説明

半導体基板の製造方法および半導体デバイスの製造方法

【課題】シリコンデバイス等耐熱性の低い部位がSi基板に設けられた場合でも、Ge結晶に熱アニールを施し、十分な結晶品質のGe結晶薄膜を得る。
【解決手段】表面がSiであるベース基板と、前記ベース基板の上に形成され、組成がCSiGeSn1−x−y―z(0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1、かつ、0<x+y+z≦1)である第1結晶層と、前記第1結晶層が形成された部分以外の前記ベース基板の上に形成された第1半導体素子と、を有する半導体基板の製造方法であって、前記第1半導体素子には電磁波を照射することがなく、前記第1結晶層の一部または全部に電磁波を照射する工程を有する半導体基板の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法および半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−6族化合物半導体、3−5族化合物半導体あるいは4−4族化号物半導体等の化合物半導体は、シリコンからなる単体半導体と比較して、耐圧特性および高周波特性に優れるので、前記した化合物半導体を用いた各種の高機能電子デバイスが開発されている。前記の化合物半導体を結晶成長させる場合、基板としてGaAsバルク基板が用いられている。しかしGaAsバルク基板は、価格が高く、放熱性が十分ではない。よって価格が低く、放熱特性に優れたSi基板を基板として用いることが検討されている。
【0003】
特許文献1は、前記のような化合物半導体を用いた電子デバイスをSi基板上に製造する場合に、化合物半導体と格子整合できるGe層を中間層として設けることで良質な結晶薄膜が得られることを開示している。また、非特許文献1には、中間層として用いるGeの結晶品質の改善において、Si基板(ベース基板)にエピタキシャル成長させたGeの結晶薄膜にサイクル熱アニールを施すことで、結晶薄膜の結晶性を向上できることが開示されている。例えば、800〜900℃の温度範囲でGe結晶薄膜に熱アニールを施すことで、平均転位密度が2.3×10cm−2のGe結晶薄膜が得られると記載されている。ここで、平均転位密度は格子欠陥密度の一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−094318号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hsin-Chiao Luan 他著、High-quality Ge epilayers on Si with low threading-dislocation densities、Appl. Phys. Lett. 75巻、2909頁、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Si基板上に化合物半導体を結晶成長させると、Si基板上に形成したシリコンデバイスと化合物半導体に形成した化合物半導体デバイスとを単一基板に形成できるので好都合である。ここでシリコンデバイスはシリコンを活性領域とする半導体デバイスをいい、化合物半導体デバイスは化合物半導体を活性領域とする半導体デバイスをいう。しかし、Si基板と化合物半導体の中間層であるGe結晶薄膜を熱アニールする前にシリコンデバイス等耐熱性の低い部位がSi基板に設けられた場合には、Ge結晶に熱アニールを施すことで、耐熱性の低い部位が加熱されることとなるので、当該部位が耐え得る温度以上にGe結晶を加熱することができない。この結果、Ge結晶薄膜が十分な品質を得ることができず、Ge中間層上に形成される化合物半導体の結晶品質を向上させることが困難になる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、表面がSiであるベース基板と、前記ベース基板の上に形成され、組成がCSiGeSn1−x−y―z(0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1、かつ、0<x+y+z≦1)である第1結晶層と、前記第1結晶層が形成された部分以外の前記ベース基板の上に形成された第1半導体素子と、を有する半導体基板の製造方法であって、前記第1半導体素子には電磁波を照射することがなく、前記第1結晶層の一部または全部に電磁波を照射する工程を有する半導体基板の製造方法を提供する。
【0008】
前記電磁波を照射する工程において、前記電磁波を照射する部分が位置決め機構により制御されることが好ましく、前記位置決め機構として、前記ベース基板を保持するステージの位置調整機構、および前記電磁波の経路を変化させる光学機構から選択された1以上の機構が挙げられる。前記光学機構として、電磁波を反射するミラー機構が挙げられる。前記電磁波として、レーザ光が挙げられる。前記電磁波として、時間的に変調されたもの、空間的に変調されたもの、または時間的空間的に変調されたものが挙げられる。
