説明

各段がモジュール化された多段増幅式レーザーシステムの自動最適化システム

【課題】多数のモジュールから構成され、モジュール間の光路に光軸調整個所を有する、多段増幅式レーザーシステムなどのレーザーシステムの光軸調整作業を自動化する。
【解決手段】レーザーシステムにおいて、光軸調整個所51,52より後段のモジュールからの出力光の強度を検出し、強度の変化に応じて該光軸調整個所51,52を調整するフィードバックを設ける。さらにこれらのフィードバック制御をファジイ推論またはメタヒューリスティックなアルゴリズムを用いた制御で行う。レーザーシステムにおいて、複数の光軸調整個所51,52があって2つの光軸調整が独立に行えない場合は、フィードバックループの伝達関数が明確に求められないので、ファジイ推論等を用いた制御により、各光軸調整を独立に実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーを一つの構成単位とするような巨大装置に対する統合調整システムに係わる発明である。
【背景技術】
【0002】
加速器に用いる低エミッタンスの電子ビームを発生し、発生した電子ビームを安定にするため、また、電子ビームの安定な発生を維持するため、さらに発生した電子ビーム形状計測のためのEOサンプリング及びタイミングジッター計測などのためレーザーが使われている。
それらの目的のために、さまざまなレーザー機器および電子機器などの構成要素(モジュール)が組み合わせられている。また、モジュール間は、光路を有する。安定動作を実現するためには、それぞれのモジュールだけでなく、モジュール間光路におけるレーザーの光軸を最適な状態に設定および保持する必要がある。
【0003】
図1は財団法人 高輝度光科学研究センター(SPring−8)加速器部門にて開発中の、フォトカソードRF電子銃100の構成を示す。フォトカソードRF電子銃とは、超短レーザーパルスをRF空洞内のカソード面に照射し、生成された光電子をRF空洞内の高電界で電子ビームが空間電荷効果で拡散しないうちに一気に加速し、低エミッタンス電子ビームを生成する装置である。レーザーパルスの品質がカソード直後の電子ビーム品質を左右するため、発生する電子ビームの特性はレーザーに依存するところが特に大きい。
【0004】
このシステムでは、次の3つを同時に達成する必要がある。
(1)フォトカソード電子銃駆動用のレーザーパルス光源の3次元形状最適化(パルス幅10ps程度でビーム直径は1mm程度)およびパルスエネルギーの長期安定化。
(2)Z偏極電子源へ入射するレーザーパルス光源である、フェムト秒超短パルス(パルス幅1ps以下のパルス)であり、かつ円環ラジアル偏光を有するレーザービームの実現。
(3)電子ビームのパルス形状を計測するためのEOサンプリング用途とするプローブレーザー光に要求される200psのパルス幅かつ、20nmのスペクトル幅を有し、さらに線形チャープを示す円環ビームの電気光学結晶への照射。
【0005】
図1においては、モード同期チタンサファイアレーザー101、パルス幅伸張器103、再生増幅器111、マルチパス増幅器113、パルス幅圧縮器121、第3高調波発生手段及びパルス幅伸張器123、3次元形状整形手段125、フォトカソード電子銃133及びEOSバンチモニター131が各モジュールとなる。
【0006】
これらの各モジュールを下記に説明する。なお、モジュール間の光路には、適宜リスレープリズム対またはギンバルミラーからなる光軸調整手段50が挿入されており、次段のモジュールへの光軸の最適化が図られる。光軸調整手段50を用いた光軸最適化は、フィードバック制御により行われているが、図1ではフィードバック部分を省略している。
【0007】
モード同期チタンサファイアレーザー101は種光源となるレーザーパルスを発生させる装置である。チタンをドープしたサファイアをゲイン媒体とするレーザーで、モード同期させることによりパルス幅1ps以下の超短パルスを発生させる。高輝度のレーザーパルス光を得るためには、発生したエネルギーの小さい超短パルスを増幅していく必要がある。このときチャープパルス増幅法(CPA法)を用いて増幅する。
【0008】
高輝度レーザー光が光学材料を通過する場合、強度に比例した屈折率変化が起きる。強度の強いレーザー媒質の中心の屈折率が大きくなり、レーザー光の集光が起きる。集光によってさらにレーザー強度が増すため、さらに屈折率が増大から集光という過程が繰り返されるため、レーザーは伝播にしたがって集光度を増していくことになる。そして、集光強度がある一定の値を超えるとレーザー媒質の破壊が起こる。CPA法ではこの破壊を避けることができる。CPA法はパルスエネルギーが大きくてもパルス幅が広ければピーク強度が高くならないので破壊が起こらないという手法である。すなわち、パルス幅伸張器でパルス幅を広くしておき、パルス幅の広くなったレーザーパルスを増幅したのちに、パルス幅を圧縮する。
【0009】
本システムにおいては、まずパルス幅伸張器103によりパルス幅を広くする。つぎに、2段構成からなる増幅器でレーザーパルスを増幅する。該2段構成の増幅器は再生増幅器111及びマルチパス増幅器113からなる。再生増幅器111では、レーザーパルスを増幅可能な繰返し周波数に作り直して増幅する。本システムにおいては、レーザー発振器部分は約100MHzの繰返し周波数であるが、再生増幅器111で増幅可能な繰返し周波数である10Hzから1kHzのパルスに切り出して増幅している。マルチパス増幅器113では、ポンプ光源であるYAGレーザで増幅のためのチタンサファイヤ結晶を両側から励起している間に、複数回角度をつけながら再生増幅されたパルスを往復させることで増幅させる。このあとパルス幅圧縮器121を通して、パルス幅を圧縮し、CPA法が完結する。
【0010】
つぎに、第3高調波発生手段及びパルス幅伸張器123により、もとの光に非線型光学結晶を通過させ、3分の1の波長を作り出し、さらに、パルス幅を伸張する。3倍高調波を必要とするのは、フォトカソード電子銃のカソードには銅を用いているので、その仕事関数が4eV強であるという観点から、もとのレーザー種光源の波長に対しての3倍高調波(263nm、紫外領域)が必要になるからである。ここまでが、レーザーパルス発生部を構成する。
【0011】
しかしながら、これによりレーザーパルスが高品質で発生されたとしても、そのレーザービームをRF電子銃のフォトカソードに照射しても、電荷分布が均一な円筒形状を有する理想的な電子ビームが得られるとは限らない。レーザーパルスの3次元形状が電子ビームのエミッタンスを左右するからである。3次元形状整形手段125により3次元形状を整形する。3次元形状整形手段125は、縦方向の時間プロファイル整形器と横方向の空間プロファイル整形器との双方を有し、前者はUV−レーザーパルス・スタッカーまたは空間位相変調器からなり、後者は補償ミラーからなる。
【0012】
3次元形状を整形された3倍高調波のレーザーパルス48が、フォトカソード電子銃133に入射し、電子ビーム46が発生される。EOサンプリング(EOS)を用いると、発生した電子1ps以下の電子ビームに対して形状測定が測定可能である。すなわち、発生された電子ビーム46は、EOSバンチモニター131に入射しそのバンチ幅が測定される。本EOSバンチモニターは、スペクトラル・デコーディングという方法をとっており、プローブ光を入射して測定する。プローブ光は、同じレーザー光源から採取された、基本波の波長を有するパルス44を用いており、別途EOSバンチモニター131に入力する。
【0013】
図1に示されたシステムは、発生したレーザー光が圧縮、伸張、増幅、高調波発生など、さまざまな装置(モジュール)で多数の処理を行っており、各装置間に、光軸調整手段50が配置されており、光軸調整の最適化が高品質のレーザーパルスを発生するのに極めて重要である。
【0014】
また、図1の装置を含めた、レーザーを用いたシステムにおいて、各モジュール間のビームのアライメントは、高度な調整能力を保有した熟練技術者が行っている。通常、上流側からの逐次アライメントで調整を行っているが、このような対応では限界が来ることが明らかであるため、並列調整及び調整の自動化が必要とされる。
【0015】
さらに、モジュールが、温度管理された場所に設置される場合、人の立ち入りを回避したい場所に設置される場合、及び放射線管理区域等人の立ち入りが制限される場所に設置される場合があり、レーザー光軸最適化の自動化のほか遠隔操作化が望まれている。
【0016】
【特許文献1】特開2005−221807号公報
【特許文献2】特開平11−014330号公報
【非特許文献1】冨澤 宏光、加速器の要求に堪えるレーザー光源を目指して 〜フォトカソードRF電子銃用レーザー光源開発〜、加速器、日本、2006年、第3巻第2号251〜262ページ
