説明

内燃機関システム

【課題】内燃機関の排気通路に設けられ印加電圧を変更可能な電極を有し、印加電圧により該電極と該排気通路との間に電流を流すことで、排気中の粒子状物質を凝集させる粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムにおいて、内燃機関の暖機時における排気中に含まれるPMの効率的な除去を実現する。
【解決手段】内燃機関システムにおいて、内燃機関の排気通路に設けられ印加電圧を変更可能な電極を有し、印加電圧により該電極と該排気通路との間に電流を流すことで、排気中の粒子状物質を凝集させる粒子状物質処理装置と、内燃機関の暖機が完了していないとき、該内燃機関の出力を要求出力より低下させる出力低下手段と、出力低下手段により内燃機関の出力低下が行われているとき、該低下された出力に相当する出力を補充する出力補充手段と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に電極を有し、その電極への電圧印加によって排気中の粒子状物質を凝集させる粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に放電電極を設け、該放電電極からコロナ放電を発生させることにより粒子状物質(以下、PMともいう。)を帯電させてPMを凝集させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。PMを凝集させることにより、結果的には、単位体積当たりに含まれるPMの粒子数を減少させることができる。また、凝集の結果としてのPMは、その粒子径が大きくなるため、例えば、放電電極の下流側にフィルタを設けた場合には、該フィルタにてPMを捕集しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の排気通路に電極を設け、該電極に電圧印加をすることで排気通路を流れる排気中のPMを帯電させて、PMを凝集させることで、排気に含まれる単位体積当たりのPM数を低減させることが可能となる。これは、PMの粒子数に起因する環境への負荷軽減に大きく寄与するものである。
【0005】
ここで、内燃機関が機関始動した直後においては、その暖機が十分でないため内燃機関全体の温度が低く燃料の燃焼が好適に行われにくい状況にある。そのため、内燃機関から排出される排気に含まれるPM粒子数は、この機関始動直後では比較的多くなる。一方で、燃焼条件を改善するために内燃機関の暖機を早めようと燃焼に供される燃料量を増やすと、そもそも暖機時において排出されるPM粒子数を増やしてしまう。さらに、燃料量が多くなることで排気流量も増えるため、上述の電極を用いたPM凝集を効率的に行うのも困難になる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、内燃機関の排気通路に設けられ印加電圧を変更可能な電極を有し、印加電圧により該電極と該排気通路との間に電流を流すことで、排気中の粒子状物質を凝集させる粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムにおいて、内燃機関の暖機時における排気中に含まれるPMの効率的な除去を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、上記課題を解決するために、内燃機関システムにおいて、内燃機関の暖機が完了していない状態においては、当該内燃機関の機関出力を要求される出力よりも低下させるとともに、その低下分を別に設けられた出力補充手段によって補充する構成とした。この構成により、内燃機関システム全体としては出力の低下を回避しつつ、帯電によるPM凝集の効率を高めて、PM除去の処理を実現することが可能となる。
【0008】
詳細には、本発明は、内燃機関と、前記内燃機関の排気通路に設けられ印加電圧を変更可能な電極を有し、印加電圧により該電極と該排気通路との間に電流を流すことで、排気中の粒子状物質を凝集させる粒子状物質処理装置と、を備える内燃機関システムであって
、更に、前記内燃機関の暖機が完了していないとき、該内燃機関の出力を要求出力より低下させる出力低下手段と、前記出力低下手段により前記内燃機関の出力低下が行われているとき、該低下された出力に相当する出力を補充する出力補充手段と、を備える構成とする。
【0009】
