説明

加熱調理装置および加熱調理方法

【課題】 微生物学的な安全を確保するという所期の目的を達成しながら、調理時間の短縮と、不必要な加熱によるオーバークッキングを防止する加熱調理装置の提供。
【解決手段】 被調理物7が収容される処理槽1、処理槽1内へ蒸気供給する給蒸手段2、処理槽1内を減圧する減圧手段3、減圧された処理槽1内を復圧する復圧手段4、処理槽1内の蒸気や凝縮水を外部へ排出する排出手段5、処理槽1内の圧力を検出する圧力センサ6、被調理物7の温度を検出する温度センサ8、各センサ6,8の検出信号に基づき前記各手段2,3,4,5を制御する制御手段9とを備える。制御手段9は、温度センサ8による検出温度と経過時間とに基づき算出するF値を積算し、この積算F値が予め設定された目標F値以上となることを、加熱調理の終了条件またはその一つとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被調理物(食材または食品)を加熱調理するための加熱調理装置と加熱調理方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
加熱調理の際、所望の衛生条件を満たしたい場合がある。たとえば、厚生労働省による大量調理施設衛生管理マニュアルによれば、所定の調理施設では、加熱調理食品は、「中心部が75℃で1分間以上又はこれと同等以上まで加熱されていることを確認する」必要がある。このような場合に対応するために、下記特許文献1に開示される発明が提案されている。
【0003】
この特許文献1に記載の発明は、加熱調理中、被調理物の温度が設定温度以上を設定時間継続したか否かを判定し、この条件が満たされない場合には加熱時間を延長するものである。具体的には、たとえば前記大量調理施設衛生管理マニュアルの要件を満足しようとすれば、被調理物が75℃以上となった状態を1分以上継続したかを確認するものであった。
【特許文献1】特開2005−180858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載の発明のように、被調理物の温度が設定温度を設定時間経過することを判定条件とするのでは、微生物学的に安全な条件を満足させるという観点からすれば、安全側に過ぎる過剰な判定条件となっていた。このため、不要な運転が行われたり、それに伴い調理時間が長くなったり、煮崩れなどの調理のし過ぎ(オーバークッキング)を生じたりするおそれがあった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、微生物学的な安全を確保するという所期の目的を達成しながら、調理時間の短縮と、不必要な加熱によるオーバークッキングを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、被調理物を加熱する加熱手段と、前記被調理物の温度を検出する温度センサと、この温度センサによる検出温度と経過時間とに基づき算出するF値を積算し、この積算F値が予め設定された目標F値以上の場合には、前記加熱手段による前記被調理物の加熱調理を終了可能とする一方、前記積算F値が前記目標F値未満の場合には、前記加熱手段による前記被調理物の加熱調理を継続または延長する制御手段とを備えることを特徴とする加熱調理装置である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、滅菌分野で使用されるF値の概念を加熱調理に適用することで、所望の衛生条件を確実に満足することができる。しかも、目標F値に達するだけ加熱調理することで、不必要な加熱を行うことがない。従って、調理時間が延びることがなく、オーバークッキングも防止できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、被調理物が収容される処理槽と、この処理槽内へ蒸気供給する給蒸手段と、前記処理槽内を減圧する減圧手段と、減圧された前記処理槽内を復圧する復圧手段と、前記処理槽内の蒸気および/または凝縮水を外部へ排出する排出手段と、前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、前記被調理物の温度を検出する温度センサと、前記各センサの検出信号に基づき前記各手段を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、前記温度センサによる検出温度と経過時間とに基づき算出するF値を積算し、この積算F値が予め設定された目標F値以上となるまで、前記給蒸手段による前記被調理物の加熱調理を終了しないことを特徴とする加熱調理装置である。