説明

原動機付き二輪車におけるブレーキ圧制御方法及びその装置

【課題】二輪車用のインテグラル機能及びアンチロック制御機能を備えた改良されたブレーキシステムあるいはインテグラル機能及びアンチロック制御機能を備えた二輪車における改良されたブレーキ圧制御方法を提供すること。
【解決手段】アンチロック制御機能及びインテグラルブレーキ機能を備えた原動機付き二輪車のブレーキ圧制御方法であって、前輪ブレーキ圧psollVRが、後輪ブレーキ操作手段により後輪用ブレーキ液圧回路の後輪用マスタシリンダに生じる圧力pmessHZ HRに応じた第1の関数に基づき制御される前記ブレーキ圧制御方法において、アンチロック制御に基づき行われる後輪への制御開始時に、アンチロック制御が行われない場合における第1の関数に基づく後輪用マスタシリンダに生じる圧力pmessHZ HRよりも大きな圧力psollVRを前輪用ブレーキ液圧回路内に生じさせるよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念によるブレーキ圧制御方法及び請求項10の上位概念による原動機付き二輪車用のブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原動機付き二輪車(以下単に「二輪車」という。)は、この数十年間、安価な移動手段からレジャー用の乗物へと発展してきた。また、この間、安全性及び快適性の向上が強調されてきた。
【0003】
そして、自動車と同じように、ここ数年、二輪車についてもアンチロックブレーキシステム(ABS)が装備されてきている。例えば、特許文献1には二輪車用のアンチロックブレーキシステムが開示されている。さらに、特許文献2には二輪車のアンチロックブレーキシステム制御方法及び接着因子の決定方法が開示されている。
【0004】
従来、二輪車には前輪の液圧回路用及び後輪の液圧回路用にそれぞれ1つずつブレーキ操作手段が設けられており、通常、前輪の液圧回路用にはブレーキレバーが用いられ、後輪用の液圧回路にはブレーキペダルが用いられる。
【0005】
ここで、二輪車に関連して、「インテグラルブレーキシステム」とは、ブレーキレバー又はブレーキペダルを操作すると、1つの液圧回路だけではなくもう一方の液圧回路にも積極的なブレーキ圧の増圧がなされるようなブレーキシステムをいう。すなわち、1つのブレーキ操作手段を操作することによって両ブレーキが動作することになる。
【0006】
また、ブレーキレバー及びブレーキペダルの操作によってそれぞれ両ブレーキを動作させるものは、「フルインテグラルブレーキシステム」と呼ばれる。また、種々組み合わせることも可能で、1つのブレーキ操作手段によって1つの車輪を制動し、もう一方のブレーキ操作手段によって2つの車輪を制動するようにすることができる(パーシャリインテグラルブレーキシステム)。なお、このようなインテグラルブレーキシステムは、例えば特許文献3及び特許文献4に記載されている。
【0007】
インテグラル機能を備えた二輪車においては、各操作要素(例えばブレーキレバー及び/又はブレーキペダル)の操作に基づき、自動的に前輪と後輪の間のブレーキ力あるいはブレーキ圧の配分がなされる。なお、このような配分は、所定の一定比率で前後輪に分配する液圧回路(いわゆる前後輪連動ブレーキシステム(CBS))又は所定の比率に制御する電子装置によってなされる。
【0008】
また、インテグラル機能及びアンチロック制御機能を備えた電子制御システムにおいては、ABS動作時において前後輪のブレーキ力配分を現在の積載重量に対応させることが知られている(非特許文献1)。さらに、特許文献5には、簡易な構造においてABS機能及びインテグラルブレーキシステムを搭載した二輪車が開示されている。
【特許文献1】欧州特許第0548985号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第4000212号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第3803563号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10316351号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102005003255号明細書
【非特許文献1】"Bremsenhandbuch"、Vieweg Verlag、2004年7月、2. Auflage、ISBN 3-528-13952-8、p. 184-192
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的とするところは、二輪車用のインテグラル機能及びアンチロック制御機能を備えた改良されたブレーキシステムあるいはインテグラル機能及びアンチロック制御機能を備えた二輪車における改良されたブレーキ圧制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、請求項1に係る発明によるブレーキ圧制御方法及び請求項10に係る発明によるブレーキ装置によって達成される。
【0011】
本発明はアンチロック制御機能及び電子制御式のインテグラル機能を備えた二輪車用のブレーキ装置を前提としており、このブレーキ装置において、後輪用ブレーキペダルの操作によって、後輪用マスタシリンダの圧力の所定の第1の関数に基づき前輪ホイールシリンダにおけるブレーキ圧が制御されるようになっている。
