説明

化学蒸着処理の原料ガス供給用ノズルと被膜形成方法および方向性電磁鋼板

【課題】化学蒸着法における原料ガスの供給に用いるノズルに、原料ガスの吹き付けが金属ストリップの幅方向に均等となる構造を与える。
【解決手段】化学蒸着を行う処理炉内に導入された金属ストリップに向けて、原料ガスを吹き付けるノズルにおける、該原料ガスの供給側から原料ガスの吐出側へ延びる配管は、供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を少なくとも2段で繰り返し、最終段分枝の経路末端に吐出口を設け、各段の分枝後の経路におけるコンダクタンスを2経路相互で等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ストリップに気相蒸着を施す化学蒸着処理、特に金属ストリップにTiN、TiCおよびSiNなどのセラミック被膜を気相蒸着する化学蒸着処理において、処理炉内の金属ストリップに、被膜の原料となるガスを吹き付ける際に用いるノズルに関するものである。また、本発明は、このノズルを用いて方向性電磁鋼板の表面に被膜、特に強い張力を鋼板に付与できるセラミック被膜を形成する方法および当該被膜を形成して鉄損を大幅にかつ均一に低減した方向性電磁鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工具等の表面へTiN、TiCおよびSiN等のセラミック物質をコーティングすることにより、その耐磨耗性を高めることは一般的に行われており、その手段として化学蒸着(CVD)成膜法が広く利用されている。しかしながら、化学蒸着成膜法は、工具や刃物のような、小型の物品を成膜炉に多数装入し、陶器用窯のごとく長時間を費やして、これら物品にセラミックスを蒸着する、産業分野で利用されているのが一般的であり、金属ストリップのように連続した長さを有する長尺物の表面へのセラミックコーティングに、工業的に利用されている例は少ない。
【0003】
特に、電磁鋼板として使用される珪素鋼板に対して化学蒸着成膜を行うことによって損失を低減し、非常に高効率なトランス材料を得るための製造技術が提案されていることから、かような鋼板にセラミックコーティングを工業的に適用することの技術的な意義は極めて大きい。
【0004】
さて、電磁鋼板は無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板とに分類され、無方向性電磁鋼板は主として回転機等の鉄心材料に、方向性電磁鋼板は主として変圧器その他の電気機器の鉄心材料として使用される。いずれもエネルギー損失を低減するため、低鉄損であることが求められている。また、電磁鋼板は積層して使用される場合がほとんどであるため、層間の絶縁を確保するために絶縁コーティングが施されるのが一般的である。
【0005】
方向性電磁鋼板は、鉄の他に合金成分として珪素を含有するため、方向性珪素鋼板とも呼ばれる。方向性電磁鋼板の鉄損を低減するには、板厚を低減する、Si含有量を増加する、そして結晶方位の配向性を高める等の方法があり、さらには、鋼板に張力を付与することが有効である。
【0006】
鋼板への張力の付与方法としては、鋼板よりも熱膨張係数の小さい材質からなる被膜を鋼板表面に形成させる手法が用いられている。すなわち、最終的に結晶方位を揃える2次再結晶と鋼板の純化とを兼ねる仕上げ焼鈍工程にて、鋼板表面の酸化物と鋼板表面に塗布した焼鈍分離剤とが反応してフォルステライトを主成分とする被膜が形成されるが、この被膜は鋼板に与える張力が大きく、鉄損低減に効果がある。さらに、張力を増大させるために、このフォルステライト被膜の上に、低熱膨張係数を有する上塗りコーティングを施して製品とすることが一般的である。
【0007】
現状では、フォルステライト被膜を有する方向性珪素鋼板に適用される張力付与型の絶縁コーティングは、Alやアルカリ土類金属のりん酸塩とコロイダルシリカ、無水クロム酸またはクロム酸を主成分とした処理液を塗布し、焼付けることによって形成させるものが多い。張力付与型の絶縁コーティング技術は、鋼板より熱膨張係数の小さいコロイダルシリカに代表される無機質の被膜を高温で形成し、冷却過程における地鉄と絶縁コーティングとの熱膨張率の差を利用して、常温において鋼板に張力を発現させるものである。この方法で形成される絶縁被膜は、鋼板に強い張力を与えることが可能であり、鉄損の低減に有効である。例えば、特許文献1および2に、その形成方法が開示されている。
【0008】
