説明

単結晶の製造方法及び単結晶の製造装置

【課題】 原料の融液表面に窒化膜が形成されず、原料の気化速度を安定化することができる単結晶の製造方法及び単結晶の製造装置を提供する。
【解決手段】 3族金属材料3を気化させる気化部21、気化部21において発生した3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部22、及びこれらの混合ガスから3属金属元素を含む窒化物を析出させる析出部23がこの順に設けられた単結晶製造装置10を使用する。その際、3族金属材料3の表面にキャリアガスを導入して発生した3族金属ガスをこのキャリアガスにキャリアさせ、このキャリアガスにキャリアされた3族金属ガスをシールドガスで囲まれた状態で混合部に導入する。更に、混合部22の温度を析出部23よりも高温にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3族金属元素を含む窒化金属単結晶の製造方法及びその際使用する単結晶の製造装置に関し、特に、発光ダイオード及びレーザダイオード用成長基板並びにパワーデバイス用基板として使用される単結晶の製造方法及び単結晶の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びインジウム(In)等の3族の元素を含む窒化物半導体材料に関する研究開発の発展が著しく、窒化物半導体材料を使用した青色発光ダイオード及び紫外発光ダイオードを搭載した発光デバイスが市販され始めている。一般に、これらの発光ダイオードは基板上に形成されており、例えば、窒化ガリウム(GaN)系青色発光ダイオードは、基板上に有機金属気相成長法(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)又はハロゲン系気相成長法(Halide Vapor Phase Epitaxy:HVPE)等の方法により形成されている。現在、その成長基板としては、主にサファイヤ基板が使用されているが、サファイヤはGaN系発光材料との格子不整合が13.8%と大きく、ミスフィット転位の発生数が多いという問題点がある。
【0003】
このため、GaN系発光ダイオードの更なる高輝度化及び長寿命化を実現するために、サファイヤよりも格子不整合が小さい基板材料が求められており、GaN系発光材料との格子不整合が2.4%と小さく、サファイヤよりも熱伝導率が一桁以上高い窒化アルミニウム(AlN)単結晶を基板として利用するための検討がなされている。
【0004】
このAlN単結晶の製造方法としては、例えば、多結晶AlN粉末を昇華させた後、昇華温度よりも低い温度で析出させる昇華法(特許文献1参照)、金属Alを気化させ、Alガスと窒素ガスとを混合したものを析出させる気化法(非特許文献1参照)等が利用されている。図6は気化法を利用した従来の単結晶製造装置を模式的に示す断面図である。図6に示すように、従来の単結晶製造装置50は、上部に排気孔56が設けられた反応槽51内に、金属Al53が充填された収納容器52が配置されており、この収納容器52の上方に基板55が配置されている。また、反応槽51の側壁における収納容器52と基板55との間の部分には窒素ガス導入口54が設けられている。そして、AlN単結晶を作製する際は、加熱コイル57及び58により気化部61及び析出部62を夫々加熱すると共に、窒素ガス導入口54から反応槽51内に窒素ガスを導入する。これにより、金属Al53が溶融し、このAl融液が気化温度に応じて気化してAlガスが生成する。そして、このAlガスと窒素ガスとの混合ガスが析出部62に移送され、基板55表面で反応してAlNが析出する。
【0005】
【特許文献1】特表2003−519064号公報
【非特許文献1】R. Schlesser、外1名,「Growth of bulk AlN crystals by vaporization of aluminum in a nitrogen atmosphere」,2002年,Journal of Crystal Growth,No.234,p.349−353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。即ち、昇華法によりAlN単結晶を製造する場合、AlN原料粉体が焼結してその表面積が変化するため、昇華速度を一定にすることが難しいという問題点がある。また、気化法によりAlN単結晶を製造する場合、Al融液上に直接窒素ガスを流すため、Al融液表面にAlN膜が生成し、時間と共にAlの気化量が低下するという問題点がある。このため、従来の気化法では、Alの気化速度を制御することは困難である。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、原料の融液表面に窒化膜が形成されず、原料の気化速度を安定化することができる単結晶の製造方法及び単結晶の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願第1発明に係る単結晶の製造方法は、周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する工程と、窒素ガスを前記3族金属ガスとの混合部に送給する工程と、前記3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態でノズルから前記混合部に導入する工程と、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明においては、3族金属ガスをシールドガスで囲まれた状態で混合部に導入することにより、窒素ガスと3族金属材料とが接触することを防止しているため、3族金属材料の表面における窒化膜の生成を防止することができる。