説明

半導体製造装置用可動部部材の補修方法。

【課題】 本発明の目的は、半導体製造装置、とくにドライプロセスにおいて使用されている各種の半導体製造装置およびその構成部材のうち可動部部材が、ハロゲンやハロゲン化合物のガスによる腐食とエロージョン摩耗によって減肉した場合に、その表面を簡便に補修して復元させることにより、これらの耐摩耗性、耐久性を初期状態に戻すかさらに向上させるための方法を提案する。
【解決手段】 ハロゲン系ガス使用環境下にある半導体製造製装置用可動部材の摩耗腐食した損耗部に、Cr23およびAl23のいずれか一方、またはこれらの混合物からなる酸化物セラミックを溶射被覆する、半導体製造装置用可動部部材の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSIや太陽電池、液晶などの分野で用いられる半導体製品の製造プロセス用装置に配設されている可動部部材の補修方法に関し、特に、ドライプロセスに適用される真空ポンプのロータなどのような回転摺動部材に見られるエロージョン・コーロージョン(以下、単に「エロージョン等」という)作用によって起る摩耗腐食したその損耗部の補修方法について提案する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造プロセスで用いられている各種の装置では、フッ化物,塩化物、ときには臭化物などのハロゲン系ガスを使用することが多く、このようなプロセスで用いられる各種装置においてはその構成部材、とくに可動部の部材は激しく摩耗腐食を起して損耗するという問題があった。例えば、これらの半導体製造装置においては、そのSiやGa,As,Pなどからなる半導体化合物を処理対象とし、製造工程では、真空中もしくは減圧中で処理するいわゆるドライプロセスで行われているため、多種多様な真空ポンプ類が使用されており、ロータなどの回転摺動部材などは、とりわけ前記摩耗腐食の激しい部分である。
なお、これらのドライプロセスで取り扱っている腐食性のハロゲン系ガスとしては、次のようなハロゲンおよびハロゲン化合物のガスがある。
フッ化物:BFx,PFx,NFx,WFx,HF,F
塩化物:BClx,PClx,PoClx,SnClx,TiCIx,SiHCIx,SiCIx,HCl,Cl2
臭化物:HBr
(ここで、添字のXは1〜5である)
【0003】
上掲のハロゲンガスまたはハロゲン化合物のガスを用いる前記ドライプロセスでは、プラズマエネルギーを用いて反応を促進させることがある。この場合、ハロゲンガスやハロゲン化合物のガスは、プラズマ環境中では容易に電離して腐食性の強い原子状のF,Cl,Brを生成する他、新たにSiO2やSi34,Si,Wなどの微粉末状の固形物を生成することが知られている。そのため、給・排気ファンや真空ポンプのロータなどの回転摺動部材は、強い腐食環境の中での化学的腐食反応(コロージョン)に伴なう減肉と共に、機械的な摩耗作用(エロージョン)に伴う摩耗損傷とが同時に発生し、それぞれの性能が短期間のうちに低下するという問題があった。
【0004】
上記のようなドライプロセスに用いられている各種装置については、従来、耐食性や耐エロージョン性を向上させるため、材質の変更や、フッ素系塗料あるいはエポキシ系塗料による塗装、さらにはニッケルめっきや窒化処理などの表面処理などが提案されている。
【0005】
しかしながら、フッ素系あるいはエポキシ系の防食塗料を用いる方法は、ハロゲンガスなどに対する耐久性がいずれも十分でなく、特に、プラズマによって励起される原子状のハロゲンガス等に対しては、塗膜が短時間のうちに劣化し、保護機能を消失することがあった。
【0006】
また、ニッケルめっき処理は、ハロゲンガス等に対して比較的良好な耐食性を示すものの、ドライプロセスラインの清浄化処理(水洗処理など)などによって雰囲気中に水分が混入すると、めっき皮膜のピンホールからハロゲン系ガス成分を含む酸性の水溶液が内部に侵入し、基質を選択的に腐食して、ニッケルめっき皮膜を剥離させるという問題があった。さらに、このようなめっき処理だけでは腐食作用によって大きく減肉した装置部材の寸法復元には時間がかかり、この種の補修方法として十分な方法とは言えなかった。
【0007】
また、各装置部材の基材自体を、鋳鉄や鋳鋼製に代え、比較的高い耐食性を有するステンレス鋼やニッケル系合金(例えば、商品名「ニレジスト」)を用いているが、ハロゲン系ガスに対しては長期間にわたる耐久性が乏しいため、いずれも新たな補修技術の開発が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
