説明

半導体発光素子

【課題】高効率の半導体発光素子を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、n形の第1半導体層と、p形の第2半導体層と、第1半導体層と第2半導体層との間に設けられた発光部と、第1半導体層と発光部との間に設けられた多層構造体と、を備えた半導体発光素子が提供される。発光部は、交互に積層された、複数の障壁層と、複数の井戸層と、を含む。多層構造体は、交互に積層された、高バンドギャップエネルギー層と、複数の低バンドギャップエネルギー層と、を含む。高バンドギャップエネルギー層と、それに接する低バンドギャップエネルギー層と、のペアの平均In組成比は、第1半導体層の側よりも第2半導体層の側の方が高い。障壁層と、それに接する井戸層と、のペアの平均In組成比は、第1半導体層の側よりも第2半導体層の側の方が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)などの窒化物III−V族化合物半導体を応用して、高輝度の紫外〜青色・緑色発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)や青紫色〜青色・緑色レーザダイオード(LD:Laser Diode)などの半導体発光素子が開発されている。
【0003】
LEDの高効率化を図るためには、GaN系半導体の結晶性を高め、結晶の内部量子効率を高めることが重要である。紫外〜青色・緑色LEDの活性層に用いられるInGaNと、下地層に用いられるGaNとでは、格子定数差が大きいため歪みが加わり、圧電分極(ピエゾ分極)により、効率が低下し易い。
【0004】
例えば、活性層における第1GaN系化合物半導体層側の井戸層密度と、第2GaN系化合物半導体層側の井戸層密度とを調整することで、発光ピーク波長シフトの低減と輝度制御範囲の拡大とを試みる技術が知られている。
内部量子効率の向上のためには、改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−110090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、高効率の半導体発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によれば、第1半導体層と、第2半導体層と、発光部と、多層構造体と、を備えた半導体発光素子が提供される。前記第1半導体層は、窒化物半導体を含みn形である。前記第2半導体層は、窒化物半導体を含みp形である。前記発光部は、前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられ、交互に積層された、窒化物半導体を含む複数の障壁層と、前記複数の障壁層のバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有し窒化物半導体を含む複数の井戸層と、を含む。前記多層構造体は、前記第1半導体層と前記発光部との間に設けられ、交互に積層された、窒化物半導体を含む複数の高バンドギャップエネルギー層と、前記複数の高バンドギャップエネルギー層のバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有し窒化物半導体を含む複数の低バンドギャップエネルギー層と、を含む。
前記複数の高バンドギャップエネルギー層のうちのいずれかの前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xaと、層厚ta(ナノメートル)と、を有す。
前記いずれかの高バンドギャップエネルギー層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xbと、層厚tb(ナノメートル)と、を有す。
前記いずれかの高バンドギャップエネルギー層よりも前記第2半導体層の側に位置する他のいずれかの前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xcと、層厚tc(ナノメートル)と、を有す。
前記他のいずれかの高バンドギャップエネルギー層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xdと、層厚td(ナノメートル)と、を有す。
SA2=(xc・tc+xd・td)/(tc+td)は、SA1=(xa・ta+xb・tb)/(ta+tb)よりも高い。
【0008】
前記複数の障壁層のうちのいずれかの前記障壁層は、III族元素中におけるIn組成比yaと、層厚sa(ナノメートル)と、を有す。
前記いずれかの障壁層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記井戸層は、III族元素中におけるIn組成比ybと、層厚sb(ナノメートル)と、を有す。
前記いずれかの障壁層よりも前記第2半導体層の側に位置する他のいずれかの前記障壁層は、III族元素中におけるIn組成比ycと、層厚sc(ナノメートル)と、を有す。 前記他のいずれかの障壁層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記井戸層は、III族元素中におけるIn組成比ydと、層厚sd(ナノメートル)と、を有す。
EA2=(yc・sc+yd・sd)/(sc+sd)は、EA1=(ya・sa+yb・sb)/(sa+sb)よりも高い。前記EA1は、前記SA2以上である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示す模式図である。
【図2】実施形態に係る半導体発光素子を示す模式的断面図である。
【図3】実施形態に係る半導体発光素子の一部を示す模式的断面図である。
【図4】実施形態に係る半導体発光素子の一部を示す模式的断面図である。
【図5】半導体発光素子の特性を例示するグラフ図である。
【図6】実施形態に係る別の半導体発光素子の構成を示す模式図である。
【図7】図7(a)〜図7(h)は、実施形態に係る別の半導体発光素子を示す模式図である。
【図8】図8(a)〜図8(h)は、実施形態に係る別の半導体発光素子を示す模式図である。
【図9】半導体発光素子の特性を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
(実施の形態)
図1は、実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示する模式図である。
図2は、実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。
図3は、実施形態に係る半導体発光素子の一部の構成を例示する模式的断面図である。 図4は、実施形態に係る半導体発光素子の一部の構成を例示する模式的断面図である。
【0012】
まず、図2〜図3を用いて、実施形態に係る半導体発光素子110の構成の概要について説明する。
図2に表したように、実施形態に係る半導体発光素子110は、第1半導体層10と、第2半導体層20と、発光部30と、多層構造体40と、を備える。
【0013】
第1半導体層10は、窒化物半導体を含む。第1半導体層10は、n形である。
第2半導体層20は、窒化物半導体を含む。第2半導体層20は、p形である。
【0014】
ここで、第1半導体層10から第2半導体層20に向かう方向をZ軸方向(積層方向)とする。
【0015】
発光部30は、第1半導体層10と第2半導体層20との間に設けられる。
多層構造体40は、第1半導体層10と発光部30との間に設けられる。
【0016】
第1半導体層10には、例えば、n形GaN層が用いられる。第1半導体層10の厚さは、例えば4μm(マイクロメートル)程度である。第1半導体層10には、Si、Ge及びSnの少なくともいずれかのn形不純物がドーピングされる。本具体例では、n形不純物としてSiが用いられる。第1半導体層10におけるSiのドーピング量は、例えば約2×1018cm−3とされる。
【0017】
第2半導体層20は、例えば、第1p形層21と、第1p形層21と発光部30との間に設けられた第2p形層22と、第2p形層22と発光部30との間に設けられた第3p形層23と、第3p形層23と発光部30との間に設けられた第4p形層24と、を含む。
【0018】
第4p形層24には、例えばp形GaN層が用いられる。第3p形層23には、例えば、p形GaAlN層が用いられる。第3p形層23は、例えば電子オーバーフロー抑制層として機能する。第2p形層22には、例えば、p形GaN層が用いられる。第1p形層21には、例えばp形GaN層が用いられる。第1p形層21は、例えばコンタクト層として機能する。第2半導体層20には、Mg及びZnの少なくともいずれかのp形不純物がドーピングされる。本具体例では、p形不純物としてMgが用いられる。
【0019】
第4p形層24(p形GaN層)の厚さは、例えば30ナノメートル(nm)とされる。第4p形層24におけるMgのドーピング量は、例えば約4×1018cm−3程度とされる。なお、第4p形層24として、例えば約30nmの厚さの程度のIn0.01Ga0.99N層を用いても良い。
【0020】
第3p形層23には、例えば、Ga0.8Al0.2N層が用いられる。第3p形層23の厚さは、例えば、約10nmとされる。第3p形層23におけるMgのドーピング量は、例えば、約4×1018cm−3とされる。
【0021】
第2p形層22の厚さは、例えば約50nmとされる。第2p形層22におけるMgのドーピング量は、例えば約1×1019cm−3とされる。
【0022】
第1p形層21の厚さは、例えば約60nmとされる。第1p形層21におけるMgのドーピング量は、例えば約1×1020cm−3とされる。
【0023】
このように、半導体発光素子110に含まれる積層構造体10sは、第1半導体層10と、第2半導体層20と、発光部30と、多層構造体40と、を含む。