また、このシールドガスにより、ノズル先端部において3族金属ガスと窒素ガスとが混合することを防止できるため、ノズル先端部に窒化金属が析出しにくくなる。その結果、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【0010】
本願第2発明に係る単結晶の製造方法は、周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する工程と、前記3族金属ガスをキャリアガスにキャリアさせて前記3族金属材料から窒素ガスとの混合部まで移送する工程と、窒素ガスを前記混合部に送給する工程と、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明においては、3族金属ガスをキャリアガスにキャリアさせて混合部まで移送しているため、原料である窒素ガスと3族金属材料との間にキャリアガスが存在し、窒素ガスと3族金属材料とが直接接触しない。これにより、3族金属材料の表面における窒化膜の生成を防止することができ、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【0012】
本願第3発明に係る単結晶の製造方法は、周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する工程と、窒素ガスを前記3族金属ガスとの混合部に送給する工程と、前記金属ガスをキャリアガスにキャリアさせて前記3族金属材料から移送する工程と、前記キャリアガスにキャリアされた前記3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態でノズルから前記混合部に導入する工程と、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、3族金属ガスをキャリアガスにキャリアさせ、更にこのキャリアガスにキャリアされた前記3族金属ガスをシールドガスで囲まれた状態で混合部に導入しているため、窒素ガスと3族金属材料とが直接接触せず、3族金属材料の表面における窒化膜の生成を防止することができる。また、シールドガスにより、ノズル先端部近傍で3族金属ガスと窒素ガスとが混合することを防止することができるため、ノズル先端部に窒化金属が析出しにくくなる。その結果、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【0014】
前記シールドガス及び/又は前記キャリアガスとしては、例えばアルゴンガス等のように、前記3族金属材料及び前記窒素ガスに対して不活性なガスを使用することができる。
【0015】
また、前記析出工程よりも高い温度条件下で前記3族金属ガスと前記窒素ガスとを混合してもよい。これにより、混合部における窒化金属の析出を防止することができる。
【0016】
本願第4発明に係る単結晶の製造装置は、周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する気化部と、前記3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部と、前記3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態で前記混合部に導入するノズルと、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる析出部と、前記気化部、前記混合部及び前記析出部を加熱する加熱部と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明においては、3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態で混合部に導入するノズルを設けて、窒素ガスと3族金属材料との接触を防止しているため、3族金属材料の表面における窒化膜の生成を防止することができる。また、シールドガスにより、ノズル先端部近傍で3族金属ガスと窒素ガスとが混合することを防止しているため、ノズル先端部における窒化金属の析出を抑制することができる。その結果、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【0018】
前記ノズルを、例えば、内管とこの内管よりも大径の外管とが同軸的に配置された二重管とし、前記内管内に前記3族金属ガスを通流させ、前記内管と前記外管との間に前記シールドガスを通流させてもよい。これにより、3族金属材料表面における窒化膜の生成及びノズル先端部における窒化金属の析出を防止する効果が向上し、3族金属材料の気化速度がより安定化する。
【0019】