また、近年、鋼板表面を平滑化して磁気特性を向上させる方法が開発されている。その一つの方法は、仕上げ焼鈍工程で意図的にフォルステライト被膜の形成を抑制する方法であり、他の方法は、形成されたフォルステライト被膜を除去した後に、その表面を平滑に仕上げる方法であるが、いずれの方法によっても著しい鉄損の減少が可能である。
【0009】
例えば、特許文献3には、仕上げ焼鈍後、酸洗により表面生成物を除去し、次いで化学研磨または電解研磨により鏡面状態に仕上げる方法が開示されている。また、特許文献4には、フォルステライト被膜を除去後、H雰囲気中1000〜1200℃の温度でサーマルエッチングする方法が開示されている。このような表面処理によって鉄損が減少するのは、磁化過程において磁壁移動の妨げとなる鋼板表面のピニングサイト数が減少するためである。
【0010】
さらに、特許文献5には、上記の平滑化した方向性珪素鋼板の表面に、CVD法や、イオンプレーティングおよびイオンインプランテーション等のPVD法にて、窒化物や炭化物のうちから選んだ1種または2種以上の張力被膜を被成することにより、極めて低い鉄損が得られることが開示されている。
この場合、特に、硬質で熱膨張係数の小さな窒化物や炭化物が熱残留応力を利用した張力付与に有効である。ところが、これらの窒化物や炭化物の多くは張力が高いため、膜厚が不均一であると、磁気特性、中でも低い磁束密度における磁化特性や鉄損も不均一になる上、鋼板の形状を歪ませるおそれがあった。
【0011】
ここで、上記電磁鋼板を典型例とする、金属ストリップに化学蒸着法を適用し連続的に窒化物や炭化物のセラミック被膜を均一に形成させるには、処理炉内の金属ストリップに対して、被膜の原料ガスを均等に吹き付けて、金属ストリップ表面近傍の原料ガス濃度を、特に金属ストリップの幅方向で均等にすることが重要である。この原料ガスは、処理炉内に導入する一方、ノズルを介して金属ストリップに向けて供給されるのが通例である。従って、このノズルからの原料ガスの吹き付けが金属ストリップの幅方向で均等に行われることが好ましい。
【0012】
化学蒸着法における原料ガスの供給に用いるノズルに関して、特許文献6には、ガスノズルの内部に多孔質体を投入して、圧力を一定にすることが記載されている。ここで、均質なセラミック被膜を形成するには、高速噴流を実現することが重要であるが、特許文献6のノズルでは、大きな多孔質体をノズル内部に挿入する必要が有り、高速噴流を実現するにはノズル全体を非常に大きくしなければならない不利がある。さらに大きな問題は、ノズルの製造コストが非常に高くなることである。これは工業化に当たり、大きな問題となる。
【0013】
また、特許文献7には、同心二重筒の外筒に吹出し孔を形成することが、開示されている。この構造では、内筒に原料ガスを通すことによって原料ガスを加熱することができ、化学蒸着処理を有利な条件で行うことに寄与するものである。しかしながら、吹出し孔から原料ガスの吹き付けを行うため、その吹き付けを均等にすることは難しいところに改善の余地があった。
【特許文献1】特公昭53‐28375号公報
【特許文献2】特公昭56‐52117号公報
【特許文献3】特公昭52−24499号公報
【特許文献4】特開平5−43943号公報
【特許文献5】特公昭63−54767号公報
【特許文献6】特開2001−54746号公報
【特許文献7】特開平7−278819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、化学蒸着法における原料ガスの供給に用いるノズルに、原料ガスの吹き付けが金属ストリップの幅方向に均等となる構造を与えようとするものである。
また、本発明は、鋼板に強い張力を与えるセラミック被膜を化学蒸着法にて均等に形成するための方途について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、複数の吐出口を有するノズルに関して、吐出口相互間での均等な噴流が得られる構造について鋭意究明したところ、原料ガスの供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を繰り返す配管構造において、2経路間でのコンダクタンスを等しく維持することが重要であることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0016】
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)化学蒸着を行う処理炉内に導入された金属ストリップに向けて、原料ガスを吹き付けるノズルであって、該原料ガスの供給側から原料ガスの吐出側へ延びる配管は、供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を少なくとも2段で繰り返し、最終段分枝の経路末端に吐出口を設けてなり、各段の分枝後の経路におけるコンダクタンスが2経路相互で等しいことを特徴とする化学蒸着処理の原料ガス供給用ノズル。
