説明

制駆動力制御装置

【課題】制駆動力制御装置において、燃費の向上を可能とすると共にドライバビリティの向上を可能とする。
【解決手段】車両の駆動輪18を駆動回転可能なエンジン11と、このエンジン11から駆動輪18が受ける制動力を低減するクラッチ19と、ドライバにより制動操作を行うブレーキペダル33と、ブレーキペダル33の操作に応じて車両に制動力を作用させる油圧ブレーキ装置31と、ブレーキペダル33による制動操作量の低下度合を検出し、この制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さいときにクラッチ19を作動するECU21とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの制御装置において、車両における所定の運転条件下で、エンジンを自動的に停止してエコラン運転を可能とするものが各種提案されている。このエコラン運転では、燃料の供給を停止することから、燃費の向上を可能とすることができる。
【0003】
このようなエコラン運転を可能とする従来のエンジン制御装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載されたエンジン制御装置では、運転操作状態や車両走行状態に応じて発進クラッチを解放してエンジンを停止させる第1のエコラン運転状態と、スロットル全閉操作時に発進クラッチを接続させて燃料供給を停止した第2のエコラン運転状態とを切換可能とし、第1のエコラン運転状態の実行中でも第2のエコラン運転状態に優先的に移行させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−085367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のエンジン制御装置にあっては、スロットル全閉操作時に発進クラッチを接続させて燃料供給を停止した状態とする第2のエコラン運転状態を優先的に実行するようにしている。この第2のエコラン運転状態にて、車両は、発進クラッチが接続状態にあることから、エンジンブレーキが作用することとなる。ところが、ドライバがスロットルを全閉操作したときであっても、車両の慣性により所定距離だけ惰行したい場合がある。そのため、従来のエンジン制御装置のように、スロットル全閉操作時に発進クラッチを接続させて車両に強制的にエンジンブレーキを作用させると、この車両に作用するエンジンブレーキ力が大きすぎて車両が減速しすぎてしまい、ドライバが所望する惰行距離が短くなってしまう。その結果、ドライバは、アクセルペダルを踏み込んで車両を走行させることとなり、再びエンジンが始動することで燃費が悪化してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、燃費の向上を可能とすると共にドライバビリティの向上を可能とする制駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制駆動力制御装置は、車両の駆動輪を駆動回転可能な駆動源と、該駆動源から前記駆動輪が受ける制動力を低減する制動力低減装置と、ドライバにより制動操作を行う制動操作部材と、該制動操作部材の操作に応じて車両に制動力を作用させる制動装置と、前記制動操作部材による制動操作量の低下度合を検出する制動操作量低下度合検出部と、該制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さいときに前記制動力低減装置を作動する制動力制御部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記制駆動力制御装置にて、前記制動力低減装置は、前記駆動源から受ける制動力を前記駆動輪に伝達する伝達状態と、前記駆動源から受ける制動力を前記駆動輪に伝達しない不伝達状態とに切替可能な切替装置を有することが好ましい。
【0009】
上記制駆動力制御装置にて、前記制動力制御部は、前記制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さく、且つ、前記制動装置による制動力が0になったときに前記切替装置により伝達状態から不伝達状態に切替えることが好ましい。
【0010】
上記制駆動力制御装置にて、前記制動力制御部は、前記制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さく、且つ、前記制動操作部材による制動操作量が予め設定された閾値より小さくなったときに前記切替装置により伝達状態から不伝達状態に切替えると共に、前記駆動源から受ける制動力の減少量に応じて前記制動装置による制動力を増加させることが好ましい。
【0011】