本願第5発明に係る単結晶の製造装置は、周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する気化部と、前記3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部と、前記3族金属材料上にキャリアガスを導入し、前記3族金属ガスを前記キャリアガスにキャリアさせて前記3族前記金属材料から前記混合部まで移送するキャリアガス導入部と、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる析出部と、前記気化部、前記混合部及び前記析出部を加熱する加熱部と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明においては、3族金属材料上にキャリアガスを導入し、3族金属ガスをこのキャリアガスにキャリアさせて混合部まで移送しているため、窒素ガスと3族金属材料との間にキャリアガスが存在し、窒素ガスと3族金属材料とが直接接触しない。これにより、3族金属材料の表面における窒化膜の生成を防止することができ、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【0021】
本願第6発明に係る単結晶の製造装置は、周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する気化部と、前記3族金属材料上にキャリアガスを導入し、前記3族金属ガスを前記キャリアガスにキャリアさせて前記3族金属材料から移送するキャリアガス導入部と、前記3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部と、前記キャリアガスにキャリアされた前記3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態で前記混合部に導入するノズルと、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる析出部と、前記気化部、前記混合部及び前記析出部を加熱する加熱部と、を有することを特徴とする。
【0022】
本発明においては、3族金属材料上にキャリアガスを導入する導入部と、キャリアガスにキャリアされた3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態で混合部に導入するノズルとを設け、窒素ガスと3族金属材料とが直接接触することを防止しているため、3族金属材料の表面における窒化膜の生成を防止することができる。また、シールドガスにより、ノズル先端部近傍で3族金属ガスと窒素ガスとが混合することを防止しているため、ノズル先端部における窒化金属の析出を抑制することができる。その結果、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【0023】
前記ノズルは、例えば、内管とこの内管よりも大径の外管とが同軸的に配置された二重管であり、前記内管内を前記キャリアガスにキャリアされた前記3族金属ガスが通流し、前記内管と前記外管との間を前記シールドガスが通流する。これにより、3族金属材料表面における窒化膜の生成防止及びノズル先端部における窒化金属の析出防止の効果が向上し、3族金属材料の気化速度がより安定化する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、周囲がシールドガスで囲まれた状態で3族金属ガスを混合部に導入すること及び/又は3族金属ガスをキャリアガスにキャリアさせて混合部まで移送することにより、原料である3族金属材料と窒素ガスとが直接接触することを防止しているため、3族金属材料表面における窒化膜の形成が抑制され、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る単結晶の製造方法について、添付の図面を参照して具体的に説明する。本実施形態の単結晶の製造方法は、Al、Ga及びIn等の3族金属のガスと窒素ガスとを反応させて析出させる気化法を利用した3族金属元素を含む窒化物(以下、窒化金属という)単結晶を製造する方法である。本発明者等は、前述の問題点を解決するため、鋭意実験研究を行った結果、窒素ガスと原料の融液とが直接接触しないようにするためには、原料融液と窒素ガスとの間に、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)及び水素(H)等のように原料融液及び窒素ガスに対して不活性なガス(以下、不活性ガスという)を流すことが有効であり、特に、不活性ガスとしてArガスを使用すると原料の気化速度が安定化し、製造条件の変動が抑制されることを見出した。
【0026】
先ず、本発明の第1の実施形態に係る単結晶の製造方法について説明する。本実施形態の単結晶の製造方法においては、3族金属材料を気化させる気化部、気化部において発生した3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部、及びこれらの混合ガスから生じる窒化金属を析出させる析出部がこの順に設けられた単結晶製造装置を使用する。そして、気化部に不活性ガスからなるキャリアガスを供給し、このキャリアガスにキャリアされた3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態で混合部に導入して、析出部に窒化金属の単結晶を成長させる。