本発明に係る内燃機関システムでは、粒子状物質処理装置によって、排気通路に設けられた電極への電圧印加が制御されることで、電極と排気通路との間の空間、すなわち排気が流れる空間(以下、「帯電空間」という。)に電流が流れ、以て排気中のPMが帯電されることになる。その結果、PM同士が静電気力によって凝集したり、また、帯電したPMが排気通路側へ誘引され、そこでPM同士が凝集したりする結果、排気中のPMの粒子径が大きくなるとともに、そこに含まれる単位体積当たりの粒子数を低減することが可能となる。
【0010】
また、内燃機関の暖機が完了していない状態では、排気中に含まれるPM粒子数が、暖機が完了している場合と比べて多くなる。そこで、この暖機未完了状態におけるPM粒子の除去は、環境負荷の軽減の観点から極めて重要である。一方で、上記粒子状物質処理装置によるPM粒子の除去の効率は、排気流量に大きく依存するものである。これは、排気流量が少ないほどPMの慣性力が小さくなるため、相対的に電極による静電作用の影響が大きくなり、帯電したPM同士が凝集しやすくなるからである。したがって、排気流量が少ないほど、より小さな印加電圧でPM同士が凝集することになり、効率的なPM除去が実現し得る。
【0011】
そこで、本発明に係る内燃機関システムでは、内燃機関の暖機が完了していない状態では、出力低下手段によって当該内燃機関の機関出力を本来要求されている出力より低下させることにより、排気通路を流れる排気流量を減少させる。これにより、排気中に含まれるPM粒子数を少なくするとともに、粒子状物質処理装置によるPM除去の効率を上昇させることができる。また、低下させられた機関出力分は、出力補充手段により出力の補充が行われることで、内燃機関システム全体としてのシステム出力は帳尻が合わせられることになり、以て要求された負荷駆動は担保される。出力補充手段としては、システム外に対して出力を供給できるものであれば様々な態様が採用できるが、内燃機関のように燃料の燃焼により排気を排出する態様は好ましくない。
【0012】
ここで、上記の内燃機関システムにおいて、前記内燃機関を冷却する冷却水の温度に基づいて、該内燃機関の暖機が完了しているか否かを判断する暖機完了判断手段と、前記排気通路を流れる排気中に含まれる粒子状物質の量を推定、又は検出する粒子状物質量推定手段と、を更に備えるように構成してもよい。その場合、前記暖機完了判断手段によって前記冷却水の温度が所定温度より低いと判断され、且つ前記粒子状物質量推定手段により推定又は検出された粒子状物質量が所定量より大きい場合に、前記出力低下手段による前記内燃機関の出力低下と、前記出力補充手段による出力補充が行われる。すなわち、内燃機関の暖機が完了していない状態であって、排気中のPM粒子数が除去すべき程度に多い場合に限って、内燃機関の出力低下および当該低下分の出力補充を行うものである。したがって、内燃機関の暖機が完了していない状態であっても、排気中のPM粒子数が比較的少ない場合には、必ずしも内燃機関の出力低下および当該低下分の出力補充を行う必要は無い。
【0013】
さらには、内燃機関の暖機が完了していない状態であって、排気中のPM粒子数が除去すべき程度に多い場合であっても、排気流量が比較的少ない場合には、粒子状物質処理装置によるPM除去は効率的に行い得ることから、必ずしも内燃機関の出力低下および当該低下分の出力補充を行う必要は無い。
【0014】
ここで、上述までの内燃機関システムは、前記内燃機関と電源からの供給電力によって駆動されるモータとによって要求出力に応えるハイブリッドシステムであってもよく、その場合、前記出力低下手段によって前記内燃機関の出力低下が行われるとき、前記モータが前記出力補充手段として出力補充を行う。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内燃機関の排気通路に設けられ印加電圧を変更可能な電極を有し、印加電圧により該電極と該排気通路との間に電流を流すことで、排気中の粒子状物質を凝集させる粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムにおいて、内燃機関の暖機時における排気中に含まれるPMの効率的な除去を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係る粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す内燃機関システムで実行される、排気中のPM粒子数を低減する処理に関するフローチャートである。
【図3】機関回転数と機関負荷とから、PM粒子数を算出するためのマップの一例を示した図である。
【図4】内燃機関からの排気流量とPM粒子数とから、印加電圧を算出するためのマップの一例を示した図である。
