説明

反力相殺装置、それの質量体設定方法、それを用いた反力相殺方法及びそれを備えたディスペンサー

【課題】ソフトウェア的振動制御部と機構的反力相殺部とを共に利用して移動体のX軸駆動時に発生される反力による振動をより完全に減衰させることができ、これにより、高精密度の移送装置実現が可能になる。
【解決手段】ソフトウェア(以下、‘S/W’ともいう)振動制御方式と機構的反力相殺方式とを共に使用し、加速システムで発生される振動を、より完全に減衰させることができる反力相殺装置、それの質量体設定方法、それを用いた反力相殺方法及びそれを備えたディスペンサーを提供

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬用ロボット、精密作業機構などの移送システムの動きによって発生される反力を相殺し、振動発生を低減するための反力相殺装置、それの質量体設定方法、それを用いた反力相殺方法及びそれを備えたディスペンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体製造装備、LCD製造装備などを含む精密作業用ロボット、そして運搬機械をはじめとする精密機械機構などには、リニアシステムが備えられ、作業ヘッドなど(以下、‘移動体’という)をX軸方向又はY軸方向などに精密に移動させながら、作業が行われている。
【0003】
例えば、LCD製造装備中、ディスペンサーのような装備は、ヘッドユニットに備えられたノズルとステージに載置された基板を相対移動させながら、シールパターンを形成するか、液晶を滴下するように構成される。このようなディスペンサーもノズル又はステージをX、Y、Z軸方向に移動させるために、通例的にLMガイドと称されるリニアシステムが備えられる。
【0004】
リニアシステム、即ち、直線運動器具は移動体(可動子)が支持体(固定子)に沿って直線移動しながら、作業機構(tool)を移動させるか、運送するように作動することになるが、移動体が支持体に沿って加速移動するか、減速移動する時、ニュートンの第3法則(作用−反作用の法則)によって、支持体には必然的に反力が生成される。このような反力発生は、支持体が設けられた装備全体に伝達されることによって、一定の振動を発生させることになり、作業機構をより精密に制御駆動するときに、障害要因として作用する。
【0005】
従って、上記のようなリニアシステムを採用する各種精密作業用ロボット及び機械機構にはシステム稼動時に発生する反力による振動を減衰させるための様々な研究が行われている。
【0006】
振動相殺方法としては、大きく機構的反力システムとS/W(software)振動制御システムが使用されている。機構的反力システムは、移動体質量の5倍以上の質量を有する質量体を利用して反力を相殺し、振動を減らすシステムである。そして、S/W(software)振動制御システムは、リニア機構の既存入力に任意の入力を追加し、変形された最終入力を作り移動体の移動を制御することによって、移動体の駆動時に発生される振動を低減する方法である。即ち、S/W振動制御システムは、移動体を制御駆動する時、固有振動周波数ほど新しい逆相振動周波数をさらに入力するような制御方式で振動発生を最小化させる方法を利用している。
【0007】
しかし、従来には、リニアシステムを備えた各種装備などに上記した機構的反力システム又はS/W振動制御システムのいずれかシステムだけで振動を減衰しているが、一つシステムの適用だけでは、より完全な振動減衰効果を得ることが用意ではないという問題がある。
【0008】
特に、機構的反力システムの場合に、移動体質量の5倍以上になる質量を有する質量体を利用して振動を減らすために、質量体構成に多くの費用が必要とされるだけでなく、設置空間をたくさん占める等、全体装備の構成を複雑にし、競争力低下の要因として作用する問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した問題点を解決するためのものであり、本発明の目的は、ソフトウェア(以下、‘S/W’ともいう)振動制御方式と機構的反力相殺方式とを共に使用し、加速システムで発生される振動を、より完全に減衰させることができる反力相殺装置、それの質量体設定方法、それを用いた反力相殺方法及びそれを備えたディスペンサーを提供することある。
【0010】