【0012】
また、本発明は、アンチロック制御に基づき行われる後輪への制御開始時に、アンチロック制御が行われない場合における前記第1の関数に基づく後輪用マスタシリンダに生じる圧力よりも大きな圧力を前輪用ブレーキ液圧回路内に生じさせるよう制御することを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、後輪におけるアンチロック制御時に制御されつつ前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力を、ブレーキ操作により生じる後輪用ブレーキ液圧回路の後輪用マスタシリンダにおける圧力から第2の関数に基づき決定することを特徴としている。この第2の関数の設定により、制御すべき前輪ブレーキ圧を迅速かつ正確に決定することが可能である。ここで、この第2の関数を制御装置内、特にブレーキ装置の電子制御装置内にメモリしておくのが望ましい。
【0014】
また、本発明の一実施形態は、後輪におけるアンチロック制御時に制御されつつ前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力を、二輪車の総制動トルク(ブレーキ効果)に基づき制御することを特徴としている。これにより、前輪ブレーキ圧のブレーキ操作に応じたフレキシブルな制御が可能である。
【0015】
ここで、二輪車の実際の制動トルクをその目標制動トルクと比較し、この両者が一致するよう前輪ブレーキ圧を制御するのが好ましい。また、実際の制動トルクを後輪ブレーキ圧の平均値から決定するのが望ましく、これは、あらかじめ設定された特性線に基づき行われる。さらに、目標制動トルクについては、アンチロック制御の非動作時に、前輪ブレーキ圧が後輪用マスタシリンダにおける圧力と等しくなるような制動トルクとするのが好ましい。
【0016】
また、後輪におけるアンチロック制御時に制御されつつ前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力を車速に応じて設定するのが望ましい。このように車速を考慮することにより、走行状態の判断が可能となり、走行状態に応じた選択あるいは走行状態に応じた前輪ブレーキ圧の制御を行う必要がない。
【0017】
また、本発明の一実施形態は、後輪におけるアンチロック制御時に制御されつつ前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力を、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクがアンチロック制御を行わない場合のブレーキ効果とほぼ同じになるようより大きく設定することを特徴としている。これを、いわゆる「補整」と呼ぶ。ここで、この補整が、特に後輪用マスタシリンダにおける圧力に対してなされるのが好ましい。
【0018】
そして、上記のように前輪ブレーキ圧を設定することにより、後輪に対してアンチロック制御を行う際に、同様なブレーキ操作によりブレーキ効果が生じるときにアンチロック制御がなされない場合とほぼ同じ制動トルクあるいは制動距離が得られる。さらに、アンチロックブレーキ制御による後輪における制動トルクの損失は、上記のように大きく設定されたブレーキ圧により相殺される。
【0019】
また、本発明の一実施形態は、後輪におけるアンチロック制御時に制御されつつ前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力を、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクがアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより大きくなるよう設定することを特徴としている。これを、いわゆる「過補整」と呼ぶ。ここで、前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力を、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクがアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより所定値だけ大きくなるよう設定するのが望ましい。
【0020】
さらに、上記過補整を、後輪用マスタシリンダにおける圧力に対して行うのも好ましい。そして、上記のように前輪ブレーキ圧を設定することにより、後輪に対してアンチロック制御を行う際に、ブレーキアシスト機能を達成することができる。これは、過補整によりアンチロック制御がなされない場合に比して大きな制動トルクが得られることによるものである。
【0021】
このようなブレーキアシスト機能は、緊急のブレーキング時に、運転者をサポートしてできるだけ短い制動距離を達成するのに好ましい。そのため、本発明の一実施形態は、前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力を、緊急ブレーキ操作と認識された場合に、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクがアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより大きくなるよう設定することを特徴としている。
【0022】
