説明

半導体装置

【課題】回路基板と半導体素子の各電極パッドとを電気的に接続する銅製ワイヤが腐食し難く、高温保管特性、耐マイグレーション性、耐湿信頼性に優れた半導体装置を提供すること。
【解決手段】回路基板と、前記回路基板に搭載された半導体素子と、前記回路基板と前記半導体素子とを電気的に接続する銅製ワイヤと、前記半導体素子と前記銅製ワイヤを封止する封止材とを備え、前記銅製ワイヤが線径25μm以下の銅製ワイヤであり、前記銅製ワイヤがその表面にパラジウムを含む金属材料で構成された被覆層を有しており、前記封止材が(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)充填材、(D)硫黄原子含有化合物を含む樹脂組成物の硬化物で構成されていることを特徴とする半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関するものである。特に、回路基板と、回路基板に搭載された半導体素子と、回路基板と半導体素子とを電気的に接続する銅製ワイヤと、半導体素子と銅製ワイヤを封止する封止材とを備えた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からダイオード、トランジスタ、集積回路等の電子部品は、主にエポキシ樹脂組成物の硬化物により封止されている。特に集積回路では、エポキシ樹脂、フェノール樹脂系硬化剤、及び溶融シリカ、結晶シリカ等の無機充填材を配合した、耐熱性、耐湿性に優れたエポキシ樹脂組成物が用いられている。ところが近年、電子機器の小型化、軽量化、高性能化の市場動向において、半導体素子の高集積化が年々進み、また半導体装置の表面実装化が促進されるなかで、半導体素子の封止で用いられているエポキシ樹脂組成物への要求は益々厳しいものとなってきている。さらに半導体装置に対するコストダウンの要求も激しく従来の金線接続ではコストが高いため、アルミ、銅合金、銅などの金属による接合も一部採用されている。しかしながら、特に自動車用途においては、コストに加え、150℃を超えるような高温環境下での高温保管特性、高温動作特性、60℃、相対湿度60%を超えるような高温・高湿環境下での耐湿信頼性といった電気的信頼性も要求され、非金ワイヤではマイグレーション、腐食、電気抵抗値の増大といった問題があり必ずしも満足できるものではなかった。
【0003】
特に銅製ワイヤを用いた半導体装置においては、耐湿信頼性試験において銅が腐食し易すく信頼性にかけるといった問題から、ディスクリート用パワーデバイスといった線径の太いものでは使用実績があるものの、ワイヤ線径25μm以下のIC用途、特に回路基板起因の不純物の影響をも受ける片面封止パッケージへの適用は難しいのが現状である。
【0004】
銅製ワイヤ自身の加工性を改善することで接合部の信頼性を向上させようとした提案(例えば、特許文献1参照。)、銅線に導電性金属を被覆することことで酸化防止による接合信頼性の向上に対して改良をする提案(例えば、特許文献2参照。)など銅製ワイヤ単体での取り組みはあるものの、樹脂で封止されたパッケージすなわち半導体装置としての腐食、耐湿信頼性といった電気的信頼性については考慮されておらず、必ずしも満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平06−017554号公報
【特許文献2】特開2007−12776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、回路基板と半導体素子の各電極パッドとを電気的に接続する銅製ワイヤが腐食し難く、耐半田性、高温保管特性、高温動作特性、耐マイグレーション性、耐湿信頼性のバランスに優れた半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体装置は、回路基板と、前記回路基板に搭載された半導体素子と、前記回路基板と前記半導体素子とを電気的に接続する銅製ワイヤと、前記半導体素子と前記銅製ワイヤを封止する封止材とを備え、
前記銅製ワイヤが線径25μm以下の銅製ワイヤであり、
前記銅製ワイヤがその表面にパラジウムを含む金属材料で構成された被覆層を有しており、
前記封止材が(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)充填材、(D)硫黄原子含有化合物を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物で構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の半導体装置は、前記封止材を構成するエポキシ樹脂組成物の硬化物を125℃、相対湿度100%RH、20時間の条件で抽出した抽出水中の塩素イオン濃度が10ppm以下であるものとすることができる。
【0009】
本発明の半導体装置は、前記銅製ワイヤの芯線における銅純度が99.99質量%以上であるものとすることができる。
【0010】
本発明の半導体装置は、前記パラジウムを含む金属材料から構成された被覆層の厚みが0.001〜0.02μmであるものとすることができる。
【0011】
本発明の半導体装置は、前記(D)硫黄原子含有化合物が、メルカプト基、スルホン酸基、スルフィド結合、から選ばれた少なくとも一つの原子団を有する硫黄原子含有化合物であるものとすることができる。
【0012】
本発明の半導体装置は、前記(D)硫黄原子含有化合物が、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、含窒素複素環、から選ばれた、エポキシ樹脂マトリックスとの親和性に優れた少なくとも一つの原子団と、メルカプト基、スルホン酸基、スルフィド結合、から選ばれた、パラジウムを含む金属材料との親和性に優れた少なくとも一つの原子団と、を有する硫黄原子含有化合物であるものとすることができる。
【0013】
本発明の半導体装置は、前記(D)硫黄原子含有化合物が、トリアゾール系化合物、チアゾリン系化合物、ジチアン系化合物から選ばれた少なくとも1つの硫黄原子含有化合物であるものとすることができる。
【0014】
本発明の半導体装置は、前記(D)硫黄原子含有化合物が1,2,4−トリアゾール環を有する化合物であるものとすることができる。
【0015】
本発明の半導体装置は、前記(D)硫黄原子含有化合物が下記一般式(1)で表される化合物
【化1】

(ただし、上記一般式(1)において、R1は水素原子、又はメルカプト基、アミノ基、水酸基、もしくはそれらの官能基を有する炭化水素基である。)
であるものとすることができる。
【0016】
本発明の半導体装置は、前記(D)硫黄原子含有化合物が下記一般式(2)で表される
化合物
【化2】

(ただし、上記一般式(2)において、R2、R3は水素原子、又はメルカプト基、アミノ基、水酸基、もしくはそれらの官能基を有する炭化水素基である。)
であるものとすることができる。
【0017】
本発明の半導体装置は、前記(A)エポキシ樹脂が、
下記一般式(3)で表されるエポキシ樹脂
【化3】

(ただし、上記一般式(3)において、R4は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。n3の平均値は0又は5以下の正数である。)、
下記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂
【化4】

(ただし、上記一般式(4)において、R5は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。R6は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。n4の平均値は0又は5以下の正数である。)、
下記一般式(5)で表されるエポキシ樹脂
【化5】

(ただし、上記一般式(5)において、−R7−はフェニレン基又はナフチレン基であり、−R7−がナフチレン基である場合、グリシジルエーテル基の結合位置はα位であってもβ位であってもよい。−R8−はフェニレン基、ビフェニレン基又はナフチレン基である。R9、R10は、それぞれR7、R8に導入される基で、炭素数1〜10の炭化水素基であり、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。aは0〜5の整数、bは0〜8の整数である。n5の平均値は1以上、3以下の正数である。)
及び下記一般式(6)で表されるエポキシ樹脂
【化6】

