半導体装置の製造方法および成膜装置
【課題】配向性の高いAl膜を有する半導体装置の製造方法を提供する。また、配向性の高いTi膜を成膜可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】スパッタリングを行う成膜室内に、H2ガスを導入してから、または、H2ガスを導入しながら、Ti膜の成膜を行う。成膜中におけるH2ガスの分圧は、1×10−4Pa〜1×10−2Paであることが好ましい。また、Ti膜の成膜は、半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行うことが好ましい。
【解決手段】スパッタリングを行う成膜室内に、H2ガスを導入してから、または、H2ガスを導入しながら、Ti膜の成膜を行う。成膜中におけるH2ガスの分圧は、1×10−4Pa〜1×10−2Paであることが好ましい。また、Ti膜の成膜は、半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行うことが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の集積度の増加に伴い個々の素子の寸法は微小化が進み、各素子を構成する配線やゲート等の幅も微細化されている。これに伴って、Al(アルミニウム)配線では、エレクトロマイグレーション耐性の要求が高くなっている。
【0003】
Al配線(Al合金配線)のエレクトロマイグレーション耐性は、Al配線(Al合金配線)の膜質に強く依存することが知られている。この場合、エレクトロマイグレーション耐性を高くするには、Al膜における各結晶粒の方位を揃えることが必要となる。方位が揃っていないと、結晶粒界での原子配列の乱れが大きくなり、電流を流したときに、結晶粒界に沿ってAl原子が移動しやすくなるからである。
【0004】
一般に、Alの結晶配向性は、下地膜の結晶配向性と密接に関連する。特許文献1には、こうしたことに鑑み、下地膜の配向性を高くすることによってAl膜の配向性を高める方法が記載されている。
【0005】
例えば、下地膜が下層からTi(チタン)/TiN(窒化チタン)/Tiの順で形成されているとする。この場合、第1層目のTi膜の(002)配向性が高いほど、第2層目のTiN膜の(111)配向性と第3層目のTi膜の(002)配向性は高くなる。そして、第3層目の上に形成されているAl膜の(111)配向性も高くなる。これは、Ti膜の(002)面、TiN膜の(111)面およびAl膜の(111)面の原子配置がそれぞれ近似しているために、エピタキシャル成長によって、第1層目のTi膜の(002)配向性が上層に引き継がれるからである。
【0006】
一方、第1層目のTi膜の配向性は、下地である層間絶縁膜の表面状態と、第1層目のTi膜の成膜条件とに強く依存する。特許文献1では、第1層目のTi膜の配向性が、層間絶縁膜の表面に吸収された水分の量、または、Ti膜を成膜する際のチャンバ内の水分量に強く依存するとして、Ti膜の成膜前および成膜中の少なくとも一方で、水を含む気相または液相に半導体装置を曝す方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、成膜室内の水蒸気量を制御するために、成膜室内の水蒸気を吸着するコールドトラップを設け、成膜室内の水蒸気量にしたがってコールドトラップの温度を変えることにより、成膜室内の水蒸気量が所定の範囲内に保たれるようにした成膜装置が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平10−41383号公報
【特許文献2】特開2004−158714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者の検討によれば、Ti膜の配向性と水分量との間には、特許文献1や2で述べられているような明確な相関性が見られないことが分かった。そこで、本発明は、水分量に代えてTi膜の配向性に影響を与える因子を見出し、配向性の高いAl膜を有する半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、配向性の高いTi膜を成膜可能な成膜装置を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の半導体装置の製造方法は、半導体基板の上に、絶縁膜、Ti膜、TiN膜およびAl膜がこの順に設けられた半導体装置の製造方法であって、
前記Ti膜は、スパッタリングを行う成膜室内に、水素ガスを導入してから、または、水素ガスを導入しながら、成膜されることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記Ti膜の成膜中における前記水素ガスの分圧は、1×10−4Pa〜1×10−2Paであることが好ましい。
【0013】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記Ti膜の成膜は、前記半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行われることが好ましい。
【0014】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記TiN膜の成膜は、前記半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行われることが好ましい。
【0015】
本発明の成膜装置は、スパッタリングによって基板上にTi膜を成膜する成膜室と、
前記成膜室に希ガスと水素ガスを含む混合ガスを導入する導入手段と、
前記成膜室内に載置された前記基板を加熱する加熱手段と、
前記成膜室内の水素ガスの圧力を所定の値に制御する制御手段とを有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の成膜装置において、前記制御手段は、前記Ti膜の成膜中における水素ガスの圧力が1×10−4Pa〜1×10−2Paとなるよう制御する手段であることが好ましい。
【0017】
本発明の成膜装置において、前記加熱手段は、前記基板を200℃〜250℃の温度に加熱する手段であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、スパッタリングを行う成膜室内に、水素ガスを導入してから、または、水素ガスを導入しながら、Ti膜の成膜を行うので、配向性の高いAl膜を有する半導体装置を製造することができる。
【0019】
本発明の成膜装置によれば、成膜室内の水素ガスの圧力を所定の値に制御する制御手段を有するので、配向性の高いTi膜を成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、Ti膜やTiN膜について、成膜温度と配向性との関係について述べる。尚、成膜温度とは、スパッタリングを行う成膜室内に載置されたウェハを加熱する温度を言う(本明細書において同じ)。
【0021】
図1は、Ti膜の成膜温度と配向性との関係を示したものである。また、Ti膜の(002)配向性と(101)配向性を、それぞれウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)とで比較している。
【0022】
図1の例では、成膜室内にAr(アルゴン)ガスを導入しながら、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウェハ上にTi膜を成膜している。成膜条件は次の通りであり、ターゲットからウェハまでの距離が長いロングスロースパッタ方式を用いている。
・Tiターゲットからマグネットまでの距離:38mm
・ウェハからTiターゲットまでの距離:170mm
・パワー:10kW
・Arの流量:9sccm
・成膜時間:11.5秒間
【0023】
図1より、Ti膜の(002)配向性は、成膜温度によって大きく変化することが分かる。そして、成膜温度が200℃〜250℃の範囲内であるとき、Ti膜の(002)配向性は高い値を示す。
【0024】
図2は、TiN膜の成膜温度と配向性との関係を示したものである。また、TiN膜の配向性を、ウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)とで比較している。
【0025】