【0024】
半導体発光素子110は、第1半導体層10の多層構造体40とは反対の側に設けられた基板5と、基板5と第1半導体層10との間に設けられたバッファ層6と、をさらに備えることができる。すなわち、基板5の上に形成されたバッファ層6の上に積層構造体10sが形成される。基板5には、サファイア、GaN、SiC、Si及びGaAsなどの各種の材料を用いることができる。以下では、基板5にはサファイアが用いられるものとする。
【0025】
積層構造体10sの第2半導体層20の側の第1主面において、第1半導体層10の一部と、発光部30と、多層構造体40と、第2半導体層20と、の一部が除去され、第1主面の側において第1半導体層10が露出している。露出した第1半導体層10に接して第1電極71が設けられ、第2半導体層20に接して第2電極81が設けられる。さらに、第2電極81に接して第2電極側パッド部82を設けることができる。
【0026】
第2電極81には、酸化インジウム錫(ITO)が用いられる。第2電極81の厚さは、例えば約0.2μmとされる。第2電極側パッド部82には、例えばAuが用いられる。第2電極側パッド部82の厚さは、例えば約1.0μmとされる。
【0027】
第1電極71には、例えば、Au層と、Au層と第1半導体層10との間に設けられたPt層と、Pt層と第1半導体層10との間に設けられたTi層と、を含む複合膜(Ti膜/Pt膜/Au膜)が用いられる。Ti膜の厚さは例えば約0.05μmとされ、Pt膜の厚さは例えば約0.05μmとされ、Au膜の厚さは例えば約1.0μmとされる。
【0028】
なお、基板5上に上記の積層構造体10sを形成した後に、基板5及びバッファ層6は除去されても良い。すなわち、半導体発光素子110においては、基板5及びバッファ層6は必要に応じて設けられ、省略可能である。
【0029】
図3に表したように、発光部30は、交互に積層された複数の障壁層31と複数の井戸層32とを含む。複数の障壁層31は、窒化物半導体を含む。複数の井戸層32は、窒化物半導体を含む。複数の井戸層32のそれぞれは、複数の障壁層31のそれぞれのバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有する。
【0030】
複数の障壁層31と複数の井戸層32とは、Z軸方向に沿って交互に積層されている。発光部30は、3つ以上の障壁層31と、障壁層31どうしのそれぞれの間に設けられた井戸層32と、を含む多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構造を有する。
【0031】
障壁層31は、III族元素とV族元素とを含む窒化物半導体を含む。井戸層32は、III族元素とV族元素とを含む窒化物半導体を含む。井戸層32は、インジウム(In)とガリウム(Ga)を含む窒化物半導体を含む。
【0032】
ここで、障壁層31の数を(M+1)(Mは2以上の整数)とする。井戸層32の数をMとする。
【0033】
複数の障壁層31のうちで第1半導体層10に最も近い障壁層31を第1障壁層BLとする。そして、第1半導体層10から第2半導体層20に向かうZ軸の正の方向に沿って第2障壁層BL〜第(M+1)障壁層BLM+1がこの順で並ぶものとする。
すなわち、(i+1)番目(iは1以上M以下の整数)の障壁層31は、i番目の障壁層31よりも第2半導体層20の側に配置される。
【0034】
複数の井戸層32のうちで第1半導体層10に最も近い井戸層32を第1井戸層WLとする。そして、第1半導体層10から第2半導体層20に向かうZ軸の正の方向に沿って第2井戸層WL〜第M井戸層WLがこの順で並ぶとする。
i番目の井戸層32は、i番目の障壁層31と(i+1)番目の障壁層31との間に配置される。
【0035】
本具体例では、Mは8とされる。
第1障壁層BL〜第4障壁層BLには、5.0nmの厚さのGaN層が用いられる。第1井戸層WL〜第4井戸層WLには、2.5nmの厚さのアンドープのIn0.12Ga0.88N層が用いられる。
【0036】
第5障壁層BL〜第9障壁層BLには、5.0nmの厚さのGaN層が用いられる。第5井戸層WL〜第8井戸層WLには、2.5nmの厚さのアンドープのIn0.15Ga0.85N層が用いられる。
【0037】
このように、半導体発光素子110においては、発光部30において、井戸層32におけるIn組成比がZ軸方向に沿って変更されている。なお、井戸層32の一部であるIn0.15Ga0.85N層(厚さ2.5nm)における発光波長のピーク波長は、フォトルミネッセンス評価で450nmである。なお、井戸層32の一部であるIn0.12Ga0.88N層(厚さ2.5nm)における発光波長のピーク波長は、フォトルミネッセンス評価で425nmである。
【0038】
図4に表したように、多層構造体40は、交互に積層された複数の高バンドギャップエネルギー層41と複数の低バンドギャップエネルギー層42とを含む。複数の高バンドギャップエネルギー層41は、窒化物半導体を含む。複数の低バンドギャップエネルギー層42は、窒化物半導体を含む。複数の低バンドギャップエネルギー層42のそれぞれは、複数の高バンドギャップエネルギー層41のそれぞれバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有する。複数の低バンドギャップエネルギー層42のそれぞれは、複数の井戸層32のそれぞれバンドギャップエネルギーよりも高いバンドギャップエネルギーを有する。
多層構造体40は、例えば超格子層である。
【0039】
高バンドギャップエネルギー層41は、例えば、III族元素とV族元素とを含む窒化物半導体を含む。低バンドギャップエネルギー層42は、III族元素とV族元素とを含む窒化物半導体を含む。低バンドギャップエネルギー層42は、例えばInとGaを含む窒化物半導体を含む。
【0040】
複数の高バンドギャップエネルギー層41の数を(N+1)(Nは2以上の整数)とする。複数の低バンドギャップエネルギー層42の数をNとする。
【0041】
複数の高バンドギャップエネルギー層41のうちで第1半導体層10に最も近い高バンドギャップエネルギー層41を第1高バンドギャップエネルギー層HLとする。そして、第1半導体層10から第2半導体層20に向かうZ軸の正の方向に沿って第2高バンドギャップエネルギー層HL〜第(N+1)高バンドギャップエネルギー層HLN+1がこの順で並ぶとする。
すなわち、(i+1)番目(iは1以上N以下の整数)の高バンドギャップエネルギー層41は、i番目の高バンドギャップエネルギー層41よりも第2半導体層20の側に配置される。
【0042】
複数の低バンドギャップエネルギー層42のうちで第1半導体層10に最も近い低バンドギャップエネルギー層42を第1低バンドギャップエネルギー層LLとする。そして、第1半導体層10から第2半導体層20に向かうZ軸の正の方向に沿って第2低バンドギャップエネルギー層LL〜第N低バンドギャップエネルギー層LLがこの順で並ぶものとする。
i番目の低バンドギャップエネルギー層42は、i番目の高バンドギャップエネルギー層41と(i+1)番目の高バンドギャップエネルギー層41との間に配置される。
【0043】
本具体例では、Nは30とされる。
第1高バンドギャップエネルギー層HL〜第15高バンドギャップエネルギー層HL15には、3.0nmの厚さのGaN層が用いられる。第1低バンドギャップエネルギー層LL〜第15低バンドギャップエネルギー層LL15には、1.0nmの厚さのIn0.05Ga0.95N層が用いられる。
【0044】
第16高バンドギャップエネルギー層HL16〜第31高バンドギャップエネルギー層HL31には、3.0nmの厚さのGaN層が用いられる。第16低バンドギャップエネルギー層LL16〜第30低バンドギャップエネルギー層LL30には、1.0nmの厚さのIn0.09Ga0.91N層が用いられる。
【0045】
このように、半導体発光素子110においては、多層構造体40において、低バンドギャップエネルギー層42におけるIn組成比がZ軸方向に沿って変更されている。
【0046】
ここで、多層構造体40において、高バンドギャップエネルギー層41と、それに隣接する低バンドギャップエネルギー層42と、のペアに関する平均In組成比を定義する。 すなわち、複数の高バンドギャップエネルギー層41のうちのいずれかの高バンドギャップエネルギー層41は、III族元素中におけるIn組成比xuと、層厚tu(ナノメートル)と、を有する。In組成比xuを有する上記の高バンドギャップエネルギー層41と第1半導体層10の側または第2半導体層20の側で接する低バンドギャップエネルギー層42は、III族元素中におけるIn組成比xvと、層厚tv(ナノメートル)と、を有するとする。
【0047】
このとき、多層構造体40におけるペアの平均In組成比SPを(xu・tu+xv・tv)/(tu+tv)とする。
【0048】
本具体例においては、多層構造体40におけるペアの平均In組成比SPが、Z軸方向に沿って変化している。すなわち、Nが1〜15におけるペアにおいては、平均In組成比SP(N=1〜15)は、0.0125である。Nが16〜31におけるペアにおいては、平均In組成比SP(N=16〜30)は、0.0225である。
【0049】
同様に、発光部30において、障壁層31と、それに隣接する井戸層32と、のペアに関する平均In組成比を定義する。
すなわち、複数の障壁層31のうちのいずれかの障壁層31は、III族元素中におけるIn組成比yuと、層厚su(ナノメートル)と、を有する。In組成比yuを有する上記の障壁層31と第1半導体層10の側または第2半導体層20の側で接する井戸層32は、III族元素中におけるIn組成比yvと、層厚sv(ナノメートル)と、を有する。
【0050】
このとき、発光部30におけるペアの平均In組成比EPを(yu・su+yv・sv)/(su+sv)とする。
【0051】