【0027】
図1は本実施形態の単結晶の製造方法で使用する単結晶製造装置を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態において使用する単結晶製造装置10は、例えば円筒状の反応槽1を備えており、この反応槽1には、下方から上方に向かって、3族金属材料を気化させる気化部21、気化部21において発生した3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部22、及びこれらの混合ガスから窒化金属を析出させる析出部23がこの順に一列に設けられている。
【0028】
反応槽1内部の気化部21には、上部が開口した円筒状の収納容器2が設けられており、この収納容器2内には、例えば金属Al等の3族金属材料3が収納される。また、気化部21における収納容器2よりも上方の反応槽1の側壁には、Ar等の不活性ガスからなるキャリアガスを導入するためのキャリアガス導入口4が設けられている。このキャリアガスは、3族金属ガスを混合部22に移送すると共に、3族金属材料3の融液表面に窒化物の膜が形成されることを防止する効果もある。このため、単結晶製造装置10においては、キャリアガスが3族金属材料の融液の表面付近に導入されるように、キャリアガス導入口4の位置を設定することが好ましい。
【0029】
また、反応槽1内部の気化部21と混合部22との間には、反応槽1と同軸的に二重管が設けられている。この二重管は、内管5よりも外管6の方が上方に配置されており、これらの下端部には夫々外径が反応槽1の内径と等しく、内径が内管5及び外管6の内径と夫々等しい円環状部材が接合されている。そして、内管5及び外管6に夫々接合された円環状部材の外縁部は、反応槽1の側壁に接合されており、反応槽1の側壁における内管5に接合された円環状部材と外管6に接合された円環状部材との間の部分には、Ar等の不活性ガスからなるシールドガスを導入するシールドガス導入口7が設けられており、外管6に接合された円環状部材よりも上方の部分には、窒素ガスを導入する窒素ガス導入口8が設けられている。このため、キャリアガスにキャリアされた3族金属ガスは内管5内を通流し、内管5と外管6との間にはシールドガスが通流し、外管6と反応槽1の内壁との間を窒素ガスが通流する。これにより、キャリアガスにキャリアされた3族金属ガスは、その周囲がシールドガスで囲まれた状態で混合部22に導入される。
【0030】
単結晶製造装置10においては、内管5と外管6との間にシールドガスを流し、3族金属ガスの周囲をシールドガスで囲んでいるため、窒素ガスの気化部21への流入を防止すると共に、内管5の上端部に窒化金属が析出することを防止できる。内管5の上端部に窒化金属が析出すると、3族金属ガスと窒素ガスとの反応条件が変化してしまうため、析出部23で生成する窒化金属単結晶の品質が劣化する。
【0031】
更に、反応槽1の内部の析出部23には、収納容器2の開口部と対向するように、AlN及び炭化珪素(SiC)等からなる基板9が配置される。また、反応槽1の上部には、反応槽1内部のガスを排気するための排気孔11が設けられている。この排気孔11は、反応槽1内の圧力を安定化するためのものであり、例えば、排気孔11を設けず、反応槽1を密封構造にすると、反応槽1内のガス圧が変動し、3族金属材料の気化速度に影響を及ぼす。なお、この排気孔11は、反応槽1の側壁に設けられていてもよい。
【0032】
更にまた、反応槽1の周囲には、加熱コイル12乃至14が配置されており、これらの加熱コイル12乃至14は夫々、気化部21、混合部22及び析出部23を個別に加熱する。このように、単結晶製造装置10においては、気化部21、混合部22及び析出部23の温度を個別に制御することができるため、高品質な単結晶を効率的に製造することができる。
【0033】
次に、上述の如く構成された単結晶製造装置10の動作、即ち、単結晶製造装置10を使用した単結晶の製造方法について説明する。先ず、反応槽1内に配置された収納容器2内に、例えば金属Al等の3族金属材料3を充填する。そして、加熱コイル12を動作させることにより気化部21を加熱し、加熱コイル13を動作させることにより混合部22を加熱し、加熱コイル14を動作させることにより析出部23を加熱する。その際の温度は、AlN単結晶を製造する場合であれば、気化部22が例えば2000℃、混合部22が例えば2200℃、析出部23が例えば2100℃である。また、このとき、キャリアガス導入口4から気化部21へAr等の不活性ガスを供給し、シールドガス導入口7からはAr等の不活性ガスを、窒素ガス導入口8からは窒素ガスを夫々混合部22へ供給する。
【0034】
これにより、収納容器2内の3族金属材料3が溶融して融液となり、更に気化して3族金属ガスが発生する。この3族金属ガスは、Ar等の不活性ガスからなるキャリアガスと混合し、内管5内を通流して混合部22へ移送される。そして、混合部22において、窒素ガスと混合し、析出部23に配置された基板9上に窒化金属の単結晶が析出する。
【0035】