【0017】
(2)金属ストリップの表面に、原料ガスを吹付けて化学気相反応法により被膜を形成するに当り、該原料ガスの供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を少なくとも2段で繰り返し、最終段分枝の経路末端に吐出口を設けた、原料ガス供給用ノズルを介して、前記金属ストリップの表面に原料ガスを吹付けるに際し、前記各段の分枝後の経路におけるコンダクタンスを2経路相互で等しく調整することを特徴とする金属ストリップにおける被膜形成方法。
【0018】
(3)無機質被膜のない方向性電磁鋼板の表面に、原料ガスを吹付けて化学気相反応法により窒化物および/または炭化物の被膜を形成するに当り、該原料ガスの供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を少なくとも2段で繰り返し、最終段分枝の経路末端に吐出口を設けた、原料ガス供給用ノズルを介して、前記鋼板の表面に原料ガスを吹付けるに際し、前記各段の分枝後の経路におけるコンダクタンスを2経路相互で等しく調整することを特徴とする方向性電磁鋼板における被膜形成方法。
【0019】
(4)上記(3)に記載の方法によって形成された、窒化物および/または炭化物の被膜を有する方向性電磁鋼板。
【0020】
ここで、上記コンダクタンスとは、管中の流体の流れ易さを表す係数であり、具体的には、管の上流側の圧力をPおよびPとし、質量流量Qが圧力差ΔP=P−Pに比例すると仮定したときの、比例定数をコンダクタンスという。このコンダクタンスをCで表すと、次式の関係になる。
Q=C・ΔP
【発明の効果】
【0021】
本発明のノズルは、原料ガスを均一且つ効率良く噴出することが可能であるため、とりわけ均質な被膜を化学蒸着処理にて形成したい場合に極めて有効である。
【0022】
また、本発明の被膜形成方法によれば、鋼板に強い張力を与えるセラミック被膜を化学蒸着法にて均等に形成することができるため、磁気特性の均一な方向性電磁鋼板の提供に大きく寄与するものである。さらに、張力付与効果の大きなセラミック被膜を、電磁鋼板の使用周波数に応じた厚みに適正に制御することが可能であるから、良好な被膜密着性と極めて低い高周波鉄損値が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、図1に、本発明のノズルを適用する化学蒸着(以下、CVDと示す)装置の縦型処理炉内を模式で示す。図1に示すように、縦型の処理炉内では、金属ストリップである鋼帯1が鉛直方向に通され、この鋼帯1を挟んで対向する位置にそれぞれ配したノズル2と鋼帯1とは、多数本の加熱ヒーター3で囲まれている。なお、ノズル2の吐出口2aは、鋼帯1の幅方向、図では紙面の表裏方向に複数が並ぶ構成であり、詳しくは後述する。そして、加熱ヒーター3にて鋼帯1およびノズル2を加熱しつつ、ノズル2の吐出口2aより原料ガス4を鋼帯1に吹き付け、この原料ガス4と炉内に供給したガス5との間で化学反応を生じさせて、鋼帯1の表面に被膜6を形成する。
【0024】
かようなCVD装置で用いるノズル2において、そこから供給される原料ガス4は鋼帯1の幅方向で均一となる噴流とする必要がある。例えば、TiNの被膜を蒸着反応により形成する場合には、ノズル2からの原料ガス4の噴流速度は、例えば0.5m/s以上である必要があり、1.5m/s以上が望ましい。また、その際に炉内温度、鋼板1、ノズルガス5および炉内ガス6の温度は、600℃以上、望ましくは1000℃以上である必要がある。これらの条件により、被膜6が化学反応により鋼帯表面にのみ形成される。
【0025】
ここで重要なのは、ノズル2から原料ガス4を例えば鋼帯1の幅方向に均一に噴射することにあり、そのためにはノズル2の構造が重要である。そこで、原料ガスの供給側から吐出側へ向かって分枝を繰り返し、その末端に複数の吐出口を設けてなる、ノズルについて検討を行った。
【0026】
このノズル構造を検討するに当って、まず、方向性電磁鋼板に対する被膜形成における膜厚分布で機能評価を行った。その実験結果を、以下に詳述する。
