に影響を及ぼす。
【0039】
(2−a)触媒入りガスがリーン→リッチへ変化するとき
図4は、触媒入りガスがリーン→リッチへ変化するときのS被毒の有無の差を説明するための図である。「触媒入りガス」とは、触媒30に流入する排気ガスを意味している。この(2−a)の説明は、図3の領域Aにかかる部分についての、「実線で示すS被毒ありの場合の空燃比センサ42出力信号」と「破線で示すS被毒なしの場合の空燃比センサ42出力信号」との間の差異が生ずるメカニズムを述べるものである。
図4(a)は、正常触媒つまりS被毒が無い状態の触媒30を模式的に示し、図4(b)は、S被毒が生じている状態の触媒30を模式的に示している。図4(a)(b)で示しているのは、両方とも、酸素過多状態つまり酸素吸蔵容量OSC一杯に酸素を吸蔵している状態の触媒30である。図4(a)の正常状態の触媒30によれば、紙面左方から流れ込んでくる未燃成分等(H、HC、CO)が触媒30内に流入するのに応じて、吸蔵している酸素によりそれらの成分を酸化することができる。これに対し、図4(b)のS被毒状態の触媒30によれば、紙面左方から流れ込んでくる未燃成分等が触媒30内に流入してきたときに、酸素放出速度が遅いことが原因で、一部の成分についての酸化が間に合わずに吹き抜けが生じてしまう。このような吹き抜けの結果、正常時と比べて、触媒30下流の雰囲気がリーンからリッチ側(ストイキ)へと速やかに変化し、かつ、リッチ側への小さなオーバーシュートも発生してしまう。
そこで、ここで述べるS被毒度合の推定技術では、このような「触媒30下流の雰囲気がリーンからリッチ側(ストイキ)へと変化する速度」や、「リッチ側への小さなオーバーシュートの発生」をそれぞれ測定し、当該速度やオーバーシュートに基づいてS被毒度合を推定することにした。
【0040】
(2−b)触媒入りガスがリッチ→リーンへ変化するとき
図5および図6は、触媒入りガスがリッチ→リーンへ変化するときのS被毒の有無の差を説明するための図である。この(2−b)の説明は、図3の領域Bにかかる部分についての、「実線で示すS被毒ありの場合の空燃比センサ42出力信号」と「破線で示すS被毒なしの場合の空燃比センサ42出力信号」との間の差異が生ずるメカニズムを述べるものである。
図5は、図3における領域B付近について説明するための模式的な拡大図である。
図6は、触媒30内の酸素吸蔵放出のイメージ図である。図6(c)は、図6(a)(b)の読み方についての上記説明を模式的にまとめた図である。図6の紙面上下方向は、酸素吸着量を意味し、図6の紙面左右方向は、触媒30の軸方向の距離(位置)であり、排気ガスは紙面の左から右へと流れる。図6のそれぞれの四角において、斜線部の形状が変化する様子は、酸素の吸着が下流側に流れていく様子を表している。白色の割合が、酸素が吸蔵されていない部分(酸素が吸着していない貴金属量)の割合を、斜線部の割合が、酸素が吸蔵された部分の割合を、それぞれ示している。四角中の白色と斜線部の面積比は、触媒30内の酸素吸蔵度合(割合)を表している。白色と斜線部の比率が同じであるときが、触媒30の下流がストイキとなっているときである。
図6(c)の場合には、触媒30の入口部分は半分以上の割合で触媒に酸素が吸着しており、触媒の軸方向に沿って排気通路下流側へいくほど酸素吸着量(つまり酸素吸蔵量)が減少している。以下、このような図6の図示方法を前提にしたうえで、図6(a)および(b)を詳細に説明する。
【0041】
図6(a)の3つの四角はそれぞれ、正常な触媒30の図5に示す時期X1、X2、X3のそれぞれの時期における触媒30の状態(状態X1A、状態X2A、状態X3A)を模式的に時系列的に示している。図6のX1Aは、正常触媒において、酸素(斜線部)が無くなって空燃比センサ42にリッチ出力が現れる状態を表している。図6のX2Aは、正常触媒において、アクティブ制御で目標A/FがリーンA/Fに切り替わり酸素の吸蔵が進んでいる様子を表している。図6のX3Aは、触媒30内の酸素吸蔵割合がちょうど50%となり、酸素を吸蔵した部分と酸素を吸蔵していない部分との割合が等しくなった状態である。X3Aの時点において、図5のX3における破線の出力を見るとわかるように、ちょうど空燃比センサ42の出力がストイキに一致する。
一方、図6(b)の3つの四角はそれぞれ、S被毒状態の触媒30の図5に示す時期X1、X2、X3のそれぞれの時期における触媒30の状態(状態X1B、状態X2B、状態X3B)を模式的、時系列的に示している。図6のX1Bは、S被毒が生じた触媒において、酸素放出速度が遅いがために、図5のX1の時点でも酸素を吸蔵した部分(斜線部)が残っている様子を示している。前述したように、触媒30にS被毒が生じている状態では、酸素放出速度が遅いため、触媒30内の酸素を完全に使い切る前に触媒30下流の空燃比がリッチへと変化してしまうからである。X1AとX1Bを比較すると、酸素放出速度の低下により酸素残存状態が引き起こされていることがわかる。
