説明

内視鏡システムおよび内視鏡システムの観察画像表示方法

【課題】術者に安心感を与える。
【解決手段】被検体の被観察部位に異なる波長帯域の複数の光を照射する。被観察部位からの反射光をCCD35で撮像し、CCD35から出力された撮像信号を元に反射スペクトル算出部80で反射スペクトルSを算出する。重回帰分析部81は、反射スペクトルSと血液やヘモグロビン等の関心物質および胆汁や染色物質等の非関心物質の吸収スペクトルanの重回帰分析を行う。除去部83は、重回帰分析より求めた非関心物質のスペクトル成分を反射スペクトルSから除去する。血管情報取得部84は、非関心物質のスペクトル成分が除去された反射スペクトルS’に基づいて酸素飽和度や血管深さ等の血管情報を取得する。モニタ19には、反射スペクトルSおよびS’を元に取得した血管情報画像が並列表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる波長帯域の光を被検体の被観察部位に照射して、被観察部位に存在する関心物質の情報を取得する内視鏡システムおよび内視鏡システムの観察画像表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療、工業分野において様々な分光計測が行われている。その代表例として内視鏡を利用した検査が挙げられる。周知の如く、内視鏡は被検体内に挿入する挿入部の先端から被検体の被観察部位に照明光を照射し、被観察部位の像を撮像する。
【0003】
従来、照明光の光源にはキセノンランプやメタルハライドランプ等の白色光源が用いられていたが、病変の発見を容易にするために狭い波長帯域の光(狭帯域光)を被観察部位に照射し、その反射光を画像化して観察する手法が脚光を浴びている。また、狭帯域光を照射して得られた撮像信号に基づき、血管中のヘモグロビンの酸素飽和度といった吸光成分濃度や被観察部位表面からの血管の深さの情報を取得する方法も鋭意研究されている(特許文献1および2参照)。
【0004】
特許文献1では、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光度の等吸収波長805nmの両側の波長780nm(第一の波長)、830nm(第二の波長)の光を被観察部位に照射し、それぞれの場合の被観察部位からの反射光の光量の差分演算を行っている。酸化ヘモグロビンのときは差分演算の結果は+、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの中間状態のときはゼロ、還元ヘモグロビンのときは−となる。この差分演算結果を元に、赤血球が毛細血管内を移動しているときの過渡的な酸素結合率に対応する値を測定している。特許文献2は、青色、緑色の狭帯域光を被観察部位に照射し、例えば血管(下記の関心物質に相当)はブラウン、胆汁(下記の非関心物質に相当)はマゼンタとなるよう、狭帯域光を照射して得た撮像信号にマトリクス演算を行い、血管と胆汁の色調を区別している。胆汁を血液と誤認してしまうことを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−326153号公報
【特許文献2】WO2007/116663
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血管中のヘモグロビンの酸素飽和度や血管深さ等の情報を取得する際には、直接これらを定量的に実測する訳ではなく、あくまでも狭帯域光を照射して得られた撮像信号を用いて推定を行う。このため、血液やそれに含まれるヘモグロビン等の観察の対象となる物質(以下、関心物質という)以外の物質(以下、非関心物質という)が被観察部位に存在すると推定に悪影響を及ぼし、取得した血管情報の妥当性、信頼性が揺らぐおそれがある。特許文献1では、血管情報の妥当性、信頼性を担保する手立ては講じられていない。
【0007】
このように、非関心物質の影響を除去して血管情報等を取得したいという要望が高まっている。しかしながら、非関心物質の影響が本当に除去されているのか否かを確認することができないと、術者としては安心感を得られず、診断に迷いが生じてしまう。特許文献2は非関心物質である胆汁と関心物質である血管の色調を区別しているだけで、非関心物質の影響を除去してはいない。
【0008】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、術者に安心感を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の内視鏡システムは、被検体の被観察部位に光を照射する照射手段と、被観察部位からの発光または反射光を撮像して撮像信号を出力する撮像素子と、前記撮像素子から出力された撮像信号に基づき、被観察部位に存在する、観察対象となる関心物質の情報を取得する情報取得手段と、関心物質以外の非関心物質を除去する非関心物質除去手段と、前記情報取得手段で取得された関心物質の情報を画像化して表示する表示手段であり、前記非関心物質除去手段で非関心物質が除去される前とされた後の情報を同時または経時表示する表示手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
被観察部位に非関心物質が存在する状態と存在しない状態を作り出すため、前記非関心物質除去手段は、被観察部位に流体を吹き付ける、または非関心物質を吸引することにより被観察部位から非関心物質を取り除く。前記非関心物質除去手段は例えば内視鏡に備え付けの送気・送水機能である。
【0011】
前記照射手段から発せられた光の被観察部位からの反射光の反射スペクトルを取得する反射スペクトル取得手段と、前記反射スペクトル取得手段で取得された反射スペクトルと、関心物質および非関心物質の吸収スペクトルとを比較することにより、非関心物質の光吸収による反射スペクトルへの寄与分を算出する寄与分算出手段とを備え、前記非関心物質除去手段は、前記寄与分算出手段で算出された寄与分を前記反射スペクトル取得手段で取得された反射スペクトルから取り除き、前記情報取得手段は、前記非関心物質除去手段で寄与分が取り除かれる前と取り除かれた後の反射スペクトルに基づき、関心物質の情報を取得する。
【0012】
前記寄与分算出手段で算出された寄与分から、非関心物質の光吸収による反射スペクトルへの寄与の度合いを評価し、評価結果に応じて前記非関心物質除去手段で寄与分を取り除くか否かを判定する評価・判定手段を備えることが好ましい。
【0013】
前記照射手段は、異なる複数の波長帯域の光を被観察部位に照射する。または前記反射スペクトル取得手段は、被観察部位からの反射光を異なる波長帯域に分光して受光する。あるいは前記照射手段は、ブロードな波長帯域の白色光を被観察部位に照射し、前記反射スペクトル取得手段は、白色光の被観察部位からの反射光を異なる複数の波長帯域に分光して受光する。反射光の分光には、例えば原色カラーフィルタを用いる。前記照射手段または前記反射スペクトル取得手段は、透過光の波長帯域が可変する波長可変素子を有することが好ましい。波長可変素子は例えばエタロンや液晶チューナブルフィルタである。