Si:3mass%を含有する鋼からなる鋼塊をスラブとした後、所定の板厚に熱間圧延し、最終板厚0.23mmまで冷間圧延した。この冷延板を150mm幅に剪断後、脱炭および一次再結晶焼鈍を施し、MgOを主体として塩化アンチモンを添加した焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶の過程と純化の過程を含む最終焼鈍を施し、フォルステライト膜のない鏡面状の平滑表面に調整した方向性珪素鋼板を得た。
【0027】
その後、1100℃の温度にて、TiClガス、Hガス、Nガスを主体とする雰囲気中で、一般的なスリットノズルを用いて化学気相蒸着を行い、上記方向性珪素鋼板の平滑な表面にTiN被膜を形成した。次いで、リン酸塩とコロイダルシリカを主成分とするコーティング液を塗布し、850℃で焼成した。その後、長さ280mm幅、30mmに煎断して試験片を採取し、Nガス雰囲気中にて800℃で3時間の歪取り焼鈍を行い、膜厚および鉄損の評価を行った。
【0028】
また、上記スリットノズルの場合と並行して、1100℃の温度にて、TiClガス、Hガス、Nガスを主体とする雰囲気中で、各原料ガスおよび搬送ガス供給に、図2に示すように、ガス供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を4段で繰り返し、最終段の4回目の分枝の経路末端に吐出口2aを設けてなり、各段の分枝後の経路におけるコンダクタンスを2経路相互で等しくした、ノズル(以下、2分枝タイプノズルと示す)を用いて化学気相蒸着を行った。
【0029】
かくして得られた被膜について、鋼帯1幅方向の膜厚分布を調査したところ、図3に示す結果を得た。すなわち、通常のスリットノズルでは幅方向の膜厚分布が平均値の40%以上発生したのに対して、2分枝タイプノズルを用いた場合には膜厚分布が平均値の10%以下に抑えられることがわかる。
【0030】
次いで、上記の幅30mmの試験片の鉄損および磁束密度を測定した。W17/50値(1.7Tで50Hzにおける鉄損値、以下同様)の測定結果を図4に示すように、膜厚の分布に対応して、通常のスリットノズルでは平均値の14%以上の幅方向分布となったのに対し、2分枝タイプのノズルでは4%以下の良好な幅方向分布となった。また、磁束密度B8値(磁化力800A/mにおける磁束密度、以下同様)の測定結果を図5に示すように、通常のスリットノズルでは1%程度の幅方向分布となったのに対し、2分枝タイプノズルでは0.7%程度の良好な幅方向分布となった。
【0031】
さらに、10mmφの丸棒に試験片を巻き付けることにより曲げ密着性の試験を行った結果、2分枝タイプのノズルを用いた場合は、TiN被膜の剥落がなく良好であることが確認された。
【0032】
以上の実験結果から、2分枝タイプのノズルを用いることにより、均一な膜厚を得ることができ、その結果磁気特性、特に良好な鉄損の幅方向分布が得られるとともに鉄損の平均値が改善されることが判明した。
すなわち、2分枝タイプノズルを用いて、その各段の分枝から次の分枝までのコングダンスを等しくし、これを繰り返すことにより、各吐出口での吹き付け速度を均等にすることができ、被膜の膜厚分布を均一にすることができるのである。
【0033】
次に、上記した2分枝タイプノズルについて、より具体的に説明する。
ノズル配管系統は、例えば方向性電磁鋼帯に連続的に成膜する場合には、図2に示したガス供給側から吐出口側へと2経路の分枝を順次繰り返す形態の他に、図2に示した構造のノズルを1系統として、その2系統を、図1に示した鋼帯1の搬送方向に並列して連結する構造(図6参照)や、この連結構造の2組を鋼帯1の搬送方向に並列して連結する構造(図7参照)、などが適合する。いずれの形態においても、分枝後の2経路間でコンダクタンスが同等であることが肝要である。
【0034】
また、静止した鋼板にバッチ式にて被膜形成を行う場合は例えば、図8に示すような、2次元的に分枝を繰り返して複数の吐出口を一平面上に配置する配管系統が適合する。
【0035】
さらにまた、この図8の配管系統を鋼帯への連続的成膜に適用するには、この配管系統を、図9に示すように、鋼帯1の搬送方向に対して所定の角度で傾けることによって、より優れた均一性をもって成膜することができる。
この場合には、図10に示すように、吐出ロ4個を1つのユニットとしてコンダクタンスの等しい4本の配管で連結しても良い。
【0036】
なお、この図8のような、前後左右に同一個数かつ等間隔の吐出口を設ける場合の配管系統の傾斜角度、すなわち、図8の回転角度を0としたときの原料ガス供給口を中心とした回転角度が、鋼帯幅をW、原料ガスの吐出口間隔をd、吐出口の数をnとしたとき、sin-1(W/n/d)とすれば、均一性を確保する目的に最も都合がよい。なぜなら、このような関係となる場合、鋼帯幅方向に平行な面に原料ガス吐出口を投影したときの間隔が均一となるからである。図8のように吐出口が64個の場合は、傾斜角度がsin-1(W/64d)となるのが好ましい。