【非特許文献2】Hiromitsu Tomizawa, Development of reliable and sophisticated photo injector system and future plan, Proceedings of the 4th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan and the 32nd Linear Accelerator Meeting in Japan, August 1-3, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、これまでは自動アライメントが不可能であった、大規模レーザーシステムにおける光軸アラインメントの自動化を実現することである。とくに、従来技術のような上流から下流への逐次アラインメントのみではなく、人力では不可能であったシーケンシャル制御調整、および並列調整を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
課題を解決するために、本願発明は、
複数のモジュールから構成されたレーザーシステムであって、各モジュールの間は光路で接続され、
少なくとも2つの光路のそれぞれに光軸調整手段を有し、該光軸調整手段はフィードバック制御により光軸調整を行い、該フィードバック制御をファジイ推論またはメタヒューリスティックな制御で行うことを特徴とする。
【0019】
さらに、前記フィードバック制御とは、フィードバック制御の対象となる光軸調整手段を通過した後のレーザー光を直接または他のモジュールを介しその出力レーザー光を光検出手段で検出し、検出結果に応じて該光軸調整手段を調整する制御を行うことを特徴とする。
【0020】
さらに、前記複数のモジュールの少なくとも1つは、レーザー増幅器、パルス幅伸張器、パルス幅圧縮器、プロファイル整形器もしくは高調波発生手段、またはこれらの組み合わせからなることを特徴とする。
【0021】
さらに、前記複数のモジュールは、レーザー光の入力及び出力を有する第1、第2及び第3のモジュールを含み、第1のモジュールとの出力と第2のモジュールの入力及び第2のモジュールの出力と第3のモジュールの入力とはそれぞれにおいて直接または少なくとも1つの他のモジュールを介して、光路が接続されており、
第1のモジュールに入力する光路上に第1の光軸調整手段を有し、第2のモジュールに入力する光路上に第2の光軸調整手段を有し、第1の光軸調整手段のフィードバック制御を第3のモジュールの出力光を利用して行い、第2の光軸調整手段のフィードバック制御を第2のモジュールの出力光を利用して行う、ことを特徴とする。
または、前記複数のモジュールは、レーザー光の入力及び出力を有する第1及び第2のモジュールを含み、第1のモジュールとの出力と第2のモジュールの入力とは、直接または少なくとも1つの他のモジュールを介して、光路が接続されており、
第1のモジュールに入力する光路上に第1の光軸調整手段を有し、第2のモジュールに入力する光路上に第2の光軸調整手段を有し、第1の光軸調整手段のフィードバック制御を第1のモジュールの出力光を利用して行い、第2の光軸調整手段のフィードバック制御を第2のモジュールの出力光を利用して行う、
ことを特徴とする。
【0022】
さらに、前記レーザーシステムは多段増幅式レーザーシステムであることを特徴とする。
【0023】
さらに、前記光軸調整手段が、リスレープリズムの回転またはミラーの角度変化を用いたことを特徴とする。
【0024】
さらに、前記光検出手段が、入力するレーザー光の光強度に対応した信号を出力し、前記制御手段に入力することを特徴とする。または、前記光検出手段が、入力するレーザー光のプロファイルを出力し、前記制御手段に入力することを特徴とする。
【0025】
さらに、前記モジュール間の少なくとも1つの光路に、所望とする光路の中心軸に対しどのような状態かを検出する装置が挿入され、該検出装置が、回転体のプリズムと複数の受光素子とを備え、
該回転体のプリズムは、回転の中心軸を含む平面による断面形状が直角な頂角を形成する第1および第2の面と、前記直角な頂角と対向する第3の面とを有する直角三角形に対して、前記直角な頂角部分を、前記第3の面と平行なかつ所定広さの第4の面となるように加工した構造に相当する構造の第1の形状および、該第1の形状と同様な構造の第2の形状であって、該中心軸を挟んで対称に、しかも、それぞれの前記第1の面が、該中心軸と直交する平面に対し平行になるように、かつ、第1の面および第3の面がなす稜が該中心軸の側に位置するように、配置された第1および第2の形状からなる断面形状を有し、
該受光素子は、該回転体プリズムに関わる第1及び第2の形状における前記第2の面が該回転の中心軸のまわりに回転することによって得られる曲面のまわりに、受光面が該中心軸に向けて配置されたことを特徴とする。
【0026】
さらに、前記モジュール間の少なくとも1つの光路に、ドーナッツ状の遮断板を挿入したことを特徴とする。
【0027】
さらに、前記メタヒューリスティックな制御とは、遺伝的アルゴリズム、シミュレーティド・エボリューション、焼きなまし法、タブー探索、蟻コロニー最適化、粒子群最適化、進化戦略、進化的プログラミング、人工免疫システム及びニューラルネットワークのいずれかを用いた制御であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本願発明はフィードバックループを有する光軸調整個所を複数有しても、それらの光軸調整を同時並行に自動制御可能であるという、顕著な作用効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】多数のモジュールから構成されるレーザーシステムの例として、フォトカソードRF電子銃を示す。
【図2】フィードバックループを有する光軸調整の構成例を示す図である。
【図3】本願発明による自動光軸調整を行うレーザーシステムの例を示す。
【図4】出力電圧値を制御装置の入力信号とした場合の構成例を示す図である。
【図5】画像解析によるレーザープロファイルの観察法の例を示す図である。
【図6】レーザープロファイルの例を示す図である。
【図7】重心と中心との差を利用したアラインメントの例を示す図である。
【図8】眞円との差を利用したアラインメントの例を示す図である。
【図9】トップハットファクターを利用したアラインメントの例を示す図である。
【図10】ドーナツ状のビームプロファイルの例を示す図である。
【図11】ドーナツ状のビームプロファイルに対するアラインメントの例を示す図である。
【図12】ファジイ推論に基づく光路調整ステップの例を示すフローチャートである。
【図13】S’に対するメンバーシップ関数の例を表す図である。
【図14】ΔSに対するメンバーシップ関数の例を表す図である。
【図15】ルール11乃至14に基づく統合化の工程の説明に供する図である。
【図16】ルール21乃至23に基づく統合化の工程の説明に供する図である。
【図17】統合化1及び統合化2のメンバーシップ関数の論理和として、統合化3を求める工程の説明に供する図である
【図18】ビーム遮断板の例を示す図である。
【図19】2つのプリズムと、4つの受光素子から構成される光軸状態検出装置を示す図である。
【図20】ドーナツ形プリズムその外円周囲に配置された受光素子から構成される光軸状態検出装置の例を示す図である。
【図21】サドルポイントアラインメントの例を示す図である。
【図22】アラインメントに確率的な動きを導入した例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図2以後の図において、レーザーの光路を一点破線で示し、光軸調整用信号などの信号(通常は電気信号)の経路を細線の実線で示してある。
【0031】
本願発明は、フィードバックループを用いた光軸調整手段を複数用いたレーザーシステムにおいて、好適である。
【0032】
光軸調整手段に適用されるフィードバックループ299の実施形態を図2に示す。
この図において第1のモジュール201、第2のモジュール202及び(その他の)モジュール200は、図1におけるパルス幅伸張器103、再生増幅器111等のモジュールである。レーザー発生源は第1のモジュール201より前にある場合もあり、また第1のモジュールがレーザー発振源そのものである場合もある。なお、後者の場合、第1のモジュール201の入力のレーザービームはかならずしも必要ない。
【0033】
第1のモジュール201と第2のモジュール202との間には光軸調整手段50が設けられる。ここでは、光軸調整手段50はリスレープリズム対57を有するものとし、2つのリスレープリズムをR1及びR2とする。光軸調整手段50はリスレープリズムでなくギンバルミラーを有することも可能である。
【0034】
リスレープリズム対57を有するものとした場合の動作を下記に示す。