上記制駆動力制御装置にて、前方車両との距離を検出する車間距離検出部を設け、前記制動力制御部は、前記制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さく、且つ、前記車間距離検出部が検出した前方車両との距離が予め設定された閾値より長いときに前記切替装置により伝達状態から不伝達状態に切替えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る制駆動力制御装置は、制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さいときに駆動源から駆動輪が受ける制動力を低減するようにしたので、車両の走行状態に応じた制動力及び駆動力を設定することができ、燃費を向上することができると共に、ドライバビリティを向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る制駆動力制御装置を表すブロック構成図である。
【図2】図2は、実施形態1の制駆動力制御装置による駆動力制御の処理の流れを表すフローチャートである。
【図3】図3は、実施形態1の制駆動力制御装置による各種パラメータの変化状態を表すタイムチャートである。
【図4】図4は、本発明の実施形態2に係る制駆動力制御装置による駆動力制御の処理の流れを表すフローチャートである。
【図5】図5は、実施形態2の制駆動力制御装置による各種パラメータの変化状態を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る制駆動力制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る制駆動力制御装置を表すブロック構成図、図2は、実施形態1の制駆動力制御装置による駆動力制御の処理の流れを表すフローチャート、図3は、実施形態1の制駆動力制御装置による各種パラメータの変化状態を表すタイムチャートである。
【0016】
実施形態1の制駆動力制御装置において、図1に示すように、駆動源としてのエンジン11は、クランクシャフトにトルクコンバータ12が連結され、このトルクコンバータ12の駆動軸13に有段式の自動変速機14が連結されている。そして、自動変速機14にプロペラシャフト15が連結され、このプロペラシャフト15にデファレンシャルギア16を介して左右のドライブシャフト17が連結され、このドライブシャフト17に左右の駆動輪18が連結されている。
【0017】
従って、エンジン11が駆動すると、その駆動力がクランクシャフトから出力され、トルクコンバータ12を介して自動変速機14の入力軸に入力され、ここで所定の変速比に減速される。そして、減速後の駆動力が自動変速機14の出力軸からプロペラシャフト15に出力され、このプロペラシャフト15からデファレンシャルギア16を介して左右のドライブシャフト17に伝達され、左右の駆動輪18を駆動回転することができる。
【0018】
また、トルクコンバータ12と自動変速機14との間には、クラッチ19が介装されている。このクラッチ19は、アクチュエータ20を有しており、このアクチュエータ20により、エンジン11側と駆動輪18側との間で、駆動力及び制動力の伝達を不能とすることができる。
【0019】
車両には、エンジンコントロールユニット(ECU)21が搭載されており、このECU21は、エンジン11の駆動を制御することができる。即ち、吸入空気量を計測するエアフローセンサ22、アクセルペダル23の踏込み量(アクセル開度)を検出するアクセルポジションセンサ24、電子スロットル装置におけるスロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ25、エンジン11の回転数を検出するエンジン回転数センサ26などが設けられている。ECU21は、各センサ22,24,25,26が検出した検出結果に基づいて、インジェクタによる燃料噴射量、燃料噴射タイミング、点火プラグによる点火時期などを制御する。
【0020】
また、自動変速機14は、変速機油圧制御部27により油圧制御される。ECU21は、変速機油圧制御部27を制御して自動変速機14を油圧制御することで、変速制御することができる。即ち、入力軸回転数を検出する入力軸回転数センサ28、ドライバが操作するシフトレバー装置29によるシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ30が設けられている。ECU21は、各センサ24,28,30が検出した検出結果に基づいて、変速機油圧制御部27を制御し、自動変速機14を油圧制御することで、変速タイミングなどを制御する。この場合、ECU21は、エンジン11と自動変速機14を制御することで、車両の駆動力を制御している。
【0021】
