説明

吸音部材の成形型および吸音部材の成形方法

【課題】吸音性能が向上した吸音部材を効率良く成形し得ると共に型製作費用を抑え得る成形型と、成形効率を向上させた吸音部材の成形方法を提供する。
【解決手段】第2型42における成形凹部48の成形面48Aに、該第2型42の外部と連通する開口部50を設ける。開口部50には、複数の排気口64を有するベント部材60が配設され、成形凹部48および型の外部は各排気口64により連通する。ベント部材60における各排気口64の開口総面積が、該ベント部材60を含めた成形面48Aの面積の1〜15%に設定されている。従って、成形素材から吸音部材10を成形するに際し、成形凹部48へ膨張する該成形素材により該成形凹部48の空気が型の外部へ効率的に排出されるので、該成形素材が成形面48Aに接触するタイミングを早めることができ、吸音部材10の吸音小室16を適切に成形し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音源から放射される騒音を吸収する吸音部材を成形する成形型と、この成形型を使用した吸音部材の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルーム内は、エンジンや各種補器類が配設されており、これらエンジンおよび補器類は騒音を発生する所謂騒音源となっている。このため、エンジンルーム内の上方に位置するボンネットの該エンジンルーム内に臨む裏面や、車体のエンジンルーム下方に、騒音源から放射される騒音を吸収する吸音部材が装着されている。このうち、車体のエンジンルーム下方に配設される吸音部材は、一般的に「エンジンアンダーカバー」と称されており、騒音を吸収する吸音機能と共に、走行中に車体下方へ流入する空気の流れを整える整流機能も兼備している。
【0003】
図8は、エンジンアンダーカバーとして実施に供される吸音部材10を概略的に示した斜視図であり、図9は、エンジンルームERの下方に吸音部材10を配設した使用状態を示したものである。この吸音部材10は、公知のブロー成形技術を用いて成形されたもので、エンジンルームERの下方に配設した際に、路面側である下側に位置する第1壁部12およびエンジンルームER側である上側に位置する第2壁部14を備えている。第1壁部12は、滑らかな面構成に形成されて整流機能が発現されるようになっており、第2壁部14は凹凸状に形成されている。そして、第1壁部12と第2壁部14の凸部とを密着させ、該第2壁部14の凹部を第1壁部12で覆うことで、エンジンルームER側に突出した中空の吸音小室16が多数形成されている。前記各吸音小室16は、図10に示すように、頂部が平坦面となった立方体形状をなし、その頂部(第2壁部14の各凹部の底)が騒音源からの音波により振動する振動板面16Aとなっている。すなわち吸音部材10は、騒音源からの音波により各吸音小室16の振動板面16Aが振動して吸音するよう構成されている。
【0004】
図10は、前記吸音部材10および該吸音部材10を成形する成形型M1の部分斜視図である。この成形型M1は、ブロー成形に対応する型構成となっており、加熱軟化させて中空状に膨らませた成形素材(パリソン)Pを左右方向から挟み込む第1型20と第2型22とを備えている(なお、図10〜図12では、図面の表示の便宜上、第1型20と第2型22を上下方向から挟み込むように表示している)。第1型20には、吸音部材10の第1壁部12の形状を規定する第1成形面24が設けられている。また第2型22には、吸音部材10の第2壁部14の形状を規定する第2成形面26が設けられ、該第2成形面26には、各吸音小室16を成形するために、該吸音小室16に合わせて凹設されて第1型20側へ開口する成形凹部28が画成されている。そして、図10および図11に示すように、第2型22において、各成形凹部28の前記振動板面16Aを成形する成形天面28Aの4隅近傍には、該成形凹部28および型の外部に夫々開口する排気孔30が穿設されている。
【0005】