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、処理槽内へ蒸気を供給して、被調理物を加熱調理する際、滅菌分野で使用されるF値の概念を適用することで、所望の衛生条件を確実に満足することができる。しかも、目標F値に達するだけ加熱調理することで、不必要な加熱を行うことがない。従って、調理時間が延びることがなく、オーバークッキングも防止できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記目標F値、またはこの目標F値を算出する基礎とする温度と時間とを変更可能に設定する設定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加熱調理装置である。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、目標F値を変更可能であるから、所望の衛生条件にて容易に加熱調理を行うことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、所定または不定の経過時間ごとに、被調理物の温度と前記経過時間とに基づきF値を算出すると共にこの算出されたF値を積算し、この積算F値が予め設定された目標F値以上の場合には加熱調理を終了可能とする一方、前記積算F値が前記目標F値未満の場合には加熱調理を継続または延長することを特徴とする加熱調理方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、滅菌分野で使用されるF値の概念を加熱調理に適用することで、所望の衛生条件を確実に満足することができる。しかも、目標F値に達するだけ加熱調理することで、不必要な加熱を行うことがない。従って、調理時間が延びることがなく、オーバークッキングも防止できる。
【0014】
さらに、請求項5に記載の発明は、被調理物が収容された処理槽内へ蒸気供給して、前記被調理物を加熱調理する方法であって、前記加熱調理に伴いF値を積算していくと共に、その積算F値が予め設定された目標F値以上となることを、前記加熱調理の終了条件またはその一つとしたことを特徴とする加熱調理方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、処理槽内へ蒸気を供給して、被調理物を加熱調理する際、滅菌分野で使用されるF値の概念を適用することで、所望の衛生条件を確実に満足することができる。しかも、目標F値に達するだけ加熱調理することで、不必要な加熱を行うことがない。従って、調理時間が延びることがなく、オーバークッキングも防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の加熱調理装置および加熱調理方法によれば、微生物学的な安全を確保するという所期の目的を達成しながら、調理時間の短縮と、不必要な加熱によるオーバークッキングを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、処理槽内に収容された被調理物(食材または食品)を、蒸気または熱風などにより加熱調理する加熱調理装置および加熱調理方法である。本実施形態の加熱調理装置は、被調理物が収容される処理槽と、この処理槽内の被調理物を加熱する加熱手段と、前記処理槽内の被調理物の温度を検出する温度センサと、この温度センサの検出温度などに基づき前記加熱手段を制御する制御手段とを備える。
【0018】
ここで、処理槽は、被調理物を収容可能に、中空構造に形成される。また、加熱手段は、処理槽内に収容された被調理物を加熱する手段であり、本実施形態では、処理槽内へ蒸気を供給する給蒸手段から構成される。但し、加熱手段は、これに限定されるものではなく、処理槽内へ熱風を供給する熱風供給手段など、処理槽内の被調理物を加熱できる手段であればよい。
【0019】