【0042】
図4のX1の時期に、アクティブ制御によりリッチからリーンへの目標A/Fの切替が行われる。その後は、触媒30内の酸素吸蔵量に応じて、触媒30下流の空燃比の値が変化することがわかっている。そのため、S被毒状態の触媒30では切替後の出力変化が急峻になる。
この点を、図6(b)と図6(a)との比較により、詳細に説明する。図6のX2B、X3Bは、S被毒が生じている触媒において、残存した酸素(斜線部)に加えてさらにリーン空燃比に制御された排気ガス中の酸素が触媒30に流れ込むことにより、酸素の吸蔵部分(斜線部)が増大している様子を表している。前述したように、図6では、四角中の白色と斜線部の面積比は触媒30内の酸素吸蔵度合(割合)を表しており、白色と斜線部の比率が同じときが、触媒30の下流がストイキとなるときである。従って、図6(b)に示すS被毒の触媒にあっては、X1Bの段階で残っていた酸素とあわせて、速やかに、四角中の白色と斜線部の面積比が等しくなるほどに触媒30が酸素を吸蔵することになる。その結果、図6のX2Bの段階において速やかに触媒30下流がストイキとなり、図5のX2の時期において実線の空燃比センサ42出力がストイキに収束している。つまり、S被毒状態の触媒30では、アクティブ制御によるリッチ→リーンへの切替後におけるリッチからストイキへの出力変化が急峻になっており、ストイキへの収束が相対的に迅速に完了するようになる。
そこで、図5に現れる空燃比センサ42の出力波形(出力特性)の相違を検出することで、S被毒の有無や度合を推定することができる。具体的には、「アクティブ制御によるリッチ→リーンへの切替後におけるリッチからストイキへの出力変化速度」が、相対的に大きい(つまり相対的に短時間でストイキに収束)であれば、酸素放出速度の低下が起きており、S被毒が生じていると判断できる。また、そのように短時間でストイキに収束する場合には、下記の具体的な計算方法で述べるように「リッチ、リーン面積比」を算出することにより、触媒30のS被毒度合を推定することもできる。
【0043】
続いて、本実施形態にかかる、触媒の被毒度合の推定技術における、具体的な計算方法について説明する。先ず、触媒30のS被毒度合の推定にかかわる複数のパラメータ(推定パラメータ)を説明し、続いて、これらの推定パラメータを用いたS被毒度合推定値の計算方法を説明する。
【0044】
図7は、本発明の実施の形態において、触媒30のS被毒度合の推定にかかわる複数のパラメータ(推定パラメータ)を説明するための図である。図7には、空燃比センサ42が検出する「触媒出A/F」の空燃比が示されている。本実施形態では、このような空燃比センサ42の出力波形から、下記に列挙する推定パラメータp、p、p、p、pを算出する。図7には、推定パラメータp、p、p、p、pを算出する上で必要な値であるVL、VR、Vos、Ta、Tcがそれぞれ図示されている。
【0045】
まず、アクティブ制御における、リーンからリッチへの切替制御に応じて算出される推定パラメータpとpを、それぞれ、下記のとおりに定義する。これは、図3の時刻tの時期におけるアクティブ制御に応じて得られる推定パラメータである。
推定パラメータ「p」は、リーン→リッチ切替制御後のA/F変化速度であり、下記の式で定義される。VLは、図7のセンサ出力波形におけるリーン側のピーク値である。Taは、図7のセンサ出力波形においてリーン側ピーク値からストイキを横切るまでの時間である。
= VL/Ta ・・・(1)
推定パラメータ「p」は、リーン→リッチ切替制御後のストイキオーバーシュート量であり、下記の式で定義される。Vosは、図7のセンサ出力波形において、時間Taでストイキを横切った後一端リーン側に振れてストイキに収束するまでの期間におけるリッチ側のピークの幅(振れ幅)の大きさである。
= Vos ・・・(2)
【0046】
一方、アクティブ制御における、リッチからリーンへの切替制御に応じて算出される推定パラメータpを、下記のとおりに定義する。このpは、図3の時刻tの時期におけるアクティブ制御に応じて得られる推定パラメータであり、上記のp、pとは逆の、リッチ→リーン切替制御に応じた推定パラメータである。推定パラメータ「p」としては、リッチ→リーン切替制御後の、A/Fがストイキとなるまでの時間または速度が用いられる。pは、下記の式(3)又は(4)で定義される値である。VRは、図7のセンサ出力波形におけるリーン側のピーク値である。Tcは、図7のセンサ出力波形においてリッチ側ピーク値からストイキに至るまでの時間である。