また、本発明の目的は、ソフトウェア振動制御部の振動減衰力を把握し、機構的反力相殺部を構成する質量体の質量を最小化し、全体的なロボット及び機械機構の構造を簡単にしながらも、振動減衰効果を極大化させることができる反力相殺装置、それの設定方法、それを用いた反力相殺方法及びそれを備えたディスペンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を実現するための本発明に係る反力相殺装置は、移動体支持部材上に、X軸方向に相対運動可能に設けられる支持体と;上記支持体に沿ってX軸方向に直線移動する移動体と;上記移動体の駆動のために設定される基準命令をインプットシェーピング(input shaping)方式で補正し、この補正された補正命令を出力し、移動体の駆動を制御することによって、移動体の駆動時に発生しうる振動を低減するソフトウェア的振動制御部と;上記支持体に連結され、上記移動体が支持体に沿って加減速移動する時、上記支持体に加えられる反力を質量体を利用して相殺する機構的反力相殺部;を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、上記移動体の駆動時に発生する移動体の振動を感知する振動感知部を含み、上記ソフトウェア的振動制御部は、上記振動感知部で感知した移動体の駆動時に発生される実際振動感知結果の入力を受け、上記補正命令を補正して出力するように構成されることが好ましい。
【0013】
また、上記機構的反力相殺部は、上記支持体とジョイント機構とが連結される質量体で構成されることが好ましい。
【0014】
上記した課題を実現するための本発明に係る反力相殺装置の質量体設定方法は、上記ソフトウェア的振動制御部のインプットシェーピング制御方式で振動発生が低減された状態で、移動体の加速度値を測定する第1段階と;上記機構的反力相殺部の質量体の目標加速度を設定し、上記第1段階で測定された移動体の加速度値に基づいて、上記機構的反力相殺部の質量体の質量を決定する第2段階と;を含むことを特徴とする。
【0015】
上記した課題を実現するための本発明に係る反力相殺方法は、上記ソフトウェア的振動制御部を利用して移動体の駆動時に発生しうる振動を最小化すると共に、機構的反力相殺部を利用して上記移動体がX軸方向に加減速移動する時発生される反力による振動を減衰させる第1段階と;上記第1段階を遂行しながら、上記振動感知部で感知した移動体の振動量を測定し、上記ソフトウェア的振動制御部にフィードバックする第2段階と;上記第2段階でフィードバックされた情報を利用してソフトウェア的振動制御部で上記補正命令を補正し、移動体の駆動時に発生しうる振動を最小化できるように制御する第3段階と;を含むことを特徴とする。
【0016】
上記した課題を実現するための本発明に係るディスペンサーは、基板が搭載されるステージを支持するフレームと;上記フレームの上部にY軸方向に移動可能に設けられたヘッド支持部材と;上記ヘッド支持部材にX軸方向に相対運動可能に設けられた支持体と;上記支持体にX軸方向に移動可能に支持され、ノズルが備えられ、上記ステージに搭載された基板にシーラント又は液晶を塗布するヘッドユニットと;上記ヘッドユニットを上記支持体に沿ってX軸方向に移動させるX軸駆動ユニットと;上記ヘッドユニット駆動のために設定される基準命令をインプットシェーピング(input shaping)方式で補正し、この補正された補正命令を出力し、ヘッドユニットの駆動を制御することによって、ヘッドユニット駆動時に発生しうる振動を低減するソフトウェア的振動制御部と;上記ヘッド支持部材がY軸方向に移動され、上記支持体及びヘッドユニットのY軸変位が変化された状態でも、上記ヘッドユニットがX軸方向に移動する時、上記支持体に加えられる反力を上記支持体に連結された質量体を利用して相殺する機構的反力相殺部と;を含むことを特徴とする。
【0017】
ここで、上記ヘッドユニット駆動時にヘッドユニットで発生する振動を感知する振動感知部を含み、上記ソフトウェア的振動制御部は、上記振動感知部で感知したヘッドユニット駆動時に発生される実際振動感知結果の入力を受け、上記補正命令をまた補正し、出力するように構成されることが好ましい。
【0018】
上記機構的反力相殺部は、上記フレームと離隔された位置に設けられる質量体と、この質量体と支持体と間に連結され、支持体に加えられる反力を質量体に伝達するジョイント機構を含んで構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る反力相殺装置、それの質量体設定方法、それを用いた反力相殺方法及びそれを備えたディスペンサーは、ソフトウェア的振動制御部と機構的反力相殺部とを共に利用して移動体のX軸駆動時に発生される反力による振動をより完全に減衰させることができ、これにより、より優れた精密作業性を具現できる効果を提供する。
【0020】