【0014】
前記寄与分算出手段は、反射スペクトルを目的変数、関心物質および非関心物質の吸収スペクトルを説明変数として重回帰分析を行い、これにより得られた非関心物質の吸収スペクトルの重み係数を該吸収スペクトルに乗算したものを寄与分として算出する。
【0015】
また、前記評価・判定手段は、重回帰分析で得られた非関心物質の吸収スペクトルの重み係数、または重回帰分析の有意性を判断するための統計量の少なくともいずれかを用いて前記寄与分算出手段で算出された寄与分の反射スペクトルへの寄与の度合いを評価する。統計量は、例えばp値、F値、自由度調整済み決定係数(寄与率)等である。
【0016】
関心物質または非関心物質の少なくとも一つの吸収スペクトルを予め記憶する記憶手段を備えることが好ましい。
【0017】
非関心物質の吸収スペクトルは、被観察部位に非関心物質が存在する状態と存在しない状態の反射スペクトルを前記反射スペクトル取得手段で取得し、非関心物質が存在する状態で取得した反射スペクトルから、存在しない状態で取得した反射スペクトルを減算することで求めてもよい。
【0018】
前記反射スペクトル取得手段は、前記撮像素子と、被観察部位からの反射光を取り込んで前記撮像素子に結像させる対物光学系と、前記撮像素子から出力された撮像信号に基づき反射スペクトルを求める反射スペクトル算出手段とを有し、前記対物光学系および前記撮像素子は、内視鏡の挿入部の先端に配される。
【0019】
前記表示手段は、非関心物質の存在の有無、または前記寄与分算出手段で算出された寄与分の反射スペクトルへの寄与の度合い等を表示してもよい。
【0020】
関心物質と非関心物質の設定を切り替える設定変更手段を備えることが好ましい。
【0021】
前記照射手段は、光源と、内視鏡の挿入部に配され、前記光源から発せられた光を挿入部の先端に導光するライトガイドを含む照明光学系とを有する。
【0022】
関心物質は被観察部位内の血管中の血液、または血液を構成する成分の少なくともいずれかであり、前記情報取得部は血管に関する情報を取得する。血管に関する情報は例えば被観察部位表面からの血管の深さ、血液を構成する成分の濃度等である。非関心物質は被検体からの分泌物、または染色物質の少なくともいずれかである。
【0023】
本発明の内視鏡システムの観察画像表示方法は、被検体の被観察部位に光を照射する照射ステップと、被観察部位からの発光または反射光を撮像して撮像信号を出力する撮像ステップと、前記撮像ステップで得られた撮像信号に基づき、被観察部位に存在する、観察対象となる関心物質の情報を取得する情報取得ステップと、関心物質以外の非関心物質を除去する非関心物質除去ステップと、前記情報取得ステップで取得された関心物質の情報を画像化して表示する表示ステップであり、前記非関心物質除去ステップで非関心物質が除去される前とされた後の情報を同時または経時表示する表示ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、非関心物質を物理的、または画像処理により除去し、除去される前とされた後の関心物質の情報を同時または経時表示するので、術者は非関心物質の影響が除去されたことを視認することができ、術者に安心感を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電子内視鏡システムの構成を示す外観図である。
【図2】電子内視鏡の先端の端面を示す平面図である。
【図3】電子内視鏡システムの構成を示すブロック図である。
【図4】CCDの分光感度特性を示すグラフである。
【図5】反射スペクトルを取得する際に照射する狭帯域光の分光特性(波長可変素子を透過する光の分光透過率)を示すグラフである。
【図6】画像処理回路の詳細な構成を示すブロック図である。
【図7】反射スペクトルを示すグラフである。
【図8】各物質の吸収スペクトルを記憶した吸収スペクトルテーブルを示す図である。
【図9】血管情報画像の表示形態を示す図である。
【図10】画像処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】波長可変素子をCCDの前段に配した例を示す図である。
【図12】血管情報画像の別の表示形態を示す図である。
【図13】関心物質と非関心物質の設定を切り替えるための選択リストを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1において、電子内視鏡システム2は、電子内視鏡10、プロセッサ装置11、および光源装置12からなる。電子内視鏡10は、周知の如く、被検体(患者)内に挿入される可撓性の挿入部13と、挿入部13の基端部分に連設された操作部14と、プロセッサ装置11および光源装置12に接続されるコネクタ15と、操作部14、コネクタ15間を繋ぐユニバーサルコード16とを有する。
【0027】
操作部14には、挿入部13の先端17を上下左右方向に湾曲させるためのアングルノブや、送気・送水ノズル33(図2参照)からエアー、水を噴出させるための送気・送水ボタン18の他、観察画像を静止画記録するためのレリーズボタンといった操作部材が設けられている。
【0028】
また、操作部14の先端側には、電気メス等の処置具が挿通される鉗子口が設けられている。鉗子口は、挿入部13内の鉗子チャンネルを通して、先端17に設けられた鉗子出口32(図2参照)に連通している。
【0029】
プロセッサ装置11は、光源装置12と電気的に接続され、電子内視鏡システム2の動作を統括的に制御する。プロセッサ装置11は、ユニバーサルコード16や挿入部13内に挿通された伝送ケーブルを介して電子内視鏡10に給電を行い、先端17に搭載されたCCD35(図3参照)の駆動を制御する。また、プロセッサ装置11は、伝送ケーブルを介してCCD35から出力された撮像信号を受信し、受信した撮像信号に各種処理を施して画像データを生成する。プロセッサ装置11で生成された画像データは、プロセッサ装置11にケーブル接続されたモニタ19に観察画像として表示される。
【0030】
電子内視鏡システム2には、被検体の被観察部位に白色光を照射して観察する通常観察モードと、被観察部位に狭い波長帯域の光(狭帯域光)を照射して被観察部位内の血管の情報を得る特殊観察モードとが用意されている。各モードの切替は操作部14のモード切替スイッチ20を操作することにより行われる。電子内視鏡システム2の電源投入直後は通常観察モードが自動的に選択される。
【0031】
図2および図3において、先端17の端面17aには、観察窓30、照明窓31、鉗子出口32、および送気・送水ノズル33(鉗子出口32、送気・送水ノズル33は図3では不図示)が設けられている。観察窓30は端面17aの片側中央に配置されている。観察窓30の奥には、レンズ群およびプリズムからなる対物光学系34を介して、被検体内撮影用のCCD35が配されている。照明窓31は、観察窓30の左右対称な位置に配されている。照明窓31は、ユニバーサルコード16や挿入部13に配設されたライトガイド36、および照明レンズ37で導光される光源装置12からの照明光を被観察部位に照射する。