図2の例では、成膜室内にArと窒素の混合ガスを導入しながら、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウェハ上にTiN膜を成膜している。成膜条件は次の通りであり、ターゲットからウェハまでの距離が長いロングスロースパッタ方式を用いている。
・TiNターゲットからマグネットまでの距離:38mm
・ウェハからTiNターゲットまでの距離:170mm
・パワー:12kW
・Arの流量:9sccm
・窒素の流量:38sccm
・成膜時間:145秒間
【0026】
図2より、成膜温度を250℃以上にするとTiN膜の(200)配向性が向上している。
【0027】
図3は、成膜温度とTi/TiN積層膜の配向性との関係を示したものである。また、Ti膜の(002)配向性とTiN膜の(111)配向性を、それぞれウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)とで比較している。尚、Ti膜およびTiN膜の各成膜条件は、図1および図2と同様である。
【0028】
図3から明白であるように、Ti膜の上に成膜されたTiN膜には(111)配向性が見られる。この場合、成膜温度をTi膜の配向性が高くなる200℃〜250℃にすると、TiN膜の配向性も高くなることが分かる。
【0029】
次に、成膜温度を200℃〜250℃に保ち、図1と同様の条件でTi膜を成膜した場合について考察する。
【0030】
図4は、Ti膜の(002)配向性を、ウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)とで比較したものである。
【0031】
図4は、ダミーの成膜を行わずに、ダミーでない成膜を1ロット(25枚)行った場合である。この図から分かるように、最適化された成膜温度であっても、ウェハの処理枚数が増加するにしたがって、Ti膜の(002)配向性は次第に低下していく。すなわち、Arのみを導入して行った成膜では、Ti膜の配向性を安定に維持することができない。
【0032】
次に、Arと水蒸気の混合ガスを導入してTi膜を成膜した場合について述べる。
【0033】
図5は、スパッタリング法を用いてTi膜を成膜したときの、成膜装置内の水蒸気圧とTi膜の(002)配向性との関係を示す図である。尚、横軸は、ウェハの処理枚数を表しており、この場合はウェハを1ロット(25枚)処理した場合に対応する。
【0034】
図5の例では、成膜室内にArガスを導入しながら、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウェハ上にTi膜を成膜している。成膜条件は次の通りであり、ターゲットからウェハまでの距離が長いロングスロースパッタ方式を用いている。
・Tiターゲットからマグネットまでの距離:38mm
・ウェハからTiターゲットまでの距離:170mm
・パワー:10kW
・Arの流量:9sccm
・ウェハ温度:200℃
・成膜時間:12秒間
【0035】
図5では、成膜室に連通するコールドトラップを設け、成膜室内にある水蒸気をコールドトラップで除去した場合と除去しない場合の結果を合わせて示している。○印は、コールドトラップを作動させたときの水蒸気圧であり、□印は、コールドトラップを作動させていないときの水蒸気圧である。また、△印は、コールドトラップを作動させたときのTi膜の(002)配向性であり、◇印は、コールドトラップを作動させていないときのTi膜の(002)配向性である。
【0036】
図5によれば、コールドトラップを作動させない場合には、成膜室内の水蒸気の分圧は、概ね2.6×10−4程度であるのに対して、コールドトラップを作動させると、2.3〜2.4×10−4程度まで低下する。Ti膜の(002)配向性を、コールドトラップを作動して成膜した場合と作動しないで成膜した場合とで比較すると、作動しない場合の方がTi膜の配向性が高いことが分かる。しかしながら、どちらの場合においても、ウェハの処理枚数が増加するにしたがって、Ti膜の配向性は次第に低下するようになる。一方、ウェハの処理枚数が増加しても、水蒸気の分圧に低下は見られない。したがって、Ti膜の配向性には、水分量以外の因子が関係していると考えられる。
【0037】
図6は、ウェハの中心部と周辺部におけるTi膜の(002)配向性と、成膜室内の水蒸気の分圧との関係を示す図である。尚、横軸は、ウェハの処理枚数を表している。また、Ti膜の成膜は、図5と同様の条件でコールドトラップを作動させずに行っている。但し、図5の例では1ロット(25枚)を成膜処理しているのに対し、図6の例では6ロット(150枚)の成膜処理を行っている。
【0038】
図6において、○印は水蒸気圧である。また、△印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0039】
図6を見ると、水蒸気の分圧は、ウェハの処理枚数が増加しても、2.4×10−4Pa程度でほとんど変化していない。一方、Ti膜の配向性は、ウェハの処理枚数の増加に伴い、中心部と周辺部の双方で低下していく。したがって、この結果からも、Ti膜の配向性には、水分量以外の因子が関係していると考えられる。
【0040】
図7は、ウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性と、成膜室内の水素の分圧との関係を示す図である。尚、横軸は、ウェハの処理枚数を表している。また、Ti膜の成膜は、図5と同様の条件でコールドトラップを作動させずに行っている。但し、図5の例では1ロット(25枚)で成膜処理しているのに対し、図7の例では6ロット(150枚)の成膜処理を行っている。
【0041】
図7から明らかであるように、ウェハの処理枚数が増加すると、成膜室内の水素の分圧は次第に低下していく。また、これに伴って、Ti膜の配向性は、ウェハの中心部と周辺部の双方で低下していく。つまり、Ti膜の(002)配向性は水素の圧力に依存し、水素の圧力が低下すると、Ti膜の配向性も低下することが分かる。したがって、Ti膜の(002)配向性を高めるは、水素の圧力を高めることが必要であり、換言すると、水素の圧力を制御することによって、Ti膜の配向性を制御することが可能となる。
【0042】
このように、Ti膜の(002)配向性は水素の圧力によって変化する。一方、図5でコールドトラップを作動しないで成膜した場合の方がTi膜の配向性が高いことから、Ti膜の配向性には水蒸気の圧力も関係していると考えられる。それ故、ウェハの処理枚数が少ない段階であれば、成膜室内に吸着した水によってもTi膜の配向性を高めることが可能である。しかし、水蒸気はTi膜によってゲッタリングされるので、ウェハの処理枚数が増加すると、成膜室内の水蒸気圧が不安定となって、Ti膜の配向性に変動を与えるようになる。これを防ぐには、特許文献1や2に記載されているように、成膜室内に水蒸気を供給するのがよい。しかし、水蒸気の供給によって水蒸気圧が高くなると、水の分解で生成する酸素の分圧が上昇することにより、Ti膜の抵抗上昇やバリア性の低下などが起こると予測される。このため、Ti膜の配向性を水蒸気圧によって制御するのは容易でない。これに対して、水素の圧力を制御する方法によれば、上記の問題を解消してTi膜の配向性を高めることが可能となる。
【0043】
図8は、導入ガスの種類を変えて成膜した場合のTi膜の(002)配向性と水素分圧とを比較したものである。△印は、成膜前の水素分圧であり、○印は、成膜中の水素分圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0044】
図8において、(a)はArのみを導入した場合、(b)はArと水蒸気の混合ガスを導入した場合、(c)はArと水素の混合ガスを導入した場合である。それぞれ横軸の右側にいくほど、ウェハの処理枚数が増加する。尚、Arと水蒸気の混合ガスの流量を7.3sccmとし、Arと水素の混合ガスの流量を7.7sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0045】
図8で(a)〜(c)を比較すると、Ti膜の配向性はArガスのみを導入した場合が最も低い。一方、Arに水蒸気を混合した場合と、Arに水素を混合した場合とでは、Ti膜の配向性は同様の値を示している。そして、Arガスのみを導入した場合の水素分圧は成膜前後でほとんど変わらないのに対して、Arに水蒸気を混合した場合や、Arに水素を混合した場合では、成膜後に水素の分圧が上昇している。したがって、この結果からも、Ti膜の配向性に水素分圧が影響していることが分かる。
【0046】