また、本発明は、ソフトウェア的振動制御部の振動減衰力に基づいて、機構的反力相殺部を構成する質量体の質量を設定して構成するため、質量体を最小化し、全体的なロボット及び機械機構の構造を簡単にしながらも、振動減衰効果を極大化させることができる効果を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る反力相殺装置は、半導体製造設備、LCD製造設備などに設けられた精密作業用ロボット、及び運搬機械をはじめとする精密機械などに多様に適用可能とされる。
【0022】
添付された図面を参照して本発明の好ましい実施例を、下記の通りに説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る一の実施例の反力相殺装置の基本構成の概略図である。
【0024】
図1を参照すると、本発明に係る反力相殺装置は、ステージ1、フレーム2、移動体支持部材3、及び移動体5からなる機械装置である。
【0025】
ステージ1は、一般的な作業台としての役割が果たせるように構成されており、フレーム2は、ステージ1を支持するように構成されているか、又は分離されて構成されている。そして、移動体支持部材3は、フレーム2上に支持されるように設けられており、移動体5は、作業台に載置された対象物などに作業を実際に実行するツール(tool)などを取付可能な構成体であり、移動体支持部材3上でX軸方向に直線運動可能に構成されている。
【0026】
このような機械装置の基本的な構成は広く知られているので、具体的な説明は省略する。
【0027】
移動体5は、リニアモータによって移動体支持部材3上で直線移動するようになっている。この場合には、移動体5にはリニアモータの可動子が設けられ、移動体支持部材3には固定子が設けられている。
【0028】
ここで、本発明の反力相殺装置を構成するために、固定子は、移動体支持部材3に相対移動可能に設けられており、移動体5がX軸方向に加減速移動する際に発生する反力が、移動体支持部材3を含むフレーム2側に伝達しないように構成されている。
【0029】
このような固定子は、移動体支持部材3に相対移動可能に直接設けられるか、又は追加構造物を介して設けられている。以下では、固定子又はこれを支持する追加構造物を通称して支持体4と統一して説明する。
【0030】
リニアモータは、X軸駆動制御部の制御信号によって駆動し、これにより移動体5を支持体4に沿ってX軸方向に移動させる。
【0031】
移動体5がX軸方向に移動すれば、移動体5が移動する反対方向へ支持体4に反力が作用し、この反力により振動が発生するようなる。このように発生された振動を減衰させるために反力相殺装置が設けられている。
【0032】
本発明に係る反力相殺装置は、基本的にソフトウェア的振動制御部6と機構的反力相殺部9とが協働し、より完全な振動低減効果を達成できるように構成される。
【0033】
具体的に説明すれば、本発明の反力相殺装置は、移動体5を駆動させるために設定される基準命令をインプットシェーピング方式で補正し、この補正された補正命令を出力し、移動体5の駆動を制御することによって、移動体5を駆動させる際に発生する振動を低減するソフトウェア的振動制御部6と、支持体4に連結され、移動体5が支持体4に沿って加減速移動する場合に、質量体7を利用して支持体4に加えられる反力を相殺する機構的反力相殺部9とから構成されている。
【0034】
また、移動体5には、移動体5の駆動時に発生する振動を感知し、フィードバック制御が実行可能となるように振動感知部5aがさらに設けられていることが好ましい。
【0035】
このような本発明の反力相殺装置のそれぞれの構成について説明する。
【0036】
ソフトウェア的振動制御部6は、移動体の駆動時に発生する移動体の自体振動(残留振動)を減衰させると共に、移動体の移動に伴う反力の発生を低減することによって、システムの振動を最小限度に抑えるようになっている。
【0037】
このようなソフトウェア的振動制御部6は、図2を参照すると、移動体5を駆動するための補正命令を出力するために、インプットシェーピング器を用いたインプットシェーピング方式で制御信号を算出して出力する。インプットシェーピング方式は、インプットシェーピング器で基準命令に追加的にインプットシェーピング器インパルス(impulse)を畳み込み(convolution)、基準命令を変更した新しい補正命令を出力し、移動体5を駆動できるように構成されている。
【0038】
この時、インプットシェーピング器のインパルスは、移動体5の固有振動数と減衰比とに関する情報などによって決定されるインパルスの大きさ(Amplitudes of impulses)、インパルスの入力時間(Time locations of impulses)などによって決定される。この他に、移動体5の移動速度、加減速区間数等の他の変数も追加してインパルスを決定する場合がある。