【図5】図1に示す内燃機関システムで実行される、内燃機関暖機時のPM粒子数の低減処理に関するフローチャートである。
【図6】本発明の実施例に係る粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムの概略構成を示す第二の図である。
【図7】本発明に係る内燃機関システムを、車両に搭載されたハイブリッドシステムとして構築した場合の該システムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムの具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例に係る粒子状物質処理装置1を有する内燃機関システムの概略構成を示す図である。当該内燃機関システムは、内燃機関10としてのガソリン機関を有し、その出力がシステムの主な出力として外部への負荷へ供給される。たとえば、当該内燃機関システムは、車両等の移動体上に搭載することができ、システム出力を移動体の駆動力として利用できる。そして、この内燃機関システムにおいて、粒子状物質処理装置1が、ガソリン機関の排気通路2上に設けられている。また、別法として、粒子状物質処理装置1は、内燃機関としてのディーゼル機関の排気通路に設けることもできる。いずれの内燃機関の排気通路に設けられる場合であれ、電極5への電圧印加により排気中のPMを帯電させ、PM同士の凝集を促進させることで、排気中のPMの粒径増大、それに伴う粒子数の低減を図ることができる。以下に、粒子状物質処理装置1の詳細を説明する。
【0019】
粒子状物質処理装置1は、両端が排気通路2に接続されているハウジング3を備えて構成される。ハウジング3の材料には、ステンレス鋼材を用いている。ハウジング3は、排気通路2よりも直径の大きな中空の円柱形に形成されている。ハウジング3の両端は、端部に近くなるほど断面積が小さくなるテーパ状に形成されている。なお、図1においては、排気が排気通路2を矢印の方向に流れて、ハウジング3内に流入する。このため、ハウジング3は排気通路2の一部としてもよい。なお、本実施例においてはハウジング3の内部の空間が、上記の帯電空間となる。
【0020】
ここで、排気通路2とハウジング3とは、絶縁部4を介して接続されている。絶縁部4は、電気の絶縁体からなる。絶縁部4は、排気通路2の端部に形成されるフランジ21と、ハウジング3の端部に形成されるフランジ31と、に挟まれる。排気通路2とハウジング3とは、たとえばボルト及びナットにより締結される。そして、これらボルト及びナットを介して電気が流れないように、これらボルト及びナットにも絶縁処理を施しておく。このようにして、排気通路2とハウジング3との間には電気的絶縁状態が形成されている。
【0021】
ハウジング3には、電極5が取り付けられている。電極5は、ハウジング3の側面を貫通しており、該ハウジング3の側面から該ハウジング3の中心軸方向へ延びて該中心軸近傍において排気の流れの上流側へ折れ曲がり、該中心軸と平行に排気の流れの上流側へ向かって伸びている。このため、電極5の端部はハウジング3の中心軸近傍に位置する。また、電極5とハウジング3とが直接接触して電気が流れないように、電極5には電気的絶縁体からなる碍子部51が設けられている。この碍子部51は、電極5とハウジング3との間に位置しており、電気を絶縁すると共に、電極5をハウジング3に固定するための機能を有する。このように碍子部51を介して電極5がハウジング3に取り付けられることで、該電極5がハウジング3内の帯電空間内に位置することになる。
【0022】
そして、電極5は電源側電線52を介して電源6に接続されている。電源6は、電極5へ通電すると共に、印加電圧を変更することができる。この電源6は、電線を介して制御装置7及びバッテリ8に接続されている。制御装置7は、電源6が電極5に印加する電圧を制御する。
【0023】
また、ハウジング3には接地側電線53が接続されており、該ハウジング3は接地側電線53を介して接地されている。接地側電線53には、該接地側電線53を通る電流を検出する検出装置9が設けられている。検出装置9は、例えば、接地側電線53の途中に設けられる抵抗の両端の電位差を測定することで電流を検出する。この検出装置9は、電線を介して制御装置7に接続されている。このような構成により、検出装置9により検出される電流が制御装置7に入力される。
【0024】