本具体例においては、発光部30におけるペアの平均In組成比EPが、Z軸方向に沿って変化している。すなわち、Mが1〜4におけるペアにおいては、平均In組成比EP(M=1〜4)は、0.04である。Mが5〜8におけるペアにおいては、平均In組成比EP(M=5〜8)は、0.05である。
【0052】
図1は、多層構造体40における平均In組成比SP及び発光部30における平均In組成比EPを示している。横軸は、Z軸方向に沿った位置であり、縦軸は、平均In組成比SP及び平均In組成比EPである。
【0053】
図1に表したように、半導体発光素子110においては、多層構造体40の第1半導体層10の側の部分の平均In組成比SPよりも、多層構造体40の第2半導体層20の側の部分の平均In組成比SPの方が高く設定されている。そして、発光部30の第1半導体層10の側の部分の平均In組成比EPよりも、第2半導体層20の側の部分の平均In組成比EPの方が高く設定されている。そして、発光部30の第1半導体層10の側の部分の平均In組成比EPは、多層構造体40の第2半導体層20の側の部分の平均In組成比SPよりも高く設定されている。
【0054】
これにより、基板5から発光部30に伝播する転位や欠陥を抑制しつつ、結晶歪みを調整することが可能となる。これにより、内部量子効率が向上する。これにより高効率の半導体発光素子が提供できる。さらに、結晶歪みが局所的に高くなることが抑制されるため、信頼性が向上できる。
【0055】
以下、半導体発光素子110の製造方法の例について説明する。積層構造体10sの結晶成長には、例えば有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)が用いられる。この他、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)を用いても良い。
【0056】
サファイアの基板5の上に、バッファ層6を形成した後、第1半導体層10の結晶を成長させる。
【0057】
第1半導体層10の上に上記の多層構造体40の結晶を、例えば700℃以上800℃以下の温度で成長させる。
【0058】
多層構造体40の上に、上記の発光部30の結晶を、例えば700℃以上800℃以下の温度で成長させる。
【0059】
発光部30の上に、第4p形層24(GaN層)の結晶を例えば1000℃以上1100℃以下の温度で成長させる。なお、第4p形層24としてIn0.01Ga0.99Nを用いる場合には、成長温度は例えば700℃以上800℃以下とされる。
【0060】
第4p形層24の上に、第3p形層23のGa0.8Al0.2Nの結晶を、例えば1000℃以上1100℃以下の温度で成長させる。第3p形層23の上に、第2p形層22のGaNの結晶を例えば1000℃以上1100℃以下の温度で成長させる。第2p形層22の上に、第1p形層21のGaNの結晶を成長させる。
【0061】
このようにして積層構造体10sが形成される。
積層構造体10sの第1p形層21の上に、ITO膜を形成し、ITO膜を所定の形状に加工して第2電極81を形成する。さらに、Au膜を形成し、Au膜を所定の形状に加工して第2電極側パッド部82を形成する。
【0062】
積層構造体10sの一部をエッチングし、第1半導体層10の一部を露出させ、露出した第1半導体層10の一部の上に、第1電極71を形成する。
これにより、図1〜図4に例示した半導体発光素子が形成される。
【0063】
図5は、半導体発光素子の特性を例示するグラフ図である。
同図においては、実施形態に係る半導体発光素子110の特性の他に、第1参考例の半導体発光素子119a及び第2参考例の半導体発光素子119bの特性も例示されている。
【0064】
第1参考例の半導体発光素子119aにおいては、発光部30に含まれる全ての障壁層31及び井戸層32の構成が一定とされる。すなわち、第1障壁層BL〜第9障壁層BLには、5.0nmの厚さのGaN層が用いられる。第1井戸層WL〜第8井戸層WLは、2.5nmの厚さのアンドープのIn0.15Ga0.88N層が用いられる。すなわち、発光部30における平均In組成比EPは、0.5で一定である。
【0065】
そして、半導体発光素子119aにおいては、多層構造体40に含まれる全ての高バンドギャップエネルギー層41及び低バンドギャップエネルギー層42の構成が一定とされる。すなわち、第1高バンドギャップエネルギー層HL〜第31高バンドギャップエネルギー層HL31には、3.0nmの厚さのGaN層が用いられる。第1低バンドギャップエネルギー層LL〜第30低バンドギャップエネルギー層LL30には、1nmの厚さのIn0.09Ga0.91N層が用いられる。すなわち、多層構造体40における平均In組成比SPは、0.225で一定である。
【0066】
第2参考例の半導体発光素子119bの発光部30の構成は、半導体発光素子110における発光部30の構成と同様とされる。すなわち、半導体発光素子119bの発光部30におけるペアの平均In組成比EPは、第1半導体層10の側の部分では0.04であり、第2半導体層20の側の部分では0.05である。
【0067】
そして、半導体発光素子119bの多層構造体40の構成は、第1参考例の半導体発光素子119aと同様である。すなわち、多層構造体40における平均In組成比SPは、0.0225で一定である。
【0068】
図5の横軸は、半導体発光素子に流れる電流If(ミリアンペア:mA)であり、縦軸は発光効率Effである。
図5に表したように、第1参考例の半導体発光素子119aにおいては、発光効率Effは低い。半導体発光素子119aにおける発光効率Effの最大値は、0.61である。
【0069】
図5に表したように、第2参考例の半導体発光素子119bにおいては、発光効率Effは半導体発光素子119aよりも高い。半導体発光素子119bにおける発光効率Effの最大値は0.72であり、半導体発光素子119aに比べて高い。
【0070】
図5に表したように、実施形態に係る半導体発光素子110においては、発光効率Effは半導体発光素子119bよりもさらに高い。半導体発光素子110における発光効率Effの最大値は0.78である。このように、実施形態においては、第2参考例に比べてさらに高い発光効率Effが得られる。
【0071】
第2参考例の半導体発光素子119bにおいて、第1参考例の半導体発光素子119aに比べて発光効率Effが向上したのは、発光部30において平均In組成比を変化させることで、発光部30の結晶の欠陥や転位が抑制されたためと考えられる。
【0072】
そして、実施形態に係る半導体発光素子110において、第2参考例の半導体発光素子119bよりもさらに発光効率Effがさらに向上したのは、多層構造体40における平均In組成比SPを変化させることで、基板5から発光部30に伝播する転位や欠陥が抑制され、結晶歪みが適切に調整されたためだと考えられる。これにより内部量子効率が向上できる。実施形態によれば高効率の半導体発光素子が得られる。さらに、発光部30における歪みが抑制されることから、信頼性が向上する。
【0073】
なお、半導体発光素子の超格子層において、交互層の厚さを変更することが知られているが、多層構造体40における平均In組成比SPをZ軸方向に沿って変化させる(例えば、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側に高い)ことは知られていない。また、半導体発光素子の活性層において井戸層密度を変更することが知られているが、発光部30における平均In組成比EPをZ軸方向に沿って変化させること、及び、多層構造体40における平均In組成比SPをZ軸方向に沿って変化させることは知られていない。
【0074】
実施形態に係る半導体発光素子110においては、多層構造体40の第2半導体層20の側の部分における平均In組成比SPを第1半導体層10の側の部分の平均In組成比SPよりも高くすることで、基板5から発光部30に伝播する転位や欠陥が抑制され、結晶歪みが適切に調整される。これにより、効率が向上し、さらに、信頼性も向上される。
【0075】
なお、高バンドギャップエネルギー層41、低バンドギャップエネルギー層42、障壁層31及び井戸層32のそれぞれの厚さは、例えば透過電子顕微鏡観察などの方法により測定できる。また、これらの層における組成は、例えばSIMS(secondary-ion mass spectrometry)手法などを応用した分析によって測定できる。これらの測定結果に基づいて、平均In組成比を求めることができる。
【0076】
図6は、実施形態に係る別の半導体発光素子の構成を例示する模式図である。
図6に表したように、半導体発光素子110aの発光部30の構成は、半導体発光素子110と同様である。すなわち、発光部30における平均In組成比EPは、第1半導体層10の側の部分では0.04であり、第2半導体層20の側の部分では、0.05である。
【0077】
そして、半導体発光素子110aにおいては、多層構造体40の構成が、N=1〜20と、N=21〜30とで、変更された。すなわち、第1高バンドギャップエネルギー層HL〜第20高バンドギャップエネルギー層HL20には、3.0nmの厚さのGaN層が用いられ、第1低バンドギャップエネルギー層LL〜第20低バンドギャップエネルギー層LL20には、1.0nmの厚さのIn0.05Ga0.95N層が用いられる。そして、第21高バンドギャップエネルギー層HL21〜第31高バンドギャップエネルギー層HL31には、3.0nmの厚さのGaN層が用いられ、第21低バンドギャップエネルギー層LL21〜第30低バンドギャップエネルギー層LL30には、1.0nmの厚さのIn0.09Ga0.91N層が用いられる。
【0078】
このような構成の半導体発光素子110aにおいては、発光効率Effの最大値は、0.78であり、半導体発光素子110と同等の高い性能が得られる。すなわち、半導体発光素子110aにおいても、第1参考例及び第2参考例よりも高い発光効率Effが得られる。このように、多層構造体40における平均In組成比の特性は種々の変形が可能である。
