説明

医療用レーザ装置

【課題】 レーザ光源外に波長変換素子を配置した構成で、レーザ光源の出力を大きくすることなく、高効率で可視の治療レーザ光を得ることができる医療用レーザ装置を提供する。
【解決手段】 医療用レーザ装置の赤外レーザ光を、その第二高調波である可視レーザ光に変換する光学系において、波長変換素子のダブルパス変換を行った後に基本波と第二高調波を分離し、残った基本波を別の波長変換素子でダブルパス変換を行い、その変換で発生した第二高調波を基本波と分離し、それぞれの第二高調波を合成することによって効率的な波長変換を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視のレーザ光を患部に照射して治療を行う医療用レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用レーザ装置のレーザ光源としては、基本波長1064nmを発するNd:YAG結晶とKTP結晶等の非線形結晶とをレーザ光源の共振光学系内に配置し、波長532nm(緑色)、波長561nm(黄色)、又は波長659nm(赤色)の第二高調波のレーザ光を得る固体レーザを使用するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、光通信システムの分野では、ラマンファイバレーザの研究がなされている。ラマンファイバレーザでは、非線形媒体の光ファイバに高出力の励起光を入射することにより、誘導ラマン散乱効果によって入射光とは異なる長波長のレーザ光が取り出される(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−151774号公報
【特許文献2】特開平11−54853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療用として使用されている固体レーザ装置は、レーザ光源の共振光学系内に波長変換素子である非線形結晶を配置している構造のため、波長変換素子のダメージが大きく、長期間の使用に対する問題、構造が複雑になる問題、出力の安定性の問題等がある。また、Nd:YAG結晶では、実際に治療用に使用できる出力を持つ可視レーザ光の波長が限られている。眼の光凝固治療においては、波長590nm付近のオレンジ色レーザ光や、波長620nm付近の赤色レーザ光が好ましいが、これらの波長で実際に治療用に使用可能な出力を可能にした固体レーザ装置は現在のところ無い。
【0005】
この問題に対して、オレンジ色や赤色のレーザ光を得るための基本波である赤外レーザ光を発するラマンファイバレーザをレーザ光源として使用し、レーザ光源外でMgO:PPLN結晶等の擬似位相整合結晶により波長変換する構成が考えられる。
【0006】
しかし、レーザ光源外で基本波レーザ光を第二高調波に変換する構成は、波長変換効率の良いMgO:PPLN結晶(受容バンド幅0.38nm/cm、シングルパスの変換効率2.1%/W・cm)を使用したとしても、シングルパスでは大きな出力のレーザ光源が必要となる。また、出力を大きくしたラマンファイバレーザでは、その基本波レーザ光のバンド幅が広がり(例えば、光源パワーが10Wでは1.0nm程のバンド幅となる)、波長変換素子での波長変換効率が逆に悪くなる。
【0007】
本発明は、上記問題点を鑑み、レーザ光源外に波長変換素子を配置した構成で、レーザ光源の出力を大きくすることなく、高効率で可視の治療レーザ光を得ることができる医療用レーザ装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1)直線偏光を持つ赤外レーザ光を発するレーザ光源と、レーザ光の偏光角度によって光路を分離する偏光ビームスプリッタと、該偏光ビームスプリッタにより分離された第1光路に配置され、前記赤外レーザ光をその第二高調波に変換する第1波長変換素子と、前記偏光ビームスプリッタと第1波長変換素子との間の光路に配置され、通過するレーザ光の直線偏光を45度回転させる第1偏光回転素子と、前記第1波長変換素子により変換された第二高調波及び残りの赤外レーザ光を反射させ、再び第1波長変換素子に戻す反射ミラーと、前記偏光ビームスプリッタと第1波長変換素子との間の光路に配置され、前記第1波長変換素子により変換された第二高調波と赤外レーザ光とを波長的に分離する第1波長分離部材と、前記第1波長分離部材及び前記第1偏光回転素子を介して戻された赤外レーザ光が前記偏光ビームスプリッタにより分離される第2光路に配置され、前記赤外レーザ光を第二高調波に変換する第2波長変換素子と、前記偏光ビームスプリッタと第2波長変換素子との間の光路に配置され、通過するレーザ光の直線偏光を45度回転させる第2偏光回転素子と、前記第2波長変換素子により変換された第二高調波及び残りの赤外レーザ光を反射させ、再び第2波長変換素子に戻す反射ミラーと、前記偏光ビームスプリッタと第2波長変換素子との間の光路に配置され、前記第2波長変換素子により変換された第二高調波と赤外レーザ光とを波長的に分離する第2分離部材と、前記第1分離部材及び第2分離部材により分離された第二高調波を合成する合成光学系と、該合成された第二高調波のレーザ光を患部に導く導光光学系と、を備えることを特徴とする。
(2)(1)の医療用レーザ装置において、前記レーザ光源はラマンファイバレーザからなるレーザ光源であり、前記第1波長変換素子及び第2波長変換素子により波長580〜600nmのオレンジ色レーザ光又は610〜640nmの赤色レーザ光を得るための基本波レーザ光を出力することを特徴とする。
(3)(1)の合成光学系は、互いに直交する偏光方向を持つ第二高調波を透過と反射により合成する偏光合成部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザ光源外に波長変換素子を配置した構成で、基本波レーザ光源の出力を大きくすることなく、高効率で治療に必要な出力を持つ可視の治療レーザ光を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る眼科用の医療用レーザ装置の概略構成図である。
【0011】
図1において、1はレーザ光を出射するレーザ光源ユニットである。レーザ光源ユニット1は制御ユニット47に接続されおり、制御ユニット47はレーザ出力や凝固時間等の治療条件を設定するコントロールパネル48に接続されている。
【0012】
レーザ光源ユニット1は、ラマンファイバレーザが好適である。レーザ光源ユニット1の内部には、図2に示す様に、ラマンファイバ20に励起光を入力する励起光源25が配置されている。励起光源25は、例えばYbドープのファイバレーザからなり、波長λ1=1064nmの赤外光を発する。ラマンファイバ20は、シリカ(SiO2)をベースとしてコア部分に酸化チタン(TiO2)がドープされた光ファイバ(非線形用光ファイバ)21からなる。光ファイバ21には誘導ラマン散乱により発生する波長λ2(=1180nm)の第1次ストークス光を反射させる一対のファイバ・ブラッグ・グレーティング(以下、FBG)22a,22bが形成されている。また、出射端側には波長λ1の光を反射し、波長λ2の光を透過するFBG24が形成されている。なお、光ファイバ21は通過するレーザ光の直線偏光を保持する偏光ファイバ(Polarization Maintaining Fiber)である。また、光ファイバ21を偏光ファイバにする代わりに、レーザ光源ユニット1内又はその外にレーザ光を直線偏光に偏光する偏光素子を設ける場合も含む。
【0013】
ここで、SiO2をベースにTiO2がドープされた光ファイバの誘導ラマン散乱特性を図3に示す。図3に示すように、SiO2にTiO2がドープされた光ファイバでは、約925cm-1付近と約400cm-1付近で誘導ラマン散乱のピークが現われている。従って、波長λ1(=1064nm)の励起光によって925cm-1のラマンシフトP1に対応する波長1180nmにピークを持った誘導ラマン散乱が得られる。この波長1180nmの光について、高反射率(99%以上の反射)のFBG22aと一部透過(反射率85%程)の出力用FBG22bで共振器を規定することにより、波長1180nmのレーザ光が取り出される。なお、FBG24により波長λ1の励起光は光ファイバ21を折り返し伝搬し、光ファイバ21の誘導ラマン散乱をより活性化させる。
【0014】
