説明

前駆体溶液、前駆体溶液を準備する方法、及び前駆体溶液の使用

1500以上の相対誘電率を有する、結晶質のPbMg0.33Nb0.67の単相の層が、大環状錯化剤を有する前駆体溶液の使用によって準備される。この錯化剤は、有機溶液内の鉛成分に付加される。得られる層は、半導体素子及び抵抗器を更に含み得るデバイスの一部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛、ニオブ及び第三金属の酸化物を含む結晶層のための前駆体溶液に関する。
【0002】
本発明は、前記前駆体溶液を準備する方法にも関する。
【0003】
本発明は、更に、前記前駆体溶液を基板上に塗布し、これを鉛マグネシウムニオブ酸塩(lead-magnesium niobate)層に結晶化させるステップを含む電子デバイスを製造する方法と、該方法によって得られる電子デバイスとに関する。
【背景技術】
【0004】
前記のような前駆体溶液、及び前記方法は、米国特許第6066581号公報から知られている。前記公報の例7は、ゾル−ゲルタイプの前駆体溶液を開示しており、該前駆体水溶液内には、鉛、マグネシウム及びニオブを含むいくつかの金属の前駆体化合物が存在する。前記前駆体溶液は、脱イオン蒸留水内の硝酸鉛、脱イオン水及びメトキシエタノール内の硝酸マグネシウム、並びにメトキシエタノール及びアセチルアセトン内のニオブエトキシドの水溶液を混ぜることによって用意されたものである。ゾルゲルタイプのこの前駆体水溶液は基板上に塗布され、次いで350ないし400℃において膜を焼く(fire)することによってペロブスカイト層状に変形される。ここで、好ましくは酸素含有雰囲気内で、薄膜を必要とされている結晶相に結晶化するための600−800℃まで、100℃/秒の傾斜(ramp)の形態で高速アニール処理がなされる。得られる結晶層は、最初はペロブスカイト構造をとっているが、望んでいない鉛ニオブ酸塩のパイロクロア構造が形成される。ニオブ及びマグネシウムのためには、プロポキシド及びイソプロポキシドのような有機アニオンが使用されているのに対し、鉛は、無機塩(例えば硝酸鉛)又は鉛過塩素酸塩として供給されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既知の方法の不利な点は、前記パイロクロア構造の形成が抑制されることができず、この結果、前記結晶層が、望まれているよりも低い誘電率を有することにある。
【0006】
従って、本発明の第1の目的は、冒頭段落に記載した種類の電子デバイスであって、ペロブスカイト相の結晶層を有する電子デバイスを製造する方法を提供することにある。
【0007】
従って、本発明の第2の目的は、冒頭段落に記載した種類の前駆体溶液であって、望まれていないパイロクロア側の相の形成を伴わずに、前記ペロブスカイト相に結晶化されることができる前駆体溶液を提供することにある。
【0008】
本発明の第3の目的は、冒頭段落において記載した種類の前駆体溶液を準備する方法であって、該前駆体溶液を改善する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記第3の目的は、当該方法が、
― アルコキシアルコール類から選択された溶媒における大環状化合物によってキレートされた鉛塩の第1溶液を用意するステップと、
― アルコラート及び/又はβ‐ジケトンの形態で合成されたニオブを有する第2溶液を用意するステップと、
― 前記第1溶液及び前記第2溶液を混合するステップと、
を有することで達成される。
【0010】
前記第2の目的は、本発明の方法によって得られる溶液において達成される。前記第1の目的は、本発明の前駆体溶液が使用されることによって達成される。
【0011】
本発明によれば、鉛を含有する前記第1溶液は、キレータとしての鉛イオンの大きさに対応するキャビティを持つ大環状化合物と、アルコール又はアルコキシ−アルコール溶媒とを有する。この第1溶液を有する前記前駆体溶液は、前記基板上に層として塗布された後、有利な特性を示す。前記前駆体溶液は、何らかの実質的なパイロクロア結晶相を伴わずに、所望のペロブスカイト相に結晶化することが分かっている。このパイロクロア相とは、実際には、ニオブ及び鉛の酸化物のみである。キレータとして使用される前記大環状化合物によって、前記前駆体溶液は安定なものになり、望まれているとおりにゲル化される。ゲル化された前駆体溶液の安定性により、該前駆体溶液において種々の金属化合物が網状に予備成形され、得られる層が容易に結晶化されることが保証される。