なお、制御装置7には、アクセル開度センサ71、クランクポジションセンサ72、温度センサ73、エアフローメータ74が接続されている。アクセル開度センサ71は、粒子状物質処理装置1が接続された内燃機関を搭載する車両の運転者がアクセルペダルを踏み込んだ量に応じた電気信号を出力し、その機関負荷を検出する。クランクポジションセンサ72は、当該内燃機関の機関回転数を検出する。温度センサ73は、当該内燃機関の冷却水の温度または潤滑油の温度を検出することで内燃機関の温度を検出する。エアフローメータ74は、当該内燃機関の吸入空気量を検出する。
【0025】
このように構成された粒子状物質処理装置1では、電源6から電極5へ負の直流高電圧を印加することで、該電極5から電子が放出され、電極5とハウジング3との間の帯電空間を通して電流が流れる。すなわち、ハウジング3よりも電極5のほうの電位を低くすることで、電極5から電子を放出させている。そして、この電子により排気中のPMを負に帯電させることができる。負に帯電したPMは、クーロン力とガス流によって移動する。そして、PMがハウジング3へ到達すると、PMを負に帯電させた電子は該ハウジング3を通り、設置側電線53を介して外部へと流れ出る。この結果、ハウジング3へ電子を放出したPM同士は、互いに凝集して粒子径が大きくなる。また、PMが凝集することで、排気中の単位体積当たりのPMの粒子数は低減する。このように、電極5へ電圧を印加することで、PMの粒子径を大きくし且つ排気中の単位体積当たりのPMの粒子数を低減させることができる。
【0026】
なお、本実施例では、電極5を排気の流れの上流側に向けて折り曲げているが、これに代えて、下流側に向けて折り曲げてもよい。ここで、本実施例のように、電極5を排気の流れの上流側に向けて折り曲げると、碍子部51にPMが付着し難い。すなわち、碍子部51よりも上流側においてPMを帯電されることができるため、該PMがハウジング3の内周面に向かう。このため、碍子部51に衝突するPMが減少するので、該碍子部51にPMが付着し難くなる。しかし、電極5を排気の流れの上流側へ向けて折り曲げると、排気の流れから力を受けて電極5が変形し易い。このため、電極5が短い場合に適している。一方、電極5を排気の流れの下流側に向けて折り曲げると、碍子部51にPMが付着し易いが、排気の流れから力を受けても電極5が変形し難い。このため、耐久性及び信頼性が高く、電極5を長くすることができる。
【0027】
図2は、本実施例に係る印加電圧の制御フローを示したフローチャートである。本ルーチンは、内燃機関の稼働に併せて、制御装置7により所定の時間毎に繰り返し実行される。この制御装置7は、実質的にはCPU、メモリ、ハードディスク等を含むコンピュータに相当し、そこで制御プログラムが実行されることで図2に示すフローチャートに係る処理や後述する図5に示すフローチャートに係る処理、その他の処理等が実行される。
【0028】
まず、S101からS103の処理において、排気中に含まれるPM粒子数(個/cm)が算出される。PM粒子数は、一立方センチメートルあたりのPM粒子の数である。このPM粒子数は、内燃機関から排出されるPM粒子数であり、ハウジング3に流入する前のPM粒子数である。PM粒子数は、機関回転数、機関負荷、及び内燃機関の温度(たとえば、潤滑油の温度または冷却水の温度)と相関関係にあるため、これらの値に基づいて算出する。
【0029】
このため、S101では、機関回転数及び機関負荷が取得される。機関回転数は、クランクポジションセンサ72により検出され、機関負荷は、アクセル開度センサ71により検出される。また、S102では、内燃機関の温度が取得される。内燃機関の温度は温度センサ73により検出される。
【0030】
S103では、PM粒子数が算出される。ここで、図3は、機関回転数と機関負荷とから、PM粒子数を算出するためのマップの一例を示した図である。この関係は、内燃機関の温度に応じて制御装置7が複数記憶している(図3に示すのは、内燃機関の温度が20℃の場合のマップである。)。そして、S102で検出された内燃機関の温度に応じたマップを用いて機関回転数及び機関負荷からPM粒子数が求められる。このマップは、予め実験等により準備されている。なお、このようなマップを用いてPM粒子数を検出してもよいが、PM粒子数を検出するセンサをハウジング3よりも上流側の排気通路2に取り付けて、該センサによりPM粒子数を直接検出してもよい。
【0031】