【0039】
このように、ソフトウェア的振動制御部6を利用して移動体5の駆動を制御することによって、移動体が駆動する際に発生する振動発生要因を最小限度に抑制した状態で、移動体が駆動されるので、上記説明の通りに、移動体5の自体振動を低減させると共に、支持体4に加えられる反力を低減することになる。
【0040】
また、振動感知部5aを利用して移動体の駆動時に発生する移動体の自体振動を感知しフィードバックすることによって、前記補正命令を再び補正し、新しい補正命令を出力するので、移動体の駆動時に発生する振動をさらに低減することができる
【0041】
振動感知部5aは、インプットシェーピング器によって算出された補正命令によって移動体5が駆動される状態で移動体の実際の振動量を測定し、この振動量が一定以上、すなわち基準振動量以上になった場合には、インプットシェーピング器にフィードバックし、インプットシェーピング器のインパルスを変更し、再び新しい補正命令を出力し、移動体5の振動量を低減するように構成されている。
【0042】
振動感知部5aは、振動感知センサーから構成され、振動感知センサーは、移動体又は移動体の振動を感知可能な位置に設けられている場合もある。また、振動感知部5aは、移動体の駆動に伴う作業機構(Tool)の位置変化状態に基づいて感知可能である。すなわち、振動感知部5aは、移動体の実際の移動状態を示すシステムの情報を利用し、間接的な方式で移動体の振動量を算出する方式を利用することができる。
【0043】
次に、機構的反力相殺部9は、ソフトウェア的振動制御部6を介して移動体5の自体振動の発生を最小限度に抑制した状態で、質量体7を利用して移動体5が移動する際に発生する反力をより確実に減衰させるために設けられている。
【0044】
機構的反力相殺部9は、支持体4の一端で、ジョイント機構8を介して質量体7に連結されている。
【0045】
質量体7の好ましい大きさ(質量)の設定については、以下に説明する反力相殺装置の質量体の設定方法を説明する際に詳述する。
【0046】
上述のように、ソフトウェア的振動制御部6を利用して、移動体5を駆動させる場合に発生する自体振動の要因を低減し、これと同時に、機構的反力相殺部9を利用して、移動体5がX軸方向に加減速移動する場合に発生する反力を減衰することによって、システムに作用する振動の発生を最小限度に抑制し、より完全な振動制御が可能になる。
【0047】
また、振動感知部5aを利用して移動体5の実際の振動量を感知した結果を用いたフィードバック制御を介して、インプットシェーピング器によって算出された補正命令を再び補正し、制御することによって、振動減衰性能をさらに向上させることができる。
【0048】
本発明に係る反力相殺装置の質量体の設定方法、及びそれを用いた反力相殺方法について、図3及び図4を参照して説明する。
【0049】
図3は、本発明に係る反力相殺装置の質量体設定方法のフローチャートであり、図4は、本発明に係る反力相殺方法のフローチャートである。
【0050】
図3を参照して、反力相殺装置の質量体設定方法を説明する。
【0051】
機構的な反力相殺部9を設けていない状態で、上述のソフトウェア的な振動制御部6のインプットシェーピング制御方式で移動体5を駆動し、この時に、移動体に生じる振動を低減させた状態で移動体5の加速度値を測定する。
【0052】
以降、ソフトウェア的振動制御部6による、低減された移動体の加速度値に基づいて、目標とする質量体の目標加速度値によって機構的な反力相殺部9の質量体7の大きさを決定し、このように決定された質量体7をジョイント機構8を介して支持体4に連結して設ける。
【0053】
ここで、上述の本発明の反力相殺装置の質量体の設定方法を具体的に説明する。
【0054】
移動体5が駆動される時、1Gの加速度aが発生すると仮定すれば、上述のソフトウェア的振動制御部6の制御方式で移動体5の加速度を1Gから0.4G程度に減衰させることができる。これは概算値であって、絶対的な加速度減衰量ではないことは言うまでもない。
【0055】
このように、ソフトウェア的振動制御部6を介して低減された0.4Gの移動体5の加速度量に基づいて、機構的反力相殺部9の質量体7の大きさを決定する。
【0056】
この時、質量体の大きさは、支持体及びこれと連結された質量体の加速度設定値(以下、‘目標加速度’という)によって変わるが、この目標加速度を0.2Gに設定した場合を例に上げて説明する。
【0057】