第2のモジュール202からの出力レーザービームが、ビームサンプラー205により、その一部が光検出器207に入力し、レーザー光の強度に依存して電気信号である検出信号61に変えられる。検出信号61は、制御手段211に入力し、制御手段211は制御信号62を出力する。制御信号62は、モータードライバー209に入力し、駆動信号63によってモーター対58を回転させる。これにより、リスレープリズム対57が回転し、第1のモジュール201と第2のモジュール203間の光軸の最適化を図ることができる。モーター対58は、M1とM2からなり、それぞれリスレープリズムR1とR2を回転させるものとする。
【0035】
この構成により、光軸調整手段50から、第2のモジュール202、ビームサンプラー205,光検出器207,制御手段211,モータードライバー209を経由して、光軸調整手段50へ戻るフィードバックループ299が形成される。
【0036】
制御手段211は、制御ソフトウェアを搭載したコンピューターとすることもできる。この場合、制御ソフトウェアは、匠アルゴリズムなどのファジイ推論、またはメタヒューリスティックなアルゴリズムを基にした制御ソフトウェアとすることが好適である。
【0037】
図3は、このような光軸調整用にフィードバックループが多数導入されたレーザーシステムの構成例を示す。
すなわち、複数のモジュール200〜203から構成されたレーザーシステムであって、各モジュールの間は光路で接続され、少なくとも2つの光路のそれぞれに光軸調整手段50〜52を有し、該光軸調整手段はフィードバック制御により光軸調整を行うレーザーシステムである。例えば、前述のフォトカソードRF電子銃のほか、多段増幅式レーザーシステムにこのような構成が採用される。
(a)は、このようなシステムにおいて、レーザー光の入力及び出力を有する第1のモジュール201及び第2のモジュール202を含み、第1のモジュール201の出力と第2のモジュール202の入力とは、光路が接続されている。この図の例では直接光路が接続されているが、それらの間に少なくとも1つの他のモジュールが入る場合もある。
第1のモジュール201に入力する光路上に第1の光軸調整手段51を有し、第2のモジュールに入力する光路上に第2の光軸調整手段52を有し、第1の光軸調整手段のフィードバック制御を第1のモジュール201の出力光を利用して行い、第2の光軸調整手段52のフィードバック制御を第2のモジュール202の出力光を利用して行う。
(b)は、このようなシステムにおいて、レーザー光の入力及び出力を有する第1のモジュール201、第2のモジュール202及び第3のモジュール203を含み、第1のモジュール201の出力と第2のモジュール202の入力及び第2のモジュール202の出力と第3のモジュール203の入力とはそれぞれにおいて光路が接続されている。この図の例では直接光路が接続されているが、それぞれにおいてそれらの間に少なくとも1つの他のモジュールが入る場合もある。
第1のモジュール201に入力する光路上に第1の光軸調整手段51を有し、第2のモジュールに入力する光路上に第2の光軸調整手段52を有し、第1の光軸調整手段のフィードバック制御を第3のモジュール203の出力光を利用して行い、第2の光軸調整手段52のフィードバック制御を第2のモジュール202の出力光を利用して行う。
すなわち、(a)では、2つのフィードバックが、シーケンシャルに配置されているが、(b)では、2つのフィードバックループが入れ子構造になっている。(c)はそれらの複合形態である。
【0038】
本願発明は、上記(b)または(c)の形態が特に効果を発揮するが、(a)においても有効である。それは、(a)のようにフィードバックをシーケンシャルに配置した例においても、上流(光源に近い側)での光軸調整が、下流(光源から遠い側)のモジュールに影響をあたえ、下流のモジュールの光軸や強度などの光の状態を変化してしまう。そのため、調整を必要とするパラメーターが変化してしまい、その変化を解析的に明確にすることが不可能に近いため、本願発明はこのような構成に対しても有効である。時間変化により、レーザー光源の温度などにより状態が変化する場合があるので、従来は、短時間に調整を行える熟練者を要した。
【0039】
いずれの場合も、フィードバックループは図2と同様の構成である。いずれかの光軸調整手段50はその両側のモジュール(2つのモジュールはかならずしも該光軸調整手段を挟んで隣接しているとは限らない)の間の出力ビームの光軸を調整するものである。すなわち図2のように、第2のモジュール202の出射光がビームサンプラー205によりその一部が取り出され、光検出器207に入力する。光検出器207の出力信号61が、制御手段211の入力信号となる。制御手段211からの制御信号62がモータードライバー209に入力し、これから出力する駆動信号63によって、モーター対58の回転動作を行わせ、これが光軸調整手段50のリスレープリズム対57の位置を最適化する。
【0040】
ここで、制御手段211にはいる入力信号として、(1)光検出器207を光パワーメーターなどとし、この測定結果である、出力電圧値を入力信号とする場合、(2)レーザービームの横モードプロファイル(レーザー進行方向に対して垂直な面内での光の強度分布)をカメラ(ビームプロファイラー)で撮影し、その画像処理を行い、代表的な数値を算出したものを制御装置への入力信号とする場合がある。(1)では、光の強度と相関をもった出力電圧値が制御装置への入力信号となる。また、4象限センサーや2次元PSDなどからのX、Yの電圧信号も制御の入力信号となり得る。(2)の場合は、画像を解析した後の代表値の具体例は、重心と中心との差、眞円との差、トップハットファクター(THF)などがある。さらに、横モードプロファイルに限らず、各モジュールの目的にあわせて空間プロファイル、時間プロファイル、スペクトルプロファイル、群速度分散プロファイルなどのレーザー光のプロファイルを利用し代表的な数値を算出したものを制御装置への入力信号とする場合がある。このとき、本制御においては、これらの代表的な数値は、各モジュールごと、および各モジュール間で解析的に矛盾しててもかまわない。
【0041】
パワーメーターなどからの出力電圧値を制御装置の入力信号とした場合は、図4に示すような構成になる。図4(a)に示すように、第1のピンホール311と第2のピンホール313とを通過したレーザービーム40を光検出器207で検出して、光量を電気信号に変換する。正規の光軸からずれた場合は、光検出器207による受光量が減少するので、光量が最大となるように制御手段(図示せず)によりアラインメントする。
【0042】
図4(b)に他の方法を示す。これは、非線形光学結晶315により2倍、3倍等の高調波47を発生させ、これらを光検出器207で検出し、電気信号に変換する方法である。高調波への波長変換は、ビームの非線形光学結晶315への入射角に強く依存する。正規の光軸で最大となるようにあらかじめ非線形光学結晶315を調整しておけば、正規の光軸からずれた場合、発生する高調波の光量が大幅に減少する。したがって、高感度の調整が可能となる。
【0043】
図4(c)に4象限センサーや2次元PSD261を用いる例を示す。これらは、センサー上でレーザービームがあたっている位置座標(x,y)に依存した出力電圧の組(Vx,Vy)を発生する。目標位置座標における電圧が(Vox,Voy)であったとすると{(Vx−Vox)^2+(Vy−Voy)^2}^(1/2)が、ゼロに近づくようにアラインメントする。
【0044】
一方、画像解析によるレーザープロファイルの観察法を図5に示す。
レーザービームの断面の強度分布(レーザープロファイル)を観察する方法には、大きく分けて、(1)レーザービームを直接、カメラ263で観察する方法(図)5(a)と、(2)レーザービームをターゲット265に当てて、ターゲット265から来る光をカメラ263で観察する方法(図5(b))の2つである。
【0045】
(2)にはさらに、2種類あり、(2−1)ターゲットから来る光が入射したレーザービームの散乱光であり、該散乱光を観察する場合と、(2−2)ターゲットそのものの蛍光性による蛍光あるいは、ターゲットの表面に塗布された蛍光材料による蛍光を観察する方法とがある。
(2−2)の場合のターゲット材は、つぎの材料が好適である。
(a)蛍光カソード材(紫外レーザー確認用)
(b)ウランガラス(紫外レーザー確認用)
(c)アップコンバージョンプレート(赤外レーザー確認用)
(a)は、真空中でもモニター可能という特徴がある。(b)は入射レーザービームが紫外領域のとき可視領域の蛍光に変換される。(c)は、入射レーザービームが赤外領域のとき可視領域の蛍光に変換される。
【0046】