図9は、導入ガスの種類を変えて成膜した場合のTi膜の(002)配向性と水蒸気圧とを比較したものである。△印は、成膜前の水蒸気圧であり、○印は、成膜中の水蒸気圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0047】
図9において、(a)はArのみを導入した場合、(b)はArと水蒸気の混合ガスを導入した場合、(c)はArと水素の混合ガスを導入した場合である。それぞれ横軸の右側にいくほど、ウェハの処理枚数が増加する。尚、Arと水蒸気の混合ガスの流量を7.3sccmとし、Arと水素の混合ガスの流量を7.7sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0048】
図9で(a)〜(c)を比較すると、Ti膜の配向性はArガスのみを導入した場合が最も低い。一方、Arに水蒸気を混合した場合と、Arに水素を混合した場合とでは、前者の方が水蒸気圧が高いにもかかわらず、Ti膜の配向性は同様の値を示している。したがって、Ti膜の配向性と水蒸気圧との間には明確な相関性は見られないことが分かる。
【0049】
図10(a)は、Arと水素の混合ガスを導入した場合において、Ti膜の(002)配向性と水素分圧との関係を示したものである。尚、Arと水素の混合ガスの流量を7.7sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0050】
図10(a)では、ロット毎に水素分圧を変え、ロット間およびロット内におけるTi膜の配向性と水素分圧とを比較している。尚、各ロットにおいては、横軸の右側にいくほどウェハの処理枚数が増加する。△印は、成膜前の水素分圧であり、○印は、成膜中の水素分圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0051】
図10(a)から明らかであるように、水素の分圧を高くすると、Ti膜の配向性も高くなる。そして、水素の分圧が3.0×10−4Pa以上であれば、Arガスのみを導入した場合と比べて、Ti膜の配向性は3倍以上高くなることが分かった。
【0052】
図10(b)は、Arと水蒸気の混合ガスを導入した場合において、Ti膜の(002)配向性と水蒸気圧との関係を示したものである。尚、Arと水蒸気の混合ガスの流量を7.3sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0053】
図10(b)においても、ロット毎に水蒸気圧を変え、ロット間およびロット内におけるTi膜の配向性と水蒸気圧とを比較している。尚、各ロットにおいては、横軸の右側にいくほどウェハの処理枚数が増加する。△印は、成膜前の水蒸気圧であり、○印は、成膜中の水蒸気圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0054】
図10(b)より、ウェハの処理枚数が増えるにしたがって、水蒸気圧は低下していくことが分かる。これは、Ti膜によって水がゲッタリングされるためと考えられる。一方、Ti膜の配向性は、水蒸気圧の低下にもかかわらず高くなって行く。したがって、Ti膜の配向性と水蒸気圧との間には、図10(a)の水素分圧で見られたような相関性がないことが分かる。
【0055】
図11は、Arと水蒸気の混合ガスを導入した場合において、Ti膜の(002)配向性と水素分圧との関係を示したものである。図の例では、6ロット(150枚)のウェハを処理しており、横軸の右側にいくほどウェハの処理枚数が増加していく。△印は、成膜前の水素分圧であり、○印は、成膜中の水素分圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。尚、Arと水蒸気の混合ガスの流量を7.3sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0056】
図11より、ウェハの処理枚数が増えるにしたがって、水素の分圧は低下していくことが分かる。この水素分圧の減少幅を成膜前と成膜中とで比較すると、前者より後者の方が大きい。このことは、成膜中に水素が消費されていることを示している。したがって、Ti膜の配向性には、プラズマ中で分解された水素が影響を与えていると考えられる。
【0057】
以上述べたように、Ti膜の(002)配向性は、成膜中における水素の圧力を高くすることによって向上させることができる。この方法によれば、成膜室内の水蒸気圧を制御する方法に比べて、直接的且つ容易にTi膜の配向性を制御することが可能である。水蒸気圧を高めることによっても水素圧を高めることは可能であるが、高められる水素圧には限度があり、また、水蒸気はTi膜によってゲッタリングされるので、ウェハの処理枚数が増加すると、水蒸気圧が低下するようになるからである。さらには、水蒸気圧が高くなると、水の分解で生成する酸素の分圧が上昇することにより、Ti膜の抵抗上昇やバリア性の低下などが起こるという問題もある。
【0058】
制御性よく高い(002)配向性のTi膜を得るには、成膜中における水素の圧力が、1×10−4Pa〜1×10−2Paの範囲内であることが好ましく、1×10−4Pa〜1×10−3Paの範囲内であることがより好ましい。一例として、水素の圧力が3.0×10−4Pa以上であれば、Arガスのみを導入した場合と比べて、Ti膜の配向性を3倍以上高くすることが可能である。
【0059】
また、Ti膜は、成膜温度を200℃〜250℃としたときに、高い(002)配向性を得ることができる。そして、この温度範囲内で成膜したTi膜の上にTiN膜を成膜することにより、高い(111)配向性を有するTiN膜が得られる。したがって、Arと水素の混合ガスを導入し、200℃〜250℃の範囲内の温度でスパッタを行うことにより、高い配向性のTi膜を形成することができ、さらには、この上にTiN膜を形成することにより、TiN膜の配向性も高くすることができる。こうして形成されたTiN膜の上にAl膜を成膜すれば、高い(111)配向性のAl膜が得られる。これにより、エレクトロマイグレーション耐性に優れた膜とすることができる。
【0060】
尚、本実施の形態においては、熱酸化膜の形成されたシリコンウェハの上にTi膜を成膜したが、本発明はこれに限られるものではない。シリコンウェハ以外の他の半導体基板を用いてもよく、熱酸化膜、すなわち、SiO2膜以外の他の絶縁膜(例えば、BSG(BoroSilicate Glass)膜、PSG(PhosphoSilicate Glass)膜またはBPSG(BoroPhosphoSilicate Glass)膜など)の上にTi膜を形成してもよい。また、Al膜は、Ti膜の上に成膜してもよい。すなわち、Ti膜/TiN膜/Al膜とするだけでなく、Ti膜/TiN膜/Ti膜/Al膜とすることも可能である。
【0061】
本発明は、スパッタリングによってウェハ上にTi膜を成膜する成膜室と、この成膜室にArと水素の混合ガスを導入する導入手段と、成膜室内に載置されたウェハを加熱する加熱手段と、成膜室内の水素の圧力を所定の値に制御する制御手段とを有する成膜装置を用いることにより実施される。図12および図13は、この成膜装置の一例である。
【0062】
図12は、本実施の形態における成膜装置の模式的な平面部分断面図である。また、図13は、図12の成膜装置の模式的な部分側面図である。
【0063】
図12に示すように、成膜装置1は、ロードロック室2と、複数の真空処理室3〜7とがクラスター状に配置された構造を有する。各真空処理室3〜7は、例えば、前処理室3、第1の成膜室4、デガス室5、第2の成膜室6、および、第3の成膜室7の順で配置される。例えば、第2の成膜室6でTi膜を成膜した後、第3の成膜室7でAl膜を成膜することができる。ロードロック室2および各真空処理室3〜7には、それぞれ真空ポンプ(図示せず)が接続しており、相互に独立して真空排気できるようになっている。
【0064】
また、成膜装置1は、ロードロック室2および各真空処理室3〜7の側壁面に接する多角筒形状の真空搬送室8を備えている。真空搬送室8には、ロードロック室2および各真空処理室3〜7との間でウェハ(図示せず)を1枚ずつ搬入または搬出する搬送ロボット(図示せず)が設置されている。さらに、真空搬送室8には、真空ポンプ(図示せず)が接続しており、独立して真空排気できる構造となっている。
【0065】
2つのロードロック室2のいずれかにあるウェハ(図示せず)は、搬送ロボットによって真空搬送室8に搬入された後、予め設定された条件にしたがい所定の搬送経路で各真空処理室3〜7に順次搬送されて処理される。
【0066】