加熱手段として給蒸手段を用いる場合、加熱調理装置の具体的構成は、次のとおりとするのが好適である。すなわち、被調理物が収容される処理槽と、この処理槽内へ蒸気供給する給蒸手段と、前記処理槽内を減圧する減圧手段と、減圧された前記処理槽内を復圧する復圧手段と、前記処理槽内の蒸気やその凝縮水を外部へ排出する排出手段と、前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、前記被調理物の温度を検出する温度センサと、前記各センサの検出信号などに基づき前記各手段を制御する制御手段とを備える加熱調理装置とする。
【0020】
処理槽は、典型的には略矩形のボックス状に形成された金属製の缶体である。この処理槽は、一側面へ開口して中空部を有し、その開口部は扉により開閉可能とされる。この扉が閉められた状態では、前記中空部は密閉される。但し、処理槽の構成はこれに限らず、上方へのみ開口する鍋状容器が、その上部開口部を蓋体にて開閉可能に閉じられる構成でもよい。
【0021】
給蒸手段は、処理槽内へボイラからの蒸気を供給する手段である。この蒸気は、一次ボイラからの蒸気を熱源とする二次ボイラ(リボイラ)にて純水または軟水を加熱して得られる清浄蒸気とするのがよい。これにより、配管内の錆や、防錆剤などのボイラ水処理薬品が、処理槽への蒸気に混入されるおそれがなく衛生的である。給蒸手段からの蒸気は、蒸気導入管路としての給蒸ラインを介して、処理槽内へ供給される。給蒸ラインの中途に設けた給蒸操作弁を開閉することで、処理槽内への蒸気供給の有無が切り替えられる。
【0022】
減圧手段は、処理槽内の空気や蒸気を真空引きすることで、処理槽内を減圧する手段である。減圧手段は、真空ポンプ、またはそれに代えてもしくはそれに加えて、蒸気エゼクタまたは水エゼクタなどを備える。減圧手段は、空気導出管路としての減圧ラインを介して、処理槽に接続される。減圧ラインの中途に設けた減圧操作弁を開閉することで、処理槽内からの真空引きの可否が切り替えられる。あるいは、真空ポンプなどの作動の有無を制御することで、処理槽内からの真空引きの可否が切り替えられる。
【0023】
減圧手段は、さらに熱交換器を備えるのが望ましい。この熱交換器は、処理槽内から吸引した空気中の蒸気を、冷却し凝縮させるものである。この冷却および凝縮作用をなすために、熱交換器には水が供給され、減圧ラインの冷却が図られる。減圧ライン中の蒸気を予め熱交換器で凝縮させておくことで、その後の真空ポンプの負荷を軽減して、減圧能力を高めることができる。
【0024】
復圧手段は、減圧手段により減圧された処理槽内を復圧する手段である。具体的には、減圧された処理槽内へ外気を導入して、処理槽内を大気圧まで復圧することができる。処理槽内への外気の導入は、衛生面を考慮して、フィルターを介して行うのが望ましい。フィルターを介した清浄空気は、空気導入管路としての復圧ラインを介して、処理槽内へ供給される。復圧ラインの中途に設けた復圧操作弁を開閉することで、処理槽内への外気導入の有無が切り替えられる。
【0025】
排出手段は、処理槽内の蒸気やその凝縮水を外部へ排出する手段である。この排出手段は、処理槽内から蒸気を排出する蒸気導出管路としての排蒸ラインと、スチームトラップを介して処理槽内の底部から凝縮水を排出する排水管路としての排水ラインとから構成される。ここで、前記排蒸ラインは、処理槽の底部に接続することで、蒸気に加えてその凝縮水も排出可能となる。
【0026】
処理槽からの排蒸ラインの中途には、排蒸操作弁が設けられる。また、処理槽からの排水ラインの中途には、排水操作弁が設けられる。この排蒸操作弁および/または排水操作弁を開閉することで、処理槽内からの蒸気および/または凝縮水の排出の有無が切り替えられる。
【0027】
ところで、前記給蒸操作弁、前記減圧操作弁、前記復圧操作弁、前記排蒸操作弁などは、開度調整可能に構成するのが好ましい。この場合、前記給蒸手段による処理槽内への給蒸、前記減圧手段による処理槽内の減圧、前記復圧手段による処理槽内の復圧、前記排出手段による処理槽外への排蒸などについて、その各能力が調整可能となる。また、エゼクタなどの減圧手段自体の減圧能力を調整してもよい。
【0028】