紫外レーザースポット確認用の蛍光カソードの材質には、蛍光体番号P20と呼ばれる、成分(Zn,Cd)S:Agの蛍光体が好適である。この蛍光材料は発光効率が高いので、確認できるプロファイルはサチュレーションしたものになりやすくなる。そのため、プロファイルの外形(高い輝度を有する空間領域)のみの確認が可能である。レーザーの空間プロファイルは整形作業を通じて、どうしても空間周波数が高いスパイキーな構造を持ってしまう傾向があるので、サチュレーションを起こすような計測方法によると細かい構造を見ないようにすることができる。
一方、レーザープロファイラーは細かい構造まで見るので、ダイナミックレンジを取るためにはND(neutral density)フィルターを切り替えてアッテネートしながら、計測する。
【0047】
画像解析とは、図6に示すような、カメラで取得したレーザープロファイル、すなわち、2次元座標(x、y)の各点に対する輝度分布を解析することである。カメラはフォトダイオード、CCD等の感光素子を2次元マトリクスに配置したイメージセンサとすることができる。
画像解析にはつぎのような方法がある。
(1)重心と中心との差をフィードバックする方法
(2)眞円との差をフィードバックする方法
(3)トップハットファクター(THF)を利用する方法
(4)円環解析を利用する方法
【0048】
重心と中心との差を利用する方法を図7を利用して下記に示す。
(1)レーザープロファイルから、その重心511を求める(図7における○)。
(2)一方で、レーザープロファイルにおいて特定の輝度の値を示す点(x、y)の外形形状513を求める。(図7における□の集合)。
(3)該外形形状に対して、最も一致する円であるフィッティング円515をもとめる。
(4)フィッティング円515の中心517と前記重心511との距離がもっとも小さくなるようにアラインメントする。
【0049】
眞円との差をフィードバックする方法を図8を利用して下記に示す。
(1)レーザープロファイルから、輝度を指定し、その外形形状513を求める。これは前述の(2)と同じ処理である。
(2)該外形形状に対して、フィッティング円515をもとめる。これは前述の(3)と同じ処理である。
(3)該外形形状513と該フィッティング円515との差を求める。具体的には、Ri、r及びDiをつぎのように定義したとき、距離の差の自乗の総和ΣDiを求める。
Ri:中心と外形形状の位置の差
r:フィッティング円の半径
Di:これらの差の自乗、すなわち、Di=(Ri−r)^2
(4)ΣDiが最小となるようにアライメントする
【0050】
トップハットファクター(THF)を利用する方法を図9を利用して下記に示す。
ビームプロファイルの形状は、図9(a)に示す、トップハットの形、すなわち円柱形の強度分布となることが理想的である。すなわち、x及びyの所定の領域で一定の輝度を示し、それ以外の領域で輝度ゼロになるビームプロファイルである。
トップハット形状にどのくらい近いかを示す数値がTHFであり、つぎの方法で計算する。
(1)輝度と頻度の関係を輝度が横軸に、頻度が縦軸になるようにグラフに表す(図9(d))。このときの頻度とは、特定の輝度よりも高い輝度を呈する画素の総数である。例えば、特定の輝度を0とおけばすべての画素が該当するので、頻度はカメラの画素数に等しくなる。特定の輝度が増加するにつれて、頻度が減少し、最大輝度の位置で頻度はゼロになる。
(2)次に、当該グラフにおいて、輝度の最大値を1に、頻度の最大値を1に規格化する(図9(e))。
(3)このときの軸と曲線で囲まれる面積SがTHFを与える。
図9(a)に示された理想的プロファイルの場合の輝度と頻度との関係は図9(b)で与えられる。したがって、理想的プロファイルに対しては、図9(c)で示すようにTHF=1となる。
このTHFが1となるように、あるいはできるだけ1に近づくように、アラインメントする。
【0051】
円環解析による方法を次に示す。大規模システムの一部では、レーザービームが、図10に示すような、ドーナッツ状のビームプロファイルを呈する場合がある。図11を参照して、このような場合のアラインメントはつぎのようになる。
(1)特定の輝度を指定して、2つの外形形状を求める。すなわち、ドーナツの内円に対する輪郭521と外円に対する輪郭523を抽出する。
(2)それぞれの輪郭に、円のフィッティングを施し、フィッティングされた円のそれぞれに対して中心をもとめる。内円の中心(図示せず)と外円の中心(図示せず)とが求まる。
(3)内円の中心と外円の中心とのずれ、あるいは、それぞれの中心と重心(前述のように、レーザープロファイルの輝度の分布の重心である)とのずれを、できるだけ小さくなるようにアライメントする。
【0052】
(光軸調整のフローチャート)
次に、図12に示すフローチャートを参照して光軸調整の制御方法をより詳細に説明する。光軸調整手段は、リスレープリズム対が利用されており、かつ図2に示すようなフィードバックループが構成されているものとする。ここでは、光検出器207は、光パワーメーターなどとし、この測定結果である、出力電圧値を制御手段211への入力信号とする場合を取り上げる。
【0053】
ステップS−10:このステップは、制御開始ステップである。
【0054】
ステップS−12:このステップは、光検出器207からの出力を制御手段211が取得するステップである。
【0055】
ステップS−14:このステップは、モーター対58を順次駆動するステップである。2つのモーター(M1及びM2)どちらから始めてもよいが、まずそのうちの一つを選定する。最初に選択されたモーター(ここではM1とする。)によって、リスレープリズム対57のうちの第1プリズムR1の向きを変化させることにより、変換光の強度が極大になる位置に、モーターM1の回転を固定して、次のモーター(M2)によって同様に第2プリズムR2の向きを変化させることにより、変換光の強度が極大になる位置に、モーターM2の回転を固定する。
【0056】
前述のモーターM1及びM2の回転による、第1及び第2プリズムR1及びR2の向きを決定するためのモーターの回転量は、後述するファジイ推論に基づいて決定する。
【0057】
ステップS−16:このステップは、モーターM1及びM2を少しだけ回転させる、試し駆動ステップである。このステップでは、モーターの回転方向を確定するために行なう。
ステップS−18:このステップは、光検出器207によって、変換光の強度に比例する信号を取得するステップである。
【0058】
上述のステップS−16及びS−18によって、ある方向にモーターを回転させることにより光検出器207に受光される変換光の強度が増加することが判明すれば、その回転方向は変換光の強度が極大になる方向であることを示している。逆に光検出器207に受光される変換光の強度が減少することが判明すれば、この回転方向は変換光の強度が極大になる方向とは逆の方向であることを示している。
【0059】
ステップS−20:このステップは、光検出器207の出力信号の時間微分値、目標値(極大値)からのずれ量を計算するステップである。このステップでは、ファイジー推論において入力値として利用する出力信号の時間微分(差分)値を計算し、目標値(極大値)からのずれ量を計算する。光検出器207からの時刻t1における出力信号の値をs1とし、時刻t2における出力信号の大きさをs2とすれば、t1<t2であるとして、出力信号の時間差分値S’はS’=(s2−s1)/(t2−t1)で与えられる。また目標値(極大値)をs0とした場合にΔS=(s1/s0)−1で与えられる目標値からのずれ量(目標値からのずれの割合)ΔSを計算する。S’及びΔSを用いてファジイ推論が行なわれる。
【0060】
ステップS−22:このステップは、ファジイ推論によるモーターの駆動量(回転角)を計算するステップである。このステップでは、上述のS’及びΔSの値を用いて、ファジイ推論を行い、モーターの駆動量(回転角)の絶対値Mが計算される。
【0061】
ステップS−24:このステップは、モーターの駆動方向(回転方向)を求めるステップである。上述のステップS−20で求められたS’の値が負であれば、モーターの駆動方向(回転方向)を反転させる必要がある。一方、S’の値が正であれば、モーターの回転方向はそのままでよいことになる。このスッテップでは、上述したモーターの回転方向を次の手順で求める。すなわち、モーターの回転方向を決めるパラメーターをαとする。αは値1または値−1を取るものとする。また、パラメーターδを次のように定める。上述のステップS−20で求められたS’の値が負であれば、δ=−1とし、S’の値が正であれば、δ=1とする。そして、モーターのこの次の回転方向はα×δで与えられるものとする。すなわち、このα×δ値を次の新たなパラメーターαの値と設定することで、モーターの次の回転方向を確定する。モーターの回転方向も含めて回転量を表示するとα×Mと表されることとなる。
【0062】
ステップS−26:このステップは、モーターを駆動するステップであり、上述のα×Mだけモーターを回転させる。
【0063】
ステップS−28:このステップは、上述のステップS−18と同様に、光検出器207によって、変換光の強度に比例する信号を取得するステップである。