図12は、図10および図11に示した成形型M1を使用して、吸音部材10を成形する方法を示した説明図である。内部に空気を送り込んで中空状に膨らませた成形素材Pを、成形型M1の第2型22と第1型20とで左右から挟み込み(図12(a))、更に成形素材P内に空気を送り込んで、成形素材Pの成形凹部28に対応する部分(以降「小室成形部分」という)P1を、該空気の圧力により該成形凹部28内へ押すようにする。これにより、各成形凹部28に残存する空気(空気以外のガス等を含む)を、成形凹部28内へ膨張する小室成形部分P1で押して各排気孔30を介して型の外部へ排出させる(図12(b))。そして、成形凹部28の全ての空気が各排気孔30を介して外部へ排出されると、小室成形部分P1が該成形凹部28内の内壁面に押付けて前記吸音小室16を成形する。この状態で成形型M1の成形面を冷却して成形素材Pを固化させれば、吸音小室16を備えた前記吸音部材10が成形される。このような成形型および成形方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−504406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述した従来の成形型M1では、成形凹部28の成形天面28Aに形成した排気孔30は、開口サイズが直径0.3〜0.5mmの細孔とされている。これは、排気孔30の開口サイズをこれ以上大きくすると、吸音部材10のブロー成形時に成形素材Pが該排気孔30内へ突出して、吸音小室16の振動板面16Aにピン状のバリが形成されるからである。従って、従来の成形型M1では、成形天面28Aの面積S1に対する各排気孔30の開口面積を合わせた開口総面積S2の面積比(以降「型空隙率R1」という)が、極めて小さくなっている。一例として、成形天面28Aが16.5mm×16.5mmの正方形で、4つの各排気孔30の開口サイズが各々直径0.5mmの場合では、型空隙率R1は0.288%にすぎない。このため、成形素材Pから吸音部材10をブロー成形する際に、該成形素材P内へ送り込まれる空気の圧力では、成形凹部28内の空気を各排気孔30を介して型の外部へ迅速に排出させることができず、小室成形部分P1の膨張変形が遅れる。
【0008】
前述のように小室成形部分P1の膨張変形が遅い場合には、該小室成形部分P1の全体が均一に延伸するようになるので、吸音小室16を構成する振動板面16A、側壁面16B、振動板面16Aと側壁面16Bとの境界縁部16Cは、何れも略同じ厚みに形成される。このため、境界縁部16Cの柔軟性が損なわれ、該境界縁部16Cの変形による振動板面16Aの振動が抑制されるので、騒音源からの騒音を効率的に吸音できず、吸音性能が低下する問題が発生する。また、小室成形部分P1の膨張変形に時間がかかるので、吸音部材10の成形に要する時間が長くなり、成形効率が低下する問題もある。
【0009】
なお、各成形凹部28毎に前記排気孔30を増設すれば、該成形凹部28内の空気の排出量が増加して排出効率が向上するので、前記問題点を解消することは可能ではある。しかし、各排気孔30は、レーザー穿孔機等を利用して第2型22の壁部に1個ずつ直接形成するものである。従って、排気孔30の数が多くなれば、穿孔作業工数が増加して成形型M1の製作所要時間が長くなり、成形型M1の型製作費用が大幅に嵩む問題がある。
【0010】
そこで本発明では、吸音性能が向上した吸音部材を効率良く成形することができると共に、型製作費用を抑えることもできる成形型と、この成形型を使用することで成形効率を向上させた吸音部材の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に記載の発明は、
対向する一方の壁部を凹ませて形成された凹部の開口を他方の壁部で覆って画成された中空の吸音小室を有し、前記凹部の底をなす振動板面の振動により吸音する吸音部材を成形する成形型であって、
前記凹部の開口縁を規定する成形面から凹設された成形凹部の前記振動板面に対応する成形面に開口し、型の外部と連通する開口部と、
前記開口部に前記成形面と合わせて嵌着され、前記成形凹部および型の外部に連通して前記成形素材の該成形凹部への膨張に伴い該成形凹部の空気を外部へ排出する複数の排気口を有するベント部材とを備え、
前記ベント部材における前記成形面に臨む端面に開口した前記各排気口の開口総面積が、該端面を含めた前記成形面の面積の1〜15%に設定したことを特徴とする。
【0012】
従って、請求項1に係る発明によれば、ベント部材に設けた排気口を介して成形凹部の空気を迅速に型の外部へ排出させることができるので、該成形凹部へ膨張する成形素材は、該成形凹部の成形面に先に接触し、その後に成形凹部の該成形面以外に接触するようになる。従って、成形凹部で成形された吸音小室は、成形面により成形された振動板面の厚みより、該振動板面の周囲の部分の厚みが小さくなり、該振動板面が振動し易くなって吸音性能が向上した吸音部材を成形し得る。また、成形凹部から空気を迅速に排出させ得るので、吸音小室の成形時間が短縮されて、吸音部材の成形効率を向上させ得る。更に、複数の排気口を設けたベント部材を準備したもとで、成形型に該ベント部材に合わせた開口部を形成すると共に該開口部にベント部材を装着することで、1個の開口部を成形するだけで複数の排気口を備えた成形型を製作することができ、成形型の製作工数が削減されて型製作費用を抑えることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、