こうした要請に対し、近年、例えば、半導体製造プロセスで使用される各種装置やその部材に対して、特許文献1〜5に示すような、アルミニウムやアルミニウム酸化物を主体とする表面処理技術が提案されている。こうした耐食性表面処理を施した部材は、無処理の部材と比較すると、耐ハロゲンガス性に優れ、使用期間を格段に向上させることができるようになってきた。
【特許文献1】特開昭57−19371号公報
【特許文献2】特開昭60−63364号公報
【特許文献3】特開平4−193966号公報
【特許文献4】特開平9−10577号公報
【特許文献5】特開平10−219426号公報
【0009】
しかしながら、半導体製造ラインに使用されている各種装置類は、上述した各種従来技術の採用によって、耐食性の改善,使用期間の延長はあっても、その改善の程度はなお小さく、やがて腐食損傷によって不可避に減肉し、装置としての機能低下を招き、使用に耐えられなくなるときが来る。半導体製造産業では、このようなエロージョン作用等の現象によって機能を消失した各種装置類は莫大な量に及んでいるが、現状ではこれらを補修して再利用する技術は開発されていないため、そのすべてが廃却されており、産業界全体としては大きな損失を招いている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、半導体製造装置、とくにドライプロセスにおいて使用されている各種の半導体製造装置およびその構成部材のうち可動部部材が、ハロゲンやハロゲン化合物のガスによる腐食とエロージョン摩耗によって損耗減肉した場合に、その表面を簡便に補修して復元することにより、これらの耐摩耗性、耐久性を初期状態に戻すかさらに向上させるための方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来技術が抱える上述した課題を克服することができ、上掲の目的を実現する方法として、本発明では、
(1)ハロゲン系ガス使用環境下にある半導体製造製装置用可動部材の摩耗腐食した損耗部に、Cr23およびAl23のいずれか一方、またはこれらの混合物からなる酸化物セラミックを溶射被覆すること。
(2)Cr23とAl23の混合物は、Cr2については40〜100 mass%(残部Al2)、Al2については30〜100 mass%(残部Cr2)の範囲内で混合したものであること。
(3)前記酸化物セラミックの溶射皮膜は、被覆層の厚さが20〜2000μmの範囲内であること。
という点に特徴を有する半導体製造装置用可動部部材の補修方法を提案する。
【発明の効果】
【0012】
上掲の課題解決手段を採用することにより、半導体製造ライン等に組み込まれている真空系装置の摩耗腐食した回転摺動部材等の寸法を復元するとともに、部材の耐久性を初期状態かそれ以上の状態に簡便に修復させることができるようになる。
【0013】
その結果、今までそのまま廃却されていた多量の半導体製造装置およびこの装置に付帯して設けられている各種の可動部部材の再使用が可能となり、製品コストの低減に寄与するとともに、産業廃棄物量の減量化にも貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
半導体製造プロセスでは、近年、プロセスの高性能化および高効率化のために反応性の強い各種のハロゲン系ガスが用いられているだけでなく、さらにはその作用機能を促進させるため、低温プラズマをも利用することが一般的である。そのため、前記ハロゲン系ガスの一部は、原子状のハロゲン元素に電離して半導体加工プロセス全体の効率は一段と向上するものの、半導体製造ラインに組み込まれている真空系各種装置に設けられている回転摺動部材等は腐食とエロージョン作用による摩耗腐食に伴う損傷が激しくなるという問題があった。
【0015】
本発明は、上述した問題に対処するために、その摩耗腐食に伴って損傷した部分に、下記の材料を被覆して元の状態に復元させるための補修方法を提案する。
以下、半導体製造装置用部材として、エロージョンに伴う摩耗腐食によって損傷した回転摺動部材の例として、真空ポンプのロータに着目し、それの損傷部分の補修方法について説明する。
【0016】