また、本発明の一実施形態は、前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力を、アンチロック制御開始時における後輪ブレーキ圧が所定の大きさより大きい場合に、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクがアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより大きくなるよう設定することを特徴としている。
【0023】
この所定の大きさより大きな後輪ブレーキ圧が発生することは路面摩擦係数が大きいことを意味しており、これにより、過補整時に、より大きな制動トルクが生じ、より短い制動距離を達成することができることになる。一方、後輪ブレーキ圧が所定の大きさより小さければ、過補整は必ずしも必要ではない。
【0024】
したがって、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクとアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクとがほぼ同じになるような前輪ブレーキ圧が生じるよう上記補整を行うのが好ましい。
【0025】
また、上記のようなものに代えて又は加えて、前輪ブレーキ圧を、アンチロック制御開始時における路面摩擦係数が所定の大きさより大きい場合に、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクがアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより大きくなるよう設定するのが望ましい。
【0026】
ここで、路面摩擦係数が所定の大きさより大きいことにより、過補整時により大きな制動トルクが得られ、制動距離を短くすることが可能となっている。一方、路面摩擦係数が所定の大きさより小さい場合には、十分な制動トルクが得られずに不安定な走行状態を誘発してしまうことがあるため、過補整は不適である。
【0027】
したがって、このように路面摩擦係数が所定の値に満たない場合には、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクとアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクとがほぼ同じになるような前輪ブレーキ圧が生じるよう上記補整を行うのが好ましい。
【0028】
さらに、上記のようなものに代えて又は加えて、前輪ブレーキ圧を、アンチロック制御開始時における車速が所定の大きさより大きい場合に、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクがアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより大きくなるよう設定するのが望ましい。
【0029】
ここで、大きな車速で走行している際にブレーキ操作を行うことは、通常、緊急の事態が発生したと認識されるため、二輪車をできるだけ陣族に減速できるよう、過補整を行うのが好ましい。一方、車速が所定の値より小さい場合には狭いカーブを走行中であるか、又は操車中であると認識される可能性があるため、このようなときには、過補整が運転者にとって不快に感じられるので、このような過補整は行われない。
【0030】
したがって、このように車速が所定の値に満たない場合には、アンチロック制御時に得られる二輪車の総制動トルクとアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクとがほぼ同じになるような前輪ブレーキ圧が生じるよう上記補整を行うのが好ましい。
【0031】
なお、本発明は、更に、本発明によるブレーキ圧制御方法を実行する、アンチロック制御システム及び電子制御式のインテグラル機能を備えて成る二輪車用のブレーキ装置にも関するものである。
【0032】
なお、本発明の他の実施形態は、各従属請求項及び以下の図面に基づく説明において記載されている。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、アンチロック制御時及び/又は強力なブレーキング時(緊急ブレーキング時)にもできる限り短い制動距離を達成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0035】
図1には一例として二輪車用のインテグラルブレーキ装置が示されており、このインテグラルブレーキ装置は、前輪VR用のマスタシリンダ7を備えた前輪用のブレーキ液圧回路5及び後輪HR用のマスタシリンダ8を備えた後輪用のブレーキ液圧回路6で構成されている。そして、運転者は、手動のブレーキレバー1によって少なくとも1つの前輪ブレーキ9を操作し、ブレーキペダル2によって後輪ブレーキ10を操作するようになっている。
【0036】
また、このブレーキ装置は4つの圧力センサ3,3’,15,15’を備えており、これら圧力センサ3,3’,15,15’が各ブレーキ液圧回路5,6に2つずつ配設されている。ここで、圧力センサ3,3’は前輪用及び後輪用のマスタシリンダ7,8で生じる圧力pmessHZ VR及びpmessHZ HRを検出するものであり、圧力センサ15,15’は前輪VR及び後輪HRにおけるブレーキ圧pVR及びpHRを検出するものとなっている。
【0037】