【0012】
米国特許第5,894,064号公報から、前駆体溶液を準備する前記のような方法であって、前記第1前駆体溶液は、水中の18−crown−6及びバリウムアセテートの錯体を有する方法が知られている。このクラウン‐エーテルは、この溶液中の前記前駆体のオリゴマー化を防止する目的で使用されており、該クラウン‐エーテルによって、BaCOの形成を防止している。前記オリゴマー化とは、Baイオンがアセテートブリッジを介して結合されることを意味する。このメカニズムは、本発明において活性ではない。アルコキシアルコール溶媒によって、鉛イオンの配位結合が安定化され、これにより前記オリゴマー化を防止している。クラウン‐エーテルが、望まれていないパイロクロア相の形成も防止することができるという兆候又は提案はない。これらのパイロクロア相は、鉛含有ペロブスカイトに対して、特に問題である。主なパイロクロア相は、PbNb13の合成物を有するが、第三金属成分も含有している何らかを含むいくつかの他のものも存在する。前記パイロクロア相は、一般に、ほとんど鉛を含んでいないものを有している。純粋なパイロクロア相に加えて、パイロクロア相とペロブスカイト相との何らかの混合結晶が、従来技術の方法において生じていたが、本発明の方法においては生じない。
【0013】
前記第三金属とは、特に、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム及びバリウムのようなアルカリ土類金属であって、代替的にイオンになることはない。マグネシウムの選択が特に好ましく、PbMg0.33Nb0.67のペロブスカイト層が生じる。この層は、他のペロブスカイト層と比較して、高い誘電率を有する。PbMg0.33Nb0.67と更なるペロブスカイト(例えば、鉛チタン酸塩、鉛ジルコン酸塩、又は鉛ジルコニウムチタン酸塩)との両方を有する固体溶液が最も好ましい。本発明の方法は、結晶化温度が550ないし700℃のオーダで、比較的低くあることができる層に対し特に適している。多くの従来技術の方法は、欧州特許出願第676384号公報から知られているもののように、800℃の結晶化温度を使用している。これらの方法において低い温度が使用された場合、材料は、ペロブスカイト相のみに結晶化しない。
【0014】
低い結晶化温度と、ペロブスカイト相のみへの結晶化との組み合わせは、この層を、特に多層薄膜構造であって、特に基板内のダイオード及び/又はトランジスタのような能動素子、並びに抵抗器も含む構造に集積するのに特に有利である。前記のような低い温度は、第2相の形成を防止することと、デバイス内の他の素子との工程互換性とに関して、有益である。
【0015】
アルコキシアルコール溶媒は、1つ以上のヒドロキシル官能基を有する脂肪アルコール及び/又は芳香族であることが好ましく、更に、これらのエーテルは、短鎖状のアルカノールである。前記アルコールは、部分的又は完全にエーテル化(etherized)し得る。カルボキシル酸、及び無官能基芳香族化合物を代替的に使用しても良い。最も好ましいのは、1‐メトキシ‐2‐エタノール、1‐メトキシ‐2‐プロパノール、1‐エトキシ‐2‐エタノールのような、二官能基の、単にエーテル化された(例えば、メトキシ‐、プロポキシ‐、ブトキシ‐)短鎖アルコールである。特に好ましいのは、溶媒1‐メトキシ‐2‐プロパノールであり、これは、無毒性である利点を有する。前記第2溶液の溶媒は、前記第1溶液の溶媒と同一であることが好ましい。しかしながら、このことは必須ではない。
【0016】
好ましいのは、アニオンとして、ニオブ化合物のアルコラートと共にエステルを生じる化合物を有する鉛塩である。当量数(equivalent number)のカルボキシル酸アニオンと、アルカノアートとの比は、0.75ないし1.33の範囲内にある。ほぼ当量比で存在するアルコラート及びカルボキシレートは、通常、前記結晶化のステップに先行する加熱ステップの間、互いに反応し得る。得られるエステルは、加熱の際に蒸発する揮発性化合物である。この結果、一般的に高温で行われる結晶化処理の間に取り除かれなければならない有機物の含有量は、少ない。適切なアニオンは、カルボキシレート及び硝酸塩を含んでいる。