時間を用いる場合: p = Tc ・・・(3)
速度を用いる場合: p = VR/Tc ・・・(4)
【0047】
さらに、アクティブ制御における、リッチからリーンを経てリッチとなるまでの一往復の切替制御に応じて算出される推定パラメータpを、下記のとおりに定義する。このpは、図3の時刻tからtまでの期間におけるアクティブ制御に応じて得られる推定パラメータである。推定パラメータ「p」は、リッチ→リーン→リッチまでの「出力面積比」である。ここでいう「出力面積比」とは、図7に示す面積Dと面積Dの比D/Dで定義される。面積Dは、「リッチ出力波形の積分により求めた面積」であり、面積Dは、「リーン出力波形の積分により求めた面積」である。すなわち、推定パラメータpは、下記の式で定義される。
= D/D ・・・(5)

上記の式(6)のV(rich)とは、空燃比センサ40の出力電圧Vのうち、リッチ域における出力を意味している。上記の式(7)のV(lean)とは、空燃比センサ40の出力電圧Vのうち、リーン域における出力を意味している。図3との比較で説明すると、V(rich)、V(lean)は、それぞれ、時刻tから時刻tまでの期間におけるリッチの出力、リーンの出力である。
S被毒による触媒の酸素放出速度低下の影響で、Tc(つまり図7のセンサ出力波形においてリッチ側ピーク値からストイキに至るまでの時間)は、相対的に小さくなる。これは、図3の「触媒出A/F」の実線(S被毒あり)と破線(S被毒無し)とを比べることによっても理解できる。Tcが相対的に小さければ、Dの値も相対的に小さくなる。従って、上記のpの値に基づいて、S被毒度合を推定することができる。
【0048】
また、触媒劣化判定OBD(オープンループ制御)においては、次の推定パラメータ「p」を用いることもできる。オープンループ制御では、触媒下流センサ(本実施形態では空燃比センサ42)の出力値とは無関係に、触媒入りガスを対象とするA/F制御が行われる。このようなシステムでは、リッチA/F制御中のリッチピーク値と、酸素放出速度との間に相関がある。そこで、このようなシステムでは、リッチピーク値(図7のVRに相当)をモニタすることによっても、触媒S被毒状態を推定することができる。
= VR ・・・(8)
【0049】
図8は、本発明の実施の形態において触媒30のS被毒度合(触媒S蓄積量)を算出するためのマップを説明するための図である。図8には、上述した複数の推定パラメータを総合することにより算出した推定パラメータPtotalと、触媒S蓄積量との間の相関が記載されている。本実施形態においては、ECU60がこのマップを予め記憶させられている。
【0050】
推定パラメータPtotalは、下記の式により算出される。
total=w×p+w×p+w×p+w×p+w×p ・・・(9)
ここで、w、w、w、w、wは、重み付け値(係数)であり、適合によって定めた値である。吸入空気量Gaやエンジン回転数Neによって、各パラメータとS蓄積量との間の相関は変化することが考えられる。また、触媒の構成や、エンジンの構成によっても、各パラメータとS蓄積量との間の相関は変化することが考えられる。このような点を考慮して、適合によって、それぞれ好ましい重み付け値を決定することが好ましく、これらは適合結果に応じて互いに所望の異なる大きさの値とすることができる。さらにはその重み付け値に対してGaやNe等のエンジン運転条件、運転状態に応じた関数化、補正処理などを施すことが好ましい。
ただし、本発明は、このような重み付けを行う実施形態に限定されるものではない。重み付けを行わない計算(つまりPtotal=p+p+p+p+p)を採用してもよく、また、pからpのうち一部のみに対して重み付け係数を乗じてもよい。
なお、推定パラメータpは、オープンループ制御時のリッチピーク値を適当なタイミングで取得して、算入してもよい。また、Ptotalを、pを含ませないでp、p、pおよびpのみの関数で定義しても良い。
【0051】
図9は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。このフローチャートにより、上記で説明した触媒の被毒度合の推定技術を実現するための制御処理をECU60上で実行することができる。
【0052】
図9に示すルーチンでは、先ず、ECU60が、触媒劣化検出を実施するうえでの前提条件が成立しているかどうかを判定する処理を実行する(ステップS100)。この前提条件の判定は、実施の形態においては、次の条件がそれぞれ成立している場合に肯定(Yes)となるものとする。