【0032】
CCD35は、観察窓30、対物光学系34を経由した被検体内の被観察部位の像が撮像面に入射するように配置されている。撮像面には複数の色セグメントからなるカラーフィルタ、例えばベイヤー配列の原色(RGB)カラーフィルタが形成されている。カラーフィルタの分光透過率、および画素自体の分光感度によって、CCD35のRGB各画素の分光感度特性は図4に示すようになる。R画素は650nm近傍、G画素は550nm近傍、B画素は450nm近傍の波長の光にそれぞれ感度を有する。
【0033】
操作部14には、アナログ信号処理回路(以下、AFEと略す)38、CCD駆動回路39、およびCPU40が設けられている。AFE38は、相関二重サンプリング回路(以下、CDSと略す)、自動ゲイン制御回路(以下、AGCと略す)、およびアナログ/デジタル変換器(以下、A/Dと略す)から構成されている。CDSは、CCD35から出力される撮像信号に対して相関二重サンプリング処理を施し、CCD35で生じるリセット雑音およびアンプ雑音の除去を行う。AGCは、CDSによりノイズ除去が行われた撮像信号を、プロセッサ装置11から指定されるゲイン(増幅率)で増幅する。A/Dは、AGCにより増幅された撮像信号を所定のビット数のデジタル信号に変換する。A/Dでデジタル化された撮像信号は、伝送ケーブルを介してプロセッサ装置11の画像処理回路49に入力される。
【0034】
CCD駆動回路39は、CCD35の駆動パルス(垂直/水平走査パルス、電子シャッタパルス、読み出しパルス、リセットパルス等)とAFE38用の同期パルスとを発生する。CCD35は、CCD駆動回路39からの駆動パルスに応じて撮像動作を行い、撮像信号を出力する。AFE38の各部は、CCD駆動回路39からの同期パルスに基づいて動作する。
【0035】
CPU40は、電子内視鏡10とプロセッサ装置11とが接続された後、プロセッサ装置11のCPU45からの動作開始指示に基づいて、CCD駆動回路39を駆動させるとともに、CCD駆動回路39を介してAFE38のAGCのゲインを調整する。
【0036】
CPU45は、プロセッサ装置11全体の動作を統括的に制御する。CPU45は、図示しないデータバスやアドレスバス、制御線を介して各部と接続している。ROM46には、プロセッサ装置11の動作を制御するための各種プログラム(OS、アプリケーションプログラム等)やデータ(グラフィックデータ等)が記憶されている。CPU45は、ROM46から必要なプログラムやデータを読み出して、作業用メモリであるRAM47に展開し、読み出したプログラムを逐次処理する。また、CPU45は、検査日時、患者や術者の情報等の文字情報といった検査毎に変わる情報を、プロセッサ装置11の操作パネルやLAN(Local Area Network)等のネットワークより得て、RAM47に記憶する。
【0037】
操作部48は、プロセッサ装置11の筐体に設けられる操作パネル、あるいは、マウスやキーボード等の周知の入力デバイスである。CPU45は、操作部48、および電子内視鏡10の操作部14にあるレリーズボタンやモード切替スイッチ20等からの操作信号に応じて、各部を動作させる。
【0038】
画像処理回路49は、電子内視鏡10から入力された撮像信号に対して、色補間、ホワイトバランス調整、ガンマ補正、画像強調、画像用ノイズリダクション、色変換等の各種画像処理を施す。また、画像処理回路49は、胆汁等の非関心物質のスペクトル成分(寄与分)を算出してこれを除去する処理も行う。
【0039】
表示制御回路50は、CPU45からROM46およびRAM47のグラフィックデータを受け取る。グラフィックデータには、観察画像の無効画素領域を隠して有効画素領域のみを表示させる表示用マスク、検査日時、あるいは患者や術者、現在選択されている観察モード等の文字情報、グラフィカルユーザインターフェース(GUI;Graphical User Interface)等がある。表示制御回路50は、画像処理回路49からの画像に対して、表示用マスク、文字情報、GUIの重畳処理、モニタ19の表示画面への描画処理等の各種表示制御処理を施す。
【0040】
表示制御回路50は、画像処理回路49からの画像を一時的に格納するフレームメモリを有する。表示制御回路50は、フレームメモリから画像を読み出し、読み出した画像をモニタ19の表示形式に応じたビデオ信号(コンポーネント信号、コンポジット信号等)に変換する。これにより、モニタ19に観察画像が表示される。
【0041】
プロセッサ装置11には、上記の他にも、画像に所定の圧縮形式(例えばJPEG形式)で画像圧縮を施す圧縮処理回路や、圧縮された画像をCFカード、光磁気ディスク(MO)、CD−R等のリムーバブルメディアに記録するメディアI/F、LAN等のネットワークとの間で各種データの伝送制御を行うネットワークI/F等が設けられている。これらはデータバス等を介してCPU45と接続されている。
【0042】
光源装置12は、通常観察用光源60および特殊観察用光源61を有する。各光源60、61は同じ構成であり、青色〜赤色までのブロードな波長の光、例えば400nm以上750nm以下の波長帯域で強度が一様な白色光を発生するキセノンランプやハロゲンランプ、白色LED(発光ダイオード)等である。あるいは、青色光または紫外光の励起光と、これにより励起発光される蛍光体の緑色〜黄色〜赤色の蛍光との合波光で白色光を生成する光源を用いてもよい。また、異なる波長帯域の狭帯域光を発する複数の半導体レーザーダイオードやLEDで特殊観察用光源61を構成してもよい。
【0043】
各光源60、61は、光源ドライバ62、63によってそれぞれ駆動される。集光レンズ64、65は、各光源60、61から発せられた各光を集光して、各光源60、61の出射端側に配された二本のライトガイド36a、36bに導光する。ライトガイド36a、36bは、周知の光ファイバの合波技術によって、光源装置12内で合流して一本のライトガイド36となる。集光レンズ64、65とライトガイド36a、36bの間には、ライトガイド36a、36bの入射端に入射させる光の光量を調節するための可動絞り66、67が設けられている。なお、ライトガイド36を36a、36bの二股に分けるのではなく、各光源60、61用に二本のライトガイドを設けてもよい。ライトガイド36、照明レンズ37、集光レンズ64、65、および可動絞り66、67等により照明光学系が構成される。
【0044】
特殊観察用光源61と集光レンズ65の間には、波長可変素子68が設けられている。波長可変素子68は、素子ドライバ69により駆動される。波長可変素子68は、入射光のうちの特定の波長帯域の光を選択的に透過させ、且つ透過させる光の波長帯域を変更可能な素子である。光源装置12のCPU70は、プロセッサ装置11のCPU45と通信し、光源ドライバ62、63、可動絞り66、67、および素子ドライバ69の動作制御を行う。
【0045】