【0017】
大環状化合物の好適な例は、18‐crown‐6である。15‐crown‐5は、アルコール溶媒内の鉛塩の高い溶解性を生じない。他の適切な化合物は、鉛イオンに対応する大きさのキャビティを有するカリックスアレーン及びスフェランドを含む。適切なキャビティの大きさを有する他の大環状化合物は、例えば、ジクロヘキシル‐18‐crown‐6;4,10‐ジアザ‐15‐crown‐5;4,10‐ジアザ‐18‐crown‐6;並びにクリプタンド[211]、[221]及び[222]である。Pb2+イオンを有するこれらの大環状化合物の錯体は、H.-J. Buschmann 及び E. Schollmeyerによる出版物 J. Coord.Chem 55(3), 287−291頁(2002年)に記載されている。適切なキャビティの大きさ、即ち等しい大きさ以上の錯形成反応定数を有する他の大環状化合物を排除する理由はない。
【0018】
前記前駆体溶液は、ホルムアミド又はポリエチレングリコールのような、粘性を制御するための何らかの他の添加物を含有していても良い。前記前駆体溶液は、特定の金属イオンを安定させるための何らかの他の錯化剤を更に含有していても良い。
【0019】
前記第1溶液に対する好ましい添加物は、脱塩水である。1当量よりも少ないクラウンエーテルが、鉛化合物の当量当たりに使用される場合、水を付加することにより、生じているいかなる沈殿物も溶解される。
【0020】
前記電子デバイスを製造する方法の好適実施例において、前記層は、シード層上に塗布される。シード層の使用の結果、高い誘電率を有するより高密度の材料が作られる。このことは、更に、薄膜コンデンサの歩留まりを向上させる。10−100nnmの厚さのシード層が、良好に働く。好ましい厚さは、30nmないし60nmである。特に好ましいのは、鉛ジルコン酸塩チタン酸塩(lead zirconate titanate)のシード層である。
【0021】
他の実施例において、前駆体溶液が塗布される基板表面は第1電極を備えており、この層は、所望のパターンに従って構成されており、該層の最上部に第2電極が設けられている。このようにして、当該結晶層は、薄膜コンデンサとして使用される。構造化は、例えば、HNO、HCl、酢酸及びHFの混合物による湿式化学エッチングによって実現されることができ、該湿式化学エッチングには、希釈されたHNOの後処理が後続する。前記相を基板上の薄膜構造として設け、該層内及び該層上に他の構成要素が設けられることができるようにするために、前記相を構造化することが好ましい。
【0022】
特に好ましいのは、前記基板がダイオード及びトランジスタのような能動素子を有する、電子デバイスである。前記のようなデバイスは、集積されたESD保護、デカップリング及び他のフィルタリングに関する利点を有して使用されることができる。この用途は、高い破壊電圧を条件として規定しており、該高い破壊電圧は、前記結晶層が、副層の繰り返された塗布及び結晶化によって設けられることで実現される。前記破壊電圧は、集積された形態で電極を設けることにより更に改善されることができる。この利用に関して、抵抗器及び他のコンデンサも設けられることが非常に好ましい。前記他のコンデンサは、他の誘電率を有して設けられても良い。ESD保護に関するこのような利用において、ペロブスカイト誘電体を備える前記コンデンサは、パスフィルタとして使用される。前記パスフィルタは、信号経路内で使用されるが、該信号経路と接地との間のダイオードと並列に使用されることもできる。
【0023】
鉛ジルコニウムチタン層よりも高い誘電率を有する誘電体を使用することは、該誘電体が蓄積コンデンサ及び大きい静電容量値を有するデカップリングコンデンサとして利用可能になる利点を有する。
【0024】
本発明は、更に、本発明による製造の方法によって得られることができる電子デバイスにも関する。いかなる二次的な相も、本発明によるデバイス内の結晶層内に存在しない。この結果、該結晶層内の誘電率は、著しく高い。従来技術は500−550の値を挙げているのに対し、1500よりも大きい相対誘電率が、本発明によって見出されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のこれら及び他の見地は、添付図面を参照して更に説明されるであろう。