(1)触媒30の床温Tcatが所定温度T(例えば500℃)を上回っているか否か。つまりTcat>Tか否か。
(2)吸入空気量Gaが所定範囲内(Ga1〜Ga2)かどうか。つまりGa1<Ga<Ga2か否か。実施の形態ではGa1=5、Ga2=30とする。
(3)空燃比センサ40、42が活性化しているか(センサが活性温度に達しているか等)。
ステップS100の条件が成立していない場合には、触媒劣化検出が実施されることなく、今回のルーチンが終了する。
【0053】
ステップS100の判定結果が肯定(Yes)である場合には、次いで、ECU60が、アクティブ制御処理を開始する(ステップS102)。このステップでは、ECU60が、上記の「アクティブ制御、および最大酸素吸蔵量Cmaxに基づく触媒劣化検出法」において説明したアクティブ制御を実行する。具体的には、ECU60が、エンジン10の目標A/Fを図3の上段の「触媒入りA/F」に相当するステップ状に切り換えて、これに応じた燃料噴射制御を実施する。このとき、リーンA/Fの値は14.1とし、リッチA/Fの値は15.1とする。つまり、アクティブ制御における目標A/Fの幅を、14.1から15.1とする。
【0054】
次いで、ECU60は、触媒S状態推定のための処理を開始する(ステップS104)。本ステップの処理内容は、上記の「触媒の被毒度合の推定技術」において説明した内容を実現するようにプログラミングされている。ECU60は、アクティブ制御に応じた空燃比センサ42の出力を取得する。この取得した出力信号は、図3の「触媒出A/F」のごとき波形を示す。ECU60は、上記列挙した計算式(1)〜(8)に従って、取得した波形に対して図7に示す値VL、VR、Vos、Ta、Tcをそれぞれ取得する処理を実行し、さらに、推定パラメータp、p、p、p、pを計算する処理を実行する。その後、ECU60は、上記の式(9)に従って触媒S蓄積量の推定値を算出する。その後、今回のルーチンが終了する。
【0055】
以上の処理によれば、空燃比センサ42の出力特性を評価することにより触媒30のS被毒の度合を推定することができる。
【0056】
(アクティブ制御のディレイ技術)
図10および図11は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置における、アクティブ制御のディレイ技術を説明するための図である。この技術は、触媒のS蓄積量の推定値に応じて、触媒劣化判定を行うためのアクティブ制御の波形(図3の「触媒入りA/F」の波形)を変化させるというものである。
触媒がS(硫黄)に被毒すると、触媒セリア、Pt(白金)からの酸素放出速度が低下する。よって触媒30がS被毒した場合には、触媒30の酸素放出速度が低下する。この酸素放出速度低下が生じている状態では、アクティブ制御におけるリッチ空燃比に制御中に、触媒30内の酸素が放出し尽される前に触媒30の下流でリッチが検出されるという事態が生ずる(リッチガスが触媒の酸素と反応せずに触媒下流に排出される)。アクティブ制御による触媒劣化検出装置は触媒内の酸素が使い果たされることを前提としてアクティブ制御の実行および最大酸素吸蔵量Cmaxの計算を行うものであるため、触媒30内に酸素が残存している段階で強制的な空燃比切替が実施されるという動作は本来意図している動作ではない。このような事態が生ずると、最大酸素吸蔵量Cmaxの計算精度が低下し、触媒30の劣化の検出精度も低下してしまう。
【0057】
そこで、実施の形態においては、S被毒状態にある触媒30に対しては、より酸素を放出しやすくなるように、アクティブ制御の内容(波形)を修正することとした。このようにすることで、触媒30内の酸素の残留量を低減し、吸蔵酸素の残留による影響をなるべく抑制したうえで、アクティブ制御による目標A/Fの切替制御、最大酸素吸蔵量Cmaxの計算を行うことができる。その結果、S被毒が生じて触媒30の酸素放出速度が低下した状況下にあっても、触媒30の劣化検出精度の低下を抑制することができる。以下、本発明の実施の形態にかかるアクティブ制御のディレイ技術として、2つのS被毒対策制御手法を説明する。
(第1のS被毒対策制御手法)