波長可変素子68には、圧電素子等のアクチュエータを駆動することにより、二枚の高反射光フィルタからなる基板の面間隔を変更し、以て透過光の波長帯域を制御するエタロン、偏光フィルタ間に複屈折フィルタとネマティック液晶セルを挟んで構成され、液晶セルへの印加電圧を変更することで透過光の波長帯域を制御する液晶チューナブルフィルタ、あるいは複数の干渉フィルタ(バンドパスフィルタ)を組み合わせたロータリーフィルタが用いられる。
【0046】
通常観察モードが選択された場合、CPU45は、CPU70を介して光源ドライバ62の駆動を制御して、通常観察用光源60のみを点灯させる。被観察部位に照射される照明光は白色光のみとなる。特殊観察モードが選択された場合は、通常観察用光源60を消灯させて特殊観察用光源61を点灯させる。被観察部位に照射される照明光は、波長可変素子68により透過された狭帯域光のみとなる。
【0047】
特殊観察モードでは、被観察部位内の血管の情報を取得するために、波長可変素子68を駆動して特定の波長帯域の狭帯域光を被観察部位に照射し、CCD35で被観察部位からの反射光を撮像する。この際に照射される狭帯域光としては、例えば表層血管中のヘモグロビンの酸素飽和度の取得に好適な中心波長405nm、445nm、473nmの狭帯域光や、深層血管中のヘモグロビンの酸素飽和度の取得に好適な中心波長680nm、805nm、950nmの狭帯域光が挙げられる。あるいは表層、中層、深層の各血管画像(血管走行の可視像)を得るため、中心波長450nm、550nm、780nmの狭帯域光を照射してもよい。
【0048】
また、血管情報の取得に用いる狭帯域光に加えて、被観察部位からの反射光のスペクトル(以下、反射スペクトルと略す)を取得するために、複数の波長帯域の狭帯域光を被観察部位に照射し、各狭帯域光を照射する毎にCCD35で被観察部位からの反射光を撮像する。一例として図5に示すように、波長可変素子68の透過率が波長400nm〜750nmの範囲を50nm刻みで七等分したバンドB1〜B7を順次選択するよう波長可変素子68を駆動させる。バンドB1〜B7はCCD35の蓄積期間単位で切り替わる。反射スペクトルは、特殊観察モードに切り替えた際、または操作部48を介して術者からの指示があったときに取得される。
【0049】
図6において、画像処理回路49には、反射スペクトル算出部80、重回帰分析部(寄与分算出手段に相当)81、評価・判定部82、除去部(非関心物質除去手段に相当)83、および血管情報取得部84が設けられている。
【0050】
反射スペクトル算出部80は、血管情報取得のための狭帯域光、およびバンドB1〜B7の狭帯域光を照射してその都度CCD35で撮像して得た複数フレーム分の画像データGに基づいて反射スペクトルSを求める。画像データGの画素値は、血管情報取得のための狭帯域光、およびバンドB1〜B7の狭帯域光の各波長帯域における被観察部位からの反射光の強度を表す。このため、各画像データGの画素値を各波長帯域の反射スペクトルSの強度に当て嵌めれば、波長400nm〜750nmの範囲の反射スペクトルSを得ることができる。
【0051】
但し、CCD35のRGB各画素の感度、および特殊観察用光源61からの白色光の強度は波長帯域によって異なるため、画像データGの画素値を反射スペクトルSの強度に当て嵌める際には、上記の波長帯域による感度と強度の違いを補正する必要がある。補正の具体例としては、CCD35のRGB各画素の感度、および特殊観察用光源61からの白色光の強度に応じた補正係数を、血管情報取得のための狭帯域光およびバンドB1〜B7の光毎にROM46に記憶しておく。そして、反射スペクトルSの強度に当て嵌める画像データGの画素値に補正係数を乗算して規格化し、CCD35のRGB各画素の感度、および特殊観察用光源61からの白色光の強度の違いによる画素値の差を解消する。例えばCCD35の感度の最大値を規格化して1とした場合、バンドB1における感度が0.8だった場合は、バンドB1で得た画像データGの画素値を1/0.8=1.25倍する。
【0052】
反射スペクトルSの強度に当て嵌める画素値は、青色領域のバンドB1はそのとき得られた画像データGのB画素の平均値、赤色領域のバンドB7はそのとき得られた画像データGのR画素の平均値というように、予め波長帯域毎に設定されている。
【0053】
なお、RGBの各画素値を反射スペクトルSの強度に当て嵌めてもよい。こうすると、一種の狭帯域光を照射する毎に三つの反射スペクトルSの強度が得られる。照射光を複数の波長帯域に分光し、且つCCD35もカラーフィルタで分光して受光することで、少ないフレーム数で多くの反射スペクトルSの情報を取得することができる。
【0054】
このようにして反射スペクトル算出部80で求めた反射スペクトルSは、一例として図7に示すように、反射スペクトルSの強度に当て嵌めた画素値を、血管情報取得のための狭帯域光(波長405nm、445nm、473nmの場合を例示)および各バンドB1〜B7の光の中心波長(波長425nm、475nm、525nm、575nm、625nm、675nm、725nm)にプロットして直線で結んだ折れ線グラフのようになる。反射スペクトル算出部80は、求めた反射スペクトルSのデータを重回帰分析部81に出力する。
【0055】
反射スペクトル算出部80は、画像内の血管領域に対してのみ反射スペクトルSを算出する。血管領域の特定は、例えば血管部分とそれ以外の部分の輝度値の差を参照することで行う。あるいは、反射スペクトル算出部80は、操作部48の操作により術者が指定したROI(関心領域)に対してのみ反射スペクトルSを算出する。また、CCD35の撮像範囲を複数分割した領域毎に反射スペクトルSを算出してもよい。後段の重回帰分析部81や血管情報取得部84も同様である。
【0056】
重回帰分析部81は、反射スペクトルSを目的変数、血液や胆汁の吸収スペクトルa1、a2、・・・を説明変数として重回帰分析を行う。反射スペクトルSは被観察部位からの反射光の波長400nm〜750nmの範囲の全てを反映したものであるため、波長400nm〜750nmに吸収波長を有する、被観察部位に存在する複数の物質の吸収スペクトルに適当な係数を掛けたものの合算であると考えられる。すなわち、反射スペクトルSは次式(以下、回帰式という)で表される。
【0057】
S=k1・a1+k2・a2+・・・+m=Σkn・an+m
k1、k2、・・・、およびmは重み係数であり、重回帰分析ではこれらの重み係数を最小二乗法等により求める。より詳しくは、反射スペクトル算出部80で求めた反射スペクトルS(実測値)と、回帰式を演算して求めた反射スペクトルS(演算値)の差の二乗平均が最小となるよう、実測値と演算値の差の二乗平均を重み係数で微分して0と置いた連立方程式を解いて求める。重回帰分析部81は、求めた重み係数を含む回帰式のデータを評価・判定部82に出力する。なお、吸収スペクトルは反射スペクトルの強度を逆転させたものであり実質的に同じ光特性を表すため、反射スペクトルSの回帰式を各物質の吸収スペクトルに重み係数を掛けて合算したものと置いて差し支えない。