【0037】
また、複数の原料ガスを使用する際には、図11に示すように、図8または図9に示した構造の2系統を系統相互で若干シフトさせて配置し、局所的にもガス反応の均一性を促進する配置とすることが好ましい。
【0038】
さらに、上記した原料ガスの供給配管とは別に、未反応ガスまたは反応生成物を処理炉内から効果的に局所排出させるための、ドレーン配管を設けることも可能である。このドレーン配管についても、以上の原料ガスの供給配管と同様の構造を用いることができる。このようなドレーン付きで、かつ2種の原料ガスを使用する場合の配管系統の典型例を図12に示す。
【0039】
ここで、図8ないし図12に示した配管構造は、立体的な配管により構成することは勿論可能であるが、その作製に手間が掛かり、また配管詰まりなどが生じた場合のメンテナンスが困難であるため、より簡便な方法として、平面状の金属製あるいはセラミック製の板に、図8ないし図12に示した分枝パターンと同様の溝を彫り込み、溝形成後の板を2枚貼り合わせるか、溝形成後の板1枚に溝のない板で蓋をする等して配管に仕上げる手法が推奨される。この場合、吐出ロとして各配管末端にコンダクタンスの同じ短い管を取り付けることによって、管を接続してなる配管系統と同等の効果を得ることができる。
【0040】
また、図8ないし図12に示した配管パターンは、近似的なフラククルパターンであるため、さらに均一性を必要とする場合には同様の原理によりパターンを細かくすることが可能である。このようなパターンは、数値制御(NC)の工作機器を用いて簡単に作製することができるため、本発明の配管を作製する際には上述のパターン彫り込みの方法が推奨される。
【0041】
なお、2分枝タイプノズルにおける分枝後の2経路間でのコンダクタンスを等しくするには、配管の長さ、内径、屈曲部の曲率や角度等の形状を同一とすることが簡便であるが、分枝後から次の分枝までの間のコンダクタンスを実際に測定しながら、2経路間でコンダクタンスが同一となるよう各経路の形状を調整してもよい。
【0042】
以上のノズルを用いて、方向性電磁鋼板にセラミック被膜を形成する際、セラミック被膜の形成方法としては、化学気相蒸着法と物理的蒸者法が代表的であるが、化学気相蒸着法であればいずれの方法でもよい。すなわち、化学気相蒸着法を用いて窒化物や炭化物を成摸する方法としては、よく知られているように、TiCl4等の金属塩化物ガスと、窒化物ならばN2、NH3、(CH3)3N、(CH3)2NHガス等、炭化物ならばCH4、CO、C2H4、C3H8、C2H6、I-C5H12等を原料ガスとして、両者を混合した雰囲気中で鋼板を加熱することにより窒化物あるいは炭化物被膜を得る手法を採用できる。勿論、両者を混合して炭室化物被膜としても何ら差し支えない。その他、バランスガスとしてArガス等が使用される。
【0043】
さらに、金属源として有機金属ガスを用いる、いわゆるMO−CVD法や、プラズマやレーザ、あるいは光誘起等を併用し、より低温化を指向したCVD手法も近年盛んに行われつつあるが、試料あるいは化学蒸着槽全体を加熱する熱CVD法がより適している。ただし、蒸着速度の向上を目的として上記手法を併用するのは、本発明の範囲内であれば、何ら差し支えない。
【0044】
得られるセラミック被膜は、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Al、B、Siの窒化物および/または炭化物であり、これらのうちの2種以上を積層してもかまわない。2層以上を積層する場合には、積層被膜全体の金属元素に対する窒素および/または炭素のモル比を考慮して膜厚を決めればよい。
【0045】
セラミック被膜の厚みについては、0.01μm以上5μm以下の範囲が有利に適合する。すなわち、0.01μmに満たない場合には十分な張力付与効果や被膜密着性が得られず、一方5μmを超えると被膜自身の密着性や占積率において不利となる。
【0046】
本発明の被膜形成を適用する仕上げ焼鈍後の鋼板表面は、単にフォルステライト等の無機質被膜を除去しただけの地鉄面でも有効であるが、さらに表面に平滑化処理を施した方が鉄損値の低減にはより効果的である。平滑化処理を経た鋼板面としては、例えばサーマルエッチングや化学研磨等により表面の粗さを極力小さくして鏡面状態に仕上げた表面や、ハロゲン化物水潜液中での電解による結晶方位強調処理で得られるグレイニング様の表面等が挙げられる。
【0047】