図13において、6はTi膜を成膜する成膜室、9は真空ポンプ、10は水素量を監視する水素量監視部である。水素量監視部10には、例えば、四重極質量分析器を用いることができる。これにより、成膜室4内のスパッタ雰囲気中に含まれる水素量を監視して、成膜室6内に導入する水素の量(圧力)を制御することができる。尚、成膜室6には、Arと水素の混合ガスを導入する導入手段(図示せず)が接続しており、また、その内部にはウェハを加熱する加熱手段(図示せず)が設けられている。
【0067】
ところで、上記例では、ウェハとターゲットをロングスロー配置して成膜を行っている。この方法によれば、ウェハ上に飛来するスパッタ粒子は、その表面に対して略垂直なものに揃えられる。それ故、ウェハ上には、主に、表面に対し垂直に飛来してくるスパッタ粒子が堆積するので、配向性や成膜速度をほとんど変えずに低圧でTi膜を成膜することができる。従来のArガスのみを導入してTi膜を成膜する方法では、この方式によってスパッタリングを行っていた。しかしながら、本発明は、ウェハとターゲットの距離を短くして成膜した場合にも同様の効果が得られる。以下では、ロングスロー配置をとらずにTi膜を成膜する場合について述べる。
【0068】
図14は、成膜温度とTi膜の(002)配向性との関係を、Arのみを導入した場合(Pure−Ar)と、Arと水素の混合ガスを導入した場合(H2+Ar)とで比較した結果である。尚、横軸のR.T.は室温(25℃)を示している。
【0069】
図14の例では、成膜室内にArガスまたはArと水素の混合ガスを導入しながら、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウェハ上にTi膜を成膜している。尚、成膜条件は次の通りである。
・Tiターゲットからマグネットまでの距離:39mm
・ウェハからTiターゲットまでの距離:90mm
・パワー:4kW
・Arの流量:45sccm
・成膜時間:14秒間
【0070】
図14において、Arのみを導入し、室温〜300℃の温度で行った成膜では、Ti膜の配向性は、100〜220程度の間でほとんど変化がない。一方、Arと水素の混合ガスを導入し、200℃で行った成膜では、Ti膜の配向性は5100程度の強度を示し、Arのみの場合に比べて20倍以上の値となっている。したがって、ロングスロースパッタ方式でなくても、Arと水素の混合ガスを導入することにより、Ti膜の配向性を高められることが分かる。
【0071】
図15は、ウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性と、成膜室内の水素の分圧との関係を示す図である。この例では、ロット毎に水素分圧を変えてTi膜の配向性と水素分圧とを比較している。△印は、成膜前の水素分圧であり、○印は、成膜中の水素分圧である。また、◇印は、ウェハ中心部におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部におけるTi膜の(002)配向性である。尚、Ti膜の成膜は、図14でArと水素の混合ガスを導入した場合と同様の条件で行っている。
【0072】
図15より、成膜中における水素の分圧が上昇すると、ウェハの中心部および周辺部の双方でTi膜の配向性が向上することが分かる。この傾向は、実施の形態1で述べたロングスロースパッタ方式の場合と同様である。この場合、水素の分圧が4.0×10−4Pa以上であれば、Arガスのみを導入した場合と比べて、Ti膜の配向性を20倍以上高くすることができる。
【0073】
このように、Arと水素の混合ガスを導入することにより、ロングスロースパッタ方式でなくても、Ti膜の(002)配向性を向上させることができる。上述したように、例えば、水素の分圧が4.0×10−4Pa以上であれば、Arガスのみを導入した場合と比べて、Ti膜の配向性を20倍以上高くすることが可能である。
【0074】
以上述べたように、本発明によれば、Arと水素の混合ガスを導入し、200℃〜250℃の範囲内の温度でスパッタを行うことにより、高い配向性のTi膜を形成することができ、さらには、この上にTiN膜を形成することにより、TiN膜の配向性も高くすることができる。こうして形成されたTiN膜の上にAl膜を成膜すれば、高い(111)配向性のAl膜が得られる。これにより、エレクトロマイグレーション耐性に優れた半導体装置とすることができる。この場合、ウェハとターゲットとの関係は、ロングスロー配置であるか否かにかかわらない。また、Ti膜は、成膜室内に、Arと水素の混合ガスを導入してから成膜されてもよいし、Arと水素の混合ガスを導入しながら成膜されてもよい。前者の場合、成膜中はArのみを導入し水素の導入を行わなくても、成膜中にArと水素の混合ガスを導入する場合と同様の効果が得られる。さらには、成膜前に水素ガスを成膜室内に導入し、成膜中は水素ガスの導入を停止しArガスのみを導入して、Ti膜の成膜を行ってもよい。
【0075】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。例えば、Ar以外の希ガス(例えば、HeガスまたはNeガスなど)をスパッタガスとして水素ガスとともに導入してもよい。また、スパッタガスには、希ガスおよび水素ガス以外の他の成分が含まれていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】Ti膜の成膜温度と配向性との関係を示す図である。
【図2】TiN膜の成膜温度と配向性との関係を示す図である。
【図3】成膜温度とTi/TiN積層膜の配向性との関係を示す図である。
【図4】Ti膜の配向性を、ウェハの中心部と周辺部とで比較した図である。
【図5】成膜装置内の水蒸気圧とTi膜の配向性との関係を示す図である。
【図6】ウェハの中心部と周辺部におけるTi膜の配向性と、成膜室内の水蒸気の分圧との関係を示す図である。
【図7】ウェハの中心部と周辺部におけるTi膜の配向性と、成膜室内の水素の分圧との関係を示す図である。
【図8】導入ガスの種類を変えて成膜した場合のTi膜の配向性と水素分圧とを比較した図である。
【図9】導入ガスの種類を変えて成膜した場合のTi膜の配向性と水蒸気圧とを比較した図である。
【図10】(a)は、Ti膜の配向性と水素分圧との関係を示す図であり、(b)は、Ti膜の配向性と水蒸気圧との関係を示す図である。
【図11】Ti膜の配向性と水素分圧との関係を示す図である。
【図12】本実施の形態における成膜装置の模式的な平面部分断面図である。
【図13】図12の成膜装置の模式的な部分側面図である。
【図14】成膜温度とTi膜の配向性との関係を、Arのみを導入した場合とArと水素の混合ガスを導入した場合とで比較した図である。
【図15】ウェハの中心部と周辺部におけるTi膜の配向性と、成膜室内の水素の分圧との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1 成膜装置
2 ロードロック室
3〜7 真空処理室
8 真空搬送室
9 真空ポンプ
10 水素量監視部
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の集積度の増加に伴い個々の素子の寸法は微小化が進み、各素子を構成する配線やゲート等の幅も微細化されている。これに伴って、Al(アルミニウム)配線では、エレクトロマイグレーション耐性の要求が高くなっている。
【0003】
Al配線(Al合金配線)のエレクトロマイグレーション耐性は、Al配線(Al合金配線)の膜質に強く依存することが知られている。この場合、エレクトロマイグレーション耐性を高くするには、Al膜における各結晶粒の方位を揃えることが必要となる。方位が揃っていないと、結晶粒界での原子配列の乱れが大きくなり、電流を流したときに、結晶粒界に沿ってAl原子が移動しやすくなるからである。
【0004】
一般に、Alの結晶配向性は、下地膜の結晶配向性と密接に関連する。特許文献1には、こうしたことに鑑み、下地膜の配向性を高くすることによってAl膜の配向性を高める方法が記載されている。
【0005】
例えば、下地膜が下層からTi(チタン)/TiN(窒化チタン)/Tiの順で形成されているとする。この場合、第1層目のTi膜の(002)配向性が高いほど、第2層目のTiN膜の(111)配向性と第3層目のTi膜の(002)配向性は高くなる。そして、第3層目の上に形成されているAl膜の(111)配向性も高くなる。これは、Ti膜の(002)面、TiN膜の(111)面およびAl膜の(111)面の原子配置がそれぞれ近似しているために、エピタキシャル成長によって、第1層目のTi膜の(002)配向性が上層に引き継がれるからである。