前記ベント部材は、前記端面に開口した各排気口の前記開口総面積を、各排気口を含めた該端面の面積の1〜60%に設定したことを要旨とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、成形凹部で吸音小室を成形する際に、該成形凹部の空気の排出が阻害されることがない。また、ベント部材の強度低下が抑えられるので、開口部に装着したベント部材が変形して排気口が狭小することを防止し得る。
【0014】
請求項3に記載の発明は、
前記各排気口は、幅が0.3mm以下のスリット孔または開口径が0.3mm以下の細孔であることを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、成形凹部により吸音小室を成形する際に、成形素材が排気口内へ突出して固化することが防止され、成形された吸音小室の振動板面にバリが形成されない。
【0015】
請求項4に記載の発明は、
前記ベント部材は、前記成形凹部の成形面に1個ずつ配設され、各ベント部材における該成形面に臨む端面の前記排気口を含めた面積を、前記成形面の該端面を含めた面積の1/4に相当する面積の正方形に内接する円の面積より大きく、該成形面の面積より小さく設定されていることを要旨とする。
従って、請求項4に係る発明によれば、成形凹部の成形面に1個のベント部材を配設する場合には、該成形面における何れの位置にベント部材を配設しても、該成形面の中心部または中心部近傍に該ベント部材を位置させることができる。これにより、吸音部材の成形時において、成形凹部へ膨張する成形素材により該成形凹部の空気を排出する際には、成形面の中心部付近から空気が迅速に排出されるため、該成形素材における成形凹部へ膨張する部分の中央部を早く成形面に接触させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、
請求項1〜4の何れか一項に記載の成形型を使用して、前記成形凹部へ前記成形素材を膨張させて該成形凹部の空気を前記ベント部材の各排気口から外部へ排出させ、該成形凹部で前記振動板面を有する吸音小室をブロー成形することを特徴とする。
従って、請求項5に係る発明によれば、成形素材から吸音部材をブロー成形するに際し、成形型の成形凹部内の空気を迅速に型の外部へ排出できるので、該成形凹部において吸音小室を適切に成形することができ、吸音性能を向上させた吸音部材の成形が可能となる。また、成形凹部の空気を迅速に排出し得るので、吸音部材の成形時間の短縮化が図られ、成形効率を向上させ得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る吸音部材の成形型によれば、吸音性能が向上した吸音部材を効率良く成形することができると共に、型製作費用を抑えることもできる。
別の発明に係る吸音部材の成形方法によれば、吸音部材の成形時間が短縮されて成形効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例の成形型の要部構造を示すと共に、該成形型により成形された吸音部材の要部を示した部分断面斜視図である。
【図2】(a)は、実施例の成形型を、第1型および第2型が成形素材を挟み込む前の状態で示す説明断面図であり、(b)は、(a)のIIb−IIb線矢視図である。
【図3】ベント空孔率に関する説明図である。
【図4】型空隙率に関する説明図である。
【図5】(a)は、成形天面に1個のベント部材を配設する場合の該ベント部材のサイズを規定する説明図であり、(b)は、成形天面の何れの位置にベント部材を配設しても、該ベント部材が成形天面の中心部または中心部近傍に位置することを示す説明図である。
【図6】実施例の成形型により成形素材から吸音部材をブロー成形する方法を経時的に示した説明図である。
【図7】成形天面に対するベント部材の配設態様の別例を示す説明図である。
【図8】吸音部材としてのエンジンアンダーカバーを概略的に示した斜視図である。
【図9】吸音部材としてのエンジンアンダーカバーをエンジンルームの下方に配設した使用状態を示す断面図である。
【図10】従来の成形型の要部構造を示すと共に、該成形型により成形された吸音部材の要部を示した部分断面斜視図である。
【図11】(a)は、従来の成形型の第1型および第2型が成形素材を挟み込む前の状態で示す説明断面図であり、(b)は、(a)のXIb−XIb線矢視図である。