しかして、ブレーキペダル2を操作することにより後輪HRにおけるブレーキ圧pHRが増圧されるが、このような増圧は、切換弁TV−HR及び常開型の切換弁SO−HRが開放位置にあり、後輪用のマスタシリンダ8と後輪ブレーキ10と連通しているためになされるようになっている。
【0038】
また、電子制御式のインテグラル機能に基づき、例えば圧力センサ3によって後輪用ブレーキ液圧回路6に配設された後輪用マスタシリンダ8における圧力を検出することで、2系統に配分されたポンプ12によって前輪VRにおけるブレーキ圧pVRも増圧されるようになっている。このような増圧は、電気式の前輪用切換弁EUV−VR及び常開型の切換弁SO−VRが開放しているとともに、切換弁TV−VRが閉鎖されているためになされるようになっている。
【0039】
なお、2系統に配分されたポンプ12はリターンフローを生じるように動作し、このポンプ12の各系統におけるピストンは共通のモータ13によって駆動されるようになっている。
【0040】
ところで、不図示の前後輪連動ブレーキシステム(CBS:Combined Brake System)はインテグラルブレーキ装置の純粋に機械的なバリエーション又は純粋に油圧的なバリエーションであり、インテグラル機能を有さないブレーキ装置又は図1に示すブレーキ装置において後輪HRにおけるブレーキ圧を操作するブレーキペダル2の操作によって前輪VRにおけるブレーキ圧も制御可能なものである。そして、このようなブレーキ装置によって、通常数量の少ない前輪VRのブレーキシリンダが個々に駆動される。なお、上記は、ブレーキレバー1についても同様である。
【0041】
また、前後輪連動ブレーキシステムにおいて既に知られた、ブレーキペダル2の操作時の前輪VRにおけるブレーキ圧の増圧(いわゆるリヤトゥーフロント機能)は、例えば図1に示すインテグラルブレーキ装置において「バイワイヤ式」に、前輪ブレーキ9に追加的なシリンダを設けることなく当該前輪VRにおけるアクティブな増圧によってなされる。このとき、アクティブな増圧を行うポンプ12は、電子制御ユニットECUによって制御されるようになっている。
【0042】
さらに、例えば電子制御ユニットECU内にメモリされた基本特性線が設定されており、この基本特性線は、ブレーキペダル2の操作によってマスタシリンダで生じる圧力pmessHZ HRと前輪VRにおける目標ブレーキ圧psollVRの間には、関数fにより
sollVR=f(pmessHZ HR) (式1)
の関係が成り立つ。
【0043】
図2には、前後輪連動ブレーキシステムにおける後輪HRのホイールシリンダにおける圧力pmessHZ HRと前輪VRにおけるブレーキ圧pVRの関係が比較して示されている。ここで、特性線20は前後輪連動ブレーキシステムについてのものであり、特性線21は例えば図1に示すような電子制御式のフルインテグラルブレーキ装置についてのものである。
【0044】
ここで、図1に示すブレーキ装置における唯一のブレーキフルードラインによって前輪VRにおけるすべてのホイールシリンダを操作することができるため、図1に示すブレーキ装置にあっては、同じ制動トルクを得るのに前後輪連動ブレーキシステムに比して明らかに前輪ブレーキ圧pVRが削減されている。このとき、前後輪連動ブレーキシステムにおいては、前輪VRにより少ない及び/又は小さいホイールシリンダが使用されている。
【0045】
しかして、図3における上半部には、ブレーキペダル2の操作によって生じる後輪用のマスタシリンダ8に生じる圧力pmessHZ HRに対する前輪VRにおける目標ブレーキ圧psollVRが示されている。ここで、特性線30は、上記式1に基づく基本特性線であり、図2における基本特性線21に相当する。
一方、図3における下半部における特性線31は、後輪用のマスタシリンダによる圧力pmessHZ HRに応じた総制動トルクMBrems Gesamt(二輪車の総制動トルク)を示している。また、両特性線30,31の勾配は、後輪HRに対してアンチロック制御がなされない限り一定に維持される。そして、基本特性線30は例えば直線であり、これは、後輪用のマスタシリンダ8で生じる圧力pmessHZ HRと前輪VRにおける目標ブレーキ圧psollVRの線形な関係を示している。
【0046】
また、ブレーキペダル2の操作時及びその後の時点32での後輪HRにおけるアンチロック制御時には、後輪におけるアンチロック−圧力変動又は減圧により平均制動トルクあるいは二輪車の制動効果が低減される。
【0047】
ところで、図3の下半部に記載された特性線34は二輪車の総制動トルクMBrems Gesamtを示しており、この総制動トルクMBrems Gesamtは、基本特性線30においてアンチロック制御が行われた場合のものである。ここで、後輪HRにおける圧力変動により、総制動トルクMBrems Gesamt(特性線34)が特性線31で示す総制動トルクMBrems Gesamtより小さくなる。なお、特性線34は基本特性線30に応じて制御された前輪ブレーキにおけるブレーキ圧psollVRにおいて達成されるものであり、一方、特性線31は、基本特性線30に応じて制御された前輪ブレーキにおけるブレーキ圧psollVRにおいて、後輪HRのアンチロック制御をしないで達成されるものである。
【0048】
そして、アンチロック制御が行われる場合には、液圧伝達特性線が「リヤトゥーフロント」に変更される。すなわち、ブレーキペダル2の操作によって生じる後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRと前輪VRにおいて制御されるブレーキ圧psollVRの関数が変更される。