【0079】
多層構造体40の第2半導体層20の側の部分の平均In組成比SPは、多層構造体40の第1半導体層10の側の部分の平均In組成比SPよりも高く設定される。
【0080】
すなわち、複数の高バンドギャップエネルギー層41のうちのいずれかの高バンドギャップエネルギー層41は、III族元素中におけるIn組成比xaと、層厚ta(ナノメートル)と、を有するものとする。上記のいずれかの高バンドギャップエネルギー層41と第1半導体層10の側または第2半導体層20の側で接する低バンドギャップエネルギー層42は、III族元素中におけるIn組成比xbと、層厚tb(ナノメートル)と、を有するものとする。
【0081】
そして、上記のいずれかの高バンドギャップエネルギー層41よりも第2半導体層20の側に位置する他のいずれかの高バンドギャップエネルギー層41は、III族元素中におけるIn組成比xcと、層厚tc(ナノメートル)と、を有するものとする。上記の他のいずれかの高バンドギャップエネルギー層41と第1半導体層10の側または第2半導体層20の側で接する低バンドギャップエネルギー層42は、III族元素中におけるIn組成比xdと、層厚td(ナノメートル)と、を有するものとする。
【0082】
このとき、多層構造体40において、第2半導体層20の側に位置する任意のペアの平均In組成比SA2は、(xc・tc+xd・td)/(tc+td)で表される。一方、第1半導体層10の側に位置する任意ペアの平均In組成比SA1は、(xa・ta+xb・tb)/(ta+tb)で表される。実施形態においては、SA2は、SA1よりも高く設定される。
これにより、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率が高くなる。
【0083】
図7(a)〜図7(h)は、実施形態に係る別の半導体発光素子の構成を例示する模式図である。
すなわち、これらの図は、多層構造体40における平均In組成比SPの特性を例示している。
【0084】
図7(a)に表したように実施形態に係る半導体発光素子111aにおいては、多層構造体40における平均In組成比SPは、第1半導体層10から第2半導体層20に向かう方向(Z軸の正の方向)に進むに従って、連続的に増大している。本具体例では、平均In組成比SPの上昇の傾きは一定であるが、傾きは変化しても良い。
【0085】
図7(b)に表したように実施形態に係る半導体発光素子111bにおいては、多層構造体40における平均In組成比SPは、2つの値を有している。第1半導体層10の側の部分の平均In組成比SPよりも、第2半導体層20の側の部分の平均In組成比SPの方が高い。このように、平均In組成比SPは1つステップで変化している。なお、図1及び図6に関して説明したように、平均In組成比SPが変化するZ軸方向に沿った位置は任意である。
【0086】
図7(c)に表したように実施形態に係る半導体発光素子111cにおいては、多層構造体40における平均In組成比SPは2つステップで変化している。
【0087】
図7(d)に表したように実施形態に係る半導体発光素子111dにおいては、多層構造体40における平均In組成比SPは3つステップで変化している。
【0088】
図7(e)に表したように実施形態に係る半導体発光素子111eの多層構造体40においては、平均In組成比SPが低い一定値の領域と、高い一定値の領域と、それらの間において平均In組成比SPが連続的に変化する領域と、が設けられている。
【0089】
このように、多層構造体40における平均In組成比SPは、連続的に変化しても良く、また、1つ以上のステップで段階的に変化しても良い。
【0090】
このように、多層構造体40における平均In組成比SPは、第1半導体層10から第2半導体層20への方向に向かって漸増する。すなわち、平均In組成比SPは、第1半導体層10から第2半導体層20への方向に向かって、連続的または不連続的(段階的)に上昇することができる。なお、平均In組成比SPの変化におけるステップの数は、任意である。
【0091】
これにより、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率が向上できる。
【0092】
ただし、実施形態はこれに限らない。例えば、平均In組成比SPが、第1半導体層10から第2半導体層20への方向に向かって連続的または不連続的(段階的)に上昇するうちに、一部の狭い領域で、平均In組成比SPが減少することがあっても良い。
【0093】
図7(f)に表したように実施形態に係る半導体発光素子111fにおいては、第1半導体層10から第2半導体層20に向かって進むにつれて、平均In組成比SPが小さい値の領域r1があり、その後、平均In組成比SPが領域r1よりも高い領域r2があり、その後、平均In組成比SPが領域r2よりも低く領域r1よりも高い領域r3があり、その後、平均In組成比SPが領域r2よりも高い領域r4がある。領域r2の幅(Z軸方向に沿った長さ)は、領域r1や領域r3に比べて小さい。この場合も、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率を向上できる。すなわち、多層構造体40において、平均In組成比SPの大まかな値が、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側の部分の方が高ければ良い。
【0094】
図7(g)に表したように実施形態に係る半導体発光素子111gにおいては、第1半導体層10から第2半導体層20に向かって進むにつれて平均In組成比SPが上昇した後、第2半導体層20の近傍部分で平均In組成比SPが低下する。この場合も、平均In組成比SPの大まかな値は、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側の部分の方が高い。
【0095】
図7(h)に表したように実施形態に係る半導体発光素子111hにおいては、第1半導体層10の近傍部分の平均In組成比SPは比較的高く、第1半導体層10から第2半導体層20に向かって進むにつれて、平均In組成比SPが低い広い領域が存在し、さらに第1半導体層10から第2半導体層20に向かって進むにつれて平均In組成比SPが上昇した後、第2半導体層20の近傍で平均In組成比SPが低下する。この場合も、平均In組成比SPの大まかな値は、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側の部分の方が高い。
半導体発光素子111g及び111hにおいても、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率を向上できる。
【0096】
実施形態に係る半導体発光素子においては、例えば、多層構造体40の第2半導体層20の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比SPが、多層構造体40の第1半導体層10の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比SPよりも高い。
【0097】
ここで、上記においては、第1半導体層10に最も近い低バンドギャップエネルギー層42(第1低バンドギャップエネルギー層LL)と第1半導体層10との間に高バンドギャップエネルギー層41が配置される例を説明したが、第1低バンドギャップエネルギー層LLと第1半導体層10との間には、高バンドギャップエネルギー層41が設けられなくても良い。また、第2半導体層20に最も近い第N低バンドギャップエネルギー層LLと第2半導体層20との間に高バンドギャップエネルギー層41が配置される例を説明したが、第N低バンドギャップエネルギー層LLと第2半導体層20との間には、高バンドギャップエネルギー層41が設けられなくても良い。
【0098】
この場合においても、(i+1)番目(iは1以上の整数)の低バンドギャップエネルギー層42(第(i+1)低バンドギャップエネルギー層LLi+1)は、i番目の低バンドギャップエネルギー層42(第i低バンドギャップエネルギー層LL)よりも第2半導体層20の側に配置される。そして、(i+1)番目(iは1以上の整数)の高バンドギャップエネルギー層41(第(i+1)高バンドギャップエネルギー層HLi+1)は、i番目の高バンドギャップエネルギー層41(第i高バンドギャップエネルギー層HL)よりも第2半導体層20の側に配置される。例えば、第1低バンドギャップエネルギー層LLと第1半導体層10との間に、高バンドギャップエネルギー層41が設けられない場合には、第1低バンドギャップエネルギー層LLと第2低バンドギャップエネルギー層LLとの間に第1高バンドギャップエネルギー層HLが設けられる。
【0099】
i番目の高バンドギャップエネルギー層41(第i高バンドギャップエネルギー層HL)は、III族元素中におけるIn組成比xhと、層厚th(ナノメートル)と、を有するものとする。
そして、i番目の低バンドギャップエネルギー層42(第i低バンドギャップエネルギー層LL)は、III族元素中におけるIn組成比xlと、層厚tl(ナノメートル)と、を有するものとする。
【0100】
低バンドギャップエネルギー層42の数は、N(Nは2以上の整数)である。Nの2分の1以下の最大の整数をNLHとする。
【0101】
NLH番目の低バンドギャップエネルギー層42(第NLH低バンドギャップエネルギー層LLNLH)よりも第1半導体層10の側に位置する高バンドギャップエネルギー層41の数をNHHとする。NHHは、例えばNLHと同じ、または、(NLH−1)である。
【0102】
(NLH−1)番目の低バンドギャップエネルギー層42(第(NLH−1)低バンドギャップエネルギー層LLNLH−1)よりも第2半導体層20の側に位置する高バンドギャップエネルギー層41の数をNHRとする。(NHH+NHR)は、(N−1)またはNまたは(N+1)である。