【図12】従来の成形型により成形素材から吸音部材をブロー成形する方法を経時的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る吸音部材の成形型および吸音部材の成形方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。実施例では、吸音部材として図8および図9に示したエンジンアンダーカバーを例示し、同一の参照符号で指示する。
【実施例】
【0020】
図1は、実施例の成形型Mの要部構造を示すと共に、該成形型Mにより成形された吸音部材10の要部を示した部分断面斜視図である。吸音部材10は、エンジンルームERの下方に配設した際に、路面側を指向する第1壁部12とエンジンルームER側を指向する第2壁部14とを備えている。第1壁部12は、滑らかな面構成となっており、整流機能を発現し得るようになっている。第2壁部14は、凹凸状に形成されており、凹部が第1壁部12と密着すると共に、第1壁部12と該第2壁部14の凹部とにより、エンジンルームER側に突出した中空の吸音小室16が多数形成されている。
【0021】
各吸音小室16は、図1に示すように、立方体形状(キュービック形状)をなし、頂部の平坦な振動板面16Aと、この振動板面16Aの周囲から該振動板面16Aに対して略垂直に延在する側壁面16Bと、第1壁部12の一部から形成される底壁面16Dとで中空の閉空間に形成されている。そして、実施例の吸音部材10の吸音小室16は、図1および図6(c)に示すように、振動板面16Aよりも該振動板面16Aの周囲の境界縁部16Cが薄く形成され、この境界縁部16Cの柔軟性を高めて振動板面16Aを振動し易くすることで、騒音を効率的に吸収し得る構造となっている。このように、振動板面16Aを厚く境界縁部16Cを薄く形成し得るのは、後述する実施例の成形型Mの型構成によるものである。なお、振動板面16Aの厚みは、第2壁部14における第1壁部12と接合した部分の厚みの1/4〜1/2となっている。また、境界縁部16Cの厚みは、第2壁部14における第1壁部12と接合した部分の厚みの1/10〜1/5で、かつ振動板面16Aの厚みの1/6〜2/3となっている。
【0022】
吸音小室16の突出高さHは、吸音対象とされる周波数帯域の騒音における波長の1/4またはその奇数倍に設定されている(図1参照)。また吸音小室16は、立方体形状に限定されず、円柱体形状や多角柱体形状等、様々な形状に形成され得る。
【0023】
実施例の成形型Mは、図1および図2に示すように、ブロー成形に対応する型構成となっており、加熱軟化させて中空状に膨らませた成形素材(パリソン)Pを左右方向から挟み込む第1型40と第2型42とを備えている(なお、図1、図2および図6では、図面の表示の便宜上、第1型40と第2型42とを上下方向から挟み込むように表示している)。第1型40には、吸音部材10の第1壁部12の形状を規定する第1成形面44が設けられている。また第2型42には、吸音部材10の第2壁部14の形状を規定する第2成形面46が設けられている。第2型42の第2成形面46には、各吸音小室16を成形するために、該吸音小室16に合わせて凹設されて第1型40側へ開口する成形凹部48が画成されている。各成形凹部48は、吸音小室16の振動板面16Aに対応する成形天面48Aと、該吸音小室16の側壁面16Bに対応する成形側面48Bとからなっている。
【0024】
そして、図1および図2に示すように、第2型42において、各成形凹部48の成形天面48Aに対応する壁部には、該成形凹部48と型の外部とを連通する円形の開口部50が開設されている。この開口部50は、後述するベント部材60を嵌め込んで装着するために形成されたもので、該ベント部材60の外形形状に合致する大きさとなっている。なお開口部50は、第2型42を製作する際に同時に形成しても、切削工具等を使用して後工程において形成するようにしてもよい。
【0025】
実施例のベント部材60は、鉄および銅からなる鉄合金またはステンレス鋼等からなる円柱状の本体62に、その両端で対向する端面62A,62Aに夫々開口するよう該本体62に貫通したスリット状の排気口64を複数(実施例では7本)備えた所謂スリットベントである。各排気口64は、短手方向の開口幅Wが0.3mm以下となっており、1〜2mmの間隔で平行に並設されている(図3参照)。そしてベント部材60は、図1および図2に示すように、一方の端面62Aを成形凹部48の成形天面48Aに合わせると共に他方の端面62Aを第2型42の外部へ露出させた向きで、外周面62Bを開口部50の内周面に密着させた状態で該開口部50に嵌着されている。なお、本体62の外周面62Bはローレット加工が施されており、ベント部材60を開口部50に嵌め込んだ際に該外周面62Bが開口部50の内周面に食い込むようになり、当該ベント部材60が開口部50から容易に脱落することを防止するようになっている。