制御手段は、給蒸手段、減圧手段、復圧手段、および排出手段などを制御する手段である。逆にいうと、これら各手段は、制御手段により制御され、予め設定されたプログラムに従い、所定の運転工程が順次に実行される。その際、処理槽内の圧力を検出する圧力センサからの検出圧力や、処理槽内の被調理物の温度を検出する温度センサからの検出温度や、経過時間を利用して制御される。ところで、温度センサは、大量調理施設衛生管理マニュアルに従い、通常は被調理物の中心部の温度を計測する。
【0029】
上記構成の加熱調理装置の運転方法は、特に限定されるものではないが、典型的には空気排除工程の後、加熱工程がなされる。ここで、空気排除工程は、処理槽内に被調理物を収容した状態で、処理槽内の空気を排出する工程である。また、加熱工程は、給蒸手段により処理槽内へ蒸気供給して、被調理物を加熱する工程である。この際、処理槽内へ供給する蒸気により、処理槽内を大気圧より高圧としつつ被調理物を加熱してもよいし、逆に、所望時に減圧手段を作動させることで大気圧より低圧としつつ被調理物を加熱してもよい。
【0030】
この加熱工程において、制御手段は、所定または不定の経過時間ごとに連続的に、その経過時間と前記温度センサによる検出温度とに基づき、その経過時間内のF値を算出し、そのF値を積算していく。そして、このようにして求めた積算F値が予め設定された目標F値以上となった場合には、被調理物の加熱調理を終了可能とする一方、積算F値が目標F値未満の場合には、被調理物の加熱調理を継続または延長する。
【0031】
ここで、F値とは、滅菌分野で用いられる公知の指標である。具体的には、滅菌工程全体の滅菌効率を基準温度の121℃での加熱時間に換算して表したもので、致死率Lの積分値としてF=∫Ldtで示される。ここで、温度Tにおける致死率Lは、121℃での加熱による致死率を1とした場合の相対値として、L=10(T−121)/Zで示される。この式中、Z値は、D値が90%低下するのに相当する加熱温度の変化を示し、微生物の死滅の速さが加熱温度の変化に伴ってどれくらい変化するかを表す指標である。そして、D値とは、ある一定条件で生菌数を90%死滅させるのに要する時間をいう。
【0032】
実際のF値の算出にあたっては、次のような処理を行えばよい。まず、加熱調理時に処理槽内で特定菌を滅菌する必要があるとして、そのために従前のように、被調理物の温度が確認温度を確認時間だけ継続するよう制御すると想定する。そして、その想定した確認温度と確認時間とに基づきF値(目標F値という)を予め算出し取得する。一方、加熱調理中には、所定の経過時間ごとに、被調理物の温度(芯温)とその経過時間とに基づき、その間におけるF値(直近F値という)を算出し、この直近F値を積算していくことで積算F値を求める。
【0033】
つまり、加熱調理装置は、基本的には予め定められたとおりに、処理槽内の圧力を維持または変化させて、被調理物の加熱調理を図るが、その際、一定または不定の経過時間ごとにF値を算出して順次に積算していき、その積算F値と前記目標F値との比較結果を、加熱工程の終了条件またはその一つとする。具体的には、積算F値が目標F値以上となれば、加熱調理を直ちに終了するか、あるいは予め設定された加熱工程が済み次第終了する。一方、積算F値が目標F値未満の場合には、加熱工程を継続または延長する。たとえば、予め定められた加熱工程の終了時点でもまだ目標F値に達していなければ、目標F値に達するまで運転を延長し、目標F値以上となった時点で終了する。
【0034】
ところで、前述したように、目標F値は適宜に設定される。その際、制御手段には、目標F値自体を設定するようにしてもよいが、前記確認温度と前記確認時間との設定により、それを受けた制御手段にて目標F値を算出するようにしてもよい。そのために、加熱調理装置には、目標F値、またはこの目標F値を算出する基礎とする温度と時間などを変更可能に設定する設定手段をさらに設けるのがよい。この設定手段にて、Z値なども変更可能としてもよい。また、積算F値は目標Fともに各調理毎に記憶しておき、必要に応じて表示器に表示したり、印刷(プリントアウト)するように構成することができる。その場合、積算F値をグラフ化して表示または印刷するように構成することが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の加熱調理装置の一実施例を示す概略構成図である。この図に示すように、本実施例の加熱調理装置は、中空構造で開閉可能な処理槽1と、この処理槽1内へ蒸気を供給する給蒸手段2と、処理槽1内の空気や蒸気を外部へ吸引排出して処理槽1内を減圧する減圧手段3と、減圧下の処理槽1内へ外気を導入して復圧する復圧手段4と、処理槽1内の蒸気やその凝縮水を外部へ排出する排出手段5と、処理槽1内の圧力を計測する圧力センサ6と、処理槽1内の被調理物7の温度を計測する温度センサ8と、これら各センサ6,8の出力などに基づき前記各手段2,3,4,5を制御する制御手段9とを備える。