このラマンファイバレーザからなるレーザ光源ユニット1を出射した中心波長1180nmを、その第二高調波に波長変換することにより、医療用として好適な(特に眼科治療の光凝固に好適な)オレンジ色のレーザ光が得られる。また、ラマンファイバ20としては、図3の約400cm-1付近における誘導ラマン散乱のピークを利用し、波長1180nmの1次ストークス光によって約400cm-1のラマンシフトP2に対応する約1240nmにピークを持った誘導ラマン散乱が得られるように一対のFBGを追加し、波長1240nmのレーザ光を得るように構成しても良い。この場合、波長1240nmのレーザ光をその第二高調波に波長変換することにより、波長620nmの赤色レーザ光を得ることができる。
【0015】
レーザ光源ユニット1から出射したレーザ光の光路には、直線偏光のレーザ光を透過と反射により分離する偏光ビームスプリッタ2が配置されている。実施形態の偏光ビームスプリッタ2は、レーザ光源ユニット1からの直線偏光のレーザ光を透過する方向に偏光方向を持ち、これと直交する直線偏光のレーザ光を反射する。偏光ビームスプリッタ2を透過したレーザ光の第1光路L1には、波長1180nmの基本波レーザ光をその第二高調波(波長590nm)に変換する第1波長変換素子6が配置されている。偏光ビームスプリッタ2と第1波長変換素子6との間の光路には、レーザ光の直線偏光を45°回転させる第1ファラデ回転素子3、波長1180nmの基本波レーザ光を透過し、その第二高調波を反射させる特性のダイクロイックミラー4、集光レンズ5が配置されている。さらに、第1波長変換素子6の後方には、波長1180nmの基本波レーザ光とその第二高調波を再び第1波長変換素子6に戻すための凹面の全反射ミラー7が配置される。レーザ光源ユニット1からの基本波レーザ光は、第1波長変換素子6によりその一部が第二高調波に変換される。第二高調波及び残りの基本波レーザ光は、ミラー7で反射されて再び同じ第1波長変換素子6に入射するように戻される。このミラー7により、第1波長変換素子6を基本波レーザ光が再び入射するダブルパス光学系が構成されている。
【0016】
また、第1波長変換素子6から戻ってきた基本波レーザ光が、偏光ビームスプリッタ2により反射される第2光路L2には、第1波長変換素子6と同じく、波長1180nmの基本波レーザ光をその第二高調波(波長590nm)に変換する第2波長変換素子11が配置されている。偏光ビームスプリッタ2から第2波長変換素子11に至るまでの光路には、偏光方向を時計回りに45°回転させるファラデ回転素子8、ダイクロイックミラー9、集光レンズ10が配置され、第2波長変換素子11の後方には凹面の全反射ミラー12が配置されている。このミラー12により第2波長変換素子11に基本波レーザ光が再び入射する第2のダブルパス光学系が構成されている。
【0017】
ダイクロイックミラー4及び9でそれぞれ反射される第二高調波の光路には、偏光ビームコンバイナ13が配置されている。偏光ビームコンバイナ13は、ダイクロイックミラー4で反射されてきた第二高調波の直線偏光を反射し、ダイクロイックミラー9で反射してきた第二高調波の直線偏光を透過する方向の偏光角度を持つ。また、ミラー12と偏光ビームスプリッタ2との第2光路L2の延長上には、偏光ビームスプリッタ2を透過した基本波レーザ光を吸収するダンパ14が配置されている。
【0018】
第1波長変換素子6と第2波長変換素子11は、それぞれが駆動ユニット40,41に接続され、レーザ光の直線偏光方向と同じ方向に動く。制御ユニット47にはレーザ光源ユニット1、駆動ユニット40、41が接続されている。
【0019】