【0026】
前記ベント部材60は、図3に示すように、成形凹部48に臨む端面62Aの面積S3に対する該端面62Aに開口した各排気口64の開口総面積(7個の排気口64の開口面積の総和)S2の比率を示す「ベント空孔率R2」が、1〜60%の範囲に設定されている。例えば、直径15mmの円柱状のベント部材60では、成形凹部48に臨む端面62Aの面積が176.63mmであるから、各排気口64の開口総面積S2は1.77〜106.03mmの範囲で設定される。なお、ベント空孔率R2が1%未満の場合には、排気効率が低下して従来の成形型M1に内在する課題を解決することができない場合がある。また、ベント空孔率R2が60%より大きい場合には、本体62の強度が低下して、当該ベント部材60を第2型42の開口部50に嵌着した際に、各排気口64が狭小するような歪みが本体62に発生する場合がある。換言すると、ベント部材60は、ベント空孔率R2を1〜60%に設定することで、排気効率の向上と本体62の歪み防止との両立が図られる。
【0027】
また、前記ベント部材60は、図3に示すように、7本のスリット状の各排気口64の端縁を順次結ぶことで形成される開口領域S4が、本体62の端面62Aの面積S3の80〜90%に設定されている。すなわちベント部材60は、ベント空孔率R2が1〜60%に設定されることを前提として、端面62Aの略全域に亘って各排気口64が設けられている。従って、ベント部材60を開口部50に嵌着した際には、成形凹部48に対して広い範囲で排気口64を臨ませることができる。
【0028】
更に、実施例の成形型Mでは、図4に示すように、成形天面48Aの面積S1と、ベント部材60に形成した各排気口64の開口面積を合計した開口総面積S2との面積比である「型空隙率R1」が、1〜15%に設定されている。すなわち、実施例の成形型Mは、図10に示した従来の成形型M1と比較すると、型空隙率R1がかなり大きく設定されている。このため、成形素材Pから吸音部材10をブロー成形する際には、該成形素材P内へ送り込まれる空気の圧力により、成形凹部48内の空気を、各排気口64を介して型外へ迅速かつ円滑に排出させることができる。
【0029】
なおベント部材60は、図1に示したスリットベントに限らず、本体62の両外端面62A,62Aに開口する直線状の細孔を多数形成したメッシュベントや、本体の中心部が多孔質結晶金属の微小(5〜20μm)の空孔をもつ焼結品で作られたポーラスメタルベント等を採用することも可能である。但し、メッシュベントからなるベント部材の場合には、開口径が0.3mm以下に形成された細孔を備えたベント部材を使用するのが望ましい。また、スリットベントおよびメッシュベントからなるベント部材の場合は、排気口64の開口幅Wまたは開口径が0.03mm以上のものが使用可能である。更に、ベント部材60は、成形天面48Aの大きさに応じて、本体62の外径が2.5mm以上のものが選択して使用される。
【0030】
更に、実施例の成形型Mでは、図5(a)に示すように、ベント部材60の成形凹部48に臨む端面62Aの面積S2は、成形凹部48の成形天面48Aの面積S1の1/4に相当する面積の正方形に内接する円の面積S5より大きく、該成形天面48Aの面積S1より小さく設定してもよい。これにより、各成形凹部48の成形天面48Aにベント部材60を1個ずつ配設する場合には、図5(b)に示すように、該ベント部材60を該成形天面48Aにおけるどの位置に配設しても、成形天面48Aの中心部Cまたは中心部Cの近傍にベント部材60を位置させることができる。従って、吸音部材10のブロー成形時において、成形凹部48へ膨張する成形素材Pの小室成形部分P1により該成形凹部48の空気を排出する際に、成形天面48Aの中心部から空気が迅速に排出されるため、成形凹部48へ膨張する該小室成形部分P1を早く成形天面48Aに接触させることができる。
【0031】
(成形方法)
次に、前述のように構成した成形型Mを使用した吸音部材10の成形方法につき、図6を引用して説明する。
【0032】
加熱軟化させて内部に空気を送り込んで中空状に膨らませた成形素材Pを、成形型Mの第1型40と第2型42とで左右から挟み込む(図6(a))。そして型閉め後、更に成形素材P内に空気を送り込み、成形素材Pの成形凹部48に対応する小室成形部分P1を、該空気の圧力により該成形凹部48内へ膨張させる。
【0033】