【0036】
本実施例の処理槽1は、一側面へ開口して中空部を有する処理槽本体10と、この処理槽本体10の開口部を開閉する扉11とを備えた金属製の缶体である。このような構成であるから、扉11を閉じることで、処理槽本体10の中空部は密閉される。処理槽1内への被調理物7の収容は、処理槽1に出し入れされるワゴン(不図示)を介して行ってもよいし、図示例のように処理槽1内に棚板12を設けることで対応してもよい。また、被調理物7は、適宜の容器13に入れて、処理槽1内へ収容してもよい。このようにして処理槽1内に収容される被調理物7は、その温度を温度センサ8により計測される。本実施例では、温度センサ8は、被調理物7に差し込まれて、被調理物7の中心温度を検出する。
【0037】
処理槽1には、処理槽1内へ蒸気を供給可能に、給蒸手段2が接続される。本実施例の給蒸手段2は、不図示の一次ボイラと二次ボイラ(リボイラ)とを備え、一次ボイラからの蒸気を熱源として、二次ボイラにて軟水を蒸気に変え、そのようにして生成された清浄蒸気を処理槽1内へ供給する。一次ボイラは、通常の一般的なボイラから構成されるが、そのような一次ボイラによる蒸気には、配管内の錆や、防錆剤などのボイラ水処理薬品が混入するおそれが残る。ところが、処理槽1内へ供給される蒸気は、直接に被調理物7に接触し得るものである。そこで、二次ボイラにて軟水を蒸気に変えて清浄蒸気を生成し、この清浄蒸気を処理槽1内へ供給する。
【0038】
二次ボイラからの清浄蒸気は、給蒸ライン14を介して処理槽1内へ供給される。給蒸ライン14の中途には、給蒸操作弁15が設けられている。この給蒸操作弁15は、処理槽1内への給蒸の有無を切り替え可能な構成であれば足りるが、より好ましくは給蒸する場合の蒸気量を調整可能に、開度調整可能に構成される。いずれにしても、給蒸操作弁15を開閉操作することで、処理槽1内の圧力ひいては温度を調整することができる。但し、処理槽1内の圧力調整は、給蒸操作弁15だけでなく減圧手段3を制御することによっても行うことができる。
【0039】
処理槽1には、処理槽1内の空気や蒸気を外部へ真空引きして、処理槽1内を減圧する減圧手段3が接続される。本実施例では、減圧ライン16を介して処理槽1には、減圧操作弁17、熱交換器18、逆止弁19、さらには水封式真空ポンプ20が順次に接続される。本実施例の減圧操作弁17は、比例制御弁またはモータバルブなどの開度調整可能な構成である。
【0040】
真空ポンプ20には、封水給水弁21を介して水が供給され、真空ポンプ20からの排水は、排水口(不図示)へ排出される。この封水給水弁21は、真空ポンプ20に連動して開かれる。また、熱交換器18にも、熱交給水弁22を介して冷却用の水が供給され、排水口へ排水される。熱交換器18に冷却水が供給されることで、減圧ライン16中の蒸気を冷却し凝縮させることができる。
【0041】
処理槽1には、減圧手段3にて減圧された後、復圧するための復圧手段4が接続されている。本実施例の復圧手段4は、処理槽1に接続された復圧ライン23が、除菌フィルター24を介して外気と連通可能に設けられている。この復圧ライン23の中途には、復圧操作弁25が開閉可能に設けられており、この復圧操作弁25の開放により、処理槽1内は大気圧に開放可能とされる。
【0042】
処理槽1には、処理槽1内の蒸気やその凝縮水を外部へ排出するための排出手段5が接続されている。この排出手段5は、処理槽1内の蒸気や空気を外部へ排出するための排蒸手段26と、処理槽1内に生じた凝縮水を外部へ排出するための排水手段27とに分けられる。
【0043】
排蒸手段26は、排蒸ライン28を介して処理槽1内の空気や蒸気を処理槽1外へ導出する手段である。排蒸ライン28の中途には、比例制御弁またはモータバルブなどの開度調整可能な排蒸操作弁29が設けられる。図示例では、処理槽1の下部に排蒸ライン28を接続しているが、これに代えてまたはこれに加えて、処理槽1の上部にも同様の排蒸ライン(不図示)を設けることができる。処理槽1の下部からの排蒸ライン28は、処理槽1内の下部に溜まる凝縮水を外部へ排出するためにも利用できる。