また、打抜き等の加工性を重視し、仕上げ焼鈍に使用する焼鈍分離剤の主成分を変更することや、添加物を加えることにより仕上げ焼鈍時の被膜形成を抑止した方向性珪素鋼板を使用することも差し支えない。
【0048】
化学気相蒸着した窒化物や炭化物のセラミック被膜上に形成する絶縁コートとしては、方向性珪素鋼板に使用される無機質コートが利用可能である。特に、超低鉄損化を達成するためには、張力付与効果を有するコーティングと表面を平滑化した方向性珪素鋼板との組合せが極めて有効である。このような張力付与型コーティングの種類としては、熱膨張係数を低下させるシリカを含むコーティングが有効であり、従来、フォルステライト被膜を有する方向性珪素鋼板に用いられているりん酸塩−コロイダルシリカ−クロム酸塩系のコーティング等が、その効果およびコスト、均一処理性等の点から好適である。コーティングの厚みとしては、張力付与効果や占積率、被膜密着性等の点から、0.3μm以上10μm以下程度の範囲が好ましい。
【0049】
ちなみに、張力付与型コーティングとして、これ以外にも特開平6−65754号公報、特開平6−65755号公報および特開平6−299366号公報等で提案されている、ホウ酸−アルミナ等の酸化物系被膜を適用することも可能である。
【0050】
次に、本発明で対象とする珪素鋼板について、その望ましい成分組成について説明する。
本発明で使用される鋼板の成分としては、Siを1.5〜7.0mass%で含有させることが望ましい。すなわち、Siは鋼の電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な成分であり、1.5mass%未満であると最終仕上げ焼鈍中に変態を生じて安定した2次再結晶組織が得られない。一方、7.0mass%を超えると、硬度が高くなり過ぎて、製造や加工が困難になる、おそれがある。
【0051】
また、インヒビター元素としてAlを溶製初期段階の鋼中に0.006mass%以上含有させることにより、結晶配向性をより一層向上させることができる。Alの上限は0.06mass%程度であり、これを超えると再び結晶配向性の劣化が生じる。
NもAlと同様の効果があり、その上限はふくれ欠陥の発生限界から100ppm程度とすることが好ましい。一方、下限は特に規定しないが、20ppm以下にすることは経済性を考慮すると難しい。
【0052】
さらに、1次再結晶焼鈍後に増窒化処理を行う工程も適合する。増窒化処理を行わない場合には、溶製初期段階の鋼中に0.01mass%以上0.06mass%以下のSe+Sを含有することが必須であり、加えてMn化合物として析出させるために0.02ないし0.2mass%程度のMnを含有させることが好ましい。それぞれ少なすぎると、2次再結晶を生ずるための析出物が過少となり、また多すぎると熱間圧延前の固溶が困難となる。窒化処理を行わない場合にはMnは必ずしも必要ではないが、鋼の延性改善等の目的で適宜添加可能である。
【0053】
なお、鋼中には、上記の元素の他に、方向性珪素鋼板の製造に適する公知のインヒビター成分として、B、Bi、Sb、Mo、Te、Sn、P、Ge、As、Nb、Cr、Ti、Cu、Pb、ZnおよびIn等が知られており、これらの元素を単独あるいは複合で含有させることができる。
また、C、SおよびN等の不純物は、いずれも磁気特性上有害な作用があり、特に鉄損を劣化させるため、それぞれC:0.003mass%以下、S:0.002mass%以下およびN:0.002mass%以下とすることが好ましい。
【0054】
次に、電磁鋼板の製造方法について、その必須条件と理由について述べる。
所定の成分に調整された鋼スラブは、通常スラブ加熱に供された後、熱間圧延により熱延コイルとされるが、このスラブの加熱温度については、1300℃以上の高温域または1250℃以下の低温域のいずれでもよい。また、近年、スラブ加熱を行わず、連続鋳造後直接熱間圧延を行う方法が開発されているが、この方法で熱間圧延した場合にも適用できる。
【0055】
熱間圧延後の鋼板は、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、1回もしくは中間焼鈍を挟む複数回の圧延によって最終冷延板とされる。これらの圧延については、動的時効を狙ったいわゆる温間圧延や、静的時効を狙ったパス間時効を施したものであってもよい。
【0056】
最終冷間圧延後の鋼板は、脱炭焼鈍を兼ねる1次再結晶焼鈍を施され、さらに最終仕上げ焼鈍により2次再結晶処理を施されることによって、磁気的方向性が付与される。最終仕上げ焼鈍を行う場合には、通常1次再結晶焼鈍後に焼鈍分離剤を塗布し、これにより酸化物被膜を形成させるが、この焼鈍分離剤の成分組成を調整して鋼板表面上の酸化物被膜の生成を抑制させることもできる。