次に、S104では、S103で算出されるPM粒子数に基づいて電極5への印加電圧が算出される。この印加電圧は、内燃機関が始動し排気通路2内を排気が流れ始めたときに電極5へ最初に印加する電圧である。そして、S104で算出される印加電圧を初期値として、過電流が発生しない範囲で印加電圧が最も大きくなるようにフィードバック制御を行う(S105の処理)。具体的には、検出装置9によって検出される電流値が所定の閾値を超えないように、電極5への印加電圧がフィードバック制御される。ここで、印加電圧の初期値は図4に示すマップに基づいて設定される。
【0032】
図4は、内燃機関からの排気流量(g/sec)とPM粒子数(×10個/cm)とから、印加電圧(V)を算出するためのマップの一例を示した図である。このマップは、予め実験等により準備される。内燃機関からの排気流量は、内燃機関の吸入空気量と相
関関係にあるため、エアフローメータ74により検出される吸入空気量に基づいて求めることができる。
【0033】
ここで、排気通路2を流れる排気流量が少ないほど、PMの慣性力が小さくなるため、相対的に静電作用の影響が大きくなる。このため、帯電したPM同士が凝集しやすくなる。したがって、排気流量が少ないほど、より小さな印加電圧でPM同士が凝集する。この点を踏まえて、図4に示すマップでは、排気流量が少ないほど印加電圧が小さくされている。一方で、PM粒子数が多いほど、PM粒子間の距離が短くなるために、相対的に静電作用の影響が大きくなる。このためPM粒子数が多いほど、より小さな印加電圧でPMが凝集する。この点を踏まえて、図4に示すマップでは、PM粒子数が多いほど印加電圧は小さくされている。なお、印加電圧の初期値としては、たとえば、PM粒子数の低減率が所定値(たとえば40%)となるような電圧値としてもよく、また、印加電圧の初期値を予め定めておいた規定値としてもよい。この規定値は、過電流が発生しないように余裕を持たせた値とすることができる。
【0034】
このように、図2に示すように電極5への印加電圧をフィードバック制御することで、過電流が発生しない範囲で印加電圧を可及的に高くすることができる。これにより、PMの凝集をより促進させることができるため、PM粒子数をより減少させることができる。
【0035】
ここで、図1に戻ると、本発明に係る内燃機関システムでは、上記のとおり内燃機関10の出力が主なシステム出力とされるが、内燃機関10の出力をアシスト可能となるようにモータ11も配置されている。モータ11は、図示されないバッテリからの電力供給を受けて駆動可能であり、モータ11の出力は内燃機関10の出力と合わさって、内燃機関システムの出力としてシステム外の負荷に供給される。
【0036】
ここで、本出願人は、内燃機関10の暖機状態と排気通路2を流れる排気中に含まれるPM粒子数との相関に着目した。内燃機関10が機関始動した直後であって、十分に暖機されていない状態においては、内燃機関全体の温度も比較的低く、そこでの燃料燃焼が理想的な状態で行われにくいため、排気中に含まれるPM粒子数が、内燃機関の暖機が完了した状態と比べて相対的に多くなる。本出願人の実験によれば、内燃機関を停止状態から一定速度での稼働状態に立ち上げる過程において、内燃機関の暖機が完了していない期間で排出された排気中のPM粒子数の総量は、当該過程において排出された排気中のPM粒子数の総量の70〜80%程度をも占めることが判明した。内燃機関の種類や大きさ、立ち上げ時の負荷条件等で排気中のPM粒子数の総量は変動するものではあるが、内燃機関の暖機が完了していない状態では、排気中のPM粒子数が比較的多い状態にあることが理解できる。そこで、以降においては、内燃機関10の暖機時おけるPM除去処理について、図5に基づいて詳細に説明する。この暖機時PM除去処理は、上述したように制御装置7によって実行される。
【0037】
先ず、S201では、内燃機関10の暖機状態の検出が行われる。暖機状態とは、内燃機関10において良好な燃料の燃焼が行われる程度に、内燃機関10自体が十分に暖機されている状態を表し、本実施例では、温度センサ73によって検出される内燃機関10の冷却水温度に基づいて判断することとする。例えば、検出された冷却水温度が60℃を下回る場合には、内燃機関10は十分に暖機された状態ではないと判断することができる(後述するS205の処理を参照)。そこで、S201では暖機状態を表すパラメータとして、内燃機関10の冷却水温度が取得される。また別法として、内燃機関10のオイル温度も暖機状態の判断のためのパラメータとして採用できる。S201の処理が終了すると、S202で本発明に係る内燃機関システムによる負荷駆動のための要求出力の算出が行われる。具体的には、アクセル開度センサ71によって検出されるアクセル開度や、車両に搭載されている補機類等の駆動に必要な電力等を考慮して、内燃機関10によって発揮