【0044】
一方、排水手段27は、スチームトラップ30を有する排水ライン31からなり、この排水ライン31を介して処理槽1内の底部に溜まる凝縮水は、処理槽1外へ排水可能とされる。そして、この排水ライン31の中途には、電磁弁から構成される排水操作弁32が設けられる。
【0045】
さらに、処理槽1には、圧力センサ6が設けられる。この圧力センサ6により、処理槽1内の圧力が検出される。但し、圧力センサ6に代えて、温度センサ(不図示)を利用することも可能である。圧力と温度とを換算することで、いずれのセンサでも利用できる。
【0046】
前記給蒸手段2、前記減圧手段3、前記復圧手段4、前記排出手段5などは、制御手段9により制御される。この制御手段9は、それが把握する経過時間や前記圧力センサ6および前記温度センサ8からの検出信号などに基づいて、前記各手段2,3,4,5を制御する制御器33である。具体的には、給蒸操作弁15、減圧操作弁17、真空ポンプ20、封水給水弁21、熱交給水弁22、復圧操作弁25、排蒸操作弁29、排水操作弁32、圧力センサ6および温度センサ8などは、制御器33に接続される。そして、制御器33は、所定の手順(プログラム)に従い、処理槽1内の被調理物7の加熱調理を行う。
【0047】
加熱調理装置の使用に際しては、加熱調理しようとする被調理物7を処理槽1内に収容し、処理槽1の扉11を閉じる。この初期状態では、給蒸操作弁15、減圧操作弁17、封水給水弁21、熱交給水弁22は閉じられ、真空ポンプ20は作動を停止した状態で、復圧操作弁25と排蒸操作弁29および排水操作弁32は開かれる。そして、この状態から、典型的には、空気排除工程と加熱工程とが順次に行われる。
【0048】
空気排除工程では、給蒸操作弁15、復圧操作弁25、排蒸操作弁29および排水操作弁32を閉じた状態で、減圧手段3を作動させる。但し、ここでは熱交換器18は機能させずに、真空ポンプ20のみを作動させて処理槽1内を減圧する。すなわち、熱交給水弁22を閉じた状態で、減圧操作弁17および封水給水弁21を開いて真空ポンプ20を作動させる。このようにして、処理槽1内の空気を減圧手段3により外部へ真空引きして、処理槽1内の空気を排除することで、後の加熱工程における被調理物7の加熱調理を効果的に行うことができる。
【0049】
このような処理槽1内からの空気排除は、圧力センサ6を利用することで、設定圧力まで行ってもよいし、あるいは設定時間だけ行うようにしてもよい。さらに、この空気排除工程は、給蒸操作弁15を開いた状態で処理槽1内へ蒸気供給して行うこともできる。また、この空気排除工程は、必要により省略することもできる。
【0050】
加熱工程では、図2に示すように、各種パラメータ(後述する直近F値、積算F値、目標F値など)が初期化されると共に(ST1)、処理槽1内へ蒸気供給して、処理槽1内の被調理物7の加熱調理が開始される(ST2)。具体的には、減圧操作弁17、封水給水弁21、熱交給水弁22、復圧操作弁25、排蒸操作弁29を閉じると共に、真空ポンプ20の作動を停止した状態で、給蒸操作弁15を開いて処理槽1内へ蒸気供給する。この際、処理槽1内が大気圧を超える場合、排水操作弁32を開くことで、処理槽1内の底部から凝縮水を外部へ排出する。
【0051】
このようにして、処理槽1内が所望の設定圧力になるまで、給蒸手段2により処理槽1内へ蒸気供給される。そして、処理槽1内を設定圧力に保持するように、圧力センサ6の検出圧力に基づき給蒸手段2による処理槽1内への蒸気供給を調整して、処理槽1内の被調理物7の加熱調理が図られる。この加熱工程中、設定圧力を段階的に上下に変化させてもよい。
【0052】
ところで、処理槽1内へ蒸気供給して行う被調理物7の加熱調理は、大気圧下で行う無圧蒸煮と、大気圧を超える圧力で行う加圧蒸煮と、所望時に減圧手段3を作動させて大気圧未満の圧力で行う減圧蒸煮とがある。
【0053】
無圧蒸煮の場合、減圧操作弁17、封水給水弁21、熱交給水弁22、復圧操作弁25を閉じると共に、真空ポンプ20の作動を停止した状態で、給蒸操作弁15、排蒸操作弁29、排水操作弁32を開いて、処理槽1内へ蒸気を供給する。
【0054】