参考として、0.2Gは、システム運転経験上、最も安定した動作が可能な支持体及び質量体を含む最高許容加速度値である。もし0.2G以上の加速度で質量体と連結された支持体4(固定子)が移動するようになれば、移動体5(可動子)と支持体4との間の相対移動範囲が過度に大きくなり、激しい振動が発生するようになるので、全体システムの運転が不安定になる。従って、目標加速度を0.2Gに設定して説明する。
【0058】
質量体7の大きさを決定する質量と加速度の関係式は下記数式の通りである:
F=m=m
ここで、Fは移動体移動時に発生される反力、mは移動体の質量、aは移動体の加速度(ソフトウェア的振動制御部により低減された加速度)、mは質量体の質量、aは目標加速度(質量体の加速度)を表す。
【0059】
上記数式を通して質量体7の大きさを決定するために、ソフトウェア的振動制御部6によって低減された移動体5の加速度aを0.4Gとし、目標加速度a2を0.2Gとして設計すれば、移動体5の質量mを1と仮定した時、上記数式に代入してみれば、
1×0.4=m×0.2
であり、この時、質量体7の質量mは2である。
【0060】
従って、質量体7の質量mは移動体5の質量mの2倍程度である最小の質量体であり、移動体5移動時に発生される反力を十分に相殺した安定したシステムの運転が可能になる。
【0061】
もちろん、ソフトウェア的振動制御部6で移動体5の加速度aをさらに低減すると、質量体7の質量mもさらに小さく設計しうる。
【0062】
しかし、本発明におけるソフトウェア的振動制御部6を用いずに、質量体7のみを設ける場合に、上記で説明した通りに安定したシステム運転が可能な0.2Gの加速度を得るための質量体の設計過程を説明する。
【0063】
移動体の加速度Aが1Gほど発生すれば、上記と同じ条件で上記数式代入してみれば、
1×1=m’×0.2
である。この時の質量体の質量m’は5になる。
【0064】
従って、質量体を用いた機構的反力相殺部9のみを利用して反力を減衰させる場合、支持体を含む質量体7の加速度を0.2G程度に低減する時、移動体5質量の5倍程度の質量を有する質量体7を構成しなければならない。これはソフトウェア的振動制御部6と協働して反力を低減する場合よりも数倍以上の質量体nの大きさが必要とされる。
【0065】
上述のように、ソフトウェア的振動制御部6によって低減された移動体の加速度を測定し、これに基づいて機構的反力相殺部9の質量体7の大きさを決定し、反力相殺装置を構成すれば、質量体7の大きさを最小化した状態で、移動体5がX軸方向に加減速される時、反力によって発生する質量体の加速度aを0.2G以下に、ほぼ相殺するようになるので、より完全な振動制御が可能となり、安定且つ精密なシステムの動作が可能になる。
【0066】
これにより、図1で点線で示した質量体7Aの大きさを実線で示した質量体7の大きさに縮小することができるので、全体システムの機構的構成が簡単になり、安定且つ精密なシステム動作が可能になる。
【0067】
上述のような、ソフトウェア的振動制御部6とこれに基づいて設定された機構的反力相殺部9とを用いた本発明の反力相殺方法について、図4を参照して説明する。
【0068】
ソフトウェア的振動制御部6によって補正された補正命令をX軸駆動制御部から出力し、移動体5をX軸方向に駆動制御する場合には、インプットシェーピング方式で補正された補正命令によって、移動体5が駆動した際に発生させる振動(自体振動)が最小限度に抑制された状態で、移動体5がX軸方向に移動するようになっている。これと同時に、機構的反力相殺部9が移動体の加減速移動によって発生される反力を相殺するようになっている。
【0069】
このように、ソフトウェア的振動制御部6と機構的反力相殺部9とを利用することによって、移動体の駆動時に発生する自体振動はもとより反力によって発生される振動まで相殺されるので、全体システムの振動減衰効果をさらに向上させることができる。
【0070】
移動体5に取り付けられたツールの変更、周辺環境の変化などによって、移動体の固有振動周波数は変化する。
【0071】
この場合には、移動体が駆動する際に実際の振動量を感知する振動感知部5aを利用して移動体の振動量を正確に測定し、測定された振動量が基準振動量範囲を外れた場合に、実際の振動量に基づいて新しい補正命令を算出し、この新しい補正命令で移動体のX軸駆動を制御する。
【0072】
このように、実際移動体の振動量を測定し、フィードバック制御することによって、移動体の駆動時に発生し得る振動を持続的に、より完全に減衰させることができるようになる。
【0073】
以下、上述の本発明に係る反力相殺装置を適用したディスペンサーについて説明する。
【0074】
図5は、本発明の実施例に係る反力相殺装置を用いたディスペンサーの斜視図である。
【0075】
本発明に係るディスペンサーは、上記したような反力相殺装置が備えられたディスペンサーである。