上記の光学系において、第1波長変換素子6及び第2波長変換素子11としては、好ましくは、MgO:PPLN結晶の非線形結晶(擬似位相整合結晶)を用いる。図4は本発明で使用する非線形結晶の構造を示す図である。図4の双方向の矢印はレーザ光の直線偏光の方向を表し、単方向の矢印は結晶方向を表す。結晶方向はレーザ光の直線偏光方向と同じ軸に沿うようにその向きを決定される。結晶の長さは、基本波である波長1180nm及び基本波のバンド幅等に基づいて、基本波を効率良くその第二高調波に変換できるように決定されている。また、第1波長変換素子6は片方の面が光路L1の光軸に対して直交し、もう片方の面は少し角度をもたさせる構成としている。第1波長変換素子6を図の矢印で示す方向、つまり光路L1の光軸と直交する方向に移動させることによって、レーザ光の主光線が通過する結晶の位置を変えることができる。これにより、ミラー7で反射されて戻ってくる第二高調波と、残りの基本波で変換される第二高調波と、の位相を整合させる。なお、位相の整合は、ミラー7を光路L1に対して前後に動かす方法も可能である。第2波長変換素子11についても、第1波長変換素子6と同じ構成である。
【0020】
図5は、ファラデ回転素子3,8による直線偏光の基本波レーザ光の回転状態を説明する図である。図5(a)はレーザ光源1から凹面ミラー7までの往路における直線偏光の回転状態を示し、図5(b)はミラー7からの反射光の帰路における直線偏光の回転状態を示す。なお、以下で用いる偏光角度は紙面の図5上の縦方向(鉛直方向)=0°とする。
【0021】
まず、図5(a)において、レーザ光源1から出射された基本波レーザ光は−45°の偏光方向を持つ。偏光ビームスプリッタ2は偏光角度―45°のレーザ光を透過するように配置されている。偏光ビームスプリッタ2を透過した基本波レーザ光は、ファラデ回転素子3で時計回りに45°回転され、偏光角度0°(鉛直方向)となる。偏光角度0°となったレーザ光は、ダイクロイックミラー4、集光レンズ5を経て、第1波長変換素子6でその一部が第二高調波に変換され、残りの基本波と共にミラー7に達する。
【0022】
図5(b)において、ミラー7で反射された残りの基本波レーザ光は、再び第1波長変換素子6を通過することにより、その一部がさらに第二高調波に変換される。第1波長変換素子6で波長変換された第二高調波は、ダイクロイックミラー4で偏光ビームコンバイナ13へと反射される。一方、ダイクロイックミラー4を透過した基本波は、再びファラデ回転素子3に入射する。このとき、基本波はファラデ回転素子3によりさらに45°回転され、結果的に初めの往路での偏光方向に対して直交した偏光方向となる。従って、戻り光である赤外の基本波レーザ光は、偏光ビームスプリッタ2で反射されて第2光路L2へと導かれる。
【0023】
第2光路L2でのレーザ光の挙動は上述したものと基本的に同様である。すなわち、偏光ビームスプリッタ2で反射された基本波レーザ光は、ファラデ回転素子8で時計回りに45°回転され、鉛直方向に対して直交した方向(偏光角度90°)となる。この直線方向の基本波レーザ光は、ダイクロイックミラー9、集光レンズ10を経て、第2波長変換素子11でその一部が第二高調波に変換され、残りの基本波と共にミラー12に達する。ミラー12で反射された残りの基本波レーザ光は、再び第2波長変換素子11を通過することにより、その一部がさらに第二高調波に変換される。第2波長変換素子11で波長変換された第二高調波は、ダイクロイックミラー9で偏光ビームコンバイナ13へと反射される。
【0024】
ダイクロイックミラー9を透過した基本波レーザ光は、再びファラデ回転素子8を通過するときにさらに45°回転され、偏光角度135°となる。この偏光角度を持つ基本波レーザ光は、偏光ビームスプリッタ2を通過し、ダンパ14により吸収される。
【0025】
図1において、偏光ビームコンバイナ13はダイクロイックミラー4、9から入射される第二高調波のレーザ光を合成する。それぞれ入射されるレーザ光は互いに直交する偏光方向を持つため、偏光ビームコンバイナ13ではダイクロイックミラー4からのレーザ光を反射し、ダイクロイックミラー9からのレーザ光を透過させることによって、2つのレーザ光を合成することができる。合成されたレーザ光(波長590nm)は集光レンズ15により光ファイバ50に入射される。
【0026】
光ファイバ50の出力端は、患者眼Eにレーザ光を導光するためのデリバリ光学系52に接続されている。デリバリ光学系52は、リレーレンズ53、レーザ光のスポットサイズを変更するためのズームレンズ54、対物レンズ55、レーザ光を患者眼Eに向けて反射するミラー56を備える。デリバリ光学系52はスリットランプ60が持つ双眼の顕微鏡部61に取り付けられている。また、患者眼Eはスリットランプ60が備える照明部62により照明される。光凝固治療では、デリバリ光学系52から出射したレーザ光は、コンタクトレンズ65を介して患者眼Eの眼底に照射される。