【0009】
前記ベース基板の上に阻害体を形成する工程をさらに有して良く、前記阻害体として、前記ベース基板に達する開口を有し、前記第1結晶層の成長を阻害するものが挙げられ、前記第1結晶層として、前記開口の内部の前記ベース基板の上に形成されるものが挙げられる。前記電磁波を照射する工程において、前記第1半導体素子の温度を600℃以下に保持することが好ましい。前記第1結晶層の上に、化合物半導体結晶層をエピタキシャル成長させる工程、をさらに有することが好ましい。前記化合物半導体結晶層として、GaAs結晶と格子整合または擬格子整合する結晶からなる多層構造を含むものが挙げられる。
【0010】
本発明の第2の態様においては、前記した方法で製造された半導体基板の前記化合物半導体結晶層に第2半導体素子を形成する工程と、前記第2半導体素子と前記半導体基板の前記第1半導体素子とを電気的に接続する工程と、を有する半導体デバイスの製造方法を提供する。前記化合物半導体結晶層をエピタキシャル成長させる工程および前記第2半導体素子を形成する工程において、前記第1半導体素子の温度を600℃以下に保持することが好ましい。
【0011】
前記した第1結晶層のx、y、zの各値を調整することで、第1結晶層とその上に結晶成長させる化合物半導体結晶層とを格子整合または擬格子整合させることができる。化合物半導体結晶層が第1結晶層と格子整合または擬格子整合することにより高品質な化合物半導体結晶層を得ることができる。xの値は、好ましくは0である。
【0012】
前記電磁波の照射強度を調整する照射強度調整機構をさらに有してもよく、前記位置決め機構に前記第1結晶層の座標情報を予め入力し、前記位置決め機構と前記照射強度調整機構とを制御することにより、目的とする第1結晶層のみに電磁波を照射することができる。前記照射強度調整機構として、前記電磁波の発生源への駆動電流を変調する機構、前記電磁波の発生源と前記第1結晶層との間に設けられたシャッター機構、電気光学素子あるいは音響光学素子等の光学変調機構、減光フィルターが挙げられる。前記電磁波が偏光特性を有している場合、前記照射強度調整機構として偏光子を用いてもよい。
【0013】
前記電磁波を照射する工程において、前記電磁波を照射する雰囲気として、真空雰囲気または水素雰囲気が挙げられる。空気または窒素が充填された雰囲気で電磁波を照射した場合、第1結晶層の表面に穴が形成される場合がある。しかし、真空雰囲気または水素雰囲気で前記電磁波を前記第1結晶層に照射すると、そのような穴の形成を抑制することができ、良好な表面を有する第1結晶層が得られる。その結果、第1結晶層の上に結晶成長される前記化合物半導体結晶層の結晶品質も向上する。水素雰囲気として、水素100%、あるいは水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気が挙げられる。水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気の場合、水素濃度は混合ガス雰囲気の90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。前記電磁波を照射する工程における処理圧力として、20kPa以下の圧力が好ましい。
【0014】
前記化合物半導体結晶層をエピタキシャル成長させる工程におけるエピタキシャル成長法として、有機金属気相成長法(以下MOCVD法と記することがある)、分子線エピタキシー法(以下MBE法と記することがある)が挙げられる。
【0015】
前記電磁波を照射する工程と前記化合物半導体結晶層をエピタキシャル成長させる工程とは連続して実施することが好ましい。すなわち前記電磁波を照射する工程を実施した後、前記化合物半導体結晶層をエピタキシャル成長させる工程を実施するまでの間、前記ベース基板を内部に保持する処理室の大気開放を行わず、前記化合物半導体結晶層をエピタキシャル成長させることが好ましい。これにより前記第1結晶層の表面の汚染または酸化を抑えることができる。
【0016】
前記第1結晶層の形成方法として、化学気相成長法(以下CVD法と記することがある)、MBE法、イオンプレーティング法が挙げられる。前記第1結晶層をCVD法により選択成長させる場合、成長時の処理圧力を低くすることが好ましい。処理圧力を低くすることで、選択成長パターンの膜厚依存性を小さくすることができる。
【0017】
前記電磁波としてはレーザ光を用いる場合、照射領域を小さくすることができる。前記電磁波としてレーザ光を用いることは、局部的に大きな熱エネルギーを与えることができるので好ましい。