また、車両には、駆動輪18に対応して油圧ブレーキ装置(制動装置)31が設けられている。ECU21は、ブレーキ油圧制御部32を制御して油圧ブレーキ装置31を油圧制御することで、ブレーキ(制動)制御することができる。即ち、ブレーキペダル(制動操作部材)33の踏込み量(ブレーキペダルストローク)を検出するブレーキペダルストロークセンサ34が設けられている。ECU21は、このセンサ34が検出した検出結果に基づいて、ブレーキ油圧制御部32を制御し、油圧ブレーキ装置31を油圧制御することで、駆動輪18に所定のブレーキ力(制動油圧力)を付与する。
【0022】
この場合、油圧ブレーキ装置31は、ディスクブレーキユニットであれば、ブレーキディスクにブレーキキャリパを押圧するためのホイールシリンダを有しており、ブレーキ油圧制御部32は、ホイールシリンダに所定の制動油圧を供給することで、このホイールシリンダが作動して駆動輪18に所定の制動力を付与することができる。
【0023】
このように構成された実施形態1の制駆動力制御装置では、車両の駆動輪18を駆動回転可能な駆動源としてエンジン11を適用し、このエンジン11から駆動輪18が受ける制動力、つまり、エンジンブレーキを低減する制動力低減装置としてクラッチ19を適用し、ドライバにより制動操作を行う制動操作部材としてブレーキペダル33を適用し、このブレーキペダル33の操作に応じて車両に制動力を作用させる制動装置として油圧ブレーキ装置31を適用している。
【0024】
そして、ブレーキペダル33による制動操作量(ブレーキペダルストローク)の低下度合を検出する制動操作量低下度合検出部と、この制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さいときにクラッチ19を作動する制動力制御部とを設けている。
【0025】
この場合、制動操作量低下度合検出部及び制動力制御部は、ECU21である。ECU21は、ブレーキペダル33におけるブレーキペダルストロークを常時把握しており、このブレーキペダルストロークにおける単位時間当たりの低下量、つまり、低下率に基づいて制動操作量の低下度合を検出する。また、ECU21は、制動操作量の低下度合(ブレーキペダルストロークの低下率)が予め設定された閾値より小さいときに、クラッチ19を作動する。
【0026】
このクラッチ19は、エンジン11から受けるエンジンブレーキを駆動輪18に伝達する接続状態(伝達状態)と、エンジン11から受けるエンジンブレーキを駆動輪18に伝達しない切断状態(不伝達状態)とに切替可能な切替装置である。そのため、ECU21は、制動操作量の低下度合(ブレーキペダルストロークの低下率)が閾値より小さいときには、クラッチ19を切断状態とし、エンジン11からのエンジンブレーキが駆動輪18に伝達しないようにしている。
【0027】
具体的に、ECU21は、制動操作量の低下度合(ブレーキペダルストロークの低下率)が閾値より小さく、且つ、油圧ブレーキ装置31による制動力が0になったときに、クラッチ19を切断状態としている。ここで、油圧ブレーキ装置31による制動力とは、ブレーキ油圧制御部32がホイールシリンダに供給油圧、または、ホイールシリンダが作動して駆動輪18に付与する制動力であってもよい。
【0028】
即ち、ドライバが車両を減速するとき、ドライバは、アクセルペダル23を戻してアクセル開度を全閉状態とした後、ブレーキペダル33を踏込んで駆動輪18に制動力を作用させる。その後、ドライバは、ブレーキペダル33を戻しながら制動力を調整する。このとき、エンジン11への燃料供給の停止(燃料カット)を行うことでエンジン11の駆動を停止し、車両をエコラン運転状態として燃費の向上を可能としている。そして、この車両のエコラン運転状態では、駆動輪18にはエンジンブレーキが作用することとなる。
【0029】
しかし、ドライバは、ブレーキペダル33を戻したからといって、車両のエコラン運転状態にて、大きなエンジンブレーキを必要としているか不明である。そこで、本実施形態では、車両がエコラン運転状態に移行する過程で、ドライバによるブレーキペダル33の戻し操作状態、つまり、ブレーキペダル33の開放速度によりエンジンブレーキの必要性を判定している。
【0030】
ドライバがブレーキペダル33を早く戻した場合、つまり、制動操作量の低下度合(ブレーキペダルストロークの低下率)が閾値以上の場合、ドライバは、大きなエンジンブレーキを必要としているか、または、再びアクセルペダル23を踏込む可能性があると判断できる。そのため、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を接続状態とし、車両にエンジンブレーキを作用させる。
【0031】