加圧蒸煮の場合、減圧操作弁17、封水給水弁21、熱交給水弁22、復圧操作弁25、排蒸操作弁29を閉じると共に、真空ポンプ20の作動を停止した状態で、給蒸操作弁15、排水操作弁32を開いて、処理槽1内へ蒸気を供給する。従って、加圧蒸煮の場合には、排水ライン31から自動的に凝縮水が外部へ排出される。
【0055】
減圧蒸煮の場合は、復圧操作弁25、排蒸操作弁29、排水操作弁32を閉じた状態で、給蒸操作弁15を開いて、処理槽1内へ蒸気を供給する。この際、処理槽1内が設定上限圧力を超えると、減圧手段3を作動させて、設定下限圧力まで処理槽1内を減圧する。すなわち、減圧操作弁17、封水給水弁21、熱交給水弁22を開いた状態で、真空ポンプ20を作動させて、設定下限圧力まで処理槽1内を減圧し、設定下限圧力になると、これら各弁17,21,22を閉じると共に真空ポンプ20の作動を停止する。
【0056】
いずれの場合も、基本的には、蒸気供給による処理槽1内の加圧要因と、供給された蒸気の凝縮による処理槽1内の減圧要因とがバランスを保つように、給蒸操作弁15を開閉制御して、処理槽1内の圧力を設定範囲に維持して加熱調理がなされる。但し、減圧蒸煮の場合には、設定上限圧力を超えると、上述のとおり減圧手段3を作動させる場合がある。
【0057】
そして、加熱工程の終了時には、給蒸操作弁15が閉じられる。その際、処理槽1内が大気圧を超える圧力であれば、排蒸操作弁29を開いて、処理槽1内が大気圧になるまで、排水および排蒸がなされる。一方、処理槽1内が大気圧未満であれば、減圧手段3および排出手段5を作動させず、かつ、給蒸操作弁15を閉じると共に復圧操作弁25を開いて、処理槽1内を大気圧まで復圧する。
【0058】
このようにして、加熱工程では、処理槽1内へ蒸気が供給されることで、処理槽1内に収容された被調理物7を加熱調理することができる。この際、上述したように、処理槽1内へ供給される蒸気は、二次ボイラにて軟水から生成された清浄蒸気である。従って、安全で安心の加熱調理を実現することができる。また、被調理物7の全周囲に清浄蒸気を行き渡らせることで、短時間で均一の加熱料理がなされる。
【0059】
加熱工程では、処理槽1内への蒸気供給により処理槽1内の圧力を調整することで、処理槽1内の温度を調整することができる。本実施例では、60℃から130℃の範囲にて、自由な温度に設定して加熱調理を可能としている。このようにして処理槽1の圧力を調整することで、飽和蒸気温度が調整される。
【0060】
加熱工程中、制御器33は、所定の経過時間ごとに、その経過時間と前記温度センサ8による検出温度とに基づき、その経過時間内のF値(直近F値という)を算出する(ST3)。そして、この直近F値を積算F値として積算していき(ST4)、その積算F値が予め設定された目標F値以上か否か比較する(ST5)。その結果、現在の積算F値が目標F値未満の場合には、ステップST3へ戻って被調理物7の加熱調理を継続すると共に、F値の積算を繰り返す(ST3〜ST4)が、積算F値が目標F値以上となった場合には、被調理物7の加熱調理を終了する(ST6)。
【0061】
このようにして、積算F値が目標F値以上となれば、加熱調理を直ちに終了させるが、場合により、予め設定された運転内容は、仮にその途中で積算F値が目標F値以上となっても継続させてもよい。一方、積算F値が目標F値未満の場合には、その条件にある限り、加熱工程を継続または延長するよう制御する。
【0062】
ところで、目標F値は、次のようにして算出される。それには、加熱調理時に処理槽1内で特定菌を滅菌する必要があるとして、そのために従前のように、被調理物7の温度が確認温度を確認時間だけ継続するよう制御すると想定する。そして、その想定した確認温度と確認時間とに基づき目標F値を算出すればよい。この目標F値は、加熱調理装置に固定的に設定されていてもよいが、変更可能に構成するのが好ましい。そのためには、目標F値自体、またはその算出のための前記確認温度や確認時間を含む情報を入力または選択する設定手段34を設ければよい。この設定手段34は、制御手段9と接続される。一方、直近F値の算出とその積算は、通常は一定の微小時間ごとに行われるが、制御器33がステップST3からST5までを実行する際の経過時間としてもよい。
【0063】