【0076】
図5を参照すると、本発明の実施例に係るディスペンサーは、LCDを構成する基板Sに、シールパターン又は液晶層を形成するように構成されており、基板Sが搭載されるステージ15、このステージ15を支持するフレーム10、このフレーム10の上部にY軸方向に移動可能に設けられたヘッド支持部材20、及びこのヘッド支持部材20にX軸方向に移動可能に支持され、ノズルが備えられ、ステージ15に搭載された基板Sにシーラント又は液晶を塗布するヘッドユニット30から構成されている。
【0077】
ヘッド支持部材20は、ステージ15の上部を横切る構造で配置され、その両側部分がフレーム10の上部に支持されている。ヘッド支持部材20は、フレーム10に支持される両側部分にリニアモータのようなY軸駆動ユニット25によってY軸方向に直線移動するように設けられている。Y軸駆動ユニット25は、リニアモータにより構成されている場合には、フレーム10側に設けられた固定子26とヘッド支持部材20側に設けられた可動子27とで構成される。
【0078】
ヘッド支持部材20には、多数のヘッドユニット30が設けられ、各ヘッドユニット30には、ステージ15に搭載された基板にシーラントを塗布するか、又は液晶を滴下するために、ノズルが設けられている。
【0079】
ヘッドユニット30は、ヘッド支持部材20の長手方向、すなわちX軸方向に移動できるように構成されている。ヘッドユニット30のX軸方向の移動は、リニアモータなどで構成されるX軸駆動ユニット35によってX軸方向に移動するようになっている。この場合、X軸駆動ユニット35もリニアモータで構成されていることが好ましい。この場合には、ヘッド支持部材20側にX軸方向に長く設けられた固定子36と各ヘッドユニット30に設けられた可動子37とから構成されている。
【0080】
ここで、固定子36は、可動子37を含むヘッドユニット30が移動する際に発生する反力がヘッド支持部材20側に伝達しないように、ヘッド支持部材20に対して相対的にX軸方向に相対運動可能に設けられている。
【0081】
このように構成されるディスペンサーは、ヘッドユニット30がヘッド支持部材20に沿ってX軸方向に移動し、またヘッド支持部材20がフレーム10上でY軸方向に移動するによって、ノズルが基板に対してX軸とY軸方向に相対移動しつつ、シーラント又は液晶の塗布作業を実現するように構成されている。
【0082】
上述のディスペンサーには、ヘッドユニット30がX軸方向に移動する場合に、振動の発生を最小限度に抑制するように、ソフトウェア的振動制御部6’と機構的反力相殺部50とが設けられている。
【0083】
ここで、ソフトウェア的振動制御部6’は、ヘッドユニット30で発生した振動を感知する振動感知部5a’から入力された信号を利用してフィードバック制御ができるように構成されている場合もある。
【0084】
ソフトウェア的振動制御部6’と振動感知部5a’とは、図1を参照して説明した反力相殺装置と同一に構成され、同一に動作することが好ましく、説明は省略する。
【0085】
しかしながら、図1の機械装置における機構的反力相殺部9では、支持体4がY軸方向に動かず、移動体5のみがX軸方向に移動する一軸移送システムであって、移動体の移動時に発生する反力を低減するように構成されているが、本実施例で適用されるディスペンサーは、ヘッド支持部材20がY軸方向への移動に伴って、固定子36及びヘッドユニット30もY軸方向に移動するようになっている。
【0086】
従って、本発明のディスペンサーに適用される機構的反力相殺部50は、ヘッドユニット30のY軸方向に変位しても、ヘッドユニット30の移動時に発生するX軸方向の反力を持続的に減衰させることができるように構成されている。
【0087】
このように構成される機構的反力相殺部50も、上述のように、ソフトウェア的振動制御部6’の制御によって、ヘッドユニットの自体振動が最小限度に抑制された状態で、質量体51の大きさが設定され、ヘッドユニット30の駆動時に発生するX軸方向の反力を減衰することができるように構成されている。
【0088】
次に、ディスペンサーに適用される機構的反力相殺部50について具体的に説明する。
【0089】
機構的反力相殺部50は、フレーム10と離隔された位置に設けられる質量体51と、質量体51と固定子36と間に連結され、支持体に加えられる反力を質量体51に伝達するジョイント機構55とから構成されている。
【0090】
質量体51は、フレーム10と離隔された位置に設けられることが好ましい。
【0091】
質量体51の大きさ及び設置個数は、上述の本発明の質量体の設定方法を通して適正に算定して設けられる。
【0092】