【0058】
被観察部位に存在する物質の吸収スペクトルa1、a2、・・・は、図8に示す吸収スペクトルテーブル90の形式でROM46に予め記憶されている。吸収スペクトルテーブル90は、回帰式のa1、a2、・・・の識別子毎に、物質名とその吸収スペクトルのデータを格納したものである。吸収スペクトルは、図7で例示した反射スペクトルSと同様、折れ線グラフ様の線形データである。
【0059】
a1、a2は酸化ヘモグロビン(HbO)、還元ヘモグロビン(Hb)の吸収スペクトルをそれぞれ表し、a3は血液、a4は血漿、a5は胆汁を表す。また、a9、a10、a11は被観察部位の染色のために投与されるインジゴカルミン、クリスタルバイオレット、ヨードをそれぞれ表す。なお、吸収スペクトルは非線形データであってもよいし、数種の物質の吸収スペクトルを組み合わせたものでもよい。また、DC成分を含んでいてもよい。吸収スペクトルテーブル90をROM46ではなくリムーバブルメディアに記録し、リムーバブルメディアから読み込んで使用してもよい。
【0060】
評価・判定部82は、重回帰分析部81からの回帰式のデータに基づいて、反射スペクトルSへの非関心物質の寄与度を評価し、非関心物質によるスペクトル成分を除去部83で反射スペクトルSから除去するか否かを判定する。非関心物質とは、血管情報を取得する際に参照する血液あるいはその成分である酸化ヘモグロビンや還元ヘモグロビンといった関心物質とは逆に、血管情報の取得の邪魔になる物質である。本例では胆汁、ムチンといった分泌物やインジゴカルミン等の染色物質が非関心物質に相当する。
【0061】
評価・判定部82は、回帰式における非関心物質の吸収スペクトルの重み係数(胆汁が非関心物質の場合は重み係数k5)と予め設定された閾値thの大小を比較する。該重み係数が閾値thを超える場合、評価・判定部82は、その非関心物質の反射スペクトルSへの寄与度が高いと評価し、非関心物質によるスペクトル成分を除去部83で反射スペクトルSから除去すると判定する。一方重み係数が閾値thを超えない場合は、非関心物質の寄与度が低く血管情報の取得に悪影響を及ぼさないと評価し、非関心物質によるスペクトル成分を除去部83で反射スペクトルSから除去しないと判定する。評価・判定部82は、判定結果を除去部83に出力する。
【0062】
評価・判定の仕方は上記例に限らない。非関心物質の重み係数と関心物質の重み係数の差分または比と閾値の大小を比較した結果に応じて評価・判定を行ってもよい。評価・判定部82は、重み係数の差分または比が閾値を超える場合に非関心物質のスペクトル成分を除去すると判定する。各重み係数の加重平均等、複数の重み係数で算出した値を評価・判定の指標としてもよい。
【0063】
重回帰分析で得た回帰式またはその重み係数の有意性を判断するための統計量に基づいて評価・判定を行ってもよい。統計量としてはp値、F値、自由度調整済み決定係数(寄与率)が挙げられる。p値は重み係数の確からしさを表し、0に近いほど重回帰分析で求めた重み係数は正しいといえる。F値は統計学的仮説検定の帰無仮説「回帰式は反射スペクトルSの予測に役立たない」を棄却して、対立仮説「回帰式は反射スペクトルSの予測に役立つ」を採択するときの指標となる。自由度調整済み決定係数は、説明変数である吸収スペクトルa1、a2、・・・全体が、目的変数である反射スペクトルSをどの程度の割合まで予測できるかを表す指標である。評価・判定部82は、これらの統計量を元に回帰式や非関心物質の重み係数の有意性を判断し、有意性あり、且つ非関心物質の重み係数(または関心物質の重み係数との差分、比)が閾値thを超える場合に、非関心物質のスペクトル成分を除去すると判定する。あるいは閾値thとの比較はせずに有意性のありなしのみで判定する。
【0064】
除去部83は、評価・判定部82の判定結果が「除去する」であった場合に、非関心物質の吸収スペクトルに重み係数を掛けたデータを反射スペクトルSの実測値から減算し、非関心物質によるスペクトル成分(寄与分)を反射スペクトルSから除去する。除去部83は、非関心物質によるスペクトル成分除去後の反射スペクトルS’(以下、単に除去後の反射スペクトルS’という)を血管情報取得部84に出力する。評価・判定部82の判定結果が「除去しない」であった場合、除去部83は動作せず、従って反射スペクトルSはそのまま血管情報取得部84に出力される。
【0065】
血管情報取得部84は、反射スペクトルSまたは除去後の反射スペクトルS’(評価・判定部82の判定結果が「除去する」の場合は両方、「除去しない」の場合は反射スペクトルSのみ)に基づき、被観察部位内の血管の情報を取得する。血管情報としては、例えば血管中のヘモグロビンの酸素飽和度、表層、中層、深層の各血管画像、被観察部位表面からの血管の深さ等が挙げられる。血管情報取得部84は、例えば波長405nm、445nm、473nmにおける反射スペクトルSまたは除去後の反射スペクトルS’の強度比を算出し、予め定められた強度比と酸素飽和度の関係から、算出した強度比に対応する酸素飽和度を導出する。あるいは波長450nm、550nm、780nmにおける反射スペクトルSまたは除去後の反射スペクトルS’の強度から血管深さの情報を取得(450nmの強度が他よりも高い場合は表層血管、550nmが高い場合は中層血管、780nmが高い場合は深層血管とする等)する。
【0066】
血管情報として血管走行の可視像を取得する場合は、除去部83にて、反射スペクトル算出部80で画素値から反射スペクトルSを求めたときと逆の手順を辿って、非関心物質の吸収スペクトルに重み係数を掛けたデータを画素値に換算し、これを画像データから減算する。非関心物質の吸収スペクトルに重み係数を掛けたデータを換算した画素値を減算した画像データから、上記の酸素飽和度や血管深さの情報を取得してもよい。この場合は上記各波長で取得した減算後の画像データの輝度比やボケ量を用いて酸素飽和度や血管深さの情報を取得する。
【0067】
こうして血管情報取得部84で取得された血管情報は、複数フレーム分の画像データGの合成画像等に重畳されてモニタ19に表示される。表示制御回路50は、反射スペクトルSまたは除去後の反射スペクトルS’を元に取得した血管情報画像をそれぞれ単独でモニタ19に表示させる。また、図9(A)に示すように反射スペクトルSおよび除去後の反射スペクトルS’を元に取得した血管情報画像を並べて表示させる。これら単独表示、並列表示を術者の操作または一定時間毎に自動的に切り替えてもよい。並列表示に代えて重畳表示してもよい。各画像の比較が容易になり、診断をスムーズに進めることができる。また、除去部83の機能を視認することができ、術者に安心感を与えることができる。なお、評価・判定部82の判定結果が「除去しない」の場合は、反射スペクトルSを元に取得した血管情報の単独表示のみとなる。
【0068】
酸素飽和度や血管深さ情報の表示方法としては、酸素飽和度であれば数値(%)、血管深さであれば「表層」、「中層」等の文字情報を該当する血管にアノテーションとして表示する。あるいは、酸素飽和度が比較的低い場合はシアン、中程度はマゼンタ、高い場合はイエローを割り当て、血管深さが表層の場合は青、中層は緑、深層は赤を割り当てる等、適当なカラーマップを用意してそれを元に表示してもよい。