図10は、本発明の実施の形態にかかるアクティブ制御のディレイ技術のうち第1のS被毒対策制御手法を説明するための図である。この手法においては、酸素放出速度が低下しているため触媒30下流がリッチになっても触媒30内に酸素が残っているという点を考慮に入れて、上記の「S被毒の推定技術」を用いて算定したS被毒度合いに応じて、触媒30の下流の空燃比センサ42がリッチ出力を発してもアクティブ制御によるリーンからリッチへの目標A/Fの切替制御を一定時間遅らせることとした。すなわち、リーンからリッチへの目標A/Fの切替制御を、「ディレイ(遅延)」させることにした。これにより、触媒30内の酸素を可能な限り(理想的には、完全に)放出させたうえで、アクティブ制御による目標A/Fの切替制御、最大酸素吸蔵量Cmaxの計算を行うことができる。以下、この「アクティブ制御によるリーンからリッチへの目標A/Fの切替制御を一定時間遅らせる時間の長さ」を、「ディレイ量」とも称す。
実施の形態における第1のS被毒対策制御手法をより詳細に説明すると、図10に示すように、S推定硫黄蓄積量が相対的に少ない(図10における紙面左側)においては、リッチ制御時のディレイ量を0秒に設定する。その一方で、S推定硫黄蓄積量が相対的に多い(図10における紙面右側)においては、ディレイ量を5秒(5 sec)に設定する。また、図10に示すように、ディレイ量=0秒の領域とディレイ量=5秒の領域との間の中間段階においては、0秒から5秒へとディレイ量を比例的に増加する領域を設ける。
【0058】
(第2のS被毒対策制御手法)
図11は、本発明の実施の形態にかかるアクティブ制御のディレイ技術のうち第2のS被毒対策制御手法を説明するための図である。この手法においては、酸素放出速度が低下するということを考慮して、アクティブ制御中のリッチ制御時における目標A/Fを、S蓄積量(S被毒度合)に応じて変化させることとし、具体的にはS蓄積量が多いほどリッチ制御時の目標A/Fをリッチ化(濃く)する。
より詳細には、実施の形態における第2のS被毒対策制御手法では、図11に示すように、S推定硫黄蓄積量が相対的に少ない(図11における紙面左側)においては、リッチ制御時の目標A/Fを14.1に設定する。その一方で、S推定硫黄蓄積量が相対的に多い(図11における紙面右側)においては、リッチ制御時の目標A/Fを13に設定する。また、図11に示すように、A/F=14.1の領域とA/F=13の領域との間の中間段階においては、14.1から13へと目標A/Fを比例的にリッチ化する領域を設ける。
【0059】
[実施の形態の具体的処理]
図12は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置においてECU60が実行するルーチンのフローチャートである。
【0060】
図12に示すルーチンでは、先ず、ECU60が、触媒劣化検出を実施するうえでの前提条件が成立しているかどうかを判定する処理を実行する(ステップS100)。この前提条件の判定は、実施の形態においては、前述した図9のルーチンと同じ条件とする。ステップS100の条件が成立していない場合には、触媒劣化検出が実施されることなく、今回のルーチンが終了する。
【0061】
ステップS100の条件が成立(Yes)した場合には、次に、ECU60が、S蓄積推定制御を実行した上で、その推定の結果である推定硫黄蓄積量Sestの値が所定値αを上回っているか否かを判定する処理を実行する(ステップS202)。このステップでは、先ず、前述した図9のルーチンに基づいて、触媒S状態推定処理(ステップS104)の結果としての、推定硫黄蓄積量の値Sestを取得する。次に、このSestと所定値αとを比較し、Sest>αの関係が成立しているか否かを判定する。このαの値は、「通常のアクティブ制御で最大酸素吸蔵量Cmaxの計算を行った場合に、その計算結果が触媒劣化検出結果に影響を及ぼすほどにSestが多いかどうか」を判定するための値として、予め定めた値である。
【0062】
ステップS202の判定結果が肯定(YES)であった場合には、ECU60は、S被毒対策制御を実行する(ステップS204)。実施の形態では、上記の「第1のS被毒対策制御手法」を適用するものとする。すなわち、ECU60は、図10に示すディレイ量の設定情報を予めマップ等の形式で記憶しており、S推定硫黄蓄積量Sestに応じて0秒から5秒の範囲内でディレイ量を決定する。ECU60は、決定したディレイ量の分だけ、アクティブ制御におけるリッチ制御の継続時間(保持時間)を増加する。このステップにより、最大酸素吸蔵量Cmaxが算出される。
【0063】
一方、ステップS202の判定結果が否定(No)であった場合は、Sestの値は、通常(例えば初期設定状態)のアクティブ制御でも十分な精度で触媒劣化検出を行うことができると判断することができるの。この場合には、ECU60は、通常制御を実行する(ステップS206)。ここでいう「通常制御の実行」とは、「実施の形態にかかるアクティブ制御のディレイ技術を適用しない状態で、アクティブ制御および最大酸素吸蔵量Cmaxの計算を実行する」という意味である。このステップにより、最大酸素吸蔵量Cmaxが算出される。