するように要求される出力が算出される。S202の処理が終了すると、S203へ進む。
【0038】
S203では、内燃機関10の機関運転状態の検出が行われる。具体的には、クランクポジションセンサ72の検出信号に基づいて機関回転数の算出が行われ、また、上記アクセル開度センサ71の検出信号に基づいて機関負荷の算出が行われる。これらの機関運転状態に関するパラメータに基づいて、S204で、排気中のPM粒子数の推定が行われる。具体的には、図3に示したマップを利用して、上記機関回転数、機関負荷、そして内燃機関10の冷却水温度に基づいて排気中のPM粒子数が推定される。S204の処理が終了すると、S205へ進む。
【0039】
S205では、S201で検出された冷却水温度が、内燃機関10の暖機状態を判定するための基準温度T0より低いか否かが判定される。本実施例では、上記のとおり基準温度T0は60℃とするが、内燃機関10における燃焼状態を考慮して適宜調整してもよい。そしてS205で肯定判定されると、すなわち内燃機関10の暖機状態が十分でないと判定されるとS206へ進み、一方で、S205で否定判定されると、すなわち内燃機関10の暖機が完了したと判定されると本暖機時PM除去処理を一度終了し、再び最初から繰り返される。
【0040】
S205で肯定判定された後、S206では、S204で推定されたPM粒子数が排気中のPM除去を行うべきか否かを判定するための基準粒子数PM0より多いか否かが判定される。ここで肯定判定されると、すなわち排気中には除去すべき程度に多くのPMが含まれていると判定されるとS207へ進み、一方で、否定判定されると、すなわち排気中には除去すべき程度の量のPMは含まれていないと判定されると本暖機時PM除去処理を一度終了し、再び最初から繰り返される。
【0041】
S206で肯定判定された以降のS207〜S210の処理は、実質的に排気中のPMを除去する処理に相当する。ここで、S207では、内燃機関10の機関出力が低下される。当該機関出力の低下の目的は、排気通路2を流れる排気流量を抑制することにある。上述したように、排気通路2を流れる排気流量が少ないほど、PMの慣性力が小さくなるため、電極5への電圧印加に起因する静電作用の影響が相対的に大きくなり、帯電したPM同士が凝集しやすくなる。そこで、この点を踏まえて、効率的なPM凝集を実現し得る排気流量の上限を設定し、排気通路2における排気流量がその上限値に下がるまで内燃機関10の機関出力を低下させる。なお、この上限となる排気流量に対応する内燃機関10の機関出力は、内燃機関10での燃焼が不安定とならない値であるのが好ましい。そして、S208において、図2に示したPM除去のための電極5への電圧印加が実行される。
【0042】
ここで、S209において、モータ11によるシステム出力のアシストが実行される。S207で排気流量を抑制するために内燃機関10の機関出力が低下されたことで、このままでは本発明に係る内燃機関システムのシステム出力が低下してしまい、要求された負荷駆動の実現が図れなくなる。そこで、S209では、S207で低下された内燃機関10の機関出力に相当する出力をモータ11で補充するべく該モータ11によるアシストが行われる。S209の処理が終了すると、S210へ進む。
【0043】
S210では、現時点における排気中のPM粒子数が、PMを十分に除去したと判断するための基準PM粒子数であるPM1より少ないか否かが判定される。なお、現時点におけるPM粒子数は、S204で推定されたPM粒子数と、S208で行われた電極5への電圧印加時間等を踏まえて推定する。すなわち、電極5への電圧印加時間が長いほど排気中のPM粒子数が低減されることを考慮して、現時点における排気中のPM粒子数を推定すればよい。また、S207の処理により内燃機関10の機関出力が低下されていること
も考慮して現時点における排気中のPM粒子数を推定するのが好ましい。そして、S210で肯定判定されると、本暖機時PM除去処理を終了し、再び最初から繰り返される。また否定判定されると、S207以降の処理が繰り返される。
【0044】