【0069】
反射スペクトル算出部80で反射スペクトルSを取得して重回帰分析部81で回帰式の重み係数を求めた際には、図9(B)に示すように非関心物質の有無および非関心物質が血管情報の取得に影響があるか否かを示す文字情報95を表示してもよい。非関心物質の有無、および非関心物質が血管情報の取得に影響があるか否かは、評価・判定部82の判定結果を参照する。例えば評価・判定部82で非関心物質の重み係数の有意性あり、且つ非関心物質の重み係数(または関心物質の重み係数との差分、比)が閾値thを超える場合は、非関心物質あり、影響ありの旨を表示する。重み係数に有意性があっても閾値thを超えない場合は、非関心物質あり、影響なしの旨を表示する。非関心物質の重み係数自体を表示してもよい。重み係数が閾値thを大きく超える場合は文字情報95を点滅表示させる等、重み係数の大きさに応じて表示のレベルを変えてもよい。
【0070】
次に、上記のように構成された電子内視鏡システム2の作用について説明する。電子内視鏡10で被検体内を観察する際、術者は、電子内視鏡10と各装置11、12とを繋げ、各装置11、12の電源をオンする。そして、操作部48を操作して、被検体に関する情報等を入力し、検査開始を指示する。
【0071】
検査開始を指示した後、術者は、挿入部13を被検体内に挿入し、光源装置12からの照明光で被検体内を照明しながら、CCD35による被検体内の観察画像をモニタ19で観察する。
【0072】
CCD35から出力された撮像信号は、AFE38の各部で各種処理を施された後、プロセッサ装置11の画像処理回路49に入力される。画像処理回路49では、入力された撮像信号に対して各種画像処理が施され、画像が生成される。画像処理回路49で処理された画像は、表示制御回路50に入力される。表示制御回路50では、CPU45からのグラフィックデータに応じて、各種表示制御処理が実行される。これにより、観察画像がモニタ19に表示される。
【0073】
電子内視鏡システム2で検査を行うときには、観察対象に応じて観察モードが切り替えられる。挿入部13を被検体内に挿入する際には通常観察モードを選択して、白色光を照射して得られた画像を観察して広い視野を確保しつつ挿入作業を行う。詳細な観察が必要な病変が発見された際には特殊観察モードを選択し、病変に適当な波長の狭帯域光を照明して得られた画像を観察する。そして、必要に応じてレリーズボタンを操作して静止画像を取得したり、病変に処置が必要な場合は鉗子チャンネルに各種処置具を挿通させて、病変への染色物質の注入、あるいは病変の切除や投薬等の処置を施す。
【0074】
通常観察モードの場合は、CPU45の指令の下に通常観察用光源60が点灯されて、照明窓31から被観察部位に白色光が照射される。
【0075】
一方、特殊観察モードが選択された場合は特殊観察用光源61が点灯される。特殊観察用光源61から発せられた白色光は波長可変素子68に導入され、特定の波長帯域の光が選択的に波長可変素子68から出射される。波長可変素子68から出射された狭帯域光は、ライトガイド36で先端17に導光され、照明窓31から被観察部位に照射される。
【0076】
特殊観察モードでは、図10のステップ10(S10)に示すように、反射スペクトルの取得処理が実行される。まず、波長可変素子68が駆動されて、血管情報取得のための狭帯域光に加えて波長400nm〜750nmの範囲を50nm刻みで七等分したバンドB1〜B7の狭帯域光がCCD35の蓄積期間単位で切り替わりつつ順次被観察部位に照射され、その都度被観察部位の像がCCD35で撮像されて複数フレーム分の画像データGが得られる。そして、複数フレーム分の画像データGに基づいて反射スペクトル算出部80にて反射スペクトルSが求められる。
【0077】
反射スペクトルSの取得後、重回帰分析部81により吸収スペクトルテーブル90が参照されて、反射スペクトルSを各物質の吸収スペクトルanで表した回帰式およびその重み係数kn、mが求められる(S11)。評価・判定部82では、回帰式における非関心物質の重み係数と閾値thの大小比較等によって、非関心物質によるスペクトル成分を除去部83で除去するか否かが判定される(S12)。
【0078】
判定の結果が「除去する」であった場合(S13でYES)、除去部83にて血管情報の取得に用いる反射スペクトルSから非関心物質によるスペクトル成分が除去される(S14)。「除去しない」であった場合(S13でNO)には、非関心物質によるスペクトル成分の除去は行われない。
【0079】
血管情報取得部84では、反射スペクトルSまたは除去後の反射スペクトルS’に基づいて血管情報が取得される(S15)。取得された血管情報は、表示制御回路50で擬似カラー化等が施されてモニタ19に表示される(S16)。評価・判定部82の判定の結果が「除去する」であった場合は、反射スペクトルSおよび除去後の反射スペクトルS’を元に取得した血管情報画像がモニタ19に並列表示される。
【0080】
非関心物質によるスペクトル成分を除去したうえで血管情報を取得するので、血管情報の確度が増し、これを元にした診断の信憑性を高めることができる。また、非関心物質によるスペクトル成分が血管情報の取得に影響があるか否かを判定し、影響がないと判定した場合は非関心物質によるスペクトル成分の除去を行わないので、必要性のない処理を行って画像処理回路49のリソースを無駄に消費することがない。
【0081】
重回帰分析で非関心物質の吸収スペクトルの大きさを表す重み係数や反射スペクトルSに対する非関心物質の吸収スペクトルの寄与度を定量的に求めることができ、その後の評価・判定、除去の際に重み係数を利用することができる。
【0082】
上記実施形態では、特殊観察用光源61の光出射側に波長可変素子68を設けているが、ライトガイド36の出射端側に設けてもよい。また、照明光学系ではなく、被観察部位の像を取り込む対物光学系、例えば図11に示す電子内視鏡100のように、観察窓30の背後やCCD35の撮像面上に波長可変素子68を配置してもよい。この場合、光源装置12は通常観察用光源60のみを有し、反射スペクトルSを取得する際には通常観察用光源60から白色光を照射し、波長可変素子68でCCD35に入射する光の波長帯域を切り替える。
【0083】
上記実施形態では、事前に実験で求めた各物質の吸収スペクトルを用いているが、観察時にリアルタイムで各物質の吸収スペクトルを実測してもよい。実測の方法としては、電子内視鏡10に備え付けの送気・送水ノズル33、または電子内視鏡10の鉗子チャンネルに挿通した専用の処置具からエアー、水を噴出させるか、あるいは吸引装置に接続した処置具により吸引することで、被観察部位から非関心物質を物理的に除去する。そして、非関心物質の除去前と除去直後を撮像して得た画像データGから反射スペクトル算出部80で非関心物質の除去前と除去直後の反射スペクトルSおよびS’’を求める。除去前の反射スペクトルSから除去直後の反射スペクトルS’’を減算すれば、非関心物質の吸収スペクトルanを得ることができる。この場合は関心物質の吸収スペクトルのみを吸収スペクトルテーブル90に記憶させておけばよい。除去直後の反射スペクトルS’’を得るのは、非関心物質が胆汁等の分泌物であると、物理的な除去から時間が経つと除去前と同じ状況になるためである。非関心物質が分泌物でなく染色物質である場合は、染色物質を投与する前(染色物質が存在しない状態)とした後(染色物質が存在する状態)の反射スペクトルの差を求めればよい。