【0026】
図1は、本発明の方法によって製造されることができる模範的なデバイスを示している。これは、どのような場合においても、限定する意味を持つものではなく、純粋に概略的なものである。図1に示されている電子部品の製造の場合、半導体基板1には、実施例2と同様の態様で第1半導体領域2及び第2半導体領域3が設けられている。基板1は、第1ドーピング種類のドープ剤であるBをドープされている。第1半導体領域2は、高いドーピング濃度においてBをドープされている。第2半導体領域3は、第2ドーピング種類のドープ剤であるPをドープされている。
【0027】
絶縁層4(例えば、SiO、Si、又はSiOとSiとの組み合わせ)が、半導体基板1上に設けられている。絶縁層4の最上部には、抵抗層18(この例では、poly−Si)が設けられている。絶縁層4及び抵抗層18は、障壁層5(例えば、SiO、Si、若しくはSiOとSiとの組み合わせ、TiO、Al、若しくはMgO、又はSi及びTiOの組み合わせ)によって覆われている。これらの上において、パターンを焼き付けられている、第1電気伝導層6(例えば、50nmないし1μmの層厚でPtを有する)が設けられている。他の金属が、代替的に使用されても良い。付加的な層(例えば、Ti)が、付着性の改善のために設けられても良い。コンデンサの電極は、この第1伝導層6内に規定されている。複雑酸化層7(この例においては、PbMg0.77Nb0.33の強誘電層)が第1導電層6上と、該第1導電層6が存在しない障壁層5上とに設けられている。本発明によれば、キレートを有する前記強誘電層のための前駆体溶液が、実施例においてより詳細に記載されるように、前駆体としてスピンコーティングによって設けられる。複雑酸化層7は、湿式化学エッチングを使用してエッチングされている。半導体基板1に到達しているコンタクトホールは、複雑酸化層7に特有の従来型の腐食剤による該複雑酸化層7のエッチングの後に作られたものである。前記コンタクトホールは、第1、第2及び第3の電源リード線8、9、19を供給するため、導電性材料(例えば、Al、Cu、Pt、又はAlとCuとの合金、AlとSiとの合金、TiとAlとの組み合わせ、TiとCuとの組み合わせ、TiとAl及びCuの合金との組み合わせ、若しくはTiと、Ti、Al及びSiの合金との組み合わせ、又はTiWとAlとの組み合わせ、TiWとCuとの組み合わせ、TiWとAl及びCuの合金との組み合わせ、若しくはTiWとAl及びSiの合金との組み合わせ、又はTiW(N)とAlとの組み合わせ、TiW(N)とCuとの組み合わせ、TiW(N)とAl及びCuの合金との組み合わせ、若しくはTiW(N)とAl及びSiの合金との組み合わせ、又はTiNとAlとの組み合わせ、TiNとCuとの組み合わせ、TiNとAl及びCuの合金との組み合わせ、若しくはTiNとAl及びSiの合金との組み合わせ)によって満たされる。前記導電性材料は、第2の電気伝導層10を形成するために複雑酸化層7の最上部にも設けられ、該第2導電層10内にコンデンサの第2電極が規定されている。この場合特に、Cuが前記導電材料として使用されており、付加的な障壁層(例えば、TaN又はTiN)が、複雑酸化層7と第2導電層10との間に設けられることができる。ここで、パッシベーション層11(この場合、シリコン窒化物)が設けられている。前記パッシベーション層11は、回路の入力12及び出力13を規定しているコンタクトホール12、13と、グラウンドコンタクト5とを備えている。金属又ははんだバンプは、既知の態様でこれらのコンタクトに接続されている。
【0028】
実施例
1-メトキシ‐2-プロパノールに溶解された鉛アセテート、ジルコニウムイソプロポキシド、及びチタニウムイソプロポキシドを含む0.5mlの前駆体溶液は、Ti付着層上のプラチナ電極及び熱酸化物を備えている4”(60mm)シリコンウェハ上にスピンコーティングされ(spun)ている。2500rpmの回転速度が使用される。このウェハは、ホットプレート上で150℃で加熱され、この後、溶鉱炉に移され、該溶鉱炉内で、該ウェハは100℃/sの加熱速度で550℃に加熱される。前記ウェハは4分間この温度に保持され、この結果、約50nmの厚さの合成物Pb1.1Zr0.65Ti0.35のペロブスカイトシード層が得られる。