【0018】
前記電磁波の波長は、前記第1結晶層が吸収できる波長であることが好ましい。前記第1結晶層に隣接する部分に電磁波吸収部を設ける場合、前記電磁波の波長は前記電磁波吸収部が吸収できる波長であればよい。電磁波吸収部を設けた場合、前記第1結晶層が吸収できない波長の電磁波を電磁波吸収部が吸収し、当該電磁波の吸収により得た熱エネルギーを前記第1結晶層に伝えて前記第1結晶層を加熱することができる。
【0019】
前記電磁波を時間的に変調する例として、電磁波強度をパルス状に変化させる例が挙げられる。電磁波強度をパルス状に変化させることは、駆動電流をパルス駆動すること、あるいは電磁波の経路にシャッターを配置して当該シャッターの開閉を制御することで実現できる。電磁波のパルス周期あるいはデューティ比と位置決め機構の動作速度とを調整することで、単位時間、単位面積当たりに照射される電磁波エネルギーを調整することができる。また電磁波のパルス周期を調整することで、電磁波が照射される部分の温度を周期的に変化させることができる。昇温および降温が周期的に繰り返される熱処理を行うことで第1結晶層中の転位排除を促進することができる。また、電磁波強度をランプ状に変化させてもよい。なお、単位面積あたりに照射される電磁波エネルギーは、電磁波の経路にレンズ等の集光部材を配置し、被照射部での電磁波のスポットの大きさを変化させることで調整できる。
【0020】
前記電磁波を空間的に変調する例として、前記電磁波の照射面における形状を点状あるいは線状に加工した電磁波を前記照射面において掃引する例が挙げられる。前記電磁波の照射面における形状は光路に配したレンズ、スリット等の光学部材で調整でき、前記電磁波の掃引は可動反射鏡の駆動またはポリゴンミラーの回転により実現できる。これにより、電磁波照射部の形状および位置と照射エネルギー密度を調整することができ、たとえば第1結晶層を部分融解させ、当該部分融解部の移動による偏析を用いた結晶欠陥と不純物の排除が可能になる。
【0021】
前記第1結晶層の材料としてGeが挙げられる。前記第1結晶層としてGe結晶を用いることでGaAs結晶と擬格子整合することができ、GaAs結晶およびGaAs結晶と格子整合または擬格子整合する結晶層からなる多層構造を前記化合物半導体結晶層として用いることができる。GaAs結晶と格子整合または擬格子整合する層として、AlInGa1−p−qAs1−r(0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1)で表される結晶層が挙げられる。なお、前記化合物半導体結晶層の膜厚が薄い場合には、格子緩和を生じない範囲で前記第1結晶層と前記化合物半導体結晶層とは格子整合または擬格子整合する必要がない。
【0022】
前記第1結晶層が形成される工程と同じ工程で形成される第2結晶層をさらに有してもよく、第2結晶層として、前記第2結晶層の上に形成される化合物半導体結晶に前記第2半導体素子が形成されないものが挙げられる。そしてこのような第2結晶層は、第1結晶層とは異なり前記電磁波が照射されなくてもよい。
【0023】
前記第1半導体素子の形成工程として、前記ベース基板のSiに不純物を拡散させる工程と、Siの表面に酸化シリコン膜を形成する工程とを含むものが挙げられる。前記第1半導体素子として、活性領域がSiからなる電界効果トランジスタであるSi−MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)が挙げられる。前記第1結晶層に前記電磁波を照射する工程において、前記第1半導体素子には電磁波が照射されないので前記第1半導体素子の温度が上昇せず、たとえば前記第1半導体素子を構成する不純物領域内での不純物の熱拡散が抑制され、加熱に伴う特性の劣化を防ぐことができる。
【0024】
前記電磁波を照射する工程において、前記第1半導体素子の到達最高温度を600℃以下にすることで、前記第1半導体素子がAl等比較的低融点の金属からなる電極や配線を含んでいても特性劣化を生じない。前記第1半導体素子に電極が形成されていない場合、前記第2半導体素子に接続する電極と前記第1半導体素子に接続する電極とを同時に形成することができる。
【0025】
前記化合物半導体結晶層を形成する段階においては、第1半導体素子上に保護膜を形成することができる。このような保護膜を形成することで、第1半導体素子上への化合物半導体結晶層材料の堆積を防ぐことができる。化合物半導体結晶層の形成後あるいは第2半導体素子の形成後に前記保護膜を除去し、第1半導体素子と第2半導体素子を電気的に接続することができる。
【0026】
表面がSiであるベース基板として、Si基板、SOI(silicon−on−insulator)基板が挙げられる。前記阻害体として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】半導体デバイスの製造方法の一例を工程順に示した断面図である。