【0103】
このとき、平均In組成比SH1を、
【数1】


とする。平均In組成比SH1は、多層構造体40の第1半導体層10の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比SPに相当する。
【0104】
そして、平均In組成比SH2を、
【数2】


とする。平均In組成比SH2は、多層構造体40の第2半導体層20の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比SPに相当する。
【0105】
このとき、実施形態においては、平均In組成比SH2は、平均In組成比SH1よりも高く設定される。
このように、多層構造体40における平均In組成比SPの大まかな値が、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側の部分の方が高く設定されることで、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率が向上できる。
【0106】
さらに、実施形態に係る半導体発光素子は、上記のように多層構造体40における平均In組成比SPがZ軸方向に沿って変化することに加え、発光部30における平均In組成比EPがZ軸方向に沿って変化する。
【0107】
すなわち、発光部30の第2半導体層20の側の部分の平均In組成比EPは、発光部30の第1半導体層10の側の部分の平均In組成比EPよりも高く設定される。
【0108】
すなわち、複数の障壁層31のうちのいずれかの障壁層31は、III族元素中におけるIn組成比yaと、層厚sa(ナノメートル)と、を有するものとする。上記のいずれかの障壁層31と第1半導体層10の側または第2半導体層20の側で接する井戸層32は、III族元素中におけるIn組成比ybと、層厚sb(ナノメートル)と、を有するものとする。
【0109】
上記のいずれかの障壁層31よりも第2半導体層20の側に位置する他のいずれかの障壁層31は、III族元素中におけるIn組成比ycと、層厚sc(ナノメートル)と、を有するものとする。上記の他のいずれかの障壁層31と第1半導体層10の側または第2半導体層20の側で接する井戸層32は、III族元素中におけるIn組成比ydと、層厚sd(ナノメートル)と、を有するものとする。
【0110】
このとき、発光部30において、第2半導体層20の側に位置する任意ペアの平均In組成比EA2は(yc・sc+yd・sd)/(sc+sd)で表される。一方、第1半導体層10の側に位置するペアの平均In組成比EA1は(ya・sa+yb・sb)/(sa+sb)で表される。実施形態においては、EA2は、EA1よりも高く設定される。
これにより、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率が高くなる。
【0111】
図8(a)〜図8(h)は、実施形態に係る別の半導体発光素子の構成を例示する模式図である。
すなわち、これらの図は、発光部30における平均In組成比EPの特性を例示している。
【0112】
図8(a)に表したように実施形態に係る半導体発光素子112aにおいては、発光部30における平均In組成比EPは、第1半導体層10から第2半導体層20に向かう方向(Z軸の正の方向)に進むに従って、連続的に増大している。本具体例では、平均In組成比EPの上昇の傾きは一定であるが、傾きは変化しても良い。
【0113】
図8(b)に表したように実施形態に係る半導体発光素子112bにおいては、発光部30における平均In組成比EPは、2つの値を有している。第1半導体層10の側の部分の平均In組成比EPよりも、第2半導体層20の側の部分の平均In組成比EPの方が高い。このように、平均In組成比EPは1つステップで変化している。なお、平均In組成比EPが変化するZ軸方向に沿った位置は任意である。
【0114】
図8(c)に表したように実施形態に係る半導体発光素子112cにおいては、発光部30における平均In組成比EPは2つステップで変化している。
【0115】
図8(d)に表したように実施形態に係る半導体発光素子112dにおいては、発光部30における平均In組成比SPは3つステップで変化している。
【0116】
図8(e)に表したように実施形態に係る半導体発光素子112eにおいては、平均In組成比EPが低い一定値の領域と、高い一定値の領域と、それらの間において平均In組成比EPが連続的に変化する領域と、が設けられている。
【0117】
このように、発光部30における平均In組成比EPは、連続的に変化しても良く、また、1つ以上のステップで段階的に変化しても良い。
【0118】
このように、発光部30における平均In組成比EPは、第1半導体層10から第2半導体層20への方向に向かって漸増する。すなわち、平均In組成比EPは、第1半導体層10から第2半導体層20への方向に向かって、連続的または不連続的(段階的)に上昇することができる。なお、平均In組成比EPの変化におけるステップの数は、任意である。
【0119】
これにより、発光部30における転位や欠陥の発生がさらに抑制され、発光効率がさらに向上できる。
【0120】
ただし、実施形態はこれに限らない。例えば、平均In組成比EPが、第1半導体層10から第2半導体層20への方向に向かって連続的または不連続的(段階的)に上昇するうちに、一部の狭い領域で、平均In組成比EPが減少することがあっても良い。
【0121】
図8(f)に表したように実施形態に係る半導体発光素子112fにおいては、第1半導体層10から第2半導体層20に向かって進むにつれて、平均In組成比EPが小さい値の領域r5があり、その後、平均In組成比EPが領域r5よりも高い領域r6があり、その後、平均In組成比EPが領域r6よりも低く領域r5よりも高い領域r7があり、その後、平均In組成比EPが領域r6よりも高い領域r8がある。領域r6の幅(Z軸方向に沿った長さ)は、領域r5や領域r7に比べて小さい。この場合も、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率を向上できる。すなわち、発光部30において、平均In組成比EPの大まかな値が、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側の部分の方が高ければ良い。
【0122】
図8(g)に表したように実施形態に係る半導体発光素子112gにおいては、第1半導体層10から第2半導体層20に向かって進むにつれて平均In組成比EPが上昇した後、第2半導体層20の近傍部分で平均In組成比EPが低下する。この場合も、平均In組成比EPの大まかな値は、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側の部分の方が高い。
【0123】
図8(h)に表したように実施形態に係る半導体発光素子112hにおいては、多層構造体40の近傍部分の平均In組成比EPは比較的高く、第1半導体層10から第2半導体層20に向かって進むにつれて、平均In組成比EPが低い広い領域が存在し、さらに第1半導体層10から第2半導体層20に向かって進むにつれて平均In組成比EPが上昇した後、第2半導体層20の近傍で平均In組成比EPが低下する。この場合も、平均In組成比EPの大まかな値は、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側の部分の方が高い。
半導体発光素子112g及び112hにおいても、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率を向上できる。
【0124】
発光部30の第2半導体層20の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比EPが、発光部30の第1半導体層10の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比EPよりも高ければ良い。
【0125】
ここで、上記においては、第1半導体層10に最も近い井戸層32(第1井戸層WL)と第1半導体層10との間に障壁層31が配置される例を説明したが、第1井戸層WLと第1半導体層10との間には、障壁層31が設けられなくても良い。また、第2半導体層20に最も近い第M井戸層WLと第2半導体層20との間に障壁層31が配置される例を説明したが、第M井戸WLと第2半導体層20との間には、障壁層31が設けられなくても良い。
【0126】
この場合においても、(j+1)番目(jは1以上の整数)の井戸層32(第(j+1)井戸層WLj+1)は、j番目の井戸層32(第j井戸層WL)よりも第2半導体層20の側に配置される。そして、(j+1)番目(jは1以上の整数)の障壁層31(第(j+1)障壁層BLj+1)は、j番目の障壁層31(第j障壁層BL)よりも第2半導体層20の側に配置される。例えば、第1井戸層WLと第1半導体層10との間に、障壁層31が設けられない場合には、第1井戸層WLと第2井戸層WLとの間に第1障壁層BLが設けられる。
【0127】
j番目の障壁層31(第j障壁層BL)は、III族元素中におけるIn組成比yhと、層厚sh(ナノメートル)と、を有するものとする。
そして、j番目の井戸層32(第j井戸層WL)は、III族元素中におけるIn組成比ylと、層厚sl(ナノメートル)と、を有するものとする。
【0128】
井戸層32の数は、M(Mは2以上の整数)である。Mの2分の1以下の最大の整数をMLHとする。
【0129】
MLH番目の井戸層32(第MLH井戸層WLMLH)よりも第1半導体層10の側に位置する障壁層31の数をMHHとする。MHHは、例えばMLHと同じ、または、(MLH−1)である。
【0130】
(MLH−1)番目の井戸層32(第(MLH−1)井戸層WLMLH−1)よりも第2半導体層20の側に位置する障壁層31の数をMHRとする。(MHH+MHR)は、(M−1)またはMまたは(M+1)である。