【0029】
ランタン(lanthane)をドープされた鉛マグネシウムニオブ酸鉛チタン酸塩(PMN PT)のための前駆体溶液は、以下のようにして得られる。大環状化合物(この例においては、18‐crown‐6及び鉛アセテート)は、弱火の下で、等モル濃度量の1‐メトキシ‐2‐プロパノールに溶解される。ニオブエチラートは、1‐メトキシ‐2‐プロパノールの第2組(second batch)に溶解され、これによって第2溶液を作る。マグネシウムエチラート及びチタニウムイソプロピレートは、後続して、上昇された温度においてこの第2溶液に溶解される。この後、両方の溶液は、室温まで冷却され、加えられる。次いで、ランタンアセチルアセトネートが、前記溶液に溶解される。これらのステップは、酸素及び湿度のない雰囲気内で行なわれる。
【0030】
得られる前駆体溶液の0.2mlが、前記ウェハ上のシード層上にスピンコーティングされる。2500rpmの回転速度が使用される。前記ウェハは、ホットプレート上で350℃で加熱され、この後、溶鉱炉に移され、該溶鉱炉内で、該ウェハは、100℃/sの加熱速度で700℃まで加熱される。前記ウェハは、4分間この温度に保持され、約70nmの厚さの複雑酸化層が得られる。
【0031】
所望の厚さが得られるまで、この処理を繰り返した後、前記得られる結晶層が準備できる。結晶構造はペロブスカイトであり、望まれていないパイロクロアの第2相は、非常に少量しか存在しない。このことは、図2から明らかである。前記得られる層は、1kHz及び100mVにおいて2−3%の誘電損失を伴う、約1800の相対誘電率を有する。
【0032】
図2は、この実施例によって得られた前記層のX線ディフラクトグラムを示している。ここで、強度(秒当たりカウント)は、(オングストローム)d−空間に対して並べられている。いくつかのピークが見られる。これらの全ては、ペロブスカイト鉛マグネシウムニオブ酸化物によるものであると分かっている。
【0033】
例1
a)0.36gのクラウンエーテル(メルク社によって供給されている18‐crown−6)は、2mLの1M2Pのに溶解される。この冷たい溶液に、0.44gのPb(OAc)が加えられ、この固体は、短期間の攪拌の後に溶解する。2日後、前記溶液はまだ透明である。
b)192μLのNb(OEt)が、2mLの1M2Pに溶解され、43mgのMg(OEt)が加えられる。この混合物は、前記固体がほとんど完全に溶解するまで、加熱される及び攪拌される。18μLのTi(OPr)が付加される。黄色の透明溶液が得られる。
c)溶液a)及びb)は室温で混合され、攪拌される。前記透明溶液に、少量のランタンアセチルアセテートが加えられる。透明溶液が得られ、該透明溶液は、数日間安定である。
【0034】
例2
3.58gの18‐crown‐6が、20mLの1M2P(a)に溶解され、1.82g(b)、1.74g(c)及び1.66g(d)の18‐crown‐6が10mLの1M2Pに溶解される。この冷たい溶液に、4.41g(a)、2.24g(b)、2.15g(c)及び2.05g(d)のPb(OAc)がそれぞれ加えられる。最初、この固体は溶解されるが、細かい白い沈殿物がゆっくりと生じる。500μLの脱塩水が、各懸濁液に加えられ、この結果、前記沈殿物が溶解する。更なる試験によって、1.1当量より少ないクラウンエーテルが使用される場合、付加的な水によって溶解を生じる。2.エタノール又はジエチレングリコールモノメチルエーテル(1mL)のいずれの付加によっても、前記沈殿物は溶解しないことが分かっている。
10mLの1M2Pにおいて、1.01mLのNb(OEt)、次いで加熱されて0.23gのMg(OEt)が溶解される。このような溶液が、前記溶液a−dのいずれかに加えられた場合、非常に速いゲル化が生じる。
【0035】
例3
a)3.58gの18−crown−6は、20mLの1M2Pに溶解され、この溶液に、4.41gのPb(OAc)が加えられる。この混合物は、透明溶液が得られるまで、攪拌及び加熱される。
b)20mLの1M2Pにおいて、1.92mLのNb(OEt)が溶解され、0.43gのMg(OEt)が付加される。この混合物は、Mg塩が溶解するまで、攪拌及び加熱される。この溶液に、0.81mLのTi(OPr)が加えられる。