前記真空ポンプのロータは、上述したハロゲン系ガスが介在することによる強い腐食作用(corrosion)の他に、回動摺動する部分が受ける機械的な侵食作用(erosion)との相互作用によって大きな減肉現象を生じる。特に、半導体製造プロセスの最終工程で稼動しているポンプ類については、上流工程で使用される各種のハロゲン系ガス以外にも各種薬液や水分も混入することが多いため、前記化学的作用による腐食はさらに激しいものになる。
一方、真空ポンプのロータの材質は、一般には、鋳鉄製のものが用いられているが、鋳鉄の鋳肌面および機械切削面にはハロゲン系ガスや水分を吸着,吸収しやすい黒鉛ならびにピンホールが多数存在し、前記化学的作用による腐食の他、機械的作用による侵食を起こしやすく、しかもこれらの作用は、該ロータの表面のみならず、内部にも進行するという傾向がある。
【0017】
そこで、本発明においては、ドライプロセス装置の可動部部材のうち、摩耗腐食した減肉部分を、下記の如き成分組成からなる酸化物セラミックで被覆することにした。即ち、前記ロータの補修部分に、Cr23およびAl23から選ばれるいずれか一方、またはこれらの混合物からなる酸化物セラミックの粉末を溶射して被覆することにしたのである。
【0018】
前記ロータの表面に被覆形成されるCr23やAl23、またはこれらの混合物からなる酸化物セラミックの皮膜はいずれも、ハロゲン系ガスに対して優れた耐食性を示すとともに、とくにCr23皮膜は、ロータに必要な特性である固体潤滑性に富み、一方、Al23皮膜は、良好な耐エロージョン特性を発揮する。なお、これらの混合物については、上記ロータ部材の腐食減耗の程度などを勘案して、Cr23とAl23の混合比率を、Cr2については40〜100 mass%(残部Al2)、Al2については30〜100 mass%(残部Cr2)の範囲内に調整して成膜する。この範囲に限定した理由は、Cr23が40 mass%より少ないと、腐食性環境中における固体潤滑性が低下するからである。また、Al23の量は30 mass%より少ないと耐エロージョン性が低下するからである。
【0019】
溶射した前記皮膜(Cr23,Al23またはその混合物)の厚さは、溶射施工後その表面を機械的に研削・研磨した後の膜厚で、20〜2000μmの範囲がよく、特に100〜800μmの範囲内とすることが好適である。それは、20μmより薄い膜厚では補修層の寿命が短く、一方、2000μmより厚くすると皮膜を構成する酸化物セラミックの粒子結合力が弱くなって、皮膜内部でしばしば層間剥離することがあるからである。
【0020】
なお、酸化物セラミックによる溶射後、得られたその溶射皮膜の表面に対して、さらにフッ素系樹脂,珪素系樹脂,エポキシ系樹脂などの封孔剤を塗布して皮膜の気孔部を充填して封孔する処理を、必要に応じて実施しても差支えない。
【0021】
摩耗腐食によって減肉した真空ポンプのロータ部材などへの上記酸化物セラミックの被覆方法としては、溶射方法が好適であり、その溶射方法としては、例えば、大気プラズマ溶射方法,減圧プラズマ溶射方法,高速フレーム溶射方法,フレーム溶射方法などの溶射方法が好適である。
【0022】
次に、ロータの摩耗腐食によって減肉した部分に直接、Cr23もしくはAl23を主体とする材料を溶射被覆して補修する方法について説明する。
【0023】
ハロゲン系ガスを含む気体を取扱う真空ポンプのロータは、エロージョン作用による摩耗現象とコロージョン作用による腐食反応との相乗的な作用によって激しく損傷を受ける部材である。通常のポンプにおけるロータは、鋳鉄や鋳鋼などで製造される他、耐食性ならびに耐摩耗性に優れたNi含有鋳鋼などによって製造されているが、このような材料を使用しても、期待するほどの寿命の向上は得られないのが実状である。
【0024】
エロージョン作用による腐食とコロージョン作用によって摩耗し、使用不能となった真空ポンプのロータを、まず、水洗いし、その後これを180〜250℃の温度で1〜5時間加熱し乾燥して、該ロータ表面に付着し、さらには含浸している腐食成分(水分を含む)を除去する。その後、摩耗腐食し減肉したロータの摺動部分を旋盤によって研削して清浄な基質面を露出させる。さらにその後、前記研削面を平滑化処理する。なお、この処理の後さらに、ブラスト加工して溶射下地としての素地調整するか、研削面を意識的に粗仕上げして粗面化してもよい。
【0025】
以上のような方法によって下地処理した前記ロータ部材の補修部に対し、上述した溶射方法のうちのいずれかの方法によって、酸化物セラミック粉末を溶射し、所定の厚みの溶射皮膜を形成して、ロータ損傷部の寸法復元を行う。