一方、ドライバがブレーキペダル33をゆっくりと戻した場合、つまり、制動操作量の低下度合(ブレーキペダルストロークの低下率)が閾値より小さい場合、ドライバは、車両の減速度(制動力)を微妙に調整したいものと判断できる。そのため、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を切断状態とし、車両にエンジンブレーキを作用させない。この場合、ドライバは、ブレーキペダル33の踏込み量により車両の制動力を調整することができる。
【0032】
以下、実施形態1の制駆動力制御装置による制駆動力制御について、図2のフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0033】
実施形態1の制駆動力制御装置において、図2に示すように、ステップS11にて、ECU21は、タイマのカウント値Tが所定のカウント値T1より大きいかどうかを判定する。このタイマは、後述するステップS13にて、リセットされるまで継続的にカウントするものである。通常、ここでは、タイマがカウント値Tをカウント開始してから間もないことから、タイマのカウント値Tが所定のカウント値T1以下である(No)と判定され、ステップS12に移行する。
【0034】
ECU21は、ブレーキペダル33による制動操作量(ブレーキペダルストローク)の低下度合として、ブレーキ油圧制御部32が油圧ブレーキ装置31に出力する制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pd(低下率)を検出している。ステップS12にて、ECU21は、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが予め設定された閾値Pd1より大きいかどうかを判定する。ここで、ECU21は、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが閾値Pd1より大きい(Yes)と判定されたら、ステップS13にて、タイマのカウント値Tを0にリセットする。この場合、ドライバがブレーキペダル33を早く戻したことから、その後、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を接続状態とし、エンジン11を停止し、車両にエンジンブレーキを作用させる。
【0035】
一方、ステップS12にて、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが閾値Pd1以下である(No)と判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。すると、タイマのカウント値Tが増加することから、次回以降のの処理では、ステップS11にて、ECU21は、タイマのカウント値Tが所定のカウント値T1より大きい(Yes)と判定し、ステップS14に移行する。ECU21は、油圧ブレーキ装置31による制動力として、ブレーキ油圧制御部32が油圧ブレーキ装置31に出力する制動油圧Pを検出している。ステップS14にて、ECU21は、制動油圧Pが0であるかどうかを判定する。ここで、制動油圧Pが0でない(No)と判定されたら、ステップS12、ステップS13の処理を繰り返す。
【0036】
一方、ステップS14にて、ECU21は、制動油圧Pが0である(Yes)と判定されたら、ステップS15にて、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を切断状態とする。また、ステップS16にて、エンジン11の駆動を停止する。この場合、ドライバがブレーキペダル33をゆっくりと戻したことから、その後、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を切断状態とし、エンジン11を停止し、車両にエンジンブレーキを作用させない。そのため、ドライバは、ブレーキペダル33の踏込み量により車両の制動力を調整することとなる。
【0037】
ここで、上述した実施形態1の制駆動力制御装置による制駆動力制御において、各パラメータの変化状態を図3のタイムチャートを用いて詳細に説明する。
【0038】
実施形態1の制駆動力制御装置において、図3に示すように、ドライバがブレーキペダル33を戻していくと、ブレーキペダルストロークが減少し、ブレーキ油圧(制動油圧)が低下していく。このとき、ドライバがブレーキペダル33を早く戻した場合、図3にて一点鎖線に表すように、ブレーキペダルストロークが時間t1の近傍で急激に減少し、ブレーキ油圧(制動油圧)も時間t1の近傍で急激に低下する。すると、単位時間当たりのブレーキ油圧の低下量が時間t1の近傍で急激に上昇してから低下する。また、このとき、加速度(減速度)が急激に上昇(低下)する。
【0039】