(ただし、上記一般式(6)において、R11は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。R12は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。c、dは0又は1であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。eは0〜6の整数である。)
から選ばれた少なくとも一つであるエポキシ樹脂を含むものとすることができる。
【0018】
本発明の半導体装置は、前記(B)硬化剤が、
ノボラック型フェノール樹脂、
下記一般式(7)で表されるフェノール樹脂
【化7】

(ただし、上記一般式(7)において、−R13−はフェニレン基又はナフチレン基であり、−R13−がナフチレン基である場合、水酸基の結合位置はα位であってもβ位であってもよい。−R14−はフェニレン基、ビフェニレン基又はナフチレン基である。R15、R16は、それぞれR13、R14に導入される基で、炭素数1〜10の炭化水素基であり、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。fは0〜5の整数、gは0〜8の整数である。n7の平均値は1以上、3以下の正数である。)
から選ばれた少なくとも一つである硬化剤
を含むものとすることができる。
【0019】
本発明の半導体装置は、前記(C)充填材が、モード径が30μm以上、50μm以下であり、かつ55μm以上の粗大粒子の含有割合が0.2質量%以下である溶融球状シリカを含むものとすることができる。
【0020】
本発明の半導体装置は、自動車のエンジンルーム内で用いられる電子部品、パソコン用電源ユニット周辺の電子部品、家電用電源ユニット周辺の電子部品、及びLAN装置内の電子部品などの、60℃、相対湿度60%以上の高温高湿環境下での動作保証が要求される電子部品に使用されるものとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従うと、回路基板と半導体素子の各電極パッドとを電気的に接続する銅製ワイヤが腐食を起こし難く、耐半田性、高温保管特性、高温動作特性、耐マイグレーション性、耐湿信頼性のバランスに優れた半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の半導体装置について詳細に説明する。本発明の半導体装置は、回路基板と、回路基板に搭載された半導体素子と、回路基板と半導体素子とを電気的に接続する銅製ワイヤと、半導体素子と銅製ワイヤを封止する封止材とを備え、銅製ワイヤが線径25μm以下の銅製ワイヤであり、銅製ワイヤがその表面にパラジウムを含む金属材料で構成された被覆層を有しており、封止材が(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)充填材、(D)硫黄原子含有化合物を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物で構成されていることを特徴とする。これらにより、回路基板と半導体素子の各電極パッドとを電気的に接続する銅製ワイヤが腐食を起こし難く、高温保管特性、高温動作特性、耐湿信頼性のバランスに優れた半導体装置を得ることができるものである。以下、各構成について詳細に説明する。
【0024】
先ず、本発明の半導体装置で用いられる銅製ワイヤについて説明を行う。回路基板と、回路基板に搭載された半導体素子と、回路基板と半導体素子とを電気的に接続するワイヤと、半導体素子とワイヤを封止する封止材とを備えた片面封止型の半導体装置においては、集積度の向上のため狭パッドピッチ、小ワイヤ径が要求され、具体的には、25μm以下、さらに好ましくは23μm以下のワイヤ径が求められている。ワイヤとして銅製ワイヤを用いた場合における銅製ワイヤ自身の加工性に起因する接続信頼性を向上させるため、ワイヤ径を大きくすることで接合面積を増大し、接合不足起因の耐湿信頼性の低下を改善するという考え方もあるが、このようにワイヤ径を太くすることによる改善手法では集積度の向上を図ることはできず、片面封止型となる本発明の半導体装置として満足できるものが得られない。
【0025】
本発明の半導体装置で用いられる銅製ワイヤは、その表面にパラジウムを含む金属材料
で構成された被覆層を有していることが好ましい。これにより、銅製ワイヤ先端のボール形状が安定し、接合部分の接続信頼性を向上させることができる。また、芯線である銅の酸化劣化を防止する効果も得られ、接合部分の高温保管特性を向上させることができる。
【0026】
本発明の半導体装置で用いられるパラジウムを含む金属材料で構成された被覆層を有する銅製ワイヤは、芯線における銅純度が99.99質量%以上であることが好ましく、99.999質量%以上であることがより好ましい。一般に銅に対して各種元素(ドーパント)を添加することで接合時における銅製ワイヤ先端のボール側形状の安定化を図ることができるが、0.01質量%より多い大量のドーパントを添加すると、銅製ワイヤが硬くなることで接合時に半導体素子の電極パッド側にダメージを与え、接合不足起因の耐湿信頼性の低下、高温保管特性の低下、電気抵抗値の増大といった不具合を生じる。これに対し、銅純度99.99質量%以上の銅製ワイヤであれば、銅製ワイヤは充分な柔軟性を有しているため、接合時にパッド側にダメージを与える恐れがない。尚、本発明の半導体装置で用いられるパラジウムを含む金属材料で構成された被覆層を有する銅製ワイヤは、芯線である銅にBa、Ca、Sr、Be、Alまたは希土類金属を0.001〜0.003質量%ドープすることでさらにボール形状と接合強度が改善される。
【0027】
本発明の半導体装置で用いられる銅製ワイヤにおけるパラジウムを含む金属材料から構成された被覆層の厚みとしては、0.001〜0.02μmであることが好ましく、0.005〜0.015μmであることがより好ましい。上記上限値を超えると、ワイヤーボンド時に芯線である銅と被覆材のパラジウムを含む金属材料とが十分に溶けずボール形状が不安定になり、接合部分の耐湿性、高温保管特性が低下する恐れがある。また、上記下限値を下回ると、芯線の銅の酸化劣化を十分に防止できず、同様に接合部分の耐湿性、高温保管特性が低下する恐れがある。
【0028】
本発明の半導体装置で用いられる銅製ワイヤは、銅合金を溶解炉で鋳造し、その鋳塊をロール圧延し、さらにダイスを用いて伸線加工を行い、連続的にワイヤを掃引しながら加熱する後熱処理を施して得ることができる。また、本発明の半導体装置で用いられる銅製ワイヤにおけるパラジウムを含む金属材料から構成された被覆層は、予め狙いのワイヤ径の線を準備し、これをパラジウムを含む電解溶液又は無電解溶液に浸漬し、連続的に掃引してメッキすることで被覆層を形成することができる。この場合、被覆の厚さは掃引速度で調整することができる。また、狙いよりも太い線を準備して、これを電解溶液又は無電解溶液に浸漬し連続的に掃引して被覆層を形成し、さらに所定の径になるまで伸線する手法も取れる。
【0029】
次に、本発明の半導体装置で用いられる封止材について説明を行う。本発明の半導体装置で用いられる封止材は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)充填材、(D)硫黄原子含有化合物を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物で構成されていることが好ましい。以下、本発明の半導体装置で用いられる封止材のもととなるエポキシ樹脂組成物の各構成成分について説明を行う。
【0030】
本発明の半導体装置で用いられる封止材用のエポキシ樹脂組成物には、(A)エポキシ樹脂を用いることができる。(A)エポキシ樹脂は、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;
ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。封止材としての耐湿信頼性を考慮すると、イオン性不純物であるCl(塩素イオン)が極力少ない方が好ましく、より具体的には、(A)エポキシ樹脂全体に対するCl(塩素イオン)等のイオン性不純物の含有割合が10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。また、封止材用のエポキシ樹脂組成物としての硬化性を考慮すると、エポキシ当量としては100g/eq以上500g/eq以下であるものが好ましい。これらのエポキシ樹脂のなかでも、後述する一般式(3)で表されるエポキシ樹脂、一般式(4)で表されるエポキシ樹脂、一般式(5)で表されるエポキシ樹脂及び一般式(6)で表されるエポキシ樹脂から選ばれた少なくとも一つであるエポキシ樹脂を含むことが特に好ましい。
【0031】
尚、エポキシ樹脂全体に対するCl(塩素イオン)の含有割合は、以下のようにして測定することができる。先ず、エポキシ樹脂等の試料5gと蒸留水50gとをテフロン(登録商標)製耐圧容器に密閉し、125℃、相対湿度100%RH、20時間の処理(プレッシャークッカー処理)を行う。室温まで冷却した後、抽出水を遠心分離、20μmフィルターにてろ過し、キャピラリー電気泳動装置(例えば、大塚電子株式会社製CAPI―3300)を用いて塩素イオン濃度を測定する。ここで得られる塩素イオン濃度(単位ppm)は試料5g中から抽出された塩素イオンを10倍に希釈した数値であるため、下記式により樹脂組成物単位質量あたりの塩素イオン量に換算する。単位はppm。
試料単位質量あたりの塩素イオン濃度=(キャピラリー電気泳動装置で求めた塩素イオン濃度)×50÷5
尚、後述する硬化剤中に含有される塩素イオンについても、同様の方法で測定することができる。
【0032】
下記一般式(3)で表されるエポキシ樹脂及び下記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂は、いずれも結晶性エポキシ樹脂であり、常温時には固体で取り扱い性に優れ、かつ成形時の溶融粘度が非常に低い特長を有する。これらのエポキシ樹脂は溶融粘度が低いことにより、エポキシ樹脂組成物の高流動化を得ることができ、無機質充填材を高充填化することができる。これにより、半導体装置における耐半田性、耐湿信頼性を向上する効果を得ることができる。
【0033】
【化8】