上述した暖機時PM除去処理によれば、内燃機関10の暖機が十分に行われていない場合には、その機関出力を低下させて排気通路2における排気流量を抑制することで、粒子状物質処理装置1によるPM除去が効率的に行い得る状況を整えることができる。その場合、内燃機関10の機関出力の低下分はモータ11によって補充されるため、内燃機関システム全体でみれば、その出力低下は回避でき、負荷駆動のために要求される出力を賄うことが可能となる。なお、上記の暖機時PM除去処理では、S210の判定で現時点におけるPM粒子数を推定する際に、S207での機関出力の低下を考慮して当該PM粒子数の推定が行われているため、必然的に推定されるPM粒子数の値も低下する。しかし、本暖機時PM除去処理は、S210で肯定判定された後に再び処理が繰り返されることから、その間に内燃機関10の暖機が促進され、結果的に内燃機関10の暖機が完了するまでは、その出力は低下された状態に維持され、効率的なPM除去の状況、すなわち排気の低流量状態は保持されることになる。
【0045】
また、上記暖機時PM除去処理では、冷却水温度がT0より低く、且つ排気中のPM粒子数が基準PM粒子数であるPM0より多い場合に、S207〜S210の処理が行われるが、これらの条件が成立する場合であっても、排気通路2を流れる排気流量が、所定の流量(たとえば、S207に関して上述した排気流量の上限値)を下回っている場合には、内燃機関10の機関出力を低下させなくてもPMの効率的な除去が見込まれることから、S207およびS209の処理は行わずに、S208の処理のみを行うようにしてもよい。
【実施例2】
【0046】
図6に、本発明に係る粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムの別の実施例に関する概略構成を示す。図6に示す粒子状物質処理装置100を有する内燃機関システムと図1に示す粒子状物質処理装置1を有する内燃機関システムと異なる点について説明する。図6に示す粒子状物質処理装置100では、電源6と、電極5と、の間の電源側電線52に、該電源側電線52を通る電流を検出する検出装置9が設けられている。このように、検出装置9を電源側電線52に設けることにより、図1に示される絶縁部4は必要ない。すなわち、ハウジング3から排気通路2側へ電気が流れたとしても、検出装置9によれば電極5を通る電流を検出することができる。しかし、一般に、電源側電線52のほうが接地側電線53よりも、径が太く且つ長さが長くなるため、電気的な容量が大きくなる。したがって、図6に示す粒子状物質処理装置100については、コロナ放電などの強い放電が発生したとしても、図1に示す粒子状物質処理装置1と比べてパルス電流を検出し難くなる。
【0047】
そこで、たとえば、図2に示す印加電圧のフィードバック制御を行う際に、パルス電流等の高周波成分を有する電流を検出し、それをフィードバック制御に反映させる必要がある場合には、図1に示す粒子状物質処理装置1が有用であり、そのような必要がない場合には、図6に示す形態の粒子状物質処理装置100も採用し得る。
【実施例3】
【0048】
図7に、本発明に係る粒子状物質処理装置を有する内燃機関システムの、より具体的な一例を示す。図7に示す内燃機関システムは、車両に搭載されたいわゆるハイブリッドシステムであって、車両の駆動源として内燃機関とモータジェネレータ(以下、単に「モータ」という)を備えるシステムである。ここで、図7中の内燃機関10は、図1等に示された内燃機関10と同一であり、内燃機関1の吸排気系や粒子状物質処理装置の表示は省
略されている。また、該ハイブリッドシステムにおける補助動力源としては、モータ11aおよびモータ11bが設けられている。以下、該ハイブリッドシステムの説明を行う。
【0049】
内燃機関10のクランクシャフトは出力軸13に連結され、出力軸13は動力分割機構12に連結されている。動力分割機構12は、動力伝達軸14を介してモータ11aと連結されるとともに、動力伝達軸15を介してモータ11bとも連結されている。ここで、前記動力分割機構12は、遊星歯車機構によって内燃機関および補助動力源の出力等の伝達を切り替える。
【0050】
前記モータ11bに連結される動力伝達軸15には、減速機16が連結され、減速機16には、ドライブシャフト17を介して駆動輪18が連結されている。減速機16は、複数の歯車を組み合わせて構成され、動力伝達軸15の回転速度を減速して、内燃機関10、モータ11a及びモータ11bからの出力をドライブシャフト17に伝達する。
【0051】
ここで、モータ11aおよび11bは、図示されないインバータと電気的に接続され、当該インバータは、更に図示されないバッテリ(図1におけるバッテリ8と同じであってもよい)と電気的に接続されている。モータ11aおよび11bは、交流同期型の電動機で構成され、励磁電流が印加されるとトルクを発生するとともに、外部からトルクが加えられると、例えば前記内燃機関10から動力分割機構12を介して運動エネルギーが入力されると、その運動エネルギーを電気エネルギーに変換することによって電力を発生させる。発生した電力はインバータを介してバッテリへ蓄積される。また、モータ11bは、車両の減速時に発電機として作用し、駆動輪18からドライブシャフト17及び減速機16を介して動力伝達軸15に伝達される運動エネルギーを電気エネルギーに変換する、いわゆる回生発電を行う。