また、ジョイント機構55は、ヘッドユニット30のY軸方向に変位した状態であっても、質量体51を利用してヘッドユニット30のX軸方向の移動による反力を相殺することができるように設けられている。
【0093】
すなわち、本発明のディスペンサーは、ヘッドユニット30が固定子36に沿ってX軸方向に移動すると同時に、ヘッド支持部材20がY軸方向に移動するようになっているので、ヘッド支持部材20がY軸方向に移動し、ヘッドユニット30が実際にY軸方向に変位した状態で、ヘッドユニット30がX軸方向に移動した場合に、ジョイント機構55及び質量体51を利用して反力を相殺することができるように構成されている。
【0094】
ジョイント機構55は、固定子36からX軸方向に突出されるように設けられた連結体70と、質量体51に支持され、連結体70がY軸方向に相対的に移動可能に接続された接続ガイド60とから構成されている。
【0095】
連結体70は、固定子36の一側面からX軸方向に長く突出された構造とされ、ヘッドユニット30が移動する際に発生させる反力を質量体51側に十分に伝達可能な剛性を有する構造物として設けられている。図面では、ヘッドユニット30がヘッド支持部材20の両方に、液晶滴下用ヘッドユニットとシーラント塗布用ヘッドユニットとに分けて、それぞれ設けられるので、ヘッド支持部材20の両方に備えられたそれぞれの固定子36で連結体70がそれぞれ連結されている構造を例示している。
【0096】
接続ガイド60は、フレーム10の側からY軸方向に長く配置され、高さは連結体70が結合される程度の高さで設けられている。
【0097】
連結体70と接続ガイド60とは、雌雄結合方式で互いに結合されるように構成されていることが好ましい。この場合、連結体70が接続ガイド60に対してX軸方向に拘束され、Y軸方向に相対移動可能に結合されている。
【0098】
また、接続ガイド60は質量体51に支持されるように設けられている。この場合、質量体51は接続ガイド60がY軸方向に長く設けられるので、これを安定的に支持するために複数個に分けて設けられることが好ましい。図面では、2つの質量体51が設けられた構成を例示しており、2つの質量体51の上端部側に接続ガイド60が支持される構成を例示している。
【0099】
一方、連結体70と接続ガイド60との接続部には、Y軸方向に円滑に相対運動するように、ベアリング構造物が設けられることが好ましい。ベアリング構造物は、連結体70が接続ガイド60の接続ガイド溝62内で接触する面、例えば、連結体70の終端面、上面、下面などから構成されている。この場合、設けられるベアリング構造物は、相対運動体相互間に摩擦抵抗を最小限度に抑えつつ、連結体70の移動を円滑に補助するベアリングであれば、公知のベアリング構造物を適切に選択して構成してもよい。
【0100】
上述の本発明に係るディスペンサーは、連結体70の終端部が接続ガイド60の接続ガイド溝62に挿入されている状態で、ヘッド支持部材20がY軸方向に移動する場合に、固定子36に連結された連結体70の終端部が接続ガイド溝62に沿って共に移動するようになっている。このような状態で、ヘッドユニット30がX軸方向に移動した状態で固定子36に反力を加えている場合には、連結体70に伝達された反力は、その終端が接続されている接続ガイド60を介して質量体51に伝達されることによって、質量体51の運動エネルギーによって反力を相殺することができるように構成されている。
【0101】
このように、本発明に係るディスペンサーはソフトウェア的振動制御部6’、ジョイント機構55及び質量体51で構成された機構的反力相殺部50によって、ヘッドユニット30がY軸方向に移動しても、X軸方向の反力によって発生される振動を持続的に減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る一実施例の反力相殺装置の基本構成の概略図である。
【図2】本発明に係るインプットシェーピング補正のためのソフトウェア的振動制御部が図示されたブロック図である。
【図3】本発明に係る反力相殺装置の質量体の設定方法のフローチャートである。
【図4】本発明に係る反力相殺方法のフローチャートである。
【図5】本発明の実施例に係る反力相殺装置を用いたディスペンサーの斜視図である。
【符号の説明】
【0103】
1 ステージ
2 フレーム
3 移動体支持部材
4 支持体
5 移動体
5a 振動感知部
6 ソフトウェア的振動制御部
7 質量体
7A 質量体
8 ジョイント機構
9 機械的反力相殺部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体支持部材上に、X軸方向に相対運動可能に設けられる支持体と;