(ただし、上記一般式(3)において、R4は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。n3の平均値は0又は5以下の正数である。)
【0034】
【化9】

(ただし、上記一般式(4)において、R5は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。R6は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。n4の平均値は0又は5以下の正数である。)
【0035】
上記一般式(3)で表されるエポキシ樹脂及び上記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂の配合割合としては、(A)エポキシ樹脂全体に対して、15質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の流動性を向上させる効果を得ることができる。
【0036】
また、下記一般式(5)で表されるエポキシ樹脂は、グリシジルエーテル基が結合したフェニレン基又はナフチレン基(−R7−)の間に疎水性のフェニレン骨格、ビフェニレン骨格又はナフチレン骨格を含むアラルキル基(−CH−R8−CH−)を有することから、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等と比べて、架橋点間距離が長くなる。そのため、これらを用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物は吸湿率が低く、かつ高温下において低弾性率化するため、半導体装置の耐半田性向上に寄与することができる。また、これらを用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物は、耐燃性に優れ、架橋密度が低い割には耐熱性が高いという特徴も有する。さらにナフチレン骨格を含むアラルキル基を含有する化合物においては、ナフタレン環に起因する剛直性によるTgの上昇やその平面構造に起因する分子間相互作用による線膨張係数の低下により、エリア表面実装型といった片面封止の半導体装置における低反り性を向上させることができる。
【0037】
【化10】

(ただし、上記一般式(5)において、−R7−はフェニレン基又はナフチレン基であり、−R7−がナフチレン基である場合、グリシジルエーテル基の結合位置はα位であってもβ位であってもよい。−R8−はフェニレン基、ビフェニレン基又はナフチレン基である。R9、R10は、それぞれR7、R8に導入される基で、炭素数1〜10の炭化水素基であり、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。aは0〜5の整数、bは
0〜8の整数である。n5の平均値は1以上、3以下の正数である。)
【0038】
また、一般式(5)で表されるエポキシ樹脂において、グリシジルエーテル基が結合した−R7−は、フェニレン基又はナフチレン基であり、−R8−がナフチレン基の場合、グリシジルエーテル基の結合位置はα位であってもβ位であってもよいが、特にナフチレン基である場合は前述のナフチレン骨格を含むアラルキル基を含有する化合物と同様に、Tgの上昇や線膨張係数の低下により、エリア表面実装型半導体パッケージにおける低反り性を向上させる効果が得られ、さらに芳香族炭素を多く有することから耐熱性の向上も実現することができる。
【0039】
一般式(5)で表されるエポキシ樹脂としては、例えば、フェニレン骨格を含有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を含有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を含有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂が挙げられるが、一般式(5)の構造であれば特に限定するものではない。
【0040】
一般式(5)で表されるエポキシ樹脂の軟化点としては、40℃以上、110℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上、90℃以下である。また、一般式(5)で表されるエポキシ樹脂のエポキシ当量としては、200以上、300以下が好ましい。
【0041】
一般式(5)で表されるエポキシ樹脂の配合割合としては、(A)エポキシ樹脂全体に対して、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、半導体装置の耐半田性、耐燃性等を向上させる効果を得ることができる。
【0042】
また、下記一般式(6)で表されるエポキシ樹脂は、分子内にナフタレン骨格を有するため、嵩高く、剛直性が高いことから、これを用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物の硬化収縮率が小さくなり、低反り性に優れるエリア表面実装型半導体装置が得られる効果も有する。
【0043】
【化11】

(ただし、上記一般式(6)において、R11は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。R12は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。c、dは0又は1であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。eは0〜6の整数である。)
【0044】
一般式(6)で表されるエポキシ樹脂の配合割合としては、(A)エポキシ樹脂全体に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、半導体
装置の低反り性を向上させる効果を得ることができる。
【0045】
(A)エポキシ樹脂全体の配合割合の下限値としては特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物全体に対して、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。(A)エポキシ樹脂全体の配合割合が上記範囲内であると、耐半田性の低下等を引き起こす恐れが少ない。また、(A)エポキシ樹脂全体の配合割合の上限値としては特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物全体に対して、15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂全体の配合割合の上限値が上記範囲内であると、耐半田性の低下、流動性の低下等を引き起こす恐れが少ない。
【0046】
本発明の半導体装置で用いられる封止材用のエポキシ樹脂組成物には、(B)硬化剤を用いることができる。(B)硬化剤としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤の3タイプに大別することができる。
【0047】
重付加型の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマーなどのポリフェノール化合物;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。
【0048】
触媒型の硬化剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP−30)などの3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF3錯体などのルイス酸などが挙げられる。
【0049】
縮合型の硬化剤としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂系硬化剤;メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂などが挙げられる。
【0050】
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点からフェノール樹脂系硬化剤が好ましい。フェノール樹脂系硬化剤は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。封止材としての耐湿信頼性を考慮すると、イオン性不純物であるClイオンが極力少ない方が好ましく、より具体的には、(B)硬化剤全体に対するCl(塩素イオン)等のイオン性不純物の含有割合が10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下
であることがより好ましい。エポキシ樹脂組成物の硬化性を考慮すると、水酸基当量は90g/eq以上、250g/eq以下のものが好ましい。これらのなかでも、後述するノボラック型フェノール樹脂及び一般式(7)で表されるフェノール樹脂から選ばれた少なくとも一つである硬化剤を含むことが特に好ましい。尚、硬化剤全体に対するCl(塩素イオン)の含有割合の測定は、前述のエポキシ樹脂の場合と同様にして測定することができる。
【0051】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とホルマリンを酸性触媒下で重合させたもので、特に制限は無いが、より低粘度のものが望ましく具体的には軟化点が90℃以下のものが好ましく、55℃以下のものがより好ましい。このようなノボラック型フェノール樹脂は、低粘度であることで樹脂組成物の流動性を損なうことがなく、かつ硬化性にも優れる特徴があり、得られた成形品の高温保管特性を向上させることができるという利点がある。これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0052】
ノボラック型フェノール樹脂の配合割合としては、(B)硬化剤全体に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、高温保管特性を向上させる効果を得ることができる。
【0053】
下記一般式(7)で表されるフェノール樹脂は、フェノール性水酸基間に疎水性のフェニレン骨格、ビフェニレン骨格又はナフチレン骨格を含むアラルキル基(−CH−R14−CH−)を有することから、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等と比べて、架橋点間距離が長くなる。そのため、これらを用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物は吸湿率が低く、かつ高温下において低弾性率化するため、半導体装置の耐半田性向上に寄与することができる。また、これらを用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物は、耐燃性に優れ、架橋密度が低い割には耐熱性が高いという特徴も有する。さらにナフチレン骨格を含むアラルキル基を含有する化合物においては、ナフタレン環に起因する剛直性によるTgの上昇やその平面構造に起因する分子間相互作用による線膨張係数の低下により、エリア表面実装型といった片面封止の半導体装置における低反り性を向上させることができる。
【0054】
【化12】