ここで、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが閾値Pd1以上であることから、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を接続状態とし、クラッチ伝達力を維持することとなり、エンジン11を停止しても、現在のエンジン回転数が維持され、車両にエンジンブレーキが作用することとなる。
【0040】
一方、ドライバがブレーキペダル33をゆっくり戻した場合、図3にて実線に表すように、ブレーキペダルストロークがゆっくりと減少し、ブレーキ油圧(制動油圧)もゆっくりと低下する。すると、単位時間当たりのブレーキ油圧の低下量が時間t1の近傍までほとんど変化しない。また、このとき、加速度(減速度)がゆっくりと上昇(低下)する。
【0041】
ここで、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが閾値Pd1より小さいことから、制動油圧Pが0になった時間t1にて、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を切断状態とし、クラッチ伝達力がなくなり、エンジン11を停止してエンジン回転数が0まで低下し、車両にエンジンブレーキが作用しない。そのため、ドライバは、ブレーキペダル33の踏込み量により車両の制動力を調整する。
【0042】
このように実施形態1の制駆動力制御装置にあっては、車両の駆動輪18を駆動回転可能なエンジン11と、このエンジン11から駆動輪18が受ける制動力を低減するクラッチ19と、ドライバにより制動操作を行うブレーキペダル33と、ブレーキペダル33の操作に応じて車両に制動力を作用させる油圧ブレーキ装置31と、ブレーキペダル33による制動操作量の低下度合を検出し、この制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さいときにクラッチ18を作動するECU21とを設けている。
【0043】
従って、制動操作量の低下度合が大きいときには、クラッチ19が接続状態になることから、駆動輪18はエンジン11から制動力としてのエンジンブレーキが作用し、車両は、十分な減速力を受けることができると共に、燃料カットにより燃費の向上を可能とすることができる。一方、制動操作量の低下度合が小さいときには、クラッチ19が切断状態になることから、駆動輪18はエンジン11から制動力としてのエンジンブレーキが作用せず、ドライバは、ブレーキペダル33を操作して油圧ブレーキ装置31による所望の制動力を調整することができると共に、車両は、燃料カットにより燃費の向上を可能とすることができる。その結果、車両の走行状態に応じてドライバが所望する制動力及び駆動力を適正に設定することができ、燃費を向上することができると共に、ドライバビリティを向上することができる。
【0044】
また、実施形態1の制駆動力制御装置では、制動力低減装置を切替装置としてのクラッチ19としたことで、このクラッチ19により、エンジン11から受けるエンジンブレーキを駆動輪18に伝達する伝達状態と、駆動輪18に伝達しない不伝達状態とに切替可能となり、装置の簡素化を可能とすることができると共に、切替タイミングの適正化を可能とすることができる。
【0045】
また、実施形態1の制駆動力制御装置では、ECU21は、制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さく、且つ、油圧ブレーキ装置31による制動力が0になったときにクラッチ19を切断状態に切替えている。従って、油圧ブレーキ装置31による制動力に影響を与えることなく、クラッチ19の切替操作を適正タイミングで実行することができる。
【0046】
〔実施形態2〕
図4は、本発明の実施形態2に係る制駆動力制御装置による駆動力制御の処理の流れを表すフローチャート、図5は、実施形態2の制駆動力制御装置による各種パラメータの変化状態を表すタイムチャートである。なお、本実施形態の制駆動力制御装置の基本的な構成は、上述した実施形態1とほぼ同様の構成であり、図1を用いて説明すると共に、上述した実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の記号を付して詳細な説明は省略する。
【0047】
実施形態2の制駆動力制御装置において、図1に示すように、制動操作量低下度合検出部及び制動力制御部は、ECU21である。ECU21は、ブレーキペダル33におけるブレーキペダルストロークを常時把握しており、このブレーキペダルストロークにおける単位時間当たりの低下量、つまり、低下率に基づいて制動操作量の低下度合を検出する。また、ECU21は、制動操作量の低下度合(ブレーキペダルストロークの低下率)が予め設定された閾値より小さいときに、クラッチ19を作動する。
【0048】