【0049】
例えば、電子制御ユニットECU内にメモリされた適当な特性線が設定され、この特性線は、後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRと前輪VRにおいて制御されるブレーキ圧psollVRの変更された以下の関数となる:
sollVR=fABS(pmessHZ HR) (式2)
【0050】
本発明においては、アンチロック制御時(時点32以降)には、前輪ブレーキにおけるブレーキ圧psollVRが、基本特性線30に比して、後輪HRにおけるあらかじめ設定された後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRに対して大きくなるように制御されるようになっている。
【0051】
また、図3における上半部には、式1に対して変更された後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRと前輪VRにおいて制御されるブレーキ圧psollVRの間の関数fKompensationABSが特性線33として例示されている。例えば、特性線33に基づいた前輪ブレーキにおける目標圧力psollVRは、基本特性線30に比べて、アンチロック制御時における合計(前輪及び後輪)が総制動トルクMBrems Gesamtに近似するように高められるようになっている。
【0052】
なお、この総制動トルクMBrems Gesamtは、同じブレーキレバー操作又はブレーキペダル操作時に、後輪におけるアンチロック制御がなされないよう調整された場合のものである(特性線31)。また、特性線33は、例えば線形の特性線であり、後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRと前輪VRにおいて制御されるブレーキ圧psollVRの間の線形な関数fKompensationABSである。すなわち、アンチロック制御に基づき減少した後輪HRにおけるブレーキ圧は、前輪VRへのブレーキ圧伝達を高めることによって補整されるということができる。
【0053】
また、他の実施形態によれば、前輪VRにおける目標ブレーキ圧psollVRはあらかじめ設定された関数fKompensationABSによって固定されず、この関数によって制御される。ここで、例えば電子制御ユニットECU内にメモリされた特性線に基づき、後輪VRにおける平均ブレーキ圧pHRから総制動トルクMBrems Gesamtが推定される。この総制動トルクMBrems Gesamtが所定の目標制動トルク(アンチロック制御を行わない場合の制動トルク(特性線31)に相当)と比較され、前輪における目標ブレーキ圧psollVRが、その実際値が目標制動トルクと一致するように高められる。
【0054】
また、他の実施形態によれば、アンチロック制御に基づき減少した後輪HRにおけるブレーキ圧は、補整されるだけでなく、それ以上に高められる(過補整)。ここで、前輪VRにおけるブレーキ圧psollVRは、現在の後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRにおいて、特性線33(関数fKompensationABS)に比して更に高められる。
【0055】
この際、後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRと前輪VRにおいて制御されるブレーキ圧psollVRの間の関数fABSUeberkompensationは以下のとおりとなる:
sollVR=fABSUeberkompensation(pmessHZ HR) (式3)
【0056】
ところで、図4における上半部には、基本特性線30、補整のための特性線33及び補整以上に圧力を上昇させる(Ueberkompensation)ための特性線40が比較して示されている。この特性線40は例えば線形な特性線であり、後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRと前輪VRにおいて制御されるブレーキ圧psollVRの間の線形な関係を示している。また、特性線33の勾配は基本特性線30のそれよりも大きく、特性線40の勾配は特性線33のそれよりも更に大きくなっている。
【0057】
図4の下半部に示された特性線41は制動トルク(二輪車の総制動トルク)を示しており、この制動トルクは、後輪HRにおけるアンチロック制御時に相当するものである。そして、実際の後輪用のマスタシリンダ8における圧力pmessHZ HRに対して補整以上に高められた制動トルクMBrems Gesamt(特性線41)は、特性線33に基づき補整されたアンチロック制御時に得られる特性線31で示す制動トルクMBrems Gesamtよりも大きくなっている。
【0058】
この補整以上に制動トルクMBrems Gesamtを高めることにより、補整された制動トルクMBrems Gesamtが生じる場合に比べて早めに、ブレーキペダル2の操作により前輪VRに対してアンチロック制御がなされる。これは、後輪HRのアンチロック制御開始(時点32)を伴うインジケータとしてのブレーキアシスト(BA)機能に相当する。
【0059】