そして、各成形凹部48に存在する空気を、該成形凹部48内へ膨張変形する小室成形部分P1で、ベント部材60の各排気口64を介して型外へ排出させる(図6(b))。この際に、型空隙率R1が前述した範囲内に設定されていることで、成形素材Pに送り込んだ空気の圧力により、成形凹部48の空気を迅速かつ円滑に型の外部へ排出させることができる。これにより、小室成形部分P1を成形凹部48内へ素早く膨張変形させ、先ず該小室成形部分P1の中央部を、成形凹部48の成形天面48Aに接触させる(図6(b))。成形天面48Aに当接した小室成形部分P1の中央部は、成形天面48Aへの当接後は殆ど延伸しないので、該成形天面48Aに当接した時点での厚みに保持される。
【0034】
一方、図6(b)に示すように、小室成形部分P1の中央部が成形天面48Aに当接した状態では、小室成形部分P1における中央部を囲む部分が、まだ成形凹部48の成形側面48Bに当接していない。従って、成形素材Pに送り込んだ空気により、この中央部を囲む部分を、延伸させながら成形側面48Bに当接させる。小室成形部分P1における中央部を囲む部分が、成形凹部48の側成形天面48Aに当接することで、側壁面16Bおよび境界縁部16Cが形成される。この際に、図6(b)および図6(c)から明らかなように、中央部を囲む部分の変形量は、境界縁部16Cとなる部分が最も大きくなるから、境界縁部16Cの厚みが最も小さくなる。すなわち、実施例の成形型Mを使用した成形方法によれば、成形凹部48で成形される吸音小室16は、振動板面16Aが最も厚く形成され、次いで側壁面16B、境界縁部16Cの順で薄く形成される。
【0035】
本願発明者は、実施例の成形型Mの諸条件を次のように設定したもとで、該成形型Mにより成形素材Pから吸音部材10をブロー成形した。
(実施態様1)
・成形凹部48の成形天面48Aの面積S1:272.25mm (16.5×16.5mm正方形)
・ベント部材60
・配設数:1個
・直径:15mm
・端面62Aの面積S3:176.63mm
・排気口64:スリット孔(幅0.2mm)×7個
・排気口64の開口総面積S2:10.5mm
・ベント空孔率R2:5.9%
・型空隙率:3.9%
前記構成の成形型Mにおいて、成形素材Pから吸音部材10をブロー成形したところ、境界縁部16Cの厚みが振動板面16Aの厚みより小さい吸音小室16を備えた吸音部材10が得られ、吸音性能の向上が期待できる。また、図10に示した従来の成形型M1を使用して吸音部材10を成形する場合よりも、実施例の成形型Mを使用して吸音部材10を成形する場合のほうが成形時間の短縮化が図られ、成形効率の向上が確認できた。
【0036】
(実施態様2)
・成形凹部48の成形天面48Aの面積S1:272.25mm (16.5×16.5mm正方形)
・ベント部材60
・配設数:4個
・直径:4mm
・端面の面積S3:12.56mm
・排気口64:スリット孔(幅0.2mm)×3個
・排気口64の開口総面積S2:4.0mm
・ベント空孔率R2:31.8%
・型空隙率:5.9% ((4.0×4)÷272.25×100)
前記構成の成形型Mにおいて、成形素材Pから吸音部材10をブロー成形したところ、境界縁部16Cの厚みが振動板面16Aの厚みより小さい吸音小室16を備えた吸音部材10が得られ、吸音性能の向上が期待できる。また、図10に示した従来の成形型M1を使用して吸音部材10を成形する場合よりも、実施例の成形型Mを使用して吸音部材10を成形する場合のほうが成形時間の短縮化が図られ、成形効率の向上が確認できた。
【0037】
従って、実施態様1の吸音部材の成形型Mによれば、次のような作用効果を奏する。
(1)ベント部材60に設けた各排気口64を介して成形凹部48の空気を迅速かつ円滑に成形型Mの外部へ排出させることができるので、成形素材Pにおける該成形凹部48へ膨張する小室成形部分P1は、該成形凹部48の成形天面48Aに先に接触し、その後に成形側面48Bに接触するようになる。従って、成形凹部48で成形された吸音小室16は、成形天面48Aにより成形された振動板面16Aの厚みより、該振動板面16Aの周囲の境界縁部16Cの厚みが小さくなるため、該振動板面16Aが振動し易くなって吸音性能が向上した吸音部材10を成形し得る。
(2)吸音部材10のブロー成形に際して、成形素材Pの成形凹部48内への膨張変形により成形凹部48から空気を迅速に排出させ得るので、吸音小室16の成形時間が短縮されて該吸音部材10の成形効率を向上させ得る。