【0064】
次に、ECU60が、最大酸素吸蔵量Cmaxが所定値βを上回っているかを判定することにより触媒に異常(劣化)があるか否かを判定する処理を実行する(ステップS208)。このステップで使用されるCmaxの値は、上記ステップS204またはS206で求められた値である。
Cmaxの値が所定値より大きい場合(Cmax>β)の場合には、触媒30は酸素の吸蔵能力を正常に有していると判断することができる。このため、ステップS208の判定結果が肯定(Yes)であった場合には、ルーチンは「正常」という判定結果を出力するとともに(ステップS210)、今回のルーチンが終了する。
一方、ステップS208の判定結果が否定(No)であった場合には、ルーチンは「異常」という判定結果を出力するとともに(ステップS212)、今回のルーチンが終了する。このステップで「異常」という判定結果が出された場合には、S被毒による影響を取り除いたにもかかわらず、触媒30の酸素吸蔵能力は正常とはいえないほどに低いという結果が導かれたことになり、触媒30が「劣化」したものと判断される。これにより、被毒による触媒の一時的な性能低下(酸素放出能力の低下)による影響を抑制することができ、触媒の被毒で触媒劣化検出の精度が低下してしまうことを抑制することができる。
【0065】
尚、上述した実施の形態においては、ECU60が図9のルーチンのステップS102の処理を実行することにより、前記第1、第3の発明における「空燃比制御手段」が、ECU60が図12のルーチンのステップS204またはS206の処理を実行することにより、前記第1、第3の発明における「酸素吸蔵量算出手段」が、ECU60が図12のルーチンのステップS208の処理を実行することにより、前記第1、第3の発明における「劣化検出手段」が、ECU60が図9のルーチンのステップS104の処理を実行することにより、前記第1、第3の発明における「被毒度合推定手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態では、ECU60が図12のルーチンのステップS202およびS204の処理を実行することにより、前記第1の発明における「ディレイ手段」が、実現されている。また、上記実施の形態においては、「推定硫黄蓄積量Sest」が、前記第1の発明における「S蓄積の度合」に相当している。
【0066】
なお、上記の実施の形態にかかる構成は、触媒の上流と下流にそれぞれ空燃比センサを備えている。一般にその作動原理が起電力方式であるOセンサは、ヒステリシスを有するため、この触媒劣化検出技術で必要となる微小な変化すなわち「被毒による触媒の酸素放出速度の変化に起因する、触媒下流空燃比のストイキ収束特性の変化」を検出することはできない。限界電流式の空燃比センサ42によればこのような変化をモニタリングすることが可能であり、十分な分解能が得られるという面からも、空燃比センサが好ましい。ここで問題視しているヒステリシスは起電力式センサ特有のものであり、空燃比センサにおいてはこのヒステリシスが極めて小さい。限界電流式のガスセンサは、その動作原理から、常にガスを限界まで反応させており、センサ素子内部においてガスが反応しきっているからである。
【0067】
[実施の形態の変形例]
実施の形態では、「S被毒の度合」としての推定硫黄蓄積量Sestを、図9に示すルーチンにより計算した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。S被毒の度合については、例えば、燃料中の硫黄濃度を検出することによって推定する等の、各種の公知のS被毒度合推定、検出技術を利用することによって、把握してもよい。
使用地域等によっては燃料中に硫黄(S)が比較的高濃度で含まれていることがあり、このような燃料が給油された場合、硫黄成分が触媒に蓄積して触媒の性能が低下する被毒(S被毒)が発生する。従って、燃料中の硫黄濃度に基づいて、触媒30のS被毒の度合を推定してもよい。例えば、特開2010−163885号に開示されているように、NOx触媒の下流側に排気ガスのNOx濃度を検出するNOxセンサを取り付けて、触媒上流側空燃比のリーン制御中におけるNOxセンサの出力に基づき燃料の硫黄濃度を検出する技術が知られている。また、燃料の性状をセンサにより検出し、燃料中の硫黄濃度を検出等の技術を適用してもよい。