【0064】
ステップS−30:このステップでは、上述のステップS−28で取得された変換光の強度に比例する信号の値を基にして、これまでのステップで制御し調整したモーターの調整作業を終了して、次のモーターを制御するステップに進むか否かの判定を行なう。上述のステップS−28で取得された変換光の強度に比例する信号の値が、目標値(極大値)とみなせる大きさの範囲内に収まれば、次のモーターの制御を行なうために、制御の対象となるモーターを切り替える。そして、次のステップであるステップS−32に進む。一方、ステップS−28で取得された変換光の強度に比例する信号の値が、目標値に達していないと判定されれば、ステップS−20に戻る。
【0065】
ステップS−32:このステップは、光路調整作業を終了するか否かの判定を行なうステップである。モーターM1及びM2に対する調整作業が全て終了していることが確かめられれば、次のステップS−34に進み、調整作業を終了させる。一方、終了させずにこのまま制御を続けるのであれば、上述のステップS−14に戻る。上述のモーターM1及びM2に対する調整作業が全て終了していることが確かめられたとしても、経時変化に対応するため、及び、他の光路調整作業にともない、この光路がずれることにより、再度光路調整を行う必要があるという判断もあり得る。
【0066】
ステップS−34:このステップは、光路調整作業を終了させるステップである。
(ファジー推論)
【0067】
次に、この光軸調整で実行されるファジイ推論で用いるメンバーシップ関数について説明する。出力信号の時間差分値S’と目標値に対する出力比ΔSとを用いることが特徴である。
【0068】
光検出器207が検出する出力信号の時間微分(差分)値S’に対するメンバーシップ関数の例を示す。すなわち、ファジイ推論の基礎とする、S’に対するメンバーシップ関数は、以下のルール(以後「ファジイルール」ということもある。)に従うように定義されることができる。
【0069】
ルール11:S’が正の値をとりその値が大きいならば、モーターの回転量の絶対値は大きい。
【0070】
ルール12:S’が正の値をとりその値が小さいならば、モーターの回転量の絶対値は小さい。
【0071】
ルール13:S’が0の値をとるならば、モーターの回転量の絶対値は0である。
【0072】
ルール14:S’が負の値をとるならば、モーターの回転量の絶対値は小さい。
【0073】
図13を参照して上述のルールを視覚的に説明する。図13に示した(A1)乃至(A4)は、上述のファジイルールの、それぞれルール11乃至14の前件部を表している。図13(A1)乃至(A4)において、横軸はS’を示し、縦軸は合致度合い(0から1の値の範囲をとる。)を示している。一方、図13に示した(B1)乃至(B4)は、上述のファジイルールの、それぞれルール11乃至14の後件部を表している。横軸はモーターの駆動量(回転量)の絶対値Mを表し、縦軸は合致度合いを表している。
【0074】
光検出器207の出力信号値の目標出力値が最大出力値に近い場合の出力信号の値ΔSに対するメンバーシップ関数の例をつぎに示す。すなわち、ファジイ推論の基礎とするΔSに関するメンバーシップ関数に対して、以下のファジイルール(新たなルール)に従うように定義することができる。
【0075】
ルール21:目標値(極大値)s0よりも、光検出器が検出した強度信号が非常に小さい(ΔSの値が負の値でありその絶対値が大きい。)ならば、モーターの回転角度は大きい。
【0076】
ルール22:目標値(極大値)s0に対して、光検出器が検出した強度信号がほぼ同程度(ΔSの値が負の値でありその絶対値が小さい。)ならば、モーターの回転角度は小さい。
【0077】
ルール23:光検出器が検出した強度信号が、目標値(極大値)s0に達したかあるいは上回った(ΔSの値が0より大きい。)ならば、モーターの回転角度は0である。
【0078】
図14を参照して上述の新たなルールを視覚的に説明する。図14に示した(A1)乃至(A3)は、上述のファジイルールの、それぞれルール21乃至23の前件部を表している。(A1)乃至(A3)において、横軸はΔSを示し、縦軸は合致度合い(0から1の値の範囲をとる。)を示している。一方、図14に示した(B1)乃至(B3)は、上述のファジイルールの、それぞれルール21乃至23の後件部を表している。横軸はモーターの駆動量(回転角)の絶対値Mを表し、縦軸は合致度合いを表している。
【0079】
ファジイ推論によってモーターの駆動量(回転角)を計算する手法として、ここではmin−max合成重心法を利用する。光検出器によって、変換光の強度が検出されれば、その値に基づいてS’及びΔSが求められる。今仮にS’及びΔSの値として、S’1及びΔS1と求められたとして説明する。
【0080】
図15は、ルール11乃至14に基づく統合化の工程の説明に供する図である。この図15において、ルール11乃至14に対応するメンバーシップ関数は、図13に示すメンバーシップ関数と同一のものを採録してある。
【0081】
S’=S’1であるから、図15に示すルール11乃至14に対応するメンバーシップ関数の前件部を示す図において、S’を表す横軸のS’1に当る位置を縦の点線によって表示してある。この図からわかるように、上述のルール13及びルール14において、前件部の適合度が0であるから、後件部も0である。上述のルール11及びルール12においては、前件部の適合度が0ではないので、その適合度に対応させて後件部のメンバーシップ関数の頭切りを行なう。その結果、ルール11乃至14のファジイ推論が行なわれて、これらの結果として図15に統合化1として表されている後件部の論理和が求められる(統合化1)。なお、統合化1として表されている後件部の論理和を示す関数は、ルール11及びルール12の後件部の頭切りを行なったメンバーシップ関数を合成することによって求められる。
【0082】
図16は、ルール21乃至23に基づく統合化の工程の説明に供する図である。この図において、ルール21乃至23に対応するメンバーシップ関数は、図14に示すメンバーシップ関数と同一のものを採録してある。
【0083】
ΔS1=ΔS1であるから、図16に示すルール21乃至23に対応するメンバーシップ関数の前件部を示す図において、ΔSを表す横軸のΔS1に当る位置を縦の点線によって表示してある。この図からわかるように、上述のルール21の適合度が0であるから、後件部も0である。上述のルール22及びルール23においては、前件部の適合度が0ではないので、その適合度に対応させて後件部のメンバーシップ関数の頭切りを行なう。その結果、ルール21乃至23のファジイ推論が行なわれて、これらの結果として図16に統合化2として表されている後件部の論理和が求められる(統合化2)。なお、統合化2として表されている後件部の論理和を示す関数は、上述の統合化1の場合と同様に、ルール22及びルール23の後件部の頭切りを行なったメンバーシップ関数を合成することによって求められる。
【0084】
次に、ルール11乃至14(以後「第1ルール系列」ということもある。)に対してルール21乃至23(以後「第2ルール系列」ということもある。)をどれだけ重視するのか、あるいは第1及び第2系列を均等に重視するのか等の重み付けを加味した処理を行なう。上述の統合化1及び統合化2として得られた結果(図15及び図16にそれぞれ統合化1及び統合化2として表した、後件部の論理和として求められた合成メンバーシップ関数)を、それぞれr倍及び(1−r)倍することによって、それぞれの関数に対して重み付けを行い、図17(A)乃至(D)に示すように、両者を統合化する。
【0085】
ここで、rは0から1の値の範囲の実数値をとる。例えば、r=1を選択するということは、第1ルール系列のみを取り入れ、第2ルール系列は無視することに対応する。また、r=0.5を選択するということは、第1ルール系列と第2ルール系列とを同等に扱うことを意味する。また、r=0を選択するということは、第2ルール系列のみを取り入れ、第1ルール系列は無視することに対応する。
【0086】
図17(A)乃至(D)は、上述の図15及び図16にそれぞれ統合化1及び統合化2として表した、後件部の論理和として求められた合成メンバーシップ関数を、統合して統合化1及び統合化2のメンバーシップ関数の論理和として、統合化3を求める工程の説明に供する図である。
【0087】
図17(A)は、統合化1として求められた合成されたメンバーシップ関数の概略の形状であり、図17(B)は、統合化2として求められた合成されたメンバーシップ関数の概略の形状である。図17(C)は、統合化1として求められた合成されたメンバーシップ関数をr倍し、統合化2として求められた合成されたメンバーシップ関数を(1−r)倍して合成した統合化3としてのメンバーシップ関数の概略の形状である。図17(D)は、図16(C)で与えられたメンバーシップ関数の合成重心の値を求めその合成重心の値をモーターの駆動量(回転角度)として採用する手順を説明する図である。図17(D)において、横軸上にMと矢印で表示してある横軸の値は、図17(C)によって示されているメンバーシップ関数から求められた合成重心の位置であり、この位置がモーターの回転角度を示していることになる。