【0026】
なお、摩耗腐食して減肉した部分に溶射肉盛り処理を行う場合、溶射処理の前に必要に応じて該ロータの全体を50〜300℃程度に予熱しておくことが有効である。また、腐食減肉部のみを集中して溶射せず、その周辺部に対して溶射処理を行ってもよい。
【0027】
溶射加工を終了したロータは、機械加工によって研削や研磨などが必要であれば、さらにラッピング加工を行って所定の表面粗さに仕上げる。通常、ポンプロータとしての設計仕様では表面粗さRaは0.1〜2μmに設定されているが、この仕様を溶射皮膜表面の加工仕上面に適合しても差支えない。
【0028】
また、本発明においては、ハロゲン系ガスによる腐食環境がより強い場合、必要に応じ、Cr23やAl23の溶射皮膜の下に、プライマー処理の一環として、即ち、アンダーコートを形成してもよい。このアンダーコートは、基材であるロータと前記酸化物セラミック溶射皮膜との中間にあって、該基材と酸化物セラミック溶射皮膜との良好な密着性をもたらすとともに、酸化物セラミック溶射皮膜の気孔部から侵入するハロゲン系ガスに対して基材を保護する役割を担うものである。
このアンダーコートの膜厚は、補修部の寸法復元度合にもよるが、通常30〜300μmの範囲が好適である。30μmより薄い皮膜では気孔が多くロータの基材を腐食作用から完全に防ぐことができない。また300μmより厚く施工しても、アンダーコートとしての機能が格段に向上することがないので経済的に得策でない。
【0029】
上記のアンダーコート用材料としては、主要必須成分としてNiを含有し、その他、残部として、必要に応じ、Cr,Al,Co,Mo,Fe,Mn,Si,C,B,Mgなどのいずれか少なくとも一種以上を添加成分として、下記の割合で含むものが好適である。
Niを10〜100 mass%、
Cr,Al,Co,MoおよびFeの少なくとも一種以上を5〜40 mass%、
MnおよびSiの少なくとも一種以上を5mass%以下、
Cを1.5 mass%以下、
Bを5mass%以下、
Mgを8mass%以下、
【0030】
上記各成分の作用機構ははぼ以下のとおりである。
(1)Niは、主要必須成分であり、ハロゲン系ガスに対して優れた耐食性を示すとともに、溶射皮膜を形成した後も、良好な機械的性質(例えば皮膜の靭性,密着性)を発揮する元素である。しかし、このNiの含有量が10 mass%未満では耐食性を十分に向上させることができないし、補修材料として十分な機能を発揮することができない。
(2)Cr,Al,Co,MoおよびFeは、Niと共存することによって、溶射材料として取扱いが容易となるほか、溶射熱源によって溶融しやすく、緻密で密着力の強い皮膜を形成するのに役立つ。これらの元素の合計含有量が5mass%未満では密着力の向上が認められず、一方、40 mass%を超えると効果が飽和すると共に、却って耐食性の劣化を招く。
なお、Feは、この元素単独ではハロゲン系ガスに対する耐食性は殆どないが、Alと共存させることによって、溶射熱源中で溶融した際に、Alと反応し耐食性を有する金属間化合物Fe3Al,FeAl,FeAl2,FeAl3などを生成し、皮膜全体の耐食性の向上に役立つものとなるまた、Cr,Coも同じようにAlと金属間化合物を形成して耐食性を向上させる。一方、Moは、合金化させることによって、酸性環境における耐食性の向上に有効に作用する。
(3)MnおよびSiは、5mass%以下であれば、溶射皮膜の耐食性に悪影響を与えることなく、皮膜の機械的性質を向上させる。なお、Siは、フッ素系ガスには腐食され易いが、HCl系のガスには強い耐食性を発揮する元素である。
(4)CおよびBは、機械的性質を向上させるが、1.5 mass%を超えると耐食性を悪化させる場合があり、また、MgはAlと共存すると溶射皮膜としての機械的性質を低下させず、耐フッ素系ガス性を向上させる特徴がある。
【0031】
とくに、上記含ニッケル材料のより好ましい化学成分としては、Ni:23〜75 mass%、Cr:13〜40 mass%、Mo:8〜18 mass%、Fe:3〜10 mass%、Al:0.5〜8mass%、C:0.01〜1.0 mass%の如き組成を有するものが好適である。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
この実施例では半導体製造プロセスラインで使用されている図1に示す真空ポンプ用ロータに、表1に示す酸化物セラミックを溶射したときの、得られた皮膜の被覆効果を確認した。