また、上記実施の形態にかかる「触媒の被毒度合の推定技術」の代わりに、上記の燃料中硫黄濃度検出等の技術を用いることによって触媒30のS被毒の度合を推定する場合には、必ずしも、触媒30の下流に空燃比センサを設けなくとも良い。この場合には、アクティブ制御を用いた最大酸素吸蔵量Cmaxに基づく触媒劣化判定を行うために、触媒30の下流に、空燃比センサ42に代えて、排気ガスのリーンおよびリッチに応じて出力を急変させるOセンサを設けても良い。
【0068】
なお、上記の実施の形態における具体的処理では、S被毒対策制御処理(ステップS204)において、上述した「第1のS被毒対策制御手法」を適用した。しかしながら、本発明はこれに限られず、S被毒対策制御処理(ステップS204)において上述した第2のS被毒対策制御手法を適用してもよい。この場合には、図11に示す特性を定めたマップ等をECU60に記憶させ、ECU60が図12のルーチンのステップS202およびS204の処理で「第2のS被毒対策制御手法」を適用する。なお、この変形例により、前記第3の発明における「補正手段」および前記第4の発明における「リッチ化手段」が、それぞれ実現されている。
なお、第1のS被毒対策制御手法と第2のS被毒対策制御手法を組み合わせてもよい。
【0069】
なお、図10に示したディレイ量の設定例(マップ)において、中間段階のディレイ量の変化は、図10のような直線的な増加のほか、階段状の増加、曲線的な増加であってもよい。図11に示した目標A/Fの設定例(マップ)において、中間段階の目標A/Fの変化は、図11のような直線的なリッチ化のほか、階段状に目標A/Fを変化させるものであったり、曲線的に目標A/Fを変化させるものであってもよい。
【0070】
触媒の被毒による触媒劣化検出への影響を抑制する他の技術.
なお、「触媒の被毒による、触媒劣化検出への影響」を抑制する他の技術として、下記に述べる技術もあわせて開示する。この「触媒の被毒による触媒劣化検出への影響を抑制する他の技術」は、上記の実施の形態で記載した技術と組み合わせて用いても良いし、上記実施の形態にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置とは別に独立して実施することもできる。以下、図1および図2に示したハードウェア構成を含め、上記の実施の形態と同様の構成を有している内燃機関を前提として、説明を行う。
触媒がS被毒することによって触媒能力(酸素放出速度)は低下するが、それは一時的な低下であり、触媒そのものが劣化・故障したわけではない。そこで、本技術では、触媒のS被毒量に応じて計算した最大酸素吸蔵量Cmaxの値を補正したり、あるいは、触媒S蓄積量に応じて、触媒劣化判定の異常スレッシュ(閾値)を変化させたりするものとした。これにより、S被毒の影響とは別の、触媒そのものの劣化・故障を、精度良く検出することができる。
図13は、触媒の被毒による影響を抑制する他の技術にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置の動作を説明するための図であり、触媒S蓄積量に応じた触媒劣化判定の異常スレッシュ値の設定情報(マップ)を示す図である。
本技術では、まず、上記の実施の形態の具体的処理(図12)と同様に、S被毒度合の推定(推定硫黄蓄積量Sest)を取得する。次いで、ステップS202でのSest>αという判定が肯定(Yes)であった場合には、触媒異常スレッシュの値をSestの大きさに応じて低減することにした。
【0071】
図14は、触媒の被毒による触媒劣化検出への影響を抑制する他の技術にかかる内燃機関の触媒劣化検出装置においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
図14のルーチンでは、まず、図12のルーチンと同様に前提条件成立判定(ステップs100)が行われた後、触媒劣化判定制御(アクティブ制御や最大酸素吸蔵量Cmaxの算出など)が開始される(ステップS302)。
次いで、ECU60は、触媒S状態推定制御(ステップS202)において肯定(Yes)だった場合には、ECU60は、S影響補正の処理(ステップS306)により異常スレッシュの補正を実行した上で、触媒の劣化判定処理(S308)を実行する。このステップでは、図13に示した曲線的傾向、すなわち、S蓄積量が多いほど触媒異常スレッシュを低めに設定するという傾向に従って、触媒異常スレッシュの補正処理が行われる。具体的には、ステップS308におけるCmax>βの判定式のうちの、判定値βの値を、図13の傾向に則って小さい値に補正する。