【0084】
上記実施形態で使用する予め求められた物質の吸収スペクトルはいわば代表例であるため、被検体である患者の個体差による物質の吸収スペクトルの違いは考慮されていない。対して上記のように非関心物質の存在しない状態と存在する状態の反射スペクトルの差から物質の吸収スペクトルをリアルタイムで実測すれば、患者の個体差を吸収することができてより血管情報の確度が増す。
【0085】
なお、非関心物質の存在しない状態と存在する状態とで血管情報を取得し、図9(A)と同様、図12に示すように、各々の状態の血管情報画像をモニタ19に並列表示してもよいし、重畳表示してもよい(各状態に時間差がある場合は経時表示となる)。また、非関心物質によるスペクトル成分を除去部83で除去する態様も並行して実施し、スペクトル成分を除去したうえで生成した血管情報画像と除去しないで生成した血管情報画像、および非関心物質が存在しない状態と存在する状態とで取得した血管情報画像の、合わせて四つの血管情報画像を並列または重畳表示しても可である。除去部83が正しく機能しているか否かを確認することができる。
【0086】
非関心物質を物理的に除去する場合は、反射スペクトルの算出は行わずに、段落[0062]に記載したように画素値に基づいて血管情報を取得してもよい。
【0087】
電子内視鏡10の送気・送水ボタン18、あるいは処置具の操作ボタンが操作されたことを検知し、上記の物質の吸収スペクトルのリアルタイム実測を開始する契機としてもよい。また、過去に取得した物質の吸収スペクトルを患者毎に管理し、データベース化してもよい。
【0088】
なお、関心物質と非関心物質を術者が選択可能に構成してもよい。例えば図13に示すような選択リスト105をモニタ19に表示させ、操作部48の操作により各物質のチェックボックスを関心、非関心、および除外で切り替えることで選択させてもよい。除外が選択された物質については、回帰式の吸収スペクトルの項を消去し、重回帰分析を行わないようにする。また、評価・判定の際の閾値thを操作部48の操作により術者が調整可能としてもよく、CPU45で自動調整可能としてもよい。
【0089】
反射スペクトルSを取得する際のバンドは上記実施形態の七つに限らず、その範囲も波長400nm〜750nmに限定されない。バンド数が多い程反射スペクトルSの算出分解能は上がるが、その分反射スペクトルSの取得に時間が掛かる。このため、反射スペクトルSの算出分解能と取得時間の兼ね合いで最適なバンド数を設定することが好ましい。また、反射スペクトルSの算出分解能が十分である場合は、血管情報取得のための狭帯域光は照射しなくともよい。
【0090】
反射スペクトルSを取得するための構成としては、上記実施形態の波長可変素子68を用いる他に、色分解プリズムで被観察部位からの像を複数の波長帯域の光に分光し、色分解プリズムの出射面に配した複数のCCDで撮像する構成が挙げられる。また、キセノンランプを光源とし、反射ミラーアレイで光の波長帯域を変化させて物質の反射スペクトルを取得するDLP(商標)を応用したスペクトラムアナライザ(ONELIGHT社製、参考URL;http://www.onelightcorp.com/products/index.html)を用いてもよい。
【0091】
上記実施形態では、狭帯域光による被観察部位の観察事例として酸素飽和度や血管深さの情報を取得するといった例を挙げたが、本発明はこれに限定されない。生体内組織に蛍光物質を注入して励起光を照射し、被観察部位からの蛍光を観察する、あるいは生体内組織の自家蛍光を観察する場合にも適用することができる。
【0092】
なお、本発明に係る内視鏡システムは、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、撮像素子は上記実施形態のCCDに限らずCMOSイメージセンサを用いてもよい。
【0093】
また、RGBの原色カラーフィルタを有するCCD35を例示しているが、モノクロのCCDを用いてもよい。この場合、通常観察用光源60の光出射側にRGB各色をそれぞれ透過するフィルタが円周方向に並んだロータリーフィルタを配し、通常観察モードではロータリーフィルタを回転させてRGB各色光を照射し、その都度モノクロのCCDで被観察部位からの像を撮像する。そして、得られたRGBの各画像データから画像一つ分の画像データを生成する。
【0094】
上記実施形態では電子内視鏡を例示したが、本発明はこれに限らず、撮像素子と超音波トランスデューサが先端部に内蔵された超音波内視鏡等、他の形態の内視鏡を用いたシステムにも適用することができる。また、医療用だけでなく、工業分野で利用されるシステムに適用してもよい。従って関心物質は血液やその成分に限らず、取得する情報も血管情報に限らない。
【符号の説明】
【0095】
2 電子内視鏡システム
10、100 電子内視鏡
11 プロセッサ装置
12 光源装置
13 挿入部
17 先端
18 送気・送水ボタン
19 モニタ
33 送気・送水ノズル
35 CCD
36 ライトガイド
40、45、70 CPU
46 ROM
49 画像処理回路
61 特殊観察用光源
68 波長可変素子
80 反射スペクトル算出部
81 重回帰分析部
82 評価・判定部
83 除去部
84 血管情報取得部
90 吸収スペクトルテーブル
105 選択リスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の被観察部位に光を照射する照射手段と、
被観察部位からの発光または反射光を撮像して撮像信号を出力する撮像素子と、
前記撮像素子から出力された撮像信号に基づき、被観察部位に存在する、観察対象となる関心物質の情報を取得する情報取得手段と、
関心物質以外の非関心物質を除去する非関心物質除去手段と、
前記情報取得手段で取得された関心物質の情報を画像化して表示する表示手段であり、前記非関心物質除去手段で非関心物質が除去される前とされた後の情報を同時または経時表示する表示手段とを備えることを特徴とする内視鏡システム。
【請求項2】
前記非関心物質除去手段は、被観察部位に流体を吹き付ける、または非関心物質を吸引することにより被観察部位から非関心物質を取り除くことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項3】
前記非関心物質除去手段は、内視鏡に備え付けの送気・送水機能であることを特徴とする請求項2に記載の内視鏡システム。
【請求項4】