【0027】
以上のように、レーザ光源ユニット1を出射した基本波(波長1180nm)のレーザ光は波長変換素子によって、その第二高調波である波長590nmのオレンジ色レーザ光に波長変換される。基本波は2つある波長変換素子6,11をそれぞれ2回ずつ通過することで、合計4回の波長変換を受けることにより、波長変換素子を通過しても変換されなかった基本波までもが効率的よく第二高調波へと波長変換される。この構成によって、レーザ光源ユニット1の出力を大きくしなくても、治療に必要な出力を持つ可視レーザ光を高効率で得ることができる。
【0028】
例えば、レーザ光源ユニット1では、波長1180nmを出射するラマンファイバレーザを使用して、その出力が連続波3.5W、バンド幅が0.19nmであるとする。波長変換素子6,11に使用するMgO:PPLN結晶は、通常、シングルパスでは2.1%/W・cmの変換効率を持ち、受容バンド幅が0.38nmである。10mmの長さのMgO:PPLN結晶でダブルパスを構成すると、その受容バンド幅は0.19nmとなり、ラマンファイバレーザからのバンド幅0.19nmの基本波レーザ光(波長1180nm)に対して、結果的にダブルパスによる変換効率は4倍弱の8.4%となる。この場合、本発明の構成によれば、第1光路L1のMgO:PPLN結晶のダブルパス光学系で、出力1.03W(3.5×3.5×0.084W)の波長590nmのレーザ光が得られる。そして、第2光路L1のMgO:PPLN結晶のダブルパス光学系で、出力0.51W(2.47×2.47×0.084W)の波長590nmのレーザ光が得られる。損失が無いとすれば、両者のレーザ光を合成することにより結果的に1.54Wの波長590nmのレーザ光を得ることができる。
【0029】
図6は、ラマンファイバレーザからレーザ出力が最大5Wまでを考えた場合に、そのバンド幅が0.19nmであるとして、上記の計算に従って最終的に得られる波長590nmのレーザ光の出力を計算したものである。実際には多少の損失があるが、少なくともラマンファイバレーザからのレーザ出力が5W以下でも、光凝固に必要な1W以上の出力を持つオレンジ色レーザ光を得ることが可能になる。
【0030】
また、現在では、ダイオードレーザで治療に必要な1W以上のオレンジ色レーザ光は得られていないが、レーザ光源外(レーザ共振器外)で波長変換光学系を構成した場合でも、本発明に従えば、高出力のオレンジ色レーザ光を得ることができる。
【0031】
光凝固治療装置では、凝固効率の点から波長580〜600nmのオレンジ色のレーザ光を使用することが好ましい。また、眼底に出血がある場合や、眼底に至る透光体に混濁がある場合には、波長610〜640nmの赤色レーザ光を使用することが好ましい。従って、これらの波長の可視レーザ光を得る場合、レーザ光源ユニット1として波長1160〜1280nmの基本波レーザ光を出力できるものを使用する。
【0032】
上記の実施形態において、ファラデ回転素子3,8はレーザ光の直線偏光を時計回りに45°回転させるものとしたが、これは45°+180°×n(nは整数)の場合を含むことはもちろんである。
【0033】
また、偏光ビームスプリッタ2はレーザ光源ユニット1から出射した直線偏光のレーザ光を透過する偏光角度を持つものとしたが、これは逆に反射させる偏光角度とし、その反射方向に第1光路L1を設ける構成でも良い。この場合、第1光路の基本波の戻り光は、偏光ビームスプリッタ2を透過して第2光路L2へと導かれる。
【0034】
また、本実施形態では各波長変換素子6,11で波長変換された第二高調波のレーザ光の合成光学系として偏光ビームコンバイナ13を用いたが、これに限るものではない。ダイクロイックミラー4,9からのレーザ光を合成用の集光レンズへと導き、この集光レンズにより両者のレーザ光を光ファイバ50へと導光することによって合成してもよい。あるいは、ダイクロイックミラー4からのレーザ光を第1の光ファイバへ入射させると共に、ダイクロイックミラー9からのレーザ光を第2の光ファイバに入射させ、この2つの光ファイバの出射端を束ねて出射するレーザ光を集光レンズで光ファイバ50へと入射させることで合成する方法もある。