【0057】
このようにして得られた鋼板に、さらなる鉄損低減を目的として、レーザあるいはプラズマ炎等を照射して磁区の細分化をはかることは、絶縁コーティングの密着性には何ら問題とならない。また、方向性珪素鋼板の製造工程の任意の段階で、磁区細分化のために、鋼板表面にエッチングや歯形ロールで一定間隔の溝を形成することも、一層の鉄損低減をはかる手段として有効である。
【実施例1】
【0058】
Si:3mass%およびMn:0.07mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の成分組成に成る、最終板厚0.23mmまで圧延された冷延板上に、磁区細分化を目的として、電解エッチングにより線状溝を4mm間隔で形成した後、脱炭および一次再結晶焼鈍を施し、次いでMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、フォルステライト膜のない平滑な表面を有する最終仕上焼鈍板を得た。次いで、方向性珪素鋼板の平滑な表面に、1150℃の温度で、TiC14ガス、H2ガスおよびN2ガスを主体とする雰囲気中で、化学気相蒸着を行い、種々の膜厚を有するTiN被膜を形成した。
【0059】
ここで、TiC14ガス、H2ガスおよびN2ガスは、それぞれ独立に、図2に示した4段の配管系統にもう1段の分枝を追加した5段の分枝による2分枝タイプノズルと、従来のスリットノズルとを用いて、鋼板表面に吹き付け、化学気相蒸着法により鋼板表面に膜物質を生成した。
【0060】
また、別の鋼板に対しては、TiC14、H2およびCH4の混合ガスからなる雰囲気中でTiCを種々の膜厚で鋼板両面に形成した。H2ガスおよびCH4ガスは混合ガスとして用い、TiC14ガスはH2ガスをキャリアガスとして濃度調整した。
【0061】
ここで、H2およびCH4混合ガスおよびTiC14ガスは、それぞれ独立に、図2に示した4段の配管系統にもう1段の分枝を追加した5段階の分枝による2分枝タイプノズルと、従来のスリットノズルとを用いて、鋼板表面に吹き付け、化学気相蒸着法により鋼板表面に膜物質を生成した。
【0062】
なお、2分枝タイプノズルにおける分枝後の2経路間でのコンダクタンスは、各段において、分枝から次の分枝までの部分の配管形状を同一とすることによって等しくした。また、従来のスリットノズルの構成は、引用文献6に記載のようなノズル内部にセラミックス製の多孔質体を挿入したものとした。
【0063】
その後、第一リン酸マグネシウムに重クロム酸カリウムを15質量部加えた水溶液に30%コロイダルシリカを30質量部混合後、ロールコータで塗布し、800℃で1分間焼き付け、絶縁被膜を形成した。この鋼板から磁気測定用試験片を採取し、800℃で2時間の歪取焼鈍を施した後、磁気測定に供した。
その結果を表1に示すように、2分枝タイプノズルによって磁気特性の均一性が向上していることがわかる。
【0064】
【表1】

【実施例2】
【0065】
Si:3mass%およびMn:0.08mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の成分組成に成る、最終板厚0.23mmまで圧延された500mm幅の冷延コイル上に、磁区細分化を目的として、電解エッチングにより線状溝を4mm間隔で形成した後、脱炭および一次再結晶焼鈍を施し、次いでMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、フォルステライト膜のない平滑な表面を有する最終仕上焼鈍コイルを得た。このコイルの平滑な表面に、1150℃の温度で、TiC14ガス、H2ガスおよびN2ガスを主体とする雰囲気中で、化学気相蒸着を行い、種々の膜厚を有するTiN被膜を形成した。
【0066】
ここで、TiC14ガス、H2ガスおよびN2ガスは、それぞれ独立に、図2に示した4段の配管系統にもう1段の分枝を追加した5段階の分枝による2分枝タイプノズルと、従来の多孔式ノズルとを用いて、鋼板表面に吹き付け、化学気相蒸着法により鋼板表面に膜物質を生成した。
【0067】
なお、2分枝タイプノズルにおける分枝後の2経路間でのコンダクタンスは、各段において、分枝から次の分枝までの部分の配管形状を同一とすることによって等しくした。また、従来の多孔式ノズルの構成は、引用文献7に記載のような同心二重筒の外筒に等間隔の吹出し孔を形成したものとした。
【0068】