具体的に、ECU21は、制動操作量の低下度合(ブレーキペダルストロークの低下率)が閾値より小さく、且つ、ブレーキペダル33による制動操作量が予め設定された閾値より小さくなったときに、クラッチ19を切断状態とすると共に、エンジン11から受ける制動力(エンジンブレーキ)の減少量に応じて油圧ブレーキ装置31による制動力を増加させるようにしている。
【0049】
以下、実施形態2の制駆動力制御装置による制駆動力制御について、図4のフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0050】
実施形態2の制駆動力制御装置において、図4に示すように、ステップS21にて、ECU21は、ブレーキペダル33による制動操作量、つまり、ブレーキペダルストロークセンサ34が検出したブレーキペダルストロークSが予め設定された閾値S1より小さくなったかどうかを判定する。ここで、ブレーキペダルストロークSが閾値S1以上である(No)と判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
【0051】
一方、ブレーキペダルストロークSが閾値S1より小さい(Yes)と判定されたら、ステップS22にて、ECU21は、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが予め設定された閾値Pd1より少ないかどうかを判定する。ここで、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが閾値Pd1以上である(No)と判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。ステップS21で(No)と判定された場合、ドライバによるブレーキペダル33の踏込み量が多いことであり、また、ステップS22で(No)と判定された場合、ドライバがブレーキペダル33を早く戻したことであるから、その後、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を接続状態とし、エンジン11を停止し、車両にエンジンブレーキを作用させる。
【0052】
一方、ステップS22にて、ECU21は、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが閾値Pd1より少ない(Yes)と判定されたら、ステップS23にて、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を切断状態とする。また、ステップS24にて、エンジン11の駆動を停止する。この場合、ドライバがブレーキペダル33をゆっくりと戻したことから、その後、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を切断状態とし、エンジン11を停止し、車両にエンジンブレーキを作用させない。そのため、ドライバは、ブレーキペダル33の踏込み量により車両の制動力を調整することとなる。
【0053】
続いて、ステップS25にて、ECU21は、駆動輪18がエンジン11から受けるエンジンブレーキの減少量に応じて油圧ブレーキ装置31による制動力を増加させる。つまり、ドライバがブレーキペダル33を踏込んで車両に制動力を作用させているとき、クラッチ19を切断状態としてエンジンブレーキをカットすると、このエンジンブレーキの分だけ車両の制動力が不足する。そのため、ECUは21、エンジンブレーキによる車両の制動力を算出し、ブレーキペダルストロークに応じた制動力に加えて、エンジンブレーキの制動力を確保できるようにブレーキ油圧制御部32を制御し、必要な制動力に相当する制動油圧を補正して油圧ブレーキ装置31に供給する。従って、油圧ブレーキ装置31は、ドライバによるブレーキペダル操作に応じた制動力と、エンジンブレーキの制動力とを加算した制動力を車両に作用させることができる。
【0054】
この場合、ECU21は、エンジン回転数、車速、トルクコンバータ12のトルク比、自動変速機14のギヤ比や効率、デファレンシャル比などに基づいて現在のエンジンブレーキによる制動力を算出することができる。
【0055】
ここで、上述した実施形態2の制駆動力制御装置による制駆動力制御において、各パラメータの変化状態を図5のタイムチャートを用いて詳細に説明する。
【0056】
実施形態2の制駆動力制御装置において、図5に示すように、ドライバがブレーキペダル33を戻していくと、ブレーキペダルストロークが減少し、ブレーキ油圧(制動油圧)が低下していく。このとき、ドライバがブレーキペダル33を早く戻した場合、図5にて一点鎖線に表すように、ブレーキペダルストロークが時間t2の近傍で急激に減少し、ブレーキ油圧(制動油圧)も時間t2の近傍で急激に低下する。すると、単位時間当たりのブレーキ油圧の低下量が時間t2の近傍で急激に上昇してから低下する。また、このとき、加速度(減速度)が急激に上昇(低下)する。