本実施形態の単結晶の製造方法は、気化部21において、原料である3族金属材料3の融液の表面に不活性ガスからなるキャリアガスを流し、更に、混合部22において、3族金属ガスと窒素ガスとの間にシールドガスを流しているため、窒素ガスと原料の融液とが接触することを防止できる。その結果、融液表面への窒化膜の生成、内管5及び外管6の先端部への窒化金属の析出が抑制されるため、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【0036】
また、3族金属ガスと窒素ガスとの間にシールドガスを流すと共に、混合部22の温度を析出部23よりも高温にしているため、混合部22において窒化金属が析出することを防止できる。これにより、基板9の手前まで3族金属と窒素とが反応せずに、夫々3族金属ガス及び窒素ガスとして存在し、核生成に有利である基板9の表面において両者が結合するため、高品質な単結晶が得られる。
【0037】
なお、本実施形態の単結晶の製造方法においては、気化部21の温度を2000℃、析出部23の温度を2100℃にしているが、本発明はこれに限定するものではなく、気化部21及び析出部23の温度は、原料の蒸気圧に応じて適宜設定することができる。なお、上述したように、混合部22における窒化金属の析出を防止するためには、混合部22の温度は析出部23の温度よりも高くすることが望ましい。
【0038】
また、本実施形態の単結晶の製造方法においては、基板9上に単結晶を成長させているが、本発明はこれに限定されず、例えば、反応槽の内壁が炭素(C)、タングステン(W)及びタンタルカーバイド(TaC)等により形成されている場合は、反応槽上に直接単結晶を成長させることもできる。但し、単結晶をエピタキシャル成長させる場合は、AlN及びSiC等からなる基板上に形成することが好ましい。
【0039】
次に、本発明の第2の実施形態に係る単結晶の製造方法について説明する。前述の第1の実施形態の単結晶の製造方法においては、シールドガス及びキャリアガスの両方を反応槽内に導入しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、シールドガス及びキャリアガスのうちの少なくとも一方を導入することにより、3族金属材料の気化速度を安定させる効果が得られる。
【0040】
そこで、本実施形態の単結晶の製造方法においては、シールドガスのみを導入して、窒化金属の単結晶を作製する。図2は本実施形態の単結晶の製造方法で使用する単結晶製造装置を模式的に示す断面図である。なお、図2においては、図1に示す単結晶製造装置の構成要素と同じものには同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図2に示すように、本実施形態において使用する単結晶製造装置30は、例えば円筒状の反応槽1を備えており、この反応槽1には、下方から上方に向かって、3族金属材料を気化させる気化部21、気化部21において発生した3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部22、及びこれらの混合ガスから窒化金属を析出させる析出部23がこの順に一列に設けられている。
【0041】
反応槽1内部の気化部21には、上部が開口した円筒状の収納容器2が設けられており、この収納容器2内には、例えば金属Al等の3族金属材料3が収納される。また、反応槽1内部の気化部21と混合部22との間には、反応槽1と同軸的に二重管が設けられており、反応槽1の側壁における内管5に接合された円環状部材と外管6に接合された円環状部材との間の部分には、Ar等の不活性ガスからなるシールドガスを導入するシールドガス導入口7が設けられており、外管6に接合された円環状部材よりも上方の部分には、窒素ガスを導入する窒素ガス導入口8が設けられている。そして、気化部21で発生した3族金属ガスは内管5内を通流し、内管5と外管6との間にはシールドガスが通流し、外管6と反応槽1の内壁との間を窒素ガスが通流する。これにより、3族金属ガスは、その周囲がシールドガスで囲まれた状態で混合部22に導入される。
【0042】
更に、反応槽1の上部には、反応槽1内部のガスを排気するための排気孔11が設けられており、反応槽1の周囲には、気化部21、混合部22及び析出部23を個別に加熱する加熱コイル12乃至14が夫々配置されている。なお、反応槽1の内部の析出部23には、収納容器2の開口部と対向するように、AlN及びSiC等からなる基板9が配置される。
【0043】
次に、上述の如く構成された単結晶製造装置30の動作、即ち、単結晶製造装置30を使用した単結晶の製造方法について説明する。先ず、反応槽1内に配置された収納容器2内に、例えば金属Al等の3族金属材料3を充填する。そして、加熱コイル12を動作させることにより気化部21を加熱し、加熱コイル13を動作させることにより混合部22を加熱し、加熱コイル14を動作させることにより析出部23を加熱する。その際の温度は、AlN単結晶を製造する場合であれば、気化部22が例えば2000℃、混合部22が例えば2200℃、析出部23が例えば2100℃である。また、このとき、シールドガス導入口7からはAr等の不活性ガスを、窒素ガス導入口8からは窒素ガスを夫々混合部22へ供給する。
【0044】