前記支持体に沿ってX軸方向に直線移動する移動体と;
前記移動体の駆動のために設定される基準命令をインプットシェーピング方式で補正し、この補正された補正命令を出力し、移動体の駆動を制御することによって、移動体の駆動時に発生しうる振動を低減するソフトウェア的振動制御部と;
前記支持体に連結され、前記移動体が支持体に沿って加減速移動する時、質量体を利用して前記支持体に加えられる反力を相殺する機構的反力相殺部と;
を含むこと特徴とする反力相殺装置。
【請求項2】
前記移動体の駆動時に発生する移動体の振動を感知する振動感知部を含み、
前記ソフトウェア的振動制御部は、前記振動感知部で感知した移動体の駆動時に発生される実際振動感知結果の入力を受け、前記補正命令を補正して出力するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の反力相殺装置。
【請求項3】
前記機構的反力相殺部は、前記支持体とジョイント機構とが連結される質量体で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の反力相殺装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の反力相殺装置の質量体設定方法であって、
前記ソフトウェア的振動制御部のインプットシェーピング制御方式で振動発生が低減された状態で、移動体の加速度値を測定する第1段階と;
前記機構的反力相殺部の質量体の目標加速度を設定し、前記第1段階で測定された移動体の加速度値に基づいて、前記機構的反力相殺部の質量体の質量を決定する第2段階と;
を含むことを特徴とする反力相殺装置の質量体設定方法。
【請求項5】
請求項2に記載の反力相殺装置を用いた反力相殺方法であって、
前記ソフトウェア的振動制御部を利用して移動体の駆動時に発生しうる振動を最小化すると共に、機構的反力相殺部を利用して前記移動体がX軸方向に加減速移動する時発生される反力による振動を減衰させる第1段階と;
前記第1段階を遂行しながら前記振動感知部で感知した移動体の振動量を測定し、前記ソフトウェア的振動制御部にフィードバックする第2段階と;
前記第2段階でフィードバックされた情報を利用してソフトウェア的振動制御部で前記補正命令を補正し、移動体の駆動時に発生しうる振動を最小化できるように制御する第3段階と;
を含むことを特徴とする反力相殺方法。
【請求項6】
基板が搭載されるステージを支持するフレームと;
前記フレームの上部にY軸方向に移動可能に設けられたヘッド支持部材と;
前記ヘッド支持部材にX軸方向に相対運動可能に設けられた支持体と;
前記支持体にX軸方向に移動可能に支持され、ノズルが備えられ、前記ステージに搭載された基板にシーラント又は液晶を塗布するヘッドユニットと;
前記ヘッドユニットを前記支持体に沿ってX軸方向に移動させるX軸駆動ユニットと;
前記ヘッドユニット駆動のために設定される基準命令をインプットシェーピング方式で補正し、この補正された補正命令を出力し、ヘッドユニットの駆動を制御することによって、ヘッドユニット駆動時に発生しうる振動を低減するソフトウェア的振動制御部と;
前記ヘッド支持部材がY軸方向に移動され、前記支持体及びヘッドユニットのY軸変位が変化された状態でも、前記ヘッドユニットがX軸方向に移動する時、前記支持体に加えられる反力を前記支持体に連結された質量体を利用して相殺する機構的反力相殺部と;
を含むことを特徴とするディスペンサー。
【請求項7】
前記ヘッドユニット駆動時に、ヘッドユニットで発生する振動を感知する振動感知部を含み、
前記ソフトウェア的振動制御部は、前記振動感知部で感知したヘッドユニット駆動時に発生される実際振動感知結果の入力を受け、前記補正命令を再び補正して出力するように構成されたことを特徴とする請求項6に記載のディスペンサー。
【請求項8】
前記機構的反力相殺部は、前記フレームと離隔された位置に設けられる質量体と、この質量体と支持体と間に連結され、支持体に加えられる反力を質量体に伝達するジョイント機構を含んで構成されたことを特徴とする請求項6に記載のディスペンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−120003(P2010−120003A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318777(P2008−318777)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(503259772)トップ エンジニアリング カンパニー,リミテッド (62)
【Fターム(参考)】