仮に、運転者が、後輪HRにアンチロック制御がなされるまでブレーキを操作すると(まず不安定な走行状態が生じる)、このようなブレーキ操作がなされる何らかの理由があり、緊急のブレーキ操作であると認識される。一実施形態における方法によれば、前輪VRにもアンチロック制御がなされるよう上記のような補整が集中的に高められること(補整以上の圧力上昇(Ueberkompensation))によって、ブレーキアシストの一種により運転者をサポートすることが可能である。
【0060】
これにより、同様なブレーキペダル位置における、アンチロック制御を行わない場合(特性線31)のブレーキ効果と比較した総制動トルクMBrems Gesamt(図4における特性線41)の集中的な上昇が得られる。
【0061】
ところで、補整を行うか、又は補整以上に制動トルクMBrems Gesamtを高めるかどうかは、後輪HRにおけるアンチロック制御開始時点32における後輪におけるブレーキ圧pHRに応じて判断すればよい。ここで、アンチロック制御開始時32における例えば所定の閾値よりも小さな後輪HRにおける圧力pHRは、タイヤと路面の間の小さな摩擦係数に相当する。このような場合には、補整以上の制動トルクMBrems Gesamtの上昇は必ずしも必要でない。
【0062】
一方、アンチロック制御開始時32における例えば所定の閾値よりも大きな後輪HRにおける圧力pHRは、平均以上の高い摩擦係数であることのインジケータといえる。この際、補整以上の総制動トルクMBrems Gesamtのために使用されるべきポテンシャルが与えられる。すなわち、このような補整以上の総制動トルクMBrems Gesamtが必要か否かが、これに対して十分大きな摩擦係数が生じているかどうかによって決定される。
【0063】
そして、摩擦係数が小さい場合には、ブレーキ作用が著しく高まることなく非常に迅速に不安定な走行状態に陥ってしまうため補整以上の総制動トルクMBrems Gesamtは不適である。なお、このような小さな摩擦係数は、例えばアンチロック制御開始時32における低いブレーキ圧によって検出することが可能である。
【0064】
さらに、補整以上の総制動トルクMBrems Gesamtが必要か否かを車速によっても判断することが可能である。車速が低速である場合には、狭いカーブなどを走行している場合である可能性もあり、補整以上の総制動トルクMBrems Gesamtは好ましくなく、補整以上の総制動トルクMBrems Gesamtは生じないようになっている。また、低速であれば、危険も小さく、ブレーキアシストも不要である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明による方法を実施するための二輪車におけるインテグラルブレーキ装置を示す図である。
【図2】前後輪連動連動ブレーキシステム及び図1に示すブレーキ装置の後輪用マスタシリンダにおける圧力と前輪ブレーキ圧の関係を比較して示すグラフである。
【図3】後輪へのアンチロック制御開始後の後輪用マスタシリンダにおける圧力と前輪ブレーキ圧の関係の第1の変更を示すグラフである。
【図4】後輪へのアンチロック制御開始後の後輪用マスタシリンダにおける圧力と前輪ブレーキ圧の関係の第2の変更を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1 ブレーキレバー
2 ブレーキペダル
3,3’ 圧力センサ
5 前輪用のブレーキ液圧回路
6 後輪用のブレーキ液圧回路
7 前輪用のマスタシリンダ
8 後輪用のマスタシリンダ
9 前輪ブレーキ
10 後輪ブレーキ
12 ポンプ
13 モータ
15,15’ 圧力センサ
20,30 基本特性線
21 特性線
31,34 特性線
32 アンチロック制御開始時点
33 特性線
40 特性線
41 特性線
ECU 電子制御ユニット
EUV−VR 切換弁
HR 後輪
Brems Gesamt 総制動トルク
VR 前輪ブレーキにおけるブレーキ圧
HR 後輪ブレーキにおけるブレーキ圧
messHZ VR 前輪用のマスタシリンダにより生じる圧力
messHZ HR 後輪用のマスタシリンダにより生じる圧力
sollVR 前輪における目標ブレーキ圧
SG−HR 切換弁
SG−VR 切換弁
SO−HR 切換弁
SO−VR 切換弁
TV−HR 切換弁
TV−VR 切換弁
VR 前輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチロック制御機能及びインテグラルブレーキ機能を備えた原動機付き二輪車のブレーキ圧制御方法であって、インテグラルブレーキ機能に基づき前輪ブレーキ(9)操作手段により後輪(HR)のブレーキが操作され、前輪用ブレーキ液圧回路(5)におけるブレーキ圧(psollVR)が、後輪ブレーキ操作手段により後輪用ブレーキ液圧回路(6)の後輪用マスタシリンダ(8)に生じる圧力(pmessHZ HR)に応じた第1の関数(f)に基づき制御される前記ブレーキ圧制御方法において、
アンチロック制御に基づき行われる後輪(HR)への制御開始時に、アンチロック制御が行われない場合における前記第1の関数(f)に基づく後輪用マスタシリンダ(8)に生じる圧力(pmessHZ HR)よりも大きな圧力(psollVR)を前記前輪用ブレーキ液圧回路(5)内に生じさせるよう制御することを特徴とするブレーキ圧制御方法。
【請求項2】