【0052】
上記のような構成のハイブリッドシステムには、内燃機関10を制御するための電子制御ユニットであるエンジンECUと、モータ11aおよびモータ11bに対して電力を供給するインバータを制御するための電子制御ユニットであるモータECUと、バッテリを制御するための電子制御ユニットであるバッテリと、エンジンECU、モータECUおよびバッテリECUを含めたハイブリッドシステム全体を総合的に制御するための電子制御ユニットであるハイブリッドECU等の様々な制御装置が設けられており、当該制御装置が図1に示す制御装置7の一部を形成する。
【0053】
ここで、例えばエンジンECUとモータECUは、ハイブリッドECUから要求されるトルクを内燃機関10とモータ11a、11bが発揮すべく、燃料噴射量やインバータを制御する。また、バッテリECUは、バッテリでの蓄電量の監視等を行う。そこで、バッテリECUからの信号に基づいて、バッテリの蓄電量が低下しているとハイブリッドECUが判断すると、内燃機関10の機関出力による発電をモータ11aに伝達させることで発電を行い、モータ11aで発電された電気がインバータを介してバッテリへ蓄電される。
【0054】
このように構成されるハイブリッドシステムにおいて、要求されるシステム出力の達成のために本来、内燃機関10とモータ11a、11bが発揮すべき出力がそれぞれ割り当てられることになるが、図5に示す暖機時PM除去処理でのS207〜S210の処理が行われる際には、内燃機関10の機関出力が本来発揮すべき出力から低下されるとともに、その低下分を補充すべくモータ11a、11bの出力が増加されることになる。このように、内燃機関10の出力低下分を補充するモータは、本来的にシステム全体の出力を担う構成であってもよく、別法として、当該出力低下分を補うためだけに設けられた構成であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1・・・・粒子状物質処理装置
2・・・・排気通路
3・・・・ハウジング
4・・・・絶縁部
5・・・・電極
6・・・・電源
7・・・・制御装置
8・・・・バッテリ
9・・・・検出装置
10・・・・内燃機関
11、11a、11b・・・・モータ(モータジェネレータ)
100・・・・粒子状物質処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の排気通路に設けられ印加電圧を変更可能な電極を有し、印加電圧により該電極と該排気通路との間に電流を流すことで、排気中の粒子状物質を凝集させる粒子状物質処理装置と、
前記内燃機関の暖機が完了していないとき、該内燃機関の出力を要求出力より低下させる出力低下手段と、
前記出力低下手段により前記内燃機関の出力低下が行われているとき、該低下された出力に相当する出力を補充する出力補充手段と、
を備える内燃機関システム。
【請求項2】
前記内燃機関を冷却する冷却水の温度に基づいて、該内燃機関の暖機が完了しているか否かを判断する暖機完了判断手段と、
前記排気通路を流れる排気中に含まれる粒子状物質の量を推定、又は検出する粒子状物質量推定手段と、を更に備え、
前記暖機完了判断手段によって前記冷却水の温度が所定温度より低いと判断され、且つ前記粒子状物質量推定手段により推定又は検出された粒子状物質量が所定量より大きい場合に、前記出力低下手段による前記内燃機関の出力低下と、前記出力補充手段による出力補充が行われる、
請求項1に記載の内燃機関システム。
【請求項3】
前記内燃機関システムは、前記内燃機関と電源からの供給電力によって駆動されるモータとによって要求出力に応えるハイブリッドシステムであって、
前記出力低下手段によって前記内燃機関の出力低下が行われるとき、前記モータが前記出力補充手段として出力補充を行う、
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−219678(P2012−219678A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84810(P2011−84810)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】