【図2】半導体デバイスの製造方法の一例を工程順に示した断面図である。
【図3】電磁波を照射する工程の他の例を示した断面図である。
【図4】製造した半導体基板の断面の一部を観察したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。図1および図2は、本実施の形態に係る半導体デバイスの製造方法の一例を工程順に示した断面図である。本半導体デバイスは、表面がSiであるベース基板102と、ベース基板102の上に形成された第1結晶層110と、ベース基板102の上に形成された第1半導体素子104とを有する。第1結晶層110の上には化合物半導体結晶層122がエピタキシャル成長され、化合物半導体結晶層122には第2半導体素子124が形成されている。本半導体デバイスでは、シリコン半導体素子である第1半導体素子104と化合物半導体素子である第2半導体素子124とが単一のベース基板102上にモノリシックに形成されている。以下本半導体デバイスの製造方法を説明する。
【0029】
図1(a)に示すように、ベース基板102の上に第1半導体素子104を形成する。そして第1半導体素子104を覆う阻害体106をベース基板102の上に形成する。
【0030】
ベース基板102は、表面にSiを有する。ベース基板102として、Si基板、SOI基板が例示できる。第1半導体素子104は、第1結晶層110が形成される部分以外のベース基板102の上に形成される。第1半導体素子104は、たとえば活性領域がシリコンであるシリコン半導体素子である。
【0031】
第1半導体素子104として、MOSFET、MISFET(Metal-Insulator-Semiconductor Field-Effect Transistor)等の能動素子が例示できる。第1半導体素子104の活性領域として、FET(電界効果トランジスタ)のチャネル領域、バイポーラトランジスタのベース・エミッタ接合領域、ダイオードのアノード・カソード接合領域が挙げられる。第1半導体素子104は、抵抗、キャパシタ、インダクタ等の受動素子であってもよい。第1半導体素子104は、各素子の構造に応じた公知の製造法により製造できる。
【0032】
第1半導体素子104は、接触して設けられる半導体および誘電体を含んでもよい。半導体および誘電体の界面として、MOSFETの活性領域に形成されるMOSゲート界面が挙げられる。また第1半導体素子104は、金属配線を含んでもよい。当該金属配線の金属材料として、アルミニウムが例示できる。さらに第1半導体素子104には、複数の金属配線が形成されてもよく、当該複数の金属配線の各々を互いに絶縁する絶縁膜を有することが好ましい。当該絶縁膜の材料として、ポリイミドが挙げられる。これらMOSゲート界面、アルミニウム配線あるいはポリイミド絶縁膜は、一般に耐熱性が低いので、当該部位が長時間にわたって高温に晒されると、第1半導体素子104の特性が劣化する場合がある。しかし、以下に説明するように本製造方法では第1半導体素子104が電磁波から保護されるので、第1半導体素子104の特性劣化が回避できる。
【0033】
第1半導体素子104の形成工程として、ベース基板102のSiに不純物を拡散させる工程と、Siの表面に酸化シリコン膜を形成する工程とを含むものが挙げられる。第1半導体素子104として、活性領域がSiからなる電界効果トランジスタであるSi−MOSFETが挙げられる。第1結晶層110に電磁波118を照射する工程において、第1半導体素子104には電磁波118が照射されないので第1半導体素子104の温度が上昇せず、たとえば第1半導体素子104を構成する不純物領域内での不純物の熱拡散が抑制され、加熱に伴う特性の劣化を防ぐことができる。
【0034】
阻害体106は、第1結晶層110の成長を阻害する。阻害体106は、第1結晶層110あるいは化合物半導体結晶層122の結晶成長時に第1半導体素子104の上に結晶や原料分解物が堆積することを防ぐ。阻害体106として酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンが挙げられる。阻害体106は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法等の薄膜形成法により形成できる。
【0035】