【0131】
平均In組成比EH1を、
【数3】


とする。平均In組成比EH1は、発光部30の第1半導体層10の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比EPに相当する。
【0132】
平均In組成比EH2を、
【数4】


とする。平均In組成比EH2は、発光部30の第2半導体層20の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比EPに相当する。
【0133】
このとき、実施形態においては、平均In組成比SH2は、平均In組成比SH1よりも高く設定される。
【0134】
このように、発光部30における平均In組成比EPの大まかな値が、第1半導体層10の側の部分よりも第2半導体層20の側の部分の方が高く設定されることで、発光部30における転位や欠陥の発生がさらに抑制され、発光効率がさらに向上できる。
【0135】
上記においては、多層構造体40内における平均In組成比SP、及び、発光部30内における平均In組成比EPに関して説明した。以下では平均In組成比SPと、平均In組成比EPと、の関係について説明する。
【0136】
実施形態においては、発光部30における平均In組成比EPは、多層構造体40における平均In組成比SP以上に設定されることが望ましい。
【0137】
既に説明したように、多層構造体40において、第2半導体層20の側に位置する任意のペアの平均In組成比SA2=(xc・tc+xd・td)/(tc+td)は、第1半導体層10の側に位置する任意ペアの平均In組成比SA1=(xa・ta+xb・tb)/(ta+tb)よりも高く設定される。すなわち、1<(SA2/SA1)とされる。そして、発光部30において、第2半導体層20の側に位置する任意ペアの平均In組成比EA2=(yc・sc+yd・sd)/(sc+sd)は、第1半導体層10の側に位置するペアの平均In組成比EA1=(ya・sa+yb・sb)/(sa+sb)よりも高く設定される。
【0138】
このとき、上記のEA1は、上記のSA2以上に設定されることが望ましい。すなわち、平均In組成は、第1半導体層10から第2半導体層20に向かって上昇することが望ましい。すなわち、SA1<SA2≦EA1<EA2が満たされることが望ましい。すなわち、(SA2/SA1)≦(EA1/SA1)が満たされる。そして、(SA2/SA1)<(EA2/SA1)が満たされる。
【0139】
そして、既に説明したように、多層構造体40に関して、1<(SH2/SH1)とされる。同様に、発光部30における第1半導体層10の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比に相当する平均In組成比EH1は、多層構造体40における第2半導体層20の側の実質的に2分の1の部分における平均In組成比に相当する平均In組成比SH2以上に設定されることが望ましい。すなわち、SH1<SH2≦EH1<EH2が満たされることが望ましい。すなわち、(SH2/SH1)≦(EH1/SH1)が満たされる。そして、(SH2/SH1)<(EH2/SH1)が満たされる。
【0140】
このように、平均In組成比を第1半導体層10から第2半導体層20に向かう方向に沿って徐々に高めることで、発光部30における転位や欠陥の発生がさらに抑制され、発光効率をさらに向上できる。
【0141】
ここで、多層構造体40における平均In組成比SPの変化を過度に大きくすると、多層構造体40の結晶において歪みが大きくなり過ぎて、転位や欠陥が発生し易くなる。従って、平均In組成比SPの変化の程度は、一定以下に設定されることが望ましい。
【0142】
一方、発光部30における平均In組成比EPの変化を過度に大きくすると、発光部30の結晶において歪みが大きくなり過ぎて、転位や欠陥が発生し易くなる。従って、平均In組成比EPの変化の程度は、一定以下に設定されることが望ましい。すなわち、多層構造体40の第1半導体層10の側の平均In組成比SPに対する、発光部30の第2半導体層20の側の平均In組成比EPの比率は一定以下に設定されることが望ましい。
【0143】
図9は、半導体発光素子の特性を例示する模式図である。
すなわち、同図は、多層構造体40及び発光部30の構成を種々変化させたときの半導体発光素子の発光効率Effを例示している。
【0144】
図9の横軸は、多層構造体40の第1半導体層10の側の平均In組成比SPに対する、多層構造体40の第2半導体層20の側の平均In組成比SPの比率SRである。比率SRは、例えば(SA2/SA1)である。比率SRは、例えば(SH2/SH1)としても良い。また、比率SRは、多層構造体40において最も第2半導体層20に近い高バンドギャップエネルギー層41とそれに隣接する低バンドギャップエネルギー層42とのペアにおける平均In組成比SPと、多層構造体40において最も第1半導体層10に近い高バンドギャップエネルギー層41とそれに隣接する低バンドギャップエネルギー層42とのペアにおける平均In組成比SPと、の比としても良い。
【0145】
図9の縦軸は、多層構造体40の第1半導体層10の側の平均In組成比SPに対する、発光部30の第2半導体層20の側の平均In組成比EPの比率ERである。比率ERは、例えば(EA2/SA1)である。比率ERは、例えば(EH2/SH1)としても良い。また、比率ERは、発光部30において最も第2半導体層20に近い障壁層31とそれに隣接する井戸層32とのペアにおける平均In組成比EPと、多層構造体40において最も第1半導体層10に近い高バンドギャップエネルギー層41とそれに隣接する低バンドギャップエネルギー層42とのペアにおける平均In組成比SPと、の比としても良い。
【0146】
図9において丸印は、発光効率Effが0.65以上であることを示し、三角印は、発光効率Effが0.65よりも低いことを示している。
【0147】
上記で説明した実施形態に係る半導体発光素子110においては、比率SRは1.8であり、比率ERは4である。第1参考例の半導体発光素子119aにおいては、比率SRは1であり、比率ERは2である。第2参考例の半導体発光素子119bにおいては、比率SRは1であり、比率ERは4である。
【0148】
図9に表したように、比率ERが比率SR以下のときは発光効率Effが0.65よりも低い。すなわち、発光部30の第2半導体層20の側の部分の平均In組成比EP(例えばEA2及びEH2の少なくともいずれか)が、多層構造体40の第1半導体層10の側の部分の平均In組成比SP(例えば、SA1及びSH1の少なくともいずれか)以下のときは、発光効率Effが低い。この条件の場合には、発光部30の結晶に適切な歪みが加わらないため、効率が低下すると考えられる。
【0149】
実施形態に係る半導体発光素子においては、多層構造体40及び発光部30における平均In組成比は、図9においてハッチングで示された領域RAの条件に設定される。
【0150】
すなわち、SR<ERとされる。例えば、SA1<EA2とされる。例えば、SH1<EH2とされる。これにより、発光部30の第2半導体層20の側の部分の平均In組成比EPが、多層構造体40の第1半導体層10の側の部分の平均In組成比SPよりも大きくなり、発光部30の結晶に適切な歪みが加わり、効率が向上する。
【0151】
そして、1<SRとされる。例えば、SA1<SA2とされる。例えば、SH1<SH2とされる。これにより、多層構造体40における平均In組成比を、第1半導体層10側の部分よりも第2半導体層20の側の部分で高めることで、発光部30における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率を向上できる。
【0152】
そして、SR≦3とされる。例えば、(SA2/SA1)≦3とされる。例えば、(SH2/SH1)≦3とされる。これにより、多層構造体40において圧縮歪みが過度に大きくなることが抑制され効率が向上する。
【0153】
さらに、ER≦5とされる。例えば、(EA2/SA1)≦5とされる。例えば(EH2/SH1)≦5とされる。これにより、発光部30において圧縮歪みが過度に大きくなることが抑制され効率が向上する。
【0154】
このように、上記のSA2は、上記のSA1の3倍以下に設定されることが望ましい。上記のSH2は、上記のSH1の3倍以下に設定されることが望ましい。例えば、多層構造体40において最も第2半導体層20に近い高バンドギャップエネルギー層41とそれに隣接する低バンドギャップエネルギー層42とのペアにおける平均In組成比SPは、多層構造体40において最も第1半導体層10に近い高バンドギャップエネルギー層41とそれに隣接する低バンドギャップエネルギー層42とのペアにおける平均In組成比SPの3倍以下であることが望ましい。
【0155】
そして、上記EA2は、上記のSA1の5倍以下に設定されることが望ましい。上記のEH2は、上記のSH1の5倍以下に設定されることが望ましい。例えば、発光部30において最も第2半導体層20に近い障壁層31とそれに隣接する井戸層32とのペアにおける平均In組成比EPは、多層構造体40において最も第1半導体層10に近い高バンドギャップエネルギー層41とそれに隣接する低バンドギャップエネルギー層42とのペアにおける平均In組成比SPの5倍以下であることが望ましい。
【0156】
上記のように、1<SR、及び、SR<ERに設定することで、すなわち、多層構造体40及び発光部30における平均In組成比を、第1半導体層10から第2半導体層20に向けた方向に進むに従って上昇させることで、発光部30の結晶における転位や欠陥の発生が抑制され、発光効率が向上できる。
【0157】
そして、1<SR≦3、及び、SR<ER≦5に設定することで、多層構造体40及び発光部30に過度な歪みが加わることを抑制しつつ、発光部30の井戸層32に適切な歪みを加えることで、さらに発光効率を高めることができる。