(ただし、上記一般式(7)において、−R13−はフェニレン基又はナフチレン基であり、−R13−がナフチレン基である場合、水酸基の結合位置はα位であってもβ位であってもよい。−R14−はフェニレン基、ビフェニレン基又はナフチレン基である。R15、R16は、それぞれR13、R14に導入される基で、炭素数1〜10の炭化水素基であり、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。fは0〜5の整数、gは0〜8の整数である。n7の平均値は1以上、3以下の正数である。)
【0055】
また、一般式(7)で表されるフェノール樹脂において、フェノール性水酸基が結合した−R13−は、フェニレン基又はナフチレン基であり、−R13−がナフチレン基の場
合、フェノール性水酸基の結合位置はα位であってもβ位であってもよいが、特にナフチレン基である場合は前述のナフチレン骨格を含むアラルキル基を含有する化合物と同様に、Tgの上昇や線膨張係数の低下により、成形収縮率を小さくすることができ、エリア表面実装型半導体パッケージにおける低反り性を向上させる効果が得られる。さらに芳香族炭素を多く有することから耐熱性の向上も実現することができる。
【0056】
一般式(7)で表わされるフェノール樹脂としては、例えば、フェニレン骨格を含有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を含有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を含有するナフトールアラルキル樹脂が挙げられるが、下記一般式(7)の構造であれば特に限定するものではない。
【0057】
一般式(7)で表されるフェノール樹脂の配合割合としては、(B)硬化剤全体に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、耐半田性、耐燃性等を向上させる効果を得ることができる。
【0058】
(B)硬化剤全体の配合割合の下限値については、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、0.8質量%以上であることが好ましく1.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。また、硬化剤(B)全体の配合割合の上限値についても、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、良好な耐半田性を得ることができる。
【0059】
また、硬化剤(B)としてフェノール樹脂系硬化剤を用いる場合におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂系硬化剤との配合比率としては、全エポキシ樹脂のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂系硬化剤のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が0.8以上、1.3以下であることが好ましい。当量比がこの範囲であると、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化性の低下、又は樹脂硬化物の物性の低下等を引き起こす恐れが少ない。
【0060】
本発明の半導体装置で用いられる封止材用のエポキシ樹脂組成物には、(C)充填材を用いることができる。(C)充填材としては、一般に封止材用のエポキシ樹脂組成物に使用されているものを用いることができる。例えば、溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、窒化珪素等が挙げられ、最も好適に使用されるものとしては、球状溶融シリカが挙げられる。これらの充填材は、単独でも混合して用いても差し支えない。またこれらがカップリング剤により表面処理されていてもかまわない。充填材の形状としては、流動性改善のために、できるだけ真球状であり、かつ粒度分布がブロードであることが好ましい。
【0061】
本発明では、充填材が、モード径30μm以上、50μm以下であることが好ましく、35μm以上、45μm以下であることがより好ましい。この範囲のものを用いることでワイヤ−ピッチの狭い片面封止型の半導体装置にも適用することができることとなる。さらに、55μm以上の粗大粒子の含有量が0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。この範囲にすることで、粗大粒子がワイヤ間に挟まり押し倒すワイヤ流れを抑制することができるものである。このような特定の粒度分布を有する充填材は、市販されている充填材をそのまま、或いは、それらの複数を混合したり、篩分したりすること等により、調整して得ることができる。また、本発明で用いる溶融球状シリカのモード径は、市販のレーザー式粒度分布計(例えば、(株)島津製作所製、SALD−7000等)など用いて測定することができる。
【0062】
(C)充填材の含有割合の下限値は、信頼性を考慮すると、エポキシ樹脂組成物全体に対して、84質量%以上であることが好ましく、87質量%以上であることがよりに好ましい。上記下限値を下回わらない範囲であれば、低吸湿性、低熱膨張性が得られるため、耐半田性が不十分となる恐れが少ない。また、(C)充填材の含有割合の上限値は、成形性を考慮すると、エポキシ樹脂組成物全体に対して、92質量%以下であることが好ましく、89質量%以下であることがより好ましい。上記上限値を超えない範囲であれば、流動性が低下し成形時に充填不良等が生じたり、高粘度化による半導体装置内のワイヤ流れ等の不都合が生じたりする恐れが少ない。
【0063】
本発明の半導体装置で用いられる封止材用のエポキシ樹脂組成物には、(D)硫黄原子含有化合物を用いることができる。これにより、金属との親和性が向上する効果が得られる。(D)硫黄原子含有化合物における硫黄原子の結合形態については、特に限定されるものではないが、(D)硫黄原子含有化合物が、メルカプト基、スルホン酸基、スルフィド結合から選ばれた、パラジウムを含む金属材料との親和性に優れた少なくとも一つの原子団を有する硫黄原子含有化合物であることがより好ましい。また、(D)硫黄原子含有化合物は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、含窒素複素環から選ばれた、エポキシ樹脂マトリックスとの親和性に優れた少なくとも一つの原子団を有する硫黄原子含有化合物であることがさらに好ましい。これにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物で構成されている封止材の表面と銅製ワイヤの表面に被覆されているパラジウムを含む金属材料との親和性を向上させ、界面での剥離を抑える効果が得られ、半導体装置の耐半田性、耐湿信頼性を向上させる役割を果たすことができる。このような化合物としては、特に限定するものではないが、含窒素複素環式芳香族化合物又は含硫黄複素環式化合物が好ましい。
【0064】
含窒素複素環式芳香族化合物としてはトリアゾール系化合物、チアゾリン系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ピリミジン系化合物等がより好ましい。これらの化合物の中では、トリアゾール系化合物が特に好ましく、トリアゾール系化合物のなかでは、1,2,4−トリアゾール環を有する化合物であることがより好ましく、下記一般式(1)で表される化合物であることがさらに好ましい。(D)硫黄原子含有化合物として下記一般式(1)で表される化合物を用いると、銅製ワイヤの表面に被覆されているパラジウムを含む金属材料との親和性がより高くなるため、半導体装置の信頼性をより向上させることができる。
【0065】
【化13】