図1(b)に示すように、阻害体106に開口108を形成し、開口108の内部のベース基板102の上に第1結晶層110を形成する。開口108は、ベース基板102に達するように形成する。開口108は、ウェットエッチング法またはドライエッチング法により形成できる。第1結晶層110は、たとえば組成がCSiGeSn1−x−y―z(0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1、かつ、0<x+y+z≦1)である。第1結晶層110のx、y、zの各値を調整することで、第1結晶層110とその上に結晶成長させる化合物半導体結晶層122とを格子整合または擬格子整合させることができる。化合物半導体結晶層122が第1結晶層110と格子整合または擬格子整合することにより高品質な化合物半導体結晶層122を得ることができる。xの値は、好ましくは0である。
【0036】
第1結晶層110の材料としてGeが挙げられる。第1結晶層110としてGe結晶を用いることでGaAs結晶と擬格子整合することができ、GaAs結晶およびGaAs結晶と格子整合または擬格子整合する結晶層からなる多層構造を化合物半導体結晶層122として用いることができる。GaAs結晶と格子整合または擬格子整合する層として、AlInGa1−p−qAs1−r(0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1)で表される結晶層が挙げられる。なお、化合物半導体結晶層122の膜厚が薄い場合には、格子緩和を生じない範囲で第1結晶層110と化合物半導体結晶層122とは格子整合または擬格子整合する必要がない。
【0037】
第1結晶層110の形成方法として、CVD法、MBE法、イオンプレーティング法が挙げられる。第1結晶層110をCVD法により選択成長させる場合、成長時の処理圧力を低くすることが好ましい。処理圧力を低くすることで、選択成長パターンの膜厚依存性を小さくすることができる。ベース基板102と第1結晶層110との間に、Si結晶、SiGe結晶、組成が連続的または段階的に変化したSiGe結晶などのバッファ層が設けられていてもよい。
【0038】
図1(c)に示すように、第1結晶層110に電磁波118を照射する。電磁波118は、第1半導体素子104に照射することなく、第1結晶層110の一部または全部に照射する。ここで「電磁波を照射することがなく」とは、第1半導体素子104の温度を高める程度の光量で照射することなくの意味であり、第1半導体素子104に照射されたとしても温度上昇にはほぼ寄与しない電磁波、例えば散乱光、迷光等は照射されてもよい。電磁波118を第1結晶層110に照射することで、第1結晶層110に選択的に所望の熱エネルギーを与える。
【0039】
第1結晶層110の内部には、ベース基板102と第1結晶層110との格子定数の違い等の理由により、格子欠陥等の結晶欠陥が発生する場合がある。第1結晶層110に電磁波118を照射し、加熱してアニールを施すことにより、結晶欠陥が第1結晶層110の内部を移動して、第1結晶層110の界面(interface)、表面(surface)、第1結晶層110の内部のゲッタリングシンク部等に捕捉される。その結果、第1結晶層110の表面まで到達する貫通転位に代表される結晶欠陥の密度が低減された領域を有する良質の第1結晶層110が得られる。この結果、第1結晶層110の上に形成される化合物半導体結晶層122の結晶性を高めることができる。
【0040】
第1半導体素子104に電磁波118を照射しないので、第1半導体素子104の温度が上昇せず、第1半導体素子104に耐熱性の低いMOSゲート界面、アルミニウム配線あるいはポリイミド絶縁膜が含まれる場合であっても第1半導体素子104の特性劣化が回避できる。第1半導体素子104がAl配線を含む場合、配線温度をAl融点の660℃以下、例えば650℃以下、好ましくは600℃以下に維持することが好ましい。第1半導体素子104がポリイミド絶縁膜を含む場合、絶縁膜温度を500℃以下に維持することが好ましい。すなわち、電磁波118を照射する工程では、第1半導体素子104の温度を600℃以下に保持することが好ましい。電磁波118を照射する工程において、第1半導体素子104の到達最高温度を600℃以下にすることで、第1半導体素子104がAl等比較的低融点の金属からなる電極や配線を含んでいても特性劣化を生じない。第1半導体素子104に電極が形成されていない場合、第2半導体素子124に接続する電極と第1半導体素子104に接続する電極とを同時に形成することができる。
【0041】
電磁波118を照射する工程では、光学機構116により電磁波118の経路が変化され、電磁波118を照射する部分が制御される。光学機構116は位置決め機構の一例である。光学機構116として、電磁波118を反射するミラー機構が挙げられる。
【0042】