【0158】
実施形態において、第2半導体層20の側の平均In組成比SA2を、第1半導体層10の側の平均In組成比SA1よりも高くする際に、例えば、高バンドギャップエネルギー層41の厚さと、低バンドギャップエネルギー層42の厚さと、を一定にし、高バンドギャップエネルギー層41のIn組成比、及び、低バンドギャップエネルギー層42のIn組成比の少なくともいずれかを変化させる構成がある。
【0159】
また、SA2をSA1よりも高くする際に、例えば、高バンドギャップエネルギー層41のIn組成比と、低バンドギャップエネルギー層42のIn組成比と、を一定にし、高バンドギャップエネルギー層41の厚さ、及び、低バンドギャップエネルギー層42の厚さの少なくともいずれかを変化させる構成がある。
【0160】
例えば、多層構造体40のうちの第1半導体層10の側において、高バンドギャップエネルギー層41として、厚さが3.0nmのGaN層を用い、低バンドギャップエネルギー層42として、厚さが1.0nmのIn0.05Ga0.95N層を用いることができる。そして、多層構造体40のうちの第2半導体層20の側において、高バンドギャップエネルギー層41として、厚さが3.0nmのGaN層を用い、低バンドギャップエネルギー層42として、厚さが1.2nmのIn0.05Ga0.95N層を用いることができる。
【0161】
この場合には、多層構造体40において、高バンドギャップエネルギー層41のIn組成比が一定であり、低バンドギャップエネルギー層42のIn組成比が一定であり、高バンドギャップエネルギー層41の厚さが一定であり、低バンドギャップエネルギー層42のIn組成比が異なる。すなわち、層厚tdは、層厚tbとは異なる。
【0162】
この条件においては、電子の注入におけるポテンシャル障壁を低くすることができる。これにより、動作電圧を低減できる。
【0163】
もし、In組成比が高いInGaNを用いると界面揺らぎを生じ易く、動作電圧を上昇させる可能性があるが、上記の構成においては、In組成比が過度に高くないので、動作電圧の上昇が抑制できる。
【0164】
このように厚さを変化させる構成においては、効率の向上に加え、さらに、動作電圧を低減できる利点がある。
【0165】
さらに、SA2をSA1よりも高くする際に、例えば、高バンドギャップエネルギー層41のIn組成比及び厚さ、並びに、低バンドギャップエネルギー層42のIn組成比と厚さを変える構成がある。この構成においても、厚さを変えることから、例えば、動作電圧を低減できる。
【0166】
従って、多層構造体40は、層厚taとは異なる層厚tc、及び、層厚tbとは異なる層厚tdの少なくともいずれかを有することが望ましい。
【0167】
一方、EA2をEA1よりも高くする際に、例えば、障壁層31の厚さと井戸層32の厚さとを一定にし、障壁層31におけるIn組成比、及び、井戸層32におけるIn組成比の少なくともいずれかを変化させる構成方法がある。EA2をEA1よりも高くすることで、効率が向上できる。
【0168】
また、EA2をEA1よりも高くする際に、例えば、障壁層31のIn組成比と、井戸層32のIn組成比と、を一定にし、障壁層31の厚さ、及び、井戸層32の厚さの少なくともいずれかを変化させる構成がある。このように厚さを変化させる構成においては、効率の向上に加え、さらに、動作電圧をさらに低減できる。
【0169】
さらに、EA2をEA1よりも高くする際に、例えば、障壁層31のIn組成比及び厚さ、並びに、井戸層32のIn組成比と厚さを変える構成がある。この場合も、効率の向上に加え、さらに、動作電圧をさらに低減できる。
【0170】
実施形態によれば、高効率の半導体発光素子が提供できる。
【0171】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BInAlGa1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【0172】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0173】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、半導体発光素子に含まれる基板、バッファ層、半導体層、発光層、障壁層、井戸層、多層構造体、高バンドギャップエネルギー層、低バンドギャップエネルギー層、積層構造体及び電極などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。例えば、上記実施形態の中で説明した組成や膜厚なども一例であり、種々の選択が可能である。
【0174】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0175】
その他、本発明の実施の形態として上述した半導体発光素子を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての半導体発光素子も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0176】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0177】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0178】
5…基板、 6…バッファ層、 10…第1半導体層、 10s…積層構造体、 20…第2半導体層、 21〜24…第1〜第4p形層、 30…発光部、 31…障壁層、 32…井戸層、 40…多層構造体、 41…高バンドギャップエネルギー層、 42…低バンドギャップエネルギー層、 71…第1電極、 81…第2電極、 82…第2電極側パッド部、 110、110a、111a〜111h、112a〜112h、119a、119b…半導体発光素子、 BL〜BLM+1…第1障壁層〜第(M+1)障壁層、 BLj…第j障壁層、 EP…平均In組成比、 ER…比率、 Eff…発光効率、 HL〜HLN+1……第1〜第(N+1)高バンドギャップエネルギー層、 HL…第i高バンドギャップエネルギー層、 If…電流、 LL〜LL…第1〜第N低バンドギャップエネルギー層、 LL…第i低バンドギャップエネルギー層、 RA…領域、 SP…平均In組成比、 SR…比率、 WL〜WL…第1〜第M井戸層、 WL…第j井戸層、 r1〜r8…領域、 sh、sh、sh、sh、shM+1…層厚、 sl、sl、sl、sl…層厚、 th、th、th、th、thN+1…層厚、 tl、tl、tl、tl…層厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体を含むn形の第1半導体層と、
窒化物半導体を含むp形の第2半導体層と、
前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられ、交互に積層された、窒化物半導体を含む複数の障壁層と、前記複数の障壁層のバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有し窒化物半導体を含む複数の井戸層と、を含む発光部と、
前記第1半導体層と前記発光部との間に設けられ、交互に積層された、窒化物半導体を含む複数の高バンドギャップエネルギー層と、前記複数の高バンドギャップエネルギー層のバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有し窒化物半導体を含む複数の低バンドギャップエネルギー層と、を含む多層構造体と、
を備え、
前記複数の高バンドギャップエネルギー層のうちのいずれかの前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xaと、層厚ta(ナノメートル)と、を有し、
前記いずれかの高バンドギャップエネルギー層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xbと、層厚tb(ナノメートル)と、を有し、
前記いずれかの高バンドギャップエネルギー層よりも前記第2半導体層の側に位置する他のいずれかの前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xcと、層厚tc(ナノメートル)と、を有し、
前記他のいずれかの高バンドギャップエネルギー層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xdと、層厚td(ナノメートル)と、を有し、
SA2=(xc・tc+xd・td)/(tc+td)は、SA1=(xa・ta+xb・tb)/(ta+tb)よりも高く、
前記複数の障壁層のうちのいずれかの前記障壁層は、III族元素中におけるIn組成比yaと、層厚sa(ナノメートル)と、を有し、
前記いずれかの障壁層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記井戸層は、III族元素中におけるIn組成比ybと、層厚sb(ナノメートル)と、を有し、
前記いずれかの障壁層よりも前記第2半導体層の側に位置する他のいずれかの前記障壁層は、III族元素中におけるIn組成比ycと、層厚sc(ナノメートル)と、を有し、
前記他のいずれかの障壁層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記井戸層は、III族元素中におけるIn組成比ydと、層厚sd(ナノメートル)と、を有し、
EA2=(yc・sc+yd・sd)/(sc+sd)は、EA1=(ya・sa+yb・sb)/(sa+sb)よりも高く、
前記EA1は、前記SA2以上であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記SA2は、前記SA1の3倍以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記EA2は、前記SA1の5倍以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