I)a)が、熱い前記溶液b)に加えられると白色の油性の沈殿物が生じ、加熱によって更なる沈殿物が生じる。
II)a)及びb)が室温においてジョイント(joint)され、この結果、透明な溶液が得られ、該溶液内には、0.052gのランタンアセチルアセテートが溶解している。
【0036】
比較例1
a)5.14gのPb(OAc)*3HOの重量が計測されて入れられ(weighted)、10mLの1‐メトキシ‐2‐プロパノール(1M2P)が付加される。このスラリーは、加熱され(<100℃)攪拌される。後に、他の10mLの1M2Pが加えられるが、固体は溶解しない。この温かい混合物に、約1.8mLのトリエタノールアミンがピペットで入れられ(Pb:トリエタノールアミン〜1:1)、この結果、帯黄色の透明溶液が得られる。冷却すると細かい白色の沈殿物が生じ、該沈殿物は加熱すると再溶解する。冷たい懸濁液に、更なる10mLの1M2Pと、付加的に3mLのエタノールとが加えられる。溶解は、加熱の際に達成されているのみであって、該溶解は、トリエタノールアミンを20滴と、少量のPb(OAc)*3HOとの付加によっても変化しない。
b)0.43gのマグネシウムエトキシド(Mg(OEt))は10mLの1M2Pと共に攪拌され、この混合物は加熱され、更なる10mLの1M2Pが加えられる。この懸濁液に、約1.5mLのトリエタノールアミンがピペットで入れられ、この結果、細かい白色沈殿物が生じる。1.92mLのニオブエトキシド(Nb(OEt))の付加によって部分的な溶解を生じるので、3mLのエタノールが加えられる。更なる20滴のトリエタノールアミンが加えられ、この混濁溶液が加熱される。2時間後、透明溶液が得られ、該透明溶液に0.18mLのTi(OPr)が加えられる。得られる溶液は、黄色透明である。
温かい鉛含有溶液と、Nb/Mg/Tiの温かい溶液とがジョイントされ、加熱される。最初透明であるこの溶液は、2時間の加熱の後、混濁する。再度の加熱によって、大量の細かい白色沈殿が生じる。
【0037】
比較例2
4.41gの鉛アセテート(Pb(OAc))と、25mLのジ(エチレングリコール)メチルエーテルが加えられる。加熱及び攪拌によって、溶解は生じない。続いて、合計100滴のトリエタノールアミンと、付加的に少量のPb(OAc)とが加えられる。トリエタノールアミンの付加は、加熱の際に前記鉛合成物の溶解を生じ、冷却の際に細かい白色沈殿物を生じる。最初、この沈殿物は、加熱によって再溶解されることができるが、数サイクルの冷却及び加熱の後、溶解は不完全なものになる。
【0038】
比較例3
a)5.14gのPb(OAc)*3HOに、20mLのブトキシルエタノールが付加され、この混合物は、攪拌及び加熱(〜120℃)される。この温かい懸濁溶液に、50滴のトリエタノールアミンが加えられる。加熱の際、黄色透明溶液が生じる。
b)1.92mLのNb(OEt)は、20mLのブトキシルエタノールと共に攪拌され、0.43gのMg(OEt)が付加される。攪拌及び加熱によって、透明溶液が生じる。前記透明溶液に、0.18mLのTi(OPr)が付加され、この結果、黄色透明溶液が生じる。
c)これらの温かい溶液がジョイントされる。得られる混合物は、最初、透明であるが、短期間の後、細かい白色の沈殿物が生じ、該沈殿物は、50滴のトリエタノールアミンの付加及び加熱によっても再び溶解しない。
【0039】
比較例4
1.92mLのNb(OEt)に、30mLの1M2Pが付加される。0.43gのMg(OEt)が重量計測され、この混合物に付加される。懸濁溶液は、攪拌される及び2.5時間に渡り約120℃まで加熱され、この後、固体はほとんど完全に溶解している。0.18mLのTi(OPr)が、前記溶液にピペットで入れられる。この透明溶液に、5.14gのPb(OAc)*3HOが付加され、この懸濁液には、冷えているホットプレート上で攪拌される。この固体は溶解しないので、混合物は、再び加熱され、合計10mLのエタノールが付加される。溶解が生じないため、この混合物は、視覚的効果は生じなくなるまで(to no visual effect)Nの下で140−150℃で還流される。残留している固体は、非常に細かい粒子状である。変性エタノールの付加に際して、ゲル化は生じない。