以上説明したように、本実施例の加熱調理装置および加熱調理方法によれば、加熱開始時からの品温と経過時間とに基づくF値を計算して積算してゆき、その積算F値がユーザが設定した確認温度と確認時間とによる目標F値以上となったか否かを、加熱調理の終了件とする。これにより、微生物学的な安全を確保するという所期の目的を達成しながら、調理時間を短縮し、不必要な加熱によるオーバークッキングを防止することができる。
【0064】
本発明の加熱調理装置および加熱調理方法は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能である。たとえば、前記実施例では、減圧手段3として、熱交換器18と真空ポンプ20との組合せを用いたが、蒸気エゼクタ、水エゼクタ、缶体冷却(冷却水による処理槽壁の冷却)、または凝縮熱交換器などを、単独または組み合わせて利用してもよい。また、前記加熱工程後には、所望により、含浸工程または真空冷却工程を行ってもよい。さらに、前記設定手段による設定内容に応じて、加熱工程における処理槽内の圧力レベルやその変化パターンを変更するよう制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の加熱調理装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の加熱調理方法の一実施例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 処理槽
2 給蒸手段(加熱手段)
3 減圧手段
4 復圧手段
5 排出手段
6 圧力センサ
7 被調理物
8 温度センサ
9 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被調理物を加熱する加熱手段と、
前記被調理物の温度を検出する温度センサと、
この温度センサによる検出温度と経過時間とに基づき算出するF値を積算し、この積算F値が予め設定された目標F値以上の場合には、前記加熱手段による前記被調理物の加熱調理を終了可能とする一方、前記積算F値が前記目標F値未満の場合には、前記加熱手段による前記被調理物の加熱調理を継続または延長する制御手段と
を備えることを特徴とする加熱調理装置。
【請求項2】
被調理物が収容される処理槽と、
この処理槽内へ蒸気供給する給蒸手段と、
前記処理槽内を減圧する減圧手段と、
減圧された前記処理槽内を復圧する復圧手段と、
前記処理槽内の蒸気および/または凝縮水を外部へ排出する排出手段と、
前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、
前記被調理物の温度を検出する温度センサと、
前記各センサの検出信号に基づき前記各手段を制御する制御手段とを備え、
この制御手段は、前記温度センサによる検出温度と経過時間とに基づき算出するF値を積算し、この積算F値が予め設定された目標F値以上となるまで、前記給蒸手段による前記被調理物の加熱調理を終了しない
ことを特徴とする加熱調理装置。
【請求項3】
前記目標F値、またはこの目標F値を算出する基礎とする温度と時間とを変更可能に設定する設定手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加熱調理装置。
【請求項4】
所定または不定の経過時間ごとに、被調理物の温度と前記経過時間とに基づきF値を算出すると共にこの算出されたF値を積算し、
この積算F値が予め設定された目標F値以上の場合には加熱調理を終了可能とする一方、前記積算F値が前記目標F値未満の場合には加熱調理を継続または延長する
ことを特徴とする加熱調理方法。
【請求項5】
被調理物が収容された処理槽内へ蒸気供給して、前記被調理物を加熱調理する方法であって、
前記加熱調理に伴いF値を積算していくと共に、その積算F値が予め設定された目標F値以上となることを、前記加熱調理の終了条件またはその一つとした
ことを特徴とする加熱調理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−222314(P2007−222314A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45695(P2006−45695)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】