(3)ベント部材60端面62Aの排気口64を含めた面積S3を、成形天面48Aの該端面62Aを含めた面積の1/4に相当する面積の正方形に内接する円の面積より大きく設定したことで、1個のベント部材60を配設する場合には、成形天面48Aにおけるどの位置に該ベント部材60を配設しても、該成形天面48Aの中心部Cまたは中心部C近傍に該ベント部材60を位置させることができる。これにより、吸音部材10の成形時において、成形凹部48へ膨張する成形素材Pにより該成形凹部48の空気を排出する際に、成形天面48Aの中心部から空気が迅速に排出されるため、該成形素材Pの小室成形部分P1を早く成形天面48Aに接触させることができる。
(4)型空隙率R1が1〜15%の範囲内となっているので、吸音部材10の成形時に成形型Mの成形凹部48の空気を型の外部へ迅速に排出させ得る。
(5)ベント空孔率R2が1〜60%の範囲内となっているので、成形凹部48で吸音小室16を成形する際に、該成形凹部48の空気の排出が阻害されることがない。また、ベント部材60の強度低下が抑えられるので、開口部50に装着したベント部材60が変形して排気口64が狭小することを防止し得る。
(6)各排気口64の幅または開口径を0.3mm以下としたので、成形凹部48により吸音小室16を成形する際に、成形素材Pが排気口64内へ突出することが防止され、吸音小室16の振動板面16Aにバリが形成されることを防止し得る。
(7)複数の排気口64を設けたベント部材60を準備したもとで、成形型Mに該ベント部材60に合わせた開口部50を形成すると共に該開口部50にベント部材60を装着することで、1個の開口部50を成形するだけで型空隙率R1を高めた(複数の排気口64を備えた)成形型Mが容易に製作され、成形型Mの製作工数が大幅に削減されて型製作費用を抑えることができる。
【0038】
また、実施態様2の吸音部材の成形型Mによれば、次のような作用効果を奏する。
(1)ベント部材60に設けた各排気口64を介して成形凹部48の空気を迅速かつ円滑に成形型Mの外部へ排出させることができるので、成形素材Pにおける該成形凹部48へ膨張する小室成形部分P1は、該成形凹部48の成形天面48Aに先に接触し、その後に成形側面48Bに接触するようになる。従って、成形凹部48で成形された吸音小室16は、成形天面48Aにより成形された振動板面16Aの厚みより、該振動板面16Aの周囲の境界縁部16Cの厚みが小さくなるため、該振動板面16Aが振動し易くなって吸音性能が向上した吸音部材10を成形し得る。
(2)吸音部材10のブロー成形に際して、成形素材Pの成形凹部48内への膨張変形により成形凹部48から空気を迅速に排出させ得るので、吸音小室16の成形時間が短縮されて該吸音部材10の成形効率を向上させ得る。
(3)型空隙率R1が1〜15%の範囲内となっているので、吸音部材10の成形時に成形型Mの成形凹部48の空気を型の外部へ迅速に排出させ得る。
(4)ベント空孔率R2が1〜60%の範囲内となっているので、成形凹部48で吸音小室16を成形する際に、該成形凹部48の空気の排出が阻害されることがない。また、ベント部材60の強度低下が抑えられるので、開口部50に装着したベント部材60が変形して排気口64が狭小することを防止し得る。
(5)各排気口64の幅または開口径を0.3mm以下としたので、成形凹部48により吸音小室16を成形する際に、成形素材Pが排気口64内へ突出することが防止され、吸音小室16の振動板面16Aにバリが形成されることを防止し得る。
(6)複数の排気口64を設けた4個のベント部材60を準備したもとで、成形型Mに各ベント部材60に合わせた4個の開口部50を形成すると共に該開口部50にベント部材60を装着することで、1個の開口部50を成形するだけで型空隙率R1を高めた(複数の排気口64を備えた)成形型Mが容易に製作される。すなわち、4個の突起部を有する電極を備えた放電加工機により4個の開口部50を1工程において穿設することが可能であるから、レーザー穿孔機により細径の排気孔を1個ずつ穿設する従来の成形型M1と比べて、製作工数が大幅に削減されて型製作費用を抑えることができる。
【0039】
また、前記成形型Mを使用した吸音部材の成形方法によれば、次のような作用効果を奏する。
(1)成形素材Pから吸音部材10をブロー成形するに際し、該成形素材Pに送り込んだ空気の圧力により、成形凹部48の空気を迅速かつ円滑に型の外部へ排出できるので、該成形凹部48で吸音小室16を適切な形態に成形することができ、吸音性能が向上した吸音部材10の成形が可能となる。
(2)吸音部材10のブロー成形に際して、成形凹部48内の空気を迅速に排出し得るので、吸音部材10の成形時間の短縮化が図られ、吸音部材10の成形効率を向上させ得る。
【0040】
(変更例)
本願の吸音部材の成形型および吸音部材の成形方法は、様々に変更することが可能である。