【0006】
一方、第1層目のTi膜の配向性は、下地である層間絶縁膜の表面状態と、第1層目のTi膜の成膜条件とに強く依存する。特許文献1では、第1層目のTi膜の配向性が、層間絶縁膜の表面に吸収された水分の量、または、Ti膜を成膜する際のチャンバ内の水分量に強く依存するとして、Ti膜の成膜前および成膜中の少なくとも一方で、水を含む気相または液相に半導体装置を曝す方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、成膜室内の水蒸気量を制御するために、成膜室内の水蒸気を吸着するコールドトラップを設け、成膜室内の水蒸気量にしたがってコールドトラップの温度を変えることにより、成膜室内の水蒸気量が所定の範囲内に保たれるようにした成膜装置が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平10−41383号公報
【特許文献2】特開2004−158714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者の検討によれば、Ti膜の配向性と水分量との間には、特許文献1や2で述べられているような明確な相関性が見られないことが分かった。そこで、本発明は、水分量に代えてTi膜の配向性に影響を与える因子を見出し、配向性の高いAl膜を有する半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、配向性の高いTi膜を成膜可能な成膜装置を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の半導体装置の製造方法は、半導体基板の上に、絶縁膜、Ti膜、TiN膜およびAl膜がこの順に設けられた半導体装置の製造方法であって、
前記Ti膜は、スパッタリングを行う成膜室内に、水素ガスを導入してから、または、水素ガスを導入しながら、成膜されることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記Ti膜の成膜中における前記水素ガスの分圧は、1×10−4Pa〜1×10−2Paであることが好ましい。
【0013】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記Ti膜の成膜は、前記半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行われることが好ましい。
【0014】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記TiN膜の成膜は、前記半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行われることが好ましい。
【0015】
本発明の成膜装置は、スパッタリングによって基板上にTi膜を成膜する成膜室と、
前記成膜室に希ガスと水素ガスを含む混合ガスを導入する導入手段と、
前記成膜室内に載置された前記基板を加熱する加熱手段と、
前記成膜室内の水素ガスの圧力を所定の値に制御する制御手段とを有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の成膜装置において、前記制御手段は、前記Ti膜の成膜中における水素ガスの圧力が1×10−4Pa〜1×10−2Paとなるよう制御する手段であることが好ましい。
【0017】
本発明の成膜装置において、前記加熱手段は、前記基板を200℃〜250℃の温度に加熱する手段であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、スパッタリングを行う成膜室内に、水素ガスを導入してから、または、水素ガスを導入しながら、Ti膜の成膜を行うので、配向性の高いAl膜を有する半導体装置を製造することができる。
【0019】
本発明の成膜装置によれば、成膜室内の水素ガスの圧力を所定の値に制御する制御手段を有するので、配向性の高いTi膜を成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、Ti膜やTiN膜について、成膜温度と配向性との関係について述べる。尚、成膜温度とは、スパッタリングを行う成膜室内に載置されたウェハを加熱する温度を言う(本明細書において同じ)。
【0021】
図1は、Ti膜の成膜温度と配向性との関係を示したものである。また、Ti膜の(002)配向性と(101)配向性を、それぞれウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)とで比較している。
【0022】
図1の例では、成膜室内にAr(アルゴン)ガスを導入しながら、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウェハ上にTi膜を成膜している。成膜条件は次の通りであり、ターゲットからウェハまでの距離が長いロングスロースパッタ方式を用いている。
・Tiターゲットからマグネットまでの距離:38mm
・ウェハからTiターゲットまでの距離:170mm
・パワー:10kW
・Arの流量:9sccm
・成膜時間:11.5秒間
【0023】
図1より、Ti膜の(002)配向性は、成膜温度によって大きく変化することが分かる。そして、成膜温度が200℃〜250℃の範囲内であるとき、Ti膜の(002)配向性は高い値を示す。
【0024】
図2は、TiN膜の成膜温度と配向性との関係を示したものである。また、TiN膜の配向性を、ウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)とで比較している。
【0025】
図2の例では、成膜室内にArと窒素の混合ガスを導入しながら、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウェハ上にTiN膜を成膜している。成膜条件は次の通りであり、ターゲットからウェハまでの距離が長いロングスロースパッタ方式を用いている。
・TiNターゲットからマグネットまでの距離:38mm
・ウェハからTiNターゲットまでの距離:170mm
・パワー:12kW
・Arの流量:9sccm
・窒素の流量:38sccm
・成膜時間:145秒間
【0026】
図2より、成膜温度を250℃以上にするとTiN膜の(200)配向性が向上している。
【0027】
図3は、成膜温度とTi/TiN積層膜の配向性との関係を示したものである。また、Ti膜の(002)配向性とTiN膜の(111)配向性を、それぞれウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)とで比較している。尚、Ti膜およびTiN膜の各成膜条件は、図1および図2と同様である。
【0028】
図3から明白であるように、Ti膜の上に成膜されたTiN膜には(111)配向性が見られる。この場合、成膜温度をTi膜の配向性が高くなる200℃〜250℃にすると、TiN膜の配向性も高くなることが分かる。
【0029】
次に、成膜温度を200℃〜250℃に保ち、図1と同様の条件でTi膜を成膜した場合について考察する。
【0030】
図4は、Ti膜の(002)配向性を、ウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)とで比較したものである。
【0031】
図4は、ダミーの成膜を行わずに、ダミーでない成膜を1ロット(25枚)行った場合である。この図から分かるように、最適化された成膜温度であっても、ウェハの処理枚数が増加するにしたがって、Ti膜の(002)配向性は次第に低下していく。すなわち、Arのみを導入して行った成膜では、Ti膜の配向性を安定に維持することができない。
【0032】
次に、Arと水蒸気の混合ガスを導入してTi膜を成膜した場合について述べる。
【0033】
図5は、スパッタリング法を用いてTi膜を成膜したときの、成膜装置内の水蒸気圧とTi膜の(002)配向性との関係を示す図である。尚、横軸は、ウェハの処理枚数を表しており、この場合はウェハを1ロット(25枚)処理した場合に対応する。
【0034】
図5の例では、成膜室内にArガスを導入しながら、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウェハ上にTi膜を成膜している。成膜条件は次の通りであり、ターゲットからウェハまでの距離が長いロングスロースパッタ方式を用いている。