これにより、収納容器2内の3族金属材料3が溶融して融液となり、更に気化して3族金属ガスが発生する。この3族金属ガスは、内管5内を通流して混合部22へ移送される。そして、混合部22において、窒素ガスと混合し、析出部23に配置された基板9上に窒化金属の単結晶が析出する。
【0045】
本実施形態の単結晶の製造方法は、3族金属ガスをシールドガスで囲んだ状態で混合部に導入しているため、窒素ガスの気化部21への流入を防止すると共に、内管5の上端部に窒化金属が析出することを防止できる。その結果、3族金属材料表面における窒化膜の生成、内管5及び外管6の先端部への窒化金属の析出が抑制されるため、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。
【0046】
また、混合部22の温度を析出部23よりも高温にしているため、混合部22において窒化金属が析出することを防止できる。これにより、基板9の手前まで3族金属と窒素とが反応せずに、基板9の表面において両者が結合するため、高品質な単結晶が得られる。但し、本実施形態の単結晶の製造方法においては、キャリアガスを導入していないため、前述の第1の実施形態の単結晶の製造方法よりも、3族金属材料の気化量が少なくなり、窒化金属の生産性が低下する。
【0047】
次に、本発明の第3の実施形態に係る単結晶の製造方法について説明する。本実施形態の単結晶の製造方法においては、キャリアガスのみを導入して、窒化金属の単結晶を作製する。図3は本実施形態の単結晶の製造方法で使用する単結晶製造装置を模式的に示す断面図である。なお、図3においては、図1に示す単結晶製造装置の構成要素と同じものには同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図3に示すように、本実施形態において使用する単結晶製造装置40は、例えば円筒状の反応槽1を備えており、この反応槽1には、下方から上方に向かって、3族金属材料を気化させる気化部21、気化部21において発生した3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部22、及びこれらの混合ガスから窒化金属を析出させる析出部23がこの順に一列に設けられている。
【0048】
反応槽1内部の気化部21には、上部が開口した円筒状の収納容器2が設けられており、この収納容器2内には、例えば金属Al等の3族金属材料3が収納される。また、気化部21における収納容器2よりも上方の反応槽1の側壁には、Ar等の不活性ガスからなるキャリアガスを導入するためのキャリアガス導入口4が設けられている。
【0049】
また、気化部21と混合部22との間には、管41が設けられている。この管41の下端部には外径が反応槽1の内径と等しく、内径が管41の内径と等しい円環状部材が接合されており、この円環状部材の外縁部は反応槽1の側壁に接合されている。そして、反応槽1の側壁における管41に接合された円環状部材よりも上方の部分には、窒素ガスを導入する窒素ガス導入口8が設けられている。このため、キャリアガスにキャリアされた3族金属ガスは管41内を通流し、管41と反応槽1の内壁との間を窒素ガスが通流する。
【0050】
更に、反応槽1の上部には、反応槽1内部のガスを排気するための排気孔11が設けられている。更にまた、反応槽1の周囲には、気化部21、混合部22及び析出部23を個別に加熱する加熱コイル12乃至14が配置されている。なお、反応槽1の内部の析出部23には、収納容器2の開口部と対向するように、AlN及びSiC等からなる基板9が配置される。
【0051】
次に、上述の如く構成された単結晶製造装置40の動作、即ち、単結晶製造装置40を使用した単結晶の製造方法について説明する。先ず、反応槽1内に配置された収納容器2内に、例えば金属Al等の3族金属材料3を充填する。そして、加熱コイル12を動作させることにより気化部21を加熱し、加熱コイル13を動作させることにより混合部22を加熱し、加熱コイル14を動作させることにより析出部23を加熱する。その際の温度は、AlN単結晶を製造する場合であれば、気化部22が例えば2000℃、混合部22が例えば2200℃、析出部23が例えば2100℃である。また、このとき、キャリアガス導入口4から気化部21へAr等の不活性ガスを供給し、窒素ガス導入口8からは窒素ガスを夫々混合部22へ供給する。
【0052】
これにより、収納容器2内の3族金属材料3が溶融して融液となり、更に気化して3族金属ガスが発生する。この3族金属ガスは、Ar等の不活性ガスからなるキャリアガスと混合し、管41内を通流して混合部22へ移送される。そして、混合部22において、窒素ガスと混合し、析出部23に配置された基板9上に窒化金属の単結晶が析出する。
【0053】