(1)ベント部材60は、実施例に例示したスリットベントに限らず、直線状の細孔を多数形成したメッシュベントや、本体の中心部が多孔質結晶金属の微小(5〜20μm)の空孔をもつ焼結品で作られたポーラスメタルベント等を採用することができる。
(2)成形凹部48毎に配設されるベント部材60の配設数は、1個に限定されず、型空孔率R1およびベント空孔率R2を前記範囲内としたもとで、2個以上としてもよい。また、複数のベント部材60を配設する場合には、図7に示すように、成形天面48Aに対する配設位置を様々に設定することが可能である。例えば図7(a)は、成形天面48Aを4つに分割したもとで、中心部を挟んで対向する2箇所に2個のベント部材60,60を配設した形態例である。図7(b)は、矩形状の成形天面48Aにおいて、互いに交差する2本の対角線上に合計5個のベント部材60を配設した形態例である。図7(c)は、矩形状の成形天面48Aに、正三角形の各頂部毎に合計3個のベント部材60を配設した形態例である。
(3)図7では、同一サイズのベント部材60を複数配設する形態を例示したが、サイズが異なるベント部材60を複数配設するようにしてもよい。
(4)ベント部材60における本体62の外周面62Bに螺旋状の雄ねじを形成すると共に、成形型Mの第2型42に設けた開口部50の内周面に螺旋状の雌ねじを形成し、ベント部材60を開口部50に対してねじ込んで固定するように構成してもよい。このような形態では、ベント部材60の着脱を簡易に行なうことができ、該ベント部材60のメンテナンスや交換作業を簡単に行なうことができる。
(5)ベント部材60は、円柱形状に限らず、角柱形状や円板形状であってもよい。
(6)本願が対象とする吸音部材は、実施例に例示したエンジンアンダーカバーに限定されるものではなく、自動車の車体におけるエンジンフードの裏面に配設される吸音部材や車体の別部位に配設される吸音部材、更には自動車以外の各種機械や装置等に配設される吸音部材が含まれる。
【符号の説明】
【0041】
10 吸音部材,16 吸音小室,16A 振動板面,46 成形面,48 成形凹部
48A 成形天面(成形面),50 開口部,60 ベント部材,62A 端面,64 排気口
M 成形型,P 成形素材,S1 成形面48Aの面積,S2 各排気口の開口総面積
S3 ベント部材60の端面62Aの面積,S5 円の面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一方の壁部を凹ませて形成された凹部の開口を他方の壁部で覆って画成された中空の吸音小室を有し、前記凹部の底をなす振動板面の振動により吸音する吸音部材を成形する成形型であって、
前記凹部の開口縁を規定する成形面から凹設された成形凹部の前記振動板面に対応する成形面に開口し、型の外部と連通する開口部と、
前記開口部に前記成形面と合わせて嵌着され、前記成形凹部および型の外部に連通して前記成形素材の該成形凹部への膨張に伴い該成形凹部の空気を外部へ排出する複数の排気口を有するベント部材とを備え、
前記ベント部材における前記成形面に臨む端面に開口した前記各排気口の開口総面積が、該端面を含めた前記成形面の面積の1〜15%に設定した
ことを特徴とする吸音部材の成形型。
【請求項2】
前記ベント部材は、前記端面に開口した各排気口の前記開口総面積を、各排気口を含めた該端面の面積の1〜60%に設定した請求項1記載の吸音部材の成形型。
【請求項3】
前記各排気口は、幅が0.3mm以下のスリット孔または開口径が0.3mm以下の細孔である請求項1または2記載の吸音部材の成形型。
【請求項4】
前記ベント部材は、前記成形凹部の成形面に1個ずつ配設され、各ベント部材における該成形面に臨む端面の前記排気口を含めた面積を、前記成形面の該端面を含めた面積の1/4に相当する面積の正方形に内接する円の面積より大きく、該成形面の面積より小さく設定されている請求項1〜3の何れか一項に記載の吸音部材の成形型。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の成形型を使用して、前記成形凹部へ前記成形素材を膨張させて該成形凹部の空気を前記ベント部材の各排気口から外部へ排出させ、該成形凹部で前記振動板面を有する吸音小室をブロー成形する
ことを特徴とする吸音部材の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−83919(P2011−83919A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236636(P2009−236636)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】