【0088】
すなわち、上述したファジイ推論を行なうことによって、光軸を調整するためリスレープリズムの向きを変化させるために駆動するモーターの回転角度を求めることができることがわかる。
【0089】
上述のファジイ推論においては、モーターの回転角度の値をmin−max合成重心法を用いて求めたが、この方法に限定されず、代数積−加算重心法等ファジイ推論の方法として知られた他の方法を採用することも可能である。いずれの方法を採用するかは、ファジイ推論制御の対象となる光軸調整手段ごとに、経験等に基づき最も適した方法を採用すればよい。
【0090】
これらのメンバーシップ関数を利用して、モーターの駆動量(回転角)を計算することができる。この制御は、明確な伝達関数を有しない特徴を有するので、光軸の調整、とくに複数の光軸の調整個所を有するレーザー使用装置に適している。
(遮蔽板)
【0091】
さらに、大規模システムでの自動化においては、かならず誤動作が起きた場合でも安全が担保出来るシステム構築を行う必要があるので、フェイルセーフを実現するための装置を導入する。具体的には、開口部を設けた遮断(遮蔽)板(物)を導入し、逸れたビームを遮断するビームが逸れたことを検知してシステムをシャットダウンさせるようなインターロックを仕掛ける。また、室内に人が立ち入った場合などはシャットダウンさせるようなインターロックを仕掛ける。
【0092】
すなわち、図18(a)に示すように2つのモジュール間の光路に遮断板601を設け、光軸がずれた場合に、後段モジュールや人を保護する。遮断板の種類にはつぎのようなものがある。
【0093】
(1)ドーナツ形遮断板
図18(b)に示すようにドーナッツ状の遮断板603をモジュール間の光路に導入する。この際、正しく光軸を制御されたときに、レーザービーム40がドーナツの穴に相当する内円613の中心を通るように、ドーナッツ形遮断板を配置する。
内円の直径は、ここを通過できるレーザービーム40が後段モジュールや人体に悪影響(損傷や破壊)を与えない大きさとするのが好適である。遮断板603の材質は、レーザーを遮断できる材質でたとえば、レーザーの波長を遮断できる有機材料や無機材料(金属、ガラス、セラミックス)が好ましい。
何らかの原因(モーターの誤動作、コンピューターの誤動作などなど)により、光軸調整を誤った場合でも、後段モジュールに悪影響を与えるような光がこの遮断板で遮断されるため、後段モジュールや人体を守ることができる。
また、ドーナッツ形遮断板の遮断部をカメラ263で観察することにより、遮断されたレーザーの散乱光を観察することができる。この際、画像処理を行い、自動アラインメントシステムの制御のための入力信号とすることにより、光軸を正規の位置へ戻すことが可能となる。
これは、現在、自動アラインメントシステムの制御のための入力信号は、たいていの場合、物理的な性質上、後段モジュール以降にあることが多い。しかし、その構成では、もし、遮蔽板にあたるほどずれてしまった場合は、検出器で検出できない。すなわち、制御できなくなってしまう。本ドーナッツ形遮蔽板603を用いると、ずれた光軸を正規の位置へ戻すことが可能であるので、制御不能を回避することができる。
【0094】
別の実施形態では、ドーナッツ形遮断板上表面に、レーザー光の波長に対して蛍光を発する蛍光材料を塗布しておく、あるいは、蛍光材料でドーナッツ型遮断板を作製する。発生した蛍光をカメラで観察することにより、遮断されたレーザー光を観察することができる。前述の実施形態との違いは、カメラの波長感度がレーザー光の波長と一致していなくとも、蛍光の波長と一致していれば観測できる点である。例えば、レーザー光が紫外の場合、通常のカメラは感度がないので、蛍光材で、可視光領域の発光を行うようにすれば良い。
【0095】
また、ドーナッツ型遮断板を4象限センサー、CCD、またはPSDなどで作製することもできる。通常の2次元受光素子(4象限センサー、CCD、またはPSD)を、中に穴を開けても機能を果たすように処理したものを利用する。この場合、カメラが不要となる。
【0096】
さらに別の形態を図19に示す。2つのプリズムと、4つの受光素子から構成される光軸状態検出装置を用いる。該光軸状態検出装置は特開平11−14330号公報に記載されているものが好適である。
該光軸状態検出装置の構造及び光軸状態検出方法を下記に説明する。
【0097】
(1)同じ構造を有する2つのプリズム、第一のプリズム701と第二のプリズム703を用意する。これらは直角プリズムであり、直角な頂角を形成する第1の面711および第2の面713と、前記直角な頂角と対向する第3の面715とを有し、前記直角な頂角部分を、前記第3の面と平行なかつ所定広さの第4の面717となるように加工した構造を有する。
(2)次に、これら第1および第2のプリズムを、所望の光路の中心軸710を挟んで対称に、しかも、それぞれの前記第1の面711が、前記光路の中心軸710と直交する平面に対し平行になるように、かつ、前記第1の面711および第3の面715がなす稜714が前記所望の光路の中心軸710の側に位置するように、配置する。
(3)次に、このように配置した第1および第2のプリズムの間隙を含む領域にレーザービーム40を第1の面711の側から入射する。
そして、このようにビーム40が入射された状態の第1および第2のプリズム701及び703それぞれの第2の面713の、第4の面717に近接する部分と第3の面に近接する部分とからの光出力をそれぞれ測定する。そして、これら光出力の状態に基づいて前記ビームの中心軸が前記光路の中心軸に対しどのような状態かを検出する。
【0098】
すなわち、第一のプリズム701の第2の面の第4の面に近接する部分に該第2の面と対向させて配置した第1の受光素子731と、第2の面の第3の面に近接する部分に、該第2の面と対向させて配置した第2の受光素子732と、第2のプリズム703の第2の面の第4の面に近接する部分に、該第2の面と対向させて配置した第3の受光素子733と、該第2の面の第3の面に近接する部分に、該第2の面と対向させて配置した第4の受光素子734を設ける。受光素子はフォトダイオードやCCDとすることができる。
なお、ここで直角な頂角とか、第3の面に平行な第4の面とか、光路の中心軸と直交する等の記述での直角、平行、直交という意味は、それぞれ、この発明の目的を達成出来る範囲で、ほぼ直角、ほぼ平行、ほぼ直交を含む意味である。
【0099】
この光軸状態検出装置によれば、第1および第2のプリズムを所定配置し、これに使用予定のビームを入力する。第1および第2のプリズムそれぞれの第2の面それぞれの、第4の面に近接する部分と第3の面に近接する部分、すなわち第1および第2のプリズムでの合計4箇所の測定領域からの光出力は、所望の光路の中心軸710に対しビームの中心軸がいかなる状態であるかに応じて、変化する。したがって、各受光素子731〜734の受光量がそれに応じた量となる。このため、各受光素子の受光量から、ビームの中心軸が所望の光路の中心軸710に対し、いかなる状態であるかを把握することができる。また、受光素子を用いることにより、光軸が外れたときにのみ機能し、正規の光軸にあるときは影響を与えない。
【0100】
さらに、前述の装置に替えて、図20のような、ドーナツ形プリズム740とそのドーナツの外円周囲に配置された複数の受光素子730との組み合わせによる光軸状態検出装置を用いると一層有効である。この組み合わせで、前記の機能的ドーナッツ型遮断板と同様の機能を持たせることができる。
【0101】
図20(a)は本検出装置の正面図であり、紙面に垂直でA−Aを含む断面による断面図が図20(b)である。ドーナツ形プリズム740は、(b)を断面図とし、所望の光路の中心軸でもある回転の中心軸742を回転の中心とした回転体である。ドーナツ形プリズム740はドーナツの外円の周囲の位置に複数の受光素子730を設ける。
【0102】
回転体であるドーナツ形プリズム740は、その回転体をなすための断面形状が図19の平面形状に一致する。すなわち、ドーナツ形プリズム740は、回転の中心軸を含む平面による断面形状が、直角な頂角を形成する第1および第2の面と、前記直角な頂角と対向する第3の面とを有する直角三角形に対して、前記直角な頂角部分を、前記第3の面と平行なかつ所定広さの第4の面となるように加工した構造に相当する構造の第1の形状および、該第1の形状と同構造の第2の形状であって、該回転の中心軸742を挟んで対称に、しかも、それぞれの前記第1の面が、該回転の中心軸と直交する平面に対し平行になるように、かつ、第1の面および第3の面がなす稜が該回転の中心軸の側に位置するように配置された第1および第2の形状からなる断面形状を有する。また、複数の受光素子730は、該回転体プリズムに関わる第1及び第2の形状における前記第2の面が該回転の中心軸742のまわりに回転することによって得られる曲面のまわりに、その受光面が回転の中心軸742に向けて配置される。