本実施形態の単結晶の製造方法は、気化部21において、原料である3族金属材料3の融液の表面に不活性ガスからなるキャリアガスを流しているため、窒素ガスと原料の融液とが接触することを防止できる。その結果、融液表面における窒化膜の生成が抑制されるため、3族金属材料の気化速度を安定化することができる。また、混合部22の温度を析出部23よりも高温にしているため、管41の先端部に窒化金属が析出することを防止できる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の効果について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。先ず、本発明の実施例として、図1に示す装置を使用してAlN単結晶を作製した。その際の製造条件を下記表1に示す。下記表1に示すように、原料には金属Al(500g)を使用し、窒素ガスの流量は500標準cm/分(sccm)とした。また、キャリアガス及びシールドガスにはArガスを使用し、その流量共に50標準cm/分(sccm)とした。更に、抵抗加熱又は高周波加熱により、気化部を2000℃、混合部を2200℃、析出部を2100℃にした。なお、下記表1に示す混合部の温度は、内管及び外管の温度である。
【0055】
【表1】

【0056】
そして、合成開始から2時間後、4時間後、6時間後及び8時間後に金属Alの減少量を測定した。その結果を下記表2に示す。また、図4は横軸に合成時間をとり、縦軸に金属Al減少量をとって、本実施例の単結晶の製造方法における合成時間とAl減少量との関係を示すグラフ図である。
【0057】
【表2】

【0058】
上記表2及び図4に示すように、本実施例においては、合成時間と金属Al減少量とが比例関係にあり、Al気化速度は殆ど変動していなかった。
【0059】
また、本発明の比較例として、図6に示す従来の単結晶製造装置を使用して、下記表3に示す条件で、AlN単結晶を作製した。
【0060】
【表3】

【0061】
そして、合成開始から2時間後、4時間後及び6時間後に金属Alの減少量を測定した。その結果を下記表4に示す。また、図5は横軸に合成時間をとり、縦軸に金属Al減少量をとって、本比較例の単結晶の製造方法における合成時間とAl減少量との関係を示すグラフ図である。
【0062】
【表4】

【0063】
上記表4及び図5に示すように、本比較例においては、合成時間と金属Al減少量とが比例関係になく、合成時間が長くなるに従いAl気化速度が低下した。そこで、実験終了後に、原料である金属Alの表面をX線回折により分析したところ、全ての試料の表面にAlNが形成されていた。よって、本比較例においては、Al融液の表面に、Alよりも蒸気圧が低いAlNが生成したため、Al気化速度が低下したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の単結晶の製造方法及び単結晶の製造装置は、青色発光ダイオード及び紫外発光ダイオード等の発光ダイオード用成長基板、レーザダイオード用成長基板、並びにパワーデバイス用基板として好適な窒化金属の単結晶を作製する際に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る単結晶の製造方法で使用する単結晶製造装置を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る単結晶の製造方法で使用する単結晶製造装置を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る単結晶の製造方法で使用する単結晶製造装置を模式的に示す断面図である。
【図4】横軸に合成時間をとり、縦軸に金属Al減少量をとって、本発明の実施例の単結晶の製造方法における合成時間とAl減少量との関係を示すグラフ図である。
【図5】横軸に合成時間をとり、縦軸に金属Al減少量をとって、本発明の比較例の単結晶の製造方法における合成時間とAl減少量との関係を示すグラフ図である。
【図6】気化法を利用した従来の単結晶製造装置を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1、51;反応槽
2、52;収納容器
3;3族金属材料
4;キャリアガス導入口
5、6、41;管
7;シールドガス導入口
8、54;窒素ガス導入口
9、55;基板
10、30、40、50;単結晶製造装置
11、56;排気孔
12〜14、57、58;加熱コイル
21、61;気化部
22;混合部
23、62;析出部
53;金属Al

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する工程と、窒素ガスを前記3族金属ガスとの混合部に送給する工程と、前記3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態でノズルから前記混合部に導入する工程と、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる工程と、を有することを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項2】
周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する工程と、前記3族金属ガスをキャリアガスにキャリアさせて前記3族金属材料から窒素ガスとの混合部まで移送する工程と、窒素ガスを前記混合部に送給する工程と、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる工程と、を有することを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項3】