(ただし、上記一般式(1)において、R1は水素原子、又はメルカプト基、アミノ基、水酸基、もしくはそれらの官能基を有する炭化水素基である。)
【0066】
含硫黄複素環式化合物としては、ジチアン系化合物が挙げられ、下記一般式(2)で表される化合物であることがさらに好ましく、その中でも水酸基を持つものが特に好ましい。(D)硫黄原子含有化合物として一般式(2)で表される化合物を用いると、銅製ワイ
ヤの表面に被覆されているパラジウムを含む金属材料との親和性がより高くなるため、半導体装置の信頼性をより向上させることができる。
【0067】
【化14】

(ただし、上記一般式(2)において、R2、R3は水素原子、又はメルカプト基、アミノ基、水酸基、もしくはそれらの官能基を有する炭化水素基である。)
【0068】
(D)硫黄原子含有化合物全体の配合割合の下限値については、全エポキシ樹脂組成物中に、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.03質量%以上であることが特に好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、パラジウムを含む金属材料との親和性を向上させる効果を得ることができる。また、(D)硫黄原子含有化合物全体の配合割合の上限値については、全エポキシ樹脂組成物中に、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることが特に好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の流動性が低下する恐れが少ない。
【0069】
本発明の半導体装置で用いられる封止材用のエポキシ樹脂組成物には、硬化促進剤をさらに用いることができる。硬化促進剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤(たとえば、フェノール樹脂系硬化剤のフェノール性水酸基)との架橋反応を促進させるものであればよく、一般に封止材用のエポキシ樹脂組成物に使用するものを用いることができる。例えば、1、8−ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン−7等のジアザビシクロアルケン及びその誘導体;トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート;ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種以上を併用しても差し支えない。
【0070】
硬化促進剤の配合割合の下限値としては特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物全体に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。硬化促進剤の配合割合の下限値が上記範囲内であると、硬化性の低下を引き起こす恐れが少ない。また、硬化促進剤の配合割合の上限値としては特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物全体に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。硬化促進剤の配合割合の上限値が上記範囲内であると、流動性の低下を引き起こす恐れが少ない。
【0071】
硬化促進剤のうちでは、流動性の観点で、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物がより好ましい。ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物で用いられるホスフィン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリブチルホスフィンなどが挙げられる。また、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物で用いられるキノン化合物としては、例えば、1,4−ベンゾキノン、メチル−1,4−ベンゾキノン、メトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノンなどが挙げられる。これらホスフィン化合物とキノン化合物との付加物のうち、トリフ
ェニルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加物がより好ましい。ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては特に制限はないが、例えば、原料として用いられるホスフィン化合物とキノン化合物とを両者が溶解する有機溶媒中で付加反応させて単離すればよい。
【0072】
本発明の半導体装置で用いられる封止材用のエポキシ樹脂組成物には、さらに必要に応じて、水酸化ジルコニウム等のアルミニウム腐食防止剤;酸化ビスマス水和物等の無機イオン交換体;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤;カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤;シリコーンゴム等の低応力成分;カルナバワックス等の天然ワックス、合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩類もしくはパラフィン等の離型剤;酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。さらに、必要に応じて無機充填材をエポキシ樹脂又はフェノール樹脂で予め処理して用いてもよく、処理の方法としては、溶媒を用いて混合した後に溶媒を除去する方法や、直接無機充填材に添加し、混合機を用いて混合処理する方法等がある。
【0073】
本発明の半導体装置で用いられる封止材用のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物の硬化物全体に対するCl(塩素イオン)の含有割合が10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましく、3ppm以下であることがさらに好ましい。これにより、より優れた耐湿信頼性と、高温動作特性を得ることができる。尚、エポキシ樹脂組成物の硬化物全体に対するCl(塩素イオン)の含有割合は、以下のようにして測定することができる。先ず、半導体装置の封止材を構成するエポキシ樹脂組成物の硬化物を粉砕ミルによって3分間粉砕し、200メッシュの篩で篩分して通過した粉を試料とする。得られた試料5gと蒸留水50gとをテフロン(登録商標)製耐圧容器に密閉し、125℃、相対湿度100%RH、20時間の処理(プレッシャークッカー処理)を行う。室温まで冷却した後、抽出水を遠心分離、20μmフィルターにてろ過し、キャピラリー電気泳動装置(例えば、大塚電子株式会社製CAPI―3300)を用いて塩素イオン濃度を測定する。ここで得られる塩素イオン濃度(単位ppm)は試料5g中から抽出された塩素イオンを10倍に希釈した数値であるため、下記式により樹脂組成物単位質量あたりの塩素イオン量に換算する。単位はppm。
試料単位質量あたりの塩素イオン濃度=(キャピラリー電気泳動装置で求めた塩素イオン濃度)×50÷5
【0074】
本発明の半導体装置で用いられる封止材用のエポキシ樹脂組成物は、前述の各成分を、例えば、ミキサー等を用いて常温混合したもの、さらにその後、ロール、ニーダー、押出機等の混練機で溶融混練し、冷却後粉砕したものなど、必要に応じて適宜分散度や流動性等を調整したものを用いることができる。
【0075】
次に本発明の半導体装置について説明する。本発明の半導体装置は封止材用のエポキシ樹脂組成物を用いて、半導体素子等の電子部品を封止し、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の従来からの成形方法で硬化成形して得られる。
【0076】
本発明で封止を行う半導体素子としては、特に限定されるものではなく、例えば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子等が挙げられる。
【0077】
本発明の半導体装置の形態としては、ボール・グリッド・アレイ(BGA)、チップ・サイズ・パッケージ(CSP)、クワッド・フラット・ノンリード(QFN)等が挙げられる。上記トランスファーモールドなどの成形方法で封止された半導体装置は、そのまま
、或いは80℃〜200℃程度の温度で、10分〜10時間程度の時間をかけて完全硬化させた後、電子機器等に搭載される。
【0078】
図1は、本発明に係る片面封止型の半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。回路基板6上に、ダイボンド材硬化体2を介して半導体素子1が固定されている。半導体素子1の電極パッドと回路基板6上の電極パッドとの間は銅製ワイヤ3によって接続されている。エポキシ樹脂組成物の硬化物により構成された封止材4によって、回路基板6の半導体素子1が搭載された片面側のみが封止されている。回路基板6上の電極パッドは回路基板6上の非封止面側の半田ボール7と内部で接合されている。
【実施例】
【0079】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。配合割合は質量部とする。実施例、比較例で用いた封止材用のエポキシ樹脂組成物の各成分について、以下に示す。
【0080】
封止材用のエポキシ樹脂の各成分:
(エポキシ樹脂)
E−1:ビフェニル型エポキシ樹脂(一般式(3)において、3位、5位のR4がメチル基、2位、6位のR4が水素原子であるエポキシ樹脂。ジャパンエポキシレジン(株)製、YX−4000H、融点105℃、エポキシ当量190、塩素イオン量5.0ppm。)
E−2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(一般式(4)において、R5が水素原子、R6がメチル基であるエポキシ樹脂。ジャパンエポキシレジン(株)製、YL−6810、融点45℃、エポキシ当量172、塩素イオン量2.5ppm。)
E−3:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(一般式(5)において、−R7−がフェニレン基、−R8−がビフェニレン基、aが0、bが0であるエポキシ樹脂。日本化薬(株)製、NC3000、軟化点58℃、エポキシ当量274、塩素イオン量9.8ppm。)
E−4:フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂(一般式(5)において、−R7−がナフチレン基、−R8−がフェニレン基、aが0、bが0であるエポキシ樹脂。東都化成(株)製、ESN−175、軟化点65℃、エポキシ当量254、塩素イオン量8.5ppm。)
E−5:一般式(6)で表わされるエポキシ樹脂(一般式(6)において、R12が水素原子であり、cが0、dが0、eが0である成分50質量%、R12が水素原子であり、cが1、dが0、eが0である成分40質量%、R12が水素原子であり、cが1、dが1、eが0である成分10質量%の混合物であるエポキシ樹脂。大日本インキ工業(株)製HP4770、軟化点72℃、エポキシ当量205、塩素イオン量2.0ppm。)
E−6:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN1020、軟化点55℃、エポキシ当量196、塩素イオン量5.0ppm。)
E−7:ビフェニル型エポキシ樹脂(一般式(3)において、3位、5位のR4がメチル基、2位、6位のR4が水素原子であるエポキシ樹脂。ジャパンエポキシレジン(株)製、YX−4000H、融点105℃、エポキシ当量190、塩素イオン量12.0ppm。)
E−8:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(一般式(4)において、R5が水素原子、R6がメチル基であるエポキシ樹脂。ジャパンエポキシレジン(株)製、1001、融点45℃、エポキシ当量460、塩素イオン量25ppm。)
【0081】
【化15】