電磁波118の照射強度を調整する照射強度調整機構をさらに有してもよく、位置決め機構である光学機構116に第1結晶層110の座標情報を予め入力し、光学機構116と照射強度調整機構とを制御することにより、目的とする第1結晶層110のみに電磁波118を照射することができる。照射強度調整機構として、電磁波118の発生源114への駆動電流を変調する機構、電磁波118の発生源114と第1結晶層110との間に設けたシャッター機構、電気光学素子あるいは音響光学素子等の光学変調機構、減光フィルターが挙げられる。電磁波118がレーザ光のように偏光特性を有している場合、照射強度調整機構として偏光子を用いてもよい。
【0043】
電磁波118として、レーザ光が挙げられる。電磁波118としてレーザ光を用いる場合、照射領域を小さくすることができる。電磁波118としてレーザ光を用いることは、局部的に大きな熱エネルギーを与えることができるので好ましい。
【0044】
電磁波118の波長は、第1結晶層110が吸収できる波長であることが好ましい。第1結晶層110に隣接する部分に電磁波118吸収部を設ける場合、電磁波118の波長は電磁波118吸収部が吸収できる波長であればよい。電磁波118吸収部を設けた場合、第1結晶層110が吸収できない波長の電磁波118を電磁波118吸収部が吸収し、当該電磁波118の吸収により得た熱エネルギーを第1結晶層110に伝えて第1結晶層110を加熱することができる。
【0045】
電磁波118として、時間的に変調されたもの、空間的に変調されたもの、または時間的空間的に変調されたものが挙げられる。電磁波118を時間的に変調する例として、電磁波118強度をパルス状に変化させる例が挙げられる。電磁波118強度をパルス状に変化させることは、駆動電流をパルス駆動すること、あるいは電磁波118の経路にシャッターを配置して当該シャッターの開閉を制御することで実現できる。電磁波118のパルス周期あるいはデューティ比と位置決め機構の動作速度とを調整することで、単位時間、単位面積当たりに照射される電磁波118エネルギーを調整することができる。また電磁波118のパルス周期を調整することで、電磁波118が照射される部分の温度を周期的に変化させることができる。昇温および降温が周期的に繰り返される熱処理を行うことで第1結晶層110中の転位排除を促進することができる。また、電磁波118強度をランプ状に変化させてもよい。なお、単位面積あたりに照射される電磁波118エネルギーは、電磁波118の経路にレンズ等の集光部材を配置し、被照射部での電磁波118のスポットの大きさを変化させることで調整できる。
【0046】
電磁波118を空間的に変調する例として、電磁波118の照射面における形状を点状あるいは線状に加工した電磁波118を照射面において掃引する例が挙げられる。電磁波118の照射面における形状は光路に配したレンズ、スリット等の光学部材で調整でき、電磁波118の掃引は可動反射鏡の駆動またはポリゴンミラーの回転により実現できる。これにより、電磁波118照射部の形状および位置と照射エネルギー密度を調整することができ、たとえば第1結晶層110を部分融解させ、当該部分融解部の移動による偏析を用いた結晶欠陥と不純物の排除が可能になる。電磁波118を時間的空間的に変調する例として、前記の時間的に変調する例と前記の空間的に変調する例とを組み合わせたものが挙げられる。
【0047】
第1結晶層110は複数形成されていてもよく、複数の第1結晶層110を有する場合、電磁波118をビームスプリッタで複数のビームに分離し、当該複数の電磁波118を複数の第1結晶層110にそれぞれ対応づけて、同時に照射してもよい。この場合、電磁波118を照射する処理のスループットを向上して生産性を高めることができる。
【0048】
電磁波118を照射する工程において、電磁波118を照射する雰囲気として、真空雰囲気または水素雰囲気が挙げられる。空気または窒素が充填された雰囲気で電磁波118を照射した場合、第1結晶層110の表面に穴が形成される場合がある。しかし、真空雰囲気または水素雰囲気で電磁波118を第1結晶層110に照射すると、そのような穴の形成を抑制することができ、良好な表面を有する第1結晶層110が得られる。その結果、第1結晶層110の上に結晶成長される化合物半導体結晶層122の結晶品質も向上する。水素雰囲気として、水素100%、あるいは水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気が挙げられる。水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気の場合、水素濃度は混合ガス雰囲気の90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。電磁波118を照射する工程における処理圧力として、20kPa以下の圧力が好ましい。
【0049】