周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する工程と、窒素ガスを前記3族金属ガスとの混合部に送給する工程と、前記3族金属ガスをキャリアガスにキャリアさせて前記3族金属材料から移送する工程と、前記キャリアガスにキャリアされた前記3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態でノズルから前記混合部に導入する工程と、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる工程と、を有することを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記シールドガスとして、前記3族金属材料及び前記窒素ガスに対して不活性なガスを使用することを特徴とする請求項1又は3に記載の単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記シールドガスは、アルゴンガスであることを特徴とする請求項4に記載の単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記キャリアガスとして、前記3族金属材料及び前記窒素ガスに対して不活性なガスを使用することを特徴とする請求項2又は3に記載の単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記キャリアガスは、アルゴンガスであることを特徴とする請求項6に記載の単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記析出工程よりも高い温度条件下で前記3族金属ガスと前記窒素ガスとを混合することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項9】
周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する気化部と、前記3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部と、前記3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態で前記混合部に導入するノズルと、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる析出部と、前記気化部、前記混合部及び前記析出部を加熱する加熱部と、を有することを特徴とする単結晶の製造装置。
【請求項10】
前記ノズルは、内管とこの内管よりも大径の外管とが同軸的に配置された二重管であり、前記内管内を前記3族金属ガスが通流し、前記内管と前記外管との間を前記シールドガスが通流することを特徴とする請求項9に記載の単結晶の製造装置。
【請求項11】
周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する気化部と、前記3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部と、前記3族金属材料上にキャリアガスを導入し、前記3族金属ガスを前記キャリアガスにキャリアさせて前記3族前記金属材料から前記混合部まで移送するキャリアガス導入部と、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる析出部と、前記気化部、前記混合部及び前記析出部を加熱する加熱部と、を有することを特徴とする単結晶の製造装置。
【請求項12】
周期律表の3族金属材料を気化させて3族金属ガスを生成する気化部と、前記3族金属材料上にキャリアガスを導入し、前記3族金属ガスを前記キャリアガスにキャリアさせて前記3族金属材料から移送するキャリアガス導入部と、前記3族金属ガスと窒素ガスとを混合する混合部と、前記キャリアガスにキャリアされた前記3族金属ガスをその周囲がシールドガスで囲まれた状態で前記混合部に導入するノズルと、前記3族金属ガスと前記窒素ガスとの反応により生じた窒化金属を析出させる析出部と、前記気化部、前記混合部及び前記析出部を加熱する加熱部と、を有することを特徴とする単結晶の製造装置。
【請求項13】
前記ノズルは、内管とこの内管よりも大径の外管とが同軸的に配置された二重管であり、前記内管内を前記キャリアガスにキャリアされた前記3族金属ガスが通流し、前記内管と前記外管との間を前記シールドガスが通流することを特徴とする請求項12に記載の単結晶の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−8779(P2007−8779A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193493(P2005−193493)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度独立法人科学技術振興機構「大口径窒化アルミニウム単結晶の製造技術」新技術開発委託、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】