・Tiターゲットからマグネットまでの距離:38mm
・ウェハからTiターゲットまでの距離:170mm
・パワー:10kW
・Arの流量:9sccm
・ウェハ温度:200℃
・成膜時間:12秒間
【0035】
図5では、成膜室に連通するコールドトラップを設け、成膜室内にある水蒸気をコールドトラップで除去した場合と除去しない場合の結果を合わせて示している。○印は、コールドトラップを作動させたときの水蒸気圧であり、□印は、コールドトラップを作動させていないときの水蒸気圧である。また、△印は、コールドトラップを作動させたときのTi膜の(002)配向性であり、◇印は、コールドトラップを作動させていないときのTi膜の(002)配向性である。
【0036】
図5によれば、コールドトラップを作動させない場合には、成膜室内の水蒸気の分圧は、概ね2.6×10−4程度であるのに対して、コールドトラップを作動させると、2.3〜2.4×10−4程度まで低下する。Ti膜の(002)配向性を、コールドトラップを作動して成膜した場合と作動しないで成膜した場合とで比較すると、作動しない場合の方がTi膜の配向性が高いことが分かる。しかしながら、どちらの場合においても、ウェハの処理枚数が増加するにしたがって、Ti膜の配向性は次第に低下するようになる。一方、ウェハの処理枚数が増加しても、水蒸気の分圧に低下は見られない。したがって、Ti膜の配向性には、水分量以外の因子が関係していると考えられる。
【0037】
図6は、ウェハの中心部と周辺部におけるTi膜の(002)配向性と、成膜室内の水蒸気の分圧との関係を示す図である。尚、横軸は、ウェハの処理枚数を表している。また、Ti膜の成膜は、図5と同様の条件でコールドトラップを作動させずに行っている。但し、図5の例では1ロット(25枚)を成膜処理しているのに対し、図6の例では6ロット(150枚)の成膜処理を行っている。
【0038】
図6において、○印は水蒸気圧である。また、△印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0039】
図6を見ると、水蒸気の分圧は、ウェハの処理枚数が増加しても、2.4×10−4Pa程度でほとんど変化していない。一方、Ti膜の配向性は、ウェハの処理枚数の増加に伴い、中心部と周辺部の双方で低下していく。したがって、この結果からも、Ti膜の配向性には、水分量以外の因子が関係していると考えられる。
【0040】
図7は、ウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性と、成膜室内の水素の分圧との関係を示す図である。尚、横軸は、ウェハの処理枚数を表している。また、Ti膜の成膜は、図5と同様の条件でコールドトラップを作動させずに行っている。但し、図5の例では1ロット(25枚)で成膜処理しているのに対し、図7の例では6ロット(150枚)の成膜処理を行っている。
【0041】
図7から明らかであるように、ウェハの処理枚数が増加すると、成膜室内の水素の分圧は次第に低下していく。また、これに伴って、Ti膜の配向性は、ウェハの中心部と周辺部の双方で低下していく。つまり、Ti膜の(002)配向性は水素の圧力に依存し、水素の圧力が低下すると、Ti膜の配向性も低下することが分かる。したがって、Ti膜の(002)配向性を高めるは、水素の圧力を高めることが必要であり、換言すると、水素の圧力を制御することによって、Ti膜の配向性を制御することが可能となる。
【0042】
このように、Ti膜の(002)配向性は水素の圧力によって変化する。一方、図5でコールドトラップを作動しないで成膜した場合の方がTi膜の配向性が高いことから、Ti膜の配向性には水蒸気の圧力も関係していると考えられる。それ故、ウェハの処理枚数が少ない段階であれば、成膜室内に吸着した水によってもTi膜の配向性を高めることが可能である。しかし、水蒸気はTi膜によってゲッタリングされるので、ウェハの処理枚数が増加すると、成膜室内の水蒸気圧が不安定となって、Ti膜の配向性に変動を与えるようになる。これを防ぐには、特許文献1や2に記載されているように、成膜室内に水蒸気を供給するのがよい。しかし、水蒸気の供給によって水蒸気圧が高くなると、水の分解で生成する酸素の分圧が上昇することにより、Ti膜の抵抗上昇やバリア性の低下などが起こると予測される。このため、Ti膜の配向性を水蒸気圧によって制御するのは容易でない。これに対して、水素の圧力を制御する方法によれば、上記の問題を解消してTi膜の配向性を高めることが可能となる。
【0043】
図8は、導入ガスの種類を変えて成膜した場合のTi膜の(002)配向性と水素分圧とを比較したものである。△印は、成膜前の水素分圧であり、○印は、成膜中の水素分圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0044】
図8において、(a)はArのみを導入した場合、(b)はArと水蒸気の混合ガスを導入した場合、(c)はArと水素の混合ガスを導入した場合である。それぞれ横軸の右側にいくほど、ウェハの処理枚数が増加する。尚、Arと水蒸気の混合ガスの流量を7.3sccmとし、Arと水素の混合ガスの流量を7.7sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0045】
図8で(a)〜(c)を比較すると、Ti膜の配向性はArガスのみを導入した場合が最も低い。一方、Arに水蒸気を混合した場合と、Arに水素を混合した場合とでは、Ti膜の配向性は同様の値を示している。そして、Arガスのみを導入した場合の水素分圧は成膜前後でほとんど変わらないのに対して、Arに水蒸気を混合した場合や、Arに水素を混合した場合では、成膜後に水素の分圧が上昇している。したがって、この結果からも、Ti膜の配向性に水素分圧が影響していることが分かる。
【0046】
図9は、導入ガスの種類を変えて成膜した場合のTi膜の(002)配向性と水蒸気圧とを比較したものである。△印は、成膜前の水蒸気圧であり、○印は、成膜中の水蒸気圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0047】
図9において、(a)はArのみを導入した場合、(b)はArと水蒸気の混合ガスを導入した場合、(c)はArと水素の混合ガスを導入した場合である。それぞれ横軸の右側にいくほど、ウェハの処理枚数が増加する。尚、Arと水蒸気の混合ガスの流量を7.3sccmとし、Arと水素の混合ガスの流量を7.7sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0048】
図9で(a)〜(c)を比較すると、Ti膜の配向性はArガスのみを導入した場合が最も低い。一方、Arに水蒸気を混合した場合と、Arに水素を混合した場合とでは、前者の方が水蒸気圧が高いにもかかわらず、Ti膜の配向性は同様の値を示している。したがって、Ti膜の配向性と水蒸気圧との間には明確な相関性は見られないことが分かる。
【0049】
図10(a)は、Arと水素の混合ガスを導入した場合において、Ti膜の(002)配向性と水素分圧との関係を示したものである。尚、Arと水素の混合ガスの流量を7.7sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0050】
図10(a)では、ロット毎に水素分圧を変え、ロット間およびロット内におけるTi膜の配向性と水素分圧とを比較している。尚、各ロットにおいては、横軸の右側にいくほどウェハの処理枚数が増加する。△印は、成膜前の水素分圧であり、○印は、成膜中の水素分圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0051】
図10(a)から明らかであるように、水素の分圧を高くすると、Ti膜の配向性も高くなる。そして、水素の分圧が3.0×10−4Pa以上であれば、Arガスのみを導入した場合と比べて、Ti膜の配向性は3倍以上高くなることが分かった。
【0052】
図10(b)は、Arと水蒸気の混合ガスを導入した場合において、Ti膜の(002)配向性と水蒸気圧との関係を示したものである。尚、Arと水蒸気の混合ガスの流量を7.3sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0053】