即ち、FC200基材のロータに、表1記載の酸化物セラミックA2,B2,C2,D2を大気プラズマ溶射法によって150μm厚さに施工し、その後、酸化物セラミックの溶射皮膜表面を、Ra=0.5〜0.8μmの粗さに仕上げた。また、比較例として、基材(FC200,ニレジスト)の表面に溶射皮膜を施工しない無処理のロータを用い、これらを半導体製造プロセスのドライポンプに組み込んで実際の環境で9000時間の運転を行った。
このプロセスではフッ素、塩素ガスと水分が混在する腐食性の環境である。
【0033】
表2は、上記試験例の結果を要約したものである。無処理のロータ部材は、FC200で0.25〜0.28 mm、ニレジストロータでも0.18〜0.21 mmの減肉が認められ、孔食も点在したが、本発明に適合する酸化物セラミック溶射皮膜(No.1〜4)には、腐食の発生は認められず良好な状態を維持していた。この結果から明らかなように、真空ポンプをハロゲン系ガス存在下で運転するという条件下では、ロータに酸化物セラミックを溶射被覆することが有効であることが判明した。
【0034】
<実施例2>
この実施例は、実施例1で示した真空ポンプ用ロータを、実装置の環境で長時間(約90000時間)使用し、雰囲気ガスの腐食に伴なって低下する性能と、腐食減肉部を本発明に適合する溶射補修方法によって寸法を復元した場合のポンプの性能試験を行った結果である。新品および腐食減肉に伴なう真空ポンプの排気速度を図2に示した。この結果から明らかなように、当初1分間当り1200L/minの排気性能を有していた真空ポンプは、ロータの摩耗腐食による減肉によって、クリアランスが大きくなり、ガスを圧縮できないため95L/minまで低下し、吸込圧力も1.E+04Paに低下した。真空ポンプロータに顕れた摩耗腐食した減肉部に酸化物セラミックD2を用いて所定の寸法に溶射復元したところ、ポンプの性能は使用初期の排気性能までに完全に回復し、その後、10000時間運転しても排気性能の低下は5%以内にとどまり、吸込圧力は4Paに回復していた。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかる補修技術は、各種の半導体製造プロセス用装置に用いられる構成部材、特に、ドライプロセスに適用される酸化炉,CVD装置,エピタキシャル成長装置,イオン注入装置,拡散炉,反応性イオンエッチング装置,プラズマエッチング装置、およびこれらの装置に付属している配管,給・排気ファン,真空ポンプ,バルブ類などの補修に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ドライポンプのロータ形状の一例を示した図である。
【図2】補修したロータの回転試験結果を示す吸込圧力と排気速度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 ロータ
2 溶射皮膜の施工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン系ガス使用環境下にある半導体製造製装置用可動部材の摩耗腐食した損耗部に、Cr23およびAl23のいずれか一方、またはこれらの混合物からなる酸化物セラミックを溶射被覆することを特徴とする半導体製造装置用可動部部材の補修方法。
【請求項2】
Cr23とAl23の混合物は、Cr2については40〜100 mass%(残部Al2)、Al2については30〜100 mass%(残部Cr2)の範囲内で混合したものであることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造装置用可動部部材の補修方法。
【請求項3】
前記酸化物セラミックの溶射皮膜は、被覆層の厚さが20〜2000μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体製造装置用可動部部材の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−66784(P2006−66784A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250015(P2004−250015)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】