【0057】
ここで、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが閾値Pd1以上であることから、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を接続状態とし、クラッチ伝達力を維持することとなり、エンジン11を停止しても、現在のエンジン回転数が維持され、車両にエンジンブレーキが作用することとなる。
【0058】
一方、ドライバがブレーキペダル33をゆっくり戻した場合、図5にて実線に表すように、ブレーキペダルストロークがゆっくりと減少し、ブレーキ油圧(制動油圧)もゆっくりと低下する。すると、単位時間当たりのブレーキ油圧の低下量が時間t2の近傍までほとんど変化しない。また、このとき、加速度(減速度)がゆっくりと上昇(低下)する。
【0059】
そして、時間t1で、ブレーキペダルストロークSが閾値S1より小さくなり、このとき、制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pdが閾値Pd1より小さいことから、この時間t1にて、クラッチ19によりエンジン11と駆動輪18を切断状態とし、クラッチ伝達力がなくなり、エンジン11を停止してエンジン回転数が0まで低下し、車両にエンジンブレーキが作用しない。
【0060】
また、このとき、クラッチ19が切断状態となることから、エンジンブレーキがなくなることにより加速度が上昇してしまうことから、エンジンブレーキによる車両の制動力に相当するブレーキ油圧を増加する。そのため、車両の加速度はスムーズに減少することとなる。つまり、ブレーキ油圧は、この増加補正を行うことで、時間t1以降で一時的に増加してから減少することとなる。
【0061】
このように実施形態2の制駆動力制御装置にあっては、ECU21は、制動操作量の低下度合が閾値より小さく、且つ、ブレーキペダル33による制動操作量が予め設定された閾値より小さくなったときに、クラッチ19を切断状態とすると共に、エンジン11から受ける制動力(エンジンブレーキ)の減少量に応じて油圧ブレーキ装置31による制動力を増加させるようにしている。
【0062】
従って、制動操作量の低下度合が小さく、ブレーキペダル33による制動操作量が小さいときには、クラッチ19が切断状態になることから、駆動輪18はエンジン11から制動力としてのエンジンブレーキが作用せず、ドライバは、ブレーキペダル33を操作して油圧ブレーキ装置31による所望の制動力を調整することができると共に、車両は、燃料カットにより燃費の向上を可能とすることができる。その結果、車両の走行状態に応じてドライバが所望する制動力及び駆動力を適正に設定することができ、燃費を向上することができると共に、ドライバビリティを向上することができる。
【0063】
この場合、ブレーキペダル33による制動操作量が小さくなったときに、クラッチ19を切断状態とすることで、ドライバがブレーキペダル33をゆっくりと戻しているときは、早期にクラッチ19を切断することとなり、ドライバによるブレーキペダル33の操作により、ドライバが所望する車両の減速状態を確保することができ、ドライバビリティを向上することができる。
【0064】
また、ブレーキペダル33による制動操作量が小さくなったときに、クラッチ19を切断状態とすると同時に、エンジン11から受ける制動力(エンジンブレーキ)の減少量に応じて油圧ブレーキ装置31による制動力を増加させている。従って、車両全体の制動力を安定して維持することができ、安全性を向上することができると共に、ドライバに違和感を与えることはなく、この点でもドライバビリティを向上することができる。
【0065】
なお、本発明の制駆動力制御装置は、制動操作量の低下度合だけでなく、前方車両との距離に応じて制動力低減装置により駆動源から駆動輪が受ける制動力を低減してもよい。即ち、車両に前方車両との距離を検出する車間距離検出部(例えば、レーザセンサ)を設け、制動力制御部(ECU21)は、車間距離検出部が検出した前方車両との距離が予め設定された閾値より長く、且つ、エンジンブレーキによる制動力が予め設定された閾値より大きいとき、切替装置としてのクラッチ19により接続状態から切断状態に切替えるようにしてもよい。
【0066】
この場合、前方車両との距離が長く、エンジンブレーキによる制動力が大きいときには、車両が減速しすぎてしまい、ドライバが再びアクセルペダルを踏込んで加速してしまう可能性がある。このときは、クラッチ19を切断状態とすることで、エンジンブレーキによる制動力をなくし、車両を惰行させることで、燃費の向上を図る。なお、このとき、傾斜センサにより道路の傾斜状態を検出し、道路が登坂路であるかどうかを考慮してもよい。
【0067】