【0040】
比較例5
2.69mLの15−crown−5が、20mLの1M2Pに溶解され、この溶液に4.41gのPb(OAc)が付加される。加熱(〜100℃)においてさえも、この鉛化合物は溶解しない。更なるクラウンエーテルが、合計で5mL(初期量を含む)まで、この溶液に付加される。得られる混合物内のクラウンエーテルとPb2+とのモル比は、約2:1である。加熱及び長期の(>1d)攪拌によっても、この鉛化合物は溶解しない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の方法によって製造されることができるデバイスの断面図を模式的に示している。
【図2】本発明の前駆体溶液によって得られることができる層のX線ディフラクトグラムを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛、ニオブ及び第三金属の酸化物を有する結晶層のための前駆体溶液を準備する方法であって、
− アルコキシアルコールのグループから選択された溶媒における、鉛イオンの大きさに対応するキャビティを有する大環状化合物によってキレートされた鉛塩の第1溶液を用意するステップと、
− アルコラートの形態でニオブを有する第2溶液を用意するステップと、
− 前記第1溶液と前記第2溶液とを混合するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記鉛塩が、前記第1及び第2溶液を混合する際に少なくとも1つのエステルが生じるように、選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2溶液内に存在する前記第三金属が、マグネシウムであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記鉛塩が、カルボキシレート及び硝酸塩のグループから選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記大環状化合物が、18‐crown‐6エーテルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の方法によって得られる鉛、ニオブ及び第三金属の酸化物を有する結晶層のための前駆体溶液。
【請求項7】
電子デバイスを製造する方法であって、鉛、ニオブ及び第三金属の酸化物を有する結晶層のための前駆体溶液を基板上に塗布するステップと、前記前駆体を前記結晶層に結晶化させるステップとを有する方法において、請求項6に記載の前記前駆体溶液が使用されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
− 前記前駆体溶液が塗布される前記基板の表面に、第1電極が設けられ、
− 前記結晶層は、所望のパターンに従って構成され、
− 前記結晶層の上部に第2電極が設けられる、
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記基板は、該基板内に第1の能動部品が規定されている半導体基板である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記能動部品、コンデンサ及び少なくとも1つの抵抗器が、組み合わされたESD保護及びデカップリング作用を提供するように相互に接続されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか一項に記載の方法によって得られる、基板上の鉛、二オブ及び第三金属の酸化物の結晶層を有する電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−527836(P2007−527836A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516787(P2006−516787)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/IB2004/051085
【国際公開番号】WO2005/004222
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】