図10(b)においても、ロット毎に水蒸気圧を変え、ロット間およびロット内におけるTi膜の配向性と水蒸気圧とを比較している。尚、各ロットにおいては、横軸の右側にいくほどウェハの処理枚数が増加する。△印は、成膜前の水蒸気圧であり、○印は、成膜中の水蒸気圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。
【0054】
図10(b)より、ウェハの処理枚数が増えるにしたがって、水蒸気圧は低下していくことが分かる。これは、Ti膜によって水がゲッタリングされるためと考えられる。一方、Ti膜の配向性は、水蒸気圧の低下にもかかわらず高くなって行く。したがって、Ti膜の配向性と水蒸気圧との間には、図10(a)の水素分圧で見られたような相関性がないことが分かる。
【0055】
図11は、Arと水蒸気の混合ガスを導入した場合において、Ti膜の(002)配向性と水素分圧との関係を示したものである。図の例では、6ロット(150枚)のウェハを処理しており、横軸の右側にいくほどウェハの処理枚数が増加していく。△印は、成膜前の水素分圧であり、○印は、成膜中の水素分圧である。また、◇印は、ウェハ中心部(Center)におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性である。尚、Arと水蒸気の混合ガスの流量を7.3sccmとした以外は、図5と同様の条件でTi膜の成膜を行っている。
【0056】
図11より、ウェハの処理枚数が増えるにしたがって、水素の分圧は低下していくことが分かる。この水素分圧の減少幅を成膜前と成膜中とで比較すると、前者より後者の方が大きい。このことは、成膜中に水素が消費されていることを示している。したがって、Ti膜の配向性には、プラズマ中で分解された水素が影響を与えていると考えられる。
【0057】
以上述べたように、Ti膜の(002)配向性は、成膜中における水素の圧力を高くすることによって向上させることができる。この方法によれば、成膜室内の水蒸気圧を制御する方法に比べて、直接的且つ容易にTi膜の配向性を制御することが可能である。水蒸気圧を高めることによっても水素圧を高めることは可能であるが、高められる水素圧には限度があり、また、水蒸気はTi膜によってゲッタリングされるので、ウェハの処理枚数が増加すると、水蒸気圧が低下するようになるからである。さらには、水蒸気圧が高くなると、水の分解で生成する酸素の分圧が上昇することにより、Ti膜の抵抗上昇やバリア性の低下などが起こるという問題もある。
【0058】
制御性よく高い(002)配向性のTi膜を得るには、成膜中における水素の圧力が、1×10−4Pa〜1×10−2Paの範囲内であることが好ましく、1×10−4Pa〜1×10−3Paの範囲内であることがより好ましい。一例として、水素の圧力が3.0×10−4Pa以上であれば、Arガスのみを導入した場合と比べて、Ti膜の配向性を3倍以上高くすることが可能である。
【0059】
また、Ti膜は、成膜温度を200℃〜250℃としたときに、高い(002)配向性を得ることができる。そして、この温度範囲内で成膜したTi膜の上にTiN膜を成膜することにより、高い(111)配向性を有するTiN膜が得られる。したがって、Arと水素の混合ガスを導入し、200℃〜250℃の範囲内の温度でスパッタを行うことにより、高い配向性のTi膜を形成することができ、さらには、この上にTiN膜を形成することにより、TiN膜の配向性も高くすることができる。こうして形成されたTiN膜の上にAl膜を成膜すれば、高い(111)配向性のAl膜が得られる。これにより、エレクトロマイグレーション耐性に優れた膜とすることができる。
【0060】
尚、本実施の形態においては、熱酸化膜の形成されたシリコンウェハの上にTi膜を成膜したが、本発明はこれに限られるものではない。シリコンウェハ以外の他の半導体基板を用いてもよく、熱酸化膜、すなわち、SiO2膜以外の他の絶縁膜(例えば、BSG(BoroSilicate Glass)膜、PSG(PhosphoSilicate Glass)膜またはBPSG(BoroPhosphoSilicate Glass)膜など)の上にTi膜を形成してもよい。また、Al膜は、Ti膜の上に成膜してもよい。すなわち、Ti膜/TiN膜/Al膜とするだけでなく、Ti膜/TiN膜/Ti膜/Al膜とすることも可能である。
【0061】
本発明は、スパッタリングによってウェハ上にTi膜を成膜する成膜室と、この成膜室にArと水素の混合ガスを導入する導入手段と、成膜室内に載置されたウェハを加熱する加熱手段と、成膜室内の水素の圧力を所定の値に制御する制御手段とを有する成膜装置を用いることにより実施される。図12および図13は、この成膜装置の一例である。
【0062】
図12は、本実施の形態における成膜装置の模式的な平面部分断面図である。また、図13は、図12の成膜装置の模式的な部分側面図である。
【0063】
図12に示すように、成膜装置1は、ロードロック室2と、複数の真空処理室3〜7とがクラスター状に配置された構造を有する。各真空処理室3〜7は、例えば、前処理室3、第1の成膜室4、デガス室5、第2の成膜室6、および、第3の成膜室7の順で配置される。例えば、第2の成膜室6でTi膜を成膜した後、第3の成膜室7でAl膜を成膜することができる。ロードロック室2および各真空処理室3〜7には、それぞれ真空ポンプ(図示せず)が接続しており、相互に独立して真空排気できるようになっている。
【0064】
また、成膜装置1は、ロードロック室2および各真空処理室3〜7の側壁面に接する多角筒形状の真空搬送室8を備えている。真空搬送室8には、ロードロック室2および各真空処理室3〜7との間でウェハ(図示せず)を1枚ずつ搬入または搬出する搬送ロボット(図示せず)が設置されている。さらに、真空搬送室8には、真空ポンプ(図示せず)が接続しており、独立して真空排気できる構造となっている。
【0065】
2つのロードロック室2のいずれかにあるウェハ(図示せず)は、搬送ロボットによって真空搬送室8に搬入された後、予め設定された条件にしたがい所定の搬送経路で各真空処理室3〜7に順次搬送されて処理される。
【0066】
図13において、6はTi膜を成膜する成膜室、9は真空ポンプ、10は水素量を監視する水素量監視部である。水素量監視部10には、例えば、四重極質量分析器を用いることができる。これにより、成膜室4内のスパッタ雰囲気中に含まれる水素量を監視して、成膜室6内に導入する水素の量(圧力)を制御することができる。尚、成膜室6には、Arと水素の混合ガスを導入する導入手段(図示せず)が接続しており、また、その内部にはウェハを加熱する加熱手段(図示せず)が設けられている。
【0067】
ところで、上記例では、ウェハとターゲットをロングスロー配置して成膜を行っている。この方法によれば、ウェハ上に飛来するスパッタ粒子は、その表面に対して略垂直なものに揃えられる。それ故、ウェハ上には、主に、表面に対し垂直に飛来してくるスパッタ粒子が堆積するので、配向性や成膜速度をほとんど変えずに低圧でTi膜を成膜することができる。従来のArガスのみを導入してTi膜を成膜する方法では、この方式によってスパッタリングを行っていた。しかしながら、本発明は、ウェハとターゲットの距離を短くして成膜した場合にも同様の効果が得られる。以下では、ロングスロー配置をとらずにTi膜を成膜する場合について述べる。
【0068】
図14は、成膜温度とTi膜の(002)配向性との関係を、Arのみを導入した場合(Pure−Ar)と、Arと水素の混合ガスを導入した場合(H2+Ar)とで比較した結果である。尚、横軸のR.T.は室温(25℃)を示している。
【0069】
図14の例では、成膜室内にArガスまたはArと水素の混合ガスを導入しながら、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウェハ上にTi膜を成膜している。尚、成膜条件は次の通りである。
・Tiターゲットからマグネットまでの距離:39mm
・ウェハからTiターゲットまでの距離:90mm
・パワー:4kW
・Arの流量:45sccm
・成膜時間:14秒間
【0070】
図14において、Arのみを導入し、室温〜300℃の温度で行った成膜では、Ti膜の配向性は、100〜220程度の間でほとんど変化がない。一方、Arと水素の混合ガスを導入し、200℃で行った成膜では、Ti膜の配向性は5100程度の強度を示し、Arのみの場合に比べて20倍以上の値となっている。したがって、ロングスロースパッタ方式でなくても、Arと水素の混合ガスを導入することにより、Ti膜の配向性を高められることが分かる。
【0071】