その後、第一リン酸マグネシウム100質量部に重クロム酸カリウムを15質量部加えた水溶液に、30mass%コロカダルシリカを30質量部混合した絶縁コート液を、上記被膜上にロールコータで塗布し、800℃で1分間焼き付け、絶縁被膜を形成した。
かくして得られたコイルから磁気測定用試験片を採取し、800℃で2時間の歪取焼鈍を施した後、磁気測定に供した。
その結果を表2に示すように、2分枝タイプノズルによって、横幅方向および板長手方向とも磁気特性の均一性が向上していることがわかる。
【0069】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明を適用するCVD装置における処理炉内を示す図である。
【図2】本発明の原料ガス供給用ノズルを示す図である。
【図3】被膜厚の鋼帯幅方向での分布を示す図である。
【図4】鉄損W17/50の鋼帯幅方向での分布を示す図である。
【図5】磁束密度B8の鋼帯幅方向での分布を示す図である。
【図6】本発明に従う原料ガス供給用ノズルの他の形態を示す図である。
【図7】本発明に従う原料ガス供給用ノズルの他の形態を示す図である。
【図8】本発明に従う原料ガス供給用ノズルの他の形態を示す図である。
【図9】本発明に従う原料ガス供給用ノズルの他の形態を示す図である。
【図10】本発明に従う原料ガス供給用ノズルの他の形態を示す図である。
【図11】本発明に従う原料ガス供給用ノズルの他の形態を示す図である。
【図12】本発明に従う原料ガス供給用ノズルの他の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 鋼帯
2 ノズル
2a 吐出口
3 加熱ヒーター
4 原料ガス
5 炉内ガス
6 被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸着を行う処理炉内に導入された金属ストリップに向けて、原料ガスを吹き付けるノズルであって、該原料ガスの供給側から原料ガスの吐出側へ延びる配管は、供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を少なくとも2段で繰り返し、最終段分枝の経路末端に吐出口を設けてなり、各段の分枝後の経路におけるコンダクタンスが2経路相互で等しいことを特徴とする化学蒸着処理の原料ガス供給用ノズル。
【請求項2】
金属ストリップの表面に、原料ガスを吹付けて化学気相反応法により被膜を形成するに当り、該原料ガスの供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を少なくとも2段で繰り返し、最終段分枝の経路末端に吐出口を設けた、原料ガス供給用ノズルを介して、前記金属ストリップの表面に原料ガスを吹付けるに際し、前記各段の分枝後の経路におけるコンダクタンスを2経路相互で等しく調整することを特徴とする金属ストリップにおける被膜形成方法。
【請求項3】
無機質被膜のない方向性電磁鋼板の表面に、原料ガスを吹付けて化学気相反応法により窒化物および/または炭化物の被膜を形成するに当り、該原料ガスの供給側から吐出側へ向かって順次2経路に分かれる分枝を少なくとも2段で繰り返し、最終段分枝の経路末端に吐出口を設けた、原料ガス供給用ノズルを介して、前記鋼板の表面に原料ガスを吹付けるに際し、前記各段の分枝後の経路におけるコンダクタンスを2経路相互で等しく調整することを特徴とする方向性電磁鋼板における被膜形成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法によって形成された、窒化物および/または炭化物の被膜を有する低鉄損方向性電磁鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−262540(P2007−262540A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92380(P2006−92380)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本件は国等の委託研究の成果に係る特許出願(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託業務「変圧器の電力損失削減のための革新的磁性材料の開発プロジェクト」に係る継続研究)で、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるものである。
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】