【0103】
レーザービーム40は正しく設定された状態で、その光路の中心軸が、前記回転の中心軸742と一致するように設定する。ドーナツ形プリズム740の材質は、レーザー波長を透過するものであり、反射時は、全反射条件を満たす屈折率をもつものとする。
【0104】
この図の例では、複数の受光素子730が外円の周囲に12個、紙面と垂直な方向に2列に配列されているが、これらの数は、レーザービーム40の径、ドーナツ形プリズム740の内径、外径及び受光素子730の受光面積により適宜設定すればよい。しかし、レーザービーム40の光路の中心軸が前記回転の中心軸742からはずれドーナツ形プリズム740にその一部が入射した状態では、ドーナツ形プリズム740が凸面鏡の役目を果たすのでビームが広がるため、受光素子730の配置はそれほど密集度を上げる必要はない。
さらに、図18に示したドーナッツ状の遮断板を追加すると、一層効果的である。
(メタヒューリスティックな最適化制御)
【0105】
以上では、フィードバック制御をファジイ推論を基にしたアルゴリズムを用いた。ファジイ推論を基にした制御では、伝達関数を明確に知っておく必要がなく、かつ競合するような複数の最適化目標を持つようなレーザーシステムでの同時多目標最適化に有効であるためである。このような制御では、ユーザーが最適化したい目標同士が競合するかどうかを事前に認識して調整する必要がない。本願発明に有効な制御は、ファジイ推論を基にした最適化制御に代えて、メタヒューリスティックな最適化制御が適用可能である。また、単純な山登り法のようなことで事足りる場合もある。メタヒューリスティックな最適化制御とは、遺伝的アルゴリズム、シミュレーティド・エボリューション、焼きなまし法、タブー探索、蟻コロニー最適化、粒子群最適化、進化戦略、進化的プログラミング、人工免疫システム及びニューラルネットワークなどを用いた制御である。
【0106】
それらによる最適化を用いたアラインメント方法として、サドルポイントアラインメントを用いることが可能である。これを図21を用いて下記に説明する。
従来のアラインメント方法では、ピークの位置のみを探すようになっていた。図21に示すように、ピーク位置がP1とP2の2つある場合、従来方法では、それらの一方のみを探索することになる。しかし、本方法では、ピーク位置P1とP2との間にある、サドルの位置S1を探索する。点S1に保つようなアラインメント方法により、一層安定なシステムあるいはモジュールを実現する。サドルポイントアラインメントは、チャープパルスの和混合で生成するTHGパルスで矩形波を目指す場合は、有効な手段である。
【0107】
さらに、焼きなまし法によるアラインメントの例を示す。これは、アラインメントに確率的な動きを導入することができる、これを図22を用いて説明する。
図22において、現在、ノブの回転角がX1からX2へと変化させ、光強度がP1からP2へと増加したとき、さらに、光強度を増加させる回転角を探索するために、従来のアラインメント方法では、次のノブの回転はX1からX2への方向と同じ方向にあるX3となるようにする。
【0108】
これに加えて、確率的に、それとは逆の方向であるX4にもノブが回転をするようにアラインメントすることを特徴とする。これは、熟練者がアラインメントするときの「試し」に相当する。通常は、X3の角度に振るのが常套手段ではあるが、ある領域、特に微動領域では、熟練者は、わざとX4にすることがある。すなわちこれは、ときには「悪い」と思われる状態へもアラインメントすることを意味する。悪いと思われる方向へアラインメントする確率は、アラインメントが最適化に近づくにつれて低くすると一層有効である。
【0109】
これにより、通常では、強度が下がるはずであるが、まれに上昇する場合がある。すなわち、一層強度を増加させるための足がかりとなることがある。このように確率的な動きを導入することにより、一層有効なアラインメント方法を提供する。
【0110】
最後に、アラインメントにおける、シークエンスと休止の導入を示す。
従来のアラインメント方法では、複数のモーターを切り替え、目的の光量などになるようにパラメーターを設定できるようになっていた。
これに対して、状況に応じてパラメーターを変更できるようにし、シーケンスを組めるようにしたのが特徴である。すなわち、あるパラメーターのセットで調整し、条件を満たせば、次のパラメーターを次のセットに変更して調整できるようにした。
さらに、このパラメーターのなかで、モーターがまったく動かない「休止」状態も導入した。これは、実際の調整において、調整後、微動装置の回転ノブはまったく調整せず、ただ、故意に待つ、そして、ある程度待った後に、再度調整を開始する。こうしたほうがよりよい調整が行えることを経験的に知られており、これらを「休止」という形で、シーケンス内で設定できるようにした。
【0111】
(実験例):実際のアライメントで、熟練者がアライメントした結果の強度を、匠アルゴリズムによるアライメントが上回ったこともある。
1つのアライメントシステムが、1人の熟練者に相当するので、複数のアライメントシステムの導入は、複数の熟練者が同時に存在することに相当する。したがって並列かつ多目的同時対応が可能になる。いままで以上に安定なシステムとなる。また、自動化が可能となる。より複雑となっても、実現が可能となる。さらに、メンテナンスが容易になる。
【0112】
また、つぎのようなメリットがある。
(1)モジュールAとモジュールBがあったとする。モジュールAとモジュールBの間の光軸を安定化させると、モジュールBから出射されるレーザーの強度や光軸が安定する。よって、これらモジュールを組み合わせた結果の最終段の出力ビームも強度や光軸が安定化する。さらに、モジュールA−B間の光軸を最適状態にアライメントした場合、モジュールBから出射するレーザーなどの出力強度が増加する。
(2)強度に余裕がでるため、制御が行いやすくなる。十分な強度がある場合は、減少させて利用することが可能で、次のモジュールへ一定の強度で入射させることが可能となる
【0113】
本発明の進歩性を下記に示す。
レーザーを用いたシステムにおける光軸調整は大変面倒な作業であり、かつ熟練した技術者による職人芸的な方法に依存していた。
また、光軸調整個所が複数ある場合、従来技術では、上流側からの順次調整しかできなかった。
【0114】
それはフィードバックを用いた光軸調整の自動化を図る場合、つぎのような障碍があることが背景にある。
一般的なフィードバック制御は、その伝達関数が解析的に明確になっている。しかし、大規模レーザーシステムにおいて、複数の光軸調整個所がある場合、そのときの伝達関数を現実的に求めることができない。これは、複数の光軸調整個所が独立に動作しないからである。例えば、2つの光軸調整個所に対応して、上流側のフィードバックループ#1と下流側のフィードバックループ#2があり、フィードバックループ#1の結果が、#2に影響を与えるので、#1の状態が変われば、#2の伝達関数が変化することが通常であるということである。つまり、フィードバックループ#1及び#2を同時並行して調整を行う場合、#1の状態に合わせて#2の制御のパラメーターを変化させる必要があった。よって、同時並行で調整にするためには、#1の状態を十分に解析し、そのそれぞれの状態での#2の伝達関数をさらに解析し、制御パラメーターを割り出さなければならず、これは、現実的にはできない。光軸調整個所が3つ以上となるとますます難しくなる。それ故、上流から下流へというシリアルな調整方法が行われていた。
【0115】
しかし、本発明では、ファジイ推論またはメタヒューリスティックなアルゴリズムを用いているので、調整個所の伝達関数が解析的に明確になっていなくても制御が実現可能という特徴がある。制御は、目的の結果が得られるように(例えば光検出素子から得られる電圧が高くなるように)フィードバック制御することにより、制御ループを作っているからである。この過程では、その伝達関数を求めていない。よって、伝達関数がどのように変化しても目的とする電圧を高くする方向に制御する。そして、前記の例では、フィードバックループ#1の影響によるフィードバックループ#2の状態変化を検知することを必要とせずにフィードバックループ#2の制御を行う。
これにより、本願発明では複数のフィードバックループを同時並行に制御しても、光軸調整が自動的に実施可能になるという顕著な作用効果を有する。
本発明により、レーザーシステムにおける光軸調整と言う、熟練性を有し、かつ面倒な作業を自動的にできることが可能になった。
【0116】