(i+1)番目(iは1以上の整数)の前記高バンドギャップエネルギー層は、i番目の前記高バンドギャップエネルギー層よりも前記第2半導体層の側に配置され、
(i+1)番目(iは1以上の整数)の前記低バンドギャップエネルギー層は、i番目の前記低バンドギャップエネルギー層よりも前記第2半導体層の側に配置され、
前記i番目の前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xhと、層厚th(ナノメートル)と、を有し、
前記i番目の前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xlと、層厚tl(ナノメートル)と、を有し、
前記低バンドギャップエネルギー層の数はN(Nは2以上の整数)であり、
前記Nの2分の1以下の最大の整数をNLHとし、
NLH番目の前記低バンドギャップエネルギー層よりも前記第1半導体層の側に位置する前記高バンドギャップエネルギー層の数をNHHとし、
(NLH−1)番目の前記低バンドギャップエネルギー層よりも前第2半導体層の側に位置する前記高バンドギャップエネルギー層の数をNHRとし、
平均In組成比SH1を、
【数1】


とし、平均In組成比SH2を、
【数2】


としたとき、前記平均In組成比SH2は、前記平均In組成比SH1よりも高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記平均In組成比SH2は、前記平均In組成比SH1の3倍以下であることを特徴とする請求項4記載の半導体発光素子。
【請求項6】
(j+1)番目(jは1以上の整数)の前記障壁層は、j番目の前記障壁層よりも前記第2半導体層の側に配置され、
(j+1)番目(jは1以上の整数)の前記井戸層は、j番目の前記井戸層よりも前記第2半導体層の側に配置され、
前記j番目の前記障壁層は、III族元素中におけるIn組成比xhと、層厚th(ナノメートル)と、を有し、
前記j番目の前記井戸層は、III族元素中におけるIn組成比xlと、層厚tl(ナノメートル)と、を有し、
前記井戸層の数はM(Mは2以上の整数)であり、
前記Mの2分の1以下の最大の整数をMLHとし、
MLH番目の前記井戸層よりも前記第1半導体層の側に位置する前記障壁層の数をMHHとし、
(MLH−1)番目の前記井戸層よりも前第2半導体層の側に位置する前記障壁層の数をMHRとし、
平均In組成比EH1を、
【数3】


とし、平均In組成比EH2を、
【数4】


としたとき、平均In組成比EH2は、平均In組成比EH1よりも高く、前記平均In組成比EH1は、前記平均In組成比SH2以上であることを特徴とする請求項4または5に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記平均In組成比EH2は、前記平均In組成比SH1の5倍以下であることを特徴とする請求項6記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記複数の高バンドギャップエネルギー層のうちのいずれかの前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xuと、層厚tu(ナノメートル)と、を有し、
前記In組成比xuを有する前記高バンドギャップエネルギー層と接する前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xvと、層厚tv(ナノメートル)と、を有し、
平均In組成比SP=(xu・tu+xv・tv)/(tu+tv)は、前記第1半導体層から前記第2半導体層への方向に向かって漸増することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記複数の障壁層のうちのいずれかの障壁層は、III族元素中におけるIn組成比yuと、層厚su(ナノメートル)と、を有し、
前記In組成比yuを有する前記障壁層と接する前記井戸層は、III族元素中におけるIn組成比yvと、層厚sv(ナノメートル)と、を有し、
平均In組成比EP=(yu・su+yv・sv)/(su+sv)は、前記第1半導体層から前記第2半導体層への方向に向かって漸増することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記多層構造体は、前記層厚taとは異なる前記層厚tc、及び、前記層厚tbとは異なる前記層厚tdの少なくともいずれかを有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項11】
窒化物半導体を含むn形の第1半導体層と、
窒化物半導体を含むp形の第2半導体層と、
前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられ、交互に積層された、窒化物半導体を含む複数の障壁層と、前記複数の障壁層のバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有し窒化物半導体を含む複数の井戸層と、を含む発光部と、
前記第1半導体層と前記発光部との間に設けられ、交互に積層された、窒化物半導体を含む複数の高バンドギャップエネルギー層と、前記複数の高バンドギャップエネルギー層のバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有し窒化物半導体を含む複数の低バンドギャップエネルギー層と、を含む多層構造体と、
を備え、
前記複数の高バンドギャップエネルギー層のうちのいずれかの前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xaと、層厚ta(ナノメートル)と、を有し、
前記いずれかの高バンドギャップエネルギー層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xbと、層厚tb(ナノメートル)と、を有し、
前記いずれかの高バンドギャップエネルギー層よりも前記第2半導体層の側に位置する他のいずれかの前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xcと、層厚tc(ナノメートル)と、を有し、
前記他のいずれかの高バンドギャップエネルギー層と前記第1半導体層の側または前記第2半導体層の側で接する前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xdと、層厚td(ナノメートル)と、を有し、
SA2=(xc・tc+xd・td)/(tc+td)は、SA1=(xa・ta+xb・tb)/(ta+tb)よりも高く、
前記多層構造体は、前記層厚taとは異なる前記層厚tc、及び、前記層厚tbとは異なる前記層厚tdの少なくともいずれかを有することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項12】
前記SA2は、前記SA1の3倍以下であることを特徴とする請求項11記載の半導体発光素子。
【請求項13】
(i+1)番目(iは1以上の整数)の前記高バンドギャップエネルギー層は、i番目の前記高バンドギャップエネルギー層よりも前記第2半導体層の側に配置され、
(i+1)番目(iは1以上の整数)の前記低バンドギャップエネルギー層は、i番目の前記低バンドギャップエネルギー層よりも前記第2半導体層の側に配置され、
前記i番目の前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xhと、層厚th(ナノメートル)と、を有し、
前記i番目の前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xlと、層厚tl(ナノメートル)と、を有し、
前記低バンドギャップエネルギー層の数はN(Nは2以上の整数)であり、
前記Nの2分の1以下の最大の整数をNLHとし、
NLH番目の前記低バンドギャップエネルギー層よりも前記第1半導体層の側に位置する前記高バンドギャップエネルギー層の数をNHHとし、
(NLH−1)番目の前記低バンドギャップエネルギー層よりも前第2半導体層の側に位置する前記高バンドギャップエネルギー層の数をNHRとし、
平均In組成比SH1を、
【数1】


とし、平均In組成比SH2を、
【数2】


としたとき、前記平均In組成比SH2は、前記平均In組成比SH1よりも高いことを特徴とする請求項11または12記載の半導体発光素子。
【請求項14】
前記平均In組成比SH2は、前記平均In組成比SH1の3倍以下であることを特徴とする請求項13記載の半導体発光素子。
【請求項15】
前記複数の高バンドギャップエネルギー層のうちのいずれかの前記高バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xuと、層厚tu(ナノメートル)と、を有し、
前記In組成比xuを有する前記高バンドギャップエネルギー層と接する前記低バンドギャップエネルギー層は、III族元素中におけるIn組成比xvと、層厚tv(ナノメートル)と、を有し、
平均In組成比SP=(xu・tu+xv・tv)/(tu+tv)は、前記第1半導体層から前記第2半導体層への方向に向かって漸増することを特徴とする請求項11〜14のいずれか1つに記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−69901(P2012−69901A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8243(P2011−8243)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】