【0082】
【化16】

【0083】
【化17】

【0084】
【化18】

【0085】
(硬化剤)
H−1:フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト(株)製、PR−HF−3軟化点80℃、水酸基当量104、塩素イオン量1.0ppm。)
H−2:フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(一般式(7)において、−R13−がフェニレン基、−R14−がフェニレン基、fが0、gが0である化合物。
三井化学(株)製、XLC−4L、軟化点62℃、水酸基当量168、塩素イオン量2.5ppm。)
H−3:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(一般式(7)において、−R13−がフェニレン基、−R14−がビフェニレン基、fが0、gが0である化合物。明和化成(株)製、MEH−7851SS、軟化点65℃、水酸基当量203、塩素イオン量1.0ppm。)
H−4:フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂(一般式(7)において、−R13−がナフチレン基、−R14−がフェニレン基、fが0、gが0である化合物。東都化成(株)製、SN−485、軟化点87℃、水酸基当量210、塩素イオン量1.5ppm。)
H−5:フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂(一般式(7)において、−R13−がナフチレン基、−R14−がフェニレン基、fが0、gが0である化合物。東都化成(株)製、SN−170L、軟化点69℃、水酸基当量182、塩素イオン量15.0ppm。)
【0086】
【化19】

【0087】
(充填材)
溶融球状シリカ1:モード径30μm、比表面積3.7m/g、55μm以上の粗大粒子の含有量0.01質量部((株)マイクロン製、HS−203。)
溶融球状シリカ2:モード径37μm、比表面積2.8m/g、55μm以上の粗大粒子の含有量0.1質量部((株)マイクロン製、HS−105を300メッシュの篩を用いて粗大粒子を除去することにより得た。)
溶融球状シリカ3:モード径45μm、比表面積2.2m/g、55μm以上の粗大粒子の含有量0.1質量部(電気化学工業(株)製、FB−820を300メッシュの篩を用いて粗大粒子を除去することにより得た。)
溶融球状シリカ4:モード径50μm、比表面積1.4m/g、55μm以上の粗大粒子の含有量0.03質量部(電気化学工業(株)製、FB−950を300メッシュの篩を用いて粗大粒子を除去することにより得た。)
溶融球状シリカ5:モード径55μm、比表面積1.5m/g、55μm以上の粗大粒子の含有量0.1質量部(電気化学工業(株)製 FB−74を300メッシュの篩を用いて粗大粒子を除去することにより得た。)
溶融球状シリカ6:モード径50μm、比表面積3.0m/g、55μm以上の粗大粒子の含有量15.0質量部(電気化学工業(株)製、FB−820。)
溶融球状シリカ7:モード径50μm、比表面積1.5m/g、55μm以上の粗大粒子の含有量6.0質量部(電気化学工業(株)製、FB−950。)
【0088】
(硫黄原子含有化合物)
硫黄原子含有化合物1:下記式(8)で表される3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール(試薬)
【化20】

【0089】
硫黄原子含有化合物2:下記式(9)で表される3,5−ジメルカプト−1,2,4−トリアゾール(試薬)
【化21】

【0090】
硫黄原子含有化合物3:下記式(10)で表される3−ヒドロキシ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール(試薬)
【化22】

【0091】
硫黄原子含有化合物4:下記式(11)で表されるトランス−4,5−ジヒドロキシ−1,2−ジチアン(シグマ−アルドリッチ社製、分子量:152.24)
【化23】