従来、レーザーシステムにおける運転制御は物理的な条件を押さえて伝達関数を明らかにした上で、そのパラメーターをいかに精度良く設定できるかという制御しか行なわれていなかった。実際には微妙な「職人芸的な調整」は行なわれていて、それは人間が目で見て経験で判断していた。例えば、電子ビームのプロファイルなどは人間が見て経験で判断していた。こういう部分があるために、完全な自動化ができていなかった。本願発明により、全自動化が可能となった。ファジイ制御では、ある程度の許容幅をもって目的関数化できるので、競合するような複数の最適化目標を持つようなシステムでの同時多目標最適化に威力を発揮する。このような制御では、最適化したい目標同士が競合するかどうかを事前に認識して調整する必要がない。メタヒューリスティックなアルゴリズムを用いた場合でも同様である。
【0117】
以上本発明の実施形態を説明した。特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想から逸脱することなく、これらに変更を施すことができることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、レーザーを有したシステムであって光軸調整個所を複数有するシステムに利用可能である。
【符号の説明】
【0119】
40:レーザービーム
44:基本波のレーザーパルス
46:電子ビーム
47:高調波
48:3倍高調波のレーザーパルス
50:光軸調整手段
51:第1の光軸調整手段
52:第2の光軸調整手段
57:リスレープリズム対
58:モーター対
61:検出信号
62:制御信号
63:駆動信号
100:フォトカソードRF電子銃
101:モード同期チタンサファイアレーザー
103:パルス幅伸張器
111:再生増幅器
113:マルチパス増幅器
121:パルス幅圧縮器
123:第3高調波発生手段及びパルス幅伸張器
125:3次元形状整形手段
133:フォトカソード電子銃
131:EOSバンチモニター
200:モジュール
201:第1のモジュール
202:第2のモジュール
203:第3のモジュール
205:ビームサンプラー
207:光検出器
211:制御手段
209:モータードライバー
261:4象限センサーまたは2次元PSD
263:カメラ
265:ターゲット
299:フィードバックループ
311:第1のピンホール
313:第2のピンホール
315:非線形光学結晶
511:レーザープロファイルの重心
513:外形形状
515:フィッティング円
517:フィッティング円の中心
521:内円に対する輪郭
523:外円に対する輪郭
601:遮断板
603:ドーナツ状の遮断板
701:第1のプリズム
703:第2のプリズム
710:光路の中心軸
711:直角な頂角を形成する第1の面
713:直角な頂角を形成する第2の面
714:第1の面及び第3の面がなす稜
715:第3の面
717:第4の面
730:受光素子
731:第1の受光素子
732:第2の受光素子
733:第3の受光素子
734:第4の受光素子
740:ドーナツ形プリズム
742:回転の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモジュールから構成されたレーザーシステムであって、各モジュールの間は光路で接続され、
少なくとも2つの光路のそれぞれに光軸調整手段を有し、該光軸調整手段はフィードバック制御により光軸調整を行い、該フィードバック制御をファジイ推論またはメタヒューリスティックな制御で行うレーザーシステム。
【請求項2】
前記フィードバック制御とは、フィードバック制御の対象となる光軸調整手段を通過した後のレーザー光を直接または他のモジュールを介しその出力レーザー光を光検出手段で検出し、検出結果に応じて該光軸調整手段を調整する制御を行う請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項3】
前記複数のモジュールの少なくとも1つは、レーザー増幅器、パルス幅伸張器、パルス幅圧縮器、プロファイル整形器もしくは高調波発生手段、またはこれらの組み合わせからなる、請求項1または2に記載のレーザーシステム。
【請求項4】
前記複数のモジュールは、レーザー光の入力及び出力を有する第1、第2及び第3のモジュールを含み、第1のモジュールとの出力と第2のモジュールの入力及び第2のモジュールの出力と第3のモジュールの入力とはそれぞれにおいて直接または少なくとも1つの他のモジュールを介して、光路が接続されており、
第1のモジュールに入力する光路上に第1の光軸調整手段を有し、第2のモジュールに入力する光路上に第2の光軸調整手段を有し、第1の光軸調整手段のフィードバック制御を第3のモジュールの出力光を利用して行い、第2の光軸調整手段のフィードバック制御を第2のモジュールの出力光を利用して行う、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザーシステム。
【請求項5】
前記複数のモジュールは、レーザー光の入力及び出力を有する第1及び第2のモジュールを含み、第1のモジュールとの出力と第2のモジュールの入力とは、直接または少なくとも1つの他のモジュールを介して、光路が接続されており、
第1のモジュールに入力する光路上に第1の光軸調整手段を有し、第2のモジュールに入力する光路上に第2の光軸調整手段を有し、第1の光軸調整手段のフィードバック制御を第1のモジュールの出力光を利用して行い、第2の光軸調整手段のフィードバック制御を第2のモジュールの出力光を利用して行う、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザーシステム。
【請求項6】
前記レーザーシステムは多段増幅式レーザーシステムである、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーザーシステム。
【請求項7】
前記光軸調整手段が、リスレープリズムの回転を用いたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーザーシステム。
【請求項8】
前記光軸調整手段が、ミラーの角度変化を用いた、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーザーシステム
【請求項9】
前記光検出手段が、入力するレーザー光の光強度に対応した信号を出力し、前記制御手段に入力する、請求項2に記載のレーザーシステム。
【請求項10】
前記光検出手段が、入力するレーザー光のプロファイルを出力し、前記制御手段に入力する、請求項2に記載のレーザーシステム。
【請求項11】
前記モジュール間の少なくとも1つの光路に、所望とする光路の中心軸に対しどのような状態かを検出する装置が挿入され、該検出装置が、回転体のプリズムと複数の受光素子とを備え、
該回転体のプリズムは、回転の中心軸を含む平面による断面形状が直角な頂角を形成する第1および第2の面と、前記直角な頂角と対向する第3の面とを有する直角三角形に対して、前記直角な頂角部分を、前記第3の面と平行なかつ所定広さの第4の面となるように加工した構造に相当する構造の第1の形状および、該第1の形状と同様な構造の第2の形状であって、該中心軸を挟んで対称に、しかも、それぞれの前記第1の面が、該中心軸と直交する平面に対し平行になるように、かつ、第1の面および第3の面がなす稜が該中心軸の側に位置するように、配置された第1および第2の形状からなる断面形状を有し、
該受光素子は、該回転体プリズムに関わる第1及び第2の形状における前記第2の面が該回転の中心軸のまわりに回転することによって得られる曲面のまわりに、受光面が該中心軸に向けて配置された、請求項1ないし10のいずれか1項に記載のレーザーシステム。
【請求項12】
前記モジュール間の少なくとも1つの光路に、ドーナッツ状の遮断板を挿入した、請求項1ないし11のいずれか1項に記載のレーザーシステム。
【請求項13】
前記メタヒューリスティックな制御とは、遺伝的アルゴリズム、シミュレーティド・エボリューション、焼きなまし法、タブー探索、蟻コロニー最適化、粒子群最適化、進化戦略、進化的プログラミング、人工免疫システム及びニューラルネットワークのいずれかを用いた制御である、請求項1ないし12のいずれか1項に記載のレーザーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−216552(P2011−216552A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81135(P2010−81135)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(599112582)財団法人高輝度光科学研究センター (35)
【出願人】(504049730)株式会社光フィジクス研究所 (20)
【Fターム(参考)】