図2(a)に示すように、電磁波118を照射した第1結晶層110の上に、化合物半導体結晶層122をエピタキシャル成長させる。化合物半導体結晶層122として、第1結晶層110、例えばGe結晶と格子整合または擬格子整合する結晶からなる多層構造を含むものが挙げられる。第1結晶層110として、GaAs層、AlGaAs層、InGaAs層、InGaP層、AlInGaP層が挙げられる。化合物半導体結晶層122をエピタキシャル成長させる方法として、有機金属気相成長法(以下MOCVD法と記することがある)、分子線エピタキシー法(以下MBE法と記することがある)が挙げられる。
【0050】
なお、第1結晶層110に電磁波118を照射した段階、あるいは第1結晶層110の上に化合物半導体結晶層122をエピタキシャル成長させた段階で、これら第1結晶層110あるいは化合物半導体結晶層122を形成したベース基板102は、独立して取引可能な半導体基板として観念できるので、当該段階までの製造方法において、半導体基板の製造方法の発明が把握できる。
【0051】
電磁波118を照射する工程と化合物半導体結晶層122をエピタキシャル成長させる工程とは連続して実施することが好ましい。すなわち電磁波118を照射する工程を実施した後、化合物半導体結晶層122をエピタキシャル成長させる工程を実施するまでの間、ベース基板102を内部に保持する処理室の大気開放を行わず、化合物半導体結晶層122をエピタキシャル成長させることが好ましい。これにより第1結晶層110の表面の汚染または酸化を抑えることができる。
【0052】
図2(b)に示すように、化合物半導体結晶層122に第2半導体素子124を形成する。第2半導体素子124は、活性領域が化合物半導体結晶層122である化合物半導体素子である。第2半導体素子124として、MOSFET、MISFET、HBT(Heterojunction Bipolar Transistor)、HEMT(High Electron Mobility Transistor)、半導体レーザ、発光ダイオード、発光サイリスタ、光センサー、受光ダイオード、太陽電池が挙げられる。これら各素子は、各素子の構造に応じて公知の方法により製造できる。
【0053】
図2(c)に示すように、第2半導体素子124と半導体基板の第1半導体素子104とを電気的に接続する。第1半導体素子104上の阻害体106の一部を除去し、第1半導体素子104と第2半導体素子124を配線126により電気的に接続する。このようにして本実施の形態の半導体デバイスが製造できる。化合物半導体結晶層122をエピタキシャル成長させる工程および第2半導体素子124を形成する工程において、第1半導体素子104の温度を600℃以下に保持することが好ましい。
【0054】
図3は、電磁波118を照射する工程の他の例を示した断面図である。図3に示すように、位置決め機構として、光学機構116に代えて、ベース基板102を保持するステージの位置調整機構112を用いてもよい。位置調整機構112は、図中矢印で示す方向に移動し、電磁波118の照射部を移動できる。
【実施例】
【0055】
市販の単結晶Si基板をベース基板102に用いた。この単結晶Si基板の表面に、熱酸化法によりSiOからなる阻害体106を形成した。阻害体106に、フォトリソグラフィによるパターニングで開口108を形成した。
【0056】
GeHを原料ガスとして用いる減圧CVD法により、開口108にGe層を第1結晶層110として選択的に成長させた。得られたGe層をレーザアニール装置にセットし、アニール処理を行った。レーザ光源には波長1064nmのNd:YVOレーザの3次高調波である355nmの光を用いた。Nd:YVOレーザに17Aの電流を注入し、周波数35kHzで変調駆動した。また、レーザ光はレンズで集光し、Ge層に照射した。照射の際、集光度を調節することで、Ge層表面でのレーザ光スポットを約50μmφとした。
【0057】
単結晶Si基板を1mm/秒の速度で走査させながら、レーザ照射によるアニール処理を行った。Ge層表面でのレーザ出力は、約300W/cm程度であると見積もられる。このようにしてアニール処理を行ったGe層の上に、化合物半導体結晶層122としてGaAs層をエピタキシャル成長させた。GaAs層の成長には、トリメチルガリウムとアルシンを原料とするMOCVD法を用いた。GaAs層のエピタキシャル成長では、低温GaAsバッファ層を介してGaAs層をエピタキシャル成長させる2段階成長法を用いた。
【0058】
図4(a)は、上記のようにして得られたGe層およびGaAs層の断面TEM像を示す。図4(b)は、比較として示した、アニール処理を施さない場合のGe結晶の断面TEM像である。図4(a)に示すように、アニール処理を施したGe層では、図4(b)のアニール処理を施さないGe層に比較してGe結晶中の転位数が大幅に減少していることがわかる。また、図4(a)に示すように、アニール処理を施した場合のGe層上のGaAs層には、転位が殆ど見られず、高品質なGaAs結晶が得られていることがわかる。このような高品質なGaAs結晶上にGaAsと格子整合あるいは擬格子整合する化合物半導体結晶を積層することで、高性能な化合物半導体デバイスを形成することができる。