一方、ステップS202の判定結果が否定(No)であった場合には、ECU60は、S影響補正処理(ステップS306)を行うことなくステップS308の処理を実行し、通常通りの劣化判定制御を行う。その後、ステップS308の結果に応じて、正常(ステップS310)または異常(ステップS312)のいずれかの判定結果が出力される。
これにより、触媒S蓄積量に応じて、触媒劣化判定の異常スレッシュ(閾値)を変化させることができる。その結果、触媒のS被毒によって触媒劣化判定の精度が低下することを抑制することができる。
【符号の説明】
【0072】
10 エンジン
20 排気通路
30、32 触媒(三元触媒)
40、42 空燃比センサ
50 センサ素子部
51 検出素子(固体電解質層)
52 計測電極
53 大気側電極
54 多孔質拡散抵抗層
54a ガス透過層
54b ガス遮断層
55 大気導入ダクト
56 大気室
57 ヒータ
57a 発熱体
57b 絶縁層
58a,58b、58c リード
est 推定硫黄蓄積量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素吸蔵能を有する触媒が排気通路に設けられた内燃機関における触媒の劣化を検出する触媒劣化検出装置であって、
触媒下流に設けられ、該触媒下流の排気空燃比に応じて出力値を変化させる排気ガスセンサと、
前記触媒上流の排気空燃比をリーン側空燃比及びリッチ側空燃比に制御する空燃比制御手段と、
リーン側空燃比及びリッチ側空燃比毎に、前記排気ガスセンサの出力値が変化するまでの時間に前記触媒に流入する酸素過不足量を算出し、前記酸素過不足量に基づいて前記触媒の酸素吸蔵量を算出する酸素吸蔵量算出手段と、
前記酸素吸蔵量算出手段により算出された酸素吸蔵量に基づいて、前記触媒の劣化を検出する劣化検出手段と、
前記触媒における、酸素放出速度を低下させる被毒の度合を推定する被毒度合推定手段と、
前記被毒度合推定手段で求められた前記被毒の度合に応じて、前記空燃比制御手段におけるリッチ側空燃比からリーン側空燃比への切替を遅らせるディレイ手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の触媒劣化検出装置。
【請求項2】
前記ディレイ手段は、
前記酸素吸蔵量算出手段による前記酸素吸蔵量の算出精度が所定の精度より低くならない程度の量まで前記触媒内の酸素が放出されるように、前記空燃比制御手段におけるリッチ側空燃比からリーン側空燃比への切替を遅らせる手段を、
含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の触媒劣化検出装置。
【請求項3】
酸素吸蔵能を有する触媒が排気通路に設けられた内燃機関における触媒の劣化を検出する触媒劣化検出装置であって、
触媒下流に設けられ、該触媒下流の排気空燃比に応じて出力値を変化させる排気ガスセンサと、
前記触媒上流の排気空燃比をリーン側空燃比及びリッチ側空燃比に制御する空燃比制御手段と、
リーン側空燃比及びリッチ側空燃比毎に、前記排気ガスセンサの出力値が変化するまでの時間に前記触媒に流入する酸素過不足量を算出し、前記酸素過不足量に基づいて前記触媒の酸素吸蔵量を算出する酸素吸蔵量算出手段と、
前記酸素吸蔵量算出手段により算出された酸素吸蔵量に基づいて、前記触媒の劣化を検出する劣化検出手段と、
前記触媒における、酸素放出速度を低下させる被毒の度合を推定する被毒度合推定手段と、
前記被毒度合推定手段で求められた前記被毒の度合に応じて、前記触媒の吸蔵酸素の放出されやすさが相対的に向上する状態となるように前記空燃比制御手段におけるリッチ側空燃比とリーン側空燃比との間の切替の制御内容を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の触媒劣化検出装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記推定又は前記検出により求められた前記被毒の度合に応じて、前記空燃比制御手段におけるリッチ側空燃比の目標値をリッチ側に設定するリッチ化手段を、含むことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の触媒劣化検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−241652(P2012−241652A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113978(P2011−113978)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】