【0092】
硫黄原子含有化合物5:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
【0093】
(硬化促進剤)
トリフェニルホスフィン(TPP)
【0094】
(カップリング剤)
エポキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0095】
(着色剤)
カーボンブラック
【0096】
(離型剤)
カルナバワックス
【0097】
封止材用のエポキシ樹脂組成物の製造
(実施例1)
E−3 8質量部
H−3 6質量部
溶融球状シリカ2 85質量部
硫黄原子含有化合物1 0.05質量部
トリフェニルホスフィン 0.3質量部
エポキシシラン 0.2質量部
カーボンブラック 0.25質量部
カルナバワックス 0.2質量部
を常温でミキサーを用いて混合し、次に70〜100℃でロール混練し、冷却後粉砕して封止材用のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0098】
(実施例2〜32、比較例1〜12)
表1〜7に記載の封止材用エポキシ樹脂組成物の配合に従い、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0099】
実施例、比較例で用いた銅製ワイヤの内容について、以下に示す。
銅製ワイヤ1:表1〜7に記載の各線径である銅純度99.99質量%の芯線に表1〜7に記載の各厚さでパラジウム被覆を施したもの((株)日鉄マイクロメタル製、EX)
銅製ワイヤ2:表1、5、6に記載の各線径である銅純度99.999質量%、銀0.001質量%ドープの芯線(タツタ電線(株)製、TC−A)に表1〜6に記載の各厚さでパラジウム被覆を施したもの
銅製ワイヤ3:表1、2、4、7に記載の各線径である銅純度99.99質量%の銅製ワイヤ(タツタ電線(株)製、TC−E)
【0100】
各実施例及び各比較例で得られた封止材用のエポキシ樹脂組成物について、以下の評価を行った。得られた結果を表1〜7に示す。
【0101】
評価方法
スパイラルフロー:低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、KTS−15)を用いて、EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件でエポキシ樹脂組成物を注入し
、流動長を測定した。単位はcm。80cm以下であるとパッケージ未充填などの成形不良が生じる場合がある。
【0102】
吸湿率:低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、KTS−30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件でエポキシ樹脂組
成物を注入、成形して、直径50mm、厚さ3mmの円盤状試験片を作製したのち、後硬化として175℃で8時間加熱処理した。試験片の吸湿処理前の重量と、85℃、相対湿度60%の環境下で168時間加湿処理した後の重量を測定し、試験片の吸湿率を百分率で示した。単位は質量%。
【0103】
収縮率:低圧トランスファー成形機(藤和精機(株)製、TEP−50−30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件下で、エポキシ樹脂組成物を注入成形して、直径100mm、厚さ3mmの試験片を作製した。作製した成形品を、175℃、8時間で後硬化した後、175℃での金型キャビティの内径寸法と、室温(25℃)での試験片の外径寸法とを測定し、下記式により収縮率を算出した。
収縮率(%)={(175℃での金型キャビティの内径寸法)−(後硬化後の25℃での試験片の外径寸法)}/(175℃での金型キャビティの内径寸法)×100(%)
【0104】
ワイヤ流れ率:アルミニウムパッドを形成したTEGチップ(3.5mm×3.5mm、パッドピッチは80μm)を352ピンBGA(基板は厚さ0.56mm、ビスマレイミド・トリアジン樹脂/ガラスクロス基板、パッケージサイズは30×30mm、厚さ1.17mm)のダイパッド部に接着し、TEGチップのアルミニウムパッドと基板側端子とを、表1〜6に記載の各銅製ワイヤを用いてワイヤピッチ80μmでワイヤボンディングした。これを、低圧トランスファー成形機(TOWA製、Yシリーズ)を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件でエポキシ樹脂組成物により封止成形して、352ピンBGAパッケージを作製し、175℃、4時間の条件で後硬化した。室温まで冷却後、軟X線透視装置(ソフテックス(株)製、PRO−TEST100)で観察し、ワイヤの流れ率を(流れ量)/(ワイヤ長)の比率で表し、この値が最も大きくなるワイヤ部の値を記した。単位は%。この値が5%を超えると、隣接するワイヤ同士が接触する可能性が高い。
【0105】
封止材中の塩素イオン濃度:ワイヤ流れ率の測定で用いた、後硬化後の352ピンBGAパッケージから封止材のみを切り出し後、粉砕ミルによって3分間粉砕し、200メッシュの篩で篩分して通過した粉を試料とした。得られた試料5gと蒸留水50gとをテフロン(登録商標)製耐圧容器に密閉し、125℃、相対湿度100%RH、20時間の処理(プレッシャークッカー処理)を行った。室温まで冷却した後、抽出水を遠心分離、20μmフィルターにてろ過し、キャピラリー電気泳動装置(大塚電子株式会社製CAPI―3300)を用いて塩素イオン濃度を測定した。ここで得られる塩素イオン濃度(単位ppm)は試料5g中から抽出された塩素イオンを10倍に希釈した数値であるため、下記式により封止材単位質量あたりの塩素イオン量に換算した。単位はppm。
試料単位質量あたりの塩素イオン濃度=(キャピラリー電気泳動装置で求めた塩素イオン濃度)×50÷5
尚、封止材中の塩素イオン濃度の測定は、封止材を構成する複数の類似樹脂組成物を代表して、実施例1、4、10、22〜30のみで行った。
【0106】
耐半田性:アルミニウムパッドを形成したチップ(3.5mm×3.5mm、SiN皮膜付き)を352ピンBGA(基板は厚さ0.56mm、ビスマレイミド・トリアジン樹脂/ガラスクロス基板、パッケージサイズは30×30mm、厚さ1.17mm)のダイパッド部に接着し、チップのアルミニウムパッドと基板側端子を、表1〜6に記載の銅製ワイヤを用いてワイヤピッチ80μmでワイヤボンディングした。これを、低圧トランスファー成形機(TOWA製、Yシリーズ)を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件でエポキシ樹脂組成物により封止成形して、352ピンBGAパッケージを作製し、175℃、4時間の条件で後硬化した。得られたパッケージ10個を60℃、相対湿度60%で168時間加湿処理した後、IRリフロー処理(最大温度260℃)を三回行った。処理後のパッケージ内部の剥離、及びクラックの有無を超音波
傷機(日立建機ファインテック株式会社製、mi−scope hyper II)で観察し、剥離又はクラックのいずれか一方でも発生したものを不良とした。単位は不良パッケージの個数。
【0107】
高温保管特性:アルミニウム電極パッドを形成したTEG(TEST ELEMENT
GROUP)チップ(3.5mm×3.5mm)を352ピンBGA(基板は厚さ0.56mm、ビスマレイミド・トリアジン樹脂/ガラスクロス基板、パッケージサイズは30×30mm、厚さ1.17mm)のダイパッド部に接着し、TEGチップのアルミニウム電極パッドと基板側端子とをデージーチェーンになるように、表1〜6に記載の銅製ワイヤを用いてワイヤピッチ80μmでワイヤボンディングした。これを、低圧トランスファー成形機(TOWA製、Yシリーズ)を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件でエポキシ樹脂組成物により封止成形して、352ピンBGAパッケージを作製した。作製したパッケージを、175℃、8時間で後硬化した後、高温保管試験(200℃)を行った。24時間毎に配線間の電気抵抗値の測定を行い、その値が初期値に対し20%増加したパッケージを不良と判定し、不良になるまでの時間を測定した。不良時間はn=5ヶの測定で、1ケでも不良が発生した時間で示した。単位は時間。全てのパッケージで192Hrまで不良発生のなかったものは192<とした。
【0108】
高温動作特性:アルミニウム電極パッドを形成したTEG(TEST ELEMENT
GROUP)チップ(3.5mm×3.5mm)を352ピンBGA(基板は厚さ0.56mm、ビスマレイミド・トリアジン樹脂/ガラスクロス基板、パッケージサイズは30×30mm、厚さ1.17mm)のダイパッド部に接着し、TEGチップのアルミニウム電極パッドと基板側端子とをデージーチェーンになるように、表1〜6に記載の銅製ワイヤを用いてワイヤピッチ80μmでワイヤボンディングした。これを、低圧トランスファー成形機(TOWA製、Yシリーズ)を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件でエポキシ樹脂組成物により封止成形して、352ピンBGAパッケージを作製した。作製したパッケージを175℃、8時間で後硬化した後、デージーチェーンにつないだ両端に0.5Aの直流電流を流す。この状態で185℃での高温保管を行い、12時間毎に配線間の電気抵抗値が初期値に対し20%増加したパッケージを不良と判定し、不良になるまでの時間を測定した。不良時間はn=4ヶの測定で、1ケでも不良が発生した時間で示した。単位は時間。
【0109】
耐マイグレーション性:アルミニウム電極パッドを形成したTEGチップ(3.5mm×3.5mmアルミニウム回路は保護膜なしの剥き出し)を352ピンBGA(基板は厚さ0.56mm、ビスマレイミド・トリアジン樹脂/ガラスクロス基板、パッケージサイズは30×30mm、厚さ1.17mm)のダイパッド部に接着し、TEGチップのアルミニウム電極パッドとリードフレームの各リードとを、表1〜6に記載の銅製ワイヤを用いてワイヤピッチ80μmでワイヤボンディングした。これを、低圧トランスファー成形機(TOWA製、Yシリーズ)を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件でエポキシ樹脂組成物により封止成形して、352ピンBGAパッケージを作製した。作製したパッケージを、175℃、8時間で後硬化した後、導通していない隣同士の端子間に85℃/85%RH中で20Vの直流バイアス電圧を168Hr掛けて、端子間の抵抗値変化をみた。n=5で試験を行い、初期値の1/10に抵抗値が低下したものをマイグレーション発生と判定した。不良時間はn=5ヶの平均値。全てのパッケージで168時間まで初期値の1/10までの抵抗値低下がなかったものは168<とした。
【0110】
耐湿信頼性:アルミニウム回路を形成したTEGチップ(3.5mm×3.5mm、アルミニウム回路は保護膜なしの剥き出し)を352ピンBGA(基板は厚さ0.56mm、ビスマレイミド・トリアジン樹脂/ガラスクロス基板、パッケージサイズは30×30
mm、厚さ1.17mm)のダイパッド部に接着し、アルミニウムパッドと基板側端子を、表1〜6に記載の銅製ワイヤを用いてワイヤピッチ80μmでワイヤボンディングした。これを、低圧トランスファー成形機(TOWA製、Yシリーズ)を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件でエポキシ樹脂組成物により封止成形して、352ピンBGAパッケージを作製した。作製したパッケージを、175℃、8時間で後硬化した後、IEC68−2−66に準拠しHAST(Highly Accelerated temperature and humidity Stress Test)試験を行った。試験条件は130℃、85%RH、20V印加、168時間処理をして回路のオープン不良有無を測定した。1パッケージあたり4端子を持ち5パッケージで計20回路を評価で用いた。単位は不良回路の個数。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
【表5】