【0059】
なお、上記実施の形態において、第1結晶層110と同時に形成される第2結晶層をさらに有してもよい。第2結晶層として、第2結晶層の上に形成される化合物半導体結晶に第2半導体素子124が形成されないものが挙げられる。そしてこのような第2結晶層は、第1結晶層110とは異なり電磁波118が照射されなくてもよい。
【0060】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システムおよび方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0061】
102 ベース基板、104 第1半導体素子、106 阻害体、108 開口、110 第1結晶層、112 位置調整機構、114 発生源、116 光学機構、118 電磁波、122 化合物半導体結晶層、124 第2半導体素子、126 配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がSiであるベース基板と、
前記ベース基板の上に形成され、組成がCSiGeSn1−x−y―z(0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1、かつ、0<x+y+z≦1)である第1結晶層と、
前記第1結晶層が形成された部分以外の前記ベース基板の上に形成された第1半導体素子と、
を有する半導体基板の製造方法であって、
前記第1半導体素子には電磁波を照射することがなく、前記第1結晶層の一部または全部に電磁波を照射する工程を有する
半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記電磁波を照射する工程において、前記電磁波を照射する部分が位置決め機構により制御され、
前記位置決め機構が、前記ベース基板を保持するステージの位置調整機構、および前記電磁波の経路を変化させる光学機構から選択された1以上の機構である
請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記電磁波は、レーザ光である
請求項1または請求項2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記電磁波は、時間的に変調されたもの、空間的に変調されたもの、または時間的空間的に変調されたものである
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記ベース基板の上に阻害体を形成する工程をさらに有し、
前記阻害体が、前記ベース基板に達する開口を有し、前記第1結晶層の成長を阻害し、
前記第1結晶層が、前記開口の内部の前記ベース基板の上に形成される
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記電磁波を照射する工程において、前記第1半導体素子の温度を600℃以下に保持する
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1結晶層の上に、化合物半導体結晶層をエピタキシャル成長させる工程、をさらに有する
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記化合物半導体結晶層は、第1結晶層と格子整合または擬格子整合する結晶からなる多層構造を含む
請求項7に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の方法で製造された半導体基板の前記化合物半導体結晶層に第2半導体素子を形成する工程と、
前記第2半導体素子と前記半導体基板の前記第1半導体素子とを電気的に接続する工程と、
を有する半導体デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記化合物半導体結晶層をエピタキシャル成長させる工程および前記第2半導体素子を形成する工程において、前記第1半導体素子の温度を600℃以下に保持する
請求項9に記載の半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−171685(P2011−171685A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36702(P2010−36702)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】