後輪(HR)におけるアンチロック制御時に制御されつつ前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力(psollVR)を、ブレーキ操作により生じる前記後輪用ブレーキ液圧回路(6)の前記後輪用マスタシリンダ(8)における圧力(pmessHZ HR)から第2の関数(fABS)に基づき決定することを特徴とする請求項1記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項3】
後輪(HR)におけるアンチロック制御時に制御されつつ前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力(psollVR)を、原動機付き二輪車の総制動トルク(MBrems Gesamt)に基づき制御することを特徴とする請求項1記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項4】
後輪(HR)におけるアンチロック制御時に制御されつつ前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力(psollVR)を、アンチロック制御時に得られる原動機付き二輪車の総制動トルク(MBrems Gesamt)、特に前記後輪用マスタシリンダ(8)における圧力(pmessHZ HR)がアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクとほぼ同じになるようより大きく設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項5】
前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる前記圧力(psollVR)を、アンチロック制御開始時における後輪ブレーキ圧(pHR)、路面摩擦係数及び車速のうち少なくともいずれかが所定の大きさより小さい場合に、アンチロック制御時に得られる原動機付き二輪車の総制動トルク(MBrems Gesamt)がアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクとほぼ同じになるよう設定することを特徴とする請求項4記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項6】
特に前記後輪用マスタシリンダ(8)における圧力(pmessHZ HR)に対し、後輪(HR)におけるアンチロック制御時に制御されつつ前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力(psollVR)を、アンチロック制御時に得られる原動機付き二輪車の総制動トルク(MBrems Gesamt)がアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより所定値だけ大きく(fABSUeberkompensation)なるよう設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項7】
前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる前記圧力(psollVR)を、緊急ブレーキ操作と認識された場合に、アンチロック制御時に得られる原動機付き二輪車の総制動トルク(MBrems Gesamt)がアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより大きくなるよう設定することを特徴とする請求項6記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項8】
前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる前記圧力(psollVR)を、アンチロック制御開始時における後輪ブレーキ圧(pHR)、路面摩擦係数及び車速のうち少なくともいずれかが所定の大きさより大きい場合に、アンチロック制御時に得られる原動機付き二輪車の総制動トルク(MBrems Gesamt)がアンチロック制御を行わない場合の総制動トルクより大きくなるよう設定することを特徴とする請求項6又は7記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項9】
後輪(HR)におけるアンチロック制御時に制御されつつ前記前輪用ブレーキ液圧回路内で生じる圧力(psollVR)を、車速に応じて設定することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項10】
アンチロック制御システムと、特に電子制御式のインテグラル機能とを備えて成る原動機付き二輪車用のブレーキ装置において、
請求項1〜9のいずれかのブレーキ圧制御方法を実行するよう構成したことを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−536127(P2009−536127A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508307(P2009−508307)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053891
【国際公開番号】WO2007/128670
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】