【0035】
また、上記の実施形態ではレーザ光源ユニット1から出力されたレーザ光を、その外部の光路に配置された個々の光学素子で波長変換するものとしたが、光導波路タイプの光学系で、一部又は全てをファイバ系で構成すると、装置構成がコンパクトになり、アライメントも問題も軽減されるので、さらに都合がよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】眼科医療用レーザ装置の構成を示す図である。
【図2】レーザ光源ユニットの内部構造を示す図である。
【図3】本発明で使用するラマンファイバの誘導ラマン散乱特性を示す図である。
【図4】本発明で使用する非線形結晶の構造を示す図である。
【図5】ファラデ回転素子による直線偏光の基本波レーザ光の回転状態を説明する図である。
【図6】波長590nmレーザ光の出力計算値を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 レーザ光源ユニット
2 偏光ビームスプリッタ
3 第1ファラデ回転素子
4、9 ダイクロイックミラー
6 第1波長変換素子
8 第2ファラデ回転素子
11 第2波長変換素子
13 偏光ビームコンバイナ
47 制御ユニット
52 デリバリ光学系
60 スリットランプ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光を持つ赤外レーザ光を発するレーザ光源と、レーザ光の偏光角度によって光路を分離する偏光ビームスプリッタと、該偏光ビームスプリッタにより分離された第1光路に配置され、前記赤外レーザ光をその第二高調波に変換する第1波長変換素子と、前記偏光ビームスプリッタと第1波長変換素子との間の光路に配置され、通過するレーザ光の直線偏光を45度回転させる第1偏光回転素子と、前記第1波長変換素子により変換された第二高調波及び残りの赤外レーザ光を反射させ、再び第1波長変換素子に戻す反射ミラーと、前記偏光ビームスプリッタと第1波長変換素子との間の光路に配置され、前記第1波長変換素子により変換された第二高調波と赤外レーザ光とを波長的に分離する第1波長分離部材と、前記第1波長分離部材及び前記第1偏光回転素子を介して戻された赤外レーザ光が前記偏光ビームスプリッタにより分離される第2光路に配置され、前記赤外レーザ光を第二高調波に変換する第2波長変換素子と、前記偏光ビームスプリッタと第2波長変換素子との間の光路に配置され、通過するレーザ光の直線偏光を45度回転させる第2偏光回転素子と、前記第2波長変換素子により変換された第二高調波及び残りの赤外レーザ光を反射させ、再び第2波長変換素子に戻す反射ミラーと、前記偏光ビームスプリッタと第2波長変換素子との間の光路に配置され、前記第2波長変換素子により変換された第二高調波と赤外レーザ光とを波長的に分離する第2分離部材と、前記第1分離部材及び第2分離部材により分離された第二高調波を合成する合成光学系と、該合成された第二高調波のレーザ光を患部に導く導光光学系と、を備えることを特徴とする医療用レーザ装置。
【請求項2】
請求項1の医療用レーザ装置において、前記レーザ光源はラマンファイバレーザからなるレーザ光源であり、前記第1波長変換素子及び第2波長変換素子により波長580〜600nmのオレンジ色レーザ光又は610〜640nmの赤色レーザ光を得るための基本波レーザ光を出力することを特徴とする医療用レーザ装置。
【請求項3】
請求項1の合成光学系は、互いに直交する偏光方向を持つ第二高調波を透過と反射により合成する偏光合成部材であることを特徴とする医療用レーザ装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−147732(P2006−147732A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333801(P2004−333801)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】