また、上述した各実施形態では、制動力低減装置をクラッチ19として説明したが、この構成に限定されるものではない。例えば、エンジンが多気筒エンジンであって、少なくとも一部の気筒が休止可能な休止機構を有するエンジンの場合、この休止機構により一部の気筒を停止することで、駆動源としてのエンジンによる制動力を低減してもよい。また、駆動源が電気モータである場合、回生力を制御することで、駆動源としての電気モータの回生力による制動力を低減してもよい。
【0068】
また、この制動力低減装置としてのクラッチ19をエンジン11及びトルクコンバータ12と自動変速機14との間に設けたが、この位置に限定されるものではなく、駆動源と駆動輪との間にあればよい。この場合、自動変速機14や無段変速機(例えば、CVT)の変速比を変更することで、エンジンブレーキによる制動力を低減可能であることから、この変速機を制動力低減装置としてもよい。
【0069】
また、上述した各実施形態では、ブレーキペダル(制動操作部材)33による制動操作量(ブレーキペダルストローク)の低下度合として、ブレーキ油圧制御部32が油圧ブレーキ装置31に出力する制動油圧Pにおける単位時間当たりの低下量Pd(低下率)としたが、これに限るものではなく、ブレーキペダルストロークセンサ34が検出したブレーキペダルストロークにおける単位時間当たりの低下量(低下率)としてもよい。また、制動操作量をブレーキペダル33によるブレーキペダルストロークとしたが、ブレーキペダル33による踏力としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明にかかる制駆動力制御装置は、制動操作量の低下度合が小さいときに駆動源から駆動輪が受ける制動力を低減することで、燃費の向上を可能とすると共にドライバビリティの向上を可能とするものであり、車両の駆動力や制動力を制御する装置に有用である。
【符号の説明】
【0071】
11 エンジン(駆動源)
14 自動変速機
18 駆動輪
19 クラッチ(制動力低減装置)
21 ECU(制動操作量低下度合検出部、制動力制御部)
31 油圧ブレーキ装置(制動装置)
32 ブレーキ油圧制御部
33 ブレーキペダル(制動操作部材)
34 ブレーキペダルストロークセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪を駆動回転可能な駆動源と、
該駆動源から前記駆動輪が受ける制動力を低減する制動力低減装置と、
ドライバにより制動操作を行う制動操作部材と、
該制動操作部材の操作に応じて車両に制動力を作用させる制動装置と、
前記制動操作部材による制動操作量の低下度合を検出する制動操作量低下度合検出部と、
該制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さいときに前記制動力低減装置を作動する制動力制御部と、
を備えることを特徴とする制駆動力制御装置。
【請求項2】
前記制動力低減装置は、前記駆動源から受ける制動力を前記駆動輪に伝達する伝達状態と、前記駆動源から受ける制動力を前記駆動輪に伝達しない不伝達状態とに切替可能な切替装置を有することを特徴とする請求項1に記載の制駆動力制御装置。
【請求項3】
前記制動力制御部は、前記制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さく、且つ、前記制動装置による制動力が0になったときに前記切替装置により伝達状態から不伝達状態に切替えることを特徴とする請求項2に記載の制駆動力制御装置。
【請求項4】
前記制動力制御部は、前記制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さく、且つ、前記制動操作部材による制動操作量が予め設定された閾値より小さくなったときに前記切替装置により伝達状態から不伝達状態に切替えると共に、前記駆動源から受ける制動力の減少量に応じて前記制動装置による制動力を増加させることを特徴とする請求項2に記載の制駆動力制御装置。
【請求項5】
前方車両との距離を検出する車間距離検出部を設け、前記制動力制御部は、前記制動操作量低下度合検出部が検出した制動操作量の低下度合が予め設定された閾値より小さく、且つ、前記車間距離検出部が検出した前方車両との距離が予め設定された閾値より長いときに前記切替装置により伝達状態から不伝達状態に切替えることを特徴とする請求項2に記載の制駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−174510(P2011−174510A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37968(P2010−37968)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】