【0116】
【表6】

【0117】
【表7】

【0118】
表1〜7から明らかなように、実施例1〜30は、ワイヤ流れ率、耐半田性、高温保管特性、高温動作特性、耐マイグレーション性、耐湿信頼性に優れていた。また、実施例31、32は、パラジウムを含む金属材料で構成された被覆層を有していない同一線径の銅製ワイヤを用いた比較例11、12と比較すると、高温保管性、高温動作特性、耐湿信頼性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明により得られる半導体装置は、回路基板と半導体素子の各電極パッドとを電気的に接続する銅製ワイヤがマイグレーションを起こし難く、耐湿信頼性、高温保管特性に優れたものであるため、工業的な樹脂封止型半導体装置、特に片面封止からなる表面実装用の樹脂封止型半導体装置の製造に好適で用いることができる。
【符号の説明】
【0120】
1 半導体素子
2 ダイボンド材硬化体
3 銅製ワイヤ
4 封止材
5 ソルダーレジスト
6 回路基板
7 半田ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板と、前記回路基板に搭載された半導体素子と、前記回路基板と前記半導体素子とを電気的に接続する銅製ワイヤと、前記半導体素子と前記銅製ワイヤを封止する封止材とを備え、
前記銅製ワイヤが線径25μm以下の銅製ワイヤであり、
前記銅製ワイヤがその表面にパラジウムを含む金属材料で構成された被覆層を有しており、
前記封止材が(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)充填材、(D)硫黄原子含有化合物を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物で構成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記封止材を構成するエポキシ樹脂組成物の硬化物を125℃、相対湿度100%RH、20時間の条件で抽出した抽出水中の塩素イオン濃度が10ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記銅製ワイヤの芯線における銅純度が99.99質量%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記パラジウムを含む金属材料から構成された被覆層の厚みが0.001〜0.02μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記(D)硫黄原子含有化合物が、メルカプト基、スルフィド結合から選ばれた少なくとも一つの原子団を有する硫黄原子含有化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記(D)硫黄原子含有化合物が、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、含窒素複素環、から選ばれた、エポキシ樹脂マトリックスとの親和性に優れた少なくとも一つの原子団と、メルカプト基、スルフィド結合から選ばれた、パラジウムを含む金属材料との親和性に優れた少なくとも一つの原子団と、を有する硫黄原子含有化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記(D)硫黄原子含有化合物が、トリアゾール系化合物、チアゾリン系化合物、ジチアン系化合物から選ばれた少なくとも1つの硫黄原子含有化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記(D)硫黄原子含有化合物が1,2,4−トリアゾール環を有する化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記(D)硫黄原子含有化合物が下記一般式(1)で表される化合物
【化1】

(ただし、上記一般式(1)において、R1は水素原子、又はメルカプト基、アミノ基、水酸基、もしくはそれらの官能基を有する炭化水素基である。)
であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記(D)硫黄原子含有化合物が下記一般式(2)で表される化合物
【化2】

(ただし、上記一般式(2)において、R2、R3は水素原子、又はメルカプト基、アミノ基、水酸基、もしくはそれらの官能基を有する炭化水素基である。)
であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記(A)エポキシ樹脂が、
下記一般式(3)で表されるエポキシ樹脂
【化3】

(ただし、上記一般式(3)において、R4は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。n3の平均値は0又は5以下の正数である。)、
下記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂
【化4】

(ただし、上記一般式(4)において、R5は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。R6は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。n4の平均値は0又は5以下の正数である。)、
下記一般式(5)で表されるエポキシ樹脂
【化5】

(ただし、上記一般式(5)において、−R7−はフェニレン基又はナフチレン基であり、−R7−がナフチレン基である場合、グリシジルエーテル基の結合位置はα位であってもβ位であってもよい。−R8−はフェニレン基、ビフェニレン基又はナフチレン基である。R9、R10は、それぞれR7、R8に導入される基で、炭素数1〜10の炭化水素基であり、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。aは0〜5の整数、bは0〜8の整数である。n5の平均値は1以上、3以下の正数である。)
及び下記一般式(6)で表されるエポキシ樹脂
【化6】

(ただし、上記一般式(6)において、R11は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。R12は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。c、dは0又は1であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。eは0〜6の整数である。)
から選ばれた少なくとも一つであるエポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記(B)硬化剤が、
ノボラック型フェノール樹脂、
下記一般式(7)で表されるフェノール樹脂
【化7】

(ただし、上記一般式(7)において、−R13−はフェニレン基又はナフチレン基であり、−R13−がナフチレン基である場合、水酸基の結合位置はα位であってもβ位であってもよい。−R14−はフェニレン基、ビフェニレン基又はナフチレン基である。R15、R16は、それぞれR13、R14に導入される基で、炭素数1〜10の炭化水素基であり、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。fは0〜5の整数、gは0〜8の整数である。n7の平均値は1以上、3以下の正数である。)
から選ばれた少なくとも一つである硬化剤
を含むこと特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記(C)充填材が、モード径が30μm以上、50μm以下であり、かつ55μm以上の粗大粒子の含有割合が0.2質量%以下である溶融球状シリカを含むこと特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項14】
自動車のエンジンルーム内で用いられる電子部品、パソコン用電源ユニット周辺の電子部品、家電用電源ユニット周辺の電子部品、及びLAN装置内の電子部品などの、60℃、相対湿度60%以上の高温高湿環境下での動作保証が要求される電子部品に使用されるものである請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の半導体装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−114408(P2010−114408A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57388(P2009−57388)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】