前記照射手段から発せられた光の被観察部位からの反射光の反射スペクトルを取得する反射スペクトル取得手段と、
前記反射スペクトル取得手段で取得された反射スペクトルと、被観察部位に存在する、観察対象となる関心物質およびそれ以外の非関心物質の吸収スペクトルとを比較することにより、非関心物質の光吸収による反射スペクトルへの寄与分を算出する寄与分算出手段とを備え、
前記非関心物質除去手段は、前記寄与分算出手段で算出された寄与分を前記反射スペクトル取得手段で取得された反射スペクトルから取り除き、
前記情報取得手段は、前記非関心物質除去手段で寄与分が取り除かれる前と取り除かれた後の反射スペクトルに基づき、関心物質の情報を取得することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項5】
前記寄与分算出手段で算出された寄与分から、非関心物質の光吸収による反射スペクトルへの寄与の度合いを評価し、評価結果に応じて前記非関心物質除去手段で寄与分を取り除くか否かを判定する評価・判定手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の内視鏡システム。
【請求項6】
前記照射手段は、異なる複数の波長帯域の光を被観察部位に照射することを特徴とする請求項4または5に記載の内視鏡システム。
【請求項7】
前記反射スペクトル取得手段は、被観察部位からの反射光を異なる波長帯域に分光して受光することを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項8】
前記照射手段は、ブロードな波長帯域の白色光を被観察部位に照射し、
前記反射スペクトル取得手段は、白色光の被観察部位からの反射光を異なる複数の波長帯域に分光して受光することを特徴とする請求項4または5に記載の内視鏡システム。
【請求項9】
前記照射手段または前記反射スペクトル取得手段は、透過光の波長帯域が可変する波長可変素子を有することを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項10】
前記寄与分算出手段は、反射スペクトルを目的変数、関心物質および非関心物質の吸収スペクトルを説明変数として重回帰分析を行い、これにより得られた非関心物質の吸収スペクトルの重み係数を該吸収スペクトルに乗算したものを寄与分として算出することを特徴とする請求項4ないし9のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項11】
前記寄与分算出手段は、反射スペクトルを目的変数、関心物質および非関心物質の吸収スペクトルを説明変数として重回帰分析を行い、これにより得られた非関心物質の吸収スペクトルの重み係数を該吸収スペクトルに乗算したものを寄与分として算出し、
前記評価・判定手段は、重回帰分析で得られた非関心物質の吸収スペクトルの重み係数、または重回帰分析の有意性を判断するための統計量の少なくともいずれかを用いて前記寄与分算出手段で算出された寄与分の反射スペクトルへの寄与の度合いを評価することを特徴とする請求項5ないし9のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項12】
関心物質または非関心物質の少なくとも一つの吸収スペクトルを予め記憶する記憶手段を備えることを特徴とする請求項4ないし11のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項13】
被観察部位に非関心物質が存在する状態と存在しない状態の反射スペクトルを前記反射スペクトル取得手段で取得し、非関心物質が存在する状態で取得した反射スペクトルから、存在しない状態で取得した反射スペクトルを減算することで非関心物質の吸収スペクトルを求めることを特徴とする請求項4ないし12のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項14】
前記反射スペクトル取得手段は、前記撮像素子と、被観察部位からの反射光を取り込んで前記撮像素子に結像させる対物光学系と、
前記撮像素子から出力された撮像信号に基づき反射スペクトルを求める反射スペクトル算出手段とを有し、
前記対物光学系および前記撮像素子は、内視鏡の挿入部の先端に配されることを特徴とする請求項4ないし13のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項15】
前記表示手段は、非関心物質の存在の有無、または前記寄与分算出手段で算出された寄与分の反射スペクトルへの寄与の度合いを表示することを特徴とする請求項4ないし14のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項16】
関心物質と非関心物質の設定を切り替える設定変更手段を備えることを特徴とする請求項4ないし15のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項17】
前記照射手段は、光源と、
内視鏡の挿入部に配され、前記光源から発せられた光を挿入部の先端に導光するライトガイドを含む照明光学系とを有することを特徴とする請求項1ないし16のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項18】
関心物質は被観察部位内の血管中の血液、または血液を構成する成分の少なくともいずれかであり、前記情報取得部は血管に関する情報を取得することを特徴とする請求項1ないし17のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項19】
非関心物質は被検体からの分泌物、または染色物質の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1ないし18のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項20】
被検体の被観察部位に光を照射する照射ステップと、
被観察部位からの発光または反射光を撮像して撮像信号を出力する撮像ステップと、
前記撮像ステップで得られた撮像信号に基づき、被観察部位に存在する、観察対象となる関心物質の情報を取得する情報取得ステップと、
関心物質以外の非関心物質を除去する非関心物質除去ステップと、
前記情報取得ステップで取得された関心物質の情報を画像化して表示する表示ステップであり、前記非関心物質除去ステップで非関心物質が除去される前とされた後の情報を同時または経時表示する表示ステップとを備えることを特徴とする内視鏡システムの観察画像表示方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−143349(P2012−143349A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3110(P2011−3110)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】