図15は、ウェハの中心部(Center)と周辺部(Edge)におけるTi膜の(002)配向性と、成膜室内の水素の分圧との関係を示す図である。この例では、ロット毎に水素分圧を変えてTi膜の配向性と水素分圧とを比較している。△印は、成膜前の水素分圧であり、○印は、成膜中の水素分圧である。また、◇印は、ウェハ中心部におけるTi膜の(002)配向性であり、□印は、ウェハ周辺部におけるTi膜の(002)配向性である。尚、Ti膜の成膜は、図14でArと水素の混合ガスを導入した場合と同様の条件で行っている。
【0072】
図15より、成膜中における水素の分圧が上昇すると、ウェハの中心部および周辺部の双方でTi膜の配向性が向上することが分かる。この傾向は、実施の形態1で述べたロングスロースパッタ方式の場合と同様である。この場合、水素の分圧が4.0×10−4Pa以上であれば、Arガスのみを導入した場合と比べて、Ti膜の配向性を20倍以上高くすることができる。
【0073】
このように、Arと水素の混合ガスを導入することにより、ロングスロースパッタ方式でなくても、Ti膜の(002)配向性を向上させることができる。上述したように、例えば、水素の分圧が4.0×10−4Pa以上であれば、Arガスのみを導入した場合と比べて、Ti膜の配向性を20倍以上高くすることが可能である。
【0074】
以上述べたように、本発明によれば、Arと水素の混合ガスを導入し、200℃〜250℃の範囲内の温度でスパッタを行うことにより、高い配向性のTi膜を形成することができ、さらには、この上にTiN膜を形成することにより、TiN膜の配向性も高くすることができる。こうして形成されたTiN膜の上にAl膜を成膜すれば、高い(111)配向性のAl膜が得られる。これにより、エレクトロマイグレーション耐性に優れた半導体装置とすることができる。この場合、ウェハとターゲットとの関係は、ロングスロー配置であるか否かにかかわらない。また、Ti膜は、成膜室内に、Arと水素の混合ガスを導入してから成膜されてもよいし、Arと水素の混合ガスを導入しながら成膜されてもよい。前者の場合、成膜中はArのみを導入し水素の導入を行わなくても、成膜中にArと水素の混合ガスを導入する場合と同様の効果が得られる。さらには、成膜前に水素ガスを成膜室内に導入し、成膜中は水素ガスの導入を停止しArガスのみを導入して、Ti膜の成膜を行ってもよい。
【0075】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。例えば、Ar以外の希ガス(例えば、HeガスまたはNeガスなど)をスパッタガスとして水素ガスとともに導入してもよい。また、スパッタガスには、希ガスおよび水素ガス以外の他の成分が含まれていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】Ti膜の成膜温度と配向性との関係を示す図である。
【図2】TiN膜の成膜温度と配向性との関係を示す図である。
【図3】成膜温度とTi/TiN積層膜の配向性との関係を示す図である。
【図4】Ti膜の配向性を、ウェハの中心部と周辺部とで比較した図である。
【図5】成膜装置内の水蒸気圧とTi膜の配向性との関係を示す図である。
【図6】ウェハの中心部と周辺部におけるTi膜の配向性と、成膜室内の水蒸気の分圧との関係を示す図である。
【図7】ウェハの中心部と周辺部におけるTi膜の配向性と、成膜室内の水素の分圧との関係を示す図である。
【図8】導入ガスの種類を変えて成膜した場合のTi膜の配向性と水素分圧とを比較した図である。
【図9】導入ガスの種類を変えて成膜した場合のTi膜の配向性と水蒸気圧とを比較した図である。
【図10】(a)は、Ti膜の配向性と水素分圧との関係を示す図であり、(b)は、Ti膜の配向性と水蒸気圧との関係を示す図である。
【図11】Ti膜の配向性と水素分圧との関係を示す図である。
【図12】本実施の形態における成膜装置の模式的な平面部分断面図である。
【図13】図12の成膜装置の模式的な部分側面図である。
【図14】成膜温度とTi膜の配向性との関係を、Arのみを導入した場合とArと水素の混合ガスを導入した場合とで比較した図である。
【図15】ウェハの中心部と周辺部におけるTi膜の配向性と、成膜室内の水素の分圧との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1 成膜装置
2 ロードロック室
3〜7 真空処理室
8 真空搬送室
9 真空ポンプ
10 水素量監視部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の上に、絶縁膜、チタン膜、窒化チタン膜およびアルミニウム膜がこの順に設けられた半導体装置の製造方法であって、
前記チタン膜は、スパッタリングを行う成膜室内に、水素ガスを導入してから、または、水素ガスを導入しながら、成膜されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記チタン膜の成膜中における前記水素ガスの分圧は、1×10−4Pa〜1×10−2Paであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記チタン膜の成膜は、前記半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記窒化チタン膜の成膜は、前記半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
スパッタリングによって基板上にチタン膜を成膜する成膜室と、
前記成膜室に希ガスと水素ガスを含む混合ガスを導入する導入手段と、
前記成膜室内に載置された前記基板を加熱する加熱手段と、
前記成膜室内の水素ガスの圧力を所定の値に制御する制御手段とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記チタン膜の成膜中における水素ガスの圧力が1×10−4Pa〜1×10−2Paとなるよう制御する手段であることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記加熱手段は、前記基板を200℃〜250℃の温度に加熱する手段であることを特徴とする請求項5または6に記載の成膜装置。
【請求項1】
半導体基板の上に、絶縁膜、チタン膜、窒化チタン膜およびアルミニウム膜がこの順に設けられた半導体装置の製造方法であって、
前記チタン膜は、スパッタリングを行う成膜室内に、水素ガスを導入してから、または、水素ガスを導入しながら、成膜されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記チタン膜の成膜中における前記水素ガスの分圧は、1×10−4Pa〜1×10−2Paであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記チタン膜の成膜は、前記半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記窒化チタン膜の成膜は、前記半導体基板を200℃〜250℃の温度に加熱した状態で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
スパッタリングによって基板上にチタン膜を成膜する成膜室と、
前記成膜室に希ガスと水素ガスを含む混合ガスを導入する導入手段と、
前記成膜室内に載置された前記基板を加熱する加熱手段と、
前記成膜室内の水素ガスの圧力を所定の値に制御する制御手段とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記チタン膜の成膜中における水素ガスの圧力が1×10−4Pa〜1×10−2Paとなるよう制御する手段であることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記加熱手段は、前記基板を200℃〜250℃の温度に加熱する手段であることを特徴とする請求項5または6に記載の成膜装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−300749(P2008−300749A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147528(P2007−147528)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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